説明

還元極,作動極,色素増感太陽電池,コバール部品

【課題】低コストで性能のよい色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】色素増感太陽電池は、ヨウ素の酸化還元反応により光電変換を行っており、このヨウ素を還元する触媒として白金が有効であり、実用されている。しかし白金は非常に高価であるため、白金単体により電極を構成すると製造コストが増大してしまう。そこで、メッキ、真空蒸着、又はスパッタ等の手法により、白金と密着性のよいチタンに白金の薄膜層(2μm以下)を形成したものを還元極13とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元極,作動極,色素増感太陽電池,コバール部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、シリコン半導体のp−n接合による太陽電池とは異なるメカニズムによって作動し、変換効率が高く、コストが低いという利点がある。
【0003】
この太陽電池の一般的なセル内部には、図2に示すように、電解液15が封入されている。
【0004】
図2では、太陽光が照射されるガラス基材21に透明導電層22が接続して電極を構成している。この透明導電層22は樹脂などの封止剤23により、半導体層24と接続し、透明導電層22、封止剤23、及び半導体層24が形成する空間に電解液25を保持している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−173680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記太陽電池の構成では、両極間を樹脂などの封止剤23で固定しているのみなので、
(1)両極の接着強度が弱い。
(2)電解液25と封止剤23が直接接触するので電解液の溶媒が揮発してしまう。
(3)電解液25の腐食性により封止剤23が劣化し、結果として電解液25が漏れ出してしまう。
などの問題がある。したがって、長期的に安定な状態を保つことが困難である。
【0006】
また、電解液25は腐食性を有するので、銅や金などの導電材料を用いることができず、透明導電ガラス上に白金を蒸着したものを還元層として用いている。したがって、両極ともガラス基材を用いることとなり、結果として封止技術が制限されてしまう。
【0007】
また、光電変換した電流を効率よく外部に出力するためには、透明導電層の面抵抗を下げる必要がある。しかし面抵抗を下げるために成膜厚を厚くすると、透過する太陽光が減少してしまい、これらはいわゆるトレードオフの関係にある。受光面積を大きくして透過する太陽光を増加させる場合には、図3に示すように集積線31が必要となる。しかし、電解質には腐食性があるため、ガラス等の保護材32で集積線31を保護する必要があり、受光の有効面積が減少してしまう。
【0008】
そこで、上記課題を解決可能な、太陽電池における電解液封止技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いる還元極であって、チタン表面に白金成膜をしてなることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いる還元極であって、ステンレス表面に白金成膜をしてなることを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いる作動極であって、ガラス基材上に耐電解液性を有するチタン格子を形成した後に、該ガラス基材上に透明導電膜を成膜してなることを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、前記チタン格子は、前記ガラス基材に彫り込みを作成し、該チタン格子に50μm以上の膜厚を確保することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いるセルの封止にYAGレーザー溶接を用いたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いるコバール部品であって、コバール側の最外周部のガラス溶着界面付近にV字溝を彫り込んだことを特徴とする。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いるコバール部品であって、レーザー溶接部付近のつばを厚くしたことを特徴とする。
【0016】
また、請求項8に記載の発明は、色素増感太陽電池に用いるコバール部品であって、レーザー溶接部付近のつばに溝を彫り込んだことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1、2に記載の発明によれば、電解液による腐食を生じさせないセル構成を低コストで提供することが可能である。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、作動極の面抵抗が低減し、エネルギー変換効率が向上する。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、チタン格子の厚さを厚くすることが可能であり、作動極の面抵抗が低減し、エネルギー変換効率が向上する。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、溶接歪みの低減が可能となり、コストを低減することが可能となる。
【0021】
請求項6、7、8に記載の発明によれば、セル封止を目的としたレーザー溶接時の応力が緩和され、歩留まりを向上することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(実施形態1)
色素増感太陽電池は、ヨウ素の酸化還元反応により光電変換を行っており、このヨウ素を還元する触媒として白金が有効であり、実用されている。
【0023】
しかし白金は非常に高価であるため、白金単体により電極を構成すると製造コストが増大してしまう。そこで、メッキ、真空蒸着、又はスパッタ等の手法により、白金と密着性のよいチタンに白金の薄膜層(2μm以下)を形成したものを還元極とした。
【0024】
この電極の腐食速度を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、チタンに白金の薄膜層を形成した電極は、白金単体からなる電極と同様の耐腐食性を示した。
【0027】
したがって、チタンに白金の薄膜層を形成した電極を用いることで、低コストで、白金単体からなる電極と同様の耐食性を有する電極を提供することが可能である。
【0028】
(実施形態2)
色素増感太陽電池は、ヨウ素の酸化還元反応により光電変換を行っており、このヨウ素を還元する触媒として白金が有効であり、用いられている。
【0029】
しかし白金は非常に高価であるため、白金単体により電極を構成すると製造コストが増大してしまう。そこで、ステンレスにパルス電源を用いて白金めっき(2μm以下)をしたものを還元極とした。
【0030】
この電極の腐食速度を表1に示す。
【0031】
表1に示すように、ステンレスに白金めっきを形成した電極は、白金単体からなる電極と同様の耐腐食性を示した。
【0032】
したがって、ステンレスに白金めっきを形成した電極を用いることで、低コストで、白金単体からなる電極と同様の耐食性を有する電極を提供することが可能である。
【0033】
(実施形態3)
還元極とセル容器との接続について、チタンは機械加工が比較的困難であるため、還元極は平板チタンに白金を成膜したものを採用した。この電極と、太陽電池を構成するために必要な形状を加工したステンレス部品とをYAG溶接することで太陽電池を組み立てることとし、これまでは不可能とされていた、電解液保護材のない集電線を検討した。
【0034】
(実施例3−1)
受光ガラスでもある作動極の、還元極と対向する面では、光電変換が行われるが、変換した電子を外部に取り出すために透明導電層が成膜されている。しかし、この透明導電層は面抵抗が高いため、電圧損失が大きく、変換効率の低下を引き起こす。そこで、透明導電膜を成膜する前に、直接ガラス基材上に耐電解液性を有するチタン格子を、真空蒸着やスパッタ等により、形成した後に、透明導電膜を成膜して、面抵抗の低減を試みた。
【0035】
この作動極の面抵抗を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、現状の作動極を比べるとシート抵抗が0.4(Ω/cm2)ほど減少した。
【0038】
(実施例3−2)
実施例1のチタン格子の成膜厚さは、電極の短絡を防ぐために電極間距離よりも薄くする必要があり、その距離は効率の面から、50μm以下とする必要がある。このチタン格子の性能をより引き出すために、ガラス基材にレーザー彫刻などで彫り込みを作成し、50μm以上の膜厚を確保することで、抵抗の低減を試みた。
【0039】
この作動極の面抵抗を表2に示す。表2に示すように、現状の作動極を比べるとシート抵抗が0.6(Ω/cm2)ほど減少した。
【0040】
(実施形態4)
従来は電子ビームで溶接して電解液を封止していたが、この技術は高真空を必要とするために、量産性に劣るという問題があった。そこで、大気中での溶接を検討した。
【0041】
(実施例4)
図1に色素増感太陽電池のセル構成(符号15はチタン格子、符号16は出力端子)を示す。コバール11枠付ガラス基板(作動極)12と、ステンレス又はチタン製の金属セル(還元極)13との電極間距離は25μm程度に保持する必要がある。
【0042】
そこで、少ない入熱、且つ、熱影響が局所的で済み、溶接歪みを極力抑えることが可能なYAGレーザー溶接で接合を試みた。
【0043】
この溶接技術を採用することで、ガラス−コバール界面14への応力が緩和されて、この界面での亀裂破壊が減少し、作成速度も向上した。
【0044】
また、コバール付のガラス基板のガラス部に残留している応力には、ばらつきがある。従来のコバール断面形状では、レーザー溶接時に、残留応力の大きいガラス基板はガラス−コバール界面に亀裂が生じ、歩留まりが低下していた。
【0045】
(実施形態5)
コバールの形状解析を行い、レーザー溶接時にガラス−コバール界面で発生する応力を緩和するコバール形状を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
表3に示すように、コバール側の最外周部はガラス溶着部よりも薄いつばを有する構造とし、このつばの最外周部を電子ビーム溶接部とすることで、必要以上の溶接応力を発生させない構造とした。
【0048】
この応力は、上に反る力(最大応力)と下に反る力(最小応力)があるため、最大値、最小値それぞれの絶対値が小さい程好ましい。
【0049】
実施例5−1は、ガラス溶着界面付近にV字溝を彫り込んだものである。この場合には、現状と比較して最大応力の絶対値は、3MPa増加し、最小応力の絶対値は7MPa減少する。また、加工が容易で歩留まりも良いという効果がある。
【0050】
実施例5−2は、レーザー溶接部付近のつばを厚くしたものである。この場合には、現状と比較して最大応力の絶対値は、2MPa減少し、最小応力の絶対値は3MPa減少する。また、他と比較して加工が最も容易で、歩留まりも良いという効果がある。
【0051】
実施例5−3は、レーザー溶接部付近のつばに溝を彫り込んだものである。この場合には、現状と比較して最大応力の絶対値は、4MPa減少し、最小応力の絶対値は4MPa減少する。また、加工は難しいが、応力が最も少ないという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】色素増感太陽電池のセル構成図。
【図2】色素増感太陽電池のセル構成図。
【図3】色素増感太陽電池の集電説明図。
【符号の説明】
【0053】
11…コバール
12…受光面
13…金属セル
14…ガラス−コバール界面
21…ガラス基材
22…透明導電層
23…封止剤
24…半導体層
25…電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素増感太陽電池に用いる還元極であって、
チタン表面に白金成膜をしてなる還元極。
【請求項2】
色素増感太陽電池に用いる還元極であって、
ステンレス表面に白金成膜をしてなる還元極。
【請求項3】
色素増感太陽電池に用いる作動極であって、
ガラス基材上に耐電解液性を有するチタン格子を形成した後に、該ガラス基材上に透明導電膜を成膜してなることを特徴とする作動極。
【請求項4】
前記チタン格子は、前記ガラス基材に彫り込みを作成し、該チタン格子に50μm以上の膜厚を確保することを特徴とする請求項3に記載の作動極。
【請求項5】
色素増感太陽電池に用いるセルの封止にYAGレーザー溶接を用いたことを特徴とする色素増感太陽電池。
【請求項6】
色素増感太陽電池に用いるコバール部品であって、コバール側の最外周部のガラス溶着界面付近にV字溝を彫り込んだことを特徴とするコバール部品。
【請求項7】
色素増感太陽電池に用いるコバール部品であって、レーザー溶接部付近のつばを厚くしたことを特徴とするコバール部品。
【請求項8】
色素増感太陽電池に用いるコバール部品であって、レーザー溶接部付近のつばに溝を彫り込んだことを特徴とするコバール部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−77898(P2008−77898A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−253741(P2006−253741)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】