説明

酸化剤パージストリームからの不純物除去プロセス

カルボン酸、典型的にはテレフタル酸、の合成で生成する酸化剤パージストリームからの不純物の除去と母液及び洗浄濾液の回収に関するプロセスを開示する。更に詳しくは、プロセスは、酸化剤パージストリームから不純物を除去し、母液及び洗浄濾液を回収する工程及びその後母液及び又は洗浄濾液を酸化ゾーンに送る工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸、典型的にはテレフタル酸、の合成で生成される酸化剤パージストリームからの不純物除去と母液及び洗浄濾液の回収並びにその後、母液及び/又は洗浄濾液の少なくとも一部を少なくとも一つの酸化反応器を含む酸化ゾーンに還流するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
テレフタル酸は、例えばCo, Mn, Brなどの触媒及び溶媒の存在下でのパラキシレンの酸化によって商業的に製造される。テレフタル酸はポリエステルファイバー、フィルム及び樹脂の製造で用いられるが、パラキシレンの酸化の結果として生成する不純物を除去するために更に処理しなければならない。
【0003】
テレフタル酸(TPA)は、プラスチック及びファイバー用途でのポリエステルの製造における中間体である。TPAを製造するプロセスの一例を図1に示す。TPAを製造するための商業的プロセスは、多くの場合、p−キシレンの重金属触媒による、一般に酢酸溶媒中の臭化物助触媒を含む酸化に基づいており、これらの組合せは反応混合物405として知られている。実際の酸化条件下で酢酸中のTPAの溶解度は限られているので、少なくとも一つの酸化反応器を含む酸化ゾーン400には、通常、TPA結晶のスラリーが形成される。典型的には、TPA酸化剤スラリー410は酸化ゾーン400から抜出され、その後、TPA固体は、TPA固体液体分離ゾーン430で従来の固体−液体分離方法を用いて酸化剤母液415から分離できる。このプロセスで用いる触媒と助触媒の大部分を含む酸化剤母液415は少なくとも一つの酸化反応器を含む酸化ゾーン400にリサイクルされる。触媒と助触媒は別にして、酸化剤母液415は溶解したTPAと多くの副産物や不純物も含む。これらの副産物や不純物は、一部はp−キシレン送給ストリームに存在する少量の不純物から生ずる。部分的に酸化された産物を生ずるp−キシレンの不完全な酸化のために他の不純物が生ずる。更に別の副産物は、p−キシレンからテレフタル酸への酸化の結果としての競合する副反応によって生ずる。テレフタル酸の製造を開示している特許文献1及び2などの特許は、本明細書における言明と矛盾しない限りにおいて、その全体を引用によって本明細書に組み込む。
【0004】
TPA固体に対しては、固体−液体分離を行ない、新鮮な溶媒420を用いて酸化剤母液415の液体成分の大部分を置き換える。乾燥後、酸化剤母液415に存在していた不純物がTPA固体に取り込まれるために、TPA固体は不純物で汚染されている。不純物は、また、TPA結晶構造に吸蔵されたものによっても、新鮮な溶媒420による酸化剤母液415の除去が不完全なためによっても存在する。
【0005】
リサイクルされる酸化剤母液415ストリームの中の不純物の多くはそれ以上の酸化に対して比較的不活性である。そのような不純物は、例えばイソフタル酸、フタル酸、及びトリメリト酸などである。更に酸化される不純物も存在する。例えば、4−カルボキシベンズアルデヒド、p−トルイル酸及びp−トルアルデヒドなどである。酸化に不活性な不純物はリサイクルで酸化剤母液415に蓄積する傾向がある。酸化剤母液415におけるこれらの不活性不純物の濃度は高まって、TPA産物による各不純物の除去速度が酸化プロセスによる形成速度及び追加速度とバランスする平衡に到達する。市販されているテレフタル酸における不純物の通常のレベルは、大抵のポリマー用途でそれを直接利用するのには不適当なレベルである。
【0006】
従来、テレフタル酸は、ジメチルエステルへの変換又は水に溶解させた後に標準的な水素添加触媒での水素添加によって浄化されてきた。最近、二次酸化処理を用いてポリマー級純度のTPAが製造されるようになった。母液の不純物濃度をできるだけ低くしてその後のTPA精製を容易にすることが望ましい。場合によっては、酸化剤母液415から不純物を除去する何らかの手段を用いなければ、純度の高いポリマー級純度のTPAを製造することは不可能である。
【0007】
リサイクルストリームから不純物を除去するために化学処理産業でよく用いられる一つの方法は、リサイクルされる酸化剤母液415の一部を抜き出すか、又は“パージ”することである。典型的には、パージストリームは、単純に処分されるか、又は経済的に許される場合、いろいろな処理を行って望まれない不純物を除去すると共に価値のある成分を回収する。一例は、特許文献3であり、これは本明細書の記述と矛盾しない限りにおいてその全体を引用によって本明細書に組み込む。不純物のコントロールのために必要なパージの量はプロセスによって異なる;しかし、通常、リサイクルされる酸化剤母液415ストリーム全体の10〜40%に相当するパージ量、以下で酸化剤パージストリーム101と呼ぶ、が商業的なポリマー製造のための原料として十分な純度のTPAを製造できる。しかし、本発明のある実施形態では、100%に達するパージ量も利用できるであろう。
【0008】
TPAの製造で、許容される不純物濃度を維持するために必要な酸化剤母液415のパージパーセンテージは、酸化剤パージストリーム101中の金属触媒や溶媒成分の経済価値と合わせて、酸化剤パージストリーム101を単純に処分することを経済的に魅力のないものにしている。従って、酸化剤パージストリーム101に含まれる貴重な金属触媒と酢酸の大部分を回収すると同時に酸化剤パージストリーム101中に存在する不純物の大部分を除去するプロセスが必要とされている。金属触媒はp−キシレン酸化工程に直接リサイクルして再使用するのに適した形で回収できる。
【0009】
酸化剤パージストリームから洗浄濾液148と母液147を回収する発明が開示される。酸化剤パージストリーム101が分離ゾーンに送られ、その後母液及び/又は洗浄濾液が酸化反応器へリサイクルされて戻ってくる。上述したTPAプロセスは一例にすぎないことに注意されたい。開示される発明は、酸化剤パージストリーム101を生成できる多くの異なるTPAプロセスに適用できる。従って、本発明はテレフタル酸プロセスだけでなく、酸化剤パージストリーム101を生成し、金属触媒を含む母液147と洗浄濾液148の回収が必要な如何なるプロセスにも適用される。
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,158,738号明細書
【特許文献2】米国特許第3,996,271号明細書
【特許文献3】米国特許第4,939,297号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、カルボン酸、典型的にはテレフタル酸、の合成において生成される酸化剤パージストリームからの不純物の除去及び母液と洗浄濾液の少なくとも一部の回収に関する。
【0012】
本発明の目的は、酸化剤パージストリームから不純物を除去し、母液と洗浄濾液を回収するプロセスを提供することである。
【0013】
本発明の更に別の目的は、カルボン酸の合成において生成される酸化剤パージストリームから不純物を除去し、母液と洗浄濾液を回収し、そしてその母液及び/又は洗浄濾液の少なくとも一部を酸化ゾーンに循環させるプロセスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第一の実施形態では、次のプロセスが提供される。このプロセスは:
(a)酸化剤パージストリームを固体富化ゾーンに送ってパージスラリーを形成し;
(b)前記パージスラリーを分離ゾーンで分離させて、洗浄されたケーキ、母液及び洗浄濾液を生成させ;
(c)前記洗浄濾液の少なくとも一部及び前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る;
ことを含んでなる。
【0015】
本発明の別の実施形態では、次のプロセスが提供される。このプロセスは:
(a)固体富化ゾーンにおいて酸化剤パージストリームに沈澱剤を加えてパージスラリーを形成し;
(b)前記パージスラリーを分離ゾーンで分離させて、洗浄されたケーキ、母液及び洗浄濾液を生成させ;そして
(c)前記洗浄濾液の少なくとも一部又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る;
ことを含んでなる。
【0016】
本発明の別の実施形態では、次のプロセスが提供される。このプロセスは:
(a)固体富化ゾーンにおいて酸化剤パージストリームを冷却してパージスラリーを形成し;
(b)前記パージスラリーを分離ゾーンで分離させて、洗浄されたケーキ、母液及び洗浄濾液を生成させ;そして
(c)前記洗浄濾液の少なくとも一部又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る;
ことを含んでなる。
【0017】
これらの目的及びその他の目的は、この開示を読めば当業者にはもっと明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のある実施形態では、酸化剤パージストリーム101から不純物を除去し母液147と洗浄濾液148を回収するプロセスが図1から図4までに示されているように提供される。これらの図で共通する数字は同じプロセスストリームを示す。プロセスは次のような工程を含む。
【0019】
酸化剤パージストリーム101はカルボン酸酸化合成プロセスから抜き出される。酸化剤パージストリーム101は、本発明のプロセスへの送給ストリームとして用いられる。不純物は、有機臭化物、腐食金属、p−キシレン酸化副産物及びp−キシレン中の不純物の結果として出てくる不純物から成る群から選択される少なくとも一つを含む。有機臭化物は酸化反応における助触媒として用いられる。腐食金属の例は、鉄及びクロム化合物であり、これらは金属触媒の活性を阻害、低下又は完全に破壊する。触媒及び助触媒を別にして、酸化剤母液ストリーム415は、また、副産物と不純物を含む。これらの副産物と不純物は、一部はp−キシレンの供給ストリームに存在する少量の不純物から生ずる。他の不純物は、部分的に酸化した産物を生ずるp−キシレンの不完全な酸化によって生ずる。更に別の副産物は、p−キシレンからテレフタル酸への酸化における競合する副反応から生ずる。
【0020】
カルボン酸は有機基質の制御された酸化によって生成される芳香族カルボン酸を含む。このような芳香族カルボン酸は、少なくとも一つのカルボン酸基が、好ましくは少なくとも炭素原子6を有する、更に好ましくは炭素原子のみを有する芳香族環の一部である炭素原子に付着した化合物を含む。そのような芳香族環の適当な例としては、ベンゼン、ビフェニル、テルフェニル、ナフタレン及びその他の炭素をベースとする縮合芳香族環などがあるが、それだけに限定するものではない。適当なカルボン酸の例としては、テレフタル酸、安息香酸、p−トルイル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、2,5−ジフェニル−テレフタル酸及びそれらの混合物があげられるが、それだけに限定するものではない。
【0021】
適当な溶媒としては、脂肪族モノカルボン酸、好ましくは2〜約6の炭素原子を含むもの、又は安息香酸及びそれらの混合物、及びこれらの化合物と水との混合物などがあるが、それだけに限定するものではない。好ましくは、溶媒は酢酸を水と、約5:1〜約25:1の比で、好ましくは約8:1と約20:1の間の比で、混合したものである。本明細書を通して、酢酸を溶媒と呼ぶ。しかし、他の適当な溶媒、前に開示されたような溶媒も利用できることは言うまでもない。
【0022】
工程(a)は酸化剤パージストリーム101を固体富化ゾーン140に送ってパージスラリーを形成する工程を含む。
本発明のある実施形態では、固体富化ゾーン(solids enrichment zone)140は酸化剤パージストリーム101を冷却してパージスラリー110を形成することを可能にする容器を含む。この容器に関しては、酸化剤パージストリーム101を所望の温度に冷却してパージスラリー110を形成するのに十分な滞留時間を可能にするということ以外何も特別な条件はない。これは、例えば冷却コイルを含む振とう容器を用いて、又は当業者に公知のいろいろな熱交換器を用いて達成できる。固体富化ゾーン140は酸化剤パージストリーム101を十分に冷却してパージスラリー110を形成することができる当業者に公知のどんな装置を含んでもよく、酸化剤パージストリーム101は少なくとも5℃〜少なくとも90℃冷却される。冷却の量は、所望する沈澱の量による。例えば、酸化剤パージストリーム101の冷却は、少なくとも5℃であることもある。これは酸化剤パージストリーム101とパージスラリー110の間の温度差を摂氏温度で表している。別の温度範囲としては、少なくとも10℃、少なくとも15℃、少なくとも20℃、少なくとも25℃、少なくとも30℃、少なくとも35℃、少なくとも40℃、少なくとも45℃、少なくとも50℃、少なくとも55℃、少なくとも60℃、少なくとも65℃、少なくとも70℃、少なくとも75℃、少なくとも80℃、少なくとも85℃及び少なくとも90℃があり得る。本発明の別の実施形態では、酸化剤パージストリーム101は約80℃〜約150℃の温度にある。別の範囲は約80℃〜約140℃であり、別の範囲は約85℃〜約100℃である。
【0023】
別の実施形態では、酸化剤パージストリーム101を固体富化ゾーン140に装荷して固体を沈澱させる。沈澱は当業者に公知の任意の手段によって遂行できる。例えば、一つの方法は、酸化剤パージに沈澱剤ストリーム105を加えることである。沈澱剤ストリーム105が、固体富化ゾーン140に装荷され、酸化剤パージストリーム101から固体を沈澱させる。沈澱剤105は酸化剤パージストリーム101から固体を沈澱させるのに適当な任意の化合物を含む。適当な化合物としては、水、メタノール、イソプロパノール、n−ブタノール及びイソブタノールなどがあるが、それだけに限定するものではない。その他の沈澱剤105、例えばC1〜C6のアルキルアセテートも使用できる、例えばn−プロピルアセテート、イソプロピルアセテート、イソブチルアセテート、sec−ブチルアセテート、酢酸エチル、水及びn−ブチルアセテートなどであるが、それだけに限定するものではない。
【0024】
本発明の別の実施形態では、工程(a)で、酸化剤パージストリーム101は酢酸を除去して濃縮することができる。濃縮は当業者に公知の任意の手段によって行うことができる。これは、溶質の固体が溶液にとどまるのに溶媒の酢酸が不十分になる程度まで酢酸を煮沸してとばすことによって行うことができる。溶媒を除去する別の方法は、直交流膜濾過システムを用いて、酢酸が透過物質として膜を透過して保持液が濃縮されるようにするものである。
【0025】
本発明の別の実施形態では、工程(a)で、冷却と沈澱剤添加の任意の組合せによって固体富化ゾーンに固体を生成させる。
【0026】
本発明の別の実施形態では、固体富化プロセスにおける固体の量は、少なくとも1重量%〜少なくとも30重量%の範囲の固体を有するパージスラリー110を生ずることができる。別の範囲は、少なくとも1重量%〜少なくとも25重量%の固体であり、別の範囲は、少なくとも1重量%〜少なくとも20重量%の固体である。固体富化は前述のような冷却プロセスによって行うことができる、又は本発明の別の実施形態では、パージスラリー110を酸化剤パージストリーム101から溶媒の蒸発を利用して生成できる。例えば、本発明の別の実施形態では、固体富化ゾーンは蒸発器を備え、それを用いて溶媒を蒸発させることができる。蒸発器は、例えば特許文献3又は米国特許出願第10/455,016号明細書及び同第10/874,419号明細書で用いられているような蒸発器でよい。これらの特許文献はすべて、本明細書の所説と矛盾しない限りにおいてその全体を引用によって本明細書に組み込む。本発明の別の実施形態では、パージスラリー110で所望の含有量の固体が得られる限り当業者に公知の任意の手段を用いることができる。
【0027】
工程(b)は、分離ゾーン151でパージスラリー110を分離してフィルターケーキ154と母液147を形成させ;そして分離ゾーン151で洗浄液149によってフィルターケーキ154を洗浄して洗浄されたケーキ146と洗浄濾液148を生成させ;そして任意的に分離ゾーン151で洗浄されたケーキ146を脱水して脱水されたケーキ159を形成することを含み、分離ゾーン151は少なくとも一つの圧力濾過装置を備える。
【0028】
本発明の別の実施形態では、パージスラリー110が分離ゾーン151に導入されるが、分離ゾーンは、図3に示すように濾過ゾーン153,洗浄ゾーン155及び任意的な乾燥ゾーン157を含む。濾過ゾーン153はフィルターセル又は一連のフィルターセルを含み、フィルターセルの面積に分布したフィルターケーキ154が形成されるような物理的位置に配置されて、フィルターケーキ154を通って洗浄液149のチャンネルができることが阻害又は阻止されるようになっている。
【0029】
深さが少なくとも0.25インチ〜約8インチ、好ましくは深さが少なくとも0.5インチ、更に好ましくは深さが少なくとも1インチ、それより更に好ましくは深さが約2インチ〜約4インチ、のフィルターケーキ154がフィルターセルの面積にわたって分布する。洗浄されたケーキ、146は回収できる、又は更に処理、リサイクル及び/又は廃棄物処理施設に送ることができる。
【0030】
フィルターケーキ154が適当な、又は好ましい高さ、約0.5インチ〜約4インチという高さに達すると、フィルターケーキ154はフィルター又は一連のフィルターを備えた濾過ゾーン153を離れて、洗浄ゾーン155に入り、そこでフィルターケーキ154は洗浄液149と接触する。フィルターケーキ154には十分な圧力があり、フィルターケーキ154上に洗浄液149が、適当な深さ、好ましくは最小深さ0.25インチに貯めるか又は蓄積させることができる。フィルターケーキ154と洗浄液149の貯蔵部の間に少なくとも0.5 psi、好ましくは約5 psi〜約65 psiという圧力勾配を印加してフィルターケーキ154内の任意の溶質を洗浄液149で置き換えることができる。
【0031】
少なくとも0.5インチという深さのフィルターケーキ154が洗浄ビヒクルを供給するのに十分圧縮されたコンパクトなフィルターケーキ154を得るのに適当である。即ちフィルターケーキ154から溶質を含む洗浄濾液148を回収し、洗浄によって効率的に除去できるフィルターケーキ154を得るのに適当である。フィルターケーキ154の深さが約0.25インチより小さい場合、フィルターケーキ154の中で洗浄液149のチャンネリングが起こってフィルターケーキ154の洗浄が一様でなくなる恐れがある。
【0032】
フィルターケーキ154の置換(又は追出)洗浄(displacement washing)の効率低下を考えると、精製されたテレフタル酸のフィルターケーキ154の最小深さが少なくとも0.25インチであることが好ましい。
【0033】
置換洗浄が行われるように保証するフィルターケーキ154表面上の液体の最小限の高さが必要である。この高さは、フィルターケーキ154の表面が洗浄液149で完全に覆われることを保証するのに十分な高さでなければならない。フィルターケーキ154の表面が洗浄液149で完全に覆われない場合、洗浄液149の迂回が起こってフィルターケーキ154の中の溶質の置換が不十分になる。フィルターケーキ154の表面は不規則なので、フィルターケーキ154表面上で約0.25インチという最小の液面高さが好ましい。
【0034】
高圧の洗浄液149を用いるフィルターケーキ154からの溶質の置換は、フィルターケーキ154からの触媒金属の効率的な分離を可能にするということが見出された。高圧の別の利点は、実施例で示されるように、コバルトを回収するために必要な洗浄液149が減少することである。
【0035】
分離ゾーン151に追加の段(stages)を利用すると、フィルターケーキ154に保持される金属触媒の総量を減少させるために必要な洗浄液149の量を減らすことができる。したがって、適当な段数のポジティブ置換洗浄を用いて、置換洗浄で用いる洗浄液149の総量を最小にすることで下流の廃棄物処理施設の必要を好適に小さくできる。
【0036】
一段置換洗浄手順を多段置換洗浄手順で置き換えることで、洗浄液149の量はパージスラリー110から母液147及び洗浄濾液148への少なくとも80%の金属触媒の回収をするために十分な量であるということが理解できる。更に、洗浄液149の量の減少が有利であると判断される場合、多段の逆流洗浄(counter−current washing)を用いる手順が有用になる。
【0037】
本発明のプロセスでは、パージスラリー110を、必要な厚さのフィルターケーキ154が生成できるように、物理的に配置された一つ又はそれ以上の一連のフィルターセルに導入する。
【0038】
約0.25〜約4インチという最小高さのフィルターケーキ154が得られると、フィルターケーキ154はフィルター又は一連のフィルターを出て洗浄ゾーン155に入り、そこでフィルターケーキ154は洗浄液149で洗浄する。次に、圧力を洗浄液149に適用してフィルターケーキ154から溶質(即ち、フィルターケーキ中の液体及び金属触媒など何らかの溶解している化合物)を追い出すことができる。洗浄液で溶質が追い出されると、フィルターケーキ154を適当な手段によって濾過ゾーン155から放出し、このサイクルを繰り返すことができる。本発明のある実施形態では、フィルターケーキ中の金属触媒のレベルを95%より多く減らすための洗浄液149とフィルターケーキ154放出の比は、約1:20〜約20:1の範囲内にある。
【0039】
必要な洗浄サイクルを実施するための装置は一連のフィルターセルを含み、それらは溢流洗浄液149がフィルターセル上に広がることができるような適当な位置に保たれる。本発明のある実施形態では、適当な装置は多数フィルターセルを有するロータリードラム圧力フィルターであり、洗浄されたケーキ146をフィルターセルから放出するための手段を備えている。フィルターケーキ154は、洗浄されたケーキ146における金属触媒の濃度を最小にしてから洗浄されたケーキ146をロータリードラムフィルターから吐出するために必要なだけの回数洗浄できる。
【0040】
本発明のプロセスの必要条件に適合させることができる適当な圧力フィルターは、BHS−FEST(登録商標)ロータリードラム圧力フィルター(BHS−WERK、Sonthofen, D−8972, Sonthofen, West Germany)であるが、必要な作業を遂行できる他の圧力フィルターも使用できる。固体−液体分離ゾーン151で使用できる他の装置の例は、圧力ベルトフィルター、フィルタープレス、遠心分離器、圧力リーフフィルター及び直交流フィルターなどであるが、それだけに限定されない。圧力フィルターは、母液147の溶質から金属触媒を少なくとも80%回収するために十分な温度と圧力で作動させることができる。好ましくは、圧力フィルターは約25℃〜約160℃の温度及び1気圧〜50気圧の圧力で作動させることができる。
【0041】
図4に示されているようなBHS−FEST(登録商標)フィルターの操作では、ロータリードラムは回転するドラムの周辺に配置された一連のフィルターセルを含む。ドラムが回転するとフィルターセルがパージスラリー110を受け入れてフィルターケーキ154が必要な深さに蓄積する。パージスラリー110の濾過によって母液147が生成される。ドラムを回すと、フィルターケーキ154が洗浄ゾーン155に入り、洗浄液149の貯まり(reservoir)がフィルターケーキ154上に必要な深さまでできる。洗浄液に適用された圧力が水をフィルターケーキ154に押し込み、パージスラリー110に保持されている溶質を(溶解している金属触媒と共に)追い出して洗浄されたケーキ146を生成する。ドラムを更に回すと、必要なら洗浄サイクルを少なくとももう3回逆流方式で繰り返すことができ、その後システム圧力が解放され、それに伴って温度が周囲条件に低下する。任意的には、洗浄されたケーキ146を脱水ゾーン157で導管152を通る蒸気によって脱水して脱水されたケーキ159と湿った蒸気160を生成させることができる。得られた脱水されたケーキ159は任意の従来手段によってドラムから放出できる。
【0042】
図4は、ロータリー圧力ドラムフィルターがプロセス濾過装置として用いられる本発明のある実施形態を示している。ロータリードラム圧力フィルターは、濾過ゾーン153、洗浄ゾーン155,任意的な脱水ゾーン157,放出ゾーン164及びクロス洗浄ゾーン162を含む。図4に示されているクロス洗浄ゾーン164は、ロータリー圧力ドラムフィルターがクロス洗浄ゾーン162を含む本発明のある実施形態であり、フィルターは脱水されたケーキ159が放出された後に洗浄される。
【0043】
洗浄濾液148はフィルターケーキを洗浄液149で置換洗浄することによって生成される。洗浄液149の導入によって分離ゾーン151内でフィルターケーキ154は金属触媒が抽出されて洗浄濾液148を生じ、本発明のある実施形態では少なくとも80%の金属触媒が洗浄濾液と母液147に回収される。本発明のある実施形態では、少なくとも90%の金属触媒が洗浄濾液148と母液147に回収される。母液147と洗浄濾液148は任意的に一緒にして固体−液体分離ゾーン151を出てゆく。
【0044】
洗浄液149は水と任意的な別の酸化溶媒を含む。
【0045】
多分最も驚くべきことは、水を洗浄液149として、約20℃〜約70℃という範囲、好ましくは約30℃〜約50℃という範囲の温度で用いることによって、十分な腐食金属が脱水されたケーキ159に保持され、他の手段による腐食金属除去の必要がなくなるということである。金属触媒をストリップされた固体である脱水されたケーキ159はシステムから廃棄することができる。
【0046】
ロータリー圧力ドラムフィルターを用いる本発明のある実施形態では、分離ゾーン151がパージスラリー110から母液147と洗浄濾液148を生成するのに十分な当業者に公知の任意の装置を備えることもできるということに注意されたい。例えば、このような装置としては、遠心分離器、デカンター遠心装置、スタックディスク遠心分離器、圧力フィルター、例えばキャンドルフィルター、リーフフィルター、フィルタープレスなどがあるが、それだけに限定するものではない。
【0047】
工程(c)は、洗浄濾液の少なくとも一部及び/又は母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る工程を含む。
【0048】
本発明のある実施形態では、工程(e)における母液147の少なくとも一部及び/又は洗浄濾液148の少なくとも一部を、テレフタル酸プロセス、例えばそれだけに限定するものではないが、図1に示されているプロセスにおける少なくとも一つの酸化反応器を含む酸化ゾーン400にリサイクルして戻すことができる。少なくとも一部とは1重量%を超える任意の量であってよい。別の範囲においては、少なくとも一部は25重量%を超える任意の量であってよい。別の範囲においては、少なくとも一部とは50重量%を超える任意の量であってよい。別の範囲で、少なくとも一部とは75重量%を超える任意の量であってよい。別の範囲で、少なくとも一部とは100重量%であってよい。導管152と153は、酸化ゾーン400にリサイクルされない母液147と洗浄濾液148の部分を、もしあれば、それぞれ表す。これらのストリームは他のプロセスで利用するか、又は焼却、又はその他の当業者に公知の手段によって廃棄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】TPA製造プロセスを示す図であり、洗浄濾液148及び/又は母液147の少なくとも一部は導管154によって酸化ゾーン400へリサイクルされる。
【図2】分離ゾーン151で起こっているプロセスの本発明に係るある実施形態を示す図であり、母液147と洗浄濾液148が生成され、母液147及び/又は洗浄濾液148の一部は少なくとも一つの酸化反応器を含む酸化ゾーンに送られる。
【図3】本発明の別の実施形態を示す図であり、パージスラリー110は、濾過ゾーン153、洗浄ゾーン155及び任意的には乾燥ゾーン157を含む分離ゾーン151に送られる。
【図4】本発明の別の実施形態を示す図であり、ロータリードラム圧力フィルターがプロセス濾過装置として用いられている。本発明の別の実施形態では、ロータリードラム圧力フィルターは濾過ゾーン153、洗浄ゾーン155任意的には脱水ゾーン157、放出ゾーン164及びクロス洗浄ゾーン162を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸化剤パージストリームを固体富化ゾーンに送ってパージスラリーを形成し;
(b)前記パージスラリーを分離ゾーンで分離して洗浄されたケーキ、母液及び洗浄濾液を生成させ;
(c)前記洗浄濾液の少なくとも一部及び前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る;
ことを含んでなるプロセス。
【請求項2】
前記分離ゾーンが少なくとも一つの圧力濾過装置を含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記圧力濾過装置が少なくとも一つのフィルターセルを含み、少なくとも一つのフィルターセルが少なくとも0.25インチの深さの前記フィルターケーキを蓄積させる請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記洗浄液が前記フィルターケーキ上に少なくとも0.25インチの深さの貯まりを形成する請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記圧力濾過装置が約25℃〜約160℃の間の温度で作動する請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記脱水によって水分含有量が約10%〜約50%の脱水されたケーキが得られる請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
前記圧力濾過装置がロータリー圧力ドラムフィルターである請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記洗浄が逆流洗浄である請求項1又は8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項1又は8に記載のプロセス。
【請求項11】
(a)固体富化ゾーンで酸化剤パージストリームに沈澱剤を加えてパージスラリーを形成し;
(b)前記パージスラリーを分離ゾーンで分離して洗浄されたケーキ、母液及び洗浄濾液を生成させ;そして
(c)前記洗浄濾液の少なくとも一部又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る;
ことを含んでなるプロセス。
【請求項12】
前記分離ゾーンが少なくとも一つの圧力濾過装置を含む請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記圧力濾過装置が少なくとも一つのフィルターセルを含み、少なくとも一つのフィルターセルが少なくとも0.25インチの深さの前記フィルターケーキを蓄積させる請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記洗浄液が前記フィルターケーキ上に少なくとも0.25インチの深さの貯まりを形成する請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記圧力濾過装置が約25℃〜約160℃の間の温度で作動する請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
工程(c)が前記洗浄濾液の少なくとも10重量%又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る請求項11に記載のプロセス。
【請求項17】
工程(c)が前記洗浄濾液の少なくとも50重量%又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る請求項11に記載のプロセス。
【請求項18】
前記圧力濾過装置がロータリー圧力ドラムフィルターである請求項11又は17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記洗浄が逆流洗浄である請求項11又は17に記載のプロセス。
【請求項20】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項11に記載のプロセス。
【請求項21】
少なくとも25重量%の前記洗浄濾液及び少なくとも25重量%の前記母液を酸化ゾーンに送る請求項11に記載のプロセス。
【請求項22】
前記分離ゾーンが少なくとも一つの圧力濾過装置を含む請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記圧力濾過装置が少なくとも一つのフィルターセルを含み、少なくとも一つのフィルターセルが少なくとも0.25インチの深さの前記フィルターケーキを蓄積させる請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記洗浄液が少なくとも0.25インチの深さの前記フィルターケーキ上の貯まりを形成する請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記圧力濾過装置が約25℃〜約160℃の間の温度で作動する請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
工程(c)は前記洗浄濾液の少なくとも50重量%及び前記母液の少なくとも50重量%を酸化ゾーンに送る請求項26に記載のプロセス。
【請求項28】
前記圧力濾過装置がロータリー圧力ドラムフィルターである請求項21又は27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記洗浄が逆流洗浄である請求項21又は27に記載のプロセス。
【請求項30】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項21に記載のプロセス。
【請求項31】
(a)固体富化ゾーンで酸化剤パージストリームを冷却してパージスラリーを形成し;
(b)前記パージスラリーを分離ゾーンで分離して洗浄されたケーキ、母液及び洗浄濾液を生成させ;そして
(c)前記洗浄濾液の少なくとも一部又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る;
ことを含んでなるプロセス。
【請求項32】
前記分離ゾーンが少なくとも一つの圧力濾過装置を含む請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
前記圧力濾過装置が少なくとも一つのフィルターセルを含み、少なくとも一つのフィルターセルが少なくとも0.25インチの深さの前記フィルターケーキを蓄積させる請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記洗浄液が前記フィルターケーキ上に少なくとも0.25インチの深さの貯まりを形成する請求項33に記載のプロセス。
【請求項35】
前記圧力濾過装置が約25℃〜約160℃の間の温度で作動する請求項34に記載のプロセス。
【請求項36】
工程(c)が前記洗浄濾液の少なくとも重量で10%又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る請求項31に記載のプロセス。
【請求項37】
工程(c)が前記洗浄濾液の少なくとも50重量%又は前記母液の少なくとも一部を酸化ゾーンに送る請求項31に記載のプロセス。
【請求項38】
前記圧力濾過装置がロータリー圧力ドラムフィルターである請求項31又は37に記載のプロセス。
【請求項39】
前記洗浄が逆流洗浄である請求項31又は37に記載のプロセス。
【請求項40】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項41に記載のプロセス。
【請求項41】
少なくとも25重量%の前記洗浄濾液及び少なくとも25重量%の前記母液が酸化ゾーンに送られる請求項41に記載のプロセス。
【請求項42】
前記分離ゾーンを約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する圧力濾過装置を含む請求項41に記載のプロセス。
【請求項43】
前記圧力濾過装置が少なくとも一つのフィルターセルを含み、少なくとも一つのフィルターセルが少なくとも0.25インチの深さの前記フィルターケーキを蓄積させる請求項42に記載のプロセス。
【請求項44】
前記洗浄液が前記フィルターケーキ上に少なくとも0.25インチの深さの貯まりを形成する請求項43に記載のプロセス。
【請求項45】
前記圧力濾過装置が約25℃〜約160℃の間の温度で作動する請求項44に記載のプロセス。
【請求項46】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
工程(c)が前記洗浄濾液の少なくとも50重量%及び前記母液の少なくとも50重量%を酸化ゾーンに送る請求項46に記載のプロセス。
【請求項48】
前記圧力濾過装置がロータリー圧力ドラムフィルターである請求項41又は47に記載のプロセス。
【請求項49】
前記洗浄が逆流洗浄である請求項41又は47に記載のプロセス。
【請求項50】
前記圧力濾過装置を約1気圧〜約50気圧の圧力で運転する請求項41に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−518006(P2008−518006A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538960(P2007−538960)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【国際出願番号】PCT/US2005/036541
【国際公開番号】WO2006/049818
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(594055158)イーストマン ケミカル カンパニー (391)
【Fターム(参考)】