説明

酸化亜鉛系膜形成用組成物、酸化亜鉛系膜の製造方法、及び亜鉛化合物

【課題】透明性、均質性、及び導電性を有する高品質な酸化亜鉛系膜を300℃以下の低温で成膜することが可能な酸化亜鉛系膜形成用組成物を提供する。
【解決手段】必須成分として、下記一般式(1)(一般式(1)中、R1及びR2は、相互に独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す)で表される亜鉛化合物を含有する酸化亜鉛系膜形成用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の基体上に酸化亜鉛系膜を形成するための酸化亜鉛系膜形成用組成物、それを用いる酸化亜鉛系膜の製造方法、及び酸化亜鉛膜形成用組成物に好適に用いられる亜鉛化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛系膜は、透明導電膜、電極材料、半導体膜として種々の応用が検討されている。酸化亜鉛の前駆体化合物を使用して酸化亜鉛系膜を形成する方法としては、CVD法、ALD法等の前駆体化合物を気化させたガスを基体(基材)に接触させる気相プロセス;MOD法、ゾル−ゲル法等の前駆体化合物の溶液や分散液を基体に接触させる液相プロセスが報告されている。
【0003】
これらのプロセスに使用される酸化亜鉛の前駆体化合物である亜鉛化合物としては、アルコキシド、β−ジケトン錯体、有機酸金属塩、アルキル亜鉛、無機塩等がある。これらの前駆体化合物は、加熱及び/又は酸化剤による反応によって酸化亜鉛に転化される。
【0004】
例えば、特許文献1には、亜鉛化合物の粉末又は微粒子を分散させたサスペンジョンを基体表面に接触させた後、亜鉛化合物を熱分解させて酸化亜鉛に転化する酸化亜鉛薄膜の製造方法が開示されている。なお、亜鉛化合物としては、酢酸亜鉛、亜鉛のアセチルアセトナート塩、蓚酸亜鉛、乳酸亜鉛が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、大気圧又は大気圧近傍の圧力下においてプラズマ状態とした有機金属化合物ガスを基体に接触させて、透明導電膜を形成する方法が開示されている。特許文献2には、透明導電膜として酸化亜鉛が例示されており、有機金属を形成する配位子としてアセト酢酸エチルが例示されている。また、亜鉛化合物としてジンクアセチルアセトナートが例示されている。
【0006】
一般的に、前駆体化合物を使用して酸化亜鉛系膜を形成する場合、期待される機能を発現するのに十分な品質の酸化亜鉛系膜へと転化させるのに必要な温度は350℃以上であるとされている。しかしながら、樹脂基体への適応性や、基体に対するダメージ低減等の理由で、より低温で酸化亜鉛系膜へと転化させうることが望ましい。このため、従来に比して低温の成膜温度で酸化亜鉛系膜を製造する方法を開発することが要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−180060号公報
【特許文献2】特開2004−22268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、透明性、均質性、及び導電性を有する高品質な酸化亜鉛系膜を300℃以下の低温で成膜することが可能な酸化亜鉛系膜形成用組成物、及びそれに用いられる亜鉛化合物を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、透明性、均質性、及び導電性を有する高品質な酸化亜鉛系膜を300℃以下の低温で成膜することが可能な酸化亜鉛系膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、特定の構造を有する亜鉛化合物を用いることで、上記課題を達成可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明によれば、必須成分として、下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有する酸化亜鉛系膜形成用組成物が提供される。
【0010】

(前記一般式(1)中、R1及びR2は、相互に独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す)
【0011】
本発明においては、前記一般式(1)中のR1及びR2がメチル基であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、上述の酸化亜鉛系膜形成用組成物を基体上に塗布して塗布層を形成する工程と、前記塗布層を150〜300℃で処理して膜に転化する工程と、を含む酸化亜鉛系膜の製造方法が提供される。
【0013】
更に、本発明によれば、下記式(2)で表される亜鉛化合物が提供される。
【0014】

【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物及び亜鉛化合物を用いれば、透明性、均質性、及び導電性を有する高品質な酸化亜鉛系膜を300℃以下の低温で成膜することができる。また、本発明の酸化亜鉛系膜の製造方法によれば、透明性、均質性、及び導電性を有する高品質な酸化亜鉛系膜を300℃以下の低温で成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】式(2)で表される亜鉛化合物のIRチャートである。
【図2】式(2)で表される亜鉛化合物の1H−NMRチャートである。
【図3】式(2)で表される亜鉛化合物のTG−DTAチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物について説明する。本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物は、前記一般式(1)で表される亜鉛化合物を必須成分として含有する。この亜鉛化合物は、酸化亜鉛前駆体化合物として機能しうる成分である。前記一般式(1)中、R1及びR2で表される炭素数1〜4のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等を挙げることができる。R1としては、原料が安価であることからメチル基であることが好ましい。また、R2としては、種々の有機溶剤に対する溶解性が良好で、安定な組成物を与えるメチル基又はエチルが好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0018】
前記一般式(1)で表される亜鉛化合物の中で最も好ましいのは、前記式(2)で表される亜鉛化合物である。なお、前記式(2)で表される亜鉛化合物は新規化合物である。
【0019】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物に必須成分として含有される亜鉛化合物は、例えば、下記一般式(3)で表されるアシル酢酸エステルの亜鉛錯体又はその水和物と、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンとを混合することで調製することができる。例えば、前記式(2)で表される亜鉛化合物は、アセト酢酸メチルの亜鉛錯体(水和物)と、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンとを、有機溶剤中で室温又は加熱下で撹拌することによって得られる。
【0020】

(前記一般式(3)中、R1及びR2は、相互に独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す)
【0021】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物には、必須成分である特定の亜鉛化合物以外の任意成分が含有されていてもよい。本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物の典型的な例としては、(a)前記一般式(1)で表される亜鉛化合物と、これを溶解又は分散させる有機溶剤とを含有する組成物、(b)前記一般式(1)で表される亜鉛化合物と、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンと、これらの成分を溶解又は分散させる有機溶剤とを含有する組成物等を挙げることができる。
【0022】
アセト酢酸エステルの亜鉛錯体の水和物(亜鉛原料)と、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンとを、所望の有機溶剤中で反応させた場合、得られる酸化亜鉛系膜形成用組成物には、亜鉛原料に由来する水和水が含まれることになる。得られた酸化亜鉛系膜形成用組成物から、この水和水を除去してもよいし、除去しなくてもよい。また、亜鉛原料に対して、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを過剰に反応させると、得られる酸化亜鉛系膜形成用組成物には過剰分のN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが含まれることになる。得られた酸化亜鉛系膜形成用組成物から、この過剰分のN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンを除去してもよいし、除去しなくてもよい。
【0023】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物には、適量のN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンが含有されていると、組成物の安定性がよく、得られる膜の品質(酸化亜鉛膜の場合は、透明性と導電性)が向上するので好ましい。
【0024】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物には、通常、溶媒又は分散媒としての有機溶剤が含有される。この有機溶剤は、単一溶剤でも混合溶剤でもよい。有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ジオール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族又は脂環族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、シアノ基を有する炭化水素系溶剤、及びその他の溶剤等を挙げることができる。
【0025】
アルコール系溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、第3ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンタノール、第3ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘプタノール、ベンジルアルコール、2−メトキシエチルアルコール、2−ブトキシエチルアルコール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパノール等を挙げることができる。
【0026】
ジオール系溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3−メチル−1,3−ブタンジオール)、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、オクタンジオール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等を挙げることができる。
【0027】
ケトン系溶剤としては、アセトン、エチルメチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0028】
エステル系溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル、酢酸第3ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸第3アミル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸第2ブチル、プロピオン酸第3ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸第3アミル、プロピオン酸フェニル、2−エチルヘキサン酸メチル、2−エチルヘキサン酸エチル、2−エチルヘキサン酸プロピル、2−エチルヘキサン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、オキソブタン酸メチル、オキソブタン酸エチル、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等を挙げることができる。
【0029】
エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等を挙げることができる。
【0030】
脂肪族又は脂環族炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン、ソルベントナフサ等を挙げることができる。
【0031】
芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、シメン、テトラリン等を挙げることができる。
【0032】
シアノ基を有する炭化水素系溶剤としては、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等を挙げることができる。
【0033】
その他の有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
【0034】
上記の有機溶剤の中でも、アルコール系溶剤及びエステル系溶剤は、安価であるとともに、亜鉛化合物に対する十分な溶解性を示し、かつ、シリコン基体、金属基体、セラミックス基体、ガラス基体、樹脂基体等の様々な基体に対する塗布溶媒として良好な塗布性を示すので好ましい。また、混合溶剤を用いる場合も、アルコール系溶剤とエステル系溶剤の少なくともいずれかを50質量%以上含有するものがより好ましい。また、膜への転化温度よりも沸点の低い有機溶剤が好ましく、沸点が150℃以下の有機溶剤がより好ましい。
【0035】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物の好ましい形態は、前記一般式(1)で表される亜鉛化合物、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、及び有機溶剤を必須成分とし、亜鉛化合物が溶解されている溶液である。酸化亜鉛系膜形成用組成物中の亜鉛化合物の濃度は、安定な溶液となる濃度であることが好ましい。具体的には、酸化亜鉛系膜形成用組成物に含まれる亜鉛化合物の割合は、0.01〜0.1mol/Lであることが好ましい。また、酸化亜鉛系膜形成用組成物に含まれるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンの量は、亜鉛化合物に対して2〜20倍モル(mol)であることが好ましい。なお、有機溶剤は沸点150℃以下のエステル系溶剤及び/又はアルコール系溶剤が好ましい。
【0036】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物には、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で、前述の成分以外の「その他の成分」が含有されていてもよい。「その他の成分」としては、ゲル化防止剤、可溶化剤、消泡剤、増粘剤、揺変剤、及びレベリング剤等の組成物の安定性や塗布性を改善する添加剤;反応剤、反応助剤、架橋助剤等の成膜助剤を挙げることができる。酸化亜鉛系膜形成用組成物に含有される「その他の成分」の割合は、それぞれ10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
例えば、前記一般式(1)で表される亜鉛化合物の可溶化剤としては、亜鉛化合物の配位子と同一のアシル酢酸エステルが好ましい。酸化亜鉛系膜形成用組成物に含有されるアシル酢酸エステルの割合は0.05〜5質量%であることが好ましい。アシル酢酸エステルの含有割合が0.05質量%未満であると、可溶化剤としての効果が得られない場合がある。一方、アシル酢酸エステルの含有割合を5質量%超としても、可溶化剤としての効果はさほど向上せず、むしろ不経済になる場合がある。
【0038】
また、酸化亜鉛系膜形成用組成物には、前駆体化合物としての亜鉛化合物を酸化亜鉛に転化しうる酸化剤が含有されることが好ましい。酸化剤としては水が好適である。水は、亜鉛化合物が酸化亜鉛へと転化する際に作用し、形成される酸化亜鉛系膜の高品質化に寄与する。酸化亜鉛系膜形成用組成物に含有される水の割合は1〜10質量%であることが好ましい。水の含有割合が1質量%未満であると、水を使用した効果が得られない場合がある。一方、水の含有割合が10質量%を超えると、亜鉛化合物が分解しやすくなり、ゲル化や固体生成などの組成物の変質の要因となる場合がある。水は、酸化亜鉛系膜形成用組成物に必要量をあらかじめ添加しておいてもよく、酸化亜鉛系膜を製造する直前に添加してもよい。
【0039】
次に、本発明の酸化亜鉛系膜の製造方法について説明する。本発明の酸化亜鉛系膜の製造法は、前述の酸化亜鉛系膜形成用組成物の特徴が効果的に発揮される方法である。具体的には、本発明の酸化亜鉛系膜の製造方法は、(1)前述の酸化亜鉛系膜形成用組成物を基体上に塗布して塗布層を形成する工程(以下、「塗布工程」とも記す)と、(2)形成された塗布層を150〜300℃で処理して膜に転化する工程(以下、「膜転化工程」とも記す)と、を含む。
【0040】
塗布工程における酸化亜鉛系膜形成用組成物の塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレーコート法、ミストコート法、フローコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り等を挙げることができる。また、酸化亜鉛系膜形成用組成物が塗布される基体の種類は、特に限定されないが、ガラス、シリコン等の無機基体、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の樹脂基体等を挙げることができる。
【0041】
基体上に形成された塗布層を150〜300℃、好ましくは200〜300℃で処理し、亜鉛化合物を酸化させて酸化亜鉛系膜を形成する。なお、酸化亜鉛系膜形成用組成物の塗布後に150〜300℃で処理してもよく、酸化亜鉛系膜形成用組成物の塗布と同時に150〜300℃で処理してもよい。すなわち、塗布工程と膜転化工程は、概ね同時に行ってもよい。酸化亜鉛系膜形成用組成物の塗布と同時に150〜300℃で処理するには、例えば、基体を所望の転化温度としておき、この基体に酸化亜鉛系膜形成用組成物を塗布すればよい。このような方法は、スプレーコート法やミストコート法に適応することができる。
【0042】
膜転化工程の雰囲気は、酸素、オゾン、二酸化窒素、一酸化窒素、水蒸気、過酸化水素、ギ酸、酢酸、無水酢酸等の酸化性物質が存在する酸化性雰囲気が好ましい。酸化性雰囲気を調整するために、不活性ガスを希釈ガスとして使用してもよい。
【0043】
酸化亜鉛系膜形成用組成物を塗布した後に、有機溶剤等の低沸点成分を気化させるために乾燥工程を設けることも好ましい。また、良好な品質の酸化亜鉛系膜を形成するために、膜転化した後、不活性雰囲気下、酸化性雰囲気下、又は還元性雰囲気下でアニール処理を行ってもよい。アニール処理の温度は、通常150〜400℃、好ましくは150〜300℃である。
【0044】
また、形成される酸化亜鉛系膜を必要な膜厚とするために、塗布工程と膜転化工程を複数回繰り返してもよい。例えば、塗布工程から膜転化工程までを複数回繰り返してもよく、塗布工程と乾燥工程をそれぞれ複数回繰り返してもよい。さらに、それぞれの工程において、プラズマや各種放射線等の熱以外のエネルギーを印加又は照射してもよい。
【0045】
本発明においては、酸化亜鉛系膜形成用組成物に他の成分のプレカーサを含有させる、各工程の条件を適宜選択する、或いは各工程で反応性ガスを使用すること等により、酸化亜鉛セラミックス、酸化亜鉛と他の元素との複合酸化物、酸化亜鉛と他の元素との複合膜等、所望の特性を示す酸化亜鉛系膜(薄膜)を形成することができる。
【0046】
製造される酸化亜鉛系膜(薄膜)の種類としては、例えば、酸化亜鉛、亜鉛−インジウム複合酸化物、鉛−亜鉛複合酸化物、鉛−亜鉛−ニオブ複合酸化物、ビスマス−亜鉛−ニオブ複合酸化物、バリウム−亜鉛−タンタル複合酸化物、錫−亜鉛複合酸化物、リチウム添加酸化亜鉛、亜鉛添加フェライト等を挙げることができる。また、これらの酸化亜鉛系膜(薄膜)の用途としては、例えば、半導体、透明導電体、発光体、蛍光体、光触媒、磁性体、導電体、電極、高誘電体、強誘電体、圧電体、マイクロ波誘電体、光導波路、光増幅器、光スイッチ、電磁波シールド、ソーラセル等を挙げることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
【0048】
(1)式(2)で表される亜鉛化合物の製造
[実施例1]
塩化亜鉛1モル部、ナトリウムメチラート2モル部、及び塩化亜鉛に対して8倍質量のメタノールを混合して得られた反応液を室温で30分間撹拌した。析出した塩化ナトリウムをろ別した。得られたろ液を、アセト酢酸メチル2モル部と、アセト酢酸メチルの3倍質量のメタノールとを含む溶液に加えて、室温で30分撹拌した。析出した結晶をろ取した後、メタノールで洗浄及び乾燥させて、中間体である亜鉛のアセト酢酸メチル錯体を収率95%で得た。この中間体1モル部、及びN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン1モル部を、中間体に対して1倍質量のヘキサンに加え、加熱還流下で1時間撹拌した。得られた溶液をろ別し、−30℃で再結晶処理を行って、目的物の式(2)で表される亜鉛化合物(白色結晶)を収率97%で得た。得られた白色結晶についてIR、1H−NMR、及びTG−DTAを測定した。得られたIRチャートを図1、1H−NMRチャートを図2、及びTG−DTAチャートを図3に示す。なお、測定条件は以下に示す通りである。
<IR測定>
測定装置:商品名「Nicolet 6700」(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
1H−NMR測定>
測定装置:商品名「JNM−ECA 400」(日本電子社製)、周波数:400MHz、溶媒:重ベンゼン
<TG−DTA>
測定装置:商品名「EXSTRA6000」(エス・アイアイ・ナノテクノロジー社製)、サンプル量:6mg、空気:300mL/mL、昇温速度:10℃/分、レファレンス:アルミナ
【0049】
(2)酸化亜鉛系膜形成用組成物の調製
[実施例2]
実施例1で得た式(2)で表される亜鉛化合物を酢酸メチルに溶解させて、酸化亜鉛系膜形成用組成物(実施例2)を調製した。なお、式(2)で表される亜鉛化合物の濃度は0.05mol/Lとした。
【0050】
[実施例3〜9、比較例1〜9]
表1に示す各成分を混合し、酸化亜鉛系膜形成用組成物(実施例3〜9、比較例1〜9)を調製した。なお、式(4)で表される亜鉛成分及び式(5)で表される亜鉛成分を以下に示す。
【0051】

【0052】

【0053】
(3)酸化亜鉛系膜の製造
[実施例10〜17、比較例11〜20]
実施例2〜9及び比較例1〜10で得られたそれぞれの酸化亜鉛系膜形成用組成物を使用し、以下の条件で亜鉛系酸化膜を形成した。ホットプレートで200℃に加熱した4cm四方のガラス基板に、それぞれの酸化亜鉛系膜形成用組成物をスプレーによって噴きつけた。スプレーの1回の噴霧量を0.1mLとし、200回繰り返し噴霧して合計20mLを噴霧した。スプレー後、ガラス基板を200℃で30分保持して膜を形成して膜付ガラス基板を得た。
【0054】
得られた膜付ガラス基板を目視観察し、形成された膜の均質性を評価した。評価結果を表2及び3に示す。評価基準は、塗膜ムラのあるものを「ムラ」、凝集物のあるものを「凝集物あり」、均質なものを「均質」とした。なお、膜が得られなかったものは「膜なし」とした。
【0055】
また、形成された膜の透明性及び導電性を評価した。透明性は、濁度計(商品名「NDH2000」(日本電色工業社製))を使用し、D65光源による全光線透過率を測定することにより評価した。また、導電性は、商品名「Loresta−EP MCP−T360」(三菱化学社製)を使用し、四探針法による体積抵抗率を測定することにより評価した。なお、体積抵抗率は、任意の数箇所の測定点で測定し、平均値で表した。なお、測定値が測定限界である107Ω・cmを超えたものを「∞」と表した。透過率及び抵抗率の測定結果を表2及び3に示す。
【0056】
さらに、形成された膜のヘイズ及び膜厚を測定した。ヘイズは、濁度計(商品名「NDH2000」(日本電色工業社製))を使用して測定した。また、FE−SEMを使用して膜の中央部の厚さを測定した。ヘイズ及び膜厚の測定結果を表2及び3に示す。
【0057】

【0058】

【0059】
表2及び3に示すように、実施例2〜9で得た酸化亜鉛系膜形成用組成物を用いた場合には、200℃で処理した場合であっても均質で透明な酸化亜鉛系膜を形成可能であることが確認できた。これに対して、比較例1〜10で得た酸化亜鉛系膜形成用組成物を用いた場合には、良好な膜が形成されなかった。また、形成された膜の抵抗率についても、測定不可能であるほど高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の酸化亜鉛系膜形成用組成物を用いれば、例えば、半導体、透明導電体、発光体、蛍光体、光触媒、磁性体、導電体、電極、高誘電体、強誘電体、圧電体、マイクロ波誘電体、光導波路、光増幅器、光スイッチ、電磁波シールド、ソーラセル等に用いられる酸化亜鉛系膜を容易に形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として、下記一般式(1)で表される亜鉛化合物を含有する酸化亜鉛系膜形成用組成物。

(前記一般式(1)中、R1及びR2は、相互に独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す)
【請求項2】
前記一般式(1)中のR1及びR2がメチル基である請求項1に記載の酸化亜鉛系膜形成用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化亜鉛系膜形成用組成物を基体上に塗布して塗布層を形成する工程と、
前記塗布層を150〜300℃で処理して膜に転化する工程と、を含む酸化亜鉛系膜の製造方法。
【請求項4】
下記式(2)で表される亜鉛化合物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−188510(P2012−188510A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52024(P2011−52024)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】