説明

部分置換された高分子ドーパントを用いて合成された伝導性高分子

【課題】単量体ドーパントの脱ドーピングを抑制し、機械的物性にも優れた伝導性高分子の合成方法を提供する。
【解決手段】伝導性高分子の合成の際に、部分的に置換基を持つ高分子をドーパントとして使用することに関し、多様な種類の高分子がドーパントとして使用できるように作用基で置換させた後、置換された作用基が伝導性高分子のドーパントの役割を行うようにし、或いは単量体にドーパントとして作用することが可能な置換基を持っているものを共重合することにより、部分的に置換基を持つドーパント高分子を製造して使用する。本発明で使用される部分的に置換されたドーパント高分子は、伝導性高分子の合成の際にまたは合成後の追加ドーピングの際にドーパントとして使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分的に置換基を持つ高分子をドーパントとして用いて伝導性高分子を合成する方法に係り、さらに詳しくは、所望の部位および含量で部分的に置換された部分は伝導性高分子のドーパントとして作用し、置換されていない残部は機械的物性を維持し或いは溶媒に対する溶解度を決定するようにする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、伝導性高分子は、もともとは絶縁体であるが、ドーピング過程を経て電気伝導性を示す。また、伝導性高分子は、その非局在化した二重結合(delocalized double bond)による強い相互作用によって溶解度が非常に低い特性を持っている。伝導性高分子を使用するためには、伝導度を示すようドーピング過程を経なければならない。また、伝導性高分子を静電気防止製品または電磁波遮蔽材料などに商業的に使用するためには、適切な溶解度を持たなければならない。それ故に、前記伝導度の向上および溶解度の増加のために使用されるものがドーパントであるが、化合物がドーパントとして作用するためには、伝導性高分子の主鎖にポラロン(polaron)を形成させなければならず、プラスまたはマイナスに帯電しなければならないので解離特性を持たなければならない。
【0003】
このために、伝導性高分子に使用されるためのドーパントとして、主に例えばリン酸、カルボン酸またはスルホン酸などの作用基を持つ化合物が使用されるが、これらの中でも、高い伝導度および優れたドーピング性のために最も多く使用されるものはスルホン酸作用基を持つ化合物である。これらのスルホン酸作用基を持つ化合物のうち、単分子化合物としては例えばドデシルベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸鉄(ferric toluenesulfonate、FTS)、トリフルオロメチルスルホン酸、およびブロモベンゼンスルホン酸などがあり、高分子ドーパントとしてはポリスチレンスルホン酸が最も多く使用される。ところが、これらのドーパントは幾つかの問題点を持っている。すなわち、単量体のスルホン酸、例えばドデシルベンゼンスルホン酸などは比較的ドーピングがよくなされる特性を持っているが、単量体であるから、使用中に伝導性高分子主鎖から脱落する特性があり、長時間使用する場合および温度を上昇させる場合にドーパントの脱ドーピング現象が伴うという欠点がある。また、100%スルホン化されたポリスチレンスルホン酸などの既存のドーパントは、分子量の大きいスルホン化スチレン高分子主鎖に伝導性高分子が連結されてドーピングされている形で市販されているが(Baytron P, Bayrton PH, HC Starck)、この際、2つの欠点が存在する。第一に、100%スルホン化されたスチレン高分子はその物性が低下する。これは、高分子は主鎖にイオンを持っていると、その物性が壊れ易い特性を示すためである。第二に、100%スルホン化された高分子は殆ど極性が高くなって水にのみ溶ける特性を示す。
【0004】
したがって、上述したような単量体ドーパントの脱ドーピングを抑制し、機械的物性にも優れた伝導性高分子を合成することが可能な技術の開発が求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる問題点を解決するためのもので、その目的とするところは、伝導性高分子のドーパントとして、部分的に置換されたオリゴマーまたは高分子を使用することにより、単量体ドーパントの使用に起因して脱ドーピングされることを抑制し、全体スルホン酸基を持つ高分子をドーパントとして用いる場合に比べて機械的物性に優れた伝導性高分子の合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、前記ドーパントが、部分的に置換基を持つ高分子、オリゴマー、または高分子およびオリゴマーであり、前記ドーパントを用いて合成された最終伝導性高分子は、水または有機溶媒に溶け且つ機械的物性に優れる、ドーパントを含む伝導性高分子を提供する。
【0007】
また、本発明は、高分子またはオリゴマーに部分的に置換基を形成してドーパントを形成する段階と、伝導性高分子単量体と、部分的にスルホン酸基を持つ高分子とを混合することにより、ドーピングされた伝導性高分子を合成し、前記合成された伝導性高分子を洗浄し乾燥させて未反応物を除去し、或いは伝導性高分子を合成した後、予め製造して精製しておいた、部分的にスルホン化された高分子を混合してドーピングする段階とを含む、伝導性高分子の合成方法を提供する。
【0008】
前記ドーパントを形成する方法として好ましいものは、スルホン化が可能な高分子にスルホン酸基を導入し、或いはスルホン酸作用基を持っている単量体を用いて、部分的にスルホン酸基を持つオリゴマーおよび高分子を共重合する方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、伝導性高分子を合成するとき、部分的に置換された作用基を持つ高分子をドーパントとして使用することにより、単量体高分子を使用するときに伴われる脱ドーピング現象を防止して安定している。また、本発明によれば、全体がスルホン酸などの作用基を持つ高分子の制限された溶解度および低い機械的物性と比較して、置換されていない部分の存在のためより優れた溶解度および高い機械的物性を持つ伝導性高分子を合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用されるドーパントは、作用基として従来から使用されてきたスルホン酸作用基、リン酸作用基、およびカルボン酸作用基などの大部分の作用基が部分的に置換されたオリゴマーおよび/または高分子である。本発明の主要特徴は、部分的に置換された作用基を持つオリゴマーおよび/または高分子をドーパントとして用いて伝導性高分子を合成することである。このような本発明によって合成された伝導性高分子は、脱ドーピング現象および機械的物性が、従来の単量体高分子を使用する場合に比べて向上するという利点がある。以下、最も多く使用されるスルホン酸作用基を例として説明する。
【0011】
本発明においては、ドーパントとして使用するために、部分的にスルホン化されたスルホン酸オリゴマーまたは高分子を製造する過程が非常に重要である。これは、前述したように、高分子チェーンの一部はスルホン化が進んでドーパントとして作用しなければならず、また、スルホン化が進んでいない一部は溶解度または機械的物性を決定する役割を行わなければならないためである。前記部分的にスルホン化された高分子を作る方法には、2つの方法が使用できる。
【0012】
第一に、予め作られた高分子にスルホン酸基を導入する方法が使用できる。このために使用できる高分子は、スルホン酸基を導入することが可能な全ての高分子の使用が可能である。特にスルホン化方法がよく知られているスチレン系またはエポキシ系二重結合を持つ高分子を使用すると、スルホン化反応がよく進んで高収率のスルホン化反応を引き起こすことができる。例えば、ポリスチレン(PS)高分子は、スチレンのパラ位置にスルホン化反応が可能であるが、tert−ブチルスチレン、1つまたは2つの塩素で置換されたスチレン、オルトまたはパラ位置にメチル基で置換されたスチレン高分子、およびスチレンを持つ様々な共重合物、例えばスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(SEBS)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン(SIS)、アクリロニトリロ−ブタジエン−スチレン(ABS)、スチレン−アクリロニトリル(SAN)、スチレン−メタクリル酸(SMA)などの全てのスチレンを含む共重合高分子の使用が可能であり、これらの高分子に他の化合物がグラフトされているものも使用が可能である。また、二重結合を持つC2〜C4の炭素が反復単位で用いられる高分子の使用が可能であり、これらの作用基を含む共重合物の使用も可能である。また、エポキシ基を持つ高分子、およびエポキシ基を含む共重合高分子の使用が可能である。また、エーテル基、ケトン基、アクリル基、またはマレイル基を持つ化合物のスルホン化も可能である。
【0013】
伝導性高分子にドーピングされなければならないため、部分的にスルホン化をさせる場合、ブロック形態の高分子を使用することがさらに好ましい。これは、部分的にスルホン化をさせるとき、全体スルホン化反応をさせるときよりスルホン酸基が一箇所に分布するから、さらに高いドーピング効率を示すことができるためである。
【0014】
第二に、スルホン酸基を持つ化合物を他の単量体と共重合する方法が使用できる。すなわち、スチレンのオルト、メタまたはパラ位置にスルホン酸基で置換されたスルホン酸スチレンを他の高分子と共重合することができる。また、前述した二重結合部位にスルホン酸基が導入された化合物、またはエポキシ基にスルホン酸基が導入された単量体を一般共重合物の製造の際に使用すると、スルホン酸基が部分的に導入されたオリゴマーまたは高分子を製造することができる。
【0015】
部分的なスルホン化程度は、高分子全体を基準としてブロック共重合高分子を含んで全体スルホン化程度の10〜80%であることが好ましいが、スルホン化反応が10%未満の場合にはスルホン酸基が少なくて有効なドーピングが行われず、スルホン化反応が80%超過の場合には機械的物性が脆弱になるという欠点がある。
【0016】
前述した第1の方法である、合成された高分子のスルホン化のためには、非常に様々な方法を用いてスチレン位置および二重結合部位のスルホン化反応を行わせることができる。例えば、最初に使用されたスルホン化方法は、−20℃でクロロホルムを用いてSOまたはHSOClの存在下で行うことであった。幾つかのスルホン化方法について詳細に考察すると、Turbak等の研究陣によって開発されたスルホン化方法は、ポリスチレンにスルホン基を導入する際に、常温でトリエチルリン酸塩とSOをジクロロエタン溶液で混合して使用することにより、均一なスルホン化過程を導入した。前記スルホン化過程は、従来のSOまたはHSOClのみを用いてスルホン化を行う場合、SOによるクロスリンク(crosslinking)過程の結果として、巨大分子量を持つ化合物が生成されて溶解度が非常に小さくなるが、この特性を効果的に防止したものであって、液状のスルホン化された高分子を得ることができる方法である。
【0017】
Makowskiとその研究陣は、50℃で1時間アセチルスルホン酸塩をスルホン化物質として用いたが、アセチルスルホン酸塩は反応直前に硫酸および無水酢酸をジクロロエタンで反応させてまずアセチルスルホン酸を製造した後、これをスルホン化導入物質として用いた。この方法も、分子量が増加していないスルホン酸高分子を得ることができる方法である。
【0018】
その他に、スルホン酸基を導入する方法は、クロロスルホン酸をクロロホルムに溶かしたスルホン化物質を使用する方法、硫酸と亜リン酸化合物との混合物を使用する方法、またはアセチル硫酸塩を使用する方法などを含む。
【0019】
前述したように非常に多様なスルホン酸導入物質が使用できる。そのスルホン化程度は添加するスルホン化導入物質および使用するオリゴマーまたは高分子の量と比例する。すなわち、所望の含量でスルホン酸基を導入するために、スルホン酸基を導入しようとするオリゴマーまたは高分子の分子量および単位ユニット当りのスルホン化導入%を計算してスルホン酸基導入物質を使用すればよい。
【0020】
前述したようにスルホン酸基を導入する過程が終わった後、結果物が液状として得られた場合、例えばNaOHなどの塩基性物質を添加することにより、中和過程を経ることができるが、この際、Naとスルホン酸基とが結合して中和するため、以後洗浄および乾燥過程を経る間に安定な状態に維持することができるという利点を持っている。
【0021】
また、スルホン化過程中に幾つかの注意すべき事項があるが、スルホン化反応のために添加したスルホン酸などの化合物が反応の後に合成物質に残留すると、洗浄し乾燥させる場合或いは大気中に放置する場合に水分と反応して高分子を腐食−燃焼させる役割を果たすから、未反応物の完全な除去のためには洗浄が非常に重要である。この際、合成された部分的にスルホン化が進んだ高分子から陽−陰イオン交換樹脂を用いてイオンを除去すると、未反応物が多量除去される効果を観察することができる。ここに使用される陽イオンまたは陰イオン系イオン交換樹脂は、使用したスルホン酸基および他のイオンを交換することができるものであればいずれも使用可能である。また、多数回洗浄および乾燥過程を繰り返すと、不純物を除去することができるが、水またはC1〜C4のアルコールを用いて洗浄および乾燥過程を繰り返し、この際、20〜80℃で真空乾燥させると、不純物を効果的に除去することができる。
【0022】
前記スルホン化可能な高分子は、前述した高分子に限定されず、スルホン化反応が進行可能な全ての高分子を使用することができる。スルホン化反応の程度も、全体スルホン化が可能な高分子を除いて、スルホン化が可能な共重合物の重量%によって調節することにより、スルホン化の進行が可能である。また、前記ドーパントとして使用するための高分子は、1,000〜1,000,000の分子量を持つことが好ましく、スルホン化反応の後、水および溶媒に対する溶解度のために分子量の調節された高分子を使用することが好ましい。
【0023】
第二に、前述したように部分的にスルホン化されたオリゴマーまたは高分子を得るためには、スルホン酸基を持っている単量体を他の単量体と共に共重合する方法が使用できる。
【0024】
例えば、スチレン−ブタジエン共重合物を製造する方法を使用する場合、一定の長さだけ均一にスチレン作用基を持つように合成し、或いはスチレンとブタジエンがランダムに配列されるように重合することが可能である。
【0025】
まず、ランダムに前記2つの単量体を位置させるためには、極性有機化合物またはナトリウム、カリウム、その類似化合物、または有機塩錯化合物などをスルホン化スチレンおよびブタジエンと共存させながら反応を行わせなければならない。また、有機リチウム化合物およびルイス塩基を同時に使用すると、ランダムに配列されたスルホン化スチレンブタジエン共重合物を製造することができる。また、乳化重合法またはチーグラー・ナッタ触媒を用いて重合する方法、およびリチウム系開始剤を使用するが、カップリング剤を添加してカップリング反応によって加工性、耐収縮性、ゲル生成防止などいろいろの物性を向上させた共重合物の製造も可能である。
【0026】
また、前述したようにスルホン化されたスチレンブタジエン共重合物の製造の際に、核酸またはイソプレン化合物を用いて分子量調節剤の役割を行わせる方法も使用可能である。
【0027】
前述した方法は、スチレン側にスルホン酸基が導入された場合に対する重合方法であり、逆にブタジエンなどの二重結合を持っている化合物にスルホン酸基を導入した後、スチレン化合物と共重合物を製造することができる。すなわち、スルホン化ブタジエン、スルホン化イソプレンなどの化合物を使用すると、部分的にスルホン化された共重合物を製造することができ、この際、重合方法としては前述した共重合物の製造方法が使用可能である。
【0028】
第二に、ランダムに2つ以上の物質が配列されるように合成する前記の共重合物製造方法の他に規則的に作用基が存在するように重合する方法を使用することができる。すなわち、炭化水素溶媒を使用し、重合調節剤としてテトラヒドロフランなどの化合物を使用しながら反応物を一定の間隔で注入すると、ブロック形態の共重合物を製造することができる。
【0029】
その他に、共重合物を製造する方法はいずれも使用可能であるが、スルホン酸、リン酸およびカルボン酸の作用基を持つ単量体を用い、様々な種類の重合方法を用いると、所望の形態で部分的にスルホン化された共重合物を製造することができる。ドーピングの効果を増進させ且つ部分的に物性を実現するためには、ブロック形態の共重合物を製造することが好ましいが、ドーピングレベルが1つのユニット当り全て(100%)なされるのではないから、使用する伝導性高分子単量体の一般なドーピング効率および大きさによって、ブロック形態であれランダムな形態であれ部分的にスルホン化された高分子の使用が可能である。
【0030】
本発明において伝導性高分子を合成するためのモノマーは、アニリン、ピロール、チオフェン、フランなどが使用可能である。また、水および溶媒に対する溶解度を増加させるために多様な作用基で置換された誘導体単量体も使用可能であるが、例えばスルホン酸基、アミノ基、ヒドロキシル基、C1〜C4のアルキルヒドロキシル基、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C12のアルキル基およびC1〜C4のアルキレンジオキシ基が置換された環状置換体などがこれに該当する。また、有機溶剤に対する溶解度の増加のために前記環状置換体の一つの炭素位置にC1〜C12のアルキル基、エーテル基、エステル基、ウレタン基およびスルホン酸基が置換された単量体の使用が可能である。これらの中でも、3、4番の位置にエチレンジオキシ基が置換されたチオフェンは、バンドギャップが低くて光学的特性に優れるし、3、4番の位置が置換されていて2、5番の反応位置で反応がよく行われるので、その収率が高く、熱安定性にも優れるという特性があってその使用が好ましい。また、その他にも、水および溶剤に対する溶解度を増加させるためには、エチレンのいずれか1つの炭素にスルホン酸、エーテル、ウレタン、エステル基が置換された3、4−アルキレンジオキシチオフェンの使用が好ましい。
【0031】
前述したスルホン酸高分子および伝導性高分子を合成するための酸化剤は、ペルオキシスルホン酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、鉄(III)および塩化水素酸、スルホン酸、硝酸、リン酸などの鉄−無機酸塩、鉄(III)およびパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの鉄−有機酸塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、過ホウ酸、並びに銅−有無機酸塩などが使用可能である。特に酸化剤が酸化剤の役割だけでなくドーパントとして作用すると、本発明で合成して使用する高分子ドーパントである、部分的にスルホン化された高分子のドーピング力が低下するために注意すべきである。好ましくは、前記酸化剤のうち、過硫酸アンモニウム((NH)、過硫酸ナトリウム(Na)、過硫酸カリウム(K)などは、合成反応の後、水とアルコールによって洗浄可能なので使用が好ましい。また、例えばFTS(ferric toluenesulfonate)などの酸化剤を少量使用すると、反応速度が速いという利点はあるが、部分的にスルホン化された高分子のドーピング役割を妨害するから、全体酸化剤に対して30重量部未満で使用することが好ましい。
【0032】
前述した部分的にスルホン酸基を持つ高分子、伝導性高分子単量体および酸化剤を溶媒に溶かして合成するが、この際、使用可能な溶媒は、水、C1〜C4のアルコール、アセトン、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、例えばN−メチル−2−ピロリジノンなどのケトン系、アミド系、およびグリコール系の溶媒が使用可能である。溶媒を選定する最も重要なポイントは部分的にスルホン酸基を持つ高分子および酸化剤が溶ける溶媒でなければならない。このために、水に混じるグリコール系溶媒および水を混合して合成可能であり、トルエンとアルコールとの混合溶媒などが使用可能である。前記伝導性高分子の合成はこれらの溶媒の種類に限定されず、使用する部分的にスルホン化された高分子および酸化剤が溶ける溶媒および混合溶媒はいずれも使用可能である。
【0033】
また、前記部分的に置換されたスルホン酸高分子ドーパントの他に、カンファースルホン酸、ドデシルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などの単量体ドーパントを少量添加すると、合成の際に酸価を増加させて反応速度が速くなり、収率が増加する。ところが、主なドーパントは部分的にスルホン化された高分子なので、単量体ドーパントは部分的にスルホン化された高分子ドーパントの量に対して0.1〜1重量部で使用することが好ましい。
【0034】
以下、本発明を次の比較例、実施例によって説明する。ところが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0035】
<比較例1>
100%スルホン化されたポリスチレンスルホン酸(PSSA)をドーパントとして用い、過硫酸アンモニウム(APS)を開始剤としてポリエチレンジオキシチオフェンを重合したものであって、その製造方法は次の通りである。まず、250mlの丸底フラスコにポリスチレンスルホン酸(PSSA)25重量部、過硫酸アンモニウム(APS)5重量部、エチレンジオキシチオフェン(EDOT)15重量部、および水55重量部を順序通りに仕込み、25℃の温度で24時間磁石を用いて攪拌することにより、ポリスチレンスルホン酸でドーピングされたポリエチレンジオキシチオフェンを重合して製造した。
【0036】
前述したように重合されたポリエチレンジオキシチオフェンは、1ミクロンのフィルターを用いて1ミクロン未満の粒子サイズを持たせた後、さらにイオン交換樹脂(Lewatit MonoPlus S100)を通過させることにより、残留する開始剤イオンを除去した。この際、固体状として得られたポリエチレンジオキシチオフェンを水とメタノールに10重量比で溶解(分散)させる場合、全てよく溶解(分散)することを確認した。また、ポリエチレンジオキシチオフェンをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにコートした場合、10E3〜10E4Ω/□(スクエア)の表面抵抗を示すことを確認した。
【0037】
その他の物性評価のための試料は、まず、前述の方法で重合されたポリエチレンジオキシチオフェン5重量部、ポリウレタン系バインダー25重量部、イソプロピルアルコール30重量部、および水40重量部を混合して溶液を作った後、これをPETフィルムに約1ミクロンの厚さにコートし、80℃のオーブンで1分間乾燥させることにより製造した。この際、フィルムの表面抵抗は10E5Ω/□であり、コーティング面を綿棒で5回往復摩擦させてから表面抵抗を測定した結果、摩擦部分の表面抵抗は10E12Ω/□を示した。
【0038】
<比較例2>
開始剤としてトルエンスルホン酸鉄(FTS)と過硫酸アンモニウム(APS)を50:50の重量比で混合して使用した以外は、比較例1と同様にした。前述のように重合されたポリエチレンジオキシチオフェンを水とメタノールに溶解(分散)させた結果、水にはよく溶解するが、メタノールには溶解しないことが観察された。
【0039】
<実施例1>
30%のスチレン含量を持つスチレン−ブタジエン−スチレン共重合物(SBS)をブタジエン部分のみを部分的にスルホン化させた後、これをドーパントとして用い、過硫酸アンモニウムを開始剤としてポリエチレンジオキシチオフェンを製造したものであって、その製造方法は次の通りである。部分的にスルホン化されたスチレン−ブタジエン−スチレンの製造のために、まず、窒素雰囲気中でクロロスルホン酸を1,4−ジオキサンに1滴ずつ滴下し、クロロスルホン酸と1,4−ジオキサンが10:1の割合を持つようにスルホン化剤を製造した。30%のスチレン含量を持つスチレン−ブタジエン−スチレン共重合物を1,4−ジオキサンに10重量比で溶解させた後、ここに前記スルホン化剤を1滴ずつ滴下しながら常温で3時間磁力を用いて攪拌することにより、スチレン−ブタジエン−スチレンのブタジエン部分が60%スルホン化されるようにした。磁力攪拌の後、前記溶液に一定量の水酸化ナトリウム水溶液とイソプロピルアルコールを添加することにより反応を終結し、これを固形化した後、洗浄、乾燥させることにより、部分液にスルホン化されたスチレン−ブタジエン−スチレンを製造した。
【0040】
前記部分的にスルホン化されたスチレン−ブタジエン−スチレンをドーパントとし、過硫酸アンモニウムを開始剤としてポリエチレンジオキシチオフェンを製造する過程は比較例1と同様にした。このように製造されたポリエチレンジオキシチオフェンを水とメタノールに10重量比で溶解(分散)させる場合、全てよく溶解(分散)することを確認した。また、ポリエチレンジオキシチオフェンをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにコートした場合、10E4〜10E5Ω/□の表面抵抗を示すことを確認した。
【0041】
また、前記ドーパントを用いて比較例1のようにポリウレタン系バインダーと混合してコートした場合、表面抵抗は10E6Ω/□であり、コーティング面を綿棒で5回往復摩擦させてから表面抵抗を測定した結果、摩擦部分の表面抵抗は10E9Ω/□であった。
【0042】
<実施例2>
開始剤としてトルエンスルホン酸鉄(FTS)と過硫酸アンモニウム(APS)を50:50の重量比で混合して使用した以外は、実施例1と同様にした。前述のように重合されたポリエチレンジオキシチオフェンを水とメタノールに溶解(分散)させた結果、水にはよく溶解し、メタノールには約40%程度溶解することが観察された。
【0043】
<実施例3>
スチレン−ブタジエン−スチレン共重合物のブタジエン部分を100%スルホン化した以外は実施例2と同様にした。この際、水とメタノールに溶解(分散)させた結果、水にはよく溶解し、メタノールには約80%程度溶解することが観察された。
【0044】
<実施例4>
スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合物のスチレン部分を100%スルホン化し、これをドーパントとして使用した以外は、実施例1と同様にした。
【0045】
前述したようにスルホン化されたスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンをドーパントとし、過硫酸アンモニウムを開始剤として比較例1と同一にポリエチレンジオキシチオフェンを製造した結果、水とメタノールの両方共によく溶解(分散)することを確認し、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムにコートした場合、10E4〜10E5Ω/□の表面抵抗を示すことを確認した。
【0046】
また、前記ドーパントを用いて比較例1のようにポリウレタン系バインダーと混合してコートした場合、表面抵抗は10E6Ω/□であった。また、コーティング面を綿棒で5回往復摩擦させてから表面抵抗を測定した結果、摩擦部分の表面抵抗は10E7Ω/□であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係る部分置換された高分子ドーパントを用いて合成された伝導性高分子は、従来の伝導性高分子に代えていろいろの分野で使用できる。例えば、本発明に係る伝導性高分子は、多様なフィルムやシートなどにおいて帯電防止コーティング層として形成されて使用でき、伝導性静電気防止製品または電磁波遮蔽材料にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントを含む伝導性高分子において、
前記ドーパントが、部分的に置換基を持つ高分子、オリゴマー、または高分子およびオリゴマーであり、前記ドーパントを用いて合成された最終伝導性高分子は、水または有機溶媒に溶解し且つ機械的物性に優れることを特徴とする、部分置換されたドーパントを含む伝導性高分子。
【請求項2】
前記伝導性高分子の重合のために使用される単量体は、アニリン、ピロール、チオフェン、フラン、3,4−エチレンジオキシチオフェンおよびこれらの置換された単量体であって、スルホン酸、エーテル、エステル、ウレタン、アミノ、ヒドロキシ、C1〜C4のアルキレンヒドロキシ、C1〜C4のアルコキシ、C1〜C12のアルキル、およびC1〜C4のアルキレンジオキシ基が置換されたこれらの単量体の誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の部分置換されたドーパントを含む伝導性高分子。
【請求項3】
前記伝導性高分子の重合のために使用される酸化剤は、ペルオキシスルホン酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、鉄(III)および塩化水素酸、スルホン酸、硝酸、リン酸などの鉄−無機酸塩、鉄(III)およびパラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの鉄−有機酸塩、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、重クロム酸カリウム、過ホウ酸、並びに銅−有無機酸塩であり、これらは単独でまたは組み合わせて使用することを特徴とする、請求項1または2に記載の部分置換されたドーパントを含む伝導性高分子。
【請求項4】
前記酸化剤の他に、トルエンスルホン酸鉄(ferric toluenesulfonate)酸化剤を全体酸化剤に対して30重量部未満で添加することにより、反応速度を向上させることを特徴とする、請求項3に記載の部分置換されたドーパントを含む伝導性高分子。
【請求項5】
前記部分置換されたドーパントの他に、単量体ドーパントを、前記部分置換されたドーパントの量に対して0.1〜1重量部さらに含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の部分置換されたドーパントを含む伝導性高分子。
【請求項6】
伝導性高分子を合成するために使用されるドーパントにおいて、
前記ドーパントが、部分的に置換基を持つ高分子、オリゴマー、または高分子およびオリゴマーであって、前記ドーパントを用いて合成された最終伝導性高分子は、水または有機溶媒に溶解し且つ機械的物性に優れることを特徴とする、伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項7】
部分的に置換基を持つ高分子またはオリゴマーが、合成された高分子またはオリゴマーに置換基を付与して形成されたことを特徴とする、請求項6に記載の伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項8】
前記置換基は、スルホン酸基、リン酸基、またはカルボン酸基であることを特徴とする、請求項6または7に記載の伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項9】
前記スルホン酸基を持つ高分子の系列は、スチレン系、エポキシ系、カルボキシル系、エーテル系、ケトン系、アルデヒド系、および二重結合を持つ全ての高分子が使用可能であることを特徴とする、請求項8に記載の伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項10】
部分的に置換基を持つ高分子またはオリゴマーが、置換基の導入された単量体を重合して共重合高分子またはオリゴマーの形で形成されることを特徴とする、請求項6に記載の伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項11】
前記置換基は、スルホン酸基、リン酸基、またはカルボン酸基であることを特徴とする、請求項10に記載の伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項12】
部分的に置換基を持つ共重合高分子の製造において、
共重合に使用される単量体は、スルホン酸基、カルボン酸基、またはリン酸基を持つ全ての単量体が使用可能であるとを特徴とする、請求項11に記載の伝導性高分子の合成に使用される部分置換されたドーパント。
【請求項13】
高分子またはオリゴマーに部分的に置換基を形成してドーパントを形成する段階と、
伝導性高分子単量体と、部分的にスルホン酸基を持つ高分子とを混合することにより、ドーピングされた伝導性高分子を合成し、前記合成された伝導性高分子を洗浄し乾燥させて未反応物を除去し、或いは伝導性高分子を合成した後、予め製造して精製しておいた、部分的にスルホン化された高分子を混合してドーピングする段階とを含むことを特徴とする、伝導性高分子の合成方法。
【請求項14】
前記ドーパントを形成する段階は、スルホン化が可能な高分子にスルホン酸基を導入し、或いはスルホン酸作用基を持っている単量体を用いて、部分的にスルホン酸基を持つオリゴマーおよび高分子を共重合することを特徴とする、請求項13に記載の伝導性高分子の合成方法。

【公表番号】特表2009−503184(P2009−503184A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523808(P2008−523808)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【国際出願番号】PCT/KR2006/003003
【国際公開番号】WO2007/013787
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(505356169)
【Fターム(参考)】