説明

部分放電測定方法、標定方法およびその装置

【課題】 電力機器の容器内で発生する部分放電をSN比良く測定することができる部分放電測定方法を提供する。
【解決手段】 この発明に係る部分放電測定方法は、金属製の容器12内に本体部14を収納して成る電力機器10の容器12内で発生する部分放電を測定する方法であり、容器12の壁面の1点以上の電位Vp を測定することによって部分放電を測定するものである。この測定方法を用いて、部分放電の3次元の発生位置を高感度で特定(即ち標定)することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば変圧器、リアクトル、コンデンサ、整流器、遮断器、開閉装置、配電盤等であって、金属製の容器内に本体部を収納して成る電力機器の容器内で発生する部分放電を測定する測定方法、当該部分放電の発生位置を特定する標定方法およびその関連装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力機器の事故、故障は停電を伴うため、周囲に与える影響は非常に大きい。この電力機器の異常を早期に発見するためには、絶縁破壊の前駆現象として起こる部分放電を測定することが非常に効果的だと言われている。
【0003】
部分放電とは、非特許文献1にも記載されているように(第7頁参照)、導体間の絶縁を部分的にのみ橋絡する放電をいい、導体間を完全に橋絡する放電は含まない。
【0004】
部分放電の発生メカニズムは、非特許文献1に詳述されているが(例えば第18−23頁参照)、これを図1を参照して簡単に説明する。
【0005】
電力機器の本体部において、交流電圧Vacが印加される導体2、4間に挟まれた絶縁物6があり、その中に微小なボイド(空隙状欠陥)8がある場合(図1(A)参照。但しボイド8は図示の位置に限らない。)、その等価回路は図1(B)で表すことができる。ここで、Cg はボイド8の静電容量、Cb はボイド8に直列に入る絶縁物6の部分の合成静電容量、Cm はCg 、Cb 以外の導体2、4間の静電容量である。
【0006】
この場合、交流電圧Vacの印加に伴って、ボイド8に電界が集中する。従って、交流電圧Vacの瞬時値が上昇するに従ってボイド8(Cg )にかかる電圧も上昇し、その電圧がボイド8の火花電圧に達すると、ボイド8に火花放電が生じる。これが部分放電である。それによって、ボイド8(Cg )の両端の電圧vg は急激に低下する。この急激な電圧vg の変化に伴う電荷の移動を放電パルスと言う。そしてこのような部分放電が、通常は図2に示す例のように、交流電圧Vacの半周期ごとに繰り返して発生する。即ち、部分放電の発生周期は、通常は交流電圧Vacの周波数の2倍(例えば120Hz)である。但し、部分放電の発生位相は、図示例のものに限らない。
【0007】
上記部分放電によって、ボイド8中を移動する放電電荷をqr 、導体2、4間から失われる電荷をqとすると、両者には次式の関係が成立する。
【0008】
[数1]
q={Cb /(Cb +Cg )}qr
【0009】
このように、部分放電が生じた結果、導体2、4間から失われる電荷qは、ボイド8中を移動した放電電荷qr とは違った値になる。qを見掛けの放電電荷(放電パルスの大きさ)、qr を真の放電電荷と称して区別している。
【0010】
部分放電の実際の測定においては、一般的に静電容量Cg 、Cb を測定することはできないので、真の放電電荷qr を測定することはできない。そこで上記見掛けの放電電荷qに相当する電流(パルス電流)をいかにして正確に測定するかが重要となる。
【0011】
図3に、従来の部分放電測定方法の一例を示し、その等価回路を図4に示す。これに似た回路による部分放電測定方法は、非特許文献1にも記載されている(例えば第8−11頁参照)。
【0012】
電力機器10は、金属製の容器12内に本体部14を収納して成るものである。18は碍子である。この電力機器10は、図示を簡略化しているが、例えば、変圧器、リアクトル、コンデンサ、整流器、遮断器、開閉装置、配電盤等である。
【0013】
本体部14は、例えば、この電力機器10が変圧器の場合は変圧器本体、リアクトルの場合はリアクトル本体、コンデンサの場合はコンデンサ本体、整流器の場合は整流器本体である。この本体部14で発生する部分放電を測定するために、試験用の交流電源20から本体部14に交流電圧Vacを印加する。
【0014】
前述した部分放電の発生メカニズムからも分かるように、部分放電箇所は一種の電荷消失源16(図4参照)であり、これが本体部14内に存在すると考えることができる。この電荷消失源16において、部分放電によって、前述した電荷(見掛けの放電電荷)qが消失し、その消失分を外部から充電して補填することになる。この現象を測定するのが部分放電測定である。
【0015】
従来の部分放電測定方法では、交流電源20に並列に結合コンデンサ22を接続しておき、この結合コンデンサ22から上記電荷消失源16に供給される充電電流I0 (これは上記消失電荷qに相当するパルス電流である)を、検出回路24の検出インピーダンスZd を通してその両端に発生するパルス電圧V1 に変換して、それを測定器26で測定する。この充電電流I0 は、部分放電が発生する度に流れる。充電電流I0 の波形は、一般的に、その閉回路のR、L、Cで定まる減衰振動波形となる。パルス電圧V1 も同じである。測定器26は例えばオシロスコープである。これが従来からよく行われている測定方法である。
【0016】
上記充電電流I0 の経路にはインピーダンスZ0 、Zd が存在し、その高周波インピーダンスは比較的大きいために、充電電流I0 およびパルス電圧V1 の振動周波数は、例えば数十kHz〜数百kHzオーダーとなる。この振動周波数と、前述した部分放電の発生周期とは別のものである。このパルス電圧V1 の実測波形は、後で図8を参照して説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】「部分放電測定」、電気学会電気規格調査会標準規格、JEC−0401−1990、電気書院、1991年04月25日、頁7−11、18−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記従来の部分放電測定方法では、測定器26で測定することができる上記パルス電圧V1 のSN比が悪く、交流電源20からのノイズや外来ノイズ等のノイズの影響を受けやすく、従って部分放電測定を正確に行うのが難しいという課題がある。
【0019】
これは、前述したように、上記充電電流I0 の経路の高周波インピーダンスが比較的大きいため、充電電流I0 の振動周波数が低く、それが低いということは継続時間tが長いということであり、次式からも分かるように、継続時間tが長いと同じ上記電荷qを供給する場合、充電電流I0 の値が小さくなり、ひいてはパルス電圧V1 の値も小さくなり、ノイズと区別しにくくなるからである。部分放電が軽微な場合は、SN比は一層悪くなるので、部分放電の測定は一層難しくなる。
【0020】
[数2]
q=∫I0(t)dt
【0021】
そこでこの発明は、電力機器の容器内で発生する部分放電をSN比良く測定することができる部分放電測定方法を提供することを一つの目的としている。
【0022】
更に、上記部分放電測定方法を用いて、電力機器の容器内で発生する部分放電の3次元の発生位置を高感度で特定することができる部分放電位置標定方法を提供することを他の目的としている。
【0023】
また、上記方法に好適な部分放電測定センサーおよび部分放電測定装置を提供することを更に他の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
この発明に係る部分放電測定方法は、金属製の容器内に本体部を収納して成る電力機器の前記容器内で発生する部分放電を測定する方法であって、前記容器の壁面の1点以上の電位を測定することによって前記部分放電を測定することを特徴としている。
【0025】
電力機器の容器の壁面と、当該容器内で発生する部分放電箇所との間には、浮遊静電容量が必ず存在する。部分放電によって消失する前述した見掛けの放電電荷qは、上記浮遊静電容量からも補填され、それに伴う高周波のパルス電流が前記容器の壁面を通して流れることを本願の発明者達は見出した。このパルス電流の充電経路の、上記浮遊静電容量以外の残留インピーダンスは非常に小さい。これは、当該残留インピーダンスの殆どが前記容器の壁面のインピーダンスであり、当該壁面のインピーダンスは、壁面が面であるので非常に小さいからである。
【0026】
従って、上記浮遊静電容量から供給されるパルス電流は、急峻に立ち上がる非常に周波数の高い高周波の減衰振動電流となり、その継続時間tは非常に短いので、前述した数2からも分かるように、同じ電荷qを供給する場合、パルス電流の値(振幅)は非常に大きくなる。このパルス電流に対応して、前記容器の壁面の電位も、急峻にかつ大きく変化するので、この壁面の1点以上の電位を測定することによって、当該容器内で発生する部分放電をSN比良く、高感度で測定することができる。
【0027】
この発明に係る部分放電位置標定方法の一つは、前記部分放電測定方法を用いて、前記電力機器の容器の壁面において、第1の測定点を固定しておいて、当該第1の測定点とは異なる第2の測定点を移動させながら、前記第1および第2の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第2の測定点と前記第1の測定点の垂直2等分面を特定する工程を、前記第1および第2の測定点の内の少なくとも一方の測定点の位置を変えて3回行うことによって、一つの交点で交わる三つの垂直2等分面を特定し、かつ前記交点の3次元の座標を特定し、当該交点の座標を前記部分放電の発生位置とすることを特徴としている。
【0028】
この発明に係る部分放電位置標定方法の他のものは、前記電力機器の容器が6面体または円筒形の場合に、前記部分放電測定方法を用いて、部分放電の3次元の発生位置を特定するものである。
【0029】
前記容器の壁面の電位測定には、着脱可能な部分放電測定センサーを用いると都合が良い。
【発明の効果】
【0030】
請求項1に記載の発明によれば次の効果を奏する。即ち、部分放電が発生することによって、電力機器の容器の壁面に非常に周波数の高い高周波のパルス電流が流れ、このパルス電流に対応して、前記容器の壁面の電位も、急峻にかつ大きく変化するので、この壁面の1点以上の電位を測定することによって、当該容器内で発生する部分放電をSN比良く、高感度で測定することができる。
【0031】
しかも、前述した従来技術では、部分放電測定用の高電圧の結合コンデンサを交流電源に並列に接続する必要があるため、(a)高電圧の結合コンデンサが必要である、(b)結合コンデンサの接続に多くの手間がかかる、(c)交流電源を停止することができない場合は結合コンデンサを接続することができないので部分放電を測定することができない、という課題があるのに対して、この発明によれば、従来技術の結合コンデンサに相当するものは必要ないので、上記(a)〜(c)の課題を解決することができる。従って例えば、工場のような試験場だけでなく、電力機器を運転している現場で、実際に運転中の電力機器における部分放電を簡単に測定することも可能になる。
【0032】
請求項2に記載の発明によれば次の効果を奏する。即ち、請求項1に記載の部分放電測定方法によれば部分放電をSN比良く、高感度で測定することができるので、そのような部分放電測定方法を用いることによって、ノイズの影響を受けにくくなり、従って電力機器の容器内で発生する部分放電の3次元の発生位置を、高感度で特定することができる。
【0033】
しかも、上述したように、従来技術の結合コンデンサに相当するものは必要ないので、結合コンデンサを設けることに伴う上記課題を解決することができる。従って例えば、工場のような試験場だけでなく、電力機器を運転している現場で、実際に運転中の電力機器における部分放電の発生位置を特定することも可能になる。
【0034】
請求項3〜5に記載の発明によれば、請求項2に記載の発明の効果と同様の効果を奏することに加えて、次の更なる効果を奏する。即ち、二つの測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探す方法を採用しているので、請求項2に記載の発明に比べて、部分放電の発生位置を特定するための計算が簡単になる。従ってより実用的である。
【0035】
請求項6に記載の発明によれば次の効果を奏する。即ち、この部分放電測定センサーは、電力機器の容器の壁面に対して着脱可能であるので、当該容器の壁面の電位測定が容易になる。また、この部分放電測定センサーは汎用性があるので、様々な電力機器に容易に適用することができる。更に、この部分放電測定センサーを前記容器の壁面において移動させることができるので、部分放電の発生位置を特定する作業等が容易になる。
【0036】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の部分放電測定センサーを備えているので、請求項6に記載の発明の効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】部分放電の発生メカニズムを説明するための概略図であり、(A)は絶縁物中にボイドがある場合の断面図、(B)はその等価回路図である。
【図2】印加交流電圧と部分放電との関係の一例を示す概略図である。
【図3】従来の部分放電測定方法の一例を示す概略図である。
【図4】図3の等価回路図である。
【図5】この発明に係る部分放電測定方法および部分放電測定装置等の一例を示す概略図である。
【図6】図5の等価回路図である。
【図7】図5および図6中の部分放電測定装置のより具体的な構造の例を示す図である。
【図8】従来の、およびこの発明に係る部分放電測定方法によって実測した部分放電の信号波形の一例を示す図である。
【図9】この発明に係る部分放電位置標定方法の一例を説明するための概略図である。
【図10】二つの測定点で測定した同一の部分放電の信号波形に時間差がある場合の一例を示す概略図である。
【図11】この発明に係る部分放電位置標定方法の他の例を説明するための概略図である。
【図12】二つの測定点で測定した同一の部分放電の信号波形に時間差がある場合において、両信号波形を重ねるときの様子を示す概略図である。
【図13】この発明に係る部分放電位置標定方法の更に他の例を説明するための概略図である。
【図14】図13中の横平面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(1)部分放電測定方法およびその関連装置
この発明に係る部分放電測定方法および部分放電測定装置等の例を、図5〜図7等を参照して説明する。なお、図3、図4に示した従来例と同一または相当する部分には同一符号を付し、以下においては当該従来例との相違点を主に説明する。
【0039】
この発明に係る部分放電測定方法は、前述した電力機器10の金属製の容器12の壁面の1点以上の電位を測定することによって、容器12内で発生する部分放電を測定するものである。
【0040】
その原理を、図6に示す等価回路を参照して説明する。
【0041】
図4を参照して先に説明したように、部分放電箇所は一種の電荷消失源16であり、これが電力機器10の本体部14内に存在すると考えることができる。この電荷消失源16において、部分放電によって、前述した電荷(見掛けの放電電荷)qが消失し、その消失分を外部から充電して補填することになる。
【0042】
前述した従来技術では、結合コンデンサ22(図4参照)から電荷消失源16に供給される充電電流I0 (これは上記消失電荷qに相当するパルス電流である)を測定していたのであるが、結合コンデンサ22を設けていなくても、部分放電によって見掛けの放電電荷qは消失し、かつ当該消失電荷qが何らかの経路で補填されることに変りはない。結合コンデンサ22の有無によって部分放電現象が変るわけではないからである。
【0043】
その補填経路として、本願の発明者達は、容器12の壁面と、当該容器12内で発生する部分放電箇所との間に存在する浮遊静電容量に着目した。即ち、電力機器10の容器12の壁面と、当該容器12内で発生する部分放電箇所との間には、浮遊静電容量が必ず存在する。その例を図6中に浮遊静電容量C1 、C2 で示す。部分放電によって消失する上記見掛けの放電電荷qは、この浮遊静電容量C1 、C2 からも補填され、それに伴う高周波のパルス電流I1 、I2 が容器12の壁面を通して流れることを本願の発明者達は見出した。しかもこのパルス電流I1 、I2 の充電経路の、上記浮遊静電容量C1 、C2 以外の残留インピーダンスは非常に小さい。これは、当該残留インピーダンスの殆どが記容器12の壁面のインピーダンスZ1 、Z2 であり、当該壁面のインピーダンスZ1 、Z2 は、壁面が面であるので非常に小さいからである。
【0044】
従って、上記浮遊静電容量C1 、C2 から供給されるパルス電流I1 、I2 は、急峻に立ち上がる非常に周波数の高い高周波の減衰振動電流となり、その継続時間tは非常に短いので、前述した数2からも分かるように、同じ電荷qを供給する場合、パルス電流I1 、I2 の値(振幅)は非常に大きくなる。このパルス電流I1 、I2 に対応して、容器12の壁面の電位も、急峻にかつ大きく変化するので、この壁面の1点以上の電位(例えば点Pの電位Vp )を測定することによって、当該容器12内で発生する部分放電をSN比良く、高感度で測定することができる。
【0045】
簡略化して、上記浮遊静電容量C1 、C2 の静電容量をそれぞれC、容器12の壁面のインピーダンスZ1 、Z2 のインダクタンス成分をそれぞれLとすると、上記パルス電流I1 、I2 の周波数fは次式で表すことができる。
【0046】
[数3]
f≒1/2π√(LC)
【0047】
上記静電容量Cは例えば数十pF程度であり、上記インダクタンス成分Lを数μHとすると、上記周波数fは数十MHz〜100MHz程度となる。これは、前述した従来の測定方法の場合の充電電流I0 の周波数である数十kHz〜数百kHzよりも遥かに高い周波数である。
【0048】
上記壁面の電位Vp は、この実施形態では、部分放電測定センサー30を用いて、パルス電圧V2 として、測定器44によって測定される。
【0049】
実測結果の一例を図8に示す。この図は、100pCの放電電荷量の部分放電を発生させて、前述した従来の測定方法による場合の前記パルス電圧V1 と、この発明に係る測定方法による場合の上記パルス電圧V2 とを、2チャンネルの測定器(これは上記測定器26および44に相当)で同時に実測した結果を示している。ここでは上記測定器として、横河電機株式会社製のディジタルオシロスコープDL1740(入力チャンネル数4、最高サンプリングスピード(実時間サンプリング)1GS/s、周波数帯域500MHz)を用いた。
【0050】
パルス電圧V1 もV2 も、時間軸は等しく2μs/divである。パルス電圧V1 の周波数は約280kHzであるのに対して、パルス電圧V2 の周波数は約20MHzであり、遥かに高い周波数である。
【0051】
一方、電圧軸については、パルス電圧V2 のチャンネルは50mV/divであるが、パルス電圧V1 のチャンネルは1mV/divである。パルス電圧V1 が小さいので拡大表示して見やすくするためである。パルス電圧V1 の出力電圧(ピークピーク値)は約0.24mVであるのに対して、パルス電圧V2 の出力電圧(ピークピーク値)は約377mVであり、遥かに大きい。
【0052】
この図8に示す実測結果は、この発明に係る測定方法の前述した原理説明とよく一致している。即ち、パルス電圧V1 は小さい値でゆっくりと長時間継続しているのに対して、パルス電圧V2 は急峻に非常に大きく立ち上がって急速に減衰している。従って、このパルス電圧V2 を測定することによって、容器12内で発生する部分放電をSN比良く、高感度で測定することができる。
【0053】
しかも、パルス電圧V2 の立ち上がり時点が明瞭であるので、後述する部分放電位置標定方法において、二つのパルス電圧V2 の信号波形間の時間差を測定すること等においても好都合である。
【0054】
更に、前述した従来技術では、部分放電測定用の高電圧の結合コンデンサ22を交流電源20に並列に接続する必要があるため、(a)高電圧の結合コンデンサ22が必要である、(b)結合コンデンサ22の接続に多くの手間がかかる、(c)交流電源20を停止することができない場合は結合コンデンサ22を接続することができないので部分放電を測定することができない、という課題があるのに対して、この発明に係る測定方法によれば、従来技術の結合コンデンサ22に相当するものは必要ないので、上記(a)〜(c)の課題を解決することができる。従って例えば、工場のような試験場だけでなく、電力機器10を運転している現場で、実際に運転中の電力機器10における部分放電を簡単に測定することも可能になる。従って非常に利用価値が高いと言える。
【0055】
なお、この発明に係る測定方法の場合は、上記交流電源20は、試験用(部分放電測定用)の交流電源でも良いし、電力機器10を実際に運転するための交流電源(例えば商用電源)でも良い。
【0056】
容器12の壁面の上記電位Vp の測定を行うためには、容器12の壁面に導体を直接取り付けても良いけれども、この実施形態のように部分放電測定センサー30を用いるのが好ましい。
【0057】
部分放電測定センサー30は、図7も参照して、この例では、電力機器10の容器12の壁面に近接させることによって当該壁面との間に静電容量C3 を形成する対向電極36と、一端が対向電極36に接続されており、他端が接地電位部に接続されるインピーダンス素子38と、対向電極36が容器12の壁面に近接するように、当該部分放電測定センサー30を容器12の壁面に着脱可能に取り付ける取り付け手段40とを備えている。
【0058】
対向電極36の背面部は、この例のように、接地された導体製の(例えば金属製の)ケース32で覆っておき、その中にインピーダンス素子38を収納しておくのが好ましい。そのようにすると、ケース32がシールドボックスとして働くので、測定信号に外来ノイズが混入するのを抑制して、SN比をより高めることができる。ケース32と対向電極36との間は、絶縁物34によって電気的に絶縁している。
【0059】
インピーダンス素子38を設けているのは、それを設けないと対向電極36が浮遊電位になって外来ノイズの影響を受けやすくなるのを防止する等のためである。それと同様の理由から、インピーダンス素子38は、コンデンサで構成するよりも、インダクタまたは抵抗器で構成するのが好ましい。その内でも、インピーダンス素子38をインダクタで構成すれば、当該インピーダンス素子38が、商用周波数に対しては低インピーダンス、パルス電圧V2 に対しては高インピーダンスとなり、商用周波数のノイズをアースへ逃がすローパスフィルタのような働きをするので、パルス電圧V2 をより高いSN比で取り出すことができる。
【0060】
取り付け手段40は、例えば、ボンド磁石(これはゴム磁石等とも呼ばれる)、磁石、吸盤等である。
【0061】
上記静電容量C3 は、周知の次式によって求めることができる。ここで、Sは対向電極36の面積[m2 ]、L1 は対向電極36と容器12の壁面間の距離[m]、εは誘電率であり空気中の場合は約9×10-12 [F/m]である。
【0062】
[数4]
3 =εS/L1 [F]
【0063】
例えば、対向電極36を10cm角とし、距離L1 を2mmとすると、静電容量C3 は約45pFとなる。この程度で十分な大きさのパルス電圧V2 を得ることができる。
【0064】
この部分放電測定センサー30を容器12の壁面に(例えば点Pに)着脱可能に取り付けておいて、容器12内で発生する部分放電によって上記パルス電流I1 、I2 が流れて容器12の壁面の電位Vp が変化すると、静電容量C3 を経由してインピーダンス素子38にパルス電流が流れて、このインピーダンス素子38の両端に前記パルス電圧V2 が発生する。従ってこのパルス電圧V2 を測定することによって、容器12内で発生する部分放電を測定することができる。
【0065】
上記測定には、この例のように、上記部分放電測定センサー30と、そのインピーダンス素子38の両端に発生するパルス電圧V2 を測定する測定器44と、部分放電測定センサー30と測定器44とを接続する導体42とを備えている部分放電測定装置50を用いても良い。
【0066】
測定器44は、例えばオシロスコープである。複数チャンネルのオシロスコープにすれば、複数の測定点の信号波形を1台のオシロスコープで同時に測定することができるので、非常に都合が良い。より具体例を挙げると、測定器44は、前述した(図8の説明参照)ような複数チャンネルのディジタルオシロスコープである。例えば前述したディジタルオシロスコープDL1740である。後述する、より高速のディジタルオシロスコープでも良い。
【0067】
導体42は、例えば同軸ケーブルである。なお、この部分放電測定装置50を後述する部分放電位置標定方法に用いて、異なる測定点の信号波形を同時に測定する場合は、対応する複数の測定点用の導体42の長さは互いに同じにしておく。導体42中の電気信号の伝播時間差を無くして、部分放電の発生位置の特定を正確にするためである。
【0068】
上記のような部分放電測定センサー30、またはそれを備える部分放電測定装置50によれば、部分放電測定センサー30が電力機器10の容器12の壁面に対して着脱可能であるので、容器12の壁面の電位測定が容易になる。また、部分放電測定センサー30は汎用性があるので、様々な電力機器10に容易に適用することができる。更に、部分放電測定センサー30を容器12の壁面において移動させることができるので、部分放電の発生位置を特定する作業等が容易になる。例えば、後述する第1〜第4の部分放電位置標定方法に上記部分放電測定センサー30またはそれを備える部分放電測定装置50を用いることによって、部分放電の発生位置を特定する作業が容易になる。
【0069】
(2)部分放電位置標定方法
次に、前述した部分放電測定方法を用いて、更には前述した部分放電測定センサー30を含む部分放電測定装置50を用いて、電力機器10の容器12内における部分放電の発生位置を特定する部分放電位置標定方法の例を幾つか説明する。
【0070】
第1の部分放電位置標定方法を図9を参照して説明する。
【0071】
前述した部分放電測定方法を用いて、電力機器10の容器12の壁面の互いに異なる4点(即ち四つの測定点)で部分放電を測定する。例えばこの4点を、直交座標系で表して、A(0,0,0)、B(b,0,0)、C(0,c,0)、D(0,0,d)とする。また、部分放電の発生位置をPd (x,y,z)とする。この発生位置は未知である。
【0072】
そして、前記4点の内の2点間における同一の部分放電の検出時間差τを、互いに異なる2点間において三つ測定する。「同一の部分放電」というのは、先に図2を参照して説明したように、部分放電は通常は交流電圧Vacの半周期ごとに繰り返して発生しているが、その内の所定の一つの部分放電、例えば図2中の部分放電70のことである。後述する第2〜第4の部分放電位置標定方法においても同様である。上記部分放電70と他の部分放電とは、上記時間差τよりも部分放電の周期の方が遥かに長いので、区別することができる。
【0073】
各点(測定点)A〜Dでの部分放電の測定は、例えば、前述した部分放電測定センサー30を含む部分放電測定装置50を用いて行う。即ち、各点A〜Dに前述した部分放電測定センサー30を取り付けて行う。後述する第2〜第4の部分放電位置標定方法における測定点P1 〜P6 での部分放電の測定においても同様である。特に、後述する第2〜第4の部分放電位置標定方法においては、測定点を移動させるので、移動が容易な部分放電測定センサー30を用いると、測定が容易になる。
【0074】
上記部分放電測定装置50を構成する測定器44は、複数チャンネルのもの(例えば複数チャンネルのオシロスコープ)にして、複数の測定点に共用しても良く、そのようにすると同一の画面上で複数の信号波形を同時に観測することができるので、信号波形間の時間差τを測定しやすくなると共に、測定器44の台数も少なくて済む。例えば、図10に示す例のように、一つの測定点の上記パルス電圧V2 の信号波形をチャンネルCH1で測定し、他の測定点の上記パルス電圧V2 の信号波形をチャンネルCH2で測定し、両信号波形間の時間差τを測定する。後述する第2〜第4の部分放電位置標定方法においても同様であり、複数の信号波形を同一の画面上で同時に観測することができると、両信号波形が重なる点を探しやすくなる(後述する図12およびその説明参照)と共に、測定器44の台数も少なくて済む。
【0075】
また、二つの測定点間の検出時間差τの測定を行うときや、後述する第2〜第4の部分放電位置標定方法の場合のように二つの信号波形が重なる点を探すときには、前述したように、当該二つの測定点用の導体42の長さは互いに同じにしておく。
【0076】
上記時間差τは、電気信号の伝播時間差であるために、音波に比べれば非常に小さいけれども、高速信号の測定技術が進歩した現在では、測定可能である。例えば、図8の所で説明したディジタルオシロスコープDL1740でも測定可能である。これと同じ会社製の、より高速のディジタルオシロスコープ、例えばDL9000シリーズ等を用いても良い。後述する第2〜第4の部分放電位置標定方法においても同様である。
【0077】
上記測定によって、この例では、点AB間の時間差τab、点AC間の時間差τac、点AD間の時間差τadを測定する。点A、B、C、Dと、部分放電の発生位置Pd との間の距離を、それぞれ、La 、Lb 、Lc 、Ld とすると、上記時間差τab、τac、τadは、それぞれ、La −Lb 、La −Lc 、La −Ld に比例している。その比例定数は光速Cである。各距離La 〜Ld は、具体的には次式で表される。b、c、dは既知である。
【0078】
[数5]
a =√(x2 +y2 +z2
b =√{(x−b)2 +y2 +z2
c =√{x2 +(y−c)2 +z2
d =√{x2 +y2 +(z−d)2
【0079】
そこで、上記三つの時間差τab、τac、τadにそれぞれ既知の光速Cを掛けて、次式で表される三つの距離を算出する。
【0080】
[数6]
a −Lb =τab×C
a −Lc =τac×C
a −Ld =τad×C
【0081】
そして、上記数6で表される三つの距離に基づいて、数5も考慮して、部分放電の3次元の発生位置Pd (x,y,z)を特定する。これは、未知数が三つ(x,y,z)であるのに対して、式が数6に示すように三つあるので、3元の連立方程式を解くことによって求めることができる。
【0082】
なお、上記三つの時間差τab、τac、τadは、例えば、四つの前述したような部分放電測定センサー30を用いて、更には測定器44として例えば4チャンネル以上のオシロスコープを用いて、全て同時に測定しても良いし、各時間差τab、τac、τadを別々に測定しても良い。これは、前述したように、部分放電は通常は交流電圧Vacの半周期ごとに繰り返して発生しているから可能である。即ち、少なくとも、一つの時間差τを測定する2点で同時に測定すれば良い。その場合は、上記部分放電測定センサー30は少なくとも二つあれば良い。他の時間差τを測定するときは当該部分放電測定センサー30を移動させれば良い。
【0083】
この第1の部分放電位置標定方法によれば次の効果を奏する。即ち、前述した部分放電測定方法によれば部分放電をSN比良く、高感度で測定することができるので、そのような部分放電測定方法を用いることによって、ノイズの影響を受けにくくなり、従って電力機器10の容器12内で発生する部分放電の3次元の発生位置を、高感度で特定することができる。
【0084】
公知の部分放電位置標定方法の一つに、部分放電が発生する音の伝播時間差を測定することによって部分放電の発生位置を特定する音響的方式があるけれども(例えば、上記非特許文献1の13頁、特開2007−292700号公報参照)、この方式の最大の課題は、音響の検出感度が非常に悪いため、診断対象として相当劣化した電力機器でないと適用が難しいのが実情である。これに対して、この第1の部分放電位置標定方法は、上記のように、ノイズの影響を受けにくく部分放電の発生位置を高感度で特定することができるので、絶縁劣化が軽微な電力機器10への適用も可能である。即ち早期診断が可能である。
【0085】
しかも、この第1の部分放電位置標定方法も、上記部分放電測定方法の場合と同様に、従来技術の結合コンデンサ22に相当するものは必要ないので、結合コンデンサ22を設けることに伴う前述した課題を解決することができる。従って例えば、工場のような試験場だけでなく、電力機器10を運転している現場で、実際に運転中の電力機器10における部分放電の発生位置を特定することも可能になる。
【0086】
第2の部分放電位置標定方法を図11を参照して説明する。
【0087】
前述した部分放電測定方法を用いて、電力機器10の容器12の壁面において、第1の測定点(例えば測定点P3 )を固定しておいて、当該第1の測定点とは異なる第2の測定点を移動させながら(例えば測定点P4 を矢印A2 のようにy軸に平行に移動させながら)、前記第1および第2の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探す。
【0088】
例えば図12に示す例のように、測定器44として複数チャンネルのオシロスコープを用いて、第1の測定点P3 の上記パルス電圧V2 の信号波形をチャンネルCH1で測定し、第2の測定点P4 の上記パルス電圧V2 の信号波形をチャンネルCH2で測定する。測定点P4 を矢印A2 で示すように移動させると、部分放電の発生位置Pd からの距離が変化して、チャンネルCH2の信号波形は図2中に矢印Fで示すように時間軸上で前後に移動するので、図12中に二点鎖線で示すように、両チャンネルCH1、CH2の信号波形の時間軸上での位置が重なる点を探す。このような重なる点を探す操作は、前述したように部分放電は通常は交流電圧Vacの半周期ごとに繰り返して発生しているので可能である。後述する他の部分放電位置標定方法においても同様である。そして、前記重なる点における第2の測定点P4 と第1の測定点P3 の垂直2等分面52を特定する。垂直2等分面52は、両測定点P3 、P4 間の中点62を通り、両測定点P3 、P4 を結ぶ線に直交する面である。
【0089】
更に、上記のような垂直2等分面を特定する工程を、第1および第2の測定点の内の少なくとも一方の測定点の位置を変えて3回行うことによって、例えば上記測定点P3 とP4 とによる測定、上記測定点P3 とそれとは異なる測定点P6 とによる測定および測定点P1 とそれとは異なる測定点P2 とによる測定を行うことによって、一つの交点で交わる三つの垂直2等分面を特定し、かつ当該交点の3次元の座標(x,y,z)を特定し、当該交点の座標(x,y,z)を部分放電の発生位置Pd とする。
【0090】
なお、測定点を移動させても、二つの信号波形を近づけることはできるけれども重ねることができない場合は、その移動方向よりも更に外側に部分放電の発生位置Pd があるので、その場合は、相手の測定点を一旦当該外側方向に移動させた後に、再度測定すれば良い。後述する他の部分放電位置標定方法においても同様である。
【0091】
この第2の部分放電位置標定方法は、電力機器10の容器12の形状が図11に示した例のような6面体に限定されるものではなく、それ以外の形状の場合にも適用することができる。
【0092】
この第2の部分放電位置標定方法によれば、前記第1の部分放電位置標定方法の効果と同様の効果を奏することに加えて、次の更なる効果を奏する。即ち、二つの測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探す方法を採用しているので、前記第1の部分放電位置標定方法に比べて、部分放電の発生位置Pd を特定するための計算が簡単になる。従ってより実用的である。
【0093】
電力機器10の容器12が6面体(即ち直方体または立方体)の場合に好適な、第3の部分放電位置標定方法を再び図11を参照して説明する。
【0094】
電力機器10の容器12が存在する直交座標系の3軸をx軸、y軸およびz軸とする。より具体的には、容器12の1点で直交する3面が、図11に示すように、xy平面、yz平面およびxz平面にそれぞれ平行であるような直交座標系を考える。
【0095】
そして、前述した部分放電測定方法を用いて、次の第1〜第3の工程を実施する。実施する順序は問わない。
【0096】
第1の工程では、電力機器10の容器12のxz平面に平行な壁面において、第1の測定点P1 を固定しておいて、当該第1の測定点P1 とは異なる第2の測定点P2 を矢印A1 で示すようにx軸に平行に移動させながら、前記第2の部分放電位置標定方法の場合と同様に(例えば図12およびその説明参照)、第1および第2の測定点P1 、P2 で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における第2の測定点P2 と第1の測定点P1 との間の中点61のx座標を特定する。
【0097】
第2の工程では、容器12のyz平面に平行な壁面において、第3の測定点P3 を固定しておいて、当該第3の測定点P3 とは異なる第4の測定点P4 を矢印A2 で示すようにy軸に平行に移動させながら、第1の工程の場合と同様に、第3および第4の測定点P3 、P4 で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における第4の測定点P4 と第3の測定点P3 との間の中点62のy座標を特定する。
【0098】
第3の工程では、容器12のxz平面またはyz平面に平行な壁面において、第5の測定点P5 を固定しておいて、当該第5の測定点P5 とは異なる第6の測定点P6 を矢印A3 で示すようにz軸に平行に移動させながら、第1の工程の場合と同様に、第5および第6の測定点P5 、P6 で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における第6の測定点P6 と第5の測定点P5 との間の中点63のz座標を特定する。
【0099】
そして、上記第1〜第3の工程で特定したx座標、y座標およびz座標から成る3次元の座標(x,y,z)を、容器12内における部分放電の発生位置Pd とする。これによって発生位置Pd を特定することができる。
【0100】
なお、図11に示す例のように、上記第3の測定点P3 が第5の測定点P5 を兼ねていても良い。そのようにすれば、測定点を一つ減らすことができるので、測定がより簡単になる。同様に、xz平面に平行な壁面においてz座標を特定する場合は、上記第1の測定点P1 が第5の測定点P5 を兼ねていても良い。
【0101】
この第3の部分放電位置標定方法の場合も、前記第2の部分放電位置標定方法の場合と同様の効果を奏する。
【0102】
電力機器10の容器12が円筒形の場合に好適な、第4の部分放電位置標定方法を図13および図14を参照して説明する。
【0103】
前述した部分放電測定方法を用いて、次の第1〜第3の工程を実施する。第1の工程と第2の工程とは、先後を逆にしても良い。
【0104】
第1の工程では、電力機器10の容器12の側面において、第1の測定点P1 を固定しておいて、当該第1の測定点P1 とは異なる第2の測定点P2 を矢印A4 で示すように容器12の円周方向に移動させながら、前記第2、第3の部分放電位置標定方法の場合と同様に(例えば図12およびその説明参照)、第1および第2の測定点P1 、P2 で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における第2の測定点P2 と第1の測定点P1 との間の中点64を通りかつ容器12の中心軸54を面内に含む縦平面56を特定する。これによって、円柱座標系における、部分放電の発生位置Pd の偏角φを特定することができる。
【0105】
第2の工程では、容器12の側面において、第3の測定点P3 を固定しておいて、当該第3の測定点P3 とは異なる第4の測定点P4 を矢印A5 で示すように容器12の中心軸54に平行に移動させながら、第1の工程の場合と同様に、第3および第4の測定点P3 、P4 で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における第4の測定点P4 と第3の測定点P3 との間の中点65を通りかつ上記縦平面56に直交する横平面57を特定する。これによって、円柱座標系における、部分放電の発生位置Pd のz座標(高さ)を特定することができる。
【0106】
第3の工程では、上記縦平面56と横平面57との交線58が容器12の側面と交わる2点P5 、P6 において測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の時間差から、交線58上における部分放電の発生位置を特定する。これによって、円柱座標系における、部分放電の発生位置Pd の動径rを特定することができる。
【0107】
この第3の工程を、図14を参照してより具体的に説明する。両測定点P5 、P6 から部分放電の発生位置Pd までの距離をそれぞれm、nとし、両測定点P5 、P6 において測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の時間差をτとすると、次式の関係が成立する。Cは光速である。
【0108】
[数7]
n−m=τC
【0109】
一方、横平面57の半径をRとすると次式が成立する。rは前述した動径である。
【0110】
[数8]
r=R−m
r=n−R
∴r=(n−m)/2
【0111】
従って、上記数7、数8より次式が成立し、これによって上記動径rを特定することができる。
【0112】
[数9]
r=(τC)/2
【0113】
そして、上記第1〜第3の工程で特定した偏角φ、z座標および動径rから成る3次元の座標(r、φ、z)を、容器12内における部分放電の発生位置Pd とする。これによって発生位置Pd を特定することができる。
【0114】
この第4の部分放電位置標定方法の場合も、前記第2、第3の部分放電位置標定方法の場合と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0115】
10 電力機器
12 容器
14 本体部
20 交流電源
30 部分放電測定センサー
36 対向電極
38 インピーダンス素子
40 取り付け手段
42 導体
44 測定器
50 部分放電測定装置
1 〜P6 測定点
1 、V2 パルス電圧
d 部分放電の発生位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の容器内に本体部を収納して成る電力機器の前記容器内で発生する部分放電を測定する方法であって、
前記容器の壁面の1点以上の電位を測定することによって前記部分放電を測定することを特徴とする部分放電測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の部分放電測定方法を用いて、
前記電力機器の容器の壁面の互いに異なる4点で部分放電を測定し、
前記4点の内の2点間における同一の部分放電の検出時間差を、互いに異なる2点間について三つ測定し、
前記三つの検出時間差にそれぞれ光速を掛けて三つの距離を算出し、
前記三つの距離に基づいて前記部分放電の3次元の発生位置を特定することを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の部分放電測定方法を用いて、
前記電力機器の容器の壁面において、第1の測定点を固定しておいて、当該第1の測定点とは異なる第2の測定点を移動させながら、前記第1および第2の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第2の測定点と前記第1の測定点の垂直2等分面を特定する工程を、前記第1および第2の測定点の内の少なくとも一方の測定点の位置を変えて3回行うことによって、一つの交点で交わる三つの垂直2等分面を特定し、かつ前記交点の3次元の座標を特定し、当該交点の座標を前記部分放電の発生位置とすることを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項4】
前記電力機器の容器は6面体であり、当該容器が存在する直交座標系の3軸をx軸、y軸およびz軸とすると、
請求項1に記載の部分放電測定方法を用いて、
前記電力機器の容器のxz平面に平行な壁面において、第1の測定点を固定しておいて、当該第1の測定点とは異なる第2の測定点をx軸に平行に移動させながら、前記第1および第2の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第2の測定点と前記第1の測定点との間の中点のx座標を特定する第1の工程と、
前記電力機器の容器のyz平面に平行な壁面において、第3の測定点を固定しておいて、当該第3の測定点とは異なる第4の測定点をy軸に平行に移動させながら、前記第3および第4の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第4の測定点と前記第3の測定点との間の中点のy座標を特定する第2の工程と、
前記電力機器の容器のxz平面またはyz平面に平行な壁面において、第5の測定点を固定しておいて、当該第5の測定点とは異なる第6の測定点をz軸に平行に移動させながら、前記第5および第6の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第6の測定点と前記第5の測定点との間の中点のz座標を特定する第3の工程とを実施して、
前記x座標、y座標およびz座標から成る3次元の座標を前記部分放電の発生位置とすることを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項5】
前記電力機器の容器は円筒形であり、
請求項1に記載の部分放電測定方法を用いて、
前記電力機器の容器の側面において、第1の測定点を固定しておいて、当該第1の測定点とは異なる第2の測定点を前記容器の円周方向に移動させながら、前記第1および第2の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第2の測定点と前記第1の測定点との間の中点を通りかつ前記容器の中心軸を面内に含む縦平面を特定する第1の工程と、
前記電力機器の容器の側面において、第3の測定点を固定しておいて、当該第3の測定点とは異なる第4の測定点を前記容器の中心軸に平行に移動させながら、前記第3および第4の測定点で測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の位置が重なる点を探して、当該重なる点における前記第4の測定点と前記第3の測定点との間の中点を通りかつ前記縦平面に直交する横平面を特定する第2の工程と、
前記縦平面と前記横平面との交線が前記容器の側面と交わる2点において測定した同一の部分放電の信号波形の時間軸上の時間差から、前記交線上における部分放電の発生位置を特定する第3の工程とを実施して、
前記部分放電の3次元の発生位置を特定することを特徴とする部分放電位置標定方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の方法に使用される部分放電測定センサーであって、
前記電力機器の容器の壁面に近接させることによって当該壁面との間に静電容量を形成する対向電極と、
一端が前記対向電極に接続されており、他端が接地電位部に接続されるインピーダンス素子と、
前記対向電極が前記電力機器の容器の壁面に近接するように、当該部分放電測定センサーを前記電力機器の容器の壁面に着脱可能に取り付ける取り付け手段とを備えていることを特徴とする部分放電測定センサー。
【請求項7】
請求項6に記載の部分放電測定センサーと、
前記部分放電測定センサーの前記インピーダンス素子の両端に発生する電圧を測定する測定器と、
前記部分放電測定センサーと前記測定器とを接続する導体とを備えていることを特徴とする部分放電測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−149896(P2011−149896A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13025(P2010−13025)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【Fターム(参考)】