説明

過電流過電圧保護素子

【課題】従来から周知の過電流保護素子と過電圧保護素子とを一体化した回路保護素子は、過電圧保護素子が短絡した場合過電流保護素子が機能しなくなるという問題があった。
【解決手段】絶縁基板と、前記絶縁基板の両端部に形成された端子電極と、前記端子電極間の少なくとも二か所に直列に接続したヒューズと、前記ヒューズ間を結ぶ導電部から過電圧保護材料を介して形成された少なくとも二つのアース電極と、前記ヒューズと前記過電圧保護材料とを覆う保護樹脂層と、を有する過電流過電圧保護素子を採用することによって、二か所のギャップのうち一方の過電圧保護素子が短絡しても、過電流保護素子は正常に機能する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流及び過電圧から電子回路を保護する素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、過電流保護素子と過電圧保護素子とを一体化し、これらの機能を同時に有する素子が提案されており、部品点数の削減に貢献している。このような一体化した回路保護素子に関する従来技術として、例えば特開2010−98024号公報の発明がある。この発明によると、絶縁基板の表面にはヒューズエレメントを設置して過電流に対する保護機能を持たせ、裏面には電源側に第一の過電圧保護材料層と、回路側に第二の過電圧保護材料層とを設置して、過電圧に対する保護機能を持たせた回路保護部品がある。なお、過電圧がかかったときには、第一の過電圧保護材料層と第二の過電圧保護材料層との間からグランドにバイパスされるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−98024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献の発明では、異常電圧の印加が繰り返しおこなわれることによって、電源側に設置した第一の過電圧保護材料層が短絡した場合においては、電源側からくる電流は、過電流保護機能を持つヒューズエレメントを通過することなくグランドに流れるため、過電流保護素子としての目的を果たさずに電源回路に過電流が流れてしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、過電流及び過電圧に対する保護機能だけでなく、過電圧の印加が繰り返されて過電圧保護材料が短絡した場合であっても、電源回路を保護することができる素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
絶縁基板と、前記絶縁基板の両端部に形成された端子電極と、前記端子電極間の少なくとも二か所に直列に接続したヒューズと、前記ヒューズ間を結ぶ導電部から過電圧保護材料を介して形成された少なくとも二つのアース電極と、前記ヒューズと前記過電圧保護材料とを覆う保護樹脂層と、を有する過電流過電圧保護素子。
【0007】
前記ヒューズ及び前記導電部は、膜状の導電体からなるヒューズ膜である過電流過電圧保護素子。
【0008】
前記ヒューズ膜の下に蓄熱層が設置されている過電流過電圧保護素子。
【0009】
前記ヒューズ膜は、アルミニウム又は銅からなる低融点金属である過電流過電圧保護素子。
【0010】
前記導電部と前記アース電極との間のギャップを形成するヒューズ膜とアース電極は、チタン、タングステン、モリブデンのうちの少なくとも一つからなる高融点金属である過電流過電圧保護素子。
【0011】
前記ギャップは、一方のギャップ幅よりも他方のギャップ幅の方が、広くなっている過電流過電圧保護素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明による過電流過電圧保護素子を用いれば、過電圧の印加が繰り返されて一方の過電圧保護部が短絡しても、電源回路を過電流から保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、図面に従って詳細に説明する。
【0014】
(実施例1)図1は、本発明による過電流過電圧保護素子1の斜視図である。絶縁基板2の対向する両端部には端子電極3が形成されている。図2に示すように、端子電極3は、例えばAgからなる下地電極10と、Niめっき11と、Snめっき12とから構成される。そして端子電極3を電気的に接続するようにヒューズ膜4が形成されるが、このヒューズ膜4には二か所にヒューズの役割を持った幅狭の溶断部5が直列に配置してあり、過電流が流れたときに発熱して溶断されることによって、過電流から回路を保護することができる。ヒューズ膜4は、スパッタリングやめっきにより形成される。
【0015】
なお、過電流が流れたときの発熱に対して、すばやく応答してこの溶断部5を切断させるために、溶断部5の下にガラス又はシリコーン系樹脂等からなる熱伝導率が小さい蓄熱層6を10〜100μmの厚さで形成しておくと、過電流により発生する熱が蓄熱層6に蓄えられるので、過電流に対する動作を一層効果的にすることができる。形成手法としては、絶縁基板2上にヒューズ膜4を形成する前に、例えばペーストをスクリーン印刷して焼成する方法がある。
【0016】
また、溶断部5は、Cu、Alなどの低融点金属4aで形成することによって過電流が流れたときの発熱に対して、すばやく溶断させることができる。
【0017】
さらに、絶縁基板2上には、ヒューズ膜4と電気的に接続しないアース電極7が二か所に形成してあり、ヒューズ膜4とアース電極7との間には微小な間隔であるギャップ8が設けられている。ギャップ8は、フォトリソ法やレーザーなどで形成することができる。そして、絶縁基板2の側面には、アース電極7と電気的に接続されたアース端子電極13が形成されている。図3に示したように、アース端子電極13は、端子電極3と同様に下地電極10と、Niめっき11と、Snめっき12とから構成されている。
【0018】
ギャップ8は、その間隔を変化させることによって放電開始電圧を調整することができるが、ギャップの間隔は5〜20μm程度とするのが望ましい。5μmよりも狭くすると、過電圧が繰り返し印加されたときにヒューズ膜4とアース電極7との間の絶縁が劣化して短絡を引き起こしやすくなる。また、20μmよりも大きくすると放電開始電圧が高くなり、過電圧保護素子として適切に機能させることが難しくなる。
【0019】
そしてこの二か所のギャップ8を覆うように、ギャップ上には過電圧保護材料9を形成している。この過電圧保護材料9には、Ni、Alなどの導電性粒子を、シリコーン系樹脂のような絶縁性ポリマーに均一に分散させた公知のものを使用することができ、スクリーン印刷によって形成する。
【0020】
図1に示すように、過電圧保護素子は二か所の溶断部5の間に設置する。このような配置にすることによって、本発明による過電流過電圧保護素子1の等価回路は図6のように表わされるが、過電圧が繰り返し印加されて第一の過電圧保護部9aが短絡すると、等価回路は図7のように変化する。しかし、過電圧保護部9aが短絡した後に電源側から過電流が来たとしても、溶断部5aが溶断して回路をオープンにするため、過電流から回路を保護することができる。また、第一の過電圧保護部9aにおけるギャップが広がって放電開始電圧が高くなったり、過電圧保護材料が劣化して過電圧保護部9aが完全に絶縁状態になってしまっても、第二の過電圧保護部9bが機能するので過電圧保護素子として正常に機能して、過電圧から回路を保護することができる。
【0021】
図4は、絶縁基板2、ヒューズ膜4及びアース電極7だけを配置した過電流過電圧保護素子1の平面図である。ギャップ8を形成するヒューズ膜4及びアース電極7は、チタン、タングステン、モリブデンのうちの少なくとも一つからなる高融点金属4bを用いるのが好ましい。回路に過電圧がかかり、ギャップ8で放電する際に放電部は高温になるため、融点の低い金属を使用するとその金属は溶融又は飛散し、ギャップ間隔が変化してしまう。すなわち放電開始電圧が変わってしまうという問題が生じる可能性が高くなる。したがって、ギャップ8には高融点金属を使用した方が過電流過電圧保護素子1の信頼性と耐久性がよくなるのである。
【0022】
また、図5に示すように、二か所のギャップ8は一方のギャップ幅よりも他方のギャップ幅の方が広くなっている。したがって、静電気などの過電圧がかかったとき、まずギャップ幅が狭い方の過電圧保護素子で放電が起こり、さらに放電が繰り返されることによってギャップ間隔が広がりかつ過電圧保護材料層が劣化して過電圧保護機能がなくなった後に、もう一方のギャップ幅が広い方の過電圧保護素子は正常に機能することになる。
【0023】
次に、図9に示すように、少なくとも溶断部5及び過電圧保護材料9を覆うように例えばシリコーン系の保護樹脂層14を設置する。保護樹脂層14は、過電流によるヒューズ膜の溶断時に溶融金属を包み込んで飛散を防止するとともに、ヒューズ膜の発熱によりシリコーンゴムの架橋数が低下し、軟化して液状となって溶断したヒューズ膜を覆うことにより電流を確実に遮断することができる。また、溶断部5が溶断されるときの発火や発煙を防止することができる。
【0024】
(実施例2)次に、本発明の他の実施形態について説明する。図8に示すように、前記蓄熱層6は二か所に分散して配置するのではなく、過電流保護部分である二か所の溶断部5の下に、一つの蓄熱層として配置することもできる。
【0025】
一つの蓄熱層にすると、パターンが単純になるため生産性が向上するという利点がある。しかし、電流によってギャップ8の温度が上昇しやすくなり、過電圧保護機能の耐久性が実施例1よりも劣化する可能性がある。
【0026】
以上、本発明の詳細について、具体的な実施例を示しながら説明してきたが、ここで示したのは本発明の一つの実施形態であり、その技術思想を踏まえた上で、発明の効果を著しく損なわない限度において、前記実施形態の一部を変更して実施することが可能であることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による過電流過電圧保護素子の斜視図
【図2】図1のA−A断面図
【図3】図1のB−B断面図
【図4】ヒューズ膜及びアース電極のうち、低融点金属部分と高融点金属部分の配置を示した過電流過電圧保護素子の平面図
【図5】絶縁基板、ヒューズ膜及びアース電極のみを示した過電流過電圧保護素子の平面図
【図6】本発明による過電流過電圧保護素子の等価回路
【図7】図6において、過電圧保護部の一方が短絡したときの等価回路
【図8】本発明による過電流過電圧保護素子の他の実施形態を示した斜視図
【図9】本発明による過電流過電圧保護素子の上面に保護樹脂層を形成したときの斜視図
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、過電流保護素子と過電圧保護素子を必要とする回路において利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1;,過電流過電圧保護素子
2;,絶縁基板
3;,端子電極
4;,ヒューズ膜
4a;,低融点金属
4b;,高融点金属
5,5a,5b;,溶断部
6;,蓄熱層
7;,アース電極
8;,ギャップ
9,9a,9b;,過電圧保護材料
10;,下地電極
11;,Niめっき
12;,Snめっき
13;,アース端子電極
14;,保護樹脂層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、前記絶縁基板の両端部に形成された端子電極と、前記端子電極間の少なくとも二か所に直列に接続したヒューズと、前記ヒューズ間を結ぶ導電部から過電圧保護材料を介して形成された少なくとも二つのアース電極と、前記ヒューズと前記過電圧保護材料とを覆う保護樹脂層と、を有する過電流過電圧保護素子。
【請求項2】
前記ヒューズ及び前記導電部は、膜状の導電体からなるヒューズ膜である請求項1記載の過電流過電圧保護素子。
【請求項3】
前記ヒューズ膜の下に蓄熱層が設置されている請求項2記載の過電流過電圧保護素子。
【請求項4】
前記ヒューズ膜は、アルミニウム又は銅からなる低融点金属である請求項2又は3記載の過電流過電圧保護素子。
【請求項5】
前記導電部と前記アース電極との間のギャップを形成するヒューズ膜とアース電極は、チタン、タングステン、モリブデンのうちの少なくとも一つからなる高融点金属である請求項2乃至4記載の過電流過電圧保護素子。
【請求項6】
前記ギャップは、一方のギャップ幅よりも他方のギャップ幅の方が、広くなっている請求項5記載の過電流過電圧保護素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−235053(P2012−235053A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104299(P2011−104299)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(591149089)株式会社MARUWA (35)
【Fターム(参考)】