説明

配向基材並びに傾斜配向位相差フィルムの製造方法

【課題】ラビング処理に伴う欠陥の発生を防止し、かつ、液晶の配向均一性に優れた液晶配向層が形成された傾斜配向位相差フィルムを提供する。
【解決手段】親水性樹脂とレベリング剤と溶媒とを含有する配向膜形成組成物溶液を基材上に塗布する配向膜形成工程、該配向膜形成組成物溶液が塗布された基材を乾燥して配向膜を固化する配向膜乾燥工程、及び該配向膜をラビング処理するラビング工程を有し、 該配向膜乾燥工程における所定の温度範囲内である配向基材の製造方法により、上記課題を解決し得る配向基材が得られる。傾斜配向位相差フィルムは、かかる基材上に液晶層を形成することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶性化合物が傾斜配向した傾斜配向位相差フィルムの製造に適した配向基材の製造方法に関する。さらに、本発明は、該配向基材を用いた傾斜配向位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
位相差フィルムは、複屈折を利用して、液晶表示装置等の画像表示装置におけるコントラスト向上や視野角の拡大を実現する部材として用いられている。位相差フィルムとしては、高分子フィルムを延伸して光学異方性を付与したものが広く用いられている。
【0003】
一方、高分子フィルム等の透明基材上に液晶性化合物を含む光学異方性層を塗布したものも位相差フィルムとして用いられている。特に、液晶性化合物は大きな複屈折を有するため、高分子フィルムを延伸した位相差フィルムと比較して、小さい厚みで同等の位相差を得られることから、最近の液晶表示装置の薄型化、軽量化等の潮流に伴い注目されている。
【0004】
液晶性化合物を配向させて位相差フィルムとしては、液晶性化合物が基材に対して水平(ホモジニアス)配向されたものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような位相差フィルムは、フィルム面内の液晶の配向方向と、その垂直方向で屈折率が異なる、すなわち、面内複屈折を生じるため、所謂Aプレートとして広く用いられる。また、液晶性化合物を基材に対して垂直(ホメオトロピック)配向させたもの(例えば特許文献2)も知られている。このような位相差フィルムは、フィルム面内と、液晶性化合物の配向方向であるフィルム厚み方向の屈折率が異なる、すなわち、厚み方向複屈折を生じるため、所謂Cプレートとして広く用いられている。
【0005】
これらに加えて、液晶性化合物を傾斜配向させたもの(例えば特許文献3)も知られており、主にツイステッド・ネマチックモード(TN)液晶セルや、光学補償ベンド(OCB)モード液晶セル等のハイブリッドネマチック配向型の液晶セルの光学補償に用いられている。
【0006】
このような液晶性化合物を傾斜配向させた位相差フィルムの製造において、液晶性化合物の配向層を形成するためには、前記液晶性化合物の分子全体又は液晶性を示すメソゲン部の配向方向を、一定の方向か又は連続的に変化するよう規則的に配向させる必要がある。そのための方法として、一般には、基材上に配向膜を形成し、その上に液晶性化合物を塗布する方法(例えば特許文献4)が用いられている。
【0007】
このような配向膜に、さらにラビング処理等を施すことで液晶配向能が施される(例えば特許文献5)。しかしながら、ラビングは配向膜の表面をラビング布等で所定方向に擦って、物理的に外力を与える作業であるため、配向膜に傷が付く場合がある。配向膜と液晶配向層をそのまま一体として位相差フィルムとした場合には、このような配向膜表面に生じた傷が位相差フィルムの外観欠点となり、液晶表示装置に用いた場合に光り抜けを生じることがある。また、ラビング処理の際に削られた配向膜の破片が位相差フィルム内部に残り、光り抜けを生じる輝点欠陥となったり、かかる異物によって液晶配向層の配向不良が生じたりする場合がある。
【0008】
【特許文献1】特開2004−347698号公報
【特許文献2】特開2003−177242号公報
【特許文献3】特開2007−206241号公報
【特許文献4】特開2002−14233号公報
【特許文献5】特開2005−115281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記観点に鑑み、ラビング処理の際の配向膜の傷付きや削れ等による欠陥の発生を防止し、かつ、配向均一性に優れた液晶配向層の形成が可能な配向基材の製造方法、並びに該配向基材を用いた傾斜配向位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、配向膜形成成分にレベリング剤を添加することによって上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、親水性樹脂とレベリング剤と溶媒とを含有する配向膜形成組成物溶液を基材上に塗布する配向膜形成工程、該配向膜形成組成物溶液が塗布された基材を乾燥して配向膜を固化する配向膜乾燥工程、及び該配向膜をラビング処理するラビング工程、を有し、該配向膜乾燥工程における最高温度が110℃〜150℃の範囲である、配向基材の製造方法に関する。
【0011】
本発明の配向基材の製造方法においては、前記レベリング剤がアクリル系レベリング剤であることが好ましい。
【0012】
本発明の配向基材の製造方法においては、前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明は前記配向基材を用いた傾斜配向位相差フィルムの製造方法に関する。本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法は、1種以上の液晶性化合物と溶媒とを含む液晶組成物溶液を、前記配向基材上に塗布して、液晶塗布層を形成する液晶層形成工程、及び該液晶塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する液晶層乾燥工程を有する。
【0014】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記液晶層乾燥工程における乾燥温度の最大値が60℃以上、120℃以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記液晶性化合物として、アクリル系重合性液晶化合物を含有することが好ましい。
【0016】
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記アクリル系重合性液晶化合物が、下記一般式(II)又は(III)で表される化合物であることが好ましい。
【0017】
【化1】


【化2】


(Y及びYはそれぞれ独立に、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、イソプロペニル基、4−ビニルフェニル基、1−クロロエテニル基、エポキシ基、シアネート基、イソシアネート基、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、又はニトロ基であり、Y、Yの少なくとも一方はアクリレート基若しくはメタクリレート基である。X、Xは、それぞれ独立に、共有結合、直鎖若しくは分枝のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カーボネート基、あるいは、これらの1つ以上を含む2価の基である。A、B、及びCは置換基を表し、a、b及びcはそれぞれ対応するA、B及びCの置換数(0〜3までの整数)を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立に、ハロゲン、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシ基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基又はヒドロキシ基である。なお、上記一般式(II)、(III)で表される化合物は、同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし、異なる置換基を有していてもよい。)
【発明の効果】
【0018】
配向膜形成成分にレベリング剤を含み、かつ、所定の温度範囲で配向膜の乾燥をおこなう本発明の製造方法によって得られる配向基材は、ラビングによる配向膜の傷付きや削れ等による外観不良を解消し、かつ、配向の均一性に優れた傾斜配向位相差フィルムの製造に適している。かかる配向基材を用いて製造された傾斜配向位相差フィルムは、配向均一性に優れるため、液晶表示装置等の画像表示装置用の光学補償フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[配向基材の製造方法]
本発明の配向基材の製造方法は、親水性樹脂とレベリング剤と溶媒とを含有する配向膜形成組成物溶液を基材上に塗布する配向膜形成工程、該配向膜形成組成物溶液が塗布された基材を乾燥して配向膜を固化する配向膜乾燥工程、及び該配向膜をラビング処理するラビング工程を有する。以下、各工程の詳細について順次説明する。
【0020】
[配向膜形成工程]
配向膜形成工程は、配向膜形成組成物溶液を調製する工程と、該溶液を基材上に塗布する工程とに分けられる。配向膜形成組成物は、親水性樹脂とレベリング剤と溶媒とを含有する。
【0021】
(親水性樹脂)
配向膜形成組成物に用いる親水性樹脂としては、液晶配向層を形成する際の液晶組成物溶液の濡れ性に優れたポリマーを好適に用い得る。かかる樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体等のアクリル系樹脂、酢酸ビニル、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体等の酢酸ビニル系樹脂、酢酸セルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール、及び変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系樹脂、ゼラチン等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ゼラチン等の水溶性樹脂を用いることが好ましく、ポリビルアルコール系樹脂が特に好ましい。
【0022】
ポリビニルアルコール系樹脂の例としては、ケン化度が70乃至100%の範囲にあるポリビニルアルコールが挙げられる。一般にケン化度は80乃至100%の範囲にあり、85乃至95%の範囲にあることがより好ましい。また、ポリビニルアルコールの重合度は、100乃至3000の範囲にあることが好ましい。また、変性ポリビニルアルコールの例としては、共重合変性、連鎖移動による変性、又はブロック重合による変性をしたポリビニルアルコールなどを挙げることができる。共重合変性する場合の変性基の例としては、COONa、Si(OX)3 、N(CH3 3 ・Cl、C9 、H19COO、SO3 、Na、C1225などが挙げられる。連鎖移動による変性をする場合の変性基の例としては、COONa、SH、C1225などが挙げられる。また、ブロック重合による変性をする場合の変性基の例としては、COOH、CONH2 、COOR、C6 5 などが挙げられる。これらの中でも、ケン化度が80〜100%の範囲にある未変性若しくは変性ポリビニルアルコールが好ましい。また、ケン化度が85乃至95%の範囲にある未変性ポリビニルアルコール及びアルキルチオ変性ポリビニルアルコールがさらに好ましい。
【0023】
(レベリング剤)
配向膜形成組成物に、レベリング剤を添加することで、配向基材上に塗布された液晶層を高温で乾燥した場合においても、過加熱による液晶配向の乱れ(オーバー・キュア・ドメイン)の発生を抑制することができる。配向膜形成組成物としてレベリング剤を含有することで、かかる配向不良を抑制できる理由は定かではないが、レベリング剤が配向膜の厚み方向の空気界面付近、すなわち液晶層を塗布する側の界面付近に偏在するために、配向膜の表面張力が上昇し、配向膜の厚み均一性が向上することが液晶の配向性向上に寄与しているものと推定される。また、レベリング剤を用いることで、液晶層中の液晶性化合物の分子が配向基材の法線方向に配向しやすくなる、すなわち、ホメオトロピック性が上昇し、傾斜配向性の液晶層を形成しやすい傾向がある。
【0024】
上記レベリング剤の種類は特に制限されないが、前記の配向膜を形成する親水性樹脂との相溶性に優れ、かつ、高い表面調整能を有するものを好適に用いることができる。かかるレベリング剤としては、シリコーン系、フッ素系、ポリエーテル系、アクリル系、チタネート系等の化合物を好適に用いることができる。また、後述する傾斜配向位相差フィルムの液晶層成分として、アクリル系の液晶性化合物を用いる場合は、液晶層の配向均一性、並びに液晶層と配向基材の親和性向上の観点から、アクリル系のレベリング剤を特に好適に用いることができる。アクリル系のレベリング剤は、表面調整能に優れ、かつ、配向基材上の配向膜と液晶層の親和性を向上できる点で好ましい。
【0025】
上記アクリル系レベリング剤は、分子構造中に下記一般式(I)で表されるユニットを有することが好ましい。
【0026】
【化3】


は水素又はメチル基であり、Rは炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜10の直鎖若しくは分枝のハロゲン化アルキル基、ポリエステル基、又はポリエーテル基である。Rは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0027】
上記アクリル系レベリング剤のゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定した重量平均分子量Mwは、2000〜100000であることが好ましく、2500〜70000であることがより好ましく、3000〜40000であることがさらに好ましい。レベリング剤の分子量が過度に小さいと、レベリング性が不十分となるために、液晶層の配向が不均一となる場合があり、分子量が過度に大きいと、配向膜形成組成物溶液の粘度が高くなり、レベリング剤が溶媒に不溶となったり、前記親水性との相溶性に欠けたりする場合がある。
【0028】
このようなアクリル系レベリング剤としては、市販品を用いることができる。市販のアクリル系レベリング剤としては、例えばビック・ケミー社製の商品名「BYK−381」等を好適に用いることができる。
【0029】
配向膜形成組成物中のアクリル系レベリング剤の含有量は、上記の親水性樹脂100重量部に対して、0.1〜1.0重量部であることが好ましく、0.1〜0.5重量部であることがより好ましく、0.1重量部〜0.3重量部であることがさらに好ましい。レベリング剤の含有量が過度に少ないと、上記の効果を十分に得られない場合がある。また、レベリング剤の量が過度に多いと、配向膜中の面内、あるいは厚み方向でレベリング剤が偏在し、均一性に劣る場合がある。
【0030】
(溶媒)
配向膜形成組成物溶液に用いられる溶媒は特に制限されず、前記親水性樹脂とレベリング剤とを含む配向膜形成組成物を溶解あるいは分散させるものを適宜用いることができる。中でも、配向膜の厚みを均一として、均一性の高い液晶配向層を形成する観点においては、配向膜形成組成物を溶解させるものが好ましい。また、溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いることもできる。このような溶媒は、代表的には水であるが、樹脂の溶解性を向上したり、消泡作用を付与する等の目的で、有機溶媒と水との混合溶媒を用いることも好ましい。このような有機溶媒としては、水と混和性を有するものが好ましく、メタノールやエタノール等のアルコール系溶媒がより好ましく、中でもメタノールが特に好ましい。
【0031】
(配向膜形成組成物溶液の調製)
配向膜形成組成物溶液は、前記配向膜形成組成物を前記溶媒に溶解、あるいは分散させることによって得られるが、前述の通り、配向膜形成組成物を前記溶媒に溶解させることが好ましい。溶液の固形分濃度は、配向膜の厚さを制御する観点から、70重量%以下であることが好ましく、0.1〜50重量%であることがより好ましく、1〜25重量%であることがさらに好ましい。溶解方法は特に限定されず、公知の方法を適用し得る。また、溶解の順序も特に制限されず、前記親水性樹脂を溶媒に溶解した後にレベリング剤を加えてもよく、あらかじめレベリング剤を添加した溶媒に親水性樹脂を溶解してもよく、親水性樹脂とレベリング剤を同時に溶媒に加えてもよい。
【0032】
(基材)
前記配向膜形成組成物溶液を基材上に塗布することで配向膜が形成される。かかる基材を形成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、スチレン樹脂、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・エチレン・スチレン樹脂、スチレン・マレイミド共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を挙げることができる。また、シクロ系オレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系樹脂、芳香族ポリイミドやポリイミドアミド等のイミド系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。また、前記樹脂のブレンド物等からなる高分子フィルム基材等も挙げることができる。さらには、アルミ、鉄、銅等の金属基材、青板ガラス、アルカリガラス、無アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラス、石英ガラス等のガラス基材、セラミックス基材等の各種基材、シリコンウェハー等の各種半導体基材等も挙げることができる。中でも、連続生産の可能性や、ハンドリング性の観点から、可撓性を有する長尺の基材を好適に用い得る。また、後述する乾燥工程やラビング工程の安定性を考慮すると、80℃、就中100℃以上の温度環境下における寸法安定性に優れた基材を好適に用い得る。
【0033】
基材は透明性を有していても有していなくてもよい。基材が透明性を有していない場合は、配向基材に液晶配向層を形成した後、かかる液晶配向層を他の透明基材等に転写して用いることができる。また、基材が透明性を有する場合は、液晶配向層を配向した後、そのまま位相差フィルムとして用いることもできるし、別の基材等に転写して用いてもよい。
【0034】
また、基材は複屈折を有するものであってもよいし、有さないものであってもよい。複屈折を有さないものを用いることで、得られる位相差フィルムは、液晶層の有する複屈折のみによって位相差を発現するため、その光学特性の制御が容易となる。逆に、基材として複屈折を有するものを用いることで、基材の複屈折と液晶配向層の複屈折の両方に起因する位相差を有する位相差フィルムを得ることができるため、液晶配向層のみでは発現できない光学補償機能を有する位相差フィルムとすることもできる。
【0035】
(配向膜形成組成物溶液の塗布)
前記基材上への配向膜形成組成物溶液の塗布方法は、特に限定されず、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、バーコーティング法、ロッドコーティング法、ロールコーティング法(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ダイコーティング法(エクストルージョンコーター(スロットコーター)、スライドコーター、スリットダイコーター)等の従来公知の方法を適宜用いることができる。
【0036】
塗布厚みは特に限定されず、乾燥後の配向膜の厚みと溶液の固形分濃度を考慮して適宜選択することができるが、通常は0.1〜300μmであり、好ましくは0.5〜200μm、より好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは2〜50μmである。塗布厚を上記の範囲とすることで、厚みの均一性に優れた配向膜が形成されるため、均一性の高い液晶配向層を形成することができる。
【0037】
[配向膜乾燥工程]
上記配向膜形成工程で基材上に形成された配向膜は、加熱乾燥によって溶媒を除去して固化される。乾燥は20℃〜150℃の温度範囲で行なうことができるが、本発明においては、該配向膜乾燥工程における最高温度は110℃〜150℃の範囲であり、120℃〜140℃であることがより好ましい。乾燥工程における加熱温度が低過ぎると、後述するラビング工程において、配向膜が傷付いたり、配向膜が削れた破片が異物となって付着する傾向がある。これは、乾燥温度が低いと配向膜が十分な硬度を得られないためであると推定される。そのため、乾燥温度が低い場合には、配向膜上に液晶層を塗布した際に、液晶層配向不良が生じる等の外観不良となる場合がある。一方、乾燥温度が過度に高いと、基材フィルムが熱変形を生じる等、ハンドリング性に問題を生じる場合がある。
【0038】
上記のように、所定の温度以上で配向膜を乾燥することによって、配向膜の欠点を減少させることができるが、一般には、配向膜の乾燥温度を高くすると、液晶層を塗布した場合に過加熱に伴う配向不良が生じやすいという問題があった。すなわち、配向膜の乾燥温度を高くすることによって、ラビングによる配向膜の削れを防止して、外観不良を低減できる反面、配向膜が液晶分子を規制する配向規制力が不十分となり、配向基材上に塗布された液晶層を乾燥する際に「過加熱不良」(オーバー・キュア・ドメイン)と称される液晶層の配向不良が生じやすくなり、液晶層の乾燥工程における条件幅(プロセス・ウインドウ)が狭くなるという、トレード・オフの問題があった。
【0039】
本願発明は、前述の如く、配向膜形成組成物として、レベリング剤を含有することによって、過加熱不良が解消され、配向膜を高温で乾燥した場合でも配向規制力が維持され、さらに、ラビング工程における傷や異物の発生も抑制できることを見出したことに基づくものである。このように、配向膜形成成分がレベリング剤を含有することによって、配向規制力を向上できる理由は明らかではないが、配向膜の平滑性が向上したり、配向膜上に形成される液晶層の塗布性(濡れ性)が向上すること等が寄与しているものと推定される。
【0040】
乾燥工程における乾燥温度(雰囲気温度)及び時間は、最高温度が上述の範囲であれば特に制限されないが、溶媒を十分に除去し、かつ、配向膜が、例えば鉛筆硬度2H以上の十分な硬度となるように設定することが好ましい。このような乾燥温度及び時間の条件は、配向膜の厚み、前記配向膜形成組成物溶液の組成物、濃度等によって異なる。一般的には、乾燥時間は0.1〜60分であり、0.5〜30分であることが好ましく、1〜15分であることがより好ましい。中でも、温度が110℃以上となる時間が0.1分以上であることが好ましく、0.5分以上であることがより好ましく、1分以上であることがさらに好ましい。乾燥工程における乾燥温度(雰囲気温度)は、一定でもよいし、段階的に変化させてもよい。
【0041】
乾燥温度を制御する方法は特に制限されないが、熱風、マイクロ波若しくは遠赤外線等を利用したヒーター、温度調節用に加熱されたロール、ヒートパイプロール又は金属ベルト等を用いた公知の加熱方法や温度制御方法を挙げることができる。
【0042】
乾燥温度は、そのバラツキが大きいと、塗布表面の厚みムラ等を生じ、最終的に得られる配向膜の液晶配向規制力等の特性の面内バラツキを招く場合がある。従って、乾燥工程における温度のバラツキは小さいことが好ましい。配向膜を枚葉(バッチ式)で乾燥する場合には、面内全体の温度バラツキが小さいことが好ましい。また、搬送しながら連続的に乾燥する場合においては、搬送方向と直交する方向、すなわち、幅方向での温度バラツキが小さいことが好ましい。
【0043】
[ラビング工程]
上記のようにして形成、乾燥された配向膜は、ラビング工程に供される。本願明細書並びに特許請求の範囲において、ラビング処理とは、配向膜に、液晶分子の配向に方向性を持たせるために物理的に所定方向に外力を加えることを指す。ラビング処理の方法は特に制限されず、公知の方法を用い得るが、一般的にはラビング布を備えたラビングロールやワイヤーバー等で配向膜を擦る方法が採用される。ラビング布としては、ナイロン、レーヨン、コットン等のベルベット状のものを好適に用いることができる。また、ラビング布は、粘着剤やテープ等を介してラビングロールに固着して用いることが好ましい。
【0044】
配向膜におけるラビングの均一性は液晶層の配向均一性に大きな影響を与える。すなわち、配向均一性の高い傾斜配向位相差フィルムを得る観点からは、配向膜のラビングが均一に行われることが重要である。かかる観点から、ラビング工程においては、配向膜とラビングロールを、均一な方向に均一な力で安定的に接触させることが好ましい。中でも、配向膜が形成された基材を搬送しながら連続的にラビング処理を行う場合においては、特開2002−90743号公報、特開2003−255130号公報等に開示されているように、基材の搬送張力、並びにラビングロールとの接触角度が一定となるような搬送方法を用いることが好ましい。特に、本発明においては、前述の如く、配向膜の乾燥工程において基材に熱が加えられているため、熱膨張や熱収縮によって、基材の寸法が不均一に変化する場合がある。そのため、上記のような搬送制御下においてラビングを行うことが好ましい。
【0045】
ラビング方向は特に限定されず、基材の搬送方向と平行であってもよく、例えば45°等、搬送方向と一定の角度を有していてもよい。また、ラビングロールの本数は1本でも複数でもよい。
【0046】
ラビング処理は、前述の如く、配向膜とラビングロール等が物理的に接触する(擦れる)ため、静電気が発生し易い。このような静電気は、液晶層の配向不良や輝点不良の原因となり得る粉塵や、ダスト等を配向膜に付着させる傾向があるため、極力除去することが望ましい。除電の方法としては、除電器等によって帯電した電荷を中和する方法、ラビング処理時の湿度を制御して発生する静電気量そのものを低減する方法等が挙げられる。湿度を制御する場合には、相対湿度を50〜80%、就中60〜70%程度とするのがよい。
【0047】
[傾斜配向位相差フィルムの製法]
このようにして得られた配向基材は、前述の如く、その上に液晶層を塗布した傾斜配向位相差フィルムの製造に好適に用いられる。本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法は、1種以上の液晶性化合物と溶媒とを含む液晶組成物溶液を前記配向基材上に塗布して、液晶塗布層を形成する液晶層形成工程、及び該液晶塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する液晶層固化工程を有する。以下、各工程の詳細について順次説明する。
【0048】
[液晶層形成工程]
液晶層形成工程は、液晶組成物溶液を調製する工程と、該溶液を前記配向基材上に塗布する工程とに分けられる。液晶組成物溶液は、1種以上の液晶性化合物と溶媒とを含む。
【0049】
(液晶性化合物)
液晶組成物溶液に用いる液晶性質化合物としては、配向の均一性や安定性の観点から、1種以上の重合性液晶化合物を含むことが好ましい。重合性液晶化合物は、モノマー又はオリゴマーであり、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。重合性液晶化合物は、1分子あたり1又は2以上の重合性官能基を有する重合性のネマチック液晶化合物であることが好ましく、中でもアクリル系の重合性液晶化合物であることが好ましい。アクリル系の重合性液晶化合物としては、2官能のアクリル系モノマーが好ましく、中でも、重合後に主鎖型の液晶ポリマーとなるものが好ましい。
【0050】
このようなアクリル系の液晶性化合物の中でも、下記一般式(II)又は(III)で表される重合性のアクリル系モノマーを特に好適に用い得る。
【0051】
【化4】


【化5】

【0052】
上記一般式(II)及び(III)において、Y又はYの少なくとも一方はアクリレート基(CH=CHCO−)若しくはメタクリレート基(CH=C(CH)CO−)である。Y、Yのいずれか一方が、アクリレート基、メタクリレート基のどちらもない場合、Y又はYは、ビニル基、イソプロペニル基、4−ビニルフェニル基、1−クロロエテニル基、エポキシ基、シアネート基、イソシアネート基等の重合性官能基であってもよく、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基等であってもよい。中でも、液晶性化合物の配向性の観点から、Y、Yの両方が重合性官能基であることが好ましく、両方がアクリレート基、又はメタクリレート基であることがより好ましい。
【0053】
、Xは、それぞれ独立に、共有結合、直鎖若しくは分枝のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カーボネート基、又はこれらの1つ以上を含む2価の基である。
【0054】
A、B,及びCは置換基を表し、a、b及びcはそれぞれ対応するA、B及びCの置換数(0〜3までの整数)を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立して、ハロゲン、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルキル基、アルコキシ基、又はアルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシ基等の1価の基である。なお、上記一般式(II)又は(III)で表される化合物は、同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし、異なる置換基を有していてもよい。
【0055】
特に、液晶分子が高い複屈折発現性を有し、液晶塗布層を薄くできるという観点からは、重合性液晶化合物として、前記一般式(III)の化合物を含むことが好ましい。上記化合物(III)において、Y、Yの両者が、アクリレート基、メタクリレート基であることが好ましく、液晶相を示す温度範囲の広さから、Y、Yの両者が、アクリレート基であることがより好ましい。また、X、Xはアルキレン基とエーテル基、カルボニル基、エステル基、若しくはカーボネート基が連結したものであることが好ましく、中でも、アルキレンの炭素数が1〜12であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。アルキレンの炭素数が少ないと、液晶性が低くなる(すなわち、結晶性が高くなる)傾向がある。逆にアルキレン基の炭素数が多すぎると、液晶の等方相転移温度が低くなるため、後述するように、加熱乾燥によって液晶固化層を形成する際に、液晶分子の配向を均一に保つことができる温度範囲が狭くなる傾向がある。
【0056】
上記の観点から、本発明の位相差フィルムの製造方法においては、液晶性化合物の中でも特に、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることが好ましい。
【0057】
【化6】

【0058】
上記一般式(IV)において、Zは、水素、ハロゲン、炭素数1〜4のアルキル基あるいはアルコキシ基、シアノ基、ニトロ基のいずれであるが、塩素又はメチル基であることが好ましい。R及びRは、それぞれ独立に水素又はメチル基であるが、R及びRの両方が水素であることが好ましい。X及びXはそれぞれ独立にエーテル基、カルボニル基、エステル基、若しくはカーボネート基である。
【0059】
液晶組成物溶液には、重合性液晶化合物以外の液晶性質化合物を用いることもできる。このような液晶性化合物は、特に制限されないが、傾斜配向位相差フィルムを得る観点においては、ホメオトロピック配向性の液晶性化合物を含んでいることが好ましい。ホメオトロピック配向性の液晶性化合物としては特に制限されないが、正の屈折率異方性を有する液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットと、非液晶性フラグメント側鎖を含有するモノマーユニットとを含有する側鎖型液晶ポリマーを用いることが好ましい。このような液晶性化合物としては、例えば特開2003−149441号公報に記載のものを用いることができる。
【0060】
このようなホメオトロピック配向性の液晶化合物を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、傾斜配向位相差フィルムを得るためには、前記重合性液晶化合物100重量部に対して1〜80重量部であることが好ましく、5〜60重量部であることがより好ましく、10〜50重量部であることがさらに好ましい。
【0061】
(溶媒)
前記液晶組成物溶液に用いる溶媒としては、前記重合性化合物や、後述するレベリング剤、重合開始剤、重合禁止剤等の任意成分の溶解性に優れ、当該組成物を配向基材に塗布する際に、配向基材(配向膜)への濡れ性や配向性の低下を生じさせないものであれば特に制限はない。
【0062】
具体的には、前記溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノール等のフェノール類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン類、n−ブタノールや2−ブタノール、シクロヘキサノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル類、メチルセロソルブ、酢酸メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル類を用いることができる。その他、塩化メチレン、二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等も前記溶媒の例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
なお、配向基材(配向膜)を実質的に侵食せず、上記組成物を十分に溶解するという観点においては、前記溶媒として、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、トルエン、又は酢酸エチルを用いるのが好ましい。
【0064】
前記溶媒は、単独で、あるいは2種以上を任意に混合して用いてもよい。前記混合溶液の全固形分濃度は、溶解性、塗布粘度、配向基材(配向膜)上への濡れ性、塗布後の厚み等によって異なるが、平滑性の高い位相差フィルムを得るためには、固形分濃度は2〜50重量%であることが好ましく、5〜45重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがさらに好ましい。
【0065】
(レベリング剤)
前記混合溶液には、液晶性化合物、溶媒以外の成分を含んでいてもよい。特に、液晶層の空気界面側(配向基材に接しない側の界面)における配向の均一性に優れた位相差フィルムを得る観点においては、レベリング剤を含むことが好ましい。レベリング剤としては、シリコーン系、フッ素系、ポリエーテル系、アクリル系、チタネート系等の種々の化合物を用いることができる。中でも、配向均一性の観点からはアクリル系のレベリング剤が好適に用いられる。特に、前記重合性液晶化合物としてアクリル系の重合性液晶化合物を用いる場合は、液晶性化合物との相溶性の観点からもアクリル系のレベリング剤が好適に用いられる。
【0066】
アクリル系のレベリング剤としては、配向基材の製造方法において前記したのと同様に、前記一般式(I)で表されるものを好適に用いることができる。また、液晶組成物溶液に用いるアクリル系レベリング剤としては、市販品を用いることもできる。このような市販のアクリル系レベリング剤としては、例えばビック・ケミー社製の商品名「BYK−340」及び楠本化成社製の商品名「LF−1980」等を特に好適に用いることができる。
【0067】
アクリル系のレベリング剤は、シリコーン系のレベリング剤等の他のレベリング剤と比較して、前記のアクリル系の重合性液晶化合物との相溶性に優れている。さらに、アクリル系のレベリング剤は、高い表面調整能を有することから、液晶硬化層の厚みばらつきを小さく抑制することができる。なお、本発明の製造方法によって得られる位相差フィルムの光学特性の詳細に関しては後述するが、位相差は複屈折と厚みの積で表されるため、厚みばらつきが少ない、すなわち、厚み均一性の高い位相差フィルムを得ることは、光学的な均一性の高い位相差フィルムを得るためにも重要である。
【0068】
また、このようなレベリング剤を用いることで、塗布層中の液晶性化合物の分子が基材の法線方向に配向しやすくなる、すなわち、ホメオトロピック性が上昇する傾向がある。このように配向性が高くなる原因は定かではないが、塗布層を形成する際に、レベリング剤が塗布層表面に薄膜状に偏在しにくいために、表面張力が過度に低下しないためであると推定される。
【0069】
(重合開始剤)
前記液晶性化合物として、重合性の液晶化合物を用いる場合においては、前記重合性液晶化合物の重合速度や反応率を高める観点においては、液晶組成物溶液は、光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤としては、特に制限はなく、単一の化合物からなる光重合開始剤であっても良いし、2種類以上の異なる光重合開始剤を混合したものであっても良い。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサンソン系化合物等を挙げることができる。また、例えば、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製の商品名「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「ダロキュアー1173」、「イルガキュア500」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア907」、「イルガキュア369」、「イルガキュア819」、「イルガキュア784」等の光重合開始剤を用いても良い。さらには、メルク製の商品名「ダロキュアー953」、「ダロキュアー1116」や、日本化薬製の商品名「カヤキュアーMBP」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーDITX」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーDETX」、「カヤキュアーRTX」等を用いることも可能である。
【0070】
なお、前記光重合開始剤には、重合反応を促進させるために助剤を添加してもよい。助剤としては、例えば、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、n−ブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルアミノエチルメタアクリレート、ミヒラーケトン、4,4’―ジエチルアミノフェノン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(nブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等のアミン系化合物を挙げることができる。
【0071】
前記光重合開始剤の添加量は、特に制限はないが、前記重合性液晶化合物100重量部に対して、0.5〜20重量部であることが好ましく、2〜15重量部であることがより好ましい。また、助剤の添加量は、光重合開始剤に対して、0.5〜2倍量程度とするのが好ましい。
【0072】
(重合禁止剤)
また、液晶組成物溶液には、工程中の光による意図しない低露光量での重合を抑制する目的で重合禁止剤を加えることもできる。重合禁止剤としては、例えばp−ベンゾキノン、ナフトキノン、p−キシロキノン、p−トルキノン、2,6−ジクロロキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアエロキシ−p−ベンゾキノン、ヒドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジブチルヒドロキノン、モノ−t−ブチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、ジ−t−ブチル・パラクレゾール、2,4,6−トリ−t−ブチルフェノール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、α−ナフトール、アセトアニジンアセテート等を用いることができる。重合禁止剤の添加量は、重合性液晶化合物100重量に対して0.001〜3重量部であることが好ましく、0.01〜2重量部であることがより好ましい。重合禁止剤の添加量が過度に多いと、後の工程において紫外線を照射した場合においても重合が十分に進行せず、液晶硬化層の配向が不十分となる場合がある。
【0073】
(塗布)
本発明の傾斜配向位相差フィルムの製造方法においては、前記液晶組成物溶液を前記配向基材上に塗布し、液晶塗布層を形成する。塗布方法については、特に限定はなく、従来公知の方法、例えば、配向膜形成組成物溶液の塗布にて前記した各種の方向を用いることができる。塗布厚みは、通常2〜300μmであり、より好ましくは2〜200μm、特に好ましくは2〜50μmである。厚みが上記の範囲内とすることで、厚み配向の均一性に優れた位相差フィルムを作製することができる。
【0074】
[液晶層乾燥工程]
このようにして得られた液晶塗布層は、乾燥工程によって前記溶媒を除去して、液晶固化層とする。乾燥工程は、風乾や自然乾燥等、加熱を伴わないものであってもよいが、溶媒を除去して、塗布層を固化する観点からは、40℃以上に加熱することが好ましい。乾燥工程における乾燥温度(雰囲気温度)は、一定でもよいし、段階的に変化させてもよい。特に、本発明においては、液晶層の配向を固定する観点から、液晶層固化工程における雰囲気温度の最大値は60℃以上、120℃以下とすることが好ましく、70℃以上、100℃以下とすることがより好ましく、75℃以上、95℃以下とすることがさらに好ましい。
【0075】
このような温度条件によって液晶層の配向が均一となる理由は明らかではないが、一般には、乾燥前の液晶塗布層においては、配向基材表面(配向膜)の配向規制力に従って並んだ液晶分子の一部に、液晶性化合物の立ち上がる向きが局所的に逆転する、所謂「リバースチルト」状態のドメインが生じると考えられている。このようなリバースチルト状態のドメインを有する液晶塗布層を加熱することによって、液晶性化合物の分子運動(熱運動)が大きくなるために、リバースチルトしていた液晶分子が配向基材(配向膜)の配向規制力を超え、自由エネルギーが小さい(安定性の高い)基材(配向膜)のプレチルト角に従って配向した状態となり、リバースチルト状態が解消される、すなわち、均一な配向状態を形成すると考えられる。かかる観点からは、乾燥工程における雰囲気温度の最高温度は、リバースチルトを解消するのに十分である必要があるといえる。
【0076】
また、乾燥温度が高すぎると、液晶性化合物が、その等方相転移温度を超えるため、配向基材(配向膜)の配向規制力から略完全に開放されて等方相状態となる。このように塗布層が一旦等方相状態となった後に、等方相転移温度未満となると再度配向基材(配向膜)の配向規制力によって液晶性化合物が配向することとなるが、この際に前記リバースチルトと同様の配向不良が形成される、所謂「過加熱不良」が発生し易くなると考えられる。かかる観点からは、乾燥工程における雰囲気温度の最大値は等方相転移温度未満であることが好ましい。また、等方相転移温度未満の温度であっても、乾燥時間が長過ぎると配向規制力から開放されて等方相状態となる分子の割合が増加するために、液晶層乾燥工程の最高温度が高い場合と同様にリバースチルト状態を形成しやすくなると考えられる。
【0077】
液晶が傾斜配向した位相差フィルムの製造において、一般には前述の如くリバースチルトが生じないように液晶塗布層の乾燥温度を高くすると同時に、乾燥温度が過度に高くなって過加熱不良が生じないように、乾燥温度を調整する必要があるが、その温度範囲は狭く、均一性の高い傾斜配向位相差フィルムを得ることは困難であった。また、一般の製造工程においては、乾燥工程の雰囲気温度を調整することはできるものの、フィルムの面内、あるいは幅方向に不可避な温度分布が生じる場合がある。さらには、雰囲気温度を一定に調整することが可能であっても、実際の液晶層の温度、すなわち品温を一定に制御とすることは困難であるため、製造工程における温度条件の幅(プロセス・ウインドウ)を広くすることは重要である。本発明においては配向基材上の配向膜にレベリング剤を含有することで、過加熱不良の発生を抑制し得るため、液晶層の乾燥工程のプロセス・ウインドウを拡げることが可能となり、均一性の高い傾斜配向位相差フィルムを得ることができる。特に大面積での配向均一性が要求されるテレビ等の液晶表示装置に用いられる傾斜配向位相差フィルムにおいては、歩留まりを大幅に向上し得る。
【0078】
乾燥時間は特に制限されず、前記液晶組成物溶液の組成や固形分濃度等を考慮して、溶媒が十分に除去され、かつ、過加熱が生じないように、乾燥温度とともに適宜調整することが好ましい。このような条件を満足する乾燥時間としては、例えば、例えば30秒〜20分が好ましく、1〜15分がより好ましく、1〜10分がさらに好ましい。また、乾燥温度と乾燥時間の両方を考慮した場合は、下記式で表される熱量Qが、100<Q<300となるように乾燥することが、配向不良の少ない位相差フィルムを得る上で好ましい。
【0079】
【数1】


(ただし、tは、乾燥工程における乾燥開始から乾燥終了までの時刻(分)であり、T(t)は、時刻tにおける雰囲気温度(℃)である。)
【0080】
前述の如く、乾燥工程における乾燥温度(雰囲気温度)は、一定でも、段階的に変化させてもよいが、液晶層乾燥工程における乾燥温度が一定である場合には、前記の熱量Qは、単純に乾燥温度と乾燥時間の積で表される。また、乾燥温度を2段階以上に変化させて乾燥する場合は、上記の熱量Qは、各段階における乾燥温度(雰囲気温度)と乾燥時間の積を合計したものとなる。配向の均一性の観点において、熱量Qは120〜280であることがより好ましく、150〜250であることがさらに好ましい。熱量Qの値が前記範囲を下回ると、溶媒が過度に残存する、すなわち、塗布層の固化が不十分となるために、配向性に欠けて複屈折が不十分となったり、配向欠陥が生じる場合がある。また、熱量Qの値が前記範囲を上回ると、リバースチルトが生じやすくなるばかりでなく、配向基材の熱収縮によって配向規制力が低下し、配向性に欠けて複屈折が不十分となる場合がある。
【0081】
乾燥温度を制御する方法については特に制限されず、配向膜乾燥工程において前記したのと同様の方法を好適に用い得る。また、傾斜配向位相差フィルムの配向を均一としたり、位相差バラツキを低減する観点においては、配向膜乾燥工程と同様に、液晶層乾燥工程における温度のバラツキが小さいことが好ましい。
【0082】
[液晶層の硬化]
このようにして得られた液晶固化層中の重合性液晶化合物は、熱、あるいは放射線照射等により硬化して、液晶硬化層とすることが好ましい。本発明においては、配向の均一性を保つ観点から、硬化方法として放射線硬化を採用することが好ましい。放射線を照射することによって重合性液晶化合物が架橋硬化し、液晶の配向状態を固定することができる。
【0083】
前記放射線の種類としては、ガンマ線、電子線、可視光線、紫外線等を挙げることができるが、製造の容易性や、重合反応性の高さから、紫外線の照射が用いられる。紫外線照射における光源の波長は、用いる光化学反応性化合物が光学吸収を有する波長領域に応じて決定されるが、一般には、190nm〜400nmとするのが好ましく、250nm〜380nmであることがより好ましい。このような波長特性を有する光源としては、超高圧水銀ランプ、フラッシュ水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、ディープUVランプ、キセノンランプ、キセノンフラッシュランプ又はメタルハライドランプが好ましく用いられる。光源から出射された紫外線は非偏光でも偏光であってもよい。
【0084】
前記放射線照射における光源の位置としては、特に制限がなく、前記混合溶液が塗布される側に配置しても良いし、その反対の配向基材側に配置しても良く、両側に配置することもできる。また、上記放射線照射における大気中の雰囲気としては、特に制限がなく、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等を用いることができる。
【0085】
放射線の照射量は特に制限されないが、100〜1500mJ/cmであることが好ましく、100〜800mJ/cmであることがより好ましい。照射量が不十分であると重合が不十分となり、配向性に乏しくなる傾向がある。また、過度に照射すると、配向欠陥を生じる場合がある。
【0086】
放射線照射時における雰囲気の温度(照射温度ともいう)は、特に制限がないが、均一な配向状態を固定するために、20〜40℃の範囲に保持しながら、放射線照射を行うことが好ましい。
【0087】
以上のようにして作製された傾斜配向位相差フィルムにおいて、配向基材上に配向され固定された液晶層の厚みの範囲としては、液晶層の複屈折(Δn)や、必要とされる位相差に応じて選択できるが、通常0.1〜10μmであり、0.1〜8μmであることが好ましく、0.5〜6μmであることがより好ましく、0.5〜5μmであることがさらに好ましい。
【0088】
かかる傾斜配向位相差フィルムの光透過率は、波長590nmにおいて、80%以上とするのが好ましく、より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0089】
また、波長590nmの光で測定した液晶固化(硬化)層のフィルム面内の位相差Re(590)は特に制限されないが、液晶表示装置の表示特性を改善する目的で用いる場合においては、50〜1000nmの範囲であることが好ましく、80〜800nmの範囲であることがより好ましい。ここで、Re(590)=(nx−ny)×dであり、nxは傾斜配向位相差フィルムの遅相軸方向(傾斜配向位相差フィルム面内の屈折率が最大となる方向)の屈折率を、nyは傾斜配向位相差フィルムの進相軸方向の屈折率を、dは液晶固化(硬化)層の厚みを表す。
【0090】
このようにして得られた傾斜配向位相差フィルムは、その位相差を利用して種々の光学用途に用いることができるが、特に液晶表示装置の光学補償、あるいは、それを目的とした光学補償偏光板に好適に用いることができる。
【0091】
光学補償偏光板は、前記傾斜配向位相差フィルムと偏光板を積層することによって得られる。一般に偏光板は、偏光子とその片面又は両面に保護フィルムを有する。かかる偏光子や保護フィルムは特に制限されず。任意のものを用い得る。また、本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムの配向基材を偏光子の保護フィルムとすることもできる。このような構成は、フィルムの総数の減少により薄型化が図られることに加えて、コストダウンにも繋がることから好ましい構成である。
【0092】
また、光学補償偏光板の透明保護フィルムには、その偏光子を接着させない面に、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施すことも好ましい構成である。
【0093】
また、光学補償偏光板には、本発明によって得られる傾斜配向位相差フィルム以外の位相差フィルムや、反射板、輝度向上フィルム等の光学部材や、それらを積層するための接着剤や粘着剤等を設けることもできる。
【0094】
本発明により得られる傾斜配向位相差フィルム、及びそれを積層してなる光学補償偏光板は、液晶表示装置等の各種画像表示装置の形成等に好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板又は光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むこと等により形成される。液晶セルについても、例えばVAモード、IPSモード、ECBモード、TNモード、STNモード、π型(OCBモード)等の任意なタイプのものを用いうる。特に、本発明により得られる傾斜配向位相差フィルムは傾斜配向していることから、ECBモード、TNモード、STNモードや、OCBモードのように、液晶分子が傾斜配向している液晶セルの視野角補償等を目的とした光学補償に好適に用いることができる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下に示す実施例に制限されるものではない。
【0096】
[配向膜形成組成物溶液の調製]
5重量部のポリビニルアルコール(日本合成化学社製 商品名「NH18」)を95重量部の純水に溶解して、溶液を調製した。得られた溶液を配向膜形成組成物溶液Aとする。
【0097】
上記製造例1で得られた溶液100重量部に対して0.05重量部(ポリビニルアルコールに対して重量で0.01倍)のアクリル系レベリング剤(ビッグ・ケミー社製 商品名「BYK−381」を添加して溶液を調整した。得られた溶液を配向膜形成組成物溶液Bとする。
【0098】
[配向膜の塗布・乾燥・ラビング]
[比較例1]
前記配向膜形成組成物溶液Aを、ポリエステルフィルム(帝人デュポン社製 商品名「テトロン O475W」、厚み75μm)上にワイヤーバーを用いて塗工し、基材に配向膜の樹脂層を形成した。
上記の配向膜を乾燥オーブンにて100℃で2分間乾燥させて、厚み25μmの配向膜を形成した。この配向膜を、ラビング布を巻きつけたワイヤーバーを用いて、塗工の流れ方向に沿ってラビング処理を施して、ラビング処理された配向膜を備える配向基材を得た。
【0099】
[比較例2、3]
前記製造例3における乾燥オーブンにおける乾燥温度を120℃、140℃に変更した以外は製造例1と同様にして、ラビング処理された配向膜を備える配向基材を得た。
【0100】
[比較例4、実施例1、2]
前記比較例1〜3において、レベリング剤を含有しない「配向膜形成組成物溶液A」に代えてレベリング剤を含有する「配向膜形成組成物溶液B」を用いた以外は比較例1〜3と同様にして、ラビング処理された配向基材を得た。
【0101】
実施例1、2及び比較例1〜4の配向基材の製造条件の一覧を表1に示す。
【表1】

【0102】
[傾斜配向位相差フィルムの作成]
[比較例5]
(液晶組成物溶液の調製)
下記式(V)で表される高分子液晶(重量平均分子量:5000、共重合比:n=35)20重量部と、下記式(VI)で表される重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」(異常光屈折率=1.654、正常光屈折率=1.523))80重量部を、233重量部のシクロペンタノンに溶解して固形分濃度30重量%の溶液とした。この溶液に、0.3重量部のアクリル系レベリング剤(楠本化成社製、商品名「LF−1980」)を加え、さらに7重量部の重合開始剤(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製、商品名「イルガキュア907」)を加えた。この溶液に、196重量部のシクロペンタノンを加え、固形分濃度20重量%の液晶組成物溶液を調製した。
【0103】
【化7】

【0104】
【化8】

【0105】
(塗布)
製造例1で得られた配向基材の配向膜のラビング処理表面上に、ワイヤーバーを用いて前記液晶組成物溶液を均一に塗布し、塗布層を形成した。
【0106】
(乾燥)
得られた塗布層を、雰囲気温度を70℃に調整した空気循環式恒温槽内で2分間加熱乾燥して、厚み1.7μmの液晶が傾斜配向した固化層を形成した。
【0107】
(硬化)
得られた固化層の表面に、室温(25℃)にて波長365nmにおける照射量が600mJ/cmとなるように紫外線を照射し、傾斜配向した液晶硬化層を形成し、傾斜配向位相差フィルムとした。
【0108】
[実施例3〜8、比較例6〜14]
上記比較例5における、液晶組成物溶液の塗布に用いた配向基材の種類、及び液晶層の乾燥における空気循環式恒温槽内の雰囲気温度を、表2のように変更した以外は、比較例5と同様にして傾斜配向位相差フィルムを得た。なお、表2中の括弧は、用いた配向基材を示している。
【0109】
【表2】

【0110】
実施例、及び比較例で得られた位相差フィルムを、偏光顕微鏡(NIKON社製、商品名「ECLIPSE E600POL」)を用いて、クロスニコル状態にて顕微鏡の検光子の偏光方向(吸収方向)と位相差フィルムの遅相軸方向が平行となるようにして観察した。比較例5〜13の観察結果(写真)を図1に、比較例14〜16並びに実施例3〜8の観察結果を図2に、それぞれ示す。
【0111】
図1に示すように、配向膜形成組成物としてレベリング剤を含有しない場合、比較例9、10、12、13のように、液晶層を高温で乾燥すると、明暗のムラが観察された。また、これらの傾斜配向位相差フィルムを、クロスニコル下で位相差フィルムの遅相軸と顕微鏡の検光子の偏光方向が45°の角度をなすように配置して、サンプルを傾けて観察したところ、見る方向によって黒く見える部分が異なっていた。このような現象から、これらの傾斜配向比較例の位相差フィルムにおいては、過加熱による配向不良が生じていることが分かった。
【0112】
また、配向膜の乾燥温度が100℃である比較例5、8、11は、過加熱不良を生じていないが、位相差フィルムを、その遅相軸が一方の偏光板の吸収軸と平行となるように、2枚のクロスニコルニ配置された偏光板の間に配置して観察した場合に、異物に由来すると推定される輝点欠陥が観察された。
【0113】
それに対して、配向膜形成組成物としてレベリング剤を含有する場合は、実施例3〜8に示すように、液晶層を高温で乾燥した場合でもクロスニコル下での明暗のムラは観察されず、配向不良は生じていなかった。また、配向膜の乾燥温度が100℃である比較例14〜16は、前記比較例5、8、11と同様に輝点欠陥が観察された。
【0114】
以上の実施例、比較例から、配向膜形成組成物としてレベリング剤を含有する本願発明によって、配向膜を高温で乾燥させた場合でも、過加熱による配向不良が生じにくく、液晶層の乾燥におけるプロセス・ウインドウが広くなっていることが分かる。そのため、ラビング工程での異物等の発生が抑制され、配向均一性に優れ、かつ、異物等の少ない傾斜配向位相差フィルムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】配向膜形成組成物としてレベリング剤を含有しない配向基材を用いた傾斜配向位相差フィルム(比較例5〜13)の偏光顕微鏡(クロスニコル状態)での観察写真である。
【図2】配向膜形成組成物としてレベリング剤を含有する配向基材を用いた傾斜配向位相差フィルム(比較例14〜16、実施例3〜8)の偏光顕微鏡(クロスニコル状態)での観察写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂とレベリング剤と溶媒とを含有する配向膜形成組成物溶液を基材上に塗布する配向膜形成工程、
該配向膜形成組成物溶液が塗布された基材を乾燥して配向膜を固化する配向膜乾燥工程、及び
該配向膜をラビング処理するラビング工程、
を有し、
該配向膜乾燥工程における最高温度が110℃〜150℃の範囲である、配向基材の製造方法。
【請求項2】
前記レベリング剤がアクリル系レベリング剤である、請求項1記載の配向基材の製造方法。
【請求項3】
前記親水性樹脂が、ポリビニルアルコール系樹脂である、請求項1または2記載の配向基材の製造方法。
【請求項4】
1種以上の液晶性化合物と溶媒とを含む液晶組成物溶液を、請求項1〜3のいずれか記載の配向基材上に塗布して、液晶塗布層を形成する液晶層形成工程、及び
該液晶塗布層を乾燥して、傾斜配向した液晶固化層を形成する液晶層乾燥工程、
を有する傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記液晶層乾燥工程における乾燥温度の最大値が60℃以上、120℃以下である、請求項4記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記液晶性化合物として、アクリル系重合性液晶化合物を含有する、請求項4または5記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記アクリル系重合性液晶化合物が、下記一般式(II)又は(III)で表される化合物である、請求項6記載の傾斜配向位相差フィルムの製造方法。
【化1】


【化2】


(Y及びYはそれぞれ独立に、アクリレート基、メタクリレート基、ビニル基、イソプロペニル基、4−ビニルフェニル基、1−クロロエテニル基、エポキシ基、シアネート基、イソシアネート基、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、又はニトロ基であり、Y、Yの少なくとも一方はアクリレート基若しくはメタクリレート基である。X、Xは、それぞれ独立に、共有結合、直鎖若しくは分枝のアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、エステル基、カーボネート基、あるいは、これらの1つ以上を含む2価の基である。A、B、及びCは置換基を表し、a、b及びcはそれぞれ対応するA、B及びCの置換数(0〜3までの整数)を表す。A、B、及びCは、それぞれ独立に、ハロゲン、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルキル基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシ基、炭素数1〜20の直鎖若しくは分枝のアルコキシカルボニル基、シアノ基、ニトロ基又はヒドロキシ基である。なお、上記一般式(II)、(III)で表される化合物は、同一のベンゼン環上に複数の同一の置換基を有していてもよいし、異なる置換基を有していてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−157226(P2009−157226A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337292(P2007−337292)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】