説明

酸化チタン皮膜材の製造方法及び酸化チタン皮膜材

【課題】チタン粉体の飛散を防止できると共に容易に且つ安全に製造できる酸化チタン皮膜材の製造方法及び酸化チタン皮膜材を提供する。
【解決手段】本発明にかかる酸化チタン皮膜材の製造方法は、チタン又はチタン合金からなるシート状の基材3の表面に粒状の投射材5を投射する。投射材5の衝突エネルギーにより基材表面のチタンが塑性変形摩擦熱で加熱されて活性化し、大気中の酸素と酸化反応を起こし、基材表面に酸化チタン層を生成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に酸化チタン層を生成した酸化チタン皮膜材の製造方法及び酸化チタン皮膜材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋼材又はセラミックスからなる基材の表面にチタン又はチタン合金の粉体をエアーブラストにより噴射して基材表面に酸化チタンをコーティングする技術が開示されている。
【0003】
この特許文献1の技術では、チタン粉末を基材に衝突させることにより、衝突時の熱でチタン粉体を大気中の酸素で酸化させると共にチタン粉体を基材に活性化吸着させることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−61314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術においては、チタン粉体を基材に吹き付けるときに基材に吸着しなかった多量のチタン粉体が飛散してしまうという問題がある。このため、高価なチタン粉末の無駄が多く、効率に劣る。
【0006】
特に、エアーブラストによりチタン又はチタン合金の粉体を基材表面に噴き付けると、チタン又はチタン合金が基材表面に衝突したときに発生する熱エネルギーにより発火のおそれがあると共に甚だしい場合は爆発の危険がある。
【0007】
そこで、本発明は、チタン粉体の飛散を防止できると共に容易に且つ安全に製造できる酸化チタン皮膜材の製造方法及び酸化チタン皮膜材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する為に、請求項1に記載された発明は、チタン又はチタン合金からなる基材の表面に粒状の投射材を投射して、基材表面に酸化チタン層を生成することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、投射材は、セラミックス、金属又は樹脂材であることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載の発明において、投射材は、ガラスビーズであることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、基材はシート状であり、基材シートの両面又は片面に各々投射材を投射して酸化チタン層を生成することを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載された発明は、請求項4に記載の発明において、基材は、0.05mm乃至3mmの厚みであることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載された発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法により製造したことを特徴とする酸化チタン皮膜材である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、チタン又はチタン合金からなる基材に粒状の投射材を投射すると、投射材の衝突エネルギーにより基材表面のチタンが塑性変形摩擦熱で加熱されて活性化し、大気中の酸素と酸化反応を起こし酸化する。これにより、基材表面には二酸化チタン層が形成される。
【0015】
本発明によれば、投射材は、チタン基材の表面に衝突するだけであるから、硬質材であれば、その材質は何でもよく、例えば、ガラスビーズや鉄球等の安全で安価なものを使用できるので、安価に製造できる。
【0016】
投射材にチタン又はチタン合金を用いていないので、飛散しても無駄にならない。
【0017】
投射材としてチタン又はチタン合金等の不安定な金属を用いないで済むので、発火や爆発のおそれがなく、安全に製造できる。
【0018】
投射材は、基材との衝突エネルギーにより基材表面に熱を発生させる為、所定の質量を有する粒状としてあるから、衝突後は落下したものを回収すれば、循環して投射が連続して行える。
【0019】
製造した酸化チタン皮膜材では、基材表面のチタンが酸化されて酸化チタン層を生成して、基材に酸化チタン層を一体に生成するから、基材の線膨張や衝撃等によるチタンの剥離が生じない。
【0020】
製造した酸化チタン皮膜材は、投射材の衝突により、基材表面に凹凸が形成されるので、二酸化チタン層の表面積を大きく取ることができ、二酸化チタンの触媒機能を高めることができる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の作用効果を奏すると共に、投射材として所定の質量及び硬さを有し、熱に安定で且つ汎用性の高いものを使用できるので、取り扱い易く且つ安価に製造できる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、請求項2に記載の効果を奏すると共に、ガラスビーズは安価で熱に安定であると共に取り扱い易いことから特に好ましく用いることができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の作用効果を奏すると共に、シート状の基材の両面又は片面に酸化チタン層を形成できると共に投射材を基材シートの両面に吹き付けて両面に凹凸を形成するので、酸化チタン層の表面積を更に大きくすることができる。
【0024】
また、基材シートの両面に投射材を同時に反対位置に投射すれば、一方の投射材の投射が他方の投射材の投射に対して基材を支持することができ、基材シートの支持機構を簡易にでき、更に、シートの熱変形を防止し出来る。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の作用効果を奏すると共に、投射材を投射したときに基材シートの両面に深い凹凸を形成でき、酸化チタン層の表面積を更に大きくすることができる。
【0026】
基材3の厚みを3mm以下としているのは、チタン又はチタン合金は高価であり、3mmより厚くしても効果に変わりがないからである。0.05mm以上としているのは、これよりも薄いと投射材の投射圧によっては破れる場合があり投射圧の設定がし難くなるからである。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、請求項1〜5のいずれか一項に記載の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の酸化チタン皮膜材の製造方法を行う装置の概略構成図であり、(a)は平面図であり、(b)は正面図であり、図2は本発明の製造方法による基材表面での作用を説明する断面図であり、図3は本発明に係る酸化チタン皮膜材を用いた空気清浄器の断面図である。
【0029】
本発明の実施の形態に係る酸化チタン皮膜材1(図3)の製造方法は、チタン又はチタン合金からなる基材3の表面に粒状の投射材5を投射して、基材3の表面に酸化チタン層6を形成するものである(図2参照)。
【0030】
基材3は、純チタン1種(JIS)が好ましいが、チタン合金であっても良い。
【0031】
基材3は、シート材としてあり、図1に示すように、ローラ7、7で挟持しつつ搬送し、搬送途中で基材3を挟むように基材3の両側に各々設けたノズル9、9から投射材5を投射する。ノズル9は、噴射装置11に接続されており、噴射装置11から投射材5を所定の投射圧で噴射するようになっている。尚、本実施の形態では、ノズル9は上下に移動して基材3の左右方向の移動と併せて、基材3の両側表面全体に亘って投射する。
【0032】
基材3は、シート状の場合には、0.05mm乃至3mmが好ましい。基材シートの厚みが0.05mmより薄いと投射材の投射圧によっては破れる場合があり投射圧の設定がし難くなる。
【0033】
投射材5は、硬質材であれば特に材質は制限されないが、投射材として所定の質量及び硬さを有し、熱に安定で且つ汎用性の高いものを使用でき、取り扱い易く且つ安価に入手できることから、セラミックス、金属又は樹脂の粒が好ましい。具体的には、ガラスビーズ、ジルコニア、アルミナ、鉄、ナイロン樹脂、ポリカーボネート、メラミン樹脂、ユリア樹脂等の粒が使用できる。
【0034】
投射材5の粒径は、30μm乃至500μmが好ましい。30μmよりも小さいと所定の衝突エネルギーによる熱が得難い。
【0035】
500μmより大きいと噴射装置で取扱い難く、また、基材表面の凹凸が大きくなりすぎて酸化チタン皮膜材の加工がし難くなるおそれがある。
【0036】
本実施の形態によれば、図2に示すように、チタン金属製の基材3の表面に投射材5が投射されると、投射材5は、基材3の表面に衝突してその衝突エネルギーにより基材表面が塑性変形摩擦で発熱し、チタンが熱により活性化して二酸化チタン層6を形成する。同時にシート状の基材3の投射面には細かい凹凸が形成されるので、表面積が大きくなる。尚、二酸化チタン層6よりも深い位置には、酸素リッチ層(TiO)6aが形成される。
【0037】
本実施の形態で得た酸化チタン皮膜材1を、更に、200℃乃至500℃でホットプレス成型すれば、熱により基材表面の酸化が促進して、二酸化チタン層6を更に厚くできると共に、熱ストレスを加えることにより熱(ホットプレス成型温度以下の熱)による成形品の変形を防止できる。
【0038】
以下に、本実施の形態に係る酸化チタン皮膜材を製造し、各種の試験を行ったので、その実施例と試験の結果とを説明する。
【0039】
(実施例)厚みが0.1mmの純チタン板(150mm×120mm)の基材3に乾式ブラスト装置(株式会社フジキカイ製:FD−5)を用いて投射圧0.5MPでノズル9の噴射口と基材表面との距離を10cmに保って、ノズル9から投射材5を投射した(図4参照)。ノズル9は図4中に矢印で示すように、上下左右に移動して、表面全体に亘って投射材5を投射した。投射材5には、平均粒径60μmのガラスビーズを用い、投射圧0.5MPで基材3の両表面に片面ずつ各々15秒間投射した。
【0040】
(試験例1)実施例で得られた酸化チタン皮膜材1の還元力試験(還元電位を測定する試験)を行ったのでその結果を説明する。還元力試験は、水道水200ccを容器に入れたものを2個用意し、そのうちの一方に実施例品を投入し、他方をブランクとした。そして、実施例品を投入したものと、ブランクとについて、各々経過時間毎に水の電気伝導度(還元電位)を測定した。その結果を図5に示す。尚、図5において、縦軸は測定電位mvであり、中性の水は約300mvである。測定器は、株式会社佐藤商事製のORP−203を使用し、蛍光灯下2mで測定した。
【0041】
図5から明らかなように、測定開始から約60分程度で安定し、その後水道水の塩素(カルキ)が抜けていく為測定電位が次第に低下していくが、実施例品を投入したものにおいては、ブランクの傾斜Bよりも大きな傾斜(勾配)Aで電位が低下(酸性から中性化)している。したがって、本実施例品の形態に係る酸化チタン皮膜材は、還元力を示すことが明らかである。
【0042】
(試験例2)上記実施例で得られた酸化チタン皮膜材1について、空気浄化試験(たばこの煙の清浄化試験)を行った。空気浄化試験は、46L(リットル)の密封したアクリル容器に入れ、たばこの煙を約200cc容器内に注入したものを2つ用意し、一方に実施例品を入れ、他方はブランクとした。そして、実施例品を投入したものと、ブランクとについて、経過時間毎に容器内のガス濃度を暗所下で測定した。その結果を図6に示す。尚、図6において、縦軸は容器内の電圧mvであり、たばこの煙の濃度が高い程電圧が高くなる。測定器は、神栄株式会社製のOMX−LRを使用した。
【0043】
図6から明らかなように、ブランクでは測定開始直後からたばこの煙の濃度が次第に上昇した後、約60分経過後はほとんど変わらないが、実施例品は測定開始直後からたばこの煙の濃度(容器内の電圧)が次第に低下した。したがって、本実施例品の形態に係る酸化チタン皮膜材は、空気清浄化作用を示すことが明らかである。
【0044】
(試験例3)
実施例で得られた酸化チタン皮膜材1について、油の酸価度試験を行った。酸価度試験は、町の弁当屋のサラダ油槽(18リットル)に実施例の酸化チタン皮膜材1を10枚浸漬して、通常の業務における揚げ物を行ったときのサラダ油の酸価度を測定した(機能材10枚入り)。また、比較の為、サラダ油槽に酸化チタン皮膜材を入れないものについてもサラダ油の酸価度を測定した(機能材無し)。その結果を下記表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
一般に、油揚げ業務を行う弁当店等では、サラダ油の酸価度が3を超えたら油を交換するが、機能材なしの場合には8日目で酸価度が3になって9日目でサラダ油の交換を必要とした。これに対して、機能材入りの場合には、14日目になっても酸価度が2でサラダ油の交換を必要とせず、サラダ油の品質寿命を延命できた。同様に、本実施例品によれば、潤滑油等の油についても品質寿命の延命を図ることができる。
【0047】
(試験例4)次に、実施例品について、水質浄化試験を行ったので、その結果についても説明する。
【0048】
汚染された河川水3リットルを入れたもの2槽を用意し、一方に実施例品の酸化チタン皮膜材180cm2を1枚入れた。2つの水槽(機能材一枚入りと、機能材なし)について14日間放置後の水質検査を行ったので、その結果を下記表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
表2から明らかなように、実施例に係る酸化チタン皮膜材は水中の窒素や有機物濃度を著しく低減できたと共に一般細菌数も少なくできたので、水質浄化作用に優れることが明らかである。
【0051】
(試験例5)実施例品180cm2のシート10枚を自動車のガソリンタンクに入れ、走行に使用したガソリンの消費量を測定する自動車の燃費テストを行った(機能材あり)。尚、比較の為、実施例品をガソリンタンクに入れないものについても同じ条件で試験を行った(機能材無し)。その結果を下記表3に示す。
【0052】
測定に用いた車は、スズキアルト、初年度登録が平成12年11月27日、形式GF−HA12S、原動機の形式F6A、車体番号HA12S−694235であった。走行はほとんど傾斜のない一般道11Kmを10往復行い合計220Km走行した。尚、途中に信号機はない。
【0053】
【表3】

【0054】
この表3から明らかなように、機能材なしの場合にはガソリンの平均使用量は22.45リットルであったが、機能材ありの場合にはガソリンの平均使用量は18.75リットルで、これらの平均値を比較すると燃費向上率は約19.7%であった。
【0055】
すなわち、本実施例品に係る酸化チタン皮膜材によれば、ガソリンの燃費向上を図ることができた。同様に、石油や軽油、灯油、重油等の燃料に、本実施例の酸化チタン皮膜材を浸漬すれば、これらの燃費向上も図ることができる。
【0056】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0057】
例えば、実施例品は、丸めたり、細かく刻んだり、短冊状にして用いるものであってもよく。使用時における形状や寸法は限定されない。また、円盤状にして靴に入れて消臭するものや通気性容器に入れて冷蔵庫等に入れて使用するものであっても良い。
【0058】
また、シート状基材3の両面に投射材5を投射することに限らず、片面のみに投射材5を投射して、片面のみに酸化チタン層を生成するものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の酸化チタン皮膜材の製造方法を行う装置の概略構成図であり、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。
【図2】本発明の製造方法による基材表面での作用を説明する断面図である。
【図3】本発明に係る酸化チタン皮膜材の使用例を示す断面図である。
【図4】実施例品の製造方法を説明する斜視図である。
【図5】実施例品に係る酸化チタン皮膜材の経過時間毎の還元電位を示したグラフである。
【図6】実施例品に係る酸化チタン皮膜材の空気清浄試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 酸化チタン皮膜材
3 基材
5 投射材
9 投射ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金からなる基材の表面に粒状の投射材を投射して、基材表面に酸化チタン層を生成することを特徴とする酸化チタン皮膜材の製造方法。
【請求項2】
投射材は、セラミックス、金属又は樹脂材であることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン皮膜材の製造方法。
【請求項3】
投射材は、ガラスビーズであることを特徴とする請求項2に記載の酸化チタン皮膜材の製造方法。
【請求項4】
基材はシート状であり、基材シートの両面又は片面に各々投射材を投射して酸化チタン層を形成することを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン皮膜材の製造方法。
【請求項5】
基材は、0.05mm乃至3mmの厚みであることを特徴とする請求項4に記載の酸化チタン皮膜材の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の製造方法により製造したことを特徴とする酸化チタン皮膜材。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−313444(P2007−313444A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146516(P2006−146516)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(503371007)
【出願人】(306020483)
【Fターム(参考)】