説明

遺伝子発現マーカーを使用する、化学療法に対する反応の予測

本発明は、癌患者が化学療法での治療反応に対して有益な反応を有する可能性が高いかどうかを予測するために有用な遺伝子発現情報を提供する。一態様では、本発明は、癌と診断された被験体の化学療法に対する有益な反応の尤度を予測する方法を提供する。被験体は哺乳類、例えば、霊長類、例えば、ヒト患者であることが好ましい。特定の実施形態では、変数(i)〜(v)に含まれるすべての遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルを、1種以上の参照遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルに対して正規化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、癌患者が化学療法での治療反応に対して有益な反応を有する可能性が高いかどうかを予測するために有用な遺伝子発現情報を提供する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
遺伝子発現研究
癌専門医には、彼らが利用できるいくつかの治療選択肢、例えば、「標準治療」と位置づけられる、化学療法薬の種々の組み合わせ、および個々の癌の治療のための表示事項はないが、その癌における有効性の証拠があるいくつかの薬物がある。良好な治療成果の最良の尤度を得るには、転移性疾患の最高の危険にある患者を同定し、最適な利用可能な癌治療を与えることが必要である。詳しくは、「標準治療」治療薬、例えば、シクロホスファミド、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、アントラサイクリン、タキサンおよび抗エストロゲン薬、例えば、タモキシフェンに対する患者の反応の尤度を調べることが重要であるが、これは、これらには限定された有効性しかなく、重篤な副作用の範囲を有することも多いからである。したがって、利用可能な薬物を必要とし、これに対して反応する可能性が最も高い、または最も低い患者を同定することにより、より賢明な患者選択によって、これらの薬物が提供しなくてはならない正味の有効性を増大させ、正味の死亡率および毒性を低減することができる。
【0003】
現在、臨床診療において用いられる診断学的検査は、単一分析物であり、したがって、多くの異なるマーカー間の関係を知るという潜在的価値を獲得するものではない。さらに、診断学的検査は、定量的でない免疫組織化学に基づいたものであることが多い。主に解釈が主観的であるために、免疫組織化学からは、異なる実験室では異なる結果が生じることも多い。RNAベースの試験は高度に定量的である可能性があるが、RNAは、ごく普通に調製された、すなわち、ホルマリンで固定され、パラフィンに包埋された(FPE)腫瘍試料では破壊されるという認識のために、また、分析のために患者から新鮮組織サンプルを得、保存することは不都合であるために開発されていない。
【0004】
過去20年間にわたって、分子生物学および生化学は、その活性が腫瘍細胞の挙動、分化状態および特定の治療薬に対する感受性または耐性に影響を及ぼす何百もの遺伝子を明らかにしてきた。しかし、若干の例外はあるが、これらの遺伝子の状態は、薬物治療に関する臨床決定を日常的に行うことを目的として活用されてこなかった。過去数年の間に、いくつかのグループが、何千もの遺伝子のマイクロアレイ遺伝子発現解析による種々の癌の種類の分類に関する研究を公開した(例えば、Golub et al., Science 286:531−537 (1999)、Bhattacharjae et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:13790−13795 (2001)、Chen−Hsiang et al., Bioinformatics 17 (Suppl. 1):S316−S322 (2001)、Ramaswamy et al., Proc. Natl. Acad. ScL USA 98:15149−15154 (2001)、Martin et al., Cancer Res. 60:2232−2238 (2000)、West et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:11462−114 (2001)、Sorlie et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98:10869−10874 (2001)、Yan et al., Cancer Res. 61:8375−8380 (2001))参照のこと)。しかし、主に、マイクロアレイが新鮮または凍結組織RNAを必要とし、そのような試料は、同定される分子署名の臨床評価を可能にするほど十分な量で存在しないという理由で、これらの研究はまだ、臨床診療において日常的に用いられる試験を生み出していない。
【0005】
過去3年において、RT−PCR技術を用いてホルマリン固定パラフィン包埋(FPE)組織において数百の遺伝子の遺伝子発現をプロファイリングすることが可能となった。感度が高く、正確で、再現性のある方法が記載された(非特許文献1)。何千もの保管されているFPE臨床組織試料が、関連する臨床記録、例えば、生存、薬物治療暦などとともに存在するので、今や、この種の組織において遺伝子発現を定量的にアッセイする能力によって、特定の遺伝子の発現を、患者の予後および治療に対する反応の尤度と関連付ける迅速な臨床研究が可能となる。臨床事象は歴史的であるので、過去の臨床研究によって作成されたデータを用いて、迅速な結果が可能となる。対照的に、例えば、新しく補充された癌患者に関する生存研究を実施することを望む場合には、通常、統計的に十分な数の死亡が起こる間何年も待つ必要がある。
【0006】
乳癌
乳癌は、米国では女性の間で最も一般的な種類の癌であり、40〜59歳の女性の間では癌による死亡の主要原因である。
【0007】
現在、乳癌ではいくつかの分子的試験しか日常的に臨床使用されていない。エストロゲン受容体(ESR1)およびプロゲステロン受容体(PGR)タンパク質の免疫組織化学的アッセイが、抗エストロゲン剤、例えば、タモキシフェン(TAM)を用いる治療に対する患者の選択の根拠として用いられている。さらに、ERBB2(Her2)免疫化学または蛍光in situハイブリダイゼーション(それぞれ、タンパク質およびDNAを測定する)が、Her2アンタゴニスト剤、例えば、トラスツズマブ(ヘルセプチン(登録商標);Genentech, Inc., South San Francisco, CA)を用いる患者を選択するために用いられている。
【0008】
現在の予後診断のための試験および化学療法に対する反応を予測するための試験が不十分であるために、乳癌治療戦略が癌専門医の間で異なる(Schott and Hayes, J. Clin. Oncol. PMID 15505274 (2004);非特許文献2)。一般に、腫瘍がESR1陽性であるとわかっているリンパ節陰性の患者は、TAMなどの抗エストロゲン剤で治療され、腫瘍がESR1陰性であるとわかっている患者は化学療法で治療される。ESR1陽性はまた、癌再発のリスクをやや弱めるために化学療法の毒性副作用を受け入れて、抗エストロゲン療法に加えて化学療法も処方されることが多い。毒性としては、神経障害、悪心およびその他の胃腸症状、脱毛および認知障害が挙げられる。再発性乳癌は、通常、転移性であり、治療に対する反応性が悪いために再発は恐れられるべきものである。再発のリスクがかなりある患者を同定する(すなわち、予後情報を提供する)必要性および化学療法に対して反応する可能性が高い患者を同定する(すなわち、予測情報を提供する)必要性が存在することは明確である。同様に、再発のリスクがあまり高くない患者を同定する必要性または化学療法に対して反応する可能性が低い患者を同定する必要性も存在するが、これは、これらの患者がこれらの毒性薬物に対する不必要な曝露を免れるべきであるからである。
【0009】
乳癌では、予後因子は治療予測因子とは異なる。予後因子とは、乳癌の自然史に関連している可変のものであり、乳癌にかかった患者の再発率および転帰に影響を及ぼす。悪い予後と関連していた臨床パラメーターとしては、例えば、リンパ節の関与、腫瘍の大きさの増大および高いグレードの腫瘍が挙げられる。予後因子は患者をベースライン再発リスクが異なるサブグループに分類するためによく用いられる。対照的に、治療予測因子は、個々の患者の、抗エストロゲンまたは化学療法などの治療に対する有益な反応の尤度に関連する変数であり、予後とは無関係である。
【0010】
特定の種類の治療に対する癌患者、例えば、乳癌患者の尤度を確実に予測する、正確で、定量的な試験が大いに必要とされている。このような試験は、開業医が、根拠の確かなリスク有効性分析に基づいて、個々の患者の要求に適応させた、理にかなった治療選択を行うのを補助する。
【非特許文献1】Cronin et al., Am. J. Pathol.(2004)164:35−42
【非特許文献2】Hayes, Breast(2003)12:543−9
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
一態様では、本発明は、癌と診断された被験体の化学療法に対する有益な反応の尤度を予測する方法であって、
(a)前記被験体から得られた癌細胞を含む生体サンプルにおいて、以下の変数のうち1以上の値を定量的に決定する工程を含み、
(i)再発スコア
(ii)ESR1グループスコア
(iii)浸潤グループスコア
(iv)増殖グループ閾値スコア
(v)MYBL2およびSCUBE2の少なくとも一方のRNA転写物、または対応する発現産物の発現レベル、
(b1)(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加のどの単位についても、前記被験体が、前記化学療法に対する有益な反応の比例して増加した尤度を有すると同定され、
(b2)(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加のどの単位についても、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の比例して減少した尤度を有すると同定され、
(b3)(i)の値の増加のどの単位についても、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の増加した尤度を有すると同定されると、乳癌再発のリスクの低下によって判定され、
ESR1グループスコア=(ESR1+PGR+BCL2+SCUBE2)/4、
浸潤グループスコア=(CTSL2+MMP11)/2、
GRB7グループスコア=0.9×GRB7+0.1×ERBB2、
GRB7グループ閾値スコアは、GRB7グループスコアが8未満である場合は8に等しく、GRB7グループスコアが8以上である場合にはGRB7グループスコアに等しく、
増殖グループスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5、
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループスコアが6.5未満である場合には6.5に等しく、増殖グループスコアが6.5以上である場合には増殖グループスコアに等しく、
【0012】
【数3】

[式中、
RSu=0.47×GRB7グループ閾値スコア
−0.34×ESR1グループスコア
+1.04×増殖グループ閾値スコア
+0.10×浸潤グループスコア
+0.05×CD68
−0.08×GSTM1
−0.07×BAG1]
等式中の遺伝子記号は、それぞれの遺伝子のRNA転写物またはその発現産物の発現レベルを表し、変数(i)、(ii)、(iii)および(iv)における遺伝子の個々の寄与は0.5〜1.5の因子によって加重され、
前記変数のいずれか中に存在するあらゆる個々の遺伝子およびあらゆる遺伝子が、ピアソン相関係数≧0.5で前記癌において前記遺伝子と同時に発現する別の遺伝子で置換できる方法に関する。
【0013】
被験体は哺乳類、例えば、霊長類、例えば、ヒト患者であることが好ましい。
【0014】
特定の実施形態では、変数(i)〜(v)に含まれるすべての遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルを、1種以上の参照遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルに対して正規化する。例えば、参照遺伝子は、ACTB、GAPD、GUSB、RPLP0およびTFRCからなる群から選択できる。もう1つの実施形態では、発現レベルをACTB、GAPD、GUSB、RPLP0およびTFRC、またはそれらの発現産物の発現レベルの平均に対して正規化する。
【0015】
さらなる実施形態では、化学療法に対する有益な反応の尤度についての定量値が、連続体にわたって決定される変数または複数の変数の値に直接比例する。
【0016】
癌は、例えば、充実腫瘍、例えば、乳癌、卵巣癌、胃癌、結腸癌、膵臓癌、前立腺癌および肺癌であり得る。乳癌は、それだけには限らないが、浸潤性乳癌、またはステージIIもしくはステージIII乳癌およびESR1陽性乳癌を含む。
【0017】
患者が、化学療法に対する有益な反応の増加した尤度を有すると決定される場合、本発明の方法は、患者を化学療法を用いて治療する工程をさらに含み得る。化学療法は、アジュバント化学療法またはネオアジュバント化学療法であり得、特定の癌の治療に有効であるとわかっているいずれかの化学療法薬の投与を含む。したがって、化学療法薬としては、アントラサイクリン誘導体、例えばドキソルビシンまたはアドリアマイシン、タキサン誘導体、例えば、パクリタキセルまたはドセタキセル、トポイソメラーゼ阻害剤、例えば、カンプトセシン、トポテカン、イリノテカン、20−S−カンプトセシン、9−ニトロ−カンプトセシン、9−アミノ−カンプトセシンまたはGI147211およびヌクレオチド生合成の阻害剤、例えば、メトトレキサートおよび/または5−フルオロウラシル(5−FU)が挙げられる。
【0018】
本発明の方法は、列挙した変数のうち少なくとも2つまたは少なくとも3つまたは少なくとも4つまたは5つの決定を含み得る。
【0019】
特定の実施形態では、本発明の方法は、MYBL2およびSCUBE2またはそれらの発現産物ののうち一方もしくは両方の発現レベルの決定を含む。
【0020】
生体サンプルは、例えば、癌細胞を含む組織サンプルであり得る。
【0021】
組織サンプルは、それだけには限らないが、固定され、パラフィンに包埋されているか、新鮮なものであるか、凍結されているものであってよく、例えば、細針生検、コア生検またはその他の種類の生検に由来するものであり得る。特定の実施形態では、組織サンプルは、微細針吸引生検、気管支洗浄または経気管支生検によって得られる。
【0022】
さらなる実施形態では、前記発現レベルの決定は定量的RT−PCRを含む。
【0023】
異なる実施形態では、列挙した遺伝子の発現産物の発現レベルの決定は免疫組織化学を含む。
【0024】
さらなる実施形態では、遺伝子発現産物のレベルをプロテオミクス技術によって決定する。
【0025】
なおさらなる実施形態では、遺伝子の発現レベルを標的遺伝子配列に基づいたプライマーおよびプローブ配列を用いる定量的RT−PCRによって決定する。
【0026】
特定の実施形態では、少なくとも1種の標的遺伝子配列はイントロンに基づく配列であり、イントロンの発現は同一遺伝子のエキソン配列の発現と相関する。
【0027】
本発明の方法は、前記の有益な反応の尤度を要約する報告書を作製する工程と、場合により、その報告書を、癌と診断された患者および/または患者の医師に個人用ゲノムプロフィールとして提供する工程とを含み得る。
【0028】
もう1つの態様では、本発明は癌と診断された被験体の個人用ゲノムプロフィールを調製する方法であって、
(a)前記被験体から得られた癌細胞を含む生体サンプルにおいて、以下の変数のうち1以上の値を定量的に決定する工程を含み、
(i)再発スコア
(ii)ESR1グループスコア
(iii)浸潤グループスコア
(iv)増殖グループ閾値スコア
(v)MYBL2およびSCUBE2の少なくとも一方のRNA転写物の発現レベル、
(b1)(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加のどの単位についても、前記被験体が、前記化学療法に対する有益な反応の比例して増加した尤度を有すると同定され、
(b2)(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加のどの単位についても、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の比例して減少した尤度を有すると同定され、
(b3)(i)の値の増加のどの単位についても、前記被験体が、化学療法の不在下で乳癌再発の増加した尤度を有すると同定され、
ESR1グループスコア=(0.8×ESR1+1.2×PGR+BCL2+SCUBE2)/4、
浸潤グループスコア=(CTSL2+MMP11)/2、
GRB7グループスコア=0.9×GRB7+0.1×ERBB2、
GRB7グループ閾値スコアは、GRB7グループスコアが8未満である場合は8に等しく、GRB7グループスコアが8以上である場合にはGRB7グループスコアに等しく、
増殖グループスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5、
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループスコアが6.5未満である場合には6.5に等しく、増殖グループスコアが6.5以上である場合には増殖グループスコアに等しく、
【0029】
【数4】

[式中、
RSu=0.47×GRB7グループ閾値スコア
−0.34×ESR1グループスコア
+1.04×増殖グループ閾値スコア
+0.10×浸潤グループスコア
+0.05×CD68
−0.08×GSTM1
−0.07×BAG1]
等式中の遺伝子記号は、それぞれの遺伝子のRNA転写物またはその発現産物の発現レベルを表し、変数(i)、(ii)、(iii)および(iv)における遺伝子の個々の寄与は0.5〜1.5の因子によって加重され、
前記変数のいずれか中に存在するあらゆる個々の遺伝子または遺伝子が、ピアソン相関係数≧0.5で前記癌において前記遺伝子と同時に発現する別の遺伝子で置換でき、
(c)前記遺伝子発現解析によって得られたデータを要約する報告書を作製する工程を含む方法に関する。
【0030】
特定の実施形態では、(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加が決定される場合に、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の増加した尤度を有するという予測を前記報告書が含む。この場合、本方法は前記被験体を化学療法薬で治療する工程をさらに含み得る。
【0031】
さらにもう1つの実施形態では、(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加が決定される場合に、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の減少した尤度を有するという予測を前記報告書が含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
A.定義
特に断りのない限り、本明細書に用いられる技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に通常理解されているものと同一の意味を有する。Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed., J. Wiley & Sons (New York, NY 1994)およびWebster’s New WorldTM Medical Dictionary, 2nd Edition, Wiley Publishing Inc., 2003が、当業者に本願において用いられる多数の用語の総合手引書を提供している。本発明の目的には、以下に、次の用語を定義する。
【0033】
用語「マイクロアレイ」とは、基材上の、ハイブリダイズ可能なアレイエレメント、好ましくは、ポリヌクレオチドプローブの規則正しい配列を指す。
【0034】
用語「ポリヌクレオチド」とは、単数形または複数形で用いられる場合、一般に、いずれかのポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これは、修飾されていないRNAまたはDNAである場合もあるし、修飾されたRNAまたはDNAである場合もある。したがって、例えば、本明細書において定義されるポリヌクレオチドは、それだけには限らないが、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖領域を含むDNA、一本鎖および二本鎖RNAならびに一本鎖および二本鎖領域を含むRNA、一本鎖である場合もあるが、より通常は二本鎖であり、または一本鎖領域と二本鎖領域を含む場合もあるDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を含む。さらに、本明細書において、用語「ポリヌクレオチド」とは、RNAもしくはDNAまたはRNAとDNAの双方を含む三本鎖領域を指す。このような領域中の鎖は同一分子に由来する場合もあるし、異なる分子に由来する場合もある。これらの領域は1種以上の分子のすべてを含む場合もあるが、より通常は、分子の一部の領域のみを含む。トリプルへリックス領域の分子の1種は、オリゴヌクレオチドであることが多い。用語「ポリヌクレオチド」は、具体的にはcDNAを含む。この用語は、1個以上の修飾された塩基を含むDNA(cDNAを含む)およびRNAを含む。したがって、安定性のため、またはその他の理由で修飾された主鎖を有するDNAまたはRNAは「ポリヌクレオチド」であると、本明細書においては意図される。さらに、普通でない塩基、例えば、イノシンまたは修飾された塩基、例えば、トリチウム化塩基を含むDNAまたはRNAは、本明細書において定義される用語「ポリヌクレオチド」内に含まれる。一般に、用語「ポリヌクレオチド」は、修飾されていないポリヌクレオチドのすべての化学的に、酵素的におよび/または代謝的に修飾された形態、ならびにウイルスおよび細胞、例えば、単純細胞および複雑型細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態を包含する。
【0035】
用語「オリゴヌクレオチド」とは、相対的に短いポリヌクレオチド、例えば、それだけには限らないが、一本鎖デオキシリボヌクレオチド、一本鎖または二本鎖リボヌクレオチド、RNA:DNAハイブリッドおよび二本鎖DNAを指す。オリゴヌクレオチド、例えば、一本鎖DNAプローブオリゴヌクレオチドは、化学法によって、例えば、市販の自動化オリゴヌクレオチドシンセサイザーを用いて合成されることが多い。しかし、オリゴヌクレオチドは種々のその他の方法、例えば、in vitro組換えDNA媒介技術によって、また、細胞および生物におけるDNAの発現によって製造できる。
【0036】
用語「遺伝子発現」とは、DNA遺伝子配列情報の転写RNA(最初のスプライシングされていないRNA転写物または成熟mRNA)またはコードされるタンパク質産物への変換を表す。遺伝子発現は、遺伝子の全RNAまたはタンパク質産物のいずれかまたはそれらのその後のレベルを測定することによってモニターできる。
【0037】
RNA転写物に関して用語「過剰発現」とは、試料中のすべての測定される転写物であるか、または特定の参照セットのmRNAであり得る、参照mRNAのレベルに対する正規化によって決定される転写物のレベルを指して用いられる。
【0038】
語句「遺伝子増幅」とは、特定の細胞または細胞株において、遺伝子または遺伝子断片の複数のコピーが形成されるプロセスを指す。複製された領域(ひと続きの増幅されたDNA)は、「単位複製配列」と呼ばれることが多い。また、通常、産生されるメッセンジャーRNA(mRNA)の量、すなわち、遺伝子発現レベルは、発現される個々の遺伝子からなるコピー数の割合で増加する。
【0039】
予後因子とは、乳癌の自然史に関連している可変のものであり、一度乳癌にかかった患者の再発率および転帰に影響を及ぼす。悪い予後と関連していた臨床パラメーターとしては、例えば、リンパ節の関与、腫瘍の大きさの増大および高いグレードの腫瘍が挙げられる。予後因子は患者をベースライン再発リスクが異なるサブグループに分類するためによく用いられる。対照的に、治療予測因子は、個々の患者の、抗エストロゲンまたは化学療法などの治療に対する有益な反応の尤度に関連する変数であり、予後とは無関係である。
【0040】
本明細書において用語「予後」とは、癌に起因する死亡または癌進行、例えば、乳癌などの新生物性疾患の、その疾患の自然史の間の再発および転移拡散の尤度を指して用いられる。予後因子とは、乳癌などの新生物性疾患の自然史と関連した可変のものであり、一度乳癌などの新生物性疾患にかかった患者の再発率および疾患転帰に影響を及ぼす。これに関連して、「自然転帰」とは、さらなる治療の不在下での転帰を意味する。例えば、乳癌の場合には、「自然転帰」とは、腫瘍を外科的に切除した後の、さらなる治療(例えば、化学療法または放射線治療)の不在下での転帰を意味する。予後因子は患者をベースラインリスク、例えば、ベースライン再発リスクが異なるサブグループに分類するためによく用いられる。
【0041】
本明細書において用語「予測」とは、患者が薬物または薬物のセットに対して好都合にか、または不都合にのいずれかで反応する尤度、またそれらの反応の程度を指して用いられる。したがって、治療予測因子は、指定の治療に対する個々の患者の反応に関連した可変のものであり、予後とは無関係である。本発明の予測法を臨床的に用いて、いずれかの特定の患者にとって最も適当な治療様式を選択することによって治療法の決定を行うことができる。本発明の予測法は、患者が治療計画、例えば、抗エストロゲン療法、例えば、単独または化学療法および/または放射線療法との組み合わせでのTAM治療に対して好都合に反応する可能性が高いかどうかを予測するのに有益な手段である。
【0042】
用語「有益な反応」とは、患者の状態の何らかの尺度、例えば、全生存、長期生存、再発がない生存および遠隔再発のない生存などの当技術分野で通常用いられる尺度の改善を意味する。再発のない生存(RFS)とは、手術から最初の局所再発(local recurrence)、局所再発(regional recurrence)または遠隔再発までの時間(年)を指す。遠隔再発のない生存(DFRS)とは、手術から最初の遠隔再発までの時間(年)を指す。再発とは、その個々の用法によって明らかなようにRFSおよび/またはDFRSを指す。実際のところは、これらの尺度の算出は、審査される事象または検討されない事象の定義に応じて、研究毎に異なっていることがある。本明細書において用語「長期」生存とは、術後またはその他の治療後、少なくとも3年の、より好ましくは少なくとも8年の、最も好ましくは少なくとも10年の生存を指して用いられる。
【0043】
本明細書において用語「腫瘍」とは、悪性であるか良性であるかに関わらず、すべての新生細胞成長および増殖ならびにすべての前癌状態および癌性の細胞および組織を指す。
【0044】
用語「癌」および「癌性」とは、通常、制御されていない細胞増殖を特徴とする哺乳類における生理学的状態を指すか表す。癌の例としては、それだけには限らないが、乳癌、卵巣癌、結腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路の癌、甲状腺癌、腎臓癌、癌腫、黒色腫および脳癌が挙げられる。
【0045】
癌の「病状」は、患者の健康を損なうすべての現象を含む。これとしては、それだけには限らないが、異常なまたは制御不能な細胞増殖、転移、隣接する細胞の正常な機能への干渉、異常なレベルのサイトカインまたはその他の分泌産物の放出、炎症反応または免疫反応の抑制または増悪、新生物、前悪性、悪性腫瘍、周囲の組織または遠隔組織または臓器、例えば、リンパ節の浸潤などが挙げられる。
【0046】
本発明に関連して、いずれかの特定の遺伝子セット中の列挙された遺伝子のうち「少なくとも1種」、「少なくとも2種」、「少なくとも3種」、「少なくとも4種」、「少なくとも5種」などとは、列挙された遺伝子のいずれか1種またはありとあらゆる組み合わせを意味する。
【0047】
本明細書において用語「リンパ節転移陰性」癌、例えば、「リンパ節転移陰性」乳癌は、流入領域リンパ節に広がっていない癌を指して用いられる。
【0048】
用語「スプライシング」と「RNAスプライシング」は、同じ意味で用いられ、イントロンを除去してエキソンをつなげ、連続するコード配列を有する成熟mRNAを生成するRNAプロセシングを指し、この成熟mRNAが真核細胞の細胞質に移動する。
【0049】
理論上は、用語「エキソン」とは、成熟RNA産物で表される断続性の遺伝子のいずれかのセグメントを指す(B. Lewin. Genes IV Cell Press, Cambridge Mass.1990)。理論上は、用語「イントロン」とは、エキソンとともにそのいずれかの側に転写されるがスプライシングによって転写物内から除去されるDNAのいずれかのセグメントを指す。操作上は、エキソン配列は、参照配列番号によって定義される遺伝子のmRNA配列中に生じる。操作上は、イントロン配列は、エキソン配列によってひとくくりにされ、5’および3’境界にGTおよびAGスプライシングコンセンサス配列を有する、遺伝子のゲノムDNA内の介在配列である。
【0050】
B.詳細な説明
本発明の実施は、特に断りのない限り、当技術分野の技術の範囲内にある、統計解析、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学および生化学の従来の技術を用いる。このような技術は、「Molecular Cloning : A Laboratory Manual」, 2nd edition (Sambrook et al., 1989)、「Oligonucleotide Synthesis」 (MJ. Gait, ed., 1984)、「Animal Cell Culture」 (RI. Freshney, ed., 1987)、「Methods in Enzymology」 (Academic Press, Inc.)、「Handbook of Experimental Immunology」, 4th edition (D.M. Weir & CC. Blackwell, eds., Blackwell Science Inc., 1987)、「Gene Transfer Vectors for Mannalian Cells」(J.M. Miller & M.P. Calos, eds., 1987)、「Current Protocols in Molecular Biology」 (F.M. Ausubel et al., eds., 1987)、「Statistical Methods and Scientific Inference」, 3 editions (R. A. Fisher., 1956/59/74)および「PCR: The Polymerase Chain」, (Mullis et al., eds., 1994)などの文献に十分に説明されている。
【0051】
B.1 発明の概要
過去2年間にわたって、Genomic Health, Incおよび共同研究者(Esteban et al., Proc Am Soc Clin Oncol 22: page 850, 2003 (abstract 3416)、Soule et al, Proc Am Soc Clin Oncol 22: page 862, 2003 (abstract 3466)、Cobleigh et al. Soc Clin Oncol 22: page 850, 2003 (abstract 3415)、Cronin et al, Am J Pathol 164(l):35−42 (2004))が、再発リスクに対する分子署名を見い出すことを目的として、初期乳癌における遺伝子発現についていくつかの予備的臨床研究を報告した。これらの研究では、定量的RT−PCRを用いて、臨床記録と関連付けられた、凍結、パラフィン包埋(FPE)組織試料において250種の候補遺伝子マーカーが試験された。多様な患者グループにわたって再発のリスクと一貫して関連している遺伝子が同定され得るかどうかを調べるために3つの研究すべてにわたる分析が実施された。これらの一変数の結果に基づいて、複数の遺伝子モデルが設計され、3つの研究にわたって分析された。臨床評価研究において予測的に試験される、16種の癌関連遺伝子および5種の参照遺伝子からなる、単一の複数遺伝子アッセイが開発された。これら21種のmRNA種の測定値を用い、100点尺度で再発リスクを報告する、再発スコア(RS)と呼ばれるアルゴリズムが作製された。
【0052】
この再発スコア試験およびアルゴリズムの臨床的妥当性を試験するために、予測的に同定されたエンドポイントを有する盲式臨床試験が実施された。この評価試験は、NSABP研究B−14臨床試験集団の無作為化された登録治療群中のTAM単独で治療された患者に焦点が当てられた(Fisher B, Costantino JP, Redmond CK, et al: Endometrial cancer in −treated breast cancer patients: Findings from the National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project (NSABP) B−14. J Natl Cancer Inst 86:527−537 (1994))。Genomic Health, Inc.およびNSABPは、これらの患者に由来する668の乳癌組織試料で21種の遺伝子のRT−PCRアッセイを実施し、各患者の再発スコアを算出した。
【0053】
再発スコアの事前に指定したカットオフ点によって患者を3つのカテゴリーのうちの1つに分類した:低リスク、中リスクおよび高リスクの遠隔疾患再発。RT−PCRアッセイによって低、中および高リスクとして分類された668人の患者の割合はそれぞれ、51%、23%および27%であった。10年での遠隔再発率のカプラン・マイヤー推定値および95%信頼区間は低、中程度および高リスク群についてそれぞれ、6.8%(4.0%、9.6%)、14.3%(8.3%、20.3%)30.5%(23.6%、37.4%)であり、低リスク群の率は高リスク群の率よりも有意に低かった(p<0.001)。遠隔再発を再発スコア、年齢および腫瘍の大きさと関連づける多変数Coxモデルでは、再発スコアは年齢および腫瘍の大きさを超える有意な(p<0.001)予測力を提供する。この研究により、ESR1陽性である腫瘍を有し、タモキシフェンで治療された、リンパ節転移がない患者における遠隔再発の強力な予測判断材料としての再発スコアの妥当性が確認された(Paik et al. Breast Cancer Research and Treatment 82, Supplement 1 : page S10, 2003 (Abstract 16)。
【0054】
本発明は、これらの発見結果の拡大において、NSABP研究B−20の結果を用いて、化学療法に対する癌、例えば、乳癌患者の反応を予測するのに有用な遺伝子および遺伝子セットを提供する。さらに、本発明は、複数遺伝子RNA分析を用いる、化学療法に対する乳癌患者の反応を予測する臨床的に有効な試験を提供する。
【0055】
詳しくは、本発明者らは、癌患者、例えば、乳癌患者が化学療法に対して有益な反応を示す可能性が高いか否かを予測するのに有用である一連の遺伝子を同定した:BCL2、SCUBE2、CCNB1、CTSL2、ESR1、MMP11、MYBL2、PGR、STK6、BIRC5およびMMP11、GSTM1、CD68、BAG1、GRB7、ERBB2。これらの遺伝子のうちいくつかは、個々に予測的であるが、その他のものは特定の遺伝子群の一部として用いられ、本発明の方法における変数として用いられる。
【0056】
したがって、本発明の予測法において用いられる独立変数は、(i)再発スコア、(ii)ESR1グループスコア、(iii)浸潤グループスコア、(iv)増殖グループ閾値スコア、(v)MYBL2およびSCUBE2の少なくとも一方のRNA転写物の発現レベルのうち1以上を含み、
(b1)(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加のどの単位についても、患者が、化学療法に対する有益な反応の比例して増加した尤度を有すると同定され、
(b2)(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加のどの単位についても、患者が、化学療法に対する有益な反応の比例して減少した尤度を有すると同定され、
(b3)(i)の値の増加のどの単位についても、患者が、化学療法の不在下で、乳癌再発の増加した尤度を有すると同定される。
【0057】
前記の変数において、
ESR1グループスコア=(ESR1+PGR+BCL2+SCUBE2)/4、
浸潤グループスコア=(CTSL2+MMP11)/2、
増殖グループスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5、
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループスコアが6.5未満である場合には6.5に等しく、増殖グループスコアが6.5以上である場合には増殖グループスコアに等しく、再発スコア(RS)は以下のとおりである:
【0058】
【数5】

[式中、
GRB7グループスコア=0.9×GRB7+0.1×ERBB2である。
【0059】
GRB7グループ閾値スコアは、GRB7グループスコアが6.5未満である場合には6.5に等しく、GRB7グループ閾値スコアが6.5以上である場合にはGRB7グループ閾値スコアに一致し、
RSu=0.47×GRB7 グループ閾値スコア
−0.34×ESR1グループスコア
+1.04×増殖グループ閾値スコア
+0.10×浸潤グループスコア
+0.05×CD68
−0.08×GSTM1
−0.07×BAG1]
等式中の遺伝子記号は、それぞれの遺伝子のRNA転写物またはその発現産物の発現レベルを表し、変数(i)、(ii)、(iii)および(iv)中の遺伝子の個々の寄与は0.5〜1.5の因子によって加重され、
前記変数のいずれか中に存在するあらゆる個々の遺伝子または遺伝子が、ピアソン相関係数≧0.5で前記癌において前記遺伝子と同時に発現する別の遺伝子で置換でき、また前記変数のいずれか中に存在する前記の個々の遺伝子または遺伝子と同時に発現する任意の遺伝子を、それぞれの遺伝子グループに加え、それぞれの変数を算出するために使用でき、これではグループスコアの算出に用いられる分母はグループ中の遺伝子数に等しい。前記の個々の遺伝子を同時発現する遺伝子の付加は新規グループの形成を引き起こす場合があり、0.5〜1.5の間の因子によって同様に加重され得る。
【0060】
本発明の種々の実施形態では、開示された遺伝子の発現レベルの決定のために種々の技術的アプローチ、例えば、それだけには限らないが、RT−PCR、マイクロアレイ、遺伝子発現の連続分析(SAGE)および超並列的シグニチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析が利用可能であり、これらは以下で詳細に論じる。特定の実施形態では、各遺伝子の発現レベルは、遺伝子の発現産物の種々の特徴、例えば、エキソン、イントロン、タンパク質エピトープおよびタンパク質活性に関連して測定できる。
【0061】
B.2 遺伝子発現プロファイリング
一般に、遺伝子発現プロファイリング法は2つの大きなグループに分けることができる:ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーション分析に基づく方法およびポリヌクレオチドの配列決定に基づく方法。サンプル中のmRNA発現の定量化のために当技術分野で公知の最も良く用いられる方法として、ノーザンブロッティングおよびin situ ハイブリダイゼーション(Parker & Barnes, Methods in Molecular Biology 106:247−283 (1999))、RNアーゼ保護アッセイ(Hod, Biotechniques 13:852−854 (1992))および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)(Weis et al, Trends in Genetics 8:263−264 (1992))が挙げられる。あるいは、指定の二本鎖、例えば、DNA二本鎖、RNA二本鎖およびDNA−RNAハイブリッド二本鎖またはDNA−タンパク質二本鎖を認識できる抗体を使用することもできる。配列決定に基づく遺伝子発現解析の代表的な方法として、遺伝子発現の連続分析(SAGE)および超並列的シグニチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析が挙げられる。
【0062】
腫瘍形成によく含まれる2つの生物学的過程として、遺伝子増幅とDNAメチル化が挙げられる。両過程とも、腫瘍形成または進行において重要な遺伝子の異常な発現をもたらす。したがって、遺伝子増幅およびDNAメチル化をモニターする方法は、遺伝子発現プロファイリング法の代理となると考えられる。
【0063】
遺伝子増幅は多数の癌において共通する変化であり、細胞性癌遺伝子の発現の上昇をもたらし得る(Meltzer, P. et al., Cancer Genet Cytogenet. 19:93 (1986)。乳癌では、ERBB2遺伝子増幅とERBB2過剰発現の間には良好な相関関係がある(Nagai, M.A. et al., Cancer Biother 8:29 (1993)、Savinainen, K.J. et al., Am. J. Pathol. 160:339 (2002))。ERBB2遺伝子の増幅は、その過剰発現をもたらし、不良な予後と相関関係があり(Press, M.F. et al., J. Clin. Oncol. 15:2894 (1997)、Slamon, D.J. et al., Science 244:707 (1989))、正規化学療法と組み合わせた抗HER2療法に対する反応の予測となる(Seidman, A.D. et al., J. Clin. Oncol. 19:1866 (2001))。
【0064】
DNAメチル化も癌においてよくある変化であり、広範な遺伝子の発現の増加または減少をもたらすことがわかっている(Jones, P. A. Cancer Res. 65:2463 (1996))。一般に、プロモーター領域および調節エレメント中のCpG島の低メチル化は、多数の癌遺伝子を含む遺伝子発現の増大をもたらす(Hanada, M., et al., Blood 82:1820 (1993)、Feinberg, A.P. and Vogelstein, B. Nature 301:89 (1983))。DNAメチル化は、多数の癌において特定の遺伝子発現レベルと相関があるので、腫瘍の発現プロファイリンの有用な代理として役立つ(Toyota, M. et al., Blood 97: 2823 (2001)、Adorjan, P. et al. Nucl. Acids. Res. 10:e21 (2002))。
【0065】
逆転写酵素PCR(RT−PCR)
上記に列挙した技術のうち、最も感度が高く、最も適応性がある定量的な方法は、RT−PCRであり、これを用いて種々のサンプル集団において、薬物治療を施したか施していない正常および腫瘍組織において、mRNAレベルを比較して、遺伝子発現のパターンを特性決定でき、密接に関連しているmRNA間を識別でき、RNA構造を解析できる。
【0066】
第1の工程は標的サンプルからのmRNAの単離である。出発材料は、通常、ヒト組織または細胞株から単離した全RNAである。したがって、RNAは、乳房、肺、結腸、前立腺、脳、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓、胸腺、精巣、卵巣、子宮などをはじめとする種々の原発腫瘍、または腫瘍細胞株から単離できる。mRNAの供給源が原発腫瘍である場合には、mRNAは、例えば、凍結または保管されたパラフィン−包埋および固定(例えば、ホルマリン固定)組織サンプルから抽出できる。
【0067】
mRNA抽出のための一般法は当技術分野では周知であり、分子生物学の標準的な教本、例えば、Ausubel et al, Current Protocols of Molecular Biology, John Wiley and Sons (1997)に開示されている。パラフィン包埋された組織からのRNA抽出法は、例えば、Rupp and Locker, Lab Invest. 56:A (1987)およびDe Andres et al, BioTechniques 18:42044 (1995)に開示されている。詳しくは、RNA単離は、民間製造業者、例えば、Qiagen製の精製キット、バッファーセットおよびプロテアーゼを用い、製造業者の使用説明書に従って実施できる。例えば、培養細胞由来の全RNAは、Qiagen RNeasyミニカラムを用いて単離できる。その他の市販のRNA単離キットとしては、MasterPure(商標)Complete DNAおよびRNA精製キット(EPICENTRE(登録商標), Madison, WI)およびParaffin Block RNA単離キット(Ambion, Inc.)が挙げられる。組織サンプル由来の全RNAは、RNA Stat−60(Tel−Test)を用いて単離できる。腫瘍から調製されたRNAは、例えば、塩化セシウム密度勾配遠心分離によって単離できる。
【0068】
RNAはPCRの鋳型としての役割を果たすことはできないので、RT−PCRによる遺伝子発現プロフィールにおける第1の工程は、RNA鋳型のcDNAへの逆転写と、それに続く、PCR反応におけるその指数関数的増幅である。2種の最もよく用いられる逆転写酵素として、トリ骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素(AMV−RT)およびモロニーマウス白血病ウイルス逆転写酵素(MMLV−RT)がある。逆転写工程は通常、状況および発現プロファイリングの目的に応じて、特異的プライマー、ランダムヘキサマーまたはオリゴ−dTプライマーを用いてプライムされる。例えば、抽出したRNAを、GeneAmp RNA PCRキット(Perkin Elmer, CA, USA)を用い、製造業者の使用説明書に従って逆転写できる。次いで、得られたcDNAを、その後のPCR反応において鋳型として使用できる。
【0069】
PCR工程は種々の熱安定性DNA依存性DNAポリメラーゼを使用できるが、通常、5’−3’ヌクレアーゼ活性を有するが、3’−5’校正エンドヌクレアーゼ活性を欠く、Taq DNAポリメラーゼを用いる。したがって、TaqMan(登録商標)PCRは、通常、TaqまたはTthポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性を用いて、標的単位複製配列と結合しているハイブリダイゼーションプローブを加水分解するが、同等の5’ヌクレアーゼ活性を有する酵素はいずれも使用できる。2種のオリゴヌクレオチドプリマーを用いて、PCR反応に特有の単位複製配列を作製する。第3のオリゴヌクレオチドまたはプローブは、2種のPCRプライマーの間に位置するヌクレオチド配列を検出するよう設計される。プローブは、TaqDNAポリメラーゼ酵素によって延長可能ではなく、レポーター蛍光色素およびクエンチャー蛍光色素で標識する。レーザーによって誘導されるレポーター色素からの発光はいずれも、2種の色素が、それらがプローブ上にあるように、接近して位置する場合にはクエンチング色素によってクエンチされる。増幅反応の際、TaqDNAポリメラーゼ酵素は、鋳型依存的にプローブを切断する。得られたプローブ断片は溶液中に解離し、放出されたレポーター色素からのシグナルは第2のフルオロフォアのクエンチング作用を免れる。各新規分子が合成されるごとに、1分子のレポーター色素が遊離され、クエンチされていないレポーター色素の検出が、データの定量的解析の基礎を提供する。
【0070】
TaqMan(登録商標)RT−PCRは、市販の機器、例えば、ABI PRISM 7700(商標)配列検出システム(商標)(Perkin−Elmer−Applied Biosystems, Foster City, CA, USA)またはLightcycler(Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany)などを用いて実施できる。好ましい実施形態では、リアルタイム定量的PCR装置、例えば、ABI PRISM 7700(商標)配列検出システム(商標)で5’ヌクレアーゼ手順を行う。このシステムは、サーモサイクラー、レーザー、電荷結合素子(CCD)、カメラおよびコンピュータからなる。このシステムは、サーモサイクラーで96ウェル形式でサンプルを増幅する。増幅の際、レーザーによって誘導された蛍光シグナルをCCDで検出する。このシステムは、機器を動かすためのソフトウェアおよびデータを分析するためのソフトウェアを含む。
【0071】
5’ヌクレアーゼアッセイデータは、まず、Cすなわち閾値サイクルとして表される。上記で論じたように、サイクル毎にその間の蛍光値を記録し、これは増幅反応においてその時点までに増幅された生成物の量を表す。蛍光シグナルが、統計的に有意であると最初に記録される時点が閾値サイクル(C)である。
【0072】
誤差およびサンプル間の変化の影響を最小化するために、RT−PCRは通常、内部標準を用いて実施する。理想の内部標準は、異なる組織間で一定レベルで発現され、実験処理によって影響を受けない。遺伝子発現のパターンを正規化するために最も頻繁に用いられるRNAとして、ハウスキーピング遺伝子グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPD)およびβ−アクチン(ACTB)のmRNAがある。
【0073】
RT−PCR技術のより最近の変法としてリアルタイム定量的PCRがあり、これは、二重標識蛍光プローブ(すなわち、TaqMan(登録商標)プローブ)によってPCR産物蓄積を測定する。リアルタイムPCRは、正規化のために各標的配列の内部競合物を用いる定量的競合的PCRと適合し、サンプル内に含まれる正規化遺伝子またはRT−PCRのためのハウスキーピング遺伝子を用いる定量的比較PCRとも適合する。さらなる詳細については、例えば、Held et al., Genome Research 6:986−994 (1996)参照のこと。
【0074】
固定され、パラフィン包埋された組織をRNA供給源として用いる、遺伝子発現をプロファイリングするための代表的なプロトコールの工程、例えば、mRNA単離、精製、プライマー伸長および増幅は、種々の公開学術論文に示されている{例えば、T.E. Godfrey et al. J. Molec. Diagnostics 2: 84−91 [2000]、K. Specht et al., Am. J. Pathol. 158: 419−29 [2001]}。要約すると、代表的なプロセスは、パラフィン包埋した腫瘍組織サンプルの約10μm厚切片を切断することで開始する。次いで、RNAを抽出し、タンパク質およびDNAを除去する。RNA濃度を分析した後、必要に応じてRNA修復および/または増幅工程が含まれる場合があり、遺伝子特異的プロモーターを用いてRNAを逆転写し、その後RT−PCRを行う。
【0075】
マイクロアレイ
マイクロアレイ技術を用いても、差次的遺伝子発現を同定または確認できる。したがって、乳癌関連遺伝子の発現プロフィールは、マイクロアレイ技術を用いて新鮮腫瘍組織またはパラフィン包埋腫瘍組織のいずれかで測定できる。この方法では、注目するポリヌクレオチド配列(cDNAおよびオリゴヌクレオチドを含む)を、マイクロチップ基材上にプレーティングするか、または配列させる。次いで配列させた配列を、注目する細胞または組織に由来する特異的DNAプローブとハイブリダイズさせる。ちょうどRT−PCR法におけるように、mRNAの供給源は通常、ヒト腫瘍または腫瘍細胞株および対応する正常組織または細胞株から単離した全RNAである。したがって、RNAは種々の原発腫瘍または腫瘍細胞株から単離できる。mRNAの供給源が原発腫瘍である場合には、mRNAは、例えば、毎日の臨床診療において日常的に調製され保存される、凍結または保管されたパラフィン−包埋および固定(例えば、ホルマリン固定)組織サンプルから抽出できる。
【0076】
マイクロアレイ技術の特定の実施形態では、cDNAクローンのPCR増幅されたインサートを、高密度アレイで基材に適用する。基材に対して少なくとも10,000ヌクレオチド配列を適用することが好ましい。各10,000エレメントでマイクロチップ上に固定された、マイクロアレイされた遺伝子は、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションに適している。蛍光標識したcDNAプローブは、注目する組織から抽出したRNAの逆転写によって蛍光ヌクレオチドを組み込むことによって作製できる。チップに適用された標識したcDNAプローブは、特異性をもってアレイ上の各DNAスポットとハイブリダイズする。非特異的に結合しているプローブを除去するためにストリンジェント洗浄した後、共焦点レーザー顕微鏡法によってか、CCDカメラなどの別の検出法によってチップをスキャンする。アレイされたエレメント各々のハイブリダイゼーションを定量することにより、対応するmRNA量の評価が可能となる。二色蛍光を用い、2種のRNA供給源から作製した別個に標識したcDNAプローブをアレイと対でハイブリダイズさせる。このようにして各特定の遺伝子に対応する、2種の供給源に由来する転写物の相対量を同時に求める。小型化されたスケールのハイブリダイゼーションによって、多数の遺伝子の発現パターンの好都合で迅速な評価が可能となる。このような方法は、細胞あたり数コピーで発現される、希少な転写物を検出するのに、また、発現レベルの少なくとも約2倍の差異を再現性よく検出するのに必要な感度を有することがわかっている(Schena et al., Proc. Natl. Acad. ScL USA 93(2):106−149 (1996))。マイクロアレイ解析は市販の機器により、製造業者のプロトコールに従って、例えば、Affymetrix GenChip技術またはIncyteのマイクロアレイ技術を用いることによって実施できる。
【0077】
遺伝子発現の大規模解析のためのマイクロアレイ法の開発により、種々の腫瘍の種類における癌分類および転帰予測の分子マーカーを系統的に探索することが可能となる。
【0078】
遺伝子発現の連続分析(SAGE)
遺伝子発現の連続分析(SAGE)は、各転写物に個々のハイブリダイゼーションプローブを提供する必要なく、多数の遺伝子転写物の同時かつ定量的な解析を可能にする方法である。まず、転写物を一意的に同定するのに十分な情報を含む短い配列タグ(約10から14bp)を作製する。ただし、タグは各転写物内の独特の位置から得る。ついで、多数の転写物を互いに結合して長い連続分子を形成するが、これは配列決定でき、複数のタグの同一性を同時に示すことができる。いずれかの転写物の集団の発現パターンは、個々のタグの量を測定することと、各タグに対応する遺伝子を同定することとによって定量的に評価できる。より詳細については、例えば、Velculescu et al., Science 270:484−487 (1995)およびVelculescu et al, Cell 88:243−51 (1997)参照のこと。
【0079】
超並列的シグニチャー配列決定(MPSS)による遺伝子発現解析(MPSS)
Brenner et al, Nature Biotechnology 18:630−634 (2000)によって記載されたこの方法は、分離している直径5μmのマイクロビーズ上で非ゲルベースのシグニチャー配列決定(signature sequencing)を、何百万もの鋳型のin vitroクローニングと組み合わせる配列決定アプローチである。まず、in vitroクローニングによってDNA鋳型のマイクロビーズライブラリーを構築する。この後、高密度(通常、3×10個マイクロビーズ/cmより多い)で、フローセルにおいて鋳型を含有するマイクロビーズの平面アレイの構築を行う。各マイクロビーズ上のクローニングされた鋳型の遊離末端を、DNA断片の分離を必要としない蛍光ベースのシグニチャー配列決定法を用いて同時に分析する。この方法は、酵母cDNAライブラリーから1回の操作で、同時に、正確に何十万の遺伝子のシグニチャー配列を提供することがわかっている。
【0080】
mRNA単離、精製および増幅についての概要
固定され、パラフィン包埋された組織をRNA供給源として用いて遺伝子発現をプロファイリングするための代表的なプロトコールの工程、例えば、mRNA単離、精製、プライマー伸長および増幅は、種々の公開学術論文に提供されている(例えば、T.E. Godfrey et al,. J. Molec. Diagnostics 2: 84−91 [2000];K. Specht et al., Am. J. Pathol. 158: 419−29 [2001]))。要約すると、代表的なプロセスは、パラフィン包埋した腫瘍組織サンプルの約10μm厚切片を切断することで開始する。次いで、RNAを抽出し、タンパク質およびDNAを除去する。RNA濃度を分析した後、必要に応じてRNA修復および/または増幅工程が含まれる場合があり、遺伝子特異的プロモーターを用いてRNAを逆転写し、その後RT−PCRを行う。最後に、データを分析して、調べた腫瘍サンプルにおいて同定された特徴的な遺伝子発現パターンに基づき、癌再発の予測される尤度に応じて、患者が利用できる最良の治療選択肢を同定する。
【0081】
乳癌遺伝子セット、アッセイされる遺伝子部分配列および遺伝子発現データの臨床適用
本発明の重要な態様は、予後情報または予測情報を提供するために乳癌組織による特定の遺伝子の測定された発現を使用することである。この目的には、アッセイされたRNA量の相違および用いたRNAの質の変動の双方について補正する(正規化する)ことが必要である。したがって、アッセイは、通常、特定の正規化遺伝子、例えば、以下の実施例において示されるように、周知のハウスキーピング遺伝子、例えば、ACTB、GAPD、GUSB、RPLOおよびTFRCの発現を測定し、組み込む。あるいは、正規化は、アッセイされた遺伝子のすべてまたはその大きな部分集合の平均または中央値シグナル(C)に基づくものである場合もある(グローバルノーマライゼーションアプローチ)。以下、特に断りのない限り、遺伝子発現とは正規化された発現を意味する。
【0082】
イントロンベースのPCRプライマーおよびプローブの設計
本発明の一態様によれば、PCRプライマーおよびプローブは、増幅される遺伝子中に存在するイントロン配列に基づいて設計する。したがって、プライマー/プローブ設計における第1の工程は、遺伝子内のイントロン配列の描写である。これは入手可能な公開ソフトウェア、例えば、Kent, W.J., Genome Res 12(4):656−64 (2002)によって開発されたDNA BLATソフトウェアによって、または変法を含むBLASTソフトウェアによって行うことができる。その後の工程は、PCRプライマーおよびプローブ設計の十分に確立された方法に従う。
【0083】
プライマーおよびプローブを設計する場合には、非特異的シグナルを避けるために、イントロン内の反復配列をマスクすることが重要である。これは、ベイラー医科大学(the Baylor College of Medicine)を通じてオンラインで入手できるRepeat Maskerプログラムを用いることによって容易に達成できる。このプログラムは反復エレメントのライブラリーに対してDNA配列をスクリーニングし、反復エレメントがマスクされたクエリー配列を戻す。次いで、マスクされたイントロン配列を用い、いずれかの市販されているか、あるいは入手可能な公開プライマー/プローブ設計パッケージ、例えば、Primer Express(Applied Biosystems)、MGB assay−by−design(Applied Biosystems)、Primer3(Steve Rozen and Helen J. Skaletsky (2000) Primer3 on the WWW for general users and for biologist programmers. In: Krawetz S, Misener S (eds) Bioinformatics Methods and Protocols: Methods in Molecular Biology. Humana Press, Totowa, NJ, pp 365−386)を用いてプライマーおよびプローブ配列を設計できる。
【0084】
PCRプライマー設計において考慮される最も重要な因子として、プライマー長、融解温度(Tm)およびG/C含量、特異性、相補的プライマー配列および3’末端配列が挙げられる。一般に、最適なPCRプライマーは、通常、17〜30塩基の長さであり、約20〜80%、例えば、約50〜60%のG+C塩基を含む。50〜80℃、例えば約50〜70℃のTmが通常好ましい。
【0085】
PCR プライマーおよびプローブ設計のためのさらなる指針については、例えば、Dieffenbach, C.W. et al., 「General Concepts for PCR Primer Design」 in: PCR Primer, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1995, pp. 133−155、Innis and Gelfand, 「Optimization of PCRs」 in: PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications, CRC Press, London, 1994, pp. 5−11およびPlasterer, T.N. Primerselect: Primer and probe design. Methods MoI. Biol. 70:520−527 (1997)参照のこと。なお、その全開示内容は参照により本明細書に明確に組み込まれる。
【0086】
B.3 アルゴリズムおよび統計的手法
本発明は、同時係属出願第10/883,303号に記載される特定のアルゴリズムおよび統計的手法を利用する。
【0087】
定量的RT−PCR(qRT−PCR)を用いてmRNAレベルを測定する場合には、mRNA量は C(閾値サイクル)単位で表される(Held et al, Genome Research 6:986−994 (1996))。参照mRNA Cの合計の平均をある数、例えば、ゼロに設定し、各測定される試験mRNA Cをこの点と相対的に与える。例えば、特定の患者の腫瘍試料について、5種の参照遺伝子のCの平均が31であるとわかっており、試験遺伝子XのCが35であると分かっている場合には、遺伝子Xの報告される値は−4(すなわち、31−35)である。
【0088】
mRNAレベルの定量的測定後の第1の工程として、腫瘍試料において同定され、癌の分子病理学と関連していることがわかっている遺伝子を部分集合にグループ化する。したがって、細胞増殖と関連しているとわかっている遺伝子は、「増殖グループ」(軸、または部分集合)を構成する。隣接組織の癌による浸潤と関連しているとわかっている遺伝子は「浸潤グループ」(軸または部分集合)を構成する。重要な増殖因子受容体シグナル伝達経路と関連している遺伝子は、GRB7グループとも呼ばれる、「増殖因子グループ」(軸、部分集合)を構成する。エストロゲン受容体(ESR1)を介した活性化またはシグナル伝達に関与しているとわかっている遺伝子は「エストロゲン受容体(ESR1)グループ」(軸または部分集合)を構成する、などである。部分集合のこのリストはもちろん制限するものではない。作製される部分集合は、特定の癌、すなわち、乳癌、前立腺癌、膵臓癌、肺癌などに応じて異なる。一般に、発現が互いに相関しているとわかっている遺伝子または同一経路に関与しているとわかっている遺伝子は同一部分集合にグループ化される。
【0089】
次の工程では、部分集合中の各mRNAの測定された腫瘍レベルに、癌再発のリスクに対する相対的セット内寄与を反映する係数を乗じて積を得、この積に、部分集合中のmRNAレベルとその係数を用いて同様に算出したその他の積を加えて項、例えば、増殖項、浸潤項、増側因子項などを得る。例えば、リンパ節陰性浸潤性乳癌の場合、増殖因子(GRB7グループ)項は、(0.45〜1.35)×GRB7+(0.05〜0.15)×ERBB2、例えば、0.9×GRB7+0.1×ERBB2などである(以下の実施例参照のこと)。
【0090】
全体の再発スコアへの各項の寄与は、さらなる係数を用いることによって加重する。例えば、リンパ節陰性浸潤性乳癌の場合、GB7グループ項の係数は0.23〜0.70の間であり得る。
【0091】
さらに、増殖因子および増殖項などのいくつかの項については、さらなる工程を実施する。項と再発のリスクの間の関係が非線形である場合、項の非線形関数変換、例えば、閾値を用いる。
【0092】
得られた項の合計が再発スコア(RSu)を提供し、これが疾患の通常の成り行きにおける癌再発の尤度を予測する。
【0093】
本発明のアルゴリズムによって生じるRS尺度は種々の方法で調整できる。したがって、尺度が、例えば、0〜10、0〜50または0〜100をとるよう範囲を選択できる。
【0094】
例えば、以下の実施例において記載される特定のスケーリングアプローチでは、スケーリングされた再発スコアを0〜100のスケールで算出する。便宜上、各測定されたC値に10を加え、スケーリングされていないRSを先に記載したように算出する。RSおよびSRSを算出するための等式は以下の実施例において提供する。
【0095】
再発スコアまたは再発スコアを算出するために用いられるいずれかの変数の算出では、いずれの遺伝子も、ピアソン係数≧0.5で試験される特定の癌において第1の遺伝子と同時発現する別の遺伝子で置換できる。同様に、本発明の予後法および予測法に含まれる、いずれかの個々の遺伝子または遺伝子グループ(部分集合)内の遺伝子も、ピアソン係数≧0.5で試験される特定の癌において第1の遺伝子と同時発現する別の遺伝子で置換できる。
【0096】
B.4 癌化学療法
癌治療に用いられる化学療法薬は、その作用機序に応じていくつかのグループに分けることができる。いくつかの化学療法薬はDNAおよびRNAに直接損傷を与える。このような化学療法薬は、DNAの複製を混乱させることによって、複製を完全に停止するか、ナンセンスDNAまたはRNAの生成をもたらす。このカテゴリーには、例えば、シスプラチン(プラチノール(登録商標))、ダウノルビシン(セラビジン(Cerabidine)(登録商標))、ドキソルビシン(アドリアマイシン(登録商標))およびエトポシド(ベペシド(登録商標))が含まれる。癌化学療法薬のもう1つのグループは、ヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドの形成を干渉し、その結果RNA合成および細胞複製が阻止される。この種類の薬物の例としては、メトトレキサート(アビトレキサート(Abitrexate)(登録商標))、メルカプトプリン(ピュリネソール(登録商標))、フルオロウラシル(アドルシル(登録商標))およびヒドロキシウレア(ハイドレア(登録商標))が挙げられる。第3の種類の化学療法薬は紡錘体の合成または分解を達成し、結果として、細胞分裂を妨げる。この種類の薬物の例としては、ビンブラスチン(ベルバン(Velban)(登録商標))、ビンクリスチン(オンコビン(登録商標))およびタキセン、例えば、パクリタキセル(タキソール(登録商標)およびトセタキセル(タキソテール(登録商標))が挙げられる。トセタキセルは、従前の化学療法が失敗した後の局所進行または転移性乳癌の患者および従前の白金ベースの化学療法が失敗した後の局所進行または転移性非小細胞肺癌の患者を治療するために米国で現在認可されている。これらのすべておよびその他の化学療法薬に対する患者の反応の予測は、明確に本発明の範囲内にある。
【0097】
特定の実施形態では、化学療法はタキサン誘導体を用いる治療を含む。タキサンとしては、それだけには限らないが、パクリタキセル(タキソール(登録商標))およびドセタキセル(タキソテール(登録商標))が挙げられ、これらは癌の治療に広く用いられている。上記で論じたように、タキサンは、細胞機能において重要な役割を果たす微小管と呼ばれる細胞構造に影響を及ぼす。正常な細胞増殖では、微小管は細胞が分裂を開始する時点で形成される。細胞が分裂を停止すると、微小管は分解されるか破壊される。タキサンは微小管が分解されるのを停止し、これによって細胞増殖を阻止する。
【0098】
もう1つの特定の実施形態では、化学療法はアントラサイクリン誘導体、例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシンおよびアクラシノマイシンなどを用いる治療を含む。
【0099】
さらに特定の実施形態では、化学療法はトポイソメラーゼ阻害剤、例えば、カンプトセシン、トポテカン、イリノテカン、20−S−カンプトセシン、9−ニトロ−カンプトセシン、9−アミノ−カンプトセシンまたはGI147211などを用いる治療を含む。
【0100】
これらおよびその他の化学療法薬のいずれかの組み合わせを用いる治療は明確に考慮される。
【0101】
ほとんどの患者は、腫瘍を外科的に切除した直後に化学療法を受ける。このアプローチは、一般にアジュバント療法と呼ばれる。しかし、化学療法は、いわゆるネオアジュバント治療として術前にも投与できる。ネオアジュバント化学療法の使用は、進行し、手術不可能な乳癌の治療を起源とするが、その他の種類の癌の治療にも同様に認められるようになった。ネオアジュバント化学療法の有効性はいくつかの臨床試験で試験されてきた。多施設米国乳房および腸外科補助療法プロジェクト(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project)B−18(NSAB B−18)試験(Fisher et al., J. Clin. Oncology 15:2002−2004 (1997)、Fisher et al., J. Clin. Oncology 16:2672−2685 (1998))では、ネオアジュバント療法を、アドリアマイシンおよびシクロホスファミド(「AC投与計画」)と組み合わせて実施した。別の臨床試験では、ネオアジュバント療法を、5−フルオロウラシル、エピルビシンおよびシクロホスファミドの組み合わせ(「FEC投与計画」)を用いて投与した(van Der Hage et al., J. Clin. Oncol. 19:4224−4237 (2001))。また、より新しい臨床試験では、タキサン含有ネオアジュバント治療計画が用いられている。例えば、Holmes et al., J. Natl. Cancer Inst. 83:1797−1805 (1991)およびMoliterni et al, Seminars in Oncology, 24:S17− 10−S− 17−14 (1999)参照のこと。乳癌のためのネオアジュバント化学療法についてのさらなる情報については、Cleator et al., Endocrine−Related Cancer 9:183−195 (2002)参照のこと。
【0102】
B.5 本発明のキット
本発明の方法に用いる材料は、周知の手順に従って製造されるキットの調製に向いている。したがって、本発明は、予後転帰または治療に対する反応を予測するための開示された遺伝子の発現を定量化するための遺伝子特異的または遺伝子選択的プローブおよび/またはプライマーを含み得る薬剤を含むキットを提供する。このようなキットは、場合により、腫瘍サンプル、詳しくは、固定され、パラフィン包埋された組織サンプルからRNAを抽出するための試薬および/またはRNA増幅用試薬を含み得る。さらに、本キットは、場合により、本発明の方法におけるその使用に関連する識別説明書または表示または使用説明書を有する試薬を含み得る。本キットは、例えば、既製のマイクロアレイ、バッファー、適当なヌクレオチド三リン酸(例えば、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPまたはrATP、rCTP、rGTPおよびUTP)、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼおよび本発明の1種以上のプローブおよびプライマー(例えば、RNAポリメラーゼに関して反応性であるプロモーターと連結している適当な長さのポリ(T)、遺伝子特異的またはランダムプライマー)を含む方法において用いられる、各々、1種以上の種々の試薬(通常、濃縮型で)を含む容器(例えば、本方法の自動実行において使用するのに適したマイクロタイタープレート)を含み得る。
【0103】
また、本発明によって提供される方法は、全部または一部において自動化できる。
【0104】
また、本発明のすべての態様は、開示された遺伝子と同時発現されることが、例えば、高いピアソン相関係数によって証明される、限定された数のさらなる遺伝子が、開示された遺伝子に加えて、および/または開示された遺伝子の代わりに予後または予測試験に含まれるよう実施できる。
【0105】
本発明を説明したが、これは、例示目的で提供されるものであって、決して本発明を制限しようとするものではない、以下の実施例を参照することによってより容易に理解される。
【実施例】
【0106】
浸潤性乳癌にけるネオアジュバント化学療法の研究:パラフィン包埋コア生検組織の遺伝子発現プロファイリング
この研究は、化学療法に対して感受性がある患者または耐性の患者を予測する遺伝子または遺伝子群を同定するために実施した。本研究では、NSABP研究B−20「A Clinical Trial to Determine the Worth of Chemotherapy and Tamoxifen over Tamoxifen Alone in the Management of Patients with Primary Invasive Breast Cancer, Negative Axillary Nodes and Estrogen−Receptor−Positive Tumors」Fisher et al., J Natl Cancer Inst 89(22): 1673−1682 (1997)から得た組織およびデータを用いた。
【0107】
研究設計
患者組み入れ基準:NSABP研究B−20に登録されたもの。患者除外基準:NSABPアーカイブにおける初期診断から利用可能な腫瘍ブロックがないもの、ブロック中に腫瘍がないまたは極めて小さい腫瘍と、病理学者によるH&Eスライドの検査によって評価されるもの、RT−PCR解析には不十分なRNA(<275ng)、5種の参照遺伝子の平均非正規化CT<35、臨床不適格者または追跡調査がないもの。
【0108】
実験室アッセイ
B−20研究においてTAMおよび化学療法で研究登録時に治療された最大600人の患者から得た固定され、パラフィン包埋された乳房腫瘍組織試料を分析した。B−20研究においてTAM単独で研究登録時に治療された最大252人の患者から得た固定され、パラフィン包埋された乳房腫瘍組織から先に抽出したRNAを再分析した。TaqMan(登録商標)RT−PCRを用い、各患者について、16種の癌関連遺伝子および5種の参照遺伝子の発現を定量的に評価した。これは反応あたり2ngのRNAインプットを用い3連で実施した。
【0109】
この研究では、腫瘍組織のRT−PCR分析に先立って予測的に規定した遺伝子発現アルゴリズムを用いて各患者の再発スコアを算出した。
【0110】
病理学的検討および調製
グループ1:腫瘍がないか極めて小さい腫瘍(正常上皮、繊維嚢胞性変化またはDCIS/LCISなどのその他の上皮要素によって占められる部分と比較した浸潤性癌細胞によって占められる部分が<5%)を有する場合は研究から除外した。
【0111】
グループ2:顕著な非腫瘍要素(例えば、平滑筋、出血、繊維症、過形成、上皮および/または正常乳房、ただし、DCIS、LCISまたは壊死ではない)を有するスライド上の領域を含み、非腫瘍要素がマクロダイセクションを受けられるよう十分に局在化しており、かつ、十分な量である(スライド上の組織全体の>50%)場合。これらの場合ではマクロダイセクションを実施した。
【0112】
グループ3:すべてのその他の場合はダイセクションせずに分析した。
【0113】
患者の生存率
原発分析のために、遠隔再発のない生存率(DRFS)は、手術から最初の遠隔再発までの時間(年)に基づくものとした。対側性疾患、その他の二次原発癌および遠隔再発の前の死亡は打ち切り事象と考えた。
【0114】
遺伝子発現
再発スコアの算出に用いた21種の遺伝子の発現レベルは、GHIアッセイから得た値として報告した。表1は16種の試験遺伝子および5種の参照遺伝子の同一性を示す。遺伝子発現値は、5種の参照遺伝子の平均に対して正規化した。参照遺伝子は、乳癌ならびに種々のサンプリングおよび加工条件下において比較的不変であることがわかっており、このために外来作用について正規化するのに有用なものとなっている。参照によって正規化した発現測定値は、通常、1単位増が通常RNA量の2倍の増大を反映する、0〜15の範囲である。解析のために21種の予め指定した遺伝子を表1に列挙する。
【0115】
【表1】

生物統計分析
再発スコアは予後因子および予測因子の両方を含む。乳癌における治療予測遺伝子を同定する目的で、主目的は、治療された患者における遺伝子発現とDRFSの間の関係を調査することである。このような解析には、治療された患者および治療されていない患者双方から得たデータを用いて、治療予測遺伝子と純粋に予後的な遺伝子を区別した。化学療法治療予測遺伝子を同定するために、NSABP研究B−20から、TAMのみで治療された患者とTAMおよび化学療法の両方で治療された患者の双方を含めた。
【0116】
Coxの比例ハザードモデルを用いて、治療効果と遺伝子発現の間の相互作用を調べた。Cox, J Royal Stat Soc Series B 34(2):187−220 (1972); Therneau and Gramsch, Modeling Survival Data: Extending the Cox Model, Springer, New York, NY (2000) ISBN 0−387−98784−3。治療と遺伝子発現の間の相互作用は、治療効果が遺伝子発現レベルに応じて異なる場合に、すなわち、遺伝子発現が治療予測因子である場合に存在する(Fisher, Statistical Methods and Scientific Inference, Oliver and Boyd, Edinburgh (1974); Savage The foundations of Statisitics, John Wiley, New York (1964)。尤度比検定を用い、治療相互作用による遺伝子発現を排除して減少させたモデルを、治療相互作用による遺伝子発現を含む競合的全モデルと比較することによって、統計的に有意な予測治療遺伝子を同定した。
【0117】
再発スコア
0〜100の尺度での再発スコア(RS)は、以下のように参照によって正規化した発現測定値から導く:
RSu=0.47×GRB7グループ閾値スコア
−0.34×ESR1グループスコア
+1.04×増殖グループ閾値スコア
+0.10×浸潤グループスコア
+0.05×CD68
−0.08×GSTM1
−0.07×BAG1
式中、
【0118】
【数6】

次いで、RS(スケーリングしていない再発スコア)を0〜100の間となるよう再スケーリングする:
【0119】
【数7】

3グループへの分類
RSを用いて、各患者の再発リスクグループを決定した。低、中および高リスク再発グループの間のカットオフ点は以下のように定義する:
リスクグループ 再発スコア
低リスクの再発 18未満
中リスクの再発 18以上かつ31未満
高リスクの再発 31以上
【0120】
結果
表2は、試験した変数のうち6、すなわち、RS、増殖グループ閾値スコア(Pro1Thres)、MYBL2、浸潤グループスコア、SCUBE2およびESR1グループスコアが、統計的に有意(P<0.1)に有益な化学療法反応と相互作用したことが10年DRFSによって測定されたことを示す。表2中、RS/50の項によって示されるように、RSの相互作用分析を全部で100点の範囲の下方半分にかけて実施した。
【0121】
【表2】

表2に示されるように、以下の遺伝子および遺伝子セットの発現の増大が、10年の遠隔再発のない生存の尤度の増大と相関している:RS、MYBL2、増殖グループ閾値スコア、浸潤グループスコア。以下の遺伝子の発現の増大は、治療に対する有益な反応の尤度の低下と相関している:SCUBE2、ESR1グループスコア。RSアルゴリズムの個々の重要な構成要素、すなわち、ProlifAxisthresh、浸潤グループおよびESR1グループはすべて独立に、化学療法の有効性の尤度の増大に対応してRSの上昇と一致する方向で化学療法に対する反応に影響を及ぼすことは注目すべきである。
【0122】
図1は、10年でのRSリスクグループカテゴリー(低、中および高リスク)とNSABP B−20集団にわたる化学療法の有効性パーセントとの間の関係を示す。高リスク患者の間での平均有効性(RS>31によって定義される)は約28%であり、95%の信頼限界を有し、12〜42%にわたっていた。すなわち、このグループでは、平均化学療法で、10年での再発の絶対リスクが28%減少した。これは化学療法を受けていない高リスク患者は、平均して、30%を少し上回る再発の絶対リスクを有し、このことは化学療法はこの患者グループでは再発の相対率を約90%低減できることを示すことから注目すべきことである。中リスク患者の場合では(18〜31の間のRSによって定義される)、平均有効性はほとんどゼロであり、95%の信頼限界を有し、−10〜+10%にわたっていた。低リスク患者の場合には(RS<18によって定義される)平均有効性はほぼゼロであり、95%信頼限界を有し、−4〜+4%にわたっていた。
【0123】
これらの結果は、ESR1陽性初期乳癌患者を化学療法で治療するか否かについての決定を導くための有用性を有する。NSABP B14 TAM治療群における再発スコアアルゴリズムの確証により、高リスクグループの患者は10年で>30%の乳癌再発のリスクを有するということが実証された。本明細書に示されたデータは、この高リスク集団は、化学療法を受けることを選択すれば、化学療法治療に由来する極めて大きな有効性を有し、再発を低リスク患者のものに低減する可能性があることを示す。他方、TAM治療を受けた低リスク集団は、化学療法なしで約7%の再発のリスクを有するが、化学療法が相対的に少ないリスクの低減しかもたらさないと予期できる。
【0124】
RSは連続変数であるので、所与の患者の正確な数値のRSを用いて、化学療法から得られる患者個人の有効性の尤度を示すことができる。これを図2に示す。
【0125】
開示内容を通じて引用されたすべての参照文献は、参照により本明細書によって明確に組み込まれる。
【0126】
当業者ならば、本発明の実施に使用できる、本明細書に記載されるものと同様または同等の多数の方法および材料を認識するであろう。実際、本発明は、記載される方法および材料に決して制限するものではない。本発明を具体的な実施形態であると考えられるものに関連して説明してきたが、本発明はこのような実施形態に限定されないことは理解されなくてはならない。それとは反対に、本発明は、添付の特許請求の範囲の趣旨および範囲内に含まれる種々の改変および同等物を対象とするものとする。例えば、開示内容は、CMF(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシル)化学療法を用いる治療に対する乳癌患者の有益な反応を予測するのに有用な遺伝子および遺伝子のグループを同定することによって例示されるが、その他の化学療法薬を用いる治療に対する患者の反応を調べる同様の方法、ならびに同様の遺伝子、遺伝子セットおよびその他の種類の癌に関する方法も、明確に本明細書における範囲内にある。
【0127】
【表3−1】

【0128】
【表3−2】

【0129】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】再発スコアによって、低、中または高リスクとして同定されるNSABP B−20患者群内の10年でのDRESによって求められる化学療法の絶対的有効性を示す図である。
【図2】再発スコアによって、連続型変数として同定されるNSABP B−20患者群内の10年でのDRESによって求められる化学療法の絶対的有効性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌と診断された被験体の化学療法に対する有益な反応の尤度を予測する方法であって、
(a)該被験体から得られた癌細胞を含む生体サンプルにおいて、以下の変数のうち1以上の値を定量的に決定する工程を含み、
(i)再発スコア
(ii)ESR1グループスコア
(iii)浸潤グループスコア
(iv)増殖グループ閾値スコア
(v)MYBL2およびSCUBE2の少なくとも一方のRNA転写物、または対応する発現産物の発現レベル、
(b1)(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加分1単位ごとに、前記被験体が、前記化学療法に対する有益な反応の比例して増加した尤度を有すると同定され、
(b2)(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加分1単位ごとに、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の比例して減少した尤度を有すると同定され、
(b3)(i)の値の増加分1単位ごとに、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の増加した尤度を有すると同定されると乳癌再発のリスクの低下によって判定され、
ESR1グループスコア=(ESR1+PGR+BCL2+SCUBE2)/4、
浸潤グループスコア=(CTSL2+MMP11)/2、
GRB7グループスコア=0.9×GRB7+0.1×ERBB2、
GRB7グループ閾値スコアは、GRB7グループスコアが8未満である場合は8に等しく、GRB7グループスコアが8以上である場合にはGRB7グループスコアに等しく、
増殖グループスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5、
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループスコアが6.5未満である場合には6.5に等しく、増殖グループスコアが6.5以上である場合には増殖グループスコアに等しく、
【数1】

[式中、
RSu=0.47×GRB7グループ閾値スコア
−0.34×ESR1グループスコア
+1.04×増殖グループ閾値スコア
+0.10×浸潤グループスコア
+0.05×CD68
−0.08×GSTM1
−0.07×BAG1]
等式中の遺伝子記号はそれぞれの遺伝子のRNA転写物またはその発現産物の発現レベルを表し、変数(i)、(ii)、(iii)および(iv)における遺伝子の個々の寄与は0.5〜1.5の因子によって加重され、
あらゆる個々の遺伝子および該変数のいずれか中に存在するあらゆる遺伝子が、ピアソン相関係数≧0.5で該癌において該遺伝子と同時発現する別の遺伝子で置換され得る、方法。
【請求項2】
前記被験体がヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
変数(i)〜(v)に含まれるすべての遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルは、1種以上の参照遺伝子またはそれらの発現産物の発現レベルに対して正規化される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記参照遺伝子が、ACTB、GAPD、GUSB、RPLP0およびTFRCからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記発現レベルは、ACTB、GAPD、GUSB、RPLP0およびTFRC、またはそれらの発現産物の発現レベルの平均に対して正規化される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
化学療法に対する有益な反応の尤度についての定量値が、一連の期間にわたって測定した変数の値に直接比例する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記癌が充実腫瘍である、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記癌が乳癌、卵巣癌、胃癌、結腸癌、膵臓癌、前立腺癌および肺癌からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記乳癌が浸潤性乳癌またはステージIIもしくはステージIII乳癌である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記乳癌がESR1陽性である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記患者が、化学療法に対する有益な反応の増加した尤度を有すると決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記決定後に、前記患者は化学療法を施される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記化学療法がアジュバント化学療法である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記化学療法がアントラサイクリン誘導体の投与を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記アントラサイクリン誘導体がドキソルビシンまたはアドリアマイシンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記化学療法がタキサン誘導体の投与を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記タキサン誘導体がパクリタキセルまたはドセタキセルである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記化学療法がトポイソメラーゼ阻害剤の投与を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記トポイソメラーゼ阻害剤がカンプトセシン、トポテカン、イリノテカン、20−S−カンプトセシン、9−ニトロ−カンプトセシン、9−アミノ−カンプトセシンおよびGI147211からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記化学療法がヌクレオチド生合成の阻害剤の投与を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記のヌクレオチド生合成の阻害剤がメトトレキサートおよび/または5−フルオロウラシル(5−FU)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記変数のうち少なくとも2つの決定を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項23】
前記変数のうち少なくとも3つの決定を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記変数のうち少なくとも4つの決定を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記変数のうち少なくとも5つの決定を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項26】
MYBL2およびSCUBE2またはそれらの発現産物のうち一方もしくは両方の発現レベルの決定を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項27】
前記生体サンプルが、癌細胞を含む組織サンプルである、請求項2に記載の方法。
【請求項28】
前記組織が固定パラフィン包埋されているか、または新鮮なものであるか、または凍結されている、請求項28に記載の方法。
【請求項29】
前記組織が細針生検、コア生検またはその他の種類の生検に由来する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記組織サンプルが微細針吸引生検、気管支洗浄または経気管支生検によって得られる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記発現レベルの決定が定量的RT−PCRを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項32】
前記発現産物の発現レベルの決定が免疫組織化学を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項33】
前記遺伝子発現産物のレベルがプロテオミクス技術によって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項34】
前記発現レベルが、標的遺伝子配列に基づいたプライマーおよびプローブ配列を用いる定量的RT−PCRによって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも1種の標的遺伝子配列がイントロンに基づく配列であり、該イントロンの発現が該遺伝子のエキソン配列の発現と相関する、請求項35に記載の方法。
【請求項36】
前記有益な反応の尤度を要約する報告書を作製する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項37】
前記報告書を、癌と診断された患者および/または患者の医師に個人用ゲノムプロフィールとして提供する工程をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項38】
癌と診断された被験体の個人用ゲノムプロフィールを調製する方法であって、
(a)該被験体から得られた癌細胞を含む生体サンプルにおいて、以下の変数のうち1以上の値を定量的に決定する工程を含み、
(i)再発スコア
(ii)ESR1グループスコア
(iii)浸潤グループスコア
(iv)増殖グループ閾値スコア
(v)MYBL2およびSCUBE2の少なくとも一方のRNA転写物の発現レベル、
(b1)(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加分1単位ごとに、該被験体が、化学療法に対する有益な反応の比例して増加した尤度を有すると同定され、
(b2)(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加分1単位ごとに、該被験体が、化学療法に対する有益な反応の比例して減少した尤度を有すると同定され、
(b3)(i)の値の増加分1単位ごとに、該被験体が、化学療法の不在下で乳癌再発の増加した尤度を有すると同定され、
ESR1グループスコア=(ESR1+PGR+BCL2+SCUBE2)/4、
浸潤グループスコア=(CTSL2+MMP11)/2、
GRB7グループスコア=0.9×GRB7+0.1×ERBB2、
GRB7グループ閾値スコアは、GRB7グループスコアが8未満である場合は8に等しく、GRB7グループスコアが8以上である場合にはGRB7グループスコアに等しく、
増殖グループスコア=(BIRC5+MKI67+MYBL2+CCNB1+STK6)/5、
増殖グループ閾値スコアは、増殖グループスコアが6.5未満である場合には6.5に等しく、増殖グループスコアが6.5以上である場合には増殖グループスコアに等しく、
【数2】

[式中、
RSu=0.47×GRB7 グループ閾値スコア
−0.34×ESR1グループスコア
+1.04×増殖グループ閾値スコア
+0.10×浸潤グループスコア
+0.05×CD68
−0.08×GSTM1
−0.07×BAG1]
等式中の遺伝子記号は、それぞれの遺伝子のRNA転写物またはその発現産物の発現レベルを表し、変数(i)、(ii)、(iii)および(iv)における遺伝子の個々の寄与は0.5〜1.5の因子によって加重され、
あらゆる個々の遺伝子および該変数のいずれか中に存在する遺伝子が、ピアソン相関係数≧0.5で該癌において前記遺伝子と同時発現する別の遺伝子で置換され得、
(c)前記遺伝子発現解析によって得られたデータを要約する報告書を作製する工程を含む、方法。
【請求項39】
(i)、(iii)、(iv)のうち1以上の値、またはMYBL2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加が決定される場合に、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の増加した尤度を有するという予測を前記報告書が含む、請求項39に記載の方法。
【請求項40】
前記被験体を化学療法薬で治療する工程をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項41】
(ii)の値またはSCUBE2のRNA転写物もしくは対応する発現産物の発現レベルの増加が決定される場合に、前記被験体が、化学療法に対する有益な反応の減少した尤度を有するという予測を前記報告書が含む、請求項39に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−520192(P2008−520192A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540122(P2007−540122)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/040238
【国際公開番号】WO2006/052862
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(504345126)ジェノミック ヘルス, インコーポレイテッド (17)
【出願人】(507145488)エヌエスエービーピー ファウンデーション, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】