説明

運動強度規定装置、脂肪燃焼率算出システムおよび運動器具

【課題】効果的に体脂肪を燃焼させるために被験者に対して負荷すべき運動強度を規定し得る運動強度規定装置、脂肪燃焼率算出システムおよび運動器具を提供する。
【解決手段】被験者の呼気中のアセトン濃度を検出するアセトン濃度検出部2と、少なくとも上記アセトン濃度が上昇し始める時点において、上記被験者に対して加えられている運動強度を算出する運動強度算出部3と、
運動強度算出部3によって算出された、アセトン濃度が上昇し始める時点における運動強度をV(%)とした場合、V−20(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度を、被験者に対して加える最適運動強度として規定する最適運動強度規定部4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、効果的に体脂肪を燃焼させるために被験者に対して負荷すべき運動強度を規定し得る運動強度規定装置、脂肪燃焼率算出システムおよび運動器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、呼気の成分を測定することによって、体脂肪の燃焼率が測定されている。更に具体的には、単位時間に消費される酸素量と、単位時間あたりに排出される二酸化炭素量とによって規定される呼吸商(RQ)に基づいて、体脂肪の燃焼率が測定されている。このとき、呼吸商は、下記式にて算出することが可能である。つまり、
呼吸商(RQ)=(単位時間あたりの二酸化炭素排出量)/(単位時間あたりの酸素消費量)
にて、呼吸商を算出することが可能である。
【0003】
酸素は肺胞から血中へ取り込まれ、その後、体内の細胞に分配される。それ故、呼気(換言すれば、体外へ排出される気体)の酸素濃度は、吸気の酸素濃度よりも低くなる。当該濃度差と一回の換気量との積が、血中へ取り込まれた酸素の量であり、通常では、この値が体細胞へ供給された酸素の量と考えられる。勿論一回の呼吸によって血中へ取り込まれた酸素の量を、そのときの体全体の細胞における酸素消費量と規定するのではなく、数分程の計測によって得られた値を酸素消費量として規定するのが一般的であるといえる。なお、二酸化炭素排出量についても、酸素と同様に考えることが可能である。そして、これらの酸素消費量と二酸化炭素排出量とに基づいて、呼吸商を算出することができる。
【0004】
呼吸商の値は、消費されたエネルギー源の種類を反映する。エネルギー源となり得る三大栄養素としては、糖、脂質およびタンパク質を挙げることが可能であり、それぞれ、炭素原子、酸素原子および水素原子などの構成原子の比率が異なっている。そのため、呼吸の際に分解される栄養素の種類に応じて、消費される酸素と産生される二酸化炭素との割合が異なる。
【0005】
体細胞全体にて特定の栄養素(糖質、脂質、またはタンパク質)が分解されているとき、当該栄養素の分解反応と呼吸商とに関して、以下のような式が提唱されている。
・糖質 :C12+6O→6CO+6H
(RQ=1.00)
・脂質 :2C57110+163O→114CO+110H
(RQ=0.71)
・タンパク質:2C13N+15O→12CO+10HO+2NH
(RQ=0.85)
糖質の場合には、グルコースを代表的な糖質として考える。グルコースを構成する各原子の数は、炭素原子6個、水素原子12個、酸素原子6個である。糖質には酸素原子が多く含まれており、少ない酸素消費量にて分解され得る。呼吸商は1.00であって、三大栄養素中で最大の値になる。また、糖質は酸素の含有量が高いため、重量あたりの熱量は4.1kcal/gとなり、三大栄養素中で最小の値になる。
【0006】
脂質の場合には、脂質を構成している脂肪酸に含まれる酸素原子が非常に少ない。それ故に、脂質の分解には多くの酸素を必要とする一方で、酸素消費量の割には二酸化炭素の産生量が少なくなる。その結果、呼吸商は0.71であって、三大栄養素中で最も小さな値になる。また、脂質は酸素の含有量が低いため、重量あたりの熱量は9.3kcal/gとなり、三大栄養素中で最も大きな値になる。エネルギーを体内に保存する場合には、脂質は最も適した栄養素であり、過食によって皮下に貯蔵され得る。
【0007】
タンパク質は糖質と脂質との中間的な特性を有し、呼吸商は0.85であり、重量あたりの熱量は5.3kcal/gである。しかしながら、通常の状態では、タンパク質は呼吸基質として利用されない。
【0008】
従来の呼吸商を利用した体脂肪の燃焼率の測定では、エアバッグを使用して呼気を採取するとともに、高額な呼吸分析装置を用いて、排出される二酸化炭素の量および酸素消費量を測定することにより体脂肪の燃焼量を測定していた。しかしながら、上述したように、呼吸によって分解される栄養素の種類を規定しないと、呼吸商の値の意味付け(換言すれば、本当に体脂肪が燃焼しているか否か判定すること)が困難であり、より直接的に体脂肪の燃焼量を測定する必要があった。
【0009】
当該要求に応えるべく、呼気中のアセトン濃度を検出することによって体脂肪の燃焼率を測定する装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。当該特許文献1に記載の装置では、体内の遊離脂肪酸の燃焼過程で血中に放出されるアセトンが肺にて呼気中に拡散されることを利用して、体脂肪の燃焼率を測定している。なお、呼気中の特定のガス成分を分析するための装置が従来から公知であって、当該装置などを用いれば、呼気中のアセトン濃度を測定することが可能である(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−349888号公報(公開日:2001年12月21日)
【特許文献2】特開2004−77467号公報(公開日:2004年3月11日)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Applied Physiology, 2005 Jul;99(1):349-56.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来の体脂肪燃焼率測定装置では、効果的に体脂肪を燃焼させるために被験者に対して負荷すべき運動強度を規定することができないという問題点を有している。
【0013】
例えば、特許文献1に記載の技術は、呼気中のアセトン濃度が高くなるほど体脂肪の燃焼が進むとの仮説に基づいた技術である。それ故、当該技術に基づけば、効果的に体脂肪を燃焼させるために、被験者に対して、できるだけ強い運動強度を負荷することになる。しかしながら、本発明者らが今回見出したように、運動強度を強くすればするほど体脂肪の燃焼率が増加する訳ではない。
【0014】
また、非特許文献1には脂肪の燃焼を促進するために運動負荷を増やしても効果が無いことが記載されている。従来から、最大心拍数の60〜70%の運動負荷を被験者に対して負荷すれば脂肪の燃焼を促進することができると言われているが、当該説には何の根拠もない。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、効果的に体脂肪を燃焼させるために被験者に対して負荷すべき運動強度を規定し得る運動強度規定装置、脂肪燃焼率算出システムおよび運動器具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、1)呼気のアセトン濃度は運動強度が閾値を越えてから上昇し始め、このとき脂肪燃焼率も上昇すること、2)アセトン濃度が上昇し始めた時点で被験者に対して負荷されている運動強度よりも約5%運動強度(特に、一般人)〜30%運動強度(特に、運動選手)だけ強い運動強度を負荷した場合に、被験者における脂肪燃焼率が最大になること、3)被験者に対して負荷する運動強度を更に高めると、アセトン濃度は上昇するが、脂肪燃焼率は下降すること、4)単純にアセトン濃度をモニタリングしたとしても、最大の脂肪燃焼率を実現するための運動強度を規定することは不可能であることを見出し本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明の運動強度規定装置は、上記課題を解決するために、被験者の呼気中のアセトン濃度を検出するアセトン濃度検出手段と、少なくとも上記アセトン濃度が上昇し始める時点において、上記被験者に対して加えられている運動強度を算出する運動強度算出手段と、上記運動強度算出手段によって算出された、上記アセトン濃度が上昇し始める時点における運動強度をV(%)とした場合、V−20(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度を、上記被験者に対して加える最適運動強度として規定する最適運動強度規定手段と、を備えることを特徴としている。
【0018】
上記構成によれば、呼気中のアセトン濃度が上昇し始める時点を特定することができ、脂肪燃焼率と相関関係がある当該時点において被験者に対して加えられている運動強度V(%)を算出することができる。
【0019】
この算出した運動強度V(%)に基づいて、最適運動強度規定手段によって設定されるV−20(%)〜V+40(%)の運動強度で運動することにより、安静時よりも高い脂肪燃焼率を実現することができる運動強度を効率よく設定することができる。
【0020】
本発明の運動強度規定装置では、上記最適運動強度規定手段は、V−6.5(%)〜V+30(%)の範囲にある運動強度を、上記被験者に対して加える最適運動強度として規定するものであることが好ましい。
【0021】
V−6.5(%)〜V+30(%)の範囲にある運動強度であれば、被験者が運動選手であるか否かに関わらず、凡そ最大脂肪燃焼率の1/2以上の脂肪燃焼率となる。したがって、上記構成によれば、より容易かつ確実に、凡そ最大脂肪燃焼率の1/2以上の脂肪燃焼率を実現することができる運動強度を選択することができる。
【0022】
本発明の運動強度規定装置は、上記被験者が運動選手か否かを判定する判定手段を備え、上記判定手段によって上記被験者が運動選手であると判断された場合には、上記最適運動強度規定手段によって、下記1)に記載の運動強度が上記最適運動強度として規定され、上記判定手段によって上記被験者が運動選手でないと判断された場合には、上記最適運動強度規定手段によって、下記2)に記載の運動強度が上記最適運動強度として規定されることが好ましい。つまり、
1)V−6.5(%)〜V+40(%)
2)V−20(%)〜V+30(%)。
【0023】
被験者が運動選手である場合には、V−6.5(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度を選択すれば、凡そ最大脂肪燃焼率の1/2以上の脂肪燃焼率となる運動強度を効率よく選択することができる。
【0024】
一方、被験者が運動選手でない場合には、V−20(%)〜V+30(%)の範囲にある運動強度を選択すれば、凡そ最大脂肪燃焼率の1/2以上の脂肪燃焼率となる運動強度を効率よく選択することができる。
【0025】
つまり、上記構成によれば、判定手段によって被験者が運動選手か否かが判定された後、当該判定結果に基づいて、最適運動強度規定手段によって被験者にとって最適な運動強度が選択される。つまり、上記構成によれば、被験者の運動経歴に基づいて、脂肪燃焼率が高い運動強度、換言すれば、最大脂肪燃焼率の凡そ1/2以上の脂肪燃焼率となる運動強度を効率よく選択することができる。
【0026】
本発明の運動強度規定装置では、上記運動強度算出手段は、下記(1)式、つまり、
運動強度(%)=酸素摂取量/(最大酸素摂取量−安静時酸素摂取量)×100
・・・・・・・・・(1)
に基づいて、上記被験者に対して加えられている運動強度を算出するものであることが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、被験者の酸素摂取量、最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量に基づいて運動強度が算出される。それ故、公知の構成等を用いて容易に運動強度を算出することができるとともに、最適運動強度を容易に規定することができる。
【0028】
本発明の運動強度規定装置では、上記運動強度算出手段は、下記(2)式、つまり、
運動強度(%)=(運動時心拍数−安静時心拍数)/(最大心拍数−安静時心拍数)×
100 ・・・・・・・・・(2)
に基づいて、上記被験者に対して加えられている運動強度を算出するものであることが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、被験者の運動時心拍数、安静時心拍数および最大心拍数に基づいて運動強度が算出される。それ故、公知の構成等を用いて容易に運動強度を算出することができるとともに、最適運動強度を容易に規定することができる。
【0030】
また、被験者の酸素摂取量に基づいて運動強度を算出する構成と比較した場合、被験者の運動時心拍数に基づいて運動強度を算出する構成は、運動強度規定装置を小さく設計することができる。
【0031】
本発明の脂肪燃焼率算出システムは、上記課題を解決するために、上記運動強度規定装置の何れかと、上記最適運動強度が上記被験者に対して加えられた場合の、当該被験者における脂肪燃焼率を算出する脂肪燃焼率算出手段と、を備えていることを特徴としている。
【0032】
上記構成によれば、運動強度規定装置によって、被験者の脂肪を効果的に燃焼し得る最適運動強度が規定される。そして、上記脂肪燃焼率算出手段では、当該最適運動強度が被験者に対して加えられた場合の脂肪燃焼率が算出されるので、効率よく脂肪を燃焼させた場合の脂肪燃焼率を算出することができる。
【0033】
本発明の脂肪燃焼率算出システムでは、上記脂肪燃焼率算出手段は、下記(3)式、つまり、
脂肪燃焼率(g/min)=最適運動強度負荷時における酸素摂取量(L/min)×酸素1Lあたりの熱量(kcal/L)×酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合(g/kcal)
・・・・・・・・・(3)
に基づいて脂肪燃焼率を算出するものであることが好ましい。
【0034】
上記構成によれば、最適運動強度負荷時における酸素摂取量、酸素1Lあたりの熱量、および、酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合、に基づいて脂肪燃焼率を算出することができる。それ故、公知の構成を用いて、容易に脂肪燃焼率を算出することができる。
【0035】
本発明の脂肪燃焼率算出システムは、下記(4)式、つまり、
脂肪燃焼履歴(g)=脂肪燃焼率(g/min)×最適運動強度負荷時間(min)
・・・・・・・・・(4)
に基づいて算出された脂肪燃焼履歴を記録する記録手段を備えることが好ましい。
【0036】
上記構成によれば、脂肪燃焼率および最適運動強度負荷時間に基づいて脂肪燃焼履歴が算出され、当該脂肪燃焼履歴が記録手段によって記録される。したがって、上記構成によれば、既に燃焼された脂肪の量、および/または、将来燃焼される脂肪の量を算出・記録することができる。
【0037】
本発明の脂肪燃焼率算出システムは、下記(5)式、つまり、
運動時間(min)=所望の脂肪量(g)/脂肪燃焼率(g/min)
・・・・・・・・・(5)
に基づいて、所望の脂肪量を燃焼させるために必要な運動時間を算出する運動時間算出手段を備えることが好ましい。
【0038】
上記構成によれば、運動時間算出手段によって、所望の脂肪量を燃焼させるために必要な運動時間、換言すれば、所望の脂肪量を燃焼させるために最適運動強度を被験者に対して負荷する時間を算出することができる。
【0039】
本発明の運動器具は、上記課題を解決するために、上記運動強度規定装置の何れか、または、上記脂肪燃焼率算出システムの何れかを備えていることを特徴としている。
【0040】
上記構成によれば、高い脂肪燃焼率を実現することができる運動強度条件下において運動を行うことができる。
【0041】
本発明の運動器具は、上記最適運動強度に相当する負荷を、上記被験者に対して加える最適運動強度負荷手段を備えることが好ましい。
【0042】
上記構成によれば、最適運動強度負荷手段によって、高い脂肪燃焼率を実現することができる運動強度を被験者に対して加えることが可能になる。その結果、効果的に被験者の脂肪を燃焼させることができる。
【0043】
本発明の運動器具では、上記最適運動強度負荷手段が、エルゴメーター、トレッドミル、またはエアロバイクであることが好ましい。
【0044】
上記構成によれば、公知の構成を用いて、高い脂肪燃焼率を実現することができる運動強度を被験者に対して加えることが可能になる。その結果、より容易かつ安価に被験者の脂肪を燃焼させることができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明の運動強度規定装置は、上述したように、被験者の呼気中のアセトン濃度を検出するアセトン濃度検出手段と、少なくとも上記アセトン濃度が上昇し始める時点において、上記被験者に対して加えられている運動強度を算出する運動強度算出手段と、上記運動強度算出手段によって算出された、上記アセトン濃度が上昇し始める時点における運動強度をV(%)とした場合、V−20(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度を、上記被験者に対して加える最適運動強度として規定する最適運動強度規定手段と、を備えるものである。
【0046】
それ故、効果的に脂肪を燃焼することができる運動強度を、容易に規定することができるという効果を奏する。
【0047】
また、不必要に高い運動強度を被験者に対して負荷することを防止することができるので、様々な健康被害(例えば、肉離れ、関節炎など)から被験者を守ることができるという効果を奏する。
【0048】
また、血液等に比べて遥かに手軽かつ迅速に測定結果が得られる呼気を用いて最適運動強度を規定することができるので、装置やシステムを小さく設計することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における運動強度規定装置の実施の一形態を示すブロック図である。
【図2】本発明における脂肪燃焼率算出システムの実施の一形態を示すブロック図である。
【図3】本発明における運動器具の実施の一形態を示すブロック図である。
【図4】本発明におけるアセトン濃度検出部の実施の一形態を示す模式図である。
【図5】本発明における運動器具の実施の一形態を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例における、一般人のアセトン濃度、運動強度、脂肪燃焼率の相関関係を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例における、運動選手のアセトン濃度、運動強度、脂肪燃焼率の相関関係を示すグラフである。
【図8】本発明の実施例における、長時間運動時の脂質燃焼率とアセトン濃度との相関関係を示すグラフである。
【図9】本発明の実施例における、長時間運動時の脂質燃焼率とアセトン濃度との相関関係を示すグラフである。
【図10】脂質および脂質の代謝経路と、呼気中に含まれるアセトンの代謝経路との相関関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
図10に、糖質および脂質の代謝経路と、呼気中に含まれるアセトンの代謝経路との関係を示す。
【0051】
アセトンは、アセト酢酸および3−ヒドロキシ酪酸と共にケトン体と呼ばれている。アセトンは、脱炭酸反応にてアセト酢酸から生成される。アセト酢酸は、水素原子が関与する可逆的反応によって、3−ヒドロキシ酪酸から生成される。アセトンは肺を介して呼気中に放出され、当該呼気を体外へ排出することによって、体内のアセトンが体外へと放出される。
【0052】
ピルビン酸(Pyruvate)からアセチル−CoA(Acetyl−CoA)への代謝は不可逆的な酸化的脱炭酸反応であり、このことは、糖から脂肪への変換は生じるが、脂肪から糖への変換は生じないことを示している。肝臓における脂質生成と血漿中の遊離脂肪酸濃度との間には相関関係があり、遊離脂肪酸濃度が0.3〜0.8μmol/mLである場合には、脂質生成が抑制される。また、食物中の脂肪含有量が10重量%以上である場合には、糖質から脂肪への変換は起こらない。糖質が不足した場合には、1)ケトン体の酸化、2)遊離脂肪酸の酸化、3)グルコースの酸化によって、不足した糖質を補うようになっている。
【0053】
つまり、図10からも、糖質、脂質およびアセトンの代謝経路は複雑であって、呼吸商または呼気のアセトン濃度から単純に脂質の燃焼率を類推することは、非常に困難であることが類推できる。
【0054】
一方、本発明であれば、脂肪燃焼率が高い運動高度を容易に規定することができる。以下に、本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0055】
〔1.運動強度規定装置〕
図1に示すように、本実施の形態の運動強度規定装置1は、アセトン濃度検出部2(アセトン濃度検出手段)、運動強度算出部3(運動強度算出手段)、最適運動強度規定部4(最適運動強度規定手段)および判定部5(判定手段)を備えている。各構成について、以下に説明する。
【0056】
アセトン濃度検出部2は、被験者の呼気中のアセトン濃度を検出するものである。アセトン濃度検出部2の具体的な構成は特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。例えば、酸化物半導体センサ(例えば、SB−30:FIS社製、TGS2620−C00:フィガロ技研株式会社製、SC−401:光明理化学工業製、NAP−67A:根本特殊化学製など)を備える装置を用いることが可能であるが、これらに限定されない。なお、アセトン濃度検出部2の具体的な構成については、図4に基づいて後に詳説する。
【0057】
アセトン濃度検出部2は、少なくとも被験者の呼気のアセトン濃度が上昇し始めたこと(例えば、呼気のアセトン濃度が上昇し始めた時点)を検出できるものであることが好ましいが、被験者の呼気のアセトン濃度を経時的(連続的)に検出し得るものであることが更に好ましい。上記構成によれば、より正確に被験者の呼気のアセトン濃度が上昇し始めたことを検出することができるためである。
【0058】
アセトン濃度検出部2にて、被験者の呼気のアセトン濃度が上昇し始めたことが検出された場合、その情報(例えば、呼気のアセトン濃度が上昇し始めた時点の時間)が、運動強度算出部3へと伝達される。そして、運動強度算出部3では、少なくとも被験者の呼気のアセトン濃度が上昇し始めた時点で被験者に対して加えられている運動強度が算出される。
【0059】
運動強度算出部3の具体的な構成は特に限定されず、被験者に対して加えられている運動強度を算出し得る公知の構成を適宜用いることが可能である。例えば、運動強度算出部3は、被験者の酸素摂取量または心拍数に基づいて、被験者に対して加えられている運動強度を算出し得るものであることが好ましい。
【0060】
更に具体的には、運動強度算出部3は、例えば下記(1)式、つまり、
運動強度(%)=酸素摂取量/(最大酸素摂取量−安静時酸素摂取量)×100
・・・・・・・・・(1)
に基づいて、被験者に対して加えられている運動強度を算出するものであることが好ましい。
【0061】
上記(1)式における酸素摂取量とは、様々な強さの運動強度が被験者に対して負荷されている時の被験者の酸素摂取量が意図され、(1)式における最大酸素摂取量とは、被験者に対して過度の運動強度が負荷された時の被験者の体内に摂取し得る最大の酸素量が意図され、(1)式における安静時酸素摂取量とは、被験者に対して運動強度が負荷されていない時の被験者の酸素摂取量が意図される。そして、少なくとも、アセトン濃度検出部2によって被験者の呼気のアセトン濃度の上昇が検出された時点における被験者の酸素摂取量を(1)式に代入して得られる運動強度が、運動強度算出部3によって算出される。
【0062】
したがって、運動強度算出部3は、酸素摂取量、最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量の値を測定し得るとともに、これらの測定値に基づいて運動強度を算出し得るものであることが好ましい。また、最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量は予め測定しておくことも可能であるので、運動強度算出部3は、酸素摂取量を測定し得るとともに、当該酸素摂取量と、予め測定されている最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量とに基づいて運動強度を算出し得るものであってもよい。もちろん、酸素摂取量、最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量については別の装置が取得し、運動強度算出部3は、当該装置が取得した酸素摂取量、最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量のデータに基づいて運動強度を算出する構成であってもよい。
【0063】
上記酸素摂取量、最大酸素摂取量、安静時酸素摂取量の各々の値は、適宜公知の構成を用いて、上記被験者から実験的に測定され得る。例えば、パラマグネティック式の酸素分析計(3000MA:TELEDYNE ANALYTICAL INSTRUMENTS)、電気化学式の酸素分析計(3010TB:TELEDYNE ANALYTICAL INSTRUMENTS)等を用いて測定され得るが、これらに限定されない。例えば、運動強度算出部3によって算出される運動強度は、トレッドミルを用いる場合には、電動駆動されるベルトの負荷と傾斜とによって算出される値、自転車エルゴメーターを用いる場合には、自転車にかかる重り(キロポンド(kp))とスピード(m/分)との積で示される値となる。したがって、運動強度算出部3は、トレッドミルまたは自転車エルゴメーターを備えていることが好ましい。
【0064】
また、運動強度算出部3は、例えば下記(2)式、つまり、
運動強度(%)=(運動時心拍数−安静時心拍数)/(最大心拍数−安静時心拍数)×
100 ・・・・・・・・・(2)
に基づいて、被験者に対して加えられている運動強度を算出するものであってもよい。なお、(2)式における運動時心拍数とは、様々な強さの運動強度が被験者に対して負荷されている時(換言すれば、運動時)の被験者の心拍数が意図され、(2)式における最大心拍数とは、被験者に対して過度の運動強度が負荷された時の被験者の最大の心拍数が意図され、(2)式における安静時心拍数とは、被験者に対して運動強度が負荷されていない時の被験者の心拍数が意図される。そして、少なくとも、アセトン濃度検出部2によって被験者の呼気中のアセトン濃度の上昇が検出された時点における被験者の運動時心拍数を(2)式に代入して得られる運動強度が、運動強度算出部3によって算出される。
【0065】
したがって、この場合、運動強度算出部3は、運動時心拍数、最大心拍数および安静時心拍数の値を測定し得るとともに、これらの測定値に基づいて運動強度を算出し得るものであることが好ましい。また、最大心拍数および安静時心拍数は予め測定しておくことも可能であるので、運動強度算出部3は、運動時心拍数を測定し得るとともに、当該運動時心拍数と、予め測定されている最大心拍数および安静時心拍数とに基づいて運動強度を算出し得るものであってもよい。
【0066】
上記運動時心拍数、最大心拍数、安静時心拍数の各々の値は、適宜公知の構成を用いて、上記被験者から実験的に測定され得る。例えば、心拍計(例えば、RS800CX BIKEまたはFS−3c(何れもポラール社製)など)を用いて測定され得るが、これらに限定されない。換言すれば、運動強度算出部3は、これら、心拍計(例えば、RS800CX BIKEまたはFS−3c(何れもポラール社製)など)を備えた構成であることが好ましいといえる。
【0067】
上述したように、運動強度算出部3が行う運動強度の算出処理は、少なくとも2通り存在する。以下、これら2通りの運動強度の算出処理によって得られる結果が実質的に同一の結果であることを説明する。すなわち、最大酸素摂取量とは、運動負荷試験において負荷量を増加させた場合に、それ以上には増加しない酸素摂取量、すなわち体内に取り込むことの出来る最大の酸素摂取量が意図される。最大酸素摂取量は、有酸素運動の能力の限界を示しており、心臓血管系の機能的な尺度ともなりえ、遅筋の割合とも相関している。したがって、最大酸素摂取量の値が大きい程、アスリ−トとして有利であるといえる。
【0068】
運動エネルギ−を生み出すための糖質または脂質の分解時には、多量の酸素を消費する。したがって、最大酸素摂取量(Omax)は、スタミナの指標ともなり得る。成人男性の最大酸素摂取量は、成人女性の最大酸素摂取量よりも15%〜20%程度大きい値を示すが、除脂肪体重(LBM)にて比較するとその差はわずかでしかない。
【0069】
最大酸素摂取量は、規則的なトレ−ニングによって、10%〜20%程度増加させることが可能である。トレ−ニングによる男性の最大酸素摂取量の増加は、1回の心拍出量の増加、および、動静脈酸素格差の増加に由来する。一方、トレーニングによる女性の最大酸素摂取量の増加は、主として1回の心拍出量の増加に由来する。
【0070】
また、酸素摂取量が最大酸素摂取量の50%にまで増加する場合には、体内において、1回の心拍出量と心拍数との両方が増加する。酸素摂取量が最大酸素摂取量の50%を超えて更に増加する場合には、心拍数のみが増加する。
【0071】
標高が高くなると、気圧の低下に伴って肺胞内の酸素分圧が低下し、血液中への酸素摂取能は低下する。酸素摂取能の低下は標高1,500m付近から発生し、標高が100m上がる毎に、酸素摂取能が約1%低下する。
【0072】
運動時の換気亢進は、神経性および体液性の制御を受けている。すなわち、神経性の制御には、高位中枢からの呼吸中枢刺激、および、末梢固有受容器からの求心性刺激による呼吸中枢の興奮が含まれる。また、体液性の制御には、中枢神経および末梢神経の化学受容器が、体液の酸素分圧、二酸化炭素分圧およびpHを感知し、これらを一定レベルに維持するように換気量を調節するフィ−ドバック機構が含まれる。
【0073】
なお、最大酸素摂取量は、約2週間の練習休止によってトレ−ニング前の値にまで低下し、約3週間の入院生活によって約3割減少することが知られている。また、年齢が30才を越えた場合、最大酸素摂取量は、1年に1.2%程度低下し始める。安静、運動不足が最大酸素摂取量の低下を招くことが知られており、一日500cal(1万歩歩行相当)以上の運動量によって、各年齢の平均的な最大酸素摂取量が維持できるとされている。アメリカスポーツ医学会は、全身の持久力向上を目的としたトレ−ニングとして、成人の場合、予測される最大心拍数(220−実際の年齢)の60%〜90%の心拍数となる持久運動、または、最大酸素摂取量の50%〜80%の酸素摂取量となる持久運動を、20分間〜60分間(3回〜5回/1週間)行うことを奨励している。
【0074】
以上のように、心拍数と酸素摂取量との間には相関関係があり、上記(2)式は上記(1)式をより簡便に示した式ではあるが、両式は、実質的には同じ式であるといえる。
【0075】
上述したように、被験者の呼気のアセトン濃度が上昇し始めた時点で被験者に対して加えられている運動強度が運動強度算出部3において算出される。そして、最適運動強度規定部4にて、上記運動強度の値に基づいて、被験者に対して加える最適運動強度が規定される。つまり、最適運動強度規定部4は、上記運動強度の値に基づいて、高い脂肪燃焼率が得られる運動強度を最適運動強度として規定するものである。
【0076】
最適運動強度規定部4は、被験者の呼気のアセトン濃度が上昇し始めた時点で被験者に対して加えられている運動強度(以下の説明では、当該運動強度の値をV(%)と記載する)に基づいて最適運動強度を規定し得るものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。以下に最適運動強度規定部4における最適運動強度の規定方法について説明する。
【0077】
最適運動強度規定部4では、V−20(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度を、最適運動強度として規定する。なお、本明細書にて「A〜B」と記載した場合には、「A以上、B以下」を意図する。
【0078】
後述する実施例にて具体的に説明するように、V−20(%)〜V+40(%)の範囲の運動強度であれば、被験者が一般人であるか運動選手であるかに関わらず、安静時の脂肪燃焼率よりも高い脂肪燃焼率となる。したがって、上記構成によれば、効果的に被験者の脂肪を燃焼させることができる運動強度を規定することができる。
【0079】
また、最適運動強度基底部4では、V−6.5(%)〜V+30(%)の範囲にある運動強度を、被験者に対して加える最適運動強度として規定することが好ましい。上記構成によれば、より容易かつ確実に、より高い脂肪燃焼率(具体的には、最大脂肪燃焼率の少なくとも1/2の脂肪燃焼率)を実現することができる運動強度を選択することができる。
【0080】
本実施の形態の運動強度規定装置は、上記被験者が運動選手であるか否か、換言すれば、上記被験者が運動選手であるか一般人であるかを判定する判定部5(判定手段)を備えていることが好ましい。上記構成によれば、被験者の運動経歴に応じて、効果的に脂肪を燃焼することができる運動強度を、容易かつ正確に規定することができる。
【0081】
判定部5の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、アセトン濃度検出部2によって検出された呼気のアセトン濃度に基づいて被験者が運動選手であるか一般人であるかを判定する構成、または、被験者などのユーザによって被験者が運動選手であるか一般人であるかを入力する構成などを用いることが可能であるが、これらに限定されない。より正確な判定を行うという観点からは、アセトン濃度検出部2によって検出された呼気のアセトン濃度に基づいて判定する構成の方が好ましいといえる。また、判定部5は、上記2つの構成の両方を備えることも可能である。なお、被験者などのユーザが入力する場合は、別途公知の入力装置(入力手段)を備えることが好ましい。
【0082】
被験者などのユーザによって、被験者が運動選手であるか一般人であるかを判定部5に入力する構成の場合には、被験者自身の運動経歴に基づいて入力を行えばよい。この場合、運動選手であるか一般人であるか判定する判定基準に関しては特に限定するものではないが、例えば、3年以上の運動経歴を有する者を運動選手として判定することが好ましく、5年以上の運動経歴を有する者を運動選手として判定することが更に好ましく、10年以上の運動経歴を有する者を運動選手として判定することが最も好ましい。なお、上記運動経歴の間の1日あたりの運動時間は特に限定されないが、例えば、30分間以上であることが好ましく、1時間以上であることが更に好ましい。また、上記運動経歴に該当する運動の種類は特に限定されないが、有酸素運動(例えば、ランニングまたは水泳など)であることが好ましい。
【0083】
上述したように、より正確な判定を行うという観点からは、判定部5では、アセトン濃度検出部2によって検出された呼気のアセトン濃度に基づいて運動選手であるか否かを判定することが好ましい。後述する実施例に記載するように、一般人と運動選手とでは、呼気のアセトン濃度に差が認められる。つまり、運動選手は一般人と比較して、呼気のアセトン濃度が高い傾向にある。従って、当該差異に基づいて、被験者が運動選手であるか一般人であるかを判定することが可能である。
【0084】
判定部5における具体的な判定基準は特に限定されないが、例えば、判定部5は、呼気のアセトン濃度が上昇し始める時点における当該アセトン濃度が0.5ppmよりも低ければ一般人と判定し、0.5ppm以上であれば運動選手であると判定することが可能であることが好ましい。当該構成であれば判定基準となるアセトン濃度が高いので、運動選手に対して、より適切な運動強度を規定することができる。また、判定部5は、呼気のアセトン濃度が上昇し始める時点における当該アセトン濃度が0.2ppmよりも低ければ一般人と判定し、0.2ppm以上であれば運動選手であると判定することも可能である。当該構成であれば判定基準となるアセトン濃度が低いので、一般人に対して、より適切な運動強度を規定することができる。
【0085】
上述したように判定部5にて被験者が運動選手であるか一般人であるかが判定された場合には、最適運動強度規定部4において、各被験者に応じた最適運動強度を規定することが好ましい。
【0086】
具体的には、判定部5によって被験者が運動選手であると判定された場合には、最適運動強度規定部4によって、V−6.5(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度が最適運動強度として規定されることが好ましい。上記構成によれば、被験者が運動選手である場合に、凡そ最大脂肪燃焼率の1/2以上の脂肪燃焼率となる運動強度を効率よく選択することができる。
【0087】
一方、判定部5によって被験者が一般人であると判定された場合には、最適運動強度規定部4によって、V−20(%)〜V+30(%)の範囲にある運動強度が最適運動強度として規定されることが好ましい。上記構成によれば、被験者が一般人である場合に、凡そ最大脂肪燃焼率の1/2以上の脂肪燃焼率となる運動強度を効率よく選択することができる。
【0088】
以下に、図4に基づいて、上述したアセトン濃度検出部2の更に具体的な構成の一例を説明するが、本願発明は、これに限定されない。
【0089】
アセトン濃度検出部2は、被験者の呼気を採取するためのマスク51、中空糸フィルター52、バルブ53、呼気成分分離装置54、ステンレス容器55、温度制御装置56、流量計57、アセトン検出センサ58、測定室59、ポンプ60、三方弁61および表示装置62を備えている。以下に、各構成について説明する。
【0090】
マスク51の呼気排出部には三方弁61が設けられており、三方弁61によって被験者の呼気の一部がサンプリングされる。三方弁61の一方の開口部は大気中に呼気を放出できるように開放されており、もう一方の開口部は、呼気の少なくとも一部をサンプリングできるように中空糸フィルター52に接続されている。
【0091】
中空糸フィルター52の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知の中空糸フィルターを用いることが可能である。例えば、テトラフルオロエチレンとパーフルオロビニルエーテルとの共重合体からなる中空糸フィルターを用いることが好ましい。更に具体的には、AGCエンジニアリング社製のSWT−1.5−060/FMを2本直結したもの(実施例にて採用)を用いることが好ましいが、これに限定されない。
【0092】
呼気中には80%もの水分が含まれている。そして、このような多量の水分を含む呼気からppm〜ppb程度の低濃度のアセトンを検知するためには、呼気から水分のみを除去するための前処理を行うことが好ましい。また、ppm〜ppb程度の低濃度のアセトンを検知するためには、呼気の圧力損失をできるだけ減少させることが好ましい。中空糸フィルター52を用いれば、水分のみを除去することができるとともに、圧力損失をも減少させることができる。
【0093】
呼気に含まれる水分を除去するためには、シリカゲルなどの吸着剤を用いることも可能である。例えば、マスク51の呼気排出部にシリカゲルを設けることも可能である(図示せず)。しかしながら、シリカゲルは、1)アセトンに対する吸着性が皆無ではない、2)再生する必要がある、3)呼気の圧力損失が皆無ではない、ので、中空糸フィルター52を用いる方が好ましいといえる。
【0094】
中空糸フィルター52にはバルブ53が設けられており、バルブ53の開閉動作によって、呼気成分分離装置54へ被験者の呼気が導入される。
【0095】
呼気成分分離装置54は、呼気の成分(例えば、アセトンなど)を分離する機能を有している。呼気成分分離装置54の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、ガスクロマトグラフィーカラムであることが好ましい。また、上記ガスクロマトグラフィーカラムの更に具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、DB−ALC1(アジレントテクノロジー社製:実施例にて採用)を用いることが可能である。
【0096】
呼気成分分離装置54は、ステンレス容器55によって覆われていることが好ましい。上記構成によれば、呼気成分の分離条件を一定に保つことができるので、より正確に呼気のアセトン濃度の上昇を検出することができる。当該ステンレス容器55の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、直径158mm×深さ186mm(SUS304、容積3.4L:実施例にて採用)の円筒形状ものを用いることが可能である。
【0097】
アセトン濃度検出部2は、ステンレス容器55内の温度を制御する温度制御装置56を備えていることが好ましい。温度制御装置56の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、フィルムヒーターなどに代表される面状の発熱体を用いることが好ましい。上記構成によれば、呼気成分分離装置54の昇温レート、および、ステンレス容器55内の温度を一定に保つことができる。
【0098】
呼気成分分離装置54にはバルブ53が設けられた配管が連結されており、当該配管を介して測定室59へ呼気が導入される。なお、当該配管には、配管内を通過する呼気の流量を測定するための流量計57が設けられていることが好ましい。流量計57によってバルブ53の開閉動作を制御すれば、一定の流速にて呼気を測定室59へ導入することができる。なお、流量計57の具体的な構成は特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。
【0099】
測定室59にはアセトン検出センサ58が設けられており、アセトン検出センサ58によって呼気のアセトン濃度が測定されるとともに、呼気のアセトン濃度の上昇が検出される。
【0100】
測定室59の具体的な構成としては特に限定されないが、例えば、アクリル製の容器(例えば、100mm×100mm×100mmの立方体:実施例にて採用)を用いることが可能であるが、これに限定されない。上記構成によれば、アセトン検出センサ58による測定条件を一定に保つことができる。
【0101】
アセトン検出センサ58の具体的な構成は特に限定されず、適宜公知のアセトン検出センサを用いることが可能である。例えば、酸化物半導体センサ(SB−30;FIS社製:実施例にて採用)を用いることが可能であるが、これに限定されない。
【0102】
測定室59には2本の配管が連結されており、一方の配管は大気中に開放され、他方の配管はポンプ60に連結されている。大気中に開放された配管からは、測定後の呼気が排出される。
【0103】
上述したように、上記他方の配管にはポンプ60に連結されている。そして、当該ポンプ60によって、呼気が一定の流速にてアセトン濃度検出部2内を流通することができる。ポンプ60の具体的な構成としては特に限定されず、適宜公知のポンプを用いることが可能である。例えば、真空ポンプ(例えば、アクティブ社製の6132−0010:実施例にて採用)、加圧ポンプ、手動式ポンプ、または、電動式ポンプなどを用いることが可能であるが、これらに限定されない。
【0104】
アセトン濃度検出部2は、アセトン検出センサ58にて測定されたアセトン濃度を表示するための表示装置62を備えていることが好ましい。表示装置62では、アセトン検出時にアセトン検出センサ58から得られる電圧信号を、既知濃度のアセトン標準ガスに基づいてアセトン濃度に変換した値が表示されることが好ましい。
【0105】
〔2.脂肪燃焼率算出システム〕
図2に示すように、本実施の形態の脂肪燃焼率算出システム10は、上述した運動強度規定装置1のほか、脂肪燃焼率算出部11(脂肪燃焼率算出手段)、記録部12(記録手段)および運動時間算出部13(運動時間算出手段)を備えている。運動強度規定装置1については既に説明したので以下ではその説明を省略し、その他の構成について説明する。
【0106】
脂肪燃焼率算出部11では、運動強度規定装置1によって規定された最適運動強度が被験者に対して加えられた場合の、当該被験者における脂肪燃焼率が算出される。
【0107】
脂肪燃焼率算出部11は脂肪燃焼率を算出することが可能な構成であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。脂肪燃焼率算出部11としては、適宜公知の構成を用いることが可能である。
【0108】
脂肪燃焼率算出部11における脂肪燃焼率の算出方法は特に限定されないが、例えば、下記(3)式、つまり、
脂肪燃焼率(g/min)=最適運動強度負荷時における酸素摂取量(L/min)×酸素1Lあたりの熱量(kcal/L)×酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合(g/kcal) ・・・・・・・・(3)
に基づいて脂肪燃焼率を算出することが好ましい。
【0109】
上記(3)式において、最適運動強度負荷時における酸素摂取量(L/min)は、公知の構成(例えば、パラマグネティック式の酸素分析計(3000MA:TELEDYNE ANALYTICAL INSTRUMENTS)、電気化学式の酸素分析計(3010TB:TELEDYNE ANALYTICAL INSTRUMENTS)等)によって測定することが可能である。
【0110】
上記(3)式において、酸素1Lあたりの熱量(kcal/L)とは、酸素1Lによって所望の脂肪を燃焼させた場合に発生する熱量が意図され、呼吸商に基づいて算出することが可能である。
【0111】
上記(3)式において、酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合(g/kcal)とは、酸素1Lによって生体内の各種栄養(糖、脂肪、タンパク質)が燃焼した場合、単位熱量が発生するときに燃焼される脂肪の重量が意図され、呼吸商に基づいて算出することが可能である。
【0112】
更に具体的には、酸素1Lを消費して(酸化によって)発生するエネルギーの量は、そのときに代謝(分解)される基質によって異なる。例えば、糖質のみが分解する場合には、5.047kcal/Lであり、脂肪のみが分解する場合には、4.686kcal/Lである。
【0113】
日常生活時や身体活動時(全力での運動以外)には、筋肉は、酸素を消費しながら糖質および脂質の両エネルギー基質を分解(酸化)し、エネルギーを発生している(混合エネルギー)。このため、身体活動時に分解される糖・脂質の割合が異なれば、酸素1Lあたりに発生するエネルギー量は異なる。
【0114】
身体活動時などにおいて分解される糖・脂質の割合は、呼吸商(非蛋白呼吸商)から算出することが可能であり、公知の方法にて運動時の呼吸商を算出し、基質利用の割合は、例えばZuntz, Schmburg, Lusk の表(Pflugers Arch. Pheysiol. 83, 557-571(1901)参照)から求めることが可能である。
【0115】
本実施の形態の脂肪燃焼率算出システムは、下記(4)式、つまり、
脂肪燃焼履歴(g)=脂肪燃焼率(g/min)×最適運動強度負荷時間(min)
・・・・・・・・・(4)
に基づいて算出された脂肪燃焼履歴を記録する記録部12(記録手段)を備えることが好ましい。
【0116】
上記構成によれば、被験者の体内にて既に燃焼された脂肪の量を算出・記録することができるのみならず、将来被験者の体内にて将来燃焼される脂肪の量も算出・記録することができる。
【0117】
記録部12は、上記(4)式に基づいて算出される脂肪燃焼履歴を記録することができるものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。記録部12としては、適宜公知の構成を用いることが可能である。
【0118】
上記(4)式における脂肪燃焼率(g/min)の算出方法は特に限定されないが、例えば、上記(3)式によって算出することが好ましい。上記構成によれば、より容易に脂肪燃焼率を算出・記録することができる。
【0119】
上記最適運動強度負荷時間(min)は、被験者に対して最適運動強度を負荷する時間であって、当該最適運動強度負荷時間としては、適宜所望の時間を設定することが可能である。例えば、最適運動強度負荷時間として、被験者に対して既に最適運動強度を負荷した時間を用いれば、被験者の体内において既に燃焼された脂肪の量を算出・記録することができる。一方、最適運動強度負荷時間として、将来被験者に対して最適運動強度を負荷する時間を用いれば、被験者の体内において将来燃焼される脂肪の量を算出・記録することができる。
【0120】
本実施の形態の脂肪燃焼率算出システムは、下記(5)式、つまり、
運動時間(min)=所望の脂肪量(g)/脂肪燃焼率(g/min)
・・・・・・・・・(5)
に基づいて所望の脂肪量を燃焼させるために必要な運動時間を算出する運動時間算出部13(運動時間算出手段)を備えることが好ましい。
【0121】
上記構成によれば、所望の脂肪量を燃焼させるために必要な運動時間、換言すれば、所望の脂肪量を燃焼させるために最適運動強度を被験者に対して負荷する時間を算出することができる。
【0122】
運動時間算出部13は、上記(5)式に基づいて運動時間を算出し得るものであればよく、その具体的な構成は特に限定されない。運動時間算出部13としては、適宜公知の構成を用いることが可能である。
【0123】
上記(5)式における脂肪燃焼率(g/min)の算出方法は特に限定されないが、例えば、上記(3)式によって算出することが好ましい。上記構成によれば、より容易に運動時間を算出することができる。
【0124】
上記(5)式における所望の脂肪量(g)としては特に限定されないが、例えば、被験者の体内で燃焼させるべき脂肪の量を用いることが好ましい。更に具体的には、公知の構成によって被験者の体脂肪率を測定し、被験者と同年齢・同性の平均体脂肪率と比較する。これによって、被験者の体内に存在する過剰な脂肪量を算出することができる。そして、当該過剰脂肪量を上記(5)式における所望の脂肪量(g)として用いることが好ましい。上記構成によれば、被験者の体内に存在する過剰な脂肪を燃焼させるために必要な運動時間を算出することができる。
【0125】
〔3.運動器具〕
図3に示すように、本実施の形態の運動器具20は、上述した運動強度規定装置1、または、上述した脂肪燃焼率算出システム10を備えている。なお、運動強度規定装置1および脂肪燃焼率算出システム10に関しては既に説明したので、ここでは、その説明を省略する。
【0126】
本実施の形態の運動器具20は、上述した最適運動強度に相当する負荷を被験者に対して加える最適運動強度負荷部21(最適運動強度負荷手段)を備えていることが好ましい。
【0127】
最適運動強度負荷部21の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、有酸素運動器具であることが好ましい。更に具体的には、最適運動強度負荷部21は、エルゴメーター、トレッドミル、またはエアロバイクであること好ましい。上記構成によれば、公知の構成を用いながら、効果的に脂肪を燃焼させることができる。なお、エルゴメーター、トレッドミル、およびエアロバイクの更に具体的な構成は特に限定されず、適宜公知の構成を用いることが可能である。
【0128】
以下に、図5に基づいて、本実施の形態の運動器具20の更に具体的な一実施形態を説明するが、本願発明はこれに限定されない。
【0129】
図5に示す運動器具では、図4に示したアセトン濃度検出部2およびその他の構成(図示せず)によって規定された最適運動強度が被験者に対して負荷されるように、自転車エルゴメーター71のペダルの回転が制御されている。なお、上記ペダルの制御は、無線等の公知の構成によって行うことが可能である。
【0130】
なお、上述した実施形態の運動強度規定装置、脂肪燃焼率算出システムおよび運動器具の各部や各処理ステップは、CPUなどの演算手段が、ROM(Read Only Memory)やRAMなどの記憶手段に記憶されたプログラムを実行し、キーボードなどの入力手段、ディスプレイなどの出力手段、あるいは、インターフェース回路などの通信手段を制御することにより実現することが可能である。
【0131】
したがって、これらの手段を有するコンピュータが、上記プログラムを記録した記録媒体を読み取り、当該プログラムを実行するだけで、上述した実施形態の運動強度規定装置、脂肪燃焼率算出システムおよび運動器具の各種機能および各種処理を実現することができる。また、上記プログラムをリムーバブルな記録媒体に記録することにより、任意のコンピュータ上で上記の各種機能および各種処理を実現することができる。
【0132】
上記記録媒体としては、マイクロコンピュータで処理を行うために図示しないメモリ、例えばROMのようなものがプログラムメディアであってもよいし、また、図示していないが外部記憶装置としてプログラム読取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することにより読取り可能なプログラムメディアであってもよい。
【0133】
また、何れの場合でも、格納されているプログラムは、マイクロプロセッサがアクセスして実行される構成であることが好ましい。さらに、プログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにダウンロードされて、そのプログラムが実行される方式であることが好ましい。なお、このダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納されていることが好ましい。
【0134】
また、上記プログラムメディアは、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フレキシブルディスクやハードディスク等の磁気ディスクやCD/MO/MD/DVD等のディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含む)等のカード系、あるいはマスクROM、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュROM等による半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する記録媒体等があり得る。
【0135】
また、インターネットを含む通信ネットワークを接続可能なシステム構成であれば、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する記録媒体であることが好ましい。
【0136】
さらに、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用のプログラムは予め本体装置に格納しておくか、あるいは別な記録媒体からインストールされるものであることが好ましい。
【実施例】
【0137】
〔1.運動強度、脂肪燃焼率およびアセトン濃度の相関−1〕
13名の被験者(一般人)について、運動強度、脂肪燃焼率および呼気中のアセトン濃度の相関関係を調べた。以下に、その詳細を説明する。
【0138】
まず、各被験者について、身長、体重および皮下脂肪厚を、公知の手法によって測定した。
【0139】
各被験者は、8時間〜12時間の絶食を行った後、自転車エルゴメーター(コンビ社製のエアロバイク75XL3等)にて0.5kpの負荷をかけた状態で、3分間のウォーミングアップを行った。その後、1分間毎に0.25kpずつ負荷を増加させながら、2.75kpの負荷に至るまで、または、被験者が疲労困憊するまで、被験者に運動を行わせた。
【0140】
上記運動の間、被験者の心電図を連続的に監視するとともに、1分毎に被験者の呼気をダグラスバック内に採取した。採取した呼気について、アセトンセンサ(SB−30、FIS社製)を用いてアセトン濃度を測定した。また、採取した呼気については、ガスメーターおよびO・CO分析器(パラマグネティック式の酸素分析計(3000MA:TELEDYNE ANALYTICAL INSTRUMENTS)、電気化学式の酸素分析計(3010TB:TELEDYNE ANALYTICAL INSTRUMENTS)等)を用いて分析した。なお、分析方法の詳細は、上記O・CO分析器に添付のプロトコールに従った。
【0141】
脂肪燃焼率は、下記(3)式に基づいて算出した。つまり、
脂肪燃焼率(g/min)=運動時の酸素摂取量(L/min)×酸素1Lあたりの熱量(kcal/L)×酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合(g/kcal)
・・・・・・・・(3)
なお、上記(3)式における「運動時の酸素摂取量」としては、実測値を用いた。また、上記(3)式における「酸素1Lあたりの熱量」および「酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合」は、呼吸商から求めた。
【0142】
例えば、呼吸商(RQ)が0.964215の場合には、Zuntz, Schmburg, Lusk の表などに基づいて、糖質87.2%および脂質12.8%からなる基質が代謝されていると考えることができる。そして、脂質1gあたりの燃焼熱量を例えば7kcalとすれば、「酸素1Lあたりの熱量」および「酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合」を求めることが可能である。
【0143】
運動強度は、下記(1)式に基づいて算出した。つまり、
運動強度(%)=酸素摂取量/(最大酸素摂取量−安静時酸素摂取量)×100
・・・・・・(1)
このとき、酸素摂取量、最大酸素摂取量および安静時酸素摂取量の各々は、上述の装置を用いて測定した。なお、更に具体的な測定方法は、当該測定装置に添付のプロトコールにしたがった。
【0144】
以上の測定結果を図6に示す。なお、図6に示すグラフは、13名の被験者から得られたデータの平均値に基づいて記載されている。
【0145】
図6に示すように、運動強度が34.3±5.5%になった時点から、アセトン濃度が直線的に上昇した。そして、運動強度が39.6±6.0%の時点で、脂肪燃焼率が、最大値0.35±0.13g/minを示した。つまり、アセトン濃度が上昇し始めた時点の運動強度から、約5%だけ運動強度が上昇した時点で、脂肪燃焼率が最大値を示した。
【0146】
脂肪燃焼率が最大値に達した時点よりも更に運動強度を上昇させると、アセトン濃度は上昇する一方で、脂肪燃焼率は低下することが明らかになった。
【0147】
なお、呼気のアセトン濃度は、運動負荷が無く運動強度が極めて低い時(運動強度が約7.5%)においても、約0.18ppmの濃度が検出された。そして、この時の脂肪燃焼率は、約0.05g/minであった。
【0148】
脂肪燃焼率が最大値の1/2以上を示すのは、運動強度が約15%〜65%のときであった。つまり、アセトン濃度が上昇し始めた時点の運動強度よりも20%だけ低い運動強度以上であり、かつ、アセトン濃度が上昇し始めた時点の運動強度よりも30%だけ高い運動強度以下である運動強度であれば、最大脂肪燃焼率の1/2以上の効率で脂肪を燃焼し得ることが明らかになった。
【0149】
〔2.運動強度、脂肪燃焼率およびアセトン濃度の相関−2〕
13名の被験者(運動選手)について、運動強度、脂肪燃焼率および呼気中のアセトン濃度の相関関係を調べた。各種測定方法等は、上述した〔1.運動強度、脂肪燃焼率、およびアセトン濃度の相関−1〕と同じであるので、ここではその説明を省略し、結果のみを説明する。
【0150】
図7に示すように、運動強度が32.5±5.0%になった時点から、アセトン濃度が直線的に上昇した。そして、運動強度が50.5±5.0%の時点で、脂肪燃焼率が、最大値0.74±0.10g/minを示した。つまり、アセトン濃度が上昇し始めた時点の運動強度から、更に約18%だけ運動強度が上昇した時点で、脂肪燃焼率が最大値を示した。
【0151】
脂肪燃焼率が最大値に達した時点よりも更に運動強度を上昇させると、アセトン濃度は上昇する一方で、脂肪燃焼率は低下することが明らかになった。
【0152】
なお、呼気のアセトン濃度は、運動負荷が無く運動強度が極めて低い時(運動強度が約7.5%)においても、約0.5ppmの濃度が検出された。そして、この時の脂肪燃焼率は、約0.1g/minであった。
【0153】
脂肪燃焼率が最大値の1/2以上を示すのは、運動強度が約26.0%〜75%のときであった。つまり、アセトン濃度が上昇し始めた時点の運動強度よりも6.5%だけ低い運動強度以上であり、かつ、アセトン濃度が上昇し始めた時点の運動強度よりも40%だけ高い運動強度以下である運動強度であれば、最大脂肪燃焼率の1/2以上の効率で脂肪を燃焼し得ることが明らかになった。
【0154】
〔3.長時間運動時の脂質燃焼率とアセトン濃度との相関関係〕
10名の被験者について、最大脂肪燃焼率となる運動強度を負荷しながら長時間の運動を行わせた場合の、脂肪燃焼率と呼気のアセトン濃度との相関関係を検討した。以下に、検討方法および検討結果について説明する。
【0155】
まず、8〜12時間の絶食を行った後、各被験者に対して最大脂肪燃焼率となる運動強度を負荷した状態にて、長時間の運動を行わせた。このとき、自転車エルゴメーター(コンビ社製のエアロバイク75XL3等)を用いて、被験者に対して最大脂肪燃焼率となる運動強度を負荷した。
【0156】
また、最大脂肪燃焼率となる運動強度は、最大酸素摂取量に基づいて算出した。更に詳細には、一般人に関しては、呼気のアセトン濃度が上昇し始める時点の運動強度よりも5%運動強度だけ高い運動強度を、最大脂肪燃焼率となる運動強度として規定し、運動選手に関しては、呼気のアセトン濃度が上昇し始める時点の運動強度よりも30%運動強度だけ高い運動強度を、最大脂肪燃焼率となる運動強度として規定した。
【0157】
運動前、運動中(準備運動中および運動中)15分毎、および運動後に、被験者の呼気を3〜5分間、ダグラスバック内に採取した。採取した呼気のアセトン濃度を、アセトンセンサ(SB−30、FIS社製)によって測定した。なお、アセトン濃度の具体的な測定方法は、当該アセトンセンサに添付のプロトコールにしたがった。
【0158】
図8から明らかなように、最適な運動強度(最大脂肪燃焼率となる運動強度)が負荷された場合には、運動中のアセトン濃度と脂肪燃焼率との間には、正の相関関係が存在することが明らかになった。
【0159】
また、図9からも、最適な運動強度が負荷された場合には、アセトン濃度と脂肪燃焼率との間には、正の相関が存在することが明らかになった。
【0160】
運動を停止した後に脂肪燃焼率が低下したが、アセトン濃度は増加した。この点からも、不連続な測定によって検出されたアセトン濃度のみによって、最適な脂肪燃焼を見出すのが困難であることが明らかになった。
【0161】
つまり、図8および図9から明らかなように、呼気のアセトン濃度は、適切な運動強度下でのみ脂肪燃焼率と正の相関をとるので、ポイント測定によってアセトン濃度をモニタリングした場合には、実際の運動強度と呼気アセトン濃度との相関を見誤る可能性が高いことが明らかになった。
【0162】
なお、本発明は、以上に説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明は、脂質燃焼モニタリングシステム、有酸素運動器具(例えば、エルゴメーター、トレッドミル、または、エアロバイクなど)などに利用することができる。
【符号の説明】
【0164】
1 運動強度規定装置
2 アセトン濃度検出部(アセトン濃度検出手段)
3 運動強度算出部(運動強度算出手段)
4 最適運動強度規定部(最適運動強度規定手段)
5 判定部(判定手段)
10 脂肪燃焼率算出システム
11 脂肪燃焼率算出部(脂肪燃焼率算出手段)
12 記録部(記録手段)
13 運動時間算出部(運動時間算出手段)
20 運動器具
21 最適運動強度負荷部(最適運動強度負荷手段)
51 マスク
52 中空糸フィルター
53 バルブ
54 呼気成分分離装置
55 ステンレス容器
56 温度制御装置
57 流量計
58 アセトン検出センサ
59 測定室
60 ポンプ
61 三方弁
62 表示装置
71 自転車エルゴメーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の呼気中のアセトン濃度を検出するアセトン濃度検出手段と、
少なくとも前記アセトン濃度が上昇し始める時点において、前記被験者に対して加えられている運動強度を算出する運動強度算出手段と、
前記運動強度算出手段によって算出された、前記アセトン濃度が上昇し始める時点における運動強度をV(%)とした場合、V−20(%)〜V+40(%)の範囲にある運動強度を、前記被験者に対して加える最適運動強度として規定する最適運動強度規定手段と、を備えることを特徴とする運動強度規定装置。
【請求項2】
前記最適運動強度規定手段は、V−6.5(%)〜V+30(%)の範囲にある運動強度を、前記被験者に対して加える最適運動強度として規定するものであることを特徴とする請求項1に記載の運動強度規定装置。
【請求項3】
前記被験者が運動選手か否かを判定する判定手段を備え、
前記判定手段によって前記被験者が運動選手であると判断された場合には、前記最適運動強度規定手段によって、下記1)に記載の運動強度が前記最適運動強度として規定され、
前記判定手段によって前記被験者が運動選手でないと判断された場合には、前記最適運動強度規定手段によって、下記2)に記載の運動強度が前記最適運動強度として規定されることを特徴とする請求項1に記載の運動強度規定装置。
1)V−6.5(%)〜V+40(%)
2)V−20(%)〜V+30(%)
【請求項4】
前記運動強度算出手段は、下記(1)式に基づいて、前記被験者に対して加えられている運動強度を算出するものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の運動強度規定装置。
運動強度(%)=酸素摂取量/(最大酸素摂取量−安静時酸素摂取量)×100
・・・・・・・・・(1)
【請求項5】
前記運動強度算出手段は、下記(2)式に基づいて、前記被験者に対して加えられている運動強度を算出するものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の運動強度規定装置。
運動強度(%)=(運動時心拍数−安静時心拍数)/(最大心拍数−安静時心拍数)×
100 ・・・・・・・・・(2)
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の運動強度規定装置と、
前記最適運動強度が前記被験者に対して加えられた場合の、当該被験者における脂肪燃焼率を算出する脂肪燃焼率算出手段と、を備えていることを特徴とする脂肪燃焼率算出システム。
【請求項7】
前記脂肪燃焼率算出手段は、下記(3)式に基づいて脂肪燃焼率を算出するものであることを特徴とする請求項6に記載の脂肪燃焼率算出システム。
脂肪燃焼率(g/min)=最適運動強度負荷時における酸素摂取量(L/min)×酸素1Lあたりの熱量(kcal/L)×酸素1Lあたりの熱量に関与する脂肪の割合(g/kcal)
・・・・・・・・・(3)
【請求項8】
下記(4)式に基づいて算出された脂肪燃焼履歴を記録する記録手段を備えることを特徴とする請求項6または7に記載の脂肪燃焼率算出システム。
脂肪燃焼履歴(g)=脂肪燃焼率(g/min)×最適運動強度負荷時間(min)
・・・・・・・・・(4)
【請求項9】
下記(5)式に基づいて、所望の脂肪量を燃焼させるために必要な運動時間を算出する運動時間算出手段を備えることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の脂肪燃焼率算出システム。
運動時間(min)=所望の脂肪量(g)/脂肪燃焼率(g/min)
・・・・・・・・・(5)
【請求項10】
請求項1〜5の何れか1項に記載の運動強度規定装置、または、請求項6〜9の何れか1項に記載の脂肪燃焼率算出システムを備えていることを特徴とする運動器具。
【請求項11】
前記最適運動強度に相当する負荷を、前記被験者に対して加える最適運動強度負荷手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の運動器具。
【請求項12】
前記最適運動強度負荷手段が、エルゴメーター、トレッドミル、またはエアロバイクであることを特徴とする請求項10または11に記載の運動器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−268864(P2010−268864A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121466(P2009−121466)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(500071005)学校法人大阪国際学園 (1)
【Fターム(参考)】