説明

選択透過膜型反応器及び水素製造方法

【課題】自己加熱式改質反応を利用することにより反応に必要な熱を効率よく供給して水素を製造する水素選択透過膜を備えた選択透過膜型反応器、及び水素製造方法を提供する。
【解決手段】選択透過膜型反応器100は、一端部がガスの入口11で、他端部がガスの出口12である筒状の反応管1と、反応管1内に挿入された、表面に選択透過膜3を有する有底筒状で基材部分が多孔質の分離管2と、反応管1と分離管2との間に配置された化学反応を促進する触媒層4とを有する。さらに、選択透過膜3から離れた位置に、反応管1のガス流れ方向に延びてそのガス流れ方向に分散して触媒層4へ酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メタン、ブタン、灯油等の炭化水素やメタノール、エタノール、ジメチルエーテル等のアルコール類、エーテル類、ケトン類を主たる原料ガスとし、改質反応等を利用して、水素を生成させ、分離して取り出すために使用される選択透過膜型反応器と、それを用いた水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は石油化学の基本素材ガスとして大量に使用され、特に近年、燃料電池等の分野において、クリーンなエネルギー源として水素が注目されていることとも相俟って、利用の拡大が期待されている。このような目的に使用される水素は、メタン、ブタン、灯油等の炭化水素やメタノール、エタノール、ジメチルエーテル等のアルコール類、エーテル類、ケトン類を主たる原料ガスとして、水蒸気や二酸化炭素の改質反応、あるいは部分酸化反応、分解反応等を利用して生成され、分離精製プロセスを経て得られる。分離方法としては、例えばパラジウム合金膜に代表される水素分離膜などが検討されている。
【0003】
近年、この水素の製造には、前記のような反応と分離とを同時に行うことのできる選択透過膜型反応器(メンブレンリアクタ)が注目されている(例えば、特許文献1)。ここで使用されている選択透過膜型反応器は、一端部がガスの入口で、他端部がガスの出口である反応管と、当該反応管内に挿入された、表面に水素を選択的に透過させる選択透過膜を有する基材部分が多孔質の分離管と、反応管と分離管との間に配置された、炭化水素の改質反応を促進する改質反応触媒とを有する。
【0004】
選択透過膜型反応器は、可逆反応系において生成物を選択的に反応系外へと除外することにより、見かけ上、平衡反応率を超えて反応が進行するという利点を有する(引き抜き効果)。改質反応は吸熱反応であるため、反応のための熱供給が必要である。一般には、外部加熱方式(バーナーや電気炉などによる外部からの加熱)が採用されている。一方で、改質反応の原料ガスに一部空気を加え、燃焼反応を起こすことにより燃焼反応と改質反応を同時に行い、改質反応に必要な熱を与える方式(自己加熱式改質反応)が知られている。
【0005】
一般には改質反応と燃焼反応の触媒は異なるため、自己加熱式改質反応を利用する場合、それぞれに適したものを配置する必要がある。例えば、メタンの改質反応と燃焼反応はそれぞれ下記の反応式で示される。
メタン改質反応:CH+2HO→CO+4H ΔH298=165kJ/mol
メタン燃焼反応:CH+2O→CO+2HO ΔH298=−803kJ/mol
【0006】
【特許文献1】特開2005−58823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、改質反応に比べて燃焼反応の反応速度は速いとされている。そのため、自己加熱式改質反応を利用する場合に空気(酸素)供給を一度に行うと、局所的に燃焼反応が進行してしまう恐れがあり、触媒層全体に熱を供給できずに熱効率が低下する問題がある。また急激な燃焼反応が生じた場合、その反応熱により反応器の耐熱温度を超えてしまう恐れがあり危険である。さらに、選択透過膜近傍にて急激な燃焼反応が生じた場合、膜が高温に曝されることになり、膜の耐久性に問題が生ずる可能性がある。
【0008】
本発明の課題は、自己加熱式改質反応を利用することにより反応に必要な熱を効率よく供給して水素を製造する水素選択透過膜を備えた選択透過膜型反応器、及び水素製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、反応管のガス流れ方向に分散して触媒層へ酸素を供給する酸素含有ガス供給部を備えることにより、上記課題を解決しうることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下の選択透過膜型反応器、及びそれを用いた水素製造方法が提供される。
【0010】
[1] 一端部がガスの入口で、他端部がガスの出口である反応管内に、水素選択透過能を有する選択透過膜を備える分離管と、化学反応を促進する触媒層と、前記選択透過膜から離れた位置に、前記反応管のガス流れ方向に延びてそのガス流れ方向に分散して前記触媒層へ酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、を有する選択透過膜型反応器。
【0011】
[2] 前記酸素含有ガス供給部は、前記選択透過膜側に酸素含有ガスを排出する供給口を有する前記[1]に記載の選択透過膜型反応器。
【0012】
[3] 前記酸素含有ガス供給部は、内部が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部とされ、壁面に前記供給口が形成された供給管である前記[2]に記載の選択透過膜型反応器。
【0013】
[4] 前記酸素含有ガス供給部は、内部が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部とされ、壁面が多孔質体により形成され、前記壁面が酸素含有ガスを排出する供給口とされた前記[1]に記載の選択透過膜型反応器。
【0014】
[5] 複数の前記酸素含有ガス供給部が、前記分離管を取り巻くように配置された前記[2]〜[4]のいずれかに記載の選択透過膜型反応器。
【0015】
[6] 反応器内部に前記酸素含有ガス供給部と前記触媒層と前記分離管の三重構造を有し、反応器内壁より内側に前記分離管を備える前記[2]〜[4]にいずれかに記載の選択透過膜型反応器。
【0016】
[7] 前記酸素含有ガス供給部は、前記反応管のガス流れ方向において、前記分離管よりも前記ガスの入口側により多くの酸素含有ガスを供給する供給構造を有する前記[1]〜[6]のいずれかに記載の選択透過膜型反応器。
【0017】
[8] 前記触媒層は、前記選択透過膜側に改質触媒と、前記酸素含有ガス供給部側に燃焼触媒が配置された前記[1]〜[7]のいずれかに記載の選択透過膜型反応器。
【0018】
[9] 前記[1]〜[8]のいずれかに記載の選択透過膜型反応器に、水蒸気量が原料の炭化水素に対してモル比にてS/C(Steam/Carbon)=1〜3、全酸素量が原料の炭化水素に対してO/C=0.1〜1.2となるように供給する水素製造方法。
【0019】
[10] 前記反応管のガス流れ方向において、前記触媒層のみの領域を予備改質領域、前記触媒層と前記選択透過膜が設置される領域を本改質領域としたときに、前記予備改質領域において、原料となる前記ガスの炭化水素の25%以上を反応させ、残りを前記本改質領域で反応させる前記[9]に記載の水素製造方法。
【発明の効果】
【0020】
酸素含有ガス供給部を設け、ガス流れ方向に分散して酸素含有ガスを触媒層に供給することにより、改質反応における吸熱と燃焼反応における発熱のバランスをよくして、効率よく熱を供給して反応を促進させることができる。つまり分散して空気(酸素)を供給し、発熱量を制御することで、局所的な無駄な発熱を抑え、効率よく熱供給を行って水素を製造することができる。さらに、選択透過膜型反応器の内部が、局所的に高温となることを防ぐことができるため、選択透過膜の耐久性を向上させることができる。本方式では、反応に必要な熱を反応器内部から供給できることから、高い熱効率を達成できる。さらに、外部からの加熱が不要になるため、システムのコンパクト化も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0022】
(実施形態1)
図1及び図2は、本発明の選択透過膜型反応器の一実施形態を模式的に示す図であり、図1は中心軸を含む平面で切断した断面図であり、図2は、平面図である。図1及び図2に示すように、本実施形態の選択透過膜型反応器100は、一端部がガスの入口11で、他端部がガスの出口12である筒状の反応管1と、反応管1内に挿入された、表面に選択透過膜3を有する有底筒状で基材部分が多孔質の分離管2と、反応管1と分離管2との間に配置された化学反応を促進する触媒層4とを有する。
【0023】
さらに、選択透過膜3から離れた位置に、反応管1のガス流れ方向に延びてそのガス流れ方向に分散して触媒層4へ酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部20を有する。酸素含有ガス供給部20は、内部が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部21とされ、選択透過膜側の壁面に酸素含有ガスを排出する供給口22が形成された供給管である。酸素含有ガス供給部20の材質はステンレス等の各種金属材料やセラミックス材料などが用いられる。複数の酸素含有ガス供給部20が、図2に示すように、分離管2の外周側に分離管2を取り巻くように配置されている。
【0024】
酸素含有ガス供給部20は、図3に示すように、そのガス流れ方向に複数の供給口22が並んで形成されている。供給口22は、酸素含有ガス流通部21を流通する酸素含有ガスを触媒4に供給するために、分離管2に向くように配置されている。また、供給口22は、酸素含有ガスを効率よく触媒4に供給するために、酸素含有ガス流通方向に対して鋭角となるように斜めに形成されるとよい。酸素供給量は、ガス流れ方向に対して上流部においてより必要とされる場合が多いため、酸素含有ガス供給部20は、反応管1のガス流れ方向において、分離管2よりもガスの入口側により多くの酸素含有ガスを供給する供給構造を有するように構成するとよい。具体的には、供給口22の個数を上流側で多く、下流側で少なくしてもよいし、供給口22の間隔を上流側で狭く、下流側で広くしてもよい。また、酸素含有ガス供給部20そのものを多孔質体としてもよい。
【0025】
触媒層4はペレット形状で、反応管1と分離管2との間の空隙にパックドベッド(Packed Bed)状に充填された触媒により形成されている。なお触媒層4は、フォーム状又はハニカム状に形成された担体に触媒が担持されたもの、または触媒自身をペレット状、フォーム状又はハニカム状に成形したもの等であってもよい。本実施形態の選択透過膜型反応器100は、選択透過膜3がPd膜又はPd合金膜(以下、Pd系合金膜ともいう)であり、図1に模式的に示すように、触媒層4が選択透過膜3側の第一触媒層4aと選択透過膜3から離れた酸素含有ガス供給部20側の第二触媒層4bから形成されている。第一触媒層4aは、改質触媒、第二触媒層4bは、燃焼触媒を有する。入口11から供給された改質ガスが、この触媒層4に接触して、改質ガス中の炭化水素類と水とを反応させて水素と二酸化炭素を生成させるものである。
【0026】
改質触媒4aとして、例えばニッケル−アルミナや、ルテニウム−アルミナを用いることができる。例えばメタンの水蒸気改質では、下記式(1)に示す改質反応、及び下記式(2)に示すシフト反応が促進されることによって、メタンが水素、一酸化炭素、二酸化炭素等の反応生成物に分解され、これらの反応生成物を含む混合ガス(生成ガス)が得られる。
CH+HO → CO+3H …(1)
CO+HO → CO+H …(2)
上記改質触媒4aを第一触媒層4aに配置することにより、改質反応を促進することができる。
【0027】
燃焼触媒4bとして、ロジウム−アルミナや、パラジウム−アルミナ、白金−アルミナを用いることができる。メタンの燃焼反応では、下記式(3)に示す反応により、二酸化炭素と水が得られる。
CH+2O → CO+2HO …(3)
上記燃焼触媒4bを第二触媒層4bに配置することにより、燃焼反応を促進することができる。
【0028】
図7に示すような従来の選択透過膜型反応器150では、酸素を含んだ反応ガスを一度に供給すると反応器150内において、反応速度の違いにより見かけ上、燃焼反応が優先して生じ、続いて改質反応が生じるため、反応器150のガスの入口側が発熱ゾーン、出口側が吸熱ゾーンとなり反応器150内に温度分布が発生してしまい、入口側にて急激な温度上昇の危険性があった。また選択透過膜3近傍にて燃焼反応が生じ、選択透過膜3が高温にさらされ、選択透過膜が破損する可能性があった。
【0029】
図1に示すように、ガス流れ方向に分散して酸素を触媒層4に供給することにより、改質反応における吸熱と燃焼反応における発熱のバランスがよくなり、効率よく熱を供給して反応を促進させることができる。つまり分散して空気(酸素)を供給し、発熱量を制御することで、局所的な無駄な発熱を抑え、効率よく熱供給を行うことができる。また、触媒層4に、改質触媒を有する第一触媒層4aと、燃焼触媒を有する第二触媒層4bとを備えるように構成することにより、選択透過膜3の高温暴露を避けることができる。
【0030】
つまり、ガス流れ方向に分散して形成される酸素含有ガスの供給口22から、燃焼触媒を有する第二触媒層4bに酸素が供給されることにより、燃焼反応が発生し、続いて第一触媒層4aにより改質反応が発生することにより、効率よく水素を生成することができる。触媒の配置を調整することにより、改質反応と燃焼反応が起こる位置を制御することができ、選択透過膜3の近傍に改質触媒、その外周に燃焼触媒を配置することで、膜の高温暴露を避け、結果として選択透過膜3の耐久性向上につながる。
【0031】
ここで、反応管1の触媒層4に供給される炭素(C)に対する酸素(O)は、以下のように調整することが望ましい。すなわち、水(HO)を蒸気として供給し、水蒸気が原料の炭化水素に対してモル比にてS/C(Steam/Carbon)=1〜3、全酸素量が原料の炭化水素に対してO/C=0.1〜1.2とするとよい。なお、原料ガスの流量は、反応器及び分離管の大きさや、選択透過膜の厚さ及び面積等によって適宜最適な流量を選択することができる。
【0032】
水素分圧が低いところに選択透過膜3があっても十分に機能しないため、あらかじめ予備改質領域で反応を行う。水素分圧を十分に高めておくことで、選択透過膜3が有効に活用される。炭化水素及び水蒸気は、予備改質領域入口(入口11)で総量を導入する。空気(酸素)は、酸素含有ガス供給部20によりガス流れ方向に分散して、予備改質領域で全体の25〜70%、本改質領域で全体の75〜30%を導入するとよい。このように空気(酸素)と炭化水素を導入することにより、吸熱反応である改質反応と発熱反応である燃焼反応がバランスよく促進される。酸素源としては、純酸素を用いてもよいが、コスト面で有利な空気を用いることができる。
【0033】
表面に選択透過膜3を形成する多孔質の分離管2の基材には、チタニア(TiO)やアルミナ(Al)等のセラミック多孔体、あるいはステンレススティール等の金属多孔体を用いることが好ましい。選択透過膜3は、水素に対する選択的透過能を有するものであり、例えば、パラジウムやパラジウム−銀合金をはじめとするパラジウム合金からなるものが好適に使用できる。他の材料、例えば、ゼオライト膜やシリカ膜等の多孔質セラミック膜でもよい。選択透過膜は分離管の外側でなく、場合によっては分離管の内側にあってもよいし、分離管の両側に被覆されていてもよい。表面に選択透過膜3を有する多孔質の分離管2により水素を分離して排出することができる。
【0034】
(実施形態2)
実施形態2について図4及び図5を用いて説明する。酸素含有ガス供給部20は、分離管2の外側にあって、その中心部に分離管2を配置し、酸素含有ガス供給部20の壁面を形成する外壁面25と内壁面26との間が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部21とされている。そして、壁面が多孔質体により形成され、壁面が酸素含有ガスを排出する供給口22とされている。つまり、本実施形態の酸素含有ガス供給部20は、多孔質体によって形成されているため、壁面が供給口となり壁面から酸素含有ガスが排出される。多孔質体は、セラミックス材料であれば特に限定されないが、例えばアルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、窒化珪素などが好適に用いられる。セラミックス多孔質体は、空気を導入する分散管の役割と、外部への熱の放出を妨げる断熱材としての役割を果たす。つまり、空気を効率良く内部の反応層(触媒層4)に供給すると共に、外部への熱の放出を遮蔽することができる。酸素含有ガスの流通方向に対して異なる平均細孔径、気孔率の多孔質体を組み合わせることや、酸素含有ガス供給側の圧力を制御することにより、各位置での酸素含有ガスの供給割合を制御することができる。
【0035】
なお、実施形態1においては、酸素含有ガス供給部20は、その直径が分離管2の直径よりも小さく、複数の酸素含有ガス供給部20が、図2に示すように、分離管2を取り巻くように配置されており、壁面に供給口22が形成された場合を示したが、実施形態2のように多孔質体によって形成された供給管が分離管2を取り巻くように配置されていてもよい。逆に、実施形態2においては、酸素含有ガス供給部20は、多孔質体により形成され、その直径が分離管2の直径よりも大きく、その中心部に分離管2を配置し、酸素含有ガス供給部20の壁面を形成する外壁面25と内壁面26との間が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部21とされている場合を示したが、実施形態1のように、壁面が多孔質体ではなくガス流れ方向に供給口22が並んで形成されていてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
(装置)
分離管として、一端部が閉じられた有底円筒状のアルミナ多孔体(外径10mm、長さ75mm)を用い、その表面に選択透過膜として、水素を選択的に透過するパラジウム(Pd)−銀(Ag)合金膜をメッキ法により成膜した。膜の組成は水素透過性能を考慮してPdが75質量%、Agが25質量%となるようにし、膜厚は2.5μmとした。
【0038】
試験評価装置の概略を図6に示す。この装置を使用し、実施例1、2及び比較例1の反応器について、それぞれ試験を行い、評価した。この装置は、原料ガスとして、メタン、ブタン等の炭化水素や、エタノール等の含酸素炭化水素、水、二酸化炭素、空気を使用出来るように接続され、これらを必要に応じて選択し、混合して反応器に供給出来るようになっている。尚、水やエタノール等の液体系の原料は気化器でガス化して供給される。試験用のガスラインには透過ガスラインと非透過ガスラインが設けられており、その上流側がそれぞれ選択透過膜型反応器の膜透過側と膜非透過側に接続されている。膜透過ガスライン、膜非透過ガスラインの下流側ともに、流量計とガスクロマトグラフが接続されており、更に流量計の上流側には、水等の液体成分を捕集するために約5℃に設定された液体トラップが設けられている。又、選択透過膜型反応器は周囲を断熱材により保温されている。
【0039】
(試験方法)
試験方法は以下の通りである。まず、対象となる選択透過膜型反応器へ、原料ガスとしてメタンと水蒸気をモル比でS/C(水蒸気/炭素)=3、空気(酸素)とメタンをO/C=0.5で供給した。メタンと水蒸気による改質反応とそれに付随して生ずる反応を行わせ、反応生成物から水素を選択的に分離した。反応側圧力は3atm、透過側圧力は0.1atmとした。又、原料ガスの流量は、メタンが250cc/min、水蒸気が750cc/min、空気(酸素)が625(125)cc/minとなるようにした。膜透過側及び膜非透過側のそれぞれにおけるガスの流量と組成を調べることにより、メタン転化率と透過ガスの水素純度を算出した。
【0040】
【表1】

【0041】
(実施例1)
/C=0.5とし、図4に示すようにコージェライト製の多孔体を反応器内に設置し、それを通して触媒層に空気を供給した。平均細孔径が0.1μmのコージェライト製多孔体を用いた。触媒は、ペレット状のロジウムアルミナとルテニウムアルミナを物理混合したもの(単純に混ぜ合わせたもの)を用いた。予備改質領域と本改質領域への空気供給割合は40:60とした。
【0042】
(実施例2)
/C=0.5とし、図4に示すようにコージェライト製の多孔体を反応器内に設置し、それを通して触媒層に空気を供給した。コージェライト製多孔体の平均細孔径は0.1μmとした。燃焼触媒としてロジウムアルミナを用い、改質触媒としてルテニウムアルミナを用いた。予備改質領域と本改質領域への空気供給割合は40:60とした。
【0043】
(比較例1)
/C=0.5とし、図7に示すように反応器入口からメタン、水蒸気、空気を同時に供給した。触媒は、ロジウムアルミナとルテニウムアルミナを物理混合したもの(単純に混ぜ合わせたもの)を用いた。
【0044】
(試験結果)
反応器入口からメタン、水蒸気、空気を同時に供給した比較例1では、触媒層上部で燃焼反応が優先して進行してしまい、反応器下部に熱を伝えることができなかった。その結果、メタン転化率が低くなった。さらに、膜近傍で燃焼反応が起こったため、膜の劣化に起因する水素純度の低下が認められた。一方、空気供給方法を最適化した実施例1では、空気供給の制御とセラミックス多孔体の断熱効果により、効率よく改質反応に必要な熱を供給することができた。さらに、膜近傍での燃焼反応発生を抑制できたため、膜劣化に起因する水素純度の低下は認められなかった。実施例2ではさらに触媒配置についても最適化したため、初期のメタン転化率が向上したことに加え、膜劣化についてもより低減することができた。以上の結果から、本発明により高い熱効率を有し、コンパクトな膜型反応器を提供できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の選択透過膜型反応器は、合成ガスや燃料電池の燃料となる水素等を得る手段として好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施形態1の選択透過膜型反応器を模式的に示した中心軸を含む平面で切断した断面図である。
【図2】実施形態1の選択透過膜型反応器を模式的に示した平面図である。
【図3】実施形態1における酸素含有ガス供給部を示す斜視図である。
【図4】実施形態2の選択透過膜型反応器を模式的に示した中心軸を含む平面で切断した断面図である。
【図5】実施形態2の選択透過膜型反応器を模式的に示した平面図である。
【図6】実施例において使用した試験装置の構成を示す概要図である。
【図7】従来の選択透過膜型反応器を模式的に示した中心軸を含む平面で切断した断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1:反応管、2:分離管、3:選択透過膜、4:触媒層、11:入口、12:出口、20:酸素含有ガス供給部、21:酸素含有ガス流通部、22:供給口、25:外壁面、26:内壁面、100:選択透過膜型反応器、150:選択透過膜型反応器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部がガスの入口で、他端部がガスの出口である反応管内に、
水素選択透過能を有する選択透過膜を備える分離管と、
化学反応を促進する触媒層と、
前記選択透過膜から離れた位置に、前記反応管のガス流れ方向に延びてそのガス流れ方向に分散して前記触媒層へ酸素含有ガスを供給する酸素含有ガス供給部と、
を有する選択透過膜型反応器。
【請求項2】
前記酸素含有ガス供給部は、前記選択透過膜側に酸素含有ガスを排出する供給口を有する請求項1に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項3】
前記酸素含有ガス供給部は、内部が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部とされ、壁面に前記供給口が形成された供給管である請求項2に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項4】
前記酸素含有ガス供給部は、内部が酸素含有ガスが流通する酸素含有ガス流通部とされ、壁面が多孔質体により形成され、前記壁面が酸素含有ガスを排出する供給口とされた請求項1に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項5】
複数の前記酸素含有ガス供給部が、前記分離管を取り巻くように配置された請求項2〜4のいずれか1項に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項6】
反応器内部に前記酸素含有ガス供給部と前記触媒層と前記分離管の三重構造を有し、反応器内壁より内側に前記分離管を備える請求項2〜4にいずれか1項に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項7】
前記酸素含有ガス供給部は、前記反応管のガス流れ方向において、前記分離管よりも前記ガスの入口側により多くの酸素含有ガスを供給する供給構造を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項8】
前記触媒層は、前記選択透過膜側に改質触媒と、前記酸素含有ガス供給部側に燃焼触媒が配置された請求項1〜7のいずれか1項に記載の選択透過膜型反応器。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の選択透過膜型反応器に、水蒸気量が原料の炭化水素に対してモル比にてS/C(Steam/Carbon)=1〜3、全酸素量が原料の炭化水素に対してO/C=0.1〜1.2となるように供給する水素製造方法。
【請求項10】
前記反応管のガス流れ方向において、前記触媒層のみの領域を予備改質領域、前記触媒層と前記選択透過膜が設置される領域を本改質領域としたときに、前記予備改質領域において、原料となる前記ガスの炭化水素の25%以上を反応させ、残りを前記本改質領域で反応させる請求項9に記載の水素製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−222526(P2008−222526A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−66863(P2007−66863)
【出願日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「地球温暖化防止新技術プログラム/高効率高温水素分離膜の開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】