説明

酸化マグネシウム膜並びに該酸化マグネシウム膜を備えたプラズマディスプレイパネル

【課題】 広い温度範囲で放電応答性の変化の少ない優れた酸化マグネシウム膜を提供する。また、この酸化マグネシウム膜を用いて、パネルの“ちらつき”が減少し、輝度とコントラストの向上したプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】 酸化マグネシウム膜は、FセンターとFセンターとの合計数から求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜2.0×1017個/cmである。酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターとFsセンターとの合計数から求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜1.0×1017個/cmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム膜とこの酸化マグネシウム膜を保護膜として備えたプラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、PDPは、カラー画面の実用化を機にテレビジョン映像やコンピュータのモニターなどの用途で広く用いられるようになってきた。このような面放電形式のAC型PDPにあっては、ガラス基板からなる前面板の画面横方向に、サステイン電極とスキャン電極とが対をなして平行に配置されており、背面板の画面縦方向には、アドレス電極が配置された構造となっている。この縦横電極が交わる電極対の効果が及ぶ領域は、一般に、セルと呼ばれている。
【0003】
このサステイン電極及びスキャン電極には、誘電体層(例えば、低融点ガラス)が被覆され保護されている。そして、誘電体層の表面には、放電時の放電ガスによるイオン衝撃を低減するため耐スパッタ性の高い保護膜が設けられている。
このような保護膜に求められる特性は、(1)低い放電電圧(2)放電時の耐スパッタリング性、高い光透過性、(3)速い放電の応答性、及び(4)絶縁性である。一般に、このような保護膜材料として酸化マグネシウムが用いられる。酸化マグネシウムは、耐スパッタ性に優れかつ二次電子放出係数の大きい絶縁物である。
【0004】
しかし、酸化マグネシウムを保護膜として用いた場合、従来においては、“黒ノイズ”と呼称される表示の乱れを生じる問題があった。“黒ノイズ”とは、点灯すべきセル(選択セル)が点灯しないパネル表示の乱れ現象であり、画面のうちの点灯領域と非点灯領域との境界で生じやすいことが知られている。この乱れ現象は、1つのライン又は1つの列における複数の選択セルの全てが点灯しないというものではなく、発生部位が点在することから、黒ノイズの原因は、アドレス(書き込み)放電が生じないか又は生じてもその強度が足りないアドレスミスであると考えられている。
【0005】
この“黒ノイズ”の問題を解決する方策として、ケイ素を500〜10000質量ppmの範囲内の割合で含んだ酸化マグネシウム膜を設けたPDPが提案され、この酸化マグネシウム膜を形成するために、ペレット状の酸化マグネシウムとペレット状又はパウダ状の不純物化合物とを混合した材料をターゲットとしている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、一般的に、マトリクス表示方式のAC型PDPの駆動に関しては、表示素子であるセルの点灯状態の維持(サステイン)には、メモリ効果が利用されている。表示に際しては、先ず、ある画像のサステインの終了から次の画像のアドレッシング(書込み)までの間に、画面全体の壁電荷の消去及びリセットを行う。
次に、点灯(発光)すべきセルのみにさらに壁電荷を蓄積させるライン順次のアドレッシング(書込み)を行う。
その後に、全てのセルに対して一斉に、交番極性の放電開始電圧より低い電圧(サステイン電圧)を印加する。この時、壁電荷の存在するセルでは、壁電圧がサステイン電圧に重畳するので、セルに加わる実効電圧が放電開始電圧を越えて、放電が生じる。サステイン電圧の印加周波数を高くすることで、見かけ上連続的な点灯状態を得ている。
【0007】
上記アドレッシング(書込み)では、背面板のアドレス電極と前面板のスキャン電極と間で書込み放電を行うことにより、壁電荷の蓄積が行われる。そこで、パネルの安定駆動を考えた場合、パネル温度を感知しながら駆動電圧を逐次制御することは極めて難しいため、PDPにはパネルの保証温度範囲内で常に一定の放電応答性を備えていることが望ましい。
【特許文献1】特許第3247632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に係るPDPにあっては、画質の評価は行っているが、評価時の温度条件については特に触れておらず、室温付近の条件で評価したと考えられ、放電応答性と温度との関係は不明であった。
そこで、本発明者らは、PDPの保証温度範囲である−15〜90℃の広い温度範囲にわたり放電応答性を評価したところ、放電応答性には温度依存性があることを突き止めた。
【0009】
具体的には、ある温度での放電応答時間が閾値を越えると、書込み放電不良を生じてパネルが“ちらつく”という問題を見出した。また、放電応答性が悪い場合、アドレス期間を長くする必要があり、その結果サステイン期間が短くなり、充分なパネルの輝度を得られない問題や、消去放電時の暗輝度が高くなり、コントラストが低下するという問題を見出した。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、広い温度範囲で放電応答性の変化の少ない優れた酸化マグネシウム膜を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、この酸化マグネシウム膜を用いて、パネルの“ちらつき”が減少し、輝度とコントラストの向上したプラズマディスプレイパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、FセンターとFセンターとの合計数から求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜2.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜である。
【0013】
請求項2にかかる発明は、Fセンターから求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜である。
【0014】
請求項3にかかる発明は、Fセンターから求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜である。
【0015】
請求項4にかかる発明は、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターとFsセンターとの合計数から求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜である。
【0016】
請求項5にかかる発明は、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜5.0×1016個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜である。
【0017】
請求項6にかかる発明は、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量が、5.0×1015〜5.0×1016個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜である。
【0018】
請求項7にかかる発明は、−15〜90℃におけるプラズマディスプレイパネルの放電応答時間の変化度が、1.1〜100であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム膜である。
【0019】
請求項8にかかる発明は、誘電体層上に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の前記酸化マグネシウム膜を備えたことを特徴とするプラズマディスプレイパネルである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酸化マグネシウム膜は、膜中において電子放出サイトとして機能すると考えられる酸素欠損部の存在量(酸素欠損量)が少ないことにより、電子放出能が温度により変化することが少ないため、PDPの放電応答時間に影響を与えず、広い温度範囲で放電応答性の変化の少ない優れた膜となる。
【0021】
また、本発明の酸化マグネシウム膜が設けられたプラズマディスプレイパネルは、膜中の酸素欠損量が少ないため、広い温度範囲での放電応答性の変化を少なくすることができる。そして、広い温度範囲で放電応答時間が閾値を越えることがなく、書込み放電不良が減少して、パネルの“ちらつき”を広い温度範囲で減少できる。
また、放電応答性に優れていることにより、アドレス期間を短縮しサステイン期間を延長することができ、充分なパネル輝度を得ることができる。
また、放電応答性に優れていることにより、消去放電時の暗輝度が低下し、コントラストを向上することができる。
また、アドレス期間を短縮できるため、パネルのドライバーIC(アドレスIC)が削減し、結果としてモジュールコストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[酸化マグネシウム膜]
本発明の酸化マグネシウム膜にあっては、FセンターとFセンターとの合計数から求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜2.0×1017個/cmであり、好ましくは5.0×1015〜1.2×1017個/cmである。
また、本発明の酸化マグネシウム膜にあっては、Fセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであり、好ましくは5.0×1015〜8.0×1016個/cmである。
また、Fセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであり、好ましくは5.0×1015〜9.5×1016個/cmであり、より好ましくは5.0×1015〜8.0×1016個/cmである。
【0023】
ここで、「Fセンター」とは、酸化マグネシウム膜中の酸素欠損部に電子が2個捕獲された電子トラップをいい、「Fセンター」とは、電子が1個捕獲された電子トラップをいう。なお、電子が捕獲されていない(捕獲数が0個)酸素欠損部は、「F++センター」という。
したがって、理論的には、酸化マグネシウム膜中の真の酸素欠損量について、
真の酸素欠損量=Fセンター量 + Fセンター量 + F++センター量で表されることになる。
【0024】
センターは常磁性であるため、電子スピン共鳴法(以下、「ESR」という。)で測定することができるが、Fセンターは非磁性であるため、通常はESR不活性である。
ところが、酸化マグネシウム膜を極低温にして、紫外線を照射すると、Fセンターが励起して、Fセンターに変換する。したがって、紫外線照射前のESRシグナルからFセンターの濃度(Fセンター量)を、紫外線照射後のシグナルからFセンターの濃度(Fセンター量)を、各々求めることができる。
【0025】
この酸化マグネシウム膜への紫外線の照射は、市販の紫外線照射装置を用いることができる。紫外線の強度は50〜200μW/cmで、照射時間は30〜60分が好ましい。
【0026】
なお、F++センターには電子が存在しないため、ESRにより測定することはできず、また、紫外線を照射させてもESRで検出することはできない。したがって、F++センターの濃度を測定できないため、真の酸素欠損量を正確に測定することはできない。
そこで、本発明においては、FセンターとFセンターとの合計数から求められる酸素欠損量と、Fセンター又はFセンターの各々から求められる酸素欠損量を用いて、膜中の酸素欠損量を規定することとした。
【0027】
酸化マグネシウム膜中のFセンターとFセンターとの合計数から求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜2.0×1017個/cmであり、5.0×1015〜1.2×1017個/cmであるのが好ましい。この値が、5.0×1015個/cm未満であるとESRで検出することができないからであり、一方、2.0×1017個/cmを超えると膜中の酸素欠損量が多くなり過ぎるため、PDPの放電応答時間の変化度の温度依存性を減少できないからである。
なお、放電応答時間の変化度とは、規定温度範囲内での「最大応答時間/最小応答時間」で規格化した値をいう。
【0028】
また、酸化マグネシウム膜中のFセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであり、5.0×1015〜8.0×1016個/cmであるのが好ましい。また、酸化マグネシウム膜中のFセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであり、5.0×1015〜9.5×1016個/cmであるのが好ましく、5.0×1015〜8.0×1016個/cmであるのがより好ましい。これらの値が、5.0×1015個/cm未満であるとESRで検出することができないからであり、一方、1.0×1017個/cmを超えると膜中の酸素欠損量が多くなり過ぎるため、PDPの放電応答時間の変化度の温度依存性を減少できないからである。
【0029】
酸化マグネシウム膜中の酸素欠損部は、絶縁体のバンドギャップ内に価電子帯よりも電子エネルギーの高い準位(酸素欠損準位)を形成し、化学的にはドナーとして、かつ物理的には電子放出を行うサイトとして機能していると考えられる。この酸素欠損部と、PDPの放電空間内に残存するOやNO等のアクセプターガスとの間の相互作用(吸着)は、低温になるに従い強くなるため、低温になると酸素欠損部に存在する電子放出サイトがブロックされて電子放出能が低下することになる。これにより、PDPの放電応答時間が遅くなる。その結果、この酸素欠損量が多い膜ほど、広い温度範囲内での放電応答時間の変化度が大きくなると考えられる。
【0030】
あるいは、PDPの放電応答にはFセンターのみが中心的役割を果たしており、かつ酸素欠損部と残存ガスとの相互作用を考慮しない場合であっても、Fセンターの熱的安定性は0℃近傍で大きく変化し、高温になるほど一般的にそれは安定化することが知られているため(V. M. Orera,Y. Chen,Phys. Rev. B36,6120(1987))、酸素欠損量(特に、Fセンターの存在確率)が温度により急激に変化すると、放電応答時間の変化度の温度依存性も同様に変化すると考えられる。その結果、酸素欠損量が多い膜では、広い温度範囲内での放電応答時間の変化度が大きくなる。
【0031】
これらのことから、酸化マグネシウム膜中の酸素欠損量とPDPの放電応答時間の変化度の温度依存性には相関があることがわかる。酸化マグネシウム膜中の酸素欠損量が少ないと、PDPの放電応答時間の変化度の温度依存性が改善される。
【0032】
本発明の酸化マグネシウム膜にあっては、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターとFsセンターとの合計数から求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであり、好ましくは5.0×1015〜8.0×1016個/cmである。
また、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜5.0×1016個/cmであり、好ましくは5.0×1015〜4.0×1016個/cmである。
また、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜5.0×1016個/cmであり、好ましくは5.0×1015〜4.5×1016個/cmであり、より好ましくは5.0×1015〜4.0×1016個/cmである。
【0033】
ここで、酸化マグネシウム膜表面とは、255.5nmの紫外線を強度(I)100μW/cmで30分照射することにより、Fsセンターが励起されて、Fsセンターに変換した膜表面の厚さを意味する。
【0034】
酸化マグネシウム膜をESRで測定すると、紫外線照射前後とも、g=2.0024とg=2.0003に二種類のシグナルが観察される。この二種類のシグナルを合計して求めた濃度が、膜全体でのFセンターの濃度(紫外線照射前)またはFセンターの濃度(紫外線照射後)になる。このうち、g=2.003のシグナルは、g値が酸化マグネシウム単結晶表面に存在するFセンターの値と一致することから、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターと同定することができる。したがって、g=2.003のシグナルのみから、膜表面に存在するFsセンターの濃度(紫外線照射前)またはFsセンターの濃度(紫外線照射後)を求めることができる。
【0035】
本発明の酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターとFsセンターとの合計数から求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜1.0×1017個/cmであり、5.0×1015〜8.0×1016個/cmであるのが好ましい。この値が、5.0×1015個/cm未満であるとESRで検出することができないからであり、一方、1.0×1017個/cmを超えると膜表面に存在する酸素欠損量が多くなり過ぎるため、PDPの放電応答時間の変化度の温度依存性を減少できないからである。
【0036】
また、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜5.0×1016個/cmであり、5.0×1015〜4.0×1016個/cmであるのが好ましい。また、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量は、5.0×1015〜5.0×1016個/cmであり、5.0×1015〜4.5×1016個/cmであるのが好ましく、5.0×1015〜4.0×1016個/cmであるのがより好ましい。これらの値が、5.0×1015個/cm未満であるとESRで検出することができないからであり、一方、5.0×1016個/cmを超えると膜表面に存在する酸素欠損量が多くなり過ぎるため、PDPの放電応答時間の変化度の温度依存性を減少できないからである。
【0037】
また、本発明の酸化マグネシウム膜にあっては、PDPの保証温度範囲にあたる−15〜90℃において、PDPの放電応答時間の変化度が1.1〜100であることが好ましく、2〜90であることがより好ましい。−15〜90℃の範囲内でのPDPの放電応答時間の変化度が1.1未満であると、酸化マグネシウム膜を作製することが困難となるからであり、一方、100を超えると放電応答時間が閾値を越えて、パネルの“ちらつき”を発生し、輝度・コントラストが低下するからである。
【0038】
また、酸化マグネシウム膜の厚さは0.5〜1.5μmであるのが好ましく、0.7〜1.2μmであるのがより好ましい。膜厚が0.5μm未満であると、薄すぎて保護膜としての機能が不充分でPDPの寿命が不充分となるからであり、一方、1.5μmを超えると、成膜時間が長くかかりすぎるからである。
この酸化マグネシウム膜の結晶配向は、(111)面単一もしくは(111)面優先配向であるのが好ましい。(111)面への配向量が極端に減少すると、PDPの放電応答性が低下するからである。
【0039】
本発明において、酸化マグネシウム膜の酸素欠損量を低減するには、(1)成膜時の成膜装置への酸素導入量を増やす、(2)成膜時の電子ビーム出力を下げ、るつぼからの輻射熱を抑えて成膜時の基板温度上昇を抑えることで、膜中へ効率的に酸素を取込む、(3)成膜時の成膜装置へ酸素源として、より酸化能力の高い水蒸気を導入する等の方法を用いることができる。
【0040】
[PDP]
本発明のPDPは、誘電体層上に、上記本発明の酸化マグネシウム膜を備えた構成からなる。本発明のPDPにあっては、基本的に、ガラス基板からなる前面板の片面にITO等のサステイン電極とスキャン電極とが設けられ、その上に透明な低融点ガラス等からなる誘電体層が設けられ、さらにその上に保護膜としての酸化マグネシウム膜が設けられている。
【0041】
次に、本発明の酸化マグネシウム膜の製造方法について説明する。本発明の酸化マグネシウム膜は、多結晶酸化マグネシウム蒸着材をターゲットとして、電子ビーム蒸着法またはイオンプレーティング法により形成することができる。単結晶の酸化マグネシウムの変わりに多結晶の酸化マグネシウム蒸着材を用いることにより、蒸着材の飛散(スプラッシュ)を防止し蒸着効率を向上させると共に、大面積の誘電体層上に酸化マグネシウム膜を均一の厚さに成膜することができる。また、電子ビーム蒸着法によれば、大面積の基板上に均一の膜厚で成膜することができる。
【0042】
次に、この電子ビーム蒸着法を用いた場合を具体的に説明する。
電子ビーム蒸着装置の底部に位置する“るつぼ”に、多結晶酸化マグネシウム蒸着材を充填し、その上方400〜800mmの位置に、PDPの前面板となるガラス基板を配置する。このガラス基板の“るつぼ”に対向した面には、すでに誘電体層等が設けられている。蒸着装置の成膜室を1.0×10−4〜1.0×10−5Paまで排気した後、酸素ガス分圧1.0×10−2〜6.0×10−2Pa、水蒸気分圧1.0×10−3Pa以下、電子ビーム出力500〜1500W、蒸着圧力1.0×10−2〜6.0×10−2Pa、基板設定温度150〜300℃、成膜速度0.5〜15nm/秒で成膜を行う。
【0043】
また、ESRの測定は、市販のESR装置を用い、中心磁場337mT、周波数9.46GHzで温度20Kで行う。検出限界は5.0×1015個/cmである。
非磁性なFセンターの濃度を測定するには、まず元々のFセンターの濃度を20Kにて測定後、同じく20Kにて上述した紫外線を照射した後、ESRの測定を行う。この紫外線により励起されたFセンターの濃度を、Fセンターの濃度とする。したがって、紫外線照射前のESRシグナルからFセンターの濃度(Fセンター量)を、紫外線照射後のシグナルからFセンターの濃度(Fセンター量)を、各々求める。この濃度が酸素欠損量に相当する。
さらに、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターについては、紫外線照射前のg=2.003のシグナルからその濃度を求める。また、酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターについては、紫外線照射後のg=2.003のシグナルから求めることができる。
【0044】
本発明においては、酸化マグネシウム膜の酸素欠損量が少なくなるよう成膜することで、電子放出能が温度により変化することが少なくなり、PDPの放電応答時間に影響を与えず、広い温度範囲で放電応答性の変化の少ない優れた酸化マグネシウム膜が得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0046】
[実施例1]
〈酸化マグネシウム膜の作製〉
多結晶酸化マグネシウム蒸着材の作製は、特開平10−297956号公報の作製方法に従った。焼結により得られた純度99.98%、密度98%の多結晶酸化マグネシウム蒸着材を用い、電子ビーム蒸着装置により、膜厚が1μmで、(111)結晶配向性の酸化マグネシウム膜を形成させた。電子ビーム蒸着装置の底部に位置する“るつぼ”に、多結晶酸化マグネシウム蒸着材を充填し、その上方にPDPの前面板を配置した。成膜条件については、到達真空度を1.0×10−4Pa、酸素ガス分圧を3.0×10−2Pa、水蒸気分圧を1.0×10−4Pa未満、電子ビーム出力を900W、蒸着圧力を3.0×10−2Pa、基板設定温度を200℃、成膜速度を1.5nm/秒とした。
【0047】
〈放電応答性の評価〉
放電応答性を評価するため、まずPDPのテスト基板を作製した。リブ高さは150μm、リブピッチは360μmとし、放電ガスには4体積%のキセノンガスと残部ネオンガスを用いて、放電ガス圧6.7×10Pa(500Torr)で内部に封入した。
上記PDPテスト基板を用いて、擬似的なアドレス放電試験として2枚のガラス板間の対向放電試験を行った。試験は、PDPの保証温度範囲にあたる温度−15〜90℃の範囲でパネルの温度を変化させて、印加電圧を200V、周波数を1kHzの条件で行った。その際、放電により放出される近赤外線を光電子増倍管を用いて検知し、近赤外線が検出されなくなった時点を発光の終了として、電圧印加時から最も遅い発光終了時までの発光時間を測定した。統計的なバラツキを評価するため、ある一定の測定温度に対し3000回繰り返して測定を行い、その発光ピークを重ね書きした。そして、温度−15〜90℃の範囲内での最大応答時間と最少応答時間を求め、最大応答時間を最小応答時間で除して応答時間の変化度とした。
得られた放電応答時間の変化度は75であった。
【0048】
〈ESR測定前処理〉
P型シリコン基板上に上述の方法により作製した酸化マグネシウム膜を、350℃で10分間真空脱気し、ヘリウムガスを導入してガラス管中に封管した。その後、FおよびFsセンターを測定する場合では、紫外線照射装置を用いて、255.5nmの波長の紫外線を強度100μW/cmで30分間照射した。
【0049】
〈ESRの測定〉
ESR装置は、BRUKER社製「ESP350E」を、マイクロ波周波数カウンターは、HEWLETT PACKARD社製「HP5351B」を、ガウスメターは、BRUKER社製「ER035M」を、クライオスタットは、OXFORD社製「ESR910」を用いた。
【0050】
測定条件は、
測定温度 20K
中心磁場 3371G
磁場掃引幅 150G
変調 100KHz、2.0G
マイクロ波 9.46GHz、2.5μW
掃引時間 83.886s×16time
時定数 327.68ms
データポイント 1024points
キャビティー TM110、円筒型
とした。
【0051】
Fセンター量(紫外線照射後、g=2.0024とg=2.0003のシグナル)、Fセンター量(紫外線照射前、g=2.0024とg=2.0003のシグナル)、Fsセンター量(紫外線照射後、g=2.0003のシグナル)、Fsセンター量(紫外線照射前、g=2.0003のシグナル)を求めた。
成膜条件と、放電応答時間の変化度、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を、各々表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例2]
成膜時の酸素分圧を1.0×10−2Pa、水蒸気を添加せず、電子ビーム出力を1000Wに変えた以外は実施例1と同様にして酸化マグネシウム膜とPDPテスト基板を作製した。実施例1と同様にして、放電応答時間の変化度とFセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を求めた。
成膜条件と、放電応答時間の変化度、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を、各々表1に示す。
【0054】
[実施例3]
成膜時の酸素分圧を1.0×10−2Pa、水蒸気を添加せず、電子ビーム出力を1000W、成膜速度を3.5nm/秒に変えた以外は実施例1と同様にして酸化マグネシウム膜とPDPテスト基板を作製した。実施例1と同様にして、放電応答時間の変化度とFセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を求めた。
成膜条件と、放電応答時間の変化度、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を、各々表1に示す。
【0055】
[実施例4]
成膜時の酸素分圧を1.0×10−2Pa、水蒸気分圧を1.0×10−3Paに変えた以外は実施例1と同様にして酸化マグネシウム膜とPDPテスト基板を作製した。実施例1と同様にして、放電応答時間の変化度とFセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を求めた。
成膜条件と、放電応答時間の変化度、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を、各々表1に示す。
【0056】
[比較例1]
成膜時の酸素分圧を1.0×10−2Pa、水蒸気を添加せず、それ以外は実施例1と同様にして酸化マグネシウム膜とPDPテスト基板を作製した。実施例1と同様にして、放電応答時間の変化度とFセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を求めた。
成膜条件と、放電応答時間の変化度、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を、各々表1に示す。
【0057】
[比較例2]
成膜時の酸素分圧を1.0×10−2Pa、水蒸気を添加せず、電子ビーム出力を750Wに変えた以外は実施例1と同様にして酸化マグネシウム膜とPDPテスト基板を作製した。実施例1と同様にして、放電応答時間の変化度とFセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を求めた。
成膜条件と、放電応答時間の変化度、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量を、各々表1に示す。
【0058】
実施例1〜4と比較例1、2とを比べると、実施例1〜4での放電応答時間の変化度は100以下と小さかった。それに対して、比較例1、2では、放電応答時間の変化度は100を超えていた。
また、Fセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量は、比較例1、2のそれと比べて実施例1〜4の方が概して少なかった。
【0059】
以上の結果から、実施例1〜4の酸化マグネシウム膜はFセンター量、Fセンター量、Fsセンター量、Fsセンター量が少ないため、酸化マグネシウム膜の酸素欠損量が少なく、かつ広い温度範囲で放電応答性の変化の少ない優れた膜であることが確認された。
また、実施例1〜4の酸化マグネシウム膜を用いた42インチPDPを作製して駆動させると、書込み放電不良(書込み不足や誤書込みによる書き込みエラー)によるパネルの“ちらつき”が減少し、輝度とコントラストの向上したPDPが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FセンターとFセンターとの合計数から求められる酸素欠損量が、
5.0×1015〜2.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜。
【請求項2】
Fセンターから求められる酸素欠損量が、
5.0×1015〜1.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜。
【請求項3】
センターから求められる酸素欠損量が、
5.0×1015〜1.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜。
【請求項4】
酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターとFsセンターとの合計数から求められる酸素欠損量が、
5.0×1015〜1.0×1017個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜。
【請求項5】
酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量が、
5.0×1015〜5.0×1016個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜。
【請求項6】
酸化マグネシウム膜表面に存在するFsセンターから求められる酸素欠損量が、
5.0×1015〜5.0×1016個/cmであることを特徴とする酸化マグネシウム膜。
【請求項7】
−15〜90℃におけるプラズマディスプレイパネルの放電応答時間の変化度が、
1.1〜100であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム膜。
【請求項8】
誘電体層上に、請求項1〜7のいずれか一項に記載の前記酸化マグネシウム膜を備えたことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。

【公開番号】特開2006−28005(P2006−28005A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178102(P2005−178102)
【出願日】平成17年6月17日(2005.6.17)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】