説明

遠心圧縮機の軸シール固定構造

【課題】軸シールを固定するためのボルト等の締結部品の材料の選定の制約がなく、軸シールの取付け・取外しの際の作業性を改善できる遠心圧縮機の軸シール構造を提供する。
【解決手段】本発明の軸シール固定構造は、軸シール8の一端側である遠心インペラ側の端部において半径方向外側に突出するように形成されたフランジ部8aと、軸シール8の他端側に、軸シール8から半径方向外側に突出するように固定されたシール固定部材12とを備える。フランジ部8aとシール固定部材12の間にケーシング4が挟まれることで、ケーシング4に対する軸シール8の軸方向移動が拘束される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機においてケーシングに軸シールを固定するための軸シール固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心圧縮機において、圧縮ガスが遠心インペラの背面側を通って外部に漏れ出るのを抑制するために、回転軸とその周りを囲む静止部との間に、軸方向のガス流れを抑制する軸シールが配置される(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
図1は、軸シールを備えた遠心圧縮機30の第1の従来例を示す断面図である。遠心圧縮機30において、遠心インペラ31及び回転軸32がケーシング33に囲まれている。ケーシング33には圧縮対象のガスを導入する入口流路を形成するインレット部材34が固定されている。ケーシング33の内周部にリング状の軸シール35が配置されている。回転軸32のうち軸シール35に対向する外周部分には、軸方向に間隔をおいて複数のラビリンス群39が支持されている。
【0004】
軸シール35において、内周部には環状のシール室36が複数形成され、外周部には各シール室36に対応した環状の均圧室37が複数形成され、さらに、対応するシール室36と均圧室37を連通する通路38が複数形成されている。またケーシング33には、均圧室37と外部とを連通するための図示しないガス通路が形成され、このガス通路を通して、シールガスを吹き込んだり、漏れガスの回収をしたり、パージしたりする。
【0005】
図1の構成において、軸シール35をケーシング33に組み込む場合、軸シール35をケーシング33の内部側(遠心インペラ31が配置される側)から挿入し、軸シール35の端部に形成されたフランジ部35aをボルトで締結する。これにより、軸シール35が軸方向に移動しないようにケーシング33に固定される。
【0006】
図1に示す第1の従来例では、軸シール35のフランジ部35aをケーシング33にボルトで直接固定するため、フランジ部35aとケーシング33とが半径方向に拘束される。このため、軸シール35とケーシング33との熱膨張係数の差が大きい場合には、熱応力の発生が問題となることがある。このような問題に対処するための構造として、図2に示す第2の従来例がある。
【0007】
図2に示す第2の従来例では、ケーシング33の内部側において、軸シール35のフランジ部35aをシール押え板40とケーシング33との間で挟み、さらにシール押え板40を、ケーシング33にボルトで固定された固定ピース41で押さえることで、軸シール35が軸方向に移動しないようにケーシング33に固定される。
図2に示す構造は、軸シール35のフランジ部35aとケーシング33とが半径方向に互いに拘束されないため、軸シール35とケーシング33の材質の違いに起因する熱膨張差を吸収できる構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−203565号公報
【特許文献2】特開2009−2277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した第1の従来例(図1)及び第2の従来例(図2)では、軸シール35を軸方向に拘束するために使用するボルトは圧縮機内のガスに曝される。このため、このボルトは、ガスの種類に応じて耐腐食性、耐摩耗性などの機能を有する特殊な材料を採用する必要がありコスト増の要因となる。
また、上述した第1及び第2の従来例では、ケーシング33の内部側においてフランジ部35aをボルトで締結するため、作業スペースが狭く、軸シール35の取付け・取外しの際の作業性が悪いという問題がある。
また、上述した第2の従来例では、部品数が多くなり、軸シール35の取付け・取外しに手間がかかるという問題がある。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、軸シールを固定するためのボルト等の締結部品の材料の選定の制約がなく、軸シールの取付け・取外しの際の作業性を改善できる遠心圧縮機の軸シール構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の問題を解決するため、本発明の遠心圧縮機の軸シール固定構造は、遠心圧縮機において遠心インペラ及び回転軸を囲むケーシングと前記回転軸との間に配置され、ケーシングと回転軸との間の軸方向のガスの流れを抑制するためにケーシングの内周部に取り付けられるリング状の軸シールを前記ケーシングに固定するための構造であって、前記軸シールの一端側である遠心インペラ側の端部において半径方向外側に突出するように形成されたフランジ部と、前記軸シールの他端側に、軸シールから半径方向外側に突出するように固定されたシール固定部材とを備え、前記フランジ部と前記シール固定部材の間にケーシングが挟まれることで、ケーシングに対する軸シールの軸方向移動が拘束される、ことを特徴とする。
【0012】
上記の遠心圧縮機の軸シール固定構造において、前記シール固定部材は、リング状部材として構成されてもよく、あるいは、軸シールの前記他端側端面の周縁に設けられた少なくとも一つの固定ピースとして構成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
上記の本発明の構成によれば、フランジ部とシール固定部材の間にケーシングが挟まれることで、ケーシングに対する軸シールの軸方向移動が拘束されるようになっているので、シール固定部材は、ケーシングの内部側ではなく、ケーシングの外部側に設けられる。
したがって、シール固定部材を軸シールに固定するためのボルト等の締結部品は、ケーシングの外部側に設けられるので、圧縮機内のガスに曝されることがなく、材料選定に制約を受けない。
【0014】
また、軸シールをケーシングに固定する際には、ケーシングの外部側からボルト等の締結部品を締結するので、作業性を大幅に改善できる。
また、フランジ部及びシール固定部材はケーシングに対してボルトなどで直接固定されないので、フランジ部とシール固定部材のケーシングに対する半径方向の相対移動がある程度許容される。したがって、本発明によれば、部品点数の増大を最小限に抑えつつ、熱応力を吸収できる構造にできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】軸シールを備えた遠心圧縮機の第1の従来例を示す断面図である。
【図2】軸シールを備えた遠心圧縮機の第2の従来例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る軸シール固定構造を備えた遠心圧縮機の構成を示す断面図である。
【図4】(A)は、図3における4A−4A線断面図である。(B)はシール固定部材の別の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図3は、本発明の実施形態に係る軸シール固定構造を備えた遠心圧縮機1の構成を示す断面図である。
図3において、回転軸2が歯車箱16に固定された軸受15によって回転可能に支持されている。歯車箱16は、上半部16aと下半部16bとを有し、上半部16aはメンテナンス時には破線で示すように取り外すことができるようになっている。
【0018】
回転軸2の先端には遠心インペラ3が一体的に連結されており、図示しない駆動装置によって回転軸2が回転駆動されることにより、遠心インペラ3が回転させられる。なお、回転軸2と遠心インペラ3は一体成形されたものでも、別部品として製作された後、適宜の連結手段により連結固定されたものであってもよい。
【0019】
回転軸2と遠心インペラ3はケーシング4によって囲まれている。ケーシング4は、歯車箱16の下半部16bにボルト等の固定手段によって固定される。またケーシング4には、ガスGを導入するための入口通路を形成するインレット部材5がボルト等の固定手段によって固定される。遠心インペラ3により吸入されたガスGは、半径方向外側に送り出される過程で減速加圧された後、環状のスクロール室6に導入され、図示しない排出口から排出される。
【0020】
ケーシング4と回転軸2との間にはリング状の軸シール8が配置されている。軸シール8は、ケーシング4と回転軸2との間の軸方向のガスの流れを抑制するためにケーシング4の内周部に取り付けられた部品である。軸シール8は、一体型の円筒状でも、周方向に複数に分割できるもの(例えば上下二分割型)でもよい。
【0021】
回転軸2のうち軸シール8に対向する外周部分には、軸方向に間隔をおいて複数のラビリンス群7が支持されている。各ラビリンス群7は、複数のフィンの集合体である。図3に示す構成例では、ラビリンス群7が6群設けられている。なお、ラビリンス群7は、回転軸2の外周部でなく、軸シール8の内周部に支持されてもよい。
【0022】
軸シール8の内周部においてラビリンス群7の間の部位には、環状のシール室9が軸方向に間隔をおいて形成されている。軸シール8の外周部には、複数のラビリンス群7の間の空間(上記のシール室9)の各々に対応付けられた環状の均圧室10が軸方向に間隔をおいて複数形成されている。なお、均圧室10はケーシング4の内周部に設けられてもよい。
【0023】
軸シール8には、対応するシール室9と均圧室10とを連通する通路11が形成されている。この通路11は、各軸方向位置において、周方向に複数設けられている。
【0024】
ケーシング4の内周面と軸シール8の外周面との間には、Oリング等の適宜のシール部材17が配置されており、隣接する均圧室10同士の気密性が保持される。
またケーシング4には、各均圧室10と外部とを連通する図示しないガス通路が形成されている。このガス通路を通して、ケーシング4にシールガスを吹き込んだり、漏れガスの回収をしたり、パージしたりする。ケーシング4の外部には、シールガスの供給または漏れガスの排出を行なうための図示しない配管が接続されている。
【0025】
図3に示すように、本発明の軸シール固定構造は、軸シール8の一端側(図3では左側)である遠心インペラ3側の端部において半径方向外側に突出するように形成されたフランジ部8aを備える。フランジ部8aは、軸シールにボルト等で取り付けられたものではなく、軸シールの一部として一体形成された部分である。
【0026】
また軸シール固定構造は、軸シール8の他端側(図3では右側)に、軸シール8から半径方向外側に突出するように固定されたシール固定部材12を備える。シール固定部材12は、ボルト等の締結部材13により軸シール8の他端側に固定される。
【0027】
また本発明の軸シール固定構造において、フランジ部8aとシール固定部材12の間にケーシング4が挟まれることで、ケーシング4に対する軸シール8の軸方向移動が拘束される。
【0028】
上述のようにケーシング4はフランジ部8aとシール固定部材12との間に挟まれるが、ケーシング4とフランジ部8a、及びケーシング4とシール固定部材12は、互いに半径方向の相対移動がある程度許容されるようにしておくのがよい。これにより、ケーシング4と軸シール8の熱膨張係数に大きな差がある場合でも、遠心圧縮機1の運転時においてケーシング4と軸シール8が熱膨張したときに、接触する部位同士での半径方向の相対移動を許容することで熱応力の発生を防ぐことができる。
【0029】
図4Aは、図3における4A−4A線断面図である。シール固定部材12は、図4Aに示すように、軸シール8の他端側端面の周縁に設けられた固定ピース12Aとして構成することができる。固定ピース12Aはボルト等の締結部品13により軸シール8に固定されている。このような固定ピース12Aは、図4Aに示すように、軸シール8の他端側端面の周縁において周方向の一箇所に設けられてもよく、あるいは周方向の複数箇所に設けられてもよい。
【0030】
また固定ピース12Aは、歯車箱16の上半部16a(図3参照)を取り外したときに容易に取付け・取外しができるように、軸シール8の中心と同じ高さ位置あるいはそれより高い位置(軸シール8のうち上半分)に設けられるのが良い。
【0031】
またシール固定部材12は、図4Bに示すように、軸シール8の他端側端面の周縁に設けられたリング状部材12Bとして構成されてもよい。このリング状部材12Bは、周方向に間隔をおいた複数のボルト等の締結部品13により、軸シール8に固定されている。図4Bの構成の場合、締結部品13による締結位置は、歯車箱16の上半部16a(図3参照)を取り外したときに容易にリング状部材12Bの取付け・取外しができるように、軸シール8の中心と同じ高さかそれより高い位置(軸シール8のうち上半分)に設定するのが良い。
【0032】
上述した本発明の軸シール固定構造によれば、フランジ部8aとシール固定部材12の間にケーシング4が挟まれることで、ケーシング4に対する軸シール8の軸方向移動が拘束されるようになっているので、シール固定部材12は、ケーシング4の内部側ではなく、ケーシング4の外部側に設けられる。
したがって、シール固定部材12を軸シール8に固定するためのボルト等の締結部品13は、ケーシング4の外部側に設けられるので、圧縮機内のガスに曝されることがない。このため、ガスの種類に応じて耐腐食性、耐摩耗性などの機能を有する特殊な材料を選定する必要がないので、材料選定に制約を受けない。
【0033】
また、軸シール8をケーシング4に固定する際には、軸シール8をケーシング4の内部側から挿入した後、ケーシング4の外部側から、ボルト等の締結部品13によりシール固定部材12を軸シール8に固定する。このように、シール固定部材12の固定作業(締結部品13の締結)をケーシング4の外部側で行うことができるので、作業性を大幅に改善できる。
【0034】
また、フランジ部8a及びシール固定部材12はケーシング4に対してボルトなどで直接固定されないので、フランジ部8aとシール固定部材12のケーシング4に対する半径方向の相対移動がある程度許容される。したがって、本発明の支持シール固定構造によれば、部品点数の増大を最小限に抑えつつ、熱応力を吸収できる構造にできる。
【0035】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0036】
1 遠心圧縮機
2 回転軸
3 遠心インペラ
4 ケーシング
5 インレット部材
6 スクロール室
7 ラビリンス群
8 軸シール
8a フランジ部
9 シール室
10 均圧室
11 通路
12 シール固定部材
12A 固定ピース
12B リング状部材
13 締結部品
15 軸受
16 歯車箱
16a 上半部
16b 下半部
17 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心圧縮機において遠心インペラ及び回転軸を囲むケーシングと前記回転軸との間に配置され、ケーシングと回転軸との間の軸方向のガスの流れを抑制するためにケーシングの内周部に取り付けられるリング状の軸シールを前記ケーシングに固定するための構造であって、
前記軸シールの一端側である遠心インペラ側の端部において半径方向外側に突出するように形成されたフランジ部と、
前記軸シールの他端側に、軸シールから半径方向外側に突出するように固定されたシール固定部材とを備え、
前記フランジ部と前記シール固定部材の間にケーシングが挟まれることで、ケーシングに対する軸シールの軸方向移動が拘束される、ことを特徴とする遠心圧縮機の軸シール固定構造。
【請求項2】
前記シール固定部材は、リング状部材、または軸シールの前記他端側端面の周縁に設けられた少なくとも一つの固定ピースである、請求項1記載の遠心圧縮機の軸シール固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−7050(P2011−7050A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148207(P2009−148207)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】