説明

過酸化カルボン酸化合物の合成装置及び方法

【課題】 従来の電気化学的手法のみによる過酸化カルボン酸化合物の合成では、十分に収率が上がらず、工業化の大きな障害になっていた。
【解決手段】 電解セル1、21の下流側に固体酸触媒成分を収容した反応塔41を設置する。電解セルで得られる過酸化カルボン酸化合物、未反応カルボン酸及び過酸化水素を液を前記反応塔に供給して前記固体酸触媒により未反応カルボン酸と過酸化水素を反応させて過酸化カルボン酸が生成し、全体としての収率を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料水容器や医療器具の殺菌洗浄に用いる過酸化カルボン酸化合物含有水の合成方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酸化カルボン酸化合物、つまり過酸化カルボン酸やその塩に対する耐性菌がほとんど見出されていないため、前記化合物は、殺菌、抗菌剤として注目されてきた。当該化合物はSH基やSS基に対する酸化力が高く生物活動を阻止するため、3〜5ppmでも抗菌性が、5〜35ppmで殺胞子能力が確認されている。これは過酸化水素の100分の1の濃度で同等の効果を有することを示している。
過酸化カルボン酸の中で、過酢酸は食品産業などの製品容器、製造ラインの洗浄、殺菌剤用水として汎用されている。また合成化学用として有用な酸化剤であり、ラジカル反応開始剤、重合触媒として有用である。万一残留した場合の毒性も低いため、安全性、環境適合性に優れた薬剤として汎用されている。
【0003】
しかしながら、これらの過酸化カルボン酸化合物は、半減期が6日間(1%濃度のとき)であり、不安定な性質であることが知られている。従って長期保存の際には安定化剤の注入が必須となり、このため、オンサイトとして必要な時に合成する方が安全かつ効率的である。
工業的には約100〜200℃において活性化させた酸素によりアセトアルデヒドを酸化させて合成する製造方法が一般的である。また過酸化水素からの酸化合成も可能であり、硫酸が酸触媒として利用されている。しかしながら溶液である触媒を分離することは困難であり、安全性に乏しく、いずれも一般民生、家庭用装置には不向きである。
この観点から、一般に入手し易い有機カルボン酸(酢酸、乳酸、クエン酸など)を原料とし、空気や水道水を原料として、電気エネルギーによる電解合成で合成供給することがもっとも妥当である。
【0004】
米国特許第5122538号明細書(1992年6月16日登録)では、固体酸触媒を充填した反応塔で過酢酸などの過酸化カルボン酸を合成できることが開示されている。炭化水素樹脂では膨潤があるため、その防止剤(EDTAなど)を添加することも開示されている。
国際公開第WO-91/04333号(1991年4月4日)では、酵素触媒を用いた過酸化カルボン酸の合成方法について開示している。効率良く合成できるが、酵素触媒の分離工程が必須となり、温度、濃度制御が困難であるため、一般民生用装置としては不向きである。
同様の合成技術及び殺菌特性についてJ. Molecular Catalysis B, Enzimatic 19-20, 499-505 (2002)で紹介されている。
【0005】
過酢酸の電気分解による合成に関しては、特表2002-502636号公報、特表2003-506120号公報で、ガス拡散電極を有する電解セルにて、酸素の還元や水の酸化により過酸化物などの酸化剤を合成し、過酢酸の前駆体となる有機物をこれらの過酸化物と反応させ、合成することが開示されている。しかしながら、電気分解を進行させるために電解質を溶解させるため、過酢酸を単独に生成させることは困難である。
米国特許第2004/0007476A1号明細書(2004年6月15日)では、SPE型の電解セルで酸素ガス陰極を用いる技術が開示されている。陽極にカルボン酸を添加し、電解により隔膜を透過させるか、酸素気流をカルボン酸タンクに通気させ、陰極室にカルボン酸を供給し、陰極生成した過酸化水素と反応させるか、陽極は水を添加し、陰極にカルボン酸をガスとして添加し同様に電解することが報告されている。そこではまた、Co-TMPP[メソテトラメトキシフェニルポルフィリンコバルト(II)]触媒が優れた触媒であることを開示している。しかしながらセル構造の問題から、酢酸をいったん気化し、陰極室に供給する複雑な工程があり、また、生成した合成物の取り出しが不便である、など実用性に乏しい。
【0006】
更に特許文献1には、過酢酸をナフィオンなどのイオン交換樹脂粒子を充填したセルに供給して過酢酸を電解により液体電解質を用いず合成する方法が開示されている。
この方法は過酢酸のオンサイト製造に適した有用な方法であるが、収率が低くこの点に改良の余地があった。
【特許文献1】特開2004−43900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、この従来法による収率の低さを改善するために種々検討して本発明に到達したものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1に電解セルに、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を溶解した電解液を供給し電解して、対応する過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を合成し、未反応カルボン酸及び/又はカルボン酸塩と合成された過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を含む電解液を、固体酸触媒成分を収容した反応塔に供給し、当該反応塔内で前記未反応カルボン酸及び/又はカルボン酸塩と前記過酸化水素を反応させて過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩を合成しその生成量を増加させることを特徴とする過酸化カルボン酸化合物の合成方法であり、第2に陽極及び酸素陰極の間に、固体酸触媒成分を含む多孔性部材を設けた電解セルと、当該電解セルの下流側に位置し固体酸触媒成分を収容した反応塔とを含んで成り、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を溶解した電解液を前記電解セルに供給し電解して対応する過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を合成し、未反応カルボン酸及び/又はカルボン酸塩と合成された過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を含む電解液を、前記反応塔に供給し、当該反応塔内で前記未反応カルボン酸及び/又はカルボン酸塩と前記過酸化水素を反応させて過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩を合成しその生成量を増加させることを特徴とする過酸化カルボン酸化合物の合成装置である。
【0009】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明では、まず従来法に従って、電解セル、好ましくは陽極及び酸素陰極間に、固体酸触媒成分を収容した電解セルに、カルボン酸やカルボン酸塩を溶解した電解液を供給し、電解により過酸化水素及び過酸化カルボン酸やその塩を合成する。次いでこの電解液(過酸化カルボン酸含有液)を下流側の反応塔に供給する。この反応塔には固体酸触媒成分が収容され、供給される前記含有液中の未反応カルボン酸及び/又は未反応カルボン酸塩が前記固体酸触媒成分を触媒として過酸化水素により酸化されて、過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩に変換されて前記含有液中の過酸化カルボン酸化合物の含有量が増加する。
【0010】
本発明の電解セルでの陽極及び陰極の主反応はそれぞれ式(1)及び(2)に示す通りである。陰極は酸素の還元を容易に進行できるガス拡散電極が好ましい。
陽極: 2H2O = O2 + 4H++ 4e(1.23V) (1)
陰極: O2 +2H++ 2e = H2O2 (0.68V) (2)
【0011】
過酸化カルボン酸は2種類の反応により生成すると推定される。つまり電解還元により生じるO2-或いは表面に生成した活性な酸素吸着種O*と、供給した原料カルボン酸(X-COOH)と反応して、式(3)で表されるように電極上での直接的酸化反応で合成する分と、溶液内で式(2)に従って生成した過酸化水素と反応し、式(4)に従って合成される分の和である。なお[H]は酸触媒を示す。
陰極: X-COOH + O* = X-COOOH (3)
H2O2 + X-COOH + (H+) = X-COOH (OH・) +H2O = H2O + X-COOOH + (H+) (4)
式(4)の反応は平衡的に進行し、プロトン供与により過酸化水素の酸素原子どうしの結合が切断され、一方のOHラジカルがプロトンと反応して水となり、他方はカルボン酸と反応して過酸化カルボン酸となる。
【0012】
平衡定数をKとし、[ ]が活量を表すとき、以下の平衡式が成立する。
K = [X-COOOH]・[H2O]/[ X-COOH]・[H2O2] (5)
平衡式中の水はプロトンと結合していない自由水であり、水活量(濃度)は溶液の酸性度の増加により顕著に減少するため、酸性では[X-COOH]は増加する。
本発明では、固体酸触媒としてフッ素系イオン交換樹脂が好適である。原料であるカルボン酸又はその塩は 酢酸、乳酸、グルタール酸、クエン酸及び該当する塩から選ばれ、電解セルでの反応温度は室温(30℃)〜90℃以下が安全性、実用性の観点から好適である。
【0013】
前述した通り、このようにして電解セルで得られる過酸化カルボン酸化合物の収率は比較的低いため、本発明では電解セルで得られた過酸化カルボン酸化合物含有溶液を電解セルから取り出して,固体酸触媒成分を収容した反応塔に供給する。
この反応塔には、好ましくは前記固体酸触媒、あるいは固体酸触媒を担持し又は固体酸触媒から成る多孔性部材を収容する。反応時間を短縮するためにヒーターなどの加温装置を用いて前記反応塔内の温度を室温(30℃)〜90℃に保温することが好適である。反応塔の材質は前記セル材料と同等であることが好ましい。反応塔容積は溶液の接触時間が1分から60分になるように設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は過酸化カルボン酸化合物を従来より高収率で合成する装置及び方法である。
従来の電気化学的手法を踏襲しつつ、当該電気化学的手法のみでは頭打ちであった過酸化カルボン酸化合物の収率を、本発明により上昇させることができる。
具体的には電解セルの下流側に、固体酸触媒成分を収容した反応塔を設置し、この反応塔に、前記電解セルで得られる過酸化カルボン酸化合物含有液を供給する。この含有液には過酸化カルボン酸化合物以外に未反応カルボン酸化合物と電解セルで生成した過酸化水素が含まれ、前記未反応カルボン酸化合物と前記過酸化水素の反応により過酸化カルボン酸化合物が生成し、全体としての収率が増加する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の過酸化カルボン酸化合物の合成装置及び方法の他部材の好ましい例を説明する。
【0016】
[固体酸触媒]
使用する触媒は酸触媒であり、プロトン性強酸或いは又ルイス酸を使用することができる。
固体のプロトン性酸触媒は酸触媒の観点から実用性に優れていると言える。例としては、スルホン樹脂を挙げることができる。ヘテロポリ酸はHXM12O40などで代表される固体酸で、X=ケイ素、リン、M=モリブデン、タングステン、バナジウムなどであり、具体例としてはH3PW12O40、H4SiW12O40などが知られている。
本発明の方法では種々の商品名で市販されているスルホン樹脂を使用することができ、AMBERLYST、DOWEXのような樹脂ポリマーのビーズ又は顆粒を利用できる。上記樹脂は、スルホン基である官能基を担持するポリスチレン-ジビニルベンゼン骨格から構成される。しかしながらスチレン骨格は生成する過酸化カルボン酸や過酸化水素により分解するため、安価であるが、長期の使用に耐えない面があるため、慎重に選択するべきである。
【0017】
化学的耐性の優れた樹脂として、イオン交換基としてスルホン基を有するフッ素化樹脂[市販品としてはナフィオン(Nafion)]を挙げることができる。Nafionはテトラフルオロエチレンとペルフルオロ[2−(フルオロスルホニルエトキシ)−プロピル]ビニルエーテルのコポリマーから製造される。樹脂は0.01〜3mmの直径を有する粉末や粒子の形態が好ましい。
一方、有機−無機複合体触媒も利用可能であり、ナフィオン-シリカ複合体を調製することができ、市販品としてはNafionSAC-13などがあるが、シリカ表面で生成物の分解が進行しやすいため、使用する際には注意が必要である。
【0018】
固体酸であるイオン交換能を有する触媒材料としては、前記のような市販のイオン交換樹脂粒子が利用でき、炭化水素系樹脂としてはスチレン系、アクリル酸系、芳香族重合体などがある。耐食性の面からはフッ素化樹脂製が好ましい。また適当な多孔性支持部材にイオン交換能を有する成分を形成することも可能である。材料の空隙率としては液の均一な分散と抵抗率の考慮から20〜90%が好ましい。孔或いは材料粒子のサイズは0.1〜10mmが好ましい。添加する固体酸は多量であるほど高濃度の生成物を短時間に得ることができる。
【0019】
[陽極]
陽極触媒としては酸化鉛、酸化スズ、白金、DSA、鉄などがあり、それらの触媒はそのまま板状として用いるか、チタン、ニオブ、タンタルなどの耐食性を有する板、金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体等の陽極基材上に、熱分解法、樹脂による固着法、複合メッキなどにより1〜500g/m2となるように形成させる。
前記陽極基体として使用しうる材料は、長寿命の観点と生成物への汚染が起きないように耐食性を有することが必要である。陽極給電体としてはチタンなどの弁金属、その合金の使用が望ましい。
【0020】
黒鉛や非晶質カーボン材料も従来から電極材料として用いられているが酸素発生する系では安定しないため、その使用は望ましくない。一方、原料として用いるカルボン酸が陽極の劣化を加速する要因でもあるため、電極材料の選定は使用するカルボン酸の種類も考慮した上で慎重に行う必要がある。
陽極の種類、電解条件によっては本発明の目的生成物である微量の過酸化カルボン酸が合成できることも期待できる。また陽極で生成するオゾンを利用する場合には、陽極触媒として、白金やダイヤモンドの使用が好ましい。
【0021】
[陰極]
活性酸素とカルボン酸の反応を促進し、また過酸化水素合成に適する陰極として酸素ガス陰極の使用が好ましい。陰極触媒は金、銀或いは又黒鉛や導電性ダイヤモンドが好ましい。またポリアニリンやチオール(SH含有有機物)を修飾した金属や、Ni、Co、Feイオンを中心金属とするポルフィリン、フタロシアニンなどの金属錯体の使用も可能である。
これらの触媒はそのまま板状として用いるか、ステンレス、ジルコニウム、銀、カーボンなどの耐食性を有する板、金網、粉末焼結体、金属繊維焼結体等の陰極基材上に、熱分解法、樹脂による固着法、複合めっきなどにより1〜1000g/m2となるように形成させる。陰極給電体としてはカーボン、ニッケル、チタンなどの金属、その合金や酸化物の使用が望ましい。
【0022】
反応生成ガス、液の供給、除去を速やかに行うために、酸素ガス陰極には、疎水性や親水性の材料を分散担持するのが好ましい。疎水性のシートを陽極と反対側の陰極裏面に形成すると反応面へのガス供給が制御でき効果的である。酸素の供給量は理論値の1.1〜10倍程度が良い。原料である酸素ガスとしては空気、これを分離濃縮した酸素、市販のボンベ中の酸素ガスを利用してもよい。酸素は電極裏面のガス室がある場合にはそこに供給するが、電解液に前もって吹き込み吸収させておいても良い。
【0023】
[隔膜]
電解セルで生成した過酸化カルボン酸化合物や過酸化水素は、中性隔膜やイオン交換膜を利用して、対極との接触を防止することが好ましい。イオン交換膜はフッ素樹脂系、炭化水素樹脂系のいずれでも良いが、耐食性の面で前者が好ましい。イオン交換膜は、陽極、陰極で生成した各イオンが反対の電極で消費されるのを防止するとともに、液の電導度の低い場合でも電解を速やかに進行させる機能を有する。
【0024】
[セル構造]
これまで述べた各材料を用いて電解セルを構築する。
図1は隔膜を使用する電解セルを、図2は隔膜を使用しない電解セルをそれぞれ例示している。
【0025】
図1の電解セル1は、隔膜であるイオン交換膜2によりDSA等の陽極3が収容された陽極室4と陰極室に区画され、該陰極室はシート状のガス拡散陰極5によりイオン交換膜2側の陰極液室6と反対側の陰極ガス室7に区画されている。
電解セルの材料は、耐久性、過酸化水素の安定性の観点から、ガラスライニング材料、カーボン、耐食性の優れたチタンやステンレス、PTFE樹脂などを使用することが好ましい。
電極間距離は抵抗損失を低下させるためになるべく小さくすべきであるが、水を供給する際のポンプの圧力損失を小さくし、圧力分布を均一に保つために1〜50mmにするのが好ましい。
【0026】
陰極液室6内には固体酸触媒として機能する多数の粒子状又は繊維状のイオン交換樹脂粒子8が収容され、下方のストッパー9で陰極液室6からの脱離が防止されている。
陽極室4の底板及び天板にはそれぞれ陽極液供給口10及び陽極液取出口11が、同様に陰極液室6の底板及び天板にはそれぞれ陰極液供給口12及び陰極液取出口13が設置されている。更に陰極ガス室7の天板及び底板にはそれぞれ酸素含有ガス供給口14及びガス取出口15が設置されている。陽極液は必ずしも必要ではなく、陽極室への水供給は電流密度が小さい範囲では要らないが、通常は陰極液と同様の電解液を供給する。
【0027】
一方図2の電解セル21は、ガス拡散陰極22により、陽極液室23と陰極ガス室24に区画され、液室23には陽極25が設置され、該陽極25と前記ガス拡散陰極22間には、固体酸触媒として機能する多数のイオン交換樹脂粒子26が収容され、下方のストッパー27で液室23からの脱離が防止されている。
液室23の底板及び天板にはそれぞれ溶液供給口28及び溶液取出口29が、更にガス室24の天板及び底板にはそれぞれ酸素含有ガス供給口30及びガス取出口31が設置されている。
【0028】
図1の構成から成る電解セル1の陰極液室6に、カルボン酸やその塩の水溶液を、陰極ガス室7に、酸素含有ガスを供給しながら両極間に通電すると、陰極液室6に供給されたカルボン酸が、陰極ガス室7に供給される酸素含有ガス中の酸素がガス拡散陰極5中で還元されて生成した過酸化水素と反応して過酸化カルボン酸に変換されて陰極液中に溶解する。更に陰極液中の酸素が還元されて過酸化水素が生成する。これらの過酸化カルボン酸及び過酸化水素の生成反応は陰極液室6中の固体酸触媒により促進されて生成効率が上昇する。
この過酸化カルボン酸及び過酸化水素を溶解した陰極液が陰極液取出口13から取出される。
図2の電解セルの場合も同様にして過酸化カルボン酸が生成する。この例では、陽極における分解反応が無視できないが、セル電圧は低下し、室数も少なくなり経済的である。
前記両実施態様では、電解により過酸化カルボン酸合成を行っており、触媒としても固体酸触媒のみを使用しているため、過酸化カルボン酸を容易に単離できる。
【0029】
これらの電解セル1、21の下流側には図3に示すように固体酸触媒成分を収容した反応塔41が接続され、前記電解セル1、21の電解液がこの反応塔41に過酸化カルボン酸化合物含有液として供給され、前記固体酸触媒成分により、過酸化水素と未反応カルボン酸化合物との反応が促進され、過酸化カルボン酸化合物の全体としての収率が向上する。
【0030】
[電解条件]
電解セル内の温度は高い方が反応速度は増加し短時間で平衡値に達するが、分解速度も増大するため適正な温度範囲として室温より高く90℃より小さく制御することが好ましい。電流密度は0.1〜100A/dm2が好ましい。
【0031】
[原料水]
本発明では電解質として、酢酸CH3COOH、乳酸CH3(CH)OHCOOH、グルタール酸HOOC(CH2)3COOH、クエン酸HOOC(CH2)C(OH) (COOH) (CH2)COOHあるいはそれらの金属塩を添加するが、供給濃度は0.01%〜10%の範囲が好ましく、特に0.1%〜1%が好適である。
原水として水道水を使用する場合、当該水道水が酸性であると、これに含まれるCa、Mgイオンの水酸化物、炭酸化物がガス陰極に析出しないため、好都合である。
【0032】
[過酸化水素]
生成する過酸化水素の濃度は水量と電流密度を調節することにより50000ppm(5wt%)まで制御可能である。反応効率を向上させるためには酸性に維持することが好ましく適切にpH(3〜6)を維持制御することが好ましい。原料水の供給速度を遅くし、接触時間をかければ理論的には平衡値になるまで過酸化カルボン酸(塩)の合成反応を進行させることは可能であるが、実用的な時間範囲で連続的に合成を行うことが望ましく、生成物には原料が多く残留することになる。原料として酸、塩は高濃度で存在させることが好ましく、濃度が大きいほど反応速度は増大する。しかしながら生成する過酸化物の取扱の安全面より、過酸化水素濃度は5%以下であることが好ましい。
【0033】
[生成物の同定]
過酸化カルボン酸は、基準物質のHPLC、質量分析、赤外吸収スペクトル、ラマンスペクトルとの比較から同定可能である。
【0034】
次に本発明に係る過酸化カルボン酸化合物の合成に関する実施例及び比較例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
[比較例1]
陽極は、酸化イリジウム触媒を熱分解法によりチタン多孔板に10g/m2となるように形成させ作製した。酸素ガス陰極は、触媒として黒鉛粉末(東海カーボン製、TGP−2)をPTFE樹脂と混練し、芯材であるカーボンクロス(ゾルテック社製、PWB−3)上に塗布し330℃で焼成し0.5mm厚さのシートとして作製した。隔膜にイオン交換膜Nafion117(デュポン社製)を挟み、陰極−膜間距離を3mmとし、Nafion 粒子NR-50(デュポン社製)を充填した。陽極-膜間距離を0.5mmとした。電解有効面積が100cm2である図1のような電解セルを構成した。空気をガス室に毎分100ml供給した。セルの陽極室、陰極室へ 0.1Mクエン酸水溶液を毎分10mlで供給した。温度を60℃とし、3Aの電流を流したところ、セル電圧は18Vであり、出口液の過酸化水素濃度をKMnO4滴定により測定したところ、800ppmが検出された。赤外吸収スペクトルの測定結果を図4に示したが、過酸化クエン酸のC=O基に対応する吸収ピークが1770cm-1に出現し同定できた。溶液中の過酸化クエン酸濃度をHPLC液体クロマトグラフにより求めたところ、20ppmであった。
【0036】
[実施例1]
比較例1のセルの後に、反応塔として容量200mLのステンレス製管の中に、NR-50を体積率40%になるように充填したものを図3のように接続し、80℃に保持した。比較例1で得られた出口液をそのまま前記反応塔に供給し、5分間接触させたところ、出口から40ppmの過酸化クエン酸溶液が得られた。この過酸化クエン酸の赤外吸収スペクトルも図4に示す通りであった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による過酸化カルボン酸合成用電解セルの隔膜を使用する例を示す縦断正面図。
【図2】同じく隔膜を使用しない例を示す縦断正面図。
【図3】過酸化カルボン酸化合物の合成装置における電解セルと反応塔の接続状況を示す概略図。
【図4】実施例1及び比較例1で得られた過酸化クエン酸の赤外吸収スペクトル。
【符号の説明】
【0038】
1、21 電解セル 2……イオン交換膜 3、25……陽極 4……陽極室 5、22……ガス拡散陰極 6、23……陰極液室 7、24……陰極ガス室 8、26……イオン交換樹脂粒子 41……反応塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解セルに、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を溶解した電解液を供給し電解して、対応する過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を合成し、未反応カルボン酸及び/又は未反応カルボン酸塩と合成された過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を含む電解液を、固体酸触媒成分を収容した反応塔に供給し、当該反応塔内で前記未反応カルボン酸及び/又は未反応カルボン酸塩と前記過酸化水素を反応させて過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩を合成しその生成量を増加させることを特徴とする過酸化カルボン酸化合物の合成方法。
【請求項2】
陽極及び酸素陰極の間に、固体酸触媒成分を含む多孔性部材を設けた電解セルと、当該電解セルの下流側に位置し固体酸触媒成分を収容した反応塔とを含んで成り、カルボン酸及び/又はカルボン酸塩を溶解した電解液を前記電解セルに供給し電解して対応する過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を合成し、未反応カルボン酸及び/又は未反応カルボン酸塩と合成された過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩と過酸化水素を含む電解液を、前記反応塔に供給し、当該反応塔内で前記未反応カルボン酸及び/又は未反応カルボン酸塩と前記過酸化水素を反応させて過酸化カルボン酸及び/又は過酸化カルボン酸塩を合成しその生成量を増加させることを特徴とする過酸化カルボン酸化合物の合成装置。
【請求項3】
カルボン酸及び/又はカルボン酸塩が、酢酸、乳酸、グルタール酸、クエン酸及びそれらの塩から成る群から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の装置。
【請求項4】
固体酸触媒成分がフッ素系イオン交換樹脂である請求項2に記載の装置。
【請求項5】
電解セル内及び反応塔内の反応温度が室温以上90℃以下である請求項2に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−70705(P2007−70705A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260820(P2005−260820)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(390014579)ペルメレック電極株式会社 (62)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】