説明

過熱水蒸気による熱処理装置

【課題】過熱水蒸気の充満された中空筐体内のトンネル通路内を走行する搬送ベルトに凝縮水が付着したまま、トンネル通路外へ出ることがないように、トンネル通路内で十分に乾燥することのできる過熱水蒸気による熱処理装置を提供する。
【解決手段】中空筐体20により構成されたトンネル通路21内に連続的に搬送される搬送ベルト11を走行させ、このトンネル通路21内に過熱水蒸気を供給して搬送ベルト、またはこの搬送ベルトにより搬送される搬送物を連続的に加熱処理するものにおいて、前記トンネル通路内を走行する搬送ベルトの下方より斜め上方に向かってこのトンネル通路内に過熱水蒸気を噴出する蒸気噴出ノズル41を設け、前記トンネル通路を構成する中空筐体の両端の開口部付近に、前記トンネル通路内の水蒸気および外部からトンネル通路内に侵入する外気をこのトンネル通路より下方へ吸引して、外部へ排気する排気ダクト73を結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、過熱水蒸気により搬送ベルトあるいはこの搬送ベルトによって搬送される物品等の被処理物を加熱して、殺菌、洗浄、乾燥等を行う過熱水蒸気による熱処理装置に関するものである。例えば、食品の製造、加工工程においては、連続的に搬送される食品またはこの食品を搬送するコンベア装置の搬送ベルトを殺菌、洗浄、乾燥等のために過熱水蒸気による熱処理装置が用いられる。また、グラビア印刷品やその他の工業製品等の乾燥のためにも、過熱水蒸気による熱処理装置が用いられる。
【背景技術】
【0002】
食品の製造加工を行う場合、食品の安全性を高めるために、食品自身または、この食品を搬送するコンベア装置などの製造設備を入念に殺菌・洗浄することが求められている。このような食品やその製造設備等の殺菌・洗浄するための手段として過熱水蒸気を利用すると、処理時間の短縮や、処理装置の小形化といったメリットがあり、従来から過熱水蒸気による熱処理方法または装置が多く提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、食品の加熱処理を連続的に行うために、食品を搭載して搬送する搬送ベルトを通すトンネルを設け、このトンネル内にノズルから水蒸気を注入、充満し、この充満された水蒸気に赤外線を照射して加熱することにより過熱水蒸気雰囲気を生成し、この過熱水蒸気により食品等を加熱処理するようにした熱処理装置が示されている。
【0004】
また、特許文献2には、食肉搬送ラインにおいて、水蒸気を電磁誘導加熱装置により加熱して100℃以上の過熱水蒸気を発生し、この過熱水蒸気をノズルにより搬送設備の搬送ベルトに噴出して、洗浄・殺菌を行う洗浄殺菌装置が記載されている。
【0005】
さらに、搬送装置等の加熱・殺菌処理に使用された水蒸気は最終的に装置の外部へ排出されなければならないが、その方法としては、特許文献3に示されるように、トンネルを構成する筐体より外部へ漏洩する水蒸気を別の筐体で受ける方法がある。また、特許文献4に示されるように、処理装置におけるトンネルの入口および出口から漏れる水蒸気を回収するために吸引ブロアを設け、この吸引ブロアにより入口側および出口側フードを介し
てトンネルの入口および出口から漏洩する水蒸気を吸引することが行われている。
【0006】
このような水蒸気を回収する従来技術においては、水蒸気を排気するための排気口は、コンベアベルトの通過する開口部を利用するか、トンネルを構成する筐体の上部に設けられている。
【0007】
水蒸気は空気より軽く自然対流によって上方へ流れるため、排気口を上方に設けることは合理的であり、本件出願人もすでに、排気口および排気流路を搬送ベルトの搬送面より上側に設けた、図5に示すような過熱水蒸気による熱処理装置を提案している(特許文献5参照)。
【0008】
この図5に示す従来の熱処理装置は、筒状筐体20によって構成された搬送ベルト11の走行するトンネル通路21内に水蒸気噴出ノズル41から過熱水蒸気を供給して、搬送ベルトにより搬送される食品等の被処理物または搬送ベルト自身を加熱処理して、洗浄・殺菌等を行うものである。搬送ベルト11は駆動ローラ12によって駆動される。
【0009】
トンネル通路21を構成する筒状筐体20の両端のトンネル通路入口22および出口23の付近に、トンネル通路21内の水蒸気とともに外部から侵入する外気を上方へ吸引する1対の吸引ダクト31,32の一端をそれぞれ結合し、この1対の吸引ダクト31,32の他端に、このダクトで吸引された水蒸気および外気を吸引ファン35により吸引して外部へ排気する排気ダクト34を結合している。
【0010】
このような熱処理装置においては、吸引ダクト31,32により搬送ベルト11の出入するトンネル通路21の両端の入口22および出口23から侵入する外部の空気とともにトンネル通路21内の余剰の水蒸気が吸引され、排気ダクト34を通して外部へ排出される。搬送ベルト11の出入口を構成する開口部は左右に2箇所あるので、吸引ダクトも左右にそれぞれ設けられ、筒状筐体20の上方に配設される。
【0011】
吸引ダクト31,32および排気ダクト34で構成された排気通路は、空気より軽い高温の水蒸気が通過するため、煙突の排気原理によってトンネル通路21の出入口22,23を構成する開口部から外気を吸引する効果があり、その強さは、排気通路を流れる気体の密度が低いほど大きくなる。
【0012】
このような排気通路の煙突効果等によりトンネル通路の出入口で排気通路を構成する吸引ダクトによって外気が良好に吸引されることにより、トンネル通路内への外気の侵入が抑制されるため、トンネル通路内の温度低下を防止することができるとともにトンネル通路内の温度分布の均一性を高めることができる。
【0013】
しかしながら、前記の従来の過熱水蒸気による熱処理装置においては、搬送ベルトより上方へ外気を吸引し、排気するように排気通路が設けられているため次のような問題がある。
【0014】
すなわち、何らかの原因により水蒸気の排気量が左右何れかの排気通路で偏りが生じると、水蒸気の流量が多くなった側の排気通路では気体密度が低くなり、煙突効果が高くなるため、一層排気量が大きくなる。一方、水蒸気の量が減少した側の排気通路では、気体密度が高くなり煙突効果が低下するため、排気量が一層低下する。このため、水蒸気の排気量の偏りがさらに増大されることになる。
【0015】
また、排気量の少なくなった側のトンネル通路の出入口部では、水蒸気の排気量が減少するため、外気の流入を抑えることができなくなることにより、トンネル通路内の温度が低下するという問題が生じる。
【0016】
そして排気通路を細くして排気通路の通流抵抗を大きくすれば、排気量の偏りを抑制することができるが、同じ排気量に対して大きな容量の吸引ファンなどの排気装置が必要となるため、装置のコストが増大する問題が生じる。
【0017】
熱処理装置の設置された建屋内の空調設備等から熱処理装置に横風が吹き付けられるような状況では、無風状態の時より水蒸気の排気量が片側の排気通路に偏る現象が発生しやすくなる。すなわち、横風の吹き付ける側の出入口の開口部では、外気の流入が増大する代わりに水蒸気の排気量が少なくなるため、加熱空間であるトンネル通路内の温度が横風の吹き込む側の入口または出口付近で低下し、均一な温度分布を維持することができなくなる。
【0018】
このような問題点を解決するために、図6に示すように、搬送ベルト11および被処理物の走行する両端の開口したトンネル通路21内に過熱水蒸気を供給して前記被処理物の加熱処理を行うものにおいて、過熱水蒸気を、トンネル通路21内にこの中を走行する搬送ベルト11の上方から垂直に噴き込み、前記トンネル通路21を構成する中空筐体の両端の開口部22、23付近に、前記トンネル通路21内の水蒸気および外部からトンネル通路21内に侵入する外気をこのトンネル通路21より下方へ吸引して、外部へ排気する吸気ダクト71および排気ダクト73を結合した構成の装置がこの出願の出願人によって特願2009−133328号として提案されている。
【0019】
この装置によれば、搬送ベルト11の出入するトンネル通路21の左右両端の開口部22、23から水蒸気が漏出するのを防止するとともに、横風が吹き付けてもトンネル通路内の温度分布の変動を抑え均一に保つことができる。
【0020】
しかし、このような従来装置においても次のような問題がある。
すなわち、トンネル通路21内を走行する搬送装置の搬送ベルト11の熱容量が大きい場合、搬送ベルト11がトンネル通路21内へ外部から進入した時、トンネル通路内の水蒸気が凝縮して搬送ベルト11に付着することがある。この搬送ベルト11に付着した凝縮水がトンネル通路内を走行通過する過程で除去されず搬送ベルト11に付着したまま、トンネル通路21の外側へ搬出されると、トンネル通路21外の室内で蒸発して、室内の湿度を高めるという問題が生じる。
このような湿度上昇は、特に食品製造工場においては、食品の品質の低下を招くことになるので、極力避ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平06−153881号公報
【特許文献2】特開平11−346645号公報
【特許文献3】特開2002‐199986号公報
【特許文献4】特開2004‐041098号公報
【特許文献5】特開2009−201502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
この発明は、前記のような従来装置における問題点を解決するため、過熱水蒸気の充満された中空筐体内のトンネル通路内を走行する搬送ベルトに凝縮水が付着したまま、トンネル通路外へ出ることがないように、トンネル通路内で十分に乾燥することのできる過熱水蒸気による熱処理装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
中空筐体により構成されたトンネル通路内に連続的に搬送される搬送ベルトを走行させ、このトンネル通路内に過熱水蒸気を供給して搬送ベルト、またはこの搬送ベルトにより搬送される搬送物を連続的に加熱処理するものにおいて、前記トンネル通路内を走行する搬送ベルトの下方より斜め上方に向かってこのトンネル通路内に過熱水蒸気を噴出する蒸気噴出ノズルを設け、前記トンネル通路を構成する中空筐体の両端の開口部付近に、前記トンネル通路内の水蒸気および外部からトンネル通路内に侵入する外気をこのトンネル通路より下方へ吸引して、外部へ排気する排気ダクトを結合したことを特徴とするものである。
【0024】
この発明においては、前記トンネル通路を構成する筒状筐体の天井壁の内側面の前記蒸気噴出ノズルと蒸気噴出方向に対向する位置に過熱水蒸気を前記トンネル通路の上流および下流方向へ分流させるための凹面を設けるのがよい。
【0025】
また、この発明においては、前記中空筐体の両端の開口部付近に、結合した排気ダクトにダンパーを設け、このダンパーの開度を調整して排気温度を調節するようにすることができる。
さらに、この発明においては、前記筒状筐体のトンネル通路出口側に外気の進入を抑制するシャッタを設けてもよい。
また、この発明においては、前記トンネル通路を形成する底壁を前記中空筐体の開口部へ向けて傾斜させてもよい。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、搬送ベルトおよび搬送ベルトより搬送される搬送物の走行するトンネル通路両端の開口したトンネル通路内に筒状筐体の外側に設けた蒸気噴出ノズルから、過熱水蒸気がトンネル通路内を走行する搬送ベルトの下方より斜め上方へ向かって供給されるため、搬送ベルト等の表面に付着した凝縮水が、蒸気噴出ノズルから搬送ベルトの下方から斜め上方に噴出された過熱水蒸気の噴射圧力により搬送ベルト等から吹き飛ばされて剥離し、落下した凝縮水が排気ダクトを介して排出されるため、搬送ベルト等に付着した凝縮水が除去され、搬送ベルト等は乾燥された状態でトンネル通路外に搬出されることになり、熱処理装置の設置された室内が凝縮水で加湿されることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施例の熱処理装置の構成を示す正面断面図。
【図2】図1のII−II線の縦断面図。
【図3】この発明のトンネル通路の天井壁に設ける凹部の変形例を示す部分的な縦断面図。
【図4】この発明の他の実施例の熱処理装置の構成を示す部分的な正面断面図。
【図5】従来の熱処理装置の構成を示す正面断面図。
【図6】他の従来の熱処理装置の構成を示す正面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の実施の形態を、図に示す実施例について説明する。
【0029】
図1および図2はこの発明の実施例を示すものであり、図5および図6に示す従来装置と同一の機能を有する構成要素は同一の符号を付して示す。
【0030】
図1および図2において、1は食品等を搬送するベルトコンベアであり、搬送ベルト11とこれを駆動する駆動ローラ12を備える。搬送ベルト11は、メッシュ状または梯子状の上下方向に通気可能なベルトで構成される。2は熱処理装置であり、内部が中空の筒状筐体20を備える。ここで、この実施の形態では、断面形状が四角形の筒状筐体20を例に挙げて説明するが、筒状筐体20の断面形状は円形または多角形としてもよい。
【0031】
この筒状筐体20は、耐熱性の金属板により構成され、内部に搬送ベルト11を走行させるために、左右の両端に入口22および出口23となる開口部を備えたトンネル通路21を形成する。筒状筐体20は、さらにトンネル通路21の上部に断熱材を充填して構成された断熱室61を備える。この断熱室61はトンネル通路21の上部を外気から断熱するものである。トンネル通路21の天井壁24の外側面にトンネル通路21を予備加熱するための電気ヒータ51が貼り付けられている。
【0032】
トンネル通路21の下部に断熱材を充填して構成された断熱室62が設けられる。この断熱室62内にトンネル通路2内に過熱水蒸気を供給するための蒸気噴出ノズル41を収容する。この蒸気噴出ノズル41を挟んで上流側および下流側には上流側底壁26a、下流側底壁26bからなる底壁26が設けられる。蒸気噴出ノズル41は、噴出口41aがトンネル通路21の底壁26を貫通して、過熱水蒸気をトンネル通路21内に矢印Aで示すように搬送ベルト11の下方から斜め上方へ噴き込むように構成される。蒸気噴出ノズル41の噴出口41aはトンネル通路21内を走行する搬送ベルト11の全幅にわたって均等に過熱水蒸気を噴き出すためにトンネル通路21の横幅と等しい長さに形成された蒸気噴出ノズル41のほぼ全長に亘って開口したスリットを有する(図2参照)。
トンネル通路21の天井壁24の内側面には、蒸気噴出ノズル41と蒸気噴出方向に対向して噴出された過熱水蒸気が当たる箇所にトンネル通路21内に噴出された過熱水蒸気をトンネル通路21の上流および下流の2方向へ分流させるための凹所24aが設けられる。この凹所24aは、ここでは弧状に形成されているが、図3(a)に示すよう3角形状であってもよい。また、天井壁24は、図3(b)に示すように薄板の板金を折り曲げあるいは溶接等により断面が3角形状に形成するようにしてもよいし、図3(c)に示すように4角形状に形成するようにしてもよい。凹所24aの形状は、当たった過熱水蒸気が上流側と下流側の2つに分離されるような形状であれば、どのような形状でもよい。
【0033】
また、トンネル通路21の底壁26の両端部のトンネル通路21の入口22および出口23付近にこれを貫通する吸気口25a、25bを設け、筐体20の下方に、両端をこれらの吸気口25a,25bにそれぞれ連通結合した吸引ダクト71を設けている。さらに、トンネル通路21の出口23には外気の吸い込みを抑制するために、出口23の一部を塞ぐシャッタ板27を設けている。このシャッタ板は入口22に設けても有効である。
吸引ダクト71の中央部に排気ヘッダ72を設け、この排気ヘッダ72に吸引ファン74を備えた排気ダクト73を結合している。吸引ダクト71とトンネル通路21の底壁25との間の空間に断熱材を充填して断熱室62を構成し、これによってトンネル通路21の下部を外気から断熱する。トンネル通路21の底壁25の外側面にトンネル通路21を予備加熱するための電気ヒータ52が貼り付けられている。なお、この実施の形態では中空空間を有する断熱室62としているが、これに代えてトンネル通路21の下部に断熱材のみを設けるようにしても良い。
【0034】
次に、このように構成された熱処理装置により搬送ベルト11を洗浄・殺菌するための加熱処理について説明する。
【0035】
特に、食品加工に使用される食品搬送用ベルトコンベア1は、メッシュ状または梯子状の金属ベルトで構成された搬送ベルト1上に食品を直載して搬送するので、搬送ベルトを清潔な衛生状態に保つために、加工開始前または加工終了後に、ベルトコンベア1を空運転し、搬送ベルト11を熱処理装置2のトンネル通路21の中を走行させることにより、高温の過熱水蒸気により加熱して洗浄・殺菌処理を行う。
【0036】
このような洗浄・殺菌のための加熱処理を開始する前に、熱処理装置2の電気ヒータ51,52により搬送ベルト11の通されたトンネル通路21内の予熱を行うが、この電気ヒータ51は、断熱室61,62内に、トンネル通路21の天井壁24および底壁25に貼り付けて配置されるため、効率よくトンネル通路21内の予熱を行うことができ、トンネル通路21内の温度を短時間で所定の温度まで昇温することができる。
【0037】
このような電気ヒータ51,52による予熱によってトンネル通路21内の温度が所定の供給される過熱水蒸気の温度付近まで高められたところで、蒸気噴出ノズル41から150〜500℃の高温に加熱された過熱水蒸気をトンネル通路21内に噴き込んで、トンネル通路21内の温度を洗浄・殺菌に必要な温度まで高める。過熱水蒸気の噴き込みと同時に吸引ファン74の運転を開始する。
【0038】
過熱水蒸気によってトンネル通路21内の温度が洗浄・殺菌に必要な温度まで高められたところで、食品搬送用ベルトコンベア1を空の状態で運転し、搬送ベルト11が熱処理装置2のトンネル通路21内を連続的に走行する過程でトンネル通路21内に充満たされた高温の過熱水蒸気に曝されて洗浄・殺菌処理される。
【0039】
また、この発明の熱処理装置2においては、トンネル通路21内に蒸気噴出ノズル41から噴出される過熱水蒸気は、図1に矢印Aで示すようにトンネル通路21内の搬送ベルト11の下方から斜め上方へ噴き込まれる。ここではトンネル通路21の下流側から上流側へ向かって噴き込まれているが、上流側から下流側へ向かって噴き込むようにすることもできる。
【0040】
外気温度におかれた搬送ベルト11が外部からトンネル通路内に進入すると搬送ベルト11の温度が低いため、トンネル通路内の水蒸気が凝縮して凝縮水として搬送ベルト11の表面に付着するが、過熱水蒸気を搬送ベルトの下方から斜め上方へ噴き込んでいるため、搬送ベルト11に噴き付けられた過熱水蒸気により、搬送ベルトの表面に付着した凝縮水が容易に吹き飛ばされ、搬送ベルトから剥離して飛散させることができる。このため、搬送ベルト11が蒸気噴出ノズル41から噴出される過熱水蒸気の中を横断するとき、搬送ベルト11の表面に付着した凝縮水が飛散して除去され、トンネル通路21の出口23から出た搬送ベルト11は、水分の付着がなく乾燥状態となる。
【0041】
ここで、図4に示すようにトンネル通路21を形成する上流側底壁26aを排気ダクト25aへ向けて水平面から所定角度θだけ傾斜させておくと、蒸気噴出ノズル41から噴出される過熱水蒸気により飛散され上流側底壁26aに落下した凝縮水が排気ダクト25aを介してスムーズに排出されることになる。一般的に上流側底壁26aの表面が鏡面であれば、重力により凝縮水が落下する角度は4°であるので、上流側底壁26aの表面に凹凸やキズ等があることを考慮すると角度θは、4°以上が好ましい。なお、図4では、上流側底壁26aのみを傾斜させるようにしているが、下流側底壁26bも同様に傾斜させるようにしてもよい。
【0042】
したがって、熱処理装置2を通過して熱処理された搬送ベルト11は洗浄・殺菌されるとともに水分が除去乾燥されているのでトンネル通路21から外へ出た搬送ベルト11によって室内が加湿されることがないので、室内の衛生状態を高く保つことができる。
【0043】
また、蒸気噴出ノズル41からトンネル通路21内に搬送ベルト11の下方から斜め上方に噴き込まれた矢印Aで示す過熱水蒸気が、搬送ベルト11を通過してトンネル通路の天井壁24の内側面に設けられた凹所24aに当る。ここで過熱水蒸気がトンネル通路の走行方向の上流側および下流側の2方向に良好に分流され、トンネル通路21内全体に拡散される。これにより、トンネル通路21内には矢印Bで示すような蒸気の循環流が生じ、トンネル通路21内全体はほぼ均等に過熱水蒸気で満たされ、全体の温度がほぼ均一にされる。
【0044】
トンネル通路21内に搬送ベルト11の下方から斜め上方へ噴き込まれた過熱水蒸気が衝突するトンネル通路21の天井壁面が平坦面であると、過熱水蒸気は噴き込まれた方向に天井壁の内側面に沿って上流側または下流側の一方向にだけ流れるため、トンネル通路21内の過熱水蒸気の分布が不均一となる。
【0045】
しかし、この発明では、トンネル通路21内に噴き込まれた過熱水蒸気の天井壁24に当たる部分に凹所24aを設けているので、この凹所24aで過熱水蒸気が、上流側および下流側の2方向に分流されてトンネル通路21内の全体に拡散されるため、トンネル通路21内全体に過熱水蒸気がほぼ均一に分布することができる。
蒸気噴出ノズル41を複数個設け、トンネル通路21に沿って適宜の間隔で配置するようにすれば、トンネル通路21内の過熱水蒸気の分布をより均等にすることができる。
【0046】
トンネル通路21内に噴き込まれた過熱水蒸気により、トンネル通路21内の内圧が大気圧より高い圧力に高められ、トンネル通路21の搬送ベルト11の出入りする入口22および出口23からトンネル通路内への外気の侵入が抑制されるので、出入口22、23付近の蒸気濃度を高く維持することができ、この付近で凝縮水が発生するのを防止することができる。
【0047】
また、排気ダクト73に設けた吸引ファン74の吸引作用によりトンネル通路21の両端の入口22および出口23付近の吸気口25aおよび25bに両端を結合した吸引ダクト71を通してトンネル通路21内の余剰の水蒸気が、入口22および出口23から侵入する外気(点線矢印)とともに吸引され、排気ヘッダ72および排気ダクト73を通して外部へ排出される。これによっても、外気がトンネル通路21の奥まで侵入するのが抑制される。そして外気とともに吸引された余剰の水蒸気は、排気ダクト73の先端に接続された図示しない水蒸気を冷却して凝縮する凝縮装置により水に戻して回収される。
【0048】
このような余剰水蒸気の吸引は、トンネル通路21の入口22および出口23から水蒸気がトンネル通路外へ流出しないようにするために行うものであり、実施例の装置では、吸気ダクト71に回転ダンパー71aおよび71bを設け、このダンパーの開度の調節により、吸引する排気流量を調整できるようにしている。吸引する排気流量が少ないと排気の温度が高くなり、吸引ファン35の前段に排気を冷却して水蒸気を除去するための凝縮器が必要となる場合がある。
【0049】
図1および図2に示すようにトンネル通路21の過熱水蒸気の一部を吸引して排気する吸引ダクト71は、トンネル通路21の両端の吸気口25a、25bからトンネル通路21内の過熱水蒸気および外気をこれより下方に吸引するように、トンネル通路21の下方に配設されている。このように、吸気口25a,25bから下方に過熱水蒸気および外気を吸引すると、排気口25aおよび25b付近において、外気より高温で密度の低い過熱水蒸気に吸引を妨げる方向の上昇力が働くため、吸気ダクト71における過熱水蒸気による煙突効果が抑制されるようになる。
【0050】
通常は、トンネル通路21の両端の吸気口25aおよび25bからの吸気量が等しく平衡するように設定されているが、何らかの原因、例えば、図1に図示するように、トンネル通路21の出口23に向けて横風Wが吹き込むことにより平衡が崩れ、一方の入口22側の排気口25aからの水蒸気の吸気量が大きくなり他方の出口23側の排気口25bからの水蒸気の吸気量が小さくなるような偏りが生じることがある。
【0051】
このように、両端の排気口25aおよび25bにおける水蒸気の吸気量に偏りが生じた場合、この発明の装置においては、前記したように過熱水蒸気が煙突効果を抑制するように作用するため、水蒸気の吸気量の大きくなった側の排気口においては、過熱水蒸気の量が増大することによって、吸気作用が抑制され、水蒸気の吸気量の小さくなった側の排気口においては、過熱水蒸気の量が減少することによって、吸気作用が増大されるようになる。これにより、トンネル通路21の両端の排気口25aおよび25bの水蒸気の吸気量が平衡に戻され過熱水蒸気の排気量の偏りが解消される。
【0052】
この発明においては、トンネル通路21内に搬送ベルト11下方から斜め上方、特に、トンネル通路21の下流側から上流側へ斜め上方へ過熱水蒸気を噴き込んで、トンネル通路21の天井壁24に設けた、図1に示すような弧状または図3に示すような3角状の凹所24aに当てることにより、過熱水蒸気をトンネル通路21の下流側と上流側へ均等に分流させることができるので、トンネル通路21内の温度は、入口22および出口23付近を除いてほぼ均等な温度分布とすることができる。外部から横風の吹き込むトンネル通路21の出口23側では、外気が吹き込む関係で温度は、入口22側に比べて変動するが、温度の低下は入口22側とほとんど同じで差がなく、横風の影響をほとんど受けることはない。これは、出口23から横風により吹き込まれた外気により排気口25bから吸引される水蒸気の吸気量を減少させようとする作用が排気口25aと排気口25bでの煙突効果によるバランス回復作用によって抑えられることと、横風によって吹き込まれた外気がトンネル通路21の奥まで到達せず出口23の近傍で排気口25bから吸気ダクト71に吸引されることによるものである。
【符号の説明】
【0053】
1:ベルトコンベア、11:搬送ベルト、12:駆動ローラ、2:熱処理装置、20:筒状筐体、21:トンネル通路、22:入口、23:出口、25a,25b:排気口、41〜43:蒸気噴出ノズル、41a〜43a:噴出口、61,62:断熱室。71:吸引ダクト、72:排気ヘッダ、73:排気ダクト、74:吸引ファン、W:横風。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筐体により構成されたトンネル通路内に連続的に搬送される搬送ベルトを走行させ、このトンネル通路内に過熱水蒸気を供給して搬送ベルト、またはこの搬送ベルトにより搬送される搬送物を連続的に加熱処理するものにおいて、前記トンネル通路内を走行する搬送ベルトの下方より斜め上方に向かってこのトンネル通路内に過熱水蒸気を噴出する蒸気噴出ノズルを設け、前記トンネル通路を構成する中空筐体の両端の開口部付近に、前記トンネル通路内の水蒸気および外部からトンネル通路内に侵入する外気をこのトンネル通路より下方へ吸引して、外部へ排気する排気ダクトを結合したことを特徴とする過熱水蒸気による熱処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の過熱水蒸気による熱処理装置において、前記トンネル通路を構成する中空筐体の天井壁の内側面の前記蒸気噴出ノズルと蒸気噴出し方向に対向する位置に過熱水蒸気を前記トンネル通路の上流および下流方向へ分流させるための凹面を設けたことを特徴とする過熱水蒸気による熱処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の過熱水蒸気による熱処理装置において、前記中空筐体の両端の開口部付近に、結合した排気ダクトにダンパーを設け、このダンパーの開度を調整して排気温度を調節するようにしたことを特徴とする過熱水蒸気による熱処理装置。
【請求項4】
請求項1から3の1つに記載の過熱水蒸気による熱処理装置において、前記中空筐体のトンネル通路の出口付近あるいは入口付近の一方または両方にシャッタ板を設けたことを特徴とする過熱水蒸気による熱処理装置。
【請求項5】
請求項1から4の1つに記載の過熱水蒸気による熱処理装置において、前記トンネル通路を形成する底壁を前記中空筐体の開口部へ向けて傾斜させることを特徴とする過熱水蒸気による熱処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−72944(P2012−72944A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217274(P2010−217274)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】