説明

過酸化水素の除去方法及び除去装置

【課題】被処理水中の過酸化水素を迅速かつ確実に除去することができ、特に半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において用いられる超純水製造装置における超純水中の過酸化水素の除去に適した過酸化水素の除去方法及び除去装置を提供する。
【解決手段】過酸化水素を含む被処理水を、平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒に接触させることを特徴とする水中の過酸化水素の除去方法、及び、平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒を充填した過酸化水素分解装置と、過酸化水素を含む被処理水を該装置に供給する給水手段と、該触媒と接触した水を該装置から排出する排水手段とを有することを特徴とする過酸化水素の除去装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素の除去方法及び除去装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、被処理水中の過酸化水素を迅速かつ確実に除去することができ、特に半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において用いられる超純水製造装置における超純水中の過酸化水素の除去に適した過酸化水素の除去方法及び除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被処理水中の過酸化水素を除去する方法として、還元剤を添加する方法、活性炭と接触させる方法、金属を担持した樹脂と接触させる方法などが行われてきた。還元剤を添加する方法では、過酸化水素を含有する被処理水に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加する。還元剤と過酸化水素との反応速度は非常に速く、確実に過酸化水素を分解除去することが可能であるが、還元剤の添加量を制御することが難しく、過酸化水素を確実に除去するためには過剰量を添加する必があり、還元剤の残留が問題となっていた。また、超純水製造装置においては、還元剤は液中のイオン量を増加させ、水質悪化を招きかねないために、還元剤を添加する方法は適用することができなかった。
【0003】
活性炭と接触させる方法では、通常活性炭の充填槽を形成して通水するが、反応速度が遅いために、空間速度(SV)が最大でも20h-1程度しかとれずに装置が大型化する。また、活性炭は、過酸化水素の分解に伴って、自身も酸化されて粒子の崩壊が起き、処理水中へ流出するために、超純水製造装置には適さない。
【0004】
樹脂に金属を担持させる方法としては、例えば、処理水中のイオン量を増加することなく、微生物を繁殖させることなく、簡単な操作で迅速かつ確実に過酸化水素を除去する方法として、過酸化水素を含有する液をOH形アニオン交換樹脂を担体とするパラジウム触媒と接触させる過酸化水素の除去方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、過酸化水素は 2H22 → 2H2O + O2 の反応により分解されるが、担持した触媒の比表面積が小さく、接触効率が低くなり、結果として反応速度が低下し、確実な処理をするためには、触媒担持樹脂が大量に必要である。また、空間速度(SV)が低いために、パラジウム溶出の影響が出やすかった。
【特許文献1】特公昭62−35838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被処理水中の過酸化水素を迅速かつ確実に除去することができ、特に半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において用いられる超純水製造装置における超純水中の過酸化水素の除去に適した過酸化水素の除去方法及び除去装置を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、過酸化水素を含む被処理水を、ナノコロイド化した白金族の金属微粒子を担体に担持させた触媒に接触させることにより、反応速度が非常に速く、空間速度(SV)を大きくすることができ、通水液量が多いために金属の流出の影響が小さくなり、触媒樹脂量が少なく済み、処理コストを低減し得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)過酸化水素を含む被処理水を、平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒に接触させることを特徴とする水中の過酸化水素の除去方法、
(2)白金族が、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物である(1)記載の過酸化水素の除去方法、
(3)白金族の金属ナノコロイド粒子を担持する担体が、アニオン交換樹脂である(1)記載の過酸化水素の除去方法、
(4)過酸化水素を含む被処理水が、超純水製造装置中の過酸化水素含有水である(1)記載の過酸化水素の除去方法、
(5)超純水製造装置中の過酸化水素含有水が、超純水製造装置の紫外線酸化処理装置から排出される水である(4)記載の過酸化水素の除去方法、
(6)過酸化水素を含む被処理水を、白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒に、通水空間速度SV100〜2,000h-1で接触させる(1)記載の過酸化水素の除去方法、
(7)処理水中に含まれる過酸化水素の濃度が、5ppb(重量比)以下である(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の過酸化水素の除去方法、
(8)過酸化水素の分解により生成する溶存酸素を、膜脱気又は脱酸素触媒により後段で除去する(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の過酸化水素の除去方法、
(9)脱酸素触媒に水素を添加する(8)記載の過酸化水素の除去方法、
(10)溶存酸素除去処理を行った処理水の溶存酸素濃度が、5ppb(重量比)以下である(8)又は(9)記載の過酸化水素の除去方法、及び、
(11)平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒を充填した過酸化水素分解装置と、過酸化水素を含む被処理水を該装置に供給する給水手段と、該触媒と接触した水を該装置から排出する排水手段とを有することを特徴とする過酸化水素の除去装置、
を提供するものである。
【0008】
さらに、本発明の好ましい態様として、
(12)白金族が、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物である(11)記載の過酸化水素の除去装置、
(13)白金族の金属ナノコロイド粒子を担持する担体が、アニオン交換樹脂である(11)記載の過酸化水素の除去装置、
(14)過酸化水素分解装置が、超純水製造装置の紫外線酸化処理装置の直後に設置されてなる(11)記載の過酸化水素の除去装置、
(15)過酸化水素の分解により生成した酸素を除去する溶存酸素除去装置を、過酸化水素分解装置の後段に有する(11)記載の過酸化水素の除去装置、
(16)溶存酸素除去装置が、膜脱気装置又は脱酸素触媒装置である(15)記載の過酸化水素の除去装置、
(17)脱酸素触媒装置が、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金又はこれらの2種以上の混合物を担持したアニオン交換樹脂が充填された装置である(16)記載の過酸化水素の除去装置、及び、
(18)溶存酸素除去装置が、ポリッシャーの前段に設けられてなる(15)の過酸化水素の除去装置、
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の過酸化水素の除去方法及び除去装置によれば、少ない量の過酸化水素分解触媒を用いて、被処理水中の過酸化水素を迅速かつ確実に除去することができる。本発明方法及び装置は、半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において用いられる超純水製造装置における超純水中の過酸化水素の除去に好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の水中の過酸化水素の除去方法においては、過酸化水素を含む被処理水を、平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒に接触させる。本発明の過酸化水素の除去装置は、平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒を充填した過酸化水素分解装置と、過酸化水素を含む被処理水を該装置に供給する給水手段と、該触媒と接触した水を該装置から排出する排水手段とを有する。
【0011】
図1は、本発明装置の一態様の説明図である。本態様の過酸化水素の除去装置は、支持板1上に平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒2を充填した過酸化水素分解装置3と、過酸化水素を含む被処理水を該装置に供給する給水管4と、該触媒と接触した水を該装置から排出する排水管5とを有する。
【0012】
本発明方法及び装置を適用する過酸化水素を含む被処理水に特に制限はなく、例えば、用廃水系に過酸化水素を添加して酸化、還元、殺菌、洗浄などを行った処理水又は排水、半導体製造工程から排出される洗浄排水を超純水として回収再利用するために、過酸化水素の存在下で紫外線を照射して有機物を酸化分解した処理水、半導体製造工程において使用される微量の過酸化水素を含む超純水などを挙げることができる。これらの中で、本発明方法及び装置は、半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において用いられる超純水中の微量の過酸化水素の除去に特に好適に適用することができる。本発明方法及び装置によれば、少ない量の過酸化水素分解触媒を用いて、被処理水中の過酸化水素を迅速かつ確実に除去することができる。
【0013】
本発明に用いる白金族としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金を挙げることができる。こられの白金族は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもでき、2種以上の合金として用いることもでき、あるいは、天然に産出される混合物の精製品を単体に分離することなく用いることもできる。これらの中で、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物は、触媒活性が強いので特に好適に用いることができる。
【0014】
本発明に用いる白金族の金属ナノコロイド粒子を製造する方法に特に制限はなく、例えば、金属塩還元反応法、燃焼法などを挙げることができる。これらの中で、金属塩還元反応法は、製造が容易であり、安定した品質の金属ナノコロイド粒子を得ることができるので好適に用いることができる。金属塩還元反応法としては、例えば、白金などの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、金属錯化物などの0.1〜0.4mmol/L水溶液に、アルコール、クエン酸又はその塩、ギ酸、アセトン、アセトアルデヒドなどの還元剤を4〜20当量倍添加し、1〜3時間煮沸することにより、金属ナノコロイド粒子を製造することができる。また、例えば、ポリビニルピロリドン水溶液に、ヘキサクロロ白金酸、ヘキサクロロ白金酸カリウムなどを1〜2mmol/L溶解し、エタノールなどの還元剤を加え、窒素雰囲気下で2〜3時間加熱還流することにより、白金ナノコロイド粒子を製造することができる。
【0015】
本発明に用いる白金族の金属ナノコロイド粒子の平均粒子径は1〜50nmであり、より好ましくは1.2〜20nmであり、さらに好ましくは1.4〜5nmである。金属ナノコロイド粒子の平均粒子径が1nm未満であると、過酸化水素の分解除去に対する触媒活性が低下するおそれがある。金属ナノコロイド粒子の平均粒子径が50nmを超えると、ナノコロイド粒子の比表面積が小さくなって、過酸化水素の分解除去に対する触媒活性が低下するおそれがある。
【0016】
本発明において、白金属の金属ナノコロイド粒子を担持させる担体に特に制限はなく、例えば、マグネシア、チタニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、活性炭、ゼオライト、ケイソウ土、イオン交換樹脂などを挙げることができる。これらの中で、アニオン交換樹脂を特に好適に用いることができる。白金族の金属ナノコロイド粒子は電気二重層を有し、負に帯電しているので、アニオン交換樹脂に安定に担持されて剥離しにくく、アニオン交換樹脂に担持された白金属の金属ナノコロイド粒子は、過酸化水素の分解除去に対して強い触媒活性を示す。本発明に用いるアニオン交換樹脂は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を母体とした強塩基性アニオン交換樹脂であることが好ましく、特にゲル型樹脂であることがより好ましい。また、アニオン交換樹脂の交換基は、OH形であることが好ましい。OH形アニオン交換樹脂は、樹脂表面がアルカリ性となり、過酸化水素の分解を促進する。
【0017】
本発明において、アニオン交換樹脂への白金族の金属ナノコロイド粒子の担持量は、0.01〜0.2重量%であることが好ましく、0.04〜0.1重量%であることがより好ましい。金属ナノコロイド粒子の担持量が0.01重量%未満であると、過酸化水素の分解除去に対する触媒活性が不足するおそれがある。金属ナノコロイド粒子の担持量は0.2重量%以下で過酸化水素の分解除去に対して十分な触媒活性が発現し、通常は0.2重量%を超える金属ナノコロイド粒子を担持させる必要はない。また、金属ナノコロイド粒子の担持量が増加すると、水中への金属の溶出のおそれも大きくなる。
【0018】
本発明の過酸化水素の除去方法は、超純水製造装置中の過酸化水素含有水に好適に適用することができ、超純水製造装置の紫外線酸化処理装置から排出される過酸化水素含有水に特に好適に適用することができる。図2は、本発明方法の実施の一態様を示す工程系統図である。超純水製造装置において、原水は、前処理装置6、一次純水装置7及び二次純水装置8を経由して精製され、得られた超純水がユースポイントに送られる。前処理装置においては、凝集沈殿、凝集ろ過、凝集加圧浮上などの操作により、主として原水中の濁質が除去される。一次純水装置において、イオン交換、膜分離、脱気などの操作により、有機体炭素(TOC)2ppb(重量比)以下の一次純水が得られる。一次純水は、いったん一次純水タンク9に貯留されたのち、ポンプ10により二次純水装置に送られる。
【0019】
本態様の装置においては、二次純水装置は、熱交換器11、紫外線酸化処理装置12、過酸化水素分解装置13、溶存酸素除去装置14、ポリッシャー15及び微粒子分離膜装置16を有する。紫外線酸化処理装置としては、185nm付近の波長の紫外線を照射する低圧水銀灯などを備えた紫外線照射装置を用いることができる。紫外線酸化処理装置により、一次純水中の有機体炭素(TOC)成分が酸化されて有機酸となり、さらに二酸化炭素となる。また、紫外線酸化処理装置で過剰に照射された紫外線のために、過酸化水素が発生する。
【0020】
本発明装置においては、過酸化水素分解装置を、超純水製造装置の紫外線酸化処理装置の直後に設置することが好ましい。紫外線酸化処理装置12の処理水は、過酸化水素分解装置13に送られ、白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒と接触する。水中の過酸化水素は、2H22→ 2H2O + O2 の反応により分解される。過酸化水素分解触媒との接触方法に特に制限はないが、過酸化水素分解触媒を充填した過酸化水素分解装置へ通水することが好ましい。通水方向は、上向流、下向流のいずれともすることができるが、触媒が流動しない下向流であることが好ましい。
【0021】
本発明方法において、過酸化水素除去触媒への通水速度は、空間速度SV100〜2,000h-1であることが好ましく、500〜1,500h-1であることがより好ましい。本発明方法によれば、過酸化水素の分解速度が非常に速いので、通常は通水空間速度SVが100h-1未満である必要はない。通水空間速度SVが2,000h-1を超えると、通水の圧力損失が過大になるとともに、過酸化水素の分解除去が不十分となるおそれがある。
【0022】
本発明に用いるアニオン交換樹脂に担持された白金族の金属ナノコロイド粒子は、比表面積が大きいので、過酸化水素分解の反応速度が非常に速く、通水空間速度を高くすることができる。触媒の量に比べて通水量が多いために、触媒から処理水に溶出する金属の影響を非常に小さくすることができる。また、使用する過酸化水素分解触媒量が少なく済み、処理コストを低減することができる。水中の過酸化水素は、アニオン交換樹脂に担持された白金族の金属ナノコロイド粒子と接触して速やかに分解し、アニオン交換樹脂に作用することがないので、アニオン交換樹脂が過酸化水素に侵されて有機体炭素(TOC)が溶出するおそれもない。
【0023】
本発明方法においては、過酸化水素分解触媒と接触した処理水中に含まれる過酸化水素の濃度が5ppb(重量比)以下であることが好ましく、1ppb(重量比)以下であることがより好ましい。超純水に含まれる過酸化水素の濃度が5ppb(重量比)以下であれば、半導体、液晶などの部品に悪影響を与えることなく、超純水を用いて洗浄などの処理をすることができる。
【0024】
本発明の過酸化水素の除去装置は、過酸化水素の分解により生成した酸素を除去する溶存酸素除去装置を、過酸化水素分解装置の後段に有することが好ましい。溶存酸素除去装置に特に制限はなく、例えば、真空脱気装置、窒素脱気装置、膜脱気装置、脱酸素触媒装置などを挙げることができる。これらの中で、膜脱気装置及び脱酸素触媒装置を好適に用いることができる。図2に示す態様においては、過酸化水素分解装置13の処理水が溶存酸素除去装置14に送られ、過酸化水素の分解により生成した酸素が除去される。
【0025】
膜脱気装置においては、脱気膜の一方の側に通水し、他方の側を排気して減圧とし、溶存酸素を膜を通過させて除去する。脱気膜は、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気などの気体は透過するが、水は透過しない膜であり、例えば、シリコーン系膜、ポリテトラフルオロエチレン系膜、ポリオレフィン系膜、ポリウレタン系膜などを挙げることができる。膜脱気装置の減圧側の圧力は、5〜10kPaであることが好ましい。脱気膜の減圧側には若干の水蒸気が膜を透過して出てくるので、減圧側に窒素などの気体を流し、水分を除去して膜性能の低下を防ぐことが好ましい。減圧側の圧力が5kPa未満であると、脱気膜を透過する水蒸気の量が過大となるおそれがある。減圧側の圧力が10kPaを超えると、溶存酸素の除去効率が低下するおそれがある。窒素などの気体の流量は、通水量の5〜25体積%であることが好ましい。膜脱気装置を用いることにより、一次純水に含まれていた溶存酸素及び過酸化水素の分解により生成した溶存酸素とともに、水に溶解している二酸化炭素も除去することができる。
【0026】
本発明において、溶存酸素除去装置として脱酸素触媒装置を用いる場合、脱酸素触媒として、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金又はこれらの2種以上の混合物を担持したアニオン交換樹脂が充填された装置であることが好ましい。カラムに充填したアニオン交換樹脂に、ヘキサクロロ白金酸、塩化パラジウムなどの酸性溶液を通水することにより、アニオン交換樹脂にこれらを担持させることができ、さらにホルマリンなどを通水して還元することにより、金属とすることができる。本発明方法においては、脱酸素触媒に水素を添加することが好ましい。白金、パラジウム、白金/パラジウム合金又はこれらの2種以上の混合物を担持したアニオン交換樹脂からなる脱酸素触媒が水素を吸蔵していると脱酸素が起こるが、脱酸素触媒に水素を添加することにより、O2 + 2H2 → 2H2O の反応により確実に溶存酸素を除去することができる。
【0027】
本発明方法においては、溶存酸素除去処理を行った処理水の溶存酸素濃度が5ppb(重量比)以下であることが好ましく、1ppb(重量比)以下であることがより好ましい。超純水に含まれる溶存酸素の濃度が5ppb(重量比)以下であれば、半導体、液晶などの部品に悪影響を与えることなく、超純水を用いて洗浄などの処理をすることができる。
【0028】
本発明装置においては、溶存酸素除去装置14をポリッシャー15の前段に設けることが好ましい。ポリッシャーは、強酸性カチオン交換樹脂と強塩基性アニオン交換樹脂とをイオン負荷に応じて混合充填した非再生型混床式イオン交換装置であることが好ましい。混床式イオン交換装置により、水中のカチオンとアニオンが完全に除去されて、電気伝導率が極めて低い超純水を得ることができる。また、過酸化水素分解装置及び溶存酸素除去装置を経由して、過酸化水素、溶存酸素ともに極めて低濃度まで除去された処理水をポリッシャーに通水することにより、ポリッシャーに充填されたイオン交換樹脂の劣化と、該イオン交換樹脂からの有機体炭素(TOC)成分の溶出を防止することができる。
【0029】
図2に示す態様においては、ポリッシャー15の処理水は、微粒子分離膜装置16に通水される。微粒子分離膜としては、例えば、限外ろ過膜などを用いることができる。微粒子分離膜装置により、ポリッシャーからのイオン交換樹脂の流出微粒子などの水中の微粒子が除去され、これにより、有機体酸素(TOC)、過酸化水素、溶存酸素、二酸化炭素、イオン性物質及び微粒子が高度に除去された高純度の超純水を得ることができる。
【0030】
従来の超純水製造装置においては、紫外線酸化処理装置で発生した過酸化水素が混床式イオン交換樹脂により僅かに分解し、イオン交換樹脂から有機体炭素(TOC)が流出し、それに伴って溶存酸素濃度が上昇していた。本発明方法及び装置では、過酸化水素分解触媒により過酸化水素を除去し、それによって発生する溶存酸素を溶存酸素除去装置で除去したのち、ポリッシャーに通水するために、過酸化水素と溶存酸素を極限まで低減した超純水を得ることができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、過酸化水素濃度と溶存酸素濃度の測定は下記の方法により行った。
(1)過酸化水素濃度
フェノールフタリン4.8mg、硫酸銅(無水)8mg及び水酸化ナトリウム48mgに硫酸ナトリウム(無水)を添加して10gとし、微量過酸化水素濃度定量用試薬を調製する。試験水10mLに該試薬0.5gを添加、溶解し、室温で10分間静置したのち、552nmにおける吸光度を測定する。
(2)溶存酸素濃度
ポーラログラフ式溶存酸素計[オービスフェア・ラボラトリーズ社、MOCA 3600]を用いて、オンラインで測定する。
【0032】
実施例1
平均粒子径3.5nmの白金ナノコロイド粒子を、0.07重量%の担持量で強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂に担持させ、過酸化水素分解触媒を調製した。
この過酸化水素分解触媒100mLをアクリル樹脂製カラムに充填し、過酸化水素29.54ppb(重量比)を含む超純水を、SV=1,000h-1で下向流で通水した。カラムから流出する処理水の過酸化水素濃度は0.38ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は98.7%であった。
さらに、同じ過酸化水素分解触媒を充填したアクリル樹脂製カラムに、過酸化水素29.5ppb(重量比)を含む超純水を、SV=200h-1、400h-1、600h-1、800h-1、1,500h-1、2,000h-1で下向流で通水した。それぞれのSVに対して、過酸化水素の除去率は、100.0%、99.8%、99.6%、99.2%、98.0%、96.9%であった。
実施例2
平均粒子径3.5nmのパラジウムナノコロイド粒子を、0.07重量%の担持量で強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂に担持させた過酸化水素分解触媒を用い、過酸化水素29.32ppb(重量比)を含む超純水を通水した以外は、実施例1と同じ操作を行った。
SV=1,000h-1のとき、カラムから流出する処理水の過酸化水素濃度は0.50ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は98.3%であった。また、SV=200h-1、400h-1、600h-1、800h-1、1,500h-1、2,000h-1に対して、過酸化水素の除去率は、100.0%、99.4%、99.0%、98.7%、97.4%、96.7%であった。
【0033】
比較例1
強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂を塩化白金酸溶液に浸漬し、ホルムアルデヒドによって還元しながら、樹脂表面に白金を担持し、過酸化水素分解触媒を調製した。このとき、白金の担持量は0.75重量%であった。
この過酸化水素分解触媒100mLをアクリル樹脂製カラムに充填し、過酸化水素28.75ppb(重量比)を含む超純水を用いて、実施例1と同じ操作を行った。
SV=1,000h-1のとき、カラムから流出する処理水の過酸化水素濃度は1.50ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は94.8%であった。また、SV=200h-1、400h-1、600h-1、800h-1、1,500h-1、2,000h-1に対して、過酸化水素の除去率は、100.0%、98.8%、96.4%、89.2%、82.8%であった。
比較例2
パラジウムを担持した強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂[ランクセス(株)、Lewatit(登録商標) K7333]100mLをアクリル樹脂製カラムに充填し、過酸化水素28.93ppb(重量比)を含む超純水を用いて、実施例1と同じ操作を行った。
SV=1,000h-1のとき、カラムから流出する処理水の過酸化水素濃度は2.00ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は93.1%であった。また、SV=200h-1、400h-1、600h-1、800h-1、1,500h-1、2,000h-1に対して、過酸化水素の除去率は、100.0%、98.7%、96.4%、85.9%、79.5%であった。
実施例1〜2及び比較例1〜2の結果を、第1表及び図3に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
第1表及び図3に見られるように、白金ナノコロイド粒子を担持させた触媒を用いた実施例1及びパラジウムナノコロイド粒子を担持させた触媒を用いた実施例2においては、通常の白金担持触媒を用いた比較例1及び通常のパラジウム担持触媒を用いた比較例2に比べて、触媒担持量が少ないにもかかわらず、高い除去率で過酸化水素が除去されている。実施例1〜2と比較例1〜2の過酸化水素の除去率の差は、通水速度が大きくなるほど広がり、本発明方法によれば、少量の白金又はパラジウムを用いて、過酸化水素を含む水を効率的に処理し得ることが分かる。
【0036】
実施例3
平均粒子径3.5nmの白金ナノコロイド粒子を、0.07重量%の担持量で強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂に担持させた過酸化水素分解触媒10Lを充填した容器を、超純水製造装置の紫外線酸化装置出口に接続し、その後段に膜脱気装置、混床式イオン交換樹脂充填槽、限外ろ過装置を接続して、10m3/hの流量で超純水を製造した。
過酸化水素分解触媒充填容器に流入する水の過酸化水素濃度は15.78ppb(重量比)、該容器から流出する処理水の過酸化水素濃度は0.14ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は99.1%であった。限外ろ過装置から流出する超純水の溶存酸素濃度は、0.56ppb(重量比)であった。
比較例3
比較例1で調製した過酸化水素分解触媒10Lを充填した容器を、超純水製造装置の紫外線酸化装置出口に接続し、その後段に膜脱気装置、混床式イオン交換樹脂充填槽、限外ろ過装置を接続して、10m3/hの流量で超純水を製造した。
過酸化水素分解触媒充填容器に流入する水の過酸化水素濃度は14.99ppb(重量比)、該容器から流出する処理水の過酸化水素濃度は0.82ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は94.5%であった。限外ろ過装置から流出する超純水の溶存酸素濃度は、0.79ppb(重量比)であった。
【0037】
比較例4
パラジウムを担持した強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂[ランクセス(株)、Lewatit(登録商標) K7333]10Lを充填した容器を超純水製造装置の紫外線酸化装置出口に接続し、その後段に膜脱気装置、混床式イオン交換樹脂充填槽、限外ろ過装置を接続して、10m3/hの流量で超純水を製造した。
過酸化水素分解触媒充填容器に流入する水の過酸化水素濃度は15.01ppb(重量比)、該容器から流出する処理水の過酸化水素濃度は1.10ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は92.7%であった。限外ろ過装置から流出する超純水の溶存酸素濃度は、0.79ppb(重量比)であった。
比較例5
超純水製造装置の紫外線酸化装置出口の後段に、触媒を充填しない空容器、膜脱気装置、混床式イオン交換樹脂充填槽、限外ろ過装置を接続して、過酸化水素の分解を行うことなく、10m3/hの流量で超純水を製造した。
空容器に流入する水の過酸化水素濃度は15.01ppb(重量比)、空容器から流出する水の過酸化水素濃度は14.98ppb(重量比)であり、過酸化水素の除去率は0.2%であった。限外ろ過装置から流出する超純水の溶存酸素濃度は、0.98ppb(重量比)であった。
実施例3及び比較例3〜5の結果を、第2表に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
第2表に見られるように、紫外線酸化装置出口に白金ナノコロイド粒子を強塩基性ゲル型アニオン交換樹脂に担持させた過酸化水素分解触媒を充填した容器を接続して過酸化水素を分解した実施例3では、通常の白金担持触媒を用いた比較例3及び通常のパラジウム担持触媒を用いた比較例4に比べて、触媒担持量が少ないにもかかわらず、高い除去率で過酸化水素が除去されている。また、過酸化水素除去率の高い実施例3は、過酸化水素除去率の低い比較例3〜4に比べて、限外ろ過装置から流出する超純水の溶存酸素濃度も低い。これは、過酸化水素を分解する際に発生した酸素を脱気膜で除去し、過酸化水素濃度が低い状態で混床式イオン交換樹脂充填槽に通水される場合と、過酸化水素濃度が高い状態で混床式イオン交換樹脂充填槽に通水される場合の相違によると考えられる。すなわち、処理水中に残留する過酸化水素は、混床式イオン交換樹脂充填槽内で樹脂と反応して微量ながら分解し、溶存酸素が発生する。この溶存酸素は除去されることがないので、処理水の過酸化水素濃度が高いほど、ユースポイントにおける超純水の溶存酸素濃度も高くなる。本発明方法によれば、被処理水の過酸化水素の除去率を高めて残留する過酸化水素の濃度の低い処理水とするとともに、溶存酸素の濃度も低い超純水を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の過酸化水素の除去方法及び除去装置によれば、被処理水中の過酸化水素を迅速かつ確実に除去することができ、特に半導体、液晶などの電子材料を扱う産業において用いられる超純水製造装置における超純水中の過酸化水素を除去するとともに、溶存酸素濃度も低い超純水を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明装置の一態様の説明図である。
【図2】本発明方法の実施の一態様を示す工程系統図である。
【図3】通水空間速度と過酸化水素除去率の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 支持板
2 触媒
3 過酸化水素分解装置
4 給水管
5 排水管
6 前処理装置
7 一次純水装置
8 二次純水装置
9 一次純水タンク
10 ポンプ
11 熱交換器
12 紫外線酸化処理装置
13 過酸化水素分解装置
14 溶存酸素除去装置
15 ポリッシャー
16 微粒子分離膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素を含む被処理水を、平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒に接触させることを特徴とする水中の過酸化水素の除去方法。
【請求項2】
白金族が、白金、パラジウム、白金/パラジウム合金の単独又はこれらの2種以上の混合物である請求項1記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項3】
白金族の金属ナノコロイド粒子を担持する担体が、アニオン交換樹脂である請求項1記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項4】
過酸化水素を含む被処理水が、超純水製造装置中の過酸化水素含有水である請求項1記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項5】
超純水製造装置中の過酸化水素含有水が、超純水製造装置の紫外線酸化処理装置から排出される水である請求項4記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項6】
過酸化水素を含む被処理水を、白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた過酸化水素分解触媒に、通水空間速度SV100〜2,000h-1で接触させる請求項1記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項7】
処理水中に含まれる過酸化水素の濃度が、5ppb(重量比)以下である請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項8】
過酸化水素の分解により生成する溶存酸素を、膜脱気又は脱酸素触媒により後段で除去する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項9】
脱酸素触媒に水素を添加する請求項8記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項10】
溶存酸素除去処理を行った処理水の溶存酸素濃度が、5ppb(重量比)以下である請求項8又は請求項9記載の過酸化水素の除去方法。
【請求項11】
平均粒子径1〜50nmである白金族の金属ナノコロイド粒子を担体に担持させた触媒を充填した過酸化水素分解装置と、過酸化水素を含む被処理水を該装置に供給する給水手段と、該触媒と接触した水を該装置から排出する排水手段とを有することを特徴とする過酸化水素の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−185587(P2007−185587A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4844(P2006−4844)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】