説明

運動案内装置

【課題】無負荷戻し路が接触角線上からずれた位置に配置される場合であっても、許容荷重を大きくすることができる運動案内装置を提供する。
【解決手段】運動案内装置の循環経路に、複数の転動体を回転可能に保持するリテーナ8を設ける。リテーナ8は、複数の転動体間に介在される複数のスペーサ、及び複数のスペーサを連結する帯部10を有する。軌道部材1の長手方向と直交する断面で見たとき、負荷転動体転走路P1におけるリテーナ8の帯部10と転動体戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とを非平行にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テーブル等の可動部がベッド等の固定部に対して線運動するのを案内する運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の運動案内装置は、ベッド等の固定部に取り付けられる軌道部材と、テーブル等の可動部に固定される移動部材と、を備える。移動部材は軌道部材に線運動可能に組み付けられる。軌道部材と移動部材との間には、摩擦抵抗を低減するために多数の転動体が転がり運動可能に介在される。移動部材には、転動体が循環するサーキット状の転動体循環路が設けられる。運動案内装置のサーキット状の転動体循環路は、軌道部材の転動体転走部と移動部材の負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、負荷転動体転走路と平行な転動体戻し路、負荷転動体転走路と転動体戻し路を接続する一対のU字状の方向転換路から構成される。
【0003】
転動体循環路には、多数の転動体が配列・収納される。多数の転動体はリテーナにより回転可能に保持される。リテーナは、進行方向の前後の転動体間に介在される多数のスペーサと、スペーサを連結する帯部と、を備える。進行方向の前後の転動体間にスペーサを介在させるのは、進行方向の前後の転動体が互いにすべり接触するのを防止するためである。多数のスペーサを帯部で連結することで、リテーナの組み立てを容易にすることができる。
【0004】
従来の運動案内装置においては、リテーナの帯部を円滑に循環させるために、軌道部材の長手方向に直交する断面でみたとき、負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と転動体戻し路におけるリテーナの帯部とを平行にしていた(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−014264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と転動体戻し路におけるリテーナの帯部とを平行にすると、軌道部材の長手方向に直交する断面で見たとき、負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と接触角線とを垂直にできない場合がある。例えば、移動部材の高さ寸法に制限があり、転動体戻し路を接触角線上に配置できない場合、負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と接触角線とを垂直にできなくなる。ここで、接触角線は、軌道部材の長手方向に直交する断面で見たときの転動体が荷重を受けられる方向であり、軌道部材の転動体転走部と転動体との接触点と、移動部材の負荷転動体転走部と転動体との接触点とを結んだ線によって定義される。
【0007】
負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と接触角線とを垂直にできないと、軌道部材の転動体転走部の溝の、帯部に接近する側が浅くならざるを得ない。溝が浅くなるのが原因で、転動体に作用させる荷重も小さくならざるを得ず、運動案内装置の許容荷重も小さくならざるを得ない。
【0008】
そこで本発明は、上記課題を解決し、無負荷戻し路が接触角線上からずれた位置に配置される場合であっても、許容荷重を大きくすることができる運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、長手方向に伸びる転動体転走部を有する軌道部材と、前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部、前記負荷転動体転走部と平行に伸びる転動体戻し路、及び前記負荷転動体転走部と前記負荷転動体転走部とを接続する方向転換路を有する移動部材と、前記軌道部材の転動体転走部と前記移動部材の前記負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、前記転動体戻し路、及び前記方向転換路を含む転動体循環路に配列される複数の転動体と、前記複数の転動体間に介在される複数のスペーサ又は前記複数の転動体を間隔を保った状態で保持する複数の保持部、及び前記複数のスペーサ又は前記複数の保持部を連結する帯部を有するリテーナと、を備える運動案内装置において、前記軌道部材の長手方向と直交する断面で見たとき、前記負荷転動体転走路における前記リテーナの帯部と前記転動体戻し路における前記リテーナの帯部とが非平行である運動案内装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と転動体戻し路におけるリテーナの帯部とが非平行であるので、負荷転動体転走路及び転動体戻し路における帯部の向きの自由度を高めることができ、これにより、負荷転動体転走路におけるリテーナの帯部と接触角線との交差角度を垂直にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の実施形態における運動案内装置の斜視図(一部断面を含む)
【図2】上記運動案内装置の軌道レールに直交する断面図
【図3】ボール戻し路の拡大断面図
【図4】リテーナの詳細図((a)は平面図を示す、(b)は側面図を示し、(c)はリテーナの長手方向と直交する断面図を示す)
【図5】リテーナの帯部の湾曲形状を示す図((a)は平面図を示し、(b)が正面図を示し、(c)が側面図を示す)
【図6】リテーナの他の例を示す側面図
【図7】リテーナのさらに他の例を示す長手方向と直交する断面図
【図8】リテーナのさらに他の例を示す図((a)は側面図を示し、(b)は平面図を示す)
【図9】解析モデルとして使用したU字状に湾曲した帯を示す図
【図10】ねじり角αを変化させたときの、帯部の変形状態及び帯部に発生する相当応力を示す図
【図11】解析結果のねじり角αと相当応力σmaxとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び図2は、本発明の第一の実施形態における運動案内装置としてのリニアガイドの斜視図(一部断面図を含む)を示す。
【0013】
リニアガイドは、直線状に延びる軌道部材としての軌道レール1と、この軌道レール1に多数の転動体としてのボール3を介して直線運動可能に組み付けられる移動部材としての移動ブロック2とを備える。
【0014】
軌道レール1は、断面略四角形状で細長く延ばされる。軌道レール1の上部には、幅方向に突出する左右一対の突条1aが形成される。各突条1aの上部及び下部には、軌道レール1の長手方向に伸びる転動体転走部としてのボール転走溝1bが形成される。この実施形態では、各突条1aに二条のボール転走溝1bが形成されていて、合計四条のボール転走溝1bが形成される。ボール転走溝1bの断面形状は、単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状が形成される。ボール転走溝1bの曲率半径はボール3の半径よりも僅かに大きく、ボール3はボール転走溝1bに一点で接触する。軌道レール1には、軌道レール1をベッド等の固定部に取り付けるためのボルト用の通し孔1cが空けられる。
【0015】
軌道レール1には、移動ブロック2が直線運動可能に組み付けられる。移動ブロック2は、軌道レール1のボール転走溝1bに対向する負荷転動体転走部としての負荷ボール転走溝2a、及び負荷ボール転走溝2aと平行な転動体戻し路としてのボール戻し路P2が形成される移動ブロック本体2−1と、移動ブロック本体2−1の移動方向の両端に設けられ、負荷ボール転走溝2a及びボール戻し路P2に接続されるU字状の方向転換路が形成される一対の蓋部材としてのエンドプレート2−2と、を備える。エンドプレート2−2には、移動ブロック2内に塵芥等の異物が侵入するのを防止するシール4が取り付けられる。
【0016】
図2に示すように、軌道レール1を水平面に配置した状態において、移動ブロック2は、軌道レール1の上面に対向する中央部2cと、中央部2cの左右両側から下方に延び、軌道レール1の左右側面に対向する一対の側壁部2dと、を備える。移動ブロック2は、全体が鞍形状に形成される。
【0017】
軌道レール1のボール転走溝1b及び移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aとの間には、直線状に伸びる負荷転動体転走路としての負荷ボール転走路P1が形成される。ボール戻し路P2は負荷ボール転走路P1と平行に直線状に伸びる。負荷ボール転走路P1の端部とボール戻し路P2の端部とはU字状の方向転換路P3で接続される。これら負荷ボール転走路P1、ボール戻し路P2及び方向転換路P3によってサーキット状の転動体循環路としてのボール循環路が形成される。
【0018】
軌道レール1に対して移動ブロック2を相対的に移動させると、負荷ボール転走路P1において、複数のボール3は荷重を受けながら転がり運動する。負荷ボール転走路P1の一端まで転がったボール3は、U字状の方向転換路P3を経由した後、ボール戻し路P2に入る。ボール戻し路P2を通過したボール3は、反対側の方向転換路P3を経由した後、再び負荷ボール転走路P1に入る。
【0019】
移動ブロック2の側壁部2dの内側面には、軌道レール1のボール転走溝1bに対向する負荷ボール転走溝2aが形成される。負荷ボール転走溝2aの断面形状は、ボール転走溝1bと同様に単一の円弧からなるサーキュラーアーク溝形状に形成される。負荷ボール転走溝2aの曲率半径はボール3の半径よりも僅かに大きく、ボール3は負荷ボール転走溝2aに一点で接触する。軌道レール1のボール転走溝1bとボール3との接触点と、移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aとボール3との接触点とを結んだ線が、接触角線L1である。接触角線L1は、ボール3が荷重を受けられる方向を示している。この実施形態では、上側のボール3の接触角線が水平線L2に対してなす接触角θ1は45°であり、下側のボール3の接触角線L1が水平線L2に対してなす接触角θ2も45°である。これにより、運動案内装置が上下方向荷重・左右方向荷重をバランスよく負荷することができる。
【0020】
なお、軌道レール1のボール転走溝1bの断面形状は、二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成されてもよい。移動ブロック2の負荷ボール転走溝2aの断面形状も、二つの円弧からなるゴシックアーチ溝形状に形成されてもよい。この場合、ボール3はゴシックアーチ溝形状のボール転走溝1bに二点で接触し、ゴシックアーチ溝形状の負荷ボール転走溝2aに二点で接触する。ボール3が荷重を受けられる方向である接触角線L1は、ゴシックアーチ溝形状のボール転走溝1bの溝底とゴシックアーチ溝形状の負荷ボール転走溝2aの溝底とを結んだ線により定義される。
【0021】
移動ブロック本体2−1には、負荷ボール転走路P1と平行に貫通孔5が空けられ、貫通孔5に樹脂成形されたパイプ状の転動体戻し路構成部品6が挿入される。転動体戻し路構成部品6の内周面に、ボール戻し路P2が形成される。
【0022】
図3のボール戻し路P2の拡大断面図に示すように、転動体戻し路構成部品6は、ボール循環路の外周側の外周側案内部6aと、ボール循環路の内周側の内周側案内部6bと、を有する。外周側案内部6a及び内周側案内部6bの内周面は、ボール3の半径よりも僅かに大きい半径の半円形状に形成される。外周側案内部6aの内周面と内周側案内部6bとの間には、リテーナ8の帯部10を案内する案内溝6cが形成される。
【0023】
ボール戻し路P2及び方向転換路P3に、リテーナ8の帯部10を案内する案内溝6cを形成することにより、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とを非平行にすることができる。
【0024】
U字状の方向転換路P3は、その内周側がRピース12(図2参照)に形成され、その外周側が蓋部材としてのエンドプレート2−2(図1参照)に形成される。Rピース12は、樹脂製であり、移動ブロック本体2−1に一体に成形されるか、移動ブロック本体2−1にボルト等の締結部材により結合される。方向転換路P3の断面形状は、ボール戻し路P2の断面形状と同一に形成される。ボール戻し路P2の外周側案内部6aに相当する部分がエンドプレート2−2に形成される。ボール戻し路P2の内周側案内部6bに相当する部分がRピース12に形成される。エンドプレート2−2及びRピース12が協働して、方向転換路P3を移動するリテーナ8の帯部10を案内する案内溝(図示せず)を形成する。
【0025】
図4は、ボール循環路に配列・収容される複数のボール3、及び複数のボール3を一連に連結するリテーナ8を示す。図4(a)はリテーナ8の平面図を示し、図4(b)は側面図を示し、図4(c)は断面図を示す。リテーナ8は、進行方向の前後のボール3間に介在される複数のスペーサ9と、複数のスペーサ9を連結する帯部10と、を有する。スペーサ9は円盤状に形成される。スペーサ9の進行方向の両端面には、ボール3の外周面に対応させた曲面状凹部が形成される。スペーサ8によってボール3間の間隔が一定に保たれる。
【0026】
複数のスペーサ9を連結する帯部10は一平面内に配置される。帯部10には、複数のボール3を収納するための複数の円形の孔10aが長手方向に一定の間隔を空けて配列される。図4(c)に示すように、帯部10はボール3の幅方向の両側に突出する。帯部10は、可撓性を有し、直線状の負荷ボール転走路P1、及び直線状のボール戻し路P2において、直線状に伸びる。そして、U字状の方向転換路において、U字状に撓む。リテーナ8は、樹脂の射出成形等により形成される。
【0027】
図2に示すように、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2における帯部10とは非平行である。そして、軌道レール1の長手方向と直交する断面で見たとき、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10の中心線L4と接触角線L1とが直交する。ボール戻し路P2におけるボール3の中心は、接触角線L1上からずれた位置に配置される。移動ブロック2の高さを低減するためである。
【0028】
本実施形態によれば、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とが非平行であるので、負荷ボール転走路P1及びボール戻し路P2における帯部10の幅方向の向きの自由度を高めることができ、これにより、ボール戻し路P2におけるボール3の中心を接触角線L1上からずれた位置に配置した場合であっても、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10の中心線L4と接触角線L1との交差角度を直角にすることができる。
【0029】
ただし、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とを非平行に配置すると、方向転換路におけるリテーナ8の帯部10に応力が発生し、リテーナ8を円滑に循環させることが困難になるおそれがある。リテーナ8の帯部10に発生する応力を低減し、リテーナ8を円滑に循環させるために、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とを線対称に近づける。
【0030】
具体的には、まず、図2に示すように、軌道レール1の長手方向と直交する断面で見たとき、負荷ボール転走路P1におけるボール3の中心とボール戻し路P2におけるボール3の中心とを結んだ線分の垂直二等分線L5を定義する。次に、ボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10を、負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10に対して線対称に配置する。なお、ボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10は、完全に線対称に配置されなくても、線対称に配置された状態から時計方向又は反時計方向に20°以内傾けられてもよい。
【0031】
負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とを線対称に近づけることにより、方向転換路を移動するリテーナ8の帯部10に発生する応力を小さくすることができる。したがって、リテーナ8を円滑に循環させることができる。
【0032】
詳しくは後述するが、発明者は、図9に示すU字状の帯の解析モデルを用い、帯20の一方の端部21を他方の端部22に対して平行移動させ、さらに帯の一方の端部21を所定の角度傾けたとき、帯20に発生する相当応力を解析した(実施例参照)。その結果、一方の端部21を他方の端部22に対して線対称に傾けたとき、相当応力を最も低減できた。一方の端部21を線対称の配置から時計方向又は反時計方向に20°以内に傾けたときも、線対称のときほどではないものの、相当応力を低減することができた。望ましくは、一方の端部21の傾き角度を線対称の配置から時計方向又は反時計方向に10°以内にすると、線対称のときとほぼ同等レベルまで相当応力を低減できた。
【0033】
図5は、図2の右側かつ上側の方向転換路P3におけるリテーナ8の帯部10の湾曲形状を示す。図5には、3方向からの帯部10の形状が表されている。図5(a)には、図2と同じ方向からみたリテーナ8の帯部10が示されている。図5(a)が三角図の平面図であり、図5(b)が正面図であり、図5(c)が側面図である。
【0034】
負荷ボール転走路P1におけるリテーナ8の帯部10とボール戻し路P2におけるリテーナ8の帯部10とは、上記垂直二等分線に対して線対称に配置される(図2参照)。方向転換路P3にリテーナ8の帯部10を案内する案内溝を設計するにあたって、まず、図5に示すように、CATIA(Computer graphics Aided Three dimensional Interactive Application)等の3次元CADソフトを使用して、帯部10の外側及び内側の湾曲形状を方向転換路P3内に設計する。そして、帯部10の外側の湾曲形状に沿うように方向転換路P3にリテーナ8の帯部10を案内する案内溝を設計する。3次元CADソフトを使用して設計された方向転換路P3及び案内溝の図面から、そのままエンドプレート2−2やRピース12を製造するための金型の加工ができる。金型に樹脂を射出成形することで、リテーナ8の帯部10を案内する案内溝を有するエンドプレート2−2やRピースを製造することができる。
【0035】
図6は、リテーナの他の例を示す。この図6には、リテーナの側面図が示されている。この例において、リテーナ14の帯部15は多数のボール3の中心を結んだ線L6上には配置されておらず、中心を結んだ線L6よりも上側に配置されている。この例のように、リテーナ14の帯部15はボール3の中心を結んだ線L6からずれた位置に配置されてもよい。
【0036】
図7は、リテーナのさらに他の例を示す。図7には、ボール3の列方向と直交するリテーナ16の断面図が示されている。この例のリテーナにおいては、スペーサ16aの左右に傾けられた一対の帯部17が配置されている。一対の帯部17は一平面内に配置されておらず、一方の帯部17の中心線と他方の帯部17の中心線とは180°未満の角度で交差する。この例のように、スペーサ8を挟んだ一対の帯部17は一平面内に配置されていなくてもよい。この例の場合、帯部全体の中心線は、一方の帯部17の幅方向の中心と他方の帯部17の幅方向の中心とを結んだ線L9によって定義される。
【0037】
図8は、リテーナのさらに他の例を示す。この例のリテーナ19において、進行方向の前後のボール3間には、スペーサが介在されていない。ボール3は、進行方向の左右に設けられる一対の保持部19aによって保持される。保持部19aは帯部19bによって一連に連結される。帯部19bは一平面内に配置され、帯部19bの中心線L7とボール3の中心を結んだ線L8とは、図8(a)の側面図に示すように、上下方向にずれている。この例のように、ボール3の進行方向の左右に配置される一対の保持部19aによって、ボール3間の間隔を一定に保つようにしてもよい。
【0038】
なお、本発明の実施形態は本発明の要旨を変更しない範囲で種々変更可能である。例えば転動体としてはボールのみならず、ローラも使用することができる。また、上記の実施形態では、移動ブロックが直線的に運動するリニアガイドについて説明したが、本発明は移動ブロックが曲線的に運動する曲線運動案内装置にも適用することもできる。さらに、方向転換路の中心線は、所定の曲率で曲げられていればよく、曲率が一定の円弧であっても、曲率が連続的に変化する楕円、クロソイド曲線等であってもよい。
【実施例1】
【0039】
図9に示すように、U字状に湾曲した帯20を解析モデルとして用い、帯20に発生する相当応力を解析した。解析モデルにおいて、まず、U字状の帯20の他方の端部22の全自由度を拘束した状態で、一方の端部21をz方向に6mm平行移動させた。移動ブロック2の高さが制限される場合に対応させるためである。そして、帯20の一方の端部21を+α方向及び−α方向に所定角度、具体的には+50°〜−80°の範囲で回転させた。帯20の一方の端部21が−61.9°回転したとき、帯20の一方の端部21と他方の端部22とが線対称になる。
【0040】
図10は、ねじり角αを−80°、−61.9°、−40°、−20°、0°、+20°、+40°に変化させたときの、帯20の変形状態、及び帯20に発生する相当応力を示す。図10の下段が、図9の解析モデルと同じ方向からみた帯20の変形状態を示し、図10の上段が、下段とは反対方向か見た帯20の変形状態を示す。αが−61.9°(線対称)に近づけば近づくほど、帯20も無理に変形しなくなり、帯20に発生する相当応力も小さくなることがわかる。αが−40°以上になると、帯20の変形も大きくなり、帯20に発生する相当応力も大きくなることがわかる。
【0041】
表1は、相当応力の解析結果を示す。この表1には、ねじり角αと帯20の一方の端部21の線対称の位置からの傾き角度との関係が併せて示されている。
【0042】
【表1】

【0043】
図11には、表1の解析結果をグラフ化したものが示される。図11の横軸がねじり角αであり、縦軸が帯部に発生する相当応力である。相当応力は、複雑な多軸応力状態の応力テンソル値を単軸引張状態の応力に換算したスカラー値である。
【0044】
図11に示すように、ねじり角αが−40〜−80°の範囲にあるとき、すなわち、帯20の一方の端部の線対称の位置からの傾き角度が±20°以内にあるとき、相当応力が12Mpa未満の小さい値になる。また、ねじり角αが−50〜−70°の範囲にあるとき、すなわち、帯の一方の端部の線対称の位置からの傾き角度が±10°以内にあるとき、相当応力が10Mpa未満の小さい値になる。ねじり角αが−61.9°のとき、すなわち帯部の一方の端部と他方の端部とが線対称になるとき、相当応力が最小値の8.70Mpaになる。
【符号の説明】
【0045】
1…軌道レール(軌道部材),1b…ボール転走溝(転動体転走部),2…移動ブロック(移動部材),2a…負荷ボール転走溝(負荷転動体転走部),3…ボール(転動体),6c…案内溝,8,14,16,19…リテーナ,10,15,17,19b…帯部,L1…接触角線,P1…負荷ボール転走路(負荷転動体転走路),P2…ボール戻し路(転動体戻し路),P3…方向転換路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸びる転動体転走部を有する軌道部材と、
前記転動体転走部に対向する負荷転動体転走部、前記負荷転動体転走部と平行に伸びる転動体戻し路、及び前記負荷転動体転走部と前記負荷転動体転走部とを接続する方向転換路を有する移動部材と、
前記軌道部材の転動体転走部と前記移動部材の前記負荷転動体転走部との間の負荷転動体転走路、前記転動体戻し路、及び前記方向転換路を含む転動体循環路に配列される複数の転動体と、
前記複数の転動体間に介在される複数のスペーサ又は前記複数の転動体を間隔を保った状態で保持する複数の保持部、及び前記複数のスペーサ又は前記複数の保持部を連結する帯部を有するリテーナと、を備える運動案内装置において、
前記軌道部材の長手方向と直交する断面で見たとき、
前記負荷転動体転走路における前記リテーナの帯部と前記転動体戻し路における前記リテーナの帯部とが非平行である運動案内装置。
【請求項2】
前記軌道部材の長手方向と直交する断面で見たとき、
前記転動体戻し路における前記リテーナの帯部が、前記負荷転動体転走路における前記リテーナの帯部に対して線対称に配置された状態にあるか、又は線対称に配置された状態から、時計方向又は反時計方向に20°以内傾いた状態にあることを特徴とする請求項1に記載の運動案内装置。
【請求項3】
前記軌道部材の長手方向と直交する断面で見たとき、
前記転動体が荷重を受けられる方向を示す接触角線と、前記負荷転動体転走路における前記リテーナの帯部とが直交することを特徴とする請求項1又は2に記載の運動案内装置。
【請求項4】
前記方向転換路及び前記転動体戻し路の少なくとも一方には、前記リテーナの前記帯部を案内する案内溝が設けられることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の運動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−2334(P2012−2334A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140733(P2010−140733)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】