説明

過給機付き内燃機関

【課題】複数の圧縮機を並列に設けた場合の外部騒音を低減する。
【解決手段】本発明に係る過給機付き内燃機関は、吸気通路の分岐位置の下流側に並列に設けられた複数の圧縮機と、これら圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように前記複数の圧縮機の少なくとも一つを制御する圧縮機制御手段とを備えることを特徴とする。並列に設けられた複数の圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように複数の圧縮機の少なくとも一つが制御されるので、外部に放出される騒音が効果的に低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過給機付き内燃機関に係り、特に、過給機の圧縮機を並列に設けた場合の外部騒音を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車に搭載する車両用過給機としてターボ過給機(ターボチャージャ)が一般的であり、このターボ過給機は、エンジンから排出された排気ガスのエネルギを利用してタービンを駆動し、このタービンと同軸連結された圧縮機を駆動して、吸入空気を圧縮ないし過給するようになっている。また、車両用過給機として、クランク軸からの駆動力により圧縮機を作動させて吸入空気を過給する機械式過給機(スーパーチャージャ)や、電気モータからの駆動力により圧縮機を作動させて吸入空気を過給する電動式過給機もある。
【0003】
一方、吸気通路を分岐させてその分岐位置の下流側に複数の圧縮機を並列に設けることも知られている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
【特許文献1】実開平3−68528号公報
【特許文献2】特開平7−19060号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、圧縮機において羽根車が回転するとき、羽根車の羽根が空気の流れを横切って移動することにより、羽根車の周方向において圧力が交互に増減する圧力場が生じ、この圧力場に起因して騒音が生じることが知られている。この騒音は、圧縮機から吸気通路内を上流側に伝播し、エアクリーナを通じて外部に放出されるので、車内及び車外において問題となる。
【0006】
そして、吸気通路に複数の圧縮機を並列に設ける場合だと、各圧縮機から発した騒音が重なり合って増長し、外部騒音が大きくなることが懸念される。
【0007】
そこで、本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、複数の圧縮機を並列に設けた場合の外部騒音を低減し得る過給機付き内燃機関を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一形態にかかる過給機付き内燃機関は、吸気通路の分岐位置の下流側に並列に設けられた複数の圧縮機と、これら圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように前記複数の圧縮機の少なくとも一つを制御する圧縮機制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
この本発明の一形態によれば、圧縮機制御手段により、並列に設けられた複数の圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように複数の圧縮機の少なくとも一つが制御されるので、外部に放出される騒音が効果的に低減される。
【0010】
好ましくは、前記圧縮機制御手段は、前記複数の圧縮機から発する騒音を前記分岐位置において互いに打ち消すように前記複数の圧縮機の少なくとも一つを制御する。
【0011】
各圧縮機で発生して上流側に伝播する各騒音は、吸気通路の分岐位置で重なり合って、その後外部に放出される。よってこの好ましい形態のように、複数の圧縮機から発する騒音を分岐位置において互いに打ち消すように複数の圧縮機の少なくとも一つを制御することにより、外部に放出される騒音を効果的に低減することができる。
【0012】
好ましくは、前記複数の圧縮機の回転速度を検出する速度検出手段をさらに備え、前記圧縮機制御手段は、前記速度検出手段によって検出された前記複数の圧縮機の回転速度が同一回転速度となるように前記少なくとも一つの圧縮機の回転速度を制御する。
【0013】
複数の圧縮機を並列に設ける場合、これら圧縮機は略同一仕様とされることが多い。よってこれら複数の圧縮機の回転速度が同一回転速度となるように少なくとも一つの圧縮機の回転速度を制御することにより、複数の圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように圧縮機を制御することが容易となる。
【0014】
好ましくは、前記複数の圧縮機の回転位相を検出する位相検出手段をさらに備え、前記圧縮機制御手段は、前記位相検出手段によって検出された前記複数の圧縮機の回転位相の位相差が、前記複数の圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように設定された所定の位相差に一致するように、前記少なくとも一つの圧縮機の回転位相を制御する。これにより、複数の圧縮機から発する騒音が互いに打ち消され、外部騒音を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、複数の圧縮機を並列に設けた場合の外部騒音を低減することができるという、優れた効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
図1に本発明の実施形態に係る過給機付き内燃機関を示す。内燃機関即ちエンジンは自動車用多気筒エンジン(気筒数Z、但しZは偶数)であって、ガソリンエンジン等の火花点火式エンジンであってもよく、或いはディーゼルエンジン等の圧縮着火式エンジンであってもよい。エンジンは、シリンダブロック及びシリンダヘッド等から構成されるエンジン本体10と、エンジン本体10に接続され吸気管等から構成される吸気通路12とを有する。吸気通路12の上流端にはエアクリーナ14が配設される。吸気通路12は途中で複数(本実施形態では二つ)に分岐され、分岐位置16の下流側に第1吸気通路12A及び第2吸気通路12Bが形成される。全気筒は半数ずつの二つの気筒群に分割され、第1吸気通路12A及び第2吸気通路12Bはそれぞれ各気筒群に接続されて各気筒群に吸入空気を供給する。各気筒群には第1排気通路18A及び第2排気通路18Bも接続され、各気筒群の排気ガスが第1排気通路18A及び第2排気通路18Bを通じて排出される。
【0018】
本実施形態のエンジンは複数の過給機を並列に有し、特に二つのターボ過給機を並列に備えてなる所謂パラレルツインターボエンジンとして構成されている。第1ターボ過給機20A及び第2ターボ過給機20Bがそれぞれ第1吸気通路12Aと第1排気通路18A、及び第2吸気通路12Bと第2排気通路18Bに対応して設けられている。第1ターボ過給機20A及び第2ターボ過給機20Bは略同一の構成ないし仕様とされる。第1ターボ過給機20Aは、第1吸気通路12Aに設けられたラジアル式の第1コンプレッサ(第1圧縮機)22Aと、第1排気通路18Aに設けられ第1コンプレッサ22Aに同軸連結されたラジアル式の第1タービン24Aとから構成されている。また、第2ターボ過給機20Bは、第2吸気通路12Bに設けられたラジアル式の第2コンプレッサ(第2圧縮機)22Bと、第2排気通路18Bに設けられ第2コンプレッサ22Bに同軸連結されたラジアル式の第2タービン24Bとから構成されている。
【0019】
第1吸気通路12Aにおいて、第1コンプレッサ22Aの下流側には第1インタークーラ26Aが設けられている。また、第2吸気通路12Bにおいて、第2コンプレッサ22Bの下流側には第2インタークーラ26Bが設けられている。
【0020】
エンジンには、エンジン全体の制御を司る制御手段としての電子制御ユニット(以下ECUという)100が設けられている。また、第1ターボ過給機20A及び第2ターボ過給機20Bには、それぞれ、対応するコンプレッサの羽根車の回転位相を検出するため第1位相センサ28A及び第2位相センサ28Bが設けられている。この位相センサについては任意のものが使用可能である。例えば、コンプレッサの羽根車が取り付けられているタービンシャフトに多角ナット又は歯付リングを同軸に取り付け、羽根車の回転時、多角ナット又は歯付リングの凸部又は歯の通過を非接触センサで検出し、その通過毎に非接触センサから連続的に出力パルスを発生させる位相センサを使用することが可能である。或いは、コンプレッサ羽根車の外側のシュラウド壁にギャップセンサを設置し、羽根車の羽根の通過毎にギャップセンサから連続的に出力パルスを発生させる位相センサを使用することが可能である。さらには、タービンシャフトの一部を切り欠いてこの切欠部の通過を非接触センサで検出する位相センサを使用することも可能である。
【0021】
第1位相センサ28A及び第2位相センサ28Bの出力信号(出力パルス)に基づき、ECU100は、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相を検出する。また、ECU100は、それら第1位相センサ28A及び第2位相センサ28Bの出力信号に基づいて第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度を算出する。このように、ECU100、第1位相センサ28A及び第2位相センサ28Bにより速度検出手段及び位相検出手段が構成される。
【0022】
また、エンジンには、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bを制御する圧縮機制御手段が設けられている。より具体的には、第1タービン24A及び第2タービン24Bに第1変速装置30A及び第2変速装置30Bが設けられている。第1変速装置30A及び第2変速装置30Bも略同一の構成ないし仕様とされる。第1変速装置30A及び第2変速装置30Bは、第1タービン24A及び第2タービン24Bの回転速度を変え、これを以て第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度を変えるものである。本実施形態における第1変速装置30A及び第2変速装置30Bは可変ノズル式であり、即ち、タービン羽根車の入口部に設けられた多数の可動ノズルベーンと、これら可動ノズルベーンの開度を変えるためのアクチュエータとを備える。ECU100はアクチュエータを制御し、これを以て可動ノズルベーン開度ひいてはタービン流量を制御する。可動ノズルベーン開度の減少・増大に応じて第1タービン24A及び第2タービン24Bひいては第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度が増大・減少される。
【0023】
例えば第1コンプレッサ22Aに関し、その回転速度を一端増速させ、再度元の速度に減速させるようにすると、ほぼ同一の回転速度を保持したまま第1コンプレッサ22Aの回転位相を変えることができる。こうして、ECU100、第1変速装置30A及び第2変速装置30Bにより圧縮機制御手段が構成され、この圧縮機制御手段により第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度及び回転位相が制御される。
【0024】
本実施形態の第1変速装置30A及び第2変速装置30Bはコンプレッサ回転速度を増大・減少し得るものである。このほか、第1変速装置30A及び第2変速装置30Bとして、例えばタービンスクロール室の入口部に設けられた可変ノズルの開度をアクチュエータにより変更し、タービン回転速度ひいてはコンプレッサ回転速度を増減するものも採用し得る。或いは、タービンをバイパスさせて排気ガスを流通させるバイパス通路を設け、このバイパス通路をバイパスバルブ及びアクチュエータで開閉し、タービン回転速度ひいてはコンプレッサ回転速度を変更するものも採用し得る。但しこの場合、タービン回転速度ひいてはコンプレッサ回転速度を減少するのみで、増大することはできない。
【0025】
さて、前述したように、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bにおいては、各々の羽根車が回転するとき、各羽根が空気の流れを横切って移動することに起因して、羽根車の周方向に交互に圧力が増減する圧力場が生じ、この圧力場に起因して騒音が発生する。そして、この騒音がコンプレッサから吸気通路内を上流側に伝播し、エアクリーナを通じて外部に放出され、外部騒音となり問題となる。
【0026】
これをより詳しく説明すると、羽根車の回転中、羽根車に対して軸方向に流入してくる空気流を、周方向に移動する羽根が直角に横切り、これにより羽根の移動方向側の面には正圧場が、その裏面には負圧場ができる。そしてこの羽根毎の正圧場及び負圧場に対応して、羽根車の周方向には羽根の枚数と同数の圧力ピークが生じる。
【0027】
これを図示したのが図2に示される圧力ロブパターンである。なお参考のため、図にはコンプレッサの羽根車32とその複数(図示例では6枚)の羽根34とを簡略的に示す。図示される線図Jは、羽根車32の軸方向上流側から見たときに羽根車32の周囲にできる圧力場を示し、羽根車32の中心Oから半径方向外側にいくに従って圧力値は大きくなる。そして、各羽根34の位相位置で、羽根34が空気流を横切ることに起因する圧力ピークPが生じる。この圧力ピークPは羽根34の枚数と同数、且つ羽根34と同一の位相位置で発生する。コンプレッサの運転中は、回転する羽根車32と同一位相且つ同一回転速度で、羽根車32と一緒に、図示される圧力ロブパターンが中心Oの回りを回転すると考えてよい。
【0028】
この圧力ロブパターンの回転に伴って、翼通過周波数(BPF; Blade Passing Frequency)騒音(以下BPF騒音という)が発生する。このBPF騒音は、羽根車32の単位時間当たりの回転数Mc(1/sec)と羽根車32の羽根枚数Zbとの積F=Zb×Mc(1/sec)で表される周波数にピークをもった騒音である。この騒音の発生位置は羽根形状に起因して羽根車32の入口付近、特に羽根34の入口側の前端縁(リーディングエッジ)付近である。
【0029】
第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bにおいてこのように発生した騒音は、それぞれ第1吸気通路12A及び第2吸気通路12Bを逆流し、分岐位置16で合成されてその後エアクリーナ14から外部に放出される。そして仮に分岐位置16で重なり合う両騒音の位相が同一であると、両騒音が互いを強め合って騒音エネルギが2倍となり、外部騒音が著しく増大する。他方、分岐位置16で重なり合う両騒音の位相が逆位相であると、両騒音は互いに打ち消し合い、これによって外部に放出される騒音が効果的に低減される。
【0030】
そこで、本実施形態では、このように第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bで発生した騒音を互いに打ち消すように、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの少なくとも一方を制御する。より具体的には、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bで発生した騒音を互いに打ち消すように、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの少なくとも一方の回転速度及び回転位相を制御する。
【0031】
図3は、かかる騒音低減制御のルーチンを示す。なおこのルーチンはECU100により所定の時間周期又はクランク角周期で繰り返し実行される。
【0032】
まずステップS101において、ECU100は、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相θc1,θc2及び回転速度Nc1,Nc2を検出する。具体的には、ECU100は、第1位相センサ28A及び第2位相センサ28Bにより検出された第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相θc1,θc2の値を取得すると共に、これら回転位相θc1,θc2に基づいて回転速度Nc1,Nc2を算出し、その値を取得する。
【0033】
次にECU100は、ステップS102において、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度Nc1,Nc2が同一か否かを判断する。これら回転速度Nc1,Nc2が同一でない場合、ECU100はステップS103に進み、それら回転速度Nc1,Nc2が同一となるように、第1変速装置30A及び第2変速装置30Bのいずれか一方又は両方を制御し、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度Nc1,Nc2のいずれか一方又は両方を制御する。そして今回のルーチンを終了する。
【0034】
他方、ECU100は、ステップS102において第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度Nc1,Nc2が同一と判断した場合、ステップS104に進み、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相θc1,θc2の差即ち回転位相差θdが所定値θd1に一致しているか否かを判断する。所定値θd1は、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bから発した騒音が分岐位置16で互いに打ち消し合わされるように設定された回転位相差の値である(詳しくは後述)。ECU100は、回転位相差θdが所定値θd1に一致していないと判断した場合、ステップS105に進み、回転位相差θdが所定値θd1に一致するように、第1変速装置30A及び第2変速装置30Bのいずれか一方又は両方を制御し、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相θc1,θc2のいずれか一方又は両方を制御する。そして今回のルーチンを終了する。
【0035】
このように当該ルーチンを繰り返し実行すると、やがて第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度Nc1,Nc2が同一となり、且つ、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相差θdが所定値θd1に一致するようになって、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bから発した騒音が分岐位置16で互いに打ち消し合わされるようになり、外部騒音が効果的に低減される。
【0036】
ここで以下、前記所定値θd1について説明する。この所定値θd1は、互いに同一である第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度(以下便宜上「コンプレッサ回転速度Nc」という)に応じて変化し得る値であり、ECU100によって以下のように計算される。
【0037】
第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22BをBPF騒音の音源とみなすと、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bからそれぞれ発信される騒音(以下、第1騒音及び第2騒音という)は、その第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの位置(特にそれら羽根車の入口部の位置)においてそれぞれ次式(1)、(2)で表される。
F10=A1cos(a/λ×2πt) ・・・(1)
F20=A1cos(a/λ×2πt+θ) ・・・(2)
【0038】
ここで、F10,F20:第1騒音及び第2騒音の波の高さ、A1:第1騒音及び第2騒音の振幅、a:音速、λ:波長、t:時間、θ:第1騒音に対する第2騒音の位相差である。第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転速度Nc1,Nc2が等しいので、第1騒音及び第2騒音の振幅及び波長は等しいとすることができる。
【0039】
BPF騒音は、羽根車の回転数Mc(1/sec)と羽根車の羽根枚数Zbとの積F=Zb×Mc(1/sec)で表される周波数にピークをもった騒音である。従ってこのピーク周波数Fに着目すれば、波長λはλ=a/Fから計算される。羽根車の回転数Mcはコンプレッサ回転速度Ncから計算され、羽根枚数ZbはECU100に予め入力されている。
【0040】
次に、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bから分岐位置16までの通路長ないし距離をそれぞれL1,L2とすると(図1参照)、L1,L2はそれぞれ次式(3)、(4)で表される。
L1=λm+b (3)
L2=λn+c (4)
【0041】
ここでm,nは整数であり、b,c<λである。L1,L2の値は幾何学的に定まっており、ECU100に予め入力されている。L1とL2は異なる値であることもある。λが上述のように計算されて既知なので、m,n,b,cも自ずと計算されることができる。
【0042】
他方、分岐位置16における第1騒音及び第2騒音の波の高さF1,F2は次式(5)、(6)で表される。
F1=A2cos(a/λ×2π(t−L1/a)) ・・・(5)
F2=A2cos(a/λ×2π(t−L2/a)+θ) ・・・(6)
【0043】
ここで(1)、(2)式と比べると、第1騒音及び第2騒音の振幅がA1からA2(<A1)へと変更されているが、これは第1騒音及び第2騒音が分岐位置16に到達する間の減衰を考慮したためである。ただし、両騒音の減衰量は等しいと仮定している。
【0044】
(5)、(6)式は、(3)、(4)式を用いて次式(7)、(8)のように変形できる。
F1=A2cos(a/λ×2πt−2π(m+b/λ)) ・・・(7)
F2=A2cos(a/λ×2πt−2π(n+c/λ)+θ) ・・・(8)
【0045】
これら(7)、(8)式より、
2π(m+b/λ)−2π(n+c/λ)−θ
の絶対値が(2n’+1)π(ただしn’=0,1,2・・・)に等しいとき、F1とF2とは逆位相となって打ち消し合う。このことから、位相差θは次式(9)により求められる。
θ=2π(m−n)+2π(b−c)/λ±(2n’+1)π ・・・(9)
【0046】
ところで、ここで求められた位相差θはより一般的な値であり、位相2πで1波長、1周期としたときの値である。しかしながら実際の羽根車では、羽根車の隣り合う羽根間の位相2π/Zbで1波長、1周期であり、この2π/Zbの間に一つの波が発生する。そこで結局、前記所定の回転位相差θd1は、次式(10)で表される。
θd1=2π/Zb×θ/2π
=1/Zb(2π(m−n)+2π(b−c)/λ±(2n’+1)π)
・・・(10)
【0047】
なお、±は+であっても−であってもよいが、本実施形態では+とする。
【0048】
このように、前記ステップS105では、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相差θdが(10)式から計算される所定値θd1に一致するように、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bの回転位相θc1,θc2のいずれか一方又は両方が制御されることになる。そしてこれにより、第1コンプレッサ22A及び第2コンプレッサ22Bから発生した両騒音が分岐位置16で互いに打ち消し合い、外部騒音が効果的に低減される。
【0049】
本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば、本実施形態では圧縮機としてターボ過給機の圧縮機を示したが、圧縮機は例えば機械式過給機や電動式過給機の圧縮機であってもよい。また、これら圧縮機を組み合わせて並列に配置する実施形態も可能である。
【0050】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る過給機付き内燃機関を示すシステム図である。
【図2】圧力ロブパターンを示す線図である。
【図3】騒音低減制御のルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
12 吸気通路
12A 第1吸気通路
12B 第2吸気通路
16 分岐位置
20A 第1ターボ過給機
20B 第2ターボ過給機
22A 第1コンプレッサ(第1圧縮機)
22B 第2コンプレッサ(第2圧縮機)
28A 第1位相センサ
28B 第2位相センサ
30A 第1変速装置
30B 第2変速装置
100 電子制御ユニット(ECU)
Nc1 第1コンプレッサの回転速度
Nc2 第2コンプレッサの回転速度
θc1 第1コンプレッサの回転位相
θc2 第2コンプレッサの回転位相
θd 第1コンプレッサ及び第2コンプレッサの回転位相差
θd1 回転位相差の所定値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路の分岐位置の下流側に並列に設けられた複数の圧縮機と、
これら圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように前記複数の圧縮機の少なくとも一つを制御する圧縮機制御手段と
を備えることを特徴とする過給機付き内燃機関。
【請求項2】
前記圧縮機制御手段は、前記複数の圧縮機から発する騒音を前記分岐位置において互いに打ち消すように前記複数の圧縮機の少なくとも一つを制御することを特徴とする請求項1記載の過給機付き内燃機関。
【請求項3】
前記複数の圧縮機の回転速度を検出する速度検出手段をさらに備え、前記圧縮機制御手段は、前記速度検出手段によって検出された前記複数の圧縮機の回転速度が同一回転速度となるように前記少なくとも一つの圧縮機の回転速度を制御することを特徴とする請求項1又は2記載の過給機付き内燃機関。
【請求項4】
前記複数の圧縮機の回転位相を検出する位相検出手段をさらに備え、前記圧縮機制御手段は、前記位相検出手段によって検出された前記複数の圧縮機の回転位相の位相差が、前記複数の圧縮機から発する騒音を互いに打ち消すように設定された所定の位相差に一致するように、前記少なくとも一つの圧縮機の回転位相を制御することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の過給機付き内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−239649(P2007−239649A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64264(P2006−64264)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】