説明

避難誘導装置

【課題】火災等の発生に伴い有害物質が分布している空間を通行する避難者の安全性を向上させる。
【解決手段】建物で火災が発生した際に、避難経路上の区画における有害ガスの濃度を複数の高さ位置で各々検出し、各高さ位置における有害ガスの濃度に基づき、前記区画内に分布している有害ガスが前記区画を通過する避難者へ与える影響がより小さくなる避難者の頭部の高さ位置を避難高さ位置として判断し、前記区画内の互いに異なる高さに配置された複数の高さ報知発光部28のうち、判断した避難高さ位置に対応する高さ報知発光部28を選択的に発光させることで避難高さ位置を避難者へ報知する。避難者は自身の頭部が報知された避難高さ位置に一致する姿勢で前記区画を通過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は避難誘導装置に係り、特に、火災等が発生した際に避難者を誘導する避難誘導装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火災等が発生した際の避難の安全性を確保するための技術としては、従来より種々の技術が提案されており、例えば特許文献1には、建物居室内に収納された可燃物が出火してから、煙層下端が避難上支障のある高さ(例えば床面から1.8mの高さ)に達し、煙層の温度が避難上支障のある温度に達するまでの熱限界時間、及び、煙層CO濃度が避難上支障のある濃度に達するまでの煙層CO濃度限界時間を、煙層の密度ρ、居室の床面積Aroom、居室の天井高さHroom、可燃物の燃焼による火災成長率αf、及び、居室の内装材料の燃焼による火災成長率αmから所定の演算式に基づいて算出し、算出した熱限界時間及び煙層CO濃度限界時間のうちの小さい方の値を、建物居室内に収納された可燃物が出火してから、その居室に在室していた人が避難不能になる迄の時間(許容避難時間=煙層が避難上支障のある性状になるまでの所要時間(煙層の曝露限界時間))とし、算出した許容避難時間を建物設計時の居室の安全性の評価に用いる(例えば必要避難時間(その居室からの避難に要する時間)と比較し、算出した許容避難時間が必要避難時間よりも長い場合は安全な居室と認定する等)技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−330996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術によれば、建物の居室内に収納された可燃物が出火してから許容避難時間が経過した以降は、その居室に在室していた人は避難不能とみなされることになるが、特許文献1の記載によれば、出火から許容避難時間が経過した時点では煙層下端が床面には達していないので、出火から許容避難時間が経過した以降であっても、出火した居室に在室していた人が、頭部をより床面に近い高さ位置に維持する姿勢をとりながら移動することで、出火した居室から退室して避難することは可能である。しかしながら、特許文献1に記載の技術はこの点を考慮していないので、仮に、特許文献1に記載の技術を火災等が発生した際に避難者を誘導する既存の避難誘導装置と組み合わせたとしても、出火から許容避難時間が経過した以降の期間に避難者が避難する際の安全性の向上には寄与しない。
【0005】
また、火災が発生した際には、火災の進行に伴い、出火箇所と異なる箇所、例えば避難経路上の箇所にも煙等が広がってくる可能性がある。これに対して特許文献1に記載の技術は、建物の或る居室で出火してから、その居室に在室していた人がその居室から退去不能となる迄の時間(許容避難時間)を算出する技術であり、出火箇所と異なる箇所における安全性の評価には適用できない。このため、仮に、特許文献1に記載の技術を既存の避難誘導装置と組み合わせたとしても、出火した居室に在室していた人がその居室から退去した後の移動(避難)や、出火した居室と異なる箇所に存在していた人の避難における安全性の向上にも寄与しない。
【0006】
更に、特許文献1に記載の技術では、火災が発生した際に発生する有害物質として二酸化炭素(CO)のみを想定し、火災等が発生した際の煙層CO濃度を事前に予測している。しかしながら、火災が発生した際に発生する可能性の有る有害物質としては、二酸化炭素以外に一酸化炭素やシアン化水素、塩化水素、硫黄酸化物(主に二酸化硫黄)、窒素酸化物(二酸化窒素)等があり、これらの有害物質の発生の有無は火災に伴って燃焼した材料の種類に依存するので、火災が発生した際のこれらの有害物質の発生の有無や発生する有害物質の分布具合を事前に予測することは困難である。
【0007】
本発明は上記事実を考慮して成されたもので、火災等の発生に伴い有害物質が分布している空間を通行する避難者の安全性を向上させることができる避難誘導装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係る避難誘導装置は、避難経路上の空間における高さ方向に沿った有害物質の分布状態を検出する検出手段と、前記検出手段によって検出された前記有害物質の分布状態に基づき、前記空間内に分布している有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置を判断し、判断した前記高さ位置を前記空間を通行する避難者へ報知する報知手段と、を含んで構成されている。
【0009】
請求項1記載の発明では、検出手段により、避難経路上の空間における高さ方向に沿った有害物質の分布状態が検出される。これにより、有害物質の発生源が存在している箇所と異なる空間であっても、当該空間における高さ方向に沿った有害物質の正確な分布状態を得ることができる。また、対象空間に分布する有害物質の種類が条件によって相違する場合にも、分布する可能性の有る各有害物質を検出対象に含めておくことで、対象空間に実際に分布した有害物質の種類に拘わらず有害物質の正確な分布状態を得ることが可能となる。
【0010】
そして報知手段は、検出手段によって検出された避難経路上の空間における高さ方向に沿った有害物質の分布状態に基づき、前記空間内に分布している有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる人体の頭部の高さ位置を判断し、判断した高さ位置を前記空間を通行する避難者へ報知する。これにより、報知手段が判断した高さ位置(避難に適した高さ位置)が、避難者が歩行しているときの避難者の頭部の高さ位置と相違している場合にも、判断した高さ位置が報知手段によって報知されることで、有害物質が分布している空間を通行する避難者は、自身の頭部を報知された高さ位置付近に維持する姿勢(例えば中腰や腹這い等)をとりながら前記空間を通行することになる。従って、請求項1記載の発明によれば、火災等の発生に伴い有害物質が分布している空間を通行する避難者の安全性を向上させることができる
【0011】
なお、請求項1記載の発明において、報知手段による高さ位置の報知は、音声等によって報知するように報知手段を構成することによっても実現できるが、例えば請求項2に記載したように、互いに高さの異なる複数箇所に各々配置された複数の高さ報知用発光部を備え、当該複数の高さ報知用発光部のうち配置箇所の高さ位置が判断した前記高さ位置に対応する高さ報知用発光部を選択的に発光させることで、前記避難者へ前記高さ位置を報知するように報知手段を構成することが好ましい。これにより、避難に適した高さ位置(有害物質が人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置)を、避難者に直感的に知覚させることができる。
【0012】
また、請求項1又は請求項2記載の発明において、報知手段は、例えば請求項3に記載したように、避難者を特定方向へ案内するように発光すると共に、配置位置及び発光による案内方向の少なくとも一方が互いに相違された複数の方向報知用発光部を備え、当該複数の方向報知用発光部のうち前記案内方向が個々の方向報知用発光部の配置位置における避難経路に沿った方向に一致する方向報知用発光部を発光させることで、避難者へ避難方向を報知するように構成することが好ましい。これにより、発光された方向報知用発光部の配置位置付近からの避難方向(避難経路に沿った方向)を避難者に直感的に知覚させることができる。
【0013】
また、上述した請求項3記載の発明において、方向報知用発光部としては、例えば請求項4に記載したように、特定方向(案内方向)へ光を射出する構成や、特定方向(案内方向)を明示する図形を発光表示する構成、或いは、特定方向(案内方向)へ向かう出口が発光に伴って明示されるように前記出口の近傍に配置された構成を適用することができる。
【0014】
また、火災等が発生した際には、請求項2に記載の高さ報知用発光部の発光光や請求項3に記載の方向報知用発光部の発光光の視認性が煙によって低下する可能性があることを考慮すると、請求項2又は請求項3記載の発明において、例えば請求項5に記載したように、高さ報知用発光部及び方向報知用発光部の少なくとも一方は、黄色又は黄緑色に発光するように構成することが好ましい。一般に黄色や黄緑色は空間内に煙が分布している場合に視認性の高い光の色とされており、高さ報知用発光部及び方向報知用発光部の少なくとも一方(好ましくは両方)を黄色又は黄緑色に発光させることで、対象空間内に煙が分布している場合の高さ報知用発光部の発光光や方向報知用発光部の発光光の視認性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係る避難誘導装置は、例えば系統電源から供給される電力で作動するように構成することができるが、火災等が発生した際には、給電線の類焼等により系統電源から避難誘導装置への電力の供給が遮断される可能性がある。これを考慮すると、請求項1〜請求項5の何れかに記載の発明において、例えば請求項6に記載したように、避難誘導装置本体が系統電源から供給される電力で作動している期間に、系統電源から供給される電力の一部を蓄電すると共に、系統電源から避難誘導装置本体への電力の供給が遮断されると、蓄電している電力を避難誘導装置本体へ供給する蓄電給電手段を更に設けることが好ましい。これにより、系統電源からの電力の供給が遮断された場合にも、蓄電給電手段から避難誘導装置本体へ電力が供給されることで、避難誘導装置本体が作動を継続することができる。
【0016】
また、請求項1〜請求項6の何れかに記載の発明において、検出手段が避難経路上の空間における高さ方向に沿った有害物質の分布状態を検出することは、検出手段を、例えば請求項7に記載したように、避難経路上の空間内の互いに高さの異なる複数箇所に各々配置された複数の検出部により、前記有害物質の分布状態として、複数の検出部が配置された複数の高さ位置における有害物質の濃度を各々検出するように構成することで実現することができる。
【0017】
また、請求項1〜請求項7の何れかに記載の発明において、報知手段は、例えば請求項8に記載したように、前記有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置として、検出手段によって検出された有害物質の分布状態において前記有害物質の濃度が最小又は最小に近い値(例えば最小値に対する偏差が所定割合以内の値)となっている高さ位置を判断するように構成することができる。この場合、対象空間に分布する有害物質が事前に特定できる場合に、有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる人体の頭部の高さ位置を簡易な処理で判断することができる。
【0018】
また、請求項1〜請求項7の何れかに記載の発明において、例えば請求項9に記載したように、検出部を複数種の有害物質について各々独立に濃度を検出可能に構成すると共に、検出手段を複数種の有害物質について分布状態を各々検出するように構成し、報知手段を、検出手段によって検出された複数種の有害物質の分布状態と、記憶手段に予め記憶された個々の有害物質毎の閾値濃度と、に基づき、高さ方向に沿った危険度の分布を個々の有害物質毎に算出し、有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置として、高さ方向に沿った各位置のうち個々の有害物質毎の危険度の最大値が最も低い高さ位置を判断するように構成してもよい。この場合、複数種の有害物質のうち対象空間に分布する有害物質が事前には特定できない場合にも、有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる人体の頭部の高さ位置を正確に判断することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明は、避難経路上の空間における高さ方向に沿った有害物質の分布状態を検出し、検出された前記有害物質の分布状態に基づき、前記空間内に分布している有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる人体の頭部の高さ位置を判断し、判断した前記高さ位置を前記空間を通行する避難者へ報知するようにしたので、火災等の発生に伴い有害物質が分布している空間を通行する避難者の安全性を向上させることができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態に係る避難誘導システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】各種センサや表示部(発光部)の配置の一例を示す斜視図である。
【図3】火災時処理の内容を示すフローチャートである。
【図4】有害ガスの濃度の検出値から避難高さを判定する処理を説明するための線図である。
【図5】高さ報知発光部による避難高さの報知、及び、避難高さに応じた避難者の避難姿勢の一例を示すイメージ図である。
【図6】防犯モード時処理の内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を詳細に説明する。図1には本実施形態に係る避難誘導システム10が示されている。なお、避難誘導システム10は本発明に係る避難誘導装置に対応している。避難誘導システム10は住宅等の建物に設置され、前記建物で火災が発生した際に、前記建物内に存在している人に対して火災の発生を報知して避難誘導を行うシステムであり、複数の検出報知部12を含んで構成されている。一般に建物の内部空間は壁64や天井66(図2参照)等によって複数の区画(例えば居室や廊下、階段室等)に区画されており(図2では建物の内部空間の一部を構成する単一の区画に符号「68」を付して示す)、検出報知部12は、避難誘導システム10が設置された建物の内部空間における区画の数と同数設けられ、個々の区画に各々設置されている。
【0022】
個々の検出報知部12は、熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20、有害ガスセンサ22、誘導表示部24及びDC→AC変換部26を各々備えている。図2に示すように、熱センサ14及び煙センサ16は設置区画内の天井66等に配設されており、熱センサ14は設置区画内に火が存在しているか否かを検出し、煙センサ16は設置区画内に煙が存在しているか否かを検出する。また、火災報知器18も設置区画内の天井66等に配設されており(図2では図示省略)、避難誘導システム10の何れかの検出報知部12の熱センサ14や煙センサ16によって火及び煙の少なくとも一方が検出されると作動され、設置区画内に存在している人に対して火災の発生を報知する警報音等を出力する。
【0023】
また、赤外線カメラ20も設置区画内の壁64の上部等に配設されており、設置区画内の各位置から放射される赤外線を画像として検出し、得られた赤外線画像中に人に相当する領域が存在しているか否かを判定することで設置区画内の在室者の有無を検出する。なお、赤外線カメラ20は設置区画内の天井66等の他の場所に配設してもよい。また、在室者の検出はこの構成に限られるものではなく、例えば、建物内に存在している全ての人にICタグを所持させておき、建物の出入口や隣り合う区画の境界にICタグと無線通信を行うことが可能なICタグリーダを各々設け、ICタグ所持者がICタグリーダ設置箇所を通過したことをICタグリーダによって検出することで、個々の区画内の在室者の有無を検出することも可能である。
【0024】
有害ガスセンサ22は、火災に伴って発生し建物内にガス状態で分布する可能性の有る複数種の有害物質、例えば二酸化炭素や一酸化炭素、シアン化水素、塩化水素、硫黄酸化物(主に二酸化硫黄)、窒素酸化物(二酸化窒素)等について、ガス状態での濃度を各々独立に検出可能とされている。有害ガスセンサ22としては、例えば特開平10−339698号公報に記載されているように、各種の有害物質の赤外線吸収波長が互いに異なることを利用し、赤外線を射出する光源と、センサ内に取り込まれ赤外線が照射されたガスによる赤外線の吸収量をガスの濃度として検出する赤外線センサと、透過させる赤外線の周波数帯域の中心波長が互いに異なる有害物質の赤外線吸収波長と一致された複数種のバンドパスフィルタと、複数種のバンドパスフィルタのうち赤外線センサの赤外線入射側の光路中に挿入するバンドパスフィルタを切替可能な切替部と、を備えた構成を採用することができる。また、互いに種類の異なる有害ガスの濃度を検出する複数種のセンサを組み合わせて有害ガスセンサ22を構成することも可能である。
【0025】
また、有害ガスセンサ22は個々の検出報知部12毎に複数設けられており、同一の検出報知部12に属する複数の有害ガスセンサ22は、図2に示すように、同一の設置区画内の互いに異なる高さ位置に設置されている。なお、図2は有害ガスセンサ22が同一の設置区画内に3個設置された例を示しているが、これに限られるものではなく、有害ガスセンサ22の数は2個以下でもよいし、4個以上でもよい。また、図2は設置高さ位置が互いに異なる有害ガスセンサ22の群を1組のみ設けた例を示しているが、複数組の有害ガスセンサ22の群を、同一の設置区画内の互いに異なる水平面内位置に各々設けてもよい。
【0026】
誘導表示部24は火災が発生した際に避難者を誘導する表示を行うためのものであり、高さ報知発光部28、高さ報知受光部30、方向報知発光部32及び出口報知発光部34を備えている。高さ報知発光部28は避難者に対して避難に適した頭部の高さ位置を報知するためのものであり、黄色又は黄緑色に発光するLED等から成り個々の検出報知部12毎に複数設けられ、同一の検出報知部12に属する複数の高さ報知発光部28は、図2に示すように、同一の設置区画内の互いに異なる高さ位置に設置されている。なお、図2は有害ガスセンサ22と同数個の高さ報知発光部28が、有害ガスセンサ22と同じ高さ位置に設置された例を示しているが、高さ報知発光部28の数は有害ガスセンサ22と相違していてもよいし、高さ報知発光部28の設置高さ位置についても有害ガスセンサ22と相違していてもよい。
【0027】
また、高さ報知発光部28を3個設ける場合の個々の高さ報知発光部28の設置高さ位置は、一例として、設置高さが最も高い高さ報知発光部28を、図5(A)に示すように避難者が歩行するときの頭部の標準的な高さとし、設置高さが2番目の高さの高さ報知発光部28を、図5(B)に示すように避難者が中腰で移動するときの頭部の標準的な高さとし、設置高さが最も低い高さ報知発光部28を、図5(C)に示すように避難者が這って移動するときの頭部の標準的な高さとすることができる。高さ報知発光部28は請求項2に記載の高さ報知用発光部に対応している。
【0028】
高さ報知受光部30はフォトダイオード等から成り、個々の検出報知部12毎に高さ報知発光部28と同数個設けられており、同一の検出報知部12に属する複数の高さ報知発光部28は、図2に示すように、同一の検出報知部12に属する互いに異なる高さ報知発光部28から射出された光を受光可能なように、同一の設置区画内の互いに異なる高さ位置に設置されている。なお図2では、3個の高さ報知発光部28のうち設置高さ位置が最も低い高さ報知発光部28が発光され、当該高さ報知発光部28に対応する高さ報知受光部30が受光している状態を示している。
【0029】
方向報知発光部32は避難者に対して適切な避難方向を報知するためのものであり、図2に示すように、適切な避難方向を表す図形(例えば矢印等)を黄色又は黄緑色に発光するLED等によって表示板に発光表示させる構成とされている。なお図2の奥側にも示すように、個々の区画に設置された誘導表示部24には、設置区画から隣接する各区画へ向かう経路の種類数と同数個の方向報知発光部32が設けられており、例えば図2では、図2に示す区画から手前側の出口60を通って図2の左側に隣接する区画へ向かう第1の経路、図2に示す区画から奥側の出口62を通って図2の左側に隣接する区画へ向かう第2の経路及び図2に示す区画から奥側の出口62を通って図2の右側に隣接する区画へ向かう第3の経路に対応して、配置位置及び報知する避難方向の少なくとも一方が互いに相違された3個の方向報知発光部32が設けられた例を示している。方向報知発光部32は請求項3に記載の方向報知用発光部に対応している。
【0030】
なお、避難方向の報知方法は上記に限られるものではなく、例えば高さ報知発光部28から射出された光が避難方向下流側へ流れる光として視認されるように、高さ報知発光部28を点滅させるようにしてもよい。この場合、高さ報知発光部28が請求項3に記載の方向報知用発光部としても機能することになる。
【0031】
出口報知発光部34は避難者に対して現在の区画からの適切な出口を報知するためのものであり、図2に示すように、例えば黄色又は黄緑色に発光するLED等から成る複数個の発光素子が一列に配列されて構成された長尺状の発光体が、設置区画から隣接する各区画へ向かう出口の周囲に沿って配設されて構成されている。なお、図2では図2に示す区画のうち手前側の出口60の周囲に配設した出口報知発光部34のみを明示しているが、個々の区画に設置された誘導表示部24には、設置区画からの出口と同数個の出口報知発光部34が設けられており、図2の例においても、図示は省略するが、図2に示す区画のうち奥側の出口62の周囲にも出口報知発光部34が配設されている。
【0032】
また、検出報知部12のうち、熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20及び有害ガスセンサ22は交流電力により作動するように構成されており、同一の検出報知部12に属する熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20及び有害ガスセンサ22は、交流電力を供給するための交流給電線を介して相互に接続されている。また、個々の検出報知部12の熱センサ14同士、煙センサ16同士、火災報知器18同士、赤外線カメラ20同士、及び、有害ガスセンサ22同士も、交流給電線を介して相互に接続されている。更に、複数の検出報知部12のうちの特定の検出報知部12は、熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20及び有害ガスセンサ22が交流電源を供給する系統電源36と交流給電線を介して直接接続されている。
【0033】
一方、検出報知部12のうちの誘導表示部24は直流電力により作動するように構成されており、個々の検出報知部12の誘導表示部24は直流電力を供給するための直流給電線を介して相互に接続され、複数の検出報知部12のうちの特定の検出報知部12の誘導表示部24は、系統電源36と交流給電線、AC→DC変換部38及び直流給電線を介して接続されている。これにより、個々の検出報知部12の熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20及び有害ガスセンサ22は、系統電源36から供給される交流電力により作動し、個々の検出報知部12の誘導表示部24は系統電源36からAC→DC変換部38を経由して供給される直流電力により作動する。
【0034】
また、本実施形態に係る避難誘導システム10では、系統電源36からの電力の供給が途絶した場合に備えて蓄電池40が複数(検出報知部12と同数個)設けられている。複数の蓄電池40は直流給電線を介して互いに接続されており、何れか1つの蓄電池40は、系統電源36と交流給電線、AC→DC変換部38及び直流給電線を介して接続され、更に、避難誘導システム10が設置された建物に取付けられた太陽電池ユニット42とも直流給電線を介して接続されている。これにより、系統電源36から避難誘導システム10へ電力が供給されている間、個々の蓄電池40は系統電源36からAC→DC変換部38を経由して供給される直流電力、又は、太陽電池ユニット42から供給される直流電力によって充電される。なお、太陽電池ユニット42は直流給電線、DC→AC変換部44、交流給電線を介して系統電源36に接続されており、太陽電池ユニット42における発電電力のうちの余剰電力は交流電力として系統電源36へ送られる。
【0035】
複数の蓄電池40は複数の検出報知部12のうちの互いに異なる検出報知部12に対応しており、個々の蓄電池40は、対応する検出報知部12の誘導表示部24と直流給電線を介して接続され、対応する検出報知部12の火災報知器18とも直流給電線、DC→AC変換部26、交流給電線を介して接続されている。これにより、系統電源36から避難誘導システム10への電力の供給が途絶した場合(例えば停電時や火災による給電線の類焼時等)には、図示しないスイッチング回路で給電線のスイッチングが行われることで、個々の検出報知部12の熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20及び有害ガスセンサ22は、対応する蓄電池40からDC→AC変換部26を経由して供給される交流電力により作動し、個々の検出報知部12の誘導表示部24は対応する蓄電池40から供給される直流電力により作動する。
【0036】
後述のように、火災時には誘導表示部24の各発光部が発光されるが、蓄電池40からの電力供給時には、蓄電池40から誘導表示部24へ直流電力が直接供給されるので、誘導表示部24への電力供給における損失が抑制され、蓄電池40の電力供給可能時間を長時間化することができる。また、任意の検出報知部12で対応する蓄電池40からの電力の供給が途絶した場合(例えば火災による蓄電池40や給電線の類焼時等)には、図示しないスイッチング回路で給電線のスイッチングが行われることで、他の検出報知部12に対応する蓄電池40からの電力が、電力の供給が途絶した検出報知部12にも供給される。なお蓄電池40は、蓄電池40からの電力を対応する検出報知部12に供給するための給電線及びDC→AC変換部26と共に、請求項6に記載の蓄電給電手段に対応している。
【0037】
また、避難誘導システム10は一対の制御PC46,48を備えている。個々の制御PC46,48は、CPU、ROMやRAM等から成るメモリ、HDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等から成る不揮発性の記憶部を各々備えており、記憶部には、後述する火災時処理を行うための火災時プログラムや、後述する防犯モード時処理を行うための防犯モード時プログラムを含む各種プログラムがインストールされている。なお、制御PC46は避難誘導システム10が設置された建物の屋内に配置され、制御PC48は前記建物の屋外に配置されている。制御PC46,48は通信線を介して互いに接続されており、制御PC48は通信線を介して外部ネットワーク50にも接続されている。
【0038】
また、制御PC46,48の間はHDD等から成る不揮発性の記憶部52が介在されている。記憶部52には、避難誘導システム10が設置された建物の各区画の配置や接続関係等を表す建物属性情報、有害ガスセンサ22が検出対象とする各種の有害ガスの特性(比重等)や関連情報(後述する危険度の演算に用いる閾値濃度等)を含む有害ガス情報が記憶されている。記憶部52に記憶されている情報は、制御PC46,48が各々参照可能とされている。また、制御PC46,48及び記憶部52は交流給電線を介して系統電源36と接続されており、系統電源36から供給される交流電力により作動する。
【0039】
また、制御PC46,48と個々の検出報知部12の熱センサ14、煙センサ16、火災報知器18、赤外線カメラ20、有害ガスセンサ22及び誘導表示部24は、2系統のネットワーク54,56を介して相互に接続されている。ネットワーク54,56を形成する通信線は、火災が発生した際に通信線の類焼によって通信が途絶する迄の時間を長時間化するために、避難誘導システム10が設置された建物内のうちの互いに異なる箇所を通るように配設されている。なお、ネットワーク54,56を形成する一部の通信線の類焼によって制御PC46,48と何れかの検出報知部12との通信が途絶した場合に備え、電池によって動作する無線通信部を制御PC46,48及び個々の検出報知部12に各々設け、ネットワーク54,56経由で通信不能となった場合には、無線通信に切換えて通信を継続するように構成することが好ましい。
【0040】
次に本実施形態の作用を説明する。本実施形態に係る避難誘導システム10は、建物の各区画に設置された検出報知部12の熱センサ14及び煙センサ16により、火災の発生(出火)を各区画単位で常時監視しており、何れかの区画の熱センサ14によって火の存在が検出されるか、又は、何れかの区画の煙センサ16によって煙の存在が検出されると、制御PC46のCPUによって火災時プログラムが実行されることで、図3に示す火災時処理が行われる。なお、この火災時処理では、火災の進行に伴って制御PC46自体が火に晒され、火災時処理の途中で実行継続が困難になった場合に備え、処理中に記憶する必要が生じた全ての情報が制御PC46のメモリに代えて記憶部52に記憶される。これにより、制御PC46による火災時処理の実行が途中で停止した場合に、火災時処理を行うPCを制御PC46から制御PC48に切り替え、記憶部52に記憶された情報に基づき制御PC48によって火災時処理の実行を再開することが可能となる。
【0041】
火災時処理の実行が開始された場合には、前述のように何れかの区画で火及び煙の少なくとも一方が検出されており、避難誘導システム10が設置された建物で火災が発生していると判断できるので、火災時処理では、まずステップ100において、建物の各区画に設置された検出報知部12の火災報知器18から警報音等を出力させることで、建物内に存在している人に対して火災の発生を報知する。またステップ102では、外部ネットワーク50経由で消防署に対し、火災が発生したことを通知する情報や建物の所在地を表す情報等を送信することで、火災の発生を消防署へ通報する。なお、上記情報以外に、後述する火災中の区画を表す情報や、在室者有りの区画を表す情報、各区画における高さ方向に沿った有害ガスの分布を表す情報等も消防署へ送信するようにしてもよい。
【0042】
次のステップ104では、建物の各区画に設置された検出報知部12の熱センサ14、煙センサ16による火及び煙の検出結果を全て受信し、建物の各区画のうち火災中の区画(火及び煙の少なくとも一方が存在している区画)を判定し、火災中と判定した区画を表す情報を記憶部52に記憶させる。次のステップ106以降では建物の個々の区画を単位として、有害ガスの検出や在室者の探索等の処理を行う。
【0043】
すなわち、ステップ106では建物の各区画の中から処理対象の区画を選択する。ステップ108では、ステップ106で選択した処理対象の区画に設置された検出報知部12の個々の有害ガスセンサ22により、処理対象の区画における複数種の有害ガスの濃度を各々検出させ、濃度の検出結果を表す情報を個々の有害ガスセンサ22から各々受信し、受信した濃度の検出結果を表す情報(例えば図4(A)に示す濃度値DH,DM,DLや図4(B)に示す濃度値DAH,DBH,DAM,DBM,DAL,DBL)を、処理対象の区画を表す情報や検出時刻を表す情報、個々の有害ガスセンサ22の設置高さ位置を表す情報と対応付けて記憶部52に記憶させる。なお、このステップ108の処理を行う制御PC46(又は制御PC48)は、有害ガスの濃度を検出する複数の有害ガスセンサ22と共に、本発明に係る検出手段(より詳しくは請求項7に記載の検出手段)に対応している。
【0044】
ステップ110では、ステップ108で処理対象の区画の個々の有害ガスセンサ22から受信した濃度の検出結果に基づき、有害ガスセンサ22によって濃度が検出された複数種の有害ガスの中に、処理対象の区画における濃度が所定濃度以上の有害ガスが存在しているか否か判定する。なお、上記の所定濃度は有害ガスの種類毎に相違しており、通常時(非火災時)には存在しない有害ガス(例えばシアン化水素等)については所定濃度として0が、通常時(非火災時)にも低濃度で存在している有害ガス(例えば二酸化炭素等)については、所定濃度として通常時(非火災時)における濃度よりも若干高い濃度が設定される。従ってステップ110では、有害ガスが、人体に影響を与える程度以上の濃度で処理対象の区画に存在しているか否かを判定している。
【0045】
ステップ110の判定が否定された場合はステップ114へ移行するが、ステップ110の判定が肯定された場合はステップ112へ移行し、処理対象の区画に所定濃度以上の濃度で存在している有害ガスについて、個々の有害ガスセンサ22から受信した濃度の検出結果に基づき、最小二乗法等を用いて処理対象の区画における高さ方向に沿った有害ガスの濃度の連続的な分布(一例を図4(A),(B)に示す)を推定し、推定した濃度の連続的な分布を記憶部52に記憶した後にステップ114へ移行する。なお、本実施形態では有害ガスセンサ22と高さ報知発光部28の個数及び設置高さ位置を同じとしているので、後述する避難高さは、上記の有害ガスの濃度の連続的な分布を用いることなく、個々の有害ガスセンサ22による濃度の検出結果から直接判定することも可能であり、上記のステップ110,112は省略してもよい。
【0046】
ステップ114では、処理対象の区画に設置された検出報知部12の赤外線カメラ20により、処理対象の区画内に人(在室者)が存在しているか否かを探索させる。ステップ116では、ステップ114の探索によって処理対象の区画内で在室者が発見されたか否か判定する。在室者が発見されなかった場合は判定が否定されてステップ128へ移行するが、在室者が発見された場合はステップ116の判定が肯定されてステップ118へ移行し、発見された在室者の動きを処理対象の区画の赤外線カメラ20によって一定時間監視する。そしてステップ120では、ステップ118における一定時間の監視で在室者の動きが検知されたか否か判定する。在室者の動きが検知された場合は判定が肯定されてステップ122へ移行し、処理対象の区画を在室者有りの区画として記憶部52に記憶した後にステップ128へ移行する。
【0047】
一方、ステップ118で在室者の動きが検知されなかった場合、負傷や火傷を負った等の理由で在室者が避難できない状態に陥っている可能性がある。このため、ステップ120の判定が否定された場合はステップ124へ移行して緊急信号を発信する処理を行う。またステップ126では、動きが検知されなかった在室者(要救護者)に関する情報(例えば要救護者が存在することを報知する情報や要救護者が存在している区画を報知する情報等)を外部ネットワーク50経由で消防署へ送信し、ステップ128へ移行する。
【0048】
ステップ128では、建物の全ての区画について有害ガスの検出や在室者の探索等の処理を行ったか否か判定する。判定が否定された場合はステップ106に戻り、ステップ128の判定が肯定される迄ステップ106〜ステップ128を繰り返す。これにより、建物の全ての区画について有害ガスの検出や在室者の探索等の処理が各々行われる。また、ステップ128の判定が肯定されるとステップ130へ移行し、上述したステップ106〜ステップ128で在室者が1人以上発見されたか否か判定する。在室者が1人も発見されなかった場合は判定が否定されてステップ104に戻る。この場合、ステップ104〜ステップ130が繰り返される。
【0049】
一方、在室者が1人以上発見された場合はステップ130の判定が肯定されてステップ132へ移行し、ステップ132以降で在室者に対する避難誘導を行う。すなわち、まずステップ132では発見された在室者の中から誘導対象の在室者を選択する。なお、誘導対象の在室者としては、先のステップ104で火災中と判定した区画やその区画に近い区画に存在している在室者を優先的に選択することが好ましい。次のステップ134では、まず記憶部52に記憶されている建物属性情報に基づき、誘導対象の在室者が存在している区画から建物の外部へ至る避難経路70(図2参照:図2では避難経路70の一例に符号「70A」「70B」を付して示す)を全て抽出した後に、ステップ104で火災中と判定した区画、及び、人体に影響を与える程度以上の濃度で有害ガスが存在している区画における有害ガスの濃度又はその分布に基づいて、先に抽出した避難経路70の安全度を各々評価し、安全度が最大の避難経路70を誘導対象の在室者に対する避難経路70として決定する。なお、本実施形態では、個々の避難経路70を、誘導対象の在室者が存在している区画から建物の外部へ至る複数の区画の連なりとして扱っている。
【0050】
ステップ136では、ステップ134で決定した誘導対象の在室者に対する避難経路70の安全度を所定値と比較することで、誘導対象の在室者について安全度が所定値以上の避難経路70が存在しているか否か判定する。判定が肯定された場合はステップ138へ移行し、ステップ134で決定した避難経路70上の各区画について、有害ガスの濃度又はその分布に基づき最適な避難高さ位置を各々判定する。
【0051】
なお、本実施形態では、互いに異なる高さ位置に設置された3個の高さ報知発光部28の何れかを発光させることで最適な避難高さ位置を報知する構成であるので、最適な避難高さ位置の判定は、高さ報知発光部28の3種類の設置高さ位置の中から最適な避難高さ位置を選択することによって成される。また、避難経路70上の各区画のうち、複数種の有害ガスの何れの濃度も人体に影響を与える程度の濃度に達していない区画については、高さ報知発光部28の3種類の設置高さ位置のうちの最も高い高さ位置(例えば避難者が歩行するときの頭部の標準的な高さ)が最適な避難高さ位置として選択される。また、人体に影響を与える程度以上の濃度で有害ガスが存在している区画については、以下のようにして最適な避難高さ位置が判定される。
【0052】
すなわち、人体に影響を与える程度以上の濃度で有害ガスが存在している区画のうち、人体に影響を与える程度以上の濃度で存在している有害ガス(高濃度有害ガス)が1種類のみの区画については、例として図4(A)に示すように、高さ報知発光部28(有害ガスセンサ22)の3種類の高さ位置のうち、前記区画の対応する高さ位置の有害ガスセンサ22によって検出された前記高濃度有害の濃度が、前記高濃度有害ガスに対して予め設定された閾値濃度(この閾値濃度としては、例えば前記高濃度有害ガスの致死濃度の数十%程度の値を適用することができる)よりも小さく、かつ最も高い高さ位置を、最適な避難高さ位置として判定することができる。例えば図4(A)に示す例では、各高さ位置における有害ガスの濃度が何れも閾値濃度thよりも低いので、高さ位置「高」が最適な避難高さ位置として選択される。なお、上記処理は請求項8記載の発明に対応している。
【0053】
また、例として図4(B)に示すように高濃度有害ガスが複数種検出された区画(なお図4(B)では有害ガスA,Bが検出された例を示す)については、まず、検出された個々の高濃度有害ガスについて、高さ報知発光部28(有害ガスセンサ22)の3種類の高さ位置における濃度を、個々の高濃度有害ガスに対して予め設定された閾値濃度で各々除算することで、各高さ位置における個々の高濃度有害ガス毎の危険度dを算出する(図4(C)も参照)。次に、各高さ位置について、個々の高濃度有害ガス毎の危険度dの最大値を選択する。そして、各高さ位置のうち、選択した危険度dの最大値が最も小さい高さ位置を、最適な避難高さ位置として判定する。
【0054】
例えば図4(C)に示す例では、高さ位置「高」については有害ガスAの危険度dAHと有害ガスBの危険度dBHのうちより値の高い有害ガスAの危険度dAHが選択され、高さ位置「中」については有害ガスAの危険度dAMと有害ガスBの危険度dBMのうちより値の高い有害ガスAの危険度dAMが選択され、高さ位置「低」については有害ガスAの危険度dALと有害ガスBの危険度dBLのうちより値の高い有害ガスBの危険度dBLが選択される。そして、各高さ位置について選択した危険度dAH,dAM,dBLのうちの最小値は危険度dAMであるので、対応する高さ位置「中」が最適な避難高さ位置として選択される。なお、上記処理は請求項9記載の発明に対応している。
【0055】
次のステップ140では、避難経路70上の各区画に対し、ステップ138で判定した避難高さ位置に応じて高さ報知発光部28を各々発光させる。これにより、判定した避難高さ位置が「高」の区画については、図5(A)に示すように設置高さが最も高い高さ報知発光部28が発光され、当該区画を通って避難する避難者は、高さ報知発光部28によって報知された避難高さ位置に従い、例えば歩行しながら前記区画を通過することになる。また、判定した避難高さ位置が「中」の区画については、図5(B)に示すように設置高さが2番目の高さの高さ報知発光部28が発光され、当該区画を通って避難する避難者は、高さ報知発光部28によって報知された避難高さ位置に従い、例えば中腰で移動しながら前記区画を通過することになる。また、判定した避難高さ位置が「低」の区画については、図5(C)に示すように設置高さが最も低い高さ報知発光部28が発光され、当該区画を通って避難する避難者は、高さ報知発光部28によって報知された避難高さ位置に従い、例えば這って移動しながら前記区画を通過することになる。従って、避難経路70の途中に人体に影響を与える程度以上の濃度で有害ガスが存在している区画が有る場合にも、当該区画を避難者が安全に通過することが可能となり、避難者の安全性を向上させることができる。
【0056】
なお、上述したステップ138,140の処理を行う制御PC46(又は制御PC48)は、避難高さ位置を避難者へ報知する複数の高さ報知発光部28と共に、本発明に係る報知手段(より詳しくは請求項2,8,9に記載の報知手段)に対応している。
【0057】
次のステップ142では、避難経路70上の各区画において、先のステップ134で決定した避難経路70に沿った移動方向が方向報知発光部32によって避難者に明示されると共に、前記避難経路70に沿った出口が出口報知発光部34によって避難者に明示されるように、避難経路70上の各区画の方向報知発光部32及び出口報知発光部34の発光を制御する。これにより、誘導対象の在室者は、避難経路70上の各区画の方向報知発光部32及び出口報知発光部34により、誤って避難経路70から逸脱することなく誘導される。なお、ステップ142の処理を行う制御PC46(又は制御PC48)は、方向報知発光部32及び出口報知発光部34と共に請求項3に記載の報知手段に対応しており、方向報知発光部32及び出口報知発光部34は請求項4に記載の方向報知用発光部に対応している。
【0058】
次のステップ144では、先のステップ106〜ステップ128で発見した全ての在室者に対して避難誘導(ステップ132〜ステップ142の処理)を行ったか否か判定する。判定が否定された場合はステップ132に戻り、ステップ144の判定が肯定される迄ステップ132〜ステップ144を繰り返す。これにより、避難誘導システム10が設置された建物内に存在している全ての在室者に対して上述した避難誘導が行われる。なお、ステップ132〜ステップ144において、或る在室者の避難経路70上の各区画のうち、別の在室者に対する避難誘導において既に高さ報知発光部28、方向報知発光部32及び出口報知発光部34の発光が制御された区画に対しては、ステップ138〜ステップ142の処理は省略される。また、建物内に存在している何れかの在室者に対する避難誘導において、先のステップ136の判定が否定された場合、当該在室者は避難が困難な状態と判断できるので、ステップ124へ移行し、前述したステップ124,126の処理が行われる。
【0059】
全ての在室者に対する避難誘導を行うと、ステップ144の判定が肯定されてステップ146へ移行し、全ての在室者(避難者)の避難が完了して建物内に人が存在しない状態となったか否か判定する。判定が否定された場合はステップ104に戻り、ステップ146の判定が肯定される迄ステップ104〜ステップ146を繰り返す。これにより、火災の進行に伴って個々の避難者の最適な避難経路70が変化した場合には、ステップ134で決定される避難経路70も変化することで、個々の避難者は各時点における安全度が最も高い避難経路70に誘導される。また、火災の進行に伴って各区画における有害ガスの濃度や種類等の分布状態が変化した場合には、ステップ138で各区画毎に判定される避難高さ位置も、その時点での有害ガスの濃度や種類等の分布状態に応じて変化し、これに伴い報知発光部28によって報知される避難高さ位置も切り替わることで、避難者は、各区画における有害ガスの分布状態の変化に拘わらず、各区画を安全に通過することができる。そして、全ての避難者の避難が完了すると、ステップ146の判定が肯定されて火災時処理を終了する。
【0060】
また、本実施形態に係る避難誘導システム10は、避難誘導システム10が設置された建物に部外者が侵入することを抑止すると共に、侵入された場合にこれを検知して通報・警告することで物品が盗難されることを抑止する防犯機能も備えており、正規の利用者によって防犯モードがオンされると、制御PC46は、CPUが防犯モード時プログラムを実行することで、図6に示す防犯モード時処理を行う。
【0061】
この防犯モード処理では、まずステップ150において、避難誘導システム10が設置された建物内の各区画において、予め設定した高さ位置に応じて高さ報知発光部28を各々発光させる。防犯モードでの高さ報知発光部28の発光は、建物への侵入を企てている部外者に対して防犯設備が整っていることを明示することで侵入を諦めさせることと、侵入者を検知することを目的としており、例えば全ての高さ報知発光部28を発光させてもよいし、高さ位置「中」及び「高」の高さ報知発光部28を発光させてもよい。
【0062】
次のステップ152では、建物内の各区画の高さ報知受光部30の中に、高さ報知発光部28からの光の受光が途切れた高さ報知受光部30が出現したか否か判定する。判定が否定された場合はステップ162へ移行し、正規の利用者によって防犯モードが解除されたか否か判定する。この判定も否定された場合はステップ152に戻り、何れかの判定が肯定される迄ステップ152,162を繰り返す。
【0063】
部外者が建物内に侵入し、建物内を移動すると、発光中の高さ報知受光部30から射出された光が侵入者によって遮られ、これに伴って高さ報知受光部30の受光が途切れることになる。このため、ステップ152の判定が肯定された場合、建物内に部外者が侵入した可能性が高いと判断できるので、ステップ154へ移行し、受光が途切れた高さ報知受光部30と同一の区画に設けられた赤外線カメラ20によって侵入者の探索を行わせる。次のステップ156では、ステップ154の探索によって侵入者が発見されたか否か判定する。
【0064】
判定が否定された場合はステップ162へ移行するが、ステップ156の判定が肯定された場合はステップ158へ移行し、例えば火災報知器18等によって警報音を発生させることで侵入者に警告する。そしてステップ160では、部外者が建物内に侵入したことを外部ネットワーク50経由で外部(例えば警備会社や警察署等)へ通報する。これにより、建物内から物品が盗難されることを抑止することができる。
【0065】
なお、上記では有害ガスセンサ22と高さ報知発光部28の個数及び設置高さ位置を同じとし、個々の有害ガスセンサ22によって検出された有害ガスの濃度から避難高さ位置を直接判定する態様を説明したが、有害ガスセンサ22と高さ報知発光部28の設置高さ位置は相違させてもよく、この場合は、図3のステップ112で推定した有害ガスの濃度の連続的な分布を用いて高さ報知発光部28の設置高さ位置における有害ガスの濃度を求め、求めた有害ガスの濃度から避難高さ位置を求めればよい。また、有害ガスの濃度の連続的な分布を用いることに代えて、有害ガスセンサ22によって検出された有害ガスの濃度から、高さ報知発光部28の設置高さ位置における有害ガスの濃度を補間演算によって求めることも可能である。
【0066】
また、上記では複数個の高さ報知発光部28の設置高さ位置の中から避難高さ位置を選択する態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば高さ報知発光部が、上記実施形態における出口報知発光部34のように、例えばLED等から成る複数個の発光素子が一列に配列された構成であれば、高さ報知発光部28が報知可能な避難高さ位置の変化幅が非常に小さくなるので、上述した有害ガスの濃度の連続的な分布に基づき、有害ガスの濃度が最小となる高さ位置、又は、有害ガスの濃度から求めた各有害ガスの危険度dの各高さ位置における最大値が最小となる高さ位置(例えば図4(C)の例では有害ガスAの危険度dAの曲線と有害ガスBの危険度dBの曲線の交点に相当する高さ位置)を、最適な避難高さ位置として求め、求めた最適な避難高さ位置を上記構成の高さ報知発光部によって報知するようにしてもよい。
【0067】
また、上記では避難高さを光によって報知する態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、避難高さを報知する音声を再生することで避難者に避難高さを報知する構成を採用してもよい。また避難方向についても、光によって報知することに代えて、避難方向を案内する音声を再生することで避難者に避難方向を報知する構成を採用してもよい。
【0068】
また、上記では火災が発生した際を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば事故等により特定の有害物質が漏出する恐れが有る工場等に本発明に係る避難誘導装置を設置し、特定の有害物質が漏出した場合の避難者の誘導に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 避難誘導システム
12 検出報知部
22 有害ガスセンサ
24 誘導表示部
28 高さ報知発光部
32 方向報知発光部
34 出口報知発光部
40 蓄電池
46 制御PC
48 制御PC
52 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
避難経路上の空間における高さ方向に沿った有害物質の分布状態を検出する検出手段と、
前記検出手段によって検出された前記有害物質の分布状態に基づき、前記空間内に分布している有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置を判断し、判断した前記高さ位置を前記空間を通行する避難者へ報知する報知手段と、
を含む避難誘導装置。
【請求項2】
前記報知手段は、互いに高さの異なる複数箇所に各々配置された複数の高さ報知用発光部を備え、当該複数の高さ報知用発光部のうち配置箇所の高さ位置が判断した前記高さ位置に対応する高さ報知用発光部を選択的に発光させることで、前記避難者へ前記高さ位置を報知する請求項1記載の避難誘導装置。
【請求項3】
前記報知手段は、前記避難者を特定方向へ案内するように発光すると共に、配置位置及び発光による案内方向の少なくとも一方が互いに相違された複数の方向報知用発光部を備え、当該複数の方向報知用発光部のうち前記案内方向が個々の方向報知用発光部の配置位置における前記避難経路に沿った方向に一致する方向報知用発光部を発光させることで、前記避難者へ避難方向を報知する請求項1又は請求項2記載の避難誘導装置。
【請求項4】
前記方向報知用発光部は、前記特定方向へ光を射出するか、又は、前記特定方向を明示する図形を発光表示するか、又は、前記特定方向へ向かう出口が発光に伴って明示されるように前記出口の近傍に配置されて構成されている請求項3記載の避難誘導装置。
【請求項5】
前記高さ報知用発光部及び前記方向報知用発光部の少なくとも一方は、黄色又は黄緑色に発光するように構成されている請求項2又は請求項3記載の避難誘導装置。
【請求項6】
避難誘導装置本体が系統電源から供給される電力で作動している期間に、前記系統電源から供給される電力の一部を蓄電すると共に、前記系統電源から前記避難誘導装置本体への電力の供給が遮断されると、蓄電している電力を前記避難誘導装置本体へ供給する蓄電給電手段を更に備えた請求項1〜請求項5の何れか1項記載の避難誘導装置。
【請求項7】
前記検出手段は、前記空間内の互いに高さの異なる複数箇所に各々配置された複数の検出部により、前記有害物質の分布状態として、前記複数の検出部が配置された複数の高さ位置における有害物質の濃度を各々検出する請求項1〜請求項6の何れか1項記載の避難誘導装置。
【請求項8】
前記報知手段は、前記有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置として、前記検出手段によって検出又は推定された前記有害物質の分布状態において前記有害物質の濃度が最小又は最小に近い値となっている高さ位置を判断する請求項1〜請求項7の何れか1項記載の避難誘導装置。
【請求項9】
前記検出部は、複数種の有害物質について各々独立に濃度を検出可能とされ、
前記検出手段は、前記複数種の有害物質について分布状態を各々検出し、
前記報知手段は、前記検出手段によって検出された前記複数種の有害物質の分布状態と、記憶手段に予め記憶された個々の有害物質毎の閾値濃度と、に基づき、高さ方向に沿った危険度の分布を個々の有害物質毎に算出し、前記有害物質が前記空間内の人体へ与える影響がより小さくなる頭部の高さ位置として、高さ方向に沿った各位置のうち個々の有害物質毎の危険度の最大値が最も低い高さ位置を判断する請求項1〜請求項7の何れか1項記載の避難誘導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−8618(P2011−8618A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152750(P2009−152750)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】