説明

配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法およびそのプログラム、配水池浄水供給システム

【課題】配水池への予め設定された流入量の変動許容幅を守った上で流入量の変動回数を最小限に抑えた準最適な流入量を求める。
【解決手段】本発明の配水池浄水供給システムSの浄水供給量算出方法は、配水池1319への流入量の計画方法として、ある時刻の流入量が変動無く維持できる期間において、流入量を変動できる全ての時刻で流入量の変動を試み、その変動後の流入量が最も未来まで維持できるものを採用することにより、変動回数を最小限に抑えた配水池1319への流入量を算出し、その流入量を目標値の流入量設定値として配水池1319への流入量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場から配水池に供給される浄水の流入量を制御するに際して、予め求めた水需要量を基に配水池への流入量の変動回数およびその変動量を抑える配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法およびそのプログラム、配水池浄水供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図9(a)に上水道施設における配水池101の廻りの設備を示し、図9(b)に配水池101の運用範囲を示す。
浄水場102で異物除去、消毒等され作られた水道水(以下、水と称す)は、配水池101に貯留され、配水池101を介して一般需要家へ供給される。
配水池101より供給される水の需要量は、一般需要家の水の消費量に伴って時間的に変化するものであり、水の消費量が多い朝方および夕方は多く、水の消費量が少ない深夜は少なくなるような日間変動を示すのが一般的である。
【0003】
従来、水の需要量の日間変動に合わせた量の水が浄水場102で作れれば問題ないが、実際には浄水場102の水の処理能力にも限界がある。また、需要量のピークに合わせ浄水設備を建設することは、コストの面から無駄が大きい。
一方、浄水場102としては、設備の安定稼働のため浄水量を一定に保ち、時間に対する浄水場102からの送水量を一定にしたいという要求がある。
【0004】
そこで、送水量を調整するために、浄水場102と一般需要家の間に配水池101および配水池流入弁103を設けている。そして、配水池流入弁103により配水池101への流入量を調整し、図9(b)に「運用範囲」として示すように、需要量の少ない時間帯に配水池101に水を溜め込み、需要量の多い時間帯にその溜めた水を使うという運用を行っている。つまり、需要量の変動を配水池101の貯水量を利用して吸収し、配水池101への流入量、すなわち浄水場102からの送水量の均等化を図っている。
【0005】
水の需要量(流量)の日間変動を図に示すと図10の曲線202のように変化する。
一方、浄水場102からの送水量(配水池101への流入量)は前記の安定稼働の理由から終日一定であることが望ましいため、最適流入量は図10に示す線分201となる。このとき、配水池101の貯水量は、流入量が図10の線分201であることから、図11の曲線203のように変動する。つまり、配水池101の貯水量を変動させることで、配水池101への流入量(浄水場102からの送水量)を一定にすることができることになる。
【0006】
そこで、図9(b)に示す配水池101としては、通常溢れたり空になったりすることのないように、配水池101の運用範囲のように運用上限104と運用下限105を設け、需要量202(図10参照)の急変に備え、余裕を持った運用を行っている。
なお、本願に関わる先行技術としては、下記の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−154023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、この運用上・下限104、105の範囲内で考えると、貯水量は図11に示す曲線203のように、「A」で示す時間で運用下限105を下回ることが起こることがあり、実運用上好ましくない。
このように、当初は貯水量に充分な余裕を見て配水池101を建設したが、その後の人口の増加等による需要量の増加や変動量の増大により、図11に示す時間「A」でのような運用範囲を逸脱する現象の起こる地域が増えている。特に、大都市近郊ではその傾向が顕著になっている。この現象は配水池の増設や新設で解決することもできるが、近年の都市化の進行から増設や新設する土地の問題や建設費用の面からも容易ではない。
【0009】
従って、限られた配水池101の容量を最大限に活かし、配水池101への流入量(浄水場102からの送水量)の変動回数および変動量の少ない流入量を算出し運用することが、近年の上水道を運用する上での課題の一つとなっている。
また、配水池流入弁103のような機械設備は、その動作回数が機械設備の消耗(損耗)に結びつくため、運転の変動回数を抑えるということがコスト面からも重要になっている。
【0010】
この課題を解決するための方法の一つとして、QRS(Quasi-optimum Routing System)法が提案されている。
QRS法についてその考え方を説明すると、以下の通りとなる。
水の需要量が図12(a)の曲線301となっているとき、水の需要量を時間的に累積(積算)すると図12(b)の曲線302のようになる。なお、図12(a)は、時間と水の配水池101からの流出量との関係を示す図であり、図12(b)は、時間と水の配水池101からの流出量の経過時間での積算値である累積流出量の関係を示す図である。
【0011】
ここで、配水池101の貯水量を終日、運用下限105(図9(b)参照)とするような運用を考えた場合、貯水量の運用下限105を出発点として需要量と流入量を同量とすればよいので、累積流入量は、終日、運用下限105になるように需要量と流入量を同量として累積(積算)した図13(b)の折線401のようになる。なお、図13(a)は、時間と水の配水池101からの流出量との関係を示す図であり、図13(b)は、時間と水の配水池101への流入量の経過時間での積算値である累積流入量の上限値、下限値との関係を示す図である。
【0012】
同様に、配水池101の貯水量を終日、運用上限104(図9(b)参照)とするような運用を考えた場合、貯水量の運用上限104を出発点として需要量と流入量を同量とすればよいので、累積流入量は、終日、運用上限104になるように需要量と流入量を同量として累積(積算)した図13(b)の折線402のようになる。
従って、図13(b)の折線401と折線402の間に挾まれた範囲に累積流入量が収まるような配水池101への流入量をとることにより、配水池101の貯水量を運用上・下限104、105の範囲に保持した運用が可能となる。
【0013】
ここで、流入量が終日一定である最適流入量を考える。配水池101の初期貯水量は配水池101の水位から計算され、ここでは図13(b)のa点とする。通常、配水池101の運用として、夜間の需要量が少ない時間帯に水を溜め込み、朝方および夕方の需要量の多い時間帯にその水を使うのが一般的である。従って、朝方の需要量が増える直前の時刻に配水池貯水量を運用上限104に達するようにする必要がある。それが目標貯水量であり、図13(b)のb点となる。
【0014】
最適流入量の累積は、配水池101の貯水量の運用下限105および運用上限104を考慮しない場合、初期貯水量(図13(b)のa点)と目標貯水量(図13(b)のb点)を結ぶ線分403であり、その流入量は、単位時間に対する流入量であるので線分403の勾配に相当する。ところが、線分403は、図13(b)に示すc点とd点の間の時間帯で累積流入量の下限である折線401を下回っている。そのため、この時間帯では、配水池101は貯水量が運用下限105未満になり、配水池101の貯水量を運用上・下限104、105の範囲内に保持することができなくなる。
【0015】
従って、配水池101の貯水量を運用上・下限104、105の範囲内に保持した累積流入量は、図13(b)の折線401と折線402に挾まれた範囲に存在する線分あるいは折線を探索することで求められることが分る。なお、この線分の勾配あるいは折線を構成する線分の勾配が配水池101への流入量、すなわち浄水場102から配水池101への送水量に相当する。
【0016】
このような折線を探索し、流入量を求める方法がQRS法である。そして探索した折線の屈曲点が少ないほど流入量(折線を構成する線分の勾配に相当)の変動回数が少なく、また、折線の屈曲角度(折線を構成する線分の勾配の変化)が小さいほど流入量の変動量が少ない結果となる。
【0017】
従来のQRS法での折線探索の方法、すなわち流入量(線分の勾配)の求め方は、以下の通りである。
ある配水池101における累積流入量の上下限値は、配水池貯水量の運用上・下限104、105(図9(b)参照)より、それぞれ図14に示す通り下限値を折線501、上限値を折線502と表すことができる。図14は、従来の経過時刻に対する水の流入量の積算値である累積流入量の上限値、下限値を表したQRS法での折線探索の方法を示す図である。
【0018】
従って、配水池101の貯水量を、図9(b)に示す運用範囲に保持した流入量は、折線501と折線502の間に挾まれる範囲に存在する。そのため、まず折線501、502の間の範囲内に存在する、初期貯水量(図14のa点)を出発点とする最も長い線分を探索することから始まる。
図14の例では、初期貯水量a点を通る第1の線分としては初期貯水量a点と時刻14時のca点を通る線分が下限累積流入量の折線501と上限累積流入量の折線502に挾まれる範囲に存在する最も長い線分であるが、14時に上限の曲線502を超えてca点に達するため、1時間前に戻り13時のc点で折曲げるものとする。
【0019】
次に、第2の線分として時刻13時のc点から同様に下限の折線501と上限の折線502に挾まれる範囲の最も長い線分を探索すると、13時のc点と時刻18時のda点を通る線分が見つかる。しかし、18時に下限の曲線501を逸脱してda点に達するため、1時間前に戻り17時のd点で折り曲げ、c点からd点までを第2の線分とする。
この探索手順を繰り返し、時刻20時のe点から最終時刻の翌日の6時にba点に達する。しかし、最終時刻6時の目標貯水量はb点であるため、1時間前に戻り5時のf点でb点と結ぶように折曲げることで、最後にf点とb点を結び、折線503(a点−c点−d点−e点−f点−b点を線分で結ぶ折線)を決定する。
【0020】
このQRS法は、図14でも分るように、初期貯水量a点に近い初期の時間帯では一定の流入量が算出されるが、後半の時間帯では、目標貯水量(図14のb点)に達するために小刻み、すなわち短時間に流入量を変動させるような流入量が算出されやすい。また、求めた折線の各屈曲点(図14のc点、d点、e点およびf点)での流入量の変動量が既定の流入量の許容変動幅を上回っていたときは、折線の探索が困難となり、折線の解を算出できない場合がある。
【0021】
もう一つの折線探索の方法は、特許文献1に示されるものである。この方法は特許文献1の図7からも分るように、折線の屈曲角度(折線の勾配の変化)、すなわち流入量の変動量を従来のQRS法より小さくすることができるが、その反面として折線の屈曲回数が多くなる傾向がある。
【0022】
図9に示す配水池101の設備は浄水場102から水を流入させるのであるが、市町村の配水池101の設備において都道府県の浄水場102から水を流入させる場合は、市町村は都道府県と契約を結び、水を購入することになる。その場合、契約上1日当たりの最大受水量や時間当たりの許容変動量等の取り決めがあり、また受水量を変動させるときには、事前に浄水場102への連絡を必須としている場合もある。
【0023】
そのため、配水池101の流入量を決定する場合においても契約上の変動幅を考慮し、かつ、なるべく変動回数を抑えた流入量を求めることが望まれる。従って、配水池101への流入量として、変動幅が予め設定した許容変動幅の範囲に抑えられ、かつ、変動回数が最小限となる流入量を算出し、その算出された流入量に基づいて実際の配水池101の流入量を制御することが必要となってくる。
【0024】
本発明は上記実状に鑑み、配水池への予め設定された流入量の変動許容幅を守った上で流入量の変動回数を最小限に抑えた準最適な流入量を求めることが可能な配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法およびそのプログラム、配水池浄水供給システムの提供を目的とする。
なお、理想の流入量は、一般的に“最適な”流入量と表現すると考えられるので、ここでは理想に近い流入量という意味で、“準最適”な流入量と表現している。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成すべく、第1の本発明に関わる配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法は、浄水場から配水池へ供給される浄水の流入量を調節する流入量調節手段と、該流入量調節手段を制御するためのコントローラと、該コントローラへ制御目標とする流入量設定値を与える流入量設定演算手段とを備えた配水池浄水供給システムにおいて、前記配水池から需要側へ供給される未来の前記浄水の需要量を予測する需要量予測手段と、前記流入量の許容変動幅を設定する変動幅設定手段と、前記配水池の水位上限および水位下限を設定する水位上下限設定手段とを備え、前記流入量設定演算手段は、時間と前記流入量を時間経過で累積した累積流入量とを座標軸とする座標平面上において、算出開始の初期時刻における貯水量を出発点とし、算出終了の最終時刻における目標累積流入量を目標点として、前記需要側への未来の需要量を前記需要量予測手段で予測した前記需要量とした場合、前記水位上下限設定手段により設定した前記配水池の水位上限および水位下限をそれぞれ保持する前記配水池への累積流入量の上限および下限を表すそれぞれの折線の間の範囲内に在る複数の前記出発点をもつ線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる線分を第1線分に設定し、該第1線分上の任意のまたは既定の時刻に相当する複数の点を次の出発点として、前記変動幅設定手段により設定される前記流入量の許容変動幅の範囲内で、前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在る複数の線分のうちから、最も未来の時刻までを定義域とできる次の線分を設定して前の第1線分と接続することで一つの折線とする操作を繰り返すことにより後続する次の線分を接続して一つの折線とし、前記流入量の変動を表す折線を設定し、当該折線が示す累積流入量をもって前記配水池への流入量設定値の設定を行っている。
【0026】
第2の本発明に関わる配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法は、浄水場から配水池へ供給される浄水の流入量を調節する流入量調節手段と、該流入量調節手段を制御するためのコントローラと、該コントローラへ制御目標とする流入量設定値を与える流入量設定演算手段とを備えた配水池浄水供給システムにおいて、前記配水池から需要側へ供給される未来の前記浄水の需要量を予測する需要量予測手段と、前記流入量の許容変動幅を設定する変動幅設定手段と、前記配水池の水位上限および水位下限を設定する水位上下限設定手段とを備え、前記流入量設定演算手段は、時間と前記流入量を時間経過で累積した累積入流量とを座標軸とする座標平面上において、算出開始の初期時刻における貯水量を出発点とし、算出終了の最終時刻における目標累積流入量を目標点として、前記需要側への未来の需要量を前記需要量予測手段で予測した前記需要量とした場合、前記水位上下限設定手段により設定した前記配水池の水位上限および水位下限をそれぞれ保持する前記配水池への累積流入量の上限および下限を表すそれぞれの折線の間の範囲内に在る複数の前記出発点をもつ線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる線分を第1線分に設定し、該第1線分上の任意のまたは既定の時刻に相当する複数の点を次の出発点として、前記変動幅設定手段により設定される前記流入量の許容変動幅の範囲内で、前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在る複数の線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる次の線分を第2線分に設定して前記第1線分と前記第2線分とを接続することで一つの折線とする第1操作と前記第2線分の後に続く第3線分を、前記第2線分をその前の前記第1線分に対して設定した方法と同様にして設定し、前記第2線分と前記第3線分とを接続することで一つの折線とする第2操作と該第2操作を繰り返す第3操作とのうち、前記第1操作または前記第1・第2操作または前記第1・第2・第3操作を行うことにより、前記流入量の変動を表す折線を設定し、当該折線が示す累積流入量をもって前記配水池への流入量設定値の設定を行っている。
【0027】
第3の本発明に関わる配水池浄水供給システムのプログラムは、コンピュータに、第1または第2の本発明の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法を実行させるためのプログラムである。
【0028】
第4の本発明に関わる配水池浄水供給システムは、第1の本発明の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法を行うシステムである。
【0029】
第5の本発明に関わる配水池浄水供給システムは、第2の本発明の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法を行うシステムである。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、配水池への予め設定された流入量の変動許容幅を守った上で流入量の変動回数を最小限に抑えた準最適な流入量を求めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る実施形態1の折線探索方法において、時刻と累積流入量とのグラフで折線の屈曲点の決定方法について示した図である。
【図2】実施形態1の折線探索方法において、時刻と累積流入量とのグラフで2箇所目の屈曲点の決定方法について示した図である。
【図3】実施形態1の折線探索方法で求めた時刻と累積流入量とのグラフでの配水池への流入量の累積を示す図である。
【図4】実施形態2の折線探索方法において、時刻と累積流入量とのグラフで折線の屈曲点の決定方法について示した図である。
【図5】実施形態2の折線探索方法で求めた時刻と累積流入量とのグラフでの配水池への流入量の累積を示す図である。
【図6】実施形態3の折線探索方法において、時刻と累積流入量とのグラフで折線の屈曲点の決定方法について示した図である。
【図7】実施形態3の折線探索方法で求めた時刻と累積流入量とのグラフでの配水池への流入量の累積を示す図である。
【図8】本発明の一実施例の配水池浄水供給システムの概念的構成図である。
【図9】(a)は上水道施設における配水池廻りの設備を示す図であり、(b)は配水池の運用範囲を示す図である。
【図10】水の需要量の日間変動を示す図である。
【図11】配水池への水の流入量を一定としたときの配水池貯水量の変化を示す図である。
【図12】(a)は時間と水の配水池101からの流出量との関係を示す図であり、(b)は時間と水の配水池101からの流出量の経過時間での積算値である累積流出量の関係を示す図である。
【図13】(a)は時間と水の配水池101からの流出量との関係を示す図であり、(b)は時間と水の配水池101への流入量の経過時間での積算値である累積流入量の上限値、下限値との関係を示す図である。
【図14】従来の経過時刻に対する水の配水池への流入量の積算値である累積流入量の上限値、下限値を表したQRS法での折線探索の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
<実施形態1>
まず、本発明の実施形態1では、配水池101(図9参照)への水(浄水)の最適な流入量の設定値である流入量設定値の算出方法を説明する。
QRS法における流入量は、時間に対する累積流入量の折線の勾配として表されるので、流入量を変動させることは折線の勾配を変更することになる。従って、設定された許容変動幅を考慮した流入量の算出は、折線の各屈曲点において、折線の勾配の変更量を許容変動幅に制限して折線を探索することとなる。
【0033】
図1において、図9(a)に示す上水道施設における配水池101への運用下限105、運用上限104をそれぞれ保持する累積流入量の下限値を折線601、上限値を折線602とする。
また、算出開始時刻である6時の初期貯水量をa点とし、目標貯水量を達成する時刻である翌日6時の目標貯水量をb点とする。
【0034】
ここで、下限値の折線601は、未来の水の予測需要量に対して図9(b)に示す配水池101の運用下限105を保持する流入量を積算して求めたものであり、上限値の折線602は、未来の予測需要量に対して図9(b)に示す配水池101の運用上限104を保持する流入量を積算して求めたものである。
従って、下限値の折線601および上限値の折線602のそれぞれの形状は、累積する水の予測需要量により決定される。
【0035】
未来の水の予測需要量は過去の需要量実績を統計的手法により解析する方法や、ニューロ等の知識工学を応用した方法により予測量として算出することができるが、その算出方法については本発明に直接関係しないので、説明を省略する。
【0036】
以下、実施形態1の最適な流入量設定値の算出方法について具体的に説明する。
なお、本実施形態1を含む実施形態では、1時間毎に算出を行う場合を説明する。
まず、図1に示す算出開始時刻である初期時刻6時の初期貯水量a点を出発点として、下限値の折線601と上限値の折線602との範囲内で最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分を考えると、初期時刻6時のa点および14時のca点を通る線分603であることが分る。この線分603の勾配が算出開始の初期時刻6時における水(浄水)の準最適な流入量である。また、ここで初期時刻6から7時の直前までにおける水の流入量(線分603の勾配)が確定する。なお、7時以後の流入量(線分の勾配)は次の過程で求める。このように一つの線分が確定することで、線分の始点から次の点前までの勾配(水の流入量)が決定することとする。つまり、線分603が確定することで、線分の始点の初期時刻6時のa点から7時の直前までの水の流入量(勾配)が決定する。
【0037】
線分603は、14時のca点で上限値の折線602を上回るため、14時では累積流入量の上限値の折線602を逸脱することになる。そのため、初期時刻6時の次の時刻(すなわち7時)から上限値の折線602を逸脱しない13時の間の何れかの時刻で流入量を変動させる必要がある。
【0038】
次に、7時から13時の各時刻における線分603上の各点を出発点として、流入量変動量が予め設定された量となる範囲内かつ下限値の折線601と上限値の折線602との範囲内で、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分を探索する。図1より、7時から8時のc1点およびc2点については、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は、線分603に一致する。そのため、7時のc1点から8時のc2点については除外する。一方、9時〜13時のc3点〜c7点それぞれから最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は、それぞれ線分604、線分605、線分606、線分607、線分608となる。
【0039】
線分604、線分605、線分606、線分607、線分608のうちでは、12時のc6点を始点とする線分607が最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分である。
従って、7時から13時の何れかの時刻で1回だけ流入量変動がある場合、12時のc6点で流入量を線分603から線分607に変動させた時が、1回の流入量変動で最も未来の時間(時刻)まで運用上下限の範囲に収まる流入量を実現できることが分る。ここまでの探索手順で、7時から12時の直前までの流入量(線分603の勾配)と、12時から13時の直前までにおける流入量(線分607の勾配)が確定される。
【0040】
さて、線分607は図2に示す時刻22時のda点で上限値の折線602を上回るため、22時で累積流入量の上限値の折線602を逸脱することになる。そのため、今度は線分607の始点の時刻12時の次の時刻13時から、累積流入量の上限値の折線602を逸脱しない21時の間で流入量を変動させる必要がある。
【0041】
そこで、図2に示す13時から21時の各時刻における線分607上の各点を出発点として、流入量変動幅が予め設定された量となる範囲内かつ下限値の折線601と上限値の折線602との範囲内で、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分を探索する。13時から16時では、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は、最終時刻の翌日6時までは到達できない。つまり、13時から16時の線分は、下限値の折線601と上限値の折線602間の範囲外でなってしまう。
図2では代表として16時のd1点を出発点として最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分701を図示している。
【0042】
一方、図2に示す時刻17時から21時では、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は、いずれも最終時刻の翌日6時まで到達できる。この場合は最終時刻の翌日6時において、目標貯水量(図2のb点)に最も近づく線分を、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分とする。図2では代表として17時のd2点および18時のd3点を出発点として最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分702および線分703をそれぞれ挙げている。19時以降の線分607上の各点から、同様にして求めた線分は、最終時刻の翌日6時には線分703より、目標貯水量(図2のb点)から離れる。
【0043】
そして、最終時刻の翌日6時には、17時のd2点の線分702の方が、18時のd3点の線分703より目標貯水量(図2のb点)に近づくので、17時のd2点の線分702が目標貯水量(図2のb点)に最も近づく線分である。
【0044】
従って、初期時刻6時から12時の直前まで線分603の勾配に相当する流量を選択し、12時から線分607の勾配に相当する流量を選択したときにおいて、13時から21時の何れかの時刻で1回だけ流量変動がある場合、17時のd2点で流量を線分607から線分702に変動させたときが、1回の流量変動で最も未来の時間(時刻)まで運用上・下限104、105の上限値の折線602と下限値の折線601との範囲内に収まる流入量を実現できることが分る。
ここまでの探索手順で、13時から17時の直前までの流量である線分607の勾配と、17時から18時の直前までにおける流量である線分702の勾配が確定される。
【0045】
以上の探索手順を繰り返すことにより、流入量を初期時刻の6時から未来の時間(時刻)に向けて確定していき、最終的に目標貯水量を通る図3に示す線分801が見つかった時点で、全区間の流量が確定する。ここで、最終的に目標貯水量(b点)を通る線分801は、翌日の目標時刻6時の目標貯水量のb点から、流量変動幅が予め設定された量となる範囲内かつ下限値の折線601と上限値の折線602との範囲内で、線分702の流入量から流入量変動幅が最も少ないb点とe点とを結ぶ線分を選択することで求まる。
【0046】
なお、線分702が目標累積流入量(目標貯水量)b点を通るように設定できる場合には、この線分801を定める方法は用いないことは勿論である。
従って、図1から図3においては、図3に示すように、a点−c6点−d2点−e点−b点を通る折線(線分603−線分607−線分702−線分801)が準最適な累積流入量を表すことが分る。
【0047】
<実施形態2>
実施形態1では初期時刻における流(入)量の値に制限を設けていない。しかし、実際には、配水池101の初期貯水量と同時に配水池101への初期流(入)量が与えられ、初期流(入)量を変更せずに継続することを求められるケースがある。このように初期流(入)量が予め与えられている場合には、その初期流(入)量を初期時刻における準最適な流(入)量とみなして折線探索を行うことにより、初期流(入)量を反映した準最適な累積流入量を求めることができる。
【0048】
そこで、実施形態2では初期流入量が与えられているケースの最適な流入量設定値の算出方法を説明する。
図4において、未来の水の予測需要量に対して図9(b)に示す運用下限105を保持する各時刻の流入量を積算した累積流入量の下限値を折線901とする。一方、未来の水の予測需要量に対して図9(b)に示す運用上限104を保持する各時刻の流入量を積算した累積流入量の上限値を折線902とする。従って、折線901および折線902の形状は累積する水の予測需要量により決定される。
【0049】
また、算出開始時刻である初期時刻6時の初期貯水量を予め与えられた初期貯水量とし、初期貯水量をa1点とし、目標貯水量を達成する時刻である翌日6時の目標貯水量をb1点とする。
ここでは、算出開始時刻である初期時刻6時の初期貯水量a1点を出発点として、予め与えられた初期流入量903に相当する勾配を持つ線分904を考える。線分904の勾配が初期時刻6時における準最適な流入量であり、初期時刻6時から7時の直前までにおける流入量(線分904の勾配)が確定する。
【0050】
線分904は、時刻9時のca点で下限値の折線901を下回るため、9時で累積流入量の下限を逸脱することになる。そのため、初期時刻6時の次の時刻の7時から下限値の折線901を下回らない8時までの間で流入量を変動させる必要がある。
次に、7時から8時の各時刻における線分904上の各点を出発点として、流入量変動量が予め設定された量となる範囲内で、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分を探索する。図4より、時刻7時のc1点から最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は線分905であり、時刻8時のc2点から最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は線分906となる。ここで、7時のc1点からの線分905は、8時のc2点からの線分906より未来の時間(時刻)まで到達できる。
【0051】
従って、7時から8時の何れかの時刻で1回だけ流入量変動がある場合、7時のc1点で流入量を線分904から線分905に変動させたときが、1回の流入量変動で最も未来の時間(時刻)まで運用上・下限104、105の間の範囲内に収まる流入量を実現できることが分る。ここまでの探索手順で、7時から8時の直前までにおける流量(線分905の勾配)が確定される。なお、8時以降の流量は、前記したように、次の段階で確定することとなる(図5に実線の線分905参照)。
【0052】
以降の線分は前記の探索手順を繰り返すことにより流入量を初期時刻から未来の時間(時刻)に向けて確定していき、最終的に最終時刻6時の目標貯水量(目標累積流入量b1点)を通る線分が見つかった時点で、全区間の流量が確定する。
【0053】
ここで、図5に示す最終の翌日時刻6時の目標累積流入量b1点を通る線分1003は、前記と同様に、流入量変動量が予め設定された量となる範囲内かつ下限値の折線901と上限値の折線902との範囲内で、目標累積流入量b1点を通り、かつ、その前の線分1002の流入量の変動が少ない流入量をもつ線分が設定されることとなる。
【0054】
なお、線分1002が目標累積流入量b1点を通るように設定できる場合には、この線分1003を定める方法は用いないのは勿論である。
これにより、図5において、a1点−c1点−d点−e点−f点−b1点を通る折線(線分904−線分905−線分1001−線分1002−線分1003)が準最適な累積流入量を表すことが分る。
【0055】
なお、実施形態2では、配水池101の初期貯水量と同時に配水池101への初期流(入)量が与えられた場合を例示したが、配水池101の初期貯水量または配水池101への初期流(入)量の何れかが与えられた場合も同様に適用可能である。
例えば、配水池101の初期貯水量のみが与えられた場合には、配水池101の初期貯水量(算出開始時刻である初期時刻の初期貯水量a1点)を与えられた初期貯水量に設定すればよい。また、配水池101への初期流(入)量のみが与えられた場合には、初期時刻の初期貯水量a1点を出発点として、予め与えられた初期流(入)量に相当する勾配を持つ線分904を設定すればよい。
【0056】
初期時刻以外の時間で配水池101の貯水量または/および配水池101への流(入)量が与えられた場合も適用可能である。
例えば、初期時刻以外の時間で配水池101の貯水量が与えられた場合には、与えられた貯水量を、その時刻での目標累積流量として計算すればよい。また、その他の方法を用いてもよい。
例えば、初期時刻以外の時間で配水池101への流(入)量が与えられた場合には、与えられた時間に設定する線分の勾配を与えられた流(入)量とすればよい。
【0057】
<実施形態3>
実施形態1、2では全ての離散時刻(1時間毎の時刻)において流(入)量変動が可能である場合を考えたが、実際には予め指定した時刻以外での流(入)量変動を禁止として運用しているケースがある。このように流(入)量変動できる時刻が限られている場合には、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分の探索を、全ての離散時刻からでなく、流(入)量変動が許容された時刻のみから探索することにより、流(入)量変動可能時刻を反映した準最適な累積流入量を求めることができる。
【0058】
以下の実施形態3では流入量変動可能時刻が限られているケースの考え方を説明する。
図6において、未来の水の予測需要量に対して図9(b)に示す運用下限105を保持する流入量を積算した累積流入量の下限値を折線1101とする。一方、未来の水の予測需要量に対して図9(b)に示す運用上限104を保持する流入量を積算した上限値を折線1102とする。従って、下限値の折線1101および上限値の折線1102の形状は水の予測需要量を累積することにより決定される。
【0059】
算出開始の初期時刻6時の初期貯水量をa2点、目標貯水量の算出を終了する翌日の時刻6時の目標貯水量をb2点とする。
ここでは、流入量変動可能時刻が7時から3時間おき(すなわち、7時、10時、13時、16時、19時、22時、1時、4時)に限られる場合を考える。
【0060】
まず、算出開始の初期時刻6時の初期貯水量a2点を出発点として、下限値の折線1101と上限値の折線1102との範囲内で最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分を考えると、図6の初期時刻6時のa2点および14時のca点を通る線分1103であることが分る。この線分1103の勾配が初期時刻の6時における準最適な流入量である。また、ここで初期時刻の6時から7時の直前までにおける流量(線分1103の勾配)が確定する。なお、7時以降の流入量は次の過程で決定されることとなる。
【0061】
線分1103は14時のca点で折線1102を上回るため、14時で累積流入量の上限を逸脱することになる。そのため、初期時刻の6時の次の時刻7時から累積流入量の上限を逸脱する前の時刻の13時の間で流入量を変動させる必要がある。
次に、7時から13時の各時刻のうち流量の変動が許されている時刻、すなわち、7時、10時、13時のそれぞれにおける線分1103上の各点を出発点として、流量変動量が予め設定された量となる範囲内かつ下限値の折線1101と上限値の折線1102との範囲内で、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分を探索する。
【0062】
図6より、7時の線分1103上のc1点については、最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は、線分1103に一致する。一方、10時の線分1103上のc2点から最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は線分1104であり、13時の線分1103上のc3点から最も未来の時間(時刻)まで到達できる線分は線分1105となる。
10時のc2点を始点とする線分1104が、7時のc1点の線分1103および13時のc3点を始点とする線分1105より、より未来の時間(時刻)まで到達できる。
【0063】
従って、7時から13時のうち流量変動が許された何れかの時刻で1回だけ流量変動がある場合、10時の線分1103上のc2点で流入量を線分1103から線分1104に変動させた時が、1回の流入量変動で最も未来の時間(時刻)まで運用上下限104、105の範囲(上限値の折線1102と下限値の折線1101との範囲内)に収まる流入量を実現できることが分る。ここまでの探索手順で、7時から10時の直前までの流入量(線分1103の勾配)と、10時から11時の直前までにおける流入量(線分1104の勾配)が確定される。
【0064】
以降の線分は前記の探索手順を繰り返すことにより、流量を初期時刻(6時)から未来の時間(時刻)に向けて確定していき、最終的に目標貯水量を通る線分が見つかった時点で、全区間の流量が確定する。
ここで、図7に示す最終の翌日時刻6時の目標貯水量b2点を通る線分1202は、流入量変動量が予め設定された量となる範囲内かつ下限値の折線1101と上限値の折線1102との範囲内で、目標貯水量b2点を通り、かつ、その前の線分1201の流入量の変動が少ない流入量をもつ線分が設定されることとなる。
【0065】
なお、線分1201が目標貯水量b2点を通るように設定できる場合には、この線分1202を定める方法は用いることはない。
これにより、図7において、a2点−c2点−d点−e点−b2点を通る折線(線分1103−線分1104−線分1201−線分1202)が準最適な累積流入量を表すことが分る。
【0066】
なお、実施形態1、2、3では、1時間単位の時刻で算出する場合を例示したが、算出を行う時間単位は、30分、2時間など任意に適宜選択し時刻を設定できるのは勿論である。また、設定した線分上の任意の時刻または既定の時刻に相当する複数の点を次の線分の出発点の候補として設定することも可能である。
【0067】
<実施例>
本発明の具体例である一実施例を、配水池浄水供給システムSの概念的構成図の図8を用いて説明する。
配水池浄水供給システムSは、浄水場1320から配水池1319への適切な水供給量(流入量)を算出するためのシステムである。
ここで、適切な水供給量(流入量)とは、流入量の変動幅および流入量の変動回数が少ないことをいう。
【0068】
配水池浄水供給システムSが対象とする浄化した水を作る浄水場1320から配水池1319への水の流入管路kには、水の流入量を制御する配水池流入弁1316と、流入管路kを通る水の流量を測定する流量計1317とが設置されている。
配水池1319は、浄水場1320から供給(流入)され貯留した水を一般需要家に供給する設備であり、貯留した水の水位を測定する水位計1318が設置されている。
配水池浄水供給システムSを稼動させる計算機1301は、1日の水需要量を予測する水需要予測処理を行う水需要予測手段1302と、配水池1319への浄水場1320からの流入量の設定値を算出する流入量設定値算出処理を行う流入量設定値算出手段1304とを有している。
【0069】
水需要予測手段1302は、水需要予測処理を実行し、未来の水需要量の予測値である水需要予測量データ1303を算出する。水需要量予測量データ1303は、例えば天候や曜日ごとの水需要量の日間変動を考慮して予測される。
計算機1301は、例えば、コンピュータであり、水需要予測手段1302と流入量設定値算出手段1304は、CPU(Central Processing Unit)により、メモリに格納されたプログラムが実行されることにより、具現化される。
【0070】
計算機1301のメモリは、HDD(Hard DiskDrive)、フラシュメモリ、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などで構成される。
なお、計算機1301のインターフェースとして、図示しないA/D変換器、D/A変換器、増幅回路などのインターフェース回路が設けられている。
【0071】
計算機1301には、出力装置のディスプレイ装置1305dとキーボード、マウス、タッチパネルなどの入力装置1305nとを有する端末装置1305が接続されている。
ユーザは、端末装置1305の入力装置1305nを用いて、浄水場1320からの配水池1319への流入量の許容変動幅を設定する。これにより、計算機1301のメモリに配水池1319への流入量の許容変動幅データ1306が格納される。なお、配水池1319への流入量の許容変動幅は、ユーザが入力するのに代えて、システムで配水池流入弁1316の情報などを取得して、自動的に設定するように構成してもよい。
【0072】
同様に、ユーザは、端末装置1305の入力装置1305nを用いて、配水池1319における運用上・下限104、105の運用範囲(図9(b)参照)等の条件を設定する。これにより、計算機1301のメモリに配水池条件データ1307が格納される。
なお、配水池1319における運用上・下限104、105の運用範囲(図9(b)参照)等の条件は、ユーザが入力するのに代えて、システムで配水池1319の容積などの情報を取得して、自動的に設定するように構成してもよい。
【0073】
流量計1317が測定した配水池1319への流入量の流入量実測値1308の情報および水位計1318が測定した配水池1319の水位である水位実測値1309の情報が、計算機1301のメモリに取り込まれる。
【0074】
計算機1301の流入量設定値算出手段1304は、流入量設定値算出処理を実行することにより、水需要予測量データ1303、許容変動幅データ1306、配水池条件データ1307、流入量実測値1308、および水位実測値1309を用いて、前記した実施形態の方法により、配水池1319への水の流入量の変動回数を最小に、かつ、設定された許容変動幅データ1306の許容変動幅の範囲内に変動を抑えた配水池1319への流入量の1日分の各時刻の目標値を算出し、流入量設定値データ1310としてメモリに格納する。
【0075】
計算機1301で求めた流入量設定値データ1310は、通信装置1311を経由して、計算機1301よりコントローラ1312へ送信され、コントローラ1312のRAMなどのメモリに流入量設定値データ1313として格納される。
コントローラ1312に格納される流入量設定値データ1313は、計算機1301で算出された流入量設定値データ1310と同一情報であり、1日分の時間の配水池1319への流入量の目標値が格納されている。その流入量設定値データ1313の現在時刻に該当するデータを、配水池流入弁1316に対する現在の流入量設定値として使用する。
【0076】
一方、配水池1319への実際の流入量は流入管路kに設置された流量計1317より、コントローラ1312に取り込まれ、流入量実測値1315としてメモリに格納される。流入量調整手段1314は、算出した現在の流入量設定値データ1313と流入量実測値1315とを比較し、流入量設定値データ1313が流入量実測値1315より大きい場合は配水池流入弁1316の開指令または配水池流入弁1316の開度を大きくする指令を出力する一方、流入量設定値データ1313が流入量実測値1315より小さい場合は配水池流入弁1316の閉指令または配水池流入弁1316の開度を小さくする指令を配水池流入弁1316に対して出力する。これにより、流入量実測値1315が流入量設定値データ1313に近づくように制御され、調整される。
【0077】
これにより、計算機1301で算出した流入量設定値データ1310により、変動回数を抑えた流入量で浄水場1320から配水池1319へ水を流入させ、かつ配水池1319の水位を運用上・下限104、105の範囲(図9(b)参照)に保持しながら需要を賄うことができる。
【0078】
上記構成によれば、浄水場を含めた上水道設備の安定可動につながる。
また、配水池への流入量の流入量変動幅が流入量に対して小さいなど、運用上の条件が厳しい場合において、従来のQRS法では準最適な流入量を導くのが困難であったケースにおいても、準最適な流入量を算出することができる。
また、従来の準最適な流入量の算出失敗とそれに伴う浄水場または配水池(場)のオペレータの経験やノウハウによる流入量制御に頼ること(機会)が解消し、計算された準最適流入量による配水池への流入量の制御をより安定した形で行うことができる。
【0079】
なお、前記実施例では、計算機1301としてコンピュータを例示したが、説明した所定の機能を果たせれば、計算機1301の少なくとも一部をIC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)などの回路で構成してもよく、その実現態様は特に限定されず適宜選択可能である。
【0080】
また、前記実施形態、実施例では、流入量調節手段として、配水池流入弁103、1316を例示したが、配水池への水の流入量を制御できる手段であれば、流入弁以外のものを用いてもよい。
【0081】
また、前記実施形態では、時間と累積流入量とのグラフ(座標平面)で線分を複数接続して折れ線とする場合を例示したが、折れ線を構成する線分の数は任意数でよく、例示した線分の数に限定されないのは勿論である。
【符号の説明】
【0082】
101 配水池
102 浄水場
103 配水池流入弁(流入量調節手段)
104 配水池水位の運用上限(配水池の水位上限)
105 配水池水位の運用下限(配水池の水位下限)
601 下限値の折線(下限を表す折線)
602 上限値の折線(上限を表す折線)
603 線分(第1線分)
607 線分(第2線分)
702 線分(第3線分、最終時刻を通るように設定された線分)
801 線分(最終線分)
901 下限値の折線(下限を表す折線)
902 上限値の折線(上限を表す折線)
903 予め与えられた初期流量
904 線分(第1線分)
905 線分(第2線分)
1001 線分(第3線分)
1002 線分(第3線分、最終時刻を通るように設定された線分)
1003 線分(最終線分)
1101 下限値の折線(下限を表す折線)
1102 上限値の折線(上限を表す折線)
1103 線分(第1線分)
1104 線分(第2線分)
1201 線分(第3線、最終時刻を通るように設定された線分)
1202 線分(最終線分)
1302 水需要予測手段(需要量予測手段)
1303 水需要予測量データ(浄水の需要量予測)
1304 流入量設定値算出手段(流入量設定演算手段)
1305 端末装置(変動幅設定手段、水位上下限設定手段)
1305n 入力装置(変動幅設定手段、水位上下限設定手段)
1306 許容変動幅データ(許容変動幅)
1307 配水池条件データ(水位上限、水位下限)
1310 流入量設定値データ(流入量設定)
1312 コントローラ
1313 流入量設定値データ(流入量設定)
1316 配水池流入弁(流入量調節手段)
1319 配水池
1320 浄水場
a、a2 初期時刻の初期貯水量(初期時刻における貯水量)
a1 初期貯水量(予め与えられた初期貯水量)
b、b1、b2 目標貯水量(目標累積流入量)
S 配水池浄水供給システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水場から配水池へ供給される浄水の流入量を調節する流入量調節手段と、該流入量調節手段を制御するためのコントローラと、該コントローラへ制御目標とする流入量設定値を与える流入量設定演算手段とを備えた配水池浄水供給システムにおいて、
前記配水池から需要側へ供給される未来の前記浄水の需要量を予測する需要量予測手段と、前記流入量の許容変動幅を設定する変動幅設定手段と、前記配水池の水位上限および水位下限を設定する水位上下限設定手段とを備え、
前記流入量設定演算手段は、
時間と前記流入量を時間経過で累積した累積流入量とを座標軸とする座標平面上において、算出開始の初期時刻における貯水量を出発点とし、算出終了の最終時刻における目標累積流入量を目標点として、
前記需要側への未来の需要量を前記需要量予測手段で予測した前記需要量とした場合、前記水位上下限設定手段により設定した前記配水池の水位上限および水位下限をそれぞれ保持する前記配水池への累積流入量の上限および下限を表すそれぞれの折線の間の範囲内に在る複数の前記出発点をもつ線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる線分を第1線分に設定し、該第1線分上の任意のまたは既定の時刻に相当する複数の点を次の出発点として、前記変動幅設定手段により設定される前記流入量の許容変動幅の範囲内で、前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在る複数の線分のうちから、最も未来の時刻までを定義域とできる次の線分を設定して前の第1線分と接続することで一つの折線とする操作を繰り返すことにより後続する次の線分を接続して一つの折線とし、前記流入量の変動を表す折線を設定し、当該折線が示す累積流入量をもって前記配水池への流入量設定値の設定を行う
ことを特徴とする配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法。
【請求項2】
浄水場から配水池へ供給される浄水の流入量を調節する流入量調節手段と、該流入量調節手段を制御するためのコントローラと、該コントローラへ制御目標とする流入量設定値を与える流入量設定演算手段とを備えた配水池浄水供給システムにおいて、
前記配水池から需要側へ供給される未来の前記浄水の需要量を予測する需要量予測手段と、前記流入量の許容変動幅を設定する変動幅設定手段と、前記配水池の水位上限および水位下限を設定する水位上下限設定手段とを備え、
前記流入量設定演算手段は、
時間と前記流入量を時間経過で累積した累積入流量とを座標軸とする座標平面上において、算出開始の初期時刻における貯水量を出発点とし、算出終了の最終時刻における目標累積流入量を目標点として、
前記需要側への未来の需要量を前記需要量予測手段で予測した前記需要量とした場合、前記水位上下限設定手段により設定した前記配水池の水位上限および水位下限をそれぞれ保持する前記配水池への累積流入量の上限および下限を表すそれぞれの折線の間の範囲内に在る複数の前記出発点をもつ線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる線分を第1線分に設定し、該第1線分上の任意のまたは既定の時刻に相当する複数の点を次の出発点として、前記変動幅設定手段により設定される前記流入量の許容変動幅の範囲内で、前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在る複数の線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる次の線分を第2線分に設定して前記第1線分と前記第2線分とを接続することで一つの折線とする第1操作と
前記第2線分の後に続く第3線分を、前記第2線分をその前の前記第1線分に対して設定した方法と同様にして設定し、前記第2線分と前記第3線分とを接続することで一つの折線とする第2操作と
該第2操作を繰り返す第3操作とのうち、
前記第1操作または前記第1・第2操作または前記第1・第2・第3操作を行うことにより、前記流入量の変動を表す折線を設定し、当該折線が示す累積流入量をもって前記配水池への流入量設定値の設定を行う
ことを特徴とする配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法。
【請求項3】
前記流入量設定演算手段は、
前記最終時刻における目標累積流入量の目標点から、前記最終時刻を通るように設定された前記線分に対して、前記流入量の許容変動幅の範囲内で前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在って、前記最終時刻を通るように設定された線分の流入量の変動が少なくなるような流入量をもつ線分を最終線分に設定して、当該最終線分と前記最終時刻を通るように設定された線分とを接続して前記折線とする
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法。
【請求項4】
前記流入量設定演算手段は、
前記第1線分に、前記初期時刻における出発点の貯水量を予め与えられた初期貯水量に設定するか、または、予め与えられた初期流入量を勾配としてもつように設定するか、少なくとも何れかを行う
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法。
【請求項5】
前記流入量設定演算手段は、
前記複数の線分を、前記流入量の変動が許容された時刻から探索する
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法。
【請求項6】
コンピュータに、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の配水池浄水供給システムの浄水供給量算出方法を実行させるための配水池浄水供給システムのプログラム。
【請求項7】
浄水場から配水池へ供給される浄水の流入量を調節する流入量調節手段と、該流入量調節手段を制御するためのコントローラと、該コントローラへ制御目標とする流入量設定値を与える流入量設定演算手段とを備えた配水池浄水供給システムであって、
前記配水池から需要側へ供給される未来の前記浄水の需要量を予測する需要量予測手段と、
前記流入量の許容変動幅を設定する変動幅設定手段と、
前記配水池の水位上限および水位下限を設定する水位上下限設定手段と、
時間と前記流入量を時間経過で累積した累積流入量とを座標軸とする座標平面上において、算出開始の初期時刻における貯水量を出発点とし、算出終了の最終時刻における目標累積流入量を目標点として、
前記需要側への未来の需要量を前記需要量予測手段で予測した前記需要量とした場合、前記水位上下限設定手段により設定した前記配水池の水位上限および水位下限をそれぞれ保持する前記配水池への累積流入量の上限および下限を表すそれぞれの折線の間の範囲内に在る複数の前記出発点をもつ線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる線分を第1線分に設定し、該第1線分上の任意のまたは既定の時刻に相当する複数の点を次の出発点として、前記変動幅設定手段により設定される前記流入量の許容変動幅の範囲内で、前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在る複数の線分のうちから、最も未来の時刻までを定義域とできる次の線分を設定して前の第1線分と接続することで一つの折線とする操作を繰り返すことにより後続する次の線分を接続して一つの折線とし、前記流入量の変動を表す折線を設定し、当該折線が示す累積流入量をもって前記配水池への流入量設定値の設定を行う流入量設定演算手段とを
備えることを特徴とする配水池浄水供給システム。
【請求項8】
浄水場から配水池へ供給される浄水の流入量を調節する流入量調節手段と、該流入量調節手段を制御するためのコントローラと、該コントローラへ制御目標とする流入量設定値を与えるための配水池浄水供給システムであって、
前記配水池から需要側へ供給される未来の前記浄水の需要量を予測する需要量予測手段と、
前記流入量の許容変動幅を設定する変動幅設定手段と、
前記配水池の水位上限および水位下限を設定する水位上下限設定手段と、
時間と前記流入量を時間経過で累積した累積流入量とを座標軸とする座標平面上において、算出開始の初期時刻における貯水量を出発点とし、算出終了の最終時刻における目標累積流入量を目標点として、
前記需要側への未来の需要量を前記需要量予測手段で予測した前記需要量とした場合、前記水位上下限設定手段により設定した前記配水池の水位上限および水位下限をそれぞれ保持する前記配水池への累積流入量の上限および下限を表すそれぞれの折線の間の範囲内に在る複数の前記出発点をもつ線分のうち、最も未来の時刻までを定義域とできる線分を第1線分に設定し、該第1線分上の任意のまたは既定の時刻に相当する複数の点を次の出発点として、前記変動幅設定手段により設定される前記流入量の許容変動幅の範囲内で、前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在る複数の線分のうちから、最も未来の時刻までを定義域できる次の線分を第2線分に設定して前記第1線分と前記第2線分とを接続することで一つの折線とする第1操作と
前記第2線分の後に続く第3線分を、前記第2線分をその前の前記第1線分に対して設定した方法と同様にして設定し、前記第2線分と前記第3線分とを接続することで一つの折線とする第2操作と
該第2操作を繰り返す第3操作とのうち、
前記第1操作または前記第1・第2操作または前記第1・第2・第3操作を行うことにより、前記流入量の変動を表す折線を設定し、当該折線が示す累積流入量をもって前記配水池への流入量設定値の設定を行う流入量設定演算手段とを
備えることを特徴とする配水池浄水供給システム。
【請求項9】
前記流入量設定演算手段は、
前記最終時刻における目標累積流入量の目標点から、前記最終時刻を通るように設定された前記線分に対して、前記流入量の許容変動幅の範囲内で前記累積流入量の上下限の折線の間の範囲内に在って、前記最終時刻を通るように設定された線分の流入量の変動が少なくなるような流入量をもつ線分を最終線分に設定して、当該最終線分と前記最終時刻を通るように設定された線分とを接続して前記折線とする
ことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の配水池浄水供給システム。
【請求項10】
前記流入量設定演算手段は、
前記第1線分に、前記初期時刻における出発点の貯水量を予め与えられた初期貯水量に設定するか、または、予め与えられた初期流入量を勾配としてもつように設定するか、少なくとも何れかを行う
ことを特徴とする請求項7から請求項9の何れか一項に記載の配水池浄水供給システム。
【請求項11】
前記流入量設定演算手段は、
前記複数の線分を、前記流入量の変動が許容された時刻から探索する
ことを特徴とする請求項7から請求項10の何れか一項に記載の配水池浄水供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−79202(P2012−79202A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225553(P2010−225553)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153443)株式会社日立情報制御ソリューションズ (359)
【Fターム(参考)】