説明

遺伝子変異検出法

DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つが、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブが第2の標識物質により標識されるとともに、DNAの増幅が行われる反応液に含まれており、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列が、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、ハイブリッドの検出が第1の標識物質および第2の標識物質を利用してアフィニティークロマトグラフィーにより行われることにより、DNAの増幅のためのプライマーおよびハイブリダイゼーションプローブを含む一つの反応系で、DNAの増幅およびハイブリダイゼーションを順次行い、反応液中のハイブリッドをアフィニティークロマトグラフィーにより検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、塩基配列の検出方法に関し、より詳しくは、点変異などの変異部位を含む塩基配列を含む塩基配列を検出することにより遺伝子の変異を検出する方法に関する。
【背景技術】
ゲノム上に数多く存在する遺伝子多型は、疾病への感受性や、薬剤代謝の個人差などに深く関連していると考えられている。これらの遺伝子多型の検出は、いわゆるオーダーメイド医療にとって必須であり、ゲノム科学の臨床応用における最重要研究課題のひとつに挙げられている。なかでも、遺伝子多型マーカーとしてSNP(single nucleotide Polymorphism、一塩基置換による遺伝子多型)は最近とみに注目を浴びており、国際的にも巨額の研究費が投じられている。また一方、分子遺伝学研究の進歩によって、様々な遺伝性疾患における遺伝子変異がデータベースに蓄積されてきている。これを用い、すでに病因であることが明らかにされている既知の遺伝子変異をスクリーニングすることによって、遺伝病の診断や臨床病型の予測をおこなうことが可能となってきている。特に、特定集団内、あるいは人種を超えて高頻度に存在する遺伝子変異の場合、その診断的価値は高い。
以上のような遺伝子多型や遺伝子変異には、塩基置換、欠失、挿入、繰り返し配列数の相違などがあるが、その中で圧倒的に多数を占めているのが、一塩基置換による点変異である。ヒトゲノム研究の成果を臨床の場に還元していくためには、この点変異の簡便かつ迅速な検出法が不可欠である。
これまで点変異の検出法として、様々な手法が考案されてきた(Cotton RGH.Mutation Detection,pp.1−198,Oxford University Prese,Oxford,1997参照)。代表的な方法としては、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション(allele specific oligonucleotide hybridization、ASO)法、対立遺伝子特異的増幅法、制限酵素消化法、リガーゼ連鎖反応、ミニシークエンス法などが挙げられる。これらの手法はいずれも、DNA増幅後に、ハイブリダイゼーションや電気泳動をはじめとする煩雑な操作が必要とされる。一方、近年ヒトゲノム解析研究に対応するために開発された、TaqMan法、インベーダーアッセイ(invadep assay)、DNAマイクロアレイ(DNAチップ)、質量分析計を用いるTOF−MASS法などは、大量検体の処理に秀でているものの、高額の特殊専用機器を必要とし、臨床検査室レベルで簡単に施行できるものではない。また、遺伝子変異のスクリーニング法として広く用いられているSSCP法、ケミカルクリーベッジ(chemical cleavage)法およびDHPLC法は未知の遺伝子変異の大まかなスクリーニングに威力を発揮するが、既知変異の確実な検出には不適切である。さらに、シークエンス法を用いた点変異検出は、操作が複雑でコストも高く、既知変異の検出にはオーバースペックといわざるを得ない。上記のいずれの方法も、現段階では遺伝子解析実験室でおこなわれる特殊検査であり、臨床の現場(ベッドサイド)で迅速に実施することはきわめて困難である。
ASO法に使用されるプローブとしては、従来は15〜25merが用いられている(Saiki RK,Erlich HA.Dection of mutations by hybridization with scquence−specific oligonucleotide probes.In:Mutation Detection:A Practical Approach.pp.113−129,IRL Press,Oxford,1998参照)。また、ハイブリダイゼーションにおいて、標識プローブに競合するオリゴヌクレオチドを用いてプローブの特異性を増強させることが報告されている(Nozari G,Rahbar S,Wallace RB.Discrimination among the transcripts of thc alleic human β−globin genes β,β and β using oligodeoxynucleotide hybridization probes.Gene 43:23−28,1986参照)。
【発明の開示】
本発明は、遺伝子の変異の簡便かつ迅速な検出法を提供することを目的とする。
本発明者らは、特定のプライマーおよびプローブを特定の条件で用いると、一つの反応系で核酸の増幅とハイブリダイゼーションを行うことができ、しかもハイブリダイゼーションにより形成したハイブリッドを容易に検出できるという知見を得、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のものを提供する。
(1)DNAポリメラーゼを用いて、変異部位を含む検出対象塩基配列を含むDNAの増幅を行う工程、増幅されたDNAと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブとをハイブリダイズさせる工程、および、ハイブリダイゼーションにより形成されたハイブリッドを検出する工程を含む塩基配列の検出方法であって、
DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブは第2の標識物質により標識されるとともに、DNAの増幅が行われる反応液に含まれており、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、ハイブリッドの検出は第1の標識物質および第2の標識物質を利用してアフィニティークロマトグラフィーにより行われる前記方法。
(2)変異部位が点変異であり、DNAの増幅が行われる反応液が、増幅されたDNAと標識されたハイブリダイゼーションプローブとのハイブリダイゼーションの特異性を高めるのに十分な量の、標識されたハイブリダイゼーションプローブの塩基配列と点変異の位置で1塩基異なる塩基配列を有しかつ標識されていないオリゴヌクレオチドをさらに含む(1)の方法。
(3)DNAの増幅がPCRによる増幅である(1)または(2)の方法。
(4)DNAポリメラーゼを用いて、変異部位を含む検出対象塩基配列を含むDNAの増幅を行うためのプライマーと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブと、アフィニティークロマトグラフィー用試験片とを含むキットであって、
DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブは第2の標識物質により標識され、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、試験片は第1の標識物質および第2の標識物質を利用して増幅されたDNAとハイブリダイゼーションプローブとのハイブリッドを検出できるものである前記キット。
(5)変異部位が点変異であり、標識されたハイブリダイゼーションプローブの塩基配列と点変異の位置で1塩基異なる塩基配列を有しかつ標識されていないオリゴヌクレオチドをさらに含む(4)のキット。
(6)プライマーがPCR用プライマーである(4)または(5)のキット。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の検出法の原理(正常DNAを検体とした場合)の説明図である。
図2は、本発明の検出法の原理(変異DNAを検体とした場合)の説明図である。
図3は、本発明の検出法の一例の操作の説明図である。
図4は、17merのハイブリダイゼーションプローブを用いた場合の検出結果(クロマトグラムの写真)を示す。
図5は、17merのハイブリダイゼーションプローブを用い、競合プローブを添加した場合の検出結果(クロマトグラムの写真)を示す。
図6は、種々の長さのハイブリダイゼーションプローブを用い、競合プローブを添加した場合の検出結果(クロマトグラムの写真)を示す。
図7は、12merのハイブリダイゼーションプローブを用い、競合プローブを添加した場合の検出結果(クロマトグラムの写真)を示す。
図8は、種々の変異に関する検出結果(クロマトグラムの写真)を示す。
図9は、種々の変異に関する検出結果(クロマトグラムの写真)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
<1>本発明の検出法
本発明の検出法は、DNAポリメラーゼを用いて、変異部位を含む検出対象塩基配列を含むDNAの増幅を行う工程、増幅されたDNAと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブとをハイブリダイズさせる工程、および、ハイブリダイゼーションにより形成されたハイブリッドを検出する工程を含む塩基配列の検出方法であって、
DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブは第2の標識物質により標識されるとともに、DNAの増幅が行われる反応液に含まれており、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、ハイブリッドの検出は第1の標識物質および第2の標識物質を利用してアフィニティークロマトグラフィーにより行われることを特徴とする。以下、各工程毎に説明する。
(1)DNAの増幅
DNAの増幅は、DNAポリメラーゼを用いて行われるものであれば、特に制限されず、DNAポリメラーゼを用いてDNAを合成する段階を含む増幅方法を用いることができる。DNAの増幅の方法の例としては、PCR法、TMA法、NASBA法、LAMP法などが挙げられる。
DNAポリメラーゼによりDNAを合成する場合には、プライマーが必要となる。プライマーは、増幅の方法および検出対象塩基配列に依存して公知の方法により設定される。本発明においては、DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識される。
例えば、増幅がPCR法により行われる場合、プライマー対が用いられるが、少なくともその一方を標識することにより、増幅されたDNAが標識されたものとなる。また、NASBA法およびTMA法により行われる場合には、DNA合成段階に働くプライマーを、LAMP法の場合には、片方のインナープライマーを少なくとも標識することにより増幅されたDNAが標識されたものとなる。
プライマーの標識は、DNAの合成反応を阻害しないように行われる。このような標識は公知の方法に従って行うことができ、通常にはプライマーの5’末端が標識される。
標識に用いられる標識物質は、それに対して生体特異的に結合する物質が存在するものであればよい。このような標識物質と、それに対して生体特異的に結合する物質の組み合わせとしては、抗原と抗体、酵素と阻害剤、糖鎖とレクチン、ホルモンと受容体、金属結合蛋白質と金属元素が挙げられる。具体的には、ジゴキシゲニンと抗ジゴキシゲニン抗体、ビオチンとストレプトアビジンなどの組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせにおいて、いずれが標識物質となってもよいが、通常には、分子量の小さい方が、標識物質として用いられる。
用いられるプライマーやDNAの増幅の条件は、採用する増幅方法および検出対象配列に基づいて適したものが設定される。例えば、PCR法については、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(3rd ed.),Volume 2,Chapter 8,pp.8.1−8.126,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Sping Harbor,2001、NASBA法については、PCR Methods and Applications,1,25−33(1991)、LAMP法については、Nucleic Acids Research,Vol.28,No.12,pp.i−vii(2000)をそれぞれ参照できる。
増幅において、鋳型となる検体DNAは、検査試料から通常の方法により調製できる。
検出対象配列は、変異部位を含む検出対象配列が特異的に増幅されるように、増幅の方法に合わせて適宜選択される。検出対象配列が含む変異部位は、通常には、遺伝子変異および遺伝子多型として知られている部位である。変異部位は、点変異でもよいし、挿入、欠失などの変異でもよい。
本発明の検出法の検出対象となる遺伝子変異および遺伝子多型の一般的な例としては、糖原病Ia型の日本人患者で高頻度に認められるg727t変異、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症の白人患者で高頻度に認められるa985g変異(Lys329Glu変異)、高グリシン血症のフィンランド人患者で高頻度に認められるGLDC遺伝子のg1691t変異(Ser564Ile変異)、薬剤代謝酵素遺伝子CYP2C19における遺伝子多型(CYP2C19*2,g681a)、アルコール代謝の個人差を決定するアルデヒド脱水素酵素2の遺伝子多型(E487K)、嚢胞性線維症膜貫通型調節蛋白質遺伝子のdeltaF508欠失変異、テイザックス病のHEXA遺伝子の1277insTATC挿入変異、乳癌のBRCA1遺伝子の5382insC挿入変異、乳癌のBRCA2遺伝子の6174delT欠失変異、血栓症凝固系第V因子遺伝子のG1691A点変異などが挙げられるが、本発明の検出法の検出対象はこれらの例に限定されない。
糖原病Ia型はグリコーゲン代謝経路におけるグルコース−6−ホスファターゼの異常によって生じ、主として肝臓に大量のグリコーゲンが蓄積する先天性糖代謝異常症で、常染色体劣性遺伝形式をとる。低血糖、肝腫大、低身長、腎障害、高脂質血症、高尿酸血症などが見られる。この酵素遺伝子におけるg727t変異は、日本人症例における病因変異の約90%を占める高頻度変異であり、mRNAのスプライシング異常を生じる。ごく最近まで、本症診断には、肝臓組織を用いた酵素活性測定が行われていたが、遺伝子診断の出現によって肝生検が不要となった。本変異の日本人集団における保因者数は、約200人に1人である。
非ケトーシス型高グリシン血症はグリシン解裂系酵素の異常によって生じ、新生児期にけいれんをはじめとする重篤な神経症状を呈する先天性アミノ酸代謝異常症(常染色体劣性遺伝)である。フィンランド人患者では、グリシン解裂系酵素のうちGLDC遺伝子にg1691t変異が高頻度(変異遺伝子の約70%)に認められる。本変異はアミノ酸置換Ser564Ileを生じる。
中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症は脂肪酸β酸化経路において重要な役割を担う酵素(medium−chain acyl−CoA dehydrogenase,MCAD)の異常によって生じ、空腹・感染時の低血糖・意識障害をひきおこす先天性有機酸代謝異常症(常染色体劣性遺伝)である。しばしば、乳幼児突然死症候群や急性脳症(ライ症候群)と誤診されることが知られている。本酵素遺伝子におけるa985g変異は白人症例における病因変異の約90%を占める高頻度変異であり、アミノ酸置換Lys329Gluをひきおこす。また、本遺伝子変異の保因者は、白人集団で高率(英国では40人に1人)に認められる。欧米では、このa985g変異を検出する遺伝子診断が本症の診断に広く用いられている。
CYP2C19遺伝子は、オメプラゾール(胃酸分泌抑制剤)などの代謝に重要な役割を果たしている。本遺伝子上のSNP多型であるCYP2C19*2は、エキソン5の681G>A変異によってスプライシング異常を生じるため、これらの薬剤の代謝活性を低下させる。このような多型を持つ人(poor metabolizer)では、投薬にあたって減量するする必要があり、投薬前に予め遺伝子型を決定できれば、臨床的に有利である。日本人集団における遺伝子の約23%に、この遺伝子多型が認められる。
アルデヒド脱水素酵素2の遺伝子多型(Glu487Lys)は、東洋人に多く認められるSNPで、アルコール代謝の個人差を決定する。遺伝子多型を有する酵素は活性が低く、アルコールから生じるアセトアルデヒドの代謝が遅くなるため、「酒に弱い」体質となる。日本人集団では約30%がこの遺伝子多型のヘテロ接合子、約5%がホモ接合子である。
(2)ハイブリダイゼーション
増幅されたDNAと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブとのハイブリダイゼーションは、特定のハイブリダイゼーションプローブが使用される他は、通常のハイブリダイゼーションと同様に行えばよい。
本発明で使用されるハイブリダイゼーションプローブは、第2の標識物質により標識され、DNAの増幅が行われる反応液に含まれており、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定される。
第2の標識物質は、第1の標識物質と異なる物質が用いられる他は、第1の標識物質について説明したのと同様である。ハイブリダイゼーションプローブの標識は、ハイブリダイゼーションを妨げないように公知の方法により行うことができる。ハイブリダイゼーションプローブの標識は、3’末端に行うことが好ましい。これによりDNAの増幅反応中のオリゴヌクレオチドの鎖長の進展を防止するためである。鎖長の進展があった場合はTm値が上昇し、たとえミスマッチがあってもハイブリダイズしてしまうおそれがある。
ハイブリダイゼーションプローブの塩基配列を、DNAの増幅を阻害しないように設定することは、通常には、ハイブリダイゼーションプローブのハイブリダイゼーションがDNAの増幅の条件では生じないようにハイブリダイゼーションプローブの鎖長などを設定することにより行うことができる。
本発明で使用されるハイブリダイゼーションプローブの塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されるので、DNAの増幅が行われる反応液に最初から含ませておくことができる。このため、DNAの増幅が終了した反応液を、そのまま、増幅されたDNAとハイブリダイゼーションプローブとがハイブリダイズするような条件におくことにより、これらをハイブリダイズさせることができる。
ハイブリダイゼーションプローブの鎖長や、ハイブリダイズさせるときの条件は、DNAの増幅に用いる方法に応じて適宜設定される。DNAポリメラーゼを用いるDNAの増幅では、DNAポリメラーゼの活性が発揮されるのに適した温度条件で増幅が行われるので、この温度でハイブリダイゼーションが生じないように鎖長が設定される。また、ハイブリダイゼーションが起こる温度は、DNAの増幅を妨げない限り、特に限定されないが、生成したハイブリッドが室温で解離しないものであることが好ましい。
DNAの増幅を阻害しないように塩基配列を設定する条件として具体的には、プライマーのTm値に比べて、プローブのTm値が25〜40℃(好ましくは30〜35℃)低くなるように設定することが挙げられる。
例えば、PCR法の通常の条件を考慮すると、プローブは、通常には、10mer〜13merとなる。これは、アレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションのプローブとして、従来用いられている15mer〜25mer(上記非特許文献2参照)に比較してかなり短いものである。これまで、より長い鎖長のプローブが多用されてきた背景には、全ゲノム配列(30億塩基対)の中で、4種塩基の組み合わせによる特異性を持ったプローブを作成するためには、少なくとも4の15乗くらいが必要であるという論理があった。しかしながら、これは全ゲノム配列を対象にハイブリダイゼーションを行う場合であり、PCR増幅された数百塩基のDNA断片を標的とする場合は、これほどの長さと特異性は要求されないと考えられるので、ハイブリダイゼーションの特異性は十分に維持される。
本発明の検出法を、任意の遺伝子変異や多型の検出に応用するにあたっては、ハイブリダイゼーションプローブを最適の鎖長にすることが必要である。これは、後述の実施例に記載されているように定型的な実験により決定することが可能である。本発明の検出法では、通常、極めて短いプローブを用いることから、1塩基長の差によって劇的な判定線形成の違いが認められる。偽陽性の出現や微弱な陽性反応が認められた場合には、Tm値をもとに設計したプローブよりも短いプローブあるいは長いプローブを作成し、最適のものを選択することが好ましい。この際、正常塩基配列プローブと変異塩基配列プローブでは、同じ鎖長でも塩基置換によってTm値が異なるため、それぞれに最適な鎖長を独立して設定すべきである。
ハイブリダイゼーションプローブの塩基配列は、変異部位がその中央付近となるように設定することが好ましい。
ハイブリダイゼーションは、通常には、温度を二本鎖DNAが変性するまで上昇させ、徐々に低下させることによって行なわれる。従って、DNAの増幅が終わった反応液の温度を変化させる操作のみでハイブリダイゼーションを行うことができ、その他の操作が不要である。プログラム可能なサーマルサイクラーによりDNAの増幅を行う場合には、DNAの増幅に必要な温度条件に加えて、ハイブリダイゼーションの温度条件もプログラムしておくことにより、試料をサーマルサイクラーにセットした後は、一連の反応として、増幅およびハイブリダイゼーションを行うことができる。
上述のように設定された短いプローブを使用することによって、以下の3つの利点が生じる。1)一塩基のミスマッチがある場合とない場合のTm値の差を、長いプローブに比べて大きくすることができ、プローブの特異性を比較的に増加させることができる。2)プローブのハイブリダイゼーション温度は、従来、37〜65℃であるが、本発明の検出方法では、25℃と低く設定できるため、その後の一連の操作を室温で行うことができる。3)短いプローブはTm値が低く、PCR反応中はハイブリダイゼーションしないため、PCR反応液中にあらかじめ混和しておいてもPCR反応に影響を及ぼさない。これによって、PCR→熱変性→ハイブリダイゼーションを、途中で、試薬の添加などの操作を新たに加えることなく、一連の反応として行うことができる。これらの利点は、PCR法と同様にDNAポリメラーゼの伸長反応を利用する他のDNA増幅法においても同様に得られる。
(3)ハイブリッド検出
ハイブリダイゼーションにより形成されたハイブリッドは、第1の標識物質および第2の標識物質の両方を有している。ハイブリッドの検出は第1の標識物質および第2の標識物質を利用してアフィニティークロマトグラフィーにより行われる。
アフィニティークロマトグラフィーは、そのために構成された試験片により行うことができる。2種の標識物質を利用してアフィニティークロマトグラフィーによりハイブリッドを検出することは公知の方法に従って行うことができ、このような方法で使用される試験片も通常の方法に従って構成することができる。
このような試験片の例としては、集積したときに可視的な標識物質(例えば金コロイド)を結合した、第1の標識物質に対して特異的に結合する物質と、ハイブリッドとを反応させ、第2の標識物質に対して特異的に結合する物質を固定したクロマト担体上を移動させ、その固定部位に集積した可視的な標識物質を観察できるように構成された試験片が挙げられる。このような試験片自体は、これまでにも特定遺伝子を簡便に検出する方法などに用いられている(J.Clin.Microbiol.38:2525−2529,2000)。
以下、第1の標識物質がジゴキシゲニン、第2の標識物質がビオチン、集積したときに可視的な標識物質が金コロイドである場合を例にとって具体的な例を説明する。クロマト担体のストリップに、クロマト溶媒に浸漬されることによりクロマト溶媒を供給する浸漬部位、クロマト溶媒中に、金コロイドを結合した抗ジゴキシゲニン抗体を遊離し得るようにこの抗体(複合体)を保持するパッドを付与した複合体保持部位、ハイブリッドを含む反応液を適用する試料適用部位、ストレプトアビジンをクロマト溶媒の移動方向に対して垂直に線状に固定したストレプトアビジン固定部位、抗ジゴキシゲニン抗体に対する抗体を固定した抗体固定部位、および、クロマト溶媒を吸収するパッドを付与した吸収部位が、クロマト溶媒(通常には緩衝液)の移動方向においてこの順に設けられる。この例の試験片の使用方法について説明する。ハイブリッドを含む反応液を試料適用部位に適用し、浸漬部位をクロマト溶媒に浸漬した後、クロマト溶媒から試験片を取り上げ静置する。クロマト溶媒は、クロマト担体を毛細管現象により移動し、複合体保持部位に達すると複合体を含むクロマト溶媒が移動する。このクロマト溶媒が試料適用部位に達すると適用された反応液中のハイブリッドの有するジゴキシゲニンと複合体の抗ジゴキシゲニン抗体が結合し、金コロイドを有するハイブリッドが形成され、クロマト媒体によりさらにクロマト担体上を移動する。ハイブリッドがストレプトアビジン固定部位に達すると、ビオチンとストレプトアビジンとの結合により、このハイブリッドがストレプトアビジン固定部位に集積されるので、ハイブリッドが存在すれば、可視的な信号が現れる。ストレプトアビジン固定部位を通過した複合体は、抗体固定部位に集積され、クロマトグラムが正常に進んだことを示す可視的な信号が現れる。さらに移動したクロマト溶媒は、吸収部位に吸収・保持される。
本発明の検出法において、変異部位が点変異である場合には、ハイブリダイゼーションプローブと共に、増幅されたDNAと標識されたハイブリダイゼーションプローブとのハイブリダイゼーションの特異性を高めるのに十分な量の、標識されたハイブリダイゼーションプローブの塩基配列と点変異の位置で1塩基異なる塩基配列を有しかつ標識されていないオリゴヌクレオチド(以下、「競合プローブ」ともいう)をさらにDNAの増幅を行う反応液に含ませることが好ましい。
競合プローブは、ハイブリダイゼーションプローブと点変異の位置で1塩基異なる他は、ハイブリダイゼーションプローブと同様に設定される。競合プローブはハイブリダイゼーションプローブと長さが異なっていてもよい。
増幅されたDNAと標識されたハイブリダイゼーションプローブとのハイブリダイゼーションの特異性を高めるのに十分な量は、検出対象塩基配列、ハイブリダイゼーションプローブの塩基配列などの条件により変化するが、通常には、ハイブリダイゼーションプローブの等量〜5倍量(モル比)を基本としてよいと思われる。しかしながら、陽性反応を著しく減ずるときは、偽陽性反応が出現しないことを確認したうえで競合プローブを省略する方が最適の結果が得られる場合がある。ハイブリダイゼーションプローブの鎖長と競合プローブの有無が判定線の形成に著しい影響を及ぼすことから、比較的容易に至適反応条件を見出すことができるものと考えられる。
ハイブリダイゼーションに際して、非標識の競合オリゴヌクレオチドを加えることによりハイブリダイゼーションプローブの特異性を増し、非特異的なハイブリダイゼーションを抑制することができる。
本発明の検出法においては、正常塩基配列検出用ハイブリダイゼーションプローブと変異塩基配列検出用ハイブリダイゼーションプローブの標識に異なる標識物質を用い、正常塩基配列検出用の反応系と変異塩基配列検出用の反応系の2つを1つに統合してもよい。すなわち、正常塩基配列検出用ハイブリダイゼーションプローブと変異塩基配列検出用ハイブリダイゼーションプローブに異なった標識をしておき、1:1の比で混合して互いに競合させながら反応系を一つにまとめることが可能である。反応後、それぞれの標識に対して特異的に結合する物質と、集積したときに可視的な標識との複合体でアフィニティークロマトグラフィーを行って遺伝子型を判定する。
本発明の検出法は、次のような利点を有する。(1)汎用性:検出法として長年にわたって汎用されてきたアレル特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションを基にしているため、点変異はもちろんのこと、挿入・欠失などの塩基配列を伴う広範な変異の検出に対応できる。(2)迅速性:サーマルサイクラーにより実施できる増幅およびハイブリダイゼーションの反応が終わってから、遺伝子型の判定まで10分以内に実施することができる。核酸増幅にキャピラリータイプのPCR増幅装置を用いることにより、DNA検体があれば1時間以内に全工程を終了することも可能である。(3)簡便性:PCR反応後は、肉眼で遺伝子型を判定することができるため、ゲル電気泳動装置や蛍光検出装置などの機器を必要としない。PCR反応を行うサーマルサイクラーは、感染症検査などに用いられる汎用臨床検査機器であり、すでに多くの病院に設置されている。また、反応操作は簡便であり、特殊な技能を要しない。上記の利点は、PCR以外の核酸増幅反応(TMA、NASBA、LAMPなど)を用いた場合にも得られる。
本発明の検出法の原理を、PCRの場合を例として、図1〜3を参照してさらに詳しく説明する。
図1は正常DNAを検体として用いた場合の反応を示す。反応系1は正常塩基配列検出用ハイブリダイゼーションプローブを添加した系で、反応系2は変異塩基配列検出用ハイブリダイゼーションプローブを添加した系である。図中、黒丸は正常塩基、黒三角は変異塩基、Digはジゴキシゲニン標識、Bはビオチン標識、GPは金粒子を意味する。
まず、点変異箇所を含む遺伝子部位(検出対象配列)をPCRによって増幅する。このときに用いる1対のPCRプライマーのうちの一方は、その5’端をあらかじめジゴキシゲニンで標識したものを用いる。PCR反応液中には、通常の成分に加えて、さらに2種のオリゴヌクレオチド(ハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブ)を混和しておく。このオリゴヌクレオチドの組み合わせには、正常塩基配列検出用のものと変異塩基配列検出用のものの2種類が存在する。正常塩基配列検出用の組み合わせでは、その一方が正常塩基配列の点変異部位を中央部にもち、かつ3’端をビオチン標識したオリゴヌクレオチド(正常プローブ)であり、他方が、変異塩基配列の点変異部位を中央部にもつ非標識の競合オリゴヌクレオチド(変異プローブ)である。変異塩基配列検出用の組み合わせでは、その一方が、変異塩基配列の点変異部位を中央部にもち、かつ3’端をビオチン標識したオリゴヌクレオチド(変異プローブ)であり、他方が正常塩基配列の点変異部位を中央部にもつ非標識の競合オリゴヌクレオチド(正常プローブ)である。いずれのオリゴヌクレオチドも、ジゴキシゲニンで標職したPCRプライマーとは逆鎖になるように設計する。
PCR反応液の組成は、例えば、検体DNA50〜100ng、10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl、各250μMのdNTP、1μM PCRフォワードプライマー(5’端をジゴキシゲニン標識)、1μM PCRリバースプライマー、600nMハイブリダイゼーションプローブ(3’端をビオチン標識)、3μM競合非標識オリゴヌクレオチド、1.25U Taq DNAポリメラーゼとし、反応液量は20μlとする。PCRの条件は、例えば、まず94℃で2分間加熱し、98℃10秒−55℃30秒−72℃30秒のサイクルを35回繰り返した後、72℃3分、98℃3分、65℃1分、55℃1分、45℃1分、35℃1分、25℃1分とする。サイクルを繰り返した後のこの過程で、ジゴキシゲニンで標識されたPCR産物の持つ塩基配列に完全に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドがハイブリダイズする。例えば、正常塩基配列を持つDNAに対して正常塩基配列検出用のオリゴヌクレオチドを組み合わせた場合は、ジゴキシゲニンで標識されたPCR産物とビオチンで標識されたオリゴヌクレオチドのハイブリッドが形成される(図1、反応系1)。この溶液5μlをDNA Detection test strip(ロシュ社、#1−965−484)などの、ストレプトアビジンが固定され、金コロイド標識抗ジゴキシゲニン抗体を展開可能に保持するアフィニティークロマト試験片の試料適用部位にスポットし、下端をバッファーに5秒間浸し、室温のままで5分間放置してバッファーを展開すると、金コロイド標識抗ジゴキシゲニン抗体がジゴキシゲニン標識PCR産物−ビオチン標識オリゴヌクレオチドのハイブリッドに結合し、このハイブリッドがさらに試験片に固定されたストレプトアビジンに捕捉され、赤いラインを形成するのを肉眼的にとらえることができる。一方、正常塩基配列を持つDNAに対して変異塩基配列検出用のオリゴヌクレオチドを組み合わせた場合は、ジゴキシゲニンで標識されたPCR産物と非標識オリゴヌクレオチドのハイブリッドが形成される。この溶液を試験片の試料適用部位にスポットしてバッファーで展開すると、金コロイド標識抗ジゴキシゲニン抗体がジゴキシゲニン標識PCR産物−非標識オリゴヌクレオチドのハイブリッドに結合するものの、このハイブリッドは試験片上のストレプトアビジンに捕捉されないため、赤いラインを形成しない(図1、反応系2)。以上のように2種類の反応系のそれぞれにおける赤いラインの形成を肉眼的に観察することにより、検体となるDNAの遺伝子型を判定することが可能となる。変異塩基配列を持つDNAにおいても、同様の反応原理である(図2)。
この態様の操作手順を図3に示す。まず、検体とするDNAと反応試薬をPCRチューブ内で混和し、サーマルサイクラーでプログラムに従い過熱・冷却を行ってDNAの増幅およびハイブリッド形成を行う(ステップ1)。反応液から5μlをとって、試験片の試料適用部位にスポットし、試験片の下端をバッファーに浸した後、室温に放置する(ステップ2)。5分後、遺伝子型判定ラインの有無によって判定を行う(ステップ3)。アフィニティークロマトグラフィーが正常に完了したか否かはコントロールラインの有無によって確認できる。
本発明の検出法は、遺伝子変異の有無を迅速かつ簡便に、そして特別な装置を用いずに確実に判定できる方法であり、病院の外来診療やベッドサイドで遺伝子検査を行うのに適している。すなわち、ポイント・オブ・ケアとしての遺伝子診断を可能にするものである。具体的には、CYP2C19をはじめとする薬物代謝酵素の遺伝子多型を判定し、ある薬剤がその患者にとって適切かどうかをその場で判定したり、処方量の調整に役立てたりすることが可能である。この場合、短時間に検査結果が得られることが重要な利点となる。
<2>本発明のキット
本発明のキットは、DNAポリメラーゼを用いて、変異部位を含む検出対象塩基配列を含むDNAの増幅を行うためのプライマーと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブと、アフィニティークロマトグラフィー用試験片とを含むキットであって、
DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブは第2の標識物質により標識され、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、試験片は第1の標識物質および第2の標識物質を利用して増幅されたDNAとハイブリダイゼーションプローブとのハイブリッドを検出できるものであることを特徴とする。本発明のキットは、本発明の検出法を実施するために使用できる。
プライマー、ハイブリダイゼーションプローブ、および、アフィニティークロマトグラフィー用試験片は、本発明の検出法に関し上記に説明した通りである。
本発明のキットは、変異部位が点変異である場合には、標識されたハイブリダイゼーションプローブの塩基配列と点変異の位置において1塩基異なる塩基配列を有しかつ標識されていないオリゴヌクレオチド(競合プローブ)をさらに含むことが好ましい。このオリゴヌクレオチドは、本発明の検出法に関し上記に説明したとおりである。
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、下記実施例は本発明について具体的な認識を得る一助としてのみ挙げたものであり、これによって本発明の範囲が何ら限定されるものではない。
実施例1 糖原病Ia型g727t変異の検出
(1)反応系および操作手順
糖原病Ia型g727t変異の検出のため、変異部位の周辺の既知の塩基配列に基づき、表1に示すプライマーを調製した。

また、プローブの鎖長の検討のため、ハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブとして表2に示すオリゴヌクレオチドを調製した。

PCR反応液の組成は、検体DNA50〜100ng、10mM Tris−HCl(pH8.3)、50mM KCl、1.5mM MgCl、各250μMのdNTP、1μM PCRフォワードプライマー、1μM PCRリバースプライマー(5’端をジゴキシゲニン標識)、600nMハイブリダイゼーションプローブ(3’端をビオチン標識)、所定濃度の競合非標識オリゴヌクレオチド、1.25U Taq DNAポリメラーゼとし、反応液量は20μlとした。PCRの条件は、まず94℃で2分間加熱し、98℃10秒−55℃30秒−72℃30秒のサイクルを35回繰り返した後、72℃3分、98℃3分、65℃1分、55℃1分、45℃1分、35℃1分、25℃1分とした。
この溶液5μlを試験片(DNA Detection Test Strip、ロシュ社、#1−965−484、ストレプトアビジンが固定され、金コロイド標識抗ジゴキシゲニン抗体を展開可能に保持するアフィニティークロマト試験片)の試料適用部位にスポットし、下端をバッファーに5秒間浸し、室温のままで5分間放置してバッファーを展開した。放置後、遺伝子型判定線の有無を肉眼的に判定した。
(2)非標識オリゴヌクレオチドによる競合の検討
標識ハイブリダイゼーションプローブを17merとし、競合プローブを反応液中に添加せずに検出を行った。検体とするDNAはg727アレルのホモ接合子(正常DNA)とt727アレルのホモ接合子(変異DNA)を用い、ハイブリダイゼーションプローブとしては正常塩基配列検出用のものと変異塩基配列検出用のものを用いた。結果を図4に示す。図中、DNAに関するWtおよびMutはそれぞれ正常DNAおよび変異DNAを示し、ハイブリダイゼーションプローブに関するWtおよびMutはそれぞれ正常塩基検出用および変異塩基配列検出用を示す(以下の図5〜7においても同様である)。
いずれの組み合わせでも赤い反応ラインが認められる偽陽性が出現し、遺伝子型を決定することができなかった(図4、レーン1〜4)。
競合プローブ(17mer)を反応液中にハイブリダイゼーションプローブの5〜50倍量(モル濃度)添加して同様の実験を行った。結果を図5に示す。
競合プローブの添加により偽陽性の反応が著しく減少した。すなわち、正常DNAに対する変異塩基配列検出用プローブの反応系(図5、レーン6〜8)および変異DNAに対する正常塩基配列検出用プローブの反応系(同、レーン10〜12)において、ごくわずかな赤い反応ラインを認めるのみであった。偽陽性反応の抑制効果はいずれの添加量においても差異を認めず、50倍量の添加でも偽陽性の反応を完全に抑制することはできなかった。一方、25〜50倍量の添加では、本来の陽性反応を抑制しやや反応ラインが薄くなる傾向を認めた(同、レーン3、4、15および16)。
(3)ハイブリダイゼーションプローブの鎖長の検討
ハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブとして17mer、15mer、13mer、11merのものを使用して検討を行った。ここでは、競合プローブの反応液添加量をハイブリダイゼーションプローブの30倍に固定した。結果を図6に示す。
正常DNAに対する変異塩基配列検出用プローブの反応系において、15merではわずかな偽陽性が出現し(図6、レーン4)、13merと11merでは消失した(同、レーン5および6)。変異DNAに対する正常塩基配列検出用プローブの反応系では、15mer、13mer、11merのいずれにおいても偽陽性は消失した(同、レーン7〜9)。しかしながら、11merでは本来の陽性反応が減弱する傾向を認めた(同、レーン3および12)。
以上の検討に基づいて、ハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブの鎖長を12mer(表3)とし、競合プローブの添加量を5倍として、正常DNA(g727アレルのホモ接合子)、保因者DNA(g727アレルとt727アレルのヘテロ接合子)、患者DNA(t727アレルのホモ接合子)を対象に、上記のように検出を行った。結果を図7に示す。
遺伝子型と完全に一致する結果が得られ、十分な陽性の反応ラインが観察された(図7、レーン1および4並びに5および6)一方、偽陽性はまったく認められなかった(レーン2および3)。

実施例2 中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症のa985g変異、高グリシン血症GLDC遺伝子のg1691t変異、薬剤代謝酵素遺伝子CYP2C19のg681a、アルデヒド脱水素酵素2のGlu487Lys多型の点変異の検出
中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症のa985g変異、高グリシン血症GLDC遺伝子のg1691t変異、薬剤代謝酵素遺伝子CYP2C19のg681a、アルデヒド脱水素酵素2のGlu487Lys多型の点変異について、本発明の検出法による点変異の検出を行った。
それぞれの点変異の存在部位を含む塩基配列を増幅するPCRプライマーは、PCR反応におけるアニール温度が55℃で増幅が行えるように、鎖長を調節した。また、ハイブリダイゼーションプローブは、Tm値が35〜40℃となるように設計した。結果として、鎖長は、10mer〜15merとなった。プライマー、ハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブの塩基配列を表4に示す。



上記プライマーおよびプローブを用いることの他のPCRの条件やプローブの濃度等の条件は、上記のいずれの変異の検出においてもすべて実施例1と同じであった。
これらの条件下で、検出を行ったところ、全ての検出系において正しい遺伝子型の判定が可能であった(図8のa、b、cおよびd)。アルデヒド脱水素酵素2のGlu487Lys多型検出においては、変異塩基配列を検出するための反応系において反応ラインが薄いため、競合非標識オリゴヌクレオチドを反応系に混和しないようにしたところ、十分な反応ラインの形成が観察された。いずれの反応においても、偽陽性は認められなかった。
サーマルサイクラーにおける反応が終了してから、遺伝子型判定までに要する時間は10分以内であった。また、この試験片をそのまま乾燥させたものは、室温に保存した場合、少なくとも2年後でも肉眼的な判定が可能であった。
以上の結果から、本発明の検出法によって、プライマーならびにハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブの設計および反応条件は、個々の遺伝子変異に応じて若干の調整が必要であるものの、5つの遺伝子における各変異・多型を、簡便・迅速に検出し、検体DNAの遺伝子型を確定できることが示された。従って、本発明の検出法は汎用性を持つものであると認められる。
実施例3 嚢胞性線維症膜貫通型調節蛋白質遺伝子のdeltaF508欠失変異、テイザックス病のHEXA遺伝子の1277insTATC挿入変異、乳癌のBRCA1遺伝子の5382insC挿入変異、乳癌のBRCA2遺伝子の6174delT欠失変異、血栓症凝固系第V因子遺伝子のG1691A点変異の検出
嚢胞性線維症膜貫通型調節蛋白質遺伝子のdeltaF508欠失変異、テイザックス病のHEXA遺伝子の1277insTATC挿入変異、乳癌のBRCA1遺伝子の5382insC挿入変異、乳癌のBRCA2遺伝子の6174delT欠失変異、血栓症凝固系第V因子遺伝子のG1691A点変異について、本発明の検出法による変異の検出を行った。
それぞれの変異の存在部位を含む塩基配列を増幅するPCRプライマーは、PCR反応におけるアニール温度が55℃で増幅が行えるように、鎖長を調節した。また、ハイブリダイゼーションプローブは、Tm値が35〜40℃となるように設計した。結果として、鎖長は、10mer〜15merとなった。プライマー、ハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブの塩基配列を表5に示す。なお、1)〜4)はいずれも塩基の欠失又は挿入の変異であるため、競合プローブは用いなかった。また、3)〜5)は、ヘテロ接合子でも症状を示すため、臨床的には正常塩基配列を持つ遺伝子の有無を調べる必要がないので、正常塩基配列検出用プローブは用いなかった。


上記プライマーおよびプローブを用いることの他のPCRの条件やプローブの濃度等の条件は、上記のいずれの変異の検出においてもすべて実施例1と同じであった。
これらの条件下で、検出を行ったところ、全ての検出系において遺伝子型の判定が可能であった(図9)。いずれの反応においても、偽陽性は認められなかった。
サーマルサイクラーにおける反応が終了してから、遺伝子型判定までに要する時間は10分以内であった。また、この試験片をそのまま乾燥させたものは、室温に保存した場合、少なくとも2年後でも肉眼的な判定が可能であった。
以上の結果から、本発明の検出法によって、プライマーならびにハイブリダイゼーションプローブおよび競合プローブの設計および反応条件は、個々の遺伝子変異に応じて若干の調整が必要であるものの、挿入・欠失変異を含む変異を、簡便・迅速に検出し、検体DNAの遺伝子型を確定できることが示された。従って、本発明の検出法は汎用性を持つものであると認められる。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、通常のサーマルサイクラー以外に特殊な機器や装置を用いずに、簡便・迅速・確実に、病因遺伝子変異の同定や、疾患関連遺伝子および薬剤代謝酵素遺伝子の多型の検出を行うことができる。本発明の検出法は、ベッドサイドでの検出を可能にし、オーダーメイド医療を容易にする手法であると考えられる。
【配列表】

















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAポリメラーゼを用いて、変異部位を含む検出対象塩基配列を含むDNAの増幅を行う工程、増幅されたDNAと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブとをハイブリダイズさせる工程、および、ハイブリダイゼーションにより形成されたハイブリッドを検出する工程を含む塩基配列の検出方法であって、
DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブは第2の標識物質により標識されるとともに、DNAの増幅が行われる反応液に含まれており、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、ハイブリッドの検出は第1の標識物質および第2の標識物質を利用してアフィニティークロマトグラフィーにより行われる前記方法。
【請求項2】
変異部位が点変異であり、DNAの増幅が行われる反応液が、増幅されたDNAと標識されたハイブリダイゼーションプローブとのハイブリダイゼーションの特異性を高めるのに十分な量の、標識されたハイブリダイゼーションプローブの塩基配列と点変異の位置で1塩基異なる塩基配列を有しかつ標識されていないオリゴヌクレオチドをさらに含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
DNAの増幅がPCRによる増幅である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
DNAポリメラーゼを用いて、変異部位を含む検出対象塩基配列を含むDNAの増幅を行うためのプライマーと、検出対象塩基配列に相補的である塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブと、アフィニティークロマトグラフィー用試験片とを含むキットであって、
DNAの増幅に用いるプライマーの少なくとも一つは、増幅されたDNAが第1の標識物質により標識されるように第1の標識物質により標識されており、ハイブリダイゼーションプローブは第2の標識物質により標識され、ハイブリダイゼーションプローブの有する塩基配列は、DNAの増幅を阻害しないように設定されており、試験片は第1の標識物質および第2の標識物質を利用して増幅されたDNAとハイブリダイゼーションプローブとのハイブリッドを検出できるものである前記キット。
【請求項5】
変異部位が点変異であり、標識されたハイブリダイゼーションプローブの塩基配列と点変異の位置で1塩基異なる塩基配列を有しかつ標識されていないオリゴヌクレオチドをさらに含む請求項4記載のキット。
【請求項6】
プライマーがPCR用プライマーである請求項4または5記載のキット。

【国際公開番号】WO2004/042057
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549640(P2004−549640)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014204
【国際出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【出願人】(502403626)
【出願人】(502404911)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【Fターム(参考)】