説明

配線基板

【課題】 1GHz以上の高周波帯でも導電率が高い配線層を具備し、配線層と絶縁基体との界面にクラックや剥離が発生することのない配線基板を提供する。
【解決手段】 本発明は、ガラスセラミックスからなる絶縁基体1と、絶縁基体1の内部に設けられた配線層2とを含む配線基板において、配線層2は金属2a中に島状に複数存在するガラス2bを含み、ガラス2bが配線層2の厚み方向の略中央部に偏在していることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層配線基板および半導体素子収納用パッケージ、混成集積回路装置等に好適に使用可能な配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、高集積化が進むICやLSI等の半導体素子を搭載する半導体素子収納用パッケージや各種電子部品が搭載される混成集積回路装置等に適用される配線基板としては、アルミナ焼結体を絶縁基体としたものが多く用いられてきた。そして、近年においては、配線層の低抵抗化が要求されており、1050℃程度で溶融するCu、Ag等の低抵抗導体を主成分とした配線層を絶縁基体と同時焼成できるように、1050℃以下の低温で焼結が可能であるガラスセラミック焼結体が絶縁基体として用いられるようになってきている。
【0003】
なお、ガラスセラミックは一般的にガラスとセラミックフィラーとを組み合わせることにより得られるものであるが、そのなかでもガラスとして結晶化ガラスを用いることにより、所望の特性をもつ結晶を析出させ、種々の特性を有するガラスセラミックを得られることから、近年では重点的に研究が行われている。
【0004】
ところで、従来のガラスセラミック焼結体を絶縁基体とした配線基板は、絶縁基体の表面または内部に配線層が設けられるとともに、配線層同士が絶縁基体に形成されたスルーホールに充填されたビア導体を介して接続された構造になっている。ビア導体および配線層を形成する具体的方法としては、ガラスセラミック原料粉末、有機バインダーに溶剤を添加して調製したスラリーをドクターブレード法などによってシート状に成形し、得られたグリーンシートにスルーホールを打ち抜き加工し、該スルーホールに銅、銀、金等を主成分とする導体ペーストを充填してビア導体を形成する。同時にグリーンシート上に銅、銀、金等を主成分とする導体ペーストを配線パターン状にスクリーン印刷法などで印刷形成し、または電解銅箔もしくは圧延銅箔を所望のパターンに成形後、グリーンシートに圧着し、配線パターンを形成する。このビア導体や配線パターンが形成されたグリーンシートを複数枚加圧積層し、800〜1000℃で焼成することにより、配線基板が作製される。
【0005】
このような方法で作製される配線基板においては、絶縁基体を構成するガラスセラミックのガラスが配線層へ拡散し、そのまま配線層中に残留しているという現象が多く見られる。
【0006】
一方、配線層に用いられる金属と絶縁基体を構成するガラスセラミックとの焼結温度の違いによって基板反りが発生しまうという問題があることから、敢えて配線層にガラス成分を含有させて配線層の焼結温度を絶縁基体に近づけることにより、基板反りを防止するという方法が知られている。具体的には、金属粉末を主成分とする導体ペーストにガラス粉末を添加することにより、ガラス粉末が金属粉末の焼結を阻害して金属粉末の焼結が遅れ、基板反りが抑制されるというものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−243700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの構成によれば、配線層のいたるところにガラスが分散して存在している。
【0008】
ここで、配線層中の絶縁基体との界面に隣接する領域にガラスが存在すると、このガラスと絶縁基体を構成するガラスセラミックとが結合し、配線層と絶縁基体との界面の凹凸が大きくなる。これによって、特に1GHz以上の高周波信号を伝達する際に、導電率は大幅に低下してしまうという問題があった。
【0009】
すなわち、1GHz以上の高周波帯での配線層の導電率は、配線層の比抵抗値と、配線層とガラスセラミックとの界面の形状に大きく影響を受ける。これは、配線層を流れる信号の周波数が高くなると、表皮効果によって配線層の表面(界面)付近を流れる電流密度が大きくなるからである。具体的には、配線層とガラスセラミックとの界面の凹凸が大きいと、平滑な時と比較して電荷の移動距離が長くなり、また凹凸の先端部に電荷が集中し電荷の移動が滞ることから、導電率が低下してしまう。したがって、界面の形状が重要となるのである。
【0010】
そこで、配線層にガラスを存在させないようにしようとすると、配線層と絶縁基体との間に熱膨張係数差が生じ、界面においてクラックや剥離が発生してしまう。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、1GHz以上の高周波帯でも導電率が高い配線層を具備し、配線層と絶縁基体との界面にクラックや剥離が発生することのない配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の配線基板は、ガラスセラミックスからなる絶縁基体と、該絶縁基体の内部に設けられた配線層とを含む配線基板において、前記配線層は金属中に島状に複数存在するガラスを含み、該ガラスが前記配線層の厚み方向の略中央部に偏在していることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記ガラスが前記配線層の厚み方向の略中央部に沿って連なるように偏在しているのが好ましい。さらに、前記ガラスが層をなしているのが好ましい。
【0014】
また、本発明の配線基板は、前記配線層のガラスと前記絶縁基体のガラスとが同じ成分からなり、前記絶縁基体のガラス組成が、SiがSiO換算で20〜40質量%、BがB換算で25〜45質量%、MgがMgO換算で8〜14質量%、CaがCaO換算で6〜16質量%、AlがAl換算で5〜14質量%、ZnがZnO換算で3〜8質量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、絶縁基体中のガラスが配線層へ拡散し、ガラスが配線層の略中央部に偏在することから、配線層中の絶縁基体との界面に隣接する領域に存在するガラスがガラスセラミックと結合することによって界面の凹凸が大きくなるという現象を抑制することができ、1GHz以上の高周波帯でも高い導電率を得ることができる。
【0016】
また、配線層にガラスが存在することによって、絶縁基体を構成するガラスセラミックとの熱膨張係数差が低減され、配線層と絶縁基体との界面にクラックや剥離が発生する等の不具合の発生を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明の配線基板の構造を示す部分断面図、図2は図1に示す配線層の拡大説明図であって、図2に示すように、本発明は、ガラスセラミックスからなる絶縁基体1と、絶縁基体1の内部に設けられた配線層2とを含む配線基板において、配線層2は金属2a中に島状に複数存在するガラス2bを含み、ガラス2bが配線層2の厚み方向の略中央部に偏在していることを特徴とするものである。
【0019】
図1に示す配線基板は、7層の絶縁層1a〜1gからなる絶縁基体1と、絶縁基体1の内部であって絶縁層1a〜1gのそれぞれの間に形成された配線層2と、絶縁層1a〜1gの厚み方向に対向する配線層2同士または内部に形成された配線層2と表面に形成された配線層3を接続するために形成されたビア導体4を含む構成になっている。
【0020】
絶縁基体1は、ガラスセラミックス焼結体から構成される。このガラスセラミックス焼結体にはガラスが含まれており、本発明ではこの絶縁基体中のガラス組成も重要な要素となっている。すなわち、ガラスセラミックス焼結体中のガラス組成が、ガラス2bを配線層2の厚み方向の略中央部に偏在させることに関与している。このガラス組成については後述する。
【0021】
ビア導体4は、銅、銀、金などの金属を主成分とし、これにガラスを含むものであり、後述するように金属粉末にガラス粉末を混合して形成される。
【0022】
配線層2も、銅、銀、金などの金属2aを主成分とし、これにガラス2bが含有されるものである。ガラス2bとしては、ビア導体4のようにガラス粉末として混合されるものではなく、絶縁基体1から拡散により進入したガラスと、後述の配線層2を形成するための原料としての金属粉末にコーティングされた無機酸化物とから生成されるものである。
【0023】
ここで、ガラス2aは金属2a中に島状に複数存在し、配線層2の厚み方向(絶縁層1a〜1gの積層方向)の略中央部に偏在していることが重要である。ここで、厚み方向の略中央部に偏在しているとは、配線層2中に含まれるガラス2bの85%以上が、配線層2を厚み方向に3等分したときの中間領域に存在することをいう。、
そして、図2に示すように、ガラス2bが配線層2の厚み方向の略中央部に沿って連なるように偏在しているのが好ましく、ガラス2bが層をなしているのが好ましい。このように、ガラス2bが配線層2の厚み方向の略中央部に沿って連なるように偏在し、最適には層をなしているようになっていれば、より高い導電率を得ることが可能となる。なお、略中央部に沿って連なるように偏在とは、厚み方向に切断した断面において500倍の電子顕微鏡を用いて観察したときに略中央部に偏在するガラスが連なっており、途切れた箇所がいくつかあるが全体としてみれば連なるように形成されていることをいう。また、層をなしているとは、厚み方向に切断した断面において500倍の電子顕微鏡を用いて観察したときに略中央部に偏在するガラスが連なっており、途切れた箇所がないことをいう。
【0024】
配線層2の略中央部にガラス2bが偏在している構造とするためには、この配線層2を形成する導体ペーストとして、無機酸化物でコーティングされた平均粒径0.1〜1.0μmの金属粉末を主成分とすることが重要である。金属粉末の平均粒径が0.1μmより小さいと、粉末が凝集してしまい、均一な導体ペーストとならない。不均一な導体ペーストの場合、凝集による配線層と絶縁層との界面の平滑性低下や、導体の焼結状態が不均一になる等の不具合が発生してしまう。また、凝集が存在することによってガラスセラミック中のガラスが導体中へ均一に拡散できなくなり、ガラスが配線層の厚み方向の略中央部に偏在できなくなる。一方、1μmより大きいと、ガラスセラミック中のガラスが配線層に毛管力で拡散しにくくなり、界面の凹凸を抑制することができず、高周波帯の信号を流した際に高い導電率を得ることができない。
【0025】
金属粉末における金属としては、銅、銀、金、好ましくは銅が採用され、コーティングされる無機酸化物としては、SiO、Al、MgO、好ましくはSiOが採用される。また、コーティング量としては0.5〜5質量%、特に1〜4質量%が好ましい。
【0026】
このような金属粉末を主成分とする導体ペーストを用い、これをガラスセラミックスからなるグリーンシートに印刷し焼成することで、まだ温度が低く金属粉末に無機酸化物のコーティングが存在していた状態では、無機酸化物でコーティングされた金属粉末とガラスとの濡れ性がよく、絶縁基体から配線層に向かってガラスが拡散により進入するが、さらに温度が高くなって金属が焼結する温度域になると無機酸化物のコーティングが存在しなくなってガラスと金属粉末との濡れ性が悪くなることで、ガラスが配線層の略中央部に留まって偏在するようになるのである。したがって、高周波帯の信号を流した際に高い導電率を得ることができる。
【0027】
また、この導体ペーストを用いることにより、コーティングされた無機酸化物が金属の焼結を遅らせるため、配線基板の反りを抑制するために余分なガラスを添加する必要がなくなるという効果も有している。さらに、絶縁基体中のガラスが毛管力で配線層へ拡散されることで、配線層2と絶縁基体1との熱膨張係数差を低減し、焼成の降温時に界面でクラックや剥離が発生するのを抑制するという効果も有している。
【0028】
配線層2の厚み方向略中央部にガラス2bが偏在している構造とするためには、ガラスセラミック中のガラスの組成も重要な要素となる。このガラス組成としては、SiがSiO換算で20〜40質量%、BがB換算で25〜45質量%、MgがMgO換算で8〜14質量%、CaがCaO換算で6〜16質量%、AlがAl換算で5〜14質量%、ZnがZnO換算で3〜8質量%である。
【0029】
SiO量が20質量%より少ないと、配線層を構成する金属(Cu)との濡れ性がよくなるためにガラスが配線層の略中央部に偏在することができなくなり、40質量%より多くなると、ガラスの粘性が高くなってガラスセラミックから配線層へ拡散しにくくなる。
【0030】
また、Bが25質量%より少ないと、ガラスの粘性が高くなってガラスセラミックから配線層へ拡散しにくくなり、45質量%より多くなると、ガラスの熱膨張係数が低下するため配線層とガラスセラミックの熱膨張差を十分に低減することができなくなる。
【0031】
また、MgOが8質量%より少なくなると、配線層を構成する金属(Cu)との濡れ性がよくなるためにガラスが配線層の略中央部に偏在することができなくなり、14質量%より多くなると、ガラスの粘性が高くなってガラスセラミックから配線層へ拡散しにくくなる。
【0032】
また、CaOが6質量%より少ないと、ガラスの粘性が高くなってガラスセラミックから配線層へ拡散しにくくなり、16質量%より多くなると、配線層を構成する金属(Cu)との濡れ性がよくなるためにガラスが配線層の略中央部に偏在することができなくなる。
【0033】
また、Alが5質量%より少なくなると、配線層を構成する金属(Cu)との濡れ性がよくなるためにガラスが配線層の略中央部に偏在することができなくなり、14質量%より多くなると、ガラスの粘性が高くなってガラスセラミックから配線層へ拡散しにくくなる。
【0034】
また、ZnOが3質量%より少なくなると、配線層を構成する金属(Cu)との濡れ性がよくなるためにガラスが配線層の略中央部に偏在することができなくなり、8質量%より多くなると、ガラスの熱膨張係数が低下するため配線層とガラスセラミックの熱膨張差を十分に低減することができなくなる。
【0035】
次に、本発明の配線基板の製造方法として、図1の配線基板を作製する方法について説明する。
【0036】
具体的には、まず、グリーンシートを作製するために、原料粉末としてガラス粉末とセラミックフィラー粉末を準備する。
【0037】
ガラス粉末としては、少なくともSiO2を含み、Al、B、ZnO、PbO、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物のうちの少なくとも1種以上を含有したものであって、例えば、SiO−B系、SiO−B−Al系−MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnを示す)等のホウケイ酸ガラス、アルカリ珪酸ガラス、Ba系ガラス、Pb系ガラス、Bi系ガラス等が挙げられる。これらのガラスとしては、焼成処理することによっても非晶質ガラスであるもの、また焼成処理によって、リチウムシリケート、クォーツ、クリストバライト、エンスタタイト、コ−ジェライト、ムライト、アノ−サイト、セルジアン、スピネル、ガ−ナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライト、ディオプサイドやその置換誘導体の結晶を少なくとも1種類を析出するもののどちらも使用可能である。その中でも、SiをSiO換算で25〜45質量%、AlをAl換算で10〜25質量%、MgをMgO換算で10〜24質量%、BをB換算で5〜20質量%、ZnをZnO換算で5〜20質量%、およびCaをCaO換算で0.5〜4質量%から成る結晶性ガラスが望ましい。上記ガラスを用いることにより、焼成後にガーナイト(ZnO・Al23)、エンスタタイト(MgO・SiO2)等の高熱膨張係数の結晶相が析出し、ガラスの組成が、SiがSiO換算で20〜40質量%、BがB換算で25〜45質量%、MgがMgO換算で8〜14質量%、CaがCaO換算で6〜16質量%、AlがAl換算で5〜14質量%、ZnがZnO換算で3〜8質量%となり、配線層の厚み方向の略中央部にガラスを偏在させることが可能になる。
【0038】
また、セラミックフィラー粉末としては、クォーツ、クリストバライト等のSiOや、Al、ZrO、コージェライト、ムライト、フォルステライト、エンスタタイト、スピネル、マグネシア等が好適に用いられる。これらのうち、高強度化、低コスト化等の点でアルミナが、高熱膨張化の点でクォーツが好ましい。
【0039】
上記の原料粉末を所定量秤量し、さらに有機バインダー、有機溶剤、および所望により可塑剤等を加えてスラリーを調製した後、ドクターブレード法、圧延法、プレス法等の周知の成形法によりシート状に成形して厚さ20〜500μmのセラミック配線基板をなすグリーンシートを作製する。
【0040】
そして、このグリーンシートにレーザーやマイクロドリル、パンチングなどにより、ビアペーストを充填するための直径80〜200μmのスルーホールを形成する。
【0041】
続いて、ビアペーストを作製する。原料粉末として、金属粉末およびガラス粉末を準備する。金属粉末としては、銅、銀、または金が低抵抗という点で好ましい。
【0042】
ガラス粉末は、ホウケイ酸系ガラス、ホウケイ酸亜鉛系ガラス、およびホウケイ酸鉛系ガラス等を例示できる。特に、800〜1100℃での金属粉末との同時焼成性に優れ、ガラスセラミックとの接着強度を向上させることができるという点で、SiO−Al−BaO−CaO−B系ガラスが好ましい。ただし、ガラス粉末はビア導体の焼結挙動の調整や、ガラスセラミックとの接着強度の向上や、ビア導体とガラスセラミックとの熱膨張差の低減の目的で添加される。
【0043】
また、金属粉末、ガラス粉末以外にも、アルミナ、シリカ等のフィラー成分や、樹脂ビーズ等の有機分を添加することにより、焼結挙動を調整することも可能である。
【0044】
上記の金属粉末と、ガラス粉末と、有機バインダーと、有機溶剤と、所望により分散剤とを加えてビアペーストを調整する。ビアペーストの粘度としては、スルーホールへの充填性を考慮して、100〜350Pa・sであることが好ましい。
【0045】
そして、上記ビアペーストをスルーホールに充填する。充填法としては、スクリーン印刷等が用いられる。
【0046】
続いて、パターン印刷(配線層の形成)に用いる導体ペーストを作製する。作製法は、上記ビアペーストと同様である。ここで、パターン印刷用(配線層形成用)の導体ペーストに用いる金属粉末は、無機酸化物でコーティングされていることが重要である。コーティングされていることにより、絶縁基体中のガラスとの濡れがよくなり、ガラスが配線層へ拡散しやすくなる。また、無機酸化物が金属の焼結を阻害することができ、配線基板の反りを抑制することができる。ここで、コーティングに用いられる無機酸化物としてはSiO、Alなどが好ましく、コーティング量としては0.5〜5質量%、特に1〜4%質量が好ましい。
【0047】
また、金属粉末の粒径が大きいと、導体ペースト中の金属粒子間の空間が大きくなり、焼成後に配線層と絶縁基体との界面に凹凸を形成することの要因となってしまうという問題があり、金属粉末の粒径が小さいと、毛管力によってガラスセラミック中のガラス成分が配線層へ拡散しやすくなるという効果があることから、導体ペーストに用いる金属粉末の粒径は小さいことが重要である。具体的には、平均粒径が0.1〜1μmであることが重要である。なお、導体ペーストの粘度としては、ぺ−ストの印刷性、ペーストのレベリング性、ペーストを薄く塗布するという観点から、10〜120Pa・s、特に20〜80Pa・s、であることが好ましい。
【0048】
そして、上記導体ペーストをグリーンシートの表面に、スクリーン印刷等の塗布法を用いて塗布し、配線パターンを形成する。
【0049】
続いて、絶縁層を複数積層して多層基板とする場合には、配線パターンを形成したグリーンシートと、同様にして得られた配線パターンを形成したグリーンシート複数枚を積層圧着してグリーンシート積層体を形成する。グリーンシートの積層には、積み重ねられたグリーンシートに熱と圧力を加えて熱圧着する方法、有機バインダー、可塑剤、溶剤等からなる接着剤をシート間に塗布して熱圧着する方法等が採用可能である。
【0050】
なお、焼成に先立って、所望によりグリーンシート又はその積層体を100〜800℃、特に400〜750℃で加熱処理して積層体中の有機成分を分解除去することができる。また、焼成は800〜1000℃、特に850〜950℃で同時焼成するのが、十分に焼結させる、また過焼結を防止するという点で好ましい。このとき、導体中の金属として銅を用いる場合は、銅の酸化を防止するという観点から、窒素雰囲気中で焼成を行うのが好ましい。
【0051】
このような製造方法によって、本発明の配線基板を作製することができる。
【実施例】
【0052】
次のようにして、伝送特性、および配線層と絶縁基体との界面に存在するクラックの有無を評価する評価基板を作製した。この評価基板は、幅60mm×60mm、厚み600μmの絶縁層が積層され、内層に線幅0.1mmで、長さが10mm、11mm、12mm、20mm、30mmのストリップライン5本と途中を断線させて反射を測定するためのライン1本の計6本を形成し、ラインの端部にビアを接合させ、これと表層パッドとを接合させたものである。
【0053】
以下に、上記の評価基板の製造方法について示す。
【0054】
まず、絶縁基体を構成するグリーンシートを作製した。SiO2、Al23、B23、MgO、CaO、ZnOを含むガラス粉末、クォーツ粉末、およびCaZrO粉末を準備し、これらをガラス58.7質量%、クォーツ粉末を36.5質量%、CaZrO2粉末を4.8質量%秤量し、有機バインダーを添加して、ガラスセラミック組成物を作製した。なお、焼成後のガラスセラミック焼結体中のガラス組成は表1に示す。
【0055】
上記原料粉末に、有機バインダーとしてアクリル樹脂、可塑剤としてジオクチルフタレート、溶媒としてトルエンを加えて調製したスラリーを用いて、ドクターブレード法により成形し、200mmSQ、厚さ250μmのグリーンシートを作製した。ここで、グリーンシートには、パンチングにより直径120μmのスルーホールを設けた。
【0056】
次にビアペーストを作製した。銅粉末100質量%に対して、SiO−Al−BaO−CaO−B系ガラスを12質量%添加し、また有機バインダーとしてアクリル樹脂を、溶媒としてテルピネオールとジブチルフタレートの混合溶液(質量比で80:20)を添加、混練して、ビアペーストを作製した。作製したビアペーストを先ほど設けたスルーホールに、スクリーン印刷法により充填した。
【0057】
続いて、配線導体ペーストを作製した。表1に示した銅粉末を用意し、銅粉末に対して有機バインダーとしてアクリル樹脂を、溶媒としてテルピネオールとジブチルフタレートの混合溶液(重量比で80:20)を添加、混練して、配線導体ペーストを作製した。
【0058】
次に、得られた配線導体ペーストを、スクリーン印刷法により、印刷した。1枚には、線幅0.12mmで、長さが12mm、13mm、14mm、24mm、35mmのストリップラインを、2枚にはグランドとなるベタパターンとビア導体のランドパターンとして直径0.18μmのパターンを印刷した。
【0059】
このようにして得られた配線パターンを形成したグリーンシートを用い、積層体を作製した。評価基板は、ビア導体と配線パターンを配したグリーンシートを3層積層した。この時、グリーンシート間に接着剤を均一に塗布し、45℃、4MPaの条件で加圧積層を行った。
【0060】
続いて、これらの積層体をAlの台板上に載置して有機バインダー等の有機成分を分解除去するために、窒素雰囲気中、750℃で加熱処理し、次に窒素雰囲気中、900℃で1時間焼成を行った。
【0061】
得られた評価基板について、伝送特性であるSパラメーター(S21)を測定するとともに、ストリップラインとガラスセラミックとの界面にクラックや剥離が存在するかどうかを確認した。伝送特性の測定は、ネットワークアナライザーを用い、表層のパッドにプローブを接触させて、測定周波数2GHzの条件で測定を行った。また、クラックや剥離の確認は、基板を破断し500倍の電子顕微鏡を用いて断面観察することにより行った。その結果を表1に示す。
【表1】

【0062】
試料No.1、3、4、7、8、11〜13、15、16、19、20、23〜26、28、29では、配線層の略中央部にガラスが偏在していた。その結果、2GHzでのS21が−0.123dB/cm以下となり、良好な性能を示し、高い導電率が得られた。
【0063】
しかしながら、ガラス中のBが多い試料No.13は、導電率は高いが、ガラスの熱膨張係数が低下したために、配線層の熱膨張係数とガラスセラミックとの熱膨張係数差が大きくなり、クラックが発生した。
【0064】
また、ガラス中のZnOが多い試料No.25は、導電率は高いが、ガラスの熱膨張係数が低下したために、配線層の熱膨張係数とガラスセラミックとの熱膨張係数差が大きくなり、クラックが発生した。
【0065】
その他の試料については、下記のような結果となった。
【0066】
ガラス中のSiOが少ない試料No.2は、ガラスのCuとの濡れ性がよくなったために、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまった。
【0067】
ガラス中のSiOが多い試料No.5は、ガラスの粘性が高くなったことにより、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張係数差が小さくならず、剥離が発生した。
【0068】
ガラス中のAlが少ない試料No.6は、ガラスのCuとの濡れ性がよくなったために、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまった。
【0069】
ガラス中のAlが多い試料No.9は、ガラスの粘性が高くなったことにより、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張係数差が小さくならず、剥離が発生した。
【0070】
ガラス中のBが少ない試料No.10は、ガラスの粘性が高くなったことにより、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張係数差が小さくならず、剥離が発生した。
【0071】
ガラス中のMgOが少ない試料No.14は、ガラスのCuとの濡れ性がよくなったために、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまった。
【0072】
ガラス中のMgOが多い試料No.17は、ガラスの粘性が高くなったことにより、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張係数差が小さくならず、剥離が発生した。
【0073】
ガラス中のCaOが少ない試料No.18は、ガラスの粘性が高くなったことにより、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張係数差が小さくならず、剥離が発生した。
【0074】
ガラス中のCaOが多い試料No.21は、ガラスのCuとの濡れ性がよくなったために、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまった。
【0075】
試料No.22はガラス中のZnOが少ない試料No.22は、ガラスのCuとの濡れ性がよくなったために、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまった。
【0076】
試料No.27は銅粉末の平均粒径が小さかったために、導体ペースト中で凝集が起こり、焼結後も均一で緻密な焼結体とならなかった。そのため、ガラスの拡散も均一に起こらず、ガラスが略中央部に偏在できなかった。
【0077】
試料No.30は銅粉末の平均粒径が大きかったために、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張係数差が小さくならず、剥離が発生した。
【0078】
試料No.31は銅粉末に無機酸化物のコーティングがなかったために、ガラスが配線層に拡散しにくくなり、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまうとともに、配線層とガラスセラミックの熱膨張率係数が小さくならず、剥離が発生した。
【0079】
試料No.32はガラスセラミックに組成がまったくことなるガラスを用いたために、ガラスのCuとの濡れ性がよくなったために、ガラスが略中央部に偏在できず、導電率が低くなってしまった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の配線基板の構造を示す部分断面図である。
【図2】図1に示す配線層の拡大説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1・・・絶縁基体
1a〜1g・・・絶縁層
2・・・配線層
2a・・・金属
2b・・・ガラス
3・・・配線層
4・・・ビア導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミックスからなる絶縁基体と、該絶縁基体の内部に設けられた配線層とを含む配線基板において、前記配線層は金属中に島状に複数存在するガラスを含み、該ガラスが前記配線層の厚み方向の略中央部に偏在していることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記ガラスが前記配線層の厚み方向の略中央部に沿って連なるように偏在していることを特徴とする請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記ガラスが層をなしていることを特徴とする請求項2に記載の配線基板。
【請求項4】
前記配線層のガラスと前記絶縁基体のガラスとが同じ成分からなり、前記絶縁基体のガラス組成が、SiがSiO換算で20〜40質量%、BがB換算で25〜45質量%、MgがMgO換算で8〜14質量%、CaがCaO換算で6〜16質量%、AlがAl換算で5〜14質量%、ZnがZnO換算で3〜8質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の配線基板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−34551(P2008−34551A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205104(P2006−205104)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】