説明

遠心分離用の検体ホルダー

【課題】2つの検体収容部を有し且つ液状の検体から遠心分離によりスライドガラス上に2つの試料である固形成分を採取する合成樹脂製の検体ホルダーであって、スライドガラス受板と濾紙の界面への検体の漏れ出しのない遠心分離用の検体ホルダーを提供する。
【解決手段】検体ホルダー(A1)は、濾紙(6)を介してスライドガラス(7)が取り付けられるスライドガラス受板(2)と、検体収容室(31)、(32)に2分割された検体収容部(3)と、検体収容室(31)、(32)からスライドガラス受板(2)の一面に伸長された検体流路(41)、(42)とから主に構成され、スライドガラス受板(2)の他面には、スライドガラス(7)をクリップ固定するためのクリップ掛留め桟(5)が設けられる。スライドガラス受板(2)の一面の検体排出穴(21)、(22)は、クリップ掛留め桟(5)の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離用の検体ホルダーに関するものであり、詳しくは、遠心分離器に適用され且つ収容した血液などの液状の検体から分離される固形成分をスライドガラスに採取する遠心分離用の検体ホルダーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液などの液状の検体から固形成分を分離する遠心分離においては、遠心分離器に装填可能な合成樹脂製の検体ホルダーを使用して固形成分だけをスライドガラスに採取している。上記の検体ホルダーは、「検体入れフィルター片の一体ユニット」として知られており、板面が長方形の縦長の平板状に形成され且つその一面に濾紙(フィルター片)を介してスライドガラスが取り付けられるスライドガラス受板(フランジ部材)と、略漏斗状に形成されてスライドガラス受板の他面側に配置され且つその上端開口から検体が注入される検体収容部(検体入れ)と、検体収容部の下端部からスライドガラス受板に向けて伸長され且つその先端がスライドガラス受板の一面に開口して検体排出穴(排出口)を構成する検体流路とから主に構成されている。そして、濾紙は、これに設けられた検体通過穴(開口)が検体排出穴に重なり合う様にスライドガラス受板に貼着されている。
【0003】
上記の検体ホルダーを使用した遠心分離においては、濾紙の表面にスライドガラスを専用のクリップで固定した後、遠心分離器の遠心ローターに検体ホルダーを装填し、その検体収容部に検体を注入して遠心分離を行う。検体ホルダーの検体収容部に収容された検体は、遠心ローターの回転により、検体流路を通じてスライドガラス受板の検体排出穴からスライドガラスへ送り出され、検体中の液体成分は、濾紙の検体通過穴を通過する際に濾紙側に吸収され、固形成分がスライドガラス表面に捕捉される。従って、検体ホルダーからスライドガラスを取り外すことにより、固形成分だけを検査することが出来る。
【特許文献1】特開昭61−147128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の様な検体ホルダーは、効率的な試料採取および経済性の観点からすると、各独立した2つの検体収容部を設け、それぞれに検体流路、検体排出穴を設け、濾紙に一対の検体通過穴を設けることにより、2つの検体を同時に遠心分離して1枚のスライドガラス上に2つの試料を採取できる。
【0005】
しかしながら、1つの検体ホルダーに2つの検体収容部を設けた場合には、遠心分離操作を行った際、実際、スライドガラスに捕捉される固形成分が少なくなると言う現象が生じる。また、各検体収容部に対応するスライドガラス上の2つの箇所において固形成分の捕捉率に差異が生じる。そして、これらの現象は、スライドガラス受板の一面に予め濾紙を貼着し且つスライドガラス固定用のクリップにより濾紙を前記の一面側に加圧しているにも拘わらず、遠心分離操作の際、各検体排出穴から排出された検体がスライドガラス受板の一面と濾紙との界面(微小間隙)に漏れ出すことに起因している。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、2つの検体収容部を備え且つこれらにそれぞれ収容された液状の検体を同時に遠心分離して1枚のスライドガラス上に2つの試料を採取する成樹脂製の検体ホルダーであって、スライドガラス受板と濾紙の界面への検体の漏れ出しがなく、検体中の固形成分をスライドガラス上に確実に捕捉できる遠心分離用の検体ホルダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の遠心分離用の検体ホルダーにおいて、スライドガラス受板と濾紙の界面への液漏れ(検体の漏れ出し)は、スライドガラスをクリップで固定した際のスライドガラス受板に対する濾紙の密着性の低下に因るものであり、濾紙の密着性低下の原因は、主に、検体ホルダー製造時、スライドガラスをクリップで固定するためのクリップ掛留め桟をスライドガラス受板の他面側に設けることによって生じる当該スライドガラス受板のヒケ等の僅かな歪みにより、クリップの押圧力が各検体排出穴周縁に均等に作用しないことにある。そこで、本発明においては、スライドガラス受板の一面に設けられる2つの検体排出穴を前記の一面においてクリップ掛留め桟の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置し、スライドガラス受板の偏ったヒケ等の歪みを防止し、スライドガラス固定時のクリップの押圧力を各検体排出穴周縁に均等に作用させることにより、各検体排出穴に対する濾紙の密着性を高める様にした。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、遠心分離器に取り付けられ且つ収容した液状の検体から分離される固形成分をスライドガラスに採取する合成樹脂製の遠心分離用の検体ホルダーであって、板面が長方形の縦長の平板状に形成され且つその一面に濾紙を介してスライドガラスが取り付けられるスライドガラス受板と、略漏斗状に形成されて前記スライドガラス受板の他面側に配置され且つ内部を左右2つの検体収容室に分割されて上端開口からそれぞれに検体が注入される検体収容部と、前記各検体収容室の下端部から前記スライドガラス受板に向けてそれぞれ伸長され且つその先端が前記スライドガラス受板の一面に開口して検体排出穴を構成する2つの検体流路とから主に構成され、かつ、前記スライドガラス受板の一面の前記各検体排出穴の周縁には、環状のシール部がスライドガラス受板表面から膨出して形成され、前記濾紙の前記各検体排出穴に相当する部位には、前記検体排出穴の内径以上の直径の検体通過穴が設けられ、前記スライドガラス受板の他面には、スライドガラスをクリップで固定するためのクリップ掛留め桟が水平に設けられ、そして、前記各検体排出穴は、前記スライドガラス受板の一面において、前記クリップ掛留め桟の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置されていることを特徴とする遠心分離用の検体ホルダーに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る遠心分離用の検体ホルダーによれば、スライドガラス受板の一面において、各検体排出穴がクリップ掛留め桟の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置されていることにより、スライドガラス受板の偏ったヒケ等の歪みが防止され、スライドガラス固定時のクリップの押圧力を各検体排出穴周縁のシール部に均等に作用させることが出来、スライドガラス受板の各検体排出穴に対する濾紙の密着性を高めることが出来るため、スライドガラス受板と濾紙の界面への検体の漏れ出しがなく、検体中の固形成分をスライドガラス上に確実に捕捉できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る遠心分離用の検体ホルダーの一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る遠心分離用の検体ホルダーの構成要素を示す展開図である。図2〜図4は本発明に係る遠心分離用の検体ホルダーのホルダー本体の構造を示す投影図であり、各々、図2は検体ホルダーのホルダー本体の上面図、図3は検体ホルダーのホルダー本体の左側面図、図4は検体ホルダーのホルダー本体の右側面図、図5は検体ホルダーのホルダー本体の背面図である。また、図6は、ホルダー本体にスライドガラスを装着するためのクリップ(固定具)の構造を示す斜視図であり、図7は、ホルダー本体にスライドガラスを取り付けた状態を示す斜視図である。なお、以下の説明においては、遠心分離用の検体ホルダーを「検体ホルダー」と略記する。
【0011】
本発明の検体ホルダーは、遠心分離器に取り付けられる合成樹脂製の検体収容用のホルダーであり、収容した液状の検体から遠心分離される固形成分をスライドガラスに採取するために使用される。液状の検体としては、血液や尿が挙げられ、例えば、血球容量を調べる血液検査においては、遠心分離操作により、赤血球や白血球が固形成分として採取され、沈渣を調べる尿検査においては、遠心分離操作により、赤血球、白血球、扁平上皮脂肪などが固形成分として採取される。
【0012】
本発明の検体ホルダーは、図1に符号(A1)で示す様に、概略、ホルダー本体(1)に濾紙(6)を貼着して構成される。ホルダー本体(1)は、実質的に液状の検体を収容する容器であり、通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂を射出成形して一体的に製造される。濾紙(6)は、検体中の液体成分を吸収してするための吸収材であり、セルロース、吸水性ポリマー、綿などの吸水性を有する材料で構成される。
【0013】
ホルダー本体(1)は、図1、図3及び図4に示す様に、平板状に形成され且つその一面に濾紙(6)が貼着されるスライドガラス受板(2)と、当該スライドガラス受板の他面側に配置され且つ内部を左右2つの検体収容室(31)、(32)に分割された検体収容部(3)と、当該検体収容部の各検体収容室(31)、(32)からスライドガラス受板(2)に向けてそれぞれ伸長された検体流路(41)、(42)とから主に構成される。
【0014】
スライドガラス受板(2)は、スライドガラス(7)と同等の形状、すなわち、板面が長方形の縦長の平板状に形成されており、その一面(図1及び図5に示す面)には、後述するクリップ(8)(図6参照)を利用し、濾紙(6)を介してスライドガラス(7)が取り付けられる様になされている。通常、スライドガラス受板(2)の長辺の長さは40〜70mm、短辺の長さは20〜30mm、厚さ(後述するリブ(23)を含まない厚さ)は1〜3mmに設計される。
【0015】
図1に示す様に、検体収容部(3)は、全体形状を略漏斗状に形成され、スライドガラス受板(2)の他面側に配置される。検体収容部(3)の内部は、図1及び図2に示す様に、仕切板(30)により左右2つの独立した検体収容室(31)、(32)に分割されており、上端開口からそれぞれに検体が注入される様に構成されている。図3に示す一方の検体収容室(31)は、縦長に配置されるスライドガラス(7)の下半部に検体を送り出すため、スライドガラス受板(2)の下半部から上端に達する高さに形成され、図4に示す他方の検体収容室(32)は、スライドガラス(7)の上半部に検体を送り出すため、スライドガラス受板(2)の略中央から上端に達する高さに形成される。すなわち、検体収容室(31)と検体収容室(32)は、これらの各下端部が上下に異なる位置となる様に配置される。
【0016】
また、図1及び図2に示す様に、検体収容部(3)の上端縁部には、遠心分離操作の際に蓋(図示省略)を装着するため、蓋嵌合用の切欠き(33)が設けられる。検体収容部(3)全体の大きさは、通常、上端の最大直径が13〜20mm、下端の最小直径が5〜10mm、一方の検体収容室(31)に相当する部分の高さが40〜50mm、他方の検体収容室(32)に相当する部分の高さが20〜30mmに設計される。
【0017】
図1、図3及び図4に示す様に、上記のスライドガラス受板(2)と検体収容部(3)とは、スライドガラス受板(2)の縦中心線に沿って当該スライドガラス受板に直交して張り出された支持板(11)により連結されている。そして、支持板(11)の上下端部には、スライドガラス受板(2)と支持板(11)との連結を補強するための補強リブ(12)が設けられる。
【0018】
検体流路(41)、(42)は、支持板(11)の表裏の各面に沿って形成される。図3に示す様に、一方の検体流路(41)は、高さの高い検体収容室(31)の下端部からスライドガラス受板(2)に向けて伸長され且つその先端がスライドガラス受板(2)の一面の下半部に開口して一方の検体排出穴(21)を構成している。図4に示す様に、他方の検体流路(42)は、高さの低い検体収容室(32)の下端部からスライドガラス受板(2)に向けて伸長され且つその先端がスライドガラス受板(2)の一面の略中央部に開口して他方の検体排出穴(22)を構成している。すなわち、ホルダー本体(1)においては、一方の検体収容室(31)に収容された検体が検体流路(41)を通じて検体排出穴(21)から排出され、他方の検体収容室(32)に収容された検体が検体流路(42)を通じて検体排出穴(22)から排出される様に構成される。
【0019】
検体ホルダー(A1)においては、上記の各検体排出穴(21)、(22)に濾紙(6)を密着させるため、図1に示す様に、スライドガラス受板(2)の一面の各検体排出穴(21)、(22)の周縁には、各々、環状のシール部(21s)、(22s)がスライドガラス受板(2)表面から僅かに膨出した状態で形成される。通常、各シール部(21s)、(22s)の幅(外径と内径の差)は2〜3.0mm、高さ(スライドガラス受板(2)表面からの膨出高さ)は0.1〜1mmに設計される。
【0020】
一方、濾紙(6)は、長方形の平面形状で且つスライドガラス受板(2)と同一の平面寸法に形成される。濾紙(6)の保留粒子径は、検体として血液や尿を収容する場合で0.1〜10μmである。濾紙(6)は、通常、スライドガラス受板(2)の一面側に超音波溶接により溶着される。そして、図1に示す様に、濾紙(6)の各検体排出穴(21)、(22)に相当する部位には、検体流路の内径と略同一直径の検体通過穴(61)、(62)が設けられる。すなわち、検体ホルダー(A1)においては、遠心分離操作により検体排出穴(21)、(22)から排出され且つ分離された検体中の液体成分を濾紙(6)に吸収させ、固形成分だけをスライドガラス(7)に捕捉する様になされている。
【0021】
また、ホルダー本体(1)のスライドガラス受板(2)には、遠心分離操作の際にスライドガラス(7)が取り付けられるが、図1、図3及び図4に示す様に、スライドガラス受板(2)の他面(濾紙(6)貼着面と反対の面)には、スライドガラス(7)をクリップ(8)で固定するためのクリップ掛留め桟(5)が水平に設けられる。クリップ掛留め桟(5)は、スライドガラス受板(2)の高さの略半分に位置に当該スライドガラス受板の表面から突出する状態で水平に設けられた溝である。
【0022】
上記のクリップ(8)は、図6に示す様に、検体ホルダー(A1)にスライドガラス(7)を固定するための固定具であり、スライドガラス(7)を収容するに足る浅い深さで且つ正面(図面において上面)及び上下端(図面において長手方向の両端)が開放された扁平な直方体状のケーシング(81)と、当該ケーシングの長手方向の一端に回動自在に枢着された押え金(83)とから構成され、押え金(83)の枢着部には、当該押え金をケーシング(81)から離間する方向へ付勢するバネ(図示省略)が装着されている。
【0023】
押え金(83)は、金属線により平面形状を扁平な略コ字状に形成された弾性体であり、押え金(83)の長手方向に沿った各棒状部の略中央には、浅い鈍角を構成する屈曲部(83r)が設けられている。また、ケーシング(81)の長手方向に沿った側壁であって且つケーシング(81)の長手方向の押え金(83)の枢着部と反対側の端部近傍には、それぞれ爪(82)、(82)が設けられており、押え金(83)は、バネに対抗してケーシング(81)側に回転させることにより爪(82)、(82)に係止可能に構成されている。
【0024】
検体ホルダー(A1)にスライドガラス(7)を固定するには、図7に示す様に、クリップ(8)のケーシング(81)にスライドガラス(7)を収め、当該スライドガラスの表面に濾紙(6)を突き当てる様に検体ホルダー(A1)をあてがい、押え金(83)を回転させてこれを爪(82)、(82)に係止する。これにより、押え金(83)の屈曲部(83r)が検体ホルダー(A1)のスライドガラス受板(2)のクリップ掛留め桟(5)に当接し、押え金(83)の弾性力により濾紙(6)の表面にスライドガラス(7)を相対的に密着状態に固定することが出来る。
【0025】
本発明の検体ホルダー(A1)においては、スライドガラス受板(2)における整形時の歪み(ヒケ)を出来る限り少なくするため、図1及び図5に示す様に、各検体排出穴(21)、(22)は、スライドガラス受板(2)の一面において、クリップ掛留め桟(5)の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置される。すなわち、スライドガラス受板(2)の一面において、各検体排出穴(21)、(22)は、各々、クリップ掛留め桟(5)に相当する部位から等距離の位置に配置される。これにより、スライドガラス受板(2)の偏った歪みをなくすことが出来、検体排出穴(21)、(22)の各シール部(21s)、(22s)と濾紙(6)との間に検体が漏れるのを防止することが出来る。
【0026】
また、本発明の検体ホルダー(A1)においては、スライドガラス受板(2)の全体的な歪みを更に低減するため、スライドガラス受板(2)の一面には、各検体排出穴(21)、(22)の周縁のシール部(21s)、(22s)よりも低い高さの補強用のリブ(23)が形成される。補強用のリブ(23)としては、例えば、スライドガラス受板(2)の周縁に設けられたリブ、その一部が各検体排出穴(21)、(22)に交わる様に格子状に配置されたリブが挙げられる。これらのリブは、肉厚の薄いスライドガラス受板(2)の剛性を高めることが出来、当該スライドガラス受板の歪みを低減させることが出来る。
【0027】
更に、スライドガラス受板(2)の歪みを一層低減するため、スライドガラス受板(2)の一面には、クリップ掛留め桟(5)に相当する部位に厚さ調整溝(25)が設けられる。厚さ調整溝(25)の深さは、スライドガラス受板(2)の表面(他面)からのクリップ掛留め桟(5)の突出高さに相当する大きさとされる。すなわち、スライドガラス受板(2)は、補強用のリブ(23)の部位を除くその肉厚がクリップ掛留め桟(5)の部位において厚くならない様に構成されている。これにより、クリップ掛留め桟(5)におけるヒケを低減し、スライドガラス受板(2)の歪みを防止することが出来る。
【0028】
本発明の検体ホルダー(A1)を使用した検体の遠心分離は、従来の検体ホルダーを使用した場合と同様に行われる。具体的には、先ず、クリップ(8)のケーシング(81)にスライドガラス(7)を収め、当該スライドガラスの表面に濾紙(6)を突き当てる様に検体ホルダー(A1)をあてがい、押え金(83)を爪(82)、(82)に係止することにより、検体ホルダー(A1)の濾紙(6)の表面にスライドガラスを固定する。次いで、検体ホルダー(A1)を立てた状態、すなわち、図1に示す様に検体収容部(3)の開口を上方に向けた状態でクリップ(8)と共に遠心分離器の遠心ローターに装填し、そして、検体収容部(3)の各検体収容室(31)、(32)にそれぞれ検体を注入して遠心分離を行う。
【0029】
検体ホルダー(A1)の検体収容室(31)、(32)に収容された検体は、遠心ローターの回転により、各々、検体流路(41)、(42)を通じてスライドガラス受板(2)の各検体排出穴(21)、(22)からスライドガラス(7)へ送り出されると共に、濾紙(6)の検体通過穴(61)、(62)を通過する際に、検体中の液体成分が濾紙(6)に吸収され、固形成分だけがスライドガラス(7)の表面に捕捉される。
【0030】
本発明の検体ホルダー(A1)においては、前述の様に、スライドガラス受板(2)の一面にて各検体排出穴(21)、(22)がクリップ掛留め桟(5)の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置されており、スライドガラス受板(2)における製造時の歪みが極めて少なく、かつ、各検体排出穴(21)、(22)の配置を工夫したことによりスライドガラス(7)の固定時のクリップ(8)の押圧力を各検体排出穴(21)、(22)の周縁のシール部(21s)、(22s)に均等に作用させることが出来るため、スライドガラス受板(2)のシール部(21s)、(22s)、すなわち、各検体排出穴(21)、(22)に対する濾紙(6)の密着性を高めることが出来る。
【0031】
従って、本発明の検体ホルダー(A1)によれば、上記の様に遠心分離操作を行った際、スライドガラス受板(2)と濾紙(6)の界面への液漏れ(検体の漏れ出し)を防止でき、その結果、検体中の固形成分をスライドガラス(7)上に確実に捕捉することが出来る。そして、遠心分離を行った後は、クリップ(8)と共に検体ホルダー(A1)を遠心ローターから取り外し、クリップ(8)を解除して検体ホルダー(A1)からスライドガラス(7)を取り外すことにより、スライドガラス(7)上の十分な量の固形成分を検査することが出来る。
【0032】
因に、本発明の検体ホルダー(A1)にスライドガラス(7)を取り付け、これを遠心分離器に装填し、固形成分濃度を一定に調節した一定量の検体として血液を各検体収容室(31)、(32)に注入して遠心分離を行った。一方、スライドガラス受板において2つの検体排出穴がクリップ掛留め桟から異なった距離の位置に配置された点を除き、本発明におけるのと同様の構成の検体ホルダーを比較例として使用し、前記と同様の血液を各検体収容室に注入して遠心分離を行った。その結果、比較例の検体ホルダーに比べて、本発明の検体ホルダー(A1)では固形成分の補足量(固形成分の個数)が約15%多かった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る遠心分離用の検体ホルダーの構成要素を示す展開図である。
【図2】検体ホルダーのホルダー本体の構造を示す上面図である。
【図3】検体ホルダーのホルダー本体の構造を示す左側面図である。
【図4】検体ホルダーのホルダー本体の構造を示す右側面図である。
【図5】検体ホルダーのホルダー本体の構造を示す背面図である。
【図6】ホルダー本体にスライドガラスを装着するためのクリップ(固定具)の構造を示す斜視図である。
【図7】ホルダー本体にスライドガラスを取り付けた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
A1 :検体ホルダー
1 :ホルダー本体
11 :支持板
12 :補強リブ
2 :スライドガラス受板
21 :検体排出穴
21s:シール部
22 :検体排出穴
22s:シール部
23 :リブ
25 :厚さ調整溝
3 :検体収容部
30 :仕切板
31 :検体収容室
32 :検体収容室
33 :切欠き
41 :検体流路
42 :検体流路
5 :クリップ掛留め桟
6 :濾紙
61 :検体通過穴
62 :検体通過穴
7 :スライドガラス
8 :クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心分離器に取り付けられ且つ収容した液状の検体から分離される固形成分をスライドガラスに採取する合成樹脂製の遠心分離用の検体ホルダーであって、板面が長方形の縦長の平板状に形成され且つその一面に濾紙を介してスライドガラスが取り付けられるスライドガラス受板と、略漏斗状に形成されて前記スライドガラス受板の他面側に配置され且つ内部を左右2つの検体収容室に分割されて上端開口からそれぞれに検体が注入される検体収容部と、前記各検体収容室の下端部から前記スライドガラス受板に向けてそれぞれ伸長され且つその先端が前記スライドガラス受板の一面に開口して検体排出穴を構成する2つの検体流路とから主に構成され、かつ、前記スライドガラス受板の一面の前記各検体排出穴の周縁には、環状のシール部がスライドガラス受板表面から膨出して形成され、前記濾紙の前記各検体排出穴に相当する部位には、前記検体排出穴の内径以上の直径の検体通過穴が設けられ、前記スライドガラス受板の他面には、スライドガラスをクリップで固定するためのクリップ掛留め桟が水平に設けられ、そして、前記各検体排出穴は、前記スライドガラス受板の一面において、前記クリップ掛留め桟の中央に相当する部位の周りに点対称の位置に配置されていることを特徴とする遠心分離用の検体ホルダー。
【請求項2】
スライドガラス受板の一面には、各検体排出穴の周縁のシール部よりも低い高さの補強用のリブが形成されている請求項1に記載の遠心分離用の検体ホルダー。
【請求項3】
スライドガラス受板の一面には、クリップ掛留め桟に相当する部位に厚さ調整溝が設けられている請求項1又は2に記載の遠心分離用の検体ホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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