説明

還元鉄の製造方法

【課題】 転炉スラッジを酸化養生することなく、直接事前処理して含炭成形体とし、これを充填層で対流伝熱により効率良く加熱・還元する方法を提供する。
【解決手段】 酸化鉄系ダスト類、および/または粉鉱石に、炭材ならびにバインダーを加え、混合調湿後にペレット、ブリケットまたは押し出し成型品に成型してなる含炭成型体を、乾燥した後に加熱処理することで還元鉄を製造する方法において、搬送機能を有する火格子上に、乾燥後の含炭成型体を連続的に供給し、該火格子上に10〜100cmの層厚を持つ充填層を形成せしめ、かつ該火格子の搬送機能により該充填層を連続的に下流方向に移動させながら該火格子下部からO2 を含まない燃焼排ガスを、該火格子および該充填層を貫通して上向きに通過させることにより、含炭成型体を連続的に1000〜1350℃に加熱処理して還元鉄とし、該火格子下流側末端に設けた排出部より、還元鉄を連続的に排出することを特徴とする還元鉄の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一貫製鉄所で発生する、非燃焼式ガス処理装置で回収された転炉スラッジを原料とする、還元鉄の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、一貫製鉄所に設置されている酸素上吹き転炉では、吹錬にともなって発生する排ガス中のダスト量は原単位で10kg/t−steelにも達するが、金属鉄と酸化鉄を主成分とし含有鉄分が高いため、湿式集塵法によって回収し鉄源として再利用されるのが普通である。湿式集塵された転炉ダストは、まず、一次沈殿槽で粗粒分を分離した後、微粒分がシックナーに注がれ、シックナー内で微粒の転炉ダストを沈殿させて、濃度が濃くなったものを脱水機で水分が20〜28%に脱水する。脱水物は微粒であるため、この水分レベルでは泥状を呈することから、通常は転炉スラッジと呼ばれている。
【0003】
上記転炉スラッジは泥状を呈し取り扱いが非常に困難であり、鉄源として再利用するためには、何らかの手段を用いて水分量を低下させる必要がある。この目的のため、通常は、特開昭51−10166号公報(特許文献1)に開示しているように、転炉スラッジ中に含まれている10〜20%の金属鉄(M−Fe)と、60〜70%含まれるFeOの酸化発熱を利用した、ヤードでの酸化養生法が採用されている。
【0004】
この酸化養生法は、現在では次のとおり実施されている。すなわち、トラックまたはベルトコンベアで運ばれてくる転炉スラッジを、養生ヤード内に幅2〜3m、高さ2〜3m、長さ20m程度の山にショベルを使って積み上げ、3日程度そのまま養生する。その後、再びショベルを使って、直ぐ横の開きスペースに、天地返しをしながら横持ちし、同サイズの新たな山を築く。この山を3日程度養生した後に、再び、天地返しをしながら横持ちし新たな山を築く。このような作業を4〜5回繰り返した後、冷却するのを待って払い出す。
【0005】
この一連の作業に掛かる期間は、持ち込み水分レベルやシーズンによって変化するが、夏場であればほぼ半月で完了し、25%あった水分は12%程度まで低下し、15%あった金属鉄も5%程度まで低下して、ハンドリング性の良い状態となる。一方、転炉スラッジも酸化養生により水分が低下すれば、もはや泥状ではなくなるため、これを通常転炉微粒ダストと呼ばれている。
【0006】
上記転炉スラッジを鉄源として再利用するに当たっては、水分を下げて転炉微粒ダストにすることの他に、もう一つ留意すべき課題がある。すなわち、転炉ではスクラップを使用しており、スクラップの中には亜鉛メッキ鋼板が混在していることから、この亜鉛が転炉微粒ダストの中に混入してくることになる。転炉でのスクラップ使用比率とスクラップ中の亜鉛含有率によって、転炉微粒ダストの亜鉛濃度は大きく変化するが、通常は0.2〜2.0%程度含有され、亜鉛濃度が低い場合には、焼結原料あるいは高炉用非焼成ペレット原料として再利用できるが、亜鉛濃度が高くなると高炉の炉壁に亜鉛系の付着物を形成させる原因になるため、高炉への装入亜鉛量は厳しく管理されている。従って、亜鉛含有量の高い転炉微粒ダストについては、全量資源化することは困難であり、埋め立て等により余剰分の処分を行わざるを得なかった。
【0007】
このような問題に対処すべく、特開2003−89823号公報(特許文献2)に開示しているように、亜鉛含有量の高い転炉微粒ダストに、その他のダストおよび炭材を混合して成型体とし、回転炉床式還元炉で還元・脱亜鉛処理して還元鉄とした後、高炉で再利用する方法が近年提案され、実用化されている。この従来の回転炉床式還元炉を用いる方法(回転炉床法)を示す設備フローを図6に、回転炉床式還元炉の断面を図7に示す。
【0008】
上記、図6に示すように、回転炉床法によるダスト還元設備としては、転炉微粒ダスト貯槽1、その他ダスト貯槽2、粉コークス貯槽3、バインダー貯槽4からなる原料の備蓄設備がある。さらに、ボールミル5、パンペレタイザー6、乾燥機7からなる原料事前処理設備があり、また、装入装置8、回転炉床式還元炉9、排出スクリユー14があり、これには、排ガス10、ボイラー・レキュペレーター11、集塵機12および煙突13が付随している。符号15は還元鉄クーラー、16は成品ホッパーを示す。また、図7に示す回転炉床17には、バーナー19が配設され、1層に装入された成型体18を輻射伝熱で加熱する構造となっている。
【0009】
上述したような設備において、原料ダスト類を所定割合にて混合し、デイスク型ペレタイザー6にて生ペレットに造粒、乾燥機7にて乾燥した後、回転炉床17上に1層の厚みで装入する。回転炉床17では、1周10分から20分、温度1300℃で還元して排出、ペレットクーラーにて冷却後、成品ホッパー16へと搬送する。炉床上に装入されたペレットは、炉に設けたバーナー19で輻射熱により加熱され、温度の上昇により内装炭材による還元反応が進行し、金属鉄の生成とともに還元された亜鉛はガス化し、系外に排出される。排ガス10中で亜鉛は酸化されて酸化亜鉛となり、排ガス集塵機12により2次
ダストとして回収される。
【0010】
また、特開2003−82418号公報(特許文献3)に開示しているように、湿式集塵されてシックナー沈殿物として集められた転炉ダストを、スラリーの状態で抜き出し、これとその他のダストおよび炭材をスラリー混合槽で混合した後、脱水機で脱水し、その後、押し出し成型機で成型体とし、回転炉床式還元炉で還元・脱亜鉛処理する方法も提案され、実用化されている。
【特許文献1】特開昭51−10166号公報
【特許文献2】特開2003−89823号公報
【特許文献3】特開2003−82418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、転炉スラッジをヤードで酸化養生する際には、ハンドリング性を確保するために、水分を12%程度まで低下させるが、ショベルによる作業であるため均一な混合は困難であり、12%を下回る水分になる部分が必然的に生ずる。酸化養生完了後の転炉ダストは微粒であるため、少々の風でも水分の下がった部分は激しく発塵することから、酸化養生法は環境上問題がある。また、酸化養生中の山からは、絶えず水蒸気が立ち昇っており、景観上も好ましいものではない。また、酸化養生によって、10〜20%あった金属鉄が5%程度にまで再酸化されるわけで、せっかく溶鉱炉で酸化鉄を金属鉄に還元するのに費やされたエネルギーが無駄になるという側面も持つ。また、転炉微粒ダストを回転炉床式還元炉で還元・脱亜鉛処理する際にも、再酸化された部分を再び還元することになり、やはりエネルギーが余計にかかることになる。
【0012】
一方、シックナー沈殿物として集められた転炉ダストを、スラリーの状態で抜き出し、酸化養生することなく、脱水・成型後に回転炉床式還元炉で還元・脱亜鉛処理する方式では、酸化養生ヤードでの環境上の問題も、エネルギーの無駄の問題もなくなることから、非常に優れた処理方式といえる。しかしながら、既存の一貫製鉄所の転炉から発生する大量の転炉ダストは、既存の数多くの脱水機で脱水処理されており、これら多数の脱水機を遊休化してまで、新規の脱水機を備えた回転炉床式還元炉で、転炉ダストの全量を還元・脱亜鉛処理することは、経済的に成立しないと考えられる。つまり、新たに転炉が建設される場合とか、既存の転炉の能力を増強した際の、増強分に見合った転炉ダストを処理する場合などに、適用範囲は限定されると考えられる。
【0013】
また、前述したとおり、回転炉床式還元炉は、高亜鉛ダスト類の再資源化のためには有効なプロセスではあるが、ペレット等の成型体は回転炉床上に1層の厚みで装入され、炉に設けたバーナーで輻射伝熱により加熱される構造であることから、熱効率は決して高いとは言えず、必然的に排ガス量が多くなり、また1層で処理するため、炉床の面積も大きなものにならざるを得ないといった弱点がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述したような問題を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、本発明は、上述の問題点に鑑みなされたものであり、転炉スラッジを酸化養生することなく、直接事前処理して含炭成型体とし、これを充填層で対流伝熱により効率良く加熱・還元する手段を提供することにある。その要旨とするところは、
(1)酸化鉄系ダスト類、および/または粉鉱石に、炭材ならびにバインダーを加え、混合調湿後にペレット、ブリケットまたは押し出し成型品に成型してなる含炭成型体を、乾燥した後に加熱処理することで還元鉄を製造する方法において、搬送機能を有する火格子上に、乾燥後の含炭成型体を連続的に供給し、該火格子上に10〜100cmの層厚を持つ充填層を形成せしめ、かつ該火格子の搬送機能により該充填層を連続的に下流方向に移動させながら該火格子下部からO2 を含まない燃焼排ガスを、該火格子および該充填層を貫通して上向きに通過させることにより、含炭成型体を連続的に1000〜1350℃に加熱処理して還元鉄とし、火格子下流側末端に設けた排出部より、還元鉄を連続的に排出することを特徴とする還元鉄の製造方法。
【0015】
(2)含炭成型体の火格子上での滞留時間をTとする時、含炭成型体を該火格子上で加熱開始した時点から0.1〜0.3Tの間、および加熱終了前0.1〜0.3Tの間は、O2 を含まない燃焼排ガスを用いて含炭成型体の充填層を1000〜1350℃に加熱し、一方、中間の0.8〜0.4Tの間は、O2 を含まない燃焼排ガスと予熱空気の混合ガスを用いて、含炭成型体の表面より発生するCOを燃焼させることにより、該充填層を1000〜1350℃に加熱することを特徴とする請求項1記載の還元鉄の製造方法。
【0016】
(3)転炉で湿式集塵法によって回収された、20〜28重量%の水分を持つ転炉スラッジに、還元剤としての炭材と、水分調整剤としての生石灰と、バインダーとしてのコーンスターチおよびベントナイトを添加して混合した後、押し出し成型機により含炭成型体に成型し、次いで、該含炭成型体を、O2 を含まない燃焼排ガス、または余熱したN2 ガス、またはN2 雰囲気の外部加熱により水分1%以下まで乾燥する際、バインダーの添加量を調整することで、該含炭成型体の乾燥後強度を5kg/cm2 以上とした、請求項1または2記載の方法によって還元処理することを特徴とする、転炉スラッジを原料にした
還元鉄の製造方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれか1で製造した還元鉄を、水中に投入して冷却した後、水中から取り出し、O2 を含まない燃焼排ガス、または予熱したN2 ガス、またはN2雰囲気の外部加熱により水分0.3%以下にまで乾燥することを特徴とする、還元鉄の製造方法にある。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明により以下の効果を奏するものである。
(1)転炉スラッジを直接処理して還元鉄とすることで、ヤードでの酸化養生作業が不要となることから、環境上の問題が解消される。
(2)転炉スラッジの粒度分布は、0.8ミクロン以下が約50%も存在する極めて微粒なものであることから、低温での還元・脱亜鉛が可能であり、その際、10〜20%含有する金属鉄をそのまま利用することができる。
【0018】
(3)搬送機能を備えた火格子により、火格子上の成型体が撹拌されること、および、O2 を含まない燃焼排ガスを用いて、加熱・還元処理を行うと、成型体の表面の極薄い領域だけが再酸化されマグネタイトに変化すること、の二つの作用が相俟って、成型体の還元が進んでも成型体同士の固着が抑制される。従って、高層厚の充填層を採用することができる。
(4)成型体の表面が再酸化されることで、還元鉄の金属化率は低下するが、もともと10〜20%の金属鉄を含有していることから、最終的なグロスの金属化率を高く維持することができる。
【0019】
(5)高層厚の充填層とすることで、回転炉床式還元炉に比べて、炉床面積を大幅に小さくすることができる。回転炉床式還元炉の装入厚を1層で1cm、本発明の装入厚を25cmとすれば、本発明では回転炉床式還元炉の炉床面積の1/25で済むことになる。(6)高層厚の充填層を貫通する形で加熱ガスを流し、対流伝熱で加熱することから、回転炉床式還元炉で成型体の1層を、バーナーで輻射伝熱により加熱する場合に比べて、熱効率は2倍以上に改善されることから、還元炉の排ガス量を大幅に低減できる。
【0020】
(7)火格子の中間帯で加熱ガスに空気を導入し、成型体から発生するCOを充填層内で燃焼させ、その燃焼熱を充填層に着熱させることで、還元炉の排ガス量を更に低減できる。
(8)還元の完了した粒子状還元鉄は、表面がマグネタイトの皮膜で覆われていることから、水中に投入しても水と高温の金属鉄との反応によるH2 の生成が抑制されるため、水中投入という簡便な冷却方法を採用することができる。
【0021】
なお、上記の(2)は低温での還元・脱亜鉛により、燃料原単位と排ガス量の低減を可能とするものであり、(3)、(5)、(6)、(7)は還元炉設備の高効率化による小型化と排ガス量の低減を可能にするものである。また、(8)は簡便な冷却方式の採用により、設備費の低減を可能とするものである。
以上を総合すれば、本発明により、排ガス量、燃料原単位、設置面積、設備費をともに、回転炉床式還元設備に比べて大幅に改善ないしは低減した、コンパクトな転炉スラッジの還元・脱亜鉛設備を提供することが可能となる。
【0022】
また、既存の一貫製鉄所では、新たな設備を設置しようとしても、電気、水道、ガス、蒸気等のインフラが自由に使えるような場所を確保することは、難しくなっているのが現状である。製鉄所の中の辺縁部に、場所が確保できたとしても、インフラを整備するための費用が、設備の建設費に上乗せされることから、設備の建設が経済的に困難になることも起こりうる。その点、本発明になる還元・脱亜鉛設備は、極めてコンパクトであることから、5000m2 前後の現状の酸化養生ヤード面積の中に、充分建設することが可能で、インフラに余計な投資をする必要がない等極めて優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る転炉スラッジを原料にした還元鉄の製造工程を示す図である。高水分で泥状の転炉スラッジは、ロードセル付の混合機にショベルで投入し、この投入量と事前に測定しておいた化学分析値および水分値をもとに、所定量の炭材と生石灰とバインダーを切り出して、混合機に装入する。炭材は還元剤であり、C当量で0.7〜1.3の範囲で添加する。ここで、C当量とは、下記化学式(1)、(2)に基づく理論炭素量に対する比率で、転炉スラッジの酸化鉄が全量Fe34 とすれば、Fe34 の1モルを還元して3倍の金属鉄を得るためには、4倍のCが必要で、これが理論炭素量である。理論炭素量の0.7〜1.3倍のCを添加するという意味である。
【0024】
Fe23 +3C→2Fe+3CO … (1)
Fe34 +4C→3Fe+4CO … (2)
生石灰は水分調整剤であり、成型体の水分が20〜25%となるように添加する。バインダーはコーンスターチおよびベントナイトで、成型体の乾燥後強度が5kg/cm2 以上となるように添加する。成型体の乾燥後強度が5kg/cm2 未満では、ハンドリングおよび火格子上での攪拌による粉化が激しくなり、還元炉での連続作業に支障を与えるからである。また、必要に応じて、高亜鉛の転炉環境集塵ダスト、あるいは高亜鉛の高炉2次灰を配合することも可能である。混合機はバッチ運転で、混合後の配合原料は中継槽を経て、押出成型機で含炭成型体に成型される。成型体は、還元炉に装入した際の爆裂を防止するため、水分が1%以下となるよう事前に乾燥しておく。転炉スラッジが10〜20%の金属鉄を含有することから、空気との反応による発熱を回避するため、O2 を含まない燃焼排ガス、または余熱したN2 ガス、またはN2 雰囲気の外部加熱により乾燥を行なう。
【0025】
図2は、充填層式還元炉を示す図である。乾燥後の含炭成型体20を、搬送機能を備えかつ耐熱性を有する火格子23上に連続的に供給し、該火格子23上に10〜100cmの層厚を持つ含炭成型体の充填層21を形成せしめ、かつ該火格子23の搬送機能により該含炭成型体の充填層21を連続的に下流方向に移動させる。該火格子23下部からは、O2 を含まない燃焼排ガス24を、該火格子23および該充填層を貫通して上向きに通過させることにより、含炭成型体20を連続的に1000〜1350℃に加熱処理して還元鉄22とし、搬送機能付き耐熱火格子下流側末端に設けた排出部より、還元鉄22を連続的に排出するものである。
【0026】
なお、耐熱性を確保するために火格子は水冷式とするのが望ましい。符号25はO2 を含まない燃焼排ガスの流れを示し、26は風箱を示す。また、含炭成型体の加熱温度を1000〜1350℃としたのは、1000℃未満では含炭成型体の乾燥品を還元した場合に還元鉄になる比率が低く、また、1350℃を超えると成形体同士が融着状態となり、かつコストアップとなることから、その範囲を1000〜1350℃とした。さらに、火格子上に10〜100cmの層厚を持つ含炭成型体の充填層を形成させた理由は、10cm未満では対流伝熱の熱効率の良さが発揮できないこと、また、100cmを超えると、充填層の圧損が大きくなり過ぎることから、その範囲を10〜100cmとした。
【0027】
図3は、搬送機能付き耐熱火格子の搬送機能の一例を示す図である。該火格子23は、固定段27と可動段28が一段ごとに階段状に設けられており、可動段28は駆動機構により前進と後退を繰り返す構造となっている。可動段28が前進する時に、固定段27上の成型体を可動段28の前面で押しやると、成型体は落下して次の可動段28の上に乗り、可動段28が後退する時に、可動段28上の成型体が落下し、次の固定段27の上に乗ることになる。前進と後退を繰り返すことにより、成型体を順次ずり落とし、適度に撹拌しつつ、下流側に移動させることができる。
【0028】
図4は、酸素を含まない燃焼排ガスを用いて還元した、還元鉄の一粒の断面を示す図である。多くの還元鉄試料の断面を顕微鏡観察した結果、還元鉄22の表面はマグネタイトまで再酸化されており、マグネタイト被膜29の厚みは200〜500ミクロンであることが判明した。このマグネタイト被膜29は緻密であり、このことと、上記の搬送機能付き耐熱火格子による成型体充填層の適度な撹拌とが相俟って、成型体の還元が進んでも、成型体同士の固着が抑制される。
【0029】
図5は、含炭成型体を加熱した時の、成型体から発生するCOの時間推移を示す図である。加熱開始からやや遅れてCOが発生し始め、その後急激に発生量は増加し、加熱処理期間の前半でピークを迎えて後、徐々に発生量は低下してゆく。発明者等は、COが成型体表面から噴出する速度はかなり速いことから、COの発生量が多い期間は、燃焼排ガスに空気を混入しても、O2 を含まない燃焼排ガスを用いた時に比べて、再酸化は僅かしか増加しないことを見出した。
【0030】
図5の上半分は、この知見に基づいて発明したもので、加熱開始から終了までの加熱処理期間をTとした時、COの発生の少ない初期の0.1〜0.3Tの期間に対応したAゾーンと、同じくCOの発生の少ない末期の0.1〜0.3Tの期間に対応したCゾーンでは、O2 を含まない燃焼排ガス24を用いて加熱し、COの発生量が多い中間期の0.8〜0.4Tの期間に対応したBゾーンでは、O2 を含まない燃焼排ガスと予熱空気の混合ガス31を用いて、含炭成型体の表面より発生するCOを燃焼させ、充填層の上層部に、その燃焼熱を着熱させることを狙ったものである。予熱空気を混入した分、加熱用の燃焼排ガスを減らすことができることから、還元炉の総排ガス量を低減することが可能となる。上記の方法によれば、空気を混入しても、成型体の表面の再酸化はマグネタイトで留まり、ヘマタイトまで酸化されることはない。なお、0.1〜0.3Tと幅を持たせたのは、層高方向での加熱具合の時間差、炭材の種類あるいは粒度等によるバラツキを考慮したものである。また、符号30はCO発生量の経時変化を示す。
【0031】
高温の金属鉄は水と反応するとH2 を発生するため、工業的には、還元鉄の冷却に水は使用されていなかったが、本発明によって製造した還元鉄の粒子は、緻密なマグネタイト被膜で覆われているため、水中に投入して冷却することが可能となった。冷却後は、水中から取り出した後、O2 を含まない燃焼排ガス、または予熱したN2 ガス、またはN2 雰囲気の外部加熱により、水分を0.3%以下にまで乾燥し冷却した上で、成品槽に貯蔵する。水分を0.3%以下とした理由は、例え0.1%以下まで乾燥したとしても、大気中で保存すれば、大気中の湿分を吸着して、0.3%程度まで水分が上昇することがあること、および0.3%以下の水分レベルで、例えば1年間の長期にわたって保存しても、なんら問題がないことから、その上限を0.3%以下とした。
【実施例】
【0032】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
表1に、転炉スラッジをN2 気流中で乾燥した未酸化養生品(表1のA)と酸化養生品(表1のB)の化学成分を比較して示した。AとBは転炉での発生日時が異なるため、厳密な対比はできないが、酸化養生によって、12%強あった金属鉄(M−Fe)が4%強にまで低下することがわかる。
【0033】
表2に、上記の2種類の原料を用いて、オフラインで還元試験を実施した結果を示した。含炭成型体は、上記原料に炭材として無煙炭をC当量が1.0となるように添加し、よく混合した後、タブレット成型機で作成し、N2 気流中で還元試験を実施した。表から明らかな通り、還元温度が1300℃と高い場合には、両者の間で、還元率に大きな差はないが、1000℃の低温では、未酸化養生品の方が遥かに還元率が高いことが分かる。また、GROSSの金属化率は、1000℃では85.3%と69.4%、1300℃では91.1%と89.3%で、Aの方がBより高くなっており、原料中の金属鉄の含有率の差が反映された結果となっている。なお、GROSSとNETの金属化率の定義を(3)、(4)式で示した。
【0034】
(還元後のM−Fe)/(還元後のT−Fe)(%) … (3)
{[(還元後のM−Fe×還元後質量)−(還元前のM−Fe×還元前質量)]/
(還元後質量)}/(還元後のT−Fe)(%) … (4)
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

表3に、実機操業試験に用いた、含炭成型体の原料配合割合、および配合原料水分(成型水分と同じ)、成型体の乾燥後強度を示した。
【0038】
表3に示すように、転炉スラッジの水分は26%であったが、生石灰を4.0%添加することで、配合原料水分は22.5%まで低下させることができ、バインダーの添加の効果もあって、押出し成型機により良好な含炭成型体が製造できた。また、バインダー添加により、成型体乾燥後強度は7.2kg/cm2 が得られ、基準値の5kg/cm2 を達成できた。5kg/cm2 という基準値は、ハンドリングおよび火格子上での攪拌による粉化を抑えるのに必要な強度である。kg/Pは成型体1個当たりの強度である。
【0039】
【表4】

表4に、表3で示した含炭成型体を用いて実施した、操業試験結果を示した。
【0040】
表4に示す操業試験結果は、以下の操業条件で得られたものである。
火格子のサイズ:1m幅×8m長×25cm高、含炭成型体処理速度:10.4t/h、燃料:COG、排ガス:O2 を含まない排ガスとO2 を含む排ガスの両ケース、O2 を含む排ガスの場合はAゾーン:Bゾーン:Cゾーン=0.2:0.5:0.3、O2 濃度:4%、充填層熱処理温度:1150℃とした。
【0041】
表4から明らかなとおり、O2 を含まない燃焼排ガスで還元した結果は、GROSSの金属化率が83.7、脱亜鉛率が99.6%で、満足のできる結果であった。Bゾーンに空気を導入して還元した結果は、O2 を含まない燃焼排ガスで還元した場合に比べて、やや劣るものの、80.1%の金属化率が得られ、実用的に問題のない水準であった。NETの金属化率は、O2 を含まない燃焼排ガスで還元した場合が68.8%、Bゾーンに空気を導入して還元した場合が65.1%と、いずれもそれほど高くはないが、原料中の金属鉄が12.28%あり、これが還元に伴って酸素、C、Znがなくなった結果、15%程度に濃縮されてNETの金属化率に上乗せされ、これがGROSSの金属化率を大幅に押し上げたものである。このように、原料中に含有される金属鉄を温存することの効果は、極めて大きいことが分かる。
【0042】
表5に、焼結用原料である豪州産マラマンバ系粉鉱石を使用した、オフラインでの還元試験結果を示した。鉱石は、−44μが60%程度となるように、事前にボールミルで粉砕した原料を使用し、C当量が1.0となるように粉コークスを加え混合後、ペレタイザーでペレットに成型した含炭成型体を還元試験に供した。試験条件は、還元温度:1300℃、滞留時間:15分、雰囲気:N2 単味、およびO2 を含まない燃焼排ガスの2水準で実施した。
【0043】
【表5】

表5から明らかなとおり、O2 を含まない燃焼排ガスを使用すると、N2 雰囲気に比べて、還元率および金属化率はかなり低下するが、還元機能を持つ高炉の原料として使用するのであれば、高炉の還元剤比の低減や出銑比の増加に十分寄与できるものである。
【0044】
以上述べたように、本発明により、高層厚の充填層で還元処理することが可能となり、従来の回転炉式還元炉に比べて、炉床面積を大幅に縮小することができ、それによる設備費の低減と還元炉設備の高効率化による小型化と排ガス量の低減、並びに低温での還元・脱亜鉛処理による燃料原単位、排ガス量の低減等を図ることができると共に、転炉スラッジが含有する10〜20%の金属鉄を有効処理することで高いGROSSの金属化率が得られ、さらに、O2 を含まない燃焼排ガス使用による成形体表面層へのマグネタイト被膜形成により冷却方法の改善を図ることが出来る等極めて優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る転炉スラッジを原料にした還元鉄の製造工程を示す図である。
【図2】充填層式還元炉を示す図である。
【図3】搬送機能付き耐熱火格子の搬送機能の一例を示す図である。
【図4】酸素を含まない燃焼排ガスを用いて還元した、還元鉄の一粒の断面を示す図である。
【図5】含炭成型体を加熱した時の、成型体から発生するCOの時間推移を示す図である。
【図6】従来の回転炉床式還元炉を用いる方法(回転炉床法)を示す設備フローである。
【図7】回転炉床式還元炉の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 転炉微粒ダスト貯槽
2 その他ダスト貯槽
3 粉コークス貯槽
4 バインダー貯槽
5 ボールミル
6 パンペレタイザー
7 乾燥機
8 装入装置
9 回転炉床式還元炉
10 排ガス
11 ボイラー・レキュペレーター
12 集塵機
13 煙突
14 排出スクリユー
15 還元鉄クーラー
16 成品ホッパー
17 回転炉床
18 一層に装入された成型体
19 バーナー
20 乾燥後の含炭成型体
21 含炭成型体の充填層
22 還元鉄
23 搬送機能付き耐熱火格子
24 O2 を含まない燃焼排ガス
25 O2 を含まない燃焼排ガスの流れ
26 風箱
27 固定段
28 可動段
29 マグネタイト被膜
30 CO発生量の経時変化
31 O2 を含まない燃焼排ガスと予熱空気の混合ガス


特許出願人 株式会社 テツゲン
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄系ダスト類、および/または粉鉱石に、炭材ならびにバインダーを加え、混合調湿後にペレット、ブリケットまたは押し出し成型品に成型してなる含炭成型体を、乾燥した後に加熱処理することで還元鉄を製造する方法において、搬送機能を有する火格子上に、乾燥後の含炭成型体を連続的に供給し、該火格子上に10〜100cmの層厚を持つ充填層を形成せしめ、かつ該火格子の搬送機能により該充填層を連続的に下流方向に移動させながら該火格子下部からO2 を含まない燃焼排ガスを、該火格子および該充填層を貫通して上向きに通過させることにより、含炭成型体を連続的に1000〜1350℃に加熱処理して還元鉄とし、該火格子下流側末端に設けた排出部より、還元鉄を連続的に排出することを特徴とする還元鉄の製造方法。
【請求項2】
含炭成型体の火格子上での滞留時間をTとする時、含炭成型体を該火格子上で加熱開始した時点から0.1〜0.3Tの間、および加熱終了前0.1〜0.3Tの間は、O2 を含まない燃焼排ガスを用いて含炭成型体の充填層を1000〜1350℃に加熱し、一方中間の0.8〜0.4Tの間は、O2 を含まない燃焼排ガスと予熱空気の混合ガスを用いて、含炭成型体の表面より発生するCOを燃焼させることにより、該充填層を1000〜1350℃に加熱することを特徴とする請求項1記載の還元鉄の製造方法。
【請求項3】
転炉で湿式集塵法によって回収された、20〜28重量%の水分を持つ転炉スラッジに、還元剤としての炭材と、水分調整剤としての生石灰と、バインダーとしてのコーンスターチおよびベントナイトを添加して混合した後、押し出し成型機により含炭成型体に成型し、次いで、該含炭成型体を、O2 を含まない燃焼排ガス、または余熱したN2 ガス、またはN2 雰囲気の外部加熱により水分1%以下まで乾燥する際、バインダーの添加量を調整することで、該含炭成型体の乾燥後強度を5kg/cm2 以上とした後、請求項1または2記載の方法によって還元処理することを特徴とする、転炉スラッジを原料にした還元
鉄の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項で製造した還元鉄を、水中に投入して冷却した後、水中から取り出し、O2 を含まない燃焼排ガス、または予熱したN2 ガス、またはN2 雰囲気の外部加熱により水分0.3%以下にまで乾燥することを特徴とする、還元鉄の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−99153(P2011−99153A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255827(P2009−255827)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000156260)株式会社 テツゲン (9)
【Fターム(参考)】