説明

選択的セロトニン再取込阻害成分を含有する製剤

【課題】選択的セロトニン再取込阻害成分による副作用を抑制できる選択的セロトニン再取込阻害成分投与手段を提供すること。
【解決手段】貼付剤は、薬理活性成分として選択的セロトニン再取込阻害成分を含有する。更に、この貼付剤は、選択的セロトニン再取込阻害成分が実質的に一定速度で経皮吸収される形態である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的セロトニン再取込阻害成分を含有する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セロトニン再取込阻害剤は、セロトニントランスポーターに結合し、このセロトニントランスポーターが有するセロトニンの神経終末への再取込機能を阻害するため、シナプス間隙のセロトニン量を増加させる。
【0003】
うつ病の発症の一因がセロトニンの減少であると考えられていることから、セロトニン再取込阻害剤は、従来、抗うつ薬として使用されている。
即ち、うつ病患者にセロトニン再取込阻害剤を投与することにより、シナプス間隙のセロトニン量が増加するため、うつ状態が改善されるものと推定されている。
【0004】
しかし、セロトニン再取込阻害剤は、セロトニントランスポーターのみならず、種々の受容体の機能を阻害するため、口渇、排尿障害、起立性低血圧、めまい、眠気等の副作用を発現する場合がある。
【0005】
そこで、これらの副作用を軽減できる抗うつ薬として、選択的セロトニン再取込阻害剤(以下、「SSRI」とも称する)が注目されている。例えば特許文献1には、うつ病患者にSSRIを経口投与する手順を備えるうつ病処置方法が開示されている。
このうつ病処置方法によれば、うつ病患者に投与されたSSRIがセロトニントランスポーターに選択的に結合するので、上述したような副作用の発現を抑制できる。
【特許文献1】特開2002−20290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるうつ病処置方法には、SSRI投与を開始した初期段階において、嘔気、食欲低下、下痢等の消化器系副作用や、不眠、不安焦燥感等の中枢神経系副作用が発現するという問題が残っていた。
【0007】
本発明は、SSRIによる副作用を抑制できるSSRI投与手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した副作用の発現が、投与されたSSRIが急速に血中へと吸収されることにより、SSRI血中濃度が過度に上昇するためであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 選択的セロトニン再取込阻害成分を薬理活性成分として含有する貼付剤であって、前記選択的セロトニン再取込阻害成分が実質的に一定速度で経皮吸収されるような形態である貼付剤。
【0010】
(1)の発明によれば、SSRIの投与形式として貼付剤を採用し、この貼付剤からのSSRIの経皮吸収を実質的に一定速度となるような形態としたので、SSRI血中濃度が過度に上昇するのが抑制される。これにより、SSRIによる副作用を抑制できる。
【0011】
ここで、「実質的に一定速度で経皮吸収される」とは、貼付剤が適用された対象者における血中濃度が少なくとも適用後2時間は減少せず、且つ、適用者の血中濃度が100ng/mLを超えないような速度で経皮吸収されることを指す。このため、例えば、パップ剤のような経皮吸収速度が定まらない形態は除かれる。
【0012】
(2) 皮膚に与える刺激を低減化する皮膚刺激低減化成分を更に含有する(1)記載の貼付剤。
【0013】
SSRIは皮膚刺激性を有するため、貼付剤の形態で投与されるときに、使用者にかゆみ等の不快感を与える場合がある。
ここで(2)の発明によれば、皮膚刺激低減化成分を更に含有させたので、SSRIによる皮膚刺激が低減される。これにより、使用者に与える不快感を軽減できる。
【0014】
(3) 前記選択的セロトニン再取込阻害成分は、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン、シタロプラム、又はこれらの薬理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である(1)又は(2)記載の貼付剤。
【0015】
SSRIとしては、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン、シタロプラムが知られている。
ここで(3)の発明によれば、SSRIとして、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン、シタロプラム、又はこれらの薬理学的に許容できる塩を採用したので、従来の知見等を活用して、より容易にSSRIによる副作用を抑制できる。
【0016】
(4) 非水系テープ剤、非水系パッチ剤、又はリザーバ型貼付剤のいずれかの形態である(1)から(3)記載の貼付剤。
【0017】
非水系テープ剤、非水系パッチ剤、リザーバ型貼付剤は、貼付剤に含有される薬理活性成分の経皮吸収を調節できる。
ここで(4)の発明によれば、非水系テープ剤、非水系パッチ剤、リザーバ型貼付剤の形態を採用したので、SSRIの経皮吸収を実質的に一定速度とすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、SSRIの投与形式として貼付剤を採用し、この貼付剤からのSSRIの経皮吸収を実質的に一定速度となるような形態としたので、SSRI血中濃度が過度に上昇するのが抑制される。これにより、SSRIによる副作用を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
本発明の貼付剤は、SSRIを薬理活性成分として含有し、このSSRIが実質的に一定速度で経皮吸収される貼付剤である。また、SSRIによる皮膚刺激が低減される点で、皮膚刺激低減化成分を更に含有することが好ましい。
【0021】
<SSRI>
SSRIは、セロトニントランスポーターに選択的に結合し、このセロトニントランスポーターによるセロトニン再取込を阻害する。
【0022】
SSRIとしては、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン、シタロプラム、又はこれらの薬理学的に許容できる塩が使用できる。薬理学的に許容できる塩としては、マレイン酸フルボキサミン、塩酸パロキセチン水和物、塩酸セルトラリン、塩酸フルオキセチン、臭化水素酸シタロプラム等が挙げられる。このうち、貼付剤に含有させるSSRIとしては、経皮吸収性を向上できる点で、フルボキサミンが好ましい。
【0023】
なお、採用するSSRIが常温下で液体でない場合、このSSRIを溶解させる溶剤を含有させることが好ましい。
【0024】
<形態>
本発明の貼付剤は、薬理活性成分が実質的に一定速度で経皮吸収される形態である。このような形態としては、非水系テープ剤、非水系パッチ剤、リザーバ型貼付剤が挙げられる。
【0025】
〔非水系テープ剤・非水系パッチ剤〕
非水系テープ剤は、支持体上に、薬物保持層と粘着剤層とが均一に混合された層が積層された構造を有する。非水系パッチ剤は、支持体上に、薬物保持層と粘着剤層とが順次積層され、別々に配置された構造を有する。
【0026】
非水系テープ剤又は非水系パッチ剤は、通常、円形や矩形であり、面積が1〜500cmである。
【0027】
[支持体]
支持体としては、特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン等の伸縮性又は非伸縮性の織布、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル等のフィルム、あるいはウレタン、ポリウレタン等の発泡性支持体が挙げられる。これらは、単独で使用してもよく、あるいは複数種が積層されたものを使用してもよい。
【0028】
[薬物保持層]
薬物保持層には、上述したSSRIが薬理活性成分として含有される。また、薬物保持層には、SSRIによる皮膚刺激が低減される点から、皮膚刺激低減化成分が更に含有されることが好ましい。皮膚刺激低減化成分としては、ハイドロキノン配糖体、パンテチン、トラネキサム酸、レシチン等が挙げられる。
【0029】
[粘着剤層]
粘着剤層を構成する粘着基剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤等の感圧性粘着剤が挙げられる。
【0030】
(アクリル系粘着剤)
アクリル系粘着剤は、アクリル系単量体の(共)重合体を主成分とする。アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル残基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられる。
【0032】
アクリル系粘着剤は、トルエン、ヘキサン、酢酸エチル等の有機溶剤中で、過酸化ベンゾイル等の過酸化物等を開始剤として使用し、モノマーを窒素雰囲気下で重合することにより作成できる。この方法により得られるアクリル系粘着剤は、溶剤型アクリル系粘着剤と呼ばれている。また、モノマーを水中で乳化剤によって乳化させ分散させた後に、重合することで得られるエマルジョン型アクリル系粘着剤も使用できる。
【0033】
アクリル系粘着剤を架橋するには、重合後、アクリル系粘着剤を多価イソシアネート系架橋剤(「ポリイソシアネート系架橋剤」ともいう)、多価エポキシ樹脂系架橋剤、多価金属系架橋剤等の架橋剤を用いればよい。これらの架橋剤は、通常、粘着剤組成物を調製する際に、その中に添加される。架橋剤の種類としては、他に尿素樹脂やポリアミンがあるが、粘着剤組成物中で薬物と反応する場合があるため、これらの架橋剤を使用する場合は、薬物との反応性を考慮する必要がある。また、電子線照射によって架橋する場合、電子線照射によって薬物が他の成分と反応したり、変質したりするおそれがある。したがって、薬物を含有するアクリル系粘着剤と安定して架橋反応する点で、多価イソシアネート系架橋剤、多価エポキシ樹脂系架橋剤、及び多価金属系架橋剤を使用することが好ましい。
【0034】
アクリル系粘着剤を架橋して凝集性を付与することにより、皮膚表面に対する適度な粘着力を保持しつつ、皮膚から剥離される際に糊が皮膚に残留することを抑制できる。架橋剤の使用量は、粘着特性、凝集性、薬理活性成分のブリーディング等を考慮して適宜選択すればよいが、アクリル系粘着剤(アクリル系重合体成分)100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜2質量部である。アクリル系粘着剤には、必要に応じて、軟化剤や経皮吸収促進剤のような液状成分を配合することもできる。
【0035】
(ゴム系粘着剤)
ゴム系粘着基剤は、粘着性及び薬理活性成分の放出性に優れる。
ゴム系粘着基剤としては、エラストマー100質量部に対して、粘着付与樹脂を通常50〜250質量部の範囲で添加し、さらに必要に応じて、軟化剤、経皮吸収促進剤、充填剤、酸化防止剤等を配合する。ゴム系粘着剤のエラストマー成分としては、例えば、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS共重合体)、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS共重合体)等が挙げられる。
【0036】
SIS共重合体としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができ、スチレンとゴムの比率(質量%)が10/90〜30/70のものが一般的に用いられ、その溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)は、約100〜3000のものが一般的であり用いることができる。また、好ましくは、スチレンとイソプレンの質量比(スチレン/イソプレン)が20/80〜25/75のものが挙げられる。
【0037】
以上のようなSIS系樹脂の市販品の例としては、スチレン/ゴム比(質量%)が15/85で、溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が1.500のもの(「クレイトンD−1107(商品名)」)、スチレン/ゴム比(質量%)が15/85で、溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が900のもの(「クレイトンD−1112(商品名)」)、スチレン/ゴム比(質量%)が17/83で、溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が500のもの(「クレイトンD−1117P(商品名)」)、スチレン/ゴム比(質量%)が22/78のもの(「クレイトンD−KX401(商品名)」)、スチレン/ゴム比(質量%)が16/84のもの(「クレイトンD−KX406(商品名)」)、スチレン/ゴム比(質量%)が30/70で、溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が300のもの(「クレイトンD−1125x(商品名)」)、スチレン/ゴム比(質量%)が10/90で、溶液粘度(MPa・s〔cps〕、25℃)が2,500のもの(「クレイトンD−1320x(商品名)」)等(いずれもクレイトンポリマージャパン社製)が挙げられる。いずれも単独で使用してもよく、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
SIS共重合体としては、スチレン含有質量の比率が高いものが好ましく、例えば、スチレン/ゴム比(質量比)が22/78である「クレイトンD−KX401(商品名)」が使用できる。
【0039】
(シリコン系粘着剤)
シリコン系粘着剤としては、ポリジメチルシロキサン等のシリコンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA系粘着剤)が挙げられる。
【0040】
[その他]
(放出制御膜)
非水系テープ剤又は非水系パッチ剤は、SSRIの経皮吸収を精密に調節できる点で、SSRIの放出制御膜を更に備えることが好ましい。放出制御膜としては、多孔質ポリエチレン膜、多孔質ポリプロピレン膜等が挙げられる。
【0041】
(剥離ライナー)
非水系テープ剤又は非水系パッチ剤は、貼付剤の使用時に、粘着剤層から剥離される剥離ライナーを備えてもよい。剥離ライナーの素材は、薬物及び水に非透過性の素材であればよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンビニルアセテート、ポリエチレンテレフタレート等の高分子フィルム、アルミニウム、亜鉛等の金属箔、紙、及び繊維からなる群より選ばれる1種で形成されるフィルム、又は上記群より選ばれる2種以上の素材が積層されたラミネートフィルムが挙げられる。粘着剤層に接着される側の剥離ライナーの面には、シリコン等で薄いコーティング膜を施してもよい。
【0042】
粘着剤層には、必要に応じて、粘着付与剤、可塑剤、経皮吸収促進剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤等を配合できる。
【0043】
(粘着付与剤)
ゴム系粘着剤は粘着力が比較的弱いため、粘着付与剤を配合することが好ましい。粘着付与剤としては、例えば、脂環族飽和炭化水素樹脂(「アルコンP100(商品名)」)、脂肪族炭化水素樹脂(ポリブテン)、脂環族不飽和炭化水素樹脂、ロジンエステル、水素添加ロジングリセリンエステル、テルペン樹脂が挙げられる。
【0044】
粘着付与剤は、エラストマー100質量部に対して、通常50〜250質量部で配合され、薬物や経皮吸収促進剤等も含めた粘着剤成分全量に対して、通常10〜50質量%、好ましくは25〜40質量%となるように配合される。
【0045】
(経皮吸収促進剤)
経皮吸収促進剤としては、従来皮膚での吸収促進作用が認められている化合物のいずれでもよい。具体例としては、炭素鎖数6〜20の脂肪酸、脂肪アルコール、脂肪酸エステル、アミド、又はエーテル類、芳香族系有機酸、芳香族系アルコール、芳香族系有機酸エステル又はエーテル(以上は飽和、不飽和のいずれでもよく、環状、直鎖状分枝状のいずれでもよい)、乳酸エステル類、酢酸エステル類、モノテルペン系化合物、セスキテルペン系化合物、アゾン、アゾン誘導体、ピロチオデカン、グリセリン脂肪酸エステル類、プロピレングリコール脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類ポリソルベート系、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ショ糖脂肪酸エステル類、植物油等が挙げられる。
【0046】
(可塑剤)
可塑剤としては、ハイシスポリイソプレンゴム、ポリブテン、ポリイソブチレン等の液状ゴム;プロセスオイル、エキステンダーオイル、流動パラフィン等の石油系軟化剤;ミリスチン酸イソプロピルやパルミチン酸イソプロピル等の高級脂肪酸エステル;等が挙げられる。軟化剤は、必要に応じて、粘着剤成分全量に対して、通常0〜15質量%、好ましくは0〜5質量%で用いられる。
【0047】
(充填剤)
充填剤としては、シリカ等の酸化珪素、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等が挙げられる。充填剤は、必要に応じて、粘着剤成分全量に対して、通常0〜15質量%、好ましくは0〜5質量%で用いられる。
【0048】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)やジブチルヒドロキシアニソール(BHA)等のフェノール系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、ゴム系粘着剤を用いる場合に有効であり、その使用量は、粘着剤成分全量に対して、通常0.2〜2質量%、好ましくは0.5〜1質量%である。
【0049】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、p−アミノ安息香酸誘導体、アントラニル酸誘導体、サリチル酸誘導体、クマリン誘導体、アミノ酸系化合物、イミダゾリン誘導体、ピリミジン誘導体、ジオキサン誘導体等が挙げられる。
【0050】
〔リザーバ型貼付剤〕
リザーバ型貼付剤は、支持体上に薬物貯蔵層が形成され、この薬物貯蔵層上に放出制御膜及び粘着剤層が積層された構造を有する。なお、非水系テープ剤又は非水系パッチ剤と共通するものについては、その説明を省略又は簡略化する。
【0051】
リザーバ型貼付剤は、通常、円形や矩形であり、面積が8〜200cmである。薬物貯蔵層の面積は、4〜60cm程度が好ましい。
【0052】
[支持体]
支持体は、液状又はゲル状の薬剤に対して実質的に非透過性で、且つ、外部からの湿気及び空気に対して非透過性であって、皮膚又は粘膜面の動きに追随性のある素材であればよい。ただし、支持体は、放出制御膜とヒートシールされるため、ヒートシール可能な素材であることが好ましい。
【0053】
支持体の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、エチレンビニルアルコール共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンーメタクリル酸共重合体、ポリウレタンから選択される高分子から選ばれるフィルムが適当である。例えば、ポリエチレン−ポリ塩化ビニリデン−ポリエチレンの積層フィルムが用いられる。また、これらの素材とアルミニウム箔等の金属箔から選ばれる1種以上のフィルムとが積層された材料も好適に使用できる。
【0054】
上記の高分子フィルムにアルミニウム等の金属を蒸着したフィルム、又は発泡フィルム、紙等との積層体も使用できる。
【0055】
ただし、支持体と放出制御膜とがヒートシール(溶融シール)されることから、放出制御膜に対向する支持体の面にはヒートシール可能な素材のフィルムを用いる必要がある。
【0056】
[放出制御膜]
放出制御膜は、適宜の速度で薬物含有液又はゲルを透過できるものである。放出制御膜としては例えば微孔質又は多孔質のフィルムを使用できる。例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体等のフィルムを使用できる。このうち、多孔質ポリエチレンフィルムや多孔質エチレン酢酸ビニル共重合体フィルム等は、強度や風合い、ヒートシール等の加工性に優れる点で好ましい。
【0057】
[粘着剤層]
粘着剤層は、リザーバ型貼付剤を皮膚に接着固定するだけでなく、放出制御膜と共に薬理活性成分及び吸収促進剤等の放出性にも関与する。よって、優れた皮膚への接着性や剥離性を得るため、上述したような粘着付与剤や可塑剤等を必要に応じて配合してよい。
【0058】
(無機塩)
粘着剤層に無機塩を配合し、均一に分散させると、高分子ポリマー間の結合が弱まり、無機塩が溶解することによって粘着剤層内が部分的に空隙化することで、薬物や吸収促進剤の通過を促進できる。無機塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の無機酸塩が使用される。無機酸の例としては、塩酸、硫酸、リン酸、炭酸等が挙げられる。無機塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸バリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。硫酸バリウムのような水不溶性の塩の場合には、微粒子の塩と粘着剤との僅かな空隙を薬物や吸収促進剤が通過するものと考えられる。
【0059】
粘着剤層に含まれる無機塩の粒子径が大きい場合には、塗工過程で均一な粘着剤層を得るのが困難になることから、水分による溶解を促すためにも、無機塩をサンプルミル等の粉砕機で粉砕し、粒子径を小さくする必要がある。しかし、極端な微粒子化を行うと、粒子同士間で再凝集が起こり、見かけ上不均一な粒子になりやすい。従って、塩の粒子径は5〜50μmであることが好ましく、約30μmが最も適している。無機塩の含有量は、粘着剤層の総質量に対して35〜70質量%が適当である。
【0060】
(水溶性高分子)
粘着剤層に水溶性高分子を配合し均一に分散させることによって、無機塩の場合と同様に、高分子ポリマー間の結合が弱まり、溶解や膨潤、ゼリー化により粘着剤層内が部分的に空隙化され、薬物や吸収促進剤の通過を促進できる。粘着剤層に含まれる水溶性高分子は、水を含むと溶解又はゼリー状になるものであれば、特に限定されない。水溶性高分子の例としては、ペクチン、カラヤガム、グアーガム、ジェランガム、キサンタンガム等が挙げられる。水溶性高分子の含有量は、粘着剤層の総質量に対して35〜70質量%が適当である。
【0061】
[接着部位]
ヒートシールは、放出制御膜と支持体層とを接着するために行われる。ヒートシールによる接着部位は、放出制御膜の薬物貯蔵層よりも外側の外周部分に、1個又は複数個設けられる。強度等の関係上、通常は、同心円状に適宜の間隔で複数個の接着部位が設けられるのが好ましい。シールの幅は好ましくは1〜6mmであり、シール同士の間隔(トラック間の間隔)は好ましくは1〜15mmである。薬剤含有液又はゲルがそのヒートシール部からの漏出を抑制するため、接着部位は支持体フィルムと放出制御膜とが完全に固着されるように形成される。
【0062】
[薬物貯蔵層]
薬物貯蔵層には、水溶性又は親水性の薬剤液体成分が含有される。薬物貯蔵層中に封入される薬剤液体成分の形態としては、液状の他、ゲルやクリーム等の半固形状でもよい。薬剤は、薬理活性成分と、必要に応じて、剤型ごとに必要な成分、例えば基剤、補助剤、添加剤とを組み合わせて、常法に従って製造できる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0064】
<実施例1>
フルボキサミン、アクリル酸メチル・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体樹脂エマルジョン(「ニカゾールTS−620(商品名)」、日本カーバイト工業社製)を混合し、支持体であるポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム上に塗膏し乾燥させた後、剥離ライナーを貼り合せてテープ剤を得た。
【0065】
<実施例2>
SIS共重合体(「クレイトンD−1112CP(商品名)」、クレイトンポリマージャパン社製)、水素添加ロジングリセリンエステル(「エステルガムH(商品名)」、荒川化学工業社製)、流動パラフィン(「モレスコホワイト(商品名)」、松村石油研究所製)、フルボキサミン、及びトルエンを混合した。この混合物を、支持体であるポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム上に塗膏後、溶剤であるトルエンを乾燥除去した後、剥離ライナーを貼り合せてテープ剤を得た。
【0066】
<実施例3>
アクリル酸メチル・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体樹脂エマルジョンの代わりに、メタクリル酸・アクリル酸n−ブチル共重合体(「ウルトラゾールW−50(商品名)」、ガンツ化成社製)を用いたことを除き、実施例1と同様にしてテープ剤を得た。
【0067】
<実施例4>
フルボキサミンの代わりに、マレイン酸フルボキサミンを用いたことを除き、実施例1と同様にしてテープ剤を得た。
【0068】
<実施例5>
フルボキサミンの代わりに、マレイン酸フルボキサミンを用いたことを除き、実施例2と同様にしてテープ剤を得た。
【0069】
<実施例6>
フルボキサミンの代わりに、マレイン酸フルボキサミンを用いたことを除き、実施例3と同様にしてテープ剤を得た。
【0070】
<比較例>
フルボキサミンを用いなかったことを除き、実施例2と同様にしてテープ剤を得た。
【0071】
以上の実施例1〜6及び比較例において得られたテープ剤の組成は、表1に示す通りとした。
【0072】
【表1】

【0073】
[試験例]
各投与形式におけるSSRIの吸収速度を評価するために、以下の手順で試験を行った。
【0074】
上述した実施例6において作製したテープ剤を、24cm(4cm×6cm)、48cm(6cm×8cm)の大きさに裁断した。各テープ剤を4匹のヘアレスラットの腹部位に貼付した後、ガーゼで覆い、更に粘着性包帯によって被覆した。
【0075】
一方、対照区として、10mg/mLに調整したマレイン酸フルボキサミン水溶液2mLを、4匹のヘアレスラットに強制的に経口投与した。
【0076】
各ヘアレスラットを個別ゲージに戻し、貼付後0.5、1、2、4、8、24時間において、エーテル麻酔下で上腕静脈から血を採取した。この血を遠心分離し、分離された血漿を試料として、HPLCによってフルボキサミンの血中濃度を測定した。この結果を図1に示す。
【0077】
図1に示されるように、経口投与が行われたラットでは、投与後1時間の間にフルボキサミンの血中濃度が3000ng/mLを超えて急激に上昇すると共に、投与後2時間以内に血中濃度の減少が開始した。一方、テープ剤による投与が行われたラットでは、フルボキサミンの血中濃度が投与後8時間まで徐々に上昇し、血中濃度の最大値が経口投与の場合よりも低く、3000ng/mL以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上の結果から、貼付剤としてのテープ剤による投与形式によれば、フルボキサミン血中濃度が3000ng/mLを超えて過度に上昇するのが抑制されたことから、SSRIによる副作用を抑制できることが予想された。
【0079】
更に、貼付剤としてのテープ剤による投与形式によれば、フルボキサミンの血中濃度が投与後長時間に亘って減少しなかったことから、うつ病等の処置に有用であることが予想された。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の貼付剤の投与によるSSRI血中濃度の経時的変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択的セロトニン再取込阻害成分を薬理活性成分として含有する貼付剤であって、
前記選択的セロトニン再取込阻害成分が実質的に一定速度で経皮吸収されるような形態である貼付剤。
【請求項2】
皮膚に与える刺激を低減化する皮膚刺激低減化成分を更に含有する請求項1記載の貼付剤。
【請求項3】
前記選択的セロトニン再取込阻害成分は、フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン、シタロプラム、又はこれらの薬理学的に許容できる塩からなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2記載の貼付剤。
【請求項4】
非水系テープ剤、非水系パッチ剤、又はリザーバ型貼付剤のいずれかの形態である請求項1から3記載の貼付剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−284378(P2007−284378A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113128(P2006−113128)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000174622)埼玉第一製薬株式会社 (31)
【Fターム(参考)】