説明

遠心分離機および遠心分離機を用いた細胞処理装置

【課題】遠心分離機の2つの試料容器間の試料量の大小を判断して、試料の量を速やかに均等に補正すること。
【解決手段】細胞処理装置1は、試料を収容する2つのチャンバ11A,11Bと、チャンバ11A,11Bを支持し、これらチャンバ11A,11Bの中心位置に配置された軸線回りに回転される回転軸13と、回転軸13を軸線回りに回転させるモータ15と、回転軸13の軸線に交差する方向の振動を検出する加速度センサ17と、加速度センサ17の検出方向に対する回転軸13の回転角を検出する回転角検出部19と、加速度センサ17により検出された回転軸13の振動と回転角検出部19により検出された回転角との関係に基づいて、チャンバ11A,11B間の試料量の大小を判断する試料量判断部21とを備える遠心分離機10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離機および遠心分離機を用いた細胞処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体細胞を生体組織から取り出す装置では、生体組織を消化することにより分離した生体細胞を遠心分離機により遠心分離して濃縮している。遠心分離機では、遠心処理される生体細胞が試料として複数のチャンバに収容され、チャンバが所要の回転数で所要時間回転されることにより、試料の遠心処理が行われる。
【0003】
この場合に、各チャンバ間において、収容する試料の量が均等に配分されていないと、チャンバを回転駆動する際に回転軸に異常振動が発生し、遠心分離機が破損する場合がある。このような問題を解消するために、各チャンバ間の試料の量に過大なアンバランスが生じている状態で回転軸が回転された場合に、モータの回転を停止させる技術が知られている。(特許文献1参照)。
特許文献1には、遠心分離機の回転軸に所定の間隔を介して囲む円筒体を配置し、過大振動により回転軸がこの円筒体にぶつかった場合に、その衝撃を検知してモータの回転を停止させる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−144977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている手法では、回転軸に異常振動が生じた場合に、モータの回転を停止させることにより回転軸が折損することは防止できるものの、各チャンバ間の試料の量の大小については分からず、試料の量を均等にする補正を速やかに行うことができないという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、各チャンバ間の試料量の大小を判断して、試料の量を速やかに均等に補正することができ、回転軸をスムーズに回転させて試料の遠心分離を円滑に行うことができる遠心分離機および遠心分離機を用いた細胞処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、試料を収容する2つの試料容器と、該試料容器を支持し、これら2つの試料容器の中心位置に配置された軸線回りに回転される回転支持部と、該回転支持部を前記軸線回りに回転させる駆動部と、前記回転支持部の前記軸線に交差する方向の振動を検出する振動検出部と、該振動検出部の検出方向に対する前記回転支持部の回転角を検出する回転角検出部と、前記振動検出部により検出された前記回転支持部の振動と前記回転角検出部により検出された回転角との関係に基づいて、前記2つの試料容器間の試料量の大小を判断する試料量判断部とを備える遠心分離機を提供する。
【0007】
本発明によれば、駆動部の作動により、2つの試料容器を支持する回転支持部が、その中心位置に配置された軸線回りに回転させられる。これにより、各試料容器に収容されている試料が、回転の半径方向外方に向かって回転数に応じた遠心力を受け、遠心分離が行われる。
【0008】
この場合に、各試料容器に収容されている試料の量が異なると、2つの試料容器間の重量バランスが崩れるので、これらの試料容器を支持する回転支持部に周期的な振動が発生する。本発明によれば、振動検出部の作動により、回転支持部の軸線に交差する方向の振動が検出され、回転角検出部の作動により、振動検出部による振動の検出方向に対する回転支持部の回転角が検出される。
【0009】
回転支持部の振動は周期的なので、試料量判断部の作動により、回転支持部の振動とこの振動の検出方向に対する回転角との関係、すなわち、どの回転角で振動の振幅にピークが発生するのかを判定することにより、2つの試料容器間の試料量の大小を容易に判断することができる。そして、この判断結果に基づいて2つの試料容器間の試料の量が均等になるように補正することにより、回転支持部をスムーズに回転させ、試料の遠心分離を円滑に行うことが可能となる。
【0010】
上記発明においては、前記試料量判断部が、前記回転支持部の回転角が180°異なる位置での前記回転支持部の振動の振幅を比較することとしてもよい。
このように構成することで、回転支持部の1/2回転ごとに検出される回転支持部の振動の振幅に基づいて、振動の振幅のピークがいずれの検出時点に近いのかを容易に判断することができる。すなわち、回転支持部の周期的な振動は、1周期、つまり、回転支持部が1回転する間に振動の検出方向に1回の振幅のピークを有するが、そのピークそのものの検出を行うことなく、任意の1/2回転ごとの位置での検出信号の比較のみにより、簡易に2つの試料容器間の試料量の大小を判断することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記回転角検出部が、発光部と受光部とを有するフォトインタラプタと、前記回転支持部に設けられ、前記フォトインタラプタの光軸を前記回転支持部の1/2回転ごとに断続させる光遮断部とを備えることとしてもよい。
【0012】
このように構成することで、光遮断部の作動により、フォトインタラプタの光軸が回転支持部の1/2回転ごとに断続されるので、フォトインタラプタにより、回転支持部の回転を1/2回転ごとに検出することができる。したがって、回転支持部の1/2回転ごとの振動の振幅を簡易に検出することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記試料量判断部が、前記回転支持部の基準回転角度位置を設定する設定手段と、前記回転支持部の振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置を検出する検出手段とを備えることとしてもよい。
【0014】
このように構成することで、設定手段の作動により回転支持部の基準回転角度位置が設定され、検出手段により回転支持部の振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置が検出される。したがって、基準回転角度位置から振動の振幅がピークとなる時点までの回転支持部の回転角度を求めることができる。これにより、振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置が基準回転角度位置に近いか否かを判断することができる。その結果、2つの試料容器間の試料量の大小を判断することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記回転角検出部が、発光部と受光部とを有するフォトインタラプタと、前記回転支持部に設けられ、前記フォトインタラプタの光軸を前記回転支持部の1回転ごとに断続させる光遮断部とを備えることとしてもよい。
【0016】
このように構成することで、光遮断部の作動により、フォトインタラプタの光軸が回転支持部の1回転ごとに断続されるので、フォトインタラプタにより、回転支持部の回転を1回転ごとに検出することができる。したがって、回転支持部の基準回転角度位置を容易に設定することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記回転角検出部が、前記駆動部の駆動信号に基づいて前記回転支持部の回転角を検出することとしてもよい。
このように構成することで、回転支持部の回転角が駆動部からの駆動信号に基づいて検出されるので、回転支持部の回転角を精度よく検出することができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記振動検出部が、加速度センサであることとしてもよい。
このように構成することで、加速度センサの作動により、回転支持部の振動の振幅に基づく加速度を検出することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記振動検出部が、前記駆動部の前記回転支持部近傍に配置されていることとしてもよい。
このように構成することで、回転支持部の振動が振動検出部に伝わり易く、振動の検出を精度よく行うことができる。
【0020】
本発明は、生体細胞を含む生体組織を洗浄する洗浄部と、該洗浄部により洗浄された生体組織を消化し、生体細胞を分離する消化部と、該消化部により分離された生体細胞を濃縮する上記本発明の遠心分離機とを備える細胞処理装置を提供する。
【0021】
本発明によれば、2つの試料容器間の試料量を速やかに均等に補正可能な遠心分離機の採用により、細胞を生体組織から取り出して濃縮する細胞処理を、処理速度を向上して効率よく行うことが可能となる。
【0022】
上記発明においては、2つの試料容器間の試料量の大小を表示する試料量表示部を備え、前記試料量判断部が、前記2つの試料容器間の試料量が均等でないと判断した場合に、前記駆動部の作動を停止するとともに、前記試料量表示部に前記2つの試料容器間の試料量の大小を表示することとしてもよい。
【0023】
このように構成することで、2つの試料容器間の試料量が不均等の場合に、試料量表示部の作動により、これら2つの試料容器間の試料量の大小関係を簡易に認知することができる。また、駆動部が停止されることにより各試料容器が静止状態となるので、2つの試料容器間の試料の量を均等にする補正を手動で速やかに行うことができる。
【0024】
また、上記発明においては、前記試料量判断部により判断された前記2つの試料容器間の試料量の大小関係に基づき、前記試料容器間の試料量の調整を行う試料量調整部を備えることとしてもよい。
【0025】
このように構成することで、2つの試料容器間の試料の量が不均等の場合に、試料量調整部の作動によりこれら試料容器間の試料量が調整されるので、2つの試料容器間の試料の量を均等にする補正を自動化することができる。したがって、遠心分離の自動化率を向上させ、生体細胞の濃縮を効率よく行うことができる。
【0026】
また、上記発明においては、前記試料量調整部が、前記試料容器に試料を供給する試料供給部、または、前記試料容器から試料を吸引する試料吸引部であることとしてもよい。
このように構成することで、試料供給部の作動により、試料量が少ない試料容器に試料を補給し、または、試料吸引部の作動により、試料量が多い試料容器から試料を吸引することで、2つの試料容器間の試料の量を速やかに均等に補正することができる。
【0027】
また、上記発明においては、前記試料量調整部が、前記2つの試料容器間の試料を移動させる試料移動部であることとしてもよい。
このように構成することで、試料移動部の作動により、試料を吸引除去する場合に比べて試料の損失を少なくすることができ、細胞処理の効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、2つの試料容器間の試料量の大小を判断して、試料の量を速やかに均等に補正することができ、回転支持部をスムーズに回転させて試料の遠心分離を円滑に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る細胞処理装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る細胞処理装置1は、図1に示すように、生体細胞を含む生体組織を洗浄する洗浄部3と、該洗浄部3により洗浄された生体組織を消化し、生体細胞を分離する消化部5と、該消化部5により分離された生体細胞を濃縮する遠心分離機10とを備えている。
洗浄部3および消化部5としては、公知の装置を用いることができ、特に限定されるものではない。
【0030】
遠心分離機10は、試料となる生体細胞を収容するチャンバ(試料容器)11A,11Bと、該チャンバ11A,11Bを支持する回転軸(回転支持部)13と、該回転軸13を軸線回りに回転させるモータ(駆動部)15と、回転軸13の振動を検出する加速度センサ(振動検出部)17と、回転軸13の回転角を検出する回転角検出部19と、チャンバ11A,11B間の試料量の大小を判断する試料量判断部21と、試料量の調整を行う試料供給部(試料量調整部)23とを備えている。
【0031】
チャンバ11A,11Bは、有底円筒状に形成され、開口部が蓋部25A,25Bにより締結されるようになっている。チャンバ11A,11Bには、試料を供給するための試料供給路27a,27bがそれぞれ蓋部25A,25Bを介して挿入されている。
また、チャンバ11A,11Bは、互いの中心位置に軸線を有する回転軸13に支持されて、分離槽29に収容されている。
【0032】
回転軸13は、分離槽29の下方に位置するモータ15の駆動軸(図示略)に取り付けられている。回転軸13は、鉛直に配置され、軸線方向の上側先端部が分離槽29に挿入されている。この上側先端部は、T字状に形成され、チャンバ11A,11Bを支持する腕部31a,31bを有している。すなわち、分離槽29内において、回転軸13のT字状に形成された一方の腕部31aがチャンバ11Aの蓋部25Aと連結され、他方の腕部31bがチャンバ11Bの蓋部25Bと連結されている。
【0033】
モータ15は、回転軸13を、軸線回りに回転させることにより、分離槽29内において、回転軸13の腕部31a,31bにより支持されるチャンバ11A,11Bを回転軸13の軸線回りに回転させるようになっている。
【0034】
また、モータ15は、取り付け板33に載置され、取り付け板33の下端に設置された取り付けダンパ35を介して筐体36に収容されている。ダンパ35は、モータ15が駆動されることにより発生する振動を吸収するようになっている。
【0035】
回転角検出部19は、分離槽29とモータ15との間に配置されている。回転角検出部19は、回転軸13に直接取り付けられたドグ(光遮断部)37と、図示しない支柱に支持され、発光部と受光部(図示略)とを有するフォトインタラプタ39とを備えている。
【0036】
ドグ37は、図2に示すような、ほぼ半円板状の部材であり、半円の中心部分に回転軸13が取り付けられている。また、ドグ37は、回転軸13の軸線方向に直交するように配置され、回転軸13とともにその軸線回りに回転させられるようになっている。
ドグ37の取り付け方向は、回転軸13の軸線方向から見て、直線部分が腕部31a,31bの長手方向に対して直交する方向を除き、任意の方向でよい。
【0037】
フォトインタラプタ39は、ドグ37を板厚方向に挟んで対向する位置に発光部と受光部とを配置している。したがって、フォトインタラプタ39は、半円板状のドグ37が回転軸13の軸線回りに1回転させられる間に、発光部と受光部との間の光軸を1/2回転ごとに遮断するのを利用して、回転軸13の回転角を検出するようになっている。
フォトインタラプタ39は、発光部の光を受光部により検出している間をON信号、発光部の光がドグ37に遮られて検出できない間をOFF信号として、試料量判断部21に出力するようになっている。
【0038】
また、取り付け板33には、モータ15の近傍に加速度センサ17が載置されている。加速度センサ17は、取り付け板33を介して伝達される回転軸13の軸線に直交する方向の振動を加速度信号として検出し、試料量判断部21に出力するようになっている。
なお、加速度センサ17による振動の検出方向は、回転軸13の軸線に交差する方向であれば、いずれの方向に設定してもよい。
【0039】
試料量判断部21は、上記フォトインタラプタ39および加速度センサ17と接続されている。試料量判断部21は、フォトインタラプタ39からのON/OFF信号と、加速度センサ17からの加速度信号とを受けて、これらON/OFF信号と加速度信号との関係に基づいて、チャンバ11A,11B間の試料量の大小を判断するようになっている。
【0040】
具体的には、試料量判断部21は、図3に示すように、加速度センサ17からの加速度信号を記憶する第1のバッファ部41と、フォトインタラプタ39からのON/OFF信号を記憶する第2のバッファ部43と、前記ON信号の立ち上がり時の加速度信号V1をサンプルホールドする第1のサンプルホールド部45と、前記OFF信号の立ち上がり(ON信号の立ち下がり)時の加速度信号V2をサンプルホールドする第2のサンプルホールド部47と、加速度信号V1と加速度信号V2との差分を求める演算部49と、前記差分に基づいてモータ15の駆動を制御する駆動制御部51とを備えている。
【0041】
駆動制御部51は、演算部49による演算結果に基づいて、チャンバ11A,11B間の試料量の大小を判断するとともに、試料量の差が規定値以内か否かを検出するようになっている。そして、駆動制御部51は、試料量の差が規定値内である場合には、回転数を上げる信号をモータ15へ出力する一方、試料量の差が規定値外である場合には、モータ15の回転数を維持するとともに、試料供給部23に試料補給信号を出力するようになっている。
【0042】
試料供給部23は、駆動制御部51から出力された試料補給信号に基づいて、試料供給路27aを介してチャンバ11Aに試料を補給し、あるいは、試料供給路27bを介してチャンバ11Bに試料を補給するようになっている。
【0043】
次に、上述した本実施形態に係る細胞処理装置1の動作について説明する。
生体細胞を含む生体組織は、まず、洗浄部3において洗浄され、消化部5へと送られる。続いて、消化部5において、洗浄後の生体組織が消化されて生体細胞が分離される。分離された生体細胞は、遠心分離機10へと送られて、遠心処理されることにより濃縮される。
【0044】
遠心分離機10の動作について詳細に説明する。
濃縮される生体細胞は、遠心分離機10の試料供給部23に送られ、試料供給路27a,27bを介して、試料としてチャンバ11A,11Bにそれぞれ供給される。続いて、モータ15が作動されることにより、回転軸13が軸線回りに回転させられ、チャンバ11A,11Bがその軸線回りに回転させられる。これにより、チャンバ11A,11Bに収容されている試料が、回転の半径方向外方に向かって回転数に応じた遠心力を受けて遠心分離が行われる。
【0045】
本実施形態に係る遠心分離機10によれば、回転軸13が回転させられると、回転角検出部19の作動により、1/2回転ごとに交互にON/OFFするON/OFF信号が発生する。
また、試料供給量23から供給されるチャンバ11A,11B間の試料の量が均等に配分されていないと、チャンバ11A,11B間の重量バランスが崩れる。そのため、チャンバ11A,11B間の試料量のアンバランスの程度に応じてチャンバ11A,11Bを支持する回転軸13に周期的な振動が発生する。
【0046】
回転軸13に発生した振動は、加速度センサ17の作動により検出される。そして、回転角検出部19の作動により、加速度センサ17による振動の検出方向に対する回転軸13の回転角が検出される。
【0047】
具体的には、加速度センサ17により、回転軸13の軸線に交差する方向の振動が検出され(図6において、ステップA1参照)、振動の振幅に基づく加速度信号が試料量判断部21へ出力される。上述したように回転軸13の振動は周期的なので、加速度信号は、図4および図5に示すような正弦波となる。
【0048】
また、半円板状に形成されたドグ37が、回転軸13とともに軸線回りに回転することにより、フォトインタラプタ39の発光部と受光部との間の光軸が、回転軸13の1/2回転間隔で断続される。これにより、回転軸13の回転が1/2回ごとに検出される(図6において、ステップA2参照)。そして、フォトインタラプタ39から、図4および図5に示すような180°間隔で切替わる矩形波のON/OFF信号が試料量判断部21へ出力される。
【0049】
試料量判断部21においては、図3に示すように、加速度センサ17から出力された加速度信号が第1のバッファ部41に記憶され、フォトインタラプタ39から出力されたON/OFF信号が第2のバッファ部43に記憶される。
第1のバッファ部41に記憶された加速度信号のうち、第2のバッファ部43に記憶されたON/OFF信号の立ち上がり時の加速度信号V1が第1のサンプルホールド部45にサンプルホールドされ、第2のバッファ部43に記憶されたON/OFF信号の立ち下がり時の加速度信号V2が、第2のサンプルホールド部47にサンプルホールドされる。
【0050】
これら加速度信号V1および加速度信号V2は、それぞれ演算部49に出力される。演算部49においては、加速度信号V1と加速度信号V2との差分が求められ、演算結果が駆動制御部51へ出力される。
駆動制御部51においては、演算結果に基づいて、ON/OFF信号の立ち上がり時と立ち下がり時のいずれの検出時点の加速度信号V1,V2が、回転軸13の振動の振幅のピークに近いかが判断される。
【0051】
例えば、図4示す例では、加速度信号V1より加速度信号V2の方が大きく、回転軸13の振動の振幅のピークは、ON/OFF信号の立ち下がり時に近いことが分かる。この場合、半円板状のドグ37が取り付けられている側に配置されているチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bの試料量が大きいと判断される。
【0052】
また、図5に示す例では、加速度信号V1の方が加速度信号V2より大きく、回転軸13の振動の振幅のピークは、ON/OFF信号の立ち上がり時に近いことが分かる。この場合、半円板状のドグ37が取り付けられていない側に配置されているチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bの試料量が大きいと判断される。
【0053】
このようにして、駆動制御部51において、チャンバ11A,11B間の試料量の大小が判断される。また、駆動制御部51においては、演算部49による演算結果に基づいて、試料量の差が所定の規定値以内か否かを判断される(図6において、ステップA4参照)。
【0054】
チャンバ11A,11B間の試料差が所定の規定値内と判断されると、駆動制御部51から回転数を上げる信号がモータ15に送られて、遠心分離が継続して行われる(図6において、ステップA5参照)。また、試料差が所定の規定値外と判断されると、モータ15の回転数が維持されるとともに、試料量の少ないチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bに試料を補給するための試料補給信号が試料供給部23に出力される。
【0055】
試料供給部23においては、駆動制御部51から出力される試料補給信号に基づいて、試料供給路27aを介してチャンバ11Aに、あるいは、試料供給路27bを介してチャンバ11Bに試料が補給される(図6において、ステップA6参照)。
そして、チャンバ11A,11B間の試料量の差が所定の規定値内になるように、ステップA1からステップA4の動作が繰り返される。
【0056】
以上説明したように、本実施形態に係る細胞処理装置1によれば、回転軸13の周期的な振動に基づく加速度信号と、回転軸13の1/2回転ごとに切替わるON/OFF信号との関係に基づいて、チャンバ11A,11B間の試料量の大小を判断することができる。そして、この判断結果に基づいてチャンバ11A,11B間の試料の量が均等になるように補正することにより、回転軸13をスムーズに回転させ、試料の遠心分離を円滑に行うことが可能となる。
また、チャンバ11A,11B間の試料量を均等にする補正を自動化することができ、遠心分離の自動化率を向上させて、生体細胞の濃縮効率を向上させることができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、試料供給部23を採用して、試料量の小さいチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bに試料を補給することを例示して説明したが、これに代えて、例えば、試料量の大きいチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bから試料を吸引する試料吸引部を採用することとしてもよい。また、例えば、チャンバ11A,11B間で試料を移動させる試料移動部を採用することとしてもよい。
【0058】
さらに、本実施形態は、以下のように変形することができる。
例えば、細胞処理装置の遠心分離機が、図7に示すように、チャンバ11A,11B間の試料量の大小関係を表示する試料量表示部53を備え、試料量判断部21が、チャンバ11A,11B間の試料量が均等でないと判断した場合に、モータ15の駆動を停止することとしてもよい。
【0059】
この場合、図8のフローチャートに示すように、加速度センサ17により回転軸13の振動が検出され(ステップB1参照)、回転角検出部19により回転軸13の回転角が検出される(ステップB2参照)。そして、駆動制御部51においてチャンバ11A,11B間の試料量の差が検知される(ステップB3参照)。試料量判断部21の駆動制御部51の作動により、チャンバ11A,11B間の試料量の大小が判断されると、モータ15に駆動停止信号が送られて駆動が停止されるとともに(ステップB4参照)、試料量表示部53に試料量の大小を示す信号が送られて、チャンバ11A,11B間の試料量の大小関係が表示される(ステップB5参照)。
【0060】
このようにすることで、チャンバ11A,11B間の試料量が不均等の場合に、試料量表示部53に表示されるチャンバ11A,11B間の試料量の大小関係により、ユーザーは、どちらの試料量が大きいのかを簡易に認識することができる。
また、モータ15の駆動が停止されることによりチャンバ11A,11Bが静止状態となるので、チャンバ11A,11B間の試料の量を均等にする補正を手動により速やかに行うことができる。
【0061】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る細胞処理装置について、図9〜図12を参照して説明する。
本実施形態に係る細胞処理装置は、図9および図10に示すように、遠心分離機60の回転角検出部61の構成および試料量判断部63の構成において第1の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態に係る細胞処理装置1と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0062】
遠心分離機60の回転角検出部61は、第1の実施形態のほぼ半円板状に形成されたドグ37に代えて、図9に示すような、ほぼ円板状に形成されたドグ65を備えている。
ドグ65は、その中心に回転軸13を貫通させて、回転軸13に固定されている。また、ドグ65には、厚さ方向に貫通する孔(光遮断部)67が1ヶ所設けられている。
【0063】
ドグ65の孔67は、フォトインタラプタ39の光軸が配置されている半径方向位置に設けられている。これにより、回転軸13が回転してドグ65の孔67がフォトインタラプタ39の光軸に一致する回転角度の位置に配置されたときに、フォトインタラプタ39の発光部から発光された光が受光部により検出され、ON信号を出力するようになっている。
【0064】
試料量判断部63は、図10に示すように、フォトインタラプタ39からのON/OFF信号を受けて、回転軸13が1回転する間の時間を計測するタイマ(設定手段)69と、加速度センサ17からの加速度信号を保持して逐次比較することにより、加速度信号の振幅のピーク時を検出するピーク時検出部(検出手段)71と、該ピーク時検出部71により検出されるピーク時と前記フォトインタラプタ39から定期的に出力されるON/OFF信号との相対関係を検出するタイミング検出部73とを備えている。
【0065】
フォトインタラプタ67の作動により、図11および図12に示すような回転軸13が軸線回りに1回転する間に1パルスを出力する矩形波のON/OFF信号が試料量判断部63へ出力されるようになっている。
試料量判断部63においては、フォトインタラプタ67から出力されたON/OFF信号がタイマ69に入力され、加速度信号17からの加速度信号がピーク時検出部71に入力されるようになっている。
【0066】
タイマ69においては、フォトインタラプタ67からのON/OFF信号の立ち上がりをトリガとして計時を開始し、次のON/OFF信号の立ち上がりをトリガとして計時を終了するようになっている。そして、ON/OFF信号の計時の開始時刻(このときの時間信号を「第1の立ち上がり信号K0」とする。)が基準回転角度位置として設定され、計時が開始されてから終了するまでの時間信号が逐次タイミング検出部73に出力されるようになっている。
【0067】
ピーク時検出部71においては、加速度センサ17からの加速度信号の振幅のピークが検出されると、ピーク時検出信号がタイミング検出部73に出力される。
タイミング検出部73においては、ピーク時検出部71からの検出信号を受けると、その時点におけるタイマ69からのピーク時信号K1をピーク時刻として保持する。また、タイミング検出部73は、次回のON/OFF信号の立ち上がりが入力された時点の時刻の第2の立ち上がり信号K2を受け取るようになっている。
【0068】
これら、ピーク時信号K1および第2の立ち上がり信号K2は、ON/OFF信号の第1の立ち上がり信号K0を基準として計時されたものである。したがって、第1の立ち上がり信号K0からピーク時信号K1までの時間T1は、基準回転角度位置から振動の振幅がピークとなる時点までの回転軸13の回転角度を間接的に表していることになる。また、第1の立ち上がり信号K0から第2の立ち上がり信号K2までの時間T2は、回転軸13の1回転の角度360°を間接的に表していることになる。
【0069】
そこで、タイミング検出部73においては、(T1/T2)×360(°)の演算が行われて、回転軸13の振動の振幅がピークとなる回転角度位置が算出される。この演算結果は、駆動制御部51に出力されて、回転軸13の振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置が基準回転角度位置に近いか否かが判断される。
【0070】
例えば、図11示す例では、第1の立ち上がり信号K0からピーク時信号K1までの時間T1が、第1の立ち上がり信号K0から第2の立ち上がり信号K2までの時間T2に対して短く、(T1/T2)×360(°)の演算結果が180(°)より小さいことが分かる。すなわち、回転軸13の振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置が基準回転角度位置に近いことが分かる。
この場合、回転軸13の軸線方向から見て、ドグ65の回転方向に孔67が設けられている側に配置されたチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bの試料量が大きいと判断される。
【0071】
また、図12に示す例では、第1の立ち上がり信号K0からピーク時信号K1までの時間T1が、第1の立ち上がり信号K0から第2の立ち上がり信号K2までの時間T2に対して長く、(T1/T2)×360(°)の演算結果が180(°)より大きいことが分かる。すなわち、回転軸13の振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置が基準回転角度位置から離れていることが分かる。
この場合、回転軸13の軸線方向から見て、ドグ65の回転方向と反対側に孔67が設けられている側のチャンバ11Aあるいはチャンバ11Bの試料量が大きいと判断される。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る細胞処理装置によれば、回転軸13の周期的な振動に基づく加速度信号と、回転軸13の1回転間隔で検出されるON/OFF信号との関係に基づいて、チャンバ11A,11B間の試料量の大小を判断することができる。そして、この判断結果に基づいて、チャンバ11A,11B間の試料の量が均等になるように補正することにより、回転軸13をスムーズに回転させ、試料の遠心分離を円滑に行うことが可能となる。
【0073】
なお、本実施形態においては、回転角検出部61として、ほぼ円板状に形成されたドグ65を例示して説明したが、回転軸13が軸線回りに1回転するうちの1点を検出することができればよく、例えば、回転軸13に軸線方向に直交する光遮断棒を設けることとし、該光遮断棒が回転軸13ともに軸線回りに回転することにより、フォトインタラプタ67の光軸が遮断される時をOFF信号とするON/OFF信号を出力することとしてもよい。このようにすることで、OFF信号時の回転角度の位置を基準回転角度位置とすることができる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、第1の実施形態および第2の実施形態においては、回転角検出部19,61として、ドグ37,65とフォトインタラプタ39により回転軸13の回転角を検出することを例示して説明したが、これに代えて、モータ15に備えられたエンコーダ等からの回転角度信号を直接利用することとしてもよい。
【0075】
また、例えば、加速度センサ17により、回転軸13の振動の振幅に基づく加速度を検出することを例示して説明したが、これに代えて、光学式の変位センサを採用することとし、回転軸13の振動の変位を検出することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る細胞処理装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1の回転角検出部を回転軸の軸線方向から見た図である。
【図3】図1の試料量判断部の概略構成を示すブロック図である。
【図4】図1の試料量判断部に入力される加速度信号とON/OFF信号の位相関係を示した図である。
【図5】図1の試料量判断部に入力される加速度信号とON/OFF信号の別の位相関係を示した図である。
【図6】図1の遠心分離機の遠心処理工程を示すフローチャート図である。
【図7】第1の実施形態の変形例に係る細胞処理装置の遠心分離機の概略構成を示すブロック図である。
【図8】図7の遠心分離機の遠心分離工程を示すフローチャート図である。
【図9】本発明の第2の実施形態に係る細胞処理装置の遠心分離機の回転角検出部を回転軸の軸線方向から見た図である。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る細胞処理装置の遠心分離機の試料量判断部の概略構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る細胞処理装置の試料量判断部に入力される加速度信号とON/OFF信号の別の位相関係を示した図である。
【図12】本発明の第2の実施形態に係る細胞処理装置の試料量判断部に入力される加速度信号とON/OFF信号の別の位相関係を示した図である。
【符号の説明】
【0077】
1 細胞処理装置
10 遠心分離機
11A,11B チャンバ(試料容器)
13 回転軸(回転支持部)
15 モータ(駆動部)
17 加速度センサ(振動検出部)
19 回転角検出部
21 試料量判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する2つの試料容器と、
該試料容器を支持し、これら2つの試料容器の中心位置に配置された軸線回りに回転される回転支持部と、
該回転支持部を前記軸線回りに回転させる駆動部と、
前記回転支持部の前記軸線に交差する方向の振動を検出する振動検出部と、
該振動検出部の検出方向に対する前記回転支持部の回転角を検出する回転角検出部と、
前記振動検出部により検出された前記回転支持部の振動と前記回転角検出部により検出された回転角との関係に基づいて、前記2つの試料容器間の試料量の大小を判断する試料量判断部と
を備える遠心分離機。
【請求項2】
前記試料量判断部が、前記回転支持部の回転角が180°異なる位置での前記回転支持部の振動の振幅を比較する請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記回転角検出部が、発光部と受光部とを有するフォトインタラプタと、前記回転支持部に設けられ、前記フォトインタラプタの光軸を前記回転支持部の1/2回転ごとに断続させる光遮断部とを備える請求項1または請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記試料量判断部が、前記回転支持部の基準回転角度位置を設定する設定手段と、前記回転支持部の振動の振幅がピークとなる時点の回転角度位置を検出する検出手段とを備える請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記回転角検出部が、発光部と受光部とを有するフォトインタラプタと、前記回転支持部に設けられ、前記フォトインタラプタの光軸を前記回転支持部の1回転ごとに断続させる光遮断部とを備える請求項1または請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記回転角検出部が、前記駆動部の駆動信号に基づいて前記回転支持部の回転角を検出する請求項1から請求項5のいずれかに記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記振動検出部が、加速度センサである請求項1から請求項6のいずれかに記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記振動検出部が、前記駆動部の前記回転支持部近傍に配置されている請求項1から請求項7のいずれかに記載の遠心分離機。
【請求項9】
生体細胞を含む生体組織を洗浄する洗浄部と、
該洗浄部により洗浄された生体組織を消化し、生体細胞を分離する消化部と、
該消化部により分離された生体細胞を濃縮する請求項1から請求項8のいずれかに記載の遠心分離機とを備える細胞処理装置。
【請求項10】
2つの試料容器間の試料量の大小を表示する試料量表示部を備え、
前記試料量判断部が、前記2つの試料容器間の試料量が均等でないと判断した場合に、前記駆動部の作動を停止するとともに、前記試料量表示部に前記2つの試料容器間の試料量の大小を表示する請求項9に記載の細胞処理装置
【請求項11】
前記試料量判断部により判断された前記2つの試料容器間の試料量の大小関係に基づき、前記試料容器間の試料量の調整を行う試料量調整部を備える請求項9または請求項10に記載の細胞処理装置。
【請求項12】
前記試料量調整部が、前記試料容器に試料を供給する試料供給部、または、前記試料容器から試料を吸引する試料吸引部である請求項11に記載の細胞処理装置。
【請求項13】
前記試料量調整部が、前記2つの試料容器間の試料を移動させる試料移動部である請求項11に記載の細胞処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−39630(P2009−39630A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−206265(P2007−206265)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】