説明

酸化亜鉛量子ドットおよびその製造方法

【課題】平均粒径が10nm以下と微細で、かつ粒度分布の極めて狭い高結晶性の酸化亜鉛量子ドット、該酸化亜鉛量子ドットを効率よく製造することが可能な酸化亜鉛量子ドットの製造方法を提供する。
【解決手段】平均粒径Dを10nm以下とし、粒径の標準偏差σとDの比σ/Dを0.15以下とする。
蛍光スペクトルにおいて、2.0〜3.0eVの領域の最大蛍光強度Aと、3.0eV以上の領域の最大蛍光強度Bの比A/Bが0.15以下となるようにする。
レーザーアブレーション装置1で酸化亜鉛量子ドットを発生させ、発生した酸化亜鉛量子ドットを気流中で電気炉3により熱処理して結晶化を促進し、熱処理した酸化亜鉛量子ドットを、微分型電気移動度分級装置(DMA)4を用いて分級する工程を経て、酸化亜鉛量子ドットを製造する。
熱処理を500℃以上の温度で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛量子ドットおよびその製造方法に関し、詳しくは、微細で粒径のばらつきの少ない酸化亜鉛量子ドット、紫外発光ダイオードや紫外光量子ドットレーザーに用いることが可能な酸化亜鉛量子ドット、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛はワイドギャップ半導体材料であり、紫外発光デバイスなどの種々の光学素子への応用が考えられる材料である。そして、酸化亜鉛を量子ドットのような微細な粒子にした場合、発光効率の増大や発光波長の変化というような、さらなる機能の向上が期待される。
【0003】
ところで、酸化亜鉛量子ドットの微細化、すなわち、量子ドット化による機能の向上を達成するためには、
(1)酸化亜鉛量子ドットのサイズを精密に制御すること、
(2)酸化亜鉛量子ドットが単分散状態であること、
(3)酸化亜鉛量子ドットが十分に微細であり、かつ高い結晶性を維持していること
が必要になる。
【0004】
酸化亜鉛量子ドットの合成方法としては、
(1)例えば酢酸亜鉛二水和物のような原料をアルカリ中で熱分解して酸化亜鉛量子ドットを生成させる熱分解法(例えば、非特許文献1参照)、
(2)Zn5(NO32(OH)8・2H2Oのような前駆体をアルカリ水溶液中で合成し、これを熱処理して酸化亜鉛量子ドットを生成させる液相法(例えば、非特許文献2参照)、
(3)例えば金属亜鉛を酸素雰囲気で蒸発させ、気流中で亜鉛原子と酸素分子を反応させて酸化亜鉛量子ドットを生成させる気相法(例えば、非特許文献3参照)
などの方法が知られている。
【0005】
そして、これらの合成方法によれば、微細な酸化亜鉛量子ドットが得られ、その結晶性も高いことが報告されている。
しかしながら、上記の合成方法を用いた場合、得られる酸化亜鉛量子ドットの粒度分布が大きく、粒子どうしの凝集も著しいという問題点がある。
【0006】
これらの問題点を解消するために、硝酸亜鉛水和物とアンモニア水溶液を混合して水酸化亜鉛ゲルを得る工程と、該水酸化亜鉛ゲルをグリコール中に分散および加熱処理して、酸化亜鉛ナノ粒子が分散したゾルを得るようにした酸化亜鉛ナノ粒子ゾルの製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、この特許文献1の方法により得られる酸化亜鉛ナノ粒子ゾルは、粒径50nm〜200nmの二次粒子が分散した状態のものであって、特許文献1の方法では、完全な単分散状態の酸化亜鉛量子ドットを得ることができないのが実情である。
【0008】
上述のような従来の酸化亜鉛量子ドットの合成方法においては、合成中の酸化亜鉛ナノ粒子どうしが、加熱状態で接触するため、粒子間に原子拡散が起こって二次粒子が容易に形成される。そして、この二次粒子が形成されると、一次粒子どうしが原子レベルで強固に接合しているため、超音波分散などの通常の分散方法では、この二次粒子を単分散状態にまで解砕することは事実上不可能である。
【0009】
また、液相中、気相中のいずれにおいても、均一核生成過程で量子ドットが形成されるが、個々の粒子形成は任意に進行するため、その粒度分布は容易に広がるため、粒度分布が狭く、粒径ばらつきの小さい酸化亜鉛量子ドットを得ることは困難であるのが実情である。
【非特許文献1】Nanotechnology 14巻 p.11 (2003年) 熱分解法
【非特許文献2】J. Am. Ceram. Soc. 85巻 p.273 (2002 年) 液相法
【非特許文献3】Chem. Phys. Lett. 358巻 p.83 (2002 年) 気相法
【特許文献1】特開2007−70188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、平均粒径Dが10nm以下と微細で、かつ粒度分布の極めて狭い高結晶性の、紫外発光ダイオードや紫外光量子ドットレーザーに用いることが可能な酸化亜鉛量子ドット、該酸化亜鉛量子ドットを効率よく製造することが可能な酸化亜鉛量子ドットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決した、本発明(請求項1)の酸化亜鉛量子ドットは、平均粒径Dが10nm以下、粒径の標準偏差σと平均粒径Dの比σ/Dが0.15以下であることを特徴としている。
【0012】
また、蛍光スペクトルにおいて、2.0〜3.0eVの領域の最大蛍光強度Aと、3.0eV以上の領域の最大蛍光強度Bの比A/Bが0.15以下であることを特徴としている。
【0013】
また、3.0eV以上の最大蛍光強度エネルギーが、量子ドット直径によって制御されるものであることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットは、紫外発光ダイオードに用いられるものであることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットは、紫外光量子ドットレーザーに用いられるものであることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットの製造方法は、請求項1または2記載の酸化亜鉛量子ドットを製造するための方法であって、
レーザーアブレーション法により、ターゲットにレーザー光を照射して酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程と、
発生した前記酸化亜鉛量子ドットを気流中で熱処理して結晶化を促進する工程と、
熱処理した前記酸化亜鉛量子ドットを、微分型電気移動度分級装置を用いて分級する工程と
を含むことを特徴としている。
【0017】
また、前記熱処理を500℃以上の温度で行うことを特徴としている。
【0018】
また、前記酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程から、前記微分型電気移動度分級装置を用いて分級する工程までの装置内の圧力を15torr未満とすることを特徴としている。
【0019】
また、前記レーザーアブレーション法において、照射するレーザー光の強度を0.1GW/cm2以上とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明(請求項1)の酸化亜鉛量子ドットは、平均粒径Dが10nm以下で、かつ、粒径の標準偏差σと平均粒径Dの比σ/Dが0.15以下であり、微細で、粒度分布の幅の狭いことから、凝集していたり、粒度分布のばらつきが大きかったりする従来の酸化亜鉛粒子では実現することが困難であった、発光効率の増大や発光波長の変化などの機能の向上を実現することができる。
【0021】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットは、微細で、粒度分布の幅が狭いものであり、そのような酸化亜鉛量子ドットが高い結晶性を有している場合には、蛍光スペクトルにおいて、2.0〜3.0eVの領域の最大蛍光強度Aと、3.0eV以上の領域の最大蛍光強度Bの比A/Bが0.15以下というような特性を実現することが可能になる。
すなわち、そのような酸化亜鉛量子ドットにおいては、通常の酸化亜鉛セラミックスで見られるような欠陥に起因する緑色発光(2.0〜3.0eV)がほとんど見られず、強い紫外発光(3.0eV以上)を得ることができる。これは、酸化亜鉛量子ドットの結晶性が高く、かつ電子・正孔を量子ドットのような微小空間に閉じ込めたことにより、発光効率が増大したことによるものである。
【0022】
また、微細で、粒度分布の幅が狭く、高結晶性の酸化亜鉛量子ドットにおいては、3.0eV以上の最大蛍光強度エネルギーを、量子ドット直径によって制御することができる。これは酸化亜鉛量子ドットの平均粒径が10nm以下と極めて微小であり、バンドギャップが粒径(サイズ)によって変化するという量子サイズ効果が発現したことによるものである。また、粒度分布(サイズ分布)が極めて狭いことから、その発光波長も極めて高精度に制御することができる。
【0023】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットを用いて、ダイオードを構成することにより、通常の酸化亜鉛セラミックスで見られるような緑色発光がほとんど見られず、強い紫外発光を得ることが可能な紫外発光ダイオードを得ることができる。
なお、本発明の酸化亜鉛量子ドットは、例えば、紫外発光ダイオードにおいて、pn接合を構成する半導体からなるp層とn層の接合領域に配設される活性層として有意義に用いられる。
【0024】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットを用いて、量子ドットレーザーを構成することにより、通常の酸化亜鉛セラミックスで見られるような緑色発光がほとんど見られず、強い紫外発光を得ることが可能な紫外光量子ドットレーザーを得ることができる。
なお、本発明の酸化亜鉛量子ドットは、例えば、量子井戸半導体レーザーの活性層として有意義に用いられる。
【0025】
また、本発明の酸化亜鉛量子ドットの製造方法のように、レーザーアブレーション法により、ターゲットにレーザー光を照射して酸化亜鉛量子ドットを発生させた後、発生した酸化亜鉛量子ドットを気流中で熱処理して結晶化を促進し、十分に結晶化させた酸化亜鉛量子ドットを、微分型電気移動度分級装置(differential mobility analyzer (DMA))を用いて分級することにより、平均粒径Dが10nm以下と微細で、かつ粒度分布の極めて狭い高結晶性の酸化亜鉛量子ドットを効率よく製造することが可能になる。
【0026】
すなわち、レーザーアブレーション法によって微細な酸化亜鉛量子ドットの核を発生させ、これを、気流中で熱処理することにより、個々の酸化亜鉛量子ドット(一次粒子)が凝集することを抑制しつつ結晶化を促進し、微細で結晶性の高い酸化亜鉛量子ドットを生成させることが可能になる。
【0027】
そして、生成した酸化亜鉛量子ドットを微分型電気移動度分級装置を用いて分級することにより、平均粒径Dが10nm以下の微細な領域で、粒度分布の幅が狭く、結晶性の高い酸化亜鉛量子ドットを得ることが可能になる。
なお、通常のレーザーアブレーション法により酸化亜鉛量子ドットを製造した場合、気流中に、一部凝集した形態の酸化亜鉛量子ドットも混入する場合もあるが、その場合にも微分型電気移動度分級装置で分級処理することにより、単分散状態での回収が可能になる。
また、微分型電気移動度分級装置の二重円筒管に印加する電圧を変化させることにより、分級サイズを所望の値に制御することが可能になる。
【0028】
また、前記熱処理を500℃以上の温度で行うことにより、酸化亜鉛量子ドットの結晶化を促進することが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0029】
また、前記酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程から、前記微分型電気移動度分級装置を用いて分級する工程までの装置内の圧力を15torr未満とすることにより、粒子どうしの衝突頻度が減少して結晶の成長が抑制され、特に粒径が10nm以下の粒子個数を100万個/cc以上にすることができるため、単分散性に優れた酸化亜鉛量子ドットをさらに効率よく得ることが可能になる。
【0030】
また、レーザーアブレーション法において、照射するレーザー光の強度を0.1GW/cm2以上とすることにより、原料の蒸発速度が増大し、気流中に生成する10nm以下の粒子個数を100万個/cc以上にすることが可能になり、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、この実施例1で酸化亜鉛量子ドットを製造するのに用いた装置の概略構成を示す図である。
【0033】
この実施例で用いた酸化亜鉛量子ドットの製造装置は、図1に示すように、レーザーアブレーション法によって酸化亜鉛量子ドットの核を発生させるためのレーザーアブレーション装置1と,酸化亜鉛量子ドットの核を帯電させるための帯電器2と、酸化亜鉛量子ドットの核を熱処理して結晶化を促進する熱処理手段としての電気炉3と、熱処理した酸化亜鉛量子ドットを分級するための微分型電気移動度分級装置(differential mobility analyzer (DMA))4と、分級された酸化亜鉛量子ドットを捕集するための粒子捕集器5を備えている。
【0034】
なお、この実施例においては、レーザーアブレーション装置1として、Nd−YAGレーザー光の三倍波を照射することができるように構成された装置が用いられている。なお、レーザー光としては、Nd−YAGレーザー光に限らず他のレーザー光を用いることも可能である。また、レーザーアブレーション装置1には、キャリアガスとして、マスフローコントローラ(MFC)11を経てO2ガスが供給されるように構成されている。
【0035】
また、酸化亜鉛量子ドット発生用材料(ターゲット)としては、酸化亜鉛のセラミックスロッド12が用いられている。
さらに、帯電器2としては、放射性同位体21(241Am)により、酸化亜鉛量子ドットに帯電させるように構成されたものが用いられている。
また、電気炉3としては、気流中で酸化亜鉛量子ドットを、熱処理温度を500℃以上の条件で熱処理することができるように構成された管状の電気炉が用いられている。
【0036】
さらに、熱処理した酸化亜鉛量子ドットを分級するための微分型電気移動度分級装置 (DMA)4としては、マスフローコントローラ(MFC)41を経てシースガスとしてO2ガスが供給されるように構成され、装置内部の二重円筒管に印加する電圧を変化させることにより、分級サイズを所望の値に制御することができるように構成された分級装置が用いられている。
【0037】
また、粒子捕集器5は、微分型電気移動度分級装置 (DMA)4で分級された所定の粒径の酸化亜鉛量子ドットを含むサンプリングガスから、酸化亜鉛量子ドットを捕集することができるように構成されている。
【0038】
次に、図1の製造装置を用いて酸化亜鉛量子ドットを製造する方法について説明する。
まず、酸化亜鉛量子ドット発生用材料(ターゲット)として酸化亜鉛のセラミックスロッド12を準備する。それから、この酸化亜鉛のセラミックスロッド12をレーザーアブレーション装置1内にセットし、内部を減圧の酸素雰囲気とする。
【0039】
それから、酸化亜鉛のセラミックスロッド12に、Nd−YAGレーザー光の三倍波を照射する。これによりセラミックスロッド12から、亜鉛原子と酸素原子が蒸発し、これが冷却されて気流中に酸化亜鉛量子ドットの核が形成される。
【0040】
次に、レーザーアブレーション装置1の上流から、キャリアガスとしてO2ガスを、流量0.3SLM(standard litter per minute)の割合で導入し、発生した酸化亜鉛量子ドットの核を、酸素ガス中に分散させた状態で帯電器2に導入する。
【0041】
帯電器2に導入された酸化亜鉛量子ドットの核は、帯電器2の内部で放射性同位体21(241Am)により帯電された後、管状の電気炉3に導入される。
【0042】
電気炉3に導入された酸化亜鉛量子ドットの核は、電気炉3内で加熱・結晶化され、酸化亜鉛量子ドットが形成される。なお、この工程では、熱処理温度を500℃以上に設定することが好ましい。
【0043】
それから、電気炉3で加熱され、結晶化された酸化亜鉛量子ドットは、微分型電気移動度分級装置(DMA)4に直接導入され、分級される。これにより、単分散状態で、粒度分布の極めて狭い酸化亜鉛量子ドットが得られる。具体的には、微分型電気移動度分級装置 (DMA)4で分級された所定の粒径の酸化亜鉛量子ドットを含むサンプリングガスが粒子捕集器5に送られ、酸化亜鉛量子ドットが捕集されることにより、微細で、凝集がなく、粒度分布の極めて狭い、単分散状態の酸化亜鉛量子ドットが得られる。
【0044】
なお、この際の微分型電気移動度分級装置(DMA)4における分級サイズは、平均粒径D=10nm以下とすることが望ましい。平均粒径Dを10nm以下とした場合、さらに、粒径の標準偏差σと平均粒径Dの比σ/Dを0.15以下とすることにより、凝集していたり、粒度分布のばらつきが大きかったりする従来の酸化亜鉛粒子では実現することが困難であった、発光効率の増大や発光波長の変化などの機能の向上を実現することができる。
【0045】
また、酸化亜鉛量子ドットを発生させるレーザーアブレーション装置1から、微分型電気移動度分級装置(DMA)4までの装置内の圧力は15torr未満とすることが望ましく、さらには、3〜5torrであることが望ましい。装置内の圧力を15torr未満、さらには3〜5torrとすることにより、粒子どうしの衝突頻度が減少して結晶の成長が抑制され、特に粒径が10nm以下の粒子個数を100万個/cc以上にすることができるため、単分散性に優れた酸化亜鉛量子ドットを効率よく製造することが可能になる。
【0046】
また、レーザーアブレーション装置1のレーザー強度は0.1GW/cm2にすることが望ましい。照射するレーザー光の強度を0.1GW/cm2以上とすることにより、気流中に生成する10nm以下の粒子個数を100万個/cc以上として、生産性を向上させることが可能になる。
【0047】
[評価]
図2に、熱処理温度900℃、DMA分級サイズ10nmの条件で製造した酸化亜鉛量子ドットを透過型電子顕微鏡で撮影したTEM像を示す。
図2より、酸化亜鉛量子ドットは凝集しておらず、単分散状態で捕集されており、粒度分布も狭いことがわかる。
【0048】
また、図3に、熱処理温度を500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度で熱処理して得た酸化亜鉛量子ドットのTEM格子像を示す。また、図4にその電子回折図形を示す。
図3より、酸化亜鉛量子ドットは単結晶で構成されている。このことから、熱処理温度500℃以上で極めて結晶性の高い酸化亜鉛量子ドットが得られることがわかる。
また、図4から、得られた酸化亜鉛量子ドットはウルツ鉱構造を有していることがわかる。また、DMA分級サイズ10nmというような微小サイズであっても、結晶化が起こっていることがわかる。
【0049】
また、図5にDMA分級サイズ10nm、8nm、7nm、6nmで作製した酸化亜鉛量子ドットのTEM格子像を示す。また、図6にその電子回折図形を示す。
図5および図6より、分級サイズを6nmにまで微小化した場合にも、酸化亜鉛量子ドットは単分散状態であること、高い結晶性を有していること、ウルツ鉱構造が維持されていることがわかる。
【0050】
また、図7に、酸化亜鉛量子ドットの製造工程における、DMA分級サイズと、平均粒径Dと、粒度分布の標準偏差σの関係を示す。なお、平均粒径Dと標準偏差σは、TEM像から酸化亜鉛量子ドットの粒径を実測(n=100以上)して求めた。
図7より、平均粒径Dと標準偏差σは、
分級サイズ10nmでそれぞれ8.08nmと1.11nm、
分級サイズ8nmでそれぞれ6.82nmと0.75nm、
分級サイズ7nmでそれぞれ5.87nmと0.71nm、
分級サイズ6nmでそれぞれ5.52nmと0.55nmであり、
粒度分布が極めて狭いことがわかる。
【0051】
また、図8に、得られた酸化亜鉛量子ドットの蛍光スペクトルを示す。なお、ここでは、励起光として波長325nmのレーザー光を用いた。
図8より、3.3eV〜3.6eVには強い紫外発光ピークが観測されていることがわかる。これは、電子・正孔を量子ドットのような微小空間に閉じ込めたことによる発光効率の増大の効果によるものである。
また、酸化亜鉛セラミックスでは通常、2.0eV〜3.0eVに欠陥由来の発光ピークが認められるが、本発明により得られる酸化亜鉛量子ドットにおいては、欠陥由来の発光ピークは弱くなっている。このことから本発明により得られる酸化亜鉛量子ドットは欠陥が少なく、結晶性も高いものであることがわかる。
【0052】
また、図9に、上記実施例の方法で製造した紫外光発光ピークのDMA分級サイズ依存性を示す。
図9より、サイズの微小化とともに発光ピークが高エネルギー(短波長)側にシフトすることがわかる。
【0053】
さらに、この発光ピークのシフトの様子を、励起子結合エネルギーを60meV、励起子ボーア半径(aB)を1.8nmとして理論式でフィッティングした結果を図10に示す。
図10より、発光ピークのシフトの様子が理論曲線でよくフィッティングできることが確認された。このことから、本発明の製造方法でさらに微小な酸化亜鉛量子ドットを製造し、得られた酸化亜鉛量子ドットを用いることにより、深紫外光までのあらゆる波長の紫外発光が可能になることがわかる。
【0054】
さらに、本発明の特徴をさらに明確にするため、以下の評価試験1〜4を行い、特性を評価した。
【0055】
<評価試験1>
熱処理温度の効果を評価するため、熱処理温度を室温として、すなわち、実質的に加熱を行わずに、他の条件は上記実施例の場合と同じにして酸化亜鉛量子ドットを製造した。
得られた酸化亜鉛量子ドットのTEM格子像を図11に示す。また、その電子回折図形を図12に示す。図11および図12より、この比較例1の酸化亜鉛量子ドットは、熱処理温度500℃以上の条件で製造した酸化亜鉛量子ドットに比べて、結晶性が低下していることがわかる。
【0056】
<評価試験2>
微分型電気移動度分級装置(DMA)における分級サイズの影響を評価するため、DMAにおける分級サイズを15nmとし、その他の条件は上記実施例の場合と同じにして酸化亜鉛量子ドットを製造した。
得られた酸化亜鉛量子ドットのTEM像を図13に示す。図13より、分級サイズを15nmにして製造した酸化亜鉛量子ドットにおいては、酸化亜鉛の粒子どうしが凝集し、単分散性を実現することができないことが確認された。
【0057】
<評価試験3>
レーザーアブレーション装置において酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程から、微分型電気移動度分級装置(DMA)を用いて分級する工程までの装置内の圧力を1torr〜25torrの間で変化させ、その他は上記実施例の場合と同様の方法で酸化亜鉛量子ドットを製造した。
そして、装置内の圧力と、得られた酸化亜鉛量子ドットの平均粒径と、気流1cc中の酸化亜鉛量子ドットの粒子個数の関係を調べた。なお、気流中の酸化亜鉛量子ドットの粒子個数を調べるにあたっては、図1の製造装置では粒子捕集器に導かれているサンプリングガスをファラデーカップ(図示せず)に導いて、気流中の粒子個数を調べた。その結果を図14に示す。
【0058】
気流中の酸化亜鉛量子ドットサイズ分布の圧力依存性を示す図14より、装置内の圧力を15torr未満にした場合、気流中に生成する粒子個数が100万個/cc以上になり高い生産性を確保できるが、装置内の圧力が15torr以上になると、気流中に生成する粒子個数が100万個/ccを下回ることが確認された。
この結果から、本発明では、装置内の圧力を15torr以上とした場合にも、微細で結晶性の高い酸化亜鉛量子ドットを得ることができるが、生産性の点からは装置内の圧力を15torr未満にすることが望ましいことがわかる。
【0059】
<評価試験4>
酸化亜鉛ターゲットに照射するレーザー強度を0.1137GW/cm2〜35.8414GW/cm2の間で変化させ、その他は上記実施例の場合と同様の方法で酸化亜鉛量子ドットを製造した。
そして、レーザー強度と、得られた酸化亜鉛量子ドットの平均粒径と、気流1cc中の酸化亜鉛量子ドットの粒子個数の関係を調べた。なお、気流中の酸化亜鉛量子ドットの粒子個数を調べるにあたっては、上記評価試験3の場合と同様の方法で行った。その結果を図15に示す。
【0060】
気流中の酸化亜鉛量子ドットサイズ分布のレーザー強度依存性を示す図15より、レーザー強度を0.1137GW/cm2〜35.8414GW/cm2の範囲とした場合(0.1GW/cm2以上とした場合)、気流中に生成する粒子個数が100万個/cc以上になり高い生産性を確保できることが確認された。
なお、レーザー強度が0.1GW/cm2未満になると、気流中に生成する粒子個数が少なくなる傾向があるため、レーザー強度を0.1GW/cm2以上とすることが望ましい。
【0061】
なお、上記実施例で用いた酸化亜鉛量子ドットの製造装置においては、帯電器2を電気炉3の上流側に配設しているが、帯電器2は、微分型電気移動度分級装置(DMA)4に帯電した状態で酸化亜鉛量子ドットを供給することができるようにするための手段であることから、微分型電気移動度分級装置(DMA)4よりも上流側でさえあれば、電気炉3の下流側に配設することも可能である。
【0062】
また、上記実施例の方法で製造した酸化亜鉛量子ドットは、例えば、紫外発光ダイオードにおいて、pn接合を構成する半導体からなるp層とn層の接合領域に配設される活性層として有意義に用いることが可能であり、その場合、通常の酸化亜鉛セラミックスで見られるような緑色発光がほとんど見られず、強い紫外発光を得ることが可能な紫外発光ダイオードを実現することができる。
【0063】
また、上記実施例の方法で製造した酸化亜鉛量子ドットは、例えば、量子井戸半導体レーザーの活性層として有意義に用いることが可能である。そして、本発明の酸化亜鉛量子ドットを用いて、紫外光量子ドットレーザーを構成することにより、通常の酸化亜鉛セラミックスで見られるような緑色発光がほとんど見られず、強い紫外発光を得ることが可能な紫外光量子ドットレーザーを実現することができる。
【0064】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、酸化亜鉛量子ドットの平均粒径、酸化亜鉛量子ドットを製造するために用いられる製造装置の具体的な構成、酸化亜鉛量子ドットの製造工程における条件、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
上述のように、本発明によれば、平均粒径が10nm以下と微細で、かつ粒度分布の極めて狭い高結晶性の酸化亜鉛量子ドットを効率よく製造することができる。そして、得られた酸化亜鉛量子ドットは、凝集していたり、粒度分布のばらつきが大きかったりする従来の酸化亜鉛粒子では実現することが困難であった、発光効率の増大、発光波長の変化、などの機能の向上を実現することができる。
したがって、本発明は、紫外発光ダイオード、紫外光量子ドットレーザーなどをはじめとする種々のデバイスに広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例において、酸化亜鉛量子ドットを製造するのに用いた製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、熱処理温度900℃、DMA分級サイズ10nmの条件で製造した酸化亜鉛量子ドットを透過型電子顕微鏡で撮影したTEM像を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、熱処理温度を500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度で熱処理して得た酸化亜鉛量子ドットのTEM格子像を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、熱処理温度を500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の各温度で熱処理して得た酸化亜鉛量子ドットの電子回折図形を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、DMA分級サイズ10nm、8nm、7nm、6nmで作製した酸化亜鉛量子ドットのTEM格子像を示す図である。
【図6】本発明の実施例において、DMA分級サイズ10nm、8nm、7nm、6nmで作製した酸化亜鉛量子ドットの電子回折図形を示す図である。
【図7】本発明の実施例において製造した酸化亜鉛量子ドットの、DMA分級サイズと、平均粒子サイズと、粒度分布の標準偏差の関係を示す図である。
【図8】本発明の実施例において製造した酸化亜鉛量子ドットの蛍光スペクトルを示す図である。
【図9】本発明の実施例において製造した酸化亜鉛量子ドットの紫外光発光ピークのDMA分級サイズ依存性を示す図である。
【図10】本発明の実施例において製造した酸化亜鉛量子ドットの、発光ピークのシフトの様子を、理論式でフィッティングした結果を示す図である。
【図11】熱処理温度を室温にしたことを除いて、実施例の場合と同様の条件で製造した比較用の酸化亜鉛量子ドットのTEM格子像を示す図である。
【図12】熱処理温度を室温にしたことを除いて、実施例の場合と同様の条件で製造した比較用の酸化亜鉛量子ドットの電子回折図形を示す図である。
【図13】DMA分級サイズを15nmとしたことを除いて、実施例の場合と同様の条件で製造した酸化亜鉛量子ドットを透過型電子顕微鏡で撮影したTEM像を示す図である。
【図14】装置内の圧力と、得られた酸化亜鉛量子ドットの平均粒径と、気流1cc中の酸化亜鉛量子ドットの粒子個数の関係を示す図である。
【図15】レーザー強度と、得られた酸化亜鉛量子ドットの平均粒径と、気流1cc中の酸化亜鉛量子ドットの粒子個数の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 レーザーアブレーション装置
2 帯電器
3 電気炉
4 微分型電気移動度分級装置 (DMA)
5 粒子捕集器
11 キャリアガス用のマスフローコントローラ
12 酸化亜鉛量子ドット発生用材料(ターゲット)
21 放射性同位体(241Am)
41 シースガス用のマスフローコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径Dが10nm以下、粒径の標準偏差σと平均粒径Dの比σ/Dが0.15以下であることを特徴とする酸化亜鉛量子ドット。
【請求項2】
蛍光スペクトルにおいて、2.0〜3.0eVの領域の最大蛍光強度Aと、3.0eV以上の領域の最大蛍光強度Bの比A/Bが0.15以下であることを特徴とする請求項1の酸化亜鉛量子ドット。
【請求項3】
3.0eV以上の最大蛍光強度エネルギーが、量子ドット直径によって制御されるものであることを特徴とする、請求項1または2記載の酸化亜鉛量子ドット。
【請求項4】
紫外発光ダイオードに用いられるものであることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載の酸化亜鉛量子ドット。
【請求項5】
紫外光量子ドットレーザーに用いられるものであることを特徴とする請求項1、2、3のいずれかに記載の酸化亜鉛量子ドット。
【請求項6】
請求項1または2記載の酸化亜鉛量子ドットを製造するための方法であって、
レーザーアブレーション法により、ターゲットにレーザー光を照射して酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程と、
発生した前記酸化亜鉛量子ドットを気流中で熱処理して結晶化を促進する工程と、
熱処理した前記酸化亜鉛量子ドットを、微分型電気移動度分級装置を用いて分級する工程と
を含むことを特徴とする酸化亜鉛量子ドットの製造方法。
【請求項7】
前記熱処理を500℃以上の温度で行うことを特徴とする請求項6記載の酸化亜鉛量子ドットの製造方法。
【請求項8】
前記酸化亜鉛量子ドットを発生させる工程から、前記微分型電気移動度分級装置を用いて分級する工程までの装置内の圧力を15torr未満とすることを特徴とする請求項6または7記載の酸化亜鉛量子ドットの製造方法。
【請求項9】
前記レーザーアブレーション法において、照射するレーザー光の強度を0.1GW/cm2以上とすることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の酸化亜鉛量子ドットの製造方法。

【図1】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−193991(P2009−193991A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30123(P2008−30123)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】