説明

進歩したガスタービンエンジン用Ni−Cr−Co合金

【課題】3つの重要な特性の組合わせを有するニッケル・クロム・コバルト系合金の提供。
【解決手段】重量で、Cr17〜22%、Co8〜15%、Mo4.0〜9.5%、W0〜7%、Al1.28〜1.65%、Ti1.50〜2.30%、Nb0〜0.80%、炭素0.01〜0.2%、硼素0〜0.01%、および鉄0〜3%を含み、残部がニッケルと不純物である鍛錬された時効硬化可能なニッケル・クロム・コバルト系合金。この合金は、3つの重要な特性(耐歪み時効割れ性、優れた熱的安定性、優れたクリープ破断強度)の組合わせを有し、高温ガスタービン移行ダクトでの使用に適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上昇温度で使用される鍛錬可能な高強度合金に関するものである。具体的に云えば、本発明は、ガスタービン移行ダクト、および、その他のガスタービン構成部材として作製し、かつ、使用する上で十分なクリープ強度、熱的安定性および耐歪み時効割れ性を有する合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高い作動効率に対する要求を満たすために、ガスタービンエンジン設計者は、より高い作動温度を用いたいのが実情である。しかし、作動温度を上げようとしても、多くの場合、材料特性によって制限を受ける。このような制限のある1つの用途がガスタービン移行ダクトである。移行ダクトは、多くの場合、シートまたは薄板材料製の溶接された構成部材であり、鍛錬可能であるのみならず、溶接できるものでなければならない。多くの場合、移行ダクトでは、高温で高強度を有する故に、ガンマ・プライム強化合金が使用される。しかし、現在市販されている鍛錬されたガンマ・プライム強化合金は、進歩したガスタービンの設計思想が要求する非常な高温で使用するための強度と安定性を有していないか、または、製造中に種々の困難な問題が生じる惧れがある。具体的に云えば、このような製造の際の1つの困難な問題は、多くの鍛錬ガンマ・プライム強化合金が歪み時効割れを起こし易い点である。歪み時効割れの問題については、本明細書で、以下に詳細を述べる。
【0003】
鍛錬ガンマ・プライム強化合金は、多くの場合、ニッケル・クロム・コバルト系であるが、他の合金系も使用される。これらの合金は、通常、ガンマ・プライム相、Ni(Al,Ti)の形成を行うアルミニウムおよびチタン添加物を含む。ニオブおよび/またはチタンのようなその他のガンマ・プライム形成元素も使用できる。ガンマ・プライム相を合金マイクロ組織にするには、時効硬化熱処理が行なわれる。この熱処理は、通常、合金を焼鈍する際に行われる。ガンマ・プライム相が存在すると、広い温度範囲で合金がかなり強化される。その他の添加元素としては、固溶強化のためのモリブデンまたはタングステン、炭化物形成のための炭素、および高温における延性を改善するための硼素等がある。
【0004】
歪み時効割れは、多くのガンマ・プライム強化合金の溶接性を制限する問題である。この現象は、通常、溶接作業の後で溶接した部品を最初に高温に加熱した時に発生する。多くの場合、この現象は、大部分の溶接したガンマ・プライム合金製造の際に行われる溶接後の焼鈍処理の際に起こる。割れは、焼鈍温度に加熱中のガンマ・プライム相の形成により発生する。溶接作業時に通常施される機械的拘束は勿論のこと、これらの合金の多くが中間温度で有する低い延性に関連する強化ガンマ・プライム相の形成は、多くの場合、割れにつながる。材料の厚さを大きくすると機械的拘束が大きくなるため、歪み時効割れの問題は、合金の使用を或る厚さまでに制限することになる。
【0005】
歪み時効割れに対する合金の強度を評価するために、過去に、いくつかの種類の試験が開発されている。これらの試験としては、円形パッチ試験、拘束プレート試験および種々の動的熱機械試験等がある。歪み時効割れに対する合金の強度を評価するために使用できる1つの試験は、1960年代に開発された制御加熱速度引張(CHRT)試験がある。Haynes International社での最近の試験により、CHRT試験が、いくつかの市販合金の歪み時効割れに対する強度を現場での経験と一致する順序で首尾よくランク付けすることが分かった。CHRT試験の場合には、シート形態の引張りサンプルが一定の速度で低温から試験温度に加熱される(Haynes International社で行った試験の際には、温度を1分間に13.8℃〜16.7℃(25°F〜30°F)上げた)。試験温度になったら、一定の工学的歪み速度で、破断するまでサンプルが引っ張られる。サンプルの試験は、焼鈍した(時効硬化していない)状態で始めるので、溶接した構成部材を溶接後熱処理した場合のように、加熱段階中にガンマ・プライム相が析出する。試験サンプル内の破断するまでの伸び率を歪み時効割れに対する強度の尺度とする(伸びの低い値は、歪み時効割れに対する強度がより高いことを示唆する)。CHRT試験の際の伸びは、試験温度の関数であり、通常、特定の温度で最低になる。これが起きる温度は、多くの鍛錬されたガンマ・プライム強化合金の場合、約816℃(約1500°F)である。
【0006】
進歩したガスタービンの設計思想が要求する高温における優れた強度と熱的安定性は、現在の多くの市販鍛錬ガンマ・プライム強化合金が有しない2つの特性である。高温時の強度は、長い間クリープ破断試験により評価されてきた。この試験の場合には、サンプルが破断するまでサンプルに等温状態で一定の負荷がかけられる。次に、破断までの時間、すなわち破断寿命が、その温度における合金強度の基準として使用される。熱的安定性は、合金のマイクロ組織が、熱を受けている間中、比較的影響を受けない状態のままであるか否かという尺度である。多くの高温合金は、熱を受けている間、脆い金属間相または炭化物相を形成することがある。これらの相が存在すると、材料の室温での延性を劇的に低下させる場合がある。このような延性の低下は、標準引張試験により効果的に測定できる。
【0007】
多くの鍛錬ガンマ・プライム強化合金は、現在市場でシート形態で入手することができる。Rene−41またはR−41合金(米国特許第2945758号)は、タービン・エンジンで使用するために1950年代にGeneral Electric社が開発した。この合金は優れたクリープ強度を有するが、熱的安定性および耐歪み時効割れ性が低い。類似のGeneral Electric社の合金、M−252合金(米国特許第2747993号)も1950年代に開発されたものである。現在は棒材形態でしか入手できないが、その組成のために容易にシート状にすることができる。M−252合金は、優れたクリープ強度および耐歪み時効割れ性を有するが、R−41合金のように熱的安定性が低い。WASPALOY合金(明らかに、米国特許により保護されていない)という商品名のPratt & Whitney社が開発した合金は、タービン・エンジンで使用するための、シート形態で入手できる別のガンマ・プライム強化合金である。しかし、この合金は、約816℃(約1500°F)を超える温度で下限に近いクリープ強度を有し、下限に近い熱的安定性を有し、かなり低い耐歪み時効割れ性を有する。263合金という商品名の合金(米国特許第3222165号)は、1950年代後半に開発され、Rolls−Royce社により1960年に市販された。この合金は、優れた熱的安定性と耐歪み時効割れ性を有していたが、約816℃(約1500°F)を超える温度でのクリープ強度は非常に低い。PK−33合金(米国特許第3248213号)は、International Nickel社が開発したもので、1961年に市販された。この合金は優れた熱的安定性およびクリープ強度を有していたが、耐歪み時効割れ性は低かった。これらの例が示唆しているように、現在市販されている合金の中には、3つの重要な特性、すなわち、温度範囲871〜927℃(1600〜1700°F)での優れたクリープ強度、優れた熱的安定性、および、優れた耐歪み時効割れ性というユニークな組合わせを有するものはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主目的は、特別な3つの重要特性、すなわち、耐歪み時効割れ性、優れた熱的安定性、および、優れたクリープ破断強度の組合わせを有する高温ガスタービン移行ダクト、および、その他のガスタービン構成部材での使用に適する新しい鍛錬された時効硬化性ニッケル・クロム・コバルト系合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、或る範囲のクロムとコバルト、或る範囲のモリブデンおよび可能な限りタングステン、および或る範囲のアルミニウム、チタンおよび可能な限りニオブを含み、残部としてのニッケルと各種の少量元素および不純物である合金により達成できることが分かった。
【0010】
具体的に云えば、好適範囲は、重量%で、クロム:17〜22%、コバルト:8〜15%、モリブデン:4.0〜9.5%、タングステン:0〜7.0%、アルミニウム:1.28〜1.65%、チタン:1.50〜2.30%、ニオブ:0〜0.80%、鉄:0〜3%、炭素:0.01〜0.2%、硼素0〜0.015%、および残部としてのニッケルと不純物である。
【実施例】
【0011】
本明細書に記載する鍛錬された時効硬化性ニッケル・クロム・コバルト系合金は、ガスタービン移行ダクト、および、その他の製品の形態、および、その他の要求の厳しいガスタービン用途で、シート形態または板材形態で使用する上で、十分なクリープ強度、熱的安定性および耐歪み時効割れ性を有する。この重要特性の組合わせは、それぞれが或る機能を有するいくつかの重要元素を制御することによって達成される。アルミニウム、チタンおよびニオブ等のガンマ・プライム形成元素の存在は、時効硬化プロセス中のガンマ・プライム相の形成によって、クリープ破断強度に著しく貢献する。しかし、アルミニウム、チタンおよびニオブの総量は、耐歪み時効割れ性を優れたものにできるように注意深く制御しなければならない。モリブデンおよびできればタングステンは、固溶強化によってクリープ破断強度をさらに高めるために添加される。しかし、この場合も、合金の十分な熱的安定性が確実に得られるように、モリブデンおよびタングステン両方の全濃度を注意深く制御しなければならない。
【0012】
次世代のガスタービン移行ダクトの予測要件に基づいて、ガンマ・プライム強化合金は十分な潜在的能力を有する。さらに重要な特性のうちの3つは、クリープ強度、溶接性(すなわち、耐歪み時効割れ性)および熱的安定性である。しかし、これら3つの特性すべてに優れているガンマ・プライム強化合金を製造するのは容易でなく、市販合金はいずれもこれら3つの特性すべてを十分に有しないことが分かった。
【0013】
表1は、試験を行った26の試験用合金および5つの市販の合金の組成を示す。試験用合金はA−Zで表してある。市販合金は、HAYNES社のR−41合金、HAYNES社のWASPALOY合金、HAYNES社の263合金、M−252合金、およびNIMONIC社のPK−33合金である。これらの合金(試験合金および市販の合金を含む)は、クロム量17.5〜21.3重量%、およびコバルト量8.3〜19.6重量%を含んでいた。アルミニウム含有量は0.49〜1.89重量%であり、チタン含有量は1.53〜3.12重量%であり、ニオブ含有量は0〜0.79重量%であった。モリブデン含有量は3.2〜10.5重量%であり、タングステン含有量は0〜8.3重量%であった。意図的に加えた少量元素添加物である炭素および硼素の含有量は、それぞれ0.034〜0.163重量%、および0〜0.008重量%であった。鉄の含有量は0〜3.6重量%であった。
【0014】
合金のすべての試験は、厚さ1.19mm〜1.65mm(0.047インチ〜0.065インチ)のシート材料を用いて行った。試験用合金は、真空誘導により溶融し、次に、22.5Kg(50lb)の加熱サイズでエレクトロスラグ再溶融した。このようにして作ったインゴットを1177℃(2150°F)で浸漬し、開始温度1177℃(2150°F)で鍛造し、圧延した。高温圧延後のシートの厚さは、2.16mm(0.085インチ)であった。シートを1177℃(2150°F)で15分間焼鈍し、その後、水焼入れした。次に、シートを厚さ1.52mm(0.060インチ)に冷間圧延した。冷間圧延したシートを、ASTM粒子サイズ4〜5を有する完全に再結晶化した等軸粒組織を作るために、必要に応じて温度1121〜1191℃(2050〜2175°F)で焼鈍した。最後に、ガンマ・プライム相を形成するために、802℃(1475°F)で8時間、シート材料を時効硬化熱処理した。市販の合金、HAYNES社のR−41合金、HAYNES社のWASPALOY合金、HAYNES社の263合金、およびNIMONIC社のPK−33合金を、工場焼鈍状態でシートの形で入手した。市販のM−252合金シートは入手できなかったので、試験用合金のところで説明したのと同じ方法により評価するために22.5Kg(50lb)の熱を発生した。市販の合金5つすべてに、承認されている規格に従って焼鈍後時効硬化熱処理を行った。表2はこれらの熱処理を示す。
【0015】
上記の重要な3つの特性(耐歪み時効割れ性、熱的安定性およびクリープ強度)を評価するために、各合金に対して3つの異なる試験を行った。最初の試験は、制御加熱速度引張試験(CHRT)であった。表3は、このCHRT試験の結果を示す。この試験の重要な特性は、破断までの伸びの測定により測定した引張延性である。この試験において、より大きな延性を有する合金は、より大きな耐歪み時効割れ性を有するものと予想される。この研究の目的は、4.5%以上の延性を有することであった。試験用合金のうち、合金Wだけがこの要件に適合しなかった。市販の合金の場合には、M−252合金および263合金が要件に適合したが、PK−33合金、WASPALOY合金、およびR−41合金は適合しなかった。CHRT試験中の所与の合金の性能は、下式(元素の組成が重量%で表してある)により、合金のガンマ・プライム形成元素の量と相互に関連づけることができることが分かった。
Al+0.56Ti+0.29Nb<2.9 (1)
【0016】
表1は、この研究中のすべての合金に対する式(1)の左辺の値を示す。CHRT試験に合格したすべての合金が、式(1)を満足することが分かった。さらに、式(1)を満足しないすべての合金は、CHRT試験要件に合格しなかった。すなわち、これらの合金は、4.5%よりも小さい約816℃(約1500°F)でのCHRT延性を有することが分かった。図1は、この関係をもっとはっきり示す。図1においては、約816℃(約1500°F)でのCHRT延性が、研究中のすべての合金に対する式(1)の左辺の値に対して描かれている。すべての試験は焼鈍状態のサンプルに対して行った。引張延性(破断までの伸び率で測定した)は、組成変数Al+0.56Ti+0.29Nbの関数(元素の組成が重量%で表してある)として描かれている。この図には、4.5%の引張延性に対応する1本の線が引かれている。この線から上のすべての合金(黒丸がついている)は、制御加熱速度引張試験に合格したものと見なされ、線より下の合金(×がついている)はこの試験に合格しなかったものと見なされた。垂直な点線が組成変数Al+0.56Ti+0.29Nbに対して2.9重量%の値のところに引かれている。2.9を超える値を有するすべての合金は、この制御加熱速度引張試験に合格しないことが分かった。
【表1】


【表2】


【表3】

【0017】
合金の熱的安定性を評価するために、長時間加熱した後でその室温での引張延性を測定した。表2に示す時効硬化熱処理を行った後で、すべての試験用合金および市販の合金からのサンプルを871℃(1600°F)/1000時間/空冷処理を行った。加熱したサンプルに対して室温引張試験を行った。表4はその結果を示す。延性が20%より大きい場合には合格と見なした。このガイドラインにより、市販の合金M−252合金、WASPALOY合金およびR−41合金と一緒に、試験用合金U、V、XおよびZが試験に合格しなかったことが分かった。熱的に安定な合金を開発するには、モリブデン元素およびタングステン元素の制御が重要であることが分かった。下記の関係が分かった(ここで、元素の組成は重量%で表してある)。
Mo+0.52W<9.5 (2)
【0018】
表1は、この研究のすべての合金に対する式(2)の左辺の値を示す。式(2)を満足しなかったすべての合金は、十分な熱的安定性を有していないことがわかった。すなわち、871℃(1600°F)での1000時間加熱後のその室温での引張延性は20%未満であることが分かった。1つの合金(WASPALOY合金)が、式(2)を満足するが、熱的安定性は低いことが分かった。しかし、この合金は式(1)を満足させない。それ故、目標とする用途には適していない。この例から、このクラスの合金を熱に対して確実に安定にするためには、モリブデンおよびタングステンのみならず、アルミニウム、チタンおよびニオブの量を制御しなければならないことは明らかである。研究のすべての合金に対する式(2)の左辺の値に対して加熱したサンプルの延性が描かれている図2を考慮した場合、式(2)の有用性は非常にはっきり分かる。Al+0.56Ti+0.29Nb<2.9(元素の組成を重量%である)の関係を満足させる合金だけがグラフに表示されている。すべての試験は、時効硬化熱処理を行い、その後で871℃(1600°F)で1000時間加熱されたサンプルに対して行われた。グラフにおいて、引張延性(破断までの伸び率として測定した)は、組成変数Mo+0.52W(元素の組成を重量%で表している)の関数として描かれている。この図には、20%の引張延性に対応する1本の線が引かれている。この線から上のすべての合金(黒丸がついている)は、熱的安定性試験に合格したものと見なされ、線より下の合金(×印がついている)は、この試験に合格しなかったものと見なされた。組成変数Mo+0.52Wに対する9.5重量%の値のところには点線の垂直線が引かれている。9.5よりも大きい値を有するすべての合金は、熱的安定性試験に合格しなかったことが分かっている。
【表4】

【0019】
目標用途に対する第3の重要な特性はクリープ強度である。合金のクリープ破断強度を、48.23MPa(7ksi)の負荷をかけて927℃(1700°F)で測定した。確立された目標は300時間より長い破断寿命であった。表5は試験用合金および市販の合金の結果を示す。すべての試験用合金が、合金V、YおよびZを除いて合格したことが分かった。市販の合金は、263合金およびWASPALOY合金を除いてすべて合格した。クリープ破断目標に達しなかった全部で5つの合金のうち、3つの合金(合金VおよびZおよびWASPALOY合金)は、式(1)、式(2)の一方または両方を満足できなかったし、熱的に不安定であった。熱的に不安定であることは、クリープ強度に悪影響を与える場合がある。クリープ強度目標に達しなかった他の2つの合金(合金Yおよび263合金)の両方は、固溶強化元素であるモリブデンおよびタングステンの全含有量が比較的少なかった。さらに、263合金のガンマ・プライム形成元素であるアルミニウム、チタンおよびニオブの全含有量も少なかった。固溶強化元素およびガンマ・プライム形成元素の両方のレベルを確実に適当なものにするために、式(1)および(2)(元素組成を重量%で表している)は、下式のようにそれぞれ修正した。
2.2<Al+0.56Ti+0.29Nb<2.9 (3)
および
6.5<Mo+0.52W<9.5 (4)
【0020】
この研究中に試験した全部で31の試験用合金および市販の合金のうち、20の合金がすべての3つの重要な特性試験、すなわち、CHRT試験、加熱試験およびクリープ破断試験に合格したことが分かった。試験に合格した合金のすべての20の合金(試験用合金A〜T)が、式(3)、(4)の両方を満足させる組成を有していた。不合格と見なされた11の合金(試験用合金U〜Zおよび全部で5つの市販の合金を含む)は、式(3)、(4)の一方または両方を満足させることができなかった組成を有していた。表1から、合格した合金は、重量で、クロム:17.5〜21.3%、コバルト:8.3〜14.2%、モリブデン:4.3〜9.3%、タングステン:0〜7.0%、アルミニウム:1.29〜1.63%、チタン:1.59〜2.28%、ニオブ:0〜0.79%、炭素:0.034〜0.097%、硼素:0.002〜0.007%、および鉄:0〜2.6%を含むことが分かる。以下に説明する理由により、下記の範囲内(数字はいずれも重量%)でこれらの元素を含んでいて、式(3)、(4)を満足する合金は所望の特性を有する。クロム:17〜22%、コバルト:8〜15%、モリブデン:4.0〜9.5%、タングステン:0〜7.0%、アルミニウム:1.28〜1.65%、チタン:1.50〜2.30%、ニオブ:0〜0.80%、炭素:0.01〜0.2%および硼素:0〜0.015%、残部としてのニッケルおよび不純物である。また、合金は、重量で、タンタル:0〜1.5%、マンガン:0〜1.5%、シリコン:0〜0.5%、およびマグネシウム、カルシウム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウムおよびランタンのうちの1種または複数を含むことができる。これら7つの各元素は0〜0.05重量%の範囲内で存在することができる。使用できる合金は、Al+0.56Ti+0.29Nbに対して2.35〜2.84の或る範囲の値、Mo+0.52Wに対して7.1〜9.3の或る範囲を含んでいた。
【表5】

【0021】
高温環境で使用する合金がクロム(Cr)を含んでいると、必要な耐酸化性および耐高温腐食性を有することができる。一般に、Cr含有量を多くすると、耐酸化性は大きくなるが、Crの含有量が多すぎると合金の熱的安定性が劣化する。本発明の合金の場合には、クロムの含有量は約17〜22重量%にするとよいことが分かった。
【0022】
コバルト(Co)は多くの鍛錬ガンマ・プライム強化合金に共通に含まれている元素である。コバルトは低温におけるニッケル中のアルミニウムおよびチタンの可溶性を減らし、アルミニウムおよびチタンの所定レベルに対するガンマ・プライム含有量を増大できる。本発明合金の場合には、Coのレベルを約8〜15重量%にしても大丈夫であることが分かった。
【0023】
すでに説明したように、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)およびニオブ(Nb)は、時効硬化熱処理の際に強化ガンマ・プライム相を形成することにより、本発明の合金のクリープ強度を改善する。これらの元素の総量は上式(3)により制限される。個々の元素については、Alは1.28〜1.65重量%の範囲で存在することができ、Tiは1.50〜2.30重量%の範囲で存在することができ、Nbは0〜0.80重量%の範囲で存在できることが分かった。
【0024】
すでに説明したように、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)は、固溶体の強化により本発明の合金のクリープ破断強度を改善する。これらの元素の総量は上記の式(4)により制限される。個々の元素の場合には、Moは4.0〜9.5重量%の範囲で存在することができ、Wは0〜約7.0重量%の範囲で存在できることが分かった。
【0025】
炭素(C)は必要な成分であり、炭化物を形成することにより本発明の合金のクリープ強度を改善する。炭化物は、また、粒子サイズを正しく制御するために必要なものである。炭素は約0.01〜0.2重量%で存在できる。
【0026】
鉄(Fe)は必要ではないが、通常存在する。Feが存在すると、その大部分がFeの残量を含んでいる戻り材料(revert material)を経済的に使用することができる。許容できるFeを含んでいない合金は、新しい炉のライニングおよび高い純度の充填材料を使用することができる。提示のデータは、少なくとも約3重量%まで量を増大しても大丈夫であることを示している。
【0027】
通常は、高温における延性を改善するために、少量の硼素(B)が鍛錬ガンマ・プライム強化合金に添加される。過度の硼素を追加すると、溶接に問題が起こる恐れがある。好適な範囲は0〜約0.015重量%である。
【0028】
タンタル(Ta)は、このクラスの合金のガンマ・プライム形成元素である。0〜約1.5重量%のレベルで、アルミニウム、チタンまたはニオブの一部の代わりにタンタルを使用することができるものと予想される。
【0029】
硫黄不純物の存在による問題の制御を助けるために、多くの場合、マンガン(Mn)がニッケル系合金に添加される。Mnは少なくとも1.5重量%まで本発明の合金に添加できると考えられる。
【0030】
シリコン(Si)は不純物として存在することができ、場合により耐環境性を改善するために意図的に添加される。Siは、少なくとも0.5重量%まで本発明の合金に添加することができると考えられる。
【0031】
銅(Cu)は、戻り材料を使用したためまたは合金自身を溶融および処理した結果の不純物として存在する場合がある。Cuは少なくとも0.5重量%まで含むことができると考えられる。
【0032】
ニッケル系合金の一次溶融中に、多くの場合、マグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)が使用される。これらの元素は、本発明の合金中に0〜約0.05重量%存在できると考えられる。
【0033】
多くの場合、耐環境性を改善するために、少量のいくつかの元素がニッケル系合金に添加される。これらの元素としては、ランタン(La)、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)等があるが、必ずしもこれらに限定されない。これらの各元素は、本発明合金中に0〜約0.05重量%存在できると考えられる。
【0034】
試験したサンプルは鍛錬シートだけであったが、他の形(プレート、バー、チューブ、パイプ、鍛造品、およびワイヤのような)の鍛錬形態、および鋳造合金、スプレー形成した合金、または粉末冶金形態、すなわち粉末、突き固めた粉末および焼結し突き固めた粉末の場合でも同じような特性を有するものと考えられる。したがって、本発明は、すべての形の合金組成を含む。
【0035】
この合金が有する優れた熱的安定性、耐歪み時効割れ性、および優れたクリープ破断強度の総合特性により、本発明の合金はガスタービンエンジン構成部材の製造に有用であり、特にこれらのエンジンの移行ダクト用に有用である。このような構成部材およびこれら構成部材を含むエンジンは、高温で故障を起こさないで動作することができ、現在入手することができるこれら構成部材およびエンジンよりも耐用年数が長い。
【0036】
本発明合金のいくつかの好適例について説明したが、本発明はこれらに限定されるわけではなく、特許請求の範囲の記載から逸脱することなしに、種々に実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】約816℃(約1500°F)での制御加熱速度引張試験での研究対象である鍛錬された時効硬化性ニッケル・クロム・コバルト系合金の延性を示すグラフ。
【図2】室温での標準引張試験での研究対象である鍛錬された時効硬化性ニッケル・クロム・コバルト系合金の延性を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
クロム:17〜22%、
コバルト:8〜15%、
モリブデン:4.0〜9.5%、
タングステン:最高7.0%、
アルミニウム:1.28〜1.65%、
チタン:1.50〜2.30%、
ニオブ:最高0.80%、
炭素:0.01〜0.2%、
硼素:最高0.015%、
残部としてのニッケルおよび不純物から成る組成を有し、重量%による元素量で定義される以下の組成関係:
2.2<Al+0.56Ti+0.29Nb<2.9
6.5<Mo+0.52W<9.5
を満足するニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項2】
最高3重量%の鉄を更に含む請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項3】
タンタル:最高1.5重量%、マンガン:最高1.5重量%、シリコン:最高0.5重量%、および銅:最高0.5重量%のうちの少なくとも1種を更に含む請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項4】
マグネシウム、カルシウム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウムおよびランタンから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含み、存在する前記各元素の量が、前記合金の最高0.5重量%である請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項5】
前記合金が、シート、板、棒、ワイヤ、チューブ、パイプ、および鍛造品から成る群から選択された鍛錬形態である請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項6】
前記合金が、鋳造合金である請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項7】
前記合金が、スプレーにより形成された合金である請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項8】
前記合金が、粉末冶金形態の合金である請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項9】
前記合金が、ガスタービンエンジンの構成部材として形成される請求項1に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項10】
重量%で、
クロム:17.5〜21.3%、
コバルト:8.3〜14.2%、
モリブデン:4.3〜9.3%、
タングステン:最高7.0%、
アルミニウム:1.29〜1.63%、
チタン:1.59〜2.28%、
ニオブ:最高0.79%、
炭素:0.034〜0.097%、
硼素:0.002〜0.007%、
鉄:最高2.6%、
残部としてのニッケルおよび不純物から成る組成を有し、重量%による元素量で定義される以下の組成関係:
2.35<Al+0.56Ti+0.29Nb<2.84
7.1<Mo+0.52W<9.3
を満足する、ガスタービン移行ダクトでの使用に適するニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項11】
タンタル:最高1.5重量%、マンガン:最高1.5重量%、シリコン:最高0.5重量%、および銅:最高0.5重量%のうちの少なくとも1種を更に含む請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項12】
マグネシウム、カルシウム、ハフニウム、ジルコニウム、イットリウム、セリウムおよびランタン成る群から選択される少なくとも1つの元素を更に含み、前記各元素の量が前記合金の0〜0.05重量%である請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項13】
前記合金が、シート、板、棒、ワイヤ、チューブ、パイプ、および鍛造品から成る群から選択される鍛錬形態である請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項14】
前記合金が、鋳造合金である請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項15】
前記合金が、スプレーにより形成された合金である請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項16】
前記合金が粉末冶金形態の合金である請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項17】
前記合金が、ガスタービンエンジンの構成部材として形成される請求項10に記載されたニッケル・クロム・コバルト系合金。
【請求項18】
複数の金属構成部材を有する形式の改良形ガスタービンエンジンであって、前記改良が実質的に以下の重量%の元素から成る前記金属構成部材のうちの少なくとも1つを含み、
クロム:17〜22%、
コバルト:8〜15%、
モリブデン:4.0〜9.5%、
タングステン:最高7.0%、
アルミニウム:1.28〜1.65%、
チタン:1.50〜2.30%、
ニオブ:最高0.80%、
炭素:0.01〜0.2%、
硼素:最高0.015%、
残部がニッケルおよび不純物であり、前記合金が、さらに、重量%による元素量で定義される下記の組成関係:
2.2<Al+0.56Ti+0.29Nb<2.9
6.5<Mo+0.52W<9.5
を満足する改良形ガスタービンエンジン。
【請求項19】
前記金属構成部材のうちの前記少なくとも1つが、移行ダクトである改良形ガスタービンエンジン。
【請求項20】
前記金属構成部材のうちの少なくとも1つが実質的に以下の元素から成り、
クロム:17.5〜21.3%、
コバルト:8.3〜14.2%、
モリブデン:4.3〜9.3%、
タングステン:最高7.0%、
アルミニウム:1.29〜1.63%、
チタン:1.59〜2.28%、
ニオブ:最高0.79%、
炭素:0.034〜0.097%、
硼素:0.002〜0.007%、
鉄:2.6%、
残部がニッケルと不純物であり、前記合金が、さらに、重量%による元素量で定義される以下の組成関係:
2.35<Al+0.56Ti+0.29Nb<2.84
7.1<Mo+0.52W<9.3
を満足する請求項18に記載された改良形ガスタービンエンジン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−70360(P2006−70360A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−206381(P2005−206381)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(595104529)ヘインズ インターナショナル,インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】