説明

連続鋳造鋳片の製造方法

【課題】 連続鋳造鋳片の鋳片幅方向における凝固完了位置の形状を捉え、凝固完了位置の鋳片幅方向の形状を目標状態となるように制御しながら鋳造する。
【解決手段】 横波超音波センサー6,8と、該センサーの配置位置と同一位置又は鋳造方向に離れた鋳片幅方向の同一位置に設置された縦波超音波センサー7,9と、該センサーの受信信号に基づき計算式から凝固完了位置4を求める凝固完了位置演算部と、を備え、横波センサーの受信信号の強度変化によって横波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、計算式により算出される凝固完了位置が横波センサーの配置位置と合致するように、前記計算式が校正される凝固完了位置検知装置を用いて、鋳片の凝固完了位置を検出し、検出された凝固完了位置の最短部と最長部との差が基準内となるよう、鋳型内の溶鋼流動を調整するか、又は二次冷却の幅切り量を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造鋳片の製造方法に関し、詳しくは、鋳造中に鋳片の凝固完了位置の形状を検出し、検出した凝固完了位置の形状が所定の形状になるように制御しながら連続鋳造鋳片を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、連続鋳造鋳片の凝固完了位置(「クレータエンド位置」ともいう)が鋳片のどの位置にあるかを判定することが極めて重要である。凝固完了位置を検出することが、鋳片の生産性や品質の向上に大きく貢献するためである。
【0003】
例えば、生産性を向上させるために鋳造速度(=鋳片引き抜き速度)を増やすと、凝固完了位置は鋳片の鋳造方向下流側に移動する。凝固完了位置が鋳片支持ロールの範囲を超えてしまうと鋳片が静鉄圧により膨らみ(「バルジング」という)、内質の悪化や巨大バルジングの場合には鋳造停止といった問題が発生する。それ故、凝固完了位置が明確に分からない場合には、鋳造速度を無闇に増速できない。また、鋳片の中心偏析を低減して高品質化を図るための軽圧下操業では、凝固完了位置を軽圧下帯に位置させるように鋳造速度や二次冷却水量を制御する必要がある。
【0004】
また、スラブ鋳片においては、その断面が扁平形状であるために、凝固完了位置は鋳片の幅方向で均一でなく、且つ、時間によりその形状が変動することが知られている。この幅方向で異なる凝固完了位置の幅方向の形状も鋳片の品質や生産性を決める大きな要因となっている。例えば、上記の軽圧下帯を用いた軽圧下操業であっても、鋳片の中心偏析を低減するためには凝固完了位置を鋳片幅方向で均一にすることが必要である。鋳片幅方向で凝固完了位置が異なる場合には、軽圧下帯における圧下量が鋳片幅方向各位置で異なり、圧下量の少ない位置では十分な中心偏析改善効果が得られないからである。また、生産性を向上させるために鋳造速度を最大限にしていた場合には、凝固完了位置の伸張した箇所が鋳片支持ロールの範囲を超えてしまうことがあり、この場合にはバルジングに伴う内質の悪化などといった問題が発生する。
【0005】
このような問題を解決すべく、鋳片内部の凝固状態を判定するための種々の手段が提案されており、そのなかでも、超音波を利用した方法が多数提案されている。例えば、特許文献1には、縦波超音波及び横波超音波を鋳片幅方向に走査しながら鋳片を透過させ、鋳片幅方向中央部における縦波超音波の伝播時間と、鋳片幅方向での凝固部と未凝固部との境界位置における横波超音波伝播時間/縦波超音波伝播時間の比と、固相中及び液相中における縦波超音波の伝播速度とから、鋳片幅方向中央位置における未凝固層の厚みを求める方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、縦波超音波と横波超音波とを同時に鋳片を透過させ、横波超音波の透過波の振幅と縦波超音波の透過波の振幅との比を求め、求めた比に基づいて超音波センサーの設置位置における未凝固層の存在を判定する方法が提案されている。尚、横波超音波は固相のみを透過して液相を透過しないという性質があり、特許文献1及び特許文献2は、横波のこの特性を利用している。
【特許文献1】特開昭54−115636号公報
【特許文献2】特開昭62−148850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの方法では次のような問題が残されている。
【0008】
特許文献1では、固相及び液相における縦波の伝播速度を用いて液相厚みを算出しているが、この伝播速度が鋼種によって異なっている。この伝播速度は全ての鋼種で知られている訳ではないため、伝播時間から得られた測定値を校正するために、例えば、鋳造中の鋳片に金属製の鋲を打ち込み、冷却後に鋲の打ち込み部分を切断・研磨し、鋲がどの程度溶融したかを測定することによって固相厚みを把握し、この結果と照らし合わせて伝播時間から求めた計算値の合わせ込みを実施する必要がある。この作業は、手間やコストを費やし、従って、全ての鋼種について校正を行うことは現実的には不可能である。また、測定箇所における鋳片の厚みを把握する必要があるが、未凝固層を有する鋳片はバルジングするため、鋳造中の鋳片の厚みを精度良く安定して測定することも難しく、測定精度を低下させる一因となっている。
【0009】
特許文献2では、横波超音波の透過波の振幅と縦波超音波の透過波の振幅との比から未凝固層の存在を判定するだけであるので、一対の送信器及び受信器を設置しただけでは凝固完了位置を知ることができず、凝固完了位置を知るためには鋳造方向に多数の送信器及び受信器を設置しなければならない。
【0010】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、鋳片への鋲の打ち込みによる校正を必要とせず、センサーによる計測値のみから凝固完了位置を精度良く検知することの可能な凝固完了位置検知装置を使用して鋳片幅方向における凝固完了位置の形状を捉え、凝固完了位置の鋳片幅方向の形状を目標状態となるように制御しながら鋳造することのできる、連続鋳造鋳片の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討・研究を行った。以下に検討・研究結果を説明する。
【0012】
先ず、鋳片への鋲の打ち込みによる校正を必要とせず、センサーによる計測値のみから凝固完了位置を精度良く検知することの可能な凝固完了位置検知装置に関する検討・研究結果を説明する。
【0013】
連続鋳造鋳片における縦波超音波の伝播時間から固相厚みを推定する方法に関して伝播時間のシミュレーションを重ねた結果、従来の方法においては、縦波超音波の伝播速度の鋼種による依存性や鋳片厚みの影響が大きく、これらの校正を行わないと精度良く測定することはできないことが分かった。但し、凝固完了位置が縦波超音波センサーよりも鋳造方向の下流側に存在して超音波の伝播経路に液相が含まれる場合には、液相における伝播速度が固相における伝播速度に比べて遅いため、縦波超音波センサーによって測定される伝播時間は固相厚みに応じて感度良く変化し、固相厚みの測定値及びこの固相厚みから導かれる凝固完了位置の相対的な測定精度は極めて高いことが分かった。
【0014】
そこで、縦波超音波の伝播時間から固相厚みを推定する際に用いる物性値をオンラインで校正する方法として、横波が液相を透過しないことにより求められる凝固完了位置を利用して校正することを検討した。
【0015】
内部がまだ未凝固の状態の小型鋼塊を用い、それを冷却しながら鋼塊に横波超音波を透過させると同時に鋼塊軸心部を熱電対で測温する試験を行った。その結果、鋼塊内部に未凝固相が存在する場合には、即ち鋼塊軸心部の固相率が1未満の場合には、横波超音波は鋼塊を透過できず、鋼塊が軸心まで凝固した時点即ち鋼塊軸心部の固相率が1になった時点で初めて横波超音波が鋼塊を透過することが分かった。更に、この性質は鋼種に依存せず生じることも明らかとなった。この性質に基づくことで、横波超音波センサーによる透過信号が、消失状態から出現した時点、或いは、検出状態から消失した時点は、鋼種や鋳造条件に拘わらず、凝固完了位置と横波超音波センサーの配置位置とが一致するという絶対値計測ができるとの知見が得られた。
【0016】
従って、凝固完了位置を横波超音波センサーの配置位置とした条件下において、縦波超音波の伝播時間から凝固完了位置を算出する計算式を校正することにより、相対的な測定精度に優れている、縦波超音波の伝播時間を用いた凝固完了位置の推定方法を、絶対的な精度にも優れた検知手段として使用可能であるとの知見が得られた。
【0017】
具体的には、縦波超音波センサーで測定された伝播時間から算出される凝固完了位置が横波超音波センサーの配置位置になるように物性値を決めてやれば、伝播時間により凝固完了位置を求める計算式は校正されることになる。以後、このようにして校正された伝播時間から凝固完了位置を求める計算式を用いることで、例えば鋳造速度を更に高くするなど、鋳造条件を変更したときの凝固完了位置を精度良く求めることができることが分かった。
【0018】
ここで、第1の校正点となる横波超音波センサーの鋳造方向の下流側に第2の横波超音波センサーを配置し、第2の横波超音波センサーの位置を凝固完了位置とした鋳造条件下においても、凝固完了位置を算出する計算式を校正することにより、凝固完了位置の測定精度が大幅に向上することが分かった。
【0019】
次ぎに、凝固完了位置の鋳片幅方向の形状を制御する方法について検討・研究した結果を説明する。
【0020】
凝固完了位置の鋳片幅方向での形状は、一般に、鋳片幅方向各部位の凝固速度により決定され、幅方向の不均一な形状は鋳片幅方向の不均一凝固に起因して形成される。即ち、凝固の速い箇所では凝固完了位置は相対的に鋳片引き抜き方向上流側に上昇し、一方、凝固の遅れた箇所では凝固完了位置は相対的に鋳片引き抜き方向下流側に下降し、凝固完了位置の幅方向形状は不均一となる。
【0021】
鋳片は鋳型内では水冷鋳型と接触して冷却され、鋳型から引き抜かれた後には二次冷却帯においてその表面に噴霧される冷却水により冷却される。鋳型内での冷却及び二次冷却帯での冷却の何れもが鋳片幅方向の不均一凝固の原因となりえるが、不均一凝固の他の原因として、鋳型内に注入された高温溶鋼との接触による凝固殻の再溶解若しくは凝固遅れも考慮しなければならない。
【0022】
そこで、鋳造速度、二次冷却水量及び二次冷却の幅切り量を種々変更した試験を実施し、凝固完了位置の幅方向形状に及ぼすこれら鋳造条件の影響を調査した。尚、「二次冷却の幅切り」とは、連続鋳造機の二次冷却帯において意図的にスラブ鋳片長辺面のコーナー近傍に冷却水を噴霧せずに冷却する手法であり、「幅切り量」とは、意図的に冷却水を噴霧しない範囲の幅であり、通常鋳片短辺面からの距離で示される。スラブ鋳片のコーナー部は鋳片長辺面からのみならず、鋳片短辺面からも冷却されることから二面冷却となり、他の部分に比べて過冷却になりやすい。これを防止する手段として二次冷却の幅切りが適用されている。
【0023】
調査に当たり、凝固完了位置の鋳片幅方向形状を定量化するために、鋳型内の溶鋼湯面に最も近い凝固完了位置を「最短凝固完了位置」、鋳型内の溶鋼湯面から最も離れた凝固完了位置を「最長凝固完了位置」と定義し、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差、即ち両者間の距離によって、凝固完了位置の鋳片幅方向形状を定量化した。即ち、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差が大きくなるほど凝固完了位置の鋳片幅方向形状が不均一になり、逆に、この差が小さくなるほど均一になる。
【0024】
その結果、最短凝固完了位置は、二次冷却水量及び鋳造速度に大きく依存し、一方、最長凝固完了位置は、二次冷却水量や鋳造速度のみならず、二次冷却の幅切り量に大きく依存すると同時に、鋳型内の幅方向での不均一凝固にも依存していることが分かった。二次冷却が均一であっても凝固完了位置の鋳片幅方向形状は不均一となることから、鋳型内の不均一凝固が凝固完了位置の幅方向形状に影響していることが分かる。
【0025】
凝固完了位置の幅方向形状のうちで特に操業条件を規定するものは最長凝固完了位置であり、最長凝固完了位置を基準にして鋳造速度を制御した場合には鋳造速度が遅くなり、生産性を阻害するため好ましくない。従って、鋳造速度に依存せずに最長凝固完了位置のみを短縮するような制御が可能であれば、高い鋳造速度で鋳造することができる。この場合には、高い生産性が確保されると共に、鋳片の温度を低下させることがないために直送圧延も可能となる。
【0026】
この条件を満たす鋳造条件を検討した結果、鋳型内の溶鋼流動を適切な流動パターンに制御し、前述した鋳型内の不均一凝固を改善することで、鋳造速度を変更しなくても最長凝固完了位置を短縮させることができることが分かった。即ち、鋳型内で幅方向に均一な凝固層を得るべく鋳型内の溶鋼流動を制御すれば、鋳造速度を変更しなくても最長凝固完了位置を短縮させることができることが分かった。鋳型内の不均一凝固の原因として、浸漬ノズルからの溶鋼吐出流の衝突による凝固遅れも原因の1つであり、凝固完了位置の幅方向形状を不均一にする原因となるが、鋳型内の溶鋼流動を制御することで吐出流速が変更されて凝固遅れが解消され、凝固完了位置の幅方向形状が均一化される。
【0027】
更に、二次冷却の変更によっても、鋳造速度を変更しなくても最長凝固完了位置を短縮させることができるか否かを検討した。
【0028】
そこで、本発明者等は幅切り量を変更した鋳造試験を行い、最長凝固完了位置に及ぼす幅切り量の影響を調査した。試験は真空高周波溶解炉を用いて、その組成がC:0.1mass%(以下「%」と記す)、Si:0.1%、Mn:1.3%、P:0.002%、S:0.001%、Ti:0.04%、sol.Al:0.04%の中炭素鋼を溶製し、小型試験連続鋳造機(鋳片横断面形状:幅800mm、厚み100mm)を用い、鋳型内にモールドパウダーを添加して鋳造速度1.0m/minで鋳造した。鋳片幅方向における凝固完了位置の検出は、後述する図3に示す超音波センサーを備えた凝固完了位置検知装置(詳細説明は後述)を使用した。用いた凝固完了位置検知装置の超音波センサーは、鋳片幅方向で移動可能な構造であり、鋳片幅方向全体の凝固完了位置を一対の超音波センサーで検出可能である。
【0029】
二次冷却の幅切り量を250mmとし、鋳片中央部の水量密度を500l/min・m2 の二次冷却水量とした場合(水準1)には、最短凝固完了位置は溶鋼湯面から2.7m(以下、溶鋼湯面から凝固完了位置までの距離を「凝固完了位置長さ」と記す)、最長凝固完了位置長さは3.4mであり、最長凝固完了位置の鋳片短辺面からの距離は180mmであった。
【0030】
一方、二次冷却の幅切り量を250mmとし、鋳片中央部の水量密度を750l/min・m2 の二次冷却水量とした場合(水準2)には、最短凝固完了位置長さは2.4m、最長凝固完了位置長さは3.2mであった。水準1に比べて最長凝固完了位置長さを約0.2m短縮させることができたが、最短凝固完了位置長さも短縮され、凝固完了位置の幅方向形状は改善されなかった。この場合、最長凝固完了位置の鋳片短辺面からの距離は水準1と同じく180mmであった。
【0031】
更に、二次冷却の幅切り量を100mmとし、鋳片中央部の水量密度を500l/min・m2 の二次冷却水量とした場合(水準3)には、最短凝固完了位置長さは2.7m、最長凝固完了位置長さは3.0mであった。この場合には、スラブ鋳片中央部の最短凝固完了位置長さは水準1と殆ど変わらずに、最長凝固完了位置長さのみが短縮された。また、最長凝固完了位置の鋳片短辺面からの距離は120mmであり、水準1に比べて鋳片短辺側に移動した。
【0032】
これらの試験から、二次冷却の幅切り量を変更することで、最短凝固完了位置長さを変更させずに、最長凝固完了位置長さを短縮させること、即ち、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を短縮可能であることが分かった。
【0033】
本発明は、上記検討結果に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る連続鋳造鋳片の製造方法は、連続鋳造鋳片に対して横波超音波を送信し且つ送信した横波超音波を受信する横波超音波センサーと、該横波超音波センサーの配置位置と連続鋳造機の同一位置または鋳造方向に離れた鋳片幅方向の同一位置に設置された、連続鋳造鋳片に対して縦波超音波を送信し且つ送信した縦波超音波を受信する縦波超音波センサーと、該縦波超音波センサーで受信した受信信号に基づき計算式を用いて鋳片の凝固完了位置を求める凝固完了位置演算部と、を備え、前記横波超音波センサーの受信信号の強度の変化によって横波超音波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、前記計算式により算出される凝固完了位置が横波超音波センサーの配置位置と合致するように、前記計算式が校正される凝固完了位置検知装置を用いて、連続鋳造鋳片の鋳片幅方向の凝固完了位置を検出し、検出された最短凝固完了位置と検出された最長凝固完了位置との差が予め設定されている基準範囲内となるように、鋳型内の溶鋼流動を調整するか、または二次冷却の幅切り量を調整するか、少なくとも何れかの一方を実施することを特徴とするものである。
【0034】
第2の発明に係る連続鋳造鋳片の製造方法は、連続鋳造鋳片に対して横波超音波を送信し且つ送信した横波超音波を受信する第1の横波超音波センサーと、第1の横波超音波センサーの配置位置と連続鋳造機の同一位置または鋳造方向に離れた鋳片幅方向の同一位置に設置された、連続鋳造鋳片に対して縦波超音波を送信し且つ送信した縦波超音波を受信する縦波超音波センサーと、第1の横波超音波センサーの鋳造方向下流側の鋳片幅方向の同一位置に設置された、連続鋳造鋳片に対して横波超音波を送信し且つ送信した横波超音波を受信する第2の横波超音波センサーと、前記縦波超音波センサーで受信した受信信号に基づき計算式を用いて鋳片の凝固完了位置を求める凝固完了位置演算部と、を備え、第1の横波超音波センサーの受信信号の強度の変化によって第1の横波超音波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、前記計算式により算出される凝固完了位置が第1の横波超音波センサーの配置位置と合致するように、前記計算式が校正されるとともに、第2の横波超音波センサーの受信信号の強度の変化によって第2の横波超音波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、前記計算式により算出される凝固完了位置が第2の横波超音波センサーの配置位置と合致するように前記計算式が更に校正される凝固完了位置検知装置を用いて、連続鋳造鋳片の鋳片幅方向の凝固完了位置を検出し、検出された最短凝固完了位置と検出された最長凝固完了位置との差が予め設定されている基準範囲内となるように、鋳型内の溶鋼流動を調整するか、または二次冷却の幅切り量を調整するか、少なくとも何れかの一方を実施することを特徴とするものである。
【0035】
第3の発明に係る連続鋳造鋳片の製造方法は、第1または第2の発明において、前記最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を、2m以内とすることを特徴とするものである。
【0036】
尚、本発明における鋳片幅方向の同一位置とは、凝固完了位置の鋳造方向の変化がほとんど無いと見なせる範囲内を意味するものとする。スラブ連続鋳造機では、凝固完了位置が鋳片の幅方向で異なる場合もあるので、横波超音波センサーと縦波超音波センサーとで検出する凝固完了位置が同一であるか、或いは、凝固完了位置に鋳造方向の変化が生じたとしても変化の差がほとんど無いと見なせる幅方向の範囲内に横波超音波センサー及び縦波超音波センサーを配置する必要がある。具体的には、凝固完了位置の鋳片幅方向の形状を平坦と見なせる場合には、数100mm離れていてもよく、逆に、凝固完了位置の鋳片幅方向の形状が大きく変化している場合には、数10mm以内とする必要がある。これは、この目的に用いられる超音波の波長が数10mmであり、且つセンサーの大きさが数10mm程度であることから、回折の影響も考慮すると、数10mm以内であれば同一位置と見なすことができるからである。また、連続鋳造機の同一位置とは、鋳片幅方向が同一位置であるのみならず、鋳造方向にも同一位置であるという意味である。鋳造方向に同一位置とは、センサーを配置する鋳片支持ロール間隙の位置が同一であるという意味である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、鋳片の凝固完了位置を横波超音波センサーによって検出した時点で、縦波超音波センサーで測定された縦波超音波の伝播時間から求められる凝固完了位置を校正するので、鋳片への鋲打ち込みなどの手間のかかる校正作業を施すことなく、横波超音波センサー及び縦波超音波センサーの測定値のみから鋳片幅方向の凝固完了位置を精度良く検知することが可能となる。これにより、全ての鋼種の様々な鋳造条件において凝固完了位置の鋳片幅方向形状を鋳造中に精度良く把握することができ、そして、検出した凝固完了位置の形状に基づき、鋳型内の溶鋼流動或いは二次冷却の幅切り量を調整するので、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を基準値以内に制御することが可能となり、その結果、鋳片の中心偏析の低減、並びに、鋳造速度上限値までの増速による生産性の向上などが可能となり、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。先ず、凝固完了位置検知装置を構成する横波超音波センサーと縦波超音波センサーとが同一位置に配置されたスラブ連続鋳造機における第1の実施の形態について説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態例を示す図であって、本発明を実施したスラブ連続鋳造機の側面概略図である。
【0039】
図1において、1は鋳片、2は固相部、3は液相部、4は凝固完了位置であり、連続鋳造機の鋳型101に注入された溶鋼は、鋳型101によって冷却されて鋳型101と接触する部位に固相部2を形成し、周囲を固相部2とし、内部を未凝固の液相部3とする鋳片1は、鋳型101の下方に対抗して配置された複数対の鋳片支持ロール102に支持されつつ鋳型101の下方に引き抜かれる。鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール102の間隙には、鋳片1の表面に向けて冷却水を吹き付けるエアーミストスプレーノズルや水スプレーノズルなどのスプレーノズルが配置された二次冷却帯(図示せず)が設置されており、鋳片1は鋳造方向下流側に引き抜かれながら二次冷却帯で冷却され、中心部まで完全に凝固する。この中心部まで完全に凝固した位置が凝固完了位置4である。凝固が完了した鋳片1は、鋳片支持ロール102の下流側に設置された鋳片切断機104で所定の長さに切断され、鋳片1Aとして搬送用ロール103によって搬出される。
【0040】
鋳型101の長辺銅板の背面には、リニア型交流移動磁場発生装置105が長辺銅板を挟んで対向して配置されている。このリニア型交流移動磁場発生装置105は、鋳造方向の中心位置を浸漬ノズル(図示せず)の吐出孔の直下位置とし、浸漬ノズルを境として長辺銅板の幅方向左右で2つに分割されている。リニア型交流移動磁場発生装置105は、磁場電源制御装置(図示せず)に結線され、印加する磁場の強度及び磁場の移動方向が制御される構造になっている。このリニア型交流移動磁場発生装置105により印加される磁場は移動磁場であり、具体的には、長辺銅板を挟んで対向するリニア型交流移動磁場発生装置105の磁場移動方向を同一水平方向として、浸漬ノズルからの吐出流の減速または加速を行う。移動磁場の移動方向を短辺銅板側から浸漬ノズル側とすることで吐出流は減速され、また、逆方向とすることで吐出流は加速されるようになっている。
【0041】
二次冷却のスプレーノズル106は、図2に示すように、鋳造方向に並んだ鋳片支持ロール102の各間隙に鋳片1の幅方向で2箇所設置されており、鋳片長辺面に対してその高さ位置が変更可能な構造になっている。この場合、スプレーノズル106は、スプレーノズル106の噴霧角度を2θとしたときに、鋳片1の中心を通り、鋳片長辺面に垂直な線Z−Z’に対して角度θの方向に移動しながら昇降するようになっており、その高さ位置を任意に変更することで、任意の幅切り量で噴霧することができる。例えば、図2に示すようにスプレーノズル106の先端位置が高さH1 の場合には幅切り量は幅W1 となり、高さ位置が高さH2 の場合には幅切り量は幅W2 となる。図2では鋳片1の反対面側(下面側)のスプレーノズルを図示していないが、反対側も同一の構造になっている。また、図2ではスプレーノズル106が鋳片幅方向に2箇所の例で説明したが、3箇所以上の場合にも、構造が若干複雑にはなるが、同様な方法で幅切り量を調整することができる。尚、幅切り量を調整する方法は、このようなスプレーノズル106を移動する方法に限る訳ではなく、例えば鋳片幅方向に多数のスプレーノズルを設置しておき、幅切り位置に該当するスプレーノズルからの噴霧を止めるようにすることも可能であり、また、鋳片表面とスプレーノズルとの間に可動式の遮蔽板を設置しても可能である。
【0042】
このような構成のスラブ連続鋳造機において、鋳片1の凝固完了位置4を検出するための凝固完了位置検知装置が配置されている。凝固完了位置検知装置は、鋳片1を挟んで対向配置させた横波超音波送信器6及び横波超音波受信器8からなる横波超音波センサーと、鋳片1を挟んで対向配置させた縦波超音波送信器7及び縦波超音波受信器9からなる縦波超音波センサーと、横波超音波送信器6及び縦波超音波送信器7へ電気信号を与えて鋳片1に超音波を送出するための電気回路である超音波送信部5と、横波超音波受信器8及び縦波超音波受信器9にて受信した受信信号を処理するための横波透過強度検出部10、凝固完了位置到達検出部11、縦波伝播時間検出部12及び凝固完了位置演算部13と、を備えている。横波超音波送信器6及び縦波超音波送信器7にて送出された超音波は鋳片1を透過し、横波超音波受信器8及び縦波超音波受信器9でそれぞれ受信され、電気信号に変換される。
【0043】
横波超音波センサー及び縦波超音波センサーは、例えば鋳片1の幅方向に移動可能な架台に取り付けられていて、送信器と受信器とが同期して移動することで、鋳片1の幅方向各位置における凝固完了位置4を検出できるようになっている。この場合、横波超音波センサー及び縦波超音波センサーも同期して移動する構造になっている。
【0044】
横波透過強度検出部10は、横波超音波受信器8により受信された横波超音波信号の強度を検出する装置で、凝固完了位置到達検出部11は、横波透過強度検出部10にて検出された横波超音波の透過信号の変化から、凝固完了位置4が横波超音波送信器6及び横波超音波受信器8の配置位置よりも鋳造方向の上流側か、或いは下流側かを判定する装置である。また、縦波伝播時間検出部12は、縦波超音波受信器9にて受信した受信信号から鋳片1を透過する縦波超音波の伝播時間を検出する装置であり、凝固完了位置演算部13は、縦波伝播時間検出部12で検出された縦波超音波の伝播時間から凝固完了位置4を演算して求める装置である。ここで、横波透過強度検出部10、凝固完了位置到達検出部11、縦波伝播時間検出部12及び凝固完了位置演算部13は、計算機にて演算される。尚、横波超音波受信器8及び縦波超音波受信器9とこの計算機との間には、超音波信号増幅器や波形を計算機に取り込むためのA/D変換器などが必要であるが、図中では省略している。また、図1に示す凝固完了位置検知装置においては、横波超音波送信器6と縦波超音波送信器7とが一体的に構成され、同様に、横波超音波受信器8と縦波超音波受信器9とが一体的に構成されている。
【0045】
横波超音波送信器6と縦波超音波送信器7、並びに、横波超音波受信器8と縦波超音波受信器9とが一体的に構成される例を、図3を参照して説明する。図3は、縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するための電磁超音波センサーの構成と動作について説明する図である。
【0046】
図3において31は磁石である。これは永久磁石でも電磁石でもどちらでも構わないが、永久磁石の方が電磁超音波センサーを小型化することができることから好ましい。32は、縦波用コイルであり、内側の磁極の周囲を巻くように配置したパンケーキコイルである。一方、33は、横波用コイルであり、磁極面と重なるように配置したパンケーキコイルである。34は、磁石31からの磁力線を示したものである。35及び36は、それぞれ縦波用コイル32及び横波用コイル33から鋳片1に生ずる渦電流を示したものであり、渦電流35及び渦電流36は、超音波送信部5から縦波用コイル32及び横波用コイル33に高周波電流が流されることによって発生する。
【0047】
鋳片1に生じた渦電流35及び渦電流36は、磁力線34で示される磁石31からの静磁場との間にローレンツ力を発生させ、これによって縦波超音波37及び横波超音波38が発生する。超音波の受信については送信の逆作用であり、静磁場中の鋳片1が超音波によって振動することにより、鋳片1に渦電流が生じることを縦波用コイル32及び横波用コイル33で検知するものであり、送信と全く同じ構成を用いることができる。
【0048】
連続鋳造機の隣り合う鋳片支持ロール間の間隙で、同一位置に縦波と横波とを発生・検出するためには、狭いロール間の間隙(一般に40〜75mm)に挿入可能な小型の電磁超音波センサーが必要である。電磁超音波センサーはよく知られているが、従来、この目的に見合った、縦波超音波と横波超音波とを同一箇所で発生・検出できる小型の電磁超音波センサーは提案されていない。本発明では、図3に示すように、鋳片1の幅方向に磁石31を並べる構成としたことで、磁極を3つまたは3つ以上設けることが可能となり、鋳片支持ロール102の狭い間隙に電磁超音波センサーを挿入することが可能となった上に、縦波超音波と横波超音波とを同一箇所で発生・検出することが可能となった。また、センサーの設置数が減ることにより、設置コストの削減のみならず保守点検のコストも削減することができる。
【0049】
この電磁超音波センサーの具体的な形状としては、磁極の面積は10mm×10mm〜30mm×30mm程度の範囲が望ましく、磁極の間隔は5mm〜30mm程度の範囲が適当であり、磁極間の水平磁場が0.1T以上となる磁力を有することが適当である。磁石31として永久磁石を用いる場合には、希土類系磁石を用いることが望ましく、高さは20mm〜100mm程度あればよい。コイルの巻き数は10ターン〜100ターン程度の範囲が適当である。また、鋳造方向でコイルが磁極からはみ出る部分については、コイルを折り曲げることによって鋳造方向のセンサー幅を狭くすることができるが、磁極から直ちに折り曲げると、鋳造方向へ向かう水平磁場を有効に活用することができなくなり、感度が低下するため、磁極から5mm程度はみ出してから折り曲げるとよい。はみ出す幅は、3mm程度では感度低下を防止する効果が少なく、10mm以上ではセンサーの鋳造方向の幅を狭くする上では余り意味がないため、従って、3mm〜10mm程度が適当である。
【0050】
このような電磁超音波センサーを用いる場合、電気回路に要求される仕様としては、送信信号の電圧はおよそ1kV以上(電流では20A以上)、受信アンプのゲインは60dB〜80dB以上あれば発生・検出が可能であり、送信信号の周波数は、横波用は50kHz〜150kHz、縦波用は100kHz〜400kHz程度の範囲が適当である。送信信号波形としては、正弦波を短時間発生させたトーンバースト波や、所定時間幅内で振幅や位相を変化させたチャープ波などの変調信号の何れでも構わない。
【0051】
尚、横波超音波センサーと縦波超音波センサーとを連続鋳造機の同一位置に配置する場合、必ずしも縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出させる電磁超音波センサーを使用する必要はなく、横波超音波センサーと縦波超音波センサーとの配置間隔が、凝固完了位置4の鋳造方向の変化がほとんど無いと見なせる範囲内であるならば、具体的には数10mm以内であるならば、横波超音波センサーと縦波超音波センサーとを別々に配置してもよい。
【0052】
以下、受信した信号の処理方法について説明する。先ず、横波透過強度検出部10の動作について図4を参照して説明する。
【0053】
図4は、横波透過強度検出部10の動作を示す図で、送信信号の1発分に対応した受信信号波形を示している。図4中の最初の波は、送信信号が電気的に横波超音波受信器8に漏れ込んだものであり、2番目の波が横波超音波の透過信号である。ここで、横波超音波の透過信号が現れる時間位置は、鋳片1の厚み、鋳片1のおよその温度、及び横波超音波の伝播速度から、大まかに既知であるので、その位置の信号だけを取り出すゲートを設け、そのゲート内の信号の最大値を求めるようにする。この処理は、受信信号の波形をA/D変換で計算機内に取り込むことにより、計算処理で容易に実現することができる。信号の最大値の取り方としては、0Vを基準にした絶対値でも、また、ピークトゥーピーク値でも何れでもよい。尚、実際には、送信信号は数10Hz〜数100Hzの周期で繰り返されるので、その一つ一つの波形を平均化してから横波超音波の透過強度を求めたり、一つ一つの波形の透過強度を平均化したりして、ノイズによる揺らぎの影響を少なくすることが有効である。
【0054】
次いで、凝固完了位置到達検出部11の動作について図5を参照して説明する。図5は、凝固完了位置到達検出部11の動作の1例を示す図で、連続鋳造操業の数10分間にわたって鋳造条件を変化させながら、横波透過強度検出部10から送られてくる横波超音波の透過信号の強度を検出したチャート図である。
【0055】
図5に示すように、連続鋳造操業の鋳造条件の変化に応じて横波超音波の透過信号の強度は変化する。図5中のA及びBの範囲では透過信号の強度は非常に小さくなっており、凝固完了位置4が横波超音波送信器6及び横波超音波受信器8の配置位置よりも鋳造方向の下流側に存在する状態を表している。凝固完了位置到達検出部11では、透過信号の強度が所定の判定しきい値を横切った時点で、凝固完了位置4が横波超音波センサーの配置位置を通過したと判定する。この判定しきい値は、予め定めた固定値でも、或いは横波超音波の透過信号が現れない時間領域の信号レベルからノイズレベルを求め、その値を用いた変動しきい値でも、どちらでも構わない。凝固完了位置到達検出部11は、このようにして凝固完了位置4が横波超音波センサーの配置位置を通過したと判定すると、凝固完了位置演算部13へタイミング信号を送出する。
【0056】
次ぎに、縦波伝播時間検出部12の動作について図6を参照して説明する。図6は、縦波伝播時間検出部12の動作を示す図で、送信信号の1発分に対応した受信信号の波形を示す図である。図6中の最初の波は、送信信号が電気的に縦波超音波受信器9に漏れ込んだものであり、2番目の波が縦波超音波の透過信号である。ここで、縦波伝播時間検出部12は、送信信号の送出タイミングから縦波超音波の透過信号の出現タイミングまでの時間を検出する。縦波超音波の透過信号の検出方法としては、図6に示すように、しきい値以上になる時点としても、或いはゲート内の最大値となる時点としても、どちらでもよい。この処理は、横波透過強度検出部10と同様に、受信信号の波形をA/D変換で計算機内に取り込むことにより、計算処理で容易に実現することができる。また、実際には、送信信号は数10Hz〜数100Hzの周期で繰り返されるので、その一つ一つの波形を平均化してから縦波超音波の伝播時間を求めたり、一つ一つの波形の伝播時間を平均化したりして、ノイズによる揺らぎの影響を少なくすることが有効である。
【0057】
最後に、凝固完了位置演算部13の動作について図7を参照して説明する。図7は、第1の実施の形態例における凝固完了位置演算部13の動作を示す図で、縦波超音波の伝播時間から凝固完了位置4を算出する近似式を図示したものである。凝固完了位置4が縦波超音波送信器7及び縦波超音波受信器9の配置位置よりも鋳造方向の下流側になるほど、液相部3の厚みが増大するため、伝播時間は長くなる。従って、伝播時間と、鋳型101内の溶鋼湯面14から凝固完了位置4までの距離とはおよそ比例関係になり、図7のような関係を示す。そこで、伝播時間から凝固完了位置4を求めるには、多項式の近似式、例えば下記の(1)式に示す一次式などを用いればよい。但し、(1)式において、CEは鋳型内の溶鋼湯面14から凝固完了位置4までの距離、Δtは縦波超音波の伝播時間、a1 及びa0 は多項式の係数である。
【0058】
【数1】

【0059】
図7中、Aで示す線は校正前の近似式を表している。ここで、凝固完了位置到達検出部11から凝固完了位置4の通過判定のタイミング信号が凝固完了位置演算部13に送出されると、凝固完了位置演算部13では、その時点における縦波超音波の伝播時間(Δt1 )を求め、更に、鋳型内の溶鋼湯面14から凝固完了位置4までの距離(CE)が、横波超音波センサーの配置位置と合致するように、下記の(2)式を用いて(1)式の係数(a0 )を修正する。但し、(2)式において、CE1 は鋳型内の溶鋼湯面14から横波超音波センサーの配置位置までの距離、Δt1 は凝固完了位置4が横波超音波センサーの配置位置を通過したと判定した時点の縦波超音波の伝播時間である。
【0060】
【数2】

【0061】
これによって、凝固完了位置4を求める近似式は校正され、例えば図7中にBで示す校正後となる。校正後は、Bで示す校正後の近似式を用いて、縦波超音波の伝播時間に基づいて精度良く凝固完了位置4を鋳造中にオンラインで検知することが可能となる。
【0062】
校正する時点は、新たな鋼種を鋳造する毎の1回だけでも、また、連続鋳造の操業中に横波超音波センサーの配置位置を凝固完了位置4が横切る毎に、或いは、操作員の判断による適当な時期の何れでもよい。
【0063】
尚、縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するための電磁超音波センサーとして、前述した図3に示す電磁超音波センサーは磁極が3つであったが、磁極を4以上とすることもできる。図8は、縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するための電磁超音波センサーの磁極を4つとした例の構成を示す図である。図8では、実際には重なって配置される縦波用コイル32と横波用コイル33とを、磁極に対する配置が分かりやすくなるように、別々に描いており、図面の向かって左側が縦波用コイル32の配置図で、右側が横波用コイル33の配置図である。図3に示す電磁超音波センサーと同様に、縦波用コイル32は内側の磁極の周囲を巻くように配置され、横波用コイル33は磁極面と重なるように配置されている。磁極の数は4に限るものではなく、更に多くても実施可能である。このようにすると、縦波用コイル32に対する水平磁場の強度が高くなるため、縦波超音波の感度が高くなる上に、横波超音波と縦波超音波の発生・検出位置がほぼ等しくなるという効果がある。
【0064】
ところで、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの配置位置よりも上流側の場合には、縦波超音波は全て固相部2を透過する。また、横波超音波も、縦波超音波と同一位置で発生・検出するため全て固相部2を透過する。この場合の伝播時間は固相部2における超音波の伝播速度に依存することになる。超音波の伝播速度は固相部2の温度に依存することから、縦波超音波及び横波超音波の伝播時間は鋳片1の温度によって変化することになる。一方、凝固完了位置4から電磁超音波センサーの配置位置までの距離が異なると電磁超音波センサーの配置位置における鋳片の温度は変化する。即ち、凝固完了位置4が電磁超音波センサーの配置位置から上流側に遠くなるほど電磁超音波センサーの配置位置における鋳片の温度は低下する。鋳片の温度が低いほど超音波の伝播速度は増加するため、伝播時間は短くなる。
【0065】
従って、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの配置位置よりも上流側の場合においても、伝播時間と、溶鋼湯面14から凝固完了位置4までの距離との関係は、前述した図7に示すものと同様の傾向になる。しかしながら、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの下流側に存在して伝播経路に液相部3が含まれる場合に較べると、固相部2に比べて伝播速度の遅い液相部3の影響がないため、凝固完了位置4が鋳造方向で変動しても、この変動の伝播時間に及ぼす影響は小さく、検出される伝播時間の変動率は小さい。
【0066】
そのため、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの上流側に存在する場合と下流側に存在する場合とで、伝播時間から凝固完了位置4を求める際に使用する計算式を異なる式とすることが好ましい。
【0067】
具体的には、凝固完了位置4が縦波超音波センサーよりも上流側の場合には、伝播時間と凝固完了位置とを直接結び付けた実験式(図7に示すような式)を用いる方法、或いは、伝播時間から鋳片の内部温度または軸心温度を推定し、その値から凝固完了位置を推定する方法の何れでもよい。一方、凝固完了位置4が縦波超音波センサーよりも下流側の場合には、伝播時間と凝固完了位置とを直接結び付けた実験式(図7に示すような式)を用いる方法、或いは、伝播時間から固相部2の厚みまたは液相部3の厚みを推定し、その値から凝固完了位置を推定する方法の何れでもよい。図7に示すような実験式を用いる場合でも、凝固完了位置4が縦波超音波センサーよりも上流側の場合と下流側の場合とで、自ずと係数は異なってくる。
【0068】
これを実施するためには、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの配置位置よりも上流側であるか下流側であるかを判別する必要があり、従って、この場合には、凝固完了位置到達検出部11では次の判定も実施する。即ち、横波超音波の透過強度が判定しきい値よりも大きければ凝固完了位置4は上流側と判定し、逆に、判定しきい値以下であれば凝固完了位置4は下流側と判定し、その信号を凝固完了位置演算部13に送出する。凝固完了位置演算部13では、その結果に基づき凝固完了位置4を計算するための計算式を選択し、選択した計算式を用いて凝固完了位置4を算出する。
【0069】
このようにして構成される連続鋳造機において、本発明による連続鋳造鋳片の製造方法を以下のようにして実施する。
【0070】
浸漬ノズル(図示せず)を介して鋳型101に溶鋼を鋳造する。鋳型101に鋳造された溶鋼は鋳型101で冷却されて固相部2を形成し、内部に液相部3を有する鋳片1として、鋳片支持ロール102に支持されつつ下方に連続的に引き抜かれる。鋳片1は鋳片支持ロール102を通過する間、適宜の量の幅切り量が設定された二次冷却帯で冷却され、固相部2の厚みを増大して、やがて中心部までの凝固を完了する。その際に、凝固完了位置検知装置により凝固完了位置4の位置を検出する。
【0071】
検出された鋳片幅方向の凝固完了位置4から、最短凝固完了位置及び最長凝固完了位置を求め、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差、即ち両者間の距離に応じて、この差が小さくなるように、(1)リニア型交流移動磁場発生装置105によって磁場を印加するまたは磁場の強度若しくは印加パターンを変更し、鋳型内の溶鋼流動を調整する、(2)二次冷却の幅切り量を変更する、或いは(3)リニア型交流移動磁場発生装置105により鋳型内の溶鋼流動を調整すると同時に二次冷却の幅切り量を変更する。
【0072】
具体的には、鋳片1の短辺面側に最長凝固完了位置が存在する場合には、浸漬ノズルからの吐出流を減速させるように移動磁場を印加するかこの磁場強度を強くする、或いは、幅切り量を小さくし、逆に、鋳片1の中央部側に最長凝固完了位置が存在する場合には、浸漬ノズルからの吐出流を増速させるように移動磁場を印加するかこの磁場強度を強くする、或いは、幅切り量を大きくして対処する。鋳型内の溶鋼流動は浸漬ノズルからの吐出流により左右されているので、吐出流の流速を制御することにより鋳型内溶鋼の全体の流動を制御することができる。幅切り量を小さくする場合、幅切り量をゼロ即ち幅切りしないで凝固完了位置長さを調整してもよいが、特に、直送圧延のための鋳片1を鋳造している場合には、鋳片1のコーナー部の温度を確保する観点から幅切り量の最小量を100mm程度とすることが好ましい。
【0073】
通常、最短凝固完了位置及び最長凝固完了位置の鋳片幅方向位置は鋳造中にも変化する。しかし、スプレーノズル106の詰まりなどがない状態で鋳片1を冷却している場合には、一般的に最短凝固完了位置は鋳片幅中央部に存在し、一方、最長凝固完了位置は、鋳片短辺面から200mm前後離れた位置に存在することが多い。そのため、凝固完了位置の幅方向形状は図9に示すようなW型になっている。但し、この場合に凝固完了位置形状は鋳片1の中心に対して左右で対称ではなく、図9に示すように幅方向左右で差が生じることが多い。このような場合に、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差は厳密には図中の差L1 であるが、磁場の強度及び印加パターン、或いは、幅切り量を変更する際に、差L1 及び差L2 のどちらを基準としてもよい。このような場合には、どちらを基準としても溶鋼流動及び幅切り量の対応処置は同様になるからである。
【0074】
中心偏析を軽減するために鋳片1を軽圧下する場合には、最短凝固完了位置が連続鋳造機の軽圧下帯(図示せず)の中央部ないし出口側となるように鋳造速度及び二次冷却水量を調整し、更に、移動磁場による鋳型内溶鋼の流動制御または幅切り量の調整若しくは両者を調整して、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を小さくさせ、最長凝固完了位置を軽圧下帯の範囲内に制御する。この場合、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差は小さいほど中心偏析が軽減されるため、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を2m以下に制御することが好ましい。尚、軽圧下帯とは、対向する鋳片支持ロール102のロール間の間隔(「ロール間隔」と云う)が鋳片1の鋳造方向下流側に向かって徐々に狭くなるように設定され、鋳片1に対して圧下力を付与することの可能な鋳片支持ロール102の群である。
【0075】
また、直送圧延用の鋳片1を鋳造する場合或いは連続鋳造機の生産性を最大限発揮させる場合には、凝固完了位置4を連続鋳造機の出側に位置させる必要があり、従って、例えば最短凝固完了位置が連続鋳造鋳造機の機端から3〜5mの範囲になるように鋳造速度及び二次冷却水量を調整し、更に、最長凝固完了位置が連続鋳造機の機端を超えないように、移動磁場による鋳型内溶鋼の流動制御または幅切り量の調整若しくは両者を調整する。
【0076】
このようにして鋳造した鋳片1を鋳片切断機104により切断して鋳片1Aを得る。
【0077】
以上説明したように、本発明によれば最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を小さくしながら鋳片1を鋳造することが可能となり、中心偏析の改善、連続鋳造機の生産性の向上、直送圧延による省エネルギーなどの副次的効果を得ることができる。
【0078】
次いで、凝固完了位置検知装置を構成する横波超音波センサーと縦波超音波センサーとが連続鋳造機の鋳造方向に離れた2箇所の鋳片幅方向の同一位置に配置されたスラブ連続鋳造機における第2の実施の形態について説明する。図10は、本発明の第2の実施の形態例を示す図であって、本発明を実施したスラブ連続鋳造機の概略図である。
【0079】
第2の実施の形態では、図10に示すように、横波超音波送信器6及び横波超音波受信器8からなる横波超音波センサーと、縦波超音波送信器7及び縦波超音波受信器9からなる縦波超音波センサーとが鋳造方向の2箇所に別々に配置されている。この場合、横波超音波センサー及び縦波超音波センサーは、前述した図3に示すような縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するセンサーである必要はなく、通常の電磁超音波センサーを用いることができる。勿論、図3に示す電磁超音波センサーも用いることができる。
【0080】
但し、スラブ連続鋳造機では、凝固完了位置4が鋳片1の幅方向で異なる場合もあるので、横波超音波センサーと縦波超音波センサーとで検出する凝固完了位置4の鋳造方向の変化がほとんど無いと見なせる幅方向の範囲内に横波超音波センサー及び縦波超音波センサーを配置する必要がある。具体的には、前述したように、二次冷却が適切で凝固完了位置4の幅方向の形状を平坦と見なせる場合には、数100mm離れていてもよく、逆に、凝固完了位置4の幅方向の形状が大きく変化している場合には、数10mm以内とする必要があり、従って、何れにも対応するためには、数10mm以内とする必要がある。鋳片幅方向における凝固完了位置4を検出するべく横波超音波センサー及び縦波超音波センサーを鋳片1の幅方向で移動させる際には、この関係を維持した状態で移動させる必要がある。
【0081】
また、横波超音波センサーの配置位置と縦波超音波センサーの配置位置との間隔は狭いほど検出精度が良く、配置間隔が広くなるほど精度が悪化するので、配置間隔はおよそ5m以内とすることが好ましい。また、縦波超音波センサーの検出する縦波超音波の伝播時間は、前述したように、液相部3が含まれていると敏感に変化するため、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの下流側に存在する状態の方が精度は良く、従って、縦波超音波センサーを横波超音波センサーの鋳造方向の上流側に配置することが好ましい。
【0082】
その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態例と同一構成であり、同一の部分は同一符号により示し、その説明は省略する。
【0083】
横波透過強度検出部10、凝固完了位置到達検出部11、縦波伝播時間検出部12及び凝固完了位置演算部13の動作も第1の実施の形態例と同様であり、凝固完了位置到達検出部11から凝固完了位置4の通過判定のタイミング信号が凝固完了位置演算部13に送出されると、凝固完了位置演算部13ではその時点における縦波超音波の伝播時間(Δt1 )を求め、更に、溶鋼湯面14から凝固完了位置4までの距離(CE)が横波超音波センサーの配置位置となるように、前述した(2)式によって係数(a0 )を修正する。凝固完了位置4を求める多項式の校正後は校正後の近似式を用いることで、縦波超音波の伝播時間に基づいて精度良く凝固完了位置4を鋳造中にオンラインで検知することが可能となる。校正の時期、並びに、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの上流側であるか否かによって凝固完了位置4を算出するための計算式を変更することは、前述した第1の実施の形態での説明に沿って行うこととする。
【0084】
そして、第1の実施の形態で説明したと同様に、鋳造中の鋳片1の鋳片幅方向における凝固完了位置4を検出し、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差が基準値以内でない場合には、移動磁場による鋳型内溶鋼の流動制御または二次冷却スプレーの幅切り量の調整若しくは両者を実施し、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差が基準値以内になるように調整する。
【0085】
尚、図10では、横波超音波センサーの配置位置を縦波超音波センサーの配置位置より下流側としているが、逆の上流側としてもよい。但し、この場合、縦波超音波センサーよりも上流側の凝固完了位置4を縦波超音波センサーによって検知する精度は余り高くないので、横波超音波センサーで凝固完了位置4の到達を検知した後、鋳造速度を考慮し、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの配置位置に到達したと予想される時点で、多項式を校正することが望ましい。このようにすることで、高い精度を得ることができる。
【0086】
最後に、凝固完了位置検知装置を構成する第2の横波超音波センサーが、第1の横波超音波センサーに対して鋳造方向の下流側に離れた鋳片幅方向の同一位置に配置されたスラブ連続鋳造機における第3の実施の形態について説明する。図11は、本発明の第3の実施の形態例を示す図であって、本発明を実施したスラブ連続鋳造機の概略図である。
【0087】
第3の実施の形態では、図11に示すように、第1の実施の形態例における横波超音波送信器6、横波超音波受信器8、縦波超音波送信器7、縦波超音波受信器9からなる縦波超音波及び横波超音波を発生・検出可能な電磁超音波センサーの配置位置の下流側に、横波超音波送信器6A及び横波超音波受信器8Aからなる第2の横波超音波センサーが設置されている。この場合、第2の横波超音波センサーは、前述した図3に示すような縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するセンサーである必要はなく、通常の電磁超音波センサーを用いることができる。勿論、図3に示す電磁超音波センサーも用いることができる。また、凝固完了位置4の鋳片幅方向での変化の影響を避けるために、第2の横波超音波センサーは、横波超音波送信器6及び横波超音波受信器8からなる横波超音波センサー(以下、「第1の横波超音波センサー」と称す)と鋳片幅方向の同一位置に設置されている。そして、横波超音波受信器8Aの受信信号は、横波透過強度検出部10Aに送出され、横波透過強度検出部10Aの信号は凝固完了位置到達検出部11Aに送出されている。横波透過強度検出部10A及び凝固完了位置到達検出部11Aは、それぞれ、前述した第1の実施の形態例における横波透過強度検出部10及び凝固完了位置到達検出部11と同一機能を有しており、第2の横波超音波センサーの配置位置を凝固完了位置4が通過することで、凝固完了位置到達検出部11Aは、凝固完了位置演算部13へタイミング信号を送出するようになっている。鋳片幅方向における凝固完了位置4を検出するべく第1の横波超音波センサー、縦波超音波センサー及び第2の横波超音波センサーを鋳片1の幅方向で移動させる際には、第2の実施の形態例で説明したと同様に、これらのセンサーを鋳片幅方向で同一位置を維持したまま移動させる必要がある。
【0088】
また、第2の横波超音波センサーの配置位置と第1の横波超音波センサーの配置位置との間隔が余りに狭いと校正精度を高めることができないので、校正精度を高める観点から、両者の配置間隔は2m〜10m程度の範囲が適当である。その他の構成は、図1に示す第1の実施の形態例と同一構成であり、同一の部分は同一符号により示し、その説明は省略する。
【0089】
横波透過強度検出部10、凝固完了位置到達検出部11及び縦波伝播時間検出部12の動作は第1の実施の形態例と同様であるが、凝固完了位置演算部13の動作は異なるので、以下、凝固完了位置演算部13の動作について図12を参照して説明する。
【0090】
図12は、第3の実施の形態例における凝固完了位置演算部13の動作を示す図で、縦波超音波の伝播時間から凝固完了位置4を算出する近似式を図示したものである。ここでは、第1の実施の形態例と同様に(1)式を用いて縦波超音波の伝播時間から凝固完了位置4を算出するものとする。図12中、Aで示す線は校正前の近似式を表している。
【0091】
ここで、凝固完了位置到達検出部11から、第1の横波超音波センサー位置における凝固完了位置4の通過判定のタイミング信号が凝固完了位置演算部13に送出されると、凝固完了位置演算部13では、その時点における縦波超音波の伝播時間(Δt1 )を記憶する。次ぎに、鋳造速度や二次冷却強度などを変更させて凝固完了位置4を鋳造方向の下流側に延ばして凝固完了位置4が第2の横波超音波センサーの配置位置を通過すると、凝固完了位置到達検出部11Aから凝固完了位置4の通過判定のタイミング信号が凝固完了位置演算部13に送出される。凝固完了位置演算部13では、その時点における縦波超音波の伝播時間(Δt2 )を求める。そして、下記に示す(3)式及び(4)式の連立方程式を解き、(1)式の定数(a1 )及び定数(a0 )を修正する。但し、(3)式及び(4)式において、CE1 は鋳型内の溶鋼湯面14から第1の横波超音波センサーの配置位置までの距離、Δt1 は凝固完了位置4が第1の横波超音波センサーの配置位置を通過したと判定した時点の縦波超音波の伝播時間、CE2 は鋳型内の溶鋼湯面14から第2の横波超音波センサーの配置位置までの距離、Δt2 は凝固完了位置4が第2の横波超音波センサーの配置位置を通過したと判定した時点の縦波超音波の伝播時間である。
【0092】
【数3】

【0093】
【数4】

【0094】
これによって、凝固完了位置4を求める近似式は校正され、例えば図12中にBで示す線となる。校正後は、Bで示す校正後の近似式を用いて、縦波超音波の伝播時間に基づいて精度良く凝固完了位置4を鋳造中にオンラインで検知することが可能となる。この場合には第1の実施の形態よりも更に高い精度で凝固完了位置4を検知することができる。校正の時期、並びに、凝固完了位置4が縦波超音波センサーの上流側であるか否かによって凝固完了位置4を算出するための計算式を変更することは、前述した第1の実施の形態での説明に沿って行うこととする。
【0095】
そして、第1の実施の形態で説明したと同様に、鋳造中の鋳片1の鋳片幅方向における凝固完了位置4を検出し、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差が基準値以内でない場合には、移動磁場による鋳型内溶鋼の流動制御または二次冷却スプレーの幅切り量の調整若しくは両者を実施し、最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差が基準値以内になるように調整する。
【0096】
尚、本発明は上記に説明した範囲に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができる。例えば、上記説明では電磁超音波センサーを用いた場合について説明したが、縦波超音波の送信及び受信には、圧電振動子を水と接触させる方法や、レーザー超音波法を用いてもよい。また、レーザー超音波法で送信し、電磁超音波法で受信することも計測感度を高めることから有用である。
【0097】
更に、上記実施の形態においては、横波超音波送信器6と横波超音波受信器8とを、或いは、縦波超音波送信器7と縦波超音波受信器9とを、鋳片1を挟んで透過法で計測する配置としているが、送信器と受信器とを鋳片1の同一面上に配置し、鋳片1の反対面でのエコーを利用して反射法で計測するようにしてもよい。本発明にいう超音波センサーは、これらの何れの形態も含むものである。また、本発明においては、伝播時間から凝固完了位置を求める計算式の校正は、鋳片幅方向の任意の複数位置で行ってもよい。このように、鋳片幅方向の任意の複数位置において、それぞれ別の計算式を用いるようにすると、鋳片幅方向における冷却ムラや厚み変動の影響を少なくして、各位置それぞれで測定精度を向上させることができる。
【0098】
また、縦波超音波の伝播時間から一次式を用いて凝固完了位置4を直接求める場合について説明したが、二次式或いは三次式などの多項式を用いてもよく、また、縦波超音波の伝播時間から固相部2の厚みを求め、求めた固相部2の厚みと鋳造速度とから凝固完了位置を求めてもよい。
【0099】
更に、縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するための電磁超音波センサーについては、縦波用コイルと横波用コイルとを別々に配置せず、センサーの磁極の極性を交互に変えることによって縦波用のコイルと横波用のコイルとを同一のコイルで兼用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の第1の実施の形態例を示す図である。
【図2】二次冷却帯のスプレーノズルの構成を示す概略図である。
【図3】縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するための電磁超音波センサーの構成と動作を示す図である。
【図4】横波透過強度検出部の動作を示す図である。
【図5】凝固完了位置到達検出部の動作の1例を示す図である。
【図6】縦波伝播時間検出部の動作を示す図である。
【図7】第1の実施の形態例における凝固完了位置演算部の動作を示す図である。
【図8】縦波超音波と横波超音波とを同一位置で発生・検出するための電磁超音波センサーの磁極を4つとした構成を示す図である。
【図9】凝固完了位置の幅方向形状の1例を示す図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態例を示す図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態例を示す図である。
【図12】第3の実施の形態例における凝固完了位置演算部の動作を示す図である。
【符号の説明】
【0101】
1 鋳片
2 固相部
3 液相部
4 凝固完了位置
5 超音波送信部
6 横波超音波送信器
7 縦波超音波送信器
8 横波超音波受信器
9 縦波超音波受信器
10 横波透過強度検出部
11 凝固完了位置到達検出部
12 縦波伝播時間検出部
13 凝固完了位置演算部
14 溶鋼湯面
31 磁石
32 縦波用コイル
33 横波用コイル
34 磁力線
35 渦電流
36 渦電流
37 縦波超音波
38 横波超音波
101 鋳型
102 鋳片支持ロール
103 搬送用ロール
104 鋳片切断機
105 リニア型交流移動磁場発生装置
106 スプレーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳片に対して横波超音波を送信し且つ送信した横波超音波を受信する横波超音波センサーと、該横波超音波センサーの配置位置と連続鋳造機の同一位置または鋳造方向に離れた鋳片幅方向の同一位置に設置された、連続鋳造鋳片に対して縦波超音波を送信し且つ送信した縦波超音波を受信する縦波超音波センサーと、該縦波超音波センサーで受信した受信信号に基づき計算式を用いて鋳片の凝固完了位置を求める凝固完了位置演算部と、を備え、前記横波超音波センサーの受信信号の強度の変化によって横波超音波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、前記計算式により算出される凝固完了位置が横波超音波センサーの配置位置と合致するように、前記計算式が校正される凝固完了位置検知装置を用いて、連続鋳造鋳片の鋳片幅方向の凝固完了位置を検出し、検出された最短凝固完了位置と検出された最長凝固完了位置との差が予め設定されている基準範囲内となるように、鋳型内の溶鋼流動を調整するか、または二次冷却の幅切り量を調整するか、少なくとも何れかの一方を実施することを特徴とする、連続鋳造鋳片の製造方法。
【請求項2】
連続鋳造鋳片に対して横波超音波を送信し且つ送信した横波超音波を受信する第1の横波超音波センサーと、第1の横波超音波センサーの配置位置と連続鋳造機の同一位置または鋳造方向に離れた鋳片幅方向の同一位置に設置された、連続鋳造鋳片に対して縦波超音波を送信し且つ送信した縦波超音波を受信する縦波超音波センサーと、第1の横波超音波センサーの鋳造方向下流側の鋳片幅方向の同一位置に設置された、連続鋳造鋳片に対して横波超音波を送信し且つ送信した横波超音波を受信する第2の横波超音波センサーと、前記縦波超音波センサーで受信した受信信号に基づき計算式を用いて鋳片の凝固完了位置を求める凝固完了位置演算部と、を備え、第1の横波超音波センサーの受信信号の強度の変化によって第1の横波超音波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、前記計算式により算出される凝固完了位置が第1の横波超音波センサーの配置位置と合致するように、前記計算式が校正されるとともに、第2の横波超音波センサーの受信信号の強度の変化によって第2の横波超音波センサーの配置位置と鋳片の凝固完了位置とが一致したことが確認された時点において、前記計算式により算出される凝固完了位置が第2の横波超音波センサーの配置位置と合致するように前記計算式が更に校正される凝固完了位置検知装置を用いて、連続鋳造鋳片の鋳片幅方向の凝固完了位置を検出し、検出された最短凝固完了位置と検出された最長凝固完了位置との差が予め設定されている基準範囲内となるように、鋳型内の溶鋼流動を調整するか、または二次冷却の幅切り量を調整するか、少なくとも何れかの一方を実施することを特徴とする、連続鋳造鋳片の製造方法。
【請求項3】
前記最短凝固完了位置と最長凝固完了位置との差を、2m以内とすることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の連続鋳造鋳片の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−198644(P2006−198644A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11582(P2005−11582)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】