説明

還元剤噴射ノズル及び還元剤噴射ノズルを備えた窒素酸化物浄化システム

【課題】還元剤を短い距離で広角に噴射することを実現した還元剤噴射ノズル、及び窒素酸化物の浄化効率を向上しつつ触媒間距離を短くすることを実現した窒素酸化物浄化システムを提供することを目的とする。
【解決手段】還元剤噴射ノズル5はノズル本体11を備えており、ノズル本体11の下方側の端部には、平坦な開口面15及び開口面16が、互いに異なる方向を向くように傾けられた状態で形成されている。また、ノズル本体11の下方側の端部には、開口面15で開口する一対の噴孔21a及び噴孔21bと、開口面16で開口する一対の噴孔22a及び噴孔22bとが形成されている。各噴孔は、噴孔21aから噴射された尿素水と噴孔21bから噴射された尿素水とが衝突可能となるように、且つ噴孔22aから噴射された尿素水と噴孔22bから噴射された尿素水とが衝突可能となるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の排気ガスに添加される還元剤を噴射する還元剤噴射ノズルの構成と、この還元剤噴射ノズルを備えた窒素酸化物浄化システムの構成とに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化する窒素酸化物浄化システムの一例として、尿素水を還元剤として用いる尿素選択還元システム(尿素SCRシステム)が挙げられる。例えば特許文献1に記載されているように、尿素SCRシステムは、排気管に設けられた還元触媒と、還元触媒の上流側に配置され、排気管内に尿素水を噴射する還元剤噴射ノズルとを備えている。還元触媒は、排気管内に噴射された尿素水から生成されるアンモニア(NH)と排気ガスに含まれる窒素酸化物とを反応させ、無害な窒素(N)と水(HO)とに還元することによって窒素酸化物を浄化するものである。また、還元剤噴射ノズルは、還元剤を還元触媒に向かって噴射可能となるように、排気ガスの流れに対して所定の角度傾けられた状態で設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−113688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
還元触媒による窒素酸化物の浄化効率を向上するためには、還元触媒の全面に対して尿素水を均一な分布状態で供給することが必要となる。しかしながら、通常、還元剤噴射ノズルは尿素水を円錐状に噴射するため、尿素水を還元触媒の全面に行き渡らせるためには、尿素水の噴射範囲が十分に広がるように還元剤噴射ノズルと還元触媒との間に距離をとる必要がある。一方、特許文献1にも記載されているように、還元触媒及び還元剤噴射ノズルの上流側には、例えば酸化触媒等、還元触媒とは別の触媒が設けられることが一般的であり、これらの触媒間の距離が長くなると、システム全体が大型化されて車両への搭載性が悪化するという問題や、圧力損失が増大するという問題が生じる。すなわち、特許文献1に記載の還元剤噴射ノズルを用いた場合、窒素酸化物の浄化効率の向上と触媒間の距離の短縮とは相反する事項となるため、これらを両立することが困難であるという問題点を有していた。
【0005】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、還元剤を短い距離で広角に噴射することを実現した還元剤噴射ノズル、及び窒素酸化物の浄化効率を向上しつつ触媒間距離を短くすることを実現した窒素酸化物浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る還元剤噴射ノズルは、複数の噴孔が形成されたノズル本体を備え、複数の噴孔から還元剤を噴射する還元剤噴射ノズルにおいて、ノズル本体には、一方向に沿って配列された一対の噴孔が、一方向に直交する平面に沿って複数箇所に形成されており、一対の噴孔は、一方の噴孔から噴射される還元剤と他方の噴孔から噴射される還元剤とが衝突するように形成されることを特徴とするものである。
【0007】
一対の噴孔のそれぞれから噴射された還元剤同士が衝突すると、衝突した還元剤が扁平な扇状に広がる、いわゆる衝突噴流が発生する。尚、この扇状の衝突噴流は、一対の噴孔が配列された方向に扁平となり、且つこの方向に対して垂直な方向に広がるものとなる。このように還元剤を噴射する一対の噴孔を、その配列方向に対して直交する平面に沿って、すなわち還元剤が扇状に広がる面に沿って複数箇所に形成したので、還元剤の全体的な噴射範囲は、一方向に扁平を保ったまま他方向に広がったものとなる。つまり、同量の還元剤を円錐状に噴射した場合と比較すると、短い距離の範囲内により多くの還元剤を分散させることができる。したがって、還元剤噴射ノズルにおいて、還元剤を短い距離で広角に噴射することが可能となる。
【0008】
ノズル本体は、噴孔が開口するとともに互いに異なる方向を向くように傾けられた複数の開口面を有しており、複数の開口面のそれぞれに、一対の噴孔が1組ずつ配置されてもよい。一対の噴孔のそれぞれから扇状に噴射される還元剤同士に各開口面同士の傾きに応じた角度を付けられるため、より広角に還元剤を噴射することが可能となる。
尚、開口面は二面形成されてもよく、あるいは三面形成されてもよい。開口面の数を増やした場合、同量の還元剤を低い圧力で広範囲に噴射することが可能となる。
【0009】
また、この発明に係る窒素酸化物浄化システムは、内燃機関から排出される排気ガスが流通する排気管と、排気管の内部に還元剤を噴射可能に設けられた、上記の還元剤噴射ノズルと、還元剤噴射ノズルの下流側に配置され、排気ガスと還元剤とを反応させて排気ガスに含まれる窒素酸化物を浄化する還元触媒とを備えたものとして構成される。
【0010】
上述したように、この発明に係る還元剤噴射ノズルは、還元剤を短い距離で広角に噴射可能となっている。つまり、還元剤噴射ノズルと還元触媒とを近接して配置しても、還元触媒の全面における広範囲に還元剤を供給することができるため、還元剤を円錐状に噴射する噴射ノズルのように、還元剤噴射ノズルと還元触媒との間に距離をとることを必要としない。すなわち、例えば還元触媒の上流側に酸化触媒等を設けた場合、これらの触媒間に必要となる距離は還元剤噴射ノズルを設置する分の距離のみとなるため、窒素酸化物の浄化効率を向上しつつ、触媒間の距離を短縮してシステム全体の小型化を図ることや、触媒間における圧力損失の低減を図ることが可能となる。
【0011】
還元触媒は、排気ガスが流通する方向に対して垂直となる方向において、長円状または楕円状の断面形状を有してもよい。還元剤噴射ノズルは、一方向に扁平を保ったまま他方向に広がるように還元剤を噴射するため、その噴射範囲を平面的に見ると長円状または楕円状となる。すなわち、還元剤噴射ノズルから噴射された還元剤がより効率よく還元触媒の全面に供給されるため、窒素酸化物の浄化効率をさらに向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、還元剤噴射ノズルにおいて還元剤を短い距離で広角に噴射すること、及び窒素酸化物浄化システムにおいて窒素酸化物の浄化効率を向上しつつ触媒間距離を短くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る窒素酸化物浄化システムの構成を示す概略図である。
【図2】実施の形態1に係る還元剤噴射ノズルの構成を概略的に示す部分拡大断面図である。
【図3】実施の形態1に係る還元剤噴射ノズルの下方側の端部を示す斜視図である。
【図4】図2のIV−IVに沿った断面図である。
【図5】実施の形態1に係る還元剤噴射ノズルから噴射される還元剤の様子を模式的に示す斜視図である。
【図6】実施の形態1に係る還元剤噴射ノズルによる還元剤の噴射範囲を示す模式図であり、(a)は排気ガスが流通する方向に沿った噴射範囲、(b)は(a)で示される方向に対して直交する方向に沿った噴射範囲を示す。
【図7】この発明の実施の形態2に係る還元剤噴射ノズルの下方側の端部を示す斜視図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る窒素酸化物浄化システムの構成を概略的に示す図であり、(a)における還元触媒の構成を概略的に示す斜視図である。
【図9】この発明のその他の実施の形態に係る窒素酸化物浄化システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、この発明の実施の形態について、添付図に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1に、この実施の形態1に係る窒素酸化物浄化システムを備えたディーゼルエンジンの排気系の構成を概略的に示す。
内燃機関であるディーゼルエンジン1には排気管2が接続されており、ディーゼルエンジン1から排出された排気ガスが、ディーゼルエンジン1側を上流側として排気管2の内部を矢印Aで示される方向に流通する。排気管2の途中には、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)等を酸化するための酸化触媒3が設けられている。また、酸化触媒3の下流側には、排気ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化するための還元触媒であるSCR触媒4が設けられている。
【0015】
SCR触媒4は、排気ガスに添加される還元剤である尿素水から生成されるアンモニア(NH)と排気ガスとを反応させてNOxを浄化する触媒であって、酸化触媒3とSCR触媒4との間には、排気管2の内部に尿素水を噴射する還元剤噴射ノズル5が設けられている。還元剤噴射ノズル5には、尿素水を内部に貯留する尿素水タンク5aと、尿素水タンク5a内の尿素水を還元剤噴射ノズル5に供給する尿素水添加システム5bとが、接続管5cを介して接続されている。尚、酸化触媒3とSCR触媒4との間に位置する排気管2は、これらの触媒とほぼ同一の直径を有しており、排気ガスの流路面積を絞ることなく酸化触媒3とSCR触媒4とを接続している。
【0016】
SCR触媒4の下流側には、排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集するフィルタ6が設けられている。また、フィルタ6の下流側には、例えば排気ガスに含まれるNOxの量に対してアンモニアの量が過剰となった場合等に、未反応のままSCR触媒4を通過したアンモニアを除去するためのスリップ触媒7が設けられている。スリップ触媒7の下流側には図示しないマフラが接続されており、スリップ触媒7を通過した排気ガスは、マフラの内部で排気音を低減されてから大気中に放出される。
【0017】
また、SCR触媒4の上流側及び下流側には、排気ガスに含まれるNOxの量を検知するNOxセンサ8a及びNOxセンサ8bが設けられている。尿素水添加システム5b及びNOxセンサ8a、8bは、ディーゼルエンジン1及び窒素酸化物浄化システムの動作を制御するECU9に電気的に接続されている。ECU9は、NOxセンサ8a、8bが検知したNOxの量に基づいて尿素水の噴射量や噴射時期を決定するとともに、それに基づく信号を尿素水添加システム5bに出力し、還元剤噴射ノズル5による尿素水の噴射を制御する。
【0018】
ここで、還元剤噴射ノズル5の構成について、図2〜4を用いて詳細に説明する。
まず、排気ガスが流通する方向(図1の矢印A参照)における上流側から見た還元剤噴射ノズル5の要部を図2に示す。尚、以下の説明の便宜上、還元剤噴射ノズル5における上下方向を、図2に示す各矢印によって規定する。
図2に示すように、還元剤噴射ノズル5は、排気管2に取り付けられるノズル本体11を備えている。ノズル本体11の内部には、上下方向に沿って延びる還元剤通路11aが形成されており、この還元剤通路11aの内部に尿素水タンク5a(図1参照)からの尿素水が供給されるようになっている。還元剤通路11aの下端部には、下方側に向かってテーパ状に先細りとなるシート部11bが形成されている。シート部11bの下部には、下方側に向かってテーパ状に広がる空間部12が形成されており、シート部11bと空間部12とが連通孔13を介して接続されている。
【0019】
また、還元剤噴射ノズル5は、ノズル本体11の還元剤通路11a内に摺動可能に設けられたニードル弁14を備えている。ニードル弁14は、その下方側の先端部14aによって連通孔13を開閉するための部材であって、ノズル本体11の上部側に設けられた図示しないソレノイドに駆動されることにより、還元剤通路11a内を上下動可能となっている。ニードル弁14を下方側に移動させると、先端部14aがシート部11bに接触することによって連通孔13が閉塞され、還元剤通路11aから空間部12への尿素水の供給が停止される。一方、ニードル弁14を上方側に移動させると、先端部14aがシート部11bから離れることによって連通孔13が開放され、還元剤通路11aから空間部12への尿素水の供給が開始される。
【0020】
以上のように構成される還元剤噴射ノズル5において、ノズル本体11の下方側の端部には、平坦な2つの開口面15及び開口面16が、互いに異なる方向を向くように角度α傾けられた状態で形成されており、これらの開口面15、16が排気管2の内部に露出している。また、ノズル本体11の下方側の端部には、図3に示されるように、開口面15で開口する一対の噴孔21a及び噴孔21bと、開口面16で開口する一対の噴孔22a及び噴孔22bとが形成されており、これらの噴孔が空間部12と排気管2の内部とを連通している。つまり、還元剤噴射ノズル5(図2参照)は、ニードル弁14を上方側に移動させて連通孔13を開放することによって還元剤通路11aと空間部12とを連通させ、空間部12内に供給された尿素水を各噴孔21a、21b、22a、22bから噴射するものである。
【0021】
開口面15で開口する一対の噴孔21a及び噴孔21bは、図3の矢印Aで示される方向、すなわち排気管2の内部を排気ガスが流通する方向に沿って配列されている。同様に、開口面16で開口する一対の噴孔22a及び噴孔22bも、図3の矢印Aで示される方向に沿って配列されている。また、噴孔21a及び噴孔21bからなる噴孔の対と、噴孔22a及び噴孔22bからなる噴孔の対とは、矢印Aで示される方向に対して直交する平面上の方向(矢印B参照)に沿って配置されている。つまり、還元剤噴射ノズル5は、一方向(矢印A参照)に沿って配列された一対の噴孔21a、21b及び一対の噴孔22a、22bを、矢印Bを含む、一方向に直交する平面に沿った二箇所に形成したものとなっている。尚、図3の矢印Bで示される方向は、SCR触媒4の上流側の端面4a(図1参照)が延在する方向に一致している。
【0022】
図4に示すように、開口面15で開口する一対の噴孔21a及び噴孔21bは、これらがV字状をなすように互いに傾けられた状態で形成されており、一方の噴孔21aから噴射された尿素水と他方の噴孔21bから噴射された尿素水とが噴射直後に衝突するようになっている。また、図示はしないが、開口面16で開口する一対の噴孔22a及び噴孔22bも、噴孔21a及び噴孔21bと同様に互いに傾けられた状態で形成されており、噴孔22aから噴射された尿素水と噴孔22bから噴射された尿素水とが衝突するようになっている。
【0023】
次に、この発明の実施の形態1に係る窒素酸化物浄化システム及び還元剤噴射ノズル5の動作について説明する。
図1に示すように、ディーゼルエンジン1の運転が開始されると、排気管2の内部に排出された排気ガスが矢印Aで示される方向に流通して酸化触媒3を通過し、排気ガスに含まれる一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)等が酸化触媒3によって酸化されると同時に、一酸化窒素(NO)の一部が二酸化窒素(NO2)に酸化される。また、ディーゼルエンジン1の運転が開始されると、還元剤噴射ノズル5を開弁させるための信号がECU9から尿素水添加システム5bに出力される。
【0024】
還元剤噴射ノズル5を開弁させるための信号がECU9から出力されると、図2に示すように、ニードル弁14が図示しないソレノイドに駆動されることによって上方側に移動する。ニードル弁14が上方側に移動すると、その先端部14aがシート部11bから離れることによって連通孔13が開放され、還元剤通路11aから空間部12内への尿素水の供給が開始される。空間部12内に供給された尿素水は、ノズル本体11の先端部に形成された噴孔21a、21b、22a、22b(図3参照)から排気管2の内部に噴射される。
【0025】
ここで、図4に示すように、一対の噴孔21a及び噴孔21bは、V字状となるように互いに傾けられた状態で形成されており、これらの噴孔から噴射された尿素水同士が衝突するようになっている。このような場合、図5に概略的に示すように、噴孔21aから噴射される尿素水F1と噴孔21bから噴射される尿素水F2とが衝突後に扁平な扇状となって広がる、いわゆる衝突噴流F3が発生する。尚、この扇状の衝突噴流F3は、一対の噴孔21a、21bが配列された方向(図3、4の矢印A参照)に扁平となり、且つこの方向に対して垂直な方向(図3の矢印B参照)に広がるものとなる。また、この扇状の衝突噴流Fは、開口面16で開口する一対の噴孔22a及び噴孔22b側においても同様に発生する。
【0026】
また、図3に示すように、一対の噴孔21a及び噴孔21bと一対の噴孔22a及び噴孔22bとは、互いに対となる噴孔同士が配列されている方向、すなわち排気ガスが流通する方向(矢印A参照)に対して直交する方向(矢印B参照)に沿って配置されている。つまり、図6(a)に示されるように、還元剤噴射ノズル5による尿素水Fの噴射範囲は、排気ガスが流通する方向(矢印A参照)に厚くなることがなく扁平を保ったままとなる。したがって、酸化触媒3とSCR触媒4との間に必要となる距離Lは、還元剤噴射ノズル5を設置する分のみとなるため、窒素酸化物浄化システム全体を小型化すること、及び酸化触媒3とSCR触媒4との間における圧力損失を低減することが可能となっている。
【0027】
一方、図6(b)に示されるように、排気ガスが流通する方向(図6(a)の矢印A参照)に対して直交する方向(矢印B参照)において、噴孔21a及び噴孔21bから噴射される尿素水F3と、噴孔22a及び噴孔22bから噴射される尿素水F3とは、それぞれ扇状に広がるようになっている。さらに、噴孔21a、21bが開口する開口面15と、噴孔22a、22bが開口する開口面16とは、互いに異なる方向を向くように角度α(図2参照)傾けられており、2つの扇状の噴射範囲にも角度αの傾きが生じるため、SCR触媒4の端面4aに対し、尿素水Fをより広角に噴射することが可能となっている。
【0028】
図1に戻って、以上のように還元剤噴射ノズル5から噴射された尿素水から生成されたアンモニアがSCR触媒4に供給されると、SCR触媒4はアンモニアと排気ガスとを反応させ、排気ガスに含まれるNOxを無害な窒素(N)と水(HO)とに還元する。SCR触媒4を通過した排気ガスはフィルタ6を通過し、その際に排気ガスに含まれる粒子状物質が除去される。また、フィルタ6を通過した排気ガスに余剰分となるアンモニアが含まれている場合、余剰分のアンモニアはスリップ触媒7によって除去される。スリップ触媒7を通過した排気ガスは、図示しないマフラの内部で騒音を低減され、大気中に放出される。尚、NOxセンサ8a、8bは、SCR触媒4の上流側及び下流側におけるNOxの濃度を随時検知しており、ECU9は、これらのNOxセンサが検知したNOxの濃度に基づいて、還元剤噴射ノズル5による尿素水の噴射量を制御する。
【0029】
以上に述べたように、扇状の衝突噴流をそれぞれ生じさせる一対の噴孔21a、21b及び一対の噴孔22a、22bを還元剤噴射ノズル5のノズル本体11に形成したので、尿素水の全体的な噴射範囲を、矢印Aで示される方向に扁平を保ったまま矢印Bで示される方向に広がったものとすることができる。つまり、同量の尿素水を円錐状に噴射した場合と比較すると、短い距離の範囲内により多くの尿素水を分散させることができる。したがって、還元剤噴射ノズル5において、還元剤を短い距離で広角に噴射することが可能となる。
【0030】
また、ノズル本体11に、噴孔21a、21bが開口する開口面15と、噴孔22a、22bが開口する開口面16とを形成し、これらの開口面15、16が互いに異なる方向を向くように角度α傾けたので、噴孔22a、22bからの扇状の噴射と、噴孔22a、22bからの扇状の噴射との間にも角度αの傾きが生じ、尿素水をより広角に噴射することが可能となる。
【0031】
尚、上述したように、還元剤噴射ノズル5は、尿素水を短い距離で広角に噴射可能となっているため、SCR触媒4と還元剤噴射ノズル5とを近接して配置しても、SCR触媒4の全面における広範囲に尿素水を供給することができる。したがって、酸化触媒3とSCR触媒4との間に必要となる距離Lは、還元剤噴射ノズル5を設置する分のみとなるため、NOxの浄化効率を向上しつつ、これらの触媒間の距離Lを短縮してシステム全体の小型化を図ることや、触媒間における圧力損失の低減を図ることが可能となる。
また、ノズル本体11に形成される噴孔の数を複数(本実施の形態では4つの噴孔21a、21b、22a、22b)としたため、同量の還元剤を単一の噴孔から噴射する場合と比較すると、噴射圧を下げること及びより均一に噴射することが可能となる。
【0032】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係る還元剤噴射ノズルについて説明する。
この実施の形態2に係る還元剤噴射ノズルは、実施の形態1に係る還元剤噴射ノズルでは噴孔が開口する開口面が二面形成されていたのに対し、開口面を三面形成するように構成したものである。尚、以下に説明する各実施の形態において、図1〜6の参照符号と同一の符号は同一または同様な構成要素であるので、その詳細な説明は省略する。
【0033】
図7に示すように、還元剤噴射ノズル31におけるノズル本体32の下方側の端部には、平坦な3つの開口面33〜35が形成されている。これらの開口面33〜35のうち、両端部にある開口面33、34は、実施の形態1における開口面15、16と同様に角度α傾けられた状態(図2参照)で形成されており、これらが交差する部位を平坦にすることにより、中央にある開口面35が形成されている。また、ノズル本体32の下部には、開口面33で開口する一対の噴孔41a、41b、開口面34で開口する一対の噴孔42a、42b、及び開口面35で開口する一対の噴孔43a、43bがそれぞれ形成されている。各開口面33〜35で開口する噴孔の対は、実施の形態1と同様に、一方の噴孔から噴射される尿素水と他方の噴孔から噴射される尿素水とが衝突するように形成されている。その他の構成については、実施の形態1と同様である。
【0034】
以上のように、還元剤噴射ノズル31のノズル本体32に3つの開口面33〜35を形成しても、実施の形態1における還元剤噴射ノズル5と同様の効果を得ることができる。さらに、還元剤噴射ノズル31のように開口面の数を増やした場合、各噴孔から尿素水を噴射するために必要となる圧力が低くなるため、同量の尿素水を少ない数の開口面から噴射する場合と比較して、より低い圧力で広範囲に噴射することが可能となる。
【0035】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3に係る窒素酸化物浄化システムについて説明する。
この実施の形態3に係る窒素酸化物浄化システムは、実施の形態1に係る窒素酸化物浄化システムにおける還元触媒であるSCR触媒4の代わりに、以下に説明するSCR触媒51を用いるように構成したものである。
【0036】
図8(a)に示すように、酸化触媒3の下流側には、排気ガスに含まれるNOxを浄化するためのSCR触媒51が設けられている。図8(b)に示すように、SCR触媒51は、上下方向における寸法D1が酸化触媒3の直径とほぼ同一であり、且つ左右方向における寸法D2が酸化触媒3の直径より大きい長円形の断面形状を有している。また、酸化触媒3とSCR触媒51とは、下流側に向かって広がるテーパ配管部2a(図8(a)参照)を介して接続されており、還元剤噴射ノズル5は、下方側に向かって尿素水を噴射するようにテーパ配管部2aに設けられている。以下の構成については、実施の形態1と同様である。尚、SCR触媒51の断面形状は、上記の寸法D1を短軸とし、寸法D2を長軸とする楕円形とすることも可能である。
【0037】
以上のように、SCR触媒51を用いるように窒素酸化物浄化システムを構成しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、還元剤噴射ノズル5は、一方向に扁平を保ったまま他方向に広がるように尿素水を噴射するため、その噴射範囲を平面的に見ると長円状または楕円状となる。すなわち、還元剤噴射ノズル5から噴射された尿素水がより効率よくSCR触媒51の端面51aに供給されるため、SCR触媒51によるNOxの浄化効率をさらに向上することが可能となる。
【0038】
実施の形態1〜3に係る窒素酸化物浄化システムは、尿素水を還元剤としてSCR触媒によってNOxを浄化する尿素SCRシステムとして構成されたが、尿素SCRシステムに限定するものではない。例えば、排気ガスの空燃費に応じてNOxの吸蔵と浄化とを行うNOx吸蔵還元触媒を備えた浄化システムに適用することも可能であり、この場合の還元剤は軽油となる。
また、実施の形態1〜3に係る窒素酸化物浄化システムでは、酸化触媒の下流側直後にSCR触媒を設けたが、触媒の配置順序を限定するものではない。例えば図9に示すように、酸化触媒3とSCR触媒4との間にフィルタ6を設け、SCR触媒4の上流側に還元剤噴射ノズル5を配置することも可能である。この倍芋、フィルタ6と還元剤噴射ノズル4との間の距離が短縮されるため、実施の形態1〜3と同様にシステム全体の小型化を図ることが可能となる。
また、実施の形態1〜3に係る還元剤噴射ノズルは、その噴射範囲が排気ガスの流通方向に対して垂直となる平面に沿って厚くなることなく扁平を保つように設けられたが、排気ガスの流通方向に対して垂直でない平面に沿って厚くなることなく扁平を保つように設けることも可能である。例えば、還元剤の噴射範囲を傾けてSCR触媒側に向かって噴射することも可能であり、また、排気管内に別途設けた分散部材やいわゆるミキサー、スワラー等に還元剤を当てるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 内燃機関、2 排気管、4,51 SCR触媒(還元触媒)、5,31 還元剤噴射ノズル、11,32 ノズル本体、15,16,33,34,35 開口面、21a,21b,22a,22b,41a,41b,42a,42b,43a,43b 噴孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の噴孔が形成されたノズル本体を備え、前記複数の噴孔から還元剤を噴射する還元剤噴射ノズルにおいて、
前記ノズル本体には、一方向に沿って配列された一対の噴孔が、前記一方向に直交する平面に沿って複数箇所に形成されており、
前記一対の噴孔は、一方の噴孔から噴射される前記還元剤と他方の噴孔から噴射される前記還元剤とが衝突するように形成されることを特徴とする還元剤噴射ノズル。
【請求項2】
前記ノズル本体は、前記噴孔が開口するとともに互いに異なる方向を向くように傾けられた複数の開口面を有しており、
前記複数の開口面のそれぞれに、前記一対の噴孔が1組ずつ配置される請求項1に記載の還元剤噴射ノズル。
【請求項3】
前記開口面が二面形成される請求項2に記載の還元剤噴射ノズル。
【請求項4】
前記開口面が三面形成される請求項2に記載の還元剤噴射ノズル。
【請求項5】
内燃機関から排出される排気ガスが流通する排気管と、
前記排気管の内部に前記還元剤を噴射可能に設けられた、請求項1〜4のいずれか一項に記載の還元剤噴射ノズルと、
前記還元剤噴射ノズルの下流側に配置され、前記排気ガスと前記還元剤とを反応させて前記排気ガスに含まれる窒素酸化物を浄化する還元触媒と
を備えた窒素酸化物浄化システム。
【請求項6】
前記還元触媒は、前記排気ガスが流通する方向に対して垂直となる方向において、長円状または楕円状の断面形状を有する請求項5に記載の窒素酸化物浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−2336(P2013−2336A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133296(P2011−133296)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】