説明

遺伝子導入剤の製造方法

【課題】高価な光照射装置を用いることなく、光リビング重合により、分子量分布の狭い遺伝子導活性に優れた遺伝子導入剤を効率的に製造する。
【解決手段】溶液中での光リビング重合により遺伝子導入剤を製造する方法において、該溶液中に、分解することによりピーク波長360〜375nmの光を放出する光放出性化合物を存在させる。単色光のみを照射する高価な光照射装置を用いることなく、反応基質に対して重合反応(主反応)を生じさせる370nm付近の波長の主反応光を主に照射することができるため、副反応を抑制して、分子量分布が狭い分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中での光リビング重合により遺伝子導入剤を製造する方法に係り、詳しくは、光リビング重合のための高価な光照射装置を必要とすることなく、分子量分布が狭く、遺伝子導入活性に優れた遺伝子導入剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒト疾患の分子遺伝学的要因が明らかになるにつれ、遺伝子治療研究がますます重要視されている。遺伝子治療法は標的とする部位でのDNAの発現を目的としており、いかにDNAを標的部位に到達させるか、いかにDNAを標的部位に効率的に導入し、当該部位で機能的に発現させるかということが重要となる。外来DNAの導入のためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ付随ウイルス、レンチウイルス、センダイウイルス又はヘルペスウイルスを含む多くのウイルスが、治療用遺伝子を運搬するように改変されて、遺伝子治療のヒトの臨床試験に使用されている。しかし感染及び免疫反応の危険性は依然として残されている。
【0003】
安全性、品質安定性、製造コストに問題があるウイルスベクターに代わる遺伝子導入技術として、合成高分子ベクター、カチオン性脂質ベクターが研究開発されている。本出願人らは、前述の合成高分子ベクターとして、ベンゼンなどの芳香環を核としてカチオン性ポリマー鎖が放射状に伸延する分岐構造のベクターがDNAを高密度で凝縮させて小さな核酸複合体粒子を形成させ、効率良く細胞へ遺伝子導入できる遺伝子導入剤を提案した(特許文献1,2)。
【0004】
本出願人らはまた、前記分岐構造のベクターである分岐型重合体、或いは、この分岐型重合体に光を照射するなどして分岐型重合体同士を架橋させた架橋体のうち、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.0〜1.5の画分を液体クロマトグラフィー等により分取して得た遺伝子導入剤が、さらに効率よく細胞へ遺伝子を導入することができることを見出し、先に特許出願した(特許文献3)。
【0005】
なお、特許文献1〜3において、遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターに対してビニル系モノマーを光照射リビング重合することにより製造されている。この光照射リビング重合は、イニファターとビニル系モノマーとを含む溶液を反応容器に入れ、この反応容器の一側面側から光を照射することにより行われている。
【0006】
この光照射リビング重合において、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基などのジチオカルバメート基の可逆的ラジカル解裂は、
(1)波長370nm付近の光照射で最も効率よく起こる。
(2)それよりも短波長の340〜360nmの波長の光では不可逆的な解裂が拮抗する。
(3)波長370nm付近の光よりも長波長の光では、ほとんど解裂しない。
ことが判明している。
【0007】
しかして、このような方法で製造される遺伝子導入剤は、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが2.5程度と分子量分布の大きいものであるが、特許文献3では、この分子量分布の大きい重合反応生成物を液体クロマトグラフィー等により分子量分画し、Mw/Mnが1.0〜1.5の分画を分取して遺伝子導入剤としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2004/092388号公報
【特許文献2】特開2007−70579号公報
【特許文献3】特開2009−274997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1,2に記載されるベンゼン環から放射状にポリマー鎖が伸延する遺伝子導入剤は、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターのジチオカルバメート基の光開裂性を利用することにより、このイニファターに対してビニル系モノマーを光照射リビング重合したものであって、同じモノマーユニットからなる線形ポリマーと比較して、その構造上、電荷密度を高く配置することが可能である。このため、DNAやRNAなどの核酸との複合体をより強く凝集させることが可能であり、より粒子径の小さい微細なポリプレックス粒子を形成させることができるが、より遺伝子導入効率に優れた遺伝子導入剤の開発が望まれていた。
【0010】
この要望に対し、本発明者らは、特許文献1,2に記載される分岐構造を有するベクターのうち、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mn(以下、この比を「分散比」と称す場合がある。)が小さい遺伝子導入剤が特に優れた遺伝子導入活性を示すことを見出し、光照射リビング重合反応生成物から、この分散比が1.0〜1.5である画分を分子量分画により分取する遺伝子導入剤の製造方法を提案した(特許文献3)。
【0011】
特許文献3に記載される遺伝子導入剤の製造方法によれば、分散比が1.0〜1.5である画分を分取することにより、遺伝子導入活性に特に優れる遺伝子導入剤を得ることができるが、このためには、反応生成物に対して液体クロマトグラフィー等による分子量分画を行う必要がある。
【0012】
即ち、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用した重合反応では、以下に説明するように、分散比が小さく、分子量分布が狭い重合体を光照射リビング重合により直接製造することが難しい。
【0013】
有機テルル、ニトロキシド、ジチオエステル(RAFT試薬)をドーマント核として用いるリビングラジカル重合では、休眠期のドーマント核と成長ラジカルとの交換反応が平衡に達しているため、重合反応が反応系全体において均一に進行し、分散比がほぼ1.0であるポリマーを得ることができる。これに対し、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用するリビング重合では、ジチオカルバメート基の光ラジカル開裂速度が遅く、ジチオカルバメート基と成長ラジカルとの交換反応がほとんど生じない。従って、この重合反応では、光量子を吸収した分子のみが重合するため、上記の有機テルルなどのリビングラジカル重合反応と比較して分子量分布が若干広くなる。
【0014】
特に、ジチオカルバメート基の光開裂性を利用したイニファターとカチオン性モノマーとの重合反応においては、以下の(1)〜(4)の理由により、分子量分布の狭い分岐型重合体を収率よく得ることができない。
【0015】
(1) イニファターの光開裂性を利用した光照射リビング重合において常用されるブラックライトなどの水銀ランプ系の照射光には、重合反応(主反応)を生じさせる波長370nm付近の光(以下、「主反応光」と称す場合がある。)だけでなく、ジチオカルバメート基の一部が解裂する分解反応(副反応)を生じさせる300〜360nm程度の光(以下、「副反応光」と称す場合がある。)も含まれている。即ち、用いた光源のピーク波長が370nm付近であっても、一般的には、それ以外の300〜470nm付近の光も検出されるため、このような低波長の光によって副反応が生じ、分子量分布の狭い分岐型重合体を得ることができない。なお、副反応が生じることにより遺伝子導入剤の分子量分布が広くなってしまう原因としては、リビング重合において重要な役割を果たす活性点が、副反応で生じる化合物により不活性化されるためであると考えられる。前述のイニファターを例にして説明すると、イニファターに対して、300〜360nmの光を照射すると主反応に寄与するベンジルラジカルが可逆的に生成する他、副反応を生じさせるベンジルメルカプタンラジカル、チオケトンラジカル、二硫化炭素、ジエチルアミンなどが不可逆的に生成する。これらの化合物のうち、ベンジルラジカル、チオケトンラジカルは、リビング重合に寄与するが、その他の化合物は、リビング重合の反応停止剤として寄与すると考えられ、これらの化合物が反応系内に多く存在すると、反応途中の重合鎖末端に存在する活性点が不活性化される確率が高くなり、結果として、遺伝子導入剤の分子量分布が広くなる。
【0016】
波長370nmの光のみを発する光照射装置を用いることにより、この問題を解決することができるが、このような装置は高価であるため、工業的な実用化の面で不利である。また、キセノンランプなどの混合光を発する装置に分光フィルターを装着し、主反応光のみを選択的に照射する方法もあるが、この場合には、分光フィルターを透過することにより照射強度が著しく低下するため、照射時間を長くする必要があり、生産効率が低下し、また、劣化した分光フィルタを頻繁に交換する必要があり、コスト及びメンテナンスの両面で好ましくない。
【0017】
(2) カチオン性モノマーは、反応性が低いため高濃度の溶液で反応させる必要がある。しかしながら、このカチオン性モノマーを含む溶液は、カチオン性官能基に由来する水素結合の寄与により粘度が高く、撹拌効率が悪く、重合中に反応溶液を十分に撹拌して均一な反応溶液とすることが難しい。
【0018】
(3) カチオン性モノマーとして用いられるアミン化合物は、その独特の色から明らかなように、イニファターの光開裂に重要な近紫外光の吸収率がスチレンなどの他の中性モノマーに比べて高い。このため、反応容器内の溶液に対して、均一に光を照射し、均一に重合反応を進行させることが困難である。即ち、反応溶液を入れた反応容器の一側面側から光を照射しても、溶液内の光源に近い部分に存在するアミン化合物が近紫外光を吸収して、この部分で局所的に重合が進行してしまうため、光源から遠い部分に存在するイニファターに光が到達しにくく、反応溶液中で均一に反応が進行しない。この問題は、上記(2)の均一撹拌が困難であることによって、更に助長される。
【0019】
(4) カチオン性モノマーを含む溶液を加温することにより溶液の粘度を低下させて撹拌効率を向上させる方法もあるが、光照射リビング重合反応において、この方法を採用することは困難である。即ち、反応系の加温は、一般に、熱媒体が流通する加温用ジャケットを反応容器に装着することで行われるが、通常、このようなジャケットは光透過性ではないため、反応容器にこのようなジャケットを装着すると反応容器内の溶液に対して光を照射することができなくなる。この問題は、光照射と加温とを同時に行うことができる装置を用いることにより解決することができるが、このような装置は極めて高価であり、コストの面で好ましくない。
【0020】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、高価な光照射装置を必要とすることなく、光リビング重合により、分子量分布の狭い遺伝子導活性に優れた遺伝子導入剤を効率的に製造することができる遺伝子導入剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、溶液中での光リビング重合において、単色光のみを照射する高価な光照射装置を用いることなく、反応系に主反応光のみを付与して目的とする遺伝子導入剤を得る方法について検討を重ねた結果、反応系に、分解することにより主反応光であるピーク波長360〜375nmの光を放出する光放出性化合物を加え、この化合物が放出する光により光リビング重合を行うことにより、主反応光による光リビング重合が均一に進行すること、また、主反応光を反応系内のイニファターに直接照射して光の照射効率を高めることができること、を見出し、本発明を完成させた。
【0022】
本発明(請求項1)の遺伝子導入剤の製造方法は、溶液中で光リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、該溶液中に、分解することによりピーク波長360〜375nmの光を放出する光放出性化合物を存在させることを特徴とするものである。
【0023】
請求項2の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1において、前記光放出性化合物が放出する光のピーク波長が360〜370nmであることを特徴とするものである。
【0024】
請求項3の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1又は2において、前記光放出性化合物が、前記溶液中に溶解していることを特徴とするものである。
【0025】
請求項4の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記光放出性化合物が熱分解又は加水分解することにより前記光を放出することを特徴とするものである。
【0026】
請求項5の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記光放出性化合物は、9−メチルカルバゾール−3−(2,2’−ジアルキル)ジオキセタン誘導体、又はナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジドであることを特徴とするものである。
【0027】
請求項6の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記溶液の光放出性化合物の含有量が、0.1〜150g/Lであることを特徴とするものである。
【0028】
請求項7の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし6のいずれか1項において、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造することを特徴とするものである。
【0029】
請求項8の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項7において、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とするものである。
【0030】
請求項9の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項7又は8のいずれか1項において、前記ビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0031】
請求項10の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし9のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量が、1,000〜60,000であることを特徴とするものである。
【0032】
請求項11の遺伝子導入剤の製造方法は、請求項1ないし10のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、1.3以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法によれば、分解時にピーク波長が360〜375nmである光を放出する光放出性化合物を反応系内に存在させて、この光放出性化合物が放出する光により光リビング重合反応を行うため、単色光のみを照射する高価な光照射装置を用いることなく、反応基質に対して重合反応(主反応)を生じさせる主反応光を主に照射することができるようになり、副反応を抑制して分子量分布が狭い分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を得ることができる(請求項1)。
また、光リビング重合のための光照射が不要となることにより、反応容器に加温用ジャケットを取り付けて光リビング重合を行うことも可能となり、反応溶液を加温することにより溶液の粘度を低下させ、攪拌効率を高めて反応効率を高めることも可能となる。
【0034】
前記光放出性化合物が放出する光のピーク波長としては、360〜370nmであることが好ましい(請求項2)。放出される光のピーク波長がこの範囲内であれば、より効果的に主反応を促進した上で、副反応を抑えることができる。
【0035】
この光放出性化合物は、前記溶液中に溶解していることが好ましい(請求項3)。光放出性化合物が前記溶液に対して溶解し、反応系全体に均一に存在していると、反応系の全体において主反応光を放出することができ、主反応光が反応系に対して満遍なく行き渡るようになるため、イニファターに対する光量子の衝突確率が均一になり、結果として、分子量分布の狭い重合体よりなる遺伝子導入剤を効率的に得ることができる。
【0036】
この光放出性化合物は、熱分解、又は加水分解により前記光を放出するものであることが好ましい(請求項4)。
熱分解により光を放出する光放出性化合物であれば、反応系を加熱するのみで容易に主反応光を放出させることができ、また、加水分解により光を放出する光放出性化合物であれば、反応系に水或いは水とアルカリを添加するのみで、容易に主反応光を放出させることができる。
【0037】
本発明で用いる光放出性化合物としては、9−メチルカルバゾール−3−(2,2’−ジアルキル)ジオキセタン誘導体、又はナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジドが挙げられる(請求項5)。
【0038】
反応溶液中の光放出性化合物の含有量は、0.1〜150g/Lであることが好ましく(請求項6)、反応溶液の光放出性化合物の含有量をこの範囲内とすることにより、反応後の精製操作等の負荷を過度に高めることなく、光放出性化合物を用いることによる本発明の効果を十分に得ることができる。
【0039】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法により製造される遺伝子導入剤としては、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなるものであることが好ましい(請求項7)。
【0040】
前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合しているものであることが好ましく(請求項8)、前記ビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい(請求項9)。
【0041】
前記遺伝子導入剤の分子量は、1,000〜60,000であることが好ましく(請求項10)、前記遺伝子導入剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、1.3以下であることが好ましい(請求項11)。このような遺伝子導入剤は、特に遺伝子導入活性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0043】
本発明の遺伝子導入剤の製造方法は、溶液中での光リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、該溶液中に、分解することによりピーク波長360〜375nmの光を放出する光放出性化合物を存在させることを特徴とするものであって、この光放出性化合物が放出する光により光リビング重合を行うため、高価な光照射装置による光照射を行わなくても、主反応が速やかに進行し、且つ副反応を抑制することができ、結果として、分子量分布が狭い遺伝子導入剤を得ることができる。
【0044】
また、本発明にあっては、溶液内の光放出性化合物が放出する光により光リビング重合を行うことにより、従来法で採用されている光照射を不要とすることができる。このため、反応容器に加温ジャケットを取り付けて反応系を加温することも可能となり、加温による反応溶液の粘度低下及び撹拌効率の向上で、光リビング重合を均一に進行させてより一層分子量分布の狭い遺伝子導入剤を得ることができる。
【0045】
本発明で用いる光放出性化合物は、分解することによりピーク波長が360〜375nm、好ましくは360〜375nmの光を放出するものであって、本発明に係る光リビング重合の阻害因子となるようなものでなければよく、特に制限はないが、本発明で用いる光放出性化合物は、熱分解又は加水分解により上記光を放出するものであることが、好ましい。即ち、熱分解により光を放出する光放出性化合物であれば、反応系を加熱することにより光を放出させて光リビング重合を開始させることができるので、反応の制御を行いやすい。また、加水分解により光を放出する光放出性化合物であれば、水の存在下で、必要に応じてアルカリ試薬などを加えることにより光を放出させて光リビング重合を開始させることができるので、分解のための特別な装置が不要である。
【0046】
このような光放出性化合物としては、下記式(I)に示す9−メチルカルバゾール−3−(2,2’−ジアルキル)ジオキセタン誘導体や下記式(II)に示すナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジドなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0047】
【化1】

【0048】
なお、上記式(I)中、Rは、不安定なオキシド中間体であるジオキセタン化合物を保護するための保護基であるが、該保護基Rを有さない化合物であってもよい。R,Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10程度の、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖を有するアルキル基を示す。
【0049】
上記9−メチルカルバゾール−3−(2,2’−ジアルキル)ジオキセタン誘導体は、加熱により、下記式(Ia)に示す通り分解し、分解時に、ピーク波長が370nm付近の光を放出する。
【0050】
【化2】

【0051】
また、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジドは、加水分解により、下記式(IIa)に示す通り分解し、分解時に、ピーク波長が365nm付近の光を放出する。
【0052】
【化3】

【0053】
反応系にこのような光放出性化合物を存在させることにより、主反応光をイニファターに対して直接的に照射して、主反応を優先的に進行させることが可能となる。
【0054】
このような光放出性化合物を用いる本発明に係る光リビング重合は、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、このイニファターとビニル系モノマーとを、前述の光放出性化合物が放出する光によりリビング重合反応させるものであることが好ましい。
【0055】
前記イニファターとなるN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する芳香族化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基、好ましくはN,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖化合物としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖化合物としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖化合物としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジアルキルジチオカルバミン酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジアルキルジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル)ベンゼンが挙げられる。なお、ここで、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に含まれるジアルキル部分のアルキル基としては、エチル基等の炭素数2〜18個のアルキル基が好ましいが、アルキル基に限らず、フェニル基など芳香族系の炭化水素基であっても構わない。即ち、N,N−ジアルキルジチオカルバミルメチル基に限らず、N,N−ジアリールジチオカルバミルメチル基等を含む、脂肪族炭化水素基及び/又は芳香族炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であれば目的を達成することができる。
【0056】
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
【0057】
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレンが好適であるが、反応溶媒は、光放出性化合物の溶解性などを考慮して適宜選択される。
【0058】
即ち、後述の如く、光放出性化合物は原料溶液中に溶解していることが好ましく、このため、反応溶媒としては、イニファターとビニル系モノマーと光放出性化合物とを溶解させることができる溶媒であることが好ましい。従って、イニファター、ビニル系モノマー、及び光放出性化合物をすべて溶解させることができる適当な溶媒がない場合には、イニファター、ビニル系モノマー及び光放出性化合物の一部の成分を溶解させる第1の溶媒と、この第1の溶媒に相溶性を有すると共に、残る成分を溶解させる第2の溶媒を用いるようにすることもできる。例えば、光放出性化合物がアルコールなどの極性溶媒に対して溶解する物質である場合には、後述の実施例1のように、クロロホルムにイニファターを溶解させた後、この溶液にビニル系モノマーとメタノールとを加えて混合溶媒とし、次いで、この溶液に対して光放出性化合物を加えて反応を行うようにすることができる。なお、光放出性化合物として、加水分解により光を放出する化合物を用いる場合には、溶媒に含まれる水分により事前に加水分解が進行することを防止するために、脱水処理を行った溶媒を用いることが好ましい。
【0059】
イニファターとビニル系モノマーとを反応させるには、上述のような溶媒を用いて、イニファター、ビニル系モノマー、及び前述の光放出性化合物を含んでなる原料溶液を調製し、該溶液に熱を加えたり、水又はアルカリ水溶液などを加えることにより該光放出性化合物を分解して光を放出させ、光放出性化合物から放出された光によりイニファターに対しビニル系モノマーが結合した反応生成物を生成させる。
【0060】
前記ビニル系モノマーとしては、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等のビニル系モノマーが好適であり、具体的には、N,N−ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、4−N,N-ジメチルアミノスチレン、及び4−アミノスチレンの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のビニル系モノマーが挙げられ、特に、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリルアミド、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド等のカチオン性ビニル系モノマーが好ましい。これらのビニル系モノマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
前記原料溶液中のビニル系モノマーの濃度は0.5M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適であり、イニファターの濃度は1〜20mM程度が好適である。
【0062】
前記光放出性化合物は、前記イニファターとビニル系モノマーとを含む原料溶液に均一に溶解していることが好ましい。光放出性化合物を原料溶液に対して均一に溶解させることにより、溶液内のイニファターに対して均等にかつ直接的に主反応光の光量子が行き渡るため、分子量分布の狭い遺伝子導入剤を効率的に得ることができる。
【0063】
原料溶液の光放出性化合物の含有量は、用いた光放出性化合物の種類によっても異なるが、0.1〜150g/L程度、特に1.0〜80g/L程度であることが好ましい。光放出性化合物の含有量が少な過ぎると光リビング重合を行うのに十分な照射強度の光が放出されないため、反応が生じにくくなる場合があり、多すぎると、反応後、光放出性化合物の分離に時間を要するなど、反応ないし分岐型重合体の精製操作に支障をきたすおそれがある。
【0064】
光リビング重合を行う時間としては、反応系に存在させる光放出化合物の光放出時間、及び光放出性化合物の使用量、目的とする分岐型重合体の分子量などによっても変化するが、0.1〜10時間、特に0.5〜4時間程度が好ましい。
【0065】
光放出性化合物が放出する光を反応系内に均一に行き渡らせるためには、反応容器内に配置した撹拌子や撹拌羽根などの撹拌手段の回転数を制御することが好ましい。好ましい回転数は、100〜2,000回/分程度、特に500〜1,500回/分程度である。撹拌手段の回転数を上記範囲内とすることにより、光放出性化合物が放出する光を反応系内に均一に行き渡らせることができる。なお、ガスバブリング、超音波による撹拌を併用することもできる。
【0066】
この光放出性化合物の光により、反応液中に目的とする分岐鎖を有する分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤が生成するので、必要に応じ精製することにより、分岐鎖部分にビニル系モノマーよりなるポリマー鎖が導入され、分岐鎖の末端がN,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基であるホモポリマーを得る。
【0067】
この分岐型重合体の分岐鎖の1本当たりの分子量としては、1,00〜20,000程度、特に300〜15,000程度が好ましい。この分子量は、光放出性化合物の使用量や反応時間を制御することにより調整することができる。
【0068】
なお、本明細書において、分子量とは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によるポリエチレングリコール換算の数平均分子量をさす。
【0069】
本発明に係る分岐型重合体の分岐鎖は、ビニル系モノマーをモノマーとする1種のモノマーのみからなるホモポリマーであることが好ましいが、2種以上のビニル系モノマーを導入したブロックコポリマー又はランダムコポリマーであってもよい。
【0070】
また、このように製造した遺伝子導入剤の分子量としては、1,000〜60,000程度、特に1,500〜50,000程度が好ましい。分子量がこの範囲内であると、遺伝子導入剤と核酸とが複合しやすい。
【0071】
本発明によれば、光放出性化合物が放出する波長360〜375nm、好ましくは360〜370nmの主反応光が反応系に対して均一に行き渡らせることができるため、副反応を抑制し、主反応を優先的に進行させて、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが1.6以下というような分散比の小さい遺伝子導入剤を得ることができる。このように分散比の小さい遺伝子導入剤は、優れた遺伝子導入活性を示す。
【0072】
また、本発明によれば、分岐型重合体の分岐鎖(ポリマー鎖)のω末端のジチオカルバメート官能基数が、3分岐鎖の分岐型重合体の場合は、2〜3個/分子、4分岐鎖の分岐型重合体の場合は、3〜4個/分子、6分岐鎖の分岐型重合体の場合は、4〜6個/分子であるような、ジチオカルバメート官能基数が理論値に近いものを製造することができる。即ち、本発明に係る光リビング重合において、主反応のみが進行し、副反応が完全に抑制された場合には、ω末端のジチオカルバメート官能基数は、分岐型重合体の分岐鎖数に等しい理論値となり、3分岐型重合体の場合は3個/分子、4分岐型重合体の場合は4個/分子、6分岐型重合体の場合は6個/分子となる。
【0073】
このジチオカルバメート官能基数は、後述の実施例に記載の測定値から計算により求めることができる。
【0074】
このようにして製造される遺伝子導入剤(ベクター)が、核酸含有複合体として核酸を包囲することによって、生体内の酵素による核酸の失活、分解を抑制することができる。
【0075】
上記遺伝子導入剤と核酸とを複合させるには、遺伝子導入剤の濃度0.1〜1000μg/mL程度の溶液に対し、核酸を添加し、混合すればよい。核酸に対して遺伝子導入剤を過剰量添加し、核酸に対して遺伝子導入剤を飽和状態にして遺伝子導入剤と核酸とを複合化することが好ましい。
【0076】
核酸の好ましい例としては、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV1−TK遺伝子),p53癌抑制遺伝子及びBRCA1癌抑制遺伝子やサイトカイン遺伝子としてTNF−α遺伝子,IL−2遺伝子,IL−4遺伝子,HLA−B7/IL−2遺伝子,HLA−B7/B2M遺伝子,IL−7遺伝子,GM−CSF遺伝子,IFN−γ遺伝子及びIL−12遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにgp−100,MART−1及びMAGE−1などの癌抗原ペプチド遺伝子が癌治療に利用できる。
【0077】
また、VEGF遺伝子,HGF遺伝子及びFGF遺伝子などのサイトカイン遺伝子並びにc−mycアンチセンス,c−mybアンチセンス,cdc2キナーゼアンチセンス,PCNAアンチセンス,E2Fデコイやp21(sdi−1)遺伝子が血管治療に利用できる。かかる一連の遺伝子は当業者には良く知られたものである。
【0078】
核酸複合体の粒径は50〜400nm程度、特に100〜350nm、とりわけ150〜300nmが好適である。この粒径は、例えばレーザを用いた動的光散乱法によって測定される。粒径がこれよりも小さいと、核酸複合体内部の核酸にまで酵素の作用が及ぶおそれ、あるいは腎臓にて濾過排出されるおそれがある。また、これよりも大きいと、細胞に導入されにくくなるおそれがある。
【0079】
核酸は、細胞に導入されることによりその細胞内で機能を発現することができるような形態で用いる。例えばDNAの場合、導入された細胞内で当該DNAが転写され、それにコードされるポリペプチドの産生を経て機能発現されるように当該DNAが配置されたプラスミドとして用いる。好ましくは、プロモーター領域、開始コドン、所望の機能を有する蛋白質をコードするDNA、終止コドンおよびターミネーター領域が連続的に配列されている。
【0080】
所望により2種以上の核酸をひとつのプラスミドに含めることも可能である。
【0081】
核酸を導入する対象として望ましい「細胞」としては、当該核酸の機能発現が求められるものであり、このような細胞としては、例えば使用する核酸(すなわちその機能)に応じて種々選択され、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、繊維芽細胞、骨格筋細胞、血管内皮細胞、骨髄細胞、骨細胞、血球幹細胞、血球細胞等が挙げられる。また、単球、樹状細胞、マクロファージ、組織球、クッパー細胞、破骨細胞、滑膜A細胞、小膠細胞、ランゲルハンス細胞、類上皮細胞、多核巨細胞等、消化管上皮細胞・尿細管上皮細胞などである。
【0082】
このような核酸複合体は培養試験に用いるほか、任意の方法で生体に投与することができる。
【0083】
生体への投与方法としては静脈内又は動脈内への注入が特に好ましいが、筋肉内、脂肪組織内、皮下、皮内、リンパ管内、リンパ節内、体腔(心膜腔、胸腔、腹腔、脳脊髄腔等)内、骨髄内への投与の他に病変組織内に直接投与することも可能である。
【0084】
この核酸複合体を有効成分とする医薬は、更に必要に応じて製剤上許容し得る担体(浸透圧調整剤,安定化剤、保存剤、可溶化剤、pH調整剤、増粘剤等)と混合することが可能である。これら担体は公知のものが使用できる。
【0085】
また、この核酸複合体を有効成分とする医薬は、含まれる核酸の種類が異なる2種以上の核酸含有複合体を含めたものも包含される。このような複数の治療目的を併せ持つ医薬は、多様化する遺伝子治療の分野で特に有用である。
【0086】
投与量としては、動物、特にヒトに投与される用量は目的の核酸、投与方法および治療される特定部位等、種々の要因によって変化する。しかしながら、その投与量は治療的応答をもたらすに十分であるべきである。
【0087】
この核酸複合体は、好ましくは遺伝子治療に適用される。適用可能な疾患としては、当該複合体に含められる核酸の種類によって異なるが、末梢動脈疾患、冠動脈疾患、動脈拡張術後再狭窄等の病変を生じる循環器領域での疾患に加え、癌(悪性黒色腫、脳腫瘍、転移性悪性腫瘍、乳癌等)、感染症(HIV等)、単一遺伝病(嚢胞性線維症、慢性肉芽腫、α1−アンチトリプシン欠損症、Gaucher病等)等が挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0089】
(1) イニファターの合成
イニファターとしての1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
【0090】
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)5.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム34.0gをエタノール100mL中へ加え、遮光下、室温で4日間撹拌した。沈殿物を濾過し、3Lのメタノール中に投入して30分間撹拌した後、濾過した。この操作を繰り返し合計4回行った。沈殿物をトルエン200mLへ溶解した後、100mLのメタノールを加えて50℃に加温し、冷蔵庫内で15時間保管して再結晶させ、結晶を濾別後に大量のメタノールで洗浄した。結晶を室温で減圧乾燥して、白色の1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの針状結晶を得た(収率90%)。高速液体クロマトグラフィーにより、原料ピークが消失し、精製物が単一物質であることを確認した。
【0091】
H−NMR(in CDCl)の測定結果は、δ1.26−1.31ppm(t,24H,CHCH),δ3.69−3.77ppm(q,8H,N(CHCH),δ3.99−4.07ppm(q,8H,N(CHCH),δ4.57ppm(s,8H,Ar−CH),δ7.49ppm(s,2H,Ar−H)であった。
【0092】
【化4】

【0093】
(2) 実施例1:4分岐型重合体よりなるホモポリマーの光リビング重合(光放出性化合物存在下)による合成
下記反応式に従い、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリアミドをカチオン性モノマーとして用い、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル)ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリアミド)−メチル]ベンゼンよりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。なお、蛍光灯などの照明による迷光をできるだけ排除するため、以下の操作はすべて暗室で行った。
【0094】
上記(1)により合成した1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン45.6mgを30mLの脱水クロロホルムへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリアミド7.9g及び10mLの脱水メタノールを加えて混合した。この溶液にナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジド3.0gを加えて全量を脱水メタノールで50mLに調整した。3mm褐色瓶(直径50mm)中で激しく撹拌しながら高純度窒素ガスで10分間パージして密栓した。これに、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジドの加水分解開始のために1N水酸化ナトリム水溶液を滴下して60℃に昇温し、3時間攪拌した。この反応により得られた溶液を減圧濃縮し、ジエチルエーテルへ滴下すると不溶性の粘着質な成分が析出した。
【0095】
得られた析出物は複数の成分の混合物であったが、この混合物には水に溶解するポリマーが含まれていたことから、水溶性である分岐型重合体が生成しているとことが分かった。つまり、反応系に光放出性化合物を存在させて、この物質が放出する主反応光によりリビング重合を行うことにより、高価な光照射装置を用いて光照射を行わなくても、目的とする遺伝子導入剤を得ることができることがわかった。
【0096】
なお、GPCによるポリエチレングリコールを標準物質とした分岐型重合体の数平均分子量は、2,300(Mw/Mn=1.3)であっり、副反応が抑制されたことにより、分散比の小さい分岐型重合体を得ることができた。この分岐型重合体の分岐鎖(ポリマー鎖)のω末端のジチオカルバメート官能基数を、λmax=278nmでのモル吸光係数(ε=2,700/mol・cm)と紫外吸収の値から計算により求めたところ3.8個/分子であった。
【0097】
【化5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液中で光リビング重合を行う工程を含む遺伝子導入剤の製造方法において、該溶液中に、分解することによりピーク波長360〜375nmの光を放出する光放出性化合物を存在させることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記光放出性化合物が放出する光のピーク波長が360〜370nmであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記光放出性化合物が、前記溶液中に溶解していることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記光放出性化合物が熱分解又は加水分解することにより前記光を放出することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記光放出性化合物は、9−メチルカルバゾール−3−(2,2’−ジアルキル)ジオキセタン誘導体、又はナフタレン−2,3−ジカルボン酸ヒドラジドであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記溶液の光放出性化合物の含有量が、0.1〜150g/Lであることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、少なくとも、N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物からなるイニファターに対して、ビニル系モノマーを光照射リビング重合してなる分岐型重合体よりなる遺伝子導入剤を製造することを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジ置換ジチオカルバミルメチル基が結合していることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8のいずれか1項において、前記ビニル系モノマーは、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、N−イソプロピルアクリルアミド、及びN−イソプロピルアクリルアミドの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の分子量が、1,000〜60,000であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記遺伝子導入剤の重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが、1.3以下であることを特徴とする遺伝子導入剤の製造方法。

【公開番号】特開2011−162443(P2011−162443A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23156(P2010−23156)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(591108880)国立循環器病センター総長 (159)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】