説明

配管等の検査装置

【課題】測定対象に凸部等が存在する場合にその凸部の影響を吸収できる機構を備えた検査装置を提供する。
【解決手段】連結部20の支軸24は第1ギヤ50aに連結され、一方連結部22の支軸36は第8ギヤ50hに連結される。第1ギヤと第8ギヤは、直列に係合された偶数個の第2ギヤ50b〜第7ギヤ50gを介して接続されている。従って2つのアーム26及び38は直列接続された偶数個のギヤを介して互いに接続されている。なお各ギヤには、平歯車等の一定のバックラッシを有するものを使用する。支持部14に対する一方の走行部の姿勢を固定したままであっても、他方の走行部は所定の遊び量だけ変位可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等の構造体の肉厚や表面の欠陥を検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
配管等の金属性構造体に磁着してその上を自走し、その肉厚や表面上の欠陥の有無等を検査する欠陥検査装置が知られている。特に配管のように曲面を有する構造体の欠陥等を検査する場合は、検査装置がその表面上から脱落しないように表面形状に倣って移動できることが望まれる。例えば特許文献1には、前後方向及び左右方向に揺動可能な一対のキャタピラ(登録商標)と、各キャタピラ(登録商標)を駆動するためのモータと、検査対象である鋼管等に磁着するための永久磁石とを備えた台車を有する測定装置が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、検査機器が搭載された台車部と、該台車部の両側に配置されて前後方向及び左右方向に揺動可能な一対の車体部とを備えた検査機器用自走台車が開示されている。特許文献2にはさらに、各車体部を台車部に対して対称に揺動させる同調手段として、台車部の上下方向に延びる案内軸と、案内軸に沿ってスライド移動可能なスライドコマと、一端がスライドコマに連結され他端が揺動リンクに連結される一対の連結リンクとを備えた構成が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−125752号公報
【特許文献2】特開2007−130710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自走式の欠陥検査装置は通常、金属製の構造体に磁着してその表面上を自走する構成を有するため、検査装置はその永久磁石又は電磁石等の磁力を備えた部分が構造体の表面形状に倣って自走できる構成を有することが要求される。この点、特許文献2に開示されている同調手段によれば、配管等の表面に対するセンサの測定姿勢を安定させるという一定の効果はあると考えられる。
【0006】
しかしながら、実際の検査対象の表面は滑らかでなく、溶接による段差、腐食、傷、さらには該腐食や傷の補修パッチ等、種々の凹凸が存在していることが多く、またその凸部の高さは3〜10mm程度に及ぶこともある。従って一対の車体部の一方がその凸部に乗り上げた場合は、各車体部が左右対称に揺動する構成では他方の車体部も影響を受け、結果としてセンサ等を備えた台車部の姿勢が変化して正確な測定ができなくなる場合や、凸部の高さによっては測定装置自体が配管等から落下する虞もある。
【0007】
そこで本発明は、測定対象に凸部等が存在する場合にその凸部の影響を吸収できる機構を備えた検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、磁性材料からなる測定対象物を検査するための検査部と、前記検査部を支持する支持部と、前記支持部の左右方向両側に設けられるとともに、前記測定対象物に磁着して該測定対象物上を走行可能な一対の走行部と、前記一対の走行部の各々を前記支持部に対して、少なくとも前記左右方向に延びる軸線に垂直な前後方向に延びる軸線について旋回可能に連結する連結部と、を有し、前記連結部は、互いに係合された、バックラッシを有する複数のギヤを有する、検査装置を提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の検査装置において、前記連結部は、互いに係合し直列配置された偶数個のギヤを有する、検査装置を提供する。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の検査装置において、前記一対の走行部の各々は、前記測定対象物に磁着して該測定対象物上を走行可能なマグネット車輪と、該マグネット車輪に当接する回転駆動式のスクレーパとを有する、検査装置を提供する。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の検査装置において、前記連結部は、前記一対の走行部の各々と前記支持部とを連結するボールジョイントを有する、検査装置を提供する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査装置において、前記支持部は、前記検査部と前記測定対象物との距離を調節するための調節機構をさらに有し、前記調節機構は、前記支持部の底面において、前記検査装置の左右方向及び前後方向にそれぞれ平行な辺を有する矩形の四隅にそれぞれ配置されて前記測定物の表面に当接するように構成された4つの当接部材と、前記支持部に対する前記4つの当接部材の垂直方向距離を調節する調節部材とを有し、前記4つの当接部材のうち少なくとも2つは、前記一対の走行部の各々が有する、前記測定対象物に磁着して該測定対象物上を走行可能なマグネット車輪と略一直線をなすように配置される、検査装置を提供する。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の検査装置において、前記4つの当接部材のうち左右方向に対向する2つの当接部材の距離と、前後方向に対向する2つの当接部材の距離とが互いに等しい、検査装置を提供する。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の検査装置において、前記検査部と前記支持部との間、及び前記支持部と前記走行部との間の少なくとも一方にダンパが設けられる、検査装置を提供する。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の検査装置において、前記検査部はダッシュポットを介して前記支持部に連結される、検査装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一対の走行部を支持部に対して概ね対称に姿勢変更できるとともに、一方の走行部に対して他方の走行部を所定の遊び量だけ変位させることも可能となる。従って測定対象物の表面上の突起等に一方の走行部が乗り上げた場合であっても、該走行部は他方の走行部に影響を与えることなく変位できるので、検査装置の落下や測定対象物に対する検査部の位置関係の変化を防止することができる。
【0017】
連結手段を偶数個のギヤを互いに係合させて構成すれば、簡易な構成で所望の遊び量を有する連結手段が提供される。
【0018】
測定対象物上を走行するマグネット車輪にスクレーパを設けることにより、マグネット車輪を清浄に保つことができる。特に、スクレーパをマグネット車輪と同方向に回転駆動する構成とすることにより、車輪表面の掻き取り効果を向上させることができる。
【0019】
連結部にボールジョイントを使用することにより、走行部が支持部に対して任意の姿勢をとれる構成を実現できる。
【0020】
4つの当接部材のうち少なくとも2つを、マグネット車輪と略一直線をなすように配置することにより、検査装置が測定対象物の突起等に乗り上げるときに検査装置が受ける衝撃や振動の回数を低減することができる。
【0021】
4つの当接部材のうち左右方向に対向する2つの当接部材の距離と、前後方向に対向する2つの当接部材の距離とが互いに等しくすることにより、検査装置の向きが変化した場合でも測定対象物と検査部との距離を一定に保つことができる場合が多くなる。特に配管上では、検査装置の向きが配管の長手方向から周方向に(或いはその逆)変化した場合でも、配管と検査部との距離を一定に保つことができる。
【0022】
検査部と支持部の間、及び支持部と走行部との間の少なくとも一方にダンパを設けることにより、検査装置が受ける振動や衝撃が検査部に及ぶことを防止又は低減でき、高精度の検査を行うことができるようになる。特に、ダッシュポットを用いて検査部を支持部に連結することにより、検査部が受ける振動や衝撃をより効果的に防止又は低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は本発明に係る欠陥検査装置10の外観斜視図であり、図2は同装置を図1とは反対側からみた斜視図である。欠陥検査装置10は、配管等の測定対象物(図示せず)の肉厚の変化及び分布や、表面の欠陥の有無等を測定するための検査部12と、検査部12を測定対象物から所定距離離隔させて支持する支持部14と、支持部14の左右方向両側に取付けられて配管等の表面上を走行する構造(詳細は後述)を備えた一対の走行部16、18とを有する。検査部12としては例えば、電磁誘導センサ、より好ましくは低周波電磁誘導センサが使用可能である。低周波電磁誘導センサは、金属性配管等の強磁性材料の肉厚や欠陥の有無等を非接触で検出することができる。
【0024】
支持部14は、全体として略矩形の枠形状を有し、その略中央に検査部12を搭載できるようになっているが、検査部12を支持できる構成であれば図示された形状に限られない。また各走行部16、18は、全体として略直方体形状の筺体を有し、内部に後述するモータや車輪を有するが、該モータや車輪を収容できる構成であれば図示された形状に限られない。
【0025】
一対の走行部16、18は、それぞれ連結部20、22を介して支持部14に対して揺動可能に連結される。図1に示すように、連結部20は、少なくとも支持部14の前方右側端部において前後方向に延びる軸線23に沿う支軸24回りに揺動可能に取付けられた第1アーム26と、第1アーム26に一端が固定され前後方向に略水平に延びる揺動バー28とを有する。また図2に示すように、揺動バー28の他端は、支持部14の後方右側端部において支軸30回りに揺動可能に取付けられた第2アーム32に固定される。また揺動バー28はその長手方向の略中央において、前後方向の軸線23に垂直な左右方向に延びる軸線33に沿いかつ走行部16内を旋回可能に支持する走行部旋回軸34に接続される。従って走行部16は、旋回軸34回りに旋回可能であるとともに、揺動バー28の動作に伴って支軸24及び30回りにも旋回可能であり、故に走行部16は、配管等の測定対象物の表面形状に応じて適宜姿勢を変えることができる。
【0026】
なお走行部18を支持部14に連結する連結部22については、連結部20と勝手違いの構造とすることができる。すなわち、連結部22は、少なくとも支持部14の前方左側端部において前後方向に延びる軸線35に沿う支軸36回りに揺動可能に取付けられた第3アーム38と、第3アーム38に一端が固定され前後方向に略水平に延びる揺動バー40とを有する。揺動バー40の他端は、支持部14の後方左側端部において支軸42(底面図3参照)回りに揺動可能に取付けられた第4アーム44に固定される。また揺動バー40はその長手方向の略中央において、前後方向の軸線35に垂直な左右方向に延びる軸線45に沿いかつ走行部18内を旋回可能に支持する走行部旋回軸46に接続される。従って走行部18は、旋回軸46回りに旋回可能であるとともに、揺動バー40の動作に伴って支軸36及び42回りにも旋回可能である。故に走行部18は、配管等の測定対象物の表面形状に応じて適宜姿勢を変えることができる。
【0027】
次に、左右の連結部20、22を互いに接続するための構造について説明する。図1及び検査装置10を下方からみた図3に示すように、連結部20の支軸24は第1ギヤ50aに連結され、一方連結部22の支軸36は第8ギヤ50hに連結される。第1ギヤと第8ギヤは、直列に係合された偶数個(図示例では6つ)の第2ギヤ50b〜第7ギヤ50gを介して接続されている。従って2つのアーム26及び38は直列接続された偶数個(図示例では8つ)のギヤを介して互いに接続されている。なお各ギヤには、平歯車等の一定のバックラッシを有するものを使用する。
【0028】
次に、複数のギヤ及び左右の走行部を模式的に示した図4を用いて、複数のギヤを使用する場合の走行部の挙動について具体的に説明する。簡略化のために各ギヤのピッチ円直径dは一律であるとし、両端のギヤ50a、50hの中心Oから走行部16、18の接触点P(具体的には車輪が測定対象物に当接する点)までの距離をLとする。さらに、線分OPとギヤ50aの中心を通る鉛直線とのなす角度をαとし、走行部18を固定した状態で走行部16が変位し得る最大高さ(遊び量)をxとし、遊び量がxのときの線分OP′と線分OPとのなす角度をβとすると、角度β及び遊び量xは、それぞれ以下の式(1)及び(2)で表される。但しNはギヤの個数であり、kはギヤのバックラッシである。
β=360k(N−1)/πd (1)
x=L{cos(α)−cos(α+β)} (2)
【0029】
上式によれば、例えばd=20mm、L=80mm、k=0.17mm、α=60°であり、ギヤ個数が8個である場合、β=6.8°、x=8.5mmとなる。従ってこの例では、支持部14に対する走行部18(又は走行部16)の姿勢を固定したままであっても、走行部16(又は走行部18)は最大8.5mm変位可能である。従って、配管等の表面に8.5mmまでの高さの段差部等があっても、それに乗り上げることによる検査装置の落下を防止でき、また支持部14に搭載された検査部の姿勢は一定に保たれ、好適な検査を持続することができる。すなわち本発明は、基本的には一対の走行部が左右対称に姿勢変化できるとともに、一方の走行部が段差に乗り上げる際や凹部に落ち込む際に、他方の走行部や検査部に影響を与えないよう柔軟な挙動を呈する構成を提供する。逆に一方の走行部が遊び量を超えて他方の走行部に対して変位することはないので、測定対象物上の段差等の最大高さと同等かそれよりいくらか大きい値に遊び量を設定しておけば、双方の走行部が同時に測定対象物上から離脱することが防止される。なお明らかなように、8.5mmという高さ(遊び量)はギヤ径やバックラッシ等により適宜変更可能である。
【0030】
図5(a)及び(b)は、偶数個のギヤの係合形態の変形例を示す図である。図1の例ではギヤが略一直線に係合しているが、図5(a)に示すようにギヤを千鳥状に配置してもよいし、或いは図5(b)に示すように全体としてアーチ形状をなすように配置してもよい。このように、複数のギヤを使用することにより、ギヤを収容する部分の形状や検査装置の寸法上の制約等に応じて適宜配列を変更可能であり、設計の自由度を高めることができる。またギヤの個数は8個に限られず、ギヤの大きさは一律でなくてもよい。これらのファクターは検査装置の形状等に合わせて適宜変更可能である。
【0031】
なお図5(a)及び(b)のように、全てのギヤを互いに直接係合させた構成を用いてアーム26及び38(図1等)を連結する場合には、使用するギヤの個数は偶数とする必要がある。但し本発明はギヤ以外の連結手段の使用を排除するものではなく、他の連結手段を付加したり、ギヤの一部を他の連結手段に置換したりしてもよい。例えば、図5(c)に示すように、第4ギヤ50dの代わりに、第3ギヤ50cと第5ギヤ50eとを連結するベルト又はチェーン52を使用してもよく、この場合使用するギヤの個数は奇数個となる。上述のように本発明はギヤが有するバックラッシを利用して所望の遊びを得るものであるので、複数のギヤを全て直接係合させる必要はなく、少なくとも2つのギヤが互いに係合していれば一定の遊びは得られる。
【0032】
次に底面図3を用いて、走行部内の構造について説明する。走行部16は、配管等の検査対象物の表面に磁着して該表面上を自走する複数(図示例では2つ)のマグネット車輪60、62と、マグネット車輪60、62を駆動するための駆動手段すなわちモータ64とを有する。モータは車輪毎に設けられてもよいが、検査装置全体のコンパクト化及び軽量化のために、図示例では1つのモータ64で2つの車輪を駆動する。またモータ64としてより小型のモータを使用できるようにするために、図2に示すように、モータ64の駆動軸66を第1プーリ68に平ベルト70等で連結し、さらにプーリ68を平ベルト72等で第2プーリ74に連結することにより、2段階の減速を行って高トルクを得ている。第2プーリ74は車輪駆動シャフト76に連結されており、車輪駆動シャフト76には2つのウォームギヤ78、80が取付けられている。ウォームギヤ78、80はそれぞれ、車輪60、62の回転軸82、84にそれぞれ取り付けられたウォームホイール86、88と係合し、これによりモータ64の作動により車輪60、62が回転できるようになっている。
【0033】
図6は、マグネット車輪60の構造を詳細に示す図である。車輪60は、鉄等の磁性体から形成され略円板形状を有する2つの車輪部90、92と、両車輪部の間に挟まれる黄銅(Bs)等の非磁性体から形成された略円板形状の間挿材94とを有する。車輪部90、92及び間挿材94は同心配置され、また間挿材94の直径は車輪部90、92の直径よりいくらか短い。またマグネット車輪60の内部には、ネオジウム等の磁性材料から形成され略円環形状を有するマグネット96が同心配置されており、これにより車輪部90、92はそれぞれN極及びS極(或いはその逆)として作用し、配管等の表面に磁着することができる。なおマグネット車輪62もマグネット車輪60と同様の構成でよいので、説明は省略する。
【0034】
マグネット車輪60、62には、使用により汚れや異物が付着して円滑な走行の妨げになることがある。そこで図3に示すように、車輪60、62の車輪部90、92の表面を清浄に保つためのスクレーパ98、100を設けることが好ましい。スクレーパ98、100は、車輪部表面の掻き取り効果をより高めるために、固定式ではなく回転駆動式とすることが好ましい。この場合の回転方向は、対応する車輪の回転方向と同じであること、すなわち図7に示すようにスクレーパ及び車輪部の当接部分における移動方向が互いに異なるようにすることが好ましい。しかし、スクレーパ及び車輪の周速度が異なっていれば、両者の回転方向が異なっていても一定の掻き取り効果は得られる。
【0035】
図3は、スクレーパ98、100の回転駆動手段について示している。走行部16内において、上述の車輪駆動シャフト76と平行に延びるスクレーパ駆動シャフト102が設けられ、シャフト76に取り付けられた平歯車等のギヤ104及びシャフト102に取り付けられた平歯車等のギヤ106が互いに係合している。またスクレーパ駆動シャフト102には2つのウォームギヤ108、110が取付けられている。ウォームギヤ108、110はそれぞれ、スクレーパ98、100の回転軸112、114にそれぞれ取り付けられたウォームホイール116、118と係合し、これによりモータ64の作動によりスクレーパ98、100が回転できるようになっている。なお車輪駆動シャフト76及びスクレーパ駆動シャフト102の回転方向は異なるので、ウォームギヤ108、110の溝方向をウォームギヤ78、80の溝方向と逆にするか、或いはウォームホイールの取り付け方向を逆にすることにより、マグネット車輪とスクレーパの回転方向を同じにすることができる。
【0036】
なお本実施形態では車輪の回転駆動とスクレーパの回転駆動とを1つのモータで行っているが、それぞれ別個の駆動手段としてもよい。但し装置全体の軽量化の観点からは、1つの駆動手段で車輪及びスクレーパの双方を駆動できる構成が好ましい。
【0037】
車輪に対するスクレーパの当接部分すなわちエッジ部の形状は、車輪部の表面の掻き取り作用を有するものであればどのような形状でもよいが、検査装置の前進時及び後退時の双方において掻き取り操作が行えるようになっていることが好ましい。例えば図7(a)及び(b)に示すように、径方向断面形状で示すスクレーパ98は、その周方向に適当な角度間隔(好ましくは等間隔)で形成された4つの突部120を有し、各突部の周方向両端に、スクレーパの軸方向に延びるエッジ部122、124が形成されている。検査装置の前進時(図7(a))にはスクレーパのエッジ部122が車輪60の表面の掻き取りを行い、逆に検査装置の後退時(図7(b))にはスクレーパのエッジ部124が車輪60の表面の掻き取りを行うようにすることができ、いずれの回転方向においてもエッジ部が掻き取りに好適な角度で車輪60の表面に当接できるようになっている。なおスクレーパ100についても同様の構成とすることができるので、説明は省略する。
【0038】
上述のようにスクレーパと車輪とは同方向に回転するが、スクレーパによる掻き取りをより効率的に行うために、スクレーパの回転数の方が車輪の回転数より相当に高いことが好ましい。例えば図7に示すようなスクレーパを、車輪に対する回転数比15:1で使用した場合は、スクレーパ1回転当たり4回の掻き取り操作が行われるので、車輪1回転中に60回の掻き取り操作を行うことができる。このようにスクレーパのエッジ部の個数や回転数比を適宜設定することにより、好適な回数の掻き取り操作を行うことができる。
【0039】
一般的なスクレーパは回転せずに固定配置されるものが多いが、そのようなスクレーパではスクレーパ自体に掻き取った汚れ等が付着又は堆積し、短時間で掻き取り効果が低下する虞があり、故に頻繁に清掃を行う必要がある。しかし積極的に回転駆動するスクレーパの場合は、掻き取った汚れ等はスクレーパに付着せずに落下する可能性が高く、故にスクレーパの清掃頻度を大幅に低減することができる。なおスクレーパの材質としては、マグネット車輪の磁力の影響を受けない非磁性体であってある程度の耐摩耗性を有するものが使用可能であり、例えばステンレス鋼が好ましい。
【0040】
なお上述の実施形態では、走行部16、18を前後方向及び左右方向に揺動させるためにアーム、揺動バー及び旋回軸を用いた構造を利用したが、図8に概略図示するように、走行部16、18をそれぞれボールジョイント130、132によって支持部14に連結することも可能である。このような構成によれば、各走行部は支持部に対して任意の姿勢をとることができ、配管等の測定対象物の表面上の段差等に対してより柔軟な動作を行うことができる。
【0041】
また検査装置の安定的な走行のためには、走行部16の車輪60、62の配列方向、並びに走行部18の車輪60′、62′の配列方向は、検査装置の進行方向(矢印134で図示)に対して正確な平行とせず、進行方向に対していくらか内向き、具体的には上記配列方向と進行方向とのなす角度γが0〜5°、好ましくは1〜3°内向きに傾斜していることが好ましい。このような角度γを安定的に維持するために、各走行部に隣接する支持部14の部分には、概略図示するようなボールローラ136、138、140、142が設けられることが好ましい。ボールローラの先端すなわちボール部は対応する走行部の側面に当接するように構成され、これにより各走行部は上述の角度γを維持しつつ、ボールジョイントにより好適な姿勢をとることができる。
【0042】
本発明に係る検査装置10の支持部14は、搭載された検査部12と測定対象である配管等の表面との距離を調節するための調節機構を有することができる。ここで調節機構は、図1及び図3に示すような、図示しない測定対象物に当接するキャスタ、ボールローラ等の当接部材152、154、156及び158と、支持部14に対する各キャスタの垂直方向距離すなわち高さを調節するボルト等の4つの調節部材160、162(キャスタ152、156用の2つのみ示)とを有する。なおキャスタの個数は適宜選択可能であるが、通常検査部12は底面視で略矩形形状を呈することが多いので、図示例のようにその支持部14の底面において矩形の四隅に4つ設けられることが好ましい。またその場合、図3を概略図示した図9に示すように、対向する左右の車輪60及び60′の中心を結ぶ線上にキャスタ152、156が位置し、同様に対向する左右の車輪62及び62′の中心を結ぶ線上にキャスタ154、158が位置することが好ましい。このようにすると、車輪が測定対象物上の段差等に乗り上げると略同時にキャスタも段差に乗り上げることになるので、1つの段差を乗り越えるために複数回の振動や衝撃が生じることを避けることができる。
【0043】
さらに、図9に示すように、キャスタの左右方向の間隔すなわちキャスタ152及び156(キャスタ154及び158)の間隔S1と、キャスタの前後方向の間隔すなわち152及び154(キャスタ156及び158)の間隔S2とは、互いに等しい(すなわち4つのキャスタが正方形を呈する)ことが好ましい。このようにすると、検査装置が配管の長手方向に走行している場合と、周方向に走行している場合とにおいて、検査部12と配管表面の測定部位との間隔を等しくすることができ、検査精度の向上を図ることができる。
【0044】
本発明に係る検査装置によれば、配管等の測定対象物の表面上に段差等がある場合であっても、該段差に乗り上げることよる装置の落下等を防止することができる。しかし実際の測定対象物の表面には溶接部や腐食等、様々な突起や凹みが存在していることが多く、故に検査装置においては、そのような突起等に走行部が乗り上げたことに起因する振動が、走行部を介してセンサ等の検査部に及ぶことがある。またこれを防止するために、一部の従来の検査装置ではスプリングを用いて走行部からの振動を緩和する構成が採用されているが、スプリングの微細な振動や、スプリング自体の固有振動と走行部から伝わる振動との共振等により、高精度の検査が困難となる場合がある。
【0045】
そこで本発明に係る検査装置は、図1〜図3及び正面図10に示すように、走行部からの振動や衝撃を吸収するためのダンパを有することができる。なおここでいうダンパとは、一般に振動や衝撃を吸収(減衰)するための装置を指し、粘性材料を利用した粘性ダンパ(オイルダンパ等のシリンダ型ダンパ)、ゲル等の粘弾性材料を利用した粘弾性ダンパ、ゴムやバネを利用した弾性ダンパ、鉛や低降伏点鋼を利用した弾塑性ダンパ(履歴ダンパ)、摩擦ダンパ、磁力ダンパ、電磁力ダンパ等を含む。以下に説明する実施形態ではその一例として、シリンダ型ダンパの一種であるダッシュポットを利用している。
【0046】
検査装置10は、支持部14を構成する枠体の左右方向に対向する部材に一端が取り付けられ、他端が検査部12の上面に係合して検査部12を保持する略枠形状の保持部材170に取り付けられるダッシュポット172、174、176及び178を有する。各ダッシュポットは内部にオイルや粘性流体を有し、急激な振動や衝撃に対しては大きな抵抗を生じるが、緩やかな力に対してはそれに応じて変位するように構成されている。このように支持部14と検査部12とをダッシュポットで連結することにより、走行部16、18からの急激な又は高周波の振動等の影響が検査部に及ぶことを防止することができる。なお検査部12は、上記ダッシュポット以外の手段によって支持部14の底面近傍において支持部に固定されてもよいが、その場合検査部12と支持部14との間にゴム等の緩衝材を間挿させることが好ましい。
【0047】
また検査装置10は、図2及び図3に示すように、揺動バー28、40に一端が固定され、支持部14を構成する枠体の前後方向に対向する部材に他端が取り付けられたダッシュポット180、182を使用することも有効である。このような構成によれば、各走行部から揺動バーを介して伝達される衝撃等が支持部14に及ぶことを防止し又は低減することができる。検査装置10はさらに、図1及び図10に示すように、揺動バー同士を互いに接続するダッシュポット184を有してもよい。これにより、一方の走行部又はアームにおいて生じた衝撃や振動が他方の走行部又はアームに及ぶことを防止し又は低減することができる。
【0048】
図示例ではダンパとしてダッシュポットを用いているが、ダッシュポットの代わりに或いはそれに加え、上述の他種のダンパを使用してもよい。但しダンパとして例えばゲルのような無負荷の状態で保形性を有さない材料を使用する場合は、ダンパと並列に設けられるスプリングを併用して、走行部と検査部との位置関係を維持するようにしてもよい。また上述のダッシュポット172、174、176、178、180、182及び184のいずれか一部をスプリングに代替することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態に係る欠陥検査装置の外観斜視図である。
【図2】図1の装置を別角度からみた外観斜視図である。
【図3】図1の装置の底面図である。
【図4】走行部及び複数のギヤを模式的に示す図である。
【図5】(a)複数のギヤを千鳥状に連結した例を示す図であり、(b)複数のギヤをアーチ状に連結した例を示す図であり、(c)複数のギヤの一部を他の連結手段に置換した例を示す図である。
【図6】マグネット車輪の構成例を示す図である。
【図7】(a)マグネット車輪とスクレーパとの位置関係を概略図示する図であり、(b)マグネット車輪とスクレーパの回転方向が(a)とは逆の場合を示す図である。
【図8】走行部をボールジョイントで支持部に連結した構成例を概略図示する図である。
【図9】車輪と調節機構との位置関係を模式的に示す図である。
【図10】図1の装置の正面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 検査装置
12 検査部
14 支持部
16、18 走行部
20、22 連結部
50a〜50h ギヤ
60、62 マグネット車輪
64 モータ
98、100 スクレーパ
122、124 エッジ部
130、132 ボールジョイント
136、138、140、142 ボールローラ
152、154、156、158 キャスタ
160、162 ボルト
172、174、176、178、180、182、184 ダッシュポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性材料からなる測定対象物を検査するための検査部と、
前記検査部を支持する支持部と、
前記支持部の左右方向両側に設けられるとともに、前記測定対象物に磁着して該測定対象物上を走行可能な一対の走行部と、
前記一対の走行部の各々を前記支持部に対して、少なくとも前記左右方向に延びる軸線に垂直な前後方向に延びる軸線について旋回可能に連結する連結部と、を有し、
前記連結部は、互いに係合された、バックラッシを有する複数のギヤを有する、
検査装置。
【請求項2】
前記連結部は、互いに係合し直列配置された偶数個のギヤを有する、請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記一対の走行部の各々は、前記測定対象物に磁着して該測定対象物上を走行可能なマグネット車輪と、該マグネット車輪に当接する回転駆動式のスクレーパとを有する、請求項1又は2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記連結部は、前記一対の走行部の各々と前記支持部とを連結するボールジョイントを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
前記支持部は、前記検査部と前記測定対象物との距離を調節するための調節機構をさらに有し、前記調節機構は、前記支持部の底面において、前記検査装置の左右方向及び前後方向にそれぞれ平行な辺を有する矩形の四隅にそれぞれ配置されて前記測定物の表面に当接するように構成された4つの当接部材と、前記支持部に対する前記4つの当接部材の垂直方向距離を調節する調節部材とを有し、前記4つの当接部材のうち少なくとも2つは、前記一対の走行部の各々が有する、前記測定対象物に磁着して該測定対象物上を走行可能なマグネット車輪と略一直線をなすように配置される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項6】
前記4つの当接部材のうち左右方向に対向する2つの当接部材の距離と、前後方向に対向する2つの当接部材の距離とが互いに等しい、請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
前記検査部と前記支持部との間、及び前記支持部と前記走行部との間の少なくとも一方にダンパが設けられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記検査部はダッシュポットを介して前記支持部に連結される、請求項7に記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−18158(P2010−18158A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180504(P2008−180504)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000203977)太平工業株式会社 (41)
【Fターム(参考)】