説明

配線ケーブル用積層体および配線ケーブル

【課題】ハロゲン系化合物等を含有せず、難燃性、耐熱性、機械特性に優れた配線ケーブル用積層体および配線ケーブルを提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が30℃以下であるポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよび炭化促進剤の混合物を主成分とする樹脂組成物aからなる層を有し、当該A層上に、ガラス転移温度が50〜120℃であり、結晶融解熱量ΔHmが40〜100J/gであるポリエステル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物bからなるB層を有する積層体であり、A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの割合が20〜80質量%であり、かつ、樹脂組成物a中に占める炭化促進剤の割合が1〜30質量%であることを特徴とする配線ケーブル用積層体および当該積層体を含む配線ケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属導体の被覆に用いる配線ケーブル用積層体および当該積層体で被覆してなる配線ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
配線ケーブルの一種であるフラットケーブルは、金属導体を並列に配置して樹脂フィルムで被覆してなる配線ケーブルのことであり、例えばパソコン、テレビなどの電子機器内部での部品間の結線などに用いられている。
【0003】
この種の配線ケーブルに用いる樹脂フィルムには、絶縁性、柔軟性、耐熱性、金属導体との接着性だけでなく、優れた難燃性が要求される。そのため、この種の配線ケーブルに用いる樹脂フィルムの多くは、絶縁性や柔軟性等に優れたポリエステル系樹脂などからなる絶縁基材フィルムに、難燃剤等を混合したポリエステル系樹脂を主成分とする接着層を積層してなる絶縁性積層フィルムが使用されている。
【0004】
この場合、難燃化剤として、例えばデカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモジフェニル等のハロゲン系難燃剤が用いられてきたが、ハロゲン系難燃剤は、燃焼時にダイオキシン関連物質を生成する等の問題があるため、最近はハロゲン以外の難燃剤が提案され用いられている。
例えば、特許文献1には、接着層に窒素含有有機難燃剤とホウ素化合物を含有させることにより、難燃性を高める手段が開示されている。
また、特許文献2や特許文献3には、接着層に用いるポリエステル樹脂にリン系難燃剤を添加する手段が開示され、特許文献4には、同じく接着層に用いるポリエステル系樹脂にポリ燐酸系難燃剤を添加する手段が開示されている。
【0005】
さらにまた、特許文献5には、ポリエステル樹脂に、金属水酸化物、窒素含有有機難燃剤およびヒドロキシスズ酸亜鉛を含有する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−80342号公報
【特許文献2】特開平9−221642号公報
【特許文献3】特開平9−279101号公報
【特許文献4】特開2001−89736号公報
【特許文献5】特開2004−238608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前述したような従来の技術においては、UL1581VW−1(Underwriters Laboratories Inc. 制定)に合格するような高度の難燃性を得るためには、接着剤層に多量の難燃剤を配合する必要があり、そうなると接着剤層と金属との接着性が低下するなどの課題があった。また、接着剤層に配合する難燃剤の量を低減しようとすると、接着層以外の層に難燃剤を含有させる必要があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、このような従来技術の課題に鑑み、ハロゲン系化合物およびリン系化合物を含有せずに、高度な難燃性を有する新たな配線ケーブル用積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、優れた難燃性を有する配線ケーブル用積層体であって、ガラス転移温度が30℃以下であるポリエステル系樹脂(A)、メラミン、および炭化促進剤の混合物を主成分とする樹脂組成物aからなるA層を有し、
当該A層上に、ガラス転移温度が50〜120℃であり、結晶融解熱量ΔHmが40〜100J/gであるポリエステル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物bからなるB層を有する樹脂積層体であり、A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの割合が20〜80質量%であり、かつ、樹脂組成物a中に占めるフェノキシ樹脂の割合が1〜10質量%であり、さらに、樹脂組成物a中に占める炭化促進剤の割合が1〜30質量%であることを特徴とする配線ケーブル用積層体を提案する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、接着層(A層)を構成する特定のポリエステル系樹脂に、メラミンと炭化促進剤を配合することで、より高度な難燃性を発現することができる。また、ハロゲン系化合物、およびリン化合物を含有しないため、環境汚染等の問題を引き起こすことのない安全性に優れた材料を提供することができる。
【0011】
メラミンは、燃焼時に不燃性のガスを発生するため、接着層を難燃化することができるばかりか、難燃剤を配合してない外層(B層)をも難燃化することができるため、積層体全体の難燃性を格別に高めることができる。さらに、メラミンと炭化促進剤を配合することで、燃焼時に速やかに樹脂の炭化が進行し、UL1581VW−1規格を満足することができる配線ケーブル用積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の1つの例としての配線ケーブル用積層体(以下「本積層体」という)について説明する。但し、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0013】
<本積層体>
本積層体は、ポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよび炭化促進剤の混合物を主成分とする樹脂組成物aからなるA層上に、ポリエステル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物bからなるB層を備えた積層体である。
ここで、「A層上に」とは、A層上に直にB層を積層する場合のほか、A層上に他の層を介してB層を積層する場合を包含する。
【0014】
<A層>
本積層体においてA層は、接着層の役割を備えた層であり、このA層は、ポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよび炭化促進剤からなる混合物を主成分とする樹脂組成物aからなる層である。
【0015】
<ポリエステル系樹脂(A)>
ポリエステル系樹脂(A)は、ガラス転移温度が30℃以下である樹脂であることが重要である。ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度が30℃以下であれば、低温から通常の使用温度までの広範囲において、優れた機械特性を有する積層体とすることができる。
かかる観点から、ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度は、好ましくは−80℃以上、さらに好ましくは−70℃以上、特に好ましく−60℃以上である。また、20℃以下であるのが好ましく、特に10℃以下であることが好ましい。
【0016】
ポリエステル系樹脂(A)は、結晶融解熱量ΔHmが5〜30J/gである樹脂であることが好ましい。ポリエステル系樹脂(A)の結晶融解熱量ΔHmが5〜30J/gであれば、成形時、二次加工時、および、使用時において、十分な接着性と耐熱性を兼ね備えた積層体とすることができる。
かかる観点から、ポリエステル系樹脂(A)の結晶融解熱量ΔHmは8J/g以上であるのが好ましく、10J/g以上であるのがさらに好ましい。また、25J/g以下であるのが好ましく、20J/g以下であるのがさらに好ましい。
【0017】
なお、ポリエステル系樹脂(A)のガラス転移温度および結晶融解熱量は、次のようにして測定することができる。ポリエステル系樹脂(B)についても同様である。
試験サンプルを5mm直径の10mg程度の鱗片状に削り出し、パーキンエルマー製DSC−7を用い、JIS−K7121に基づいて、試験片を200℃で2分保持した後、10℃/分の速度にて−40℃まで降温する。次いで、−40℃から200℃まで10℃/分にて昇温測定を行い、得られたサーモグラムよりガラス転移温度および結晶融解熱量を読み取ることができる。
【0018】
ポリエステル系樹脂(A)として、脂肪族ポリエステル、芳香族脂肪族ポリエステル、およびポリエステル系ホットメルト接着剤のうちの一種あるいは二種以上の混合樹脂を用いることができる。すなわち、ポリエステル系樹脂(A)は、単一の樹脂であっても、二種類以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0019】
ポリエステル系樹脂(A)として用いる脂肪族ポリエステルとしては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のうちの1種または2種以上の脂肪族ジカルボン酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAおよびテトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)のうちの1種または2種以上の多価アルコールとからなる共重合ポリエステルを挙げることができる。
【0020】
より具体的には、コハク酸と1,4−ブタンジオールの共重合体(三菱化学社製「GSPla」AZシリーズ、昭和高分子社製「ビオノーレ」#1000シリーズ)、コハク酸、1,4−ブタンジオールおよびアジピン酸の共重合体であるポリブチレンサクシネート・アジペート共重合体(三菱化学社製「GSPla」ADシリーズ、昭和高分子社製「ビオノーレ」#3000シリーズ)等の脂肪族ポリエステルを挙げることができる。
【0021】
ポリエステル系樹脂(A)として用いる芳香族脂肪族ポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸およびエチレン−ビス−p−安息香酸のうちの1種または2種以上の芳香族ジカルボン酸と、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸のうちの1種または2種以上の脂肪族ジカルボン酸とジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールAおよびテトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)のうちの1種または2種以上の多価アルコールとからなる共重合ポリエステルを挙げることができる。
【0022】
より具体的には、アジピン酸、1,4―ブタンジオール、およびテレフタル酸を重合して得られるポリブチレンアジペート・テレフタレート共重合体(BASF社製「エコフレックス」シリーズ、Eastman Chemicals社製の「Eastar Bio」シリーズ)等の芳香族脂肪族ポリエステルを挙げることができる。
【0023】
以上の中でも、コハク酸、アジピン酸、テレフタル酸およびイソフタル酸から選ばれる少なくとも1種類の多価カルボン酸成分と、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコールおよびポリテトラメチレンエーテルグリコールから選ばれる少なくとも1種類の多価アルコール成分とを含む共重合ポリエステルが、ポリエステル系樹脂(A)として好ましい。
【0024】
これら脂肪族ポリエステルおよび芳香族脂肪族ポリエステルの質量平均分子量は、50,000〜400,000であるのが好ましい。これらのポリエステルの質量平均分子量が、50,000以上であれば、難燃性の不足や機械強度の不足により積層体が破損する問題が発生しない。また、質量平均分子量が400,000以下であれば、樹脂の粘度が高すぎることによる成形不良という問題が発生しない。
かかる観点から、脂肪族ポリエステルおよび芳香族脂肪族ポリエステルの質量平均分子量は、80,000以上であるのが好ましく、100,000以上であるのがさらに好ましい。また300,000以下であるのが好ましく、250,000以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
なお、質量平均分子量は以下の方法で測定することができる。他の樹脂についても同様である。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、溶媒クロロホルム、溶液濃度0.2重量/容積%、溶液注入量200μL、溶媒流速1.0ml/分、溶媒温度40℃で測定を行い、ポリスチレン換算で質量平均分子量を算出することができる。この際に用いる標準ポリスチレンの質量平均分子量は、2000000、430000、110000、35000、10000、4000、600である。
【0026】
ポリエステル系樹脂(A)として用いるポリエステル系ホットメルト樹脂としては、二塩基酸とグリコールとの重縮合ポリマーであるポリエステル系ホットメルト樹脂を主成分として含有する樹脂組成物等を挙げることができる。ポリエステル系ホットメルト接着剤の原料モノマーとして用いられる二塩基酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられ、グリコールの具体例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ポリオキシレングリコール等が挙げられる。上記の中でも、アジピン酸や1,4−ブタンジオール等を分子骨格に含むポリエステル樹脂からなるホットメルト樹脂が好ましく用いられる。
市販されているポリエステル系ホットメルト樹脂として、例えば日本合成化学工業社製「ニチゴーポリエスター」シリーズや東洋紡績社製「バイロン」(登録商標)シリーズを挙げることができる。
【0027】
ポリエステル系ホットメルト接着剤の質量平均分子量は、20,000〜120,000であるのが好ましい。この範囲であれば、実用上十分な機械特性を有しかつ溶融粘度が適当であるために、成形加工に問題が発生する可能性が低い。かかる観点から、ポリエステル系ホットメルト接着剤の質量平均分子量は、25,000以上であるのが好ましく、30,000以上であるのがさらに好ましい。また、110,000以下であるのが好ましく、中でも100,000以下であるのがさらに好ましい。
【0028】
<メラミン>
メラミンとは、構造の中心にトリアジン環を持つ有機窒素化合物の一種であり、例えば2,4,6−トリアミノ−1,3,5−トリアジンを挙げることができる。
メラミンは、燃焼時に不燃性のガスを発生するため、A層を難燃化することができるばかりか、B層をも難燃化することができ、本積層体全体の難燃性を格段に高めることができる。
【0029】
本積層体で使用するメラミンの平均粒径は、10μm以下であるのが好ましく、特に8μm以下、中でも5μm以下であるのがさらに好ましい。メラミンの平均粒径を10μm以下とすることにより、本積層体の難燃性および機械強度を向上させることができる。
なお、前記平均粒径は、メラミンを円相当径として計算した値である。
【0030】
本発明の効果を損なわない範囲で、メラミンに表面処理を施すことができる。
表面処理の具体例としては、エポキシシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、高級脂肪酸等を用いた表面処理を挙げることができる。
これらの表面処理剤でメラミンを処理することによって、メラミンの分散性を向上し、本積層体の難燃性をさらに向上させることができる。
【0031】
<炭化促進剤>
炭化促進剤とは、燃焼時において樹脂の炭化を促進することができる無機物あるいは、有機物であり、具体例としては、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール等の多価アルコール、スルファミン酸グアニジン、リン酸グアニジン等のグアニジン化合物、硫酸メラミン、硫酸アンモニウム等の硫酸化合物、硝酸メラミン、硝酸アンモニウム等の硝酸化合物、水酸基を有するフェノキシ樹脂、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーンレジン等のシリコーン化合物、メラミンシアヌレート、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、カルシウム・アルミネート水和物、酸化スズ水和物等の金属水酸化物、およびタルク、マイカ、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。この中でも特に、フェノキシ樹脂を使用することで、優れた炭化促進効果に加えて、金属との接着強度も向上することができる。なお、上記炭化促進剤は単独、あるいは、2種類以上を混合して用いることができる。
【0032】
本積層体で使用する水酸基を有する化合物としては、水酸化アルミニウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化鉄等の金属水酸化物、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエーテル、リグニン、ショ糖、キトサン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール等の有機物が挙げられる。
【0033】
<フェノキシ樹脂>
フェノキシ樹脂は、ビスフェノールAなどの芳香族二価フェノール系化合物とエピクロルヒドリンとの反応で得られる樹脂である。
フェノキシ樹脂は、金属表面に存在する水分と水素結合するため金属との接着性に優れているばかりか、ポリエステル系樹脂と相溶性を有するため、ポリエステル系樹脂にメラミンとともにフェノキシ樹脂を混合すると、メラミンによる難燃性を低下させることなく、金属との接着性を高めることができる。
【0034】
本発明に用いるフェノキシ樹脂としては、ヒドロキノン、レゾルシン、4,4′−ビスフェノール、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールA、ビスフェノールF、および、2,6−ジヒドロキシナフタレン等の芳香族ジヒドロキシ化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテルプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等の脂肪族ジヒドロキシ化合物のうちから選ばれる1種あるいは2種以上の化合物と、エピクロルヒドリンとを縮合することにより得られるポリヒドロキシポリエーテルなどが挙げられる。
【0035】
市販のフェノキシ樹脂の代表的なものとして、ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート(登録商標)E1256、E4250、E4275、InChem社製のPKHH、PKHC、PKHJ、PKHB、PKFE等が挙げられる。
【0036】
<配合割合>
A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの配合割合は、20〜80質量%であることが重要である。A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの配合割合が20質量%以上であれば、十分な難燃性を得ることができる。一方、メラミンの配合割合が80質量%以下であれば本積層体の機械物性を損なうことがない。
かかる観点から、A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの配合割合は、30質量%以上であるのが好ましく、中でも40質量%以上であるのがさらに好ましい。また、70質量%以下であるのが好ましく、中でも60質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
A層を構成する樹脂組成物a中に占める炭化促進剤の配合割合は、1〜30質量%であることが重要である。A層を構成する樹脂組成物a中に占める炭化促進剤の配合割合が1質量%以上であれば、十分な炭化促進効果を得ることができる。一方、メラミンの配合割合が30質量%以下であれば本積層体の機械物性を損なうことがない。
かかる観点から、A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの配合割合は、1質量%以上であるのが好ましく、中でも5質量%以上であるのがさらに好ましい。また、30質量%以下であるのが好ましく、中でも20質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
<B層>
B層は、ポリエステル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物bからなる層である。
【0039】
<ポリエステル系樹脂(B)>
ポリエステル系樹脂(B)としては、ガラス転移温度が50〜120℃であり、且つ結晶融解熱量ΔHmが40〜100J/gであるポリエステル系樹脂を用いることが重要である。この条件を満たすことにより、優れた耐熱性を有する積層体を提供することができる。
【0040】
ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度は、上述したように50〜120℃であることが重要である。ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度が50〜120℃であれば、優れた成形加工性と使用時における優れた耐熱性を有する積層体とすることができる。
かかる観点から、ポリエステル系樹脂(B)のガラス転移温度は、55℃以上であるのが好ましく、中でも60℃以上であるのがさらに好ましい。また、110℃以下であるのが好ましく、中でも100℃以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
ポリエステル系樹脂(B)の結晶融解熱量ΔHmは、上述したように40〜100J/gであることが重要である。ポリエステル系樹脂(B)の結晶融解熱量ΔHmが40〜100J/gであれば、二次加工時における変形等の問題を生じることがない。
かかる観点から、ポリエステル系樹脂(B)の結晶融解熱量ΔHmは、45J/g以上であるのが好ましく、中でも50J/g以上であるのがさらに好ましい。また、90J/g以下であるのが好ましく、中でも80J/g以下であるのがさらに好ましい。
【0042】
ポリエステル系樹脂(B)の具体例としては、多価カルボン酸と多価アルコールを重合して得られる芳香族ポリエステルや、乳酸系樹脂等の脂肪族ポリエステルを挙げることができる。
【0043】
この際、脂肪族ポリエステル或いは芳香族ポリエステルに用いられる多価カルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2,5−ジクロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、4,4−スチルベンジカルボン酸、4,4−ビフェニルジカルボン酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ビス安息香酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4−ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−Naスルホイソフタル酸、エチレン−ビス−p−安息香酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は、1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
また、多価アルコール成分としては、例えばジエチレングリコール、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、トランス−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノー、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジオール、p−キシレンジオール、ビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)などが挙げられる。これらの多価アルコール成分は、1種を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
前記多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とにより構成されるポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート等が挙げられる。この中でも特に耐熱性の点からポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを用いるのが特に好ましい。
【0046】
ポリエステル系樹脂(B)の質量平均分子量は、30,000〜80,000であるのが好ましい。ポリエステル系樹脂(B)の質量平均分子量が30,000以上であれば、適度な樹脂凝集力が得られ、積層体の強伸度が不足したり、脆化したりすることを抑えることができる。一方、80,000以下であれば、溶融粘度を下げることができ、製造、生産性向上の観点からは好ましい。
かかる観点から、ポリエステル系樹脂(B)の質量平均分子量は、35,000以上であるのが特に好ましく、中でも40,000以上であるのがさらに好ましい。また、75,000以下であるのが特に好ましく、中でも70,000以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
B層は、延伸フィルムから構成されていてもよく、その場合には二軸延伸フィルムから構成されているのが好ましい。
【0048】
<その他の成分>
本積層体において、A層を構成する樹脂組成物aおよびB層を構成する樹脂組成物bに、耐加水分解性を付与するためにカルボジイミド化合物を配合してもよい。但し、配合しなくてもよい。
【0049】
カルボジイミド化合物は、下記一般式の基本構造を有するものが挙げられる。
−(N=C=N−R−)n−
(上記式において、nは1以上の整数を示す。Rはその他の有機系結合単位を示す。これらのカルボジイミド化合物は、Rの部分が、脂肪族、脂環族、芳香族のいずれかでもよい。)
通常nは1〜50の間で適宜決められる。
【0050】
具体的には、例えばビス(ジプロピルフェニル)カルボジイミド、ポリ(4,4'−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリルカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(メチル−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等、および、これらの単量体が挙げられる。該カルボジイミド化合物は、1種または2種以上組み合わせて用いられる。
【0051】
カルボジイミド化合物の配合量としては、ポリエステル系樹脂(A)100質量部またはポリエステル系樹脂(B)100質量部に対して、0.5〜10質量部配合することが好ましく、1〜5質量部配合することがより好ましい。かかる範囲を下回る場合、耐久性を付与する効果が低く、かかる範囲を上回る場合、樹脂組成物の軟質化を生じるため耐熱性を損なう場合がある。
【0052】
本積層体を構成するA層およびB層には、本発明の効果を阻害しない範囲で、機能を付与する為の添加剤、異なる樹脂等を添加してもよい。機能を付与する為の添加物としては、導電剤、防煙剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、その他充填剤等が挙げられる。また、異なる樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。
【0053】
<層厚>
本積層体の全層厚に対するA層の層厚の割合は、20〜70%であるのが好ましい。A層の層厚の割合を20%以上にすることにより、本積層体に十分な難燃性を付与することが可能である。一方、A層の層厚の割合を70%以下にすることにより本積層体に十分な機械特性を付与することができる。
かかる観点から、本積層体の全層厚に対するA層の層厚の割合は、25%以上であるのが特に好ましく、中でも30%以上であるのがさらに好ましい。また、60%以下であるのが特に好ましく、中でも50%以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
本積層体において、A層厚は通常10μm以上、好ましくは20μm以上、さらに好ましくは40μm以上であり、通常200μm以下、好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。また、B層厚は通常10μm以上、好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上であり、通常200μm以下、好ましくは 150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。
【0055】
なお、本積層体は、A層およびB層以外の層を備えていてもよい。例えば、A層、B層間に他の層が介在していても、また、B層の外側(A層とは反対側)に他の層を備えていてもよい。
【0056】
本積層体の厚さは特に限定するものではなく、フィルム、シート、パネルなど、各用途に合わせた厚さに調整することができる。
【0057】
<難燃性>
本積層体は、非常に優れた難燃性を有し、難燃性を評価する一つの指標であるUL1581VW−1を満たすことが可能である。すなわち、本積層体は、一定の条件を満たすポリエステル系樹脂(A)とメラミン、炭化促進剤を主成分としてA層を構成し、一定の条件を満たすポリエステル系樹脂(B)を主成分としてB層を構成することにより、UL1581VW−1を満たすことが可能となる。
【0058】
<製造方法>
次に、本積層体の製造方法について説明する。ここでは、フィルム乃至シート状の本積層体の製造方法について説明するが、次に説明する例に限定されるものではない。
【0059】
本積層体におけるA層とB層の積層方法としては、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等により積層することができる。
【0060】
共押出の場合、ポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよびフェノキシ樹脂を前記混合比になるよう混合・混錬して樹脂組成物aを調製し、単軸または2軸押出機により樹脂組成物aを押出す一方、これとは異なる押出機を用いてポリエステル系樹脂(B)を混錬して樹脂組成物bを調製し、単軸または2軸押出機により樹脂組成物bを押出し、フィードブロックやマルチマニホールドダイを通じ樹脂を合流させ、本積層体を成形することができる。さらに耐熱性、機械強度を付与するために、前記工程にて得られた積層フィルムをロール法、テンター法、チューブラー法等を用いて一軸若しくは二軸に延伸してもよい。
【0061】
押出ラミネートの場合、ポリエステル系樹脂(B)を単軸或いは二軸押出機を用いてTダイ、Iダイ等から押出を行った後、ロール法、テンター法、チューブラー法等を用いてB層となるフィルムを得る。次に、ポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよびフェノキシ樹脂を前記混合比になるよう混合・混錬して樹脂組成物aを調製し、単軸または2軸押出機により樹脂組成物aを押出し、A層となるフィルムのキャスティングと同時に前記B層となるフィルムをラミネートすることで本積層体を成形することができる。本積層体の延伸については、共押出の場合と同様である。
【0062】
熱ラミネートおよびドライラミネートの場合、ポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよびフェノキシ樹脂を前記混合比になるよう混合・混錬して樹脂組成物aを調製し、単軸または2軸押出機により樹脂組成物aをTダイ、Iダイ等から押出し、A層となるフィルムを得る一方、ポリエステル系樹脂(B)を混錬して樹脂組成物bを調製し、単軸または2軸押出機により樹脂組成物bをTダイ、Iダイ等から押出し、B層となるフィルムを得る。次いで、A層となるフィルムおよびB層となるフィルムを加熱するか、或いは、層間に接着層を配置するかして、両者をラミネートすることで本積層体を成形することができる。本積層体の延伸については、共押出の場合と同様である。
【0063】
また、A層、B層間の接着性をさらに向上させるため、B層のA層側の面にコロナ放電処理を施してもよいし、また、B層上にアンカーコート層を設けてもよい。
アンカーコート層に用いるアンカーコート用接着剤としては、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系、PVC−酢酸ビニル共重合体系等の接着剤が挙げられる。また、アンカーコート用接着剤の塗布にはロールコート法、グラビアコート法等を用いることができる。なお、アンカーコート層の厚みは適宜調整することができるが、難燃性、接着性の点から0.1μm〜5μmの範囲とすることが好ましい。
【0064】
なお、本積層体を延伸した場合、いずれの場合も積層体の熱収縮を抑制するために、延伸後シートを把持した状態でヒートセットを行うことが好ましい。通常、ロール法では延伸後加熱ロールに接触させてヒートセットを行い、テンター法ではクリップでシートを把持した状態でヒートセットを行う。ヒートセット温度は使用する樹脂の種類によるが、使用する樹脂の融点よりも約10〜100℃低い温度でヒートセットを行うことが好ましい。また、両外層となるポリエステル樹脂層のインキ密着性をさらに向上させる目的で、コロナ処理などの放電処理、火炎処理などの表面処理を施すことができる。
【0065】
<ガラス転移温度、結晶融解熱量の測定>
本積層体で使用するポリエステル系樹脂(A)、ポリエステル系樹脂(B)ついてのガラス転移温度および結晶融解熱量の測定方法について、以下に説明する。
1. ポリエステル系樹脂(A)またはポリエステル系樹脂(B)を5mm直径の10mg程度の鱗片状にして、試験サンプルとする。
2.前記1.で得られた試験サンプルを、示差走査熱量計(DSC)によりJIS−K7121に基づいて試験片を200℃で2分保持した後、10℃/分の速度にて−40℃まで降温した。次いで、−40℃から200℃まで10℃/分にて昇温測定を行う。なお、一連の測定は窒素雰囲気下にて行った。
示差走査熱量計:パーキンエルマー製DSC−7
3.前記2.の測定により得られたサーモグラムよりガラス転移温度および結晶融解熱量を読み取る。
【0066】
<用途>
本積層体は、難燃性、特にUL1581VW−1規格を満たす難燃性を得ることができ、例えば、配線ケーブルを被覆する被覆樹脂フィルムとして好適に使用することができる。すなわち、2枚の本積層体を用い、これらのA層間に金属導体を配置して2枚の本積層体を貼り合わせて配線ケーブルを作製することができる。
中でも特に、本積層体は、上記の如く、優れた難燃性を得ることができるばかりか、優れた柔軟性、優れた耐熱性をも得ることができるから、フラットケーブル用として特に適している。
【0067】
<用語の説明>
本明細書において「配線ケーブル」とは、金属導体を樹脂フィルムで被覆してなる構成を備えたものを意味し、例えば2以上の金属導体を並べ、これらの樹脂フィルムで被覆してなる構成を備えたフラットケーブルが代表例である。
【0068】
本発明において「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含するものである。特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、その成分(2成分以上が主成分である場合には、これらの合計量)が組成物中で60質量%以上、特に70質量%以上、中でも90質量%以上(100%含む)を占めるのが好ましい。
また、本明細書において、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意であり、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)あるいは「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、「Xより大きいことが好ましい」あるいは「Y未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
【0069】
一般的に「フィルム」とは、長さおよび幅に比べて厚さが極めて小さく、最大厚さが任意に限定されている薄い平らな製品で、通常、ロールの形で供給されるものをいい(日本工業規格JISK6900)、一般的に「シート」とは、JISにおける定義上、薄く、その厚さが長さと幅のわりには小さく平らな製品をいう。しかし、シートとフィルムの境界は定かでなく、本発明において文言上両者を区別する必要がないので、本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【実施例】
【0070】
以下に実施例および比較例を示す。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
まず、以下に示した各評価の測定方法について説明する。
【0071】
(1)難燃性(UL94VTM)(積層体)
長さ200mm×幅50mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプル(積層体)を用いて、Underwriters Laboratories社の安全標準UL94垂直燃焼試験の手順に基づき、試験回数5回にて燃焼試験を実施した。
UL94垂直燃焼試験UL94VTMの判定基準に基づき、VTM−0規格を満たすものを○とし、満たさないものを×とした。
(2)難燃性(UL1581VW−1)(フラットケーブル)
長さ600mm×幅19mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプル(フラットケーブル)を、UL1581VW−1規格の燃焼試験方法に基づき、チリルバーナーを用いて15秒着火、15秒休止を5回繰り返し、試験片の燃焼時間、インジケータの損傷割合、ドリップによる脱脂綿の着火有無により判定を行った。燃焼時間が60秒以下、インジケータの損傷割合が25%以下、ドリップによる脱脂綿の着火がないものをUL1581VW−1合格とした。表1には、合格のものを○、不合格のものを×と表記した。
【0072】
(3)耐熱性
長さ600mm×幅30mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプル(フラットケーブル)を、ベーキング試験装置(大栄科学精器製作所製DKS−5S)内に静置し、120℃で24時間加熱した。
加熱後のサンプルの外観を目視にて観察し、銅箔の剥離、フラットケーブルの収縮、シワ、変形等がないものを「○」、銅箔の剥離、フラットケーブルの収縮、シワ、変形等が生じているものを「×」と評価した。
【0073】
(4)折り曲げ性
長さ600mm×幅30mm(厚みはそれぞれの試験片により異なる)の評価用サンプル(フラットケーブル)を、180度折り曲げた時の外観を目視にて観察し、銅箔と接着剤の剥離やクラックが生じていないものを「○」、生じているものを「×」と評価した。
【0074】
<B層の作製>
B層を構成するフィルムとして、次の2種類のフィルム(「B層−A」「B層−B」)を作製し用意した。
【0075】
「B層−A」:
ポリエステル系樹脂として三菱化学社製ノバペックス(登録商標)(ポリエチレンテレフタレート、ガラス転移温度=79℃、ΔHm=55J/g)を用い、まず、ノバペックスを40mm直径単軸押出機にて260℃で混練した後、口金から押出し、次いで約40℃のキャスティングロールにて急冷し、厚さ225μmの非晶シートを作製した。次いで、三菱重工株式会社製逐次2軸テンターに通紙し、95℃でMD(長手方向)に延伸倍率で3倍に延伸を行い、続いて、110℃でTD(横手方向)に延伸倍率で3倍に延伸を行った。さらにその後、160℃で15秒熱処理を行い、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。
【0076】
「B層−B」:
ポリエステル系樹脂としてイーストマンケミカル社製coplyester6763(ポリエチレンテレフタレートグリコール、ガラス転移温度=81℃、ΔHm=0J/g)を用い、coplyester6763を40mm直径単軸押出機にて260℃で混練した後、口金から押出し、次いで約40℃のキャスティングロールにて急冷し、厚さ25μmの非晶シートを作製した。
【0077】
(実施例1)
ポリエステル系樹脂(A)として、東洋紡績社製バイロン(登録商標)GM−480(テレフタル酸:45mol%、セバシン酸:5mol%、1,4−ブタンジオール:50mol%、ガラス転移温度:−2℃、結晶融解熱量ΔHm:24.6J/g)を用い、難燃剤として、日産化学社製微粉メラミン(平均粒径5μm)を用い、炭化促進剤として、巴工業社製PKHB(フェノキシ樹脂)を用いた。
これらバイロンGM−480、メラミンおよびPKHBを、混合質量比55:40:5の割合でドライブレンドした後、40mm直径同方向二軸押出機を用いて190℃で混練し、T型ダイを付属した単軸の押出機で再度溶融させ、口金よりシート状に押出し、Tダイより押出すと同時に、「B層−A」をキャストロール側から貼り合わせることにより、層構成がA層/B層となる厚さ65μmの本積層体(A層=40μm、B層−A=25μm)を得た。
【0078】
次に、得られた本積層体2枚の間に(共にA層を内側として)、厚み150μm、幅10mmの錫メッキ銅箔を配置し、これらを金属ロール(加熱)/ゴムロール(非加熱)の間に通してロールニップ圧10kg/cm(線圧)、貼り合わせ速度0.5m/minの条件で貼り合わせてフラットケーブルを得た。
上記方法で得られた積層体に関して難燃性(UL94VTM)、フラットケーブルに関して、難燃性(UL1581VW−1)、耐熱性、並びに、折り曲げ性を評価した結果を以下表1に示した。
【0079】
なお、難燃性、耐熱性、折り曲げ性に関し、一つでも不合格であった場合、総合評価を「×」と評価し、全ての項目が合格であった場合、総合評価を「○」と評価した。
また、得られたフラットケーブルを観察し、A層とB層との間に剥離が見られた場合には、前記3項目全てが合格であっても、「×」と評価することにした。
【0080】
(実施例2)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびPKHBの混合質量比を50:40:10とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
炭化促進剤として、日産化学工業社製MC−600(メラミンシアヌレート)を用い、A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびMC−600の混合質量比を40:40:20とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例4)
炭化促進剤として、純正化学社製ペンタエリスリトールを用い、A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびペンタエリスリトールの混合質量比を40:40:20とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
(実施例5)
炭化促進剤として、ナカライテスク社製水酸化アルミニウムを用い、A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよび水酸化アルミニウムの混合質量比を50:40:10とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(実施例6)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびMC−600の混合質量比を50:30:20とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例7)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびPKHBの混合質量比を35:60:5とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例8)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミン、PKHBおよびMC−600の混合質量比を35:40:5:20とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例9)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミン、PKHBおよびペンタエリスリトールの混合質量比を45:40:5:10とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例10)
ポリエステル系樹脂(A)として、東洋紡績社製バイロン(登録商標)GM−443(テレフタル酸:27mol%、イソフタル酸:19mol%、アジピン酸:4mol%、1,4−ブタンジオール:50mol%、ガラス転移温度:26℃、結晶融解熱量ΔHm:22.8J/g)を用い、A層の構成において、バイロンGM−443、メラミンおよびMC−600の混合質量比を40:40:20とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例11)
ポリエステル系樹脂(A)として、東洋紡績社製バイロン(登録商標)30P(テレフタル酸:27mol%、セバシン酸:23mol%、エチレングリコール:50mol%、ガラス転移温度:−28℃、結晶融解熱量ΔHm:2.0J/g)を用い、A層の構成において、バイロン30P、メラミンおよびMC−600の混合質量比を40:40:20とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびMC−600の混合質量比を70:10:20とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(比較例2)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびPKHBの混合質量比を5:90:5とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(比較例3)
A層の構成において、バイロンGM−480、およびメラミンを混合質量比60:40でブレンドした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例4)
A層の構成において、バイロンGM−480、メラミンおよびMC−600(メラミンシアヌレート)の混合質量比を40:10:50とした以外は同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例5)
B層を構成するするフィルムとして「B層−A」の代わりに「B層−B」を用いた以外は、実施例3と同様の方法で厚さ65μm(A層=40μm、B層−C=25μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例6)
ポリエステル系樹脂(A)として、NatureWorks社製NW4032D(ポリ乳酸、ガラス転移温度:55℃、結晶融解熱量ΔHm:42.5J/g)を用い、A層の構成において、NW4032D、メラミンおよびMC−600の混合質量比を40:40:20とした以外は実施例1と同様の方法で厚さ65μm(A層=25μm、B層−A=40μm)の積層体を得た。次いで、実施例1と同様の方法でフラットケーブルを作製した。得られた積層体、フラットケーブルを用いて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1より、実施例1〜11の本積層体の難燃性は、UL94VTMを合格し、燃焼時間が少なく良好であった。また、実施例1〜11の本積層体により作成されたフラットケーブルは、燃焼時間が少なく、UL1581VW−1を合格し、耐熱性が良好であり、且つ折り曲げ性が良好である為、総合評価が○となった。
【0098】
一方、比較例1は、積層体に添加するメラミンの比率が少ない為に、積層体およびフラットケーブルの難燃性が劣った。比較例2は、積層体に添加するメラミンの比率が多い為に、フラットケーブルの折り曲げ性が劣った。比較例3は、積層体に炭化促進剤が添加されてない為に積層体での難燃性は良好であるもののフラットケーブルの難燃性は劣っていた。比較例4は、積層体に添加するメラミンシアヌレートの比率が多く、メラミンの比率が少ない為に、積層体の難燃性は良好であるもののフラットケーブルの難燃性は劣っていた。比較例5は、B層にΔHmが本発明の範囲でない樹脂を使用した為に積層体の難燃性は良好であったもののフラットケーブルの耐熱性は劣った。比較例6は、ポリエステル系樹脂(A)が本発明の範囲内に無いので難燃性、耐熱性、折り曲げ性ともに劣った。
【0099】
上述したように、本積層体は、特定のポリエステル樹脂を使用し、特定の分量の特定のメラミンを使用しているので良好な難燃性し、配線ケーブルを作製することに適する。また、本積層体で作製した配線ケーブル(フラットケーブル、電気絶縁材、メンブレンスイッチ回路印刷基材、複写機内部部材、面状発熱体基材、FPC補強板等)は、難燃性、耐熱性および折り曲げ性が良好である。
【0100】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う制電性樹脂成形体および該成形体の製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が30℃以下であるポリエステル系樹脂(A)、メラミンおよび炭化促進剤の混合物を主成分とする樹脂組成物aからなる層を有し、
当該A層上に、ガラス転移温度が50〜120℃であり、結晶融解熱量ΔHmが40〜100J/gであるポリエステル系樹脂(B)を主成分とする樹脂組成物bからなるB層を有する積層体であり、
A層を構成する樹脂組成物a中に占めるメラミンの割合が20〜80質量%であり、かつ、樹脂組成物a中に占める炭化促進剤の割合が1〜30質量%であることを特徴とする配線ケーブル用積層体。
【請求項2】
ポリエステル系樹脂(A)の結晶融解熱量ΔHmが5〜30J/gであることを特徴とする請求項1に記載の配線ケーブル用積層体。
【請求項3】
ポリエステル系樹脂(A)が、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テレフタル酸、およびイソフタル酸から選ばれる少なくとも1種類の多価カルボン酸成分と、1,4−ブタンジオール、および、エチレングリコールから選ばれる少なくとも1種類の多価アルコール成分と、を含む共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の配線ケーブル用積層体。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂(B)が、ポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の配線ケーブル用積層体。
【請求項5】
炭化促進剤が、水酸基を有する化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の配線ケーブル用積層体。
【請求項6】
炭化促進剤が、フェノキシ樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の配線ケーブル用積層体。
【請求項7】
メラミンの平均粒径が10μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の配線ケーブル用積層体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載された積層体により構成されたことを特徴とする配線ケーブル
【請求項9】
UL1581VW−1規格を満たすことを特徴とするとする請求項8に記載の配線ケーブル。

【公開番号】特開2010−205648(P2010−205648A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51922(P2009−51922)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】