説明

酵素液の製造方法及び糖の製造方法

【課題】多糖類の分解性が高い酵素液を、容易に製造することができる酵素液の製造方法、並びに、それにより得られる酵素液を用いた糖の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、リグノセルロース系バイオマスを最大径が2mm以下となるように裁断してバイオマス粒子とする裁断工程S1と、該バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、混合液をスラリー状の炭素源とする粉砕工程S2と、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株を混合し、培養することにより、酵素液を得る酵素生産工程S3と、を備える酵素液の製造方法及びそれを用いた糖の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素液の製造方法及びそれにより得られる酵素液を用いた糖の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材や草木等の植物体の主要な化学成分は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンが含まれるリグノセルロース系バイオマスである。
かかるリグノセルロース系バイオマスは、多糖類であるセルロース及びヘミセルロースに、リグニンが絡まった構造となっている。
【0003】
近年、リグノセルロース系バイオマス資源の有効利用の観点から、リグノセルロース系バイオマスを加水分解してグルコース等の還元糖を得る研究がなされている。
例えば、リグノセルロース系バイオマスを加圧熱水で処理し、機械的粉砕処理を経て、酵素で糖化処理する糖化方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところが、上記特許文献1記載の糖化方法においては、リグノセルロース系バイオマスを単糖類に分解すると同時に、酵素が失活するので、酵素が大量に必要となる欠点がある。
【0005】
これに対し、リグノセルロース系バイオマスを分解するための酵素を製造する方法として、セルロース、ヘミセルロース、あるいは糖類を炭素源して、糖化酵素を産出する微生物を培養する方法が開発されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−136263号公報
【特許文献2】特開2008−54676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来から知られているように、セルラーゼ生産菌のセルラーゼ生産能が不十分であるので、上述した特許文献2記載の方法のように、セルロース及びヘミセルロースを炭素源とするのみでは、十分な分解性を有する酵素液を得ることができない。
したがって、特許文献2記載の酵素では、リグノセルロース系バイオマスを完全に単糖類まで分解することは困難である。
【0008】
また、特許文献2記載の方法においては、セルロースやヘミセルロースを準備する必要があるので、手間がかかると共に、高コストとなる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、多糖類の分解性が高い酵素液を、容易に製造することができる酵素液の製造方法、並びに、それにより得られる酵素液を用いた糖の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、セルロース又はヘミセルロースを個別に単離するのではなく、リグノセルロース系バイオマス自体から酵素液を製造できないかと考えた。
そして、所定の固形分率で粉砕等することにより、意外にも、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、(1)リグノセルロース系バイオマスを最大径が2mm以下となるように裁断してバイオマス粒子とする裁断工程と、該バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、混合液をスラリー状の炭素源とする粉砕工程と、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株を混合し、培養することにより、酵素液を得る酵素生産工程と、を備える酵素液の製造方法に存する。
【0012】
本発明は、(2)混合液が、バイオマス粒子を解繊するための解繊物質を更に含有する上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0013】
本発明は、(3)炭素源の繊維長が100μm以下である上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0014】
本発明は、(4)炭素源の結晶化度が15〜55%である上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0015】
本発明は、(5)酵素生産工程において、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株に加え、乳糖を含む乳清が更に含まれている上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0016】
本発明は、(6)多糖分解酵素生産菌株が、アクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属又はペニシリウム属に属するものである上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0017】
本発明は、(7)酵素液が多糖類から単糖類への加水分解に用いられる上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0018】
本発明は、(8)家畜用飼料として用いられ、酵素生産工程において、培養を途中で停止することにより、炭素源と多糖分解酵素生産菌株とを残存させた酵素液を得る上記(1)記載の酵素液の製造方法に存する。
【0019】
本発明は、(9)上記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の酵素液の製造方法により得られる酵素液と、分解用リグノセルロース系バイオマスとを混合し、該分解用リグノセルロース系バイオマスを加水分解して糖とする糖の製造方法に存する。
【0020】
本発明は、(10)リグノセルロース系バイオマスと、分解用リグノセルロース系バイオマスとが同一物質である上記(9)記載の糖の製造方法に存する。
【0021】
本発明は、(11)分解用リグノセルロース系バイオマスが、最大径が2mm以下となるように裁断して分解用バイオマス粒子とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、混合液をスラリー状としたものである上記(9)記載の糖の製造方法に存する。
【0022】
本発明は、(12)分解用リグノセルロース系バイオマスが、最大径が2mm以下となるように裁断して分解用バイオマス粒子とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度100〜150℃の条件下で水熱処理をし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、混合液をスラリー状としたものである上記(9)記載の糖の製造方法に存する。
【0023】
なお、本発明の目的に添ったものであれば、上記(1)〜(12)を適宜組み合わせた構成も採用可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の酵素液の製造方法においては、リグノセルロース系バイオマスを所定のサイズに裁断し、所定の条件下で粉砕することにより、炭素源とすることができる。
そして、かかる炭素源は、多糖分解酵素生産菌株に対して好適な栄養となる。このため、この炭素源に、多糖分解酵素生産菌株及び培養培地を加えて培養することにより、多糖類の分解性が高い酵素液が得られる。
したがって、上記酵素液の製造方法によれば、多糖類の分解性が高い酵素液を、容易に製造することができる。また、得られる酵素液は、多糖類から単糖類への加水分解に好適に用いられる。
【0025】
このように、得られる酵素液が、多糖類の分解性に優れる理由は、定かではないが、上述のような工程を経ることによって、炭素源の結晶構造が維持されるためであると考えられる。なお、理由はこれに限定されない。
特に、炭素源の結晶化度は15〜55%であることが好ましい。
【0026】
上記酵素液の製造方法においては、混合液が、バイオマス粒子を解繊するための解繊物質を更に含有すると、解繊物質がバイオマス粒子のセルロースのミクロフィブリルの間に進入してこれらの隙間を広げ、同時に組織を破壊し、セルロースミクロフィブリルに付着したヘミセルロース及びリグニンが剥がされる。
これにより、バイオマス粒子は、セルロース分子鎖の最小集合単位であるミクロフィブリルにまで解かれることになる。
このため、得られる炭素源は、リグノセルロース系バイオマス独自の結晶性が確実に維持される。すなわち、表面や内部のセルロース分子は分子鎖配列・配向の乱れや化学的な変性をほとんど受けていない結晶性を有する炭素源が得られる。
【0027】
上記酵素液の製造方法においては、炭素源の繊維長が100μm以下であると、多糖分解酵素生産菌株の増殖速度が向上する。
【0028】
上記酵素液の製造方法の酵素生産工程においては、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株に加え、乳糖を含む乳清が更に含まれていると、多糖類の分解性が一層高い酵素液が得られる。
【0029】
上記酵素液の製造方法においては、多糖分解酵素生産菌株が、アクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属又はペニシリウム属に属するものであると、確実に多糖類の分解性が高い酵素液が得られる。
【0030】
上記酵素液の製造方法の酵素生産工程においては、培養を途中で停止することにより、炭素源と多糖分解酵素生産菌株とを残存させた酵素液が得られる。
この場合、かかる酵素液は、サイレージ様家畜飼料(家畜用飼料)として好適に用いられる。
【0031】
本発明の糖の製造方法においては、上述した酵素液と、リグノセルロース系バイオマス(以下便宜的に「分解用リグノセルロース系バイオマス」という。)とを混合することにより、分解用リグノセルロース系バイオマスが酵素加水分解される。これにより、糖が得られる。なお、ここでいう「糖」は、単糖を意味する。
このとき、上述した酵素液を用いているので、分解用リグノセルロース系バイオマスは、高収率で糖に分解される。
【0032】
本発明の糖の製造方法においては、リグノセルロース系バイオマスと、分解用リグノセルロース系バイオマスとが同一物質であると、酵素量が少なくて済む。すなわち、上記分解用リグノセルロース系バイオマスを酵素で糖化させる場合、市販の酵素液やSolka
flocで培養したときに得られる粗酵素液を用いるよりも、分解用リグノセルロース系バイオマスと同一物質のリグノセルロース系バイオマスから上述の酵素の製造方法で得られる酵素液を用いたほうが、酵素量が少なくて済む。
また、同じリグノセルロース系バイオマスから糖まで一貫した生産体系を構築できる。
【0033】
本発明の糖の製造方法においては、分解用リグノセルロース系バイオマスが、最大径が2mm以下となるように裁断してバイオマス粒子(以下便宜的に「分解用バイオマス粒子」という。)とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、混合液をスラリー状としたものであると、得られる糖の収率が向上する。なお、分解用バイオマス粒子に水熱処理を施すと、糖の収率がより向上する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本発明に係る酵素液の製造方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】図2は、本発明に係る糖の製造方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
【図3】図3は、本発明に係る糖の製造方法の他の実施形態を示すフローチャート図である。
【図4】図4は、実施例1,2及び比較例2,3で得られた酵素液の量と、糖化量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る酵素液の製造方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
図1に示すように、本実施形態に係る酵素液の製造方法は、リグノセルロース系バイオマスをバイオマス粒子とする裁断工程S1と、該バイオマス粒子及び水を混合して混合液とし、粉砕により炭素源とする粉砕工程S2と、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株を混合し、培養することにより、酵素液を得る酵素生産工程S3と、を備える。
【0036】
本実施形態に係る酵素液の製造方法においては、リグノセルロース系バイオマスを所定のサイズに裁断し(裁断工程S1)、所定の条件下で湿式粉砕する(粉砕工程S2)ことにより、結晶構造が維持された炭素源となる。
ここで、湿式粉砕とは、液体の存在下、こなごなに打ち砕く処理をする方式を意味する。なお、液体を用いない乾式粉砕では顕著に粉砕物の結晶化度が低下する。
【0037】
そして、かかる炭素源は、結晶性が維持されているので、多糖分解酵素生産菌株に対して好適な栄養となる。このため、この炭素源に、多糖分解酵素生産菌株及び培養培地を加えて培養する(酵素生産工程S3)ことにより、多糖類の分解性が高い酵素液が得られる。
したがって、上記酵素液の製造方法によれば、多糖類の分解性が高い酵素液を、容易に製造できる。また、得られる酵素液は、多糖類から単糖類への加水分解に好適に用いられる。
【0038】
以下、裁断工程S1、粉砕工程S2及び酵素生産工程S3について、更に詳細に説明する。
(裁断工程)
裁断工程S1は、リグノセルロース系バイオマスを所定の粒子径となるように裁断してバイオマス粒子とする工程である。
【0039】
リグノセルロース系バイオマスとしては、稲わら、麦わら、バガス、コーンストーバー等の農産廃棄物、木材、古紙等が挙げられる。なお、かかるリグノセルロース系バイオマスには、これらの発酵物も含まれる。かかる発酵物としては、サイレージ化された稲わらや多量のオガ粉を含む使用済みキノコ培地等が挙げられる。
【0040】
これらのリグノセルロース系バイオマスは、グルコースがβ1−4結合されたセルロース、キシロース(広葉樹、草本類)、マンノース(針葉樹)等が主成分であり、これにヘミセルロースやリグニンが絡み合った構造となっている。
【0041】
上記裁断工程においては、リグノセルロース系バイオマスを裁断することにより、バイオマス粒子が得られる。
ここで、リグノセルロース系バイオマスを裁断する方法としては、カッターミル、ハンマーミル、エクストルーダー等が挙げられる。
【0042】
上記裁断工程により得られるバイオマス粒子の粒子径は、最大径が2mm以下になるようにする。
ここで、最大径とは、バイオマス粒子の任意の断面における最大の直径を意味する。
上記最大径が2mmを超えると、後述する粉砕工程において、十分な炭素源とならず、得られる酵素液も多糖類の分解性が不十分となる。なお、得られるバイオマス粒子の形状は特に限定されない。
【0043】
(粉砕工程)
粉砕工程S2は、得られたバイオマス粒子及び水を所定の固形分率となるように混合して混合液とし、所定の条件下で連続的に湿式粉砕し、混合液をスラリー状の炭素源とする工程である。
【0044】
上記混合液は、固形分であるバイオマス粒子と、液体である水との混合物となっている。すなわち、水中にバイオマス粒子が分散された状態となっている。
【0045】
また、混合液全体における固形分率は、0.1〜20質量%である。すなわち、混合液全量に対するバイオマス粒子の含有割合は、0.1〜20質量%である。
固形分率が0.1質量%未満であると、得られる酵素液の量が少なくなるので、多糖類の分解性が不十分となる傾向にあり、固形分率が20質量%を超えると、湿式粉砕が十分にできなくなる場合がある。
【0046】
上記混合液は、バイオマス粒子を解繊するための解繊物質を更に含有してもよい。すなわち、この場合の混合液は、バイオマス粒子、水及び解繊物質からなるものであってもよい。
混合液が解繊物質を含むと、解繊物質がバイオマス粒子のセルロースのミクロフィブリルの間に進入してこれらの隙間を広げ、同時に組織を破壊し、セルロースミクロフィブリルに付着したヘミセルロース及びリグニンが剥がされ、バイオマス粒子は、セルロース分子鎖の最小集合単位であるミクロフィブリルにまで解かれることになる。
このため、得られる炭素源は、リグノセルロース系バイオマス独自の結晶性が維持される。すなわち、表面や内部のセルロース分子は分子鎖配列・配向の乱れや化学的な変性をほとんど受けていない結晶性を有する炭素源が得られる。なお、解繊物質が含まれる場合であっても、固形分率は、0.1〜20質量%であることが好ましい。
【0047】
かかる解繊物質としては、特に限定されないが、低分子化合物、高分子化合物、脂肪酸類又は無機アルカリが好適に用いられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
上記低分子化合物は、アルコール類、エーテル類、ケトン類、スルホキシド類、アミド類、アミン類、芳香族類及びモルフォリン類からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0049】
上記アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノール、エチレングリコール等のアルキレングリコール、トリメチレンプロパノール、ブタンジオール、グリセリン等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0050】
上記エーテル類としては、1,4−ジオキサン等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0051】
上記ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、ステアリルケテンダイマー等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0052】
上記スルホキシド類としては、ジメチルスルホキシド、ビスフェニルスルホキシド類、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,3−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(5−クロロ−2,3−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,4−ジヒドロキシ−6−メチルフェニル)スルホキシド、ビス(5−クロロ−2,4−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(2,5−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)スルホキシド等のビスヒドロキシフェニルスルホキシド類等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0053】
上記アミド類としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0054】
上記アミン類としては、アンモニア、アニリン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、ジエチルエタノールアミン等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0055】
上記芳香族類としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、フェノール、p−クレゾール、o−クレゾール、カテキン類、テルペン類等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0056】
上記モルフォリン類としては、N−メチルモルフォリン、N−メチルモルフォリン−N−オキシド等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0057】
また、上記低分子化合物にはイオン性液体が含まれる。ここで、イオン性液体とは、室温でも液体で存在する塩を意味する。
かかる上記イオン性液体としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−3(ヒドロキシメチル)ピリジニウムエチルスルファート、1−エチル−3−メチルピリジニウムエチルスルファート、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルホスファート等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0058】
上記解繊物質が低分子化合物であると、低分子化合物がバイオマス粒子の組織や細胞壁の間に進入するとともに、低分子化合物がクサビのように作用して、バイオマス粒子の解繊が進行しやすくなるという利点がある。
【0059】
上記高分子化合物は、アルコール系高分子類、エーテル系高分子類、アミド系高分子類、アミン系高分子類及び芳香族系高分子類からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0060】
上記アルコール系高分子類としては、ポリエチレングリコール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリビニルアルコール、アミロース、アミロペクチン、ソルビトル、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリブチロラクトン、ポリグリコール、ポリ乳酸等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0061】
上記エーテル系高分子類としては、クラウンエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0062】
上記アミド系高分子類としては、ポリアクリルアミド、キチン、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリカプロラクタム等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0063】
上記アミン系高分子類としては、ポリアリルアミン、ポリリジン、各種のアミン変性アクリルコポリマー等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0064】
上記芳香族系高分子類としては、ポリフェニレンオキサイド、カテキン、タンニン、テルペン等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0065】
上記解繊物質が高分子化合物であると、粉砕の際のせん断力又は熱により、バイオマス粒子の一部の組織が溶融したり、混合液の流動性が向上する。
そうすると、バイオマス粒子の組織や細胞壁表面に高分子化合物が付着して引きはがす作用がより働き、更に、高分子化合物がバイオマス粒子の組織の隙間に進入して、解繊が進行しやすくなるという利点がある。
【0066】
上記脂肪酸類は、飽和脂肪酸類、不飽和脂肪酸類及びこれらの塩からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
【0067】
上記飽和脂肪酸類としては、蟻酸、酢酸、蓚酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、プロピオン酸、酪酸、パルミチン酸、ステアリン酸等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0068】
上記不飽和脂肪酸類としては、安息香酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0069】
上記解繊物質が脂肪酸類であると、脂肪酸類が、側鎖にアセチル基を有するヘミセルロースと、親和性を示すので、バイオマス粒子の組織や細胞壁の間に進入しやすい。
また、粉砕の際のせん断力又は熱によりセルロース、ヘミセルロース又はリグニンの水酸基の一部が脂肪酸類とエステル化し、それにより組織間が広がるので、解繊が進行しやすくなるという利点がある。
【0070】
上記無機アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なお、これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0071】
上記解繊物質が無機アルカリであると、水がアルカリ性になるためバイオマス粒子中のセルロースやヘミセルロースが部分的に加水分解を起こして、強固な細胞壁などが脆弱になり、粉砕エネルギーにより容易に組織が壊されて解繊が進行しやすくなるという利点がある。
また、アルカリイオンは水和構造を取っているため組織や細胞壁の間に進入してセルロースやヘミセルロースのネットワークを広げて相乗効果で解繊が進行しやすくなるという利点がある。
【0072】
バイオマス粒子と解繊物質との混合割合は、バイオマス粒子1質量部に対して、解繊物質が0.01〜200質量部であることが好ましく、0.01〜100質量部であることがより好ましく、0.1 〜20質量部であることがより一層好ましい。
解繊物質の混合割合が0.01質量部未満であると、混合割合が上記範囲内にある場合と比較して、バイオマス粒子を十分に解繊されない傾向にあり、混合割合が200質量部を超えると、混合割合が上記範囲内にある場合と比較して、粉砕エネルギーの多くが解繊物質に吸収され、バイオマス粒子の解繊に使われる粉砕エネルギーの割合が少なくなり、解繊が効率良く進みにくくなる傾向がある。
【0073】
上記粉砕工程S2においては、上述した混合液を機械的に粉砕する。
ここで、粉砕の方法は、特に限定されず、せん断力をバイオマス粒子に印可できる方法であればよい。
例えば、ボールミル、ロッドミル、ハンマーミル、インペラーミル、高速ミキサ、ディスクミル(バッチ式又は連続式)、ミキサ、高圧ホモジナイザー、機械式ホモジナイザー又は超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0074】
これらの中でも、粉砕の方法は、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ディスクミル又はミキサであることが好ましく、ボールミル、ディスクミル又はミキサで行われることがより好ましい。
この場合、比較的容易にバイオマス粒子を後述するスラリー状にすることができる。また、得られる炭素源のサイズのバラツキが小さくなる。
【0075】
特に好ましくは、粉砕の方法が、ディスクミルの場合である。
この場合、圧力やせん断力を印可することにより、セルロースミクロフィブリルが集合した太いリグノセルロース系バイオマスの束を、より細いリグノセルロース系バイオマスに解くことができ、且つ、連続的にこの処理ができるという利点がある。
【0076】
粉砕は、バッチ式又は連続式エクストルーダーで行われることが好ましい。
この場合、より短時間で効率よくバイオマス粒子を粉砕できる。
【0077】
これらの中でも、2軸エクストルーダーで行われることが好ましい。
2軸エクストルーダーは、スクリュー間の物質にせん断力や圧力を印可しながら押し出し、連続的に処理することができる。このため、解繊物質がリグノセルロース系バイオマス全体に均一に分散・浸透しやすくなり、結果として、少量の解繊物質でもバイオマス粒子を十分に解繊できる。
【0078】
上記粉砕は、0〜50℃の温度条件下で行われる。
温度が0℃未満であると、温度が上記範囲内にある場合と比較して、水が凍り始めるので、混合液の流動性が低下し、粉砕が不十分となる恐れがあり、温度が50℃を超えると、温度が上記範囲内にある場合と比較して、多糖類分解酵素生産菌株が失活する虞がある。
【0079】
こうして、スラリー状の炭素源が得られる。
炭素源をスラリー状とすることにより、多糖分解酵素生産菌株に対する好適なバイオ燃料となる。
【0080】
上記炭素源は、結晶化度が15〜55%であることが好ましい。
この場合、多糖類の分解性が高い酵素液を製造することができる。
【0081】
炭素源は、繊維長が100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
また、幅が1μm以下であることが好ましく、0.1μm以下であることがより好ましく、3〜5nmであることが更に好ましい。
炭素源は、サイズを上記範囲内とすることにより、多糖分解酵素生産菌株の培養される速度が向上する。
【0082】
(酵素生産工程)
酵素生産工程S3は、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株を混合し、培養することにより、酵素液を得る工程である。
【0083】
多糖分解酵素生産菌株としては、特に限定されないが、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ等を生産するアクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属又はペニシリウム属に属するものが挙げられる。なお、これらの多糖分解酵素生産菌株の遺伝子を組み換えることによって、多糖分解酵素生産力そのものを新規に加えた菌株、異化可能な糖類の種類が新たに加えられた菌株、生産性が増強された菌株等も上記多糖分解酵素生産菌株に含まれる。
【0084】
培養培地としては、市販のものや乳清が用いられる。
例えば、KHPO、Tween80、(NH)SO、コーンスティープリター、酒石酸カリウム半水和物、MgSO・7HO、ZnSO・7HO、MnSO・7HO、CuSO・5HO、尿素、乳糖等が挙げられる。これらは単独で用いても、複数を混合して用いてもよい。
培養方法は、特に限定されないが、例えば、振とう培養、旋回培養、静止培養、旋回振とう培養等が好適に用いられる。
【0085】
こうして、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株を混合して約1週間培養し、その後、多糖分解酵素生産菌株を取り除くことにより、酵素液(セルラーゼ)が得られる。
得られる酵素液は、FPU活性が8FPU/mL以上であることが好ましく、10FPU/mL以上であることがより好ましい。
ここで、FPU活性とは、Whatman No.1ろ紙を基質とし、1分間に1μmolのグルコースを生成する酵素量を意味する。
FPU活性が8FPU/mL未満であると、FPU活性が上記範囲内になる場合と比較して、酵素コストの増加や、糖化性減少となる傾向にある。
【0086】
上記酵素生産工程S3においては、炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株に加え、乳糖が更に含まれていることが好ましい。
この場合、多糖類の分解性が一層高い酵素液が得られる。なお、かかる乳糖は、セルラーゼ生産の誘導炭素源として知られている乳糖を含む乳清等の乳製品加工工場から排出される産業廃棄物であってもよい。
【0087】
次に、本実施形態に係る糖の製造方法について説明する。
図2は、本発明に係る糖の製造方法の一実施形態を示すフローチャート図である。
図2に示すように、本実施形態に係る糖の製造方法においては、上述した酵素液の製造方法により得られた酵素液を用いた糖製造工程S4を備える。
【0088】
すなわち、本実施形態に係る糖の製造方法においては、リグノセルロース系バイオマスを用い、裁断工程S1、湿式粉砕工程S2及び酵素生産工程S3を経て、酵素液としたものが用いられる。
そして、かかる酸素液に、上述した酵素の製造方法において原料として用いたリグノセルロース系バイオマスを加えることにより、リグノセルロース系バイオマスが酵素加水分解される。なお、上記酵素液は、多糖分解酵素生産菌株を除去したものである。
【0089】
なお、上記酵素生産工程S3は、培養を途中で停止してもよい。
そうすると、炭素源と多糖分解酵素生産菌株とが残存した酵素液が得られる。すなわち、炭素源が多糖分解酵素生産菌株により部分分解し、多糖分解酵素生産菌株を含んだ酵素液が得られる。
かかる酵素液は、軟らかい炭素源を含むため、サイレージ様家畜飼料(家畜用飼料)として用いると、消化性が向上する。
【0090】
(糖製造工程)
糖製造工程S4は、得られた酵素液を用いて、分解用リグノセルロース系バイオマスを糖に加水分解する工程である。
【0091】
分解用リグノセルロース系バイオマスとしては、稲わら、麦わら、バガス、コーンストーバー等の農産廃棄物、木材、古紙等が挙げられる。なお、かかる分解用リグノセルロース系バイオマスには、これらの発酵物も含まれる。かかる発酵物としては、サイレージ化された稲わらや多量のオガ粉を含む使用済みキノコ培地等が挙げられる。
【0092】
ここで、酵素液の製造に用いられるリグノセルロース系バイオマスと、糖の製造に用いられる分解用リグノセルロース系バイオマスとが同一物質であることが好ましい。この場合、理由は定かではないが、得られる酵素液が、分解用リグノセルロース系バイオマスの組成を分解するために必要な酵素組成になっていると考えられる。例えば、セルラーゼだけでなく、キシラナーゼやアラビノフラノシダーゼの比活性が高いことが挙げられる。
したがって、この場合、リグノセルロース系バイオマスから上述の酵素の製造方法で得られた酵素液が、分解用リグノセルロース系バイオマスの糖化を促進させるため、酵素量が少なくて済むという利点がある。
【0093】
上記糖製造工程においては、分解用リグノセルロース系バイオマスに酵素液を浸漬させ、30〜55℃の温度条件下で、1〜3日間、放置することにより、分解用リグノセルロース系バイオマスに含まれる多糖が加水分解され糖が得られる。なお、分解用リグノセルロース系バイオマス中のセルロースからはグルコースが得られ、ヘミセルロースからは、キシロース、マンノース、アラビノース、ガラクトース等が得られる。
【0094】
こうして得られる糖は、発酵させてもよい。
このとき、発酵させる菌としては、例えば、サッカロマイセス、ピシア、ザイモモナス、ラクトバチルス等が挙げられる。なお、これらの菌の遺伝子を組み換えることによって、発酵能力そのものを新規に加えた菌、発酵可能な糖類の種類が新たに加えられた菌、発酵性が増強された菌等も上記発酵させる菌に含まれる。具体的には、エタノール発酵組換え大腸菌やキシロース発酵組換え酵母等が挙げられる。
【0095】
例えば、糖を発酵によりエタノールに変換することができる。
このエタノールは、化成品原料、溶媒又は自動車用燃料等に用いられる。また、エタノールを含む水溶液は、アルコール系飲料とすることもできる。
また、糖は化学的に変換して、化成品、高分子原料、生理活性物質等の有用物質に用いることも可能である。
【0096】
図3は、本発明に係る糖の製造方法の他の実施形態を示すフローチャート図である。
図3に示すように、本実施形態に係る糖の製造方法においては、酵素加水分解をする原料として、分解用リグノセルロース系バイオマスを用いる代わりに、所定の処理を施した分解用リグノセルロース系バイオマス(炭素源)を用いる点で、図2に示す糖の製造方法と相違する。
【0097】
すなわち、本実施形態に係る糖の製造方法において、原料となる分解用リグノセルロース系バイオマスは、最大径が2mm以下となるように裁断して分解用バイオマス粒子とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に湿式粉砕し、混合液をスラリー状としたものである。換言すると、このスラリー状としたものは、上述した炭素源と同様な工程を経たものである。
【0098】
したがって、上記糖の製造方法においては、分解用リグノセルロース系バイオマスを用い、裁断工程S1、粉砕工程S2を経て炭素源とし、かかる炭素源の一部を用い、酵素生産工程S3を経て酵素液とし、多糖分解酵素生産菌株を除去した後、上記炭素源の一部を加えて、糖を製造してもよい。すなわち、炭素源の一部を酵素生産工程に用い、一部を糖の製造に用いてもよい。
この場合、得られる糖の収率が向上すると共に、同じ分解用リグノセルロース系バイオマスから糖まで一貫した生産体系を構築できる。
【0099】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0100】
例えば、本実施形態に係る酵素液の製造方法において、粉砕工程を施す前に、バイオマス粒子を、オートクレーブ等を用いて水熱処理してもよい。
この場合、バイオマス粒子が膨潤等により解れやすくなる、すなわち、バイオマス粒子が脆弱になる。
これにより、セルロースミクロフィブリルが部分的に切れたり、外力によって切れ易くなる。
そうすると、バイオマス粒子の解繊が速やかに進行し、解繊が速やかに進行し、分解性が増加することで得られる糖の収率が向上する。
【0101】
上記酵素液の製造方法において、粉砕工程により得られる炭素源は、減圧凍結等により乾燥させてから、酵素生産工程に用いてもよい。
この場合、炭素源の運搬等の作業性が向上する。
【0102】
上記糖の製造方法においては、分解用リグノセルロース系バイオマスに対して、湿式粉砕する前に、オートクレーブ等の水熱反応を施すことが好ましい。すなわち、分解用リグノセルロース系バイオマスが、最大径が2mm以下となるように裁断して分解用バイオマス粒子とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とした後、温度100〜150℃の条件下で水熱処理をし、その後、温度0〜50℃の条件下で連続的に湿式粉砕し、混合液をスラリー状としたものであることが好ましい。
この場合、糖の収率がより向上する。
【実施例】
【0103】
以下、本発明の微細繊維状リグノセルロース系バイオマスの実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
(実施例1)
[裁断工程]
原料として稲わらを準備した。そして、これをカッターミルにより2mmパスの稲わら粉(バイオマス粒子)に粗粉砕した。
【0105】
[粉砕工程]
稲わら粉1kgに対し、水道水20Lを加え(固形分率4.8質量%)、スーパーマスコロイダー(連続湿式粉砕処理機、ディスクミル、ディスク材質:シリコンカーバイド、ディスク径:10インチ、ディスク回転数1800rpm、ディスク間隔30μm、増幸産業社製)に投入し、2分間、湿式粉砕処理を施した。
この処理を10回繰り返し、スラリー状の炭素源を得た。なお、湿式粉砕処理の温度は室温〜45℃の範囲で行った。そして、スラリー状の炭素源を減圧凍結し、乾燥させた。
得られた炭素源は、繊維長が100μm未満、幅が0.1〜1μm、結晶化度が約50%であった。
【0106】
[酵素生産工程]
乾燥させた炭素源40g/lを含む前培養培地(KHPO:24g/l、Tween80:1g/l、(NHSO:5g/l、CSL:10g/l、酒石酸カリウム半水和物:4.7g/l、MgSO・7HO:1.2g/l、ZnSO・7HO:0.01g/l、MnSO・7HO:0.01g/l、CuSO・7HO:0.01g/l、尿素:2g/l)と、炭素源100g/l含む本培養培地(KHPO:24g/l、Tween80:1g/l、(NHSO:5g/l、酒石酸カリウム半水和物:4.7g/l、MgSO・7HO:1.2g/l、ZnSO・7HO:0.01g/l、MnSO・7HO:0.01g/l、CuSO・7HO:0.01g/l、尿素:4g/l)を準備した。
【0107】
次に、多糖分解酵素生産菌株(糸状菌)としてAcremonium cellulolyticus TN株(アクレモニウム属)を準備した。
PDAスラント培地(ポテトデキストロース寒天培地39g/l)にて継代培養(30℃)を行ったA.cellulolyticusTN株を上述した前培養培地にて30℃、220rpmで1週間、回転振とう培養を行い、引き続いて、本培養培地にて、同様に、回転振とう培養を行なった。そして、培養液の上清を取り出すことにより、酵素液を得た。
【0108】
(実施例2)
粉砕工程において、スーパーマスコロイダー(ディスクミル)の代わりに、Vibrating sample mill(ボールミル)を用い、60分間、乾式粉砕処理を施したこと以外は実施例1と同様にして、酵素液を得た。
【0109】
(比較例1)
粉砕工程は経ないこと、すなわち、裁断工程を経たバイオマス粒子100g/lをそのまま炭素源として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酵素液を得た。
なお、かかる炭素源は、繊維長が2mm未満、幅が200〜500μm、結晶化度が約50%であった。
【0110】
(比較例2)
炭素源として、粉末セルロース(Solka floc BW200)50g/lを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、酵素液を得た。
なお、かかる炭素源は、繊維長が50μm未満、幅が0.1〜1μm、結晶化度が約70%であった。
【0111】
(比較例3)
酵素液として、Acremonium cellulase(製品名)を10
FPU/g−substrateと、Optimash BG(製品名)を0.2%とを混合して酵素液を得た。
【0112】
[評価1]FPU活性
1×6cmにカットしたWhatman No.1フィルターろ紙(約50mg)を入れたキャップ付き試験管に、0.05Mクエン酸ナトリウムバッファー(pH4.8)500μl及び実施例1、比較例1又は比較例2で得られた酵素液500μlを添加し、50℃、60分間で反応させた。
反応終了後、DNS試薬3mLを添加し、5分間沸騰水に入れ、呈色反応を行った。氷水で約5分間冷やした後、反応液200μlを2.5mLの蒸留水で希釈し、波長540nmで吸光度を測定した。あらかじめ作成した検量線より2mgのグルコースを得る酵素の希釈率を求め、0.37/酵素濃度の値をFPU/mLと定義した。
得られた結果を表1に示す。
【0113】
【表1】

表1の結果より、本発明の酵素液の製造方法で得られた酵素液は、FPU活性が極めて優れることがわかった。
このことから、リグノセルロース系バイオマスを用い、裁断工程、粉砕工程を経た炭素源は、多糖分解酵素生産菌株のバイオ燃料として、有効であることがわかった。
【0114】
[評価2]糖化量
実施例1及び比較例1で得られた酵素液を用い、糖を製造した。
すなわち、原料として、稲わら基質(分解用リグノセルロース系バイオマス)5%を含む0.05M酢酸ナトリウム緩衝液に、4FPU/gとなるように実施例1又は比較例1の酵素液を加え、45℃、72時間で糖化反応を行い、糖化液を得た。なお、実施例1の酵素液については、力価を10FPU/gに高めた場合についても測定した。
得られた糖化液に含まれる単糖類の量を表2に示す。
【0115】
【表2】

表2の結果より、本発明の糖の製造方法によれば、高収率で糖が得られることが確認された。
【0116】
[評価3]酵素液の量と糖化量との関係
実施例1,2及び比較例2,3で得られた酵素液を用い、糖を製造した。
すなわち、原料として、稲わら基質(分解用リグノセルロース系バイオマス)5%を含む0.05M酢酸ナトリウム緩衝液に、実施例1又は比較例1の酵素液の量を変えて加え、45℃、72時間で糖化反応を行い、糖化液を得た。
各酵素液の量と、糖化量との関係を図4に示す。
【0117】
図4に示すように、糖を300mg/g-rice strawを得るためには、比較例2のSolka flocで培養した酵素液では約23mg必要であり、比較例3の市販の酵素の混合物では約32mg必要であったのに対し、実施例1及び2の酵素液では、約10mgの酵素液の量であればよいことが分かった。すなわち、本発明の酵素液において、リグノセルロース系バイオマスと、分解用リグノセルロース系バイオマスとが同一物質であると、酵素量が極端に少なくて済むことが確認された。
【0118】
[参考評価]発酵
評価2において、実施例1の酵素液を用いて得られた糖化液を用い発酵を行った。
酵母は、市販パン酵母を用いた。酵母をYPD液体培地(2%グルコース、2%ポリペプトン、1%酵母エキス、pH5.0)で30℃の温度条件下、好気的に前培養を行った。
次いで、上記糖化液を150rpmの速度で撹拌しながら30℃、pH5.0に調整し、上記前培養液400mLを装置に添加し、エタノール発酵を開始した。30℃、pH5.0、150rpmを維持しながら48時間発酵させたものをエタノール発酵液とした。
【0119】
発酵液中のエタノール濃度は、4.61%(v/v)であった。これは、本発酵液中に110.6mL相当の純粋なエタノールが発酵液中に含まれる計算になる。すなわち、発酵阻害を受けることなく、エタノール生産を行うことができた。
【符号の説明】
【0120】
S1・・・裁断工程
S2・・・粉砕工程
S3・・・酵素生産工程
S4・・・糖製造工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグノセルロース系バイオマスを最大径が2mm以下となるように裁断してバイオマス粒子とする裁断工程と、
該バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、前記混合液をスラリー状の炭素源とする粉砕工程と、
前記炭素源、培養培地及び多糖分解酵素生産菌株を混合し、培養することにより、酵素液を得る酵素生産工程と、
を備えることを特徴とする酵素液の製造方法。
【請求項2】
前記混合液が、前記バイオマス粒子を解繊するための解繊物質を更に含有することを特徴とする請求項1記載の酵素液の製造方法。
【請求項3】
前記炭素源の繊維長が100μm以下であることを特徴とする請求項1記載の酵素液の製造方法。
【請求項4】
前記炭素源の結晶化度が15〜55%であることを特徴とする請求項1記載の酵素液の製造方法。
【請求項5】
前記酵素生産工程において、前記炭素源、前記培養培地及び前記多糖分解酵素生産菌株に加え、乳糖を含む乳清が更に含まれていることを特徴とする請求項1記載の酵素液の製造方法。
【請求項6】
前記多糖分解酵素生産菌株が、アクレモニウム属、トリコデルマ属、アスペルギルス属又はペニシリウム属に属するものであることを特徴とする請求項1記載の酵素液の製造方法。
【請求項7】
前記酵素液が多糖類から単糖類への加水分解に用いられることを特徴とする請求項1記載の酵素液の製造方法。
【請求項8】
家畜用飼料として用いられ、
前記酵素生産工程において、前記培養を途中で停止することにより、前記炭素源と前記多糖分解酵素生産菌株とを残存させた酵素液を得ることを特徴とする酵素液の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の酵素液の製造方法により得られる酵素液と、分解用リグノセルロース系バイオマスとを混合し、該分解用リグノセルロース系バイオマスを加水分解して糖とすることを特徴とする糖の製造方法。
【請求項10】
前記リグノセルロース系バイオマスと、前記分解用リグノセルロース系バイオマスとが同一物質であることを特徴とする請求項9記載の糖の製造方法。
【請求項11】
前記分解用リグノセルロース系バイオマスが、
最大径が2mm以下となるように裁断して分解用バイオマス粒子とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、前記混合液をスラリー状としたものであることを特徴とする請求項9記載の糖の製造方法。
【請求項12】
前記分解用リグノセルロース系バイオマスが、
最大径が2mm以下となるように裁断して分解用バイオマス粒子とし、該分解用バイオマス粒子及び水を固形分率が0.1〜20質量%となるように混合して混合液とし、温度100〜150℃の条件下で水熱処理をし、温度0〜50℃の条件下で連続的に粉砕し、前記混合液をスラリー状としたものであることを特徴とする請求項9記載の糖の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−51308(P2010−51308A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155326(P2009−155326)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 第60回 日本生物工学会大会 社団法人日本生物工学会 平成20年8月27、28、29日
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】