説明

遠心圧縮機

【課題】非接触式シールを有する遠心圧縮機に関し、冷媒がハウジング内に流れ込むことを効果的に抑制する。
【解決手段】一端にインペラ11が取り付けられ、他端にギヤ26が取り付けられる回転軸21のギヤ26取り付け側を収容するハウジング20に、回転軸21を軸封する非接触式シール30を有する遠心圧縮機1であって、非接触式シール30よりもインペラ11側の圧力である外側圧と非接触式シール30よりもギヤ26側のハウジング20内の圧力である内側圧とを検出する圧力検出手段40と、外側圧と内側圧との差が基準値以下になるようにハウジング20内の圧力を調整する圧力調整手段50とを備え、外側圧が内側圧よりも高い場合にハウジング20内に潤滑油に対して不溶性のガスを供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心圧縮機に関し、特に非接触式シールを有する遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速回転する遠心圧縮機の軸封構造として、インペラ回転軸側に設けられる回転環と軸受ハウジング側に設けられる固定環とを有する非接触式シールが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、この種の非接触式シールを有する遠心圧縮機として、ロータ室と軸受部との間に回転環と固定環とを有する非接触式シールを設け、この非接触式シールにシールガスを供給する遠心圧縮機の軸封装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−69022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような非接触式シールでは、遠心圧縮機の運転時には、表面にスパイラル溝を有する回転環がインペラ回転軸と一体に回転することで、回転環と固定環との間に一定の動圧が作用する。したがって、遠心圧縮機の運転時は所望のシール効果を発揮することができる。しかし、遠心圧縮機の停止時には、回転環の表面のスパイラル溝により回転環と固定環との間に僅かな隙間が生じるため、シール効果を十分に発揮できない可能性がある。
【0006】
そのため、非接触式シールを有する遠心圧縮機を、例えばヒートポンプの圧縮機として用いた場合、遠心圧縮機の運転時にヒートポンプのループ内の冷媒が回転環と固定環との間の隙間から、インペラ回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジング内へと流れ込む場合がある。
【0007】
より具体的には、ヒートポンプの停止直後、すなわち遠心圧縮機が停止した直後は、ヒートポンプのループ内がギヤ側のハウジング内よりも高温・高圧になるので、非接触式シールの両端に圧力差が生じる。そして、圧力差が生じると、ヒートポンプのループ内の冷媒が、インペラ背面から回転環と固定環との間の隙間を通過してギヤ側のハウジング内へと流れ込む可能性がある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、その目的は、インペラ回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジングに、インペラ回転軸を軸封する非接触式シールを有する遠心圧縮機において、冷媒が非接触式シールよりもギヤ側のハウジング内に流れ込むことを効果的に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の遠心圧縮機は、一端にインペラが取り付けられるとともに、他端にギヤが取り付けられる回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジングに、該回転軸を軸封する非接触式シールを有する遠心圧縮機であって、前記非接触式シールよりもインペラ側の圧力である外側圧と前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内の圧力である内側圧とを検出する圧力検出手段と、前記圧力検出手段により検出される外側圧と内側圧との差が予め定めた基準値以下になるように前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内の圧力を調整する圧力調整手段とを備え、前記圧力調整手段は、前記圧力検出手段により検出される外側圧が内側圧よりも高い場合に、前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内に該ハウジング内の潤滑油に対して不溶性のガスを供給することを特徴とする。
【0010】
また、前記圧力調整手段は、前記圧力検出手段により検出される外側圧が内側圧よりも低い場合に、該外側圧と該内側圧との差が予め定めた基準値以下になるように前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内の圧力を降下させる
ものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の遠心圧縮機によれば、インペラ回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジングに、インペラ回転軸を軸封する非接触式シールを有する遠心圧縮機において、冷媒が非接触式シールよりもギヤ側のハウジング内に流れ込むことを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機を示す模式的な部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機のコントローラによる圧力制御を示すフローである。
【図3】本発明の他の実施形態に係る遠心圧縮機を示す模式的な部分断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る遠心圧縮機を示す模式的な部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図1,2に基づいて、本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機1は、例えば100℃〜150℃の熱源を150℃〜180℃に昇温する高温ヒートポンプの遠心圧縮機として用いられるもので、図1に示すように、インペラハウジング部10と、ギヤボックス部(ハウジング)20と、圧力検出部(圧力検出手段)40と、圧力調整部(圧力調整手段)50とを有する。
【0015】
なお、本実施形態において、遠心圧縮機1は高温ヒートポンプに適用されるものとして説明するが、例えば、冷凍機など遠心圧縮機で冷媒を圧縮するあらゆる型式のヒートポンプにも広く適用することができる。
【0016】
インペラハウジング部10は、図1に示すように、複数の羽根(不図示)が設けられたインペラ11と、図示しない高温ヒートポンプの蒸発器から冷媒を取り入れる吸入口部12と、インペラ11を収容するインペラ収容部13と、インペラ収容部13に接続された環状のディフューザ流路14と、ディフューザ流路14の外周縁部に接続されたスクロール流路15とを有する。
【0017】
インペラ11は、図1に示すように、インペラ回転軸21の端部に取り付けられている。そして、インペラ11は、後述するモータ24の駆動力によりインペラ回転軸21と一体に回転されることで冷媒を径方向の外方へと吐出する。
【0018】
吸入口部12は、図1に示すように、インペラハウジング部10の上流側にインペラ11と同軸上に位置して設けられている。また、吸入口部12は、上流側から下流側に向かって開口面積が次第に小さくなるように形成されている。
【0019】
インペラ収容部13は、インペラ11を収容するように、上流側から下流側に向かって開口面積が次第に大きくなる形成されている。また、インペラ収容部13の上流側は吸入口部12と連通する。
【0020】
環状のディフューザ流路14は、インペラハウジング部10の下流側側部にインペラ収容部13を取り囲むように形成されている。また、ディフューザ流路14の外周縁部には、冷媒を高温ヒートポンプの凝縮器(不図示)へと吐出するスクロール流路15が接続されている。
【0021】
すなわち、インペラハウジング部10は、インペラ11の回転により、高温ヒートポンプの蒸発器から吸入口部12を介して取り入れた冷媒を、ディフューザ流路14からスクロール流路15へと吐出することで圧縮(昇温・昇圧)するように構成されている。
【0022】
ギヤボックス部(ハウジング)20は、図1に示すように、インペラ回転軸21のギヤ取り付け側を収容するもので、ギヤボックス部20の内側に設けられた一対の軸受22,23と、ギヤボックス部20の側部に取り付けられたモータ24と、インペラ回転軸21に嵌装された従動ギヤ26と、モータ駆動軸25に嵌装された駆動ギヤ27と、モータ駆動軸25を軸封するエラストマ材からなるモータ軸シール28と、ドライガスシール(非接触式シール)30とを有する。また、ドライガスシール30と軸受22との間のギヤボックス部20には、後述する第1配管53が接続される配管孔29が設けられている。
【0023】
インペラ回転軸21は、図1に示すように、一対の軸受22,23によってギヤボックス部20内に回転自在に軸支されている。また、一対の軸受22,23の間に位置するインペラ回転軸21には、駆動ギヤ27と噛合する従動ギヤ26が嵌装されている。また、軸受22とインペラ11との間のインペラ回転軸21の周面には、後述するドライガスシール30を構成する回転環31が取り付けられる環状突起部21aが形成されている。
【0024】
モータ24のモータ駆動軸25は、図1に示すように、ギヤボックス部20の側部から挿通され、図示しない軸受によって回転自在に軸支されている。また、モータ駆動軸25には、従動ギヤ26よりも大径に形成された駆動ギヤ27が嵌装されている。また、モータ駆動軸25が挿通されるギヤボックス部20の側部には、モータ駆動軸25を軸封するモータ軸シール28が設けられている。なお、ギヤボックス部20の内部では、噛合する従動ギヤ26と駆動ギヤ27との摩耗を抑制するために潤滑油がスプレー噴射されている。
【0025】
ドライガスシール30は、図1に示すように、インペラ回転軸21側に設けられた回転環31と、ギヤボックス部20側に設けられた固定環32とを有する。回転環31は、環状突起部21aを介してインペラ回転軸21に固定されている。また、固定環32は、ギヤボックス部20の内側に形成された取付部20aに図示しないコイルスプリングを介して軸方向に移動可能に取り付けられている。また、固定環32と対向する回転環31の側面には、図示しない複数のスパイラル溝が設けられている。すなわち、ドライガスシール30は、回転環31がインペラ回転軸21と一体に回転すると、複数のスパイラル溝により回転環31と固定環32との間に動圧が作用してインペラ回転軸21を軸封するように構成されている。この動圧は、コイルバネの付勢力に抗して固定環32を回転環31から離間させる。一方、インペラ回転軸21の停止時は、回転環31と固定環32とはコイルバネの付勢力により接触する。この接触した状態で、回転環31と固定環32との間にはスパイラル溝による僅かな隙間が存在する。
【0026】
圧力検出部(圧力検出手段)40は、図1に示すように、インペラハウジング部10のスクロール流路15に設けられた第1圧力センサ41と、後述する圧力調整部50の第1配管53に設けられた第2圧力センサ42とを有する。この第1圧力センサ41は、ドライガスシール30よりも外側の圧力(ドライガスシール30よりもインペラ11側の圧力)に相当するスクロール流路15内の圧力を検出する。また、第2圧力センサ42は、ドライガスシール30よりも内側の圧力(ドライガスシール30よりもギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力)に相当する第1配管53内の圧力を検出する。また、第1圧力センサ41と第2圧力センサ42とは、後述する圧力調整部50のコントローラ57に電気配線を介して接続されている。
【0027】
なお、本実施形態において、圧力検出部40は第1圧力センサ41と第2圧力センサ42とを別体に備えるものとして説明するが、例えば差圧センサを適用することもできる。また、第1圧力センサ41はインペラ11よりも下流側であれば、例えばディフューザ流路14に設けられてもよい。
【0028】
圧力調整部(圧力調整手段)50は、図1に示すように、高圧タンク51と、低圧タンク52と、一端をギヤボックス部20の配管孔29に接続された第1配管53と、第1配管53の他端に設けられた三方切換弁54と、三方切換弁54と高圧タンク51とを連通する第2配管55と、三方切換弁54と低圧タンク52とを連通する第3配管56と、三方切換弁54の経路切換を制御するコントローラ57とを有する。
【0029】
高圧タンク51は、公知のガスボンベ等であって、内部にはギヤボックス部20内の潤滑油に対して不溶性の不活性ガス(例えば窒素ガス)が高圧に貯留されている。なお、高圧ガスは、図示しない畜圧器で加圧した後に高圧タンク51に供給されるように構成してもよい。
【0030】
低圧タンク52は、大気圧よりも低い公知の真空タンク等であって、ギヤボックス部20の配管孔29に第1配管53と三方切換弁54と第3配管56とを介して接続されている。
【0031】
三方切換弁54は、図1に示すように、第1配管53側のポートAと、第2配管55側のポートBと、第3配管56側のポートCとを有する。そして、ポートAとポートBとが連通すると、高圧タンク51内の高圧ガスは第2配管55から第1配管53を介してギヤボックス部20内へと流れ込むように構成されている。すなわち、ドライガスシール30よりもギヤ26側のギヤボックス部20内は、高圧タンク51から流れ込む高圧ガスによって昇圧される。一方、ポートAとポートCとが連通すると、ギヤボックス部20内のガスは、第1配管53から第3配管56を介して低圧タンク52へと流れ込むように構成されている。すなわち、ドライガスシール30よりもギヤ26側のギヤボックス部20内は、内部のガスが低圧タンク52に引き込まれることで降圧される。
【0032】
コントローラ57は、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。また、コントローラ57には、第1圧力センサ41、第2圧力センサ42の出力信号がA/D変換された後に入力される。また、コントローラ57は、図1に示すように、差圧演算部58と、切換制御部59とを一部の機能要素として有する。
【0033】
差圧演算部58は、第1圧力センサ41と第2圧力センサ42との出力値に基づいて、ドライガスシール30よりもインペラ11側の圧力P1とドライガスシール30よりもギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2との差圧ΔPを演算する。なお、インペラ11の背面とドライガスシール30との間の圧力を正確に推定すべく、第1圧力センサ41の検出値P1に予め実験等で求めた補正係数を乗算してもよい。また、圧力検出部40に差圧センサを用いる場合は、差圧センサの検出値をコントローラ57に直接読み込むことで、差圧演算部58は省略してもよい。
【0034】
切換制御部59は、差圧演算部58で演算される差圧ΔPに応じて、三方切換弁54の経路切換を制御する。具体的には、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthよりも大きく、かつインペラ11側の圧力P1がギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2よりも高い場合は、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下になるまで、ポートAとポートBとを連通する制御信号を出力する。すなわち、高圧タンク51内の高圧ガスがギヤボックス部20内へと流れ込み、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2がインペラ11側の圧力P1に追従して昇圧されることで、冷媒のギヤボックス部20内への流れ込みは抑制される。
【0035】
また、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthよりも大きく、かつインペラ11側の圧力P1がギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2よりも低い場合は、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下になるまで、ポートAとポートCとを連通する制御信号を出力する。すなわち、ギヤボックス部20内のガスが低圧タンク52へと引き込まれ、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2がインペラ11側の圧力P1に追従して降圧されることで、潤滑油のインペラハウジング10側への漏出は抑制される。
【0036】
一方、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthより小さい場合、すなわちインペラ11側の圧力P1とギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2とが略等しい場合は、各ポートA,B,Cの連通を遮断する制御信号を出力する。
【0037】
なお、所定の基準値Pthは、冷媒の種類や潤滑油の粘性に応じて適宜調整して設定することができる。また、冷媒の流れ込みや潤滑油の漏出を確実に防止すべく、所定の基準値Pthを0(ゼロ)に設定してもよい。
【0038】
本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機1は、以上のように構成されているので、例えば図2に示すフローに従って以下のような制御が行われる。
【0039】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、コントローラ57の差圧演算部58に、第1圧力センサ41と第2圧力センサ42との検出値が読み込まれる。そして、インペラ11側の圧力P1とギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2との差圧ΔPが演算される。
【0040】
S110では、切換制御部59によって、S100で演算された差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthより大きいか否かが確認される。差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthよりも大きい場合はS120へと進む。一方、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下の場合は、ギヤボックス部20内の昇圧や降圧は不要なので、S160で各ポートA,B,Cの連通を遮断して本制御はリターンされる。
【0041】
S120では、切換制御部59によって、インペラ11側の圧力P1とギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2との比較が行われる。圧力P1が圧力P2よりも高い場合は、S130へと進んで三方切換弁54のポートAとポートBとが連通される。すなわち、高圧タンク51内の高圧ガスがギヤボックス部20内へと流れ込み、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2は昇圧される。
【0042】
一方、圧力P1が圧力P2よりも低い場合は、S140へと進んで三方切換弁54のポートAとポートCとが連通される。すなわち、ギヤボックス部20内のガスが低圧タンク52へと引き込まれ、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2は降圧される。
【0043】
S150では、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下まで達したか否かが確認される。差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下に達している場合は、ギヤボックス部20内の昇圧や降圧は不要なので、S160で各ポートA,B,Cの連通を遮断して本制御はリターンされる。
【0044】
一方、差圧ΔPの絶対値が依然として所定の基準値Pthよりも大きい場合は、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2をインペラ11側の圧力P1に追従させるべく、前述のS120へと戻される。
【0045】
その後、差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下になるまで、すなわち所定の基準値Pthを0(ゼロ)とした場合は、インペラ11側の圧力P1とギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2との差が無くなるまで、本制御のS120〜150が繰り返し行われる。
【0046】
上述のような構成により、本発明の一実施形態に係る遠心圧縮機1によれば以下のような作用・効果を奏する。
【0047】
高温ヒートポンプの運転中は、蒸発器(不図示)から吸入口部12を介してインペラ収容部13に取り入れた冷媒が、インペラ11の回転によりディフューザ流路14からスクロール流路15へと吐出されて圧縮(昇圧・昇温)される。そして、インペラ11側の圧力P1の上昇により差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthよりも大きくなると、この差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下になるまで、三方切換弁54のポートAとポートBとが連通される。すなわち、高圧タンク51からの高圧ガスの供給により、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2がインペラ11側の圧力P1に追従するように昇圧されることで、差圧ΔPは所定の基準値Pth以下に維持される。
【0048】
したがって、高温ヒートポンプの運転中にギヤボックス部20内が低圧になることが抑制されるので、冷媒がインペラ11の背面から回転環31と固定環32との間の僅かな隙間からギヤ26側のギヤボックス20内に流れ込むことを効果的に抑止することができる。
【0049】
また、高温ヒートポンプの停止中は、インペラハウジング部10内の冷媒の温度は急激に低下して降圧される。そして、インペラ11側の圧力P1の低下により差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pthより大きくなると、この差圧ΔPの絶対値が所定の基準値Pth以下になるまで、三方切換弁54のポートAとポートCとが連通される。すなわち、低圧タンク52へのガスの引き込みによりギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力P2がインペラ11側の圧力P1に追従するよう降圧されることで、差圧ΔPは所定の基準値Pth以下に維持される。
【0050】
したがって、高温ヒートポンプの停止中にインペラハウジング部10内が低圧になることが抑制されるので、ギヤ26側のギヤボックス部20内の潤滑油が回転環31と固定環32との間の僅かな隙間からインペラハウジング部10内に漏出することを効果的に抑止することができる。
【0051】
また、ギヤ26側のギヤボックス部20内を昇圧する際は、ギヤボックス部20内の潤滑油に対して不溶性の不活性ガス(例えば窒素ガス)が高圧タンク51から供給される。
【0052】
したがって、供給される高圧ガスの潤滑油への溶解が抑制されるので、ギヤ26側のギヤボックス部20内の昇圧を短時間に効率よく行うことができるとともに、昇圧に必要となる高圧ガス量の最適化も図ることができる。また、ギヤボックス部20内の潤滑油の劣化も効果的に防止することができる。
【0053】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0054】
上述の実施形態において、第2圧力センサ42は第1配管53に設けられるものとして説明したが、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力を検出できる位置であれば、例えば固定環32の背面や一対の軸受22,23の間に設けてもよい。
【0055】
また、第1配管53が接続される配管孔29は、ドライガスシール30と軸受22との間のギヤボックス部20に設けられるものとして説明したが、例えば一対の軸受22,23の間に位置するギヤボックス部20に設けてもよい。
【0056】
また、第1配管53を分岐する三方切換弁54は必ずしも必須ではなく、第2配管55と第3配管56とに流量調整弁を個別に設け、第2配管55と第3配管56とをそれぞれギヤボックス部20内に直接連通させてもよい。
【0057】
また、上述の実施形態において、圧力調整部50は高圧タンク51と低圧タンク52との双方を有するものとして説明したが、いずれか一方のタンクのみを備えるものであってもよい。
【0058】
圧力調整部50が高圧タンク51のみを備える構成においては、図3に示すように、三方切換弁54を開閉バルブ54aに置き換える。そして、第1圧力センサ41の検出値(圧力P1)が第2圧力センサ42の検出値(圧力P2)よりも高い場合に、圧力P1と圧力P2との差圧ΔPが所定の基準値Pth以下もしくは0(ゼロ)になるまで開閉バルブ54aを開いて、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力を上昇させればよい。
【0059】
また、圧力調整部50が低圧タンク52のみを備える構成においては、図4に示すように、三方切換弁54を開閉バルブ54bに置き換える。そして、第1圧力センサ41の検出値(圧力P1)が第2圧力センサ42の検出値(圧力P2)よりも低い場合に、圧力P1と圧力P2との差圧ΔPが所定の基準値Pth以下もしくは0(ゼロ)になるまで開閉バルブ54bを開いて、ギヤ26側のギヤボックス部20内の圧力を降下させればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 遠心圧縮機
11 インペラ
20 ギヤボックス部(ハウジング)
21 インペラ回転軸(回転軸)
30 ドライガスシール(非接触式シール)
31 回転環
32 固定環
40 圧力検出部(圧力検出手段)
41 第1圧力センサ
42 第2圧力センサ
50 圧力調整部(圧力調整手段)
51 高圧タンク
52 低圧タンク
53 第1配管
54 三方切換弁
55 第2配管
56 第3配管
57 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端にインペラが取り付けられるとともに、他端にギヤが取り付けられる回転軸のギヤ取り付け側を収容するハウジングに、該回転軸を軸封する非接触式シールを有する遠心圧縮機であって、
前記非接触式シールよりもインペラ側の圧力である外側圧と前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内の圧力である内側圧とを検出する圧力検出手段と、
前記圧力検出手段により検出される外側圧と内側圧との差が予め定めた基準値以下になるように前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内の圧力を調整する圧力調整手段とを備え、
前記圧力調整手段は、
前記圧力検出手段により検出される外側圧が内側圧よりも高い場合に、前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内に該ハウジング内の潤滑油に対して不溶性のガスを供給する
ことを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項2】
前記圧力調整手段は、
前記圧力検出手段により検出される外側圧が内側圧よりも低い場合に、該外側圧と該内側圧との差が予め定めた基準値以下になるように前記非接触式シールよりもギヤ側の前記ハウジング内の圧力を降下させる
ことを特徴とする請求項1記載の遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−144995(P2012−144995A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1944(P2011−1944)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】