説明

過給式内燃機関の作動方法

【課題】過給式内燃機関を作動させるための新規な方法を創出することを課題とする。
【解決手段】過給式内燃機関、特に重油で作動される船舶用ディーゼルエンジンを作動させるための方法であって、前記内燃機関(10)の排ガスは、ターボチャージャのタービン(15)に、前記排ガスを膨張させるために供給され、このとき得られるエネルギーは、前記ターボチャージャの圧縮機(12)において、前記内燃機関(10)に供給されるべき過給空気を圧縮するために用いられる方法において、前記過給空気の過給圧を制限するために、前記排ガスに対して、前記内燃機関(10)の下流で、かつ、前記タービン(15)の上流において水が導入され、当該水は少なくとも部分的に蒸発する状態で導入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1のおいて書き部に記載の、過給式内燃機関を作動させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過給式内燃機関、例えば過給式船舶用ディーゼルエンジンは、実用化されたものが十分に知られている。すなわち過給式内燃機関において、内燃機関の排ガスは、ターボチャージャのタービンに供給されるとともに、タービンにおいて膨張させられる。このようにタービンにおいて排ガスが膨張する際に得られるエネルギーは、ターボチャージャの圧縮機を駆動するために用いられ、それによって、圧縮機を介して内燃機関に供給すべき過給空気を圧縮する。
【0003】
従来技術からさらに、内燃機関の出力を高めるために圧縮された過給空気を、圧縮後に給気冷却器を介して導き、それによって内燃機関に、圧縮かつ冷却された空気を供給することが知られている。
【0004】
内燃機関に供給すべき過給空気の過給圧を制限するために、内燃機関から出た排ガスの一部を、いわゆるウェイストゲートを介してタービンの傍らを通過するように導き、それによってタービン内で生成可能なエネルギーを減少させることが、実際の業務からすでに知られている。このように過給圧を制限するために排ガス側で行われる介入に加えて、過給圧を制限するために過給空気側で行われる介入も、実際の業務から知られており、例えば内燃機関の上流において、圧縮された過給空気の一部に対して、いわゆる過給空気排出が行われる。
【0005】
実際の業務から、過給圧を制限するための様々な可能性がすでに知られてはいるが、過給式内燃機関に供給すべき過給空気の過給圧を制限するための新規な方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の点に鑑み、本発明は、過給式内燃機関を作動させるための新規な方法を創出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、請求項1に記載の過給式内燃機関を作動させるための方法によって解決される。本発明によれば、過給空気の過給圧を制限するために、内燃機関の下流で、かつ、タービンの上流において、排ガスに対して水が導入され、当該水は少なくとも部分的に蒸発する状態で導入される。本願発明によって、内燃機関の下流で、かつ、タービンの上流において、排ガスに対して水を、当該水を少なくとも部分的に蒸発させながら導入することが初めて提案される。これによって排ガスの温度を低下させることができ、それによって最終的に、タービン内で生成可能なエネルギーを低減させることができる。当該方法によって実現可能な過給圧の制限は、特に容易に、内燃機関、例えば重油で作動される船舶用ディーゼルエンジンにおいて実用化され得る。
【0008】
好適に水は、所定の圧力および所定の温度で排ガスに導入される。このとき当該水の所定の温度は、周囲圧力または内燃機関の下流の排気圧力において、当該水の沸騰温度を20K乃至5Kの範囲で下回る温度であり、当該水の所定の圧力は、内燃機関の下流の排気圧力の2倍乃至5倍の範囲の大きさである。水が、所定の圧力および所定の温度で排ガスに導入されると、特に有効な過給圧の制限を行うことができる。すなわち、所定の温度を介して水は、出来る限り沸点に接近させられ、それによって排ガスにおいて水を完全かつ迅速に蒸発させることができる。当該圧力を介して水を排ガスに導入する際、当該水を細かい霧状にすることができる。
【0009】
本発明の好適なさらなる構成によれば、過給空気の実際の過給圧が閾値よりも小さいとき、排ガスに水は導入されず、それに対して過給空気の実際の過給圧が閾値よりも大きいとき、排ガスへの水の導入は、当該導入される水の量または質量流量が、実際の過給圧と閾値との偏差に依存するように行われる。排ガスに導入される水の量もしくは質量流量を上記のように調整もしくは制御することは、特に容易かつ効率的である。
【0010】
本発明の好適なさらなる構成は従属請求項および以下の詳細な説明に記載されている。本発明の実施の形態を図面に基づいてより詳しく説明するが、本発明は当該実施の形態に制限されるものではない。図面に示すのは以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る過給式内燃機関を作動させるための方法を明瞭化するために、過給式内燃機関を概略的に示す図である。
【図2】本発明に係る方法をさらに明瞭化するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は過給式内燃機関を極めて概略的に示している。当該内燃機関は好適に、重油で作動される船舶用ディーゼルエンジンである。
【0013】
図1によれば本来の内燃機関10に過給空気11が供給される。当該過給空気は内燃機関への供給に先立って、ターボチャージャの圧縮機12において圧縮され、当該圧縮機12における圧縮の後に、給気冷却器13において所定の温度に冷却されている。内燃機関10を出た排ガス14は、ターボチャージャのタービン15において膨張させられ、このとき得られるエネルギーは、ターボチャージャの圧縮機12を駆動するために用いられる。
【0014】
内燃機関10に供給される過給空気11の過給圧を制限するために、本願発明では、排ガス14に対して、内燃機関10の下流で、かつ、タービン15の上流において水が導入され、当該水は少なくとも部分的に蒸発する状態で導入される。このとき排ガス14に導入される水は、当該排ガス14への当該水の導入の際に、好ましくは完全に蒸発させられる。
【0015】
図1は装置16を示しており、当該装置を用いて、排ガス14に対して、内燃機関10の下流で、かつ、タービン15の上流において、水が導入され得る。このような水導入装置16は、別個の噴射装置あるいは、場合によっていずれにしても設けられるターボチャージャの洗浄装置であってもよい。
【0016】
本発明に係る方法の作用を以下に図2を参照しながら説明する。図2では、タービン15内で膨張させられる排ガス14のエントロピーsに対して、排ガス14のエンタルピーhと温度Tとが図示されている。図2にはさらに、等圧線、すなわち一定の圧力pの曲線が示されている。
【0017】
点17,18および19によって、タービン15における排ガス14の膨張が示されており、当該膨張は、従来技術に従って排ガス14に水を導入しない場合に想定されるように形成されている。すなわち点17は、圧力pと、温度Tもしくはエンタルピーhとを有する、膨張させるべき排ガス14、すなわち内燃機関10のすぐ下流における排ガス14の排気状態を視覚化している。
【0018】
等エントロピー効率が100%である理想的なタービン15において、点17によって表される排ガス(圧力p、温度T、エンタルピーh)は、点18に膨張させられ、等エントロピー効率が100%よりも小さい現実のタービンにおいては、点19(圧力p、温度T、エンタルピーh)に膨張させられる。タービン15におけるこのような膨張の際に、出力もしくはエネルギーが獲得され得、当該出力もしくはエネルギーはエンタルピー差Δh=h−hzに依存している。
【0019】
本発明によれば、排ガス14に対して、内燃機関10の下流で、かつ、タービン15の上流において水が導入され、当該水は蒸発する状態で導入される。すなわち、水の導入および蒸発によって、排ガスは点17(圧力p、温度T、エンタルピーh)から、例えば点17’(圧力p、温度T、エンタルピーh)に、図2に表された等圧線(p=p)に沿って移動され得る。こうして、水の導入および蒸発によって、排ガス14の温度(T>T)のみならず、エンタルピー(h>h)も低減される
【0020】
タービン15において上記の排ガス17’(圧力p、温度T、エンタルピーh)が膨張するとき、当該排ガスは等エントロピー効率が100%である理想的なタービンにおいて、点18’に膨張させられ、等エントロピー効率が100%よりも小さい現実のタービンにおいては、点19’(圧力p、温度T、エンタルピーh)に膨張させられる。このとき形成されるエンタルピー差Δh’は、タービン15において水の導入および蒸発を行わない場合に形成されると想定されるエンタルピー差Δhよりも小さい。従って本発明により、排ガス14の膨張の際にタービン15によって生成されるエネルギーもしくは出力は低減され得る。
【0021】
さらに、本発明によって過給圧が減少されているとき、新たな平衡が調整されるまで圧力pも低下する。
【0022】
このように本発明により、過給空気11の過給圧を制限するために、タービン15によって生成されるとともに、圧縮機12において過給空気11を圧縮するために用いられる、出力もしくはエネルギーは低減される。当該低減はすなわち、排ガス14に対してタービン15の上流で、かつ、内燃機関10の下流において水を導入および蒸発させることによって行われる。
【0023】
水は、所定の圧力および所定の温度で排ガス14内に導入され、好ましくは噴射される。当該水の所定の温度は、周囲圧力における当該水の沸騰温度を20K乃至5Kの範囲で下回る温度であり、特に、周囲圧力における当該水の沸騰温度を15K乃至10Kの範囲で下回る温度である。同様に、当該水の温度は、内燃機関10の下流で、従って、タービン15の上流における排気圧力における水の沸騰温度を20K乃至5Kの範囲で下回る温度であり、特に、15K乃至10Kの範囲で下回る温度であってよい。当該水の所定の圧力であって、当該所定の圧力によって当該水が排ガス14に導入される所定の圧力は、内燃機関10の下流で、従って、タービン15の上流における排気圧力の2倍乃至5倍の範囲、好ましくは3倍乃至4倍の範囲の大きさである。
【0024】
排ガス14に導入すべき水の量もしくは質量流量は、好適に以下のように決定される。すなわち、過給空気の実際の過給圧が閾値よりも小さいとき、排ガス14に水は導入されず、それに対して過給空気の実際の過給圧が閾値よりも大きいとき、排ガスへの水の導入は、実際の過給圧と閾値との偏差に依存するように行われる。好適に過給圧pに対して、閾値pL,MAXを上回る際に導入される水の質量流量mは、以下の式によって決定される。
=k(pL,MAX−p) ・・・数式(1)
上記の式は、閾値を上回る際に、排ガス14に導入される水の質量流量mと、実際の過給圧pと閾値もしくは最大許容過給圧pL,MAXの差、との間の直線関係を表しており、当該式においてkは一定の比例定数を表す。
【符号の説明】
【0025】
10 内燃機関
11 過給空気
12 圧縮機
13 給気冷却器
14 排ガス
15 タービン
16 水導入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給式内燃機関、特に重油で作動される船舶用ディーゼルエンジンを作動させるための方法であって、前記内燃機関(10)の排ガスは、ターボチャージャのタービン(15)に、前記排ガスを膨張させるために供給され、このとき得られるエネルギーは、前記ターボチャージャの圧縮機(12)において、前記内燃機関(10)に供給されるべき過給空気を圧縮するために用いられる方法において、
前記過給空気の過給圧を制限するために、前記排ガスに対して、前記内燃機関(10)の下流で、かつ、前記タービン(15)の上流において水が導入され、当該水は少なくとも部分的に蒸発する状態で導入されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記水は、前記排ガスに導入される際に、完全に蒸発させられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水は、所定の圧力および所定の温度で前記排ガスに導入され、特に噴射され、かつ、噴霧されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記水の前記所定の温度は、周囲圧力における当該水の沸騰温度を20K乃至5Kの範囲で下回る温度であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記水の前記所定の温度は、前記内燃機関(10)の下流での排気圧力における当該水の沸騰温度を20K乃至5Kの範囲で下回る温度であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記水の前記所定の圧力は、前記内燃機関(10)の下流における排気圧力の2倍乃至5倍の範囲の大きさであることを特徴とする請求項3から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記過給空気の実際の過給圧が閾値よりも小さいとき、排ガスに水は導入されず、前記過給空気の実際の過給圧が閾値よりも大きいとき、排ガスへの水の導入は、当該導入される水の量または質量流量が、実際の過給圧と閾値との偏差に依存するように行われることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水は前記ターボチャージャの洗浄装置(16)を介して、前記排ガスに導入されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水は前記ターボチャージャの別個の噴射装置(16)を介して、前記排ガスに導入されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−167664(P2012−167664A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8724(P2012−8724)
【出願日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【出願人】(510153962)マン・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー (65)
【Fターム(参考)】