説明

選択歯車式変速機の潤滑装置

【課題】選択歯車式変速機の潤滑装置において、変速軸の軸線方向に複数箇所に形成された径方向の分配孔から供給される潤滑油の量がそれぞれ適切な値となるようにする。
【解決手段】底部に潤滑油を収容したケーシング10内に回転可能かつ水平に支持された変速軸20は、軸線方向の複数箇所にそれぞれ変速歯車21A〜21Cを相対回転可能に支持し、少なくとも軸線方向の一端側の端面に潤滑油を導入する導入口20bを有する軸穴20aを備えている。変速軸20の各変速歯車21A〜21Cを設ける位置には外周面と軸穴とを連通する複数の分配孔20c〜20eを形成し、導入口に近い分配孔20c、20dには軸穴20a内に突出して変速軸20と各変速歯車の相対回転部分に供給される潤滑油の供給量を調整する油量調整管29a、29bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択歯車式変速機において、変速軸とその外周面に相対回転可能に支持された変速歯車との間の潤滑を行うための潤滑装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の選択歯車式変速機の潤滑装置としては、特許文献1に記載されたものがある。これは、底部に潤滑油を収容したケースと、ケース内に回転可能かつ水平に支持されたシャフトと、このシャフトにその軸線方向に沿って相対回転可能に支持された3つの変速ギヤと、このシャフトに同軸的に形成されて軸線方向の一端側の端面に潤滑油を導入する導入口を有する軸方向穴と、このシャフトの軸線方向複数箇所に径方向に形成されて複数の変速歯車を相対回転可能に支持するシャフトの外周面と軸穴とを連通する複数の径方向孔とを備えている。この選択歯車式変速機の潤滑装置においては、変速歯車の回転により連れ廻された潤滑油が案内壁と案内部に導かれて軸方向穴に導入され、導入口から導入された軸方向穴内の潤滑油はシャフトの回転による遠心力によってシャフトの軸方向穴の内周面に層状となって導入口の反対側に拡がり、各径方向孔からシャフトと各変速歯車との間の相対回転部分に供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−181168号公報(段落〔0013〕〜〔0018〕、図1、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような特許文献1に記載の選択歯車式変速機の潤滑装置においては、導入口から導入された軸方向穴の潤滑油はシャフトの回転による遠心力によってシャフトの軸方向穴の内面の全周に層状に拡がり、導入口の反対側に流れて、各径方向孔からシャフトと各変速歯車との間の相対回転部分に供給されている。各径方向孔からシャフトと各変速歯車との間に供給される潤滑油の油量は軸方向穴の各径方向孔のある部分の層状の潤滑油の厚さに比例すると考えられる。軸方向穴の層状の潤滑油の厚さは、シャフトの導入口に近い径方向孔のある部分では最も厚くなっているのに対し、潤滑油が導入口の反対側に流れるときの軸方向穴の内壁との流体摩擦や、軸方向穴の潤滑油がシャフトの導入口に近い径方向孔から導出されることによる油量の減少により、シャフトの導入口から離れた径方向孔のある部分では薄くなっていた。そのために、各径方向孔からシャフトと各変速歯車との間に供給される潤滑油の油量はシャフトの導入口から離れるに従って少なくなっていた。各径方向孔からシャフトと各変速歯車との間に供給される潤滑油の油量をシャフトの導入口からの距離に関わらず均一にするには、例えば、各径方向孔の直径をシャフトの導入口から離れるに従って太くしたり、各径方向孔の周方向に形成する数をシャフトの導入口から離れるに従って多くする必要がある。各径方向孔の直径を変更するには、径方向孔を穿設するときにシャフトの軸線方向の位置を変える度にドリル等の工具を付け替える必要があり、作業性が悪くなる問題があった。また、径方向孔の周方向に形成する数を変更したときには、径方向孔から供給される潤滑油の油量を段階的にしか変更できないので、各径方向孔から供給される潤滑油の油量が必ずしも均一あるいは適切な量とならないことがあった。本発明は、選択歯車式変速機の潤滑装置において、変速軸の軸線方向の複数箇所に形成された径方向の分配孔から供給される潤滑油の量がそれぞれ適切な値となるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このために、本発明による選択歯車式変速機の潤滑装置は、底部に潤滑油を収容したケーシングと、ケーシング内に水平にかつ回転可能に支持された変速軸と、この変速軸に相対回転可能に支持された複数の変速歯車と、この変速軸に同軸的に形成されて少なくとも軸線方向の一端側の端面に潤滑油を導入する導入口を有する軸穴と、変速軸の軸線方向複数位置に径方向に形成されて複数の変速歯車を相対回転可能に支持する変速軸の外周面と軸穴とを連通する複数の分配孔とを備え、導入口から軸穴内に導入された潤滑油を複数の分配孔から変速軸と複数の変速歯車の相対回転部分に供給するようにした選択歯車式変速機の潤滑装置において、少なくとも導入口に近い分配孔には軸穴内に突出して変速軸と変速歯車の相対回転部分に供給される潤滑油の供給量を調整する油量調整管を設けたことを特徴とする。
【0006】
前項に記載の選択歯車式変速機の潤滑装置において、変速軸の軸線方向に複数配置された分配孔の導入口に近い少なくとも2箇所以上に油量調整管を設け、各油量調整管の軸穴内の突出長は導入口に近いものを順に長くし、それから離れるにつれて順に短くするのが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
前述したように、この種の選択歯車式変速機の潤滑装置では、導入口から軸穴内に導入された潤滑油は変速軸の回転による遠心力によって軸穴の内周面に層状となって円周方向に拡がり、導入口から軸線方向との反対側に流れるが、導入口から離れた分配孔のある部分の軸穴内の潤滑油の層の厚さは導入口に近い分配孔のある部分より薄くなるので、導入口から離れた分配孔から供給される潤滑油の油量が導入口に近い分配孔より少なくなって、各分配孔から供給される潤滑油の供給量のバランスが必ずしも適切なものにならないというおそれがある。しかしながら、少なくとも導入口に近い分配孔には、軸穴内に突出して変速軸と変速歯車の相対回転部分に供給される潤滑油の供給量を調整する油量調整管を設けた請求項1の発明によれば、導入口に近い分配孔に軸穴内に突出する油量調整管を設けたので、導入口に近い分配孔から供給される潤滑油の油量を抑制して、軸線方向の複数箇所に配置された各分配孔から供給される潤滑油の量を適切なものとすることができる。
【0008】
変速軸の軸線方向に複数配置された分配孔の導入口に近い少なくとも2箇所以上に油量調整管を設け、各油量調整管の軸穴内の突出長は導入口に近いものを長くし、それから離れるにつれて順に短くした請求項2の発明によれば、変速軸の軸線方向に配置された各分配孔から供給される潤滑油の量を容易に適切なものとすることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による選択歯車式変速機の潤滑装置の一例の要部を示す長手方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図1により、本発明による選択歯車式変速機の潤滑装置を実施するための最良の形態の説明をする。図1は、本発明を選択歯車式変速機の中間軸20に適用した場合の例を示す。この潤滑装置が適用される選択歯車式変速機は、底部に潤滑油を収容したケーシング10内に回転可能かつ水平に中間軸(変速軸)20がころがり軸受11を介して支持されている。中間軸20の中央部分から左側部分の外周面にはニードル軸受を介して相対回転可能に3つの変速歯車21A〜21C(21Cは後進歯車である)が支持され、中間軸20の右側部分には減速小歯車21Dが一体的に設けられている。各歯車21A〜21Dは他の変速軸(図示しない)に支持された各歯車22A〜22D(いずれも一部を二点鎖線で示す)と常時噛合されている。
【0011】
変速歯車21A,21Bの間にはイナーシャロック型シンクロメッシュ機構が設けられており、変速歯車21A,21Bはその間の中間軸20の外周にスプライン係合により一体的に固定されたクラッチハブ23に係合されてシフトフォーク24により軸方向に移動するスリーブ25により中間軸20に選択的に連結されて変速を行うようになっている。
【0012】
変速歯車21Cの左側にはレバー型シンクロメッシュ機構が設けられており、変速歯車21Cはその左側の中間軸20の外周にスプライン係合により一体的に固定されたクラッチハブ26に係合されてシフトフォーク27により軸方向に移動するスリーブ28により中間軸20に選択的に連結されて変速を行うようになっている。また、なお、本実施形態における選択歯車式変速機は、シンクロメッシュタイプのものであるが、シンクロナイザリング等の同期装置は公知であるのでその説明は省略する。
【0013】
中間軸20には両端を貫通する軸穴20aが同軸的に形成されており、この軸穴20aは右側の開口を潤滑油の導入口20bとしている。また、中間軸20には、軸穴20aと各変速歯車21A〜21Cを回転自在に支持する位置の外周面とを連通する半径方向の複数の分配孔20c〜20eが形成されている。各分配孔20c〜20eは中間軸20の周方向に沿って2つ形成されている。分配孔20c、20dには軸穴20a内に僅かに突出する油量調整管29a、29bが圧入嵌合されており、これら油量調整管29a、29bは分配孔20c、20dから中間軸20と変速歯車21B、21Cとの相対回転部分に供給される潤滑油の供給量を調整するものである。軸穴20aの潤滑油の導入口20bに最も近い分配孔20cに嵌合されている油量調整管29aはその一つ左側の油量調整管29bと比べて軸穴20a内に長く突出している。これら油量調整管29a、29bの潤滑油が流入する各開口部と分配孔20eの潤滑油が流入する開口部の軸穴20aの中心線からの距離とは、軸穴20aの導入口20bに最も近い油量調整管29aが最も小さく、導入口20bから離れるにつれて大きくなっている。
【0014】
ケーシング10の右側の端部10aの内側には、ころがり軸受11を介して支持される中間軸20の一端部の端面と対向する位置に凹部10bが形成されており。凹部10bには筒部12aとこの筒部12aの一端縁から半径方向外向きに延びるフランジ部12bよりなる案内部材12が設けられている。案内部材12はフランジ部12bと凹部10bとの間に空隙Sを空けるようにして筒部12aが中間軸20の軸穴20a内に多少の隙間をおいて回転自在に挿入されており、フランジ部12bの外周部はケーシング10の端部10aの内側ところがり軸受11との間に嵌合固着されている。
【0015】
ケーシング10内には各変速歯車21A〜21Dの半径方向外側に中間軸20の軸方向に延びる上側が開放された樋状のオイルレシーバ13が設けられている。このオイルレシーバ13は中間軸20の軸穴20aの導入口20b側が下方となるように傾斜してケーシング10に支持されている。このオイルレシーバ13の下側となる右端部は空隙S内に連通している。
【0016】
上記のように構成した選択歯車式変速機の潤滑構造における作用及び効果について説明する。この選択歯車式変速機を作動させると、ケーシング10の底部に収容された潤滑油は各歯車(例えば歯車21A〜21D)により飛散されてケーシング10の側壁上部に向けて放出され、ケーシング10の側壁上部に付着した潤滑油の一部はオイルレシーバ13内に流れ落ちる。オイルレシーバ13に流れ落ちた潤滑油はその傾斜によって空隙Sに流入し、空隙S内に流入した潤滑油は案内部材12の筒部12aを通って導入口20bから軸穴20a内に入る。導入口20bから軸穴20aに導入された潤滑油は、中間軸20の回転による遠心力により軸穴20aの内周面に層状となって円周方向に拡がり、導入口20bから軸線方向と反対側に流れる。軸穴20a内の潤滑油は分配孔20c、20dに設けられた油量調整管29a、29b及び分配孔20eから各変速歯車21A〜21Cを回転自在に支持する中間軸20の外周面に供給され、各変速歯車21A〜21Cの支持部を潤滑する。
【0017】
上述した実施形態では、軸穴20a内に流入した潤滑油は分配孔20c、20dに設けた油量調整管29a,29b及び分配孔20eから各変速歯車21A〜21Cをニードル軸受を介して回転自在に支持する中間軸20の外周面に供給される。このとき、導入口20bから軸穴20a内に導入された潤滑油は、中間軸20の回転による遠心力により軸穴20aの内周面に層状となるように導入口20bからその反対側に拡がっていく(軸穴20a内の潤滑油の層Oを図1の二点鎖線にて示す)。このとき、軸穴20aの層状の潤滑油の厚さは、中間軸20の導入口20bに近い分配孔20cのある部分で最も厚くなっているのに対し、潤滑油が導入口20bの反対側に拡がるときの軸穴20aの内周面との流体摩擦や、軸穴20aの潤滑油が中間軸20の開口に近い分配孔20c(及び20d)の油量調整管29a(及び29b)から導出されることによる油量の減少により、中間軸20の導入口20bから離れた分配孔20eのある部分で薄くなる。しかし、各分配孔20c、20dには油量調整管29a、29bが設けられ、これらのうち導入口20bに近い油量調整管29aはこれより離れた油量調整管29bより軸穴20a内に長く突出している。これにより。各油量調整管29a、29b及び分配孔20eの潤滑油が流入する各開口部から層状の潤滑油の表面までの距離は略均等となる。よって、油量調整管29a、29b及び分配孔20cから各変速歯車21A〜21Cを回転自在に支持する中間軸20の外周面に供給される潤滑油は略同量あるいは、それぞれの要求量に応じた値とすることができ、各変速歯車21A〜21Cの支持部は一部が潤滑油不足となることなく潤滑される。
【0018】
本実施形態においては、選択歯車式変速機の中間軸20に適用したものについて説明したが、本発明はこれに限られるものでなく、例えば入力軸または出力軸に適用したものであってもよく、このようにしたときにも同様の作用効果を得ることができる。
【0019】
本実施形態においては、中間軸20の軸穴20aは両端を貫通したものであるが、本発明はこれに限られるものでなく、中間軸20の軸穴20aを一端側の導入口20bから他端部までで貫通させてないものであってもよく、このようにしたときにも同様の作用効果を得ることができる。
【0020】
本実施形態においては、中間軸20の分配孔20c〜20eは中間軸20の周方向に沿って2つ形成したものであるが、本発明はこれに限られるものでなく、各分配孔を変速軸の周方向に1つまたは3つ以上形成したものに適用してもよく、このようにしたときにも同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0021】
10…ケーシング、20…変速軸、21A〜21C…変速歯車、20a…軸穴、20b…導入口、20c〜20e…分配孔、29a、29b…油量調整管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部に潤滑油を収容したケーシングと、前記ケーシング内に水平にかつ回転可能に支持された変速軸と、この変速軸に相対回転可能に支持された複数の変速歯車と、この変速軸に同軸的に形成されて少なくとも軸線方向の一端側の端面に潤滑油を導入する導入口を有する軸穴と、前記変速軸の軸線方向複数位置に径方向に形成されて前記複数の変速歯車を相対回転可能に支持する前記変速軸の外周面と前記軸穴とを連通する複数の分配孔とを備え、前記導入口から前記軸穴内に導入された潤滑油を前記複数の分配孔から前記変速軸と前記複数の変速歯車の相対回転部分に供給するようにした選択歯車式変速機の潤滑装置において、
少なくとも前記導入口に近い前記分配孔には、前記軸穴内に突出して前記変速軸と前記変速歯車の相対回転部分に供給される潤滑油の供給量を調整する油量調整管を設けたことを特徴とする選択歯車式変速機の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載の選択歯車式変速機の潤滑装置において、前記変速軸の軸線方向に複数配置された分配孔の前記導入口に近い少なくとも2箇所以上に前記油量調整管を設け、各油量調整管の前記軸穴内の突出長は前記導入口に近いものを長くし、それから離れるにつれて順に短くしたことを特徴とする選択歯車式変速機の潤滑装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−24336(P2013−24336A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160229(P2011−160229)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】