説明

配向カーボンナノチューブ連続合成方法及び同連続合成装置

【課題】配向カーボンナノチューブを安定に大量合成することができる配向カーボンナノチューブ連続合成方法及び同連続合成装置を提供する。
【解決手段】触媒液を塗布して乾燥させて基体表面に触媒層を形成する塗布乾燥工程と、前記触媒層を加熱して前記基体表面に触媒粒子層を有する触媒基体を形成する触媒基体形成工程と、前記配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱された原料ガスを前記触媒基体の表面に接触させて配向カーボンナノチューブを合成する合成工程と、前記配向カーボンナノチューブを回収する回収工程を含み、前記合成工程において、前記触媒基体の表面に接触する前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記合成温度以上のキャリアガスが供給され、前記配向カーボンナノチューブを連続的又は断続的に合成する配向カーボンナノチューブ連続合成方法及び同連続合成装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配向カーボンナノチューブを連続的又は断続的に合成する方法及び装置に関し、更に詳細には、連続的又は断続的に基体を搬送しながら、基体上に触媒粒子層を形成し、この触媒基体上に加熱された原料ガスを供給して配向カーボンナノチューブを合成する連続合成方法及び連続合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配向カーボンナノチューブ(「ブラシ状CNT」とも称される)を合成する方法として、触媒を利用して炭化水素などの原料ガスを分解し、触媒表面にカーボンナノチューブを成長させる触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)がある。国際公開 第WO2008/007750号(特許文献1)、末金 皇、長坂岳志、 野坂俊紀、中山喜萬 著、応用物理13、第73巻、(2004)第5号(非特許文献1)には、前記CCVD法により触媒基板表面にブラシ状CNTを成長させる方法が記載されている。非特許文献1では、原料ガスのアセチレンとキャリアガスのヘリウムを用いて混合ガスを触媒基体上に供給しながら、触媒を抵抗加熱方式による伝導電熱で加熱して配向カーボンナノチューブを製造する方法が記載されている。
【0003】
本願における「配向カーボンナノチューブ」とは、カーボンナノチューブが基体上に一定方向に林立したものであり、基体上に一定方向に成長したカーボンナノチューブを指す。一般的な配向カーボンナノチューブの合成過程は、初期の急速な成長による第1成長段階と、比較的緩やかに連続的に成長する第2成長段階があることが知られている。カーボンナノチューブの成長メカニズムについては、様々な研究が為されており、非特許文献1では、上述の2段階成長による成長メカニズムが説明されている。
【0004】
図12は、非特許文献1に記載される配向カーボンナノチューブ(非特許文献1では、「ブラシ状CNT」と称されている)の平均高さと原料ガス供給時間の相関図である。原料ガスとしてCガスが用いられ、タイプ1〜3では、キャリアガスに対するC濃度の時間変化が異なっており、タイプ1〜3の順にC濃度の時間変化が緩やかになっている。タイプ1〜3の全てにおいて、Cガスの供給時間の経過に伴って、カーボンナノチューブが急速に成長する第1段階から成長速度が緩やかな第2段階に移行していることが示されている。但し、タイプ1〜3では、成長した配向カーボンナノチューブの平均高さに違いがあり、非特許文献1では、キャリアガスに対するC濃度の時間変化の差によるものであることが述べられている。しかしながら、配向カーボンナノチューブの合成条件として、原料ガス濃度の時間変化や分布に関しては、明確な情報が得られていなかった。
【0005】
また、配向カーボンナノチューブを大量合成するための方法や装置の開発が行われており、特開2003−26410号公報(特許文献2)及び国際公開第WO03/073440号(特許文献3)には、配向カーボンナノチューブを成長させる触媒基体を回転又は移動させながら、連続的に配向カーボンナノチューブを合成する方法が記載されている。
【0006】
図13は、特許文献3に記載される従来の配合カーボンナノチューブ製造装置102である。この装置102では、駆動ドラム110と従動ドラム156によって回転される無端ベルト112の上側上流部において、無端ベルト112の上面にFe錯体の溶液をスプレー116で塗布したのち、加熱して触媒粒子114を形成している。更に、加熱炉106と、その内部にて無端ベルト112の下に配された加熱器134からなる化学蒸着ゾーンに、カーボンナノチューブの原料ガスとしてアセチレンガスが供給されている。触媒粒子114を下から加熱器134で加熱して、触媒粒子114を核としてカーボンナノチューブ(CNT)を合成している。次に、無端ベルト112上のカーボンナノチューブがベルトの移動により、従動ドラム110の転写ゾーンへ達し、導電性フィルム104を加熱器105で軟化温度以上かつ溶融温度以下に加熱することにより、カーボンナノチューブをフィルム表面に転写している。しかしながら、連続的に配向カーボンナノチューブの合成条件や転写に関しての具体的で明確な情報が開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO2008/007750号
【特許文献2】特開2003−26410号公報
【特許文献3】国際公開第WO03/073440号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】末金 皇、長坂岳志、 野坂俊紀、中山喜萬 著、応用物理13、第73巻、(2004)第5号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2や図13に示した特許文献3の配向カーボンナノチューブ連続合成方法や装置では、触媒粒子114などからなる触媒層が形成された基体(図11では、無端ベルト112)を移動させて、連続的に配向カーボンナノチューブを合成する場合、その合成条件や好適な合成条件を保持する方法が明らかとなっておらず、配向カーボンナノチューブを安定に大量合成することが困難であった。従って、配向カーボンナノチューブの合成において、触媒を付けた基体や反応場のガス雰囲気を所定の温度に昇温する時間、製造した配向カーボンナノチューブを回収する時間、いわゆる製造時のタクトタイムを短縮することができないために生産性が上がらず、製造コストの低減を図ることが難しい問題があった。
更に、非特許文献1において、触媒化学的気相成長法(CCVD法、Catalyst Chemical Vapor Deposition)では、昇温途中の触媒基体と原料ガスが接触すると、カーボンナノチューブの成長が阻害されることから、配向性が低下することが記載されているが、従来の配向カーボンナノチューブ連続合成装置では、連続的又は断続的に触媒基体と原料ガスが供給されるため、昇温中の接触を防止することが困難であった。
【0010】
従って、本発明においては、連続的に配向カーボンナノチューブを高効率に合成する場合に合成条件を容易に再現することができ、ナノリスクを軽減しつつ、利用しやすい形態で連続的に配向カーボンナノチューブを安定に大量合成することができる、配向カーボンナノチューブ連続合成方法及び同装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、触媒粒子層が形成された1つ以上の触媒基体を連続的又は断続的に搬送しながら触媒基体表面に配向カーボンナノチューブを成長させる配向カーボンナノチューブ連続合成方法において、触媒液を塗布して乾燥させて基体表面に触媒層を形成する塗布乾燥工程と、前記触媒層を加熱して前記基体表面に触媒粒子層を有する触媒基体を形成する触媒基体形成工程と、前記配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱された原料ガスを前記触媒基体前記触媒基体の表面に接触させて配向カーボンナノチューブを合成する合成工程と、前記配向ナノチューブを回収する回収工程を含み、前記合成工程において、前記触媒基体の表面に接触する前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記合成温度以上のキャリアガスが供給される配向カーボンナノチューブ連続合成方法である。
【0012】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記原料ガスの濃度が配向カーボンナノチューブを成長させる所定濃度以上に設定された前記触媒基体上の合成濃度領域が、前記合成温度以上に設定された前記触媒基体上の合成温度領域より狭く設定される配向カーボンナノチューブ連続合成方法である。
【0013】
本発明の第3の形態は、第1又は第2の形態において、前記塗布乾燥工程で酸化性ガスを供給しながら又は酸化性ガス雰囲気下にある前記触媒層を加熱して前記触媒層の表面に酸化膜を形成する配向カーボンナノチューブ連続合成方法である。
【0014】
本発明の第4の形態は、第1〜第3のいずれかの形態において、前記基体がベルト状基板であり、前記回収工程において、前記ベルト状基板上に付着した状態で前記配向カーボンナノチューブを回収する配向カーボンナノチューブ連続合成方法である。
【0015】
本発明の第5の形態は、第1〜第3のいずれかの形態において、前記回収工程は、前記配向カーボンナノチューブを転写部材に転写して剥離する転写回収工程である配向カーボンナノチューブ連続合成方法である。
【0016】
本発明の第6の形態は、第5の形態において、前記転写回収工程が、前記配向カーボンナノチューブ基体と前記転写部材とを同速度で搬送しながら、前記転写部材をカーボンナノ構造物基体表面に面接触させて接着する接着工程と、前記転写部材の表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面のなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離して、前記カーボンナノチューブを前記転写部材に転写する転写工程を含む配向カーボンナノチューブ連続合成方法である。
【0017】
本発明の第7の形態は、配向カーボンナノチューブを成長させる基体を搬送する基体搬送手段と、前記基体の表面に触媒液を塗布して乾燥させて触媒層を形成する塗布乾燥部と、前記原料ガス及びキャリアガスを前記配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱する加熱手段と、前記原料ガス及び前記キャリアガスを前記触媒基体の表面に供給する原料ガス供給手段と、前記触媒層を加熱して触媒粒子層が形成された触媒基体の表面に原料ガスを供給して前記配向カーボンナノチューブを合成する合成部と、前記配向カーボンナノチューブ基体から配向ナノチューブを回収する回収部から構成され、前記合成部に前記加熱手段と前記原料ガス供給手段が配設され、前記原料ガス供給手段が1つ以上の原料ガス供給口と前記原料ガス供給口の周囲又はその前段と後段に設けられた2つ以上のキャリアガス供給口からなり、前記配向カーボンナノチューブを連続的又は断続的に合成する配向カーボンナノ連続合成装置である。
【0018】
本発明の第8の形態は、第7の形態において、前記合成部に搬送された前記触媒基体の表面に前記原料ガスの濃度が前記配向カーボンナノチューブを成長させる所定濃度以上に設定された合成濃度領域が形成され、且つ前記合成濃度領域が前記合成温度以上に設定された前記触媒基体表面の合成温度領域より狭くなるように前記原料ガス供給口と前記キャリアガス供給口が配設される配向カーボンナノ連続合成装置である。
【0019】
本発明の第9の形態は、第7又は第8の形態において、前記塗布乾燥部に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給手段が設けられる配向カーボンナノ連続合成装置である。
【0020】
本発明の第10の形態は、第7、第8又は第9の形態において、前記配向カーボンナノチューブを転写する転写部材及び前記配向カーボンナノチューブ基体を同速度で搬送しながら接触させ、前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を接触状態で所定距離搬送して接着する接着手段と、前記転写部材表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面がなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離する分離手段が前記回収部に設けられる配向カーボンナノチューブ連続合成装置である。
【0021】
本発明の第11の形態は、第10の形態において、前記転写部材が粘着テープであり、前記粘着テープの粘着力が1〜100N/10mmの範囲にある配向カーボンナノチューブ連続合成装置である。
【0022】
本発明の第12の形態は、第10又は第11の形態において、前記分離角が30°〜45°の範囲にある配向カーボンナノチューブ連続合成装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1の形態によれば、前記合成工程において、前記触媒基体の表面に接触する前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記合成温度以上のキャリアガスが供給されるから、原料ガスが拡散して昇温途中の触媒基体に接触することを抑制することができる。前述のように、昇温途中の触媒基体と原料ガスが接触すると合成される配向カーボンナノチューブの配向性が低下することが確認されていた。第1の形態によれば、前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記キャリアガスが供給されて原料ガスの拡散が抑制されることにより、原料ガスが合成温度に到達してない昇温途中の触媒基体に接触することを防止することができ、配向性の高い配向カーボンナノチューブ(以下では、「高配向カーボンナノチューブ」とも称する)を合成することができる。また、前記キャリアガスは、少なくとも触媒基体表面に接触するまでに原料ガスと共に合成温度以上に加熱されており、拡散して冷却された合成温度に到達していない原料ガスが触媒基体に接触することを抑制することができる。
前記キャリアガスは、触媒基体表面上に供給される原料ガスを挟んで、その前段と後段に供給しても良く、前記原料ガスの周囲を完全に囲うようにキャリアガスを供給すれば、より安定な合成濃度領域を形成することができる。
【0024】
前記塗布乾燥工程において、触媒液を塗布して乾燥させて基体表面に触媒層を形成した後に、前記触媒基体形成工程において、前記触媒層を加熱して前記基体表面に触媒粒子層を有する触媒基体を形成するから、粒径が比較的均一な触媒粒子層を形成することができる。前記触媒液は、触媒金属を含む金属化合物を分散又は溶解させた液であり、この液を塗布して乾燥させることにより、基体表面に極めて薄い触媒層を形成することができる。触媒液の塗布には、スプレー法やインクジェト法等が用いられ、触媒液を噴霧または印刷される。噴霧用の気体の流速、塗膜形成液の流量及びノズルの形状などを制御することにより、塗膜の膜厚などの制御を行うことができる。また、基体表面が平面以外の凹凸形状の場合においても、塗膜を付着させることができる。スプレー印刷では、マスキングなどを使用して、任意のパターンを基体表面に印刷することができる。従って、前記基体との濡れ性に富んだ溶媒に前記金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を用いることが好ましい。更に、前記触媒基体形成工程において、触媒層を加熱して粒子化することにより、微小な粒径を有すると共に、均一な粒径を有する触媒粒子層を形成することができる。従って、第1の形態の合成条件との相乗効果により、高配向でより均一な直径を有する配向カーボンナノチューブを合成することができる。また、前記触媒金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)等の遷移金属であり、特に、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく、また、これらの金属のうち1種又は2種以上の混合物であってもよい。更に、前記金属化合物は、有機金属塩又は無機金属塩である。有機金属塩には、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等が含まれ、また無機金属塩には硝酸塩、オキソ酸塩等が含まれる。また、前記金属化合物は、これらの金属塩のうち1種又は2種以上の混合物であっても良い。
【0025】
更に、本発明の第1の形態によれば、前記配向ナノチューブを回収する回収工程を含むことから、合成された配向カーボンナノチューブを製品として回収することができる。前記基体には、連続体又は1つ以上の基板を配列した配列基体を用いることができ、連続体表面又は配列された基板表面に触媒液が塗布され、これを乾燥させることによって触媒層が形成される。前述のように、前記触媒基体形成工程において、前記触媒層が加熱され、触媒粒子層が形成されて触媒基体となる。本発明では、基体が連続的又は断続的に供給されるから、順次又は連続的に触媒基体を形成して供給することができ、配向カーボンナノチューブが連続的に又は断続的に合成されて回収される。回収時には、合成された配向カーボンナノチューブを剥離して回収しても、触媒基体に固着した状態で回収しても良い。また、密集した配向カーボンナノチューブの一部を引き上げることにより、糸状のカーボンナノチューブ集合体を形成することができ、これを紡糸することによって配向カーボンナノチューブを回収することができる。また、連続体からなる基体や配列基体に配列される基板としては、前記合成温度以上での耐熱性を有するセラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物等の材料が好ましく、例えば、石英板、シリコン基板、シリコンウエハ、水晶板、溶融シリカ板、サファイヤ板、ステンレス板等を使用することができる。
【0026】
本発明の第2の形態によれば、前記原料ガスの濃度が配向カーボンナノチューブを成長させる所定濃度以上に設定された前記触媒基体上の合成濃度領域は、前記合成温度以上に設定された前記触媒基体上の合成温度領域より狭く設定されるから、高配向カーボンナノチューブをより確実に合成することができる。本発明者らは、鋭意研究の結果、前記合成温度以上に設定された原料ガスを短時間に好適な濃度で供給して高配向カーボンナノチューブを合成する方法を完成するに到った。
前記合成濃度領域とは、(1)原料ガスの濃度が配向カーボンナノチューブの合成を行うことが可能な濃度(単に「合成濃度」とも称している)に達した触媒基体表面上の領域、(2)触媒基体表面上における原料ガスの濃度分布若しくはその半値全幅の範囲に含まれる領域、又は(3)それらの条件の両方を満たす領域である。触媒基体表面上における原料ガス濃度が急峻に増大すれば、前記(1)〜(3)の条件を満たす各合成濃度領域は、触媒基体表面上における略同じ範囲の領域を示すことになる。また、合成温度領域は、前記合成濃度以上の原料ガスから配向カーボンナノチューブが合成される温度(単に「合成温度」とも称している)に到達している触媒基体表面上の領域を示している。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、触媒基体上の合成濃度領域が前記合成温度領域より狭く設定されるから、触媒基体に接触している合成濃度以上の原料ガスは、略完全に前記合成温度に到達しており、前記合成濃度以上の原料ガスが昇温中に接触することがない。従って、触媒基体上には、原料ガスの濃度と温度に関する合成条件を満足する領域が保持されるから、前記触媒基体を移動させて原料ガスが新たな触媒基体表面に接触し、配向カーボンナノチューブが合成される。即ち、前記合成工程において、加熱された原料ガスを触媒基体上に供給して、安定に高配向カーボンナノチューブを連続的又は断続的に合成することができる。また、前記合成濃度領域では、その領域外から原料ガス濃度が急峻に増大することが好ましく、濃度と温度に関する合成条件を一様に満足する原料ガスの領域が形成され易く、より確実に高配向カーボンナノチューブを合成することができる。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記塗布乾燥工程で酸化性ガスを供給しながら又は酸化性ガス雰囲気下にある前記触媒層を加熱して前記触媒層の表面に酸化膜を形成するから、前記触媒基体形成工程において、合成工程における昇温速度に応じた好適な粒径及び粒径分布を有する触媒粒子層を形成することができる。触媒層の上面に酸化膜を形成することにより、加熱状態における触媒層の粒子化が比較的均一かつ再現性よく行われることが確かめられており、この触媒粒子層を有する触媒基体によって配向カーボンナノチューブを合成することにより、その配向性を向上させることができる。
【0029】
本発明の第4の形態によれば、前記基体がベルト状基板であり、前記回収工程において、前記ベルト状基板上に付着した状態で前記配向カーボンナノチューブを回収することで、合成された配向カーボンナノチューブを簡単に回収することができる。前記ベルト状基体は、ステンレスなどの金属材料又は樹脂材料など、可撓性の材料から形成されることが好ましく、配向カーボンナノチューブが付着するベルト状基板を簡単に巻き取って回収することができる。
【0030】
本発明の第5の形態によれば、前記回収工程は、前記配向カーボンナノチューブを転写部材に転写して剥離する転写回収工程であるから、配向カーボンナノチューブの使用目的に応じて、種々の転写部材に配向カーボンナノチューブを転写して回収することができる。例えば、導電性の転写部材を用いた場合、転写部材に固着させた状態で配向カーボンナノチューブを電子源等の電子部品として用いることができる。
【0031】
本発明の第6の形態によれば、前記転写回収工程が前記配向カーボンナノチューブ基体と前記転写部材とを同速度で搬送しながら、前記転写部材をカーボンナノ構造物基体表面に面接触させて接着する接着工程を含むから、配向カーボンナノチューブを転写部材に強固に固着させることができる。前記転写部材は、粘着性の部材や比較的低温の加熱によって軟化する部材が用いられ、これらを面接触させることにより、より確実に転写することができる。更に、前記転写部材の表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面のなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離して、前記カーボンナノチューブを前記転写部材に転写するから、前記触媒基体から配向カーボンナノチューブを確実に分離すると共に、連続的な転写を円滑に行うことができる。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、前記原料ガス供給手段が1つ以上の原料ガス供給口と前記原料ガス供給口の周囲又はその前段と後段に設けられた2つ以上のキャリアガス供給口からなるから、前記触媒基体の表面に接触する前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記合成温度以上のキャリアガスが供給することができる。原料ガスが拡散して昇温途中の触媒基体に接触することを抑制することができる。前述のように、昇温途中の触媒基体と原料ガスが接触すると合成される配向カーボンナノチューブの配向性が低下することが確認されていた。第7の形態によれば、前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記キャリアガスが供給されて原料ガスの拡散が抑制されることにより、原料ガスが合成温度に到達してない昇温途中の触媒基体に接触することを防止することができ、高配向カーボンナノチューブを合成することができる。また、前記キャリアガスは、少なくとも触媒基体表面に接触するまでに原料ガスと共に合成温度以上に加熱されており、拡散して冷却された合成温度に到達していない原料ガスが触媒基体に接触することを抑制することができる。
【0033】
前記原料ガス供給口は、1つ以上の噴射口又は密集する小さな多数の噴射口からなる噴射口群であることが好ましく、より均一な流量で原料ガスを触媒基体表面上に供給することができる。原料ガス供給口を構成する噴射口若しくは噴射口群を囲うように又はそれを挟んで2つ以上のキャリアガス供給口が設けられ、このキャリアガス供給口も1つ以上の噴射口又は密集する小さな多数の噴射口からなる噴射口群であることが好ましく、より均一な流量でキャリアガスを触媒基体表面上に供給することができる。更に、原料ガス供給口とキャリアガス供給口は、前記合成濃度領域の領域外から原料ガス濃度が急峻に増大するように配設されることが好ましく、より確実に高配向カーボンナノチューブを合成することができる。
【0034】
更に、第7の形態の装置によれば、配向カーボンナノチューブを成長させる基体を搬送する基体搬送手段が設けられ、搬送される触媒基体上に前記合成濃度領域が形成されるから、高配向カーボンナノチューブを連続的に又は断続的に合成することができる。また、前記基体の表面に触媒液を塗布して乾燥させて触媒層を形成する塗布乾燥部では、触媒液を噴霧するスプレー装置などが配設され、噴霧用の気体の流速、塗膜形成液の流量及びノズルの形状などの制御手段が設けられることにより、塗膜の膜厚などの制御を行うことができる。更に、塗布された触媒液を乾燥させるため、塗布乾燥部には、乾燥用加熱手段を設けることが好ましい。
【0035】
更に、第7の形態によれば、前記配向カーボンナノチューブ基体から配向ナノチューブを回収する回収部が設けられ、合成された配向カーボンナノチューブを製品として回収することができる。前記基体には、連続体又は1つ以上の基板を配列した配列基体を用いることができ、連続体表面又は配列された基板表面に触媒液が塗布され、これを乾燥させることによって触媒層が形成される。前述のように、基体が連続的又は断続的に供給されるから、配向カーボンナノチューブが連続的に又は断続的に合成されて回収される。回収時には、合成された配向カーボンナノチューブを剥離して回収しても、触媒基体に固着した状態で回収しても良い。また、密集した配向カーボンナノチューブの一部を引き上げる紡糸装置を設けることにより、糸状のカーボンナノチューブ集合体を形成することができ、これを紡糸することによって配向カーボンナノチューブを回収することができる。
【0036】
本発明の第8の形態によれば、前記合成温度以上に設定された前記触媒基体上の合成温度領域より合成濃度領域が狭くなるように前記原料ガス供給口と前記キャリアガス供給口が配設されるから、前記合成濃度以上の原料ガスが前記合成温度以下で前記触媒基体表面に接触することが殆ど無く、高配向カーボンナノチューブをより確実に合成することができる。前述のように、CCVD法では、昇温中に原料ガスが触媒に接触すると、カーボンナノチューブの成長が阻害され、触媒基体を移動させながら合成を行う場合、高配向カーボンナノチューブの合成を行うことが困難となる場合があった。第8の形態によれば、原料ガス及びキャリアガスを配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱する加熱手段と前記原料ガス供給口が設けられ、前記合成温度以上に設定された原料ガスが短時間に所定濃度以上で供給される。従って、前記合成部において、前記触媒層を加熱して触媒粒子層が形成された触媒基体の表面に原料ガスを供給して、高配向カーボンナノチューブを合成することができる。
【0037】
本発明の第9の形態によれば、前記塗布乾燥部に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給手段が設けられるから、好適な粒径及び粒径分布を有する触媒粒子層を形成することができる。触媒層の上面に酸化膜を形成することにより、触媒層の粒子化を比較的均一に行うことができる。従って、本発明の第8の形態に係る触媒基体を用いて配向カーボンナノチューブを合成することにより、その配向性を向上させることができる。
【0038】
本発明の第10の形態によれば、前記配向カーボンナノチューブを転写する転写部材及び前記配向カーボンナノチューブ基体を同速度で搬送しながら接触させ、前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を接触状態で所定距離搬送して接着する接着手段が設けられるから、配向カーボンナノチューブを転写部材に強固に固着させることができる。更に、前記転写部材表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面がなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離する分離手段が前記回収部に設けられるから、前記触媒基体から配向カーボンナノチューブを確実に分離すると共に、連続的な転写を円滑に行うことができる。
【0039】
本発明の第11の形態によれば、前記転写部材が粘着テープであり、前記粘着テープの粘着力が1〜100N/10mmの範囲にあるから、比較的簡単に且つ確実に配向カーボンナノチューブを転写することができる。前記転写部材としては、市販の粘着テープを用いることができる。前記転写部材表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面がなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離する分離手段が設けられることによって、粘着力が1〜100N/10mmの範囲にあれば、配向カーボンナノチューブを好適に転写できることが確かめられている。市販される粘着テープの粘着力は、その殆どが100N/10mm以下であり、本発明の第10の形態によれば、市販される粘着テープを比較的安価な転写部材として利用することができる。また、粘着力が1N/10mm未満の場合、配向カーボンナノチューブの確実な転写が困難となることが確かめられている。
【0040】
本発明の第12の形態によれば、前記分離角が30°〜45°の範囲にあるから、配向カーボンナノチューブをより確実に分離して転写することができる。これは、触媒基体表面上に成長した配向カーボンナノチューブは、その表面に鉛直な方向に対して比較的強固に固着し、転写部材表面と配向カーボンナノチューブ基体の表面のなす角である分離角が30°未満の場合、触媒基体表面から配向カーボンナノチューブを確実に剥離することが困難となることによるものと考えられる。また、分離角が45°を越える場合、転写部材又は基体の可撓性に大きく依存し、可撓性が低いと所定の分離角を保持することが困難となる場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成方法の工程図である。
【図2】本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成装置の構成概略図である。
【図3】本発明に係る触媒基体表面上の温度分布とC濃度分布を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る原料ガス導入管とキャリアガス導入管の配置図である。
【図5】本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成装置の他の実施形態を示す構成概略図である。
【図6】本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成装置により合成された配向カーボンナノチューブの観察像である。
【図7】本発明に係る転写部材による配向カーボンナノチューブの転写状態を観察した写真図である。
【図8】本発明に係る転写部材である粘着テープに転写された配向カーボンナノチューブの電子顕微鏡(SEM)像である。
【図9】本発明に係る転写部材による配向カーボンナノチューブの転写状態を観察した写真図である。
【図10】図9に示した粘着テープ(粘着力:6.40N/10mm)に転写された配向カーボンナノチューブのSEM像である。
【図11】図9に示した粘着テープ(粘着力:30.6N/10mm)に転写された配向カーボンナノチューブのSEM像であり
【図12】非特許文献1に記載される配向カーボンナノチューブの平均高さと原料ガス供給時間の相関図である。
【図13】特許文献3に記載される従来の配合カーボンナノチューブ製造装置である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成方法の工程図である。
<基体の供給:ステップS1>
本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成方法では、基体が連続的又は断続的に供給される。以下のS2〜S5の工程で基体が処理されている間にも基体上の次の領域又は基体となる基板が供給され、準備された全ての又は所定量の基体に配向カーボンナノチューブが合成されて回収されるまで基体が供給され続ける。駆動ローラ等を用いてベルトなどの連続体からなる基体やベルトに配列された基板が供給され、セラミックス材、無機非金属、無機非金属化合物等の材料が好ましく、例えば、石英板、シリコン基板、シリコンウエハ、水晶板、溶融シリカ板、サファイヤ板、ステンレス板等を使用することができる。
【0043】
<塗布乾燥工程:ステップS2>
塗布乾燥工程では、触媒液を塗布して乾燥させて基体表面に触媒層を形成される。前記触媒液は、触媒金属を含む金属化合物を分散又は溶解させた液であり、この液を塗布して乾燥させることにより、基体表面に極めて薄い触媒層を形成することができる。前記金属化合物は、有機金属塩又は無機金属塩である。有機金属塩には、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩等が含まれ、また無機金属塩には硝酸塩、オキソ酸塩等が含まれる。また、前記金属化合物は、これらの金属塩のうち1種又は2種以上の混合物であっても良い。
触媒液の塗布には、スプレー法やインクジェト法等が用いられ、触媒液を噴霧または印刷される。噴霧用の気体の流速、塗膜形成液の流量及びノズルの形状などを制御することにより、塗膜の膜厚などの制御を行うことができる。また、基体表面が平面以外の凹凸形状の場合においても、塗膜を付着させることができる。スプレー印刷では、マスキングなどを使用して、任意のパターンを基体表面に印刷することができる。従って、前記基体との濡れ性に富んだ溶媒に前記金属化合物を分散又は溶解させた触媒液を用いることが好ましい。また、塗布乾燥工程では、酸化性ガスを供給しながら触媒層を加熱してその表面に酸化膜を形成される。
【0044】
<触媒基体形成工程:ステップS3>
触媒基体形成工程では、前記触媒層を加熱して前記基体表面に触媒粒子層を有する触媒基体を得る。即ち、触媒層が加熱されることにより粒子化され、触媒粒子層が形成される。前記酸化膜により、微小な粒径を有すると共に、均一な粒径を有する触媒粒子層を形成することができる。触媒金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)等の遷移金属であり、特に、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく、また、これらの金属のうち1種又は2種以上の混合物であってもよい。
【0045】
<合成工程:ステップS4>
合成工程では、配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱された原料ガスが触媒基体上に供給され、配向カーボンナノチューブが合成される。このとき、前記原料ガスの周囲又はその前後にキャリアガスが供給される。このキャリアガスの供給は、原料ガスの拡散を抑制するものであり、好ましくは、原料ガスの濃度が配向カーボンナノチューブを成長させる所定濃度以上に設定された前記触媒基体上の合成濃度領域が、前記合成温度以上に設定された前記触媒基体上の合成温度領域より狭く設定される。合成濃度領域と合成温度領域の具体例については、後述する。前記合成濃度領域では、その領域外から原料ガス濃度が急峻に増大することがより好ましく、濃度と温度に関する合成条件を一様に満足する原料ガスの領域が形成され易く、より確実に高配向カーボンナノチューブを合成することができる。
【0046】
<合成工程:ステップS5>
配向ナノチューブを回収する回収工程では、合成された配向カーボンナノチューブを製品として回収する。本発明では、基体が連続的又は断続的に供給されるから、順次又は連続的に触媒基体を形成して供給することができ、配向カーボンナノチューブが連続的に又は断続的に合成されて回収される。回収時には、合成された配向カーボンナノチューブを剥離して回収しても、触媒基体に固着した状態で回収しても良い。また、密集した配向カーボンナノチューブの一部を引き上げることにより、糸状のカーボンナノチューブ集合体が形成され、これを紡糸することによって配向カーボンナノチューブが回収される。
【0047】
図2は、本発明の第1実施形態に係る配向カーボンナノ連続合成装置2の構成概略図である。この配向カーボンナノ連続合成装置2は、塗布乾燥部4と、合成部6と、回収部8から構成され、従ローラ10、主ローラ56及びベルト12からなる基体搬送手段が設けられ、この基体搬送手段により配向カーボンナノチューブを成長させる基体14a、14b、14cが搬送される。塗布乾燥部4には、塗布装置16が設けられ、基体14aの表面に触媒液18を塗布して触媒膜が形成される。溶媒成分を含んだ触媒膜が形成された基体14bが塗布乾燥部4の乾燥室20に到達し、乾燥用の加熱装置24により加熱され、触媒膜に含まれる溶媒を蒸発させることにより触媒層が形成される。更に、乾燥室20には、酸化性ガス供給口22が設けられ、酸素又は大気などの酸化性ガスを供給しながら、前記加熱装置24により更に加熱すれば、触媒層表面に酸化膜を形成することができる。また、塗布乾燥部4には、排気口29と、図示していないが排気口29にポンプが接続され排気ガス27として排気され、酸化性ガス供給口22から流入する酸素O又はこれを含む酸化性混合ガスが合成部6に流入することを防止する。
【0048】
更に、図2における合成部6には、石英管からなる流通路28が設けられている。この流通路28には、原料ガスとキャリアガス及び触媒基体を加熱する加熱手段34が設けられ、触媒基体14cが前記基体搬送手段によって供給される。図2では、前記原料ガスとしてアセチレンガス(Cガス)が原料ガス導入管30から導入され、前記キャリアガスとしてHeガスがキャリアガス導入管32から導入される。導入されたアセチレンガスとHeガスは、前記加熱手段34によって加熱され、触媒基体14cの表面に供給されたとき、これらのガスの温度が合成温度以上に保持されるまで加熱される。中央部の原料ガス供給口31は、その前段に第1キャリアガス供給口33が配設され、その後段に第1キャリアガス供給口35が配設され、触媒基体14cの表面にアセチレンガスが供給されたとき、これを挟むようにHeガスが供給される。尚、合成部には、排気口36が設けられ、図示していないがこれに接続されるポンプによって流通路28内が減圧されることにより、所定流量のガスが触媒基体14cの表面に供給される。後述するように、原料ガス供給口31は、複数の小さな噴射口が密集する噴射口群であり、第1及び第2キャリアガス供給口33、35も各々が噴射口群から構成されている。
【0049】
図2において、触媒基体14cの表面に供給されるアセチレンガスの濃度は、配向カーボンナノチューブを合成することができる合成濃度以上に設定されると共に、前記加熱手段34により触媒基体14cの表面で合成温度以上の温度が保持されるよう加熱されている。更に、前記加熱手段34によりHeガスも合成温度以上に加熱されるから、合成温度以上に設定された触媒基体14cの表面上に形成される合成温度領域より、合成濃度領域が狭くなるように前記原料ガス供給口と前記キャリアガス供給口が配設されている。
【0050】
図3、本発明に係る触媒基体表面上の温度分布とアセチレン(C)濃度分布を示すグラフ図である。この温度分布とアセチレン濃度分布は、図2示した配合カーボンナノチューブ連続合成装置において、中央部の原料ガス供給口30aのみから合成温度以上に加熱されたアセチレンガスを導入し、Heガスを第1キャリアガス供給口33及び第2キャリアガス供給路35から供給したときのシミュレーション結果である。定常状態での温度分布とアセチレン濃度分布を有限体積法による汎用熱流体解析ソフト(FLUENT)を用いて計算している。図3結果は、図2装置において、合成温度を800℃、石英管からなる流通路28内の圧力を2.7×10Paに設定し、流量90sccmのアセチレンガスを原料ガス導入管30から導入し、流量210sccmのHeガスをキャリアガス導入管から導入した場合を計算している。図3から、触媒基体14cの前段にある昇温中の触媒基体には、アセチレンガスが接触しないように、アセチレンガスの濃度が急峻に増大するように設定されていることが分かる。合成濃度が5%以上、より好ましくは10%以上である場合、好適な配向カーボンナノチューブの合成が行われる。図3中で触媒基体表面上の温度を示す点線が800℃以上の領域を合成温度領域、アセチレン(C)濃度分布の半値全幅に含まれる領域を合成濃度領域とする。触媒基体は連続的または断続的に搬送され、触媒基体はキャリアガス雰囲気の中で一旦、合成温度領域に連続的または断続的に移動していくことで昇温される。触媒基体は昇温された段階で、合成濃度領域に連続的または断続的に搬送され配向カーボンナノチューブが合成される。搬送速度を変更することによって、基板の昇温速度や触媒基体への原料ガスの添加速度を調整することが可能である。
【0051】
図3から明らかなように、アセチレンが合成濃度以上にある合成濃度領域は、合成温度領域より狭く設定され、合成温度以下で合成濃度以上のアセチレンガスが昇温中の触媒基板に接触しないように設定されている。尚、アセチレンの濃度分布は左右非対称となり、搬出側からガスが排出されていることがわかる。また、温度が800℃に到達するまでにアセチレン濃度の上昇が始まっていることが確認でき、配向カーボンナノチューブの合成に悪影響を及ぼす可能性があり、合成濃度領域を更に狭くするか又は合成温度領域を拡大することが望ましい。
【0052】
図4、本発明に係る原料ガス導入管とキャリアガス導入管の配置図である。(4A)及び(4B)は、前記合成部の流通路28内に原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32を上下に配置した場合の配置図である。(4A)は、流通路28の断面概略図であり、(4B)は、前記合成部における原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32を側面から見たときの配置図である。(4A)に示すように、原料ガス導入管30の下方にベルト12上に配置された触媒基体14cが配置されている。図4において、原料ガス供給口31は、多数の原料ガス噴射口31aからなる噴射口群であり、同様に、第1キャリアガス供給口33と第2キャリアガス供給口35が、夫々、多数のキャリアガス噴射口33a、35aの噴射口群から構成されている。
原料ガスおよびキャリアガスの噴射口群は、原料ガス導入管ないしはキャリアガス導入管内の圧力が保持できる程度の直径とし、導入管内と合成濃度領域や合成温度領域の間の圧力差により原料ガスないしはキャリアガスが触媒基体に向かって噴出している状態になっていることが望ましい。
(4A)及び(4B)では、原料ガス供給口31の前段と後段に第1キャリアガス供給口33と第2キャリアガス供給口35が夫々設けられると共に、原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32の最下部に原料ガス供給口31、第1キャリアガス供給口33及び第2キャリアガス供給口35が形成されている。
【0053】
(4C)及び(4D)では、原料ガス供給口31、第1キャリアガス供給口33及び第2キャリアガス供給口35が原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32の最下部を挟んでその両側に形成されている。(4C)は、流通路28の断面概略図であり、(4D)は、前記合成部における原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32を側面から見たときの配置図である。
更に、(4E)及び(4F)では、原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32が並列して配置されており、原料ガス供給口31、第1キャリアガス供給口33及び第2キャリアガス供給口35が原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32の最下部に形成されている。同様に、(4E)は、流通路28の断面概略図であり、(4F)は、前記合成部における原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32を側面側から斜視したときの配置図である。
(4G)及び(4H)では、原料ガス導入管30を挟んで2つのキャリアガス導入管32が並列して配置されており、原料ガス供給口31、第1キャリアガス供給口33及び第2キャリアガス供給口35が原料ガス導入管30と2つのキャリアガス導入管32の最下部に形成されている。(4G)は、流通路28の断面概略図であり、(4H)は、前記合成部における原料ガス導入管30とキャリアガス導入管32を側面側から斜視したときの配置図である。従って、(4G)及び(4H)では、原料ガス供給口31の周囲に4つのキャリアガス供給口が設けられている。
【0054】
図2に示した配向カーボンナノチューブ連続合成装置2では、更に、回収部6が設けられる。この回収部6では、配向カーボンナノチューブを転写する転写部材40を、配向カーボンナノチューブが付着した配向カーボンナノチューブ基体と同速度で搬送させながら接触させる。回収室42には、複数のローラが配設されており、下段にある駆動ローラ52、54と上段にある駆動ローラ44、46により転写部材40と配向カーボンナノチューブ基体を面接触させて密着させる。次に、転写部材40の表面と配向カーボンナノチューブ基体の表面のなす角が所定の分離角度θになるように、分離ローラ48が配設されており、配向カーボンナノチューブ基体から配向カーボンナノチューブが剥離されて、転写部材50に転写され、転写部材50と共に回収される。転写部材40としては、粘着テープを用いることが好ましく、粘着テープの粘着力が1〜100N/10mmの範囲にあれば、比較的簡単に配向カーボンナノチューブを粘着テープに転写することができる。また、分離角は、30°〜45°の範囲にあることが好ましい。
【0055】
図5は、本発明の第2実施形態に係る配向カーボンナノチューブ連続合成装置の構成概略図である。第2実施形態では、ベルト12が基体として用いられる。
ベルト12以外の構成は、図2と同一であり、これ以上の説明を省略する。但し基体として用いられるベルト12としては、可撓性の金属材料等が用いられ、比較的薄いステンレス板などを基体として用いることができる。
【0056】
図6は、本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成装置を用いて合成された配向カーボンナノチューブの観察像である。図6(6A)に示すように、連続合成装置を通過した後、触媒基体表面上に、高さが30μm程度の配向カーボンナノチューブが観察されている。合成温度を800℃、石英管からなる流通路28内の圧力を2.6×10Paに設定し、流量90sccmのアセチレンガスを原料ガス導入管30から導入し、流量210sccmのHeガスをキャリアガス導入管から導入して、合成したものである。合成部の加熱手段としては、赤外線加熱装置を用いている。ベルトの搬送速度は、4.8mm/secである。尚、前記加熱手段としては、抵抗加熱装置を用いても良く、伝導電熱により基体の加熱が行われる。(6B)は、ベルトを静止させた状態で合成された配向カーボンナノチューブの観察像であり、平均高さが約300μm程度の配向カーボンナノチューブが合成された。即ち、合成時にベルトを静止させることにより、配向カーボンナノチューブの合成効率が向上することが分かった。
また、上記条件で、合成温度が700℃の場合と、石英管からなる流通路28内の圧力を1.0×10Paに設定した場合において合成を行っており、配向カーボンナノチューブが合成されることが確認されている。
【0057】
図7は、本発明に係る転写部材による配向カーボンナノチューブの転写状態を観察した写真図である。配向カーボンナノチューブ(直径10nm、長さ100μm以上)が成長した触媒基体(幅約15mm、長さ約30mm)と、転写部材に粘着テープ(ニチバン社製の「セロテープ(登録商標)」No.405シリーズ(幅18mm、長さ35m)を使用し、剥離性試験を実施した。配向カーボンナノチューブ基体および粘着テープの送り速度を0.01m/s、分離角を45°(7A)は、配向カーボンナノチューブ基体であり、(7B)は、粘着テープによる剥離後の基体(上)と転写された配向カーボンナノチューブ(下)の写真図である。剥離後の基体については、何も残っておらず、完全な剥離・転写ができている。また、引張強さ0.01kNで配向カーボンナノチューブが剥離することが確かめられた。
【0058】
図8は、本発明に係る転写部材である粘着テープに転写された配向カーボンナノチューブの電子顕微鏡(SEM)像である。(8A)は、剥離後の粘着テープ表面のSEM像であり、(8B)は、剥離後の粘着テープ端部側のSEM像である。SEM観察の結果、カーボンナノチューブは、配向したまま転写されていることが確認出来た。同様の試験を粘着テープにニチバン社製の両面テープ「ナイスタック(登録商標)」シリーズの「強力タイプ」(型式:NW−K15SF)と「超強力タイプ」(型式:NW−U15SF)を用いて実施した結果、同じように剥離・転写ができ、SEM観察では、カーボンナノチューブが配向したまま転写されていることが確認できた。
【0059】
【表1】

【0060】
図9は、本発明に係る転写部材による配向カーボンナノチューブの転写状態を観察した写真図である。(9A)は、「強力タイプ」による剥離後の写真図であり、(9B)は「超強力タイプ」による剥離後の写真図である。また、図10は、図9に示した粘着テープに転写された配向カーボンナノチューブのSEM像である。(10A)(10B)は、いずれも「強力タイプ」(粘着力:6.40 N/10mm)の粘着テープを用いている。これらの試験結果においても、カーボンナノチューブが配向したまま転写されていることが確認できた。また、図9も、図9に示した粘着テープに転写された配向カーボンナノチューブのSEM像であり、(11A)(11B)は、いずれも「超強力タイプ」(粘着力:30.6 N/10mm)の粘着テープを用いている。従って、本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成方法及び装置によれば、市販の粘着テープに合成された配向カーボンナノチューブを転写できることが確かめられた。市販の粘着テープの粘着力は、1〜100N/10mmの範囲にあり、この範囲であれば種々の転写部材を利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る配向カーボンナノチューブ連続合成方法及び同連続合成装置によれば、連続的に配向カーボンナノチューブを高効率に合成する場合の合成条件を容易に再現することができ、配向カーボンナノチューブを安定に大量合成することができる。従って、配向カーボンナノチューブの品質を向上させると共に、製造コストの低減化を図ることができる。
【符号の説明】
【0062】
2 配向カーボンナノ連続合成装置
4 塗布乾燥部
6 合成部
8 回収部
10 従ローラ
56 主ローラ
12 ベルト
14a 基体
14b 基体
14c 触媒基体
16 塗布装置
18 触媒液
20 乾燥室
22 酸化性ガス供給口
24 加熱装置
27 排気ガス
28 流通路
29 排気口
30 原料ガス導入管
31 原料ガス供給口
31a 原料ガス噴射口
32 キャリアガス導入管
33 第1キャリアガス供給口
33a キャリアガス噴射口
34 加熱手段
35 第2キャリアガス供給口
35a キャリアガス噴射口
36 排気口
38 排気ガス
40 転写部材
42 回収室
44 駆動ローラ
46 駆動ローラ
52 駆動ローラ
54 駆動ローラ
48 分離ローラ
50 転写部材
102 配合カーボンナノチューブ製造装置
106 加熱炉
110 駆動ドラム
156 従動ドラム
112 無端ベルト
116 スプレー
114 触媒粒子
134 加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒粒子層が形成された1つ以上の触媒基体を連続的又は断続的に搬送しながら触媒基体表面に配向カーボンナノチューブを成長させる配向カーボンナノチューブ連続合成方法において、触媒液を塗布して乾燥させて基体表面に触媒層を形成する塗布乾燥工程と、前記触媒層を加熱して前記基体表面に触媒粒子層を有する触媒基体を形成する触媒基体形成工程と、前記配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱された原料ガスを前記触媒基体の表面に接触させて配向カーボンナノチューブを合成する合成工程と、前記配向ナノチューブを回収する回収工程を含み、前記合成工程において、前記触媒基体の表面に接触する前記原料ガスの周囲又はその前段と後段に前記合成温度以上のキャリアガスが供給されることを特徴とする配向カーボンナノチューブ連続合成方法。
【請求項2】
前記原料ガスの濃度が配向カーボンナノチューブを成長させる所定濃度以上に設定された前記触媒基体上の合成濃度領域が、前記合成温度以上に設定された前記触媒基体上の合成温度領域より狭く設定される請求項1に記載の配向カーボンナノチューブ連続合成方法。
【請求項3】
前記塗布乾燥工程において、酸化性ガスを供給しながら又は酸化性ガス雰囲気下にある前記触媒層を加熱して前記触媒層の表面に酸化膜を形成する請求項1又は2のいずれかに記載の配向カーボンナノチューブ連続合成方法。
【請求項4】
前記基体がベルト状基板であり、前記回収工程において、前記ベルト状基板上に付着した状態で前記配向カーボンナノチューブを回収する請求項1〜3のいずれかに記載の配向カーボンナノチューブ連続合成方法。
【請求項5】
前記回収工程は、前記配向カーボンナノチューブを転写部材に転写して剥離する転写回収工程である請求項1〜3のいずれかに記載の配向カーボンナノチューブ連続合成方法。
【請求項6】
前記転写回収工程は、前記配向カーボンナノチューブ基体と前記転写部材とを同速度で搬送しながら、前記転写部材をカーボンナノ構造物基体表面に面接触させて接着する接着工程と、前記転写部材の表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面のなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離して、前記カーボンナノチューブを前記転写部材に転写する転写工程を含む請求項5に記載の配向カーボンナノチューブ連続合成方法。
【請求項7】
配向カーボンナノチューブを成長させる基体を搬送する基体搬送手段と、前記基体の表面に触媒液を塗布して乾燥させて触媒層を形成する塗布乾燥部と、前記原料ガス及びキャリアガスを前記配向カーボンナノチューブの合成温度以上に加熱する加熱手段と、前記原料ガス及び前記キャリアガスを前記触媒基体の表面に供給する原料ガス供給手段と、前記触媒層を加熱して触媒粒子層が形成された触媒基体の表面に原料ガスを供給して前記配向カーボンナノチューブを合成する合成部と、前記配向カーボンナノチューブ基体から配向ナノチューブを回収する回収部から構成され、前記合成部に前記加熱手段と前記原料ガス供給手段が配設され、前記原料ガス供給手段が1つ以上の原料ガス供給口と前記原料ガス供給口の周囲に又はその前段と後段に設けられた2つ以上のキャリアガス供給口からなり、前記配向カーボンナノチューブを連続的又は断続的に合成することを特徴とする配向カーボンナノ連続合成装置。
【請求項8】
前記合成部に搬送された前記触媒基体の表面に前記原料ガスの濃度が前記配向カーボンナノチューブを成長させる所定濃度以上に設定された合成濃度領域が形成され、且つ前記合成濃度領域が前記合成温度以上に設定された前記触媒基体表面の合成温度領域より狭くなるように前記原料ガス供給口と前記キャリアガス供給口が配設される請求項7に記載の配向カーボンナノ連続合成装置。
【請求項9】
前記塗布乾燥部に酸化性ガスを供給する酸化性ガス供給手段が設けられる請求項7又は8に記載の配向カーボンナノ連続合成装置。
【請求項10】
前記配向カーボンナノチューブを転写する転写部材及び前記配向カーボンナノチューブ基体を同速度で搬送しながら接触させ、前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を接触状態で所定距離搬送して接着する接着手段と、前記転写部材表面と前記配向カーボンナノチューブ基体表面がなす角が所定の分離角度になるように前記転写部材と前記配向カーボンナノチューブ基体を搬送しながら分離する分離手段が前記回収部に設けられる請求項7、8又は10に記載の配向カーボンナノチューブ連続合成装置。
【請求項11】
前記転写部材が粘着テープであり、前記粘着テープの粘着力が1〜100N/10mmの範囲にある請求項10に記載の配向カーボンナノチューブ連続合成装置。
【請求項12】
前記分離角が30°〜45°の範囲にある請求項10又は11に記載の配向カーボンナノチューブ連続合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図12】
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【図13】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−215437(P2010−215437A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62148(P2009−62148)
【出願日】平成21年3月14日(2009.3.14)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】