説明

選択マーカーとして用いる転位酵素

本発明は、必須転位酵素を不活化し、そしてベクターを用いて各々の細胞に導入した当価因子によって該不活化を回復する、微生物の選択系に関する。本発明の選択系は、各導入遺伝子が回復ベクター上に位置している該選択系を特徴とする微生物株の培養細胞を利用して、タンパク質を生産する方法に特に適している。本発明はまた、各微生物、および転位酵素遺伝子およびベクターの使用、特にバチルス・リケニホルミスのようなグラム陽性またはグラム陰性細菌のsecA遺伝子の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、必須転位酵素を不活化し、そして、ベクターを用いて関係細胞に提供した、全く同様に作用する因子によって該不活化を回復することに基づく、微生物選択系に関する。
【背景技術】
【0002】
大量に必要とされるタンパク質、中でも特に産業上で利用する酵素は、今日では通常、微生物の発酵によって生産している。目的タンパク質を天然に生産する微生物に関しては、遺伝的に修飾された生産株がより重要視されている。この種の遺伝子工学的なタンパク質生産方法は、従来技術で長い時間をかけて確立されてきた。その原理は、目的タンパク質遺伝子が宿主細胞に導入遺伝子として取り込まれ、該細胞によって転写および翻訳され、状況に応じて関係膜を通じて周辺質(periplasma)または周囲媒質(surrounding medium)へ分泌されるという現象から成り立っている。該タンパク質はその後、関係細胞または培養上清から得ることが出来る。
【0003】
産業上でのタンパク質生産過程では、微生物生来のタンパク質合成能および場合によっては分泌能をまず利用する。基本的に、タンパク質生産には、発酵に費用がかからない細菌系が選択され、それらは、出発物質から産物を生産する速度が速く、また目的タンパク質の折りたたみ構造や修飾などが正しく保証されるものであり、後者は、目的タンパク質を生来生産している生物とより近縁である可能性がより高い。こうした目的のために特別に確立された宿主細胞には、グラム陰性細菌では例えばエスケリキア・コリ(Escherichia coli)またはクレブシエラ(Klebsiella)属など、グラム陽性細菌では例えばスタフィロコッカス(Staphylococcus)またはバチルス(Bacillus)属などがある。
【0004】
生物工学的工程の経済効率は、生産できるタンパク質量に大いに依存している。この量は、用いた発現系に加え、利用した方法、特に発酵条件および基質によって決まる。発現系および発酵過程を最適化することにより、生産生物の潜在力および潜在生産量を著しく増加させることができる。
【0005】
さらに、発現系は生来的な成長に加え、根本的に異なる2つの遺伝的構造物によってさらに進化する。その一方は、生産したいタンパク質遺伝子を宿主生物の染色体に組み込む。この種のコンストラクトは、さらにどのようなマーカー遺伝子が存在しても選択をかけなければ非常に安定である(下記参照)。不都合な点は、宿主内に遺伝子が1コピーしか存在しないこと、そして遺伝子量効果で産物生産速度を増加させるためにさらなるコピーを組み込むには、非常に複雑な方法を入念に行う必要があることである。この先行技術を以下に簡潔に示す。
【0006】
欧州特許第284126B1号明細書では、複数の組み込みを安定に行うという問題が解決されており、そこでは、内因性の必須染色体DNA断片をその間に含有する多数の遺伝子コピーを細胞内に組み込んでいる。
【0007】
国際公開第99/41358A1号パンフレットに、複数の組み込みを安定に行う別の方法が開示されている。ここでは、2コピーの目的遺伝子を逆の転写方向に組み込み、このとき2コピー間の相同組換えを回避するため非必須DNA断片で互いの位置を分離する。
【0008】
東独国特許第277467A1号明細書では、次に、目的の酵素をコードする遺伝子を細菌染色体へ安定に、有利には複数組み込むことにより細胞外酵素を生産する。組み込みは相同領域に対して行う。組み込みをうまく制御するには、エリスロマイシン遺伝子含有プラスミドを用い、これは組み込みが成功すると不活化される。
【0009】
独国特許第4231764A1号明細書によると、チミジル酸合成酵素遺伝子上の単一または二重乗換えを利用して、染色体への組み込みを行うことが可能である。単一乗換えではチミン活性が残る一方、二重乗換えではチミン活性が失われる、つまり結果的に栄養要求性が生じるので、後者によって組み込み工程の制御が可能になる。この系では、単一乗換えでは抗生物質トリメトプリムに対する耐性が伴に付与され、二重乗換えでは感受性である。
【0010】
国際公開第96/23073A1号パンフレットでは、複数コピーの目的遺伝子を細菌染色体に組み込むためのトランスポゾンに基づく系が開示されており、それにはプラスミドのマーカー遺伝子が組み込みによって消失し、菌体に耐性マーカーがなくなるという特徴がある。また、該パンフレットによると、マーカーは関係細菌系の構築を制御する時にのみ必要である。
【0011】
国際公開第01/90393A1号パンフレットには、細菌染色体に組み込んだ導入遺伝子のコピー数を増加させる系も開示されている。
【0012】
生産系を構築する第二の方法では、目的遺伝子を自己複製要素、例えばプラスミドに移入し、同様の方法で宿主生物に移入する。この場合、各細胞につき通例多数のプラスミドコピーを移入すると、遺伝子量効果により有利な効果が得られる。不都合な点は、プラスミドを細胞内に留めておくために、全培養期間を通じて淘汰圧をかけなければならないことである。デフォルトとしては、これは抗生物質を培養培地に加えて行い、他方で関係物質に対する耐性を与える遺伝子をプラスミドに入れておく。従って、十分数のプラスミドを持つ細胞のみが成長可能となる。
【0013】
選択マーカーとして抗生物質耐性を利用することには、近年批判的意見が増えつつある。一方では、抗生物質を利用すると、特に、耐性が抗生物質を分解する酵素に基づいていて全培養期間を通じて関係物質を加えなければならない場合は、非常に費用がかかる。他方では、特に他の技術分野に広く利用すると、他の菌株、さらには病理学的菌株へ耐性遺伝子を拡張してしまう。例えば医療衛生面および特に感染病の処置において、「多耐性のヒト病原菌株(multiresistant human-pathogenic strains)」によるかなり困難な状況をすでに引き起こしている。
【0014】
従って、持続的な淘汰圧がなくとも安定であるため、消失は、生産細胞の染色体に遺伝子を安定に組み込むための上記の系に大いに利用されている。しかし、上記の関係菌体の調製は非常に高額である。生物工学的手法では、例えば新規な遺伝子または修飾した遺伝子を選択マーカーと共に含むプラスミドを宿主細胞に組み込み、発現させた方がより素早く簡便である。
【0015】
従来技術では、一方で抗生物質を用いない選択系も発展してきた。例えば、「外来グラム陰性細菌遺伝子をクローニングし染色体へ安定に組み込むための、非抗生物質耐性選択マーカー含有トランスポゾンベクター(Transposon vectors containing non-antibiotic resistance selection markers for cloning and stable chromosomal insertion of foreign genes in gram-negative bacteria)」(Herrero et al. (1990), J. Bacteriol., Volume 172, pages 6557-6567)には、除草剤および重金属耐性が選択マーカーとして記載されている。しかし、これらの化合物の利用には抗生物質と同様の懸念がある。
【0016】
例えば、栄養要求性、言い換えると、関係細胞が特定の代謝産物の供給に依存する代謝障害を利用した選択は、抗生物質による選択と原理上同様の働きをする。栄養要求性株には、目的の導入遺伝子と組み合わせて栄養要求性を回復する遺伝子を導入する。導入されなかった株は、適切な培養条件下でその生存力を同時に失い、こうして栄養要求性生産株の選択が行われる。例として、「乳酸連鎖球菌における遺伝子クローニング(Gene cloning in lactic streptococci)」(de Vos, Netherlands Milk and Dairy Journal, Volume 40, (1986), page 141-154)には、例えば第148頁に乳酸連鎖球菌(lacto-streptococci)の代謝に基づいて作製した様々な選択マーカーが記載されており、その中には乳糖代謝、銅耐性および乳酸連鎖球菌の種々のバクテリオシン耐性遺伝子に基づく選択マーカーがある。目的遺伝子を細菌染色体に安定に組み込むことを研究した欧州特許第284126B1号明細書(上記参照)の、第7頁の「生存選択(Survival selection)」の項目には、選択が可能な栄養要求性、殺生剤耐性およびウイルス感染耐性系がまとめてられている。そこに記載されている栄養要求性選択マーカーの例は、代謝関連遺伝子ロイシン、ヒスチジン、トリプトファン、「または同様のもの」であり、同様のものとは明らかにアミノ酸合成経路に基づく選択マーカーを意味している。
【0017】
しかし、特に産業上の発酵培地は、ほとんど全ての必要基質が十分量取得できる状態にあり、関係細胞は、ある化合物の合成が不足しても、栄養培地からこれと同じ化合物を取得して補うことができるので、実際は、そのような栄養要求性の利用にはかなり問題があることがこれまでに分かっている。
【0018】
現在分かっている例外は必須チミジンのみであり、これは産業上の発酵培地ではごく僅かしか得られないので、チミジル酸合成酵素によって「増殖つまりDNA合成を行う」生物から取得しなければならない。そこで、欧州特許第251579A2号明細書では、ヌクレオチド代謝に不可欠なチミジル酸合成酵素の遺伝子が欠損した株を、宿主株として用いる方法を提供している。ベクターを用いることにより、この機能を確実に有する遺伝子(エスケリキア・コリK12のthyA)で遺伝子欠損を補うことが可能になる。このベクターがさらに目的タンパク質遺伝子を含んでおれば、生産細胞の抗生物質様選択が可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
要約すると、先行技術には、タンパク質の生物工学的生産に関する優れた実験があり、染色体への組み込みおよび抗生物質での選択による目的遺伝子の発現は系統的に制御可能であるが、これら2つの系に対応する実用的な系はこれまでないに等しく、特に染色体への組み込みよりも簡便で、且つ、高額であるかまたは生態学的に問題のある化合物による選択を行わずに済む方法は全くないことを認識しなくてはならない。特に、栄養要求性マーカーによる選択方法では、産業上で通常慣例的に用いられている複合栄養培地においては、これまで非常にわずかな効果しか得られなかった。
【0020】
従って、抗生物質による選択と同じくらい操作が比較的簡単であるが、高額で特定の状況下で環境に有害な物質を使用せずに済む新規な選択系を開発することが課題である。該選択系は産業規模で利用できなければならない。該選択系は、産業培地内には存在しないがそこに混入した物質で補うことのできるような必須遺伝子に基づいていてはならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、以下を特徴とする微生物選択方法によって、この課題を解決する:
(a) 必須転位活性をコードする内在性遺伝子を不活化する、そして、
(b) (a)で不活化した必須転位活性をベクターを用いて回復する。
【0022】
驚くべきことに、転位に関する必須因子は選択に適していることが確認されている。本発明では、関係細胞の必須因子としてタンパク質転位に関与するタンパク質遺伝子を選択に用いる。これは、この遺伝子の欠損は致命的であり、従って微生物の抗生物質様選択が可能であることを意味する。
【0023】
この選択系は、(例えば、先行技術で確立された抗生物質などの)添加物なしで維持することができ、且つ原則として栄養培地の組成物とは独立して機能する。このためには、関係微生物の分子生物学的修飾が必要であり、これについては以下転位の詳細に記載し、また本発明の実施例において例証する。
【0024】
転位過程には、細菌が生産したタンパク質の、周辺質(periplasma)(グラム陰性細菌の場合)または周辺媒質(surrounding medium)(グラム陰性およびグラム陽性細菌の両方の場合)への分泌が含まれる。これは例えば、「タンパク質の細菌細胞膜の通過の仕方(How proteins cross the bacterial cytoplasmic membrane)」(A.J. Driessen (1994), J. Membr. Biol., 142 (2), pp. 145-59)に記載されている。これに必要な分泌装置は、本発明の図1に示したように、主に膜関連タンパク質である一連の種々のタンパク質からなる。これらには、特にタンパク質SecA、SecD、SecF(複合体SecDFとして一緒になっている)、E、GおよびYが含まれ、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)で十分に性質決定されている(「グラム陽性細菌の細胞外被を横切るタンパク質転位(Translocation of proteins across the cell envelope of Gram-positive bacteria)」van Wely, K.H., Swaving, J., Freudl, R., Driessen, A.J. (2001), FEMS Microbiol Rev. 2001, 25(4), pp. 437-54)。この系の一部であると考えられる他の因子は、同じようにSec複合体と直接接触するYajC、および同じく図1に示されている因子Bdb(Dsb)、SPase(「シグナルペプチダーゼ」)、PrsAおよびb-SRP(Ffh、Ffs/Scr、SRP-RNA)である。
【0025】
最後に記載した因子は細菌因子であり、これは初めに真核生物で記載されたSRP(シグナル認識粒子(signal recognition particle))と原理上同様に作用する。このサブユニットにバチルス・ズブチリスおよびE. coliの両方から性質決定された因子Ffhがある。b-SRPの次のサブユニットはバチルス・ズブチリスではScr、E. coliではFfsと呼ばれている。さらに、RNA(SRP-RNA)は機能性b-SRP複合体の一部である。ここで機能的に関連するさらなる因子があり、E. coliではSrb、バチルス・ズブチリスではFtsYと呼ばれている。これは真核細胞のドッキングタンパク質と機能的に対応している。
【0026】
さらなる説明では、例えば、因子PrfB(ペプチド鎖解離因子B(peptide chain release factor B)またはRF2)も含まれることになっている。該因子は、グラム陽性および陰性細菌の両方においてタンパク質合成装置の一部として知られている。該因子は、タンパク質の翻訳において、リボソームからすでに翻訳されたタンパク質を分離する、言い換えれば翻訳を終了させる役割を担っている。上記の転位との関係は、多くの細菌でprfB遺伝子は因子SecA遺伝子と同時に転写されるという、間接的なもののみである。従って調節関係にある。
【0027】
転位の必要条件は、放出されるタンパク質がN末端にシグナルペプチドを持つことである(「リーダー配列による輸出タンパク質の折り畳み経路の調節(Modulation of folding pathways of exported proteins by the leader sequence)」, Park, S., Liu, G., Topping, T.B., Cover, W.H., Randall, L.L. (1988), Science, 239, pp. 1033-5)。これは細胞外タンパク質および膜タンパク質の両方にあてはまる。
【0028】
リボソーム上での翻訳後、生じたペプチド鎖はシャペロン機能を持つ細胞質タンパク質によって折り畳まれていない状態で維持され、膜へ輸送される。その後そのペプチドの膜貫通輸送時にATP消費を伴う触媒を受ける(「エスケリキア・コリのSecAのATPアーゼでタンパク質輸送を促進するには2つの別個のATP結合ドメインが必要である(Two distinct ATP-binding domains are needed to promote protein export by Escherichia coli SecA ATPase)」, Mitchell, C., Oliver, D. (1993), Mol. Microbiol., 10(3), pp. 483-97)。SecAはここで多酵素複合転位酵素のエネルギー供給成分(ATPアーゼ)として作用する。膜を通った後、シグナルペプチドはシグナルペプチダーゼ活性によって切断され、細胞外タンパク質はこのようにして膜から分離される。グラム陽性細菌の場合、細胞外タンパク質は直接周辺媒質へ放出される。グラム陰性細菌の場合、一般にタンパク質はその後周辺質で観察され、周辺媒質へ放出されるにはさらなる修飾が必要である。
【0029】
B.v.d. Bergらのより最近の調査(2004; Nature, Volume 427, pages 36 to 44)には、他の生物の対応複合体の1モデルとして、メタノコックス・ヤナスキイ(Methanococcus jannaschii)の転位酵素、換言するとSecY複合体のX線構造が記載されている。
【0030】
このように、この過程の主要分子は、サブユニットSecA、SecY、SecE、SecD、SecF(SecDF)およびSecGからなる前タンパク質転位酵素である。因子SecAは転位において、この過程を制御するATPアーゼとして重要な機能を担っている。本発明の好ましい態様は、これらの因子によって特徴づけられる(下記参照)。
【0031】
以下の表1に、転位に関係することがこれまでに知られている因子を示し、それらがエスケリキア・コリ(グラム陰性)およびバチルス・ズブチリス(グラム陽性)の2モデル生物のそれぞれに必須であるかどうかについて区別した。これらのうち各生物において必須である因子は、本発明の選択に適している。これからまた、基本的に、他の生物、特にグラム陰性およびグラム陽性細菌においても、対応するパターンが存在することが推測されている。
【表1】

【0032】
本発明によると、グラム陰性細菌、特に大腸菌、さらに具体的にはE. Coliにおいて、以下の転位酵素または関係遺伝子によって選択を行うことができる:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfS)、SrbまたはYajC。
【0033】
本発明によると、グラム陽性細菌、特にバチルス属、さらに具体的にはバチルス・ズブチリスにおいて、以下の転位酵素または関係遺伝子によって選択を行うことができる:SecA、SecY、SecE、b-SRP(FfhまたはScr)、FtsYまたはPrsA。
【0034】
これらを列記するにあたり、「または」は排他的な意味ではない。技術的には、多くの関連遺伝子のスイッチを同時に切ることも可能なはずである。しかし、本発明では、1つだけ選択すれば十分である。
【0035】
各生物における関連遺伝子の個々の配列は、例えば一般にアクセス可能な以下のデータバンクから入手できる:GenBank(全米バイオテクノロジー情報センター(National Center For Biotechnology Information)NCBI、国立衛生研究所(National Institutes of Health)、ベテスダ、MD、アメリカ合衆国;http://www3.ncbi.nlm.nih.gov);EMBL欧州バイオインフォマティクス研究所(European Bio-informatics Institute)(EBI)、ケンブリッジ、英国(http://www.ebi.ac.uk);Swiss-Prot(ジュネーブバイオインフォマティクス(Geneva Bio-informatics)(GeneBio)S.A.、ジュネーブ、スイス;http://www.genebio.com/sprot.html);には、パスツール研究所(Pasteur Institute)(25, 28 rue du Docteur Roux, 75724 Paris CEDEX 15, France)のバチルス・ズブチリスまたはE. coliの遺伝子および因子用の「Subtilist」または「Colibri」(http://genolist.pasteur.fr/SubtiList/またはhttp:// genolist.pasteur.fr/Colibri/)。さらに、データバンクには置き場(resort)を作成でき、上記のデータバンク内で相互参照して閲覧可能である。本発明によると、培養する株の転位装置の必須遺伝子のうち、同定し適切に使用する必要があるのは、各生物において1つだけである。
【0036】
本発明の配列表に示した様々な微生物の因子SecAの配列によって、さらなる開始点を作ることができる。これらは直接使用するか(下記好ましい態様参照)または、遺伝子バンク内に目的微生物に関してあらかじめ設計されている関係相同体を同定するために用いることもできる。
【0037】
これらの転位酵素または因子は本来野生型分子という意味で理解されたい。しかし、転位装置内の野生型酵素と原理上同じ機能を持つ変異体を作製することが可能であれば、該変異体により構築した選択系もさらに保護の範囲に含む。
【0038】
本発明を実施するにあたり、培養する株(ただし本発明で調査した種に属さないもの)は、これらの因子の少なくとも1つが必須であるかどうかを初めに検査しなければならない。検査は簡単な方法、例えばできるだけ近縁な株(例えば同じグラム陰性またはグラム陽性細菌)のこれら既知の遺伝子の1つを除去する、または一般にアクセス可能なデータバンクの情報を活用して遺伝子を合成し、ノックアウトベクターに導入するなどして、行うことができる。この種の方法は、当業者に周知である。このベクターによる形質転換および後に生じた(好ましくは該形質転換とは別に起こった)この遺伝子の宿主細胞ゲノムへの相同組換えが致死効果を持つならば、この遺伝子は必須であると判断される。本発明、特に本発明の実施例のモデルによると、必須であると認識した遺伝子は、選択マーカーとして用いることができる。
【0039】
特性(a)で必要な不活化は、適切なベクターを用いた形質転換などによって、目的の微生物株細胞に導入した不活化遺伝子コピーの相同組換えにより行う。この方法は既知である。組換えの結果、その遺伝子の染色体内コピーは完全または部分的に欠失するので機能不可能である。この不活化は、例えば、あらかじめ致死性を検査した同一遺伝子で行うことができる。しかし、組換えの成功率を高くするために、好ましくは、内在性の相同体(ただし既知であるかまたは妥当な費用で単離できるもの)を用いる。不活化が成功するか否かは本発明の完成にとって決定的に重要である。
【0040】
この概念は、例えば、温度感受性複製起点を持ち、欠失させたい遺伝子の相同DNA領域をさらに挿入したプラスミドベクター(欠失ベクター)によって実現できる。例えばトランスポゾンなどの可動遺伝因子を標的遺伝子に組み込めば、可逆的不活化も考えられる。
【0041】
本発明を説明するにあたり、各生物において特性(b)も考慮に入れるべきである、つまり、細胞は不活化すると生存しないであろうから、この組換えまたは不活化の前または最も遅くとも同時に、本発明の選択に選出した遺伝子の非修飾コピーを関係細胞に導入する。本発明によると、生じた欠損はベクターを用いて補う、言い換えると、ベクターが不活化を回復する。本発明では、上記のように宿主細胞に内生的に存在し、(a)により欠失した遺伝子が好んで用いられる。しかし他の生物、好ましくは近縁な株から得た機能的に同一の遺伝子も、生じた欠損を回復可能であれば用いることができる。このように、例えば、バチルス・ズブチリスのSecAの欠損をスタフィロコッカス・カルノスス(Staphylococcus carnosus)のsecA遺伝子で回復することが可能である。
【0042】
始めの欠損を無効にする別の遺伝的要素、例えば、原理上機能的に同じであり、突然変異による修飾を受けていない因子の遺伝子をベクターで細胞に導入する、という方法も考えられよう。
【0043】
従ってその細胞は、致命的な欠損が別の遺伝的要素で補われている状態である。この別の遺伝的要素の欠如はすなわち致命的であり、あらゆる細胞分裂においてこの要素を後の世代に伝える圧力が細胞にかかるであろう。
【0044】
特性(c)は好ましい態様(下記参照)においてこの方法を利用するものであり、該態様では、遺伝子欠損を補うベクターに、導入遺伝子、正確には本発明の方法で調製する目的タンパク質の遺伝子を組み込む。
【0045】
導入遺伝子を含むベクターの損失を防ぐために、例えば、外部つまり栄養培地から取り入れる必要のある重金属または抗生物質といった他の成分を加えなくとも、淘汰圧はある程度まで得られる。一方、導入遺伝子自体を染色体DNAに組み込むために冒頭で議論した複雑な修飾は不適当である。例えば、転位装置の特定の遺伝子が不活化するように一度作製した微生物株は、遺伝子欠損を回復する同一の機能が毎回利用できるが、その都度異なる導入遺伝子を含むように同様に構築したベクターを用いて、さらなる新たな形質転換に利用できる。このように、非常に実用的で他用途に利用できる選択系が得られる。
【0046】
本発明の選択の目的は、多世代に渡り細胞内で安定な遺伝的要素を得ることにある。この要素は正確には、必須転位活性の不活化を補う、換言すると回復するベクターである。
【0047】
好ましい態様において、本発明の選択方法は以下を特徴とする:
(c) (b)のベクターが導入遺伝子を含む。
【0048】
これはひいては選択系を用いるにあたり技術的に最も重要なところである。多世代に渡って安定な遺伝的要素は、このように、導入遺伝子、特にその遺伝子産物に商業的価値がある遺伝子を持つものである。その好ましい態様をさらに以下に示す。
【0049】
好ましい態様において、本発明の選択方法は、必須転位活性が以下の因子の内の1つであることを特徴とする:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfs/Scr)、FtsY/Srb、PrsAまたはYajC。
【0050】
表1にまとめたように、これらの因子または関連遺伝子は大腸菌(E. coli)またはバチルス・ズブチリスのどちらか由来の必須因子または遺伝子である。それゆえ、関係相同体を用いた本発明の選択系を、特にこれら2生物だけでなく、近縁さらにはあまり近縁でない種においても構築できることは明らかである。各生物において、これらの遺伝子の個々のメンバーは他の生物の関係機能で代行可能であることが分かっているので、換言すると、グラム陰性/陽性の別なしに代行可能であるので、少なくとも遠縁な種のみから由来する関係遺伝子の個々のメンバーは本発明に利用できるはずである。
【0051】
好ましくは、必須転位活性は以下の前タンパク質転位酵素のサブユニットの内の1つである:SecA、SecY、SecE、SecDまたはSecF、好ましくはサブユニットSecA。
【0052】
図1に示したように、これらの因子はある程度転位装置の機能的中心である。SecAに関しては、上記で、ATPアーゼ活性おいて重要な中心的位置を占めることを述べた。こういった理由から、本発明の実施例には、secA遺伝子を用いる方法を記載している。
【0053】
好ましくは、本発明の選択方法は、不活化した内在性の必須転位活性と同一の作用をする活性、好ましくは、遺伝的に近い活性、特に好ましくは同一の活性によって、(b)の回復がなされることを特徴とする。
【0054】
この特徴は、関係因子を持つ種間には一般に高い相同性が存在するため、あまり近縁でない関係種由来の遺伝子も利用可能性があることを反映している。しかし、不活化に必要な乗換えに最も適していると思われる、より近縁な種由来の遺伝子および非常に具体的には同一生物由来の遺伝子が好ましいのは当然である。本発明の選択を実施するためには、不活化に適した遺伝子1つのみで十分であることを再度確認されたい。
【0055】
すでに上述したように、関係DNAおよびアミノ酸配列は一般にアクセス可能なデータバンクから入手できる。例えば、配列表の配列番号:1および2に示した、パスツール研究所(上記参照)のデータバンク「Subtilist」の、バチルス・ズブチリス由来のタンパク質SecAの配列は該データバンクからすでに削除されている(2.3.2003現在)が、それらはSwiss-Prot(上記参照)に寄託番号P28366で寄託されたものと同一である。
【0056】
配列表の配列番号:3および4に示したE. coli由来のタンパク質SecAの配列の出所は、パスツール研究所のデータバンク「Colibri」(上記参照、2.3.2003現在)であり、Swiss-Prot(上記参照)から寄託番号P10408で検索できる配列と全く同じである。
【0057】
バチルス・リケニホルミス(B. licheniformis)由来の配列番号:5および6は、市販のバチルス・リケニホルミス(DSM13)株から本発明の実施例1に記載の通りに得た(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH, Mascheroder Weg 1b, 38124 Brunswick; http://www.dsmz.de)。
【0058】
バチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリおよびバチルス・リケニホルミスは技術的に最も頻繁に用いられる微生物であるので、本発明の方法をこれらの細菌に適用可能にすることは特に重要である。本発明の配列表を用いて、これら3つの最も重要な生物由来のsecA遺伝子相同体を、複製のために単離することなく、利用可能にした。これらの遺伝子を、遺伝子バンクの検索に利用する、またはプローブとして用いるなどして、例えば他の微生物中の関係相同体を同定することができる。しかし、特に近縁種においては、これらの遺伝子自体を本発明の不活化に用いることもできる。
【0059】
このように好ましい態様は、配列番号:1、3および5にそれぞれ示したバチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリおよびバチルス・リケニホルミス由来のsecA遺伝子の転位活性を回復する領域が、(b)の回復を行うことを特徴とする。
【0060】
好ましい方法は、さらに、(a)で不活化した遺伝子領域と(b)のベクター上の相同領域間で組換えが起こらないように、好ましくは関係染色体遺伝子に含まれる遺伝子断片が完全に欠失するように、(a)の不活化を行うことを特徴とする。
【0061】
ベクターが宿主細胞の染色体に組み込まれると、同時に存在する関係ベクターにかかる淘汰圧がなくとも、致死突然変異は永久に回復されるであろう。そうすると、実際に関心の導入遺伝子が後の細胞分裂で失われる可能性がある。不活化過程(a)での大規模な欠失によりこれを妨ぐことができる。
【0062】
先行技術、特に「バチルス・アミロリケファシエンスの遺伝的操作(Genetic manipulation of Bacillus amyloliquefaciens)」(J. Vehmaanpera et al. (1991), J. Biotechnol., Volume 19, pages 221-240)には、欠失ベクターによる遺伝子の不活化方法が記載されている。この方法によって、実施例3でバチルス・リケニホルミス由来のsecA遺伝子を欠失させることに成功した。この欠失ベクターの複製起点はその温度依存性から特定できる。
【0063】
この方法では、特に、まず比較的低い温度で形質転換を成功させ、次に徐々に温度を上げることによって、組み込みつまり内因性遺伝子の不活化に対して淘汰圧をかけることが、容易にできる。同様に、例えば、低分子量の化合物を加えることにより、調節コンストラクトを構築することも可能である。
【0064】
結果的に、本発明の好ましい方法は、欠失ベクター、好ましくは外部から調節可能な複製起点を持つ欠失ベクター、特に好ましくは温度依存性の複製起点を持つ欠失ベクターによって、(a)の不活化を行うことを特徴とする。
【0065】
上記のように、原理上は、導入遺伝子を含む(b)の回復ベクターを細菌の染色体に組み込むことは可能である。しかしここで、この場合導入遺伝子は永久に失われる危険性があるので、好ましい方法は、(b)のベクターが微生物中で自己複製するプラスミドであることを特徴とする。プラスミドはその後派生した細胞株に自身を複製する。
【0066】
プラスミドが自己を複数コピー(例えば1細胞につき2から100プラスミド)、好ましくは多数コピー(1細胞につき100プラスミドより多く)複製するプラスミドであるならば、さらに有利である。より多くのプラスミドコピーが存在する程、回復の成功率がより高くなる可能性がある。さらに、プラスミドコピーが多いと、ベクターが目的タンパク質をコードする導入遺伝子を含む場合、遺伝子量効果によって産物量が増加する。
【0067】
特に遺伝子または遺伝産物のクローニングおよび性質決定には、グラム陰性細菌株が非常に重要であるので、好ましい選択方法は、微生物がグラム陰性細菌株であることを特徴とする。
【0068】
これらの内、グラム陰性細菌株であるE. coliの属またはクレブシエラ属(Klebsiella)、具体的にはエスケリキア・コリK12(Escherichia coli K12)、エスケリキア・コリBまたはクレブシエラ・プランチコラ(Klebsiella planticola)の誘導体、およびさらに具体的にはエスケリキア・コリBL21(DE3)、E. coli RV308、E. coli DH5α、E. coli JM109、E. coli XL-1またはクレブシエラ・プランチコラ(Rf)株の誘導体が関与することを特徴とする方法が特に考えられる。これらは分子生物学の分野で最も頻繁に用いられる生物である。
【0069】
特に発酵性タンパク質産物においては、グラム陽性細菌が特に重要である。このことは分泌タンパク質にもある程度あてはまる。従って本発明の好ましい方法は、微生物がグラム陽性細菌株であることを特徴とする。
【0070】
これらの内、特に産業分野では、グラム陽性細菌株であるスタフィロコッカス属、コリネバクテリア(Corynebacteria)属またはバチルス(Bacillus)属、具体的にはスタフィロコッカス・カルノスス、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、バチルス・ズブチリス、バチルス・リケニホルミス、バチルス・アミロリケファシエンス(B. amyloliquefaciens)、バチルス・グロビギイ(B. globigii)またはバチルス・レントゥス(B. lentus)、およびさらに具体的には、バチルス・リケニホルミスまたはバチルス・アミロリケファシエンス株の誘導体が確立されているので、それぞれ好ましい選択方法に用いられる。
【0071】
特に興味深いのは、微生物の培養で生成する産物を対象とする本発明の方法である。従って、これに相当する好ましい選択方法は、(c)の導入遺伝子が非酵素タンパク質、具体的には薬理学的に関連するタンパク質、さらに具体的にはインスリンまたはカルシトニンをコードする遺伝子であることを特徴とする。
【0072】
しかし、酵素も産業上非常に重要である。従って、本発明では、(c)の導入遺伝子が酵素、好ましくは加水分解酵素または酸化還元酵素、特に好ましくはプロテアーゼ、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼまたはラッカーゼをコードする遺伝子であることを特徴とする方法も請求する。これらの内、界面活性剤および洗剤に用いるために好んで生産される代表的な酵素を以下に述べる。
【0073】
原理上この種の組成物は、先行技術で確立されたあらゆる酵素の界面活性剤または洗浄剤としての能力を増大するのに用いることができる。プロテアーゼの内、サブチリシン型のもの、例えばバチルス・レントゥスのアルカリ性プロテアーゼなどが好ましい。バチルス・レントゥスDSM5483のプロテアーゼ(国際公開第91/02792A1号パンフレット)からはBLAP(登録商標)という名称の変異体が誘導されており、特に国際公開第92/21760A1号パンフレット、国際公開第95/23221A1号パンフレット、国際公開第02/088340A2号パンフレットおよび国際公開第03/038082A2号パンフレットに記載されている。本発明によって調製できる、様々なバチルス種およびバチルス・ギブソニイ(B. gibsonii)由来のさらなるプロテアーゼが、国際公開第03/054185A1号パンフレット、国際公開第03/056017A2号パンフレット、国際公開第03/055974A2号パンフレットおよび国際公開第03/054184A1号パンフレットに記載されている。
【0074】
本発明によって調製できるアミラーゼの例には、特に界面活性剤および洗剤に用いるものとして、バチルス・リケニホルミス、バチルス・アミロリケファシエンスまたはバチルス・ステアロテルモフィルス(B. stearothermophilus)由来のαアミラーゼ、およびそれらの改良発展型がある。加えて、国際公開第02/10356A2号パンフレットに記載されているバチルス種A7-7(DSM12368)由来のαアミラーゼおよび国際公開第02/44350A2号パンフレットに記載されているバチルス・アガラドヘレンス(B. agaradherens)(DSM9948)由来のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTアーゼ)は本目的のためには重要である。さらに、国際公開第03/002711A2号パンフレットに定義されているαアミラーゼおよび国際公開第03/054177A2号パンフレットに記載の酵素の配列領域に属するデンプン分解酵素(amylolytic enzymes)は、本発明の焦点にあたる。また、上記分子の融合産物、例えば西独国特許第10138753A1号明細書に記載の化合物なども適している。
【0075】
リパーゼまたはクチナーゼ、例えば本来はフミコーラ・ラヌギノサ(Humicola lanuginosa)(サーモミセス・ラヌギノスス(Thermomyces lanuginosus))から得られるリパーゼまたはクチナーゼ、またはさらに発展させたリパーゼ、具体的にはアミノ酸交換D96Lを有するリパーゼ、または当初はシュードモナス・メンドシナ(Pseudomonas mendocina)およびフザリウム・ソラニイ(Fusarium solanii)からその出発酵素を単離していたリパーゼまたはクチナーゼも、本発明に従って生産できる。
【0076】
さらに、それは特に繊維の工業的な処理を対象としているが、セルラーゼ、例えばエンドグルカナーゼおよび/またはセロビオヒドロラーゼ(cellobiohydrolases)などに基づく界面活性剤も対象としている。例えば、天然の生産者によっても生産可能であるセルラーゼには、国際公開第96/34092A2号パンフレットに開示のような、バチルス種CBS670.93およびCBS669.93由来のものがある。さらに、本発明によって、ヘミセルラーゼなる用語に集約されるさらなる酵素を生産することが可能である。これらには、例えば、マンナナーゼ、キサンタンリアーゼ(xanthan lyases)、ペクチンリアーゼ(=ペクチナーゼ)、ペクチンエステラーゼ、ペクチン酸リアーゼ、キシログルカナーゼ(=キシラナーゼ)、プルラナーゼおよびβグルカナーゼなどが含まれる。
【0077】
界面活性剤および洗剤酵素にはまた、例えばオキシダーゼ、オキシゲナーゼ、カタラーゼ、ハロ、クロロ、ブロモ、リグニン、グルコースまたはマンガンペルオキシダーゼのようなペルオキシダーゼ、ジオキシゲナーゼまたはラッカーゼ(フェノールオキシダーゼ、ポリフェノールオキシダーゼ)といった酸化還元酵素、または当分野の利用に関する先行技術に記載のあらゆる他の酵素が含まれる。
【0078】
導入部にすでに記載の通り、本発明の基本的要素は、大規模発酵の背景技術にとりわけ明確に対峙するものである。なぜなら、そこには確かに、一方では、抗生物質による選択は高額で、また環境の観点から問題があり、他方では、代謝系の欠損に基づく栄養要求性は、産業培地の混合物によって補われてしまう可能性があるという不都合な問題があったからである。
【0079】
従って、本発明の選択方法を大規模な工程に転換することは、例えば抗生物質またはビタミンのような分子量の小さな化合物の生産、とりわけタンパク質を生産するために、特に重要である。
【0080】
微生物株の細胞を培養してタンパク質を生産する方法は、先行技術で一般に知られている。その方法は、目的タンパク質を天然に生産する、または関係遺伝子で形質転換した後に生産する細胞を、適切な方法で培養すること、および好ましくは目的タンパク質の生産を刺激することに基づいている。
【0081】
微生物株の培養細胞によってタンパク質を生産する方法は、このように本発明のさらなる主題であり、前記の選択過程で特徴づけられる。特にすでに前述した態様では、回復に用いるベクターそれ自体が導入遺伝子を含み、またこの導入遺伝子は好ましくは非酵素タンパク質または酵素をコードすることを強調した。これらの内、商業的に重要なタンパク質は特に考慮に値する。例えば、遺伝子組換えで生産したインスリンは糖尿病の処置に用い、プロテアーゼ、リパーゼおよびアミラーゼから酸化的な酵素に至るまで広範囲の酵素は、界面活性剤および洗剤の製造に用いられる。
【0082】
目的の導入遺伝子および回復用遺伝子をベクターに組み込んで利用する場合、(c)の導入遺伝子がこの方法によって生産されるタンパク質をコードすることを特徴とする本発明のタンパク質生産方法は、産業上の取扱性の簡素化の観点から好的である。
【0083】
原理的には、細菌は固体表面上で利用できる。このことは、細菌の代謝特性を検査するため、または研究室規模で連続培養するために特に重要である。他方では、液体培地、好ましくは発酵層で微生物の培養を行うことを特徴とするタンパク質生産方法が好ましい。この種の技術は先行技術で広く知られており、本発明の方法によって、正確には必須転位因子で選択するための形質転換によってさらに発展させる。
【0084】
特に重要であるのは、目的タンパク質が周辺媒質に分泌されることを特徴とするタンパク質生産方法である。この方法により、得られる産物の純度がかなり向上する。しかし、本発明には、実際のタンパク質生産の後に関係生産細胞を破壊し、それによって産物を得るという潜在的な代替法もある。
【0085】
原理的には、微生物に分子生物学的変化を加えて新規な株を作製する。このように、新規な微生物株も本発明の形質転換によって生産する、正確には、必須転位活性の特定不活化、および同一の作用をする転位因子を用いた不活化の回復によって、出発株(より正確には出発細胞)とは異なる株を生産する。新規な微生物はこのように、本発明の選択方法を用いて作製する。
【0086】
従って、前述の選択方法によって得られた微生物は、本発明の保護の範囲内にある。
【0087】
特に有利な面は、その都度別の導入遺伝子を組み込んだ回復ベクターで常に同種の不活化および回復を行うことによって、グループ関係の微生物が得られることである。同様にして、ひとたび成功した過程を、無数にある他の選択に問題がある系に移行することができる。
【0088】
特に上述のタンパク質生産方法を実現するには、導入遺伝子を発現させることが必要である。このことは、本発明の好ましい微生物の特徴である。
【0089】
これらの内、タンパク質の生産に関して上述したことによると、導入遺伝子を分泌することを特徴とする微生物が好ましい。
【0090】
上述したことによると、転位活性をコードする必須遺伝子がそのようなものとして認識され、それによって選択が可能な本発明の選択系を、単に見つけることは可能であった。多数の微生物から膨大な数のこれらの遺伝子が認識されていたが、この種の遺伝子を利用することはこれまで考えられなかった。事実上すべての微生物に関して、どの遺伝子によって適切な選択が可能であるかを明確にすることができるので、確かにこの情報は本発明の選択系にとって有益である。そのためには、それらを上述のように不活化するだけでよく、関係細胞内で機能性の相同体で置換する。
【0091】
従って、本発明の主題のひとつは、必須転位活性をコードする遺伝子を微生物の選択に利用することであり、以下を特徴とする:
(a) 微生物に内在する該必須転位活性を不活化する、および、
(b) (a)で不活化した必須転位活性をベクターを用いて回復する。
【0092】
以下に説明する本発明のこの主題の態様は、従って、上記に示すように好適である。
【0093】
この使用が以下を特徴とするならば、特に分子遺伝学的および技術的に有益である:
(c) (b)のベクターが導入遺伝子を含む。
【0094】
本発明の重要な点は、必須転位活性が以下の因子の内の1つであることを特徴とするあらゆる適切な使用である:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfs/Scr)、FtsY/Srb、PrsAまたはYajC。
【0095】
これらの内、前タンパク質転位酵素の以下のサブユニットの内の1つである必須転位活性に基づくあらゆる使用が好ましい:SecA、SecY、SecE、SecDまたはSecF、好ましくはサブユニットSecA。
【0096】
有利な使用は、不活化した内在性の必須転位活性と同一に作用する活性、好ましくは遺伝的に近い活性、特に好ましくは同一の活性によって(b)の回復を行う。
【0097】
このために、特に、配列表の配列番号:1、配列番号:3および配列番号:5にそれぞれ示した、バチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリまたはバチルス・リケニホルミスの遺伝子secAの転位活性を回復する領域によって(b)の回復が行われることを特徴とする、好ましい開始点、すなわち既述の使用可能性を、本発明はある程度適切に利用可能にする。
【0098】
特に、有利な使用は、(b)のベクターが微生物内で自己複製するプラスミドであることを特徴とする。
【0099】
さらに好ましい使用は、プラスミドが、複数、好ましくは多数の複製数で複製するプラスミドであることを特徴とする。
【0100】
最後に、本発明はまた適切なベクターによって実現できる。ここでは、必須転位活性遺伝子および発現可能な導入遺伝子(ただし、該導入遺伝子が単独で存在する場合は抗生物質耐性をコードしない)を含むベクターを対象とする。
【0101】
本発明によって不活化した必須転位活性を回復する遺伝子とともに存在する唯一の導入遺伝子が抗生物質耐性遺伝子である場合は、本発明の目的のために該導入遺伝子を除去することは、技術的には制限されない。これらはまさに、本発明に用いることができる転位タンパク質の性質決定に関連して、先行技術においてすでに記載されているということだけを考慮に入れておく。もちろんこれらのタンパク質が、先行技術で最も広く知られたクローニングベクター、正確には、マーカーとして抗生物質耐性遺伝子を含むベクターを用いて、配列決定されクローニングされたこともまた、先行技術に含まれる。このように、必須転位酵素の遺伝子および抗生物質マーカーのみを含むベクターは先行技術において既知である。
【0102】
上記に対応して、本発明のベクターは好ましくは、該ベクターに含まれる導入遺伝子、好ましくはタンパク質生産を意図した導入遺伝子が、薬理学的に関連する非酵素タンパク質または加水分解酵素または酸化還元酵素をコードすることを特徴とする。これらのベクターは、発現させたい遺伝子に機能性プロモーターが付いていることを特徴とする。もちろんここでは、そのような、抗生物質耐性を媒介できる「おそらく薬理学的に有益な」因子をコードすることもある、あらゆるコンストラクトが保護の範囲に含まれ、ただしこのベクターの存在はコンストラクトの特性ではなく必須転位活性によって選択されねばならない。
【0103】
該選択系の詳細によると、ある種のベクターも本発明の好ましい態様である。
【0104】
該ベクターには、コードされている転位活性、好ましくは遺伝的に近い活性、特に好ましくは同一の活性によって、微生物株に内在する不活化した必須転位活性を回復させることができることを特徴とする適切なベクターが含まれる。
【0105】
さらに好ましくは、該ベクターには、必須転位活性が以下の因子の内の1つであることを特徴とする適切なベクターが含まれる:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfs/Scr)、FtsY/Srb、PrsAまたはYajC。
【0106】
これらの内、必須転位活性が前タンパク質転位酵素の以下のサブユニットの内の1つであることを特徴とするベクターが好ましい:SecA、SecY、SecE、secDまたはSecF、好ましくはサブユニットSecA。
【0107】
本発明が教示するところによると、必須転位活性が、配列表の配列番号:1、配列番号:3および配列番号:5にそれぞれ示した、バチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリまたはバチルス・リケニホルミスの遺伝子secAの内の1つであることを特徴とするベクターがさらに好ましい。
【0108】
さらに、該ベクターが、用いた微生物において自己複製するプラスミドである場合は、それは本発明によるベクターにとって好都合な特性である。
【0109】
このことに関して、該プラスミドが、この場合複数好ましくは多数の複製数で複製するプラスミドであることを特徴とするならば、特に遺伝子量効果のためにさらに有利である。
【0110】
[実施例]
全ての分子生物学的操作は、標準方法、例えば、Fritsch、SambrookおよびManiatisらのハンドブック「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular cloning: a laboratory manual)」、ニューヨーク、1989年、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、または類似の関連研究に記載のような方法に従う。酵素およびキットは各製造業者の説明書に従って使用した。
【実施例1】
【0111】
バチルス・リケニホルミスのsecA遺伝子の単離
【0112】
バチルス・リケニホルミスのsecA遺伝子座の同定
バチルス・リケニホルミスのsecA/prfB遺伝子座を同定するために、バチルス・ズブチリスのprfB-secA遺伝子座の既知の配列(パスツール研究所(25, 28 rue du Docteur Roux, 75724 Paris CEDEX 15, France)のデータバンク「Subtilist」;http://genolist.pasteur.fr/ SubtiList/;8.16.2002現在)を用いてPCRで遺伝子プローブを作成した。この遺伝子座を図2にも示す。得られたプローブは3113bpであり、さらにprfB遺伝子のN末端領域の始めの451bpを含んでいた。次に、例えばドイツ微生物および培養細胞収集株式会社(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)(Mascheroder Weg 1b, 38124 Brunswick;http:// www.dsmz.de)からオーダー番号13で入手できるバチルス・リケニホルミスの染色体DNA標本、および対照としてバチルス・ズブチリスの染色体DNAを、種々の制限酵素で消化し、前記のプローブを用いてサザンブロット法にかけた。バチルス・ズブチリスの染色体DNAを制限酵素MunIで消化した結果生じた断片はバチルス・ズブチリスに予想されたものであったが、MunIで処理したバチルス・リケニホルミスの染色体DNA上には、約5.5kBの単一断片を確認した。
【0113】
バチルス・リケニホルミスDSM13から同定した領域のクローニング
同じ株のバチルス・リケニホルミスの染色体DNAを単離し、MunIで消化して準備し、そしてアガロースゲル電気泳動で5.5kB周辺のDNA領域を単離し、そして市販のキットを用いてゲルから核酸を抽出した。MunIで切断して生じたDNA断片の混合物を低コピー数ベクターpHSG575のMunIに対応したEcoRI切断部位にライゲートし(「lacZアルファ相補性およびクロラムフェニコールまたはカナマイシン耐性選択のための高コピー数および低コピー数ベクター(High-copy-number and low-copy-number vectors for lacZ alpha-complementation and chloramphenicol- or kanamycin-resistance selection)」S. Takeshita; M. Sato; M. Toba; W. Masahashi; T. Hashimoto-Gotoh; Gene (1987), Volume 61, pages 63-74に記載されている)、そしてE. coli JM109(プロメガ、マンハイム、ドイツから入手可能)に形質転換した。
【0114】
ベクターにコードされた耐性による選択を行った。さらに、青/白スクリーニング法(X-Galを80μg/ml含む選択プレート)で挿入断片を含むベクターを取得したクローンを同定した。この過程で200クローンが得られ、そこから、コロニーハイブリダイゼーション法でバチルス・リケニホルミスのsecA遺伝子を持つ5クローンを同定できた。上記のプローブで新たにサザンブロット解析を行ってこれらを確認し、pHSG575に由来し、バチルス・リケニホルミスのsecA遺伝子を持つMunI断片を含み、5.5kBからなるベクターをpHMH1と名付け、引き続き用いた。
【0115】
制限解析
クローニングした5.5kB領域をまず制限マッピングで性質決定した。このために、種々の酵素を用いて、pHMH1の個別消化および二重消化を行い、サザンブロット解析でsecA/prfBオペロン部分を含む断片を同定した。それから得られた制限地図を、5.5kB断片を完全に配列決定した(下記参照)後に補完し、図3に示した。
【0116】
配列解析
図3に示した5.5kB断片を標準方法に従ってサブシーケンスに配列した。このサブシーケンスは、バチルス・ズブチリスの以下の遺伝子と強い相同性を示し、バチルス・ズブチリスと全く同じ遺伝子配列であった:fliT(鞭毛タンパク質をコードする。)、orf189/yvyD(機能は未知)、secA(転位酵素結合サブユニット;ATPアーゼ)およびprfB(ペプチド鎖解離因子B)。これらも同様に図3に示した。
【0117】
これらのことに基づいて、バチルス・リケニホルミスのSecAは、特にバチルス・ズブチリスのSecAと同じ生化学的活性を発現するので、同じ生理学的機能を持っていることが推測できる。従って、転位に関係する必須酵素であると考えられる。
【0118】
それらに由来し、本実施例に従って決定したDNA配列およびアミノ酸配列を配列表の配列番号:5または6に示す。それによると、翻訳開始点は154位にあり、ストップコドンは2677から2679位にある。60から65または77から82位のサブシーケンスはおそらくプロモーター領域、138から144位の領域はリボソーム結合部位と考えられる。
【実施例2】
【0119】
secA遺伝子およびサブチリシン遺伝子を含むプラスミドの調製
【0120】
実施例1により得たsecA遺伝子を自身のプロモーターを用いてバチルス・リケニホルミスの染色体DNAからPCR増幅した。そのために、図4に示したように、バチルス・リケニホルミスの遺伝子のDNA配列から、各5'末端にBamHI制限切断部位を持つプライマーを選択した。このようにして、これらのプライマーを用いて増幅した断片を、プラスミドpCB56Cの切断部位へクローニングした。該プラスミドは国際公開第91/02792A1号パンフレットに記載されており、バチルス・レントゥスのアルカリ性プロテアーゼ遺伝子(BLAP)を含んでいる。
【0121】
図4にも示したこのクローニング方法で、secAおよびBLAP遺伝子に加えてテトラサイクリン耐性をコードする遺伝子を含む8319bpのベクターpCB56CsecAを得た。
【0122】
ベクターpCB56CsecA、および対照として開始ベクターpCB56Cをバチルス・リケニホルミスに形質転換し、主にpCB56Cの場合は、SecAを生産可能な野生型バチルス・リケニホルミス(secA)株に形質転換した。pCB56CsecAの場合は、内因性secAが同時に不活化するように形質転換を行った。該方法を実施例3に示す。
【0123】
該方法で、バチルス・リケニホルミス(ΔSecA)pCB56CsecAおよびバチルス・リケニホルミス(secA)pCB56Cの2株が得られ、これらは両方ともプラスミドにコードされたアルカリ性プロテアーゼ遺伝子を発現することができる。これらについてはさらに実施例4で調査する。
【実施例3】
【0124】
バチルス・リケニホルミス(ΔsecA)pCB56CsecA株の調製
【0125】
欠失ベクターでsecA遺伝子のスイッチを切った。これは、J. Vehmaanpera et al. (1991), J. Biotechnol., Volume 19, pages 221-240に記載の方法に従って行った。
【0126】
secA欠失用ベクターには、同文献に記載のプラスミドpE194を選択した。この欠失ベクターの利点は、温度依存性複製起点を持つことである。pE194は33℃で細胞内で複製でき、この温度で、形質転換が完了した細胞をまず選択できる。次に、該ベクターを含んだ細胞を42℃でインキュベートする。この温度では、欠失ベクターはもはや複製せず、2つの相同領域(secA遺伝子の上流または下流領域)のうち1領域によるプラスミドの染色体への組み込みに対する淘汰圧がかかる。他の(第二の)相同領域によってさらなる相同組換えが起こり、secAの欠失が起こる。第一の相同領域の繰り返し組換えも起こりうる。ここで、ベクターは再び染色体から再結合するので、染色体secAは保持される。従って、secA欠失は、適切な酵素を用いて染色体DNAを制限切断した後にサザンブロット解析を行うか、またはPCR技術で増幅領域の大きさによって検出しなければならない。
【0127】
欠失ベクターを構築するために、secAの上流および下流に位置する領域(図5)をPCR増幅した。増幅に用いるプライマーおよび後のクローニングのための関連制限切断部位(XbaIおよびEcoRV)を、実施例1で決定したバチルス・リケニホルミスのsecA/prfB遺伝子座のDNA配列を用いて選択した。SecA欠失の場合、secAの下流に位置するprfBは、secAを含むオペロン内にあり、自身のプロモーターを持たない(図2と比較のこと)ことを考慮しなければならない。prfBは、タンパク質の生合成の際にリボソームからタンパク質を確実に脱離させるタンパク質RF2をコードしている。SecA欠失後も、タンパク質の生合成に重要なprfBの転写を保証するため、secAの前方に位置するorf189とそのターミネーターおよびその後方に位置するsecAプロモーターを増幅し、secA欠失後prfBをsecAプロモーターから直接転写できるようにした(図5)。
【0128】
増幅した領域(orf189'およびprfB')を制御可能な段階でE.coliのベクターpBBRMCS2へ相互クローニング(intercloned)した。次いで行ったorf189'prfB'コンストラクトの配列決定で増幅断片が正しく共にクローニングされていることが分かった。
【0129】
次の段階でorf189'prfB'コンストラクトを、欠失用に選択したバチルス・ズブチリスDB104のベクターpE194内に再クローニングした(図6)。ここで、Chang & Cohen, 1979によるプロトプラスト形質転換法を用いて、欠失ベクターpEorfprfBを含んだ形質転換体を得た。ベクターの複製が行われるように、全ての操作は33℃で行った。
【0130】
次の段階で、プロトプラスト形質転換法によってプラスミドpEorfprfBを含んだ宿主株バチルス・リケニホルミスに、実施例2に記載のベクターpCB56CsecAを同様に形質転換した。そのようにして得られた形質転換体で、慣習法で陽性と判断したものを、42℃で淘汰圧(pCB56CsecAのテトラサイクリンおよびpEorfprfBのエリスロマイシン)をかけた状態で両プラスミドの有無で選択した。この温度では、欠失ベクターはもはや複製できず、該ベクターが染色体に組み込まれた(この組み込みは最も高い確率で相同または同一領域で起こる)細胞のみが生き残る。33℃でエリスロマイシンの淘汰圧をかけずに培養すると、後に欠失ベクターの切除を誘導することができ、染色体にコードされた遺伝子secAが染色体から完全に取り除かれる。
【0131】
サブチリシン合成能を媒介し、かつ必須転位因子secAを利用可能にするプラスミドpCB56CsecAは細胞内に残る。このようにして得られた株をバチルス・リケニホルミス(ΔsecA)pCB56CsecAと命名した。
【実施例4】
【0132】
プラスミドの安定性の調査
【0133】
secAを含有するサブチリシンプラスミドpCB56CsecAの遺伝的安定性を決定するために、実施例2および3で得られたバチルス・リケニホルミス(secA)pCB56Cおよびバチルス・リケニホルミス(ΔsecA)pCB56CsecAの2株を、抗生物質を加えていない液体培地を用いた振盪フラスコ実験で調査した。この実験では、それぞれ1個のコロニーから開始して一晩培養し、それぞれ14mlのLB培地(標準調製法による)に600nmの光学密度(OD600)が0.05になるまで該培養物を播種した。培養は100mlの振盪三角フラスコで行った。それぞれ8から16時間後、培養物を14mlの新しい培地に播種し、ここでも同様にOD600値を0.05に調製した。培養は8昼夜に渡って行い、培養物を本過程で全16回播種した。毎日、希釈系をプレートから外に出し、得られたクローンを無作為に選択してプロテアーゼ検査プレートに移した。結果を表2および図7に示す。
【表2】

【0134】
バチルス・リケニホルミス(secA)pCB56C株では、特定のクローンは全くプロテアーゼ活性を持っていないが、各培養時間において、バチルス・リケニホルミス(ΔsecA)pCB56CsecA株は全クローンがプロテアーゼ活性を示した。これはプラスミドpCB56Cが失われているためと解釈することができ、さらにプラスミドのミニプレップ(minipreparation)で該プラスミドが失われていることを確認した。
【0135】
従って、これらのデータから、プラスミドがその耐性をコードする抗生物質、具体的にはテトラサイクリンを加えていないLB培地で培養すると、secAを含むサブチリシンプラスミドpCB56CsecAはΔsecA株内で安定であるが、染色体secAが欠失していない株内のサブチリシンプラスミドpCB56Cは培養が進むと失われることは明らかである。従って、バチルス・リケニホルミスのsecA遺伝子は、発現ベクターに移入すると染色体のsecA欠損を回復することができ、またこの方法で別のタンパク質、この場合はアルカリ性プロテアーゼの遺伝子を発現する培養細菌を選択するのに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】グラム陽性細菌の翻訳/転位装置の略図。ほぼ、van Wely, K.H., Swaving, J., Freudl, R., Driessen, A.J. (2001);「グラム陽性細菌の細胞外被を通過するタンパク質転位(Translocation of proteins across the cell envelope of Gram-positive bacteria)」, FEMS Microbiol Rev. 2001, 25(4), pp. 437-54)に従って作成。
【図2】バチルス・ズブチリスのsecA遺伝子座。遺伝子prfBはsecA領域に位置し、連続したmRNAを生産することが分かっており、このことからsecA/prfBオペロンと呼ぶことができる。
【図3】バチルス・リケニホルミスの遺伝子座orf189/secA/prfBの制限マップ。実施例1に示した通り、バチルス・リケニホルミスのゲノムDNAをMunIで制限処理して得られた約5.5kBの断片上、secAの隣には遺伝子prfBおよびorfが存在する。
【図4】secA遺伝子およびサブチリシン遺伝子を含むプラスミドの調製。実施例2に記載したように、secAをPCR増幅し、導入遺伝子としてバチルス・レントゥスのアルカリ性プロテアーゼを含有するベクター内へクローニングした。
【図5】PCR増幅したsecA(上流および下流)領域。実施例3に記載した、クローニング用に選択した制限切断部位を用いたsecAの上流および下流領域の増幅。secA欠失後prfBがsecAプロモーターから直接転写されるように、orf189の3'末端を自身のターミネーターおよび下流に位置するsecAプロモーターを用いて増幅する。得られたorf189'およびprfB'断片はそれぞれ502bpまたは546bpを含む。
【図6】欠失プラスミドpEorfprfBの構築。PCR増幅した領域をE. coliに相互クローニングし、XbaIおよびEcoRVでふたたび切除し、次いでベクターpE194の制限切断部位XbaIおよびAccIへライゲートした。
【図7】形質転換体バチルス・リケニホルミス(secA)pCB56C(対照)およびバチルス・リケニホルミス(ΔsecA)pCB56CsecA内のプラスミドの安定性。プロテアーゼ活性を持つクローン画分を、適当な日数を経た後、それぞれ実施例4に記載の通りに活用した。 四角:バチルス・リケニホルミス(ΔsecA)pCB56CsecA 三角:バチルス・リケニホルミス(secA)pCB56C(対照)
【配列表】




















【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を特徴とする、微生物を選択する方法:
(a) 必須転位活性をコードする内在性遺伝子を不活化する、および、
(b) (a)で不活化した必須転位活性をベクターを用いて回復する。
【請求項2】
以下を特徴とする、請求項1に記載の方法:
(c) (b)のベクターが導入遺伝子を含む。
【請求項3】
必須転写活性が以下の因子の内の1つであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfs/Scr)、FtsY/Srb、PrsAまたはYajC。
【請求項4】
必須転位活性が前タンパク質転位酵素の以下のサブユニットの1つであることを特徴とする、請求項3に記載の方法:SecA、SecY、SecE、SecDまたはSecF、好ましくはサブユニットSecA。
【請求項5】
不活化した内在性必須転位活性と同一の作用をする活性、好ましくは遺伝的に近い活性、特に好ましくは同一の活性によって、(b)の回復が行われることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
配列表の配列番号:1、配列番号:3および配列番号:5にそれぞれ示した、バチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリおよびバチルス・リケニホルミスの遺伝子secAの転位活性を回復する領域によって、(b)の回復が行われることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
(a)で不活化した遺伝子領域と(b)のベクター上の相同領域間で組換えが起こらないように、好ましくは関係染色体遺伝子に含まれる遺伝子断片が完全に欠失するように、(a)の不活化を行うことを特徴とする、請求項2ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
欠失ベクター、好ましくは外部から調節可能な複製起点を持つ欠失ベクター、特に好ましくは温度依存性の複製起点を持つ欠失ベクターによって、(a)の不活化を行うことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
(b)のベクターが微生物内で自己複製するプラスミドであることを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記プラスミドが、複数、好ましくは多数の複製数で複製するプラスミドであることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
微生物が、グラム陰性細菌株であることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
グラム陰性細菌株であるE. coliの属またはクレブシエラ属、具体的にはエスケリキア・コリK12、エスケリキア・コリBまたはクレブシエラ・プランチコラの誘導体、およびさらに具体的にはエスケリキア・コリBL21(DE3)、E. coli RV308、E. coli DH5α、E. coli JM109、E. coli XL-1またはクレブシエラ・プランチコラ(Rf)株の誘導体が関与することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
微生物が、グラム陽性細菌株であることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
微生物が、グラム陽性細菌株であるスタフィロコッカス属、コリネバクテリア属またはバチルス属、具体的にはスタフィロコッカス・カルノスス、コリネバクテリウム・グルタミクム、バチルス・ズブチリス、バチルス・リケニホルミス、バチルス・アミロリケファシエンス、バチルス・グロビギイまたはバチルス・レントゥス、およびさらに具体的にはバチルス・リケニホルミスまたはバチルス・アミロリケファシエンス株の誘導体であることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
(c)の導入遺伝子が、非酵素タンパク質、具体的には薬理学的に関連するタンパク質、さらに具体的にはインスリンまたはカルシトニンをコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項2ないし14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
(c)の導入遺伝子が、酵素、好ましくは加水分解酵素または酸化還元酵素、特に好ましくはプロテアーゼ、アミラーゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、クチナーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼまたはラッカーゼをコードする遺伝子であることを特徴とする、請求項2ないし14のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載の選択方法を特徴とする、微生物株の細胞を培養してタンパク質を調製する方法。
【請求項18】
請求項2ないし16のいずれかに記載の選択方法を特徴とし、(c)の導入遺伝子が該方法で調製するタンパク質をコードする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
微生物の培養を液体培地、好ましくは発酵槽で行うことを特徴とする、請求項17ないし18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
目的タンパク質が周辺媒質へ分泌されることを特徴とする、請求項17ないし19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
請求項1ないし16のいずれかに記載の選択方法で得られる微生物。
【請求項22】
導入遺伝子を発現することを特徴とする、請求項21に記載の微生物。
【請求項23】
導入遺伝子を分泌することを特徴とする、請求項22に記載の微生物。
【請求項24】
以下を特徴とする、微生物を選択するための、必須転位活性をコードする遺伝子の使用:
(a) 該微生物に内在する必須転位活性を不活化する、および、
(b) (a)で不活化した必須転位活性をベクターを用いて回復する。
【請求項25】
以下を特徴とする、請求項24に記載の使用:
(c) (b)のベクターが導入遺伝子を含む。
【請求項26】
必須転位活性が以下の因子の内の1つであることを特徴とする、請求項24ないし25のいずれかに記載の使用:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfs/Scr)、FtsY/Srb、PrsAまたはYajC。
【請求項27】
必須転位活性が前タンパク質転位酵素の以下のサブユニットの1つであることを特徴とする、請求項26に記載の使用:SecA、SecY、SecE、SecDまたはSecF、好ましくはサブユニットSecA。
【請求項28】
不活化した内在性必須転位活性と同一の作用をする活性、好ましくは遺伝的に近い活性、特に好ましくは同一の活性によって、(b)の回復が行われることを特徴とする、請求項24ないし27のいずれかに記載の使用。
【請求項29】
配列表の配列番号:1、配列番号:3および配列番号:5にそれぞれ示した、バチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリおよびバチルス・リケニホルミスの遺伝子secAの転位活性を回復する領域によって、(b)の回復が行われることを特徴とする、請求項24ないし28のいずれかに記載の使用。
【請求項30】
(b)のベクターが微生物内で自己複製するプラスミドであることを特徴とする、請求項24ないし29のいずれかに記載の使用。
【請求項31】
前記プラスミドが、複数、好ましくは多数の複製数で複製するプラスミドであることを特徴とする、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
必須転位活性遺伝子および導入遺伝子(ただし、該導入遺伝子が唯一の導入遺伝子である場合は抗生物質耐性をコードしない)を含む、ベクター。
【請求項33】
導入遺伝子が薬理学的に関連する非酵素タンパク質、または加水分解酵素または酸化還元酵素をコードすることを特徴とする、請求項32に記載のベクター。
【請求項34】
コードされている転位活性、好ましくは遺伝的に近い活性、さらに好ましくは同一活性によって、微生物株に内在する不活化した必須転位活性を回復させることができることを特徴とする、請求項32ないし33のいずれかに記載のベクター。
【請求項35】
必須転位活性が以下の因子の内の1つであることを特徴とする、請求項32ないし34のいずれかに記載のベクター:SecA、SecY、SecE、SecD、SecF、シグナルペプチダーゼ、b-SRP(FfhまたはFfs/Scr)、FtsY/Srb、PrsAまたはYajC。
【請求項36】
必須転位活性が前タンパク質転位酵素の以下のサブユニットの1つであることを特徴とする、請求項35に記載のベクター:SecA、SecY、SecE、SecDまたはSecF、好ましくはサブユニットSecA。
【請求項37】
必須転位活性が、配列表の配列番号:1、配列番号:3および配列番号:5にそれぞれ示した、バチルス・ズブチリス、エスケリキア・コリまたはバチルス・リケニホルミスの遺伝子secAの内の1つであることを特徴とする、請求項32ないし36のいずれかに記載のベクター。
【請求項38】
微生物内で自己複製するプラスミドが関与することを特徴とする、請求項32ないし37のいずれかに記載のベクター。
【請求項39】
前記プラスミドが、複数、好ましくは多数の複製数で複製するプラスミドであることを特徴とする、請求項38に記載のベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−519022(P2006−519022A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504478(P2006−504478)
【出願日】平成16年2月27日(2004.2.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/001949
【国際公開番号】WO2004/078953
【国際公開日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(391008825)ヘンケル・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチエン (309)
【氏名又は名称原語表記】HENKEL KOMMANDITGESELLSCHAFT AUF AKTIEN
【住所又は居所原語表記】40191 Dusseldorf,Henkelstrasse 67,Germany
【Fターム(参考)】