説明

遠心クラッチ用回転数保護回路

【課題】遠心クラッチの熱的負荷を制限する。
【解決手段】内燃エンジン(2)の回転数を制御するための装置、特にパワーチェーンソー、切断研削機、刈払い機等の手で操縦される作業機の2サイクルエンジンの回転数を制御するための装置であって、内燃エンジン(2)のクランク軸(10)のクランク軸角度に対する点火プラグ(6)の点火時点を内燃エンジン(2)の回転数に依存して制御する点火回路(7)と、第1の回転数(D1)を越えたときに連結し、第2の回転数(D2)に達した後連結状態になっている、クランク軸(10)により駆動される遠心クラッチ(3)とを備えた内燃エンジン(2)の回転数を制御するための装置において、第1の回転数(D1)と第2の回転数(D2)との間の回転数帯域(D)で保護回路(17)は作動状態にある。保護回路(17)は回転数帯域(D)内での実際の回転数の滞留時間を監視する。所定の滞留時間を越えたときに回転数が回転数帯域(D)外になるように保護回路(17)は燃焼過程の制御に介入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、内燃エンジンの回転数を制御するための装置、特にパワーチェーンソー、切断研削機、刈払い機等の手で操縦される作業機の2サイクルエンジンの回転数を制御するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばパワーチェーンソー、切断研削機、刈払い機等の手で操縦される可搬式作業機は、ほとんどの場合2サイクルエンジンにより駆動される。2サイクルエンジンの点火プラグは点火回路に接続され、点火回路は内燃エンジンのクランク軸角度に対する点火時点をクランク軸の回転数に依存して制御する。クランク軸には遠心クラッチの遠心錘用の担持体が相対回転不能に固定されており、遠心クラッチのクラッチドラムは従動軸、従動歯車、従動ディスク等と結合されている。遠心クラッチはクラッチ連結回転数(第1の回転数)を越えたときに連結し始め、これよりも高い回転数(第2の回転数)に達した後に実質的にスリップなしの連結状態になる。このような回転数範囲にわたって作動する場合、遠心錘を備えた前記担持体とクラッチハウジングとの間にスリップが生じ、これにより熱が発生する。許容できない作動状態のために遠心クラッチが長時間にわたってクラッチ連結回転数とクラッチ連結後の回転数との間でスリップを伴って作動すると、熱的過負荷が発生することがあり、その結果遠心クラッチの機能を阻害することがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、遠心クラッチの熱的負荷を制限することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、本発明によれば、第1の回転数と第2の回転数との間の回転数帯域で保護回路が作動状態にあること、保護回路が回転数帯域内での実際の回転数の滞留時間を監視すること、所定の滞留時間を越えたときに回転数が回転数帯域外になるように保護回路が燃焼過程の制御に介入することによって解決される。
【0005】
第1の回転数(クラッチ連結回転数)と第2の回転数(クラッチ連結後の回転数)との間の回転数帯域において、該回転数帯域内での実際の回転数の滞留時間を監視する保護回路は作動状態にある。回転数帯域内での実際の回転数の滞留時間が所定の滞留時間を越えると、保護回路はたとえば点火時点の変更或いは燃料供給量の変更により燃焼過程に介入して、回転数が回転数帯域外になるように制御する。これにより第1の回転数と第2の回転数との間の臨界回転数帯域内での実際の回転数の滞留時間が制限されるので、遠心クラッチの担持体とクラッチハウジングとの間のスリップにより熱が発生しても、これは制限されている。したがって遠心クラッチの熱的過負荷を確実に回避することができる。
【0006】
他の利点として、従動軸と内燃エンジンとを確実に分離できるという利点がある。というのは、本発明による保護回路により内燃エンジンのアイドリング時の確実なクラッチ非連結状態が監視され、保証されているからである。
【0007】
滞留時間が長すぎるとの確認を行なった後、実際の回転数を第1の回転数以下、すなわちクラッチ連結回転数以下に低下させるのが有利である。この場合、クラッチ連結回転数以下への低下を、クラッチ連結回転数に対し安全間隔を持って行なうのが有利である。
【0008】
燃焼への介入は、点火プラグの点火を完全に抑止するか、或いは、予め設定可能なモデルにしたがって抑止するようにして行なうことができる。特に確率論的なモデルが合目的である。内燃エンジンへの燃料の供給を切換え可能な弁(たとえば電磁弁)を介して行なう場合には、点火抑止とともに、或いは、点火抑止の代わりに、クランク軸の1回の回転または複数回の回転に対する燃料の供給を、弁を閉じることにより変化させるか、或いは、燃料の供給を停止させることができる。
【0009】
本発明による装置は滞留時間の測定のためにタイマーを有しているので合目的である。タイマーは特にカウンタとして構成されていてよい。合目的には、クランク軸の回転数を加算し、所定の値に達したときに点火回路に介入して回転数を低下させるのがよい。
【0010】
保護回路の停止、すなわち点火への介入の停止は、非作動回転数を下回ることにより行うことができる。この場合、非作動回転数はクラッチ連結回転数よりも著しく小さい値である必要がある。非作動回転数を下回ると、燃焼への介入が停止され、その結果エンジンは再び高回転する。回転数が引き続き監視帯域幅に長時間とどまっていれば、回転数を低下させるように再び介入を行なう。これによって生じる不均一な、異常なエンジンの作動は、作動状態が非許容状態であるとの利用者に対する音の警告信号である。
【0011】
スロットルバルブにセンサまたはスイッチを配置することも合目的であり、これによりスロットルバルブのアイドリング位置が検出され、保護回路に報知される。この信号が印加されると、保護回路は非作動状態になり、通常の点火制御に切換えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態を添付の図面を用いて詳細に説明する。
図1に図示した、内燃エンジン2の回転数を制御するための装置1は、遠心クラッチ3を介して従動軸4が作動したときに投入される。この種の駆動装置はパワーチェーンソー、切断研削機、刈払い機、送風機等の手で操縦される可搬式作業機において使用され、この場合内燃エンジンは特に2サイクルエンジンである。
【0013】
内燃エンジン2(図示の実施形態では単気筒である)は気化器5を介して燃料/空気混合気を吸込む。内燃エンジン2の燃焼室(図示せず)に流入する混合気は圧縮され、点火プラグ6により点火される。点火プラグ6は点火回路7によって制御されている。点火回路7は中央の演算ユニット8(CPU; Central Processor Unit)により監視され、演算ユニット8は特に回転数検知センサ9の回転数信号を評価し、該回転数検知センサ9を介してクランク軸10の位置を検出する。フライホイールマグネットー型点火の場合には、誘導電圧信号から回転数情報を導出する。
【0014】
ほぼ2500回転ないし3500回転のアイドリングでは、遠心クラッチ3は非連結状態にある。遠心クラッチの個々の構成要素はクランク軸側の担持体11に可動に配置されており、他方従動軸4は担持体11を包み込んでいるクラッチハウジング12と結合されている。この種の遠心クラッチの構成は公知のものであり、ここでこれ以上立ち入らない。
【0015】
内燃エンジン2の回転数は気化器5内に配置されているスロットルバルブ13を利用者が回動させることにより制御され、このためスロットルバルブ13はレバー(好ましくはスロットルレバー14)と結合されている。スロットルレバー14は開閉のために二重矢印15の方向へ回動可能である。
【0016】
スロットルレバー14の位置検知センサ16によって監視され、その信号は中央の制御回路8へ送られ、その結果制御回路8は利用者が調整したスロットルバルブ13の開弁位置を検知することができる。図示した実施形態では、位置検知センサ16はアイドリング検知センサとして形成され、スロットルバルブ13のアイドリング位置をCPUユニット8に報知する。
【0017】
点火プラグ6の点火時点は中央の演算ユニット8により点火回路7を介してクランク軸10の回転数に依存してクランク軸角度に対し相対的に制御される。このようにして確実なアイドリング回転数を達成可能であるとともに、最大回転数までのパワフルな高回転が保証されている。たとえば最大回転数に達すると、中央のCPUユニット8は点火回路7を介して回転数を減少させるように介入する。
【0018】
たとえば3500回転/分のアイドリング回転数の範囲では、図2のグラフにも示したように、遠心クラッチ3は非連結状態にある。たとえば3900回転/分のクラッチ連結回転数D1よりも上の範囲では担持体11の遠心力作用重量がクラッチドラム12に作用してトルクを伝達し始める。遠心クラッチ3はトルク伝達結合部を形成し、その際担持体11とクラッチドラム12との間でスリップが減少する。たとえば4400回転/分の第2の回転数D2よりも上の範囲では、遠心クラッチ3は実質的にスリップなしに連結状態にある。
【0019】
図1に図示したように、特にクラッチ連結回転数D1と第2の回転数D2との間の回転数帯域Dの範囲での回転数の滞留時間を監視する保護回路17が好ましくは制御装置1に組み込んで設けられている。保護回路17は、第1の回転数D1(クラッチ連結回転数)と第2の回転数D2(クラッチ連結後の回転数)とを含んでいる回転数帯域Dに回転数があるときに、たとえば中央の制御回路8によって作動せしめられる。
【0020】
制御ユニット8が保護回路17を作動させているときには常に保護回路17は回転数帯域D内での実際の回転数の滞留時間を監視している。回転数帯域D内での実際の回転数の所定の滞留時間が確認されると、中央の制御ユニット8は保護回路17から対応する信号得る。中央の制御ユニット8は信号を得ると点火プラグ6の点火時点の制御に介入し、回転数を低下させて回転数帯域Dの範囲外になるように制御する。その際回転数はクラッチ連結回転数D1以下に低下する。この場合、クラッチ連結回転数D1に対し安全間隔Aが設定されている。
【0021】
同様に、遠心クラッチ3がスリップなしに連結されている第2の回転数からも安全間隔Bが維持される。このように保護回路17により監視が行なわれる回転数帯域Dはクラッチ連結回転数D1以下の値からクラッチ連結後の回転数D2以上の値まで延在している。
【0022】
回転数帯域Dでの実際の回転数の滞留時間が長すぎると保護回路17が確認したときには常に点火への介入が行なわれて、回転数はクラッチ連結回転数D1以下になる。図2の実施形態では、下部閾値としてクラッチ連結回転数D1から安全間隔Aを引いた値、すなわちほぼ3800回転/分の回転数が設定されている。
【0023】
点火回路7に対する中央の制御ユニット8の介入は予め設定可能な一定モデルまたは可変モデルにしたがって行なうことができる。合目的にはこのモデル(特に確率論的モデル)にしたがって点火を抑止するのがよい。所定の境界回転数へ低下するまで点火を抑止できるので有利である。
【0024】
回転数帯域D内での実際の回転数の滞留時間を測定するため、タイマー18を設けてよい。このタイマーは、クランク軸の回転を加算して、予め設定可能な値に達したときに回転数の低下を開始させるようなカウンタであってよい。
【0025】
保護回路17の作動と非作動とは、第1の回転数D1から安全間隔Aを引いた値よりもかなり小さな非作動回転数DDを下回ることにより決定することができる。これとは択一的に、スロットルバルブ13のアイドリング位置で保護回路17を非作動状態にさせてもよい。このために位置検知センサ16が設けられている。
【0026】
利用者がスロットルレバー14を完全にスロットルバルブ13のアイドリング位置へ戻さない場合、すなわちスロットルレバー14を完全に離さない場合には、内燃エンジン2の回転数が遠心クラッチ3の回転数帯域Dにある危険が常にある。任意の加速過程でもこのような状態になる場合があるので、保護回路17により所定の回転数帯域Dでの滞留時間を測定し、測定した滞留時間が長すぎる場合には常に点火回路を制御することにより回転数を低下させる。利用者がスロットルレバー14を離してスロットルバルブ13が所定のアイドリング位置にあることが確認されたときにはじめて点火を再び標準作動へ切換える。これは非作動回転数DDを下回った後も行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】内燃エンジンの回転数を制御して遠心クラッチを保護するための本発明による装置の概略構成図である。
【図2】本発明による装置の作用を回転数に関連づけて示した図である。
【符号の説明】
【0028】
1 内燃エンジンの回転数を制御するための装置
2 内燃エンジン
3 遠心クラッチ
6 点火プラグ
7 点火回路
10 クランク軸
17 保護回路
18 タイマー
D 監視が行なわれる回転数帯域
D1 第1の回転数(クラッチ連結回転数)
D2 第2の回転数(クラッチ連結後の回転数)
DD 非作動回転数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジン(2)の回転数を制御するための装置、特にパワーチェーンソー、切断研削機、刈払い機等の手で操縦される作業機の2サイクルエンジンの回転数を制御するための装置であって、内燃エンジン(2)のクランク軸(10)のクランク軸角度に対する点火プラグ(6)の点火時点を内燃エンジン(2)の回転数に依存して制御する点火回路(7)と、第1の回転数(D1)を越えたときに連結し、第2の回転数(D2)に達した後連結状態になっている、クランク軸(10)により駆動される遠心クラッチ(3)とを備えた内燃エンジン(2)の回転数を制御するための装置において、
第1の回転数(D1)と第2の回転数(D2)との間の回転数帯域(D)で保護回路(17)が作動状態にあること、
保護回路(17)が回転数帯域(D)内での実際の回転数の滞留時間を監視すること、
所定の滞留時間を越えたときに回転数が回転数帯域(D)外になるように保護回路(17)が燃焼過程の制御に介入すること、
を特徴とする装置。
【請求項2】
燃料供給量を変化させることにより燃焼過程の制御を行なうことを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
点火時点を変化させることにより燃焼過程の制御を行なうことを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
実際の回転数を第1の回転数(D1)以下に低下させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項5】
保護回路(17)が点火を抑止し、有利には予め設定可能なモデルにしたがって点火を抑止し、特に確率論的モデルにしたがって点火を抑止することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項6】
保護回路(17)が滞留時間を測定するためのタイマー(18)を有していることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項7】
保護回路(17)がカウンタを有し、特にクランク軸の回転数を加算する滞留時間検出用カウンタを有していることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項8】
非作動回転数(DD)を下回ることにより保護回路(17)を非作動状態にさせることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項9】
非作動回転数(DD)が第1の回転数(D1)以下であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一つに記載の装置。
【請求項10】
スロットルバルブ(13)のアイドリング位置で閉じるスイッチ(16)により保護回路(17)を非作動状態にさせることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか一つに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−118499(P2006−118499A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−277894(P2005−277894)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(598052609)アンドレアス シュティール アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (95)
【Fターム(参考)】