遠心式ポンプ装置
【課題】インペラの回転時にインペラが隔壁に対して傾斜することを防止することが可能な遠心式ポンプ装置を提供する。
【解決手段】この遠心式血液ポンプ装置は、血液室7内に設けられたインペラ10と、インペラ10の一方面に設けられた永久磁石15a,15bと、血液室7の内壁に設けられ、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する永久磁石16a,16bとを備える。血液室7の側壁の開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定する。これにより、ポンプ動作時にインペラ10が隔壁6に対して傾斜するのを防止できる。
【解決手段】この遠心式血液ポンプ装置は、血液室7内に設けられたインペラ10と、インペラ10の一方面に設けられた永久磁石15a,15bと、血液室7の内壁に設けられ、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する永久磁石16a,16bとを備える。血液室7の側壁の開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定する。これにより、ポンプ動作時にインペラ10が隔壁6に対して傾斜するのを防止できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は遠心式ポンプ装置に関し、特に、回転時の遠心力によって液体を送るインペラを備えた遠心式ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工心肺装置の血液循環装置として、外部モータの駆動トルクを磁気結合を用いて血液室内のインペラに伝達する遠心式血液ポンプ装置を使用する例が増加している。この遠心式血液ポンプ装置によれば、外部と血液室との物理的な連通を排除することができ、細菌などの血液への侵入を防止することができる。
【0003】
特許文献1の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた電磁石と、インペラの他方面に設けられた永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた永久磁石とを備える。インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には、動圧溝が形成されている。電磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0004】
また、特許文献2の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた第1の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第2の永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた第3の永久磁石とを備える。インペラの一方面に対向する第1の隔壁の表面には第1の動圧軸が形成され、インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には第2の動圧溝が形成されている。第1の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの第3の永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0005】
また、特許文献3の図8および図9のターボ形ポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ハウジングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第3の永久磁石と、インペラの他方面に対向してハウジングに設けられた磁性体とを備えている。また、インペラの一方面には第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面には第2の動圧溝が形成されている。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ハウジングの磁性体からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0006】
また、特許文献4のクリーンポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ハウジングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた磁性体と、インペラの他方面に対向してハウジング外に設けられた電磁石とを備えている。また、インペラの一方面には動圧溝が形成されている。
【0007】
インペラの回転数が所定の回転数よりも低い場合は電磁石を作動させ、インペラの回転数が所定の回転数を超えた場合は電磁石への通電を停止する。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0008】
さらに、特許文献5の遠心式血液ポンプは、特許文献2の遠心式血液ポンプにおいて、インペラの回転時にインペラの回転中心線と第2の室の中心線とが一致するように、ロータの回転中心線を第2の室の中心線と異なる位置に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−209240号公報
【特許文献2】特開2006−167173号公報
【特許文献3】特開平4−91396号公報
【特許文献4】実開平6−53790号公報
【特許文献5】特開2007−89972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜5のポンプは、インペラとハウジングの対向部に形成された動圧溝によってインペラのアキシアル方向(インペラの回転軸方向)の支持を行ない、インペラに設けられた永久磁石とハウジング外に設けられた永久磁石との吸引力によってインペラのラジアル方向(インペラの半径方向)の支持を行なっている点で共通する。
【0011】
このような遠心ポンプ装置では、インペラの支持剛性(インペラを単位長さだけ移動させるために必要な力)が小さいと、使用者の動作に伴う加振(加速度振動)によってインペラが血液室の内壁に接触してしまう。したがって、アキシアル方向とラジアル方向の各々について十分に大きな支持剛性を持つことが必要である。
【0012】
インペラのラジアル方向の支持剛性を大きくするためには、インペラの永久磁石とハウジング側の永久磁石との磁気カップリング力を大きくすればよい。しかし、その磁気カップリング力を大きくすることは容易でない。また、アキシアル方向の支持剛性を大きくするためには、インペラ径を拡大したり、浮上隙間を小さくするといった動圧軸受寸法諸元を変更するか、インペラ側永久磁石とハウジング側永久磁石で形成される受動型磁気軸受の負の剛性を小さくする必要があるが容易ではない。すなわち、動圧軸受式の遠心ポンプ装置では、始めに、流量、揚程(圧力)、血液室とインペラの間隔の最小値が仕様として与えられる。すると、インペラの直径によって、回転数と動圧溝の寸法が決まる。
【0013】
動圧溝の寸法、インペラ直径、回転数、血液室とインペラの間隔が決まれば、負荷容量が決まるので、それと釣合うための磁気カップリング力が決まる。磁気カップリング力が決まると、インペラの支持剛性も決まることになる。したがって、インペラの支持剛性を増やすためには負荷容量を増やす必要があるが、負荷容量は、血液の粘度、インペラの回転数、動圧溝の寸法、血液室とインペラの間隔に依存するので、負荷容量を増やすにも限度がある。
【0014】
また、このような遠心ポンプ装置では、血液室の側壁が円筒状に形成されており、血液室の側壁に設けられた開口部からハウジングの外に血液を流出させるための液体流出ポートが設けられている。インペラが回転されて血液が流れると、血液室内に圧力分布が発生する。血液の圧力は、血液室の側壁の開口部側で低くなり、その反対側で高くなる。また、インペラのベーン部を通過する血液の流量バランスによっても圧力分布が発生する。このため、特に吐出流量が大きい場合にはインペラが開口部側に移動し、かつ隔壁に対して傾斜する場合があった(図5参照)。インペラが移動および傾斜すると、インペラが血液室の内壁に接触し、溶血が発生してしまう。
【0015】
特許文献5の遠心式血液ポンプでは、インペラの回転中心線と血液室の中心線が一致するので、負荷容量を大きくすることができる。しかし、この方式ではインペラの傾斜を抑制することはできず、ラジアル方向の負荷容量を大きくすることができるがアキシアル方向の負荷容量を改善することはできなかった。
【0016】
それゆえに、この発明の主たる目的は、インペラの回転時にインペラが隔壁に対して傾斜するのを防止することが可能な遠心式ポンプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係る遠心式ポンプ装置は、隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、第1の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、第2の室内に設けられ、隔壁を介してインペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、インペラの一方面に対向する第1の室の内壁に設けられ、第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、インペラの他方面に設けられ、駆動部によって吸引される第3の磁性体と、第1の室の側壁に設けられた開口部からハウジングの外に液体を流出させるための液体流出ポートとを備えたものである。インペラの回転時において、第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と第3の磁性体および駆動部間に作用する第2の吸引力とは、第1の室内におけるインペラの可動範囲の略中央で釣り合う。インペラの一方面またはそれに対向する第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面またはそれに対向する隔壁に第2の動圧溝が形成されている。第1および第2の磁性体のうちの少なくとも一方の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成されている。インペラの回転時にインペラが隔壁に対して平行になるように、開口部側における第1および第2の磁性体間の吸引力と、開口部の反対側における第1および第2の磁性体間の吸引力とは異なる値に設定されている。
【0018】
好ましくは、開口部側における第1および第2の磁性体間の吸引力は、開口部の反対側における第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さな値に設定されている。
【0019】
また好ましくは、第2の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、開口部側における第2の磁性体の厚さは、開口部の反対側における第2の磁性体の厚さよりも小さい。
【0020】
また好ましくは、第2の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、開口部側における第1および第2の磁性体の対向面積は、開口部の反対側における第1および第2の磁性体の対向面積よりも小さい。
【0021】
また好ましくは、第2の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、開口部側において第2の磁性体に切り欠き部が設けられている。
【0022】
また好ましくは、第1の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第1の永久磁石を含み、第2の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第2の永久磁石を含む。
【0023】
また好ましくは、複数の第2の永久磁石の第1の磁極は全てインペラの方向に向けられ、複数の第2の永久磁石の第2の磁極は全てインペラと反対の方向に向けられ、複数の第1の永久磁石の第2の磁極はそれぞれ複数の第2の永久磁石の第1の磁極に対向して設けられ、さらに、複数の第2の永久磁石の第2の磁極のうちの開口部側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える。
【0024】
また好ましくは、各隣接する2つの第2の永久磁石のうちの一方の第2の永久磁石の第1の磁極はインペラの方向に向けられ、他方の第2の永久磁石の第2の磁極はインペラの方向に向けられ、複数の第1の永久磁石の磁極はそれぞれ複数の第2の永久磁石の磁極と吸引するように配置され、さらに、複数の第2の永久磁石のインペラと反対側の磁極のうちの開口部と反対側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える。
【0025】
また好ましくは、インペラの側面に対向する第1の室の側壁は円筒状に形成されており、第1の室の側壁の中心線から見て開口部の上流側の端部の方向を0度とし、その反対側を180度とすると、開口部側は第1の室の側壁の中心線から見て0度の方向側であり、開口部の反対側は第1の室の側壁の中心線から見て180度の方向側である。第1の室の側壁の中心線から見て0度±A度(ただし、A度は0度よりも大きく180度よりも小さな角度である)の範囲内における第1および第2の磁性体間の吸引力は、その範囲外における第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さい。
【0026】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0027】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第5の磁性体と、それぞれ複数の第5の磁性体に巻回され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0028】
また好ましくは、駆動部は、第2の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、第3の磁性体に対向してロータに設けられ、第3の磁性体を吸引する第5の磁性体と、ロータを回転させるモータとを含み、ロータの回転中心線は第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0029】
また、この発明に係る他の遠心式ポンプ装置は、隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、第1の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、第2の室内に設けられ、隔壁を介してインペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、インペラの一方面に対向する第1の室の内壁に設けられ、第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、インペラの他方面に設けられ、駆動部によって吸引される第3の磁性体と、第1の室の側壁に設けられた開口部からハウジングの外に液体を流出させるための液体流出ポートと備えたものである。インペラの回転時において、第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と第3の磁性体および駆動部間に作用する第2の吸引力とは、第1の室内におけるインペラの可動範囲の略中央で釣り合う。インペラの一方面またはそれに対向する第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面またはそれに対向する隔壁に第2の動圧溝が形成されている。第1および第2の磁性体の各々は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成されている。インペラが流体力によって開口部側に偏心した場合に、開口部側における第1および第2の磁性体間の吸引力が開口部の反対側における第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さくなるように第1または第2の磁性体の端面の角に面取り加工が施されている。
【0030】
好ましくは、第2の磁性体の端面の外周側の角に面取り加工が施されている。
また好ましくは、第1の磁性体の端面の内周側の角に面取り加工が施されている。
【0031】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0032】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第4の磁性体と、それぞれ複数の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0033】
また好ましくは、駆動部は、第2の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、第3の磁性体に対向してロータに設けられ、第3の磁性体を吸引する第4の磁性体と、ロータを回転させるモータとを含み、ロータの回転中心線は第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0034】
また好ましくは、インペラの回転時においてインペラの回転中心線と第1の室の側壁の中心線とが一致するように、第2の磁性体の中心線が第1の室の側壁の中心線と異なる位置に配置されている。
【0035】
また好ましくは、液体は血液であり、遠心式ポンプ装置は血液を循環させるために使用される。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、この発明によれば、インペラをインペラの可動範囲の略中央位置に浮上させることができ、回転中のインペラの傾斜を抑制することができる。したがって、インペラとハウジングとの機械的な接触を少なくすることができ、インペラを安定に浮上させることができる。また、血液を循環させる場合には、溶血を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の外観を示す正面図である。
【図2】図1に示したポンプ部の側面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】遠心式血液ポンプ装置の問題点を説明するための図である。
【図6】図5で説明した問題点を解決する方法を説明するための図である。
【図7】図3に示した永久磁石の構成を示す図である。
【図8】図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図9】図3のIX−IX線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図10】図3のX−X線断面図である。
【図11】図10で示した複数のコイルに印加する電圧を例示するタイムチャートである。
【図12】インペラの浮上位置とインペラへの作用力との関係を示す図である。
【図13】インペラの浮上位置とインペラへの作用力との関係を示す他の図である。
【図14】図1〜図10で示したポンプ部を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【図15】図14に示したコントローラの動作を示すタイムチャートである。
【図16】この実施の形態1の変更例を示すブロック図である。
【図17】この実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。
【図18】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図19】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図20】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図21】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図22】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図23】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図24】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図25】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図26】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図27】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図28】図27に示した変更例の効果を示す図である。
【図29】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図30】図29に示した変更例の効果を示す図である。
【図31】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図32】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図33】この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図である。
【図34】この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図である。
【図35】図34のXXXV−XXXV線断面図である。
【図36】図34に示した永久磁石を示す図である。
【図37】インペラの回転数と径方向移動量との関係を示す図である。
【図38】インペラの径方向移動量と磁気カップリングのラジアル剛性との関係を示す図である。
【図39】インペラの径方向移動量と磁気カップリングの最大トルクとの関係を示す図である。
【図40】インペラ回転数とインペラの回転中心線の径方向変位を示す図である。
【図41】血液室の側壁の中心線と永久磁石の中心線との位置関係を示す図である。
【図42】この実施の形態の変更例を示す図である。
【図43】永久磁石15a,15bの中心線と永久磁石16a,16bの中心線との偏心量と、インペラ10の径方向復元力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[実施の形態1]
図1および図2に示すように、実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1は、非磁性材料で形成されたハウジング2を備える。ハウジング2は、円柱状の本体部3と、本体部3の一方の端面の中央に立設された円筒状の血液流入ポート4と、本体部3の外周面に設けられた円筒状の血液流出ポート5とを含む。血液流出ポート5は、本体部3の外周面の接線方向に延在している。
【0039】
ハウジング2内には、図3に示すように、隔壁6によって仕切られた血液室7およびモータ室8が設けられている。血液室7内には、図3および図4に示すように、中央に貫通孔10aを有する円板状のインペラ10が回転可能に設けられている。インペラ10は、ドーナツ板状の2枚のシュラウド11,12と、2枚のシュラウド11,12間に形成された複数(たとえば6つ)のベーン13とを含む。シュラウド11は血液流入ポート4側に配置され、シュラウド12は隔壁6側に配置される。シュラウド11,12およびベーン13は、非磁性材料で形成されている。
【0040】
2枚のシュラウド11,12の間には、複数のベーン13で仕切られた複数(この場合は6つ)の血液通路14が形成されている。血液通路14は、図4に示すように、インペラ10の中央の貫通孔10aと連通しており、インペラ10の貫通孔10aを始端とし、外周縁まで徐々に幅が広がるように延びている。換言すれば、隣接する2つの血液通路14間にベーン13が形成されている。なお、この実施の形態1では、複数のベーン13は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。したがって、複数の血液通路14は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。
【0041】
インペラ10の側面に対向する血液室7の側壁は、円筒状に形成され、インペラ10の外径よりも大きな内径を有する。円筒状の側壁の中心線L1と血液流入ポート4の中心線とは一致している。血液室7の側壁の一部には、開口部7aが設けられている。円筒状の血液流出ポート5は、開口部7aに結合されている。血液がスムーズに流出するように、血液流出ポート5は血液室7の円筒状の側壁7の接線方向に延在している。インペラ10が回転駆動されると、血液流入ポート4から流入した血液は、遠心力によって貫通孔10aから血液通路14を介してインペラ10の外周部に送られ、開口部7aおよび血液流出ポート5を介してハウジング3の外部に流出する。
【0042】
また、シュラウド11には第1の磁性体である永久磁石15a,15bが埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する第2の磁性体である永久磁石16a,16bが埋設されている。永久磁石15a,15b,16a,16bは、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。
【0043】
また、インペラ10を回転させると、血液流入ポート4から開口部7aを介して血液流出ポート5に血液が流れ、血液室7内に血液の圧力分布が発生する。特に、血液の吐出流量が多い場合は、開口部7a側の圧力と開口部7aの反対側の圧力との差が大きくなり、図5に示すように、インペラ10が開口部7a側に吸引されるとともに、開口部7a側におけるインペラ10と永久磁石16a,16bとの間の距離が開口部7aの反対側におけるインペラ10と永久磁石16a,16bとの間の距離よりも小さくなる状態でインペラ10が傾斜する。
【0044】
図5では、インペラ10の回転中心線L2が血液室7の円筒状の側壁の中心線L1よりも、ある距離Rだけ開口部7a側に移動している状態が示されている。また、隔壁6とインペラ10が平行にならず、隔壁6を含む平面とインペラ10の中心面を含む平面とが開口部7aの反対側で、ある角度θで交差している状態が示されている。
【0045】
図6は、血液室7の側壁の中心線L1と開口部7aとの位置関係を示す図である。図6において、ハウジング2は、血液室7の側壁の中心線L1と直交し、かつ血液流出ポート5の孔の中心線を含む平面で切断されている。血液室7の側壁は、その平面上の円Cに沿って形成されている。円Cの中心点は、その平面と血液室7の側壁の中心線L1との交点である。血液流出ポート5の孔は、円Cの接線方向に延在している。図6では、インペラ10は時計の針の回転方向に回転し、血液もその方向に回転する。血液流出ポート5の孔と円Cの接点Pは、血液室7の側壁の開口部7aの上流側(図6中の左側)の端に位置している。
【0046】
ここで、円Cの中心点(血液室7の側壁の中心線L1)から見て接点P(開口部7aの上流側の端部)の方向を0度とし、その反対方向を180度とする。インペラ10の浮上位置は、血液の流体力、動圧軸受の動圧力、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力、インペラ10側の永久磁石とモータ側の磁性体との吸引力などのバランスによって決定される。この実施の形態1では、インペラ10の傾斜を抑制するために、開口部7a側(永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内)における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定される。ここで、A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。好ましくは、A度は60度である。
【0047】
図7(a)(b)は永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であり、図7(a)は図7(b)のVIIA−VIIA線断面図である。図7(a)(b)では、血液室7の円筒状の側壁の中心線L1と、インペラ10の回転中心線L2とが一致している状態が示されている。永久磁石15a,15bの各々は円環状に形成されており、永久磁石15aの外径は永久磁石15bの内径よりも小さい。永久磁石15a,15bは同軸状に設けられており、永久磁石15a,15bの中心点は、ともにインペラ10の回転中心線L2に配置されている。永久磁石15a,15bのN極は同じ方向に向けられている。
【0048】
一方、永久磁石16a,16bの各々も円環状に形成されている。永久磁石16aの外径および内径は、永久磁石15aの外径および内径と同じである。永久磁石16bの外径および内径は、永久磁石15bの外径および内径と同じである。永久磁石16a,16bは同軸状に設けられており、永久磁石16a,16bの中心点は、ともに血液室7の円筒状の側壁の中心線L1に配置されている。永久磁石16a,16bのN極は同じ方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。
【0049】
また、図6で説明したように、開口部7a側(0度±A度の範囲)における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくするため、開口部7a側(0度±A度の範囲)における永久磁石16a,16bの厚みを薄くしている。ここで、A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。好ましくは、A度は60度である。
【0050】
換言すると、永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内において、永久磁石16a,16bの裏面(永久磁石15a,15bと対向する表面の反対側の面)に所定深さの凹部が形成されている。これにより、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくし、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができ、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができる。
【0051】
また、図3に示すように、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)D1は、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の2分の1の距離D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。これは、D1<D2とした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0052】
また、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。
【0053】
なお、シュラウド11および血液室7の内壁にそれぞれ永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16bを設ける代わりに、シュラウド11および血液室7の内壁の一方に永久磁石を設け、他方に磁性体を設けてもよい。また、磁性体としては軟質磁性体と硬質磁性体のいずれを使用してもよい。
【0054】
また、図7(a)(b)では、永久磁石15aと16aの対向面のサイズが同じであり、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズが同じである場合が示されているが、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力に起因するインペラ10の剛性の低下を防ぐため、永久磁石15aと16aの対向面のサイズを異ならせ、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズを異ならせてもよい。永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面のサイズを異ならせることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化量、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ10の支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0055】
また、図7(a)(b)では、永久磁石15a,15b,16a,16bの各々を円環状に形成したが、永久磁石15a,15bの各々を円環状に形成するとともに、永久磁石16a,16bの各々を円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で2つ配列してもよい。逆に、永久磁石16a,16bの各々を円環状に形成するとともに、永久磁石15a,15bの各々を円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で2つ配列してもよい。また、永久磁石15a,15bの各々、あるいは永久磁石16a,16bの各々をさらに短い円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で複数配列してもよい。
【0056】
また、図3および図4に示すように、シュラウド12には複数(たとえば8個)の永久磁石17が埋設されている。複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0057】
また、図3および図10に示すように、モータ室8内には、複数(たとえば9個)の磁性体18が設けられている。複数の磁性体18は、インペラ10の複数の永久磁石17に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。複数の磁性体18の基端は、円板状の1つの継鉄19に接合されている。各磁性体18には、コイル20が巻回されている。
【0058】
9個のコイル20には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル20は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル20には、図11に示すような電圧VU,VV,VWが印加される。第1のコイル20には、0〜120度の期間に正電圧が印加され、120〜180度の期間に0Vが印加され、180〜300度の期間に負電圧が印加され、300〜360度の期間に0Vが印加される。したがって、第1のコイル20が巻回された磁性体18の先端面(インペラ10側の端面)は、0〜120度の期間にN極になり、180〜300度の期間にS極になる。電圧VVの位相は電圧VUよりも120度遅れており、電圧VWの位相は電圧VVよりも120度遅れている。したがって、第1〜第3のコイル20にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体18とインペラ10の複数の永久磁石17との吸引力および反発力により、インペラ10を回転させることができる。複数のコイル20によって生成される回転磁界の中心線は、血液室7の円筒状の側壁の中心線L1と一致している。
【0059】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。したがって、インペラ10とハウジング2との相対すべりによって溶血が発生したり、相対すべり時に発生したわずかな表面損傷(凹凸)によって血栓が発生することもない。
【0060】
また、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には複数の動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には複数の動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0061】
詳しく説明すると、複数の動圧溝21は、図8に示すように、インペラ10のシュラウド12に対応する大きさに形成されている。各動圧溝21は、隔壁6の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)隔壁6の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝21は略同じ形状であり、かつ略同じ間隔に配置されている。動圧溝21は凹部であり、動圧溝21の深さは0.005〜0.4mm程度であることが好ましい。動圧溝21の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
【0062】
図8では、10個の動圧溝21がインペラ10の中心軸に対して等角度で配置されている。動圧溝21は、いわゆる内向スパイラル溝形状となっているので、インペラ10が時計方向に回転すると、動圧溝21の外径部から内径部に向けて液体の圧力が高くなる。このため、インペラ10と隔壁6の間に反発力が発生し、これが動圧力となる。
【0063】
このように、インペラ10と複数の動圧溝21の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は隔壁6から離れ、非接触状態で回転する。このため、インペラ10と隔壁6の間に血液流路が確保され、両者間での血液滞留およびそれに起因する血栓の発生が防止される。さらに、通常状態において、動圧溝21が、インペラ10と隔壁6の間において撹拌作用を発揮するので、両者間における部分的な血液滞留の発生を防止することができる。
【0064】
なお、動圧溝21を隔壁6に設ける代わりに、動圧溝21をインペラ10のシュラウド12の表面に設けてもよい。
【0065】
また、動圧溝21の角の部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0066】
また、複数の動圧溝22は、図9に示すように、複数の動圧溝21と同様、インペラ10のシュラウド11に対応する大きさに形成されている。各動圧溝22は、血液室7の内壁の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)血液室7の内壁の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝22は、略同じ形状であり、かつ略同じ間隔で配置されている。動圧溝22は凹部であり、動圧溝22の深さは0.005〜0.4mm程度があることが好ましい。動圧溝22の数は、6〜36個程度であることが好ましい。図9では、10個の動圧溝22がインペラ10の中心軸に対して等角度に配置されている。
【0067】
インペラ10と複数の動圧溝22の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は血液室7の内壁から離れ、非接触状態で回転する。また、ポンプ部1が外的衝撃を受けたときや、動圧溝21による動圧力が過剰となったときに、インペラ10の血液室7の内壁への密着を防止することができる。動圧溝21によって発生する動圧力と動圧溝22によって発生する動圧力は異なるものとなっていてもよい。
【0068】
なお、動圧溝22は、血液室7の内壁側ではなく、インペラ10のシュラウド11の表面に設けてもよい。また、動圧溝22の角となる部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0069】
また、インペラ10のシュラウド12と隔壁6との隙間と、インペラ10のシュラウド11と血液室7の内壁との隙間とが略同じ状態でインペラ10が回転することが好ましい。インペラ10に作用する流体力などの外乱が大きく、一方の隙間が狭くなる場合には、その狭くなる側の動圧溝による動圧力を他方の動圧溝による動圧力よりも大きくし、両隙間を略同じにするため、動圧溝21と22の形状を異ならせることが好ましい。
【0070】
また、図8および図9では、動圧溝21,22の各々を内向スパイラル溝形状としたが、他の形状の動圧溝21,22を使用することも可能である。ただし、血液を循環させる場合は、血液をスムーズに流すことが可能な内向スパイラル溝形状の動圧溝21,22を採用することが好ましい。
【0071】
図12は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間(図12では永久磁石15,16間と略記する)の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置以外の位置P1でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。ただし、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0072】
すなわち、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1が永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2よりも小さく設定され、それらの合力がゼロとなるインペラ10の浮上位置はインペラ可動範囲の中間よりも隔壁6側にあるものとする。動圧溝21,22の形状は同じである。
【0073】
図12の横軸はインペラ10の位置(図中の左側が隔壁6側)を示し、縦軸はインペラ10に対する作用力を示している。インペラ10への作用力が隔壁6側に働くとき、その作用力をマイナスとしている。インペラ10に対する作用力としては、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、動圧溝21の動圧力F3と、動圧溝22の動圧力F4と、それらの合力である「インペラに作用する正味の力F5」を示した。
【0074】
図12から分かるように、インペラ10に作用する正味の力F5がゼロとなる位置で、インペラ10の浮上位置はインペラ10の可動範囲の中央位置から大きくずれている。その結果、回転中のインペラ10と隔壁6の間の距離は狭まり、インペラ10に対して小さな外乱力が作用してもインペラ10は隔壁6に接触してしまう。
【0075】
これに対して図13は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。この場合も、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0076】
すなわち、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは略同じに設定されている。また、動圧溝21,22の形状は同じにされている。この場合は、図12の場合と比較して、インペラ10の浮上位置に対する支持剛性が高くなる。また、インペラ10に作用する正味の力F5は可動範囲の中央でゼロとなっているので、インペラ10に対し外乱力が作用しない場合にはインペラ10は中央位置で浮上する。
【0077】
このように、インペラ10の浮上位置は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、インペラ10の回転時に動圧溝21,22で発生する動圧力F3,F4との釣り合いで決まる。F1とF2を略同じにし、動圧溝21,22の形状を同じにすることにより、インペラ10の回転時にインペラ10を血液室7の略中央部で浮上させることが可能となる。図3および図4に示すように、インペラ10は2つのディスク間に羽根を形成した形状を有するので、ハウジング2の内壁に対向する2つの面を同一形状および同一寸法にすることができる。したがって、略同一の動圧性能を有する動圧溝21,22をインペラ10の両側に設けることは可能である。
【0078】
この場合、インペラ10は血液室7の中央位置で浮上するので、インペラ10はハウジング2の内壁から最も離れた位置に保持される。その結果、インペラ10の浮上時にインペラ10に外乱力が印加されて、インペラ10の浮上位置が変化しても、インペラ10とハウジング2の内壁とが接触する可能性が小さくなり、それらの接触によって血栓や溶血が発生する可能性も低くなる。
【0079】
なお、図12および図13の例では、2つの動圧溝21,22の形状は同じであるとしたが、動圧溝21,22の形状を異なるものとし、動圧溝21,22の動圧性能を異なるものとしてもよい。たとえば、ポンピングの際に流体力などによってインペラ10に対して常に一方方向の外乱が作用する場合には、その外乱の方向にある動圧溝の性能を他方の動圧溝の性能より高めておくことにより、インペラ10をハウジング2の中央位置で浮上回転させることが可能となる。この結果、インペラ10とハウジング2との接触確率を低く抑えることができ、インペラ10の安定した浮上性能を得ることができる。
【0080】
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値をKaとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値をKrとし、インペラ10が回転する常用回転数領域において2つの動圧溝21,22で得られる正の剛性値の絶対値をKgとすると、Kg>Ka+Krの関係を満たすことが好ましい。
【0081】
具体的には、アキシアル方向の負の剛性値の絶対値Kaを20000N/mとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値Krを10000N/mとした場合、インペラ10が通常回転する回転数領域で2つの動圧溝21,22によって得られる正の剛性値の絶対値Kgは30000N/mを超える値に設定される。
【0082】
インペラ10のアキシアル支持剛性は動圧溝21,22で発生する動圧力に起因する剛性から磁性体間の吸引力などによる負の剛性を引いた値であるから、Kg>Ka+Krの関係を持つことで、インペラ10のラジアル方向の支持剛性よりもアキシアル方向の支持剛性を高めることができる。このように設定することにより、インペラ10に対して外乱力が作用した場合に、インペラ10のラジアル方向への動きよりもアキシアル方向への動きを抑制することができ、動圧溝21の形成部でのインペラ10とハウジング2との機械的な接触を避けることができる。
【0083】
特に、動圧溝21,22は、図3、図8および図9で示したように平面に凹設されているので、インペラ10の回転中にこの部分でハウジング2とインペラ10との機械的接触があると、インペラ10およびハウジング2の内壁のいずれか一方または両方の表面に傷(表面の凹凸)が生じてしまい、この部位を血液が通過すると、血栓発生および溶血の原因となる可能性もあった。この動圧溝21,22での機械的接触を防ぎ、血栓および溶血を抑制するために、ラジアル方向の剛性よりもアキシアル方向の剛性を高める効果は高い。
【0084】
また、インペラ10にアンバランスがあると回転時にインペラ10に振れ回りが生ずるが、この振れ回りはインペラ10の質量とインペラ10の支持剛性値で決定される固有振動数とインペラ10の回転数が一致した場合に最大となる。
【0085】
このポンプ部1では、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性よりもラジアル方向の支持剛性を小さくしているので、インペラ10の最高回転数をラジアル方向の固有振動数以下に設定することが好ましい。そこで、インペラ10とハウジング2との機械的接触を防ぐため、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によって構成されるインペラ10のラジアル剛性値をKr(N/m)とし、インペラ10の質量をm(kg)とし、インペラの回転数をω(rad/s)とした場合、ω<(Kr/m)0.5の関係を満たすことが好ましい。
【0086】
具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合、インペラ10の最高回転数は258rad/s(2465rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)と設定した場合には、ラジアル剛性は4018N/m以上に設定される。
【0087】
さらに、このωの80%以下にインペラ10の最高回転数を設定することが好ましい。具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合には、その最高回転数は206.4rad/s(1971rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)としたい場合には、ラジアル剛性値が6279N/m以上に設定される。このようにインペラ10の最高回転数を設定することで、インペラ10の回転中におけるインペラ10とハウジング2の接触を抑えることができる。
【0088】
また、インペラ10の回転起動前に、インペラ10が隔壁6に接触していることを確認してから、インペラ10を回転起動させることが好ましい。
【0089】
すなわち、インペラ10の非回転時では、動圧溝21,22による非接触支持はされず、さらに、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によってインペラ10とハウジング2とは高い面圧で接触している。また、このポンプ部1のように、インペラ10をモータ室8内のコイル20および磁性体18とインペラ10の永久磁石17との磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示すようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて、起動トルクが小さい。したがって、インペラ10をスムーズに回転起動させることは難しい。
【0090】
しかし、インペラ10のシュラウド12が隔壁6と接触している場合は、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合に比べ、インペラ10の永久磁石17とモータ室8内の磁性体18とが近接しているので、インペラ10の起動時の回転トルクを高めることができ、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【0091】
ところが、上述の通り、インペラ10の回転時には、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは、インペラ10の位置がインペラ10の可動範囲の中央付近にて釣り合うように設定されているので、インペラ10の停止時にインペラ10が必ずしも隔壁6に接触しているとは限らない。
【0092】
そこで、この遠心式血液ポンプ装置では、インペラ10を回転起動させる前にインペラ10を隔壁6側に移動させる手段が設けられる。具体的には、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が大きくなるように複数のコイル20に電流を流し、インペラ10を隔壁6側に移動させる。
【0093】
図14は、ポンプ部1を制御するコントローラ25の構成を示すブロック図である。図14において、コントローラ25は、モータ制御回路26およびパワーアンプ27を含む。モータ制御回路26は、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図9で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図11で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0094】
図15(a)〜(c)は、インペラ10の回転起動時におけるコイル電流I、インペラ10の位置、およびインペラ10の回転数の時間変化を示すタイムチャートである。図15(a)〜(c)において、初期状態では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力によってインペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。この状態では、インペラ10が回転し難いので、インペラ10のシュラウド12が隔壁6に接触した位置PBにインペラ10を移動させる。
【0095】
時刻t0において、図11で示される6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWのうちのいずれかのパターンの電圧を第1〜第3のコイル20に印加し、予め定められた電流I0をコイル20に流す。コイル20に電流I0を流すと、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1よりも大きくなり、インペラ10はほとんど回転することなく隔壁6側の位置PBに移動し、インペラ10のシュラウド12は隔壁6に接触する。インペラ10が位置PBに移動したら、電流I0を遮断する(時刻t1)。
【0096】
なお、インペラ10を回転させずに移動させるのは、インペラ10を回転させながら隔壁6側の位置PBに移動させようとしても、動圧溝21の動圧軸受効果によってインペラ10の移動が妨げられるからである。また、インペラ10の血液室7内の位置を検出するセンサを設け、インペラ10が隔壁6に接触したことを確認した後に、電流I0を遮断することが好ましい。
【0097】
次に、図10および図11で説明した第1〜第3のコイル20に3相電圧VU,VV,VWを印加し、コイル電流Iを予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このとき、インペラ10は隔壁6に接触しているので、インペラ10はスムーズに回転する。コイル電流Iの上昇に伴って、インペラ10は隔壁6側の位置PBから可動範囲の中央位置に移動する。
【0098】
なお、起動時に6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に印加した場合、永久磁石17と磁性体18の吸引力が最大になるパターンは永久磁石17と磁性体18の位置関係によって異なる。したがって、起動時に一定パターンの電圧VU,VV,VWのみを第1〜第3のコイル20に印加する代わりに、6パターンの電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に一定時間ずつ順次印加してもよい。この場合、インペラ10は僅かに回転して(厳密には1/4回転以下、すなわち電気角で360度以下回転して)、隔壁6側の位置PBに移動する。
【0099】
また、6パターンの電圧VU,VV,VWを印加すると、第1〜第3のコイル20のうちのいずれかのコイル20には電流は流れず、9個の磁性体18のうちの6個の磁性体がN極またはS極になり、残りの3個の磁性体18には磁極は発生しない。したがって、第1〜第3のコイル20の全てに電流が流れ、9個の磁性体18の各々がN極またはS極になるような電圧を第1〜第3のコイル20に印加して、永久磁石17と磁性体18の吸引力を強めてもよい。
【0100】
この実施の形態1では、血液室7の側壁の開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくしたので、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができる。このため、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができ、インペラを安定に浮上させることができ、溶血や血栓の発生を防止することができる。
【0101】
以下、実施の形態1の種々の変更例について説明する。図16の変更例では、インペラ10の回転起動時とそれ以降で電源が切り換えられる。すなわち図16において、この変更例では、図14のパワーアンプ27がパワーアンプ30,31および切換スイッチ32で置換される。図15の時刻t0〜t1では、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ30に与えられ、パワーアンプ30の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ31に与えられ、パワーアンプ31の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0102】
また、図17(a)〜(c)は、この実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。図17(a)〜(c)において、初期状態では、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。時刻t0において、予め定められた電流I1がコイル20に流される。すなわち、モータ制御回路26により、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を生成する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図11で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図10で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。
【0103】
したがって、この電流I1によってインペラ10に回転磁界が印加される。この電流I1は、図15の電流I0よりも大きい電流であり、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合でもインペラ10を回転起動させることが可能な電流である。回転起動が確認された後、コイル電流Iを低下させ、予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このようにインペラ10が位置PA側にあった場合でも、インペラ10の回転起動時のみにコイル20に過大電流を流すように構成してもよい。
【0104】
また、血液室7の内壁の表面および隔壁6の表面と、インペラ10の表面との少なくとも一方にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。これにより、インペラ10と血液室7の内壁および隔壁6との摩擦力を軽減し、インペラをスムーズに回転起動することが可能になる。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜の代わりに、フッ素系樹脂膜、パラキシリレン系樹脂膜などを形成してもよい。
【0105】
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向の負の剛性値よりも動圧溝21,22の動圧力による剛性が大きくなった場合にインペラ10とハウジング2は非接触の状態となる。したがって、この負の剛性値を極力小さくすることが好ましい。そこで、この負の剛性値を小さく抑えるため、永久磁石15aと16aの対向面のサイズを異ならせ、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズを異ならせることが好ましい。たとえば、図18に示すように、永久磁石15a,15bのサイズをそれぞれ永久磁石16a,16bよりも小さくすることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化割合、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0106】
また、図19は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図19において、この変更例では、各磁性体18の永久磁石17に対向する先端面に磁性体35が設けられる。この磁性体35の永久磁石17に対向する表面の面積は磁性体18の先端面の面積よりも大きい。この変更例では、永久磁石17に対する磁性体18,35の吸引力を大きくすることができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0107】
また、図20は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図20において、この変更例では、継鉄19が継鉄36で置換され、磁性体18が磁性体37で置換される。継鉄36および磁性体37の各々は、インペラ10の回転軸の長さ方向に積層された複数の鋼板を含む。この変更例では、継鉄36および磁性体37で発生する渦電流損失を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0108】
また、図21に示すように、インペラ10の回転方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体38で磁性体37を置換してもよい。また、図22に示すように、インペラ10の径方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体39で磁性体37を置換してもよい。これらの場合でも、図20の変更例と同じ効果が得られる。
【0109】
また、図3の継鉄19および磁性体18の各々を、純鉄、軟鉄、または珪素鉄の粉末によって形成してもよい。この場合は、継鉄19および磁性体18の鉄損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0110】
また、図23は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図23において、この変更例では、磁性体18が除去されている。この変更例では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および継鉄19間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整される。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0111】
また、図24(a)(b)は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。図24(a)は図24(b)のXXIVA−XXIVA線断面図である。この変更例では、永久磁石15aのN極と永久磁石15bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極とは逆向きに設けられる。永久磁石15aのS極と永久磁石16aのN極とは対向し、永久磁石15bのN極と永久磁石16bのS極とは対向している。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0112】
また、図25(a)(b)は実施の形態1の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図25(a)は、図25(b)のXXVA−XXVA線断面図である。図25(a)(b)において、この変更例では、永久磁石16a,16bの中心から見て0度±A度の範囲内において、円環状の永久磁石16aのうちの開口部7a側の端部が中心線L1に平行な平面によって切除されている。また、永久磁石16a,16bの中心から見て0度±B度の範囲内において、円環状の永久磁石16bのうちの開口部7a側の端部が中心線L1に平行な平面によって切除されている。A度およびB度の各々は、0度よりも大きな所定の角度である。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)よりも小さくなっている。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0113】
また、図26(a)(b)は実施の形態1の他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図26(a)は、図26(b)のXXVIA−XXVIA線断面図である。図26(a)(b)において、この変更例では、永久磁石16a,16bの中心から見て0度±A度の範囲内において、円環状の永久磁石16a,16bのうちの扇形の部分が切除されている。A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度であり、好ましくは60度である。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)よりも小さくなっている。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0114】
また、図27(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図27(a)は、図27(b)のXXVIIA−XXVIIA線断面図である。図27(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石16a,16bの外周の全周に渡って面取り加工を施している。面取り加工は、永久磁石16a,16bのうちの永久磁石15a,15bと対向する面側のみに施してもよいし、永久磁石15a,15bと対向する面と反対側の面のみに施してもよいし、永久磁石16a,16bの両面に施してもよい。面取りの大きさも特に制限するものではない。
【0115】
図28(a)(b)は、インペラ10が回転し、吐出流量の増加に伴って、インペラ10が開口部7a側(0度方向)に移動した場合における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を示す図である。また図28(a)は、図28(b)のXXVIIIA−XXVIIIA線断面図である。インペラ10が開口部7a側に移動すると、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L1との位置関係にずれが生じる。ここで永久磁石15a,15bの形状と永久磁石16a,16bの形状が同じであれば、中心線L1,L2がずれても、開口部7a側の吸引力と開口部7aの反対側の吸引力とのアンバランスは発生しない。この変更例では、永久磁石16a,16bの外周のみに面取り加工を施したので、中心線L1,L2がずれると開口部7a側の吸引力が開口部7aの反対側の吸引力よりも小さくなり、インペラ10の傾斜が抑制される。
【0116】
また、図29(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図29(a)は、図29(b)のXXIXA−XXIXA線断面図である。図29(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石15a,15bの内周の全周に渡って面取り加工を施している。面取り加工は、永久磁石15a,15bのうちの永久磁石16a,16bと対向する面側のみに施してもよいし、永久磁石16a,16bと対向する面と反対側の面のみに施してもよいし、永久磁石15a,15bの両面に施してもよい。面取りの大きさも特に制限するものではない。
【0117】
図30(a)(b)は、インペラ10が回転し、吐出流量の増加に伴って、インペラ10が開口部7a側(0度方向)に移動した場合における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を示す図である。また図30(a)は、図30(b)のXXXA−XXXA線断面図である。インペラ10が開口部7a側に移動すると、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L1との位置関係にずれが生じる。ここで永久磁石15a,15bの形状と永久磁石16a,16bの形状が同じであれば、中心線L1,L2がずれても、開口部7a側の吸引力と開口部7aの反対側の吸引力とのアンバランスは発生しない。この変更例では、永久磁石15a,15bの内周のみに面取り加工を施したので、中心線L1,L2がずれると開口部7a側の吸引力が開口部7aの反対側の吸引力よりも小さくなり、インペラ10の傾斜が抑制される。
【0118】
また、図31(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図31(a)は、図31(b)のXXXIA−XXXIA線断面図である。図31(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石16a,16bの厚さは一定である。永久磁石16a,16bのN極は同じ方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内において、永久磁石16a,16bのうちの永久磁石15a,15bと対向する面の反対側の面を覆うように扇形の磁性体28が設けられている。A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度であり、好ましくは60度である。磁性体28は、永久磁石16a,16bに吸引されている。磁性体28が設けられた領域において、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が小さくなる。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくなる。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0119】
また、図32(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図31(a)(b)と対比される図である。また図32(a)は、図32(b)のXXXIIA−XXXIIA線断面図である。図32(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石16a,16bの厚さは一定である。永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極は反対方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。永久磁石16a,16bの中心点から180度の方向を見て±E度の範囲内において、永久磁石16a,16bのうちの永久磁石15a,15bと対向する面の反対側の面を覆うように扇形の磁性体28が設けられている。E度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。磁性体28は、永久磁石16a,16bに吸引されている。磁性体28が設けられた領域において、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が大きくなる。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくなる。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0120】
[実施の形態2]
図33は、この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。図33において、永久磁石15a,15b,16a,16bの形状は、実施の形態1と同じである。このポンプ部では、インペラ10のシュラウド12に複数の永久磁石17の代わりに複数(たとえば8個)の永久磁石40が埋設されている。複数の永久磁石40は、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。モータ室8内には、複数の永久磁石40を吸引するための複数(たとえば8個)の永久磁石41が設けられている。複数の永久磁石41は、インペラ10の複数の永久磁石40に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。
【0121】
複数の永久磁石41は、椀状のロータ42の表面に設けられている。ロータ42の縁の内側には、複数(たとえば8個)の永久磁石43が等角度間隔で設けられている。複数の永久磁石43は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、ロータ42の内側にN極を向けた永久磁石43と、ロータ42の内側にS極を向けた永久磁石43とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0122】
ロータ42の中央部はベアリング44を介して中心軸45に回転可能に支持されており、ロータ42は隔壁6に沿って回転可能に設けられている。ロータ42の回転中心線は、血液室7の側壁の中心線L1に一致している。中心軸45は、円板状の継鉄46の中央に立設されている。継鉄46の表面において中心軸45の周りには、複数(たとえば9個)の磁性体47が等角度間隔で設けられている。複数の磁性体47の先端は、ロータ42の複数の永久磁石43に対向して、同一の円に沿って配置される。各磁性体47には、コイル48が巻回されている。複数の永久磁石43、複数の磁性体47、および複数のコイル48は、ロータ42を回転させるためのモータを構成する。
【0123】
9個のコイル48には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル48は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル48には、図9で示した電圧VU,VV,VWが印加される。したがって、第1〜第3のコイル48にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体47とロータ42の複数の永久磁石43との吸引力および反発力により、ロータ42を回転させることができる。ロータ42が回転すると、ロータ42の複数の永久磁石43とインペラ10の複数の永久磁石40との吸引力により、インペラ10が回転する。
【0124】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石40および複数の永久磁石41間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。
【0125】
また、実施の形態1と同様、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0126】
また、実施の形態1と同様に、血液室7の側壁の開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定される。したがって、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができ、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができる。
【0127】
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石40および複数の永久磁石41間の吸引力とを釣り合わせ、動圧溝21,22を設けたので、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性を大きくすることができる。また、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。したがって、インペラ10とハウジング2との機械的な接触を少なくすることができ、溶血や血栓の発生を防止することができる。
【0128】
[実施の形態3]
図34は、この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。図35は、図34のXXXV−XXXV線断面図であって、図4と対比される図である。図36(a)(b)は、永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。
【0129】
図34および図35において、シュラウド11には永久磁石15a,15bが埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する永久磁石16a,16bが埋設されている。永久磁石15a,15b,16a,16bは、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。また、インペラ10を回転させるとインペラ10が開口部7a側に吸引されるので、インペラ10を開口部7aと反対側に吸引(換言すれば、付勢)するために、血液室7の内壁の中心線L1から見て開口部7aの反対側に永久磁石16a,16bの中心線L3が配置されている。
【0130】
図36(a)(b)は永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であり、図36(a)は図36(b)のXXXVIA−XXXVIA線断面図である。図36(a)(b)では、インペラ10が回転されず、永久磁石15a,15bが永久磁石16a,16bに吸引された状態が示されている。この状態では、永久磁石15a,15bの中心線(すなわち、インペラ10の中心線)L2と永久磁石16a,16bの中心線L3は一致している。永久磁石15a,15b,16a,16bの形状は、実施の形態1と同じである。永久磁石16a,16bの中心線L3は、血液室7の内壁の中心線L1と所定距離Rだけ離間している。
【0131】
ここで、永久磁石16a,16bの中心線L3を血液室7の内壁の中心線L1から離間させている理由について詳説する。この遠心式血液ポンプ装置のように、実質的にボリュートを備えないポンプ装置では、血液室7内において圧力バランスに不平衡が生じると、インペラ10が血液室7内の圧力バランスに従って径方向に移動してしまう。具体的には、血液室7内で圧力が低い開口部7aに向かって、インペラ10の回転中心線L2が移動する。
【0132】
図37に示すように、ポンプ装置の吐出流量が多いほど、血液室7内の圧力バランスの不平衡が大きくなり、インペラ10の径方向移動量は大きくなる。また、図38に示すように、インペラ10の径方向の移動量が増加すると、磁気カップリングのラジアル剛性は低下する。このため、インペラ10の回転中心線L2と血液室7の側壁の中心線L1とが一致しない状況では、ラジアル方向の小さな外乱を受けることでインペラ10の位置が変動し、血液室7の側壁とインペラ10の側面が接触する可能性がある。また、血液室7の側壁とインペラ10の側面が接触しなくても、それらの隙間が狭くなった部分で、血液中の赤血球が壊れる溶血が生じる可能性もある。
【0133】
また、開口部7a付近では圧力勾配が大きく、かつ圧力が低くなるため、インペラ10が開口部7aに近づけば近づくほど開口部7aに引き込まれてしまう。一方で、ポンプ動作時のインペラ10には、インペラ10から血液への水力エネルギー付与のため軸トルクが負荷として作用し、その軸トルクは回転数の上昇とともに増加する。また図39に示すように、インペラ10の径方向移動量が増加すると、磁気カップリングの最大伝達トルクが低下する。そのため、磁気カップリングの最大伝達トルクがインペラ10に作用する軸トルクより低下した場合にカップリング脱調が発生する恐れがある。
【0134】
図40は、血液室7の側壁の中心線L1と永久磁石16a,16bの中心線L3を一致させた遠心式血液ポンプ装置において、吐出流量と、インペラ10の回転中心線L2の移動方向および移動量との関係を示す図である。図40では、血液室7の側壁の中心線L1と永久磁石16a,16bの中心線L3を原点に配置し、開口部7aの上流側の端部の方向をY方向としている。この図40から、インペラ10の回転中心線L2は、吐出流量の増加に伴い、開口部7aの上流側の端部に吸い寄せられるように移動することが分かる。
【0135】
そこで、この実施の形態3では、インペラ10を定格回転数で回転させた場合に、インペラ10の回転中心線L2と血液室7の側壁の中心線L1とが一致するように、血液室7の側壁の中心線L1から見て開口部7aの反対側に永久磁石16a,16bの中心線L3を配置し、インペラ10を開口部7aと反対側に吸引(換言すれば、付勢)している。中心線L1,L3の間隔Rは、運転条件に応じて設定する。すなわち、インペラ10を定格回転数で回転させたときの吐出流量から変位量を図40から読み取り、その変位量に中心線L1,L3の間隔Rを設定すればよい。中心線L1,L3の間隔(偏心量)は、ポンプの大きさなどにより相違するが、0.1〜1.0mmが好適である。これにより、インペラ10を定格回転数で回転させた場合に、インペラ10の回転中心線L2と血液室7の側壁の中心線L1とが一致する。
【0136】
図41は、血液室7の内壁の中心線L1と永久磁石16a,16bの中心線L3との位置関係を示す図である。図41において、ハウジング2は、血液室7の側壁の中心線L1と直交し、かつ血液流出ポート5の孔の中心線を含む平面で切断されている。血液室7の側壁は、その平面上の円Cに沿って形成されている。円Cの中心点は、その平面と血液室7の側壁の中心線L1との交点である。血液流出ポート5の孔は、円Cの接線方向に延在している。図41では、インペラ10は時計の針の回転方向に回転し、血液もその方向に回転する。血液流出ポート5の孔と円Cの接点Pは、血液室7の側壁の開口部7aの上流側(図41中の左側)の端に位置している。
【0137】
円Cの中心点(血液室7の側壁の中心線L1)から見て接点P(開口部7aの上流側の端部)の方向を0度とし、その反対方向を180度とすると、永久磁石16a,16bの中心線L3は円Cの中心点から180度の方向に所定の偏心量Rだけずれた位置に配置される。
【0138】
ただし、ポンプ動作時におけるインペラ10の径方向の移動特性は、開口部7aの面積、形状などによって変動する。したがって、永久磁石16a,16bの中心線L3の位置は、必ずしも円Cの中心点から180度の方向に限定されるものではない。永久磁石16a,16bの中心線L3の位置は、円Cの中心点から180度±45度(すなわち135度〜225度)の範囲内にあることが好ましい。
【0139】
また、図34に示すように、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)をD1とし、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の1/2をD2とした場合、0.5×D1>D2+Rの関係を満たしている。これは、0.5×D1<D2+Rとした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0140】
他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。この実施の形態3では、実施の形態1と同様にインペラ10が傾斜するのを防止することができる他、インペラ10を血液室7の中心に位置させることができる。
【0141】
また、図42(a)(b)は、この実施の形態3の変更例を示す断面図であって、図36(a)(b)と対比される図である。図42(a)は図42(b)のXLIIA−XLIIA線断面図である。この変更例では、永久磁石15aのN極と永久磁石15bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石15aのS極と永久磁石16aのN極とは対向し、永久磁石15bのN極と永久磁石16bのS極とは対向した異極配置となっている。この変更例でも、実施の形態3と同じ効果が得られる。
【0142】
また、図42(a)(b)の変更例では、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)をD1とし、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の1/2をD2とし、上述の偏心量をRとすると、D1>D2+Rとなっている。これは、D1<D2+Rとした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0143】
図36(a)(b)および図42(a)(b)で説明したように、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの極配置によって、許容される永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)D1が異なる。これは、図43に示すように、極配置によって、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aの干渉度合いが異なり、カップリング脱調が生じる最大偏心量が異なるためである。
【0144】
すなわち、図43は、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L3との偏心量と、インペラ10の径方向復元力との関係を示す図である。図43において、同極配置とは、図36(a)(b)で示したように、径方向に隣接する2つの永久磁石15a,15bのN極が同じ方向を向き、径方向に隣接する2つの永久磁石16a,16bのN極が同じ方向を向いている場合を言う。また、異極配置とは、図42(a)(b)で示したように、径方向に隣接する2つの永久磁石15a,15bのN極が異なる方向を向き、径方向に隣接する2つの永久磁石16a,16bのN極が異なる方向を向いている場合を言う。
【0145】
図43から分かるように、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L3との偏心量を大きくして行くと、インペラ10の径方向復元力は一旦上昇した後に下降する。異極配置におけるインペラ10の径方向復元力は、同極配置におけるインペラ10の径方向復元力よりも大きい。また、異極配置の場合にピーク値が現れる偏心量は、同極配置の場合にピーク値が現れる偏心量よりも大きい。したがって、カップリング脱調が生じる最大偏心量は、異極配置の場合の方が同極配置の場合よりも大きくなる。
【0146】
この理由は、次のように考えられる。異極配置の場合は、図42(a)(b)において、永久磁石15a,15bの中心線L2が永久磁石16a,16bの中心線L3の下方に相対的に移動すると、永久磁石15aのS極と永久磁石16bのS極との間に反発力が発生する。この反発力は、インペラ10の径方向復元力を増大させる。これに対して同極配置の場合は、図36(a)(b)において、永久磁石15a,15bの中心線L2が永久磁石16a,16bの中心線L3の下方に相対的に移動すると、永久磁石15aのS極と永久磁石16bのN極との間に吸引力が発生する。この吸引力は、インペラ10の径方向復元力を減少させる。このため、異極配置においてカップリング脱調が生じる最大偏心量は、同極配置においてカップリング脱調が生じる最大偏心量よりも大きくなる。
【0147】
なお、以上の実施の形態および変更例を適宜組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0148】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0149】
1 ポンプ部、2 ハウジング、3 本体部、4 血液流入ポート、5 血液流出ポート、6 隔壁、7 血液室、7a 開口部、8 モータ室、10 インペラ、10a 貫通孔、11,12 シュラウド、13 ベーン、14 血液通路、15a,15b,16a,16b,17,40,41,43 永久磁石、18,28,35,37〜39,47 磁性体、19,36,46 継鉄、20,48 コイル、21,22 動圧溝、25 コントローラ、26 モータ制御回路、27,30,31 パワーアンプ、32 切換スイッチ、42 ロータ、44 ベアリング、45 中心軸。
【技術分野】
【0001】
この発明は遠心式ポンプ装置に関し、特に、回転時の遠心力によって液体を送るインペラを備えた遠心式ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工心肺装置の血液循環装置として、外部モータの駆動トルクを磁気結合を用いて血液室内のインペラに伝達する遠心式血液ポンプ装置を使用する例が増加している。この遠心式血液ポンプ装置によれば、外部と血液室との物理的な連通を排除することができ、細菌などの血液への侵入を防止することができる。
【0003】
特許文献1の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた電磁石と、インペラの他方面に設けられた永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた永久磁石とを備える。インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には、動圧溝が形成されている。電磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0004】
また、特許文献2の遠心式血液ポンプは、第1および第2の隔壁によって仕切られた第1〜第3の室を含むハウジングと、第2の室(血液室)内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた磁性体と、インペラの一方面に対向して第1の室内に設けられた第1の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第2の永久磁石と、第3の室内に設けられたロータおよびモータと、インペラの他方面に対向してロータに設けられた第3の永久磁石とを備える。インペラの一方面に対向する第1の隔壁の表面には第1の動圧軸が形成され、インペラの他方面に対向する第2の隔壁の表面には第2の動圧溝が形成されている。第1の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ロータの第3の永久磁石からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラは第2の室の内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0005】
また、特許文献3の図8および図9のターボ形ポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ハウジングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた第3の永久磁石と、インペラの他方面に対向してハウジングに設けられた磁性体とを備えている。また、インペラの一方面には第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面には第2の動圧溝が形成されている。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、ハウジングの磁性体からインペラの他方面に作用する吸引力と、第1および第2の動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0006】
また、特許文献4のクリーンポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に設けられたインペラと、インペラの一方面に設けられた第1の永久磁石と、ハウジングの外部に設けられたロータと、インペラの一方面に対向してロータに設けられた第2の永久磁石と、インペラの他方面に設けられた磁性体と、インペラの他方面に対向してハウジング外に設けられた電磁石とを備えている。また、インペラの一方面には動圧溝が形成されている。
【0007】
インペラの回転数が所定の回転数よりも低い場合は電磁石を作動させ、インペラの回転数が所定の回転数を超えた場合は電磁石への通電を停止する。ロータの第2の永久磁石からインペラの一方面に作用する吸引力と、動圧溝の動圧軸受効果により、インペラはハウジングの内壁から離れ、非接触状態で回転する。
【0008】
さらに、特許文献5の遠心式血液ポンプは、特許文献2の遠心式血液ポンプにおいて、インペラの回転時にインペラの回転中心線と第2の室の中心線とが一致するように、ロータの回転中心線を第2の室の中心線と異なる位置に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−209240号公報
【特許文献2】特開2006−167173号公報
【特許文献3】特開平4−91396号公報
【特許文献4】実開平6−53790号公報
【特許文献5】特開2007−89972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1〜5のポンプは、インペラとハウジングの対向部に形成された動圧溝によってインペラのアキシアル方向(インペラの回転軸方向)の支持を行ない、インペラに設けられた永久磁石とハウジング外に設けられた永久磁石との吸引力によってインペラのラジアル方向(インペラの半径方向)の支持を行なっている点で共通する。
【0011】
このような遠心ポンプ装置では、インペラの支持剛性(インペラを単位長さだけ移動させるために必要な力)が小さいと、使用者の動作に伴う加振(加速度振動)によってインペラが血液室の内壁に接触してしまう。したがって、アキシアル方向とラジアル方向の各々について十分に大きな支持剛性を持つことが必要である。
【0012】
インペラのラジアル方向の支持剛性を大きくするためには、インペラの永久磁石とハウジング側の永久磁石との磁気カップリング力を大きくすればよい。しかし、その磁気カップリング力を大きくすることは容易でない。また、アキシアル方向の支持剛性を大きくするためには、インペラ径を拡大したり、浮上隙間を小さくするといった動圧軸受寸法諸元を変更するか、インペラ側永久磁石とハウジング側永久磁石で形成される受動型磁気軸受の負の剛性を小さくする必要があるが容易ではない。すなわち、動圧軸受式の遠心ポンプ装置では、始めに、流量、揚程(圧力)、血液室とインペラの間隔の最小値が仕様として与えられる。すると、インペラの直径によって、回転数と動圧溝の寸法が決まる。
【0013】
動圧溝の寸法、インペラ直径、回転数、血液室とインペラの間隔が決まれば、負荷容量が決まるので、それと釣合うための磁気カップリング力が決まる。磁気カップリング力が決まると、インペラの支持剛性も決まることになる。したがって、インペラの支持剛性を増やすためには負荷容量を増やす必要があるが、負荷容量は、血液の粘度、インペラの回転数、動圧溝の寸法、血液室とインペラの間隔に依存するので、負荷容量を増やすにも限度がある。
【0014】
また、このような遠心ポンプ装置では、血液室の側壁が円筒状に形成されており、血液室の側壁に設けられた開口部からハウジングの外に血液を流出させるための液体流出ポートが設けられている。インペラが回転されて血液が流れると、血液室内に圧力分布が発生する。血液の圧力は、血液室の側壁の開口部側で低くなり、その反対側で高くなる。また、インペラのベーン部を通過する血液の流量バランスによっても圧力分布が発生する。このため、特に吐出流量が大きい場合にはインペラが開口部側に移動し、かつ隔壁に対して傾斜する場合があった(図5参照)。インペラが移動および傾斜すると、インペラが血液室の内壁に接触し、溶血が発生してしまう。
【0015】
特許文献5の遠心式血液ポンプでは、インペラの回転中心線と血液室の中心線が一致するので、負荷容量を大きくすることができる。しかし、この方式ではインペラの傾斜を抑制することはできず、ラジアル方向の負荷容量を大きくすることができるがアキシアル方向の負荷容量を改善することはできなかった。
【0016】
それゆえに、この発明の主たる目的は、インペラの回転時にインペラが隔壁に対して傾斜するのを防止することが可能な遠心式ポンプ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この発明に係る遠心式ポンプ装置は、隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、第1の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、第2の室内に設けられ、隔壁を介してインペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、インペラの一方面に対向する第1の室の内壁に設けられ、第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、インペラの他方面に設けられ、駆動部によって吸引される第3の磁性体と、第1の室の側壁に設けられた開口部からハウジングの外に液体を流出させるための液体流出ポートとを備えたものである。インペラの回転時において、第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と第3の磁性体および駆動部間に作用する第2の吸引力とは、第1の室内におけるインペラの可動範囲の略中央で釣り合う。インペラの一方面またはそれに対向する第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面またはそれに対向する隔壁に第2の動圧溝が形成されている。第1および第2の磁性体のうちの少なくとも一方の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成されている。インペラの回転時にインペラが隔壁に対して平行になるように、開口部側における第1および第2の磁性体間の吸引力と、開口部の反対側における第1および第2の磁性体間の吸引力とは異なる値に設定されている。
【0018】
好ましくは、開口部側における第1および第2の磁性体間の吸引力は、開口部の反対側における第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さな値に設定されている。
【0019】
また好ましくは、第2の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、開口部側における第2の磁性体の厚さは、開口部の反対側における第2の磁性体の厚さよりも小さい。
【0020】
また好ましくは、第2の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、開口部側における第1および第2の磁性体の対向面積は、開口部の反対側における第1および第2の磁性体の対向面積よりも小さい。
【0021】
また好ましくは、第2の磁性体は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、開口部側において第2の磁性体に切り欠き部が設けられている。
【0022】
また好ましくは、第1の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第1の永久磁石を含み、第2の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第2の永久磁石を含む。
【0023】
また好ましくは、複数の第2の永久磁石の第1の磁極は全てインペラの方向に向けられ、複数の第2の永久磁石の第2の磁極は全てインペラと反対の方向に向けられ、複数の第1の永久磁石の第2の磁極はそれぞれ複数の第2の永久磁石の第1の磁極に対向して設けられ、さらに、複数の第2の永久磁石の第2の磁極のうちの開口部側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える。
【0024】
また好ましくは、各隣接する2つの第2の永久磁石のうちの一方の第2の永久磁石の第1の磁極はインペラの方向に向けられ、他方の第2の永久磁石の第2の磁極はインペラの方向に向けられ、複数の第1の永久磁石の磁極はそれぞれ複数の第2の永久磁石の磁極と吸引するように配置され、さらに、複数の第2の永久磁石のインペラと反対側の磁極のうちの開口部と反対側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える。
【0025】
また好ましくは、インペラの側面に対向する第1の室の側壁は円筒状に形成されており、第1の室の側壁の中心線から見て開口部の上流側の端部の方向を0度とし、その反対側を180度とすると、開口部側は第1の室の側壁の中心線から見て0度の方向側であり、開口部の反対側は第1の室の側壁の中心線から見て180度の方向側である。第1の室の側壁の中心線から見て0度±A度(ただし、A度は0度よりも大きく180度よりも小さな角度である)の範囲内における第1および第2の磁性体間の吸引力は、その範囲外における第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さい。
【0026】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0027】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第5の磁性体と、それぞれ複数の第5の磁性体に巻回され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0028】
また好ましくは、駆動部は、第2の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、第3の磁性体に対向してロータに設けられ、第3の磁性体を吸引する第5の磁性体と、ロータを回転させるモータとを含み、ロータの回転中心線は第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0029】
また、この発明に係る他の遠心式ポンプ装置は、隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、第1の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、第2の室内に設けられ、隔壁を介してインペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、インペラの一方面に対向する第1の室の内壁に設けられ、第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、インペラの他方面に設けられ、駆動部によって吸引される第3の磁性体と、第1の室の側壁に設けられた開口部からハウジングの外に液体を流出させるための液体流出ポートと備えたものである。インペラの回転時において、第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と第3の磁性体および駆動部間に作用する第2の吸引力とは、第1の室内におけるインペラの可動範囲の略中央で釣り合う。インペラの一方面またはそれに対向する第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、インペラの他方面またはそれに対向する隔壁に第2の動圧溝が形成されている。第1および第2の磁性体の各々は、インペラの回転中心線の周りに円環状に形成されている。インペラが流体力によって開口部側に偏心した場合に、開口部側における第1および第2の磁性体間の吸引力が開口部の反対側における第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さくなるように第1または第2の磁性体の端面の角に面取り加工が施されている。
【0030】
好ましくは、第2の磁性体の端面の外周側の角に面取り加工が施されている。
また好ましくは、第1の磁性体の端面の内周側の角に面取り加工が施されている。
【0031】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0032】
また好ましくは、駆動部は、インペラの第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第4の磁性体と、それぞれ複数の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成してインペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0033】
また好ましくは、駆動部は、第2の室内において隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、第3の磁性体に対向してロータに設けられ、第3の磁性体を吸引する第4の磁性体と、ロータを回転させるモータとを含み、ロータの回転中心線は第1の室の側壁の中心線と一致している。
【0034】
また好ましくは、インペラの回転時においてインペラの回転中心線と第1の室の側壁の中心線とが一致するように、第2の磁性体の中心線が第1の室の側壁の中心線と異なる位置に配置されている。
【0035】
また好ましくは、液体は血液であり、遠心式ポンプ装置は血液を循環させるために使用される。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、この発明によれば、インペラをインペラの可動範囲の略中央位置に浮上させることができ、回転中のインペラの傾斜を抑制することができる。したがって、インペラとハウジングとの機械的な接触を少なくすることができ、インペラを安定に浮上させることができる。また、血液を循環させる場合には、溶血を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の外観を示す正面図である。
【図2】図1に示したポンプ部の側面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】遠心式血液ポンプ装置の問題点を説明するための図である。
【図6】図5で説明した問題点を解決する方法を説明するための図である。
【図7】図3に示した永久磁石の構成を示す図である。
【図8】図3のIV−IV線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図9】図3のIX−IX線断面図からインペラを取り外した状態を示す断面図である。
【図10】図3のX−X線断面図である。
【図11】図10で示した複数のコイルに印加する電圧を例示するタイムチャートである。
【図12】インペラの浮上位置とインペラへの作用力との関係を示す図である。
【図13】インペラの浮上位置とインペラへの作用力との関係を示す他の図である。
【図14】図1〜図10で示したポンプ部を制御するコントローラの構成を示すブロック図である。
【図15】図14に示したコントローラの動作を示すタイムチャートである。
【図16】この実施の形態1の変更例を示すブロック図である。
【図17】この実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。
【図18】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図19】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図20】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図21】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図22】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図23】実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図である。
【図24】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図25】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図26】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図27】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図28】図27に示した変更例の効果を示す図である。
【図29】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図30】図29に示した変更例の効果を示す図である。
【図31】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図32】実施の形態1のさらに他の変更例を示す図である。
【図33】この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図である。
【図34】この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図である。
【図35】図34のXXXV−XXXV線断面図である。
【図36】図34に示した永久磁石を示す図である。
【図37】インペラの回転数と径方向移動量との関係を示す図である。
【図38】インペラの径方向移動量と磁気カップリングのラジアル剛性との関係を示す図である。
【図39】インペラの径方向移動量と磁気カップリングの最大トルクとの関係を示す図である。
【図40】インペラ回転数とインペラの回転中心線の径方向変位を示す図である。
【図41】血液室の側壁の中心線と永久磁石の中心線との位置関係を示す図である。
【図42】この実施の形態の変更例を示す図である。
【図43】永久磁石15a,15bの中心線と永久磁石16a,16bの中心線との偏心量と、インペラ10の径方向復元力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[実施の形態1]
図1および図2に示すように、実施の形態1による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部1は、非磁性材料で形成されたハウジング2を備える。ハウジング2は、円柱状の本体部3と、本体部3の一方の端面の中央に立設された円筒状の血液流入ポート4と、本体部3の外周面に設けられた円筒状の血液流出ポート5とを含む。血液流出ポート5は、本体部3の外周面の接線方向に延在している。
【0039】
ハウジング2内には、図3に示すように、隔壁6によって仕切られた血液室7およびモータ室8が設けられている。血液室7内には、図3および図4に示すように、中央に貫通孔10aを有する円板状のインペラ10が回転可能に設けられている。インペラ10は、ドーナツ板状の2枚のシュラウド11,12と、2枚のシュラウド11,12間に形成された複数(たとえば6つ)のベーン13とを含む。シュラウド11は血液流入ポート4側に配置され、シュラウド12は隔壁6側に配置される。シュラウド11,12およびベーン13は、非磁性材料で形成されている。
【0040】
2枚のシュラウド11,12の間には、複数のベーン13で仕切られた複数(この場合は6つ)の血液通路14が形成されている。血液通路14は、図4に示すように、インペラ10の中央の貫通孔10aと連通しており、インペラ10の貫通孔10aを始端とし、外周縁まで徐々に幅が広がるように延びている。換言すれば、隣接する2つの血液通路14間にベーン13が形成されている。なお、この実施の形態1では、複数のベーン13は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。したがって、複数の血液通路14は等角度間隔で設けられ、かつ同じ形状に形成されている。
【0041】
インペラ10の側面に対向する血液室7の側壁は、円筒状に形成され、インペラ10の外径よりも大きな内径を有する。円筒状の側壁の中心線L1と血液流入ポート4の中心線とは一致している。血液室7の側壁の一部には、開口部7aが設けられている。円筒状の血液流出ポート5は、開口部7aに結合されている。血液がスムーズに流出するように、血液流出ポート5は血液室7の円筒状の側壁7の接線方向に延在している。インペラ10が回転駆動されると、血液流入ポート4から流入した血液は、遠心力によって貫通孔10aから血液通路14を介してインペラ10の外周部に送られ、開口部7aおよび血液流出ポート5を介してハウジング3の外部に流出する。
【0042】
また、シュラウド11には第1の磁性体である永久磁石15a,15bが埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する第2の磁性体である永久磁石16a,16bが埋設されている。永久磁石15a,15b,16a,16bは、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。
【0043】
また、インペラ10を回転させると、血液流入ポート4から開口部7aを介して血液流出ポート5に血液が流れ、血液室7内に血液の圧力分布が発生する。特に、血液の吐出流量が多い場合は、開口部7a側の圧力と開口部7aの反対側の圧力との差が大きくなり、図5に示すように、インペラ10が開口部7a側に吸引されるとともに、開口部7a側におけるインペラ10と永久磁石16a,16bとの間の距離が開口部7aの反対側におけるインペラ10と永久磁石16a,16bとの間の距離よりも小さくなる状態でインペラ10が傾斜する。
【0044】
図5では、インペラ10の回転中心線L2が血液室7の円筒状の側壁の中心線L1よりも、ある距離Rだけ開口部7a側に移動している状態が示されている。また、隔壁6とインペラ10が平行にならず、隔壁6を含む平面とインペラ10の中心面を含む平面とが開口部7aの反対側で、ある角度θで交差している状態が示されている。
【0045】
図6は、血液室7の側壁の中心線L1と開口部7aとの位置関係を示す図である。図6において、ハウジング2は、血液室7の側壁の中心線L1と直交し、かつ血液流出ポート5の孔の中心線を含む平面で切断されている。血液室7の側壁は、その平面上の円Cに沿って形成されている。円Cの中心点は、その平面と血液室7の側壁の中心線L1との交点である。血液流出ポート5の孔は、円Cの接線方向に延在している。図6では、インペラ10は時計の針の回転方向に回転し、血液もその方向に回転する。血液流出ポート5の孔と円Cの接点Pは、血液室7の側壁の開口部7aの上流側(図6中の左側)の端に位置している。
【0046】
ここで、円Cの中心点(血液室7の側壁の中心線L1)から見て接点P(開口部7aの上流側の端部)の方向を0度とし、その反対方向を180度とする。インペラ10の浮上位置は、血液の流体力、動圧軸受の動圧力、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力、インペラ10側の永久磁石とモータ側の磁性体との吸引力などのバランスによって決定される。この実施の形態1では、インペラ10の傾斜を抑制するために、開口部7a側(永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内)における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定される。ここで、A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。好ましくは、A度は60度である。
【0047】
図7(a)(b)は永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であり、図7(a)は図7(b)のVIIA−VIIA線断面図である。図7(a)(b)では、血液室7の円筒状の側壁の中心線L1と、インペラ10の回転中心線L2とが一致している状態が示されている。永久磁石15a,15bの各々は円環状に形成されており、永久磁石15aの外径は永久磁石15bの内径よりも小さい。永久磁石15a,15bは同軸状に設けられており、永久磁石15a,15bの中心点は、ともにインペラ10の回転中心線L2に配置されている。永久磁石15a,15bのN極は同じ方向に向けられている。
【0048】
一方、永久磁石16a,16bの各々も円環状に形成されている。永久磁石16aの外径および内径は、永久磁石15aの外径および内径と同じである。永久磁石16bの外径および内径は、永久磁石15bの外径および内径と同じである。永久磁石16a,16bは同軸状に設けられており、永久磁石16a,16bの中心点は、ともに血液室7の円筒状の側壁の中心線L1に配置されている。永久磁石16a,16bのN極は同じ方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。
【0049】
また、図6で説明したように、開口部7a側(0度±A度の範囲)における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくするため、開口部7a側(0度±A度の範囲)における永久磁石16a,16bの厚みを薄くしている。ここで、A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。好ましくは、A度は60度である。
【0050】
換言すると、永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内において、永久磁石16a,16bの裏面(永久磁石15a,15bと対向する表面の反対側の面)に所定深さの凹部が形成されている。これにより、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくし、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができ、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができる。
【0051】
また、図3に示すように、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)D1は、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の2分の1の距離D2よりも大きく設定されている(D1>D2)。これは、D1<D2とした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0052】
また、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。
【0053】
なお、シュラウド11および血液室7の内壁にそれぞれ永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16bを設ける代わりに、シュラウド11および血液室7の内壁の一方に永久磁石を設け、他方に磁性体を設けてもよい。また、磁性体としては軟質磁性体と硬質磁性体のいずれを使用してもよい。
【0054】
また、図7(a)(b)では、永久磁石15aと16aの対向面のサイズが同じであり、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズが同じである場合が示されているが、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力に起因するインペラ10の剛性の低下を防ぐため、永久磁石15aと16aの対向面のサイズを異ならせ、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズを異ならせてもよい。永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面のサイズを異ならせることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化量、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ10の支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0055】
また、図7(a)(b)では、永久磁石15a,15b,16a,16bの各々を円環状に形成したが、永久磁石15a,15bの各々を円環状に形成するとともに、永久磁石16a,16bの各々を円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で2つ配列してもよい。逆に、永久磁石16a,16bの各々を円環状に形成するとともに、永久磁石15a,15bの各々を円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で2つ配列してもよい。また、永久磁石15a,15bの各々、あるいは永久磁石16a,16bの各々をさらに短い円弧状に形成してインペラ10の回転方向に等角度間隔で複数配列してもよい。
【0056】
また、図3および図4に示すように、シュラウド12には複数(たとえば8個)の永久磁石17が埋設されている。複数の永久磁石17は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、モータ室8側にN極を向けた永久磁石17と、モータ室8側にS極を向けた永久磁石17とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0057】
また、図3および図10に示すように、モータ室8内には、複数(たとえば9個)の磁性体18が設けられている。複数の磁性体18は、インペラ10の複数の永久磁石17に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。複数の磁性体18の基端は、円板状の1つの継鉄19に接合されている。各磁性体18には、コイル20が巻回されている。
【0058】
9個のコイル20には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル20は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル20には、図11に示すような電圧VU,VV,VWが印加される。第1のコイル20には、0〜120度の期間に正電圧が印加され、120〜180度の期間に0Vが印加され、180〜300度の期間に負電圧が印加され、300〜360度の期間に0Vが印加される。したがって、第1のコイル20が巻回された磁性体18の先端面(インペラ10側の端面)は、0〜120度の期間にN極になり、180〜300度の期間にS極になる。電圧VVの位相は電圧VUよりも120度遅れており、電圧VWの位相は電圧VVよりも120度遅れている。したがって、第1〜第3のコイル20にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体18とインペラ10の複数の永久磁石17との吸引力および反発力により、インペラ10を回転させることができる。複数のコイル20によって生成される回転磁界の中心線は、血液室7の円筒状の側壁の中心線L1と一致している。
【0059】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石17および複数の磁性体18間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。したがって、インペラ10とハウジング2との相対すべりによって溶血が発生したり、相対すべり時に発生したわずかな表面損傷(凹凸)によって血栓が発生することもない。
【0060】
また、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には複数の動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には複数の動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0061】
詳しく説明すると、複数の動圧溝21は、図8に示すように、インペラ10のシュラウド12に対応する大きさに形成されている。各動圧溝21は、隔壁6の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)隔壁6の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝21は略同じ形状であり、かつ略同じ間隔に配置されている。動圧溝21は凹部であり、動圧溝21の深さは0.005〜0.4mm程度であることが好ましい。動圧溝21の数は、6〜36個程度であることが好ましい。
【0062】
図8では、10個の動圧溝21がインペラ10の中心軸に対して等角度で配置されている。動圧溝21は、いわゆる内向スパイラル溝形状となっているので、インペラ10が時計方向に回転すると、動圧溝21の外径部から内径部に向けて液体の圧力が高くなる。このため、インペラ10と隔壁6の間に反発力が発生し、これが動圧力となる。
【0063】
このように、インペラ10と複数の動圧溝21の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は隔壁6から離れ、非接触状態で回転する。このため、インペラ10と隔壁6の間に血液流路が確保され、両者間での血液滞留およびそれに起因する血栓の発生が防止される。さらに、通常状態において、動圧溝21が、インペラ10と隔壁6の間において撹拌作用を発揮するので、両者間における部分的な血液滞留の発生を防止することができる。
【0064】
なお、動圧溝21を隔壁6に設ける代わりに、動圧溝21をインペラ10のシュラウド12の表面に設けてもよい。
【0065】
また、動圧溝21の角の部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0066】
また、複数の動圧溝22は、図9に示すように、複数の動圧溝21と同様、インペラ10のシュラウド11に対応する大きさに形成されている。各動圧溝22は、血液室7の内壁の中心から若干離間した円形部分の周縁(円周)上に一端を有し、渦状に(換言すれば、湾曲して)血液室7の内壁の外縁付近まで、幅が徐々に広がるように延びている。また、複数の動圧溝22は、略同じ形状であり、かつ略同じ間隔で配置されている。動圧溝22は凹部であり、動圧溝22の深さは0.005〜0.4mm程度があることが好ましい。動圧溝22の数は、6〜36個程度であることが好ましい。図9では、10個の動圧溝22がインペラ10の中心軸に対して等角度に配置されている。
【0067】
インペラ10と複数の動圧溝22の間に形成される動圧軸受効果により、インペラ10は血液室7の内壁から離れ、非接触状態で回転する。また、ポンプ部1が外的衝撃を受けたときや、動圧溝21による動圧力が過剰となったときに、インペラ10の血液室7の内壁への密着を防止することができる。動圧溝21によって発生する動圧力と動圧溝22によって発生する動圧力は異なるものとなっていてもよい。
【0068】
なお、動圧溝22は、血液室7の内壁側ではなく、インペラ10のシュラウド11の表面に設けてもよい。また、動圧溝22の角となる部分は、少なくとも0.05mm以上のRを持つように丸められていることが好ましい。これにより、溶血の発生をより少なくすることができる。
【0069】
また、インペラ10のシュラウド12と隔壁6との隙間と、インペラ10のシュラウド11と血液室7の内壁との隙間とが略同じ状態でインペラ10が回転することが好ましい。インペラ10に作用する流体力などの外乱が大きく、一方の隙間が狭くなる場合には、その狭くなる側の動圧溝による動圧力を他方の動圧溝による動圧力よりも大きくし、両隙間を略同じにするため、動圧溝21と22の形状を異ならせることが好ましい。
【0070】
また、図8および図9では、動圧溝21,22の各々を内向スパイラル溝形状としたが、他の形状の動圧溝21,22を使用することも可能である。ただし、血液を循環させる場合は、血液をスムーズに流すことが可能な内向スパイラル溝形状の動圧溝21,22を採用することが好ましい。
【0071】
図12は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間(図12では永久磁石15,16間と略記する)の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置以外の位置P1でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。ただし、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0072】
すなわち、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1が永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2よりも小さく設定され、それらの合力がゼロとなるインペラ10の浮上位置はインペラ可動範囲の中間よりも隔壁6側にあるものとする。動圧溝21,22の形状は同じである。
【0073】
図12の横軸はインペラ10の位置(図中の左側が隔壁6側)を示し、縦軸はインペラ10に対する作用力を示している。インペラ10への作用力が隔壁6側に働くとき、その作用力をマイナスとしている。インペラ10に対する作用力としては、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、動圧溝21の動圧力F3と、動圧溝22の動圧力F4と、それらの合力である「インペラに作用する正味の力F5」を示した。
【0074】
図12から分かるように、インペラ10に作用する正味の力F5がゼロとなる位置で、インペラ10の浮上位置はインペラ10の可動範囲の中央位置から大きくずれている。その結果、回転中のインペラ10と隔壁6の間の距離は狭まり、インペラ10に対して小さな外乱力が作用してもインペラ10は隔壁6に接触してしまう。
【0075】
これに対して図13は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整した場合にインペラ10に作用する力を示す図である。この場合も、インペラ10の回転数は定格値に保たれている。
【0076】
すなわち、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは略同じに設定されている。また、動圧溝21,22の形状は同じにされている。この場合は、図12の場合と比較して、インペラ10の浮上位置に対する支持剛性が高くなる。また、インペラ10に作用する正味の力F5は可動範囲の中央でゼロとなっているので、インペラ10に対し外乱力が作用しない場合にはインペラ10は中央位置で浮上する。
【0077】
このように、インペラ10の浮上位置は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2と、インペラ10の回転時に動圧溝21,22で発生する動圧力F3,F4との釣り合いで決まる。F1とF2を略同じにし、動圧溝21,22の形状を同じにすることにより、インペラ10の回転時にインペラ10を血液室7の略中央部で浮上させることが可能となる。図3および図4に示すように、インペラ10は2つのディスク間に羽根を形成した形状を有するので、ハウジング2の内壁に対向する2つの面を同一形状および同一寸法にすることができる。したがって、略同一の動圧性能を有する動圧溝21,22をインペラ10の両側に設けることは可能である。
【0078】
この場合、インペラ10は血液室7の中央位置で浮上するので、インペラ10はハウジング2の内壁から最も離れた位置に保持される。その結果、インペラ10の浮上時にインペラ10に外乱力が印加されて、インペラ10の浮上位置が変化しても、インペラ10とハウジング2の内壁とが接触する可能性が小さくなり、それらの接触によって血栓や溶血が発生する可能性も低くなる。
【0079】
なお、図12および図13の例では、2つの動圧溝21,22の形状は同じであるとしたが、動圧溝21,22の形状を異なるものとし、動圧溝21,22の動圧性能を異なるものとしてもよい。たとえば、ポンピングの際に流体力などによってインペラ10に対して常に一方方向の外乱が作用する場合には、その外乱の方向にある動圧溝の性能を他方の動圧溝の性能より高めておくことにより、インペラ10をハウジング2の中央位置で浮上回転させることが可能となる。この結果、インペラ10とハウジング2との接触確率を低く抑えることができ、インペラ10の安定した浮上性能を得ることができる。
【0080】
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向への負の支持剛性値の絶対値をKaとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値をKrとし、インペラ10が回転する常用回転数領域において2つの動圧溝21,22で得られる正の剛性値の絶対値をKgとすると、Kg>Ka+Krの関係を満たすことが好ましい。
【0081】
具体的には、アキシアル方向の負の剛性値の絶対値Kaを20000N/mとし、ラジアル方向の正の剛性値の絶対値Krを10000N/mとした場合、インペラ10が通常回転する回転数領域で2つの動圧溝21,22によって得られる正の剛性値の絶対値Kgは30000N/mを超える値に設定される。
【0082】
インペラ10のアキシアル支持剛性は動圧溝21,22で発生する動圧力に起因する剛性から磁性体間の吸引力などによる負の剛性を引いた値であるから、Kg>Ka+Krの関係を持つことで、インペラ10のラジアル方向の支持剛性よりもアキシアル方向の支持剛性を高めることができる。このように設定することにより、インペラ10に対して外乱力が作用した場合に、インペラ10のラジアル方向への動きよりもアキシアル方向への動きを抑制することができ、動圧溝21の形成部でのインペラ10とハウジング2との機械的な接触を避けることができる。
【0083】
特に、動圧溝21,22は、図3、図8および図9で示したように平面に凹設されているので、インペラ10の回転中にこの部分でハウジング2とインペラ10との機械的接触があると、インペラ10およびハウジング2の内壁のいずれか一方または両方の表面に傷(表面の凹凸)が生じてしまい、この部位を血液が通過すると、血栓発生および溶血の原因となる可能性もあった。この動圧溝21,22での機械的接触を防ぎ、血栓および溶血を抑制するために、ラジアル方向の剛性よりもアキシアル方向の剛性を高める効果は高い。
【0084】
また、インペラ10にアンバランスがあると回転時にインペラ10に振れ回りが生ずるが、この振れ回りはインペラ10の質量とインペラ10の支持剛性値で決定される固有振動数とインペラ10の回転数が一致した場合に最大となる。
【0085】
このポンプ部1では、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性よりもラジアル方向の支持剛性を小さくしているので、インペラ10の最高回転数をラジアル方向の固有振動数以下に設定することが好ましい。そこで、インペラ10とハウジング2との機械的接触を防ぐため、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によって構成されるインペラ10のラジアル剛性値をKr(N/m)とし、インペラ10の質量をm(kg)とし、インペラの回転数をω(rad/s)とした場合、ω<(Kr/m)0.5の関係を満たすことが好ましい。
【0086】
具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合、インペラ10の最高回転数は258rad/s(2465rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)と設定した場合には、ラジアル剛性は4018N/m以上に設定される。
【0087】
さらに、このωの80%以下にインペラ10の最高回転数を設定することが好ましい。具体的には、インペラ10の質量が0.03kgであり、ラジアル剛性値が2000N/mである場合には、その最高回転数は206.4rad/s(1971rpm)以下に設定される。逆に、インペラ10の最高回転数を366rad/s(3500rpm)としたい場合には、ラジアル剛性値が6279N/m以上に設定される。このようにインペラ10の最高回転数を設定することで、インペラ10の回転中におけるインペラ10とハウジング2の接触を抑えることができる。
【0088】
また、インペラ10の回転起動前に、インペラ10が隔壁6に接触していることを確認してから、インペラ10を回転起動させることが好ましい。
【0089】
すなわち、インペラ10の非回転時では、動圧溝21,22による非接触支持はされず、さらに、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2によってインペラ10とハウジング2とは高い面圧で接触している。また、このポンプ部1のように、インペラ10をモータ室8内のコイル20および磁性体18とインペラ10の永久磁石17との磁気的相互作用で回転させる場合は、特許文献2の図3に示すようなインペラを永久磁石間の磁気カップリングで回転駆動させる場合に比べて、起動トルクが小さい。したがって、インペラ10をスムーズに回転起動させることは難しい。
【0090】
しかし、インペラ10のシュラウド12が隔壁6と接触している場合は、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合に比べ、インペラ10の永久磁石17とモータ室8内の磁性体18とが近接しているので、インペラ10の起動時の回転トルクを高めることができ、インペラ10をスムーズに回転起動させることができる。
【0091】
ところが、上述の通り、インペラ10の回転時には、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とは、インペラ10の位置がインペラ10の可動範囲の中央付近にて釣り合うように設定されているので、インペラ10の停止時にインペラ10が必ずしも隔壁6に接触しているとは限らない。
【0092】
そこで、この遠心式血液ポンプ装置では、インペラ10を回転起動させる前にインペラ10を隔壁6側に移動させる手段が設けられる。具体的には、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が大きくなるように複数のコイル20に電流を流し、インペラ10を隔壁6側に移動させる。
【0093】
図14は、ポンプ部1を制御するコントローラ25の構成を示すブロック図である。図14において、コントローラ25は、モータ制御回路26およびパワーアンプ27を含む。モータ制御回路26は、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を出力する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図9で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図11で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。通常の運転時は、これにより、インペラ10が可動範囲の中央位置で所定の回転数で回転する。
【0094】
図15(a)〜(c)は、インペラ10の回転起動時におけるコイル電流I、インペラ10の位置、およびインペラ10の回転数の時間変化を示すタイムチャートである。図15(a)〜(c)において、初期状態では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力によってインペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。この状態では、インペラ10が回転し難いので、インペラ10のシュラウド12が隔壁6に接触した位置PBにインペラ10を移動させる。
【0095】
時刻t0において、図11で示される6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWのうちのいずれかのパターンの電圧を第1〜第3のコイル20に印加し、予め定められた電流I0をコイル20に流す。コイル20に電流I0を流すと、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2が永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1よりも大きくなり、インペラ10はほとんど回転することなく隔壁6側の位置PBに移動し、インペラ10のシュラウド12は隔壁6に接触する。インペラ10が位置PBに移動したら、電流I0を遮断する(時刻t1)。
【0096】
なお、インペラ10を回転させずに移動させるのは、インペラ10を回転させながら隔壁6側の位置PBに移動させようとしても、動圧溝21の動圧軸受効果によってインペラ10の移動が妨げられるからである。また、インペラ10の血液室7内の位置を検出するセンサを設け、インペラ10が隔壁6に接触したことを確認した後に、電流I0を遮断することが好ましい。
【0097】
次に、図10および図11で説明した第1〜第3のコイル20に3相電圧VU,VV,VWを印加し、コイル電流Iを予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このとき、インペラ10は隔壁6に接触しているので、インペラ10はスムーズに回転する。コイル電流Iの上昇に伴って、インペラ10は隔壁6側の位置PBから可動範囲の中央位置に移動する。
【0098】
なお、起動時に6パターン(0〜60度,60〜120度,…,300〜360度)の電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に印加した場合、永久磁石17と磁性体18の吸引力が最大になるパターンは永久磁石17と磁性体18の位置関係によって異なる。したがって、起動時に一定パターンの電圧VU,VV,VWのみを第1〜第3のコイル20に印加する代わりに、6パターンの電圧VU,VV,VWを第1〜第3のコイル20に一定時間ずつ順次印加してもよい。この場合、インペラ10は僅かに回転して(厳密には1/4回転以下、すなわち電気角で360度以下回転して)、隔壁6側の位置PBに移動する。
【0099】
また、6パターンの電圧VU,VV,VWを印加すると、第1〜第3のコイル20のうちのいずれかのコイル20には電流は流れず、9個の磁性体18のうちの6個の磁性体がN極またはS極になり、残りの3個の磁性体18には磁極は発生しない。したがって、第1〜第3のコイル20の全てに電流が流れ、9個の磁性体18の各々がN極またはS極になるような電圧を第1〜第3のコイル20に印加して、永久磁石17と磁性体18の吸引力を強めてもよい。
【0100】
この実施の形態1では、血液室7の側壁の開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくしたので、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができる。このため、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができ、インペラを安定に浮上させることができ、溶血や血栓の発生を防止することができる。
【0101】
以下、実施の形態1の種々の変更例について説明する。図16の変更例では、インペラ10の回転起動時とそれ以降で電源が切り換えられる。すなわち図16において、この変更例では、図14のパワーアンプ27がパワーアンプ30,31および切換スイッチ32で置換される。図15の時刻t0〜t1では、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ30に与えられ、パワーアンプ30の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流I0が流される。時刻t2以降は、モータ制御回路26の出力信号がパワーアンプ31に与えられ、パワーアンプ31の出力電圧が切換スイッチ32を介してコイル20に印加され、コイル20に電流が流される。
【0102】
また、図17(a)〜(c)は、この実施の形態1の他の変更例を示すタイムチャートである。図17(a)〜(c)において、初期状態では、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触しており、インペラ10は位置PAにあるものとする。時刻t0において、予め定められた電流I1がコイル20に流される。すなわち、モータ制御回路26により、たとえば120度通電方式の3相の制御信号を生成する。パワーアンプ27は、モータ制御回路26からの3相の制御信号を増幅して、図11で示した3相電圧VU,VV,VWを生成する。3相電圧VU,VV,VWは、図10で説明した第1〜第3のコイル20にそれぞれ印加される。
【0103】
したがって、この電流I1によってインペラ10に回転磁界が印加される。この電流I1は、図15の電流I0よりも大きい電流であり、インペラ10のシュラウド11が血液室7の内壁に接触している場合でもインペラ10を回転起動させることが可能な電流である。回転起動が確認された後、コイル電流Iを低下させ、予め定められた定格値まで徐々に上昇させる。このようにインペラ10が位置PA側にあった場合でも、インペラ10の回転起動時のみにコイル20に過大電流を流すように構成してもよい。
【0104】
また、血液室7の内壁の表面および隔壁6の表面と、インペラ10の表面との少なくとも一方にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を形成してもよい。これにより、インペラ10と血液室7の内壁および隔壁6との摩擦力を軽減し、インペラをスムーズに回転起動することが可能になる。なお、ダイヤモンドライクカーボン膜の代わりに、フッ素系樹脂膜、パラキシリレン系樹脂膜などを形成してもよい。
【0105】
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および磁性体18間の吸引力F2とによって構成されるインペラ10のアキシアル方向の負の剛性値よりも動圧溝21,22の動圧力による剛性が大きくなった場合にインペラ10とハウジング2は非接触の状態となる。したがって、この負の剛性値を極力小さくすることが好ましい。そこで、この負の剛性値を小さく抑えるため、永久磁石15aと16aの対向面のサイズを異ならせ、かつ永久磁石15bと16bの対向面のサイズを異ならせることが好ましい。たとえば、図18に示すように、永久磁石15a,15bのサイズをそれぞれ永久磁石16a,16bよりも小さくすることにより、両者間の距離によって変化する吸引力の変化割合、すなわち負の剛性を小さく抑えることができ、インペラ支持剛性の低下を防ぐことができる。
【0106】
また、図19は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図19において、この変更例では、各磁性体18の永久磁石17に対向する先端面に磁性体35が設けられる。この磁性体35の永久磁石17に対向する表面の面積は磁性体18の先端面の面積よりも大きい。この変更例では、永久磁石17に対する磁性体18,35の吸引力を大きくすることができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0107】
また、図20は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図20において、この変更例では、継鉄19が継鉄36で置換され、磁性体18が磁性体37で置換される。継鉄36および磁性体37の各々は、インペラ10の回転軸の長さ方向に積層された複数の鋼板を含む。この変更例では、継鉄36および磁性体37で発生する渦電流損失を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0108】
また、図21に示すように、インペラ10の回転方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体38で磁性体37を置換してもよい。また、図22に示すように、インペラ10の径方向に積層された複数の鋼板を含む磁性体39で磁性体37を置換してもよい。これらの場合でも、図20の変更例と同じ効果が得られる。
【0109】
また、図3の継鉄19および磁性体18の各々を、純鉄、軟鉄、または珪素鉄の粉末によって形成してもよい。この場合は、継鉄19および磁性体18の鉄損を軽減することができ、インペラ10の回転駆動におけるエネルギ効率を高めることができる。
【0110】
また、図23は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す断面図であって、図3と対比される図である。図23において、この変更例では、磁性体18が除去されている。この変更例では、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力F1と、永久磁石17および継鉄19間の吸引力F2との合力の大きさが、インペラ10の血液室7内の可動範囲の中央位置P0でゼロとなるように調整される。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0111】
また、図24(a)(b)は、この実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。図24(a)は図24(b)のXXIVA−XXIVA線断面図である。この変更例では、永久磁石15aのN極と永久磁石15bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極とは逆向きに設けられる。永久磁石15aのS極と永久磁石16aのN極とは対向し、永久磁石15bのN極と永久磁石16bのS極とは対向している。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0112】
また、図25(a)(b)は実施の形態1の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図25(a)は、図25(b)のXXVA−XXVA線断面図である。図25(a)(b)において、この変更例では、永久磁石16a,16bの中心から見て0度±A度の範囲内において、円環状の永久磁石16aのうちの開口部7a側の端部が中心線L1に平行な平面によって切除されている。また、永久磁石16a,16bの中心から見て0度±B度の範囲内において、円環状の永久磁石16bのうちの開口部7a側の端部が中心線L1に平行な平面によって切除されている。A度およびB度の各々は、0度よりも大きな所定の角度である。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)よりも小さくなっている。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0113】
また、図26(a)(b)は実施の形態1の他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図26(a)は、図26(b)のXXVIA−XXVIA線断面図である。図26(a)(b)において、この変更例では、永久磁石16a,16bの中心から見て0度±A度の範囲内において、円環状の永久磁石16a,16bのうちの扇形の部分が切除されている。A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度であり、好ましくは60度である。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの対向面積(すなわち吸引力)よりも小さくなっている。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0114】
また、図27(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図27(a)は、図27(b)のXXVIIA−XXVIIA線断面図である。図27(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石16a,16bの外周の全周に渡って面取り加工を施している。面取り加工は、永久磁石16a,16bのうちの永久磁石15a,15bと対向する面側のみに施してもよいし、永久磁石15a,15bと対向する面と反対側の面のみに施してもよいし、永久磁石16a,16bの両面に施してもよい。面取りの大きさも特に制限するものではない。
【0115】
図28(a)(b)は、インペラ10が回転し、吐出流量の増加に伴って、インペラ10が開口部7a側(0度方向)に移動した場合における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を示す図である。また図28(a)は、図28(b)のXXVIIIA−XXVIIIA線断面図である。インペラ10が開口部7a側に移動すると、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L1との位置関係にずれが生じる。ここで永久磁石15a,15bの形状と永久磁石16a,16bの形状が同じであれば、中心線L1,L2がずれても、開口部7a側の吸引力と開口部7aの反対側の吸引力とのアンバランスは発生しない。この変更例では、永久磁石16a,16bの外周のみに面取り加工を施したので、中心線L1,L2がずれると開口部7a側の吸引力が開口部7aの反対側の吸引力よりも小さくなり、インペラ10の傾斜が抑制される。
【0116】
また、図29(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図29(a)は、図29(b)のXXIXA−XXIXA線断面図である。図29(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石15a,15bの内周の全周に渡って面取り加工を施している。面取り加工は、永久磁石15a,15bのうちの永久磁石16a,16bと対向する面側のみに施してもよいし、永久磁石16a,16bと対向する面と反対側の面のみに施してもよいし、永久磁石15a,15bの両面に施してもよい。面取りの大きさも特に制限するものではない。
【0117】
図30(a)(b)は、インペラ10が回転し、吐出流量の増加に伴って、インペラ10が開口部7a側(0度方向)に移動した場合における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力を示す図である。また図30(a)は、図30(b)のXXXA−XXXA線断面図である。インペラ10が開口部7a側に移動すると、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L1との位置関係にずれが生じる。ここで永久磁石15a,15bの形状と永久磁石16a,16bの形状が同じであれば、中心線L1,L2がずれても、開口部7a側の吸引力と開口部7aの反対側の吸引力とのアンバランスは発生しない。この変更例では、永久磁石15a,15bの内周のみに面取り加工を施したので、中心線L1,L2がずれると開口部7a側の吸引力が開口部7aの反対側の吸引力よりも小さくなり、インペラ10の傾斜が抑制される。
【0118】
また、図31(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。また図31(a)は、図31(b)のXXXIA−XXXIA線断面図である。図31(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石16a,16bの厚さは一定である。永久磁石16a,16bのN極は同じ方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。永久磁石16a,16bの中心点から見て0度±A度の範囲内において、永久磁石16a,16bのうちの永久磁石15a,15bと対向する面の反対側の面を覆うように扇形の磁性体28が設けられている。A度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度であり、好ましくは60度である。磁性体28は、永久磁石16a,16bに吸引されている。磁性体28が設けられた領域において、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が小さくなる。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくなる。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0119】
また、図32(a)(b)は実施の形態1のさらに他の変更例を示す図であって、図31(a)(b)と対比される図である。また図32(a)は、図32(b)のXXXIIA−XXXIIA線断面図である。図32(a)(b)において、この変更例では、円環状の永久磁石16a,16bの厚さは一定である。永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極は反対方向に向けられている。永久磁石15a,15bのS極と永久磁石16a,16bのN極とは、互いに対向している。永久磁石16a,16bの中心点から180度の方向を見て±E度の範囲内において、永久磁石16a,16bのうちの永久磁石15a,15bと対向する面の反対側の面を覆うように扇形の磁性体28が設けられている。E度は、0度よりも大きく180度よりも小さな所定の角度である。磁性体28は、永久磁石16a,16bに吸引されている。磁性体28が設けられた領域において、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が大きくなる。このため、開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さくなる。この変更例でも、実施の形態1と同じ効果が得られる。
【0120】
[実施の形態2]
図33は、この発明の実施の形態2による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。図33において、永久磁石15a,15b,16a,16bの形状は、実施の形態1と同じである。このポンプ部では、インペラ10のシュラウド12に複数の永久磁石17の代わりに複数(たとえば8個)の永久磁石40が埋設されている。複数の永久磁石40は、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。モータ室8内には、複数の永久磁石40を吸引するための複数(たとえば8個)の永久磁石41が設けられている。複数の永久磁石41は、インペラ10の複数の永久磁石40に対向して、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。
【0121】
複数の永久磁石41は、椀状のロータ42の表面に設けられている。ロータ42の縁の内側には、複数(たとえば8個)の永久磁石43が等角度間隔で設けられている。複数の永久磁石43は、隣接する磁極が互いに異なるようにして、等角度間隔で同一の円に沿って配置される。換言すれば、ロータ42の内側にN極を向けた永久磁石43と、ロータ42の内側にS極を向けた永久磁石43とが等角度間隔で同一の円に沿って交互に配置されている。
【0122】
ロータ42の中央部はベアリング44を介して中心軸45に回転可能に支持されており、ロータ42は隔壁6に沿って回転可能に設けられている。ロータ42の回転中心線は、血液室7の側壁の中心線L1に一致している。中心軸45は、円板状の継鉄46の中央に立設されている。継鉄46の表面において中心軸45の周りには、複数(たとえば9個)の磁性体47が等角度間隔で設けられている。複数の磁性体47の先端は、ロータ42の複数の永久磁石43に対向して、同一の円に沿って配置される。各磁性体47には、コイル48が巻回されている。複数の永久磁石43、複数の磁性体47、および複数のコイル48は、ロータ42を回転させるためのモータを構成する。
【0123】
9個のコイル48には、たとえば120度通電方式で電圧が印加される。すなわち、9個のコイル48は、3個ずつグループ化される。各グループの第1〜第3のコイル48には、図9で示した電圧VU,VV,VWが印加される。したがって、第1〜第3のコイル48にそれぞれ電圧VU,VV,VWを印加することにより、回転磁界を形成することができ、複数の磁性体47とロータ42の複数の永久磁石43との吸引力および反発力により、ロータ42を回転させることができる。ロータ42が回転すると、ロータ42の複数の永久磁石43とインペラ10の複数の永久磁石40との吸引力により、インペラ10が回転する。
【0124】
ここで、インペラ10が定格回転数で回転している場合は、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石40および複数の永久磁石41間の吸引力とは、血液室7内におけるインペラ10の可動範囲の略中央付近で釣り合うようにされている。このため、インペラ10のいかなる可動範囲においてもインペラ10への吸引力による作用力は非常に小さい。その結果、インペラ10の回転起動時に発生するインペラ10とハウジング2との相対すべり時の摩擦抵抗を小さくすることができる。また、相対すべり時におけるインペラ10とハウジング2の内壁の表面の損傷(表面の凹凸)はなく、さらに低速回転時の動圧力が小さい場合にもインペラ10はハウジング2から浮上し易くなり、非接触の状態となる。
【0125】
また、実施の形態1と同様、インペラ10のシュラウド12に対向する隔壁6の表面には動圧溝21が形成され、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には動圧溝22が形成されている。インペラ10の回転数が所定の回転数を超えると、動圧溝21,22の各々とインペラ10との間に動圧軸受効果が発生する。これにより、動圧溝21,22の各々からインペラ10に対して抗力が発生し、インペラ10は血液室7内で非接触状態で回転する。
【0126】
また、実施の形態1と同様に、血液室7の側壁の開口部7a側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力が、開口部7aの反対側における永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの吸引力よりも小さく設定される。したがって、回転時においてインペラ10を隔壁6に平行にすることができ、インペラ10が血液室7の内壁に接触するのを防止することができる。
【0127】
また、永久磁石15a,15bおよび永久磁石16a,16b間の吸引力と複数の永久磁石40および複数の永久磁石41間の吸引力とを釣り合わせ、動圧溝21,22を設けたので、インペラ10のアキシアル方向の支持剛性を大きくすることができる。また、インペラ10の径方向に2対の永久磁石15a,16aおよび永久磁石15b,16bを設けたので、インペラ10の径方向に1対の永久磁石のみを設けた場合に比べ、インペラ10のラジアル方向の支持剛性を大きくすることができる。したがって、インペラ10とハウジング2との機械的な接触を少なくすることができ、溶血や血栓の発生を防止することができる。
【0128】
[実施の形態3]
図34は、この発明の実施の形態3による遠心式血液ポンプ装置のポンプ部の構成を示す断面図であって、図3と対比される図である。図35は、図34のXXXV−XXXV線断面図であって、図4と対比される図である。図36(a)(b)は、永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であって、図7(a)(b)と対比される図である。
【0129】
図34および図35において、シュラウド11には永久磁石15a,15bが埋設されており、シュラウド11に対向する血液室7の内壁には、それぞれ永久磁石15a,15bを吸引する永久磁石16a,16bが埋設されている。永久磁石15a,15b,16a,16bは、インペラ10をモータ室8と反対側、換言すれば血液流入ポート4側に吸引(換言すれば、付勢)するために設けられている。また、インペラ10を回転させるとインペラ10が開口部7a側に吸引されるので、インペラ10を開口部7aと反対側に吸引(換言すれば、付勢)するために、血液室7の内壁の中心線L1から見て開口部7aの反対側に永久磁石16a,16bの中心線L3が配置されている。
【0130】
図36(a)(b)は永久磁石15a,15b,16a,16bの構成を示す図であり、図36(a)は図36(b)のXXXVIA−XXXVIA線断面図である。図36(a)(b)では、インペラ10が回転されず、永久磁石15a,15bが永久磁石16a,16bに吸引された状態が示されている。この状態では、永久磁石15a,15bの中心線(すなわち、インペラ10の中心線)L2と永久磁石16a,16bの中心線L3は一致している。永久磁石15a,15b,16a,16bの形状は、実施の形態1と同じである。永久磁石16a,16bの中心線L3は、血液室7の内壁の中心線L1と所定距離Rだけ離間している。
【0131】
ここで、永久磁石16a,16bの中心線L3を血液室7の内壁の中心線L1から離間させている理由について詳説する。この遠心式血液ポンプ装置のように、実質的にボリュートを備えないポンプ装置では、血液室7内において圧力バランスに不平衡が生じると、インペラ10が血液室7内の圧力バランスに従って径方向に移動してしまう。具体的には、血液室7内で圧力が低い開口部7aに向かって、インペラ10の回転中心線L2が移動する。
【0132】
図37に示すように、ポンプ装置の吐出流量が多いほど、血液室7内の圧力バランスの不平衡が大きくなり、インペラ10の径方向移動量は大きくなる。また、図38に示すように、インペラ10の径方向の移動量が増加すると、磁気カップリングのラジアル剛性は低下する。このため、インペラ10の回転中心線L2と血液室7の側壁の中心線L1とが一致しない状況では、ラジアル方向の小さな外乱を受けることでインペラ10の位置が変動し、血液室7の側壁とインペラ10の側面が接触する可能性がある。また、血液室7の側壁とインペラ10の側面が接触しなくても、それらの隙間が狭くなった部分で、血液中の赤血球が壊れる溶血が生じる可能性もある。
【0133】
また、開口部7a付近では圧力勾配が大きく、かつ圧力が低くなるため、インペラ10が開口部7aに近づけば近づくほど開口部7aに引き込まれてしまう。一方で、ポンプ動作時のインペラ10には、インペラ10から血液への水力エネルギー付与のため軸トルクが負荷として作用し、その軸トルクは回転数の上昇とともに増加する。また図39に示すように、インペラ10の径方向移動量が増加すると、磁気カップリングの最大伝達トルクが低下する。そのため、磁気カップリングの最大伝達トルクがインペラ10に作用する軸トルクより低下した場合にカップリング脱調が発生する恐れがある。
【0134】
図40は、血液室7の側壁の中心線L1と永久磁石16a,16bの中心線L3を一致させた遠心式血液ポンプ装置において、吐出流量と、インペラ10の回転中心線L2の移動方向および移動量との関係を示す図である。図40では、血液室7の側壁の中心線L1と永久磁石16a,16bの中心線L3を原点に配置し、開口部7aの上流側の端部の方向をY方向としている。この図40から、インペラ10の回転中心線L2は、吐出流量の増加に伴い、開口部7aの上流側の端部に吸い寄せられるように移動することが分かる。
【0135】
そこで、この実施の形態3では、インペラ10を定格回転数で回転させた場合に、インペラ10の回転中心線L2と血液室7の側壁の中心線L1とが一致するように、血液室7の側壁の中心線L1から見て開口部7aの反対側に永久磁石16a,16bの中心線L3を配置し、インペラ10を開口部7aと反対側に吸引(換言すれば、付勢)している。中心線L1,L3の間隔Rは、運転条件に応じて設定する。すなわち、インペラ10を定格回転数で回転させたときの吐出流量から変位量を図40から読み取り、その変位量に中心線L1,L3の間隔Rを設定すればよい。中心線L1,L3の間隔(偏心量)は、ポンプの大きさなどにより相違するが、0.1〜1.0mmが好適である。これにより、インペラ10を定格回転数で回転させた場合に、インペラ10の回転中心線L2と血液室7の側壁の中心線L1とが一致する。
【0136】
図41は、血液室7の内壁の中心線L1と永久磁石16a,16bの中心線L3との位置関係を示す図である。図41において、ハウジング2は、血液室7の側壁の中心線L1と直交し、かつ血液流出ポート5の孔の中心線を含む平面で切断されている。血液室7の側壁は、その平面上の円Cに沿って形成されている。円Cの中心点は、その平面と血液室7の側壁の中心線L1との交点である。血液流出ポート5の孔は、円Cの接線方向に延在している。図41では、インペラ10は時計の針の回転方向に回転し、血液もその方向に回転する。血液流出ポート5の孔と円Cの接点Pは、血液室7の側壁の開口部7aの上流側(図41中の左側)の端に位置している。
【0137】
円Cの中心点(血液室7の側壁の中心線L1)から見て接点P(開口部7aの上流側の端部)の方向を0度とし、その反対方向を180度とすると、永久磁石16a,16bの中心線L3は円Cの中心点から180度の方向に所定の偏心量Rだけずれた位置に配置される。
【0138】
ただし、ポンプ動作時におけるインペラ10の径方向の移動特性は、開口部7aの面積、形状などによって変動する。したがって、永久磁石16a,16bの中心線L3の位置は、必ずしも円Cの中心点から180度の方向に限定されるものではない。永久磁石16a,16bの中心線L3の位置は、円Cの中心点から180度±45度(すなわち135度〜225度)の範囲内にあることが好ましい。
【0139】
また、図34に示すように、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)をD1とし、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の1/2をD2とした場合、0.5×D1>D2+Rの関係を満たしている。これは、0.5×D1<D2+Rとした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0140】
他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。この実施の形態3では、実施の形態1と同様にインペラ10が傾斜するのを防止することができる他、インペラ10を血液室7の中心に位置させることができる。
【0141】
また、図42(a)(b)は、この実施の形態3の変更例を示す断面図であって、図36(a)(b)と対比される図である。図42(a)は図42(b)のXLIIA−XLIIA線断面図である。この変更例では、永久磁石15aのN極と永久磁石15bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石16aのN極と永久磁石16bのN極とは逆向きに設けられ、永久磁石15aのS極と永久磁石16aのN極とは対向し、永久磁石15bのN極と永久磁石16bのS極とは対向した異極配置となっている。この変更例でも、実施の形態3と同じ効果が得られる。
【0142】
また、図42(a)(b)の変更例では、永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)をD1とし、インペラ10のラジアル方向の可動距離(すなわち血液室7の内径とインペラ10の外径との差の距離)の1/2をD2とし、上述の偏心量をRとすると、D1>D2+Rとなっている。これは、D1<D2+Rとした場合、インペラ10がラジアル方向に最大限まで移動したとき、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aがそれぞれ干渉し、インペラ10をポンプ中心位置に復元させる復元力が不安定になるからである。
【0143】
図36(a)(b)および図42(a)(b)で説明したように、永久磁石15a,15bと永久磁石16a,16bの極配置によって、許容される永久磁石15a,15bの間隔(すなわち永久磁石16a,16bの間隔)D1が異なる。これは、図43に示すように、極配置によって、永久磁石15aと16b、永久磁石15bと16aの干渉度合いが異なり、カップリング脱調が生じる最大偏心量が異なるためである。
【0144】
すなわち、図43は、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L3との偏心量と、インペラ10の径方向復元力との関係を示す図である。図43において、同極配置とは、図36(a)(b)で示したように、径方向に隣接する2つの永久磁石15a,15bのN極が同じ方向を向き、径方向に隣接する2つの永久磁石16a,16bのN極が同じ方向を向いている場合を言う。また、異極配置とは、図42(a)(b)で示したように、径方向に隣接する2つの永久磁石15a,15bのN極が異なる方向を向き、径方向に隣接する2つの永久磁石16a,16bのN極が異なる方向を向いている場合を言う。
【0145】
図43から分かるように、永久磁石15a,15bの中心線L2と永久磁石16a,16bの中心線L3との偏心量を大きくして行くと、インペラ10の径方向復元力は一旦上昇した後に下降する。異極配置におけるインペラ10の径方向復元力は、同極配置におけるインペラ10の径方向復元力よりも大きい。また、異極配置の場合にピーク値が現れる偏心量は、同極配置の場合にピーク値が現れる偏心量よりも大きい。したがって、カップリング脱調が生じる最大偏心量は、異極配置の場合の方が同極配置の場合よりも大きくなる。
【0146】
この理由は、次のように考えられる。異極配置の場合は、図42(a)(b)において、永久磁石15a,15bの中心線L2が永久磁石16a,16bの中心線L3の下方に相対的に移動すると、永久磁石15aのS極と永久磁石16bのS極との間に反発力が発生する。この反発力は、インペラ10の径方向復元力を増大させる。これに対して同極配置の場合は、図36(a)(b)において、永久磁石15a,15bの中心線L2が永久磁石16a,16bの中心線L3の下方に相対的に移動すると、永久磁石15aのS極と永久磁石16bのN極との間に吸引力が発生する。この吸引力は、インペラ10の径方向復元力を減少させる。このため、異極配置においてカップリング脱調が生じる最大偏心量は、同極配置においてカップリング脱調が生じる最大偏心量よりも大きくなる。
【0147】
なお、以上の実施の形態および変更例を適宜組み合わせてもよいことは言うまでもない。
【0148】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0149】
1 ポンプ部、2 ハウジング、3 本体部、4 血液流入ポート、5 血液流出ポート、6 隔壁、7 血液室、7a 開口部、8 モータ室、10 インペラ、10a 貫通孔、11,12 シュラウド、13 ベーン、14 血液通路、15a,15b,16a,16b,17,40,41,43 永久磁石、18,28,35,37〜39,47 磁性体、19,36,46 継鉄、20,48 コイル、21,22 動圧溝、25 コントローラ、26 モータ制御回路、27,30,31 パワーアンプ、32 切換スイッチ、42 ロータ、44 ベアリング、45 中心軸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、前記駆動部によって吸引される第3の磁性体と、
前記第1の室の側壁に設けられた開口部から前記ハウジングの外に前記液体を流出させるための液体流出ポートと備え、
前記インペラの回転時において、前記第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と前記第3の磁性体および前記駆動部間に作用する第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
前記第1および第2の磁性体のうちの少なくとも一方の磁性体は前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成され、
前記インペラの回転時に前記インペラが前記隔壁に対して平行になるように、前記開口部側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力と、前記開口部の反対側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力とは異なる値に設定されている、遠心式ポンプ装置。
【請求項2】
前記開口部側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力は、前記開口部の反対側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さな値に設定されている、請求項1に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項3】
前記第2の磁性体は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、
前記開口部側における前記第2の磁性体の厚さは、前記開口部の反対側における前記第2の磁性体の厚さよりも小さい、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項4】
前記第2の磁性体は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、
前記開口部側における前記第1および第2の磁性体の対向面積は、前記開口部の反対側における前記前記第1および第2の磁性体の対向面積よりも小さい、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項5】
前記第2の磁性体は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、
前記開口部側において前記第2の磁性体に切り欠き部が設けられている、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項6】
前記第1の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第1の永久磁石を含み、
前記第2の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第2の永久磁石を含む、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項7】
前記複数の第2の永久磁石の第1の磁極は全て前記インペラの方向に向けられ、前記複数の第2の永久磁石の第2の磁極は全て前記インペラと反対の方向に向けられ、前記複数の第1の永久磁石の第2の磁極はそれぞれ前記複数の第2の永久磁石の第1の磁極に対向して設けられ、
さらに、前記複数の第2の永久磁石の第2の磁極のうちの前記開口部側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える、請求項6に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項8】
各隣接する2つの第2の永久磁石のうちの一方の第2の永久磁石の第1の磁極は前記インペラの方向に向けられ、他方の第2の永久磁石の第2の磁極は前記インペラの方向に向けられ、前記複数の第1の永久磁石の磁極はそれぞれ前記複数の第2の永久磁石の磁極と吸引するように配置され、
さらに、前記複数の第2の永久磁石の前記インペラと反対側の磁極のうちの前記開口部と反対側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える、請求項6に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項9】
前記インペラの側面に対向する前記第1の室の側壁は円筒状に形成されており、前記第1の室の側壁の中心線から見て前記開口部の上流側の端部の方向を0度とし、その反対側を180度とすると、前記開口部側は前記第1の室の側壁の中心線から見て前記0度の方向側であり、前記開口部の反対側は前記第1の室の側壁の中心線から見て前記180度の方向側であり、
前記第1の室の側壁の中心線から見て0度±A度(ただし、A度は0度よりも大きく180度よりも小さな角度である)の範囲内における前記第1および第2の磁性体間の吸引力は、その範囲外における前記第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さい、請求項1から請求項8までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項10】
前記駆動部は、前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項11】
前記駆動部は、
前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第5の磁性体と、
それぞれ前記複数の第5の磁性体に巻回され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項12】
前記駆動部は、
前記第2の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、
前記第3の磁性体に対向して前記ロータに設けられ、前記第3の磁性体を吸引する第5の磁性体と、
前記ロータを回転させるモータとを含み、
前記ロータの回転中心線は前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項13】
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、前記駆動部によって吸引される第3の磁性体と、
前記第1の室の側壁に設けられた開口部から前記ハウジングの外に前記液体を流出させるための液体流出ポートと備え、
前記インペラの回転時において、前記第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と前記第3の磁性体および前記駆動部間に作用する第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
第1および第2の磁性体の各々は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成され、
前記インペラが流体力によって前記開口部側に偏心した場合に、前記開口部側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力が前記開口部の反対側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さくなるように前記第1または第2の磁性体の端面の角に面取り加工が施されている、遠心式ポンプ装置。
【請求項14】
前記第2の磁性体の端面の外周側の角に面取り加工が施されている、請求項13に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項15】
前記第1の磁性体の端面の内周側の角に面取り加工が施されている、請求項13に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項16】
前記駆動部は、前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項13から請求項15までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項17】
前記駆動部は、
前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第4の磁性体と、
それぞれ前記複数の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項13から請求項15までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項18】
前記駆動部は、
前記第2の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、
前記第3の磁性体に対向して前記ロータに設けられ、前記第3の磁性体を吸引する第4の磁性体と、
前記ロータを回転させるモータとを含み、
前記ロータの回転中心線は前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項13から請求項15までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項19】
前記インペラの回転時において前記インペラの回転中心線と前記第1の室の側壁の中心線とが一致するように、前記第2の磁性体の中心線が前記第1の室の側壁の中心線と異なる位置に配置されている、請求項1から請求項18までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項20】
前記液体は血液であり、前記遠心式ポンプ装置は前記血液を循環させるために使用される、請求項1から請求項19までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項1】
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、前記駆動部によって吸引される第3の磁性体と、
前記第1の室の側壁に設けられた開口部から前記ハウジングの外に前記液体を流出させるための液体流出ポートと備え、
前記インペラの回転時において、前記第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と前記第3の磁性体および前記駆動部間に作用する第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
前記第1および第2の磁性体のうちの少なくとも一方の磁性体は前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成され、
前記インペラの回転時に前記インペラが前記隔壁に対して平行になるように、前記開口部側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力と、前記開口部の反対側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力とは異なる値に設定されている、遠心式ポンプ装置。
【請求項2】
前記開口部側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力は、前記開口部の反対側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さな値に設定されている、請求項1に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項3】
前記第2の磁性体は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、
前記開口部側における前記第2の磁性体の厚さは、前記開口部の反対側における前記第2の磁性体の厚さよりも小さい、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項4】
前記第2の磁性体は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、
前記開口部側における前記第1および第2の磁性体の対向面積は、前記開口部の反対側における前記前記第1および第2の磁性体の対向面積よりも小さい、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項5】
前記第2の磁性体は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成された永久磁石であり、
前記開口部側において前記第2の磁性体に切り欠き部が設けられている、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項6】
前記第1の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第1の永久磁石を含み、
前記第2の磁性体は、互いに径が異なり、各々が円環状に形成された複数の第2の永久磁石を含む、請求項2に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項7】
前記複数の第2の永久磁石の第1の磁極は全て前記インペラの方向に向けられ、前記複数の第2の永久磁石の第2の磁極は全て前記インペラと反対の方向に向けられ、前記複数の第1の永久磁石の第2の磁極はそれぞれ前記複数の第2の永久磁石の第1の磁極に対向して設けられ、
さらに、前記複数の第2の永久磁石の第2の磁極のうちの前記開口部側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える、請求項6に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項8】
各隣接する2つの第2の永久磁石のうちの一方の第2の永久磁石の第1の磁極は前記インペラの方向に向けられ、他方の第2の永久磁石の第2の磁極は前記インペラの方向に向けられ、前記複数の第1の永久磁石の磁極はそれぞれ前記複数の第2の永久磁石の磁極と吸引するように配置され、
さらに、前記複数の第2の永久磁石の前記インペラと反対側の磁極のうちの前記開口部と反対側の予め定められた領域に吸引される第4の磁性体を備える、請求項6に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項9】
前記インペラの側面に対向する前記第1の室の側壁は円筒状に形成されており、前記第1の室の側壁の中心線から見て前記開口部の上流側の端部の方向を0度とし、その反対側を180度とすると、前記開口部側は前記第1の室の側壁の中心線から見て前記0度の方向側であり、前記開口部の反対側は前記第1の室の側壁の中心線から見て前記180度の方向側であり、
前記第1の室の側壁の中心線から見て0度±A度(ただし、A度は0度よりも大きく180度よりも小さな角度である)の範囲内における前記第1および第2の磁性体間の吸引力は、その範囲外における前記第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さい、請求項1から請求項8までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項10】
前記駆動部は、前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項11】
前記駆動部は、
前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第5の磁性体と、
それぞれ前記複数の第5の磁性体に巻回され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項12】
前記駆動部は、
前記第2の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、
前記第3の磁性体に対向して前記ロータに設けられ、前記第3の磁性体を吸引する第5の磁性体と、
前記ロータを回転させるモータとを含み、
前記ロータの回転中心線は前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項1から請求項9までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項13】
隔壁で仕切られた第1および第2の室を含むハウジングと、前記第1の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられ、回転時の遠心力によって液体を送るインペラと、前記第2の室内に設けられ、前記隔壁を介して前記インペラを回転駆動させる駆動部とを備えた遠心式ポンプ装置において、
前記インペラの一方面に設けられた第1の磁性体と、
前記インペラの一方面に対向する前記第1の室の内壁に設けられ、前記第1の磁性体を吸引する第2の磁性体と、
前記インペラの他方面に設けられ、前記駆動部によって吸引される第3の磁性体と、
前記第1の室の側壁に設けられた開口部から前記ハウジングの外に前記液体を流出させるための液体流出ポートと備え、
前記インペラの回転時において、前記第1および第2の磁性体間に作用する第1の吸引力と前記第3の磁性体および前記駆動部間に作用する第2の吸引力とは、前記第1の室内における前記インペラの可動範囲の略中央で釣り合い、
前記インペラの一方面またはそれに対向する前記第1の室の内壁に第1の動圧溝が形成され、前記インペラの他方面またはそれに対向する前記隔壁に第2の動圧溝が形成され、
第1および第2の磁性体の各々は、前記インペラの回転中心線の周りに円環状に形成され、
前記インペラが流体力によって前記開口部側に偏心した場合に、前記開口部側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力が前記開口部の反対側における前記第1および第2の磁性体間の吸引力よりも小さくなるように前記第1または第2の磁性体の端面の角に面取り加工が施されている、遠心式ポンプ装置。
【請求項14】
前記第2の磁性体の端面の外周側の角に面取り加工が施されている、請求項13に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項15】
前記第1の磁性体の端面の内周側の角に面取り加工が施されている、請求項13に記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項16】
前記駆動部は、前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項13から請求項15までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項17】
前記駆動部は、
前記インペラの前記第3の磁性体に対向して環状に配置された複数の第4の磁性体と、
それぞれ前記複数の第4の磁性体に巻回され、回転磁界を生成して前記インペラを回転させるための複数のステータコイルを含み、
前記複数のステータコイルによって生成される回転磁界の中心線は、前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項13から請求項15までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項18】
前記駆動部は、
前記第2の室内において前記隔壁に沿って回転可能に設けられたロータと、
前記第3の磁性体に対向して前記ロータに設けられ、前記第3の磁性体を吸引する第4の磁性体と、
前記ロータを回転させるモータとを含み、
前記ロータの回転中心線は前記第1の室の側壁の中心線と一致している、請求項13から請求項15までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項19】
前記インペラの回転時において前記インペラの回転中心線と前記第1の室の側壁の中心線とが一致するように、前記第2の磁性体の中心線が前記第1の室の側壁の中心線と異なる位置に配置されている、請求項1から請求項18までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【請求項20】
前記液体は血液であり、前記遠心式ポンプ装置は前記血液を循環させるために使用される、請求項1から請求項19までのいずれかに記載の遠心式ポンプ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【公開番号】特開2012−21413(P2012−21413A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158028(P2010−158028)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】
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