説明

酸化抑制カセット及びこれを備えた冷蔵庫

【課題】
冷蔵庫において、減圧貯蔵室に収納した食品中の栄養成分の酸化劣化を長期間にわたって抑制できる冷蔵庫を得ることを目的とする。
【解決手段】
冷蔵庫1内に設けられて内部が大気圧よりも低い圧力に減圧される減圧貯蔵室24と、該減圧貯蔵室24内に設けられた脱酸素剤81とを備えた冷蔵庫1において、前記脱酸素剤81は無機系成分又は有機系成分を含む酸化防止剤であって、大気圧の場合に空気の導入が抑制され、且つ大気圧より低い圧力の場合に大気圧の場合よりも多くの空気を導入して前記減圧貯蔵室24の酸素量を低下させる酸化抑制カセット80内に設けられたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫の貯蔵室に収納する食品中の栄養成分の酸化劣化を抑制する酸化抑制カセットを用いた冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の冷蔵庫として、特許第4015687号公報(特許文献1)に記載されたものがある。この冷蔵庫は、食品の収納時に密閉されて0.7気圧の低圧にされる減圧貯蔵室を備えたものである。このように、減圧貯蔵室の圧力を0.7気圧まで低下させることにより、減圧貯蔵室内の酸素濃度を低くすることができる。これによって、減圧貯蔵室に収納した食品中の栄養成分が空気中の酸素と結びつくことを抑制して、栄養成分の酸化劣化の防止を図ろうとするものである。
【0003】
【特許文献1】特許第4015687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の冷蔵庫では、減圧貯蔵室の圧力を下げることによってのみ栄養成分の酸化劣化を防止している。このため、栄養成分の酸化劣化の有効な防止を図るには、減圧貯蔵室内の圧力を極めて低い圧力まで低下させる必要があった。また、減圧装置の大型化及び減圧貯蔵室を構成する筐体の耐圧強度の増大が必要となり、食品収納スペースの減少及びコストアップを招くこととなっていた。
【0005】
また、減圧解除時に貯蔵容器の内圧と貯蔵容器の外圧との差が大きい為、アルミシールされたデザートの包装がはがれる等の弊害があり、減圧貯蔵室に収納する食品が限定されるといった使い勝手上の問題があった。
【0006】
本発明の目的は、減圧貯蔵室に収納した食品中の栄養成分の酸化劣化を長期間にわたって抑制できる冷蔵庫を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の冷蔵庫は、冷蔵庫内に設けられて内部が大気圧よりも低い圧力に減圧される減圧貯蔵室と、該減圧貯蔵室内に設けられた脱酸素剤と、を備えた冷蔵庫において、前記脱酸素剤は無機系成分又は有機系成分を含む酸化防止剤であって、前記減圧貯蔵室が大気圧の場合に空気の導入が抑制され、且つ大気圧より低い圧力の場合に大気圧の場合よりも多くの空気を導入して前記減圧貯蔵室の酸素量を低下させる酸化抑制カセット内に設けられたことを特徴とする。
【0008】
また、前記脱酸素剤は還元鉄粉を主剤としてハロゲン化金属、活性炭及び水供与性化合物を混合した無機系脱酸素剤、又は低分子フェノール化合物を主剤とする有機系脱酸素剤であることを特徴とする。
【0009】
また、前記減圧貯蔵室は冷蔵室の内部に設けられ、前記減圧貯蔵室は0.80気圧〜0.95気圧に減圧されることを特徴とする。
【0010】
また、前記減圧貯蔵室の容積1L当たり少なくとも100mLの空気が前記酸化抑制カセット内に導入されて前記減圧貯蔵室の酸素が低減されることを特徴とする。
【0011】
また、前記酸化抑制カセットは、前記脱酸素剤と、該脱酸素剤を収納した樹脂容器と、該樹脂容器の内部に空気を導入自在のシートと、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、前記樹脂容器は内側に第一のアルミニウムフィルムが貼着されて且つ前記脱酸素剤を収納した樹脂容器本体と、内側に第二のアルミニウムフィルムが貼着された樹脂容器蓋とを有し、前記樹脂容器本体の周縁部及び前記樹脂容器蓋の周縁部は一部に前記シートを介在して重ねられ、該周縁部に夫々位置する前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムを接合して空間を形成し、該空間は前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムで壁面が形成され、前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムに挟持された前記シートの部分を通して前記減圧貯蔵室の空気を導入することを特徴とする。
【0013】
また、前記樹脂容器蓋は前記樹脂容器本体の幅方向に凹部が形成され、該凹部内に前記シートが設けられ、且つ前記シートの両端部は前記樹脂容器の外部に露出していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の酸化抑制カセットは、脱酸素剤を有する酸化抑制カセットにおいて、前記脱酸素剤は無機系成分又は有機系成分を含む酸化防止剤であって、前記酸化抑制カセットは大気圧の場合に酸素の導入が抑制され、大気圧より低い圧力の場合に大気圧の場合よりも空気を多く導入することを特徴とする。
【0015】
また、前記脱酸素剤と、該脱酸素剤を収納した樹脂容器と、該樹脂容器の内部に外部の空気を導入するシートとを備えて構成され、前記樹脂容器は内側に第一のアルミニウムフィルムを貼着し且つ前記脱酸素剤を収納した樹脂容器本体と、内側に第二のアルミニウムフィルムを貼着した樹脂容器蓋とからなり、前記樹脂容器本体の周縁部及び前記樹脂容器蓋の周縁部は一部に前記シートを介在して重ねられ、該周縁部に夫々位置する前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムを接合して空間を形成し、該空間は前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムで壁面が形成され、前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムに挟持された前記シートの部分を通して空気を導入することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
係る本発明の冷蔵庫によれば、減圧貯蔵室に収納した食品中の栄養成分の酸化劣化を長期間にわたって抑制できる冷蔵庫を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態の冷蔵庫について図を用いて説明する。まず、図1から図4を参照しながら冷蔵庫の全体構成に関して説明する。図1は、本実施形態の冷蔵庫の中央縦断面図である。図2は、図1の冷蔵室の最下段空間部分の断面斜視図である。図3は、減圧貯蔵室の蓋を閉じた状態の外観斜視図である。図4は、減圧貯蔵室本体の上面壁を除き蓋を開いた状態の斜視図である。
【0018】
冷蔵庫は、前方に開口を有する冷蔵庫本体1,該冷蔵庫本体1の前方開口を開閉自在に設けられた扉6〜10を備えて構成される。冷蔵庫本体1は、鋼板製の外箱11と樹脂製の内箱12との間に、ウレタン発泡断熱材13及び真空断熱材(図示せず)を有して構成される。また、上から冷蔵室2,上段冷凍室3b及び製氷室3a(図示せず),下段冷凍室4,野菜室5の順に、複数の貯蔵室を有している。換言すれば、最上段に冷蔵室2,最下段に野菜室5がそれぞれ区画して配置されており、冷蔵室2と野菜室5との間には、これらの両室と断熱的に仕切られた上段冷凍室3a及び下段冷凍室4が配設されている。冷蔵室2及び野菜室5は、冷蔵温度帯(0℃以上であって、一例として約2℃〜10℃の温度帯)の貯蔵室である。上段冷凍室3a及び下段冷凍室4は、冷凍温度帯(0℃以下であって、一例として約−20℃〜−18℃の温度帯)の貯蔵室である。これらの貯蔵室2〜5は、仕切り壁33,34,35により区画されている。
【0019】
冷蔵庫本体1の前面には、貯蔵室2〜5の前面開口を開閉自在である扉6〜10が設けられている。冷蔵室扉6は、左扉と右扉の2枚設けられた、いわゆるフレンチドアタイプの回転扉である。具体的に、左扉は冷蔵庫本体1の左方上下のヒンジ6a,6aによって回転自在に設けられ、右扉は冷蔵庫本体1の左方上下のヒンジ(図示せず)によって回転自在に設けられ、冷蔵室2の前面開口を開閉する。
【0020】
製氷室扉7(図示せず)は、製氷室3aの前方開口を開閉する扉である。上段冷凍室扉8は、上段冷凍室3bの前方開口を開閉する扉である。下段冷凍室扉9は、下段冷凍室4の前方開口を開閉する扉である。野菜室扉9は、野菜室5の前方開口を開閉する扉である。なお、製氷室扉7,上段冷凍室扉8,冷凍室扉9、及び野菜室扉10は、引き出し式の扉によって構成され、引き出し扉とともに貯蔵室内の容器が引き出される。
【0021】
次に、冷蔵庫本体1には、冷凍サイクルが設置されている。この冷凍サイクルは、圧縮機14,凝縮器(図示せず),キャピラリチューブ(図示せず)及び冷却器15、そして再び圧縮機14の順に接続して構成されている。圧縮機14及び凝縮器は、冷蔵庫本体1の背面下部に設けられた機械室100に設置されている。冷却器15は、製氷室3a,上段冷凍室3b、及び下段冷凍室4の後方に設けられた冷却器室110に設置され、この冷却器室110における冷却器15の上方に送風ファン16が設置されている。
【0022】
冷却器15によって冷却された冷気は、送風ファン16によって冷蔵室2,上段冷凍室3b,製氷室3a,下段冷凍室4、及び野菜室5の各貯蔵室へと送られる。具体的には、送風ファン16によって送られる冷気は、開閉可能なダンパー装置(図示せず)を介して、その一部が冷蔵室2及び野菜室5の冷蔵温度帯の貯蔵室へと送られ、他の一部が冷凍室3,4の冷凍温度帯の貯蔵室へと送られる。
【0023】
送風ファン16によって冷蔵室2,上段冷凍室3b,製氷室3a,下段冷凍室4、及び野菜室5の各貯蔵室へと送られた冷気は、各貯蔵室を冷却した後、夫々の冷気戻り通路(図示せず)を通って冷却器室110へと戻される。このように、本実施形態の冷蔵庫は、冷気の循環構造を有しており、各貯蔵室2〜5を適切な温度に維持する。
【0024】
冷蔵室2内には、透明な樹脂板で構成される複数段の貯蔵棚17〜20が取り外し可能に上下方向に設置されている。最下段の貯蔵棚20は、内箱12の背面及び両側面に接するように設置され、仕切り壁34と貯蔵棚20との間に、最下段空間21を上方空間と区画して形成している。また、各冷蔵室扉6の内側には、複数段の扉ポケット25〜27が設置され、これらの扉ポケット25〜27は冷蔵室扉6が閉じられた場合に、冷蔵室2内に突出するように設けられている。冷蔵室2の背面には、送風ファン16から供給された冷気を通す通路を形成する背面パネル30が設けられている。この背面パネル30は、高熱伝導性の材料で形成されており、一例としてアルミニウム等の金属で形成される。これにより、冷蔵室2の温度変化を抑制し、貯蔵した食品に与える温度変化による負荷を低減できる。また、除霜運転中等の冷気の供給が少ない場合、背面パネル30からの輻射熱によって、冷蔵室2内の温度が上昇することを抑制することができる。
【0025】
最下段空間21には、左から順に、冷凍室3の製氷皿に製氷水を供給するための製氷水タンク22,デザートなどの食品を収納するための収納ケース23,室内を減圧して食品の鮮度保持及び長期保存するための減圧貯蔵室24が設置されている。減圧貯蔵室24は、冷蔵室2の横幅より狭い横幅を有し、冷蔵室2の側面に隣接して配置されている。
【0026】
製氷水タンク22及び収納ケース23は、左側の冷蔵室扉6の後方に配置されている。
これによって、左側の冷蔵室扉6を開くのみで、製氷水タンク22及び収納ケース23を引き出すことができる。また、減圧貯蔵室24は、右側の冷蔵室扉6の後方に配置されている。これによって、右側の冷蔵室扉6を開くのみで、減圧貯蔵室24の蓋60を引き出すことができる。また、減圧貯蔵室24の内部には、食品を載置する減圧貯蔵室容器60aが設けられている。減圧貯蔵室容器60aは、蓋60と係合しており、蓋60の引き出し動作に伴って、前方に引き出される。すなわち、左側の冷蔵室扉6、若しくは右側の冷蔵室扉6を開くのみで、所望の食品を取り出したり、製氷水タンク22の水の補充や交換をしたりできるので、必要以上に冷蔵室2の冷気が庫外に漏れることを防止出来る。
【0027】
なお、製氷水タンク22及び収納ケース23は、左側の冷蔵室扉6の最下段の扉ポケット27の後方に位置することとなり、減圧貯蔵室24は右側の冷蔵室扉6の最下段の扉ポケット27の後方に位置することとなる。ここで、冷却器15によって冷却されて冷蔵室2へ送られた冷気は、減圧貯蔵室24の周囲を通って減圧貯蔵室24の内部を間接冷却するようになっている。
【0028】
製氷水タンク22の後方には、製氷水ポンプ28が設置されている。収納ケース23の後方で且つ減圧貯蔵室24の後部側方の空間には、減圧貯蔵室24を減圧するための減圧装置の一例である負圧ポンプ29が配置されている。負圧ポンプ29は、減圧貯蔵室24の側面に設けられたポンプ接続部に導管を介して接続されている。
【0029】
減圧貯蔵室24は、食品出し入れ用である前方開口を有する箱状の減圧貯蔵室本体40と、減圧貯蔵室本体40の前方開口を開閉する蓋60と、食品を収納して蓋60に係合して出し入れする減圧貯蔵室容器60aとを備えて構成されている。蓋60で減圧貯蔵室本体40の前方開口を閉じることにより、減圧貯蔵室本体40と蓋60とで囲まれた空間が減圧され、低圧空間が形成される。減圧貯蔵室容器60aは、蓋60の背面側に取り付けられ、蓋60の移動に伴って前後に移動可能である。
【0030】
減圧貯蔵室24は、負圧ポンプ29により、内部の空気が吸引され、大気圧よりも低い気圧、一例として0.8気圧(80kPa)等に減圧される気体調節室である。すなわち、減圧貯蔵室24は、食品の酸化抑制,野菜類の鮮度維持等に特別な空気雰囲気を醸成している。
【0031】
また、図3に示すように、減圧貯蔵室24には、上面にリブ40sが突起として設けられている。これにより、減圧貯蔵室24とその直上にある貯蔵棚20との間は、適度な隙間を設けた状態で支持される。減圧貯蔵室24の後部には、冷蔵室2の冷気の吸気口(図示せず)が設けられ、減圧貯蔵室24周囲の空気を吸引して冷気が流れることで、減圧貯蔵室24を間接的に冷却する。
【0032】
また、減圧貯蔵室24は、前方開口を有し、扁平である奥方に長い略直方体状の減圧貯蔵室本体40と、前方および後方に移動して前方開口を開閉する蓋60とにより、外周壁が形成されている。換言すると、減圧貯蔵室本体40は箱状で一体に形成されている。具体的に、ABS(アクリロニトリル,ブタジエン,スチレンを含む樹脂),AS(アクリロニトリル,スチレンを含む樹脂)等を用いて樹脂成形され、両側面壁40a,40b,底面壁40c,後面壁40d、および上面壁40e、を有した前面を開口した形状に形成されている。
【0033】
すなわち、減圧貯蔵室24に貯蔵物を出し入れするために、開閉する蓋60が設けられている。さらに、減圧貯蔵室本体40の外面には、断面係数を増加し強度向上を図る補強リブが、直線状又は格子状に立設されている。なお、補強リブの形状はこれらに限らず、減圧貯蔵室本体40の断面係数を増加し強度向上を図るものであればよい。
【0034】
減圧貯蔵室本体40の両側方には、支軸60sが設けられている。支軸60s廻りに開閉ハンドル70が回動自在に支持される。また、蓋60には、差圧抜き弁Vが構成されている。
【0035】
この開閉ハンドル70を、使用者が把持して、蓋60の開閉操作および蓋60の閉塞時のロックが行われるとともに、差圧抜き弁Vの開閉が行われる。
【0036】
なお、減圧貯蔵室24が、負圧ポンプ29によって減圧された場合、減圧貯蔵室24の外部の大気圧と、減圧貯蔵室24の内部の減圧された圧力との差圧によって蓋60に加わる荷重が大きくなる。これにより、直接、蓋60を開放するためには使用者は相当の力を要することになる。
【0037】
そこで、差圧抜き弁Vを開くことによって、蓋60の内外空間を挿通させ、内外圧力差を無くし差圧による荷重を解消し、蓋60を容易に開くことができるようにしている。
【0038】
次に、酸化抑制カセット80について説明する。減圧貯蔵室24の内部には、脱酸素剤81(図6参照)を有する酸化抑制カセット80が設置されている。換言すれば、野菜,肉魚などの生鮮食品を保存する減圧貯蔵室24に空気中の酸素による酸化損失を防止できる脱酸素剤81を内封する酸化抑制カセット80が設置されている。この酸化抑制カセット80は、図2に示すように、減圧貯蔵室容器60aの背壁部に着脱可能に設けられている。
【0039】
酸化抑制カセット80に内封された脱酸素剤81は、減圧貯蔵室24内を減圧することにより、酸化抑制カセット80内部の圧力と酸化抑制カセット80の外部の圧力との圧力差により空気が導入される。詳細は後述するが、酸化抑制カセット80は大気圧状態の基では空気を導入しないか抑制され、且つ大気圧より低い圧力状態の基で大気圧状態よりも空気を多く導入し酸素を減らすように構成される。
【0040】
減圧貯蔵室容器60aに食品を載せて蓋60を閉じることにより、減圧貯蔵室24の内部が略密閉に近い状態となり、ドアスイッチがオンされて負圧ポンプ29が駆動され、減圧貯蔵室24が大気圧より低い状態に減圧される。これにより貯蔵室13内の酸素濃度が低下して食品中の栄養成分の劣化を抑制することができる。しかも、減圧貯蔵室24が気体の移動が抑制されて減圧された状態となってから脱酸素剤81が限られた容積の減圧貯蔵室24中の酸素を消費し、さらに酸化を抑制することができる。その結果、酸化抑制カセット80の小型化,負圧ポンプ29の小型化及び減圧貯蔵室24の筐体の強度低減を可能として食品収納スペースの増大及びコスト低減を図りつつ、減圧貯蔵室24に収納した食品中の栄養成分の酸化劣化を長期間にわたって防止できる。
【0041】
そして、蓋60を手前に引くことにより、蓋60の一部に設けられた圧力解除バルブがまず動作して減圧貯蔵室24の減圧状態が解除されて大気圧の状態となり、蓋60を開くことができる。これによって、簡単に蓋60を開け、食品の出し入れができる。
【0042】
次に、図5から図7を参照しながら、酸化抑制カセット80について具体的に説明する。図5は、酸化抑制カセットを模式的に示す斜視図である。図6は、図5のA−A断面図である。図7は、図5のB−B断面図である。
【0043】
酸化抑制カセット80は、酸素を減らす脱酸素剤81と、この脱酸素剤81を収納した樹脂容器82と、この樹脂容器82の内部に、外部の空気を導入するシート85とを備えて構成されている。シート85は、和シートや不織布などで形成され、通気性を有している。
【0044】
脱酸素剤81は、食品中の栄養成分が空気中の酸素により酸化される前に酸化されることにより、食品中の栄養成分の酸化を抑制するものである。従って、脱酸素剤は、非常に酸化されやすい物質からなるものである。一例として、無機系脱酸素剤、又は有機系脱酸素剤の何れかの成分を含む酸化防止剤を用いる。具体的に、無機系脱酸素剤としては、還元鉄粉を主剤として塩化ナトリウム等のハロゲン化金属,活性炭及び水等の水供与性化合物を混合したもの、有機系脱酸素剤としては、ハイドロキノン,カテコール,レゾルシン,クレゾール及びピロガロールといった低分子フェノール化合物を主剤として用いたものが好適である。
【0045】
樹脂容器82は、内側にアルミニウムフィルム83aを貼着し且つ脱酸素剤81を収納した樹脂容器本体83と、内側にアルミニウムフィルム84aを貼着した樹脂容器蓋84とからなっている。樹脂容器本体83の周縁部と樹脂容器蓋84の周縁部とを重ねて、当該両周縁部のアルミニウムフィルム83a,84aをシート85が介在された部分を除いて全周にわたって接合し、その内部空間を当該アルミニウムフィルム83a,84aで壁面が形成されて、密閉した空間としている。従って、この空間内に配置された脱酸素剤81からアルミニウムフィルム83a,84aを通して空気が内部に導入されることが抑制される。
【0046】
樹脂容器蓋84は、表側に突出する突部84bを形成することにより、樹脂容器本体側の面に全幅方向にわたって凹部84cが形成されている。シート85は、樹脂容器蓋84の凹部84c内に全幅方向にわたって配置され、両端部が樹脂容器82の外部に臨んでいる。これによって、樹脂容器82内に配置された脱酸素剤81で酸素を消費される空気は、両アルミニウムフィルム83a,84aに挟持されたシート85の部分のみを通して樹脂容器82内に導入される。従って、樹脂容器82内への空気の導入率は、シート85の挟持部の断面積(換言すれば、シート85の厚みまたは幅),挟持部における長さを調整することにより容易に調整することができる。
【0047】
ここでシート85は、主にパルプを原料とする紙や、合成樹脂を主原料として製造された合成紙、又は吸収性に優れた不織布等をいう。
【0048】
次に、図8から図10を参照しながら、減圧貯蔵室24内に脱酸素剤81を用いて食品を保存した場合の、食品中の栄養成分等における損失抑制効果を説明する。図8から図10は、脱酸素剤の効果試験の結果である。具体的に、図8は、ほうれん草のビタミンC残存量を示す図である。図9は、牛肉の色調を示す図である。図10は、マグロの色調を示す図である。
【0049】
まず、試験方法について説明する。脱酸素剤の効果試験は、14L(リットル)の密閉容器内を減圧し、脱酸素剤を用いて密閉容器内の酸素を消費させた場合と、従来比較として、脱酸素剤を使用せずに冷蔵室内で保存した場合とにおいて、ほうれん草のビタミンCの含有量,牛肉の色調、及びマグロの色調について、購入直後及び3日保存後に測定して比較したものである。
【0050】
色調の測定は、測色計(コニカミノルタ製 CR−13)を用いて、食品表面の色を定量的に評価した。表色系は、物体の色の表現に広く用いられているL*a*b*表色系を用いて、明度(L*)彩度(C*)を評価した。図中に示す符号91は、脱酸素剤を用いて酸素を消費させた場合を示す。符号92は、脱酸素剤未使用の場合を示す。
【0051】
図8において、縦軸はビタミンC残存率〔%〕(パーセント)、横軸は経過時間を示す。脱酸素剤の効果試験の結果、脱酸素剤未使用(符号92)よりも、脱酸素剤を用いて酸素を消費させたほう(符号91)がビタミンC含有量は多く、保存中のビタミンCの損失を抑制できることが判った。
【0052】
図9は、縦軸を明度、横軸を彩度とした色調図である。図の中心を牛肉の購入直後の状態として、3日保存後における牛肉の色調変化の測定結果を示している。具体的に、中心に近いほど購入直後の色に近く、鮮度劣化等による変色を抑制できたことを示す。脱酸素剤の効果試験の結果、脱酸素剤未使用(符号92)よりも、脱酸素剤を用いて酸素を消費させたほうが中心に近く(符号91)、変色を抑制できることが判った。
【0053】
図10は、図9と同様に、縦軸を明度、横軸を彩度とした色調図である。中心を購入直後のマグロの状態として、3日保存後におけるマグロの色調測定結果を示す。中心に近いほど購入直後の色に近く、鮮度を保っていることを示す。脱酸素剤の効果試験の結果、脱酸素剤未使用(符号92)よりも、脱酸素剤を用いて酸素を消費させたほうが中心に近く(符号91)、変色を抑制できることが判った。
【0054】
従って、図8,図9、及び図10より、脱酸素剤81を有する酸化抑制カセット80を用いて減圧保存をすることで、従来よりも食品の保存性が向上することが判った。
【0055】
次に、図11を参照しながら、脱酸素剤81の有無による、密閉容器内の酸素濃度について説明する。図11は、脱酸素剤81の有無による、密閉容器内の酸素濃度について計測した結果を示す図である。
【0056】
試験方法は、密閉容器に脱酸素剤81を有する酸化抑制カセット80を入れた場合と、酸化抑制カセット80を入れない場合とで、負圧ポンプによって密閉容器内の空気を吸い出して密閉容器内を減圧して一定に保持し、密閉容器内の酸素濃度を測定した。
【0057】
図11は、縦軸に酸素濃度,横軸に一定減圧になったときを0分とした場合の経過時間を示す。符号94は、密閉容器内を0.8気圧に保ち、該密閉容器内に酸化抑制カセット80を設けた場合を示す。符号95は、密閉容器内を0.8気圧に保ち、該密閉容器内に酸化抑制カセット80を設けない場合を示す。符号96は、密閉容器内は減圧せずに大気圧状態で、酸化抑制カセット80を設けない場合を示す。
【0058】
図11より、密閉容器内が大気圧状態で酸化抑制カセットを使用した場合(符号96)、酸化抑制カセット80に空気が導入しないため、酸素が消費されず密閉容器内の酸素濃度が低下しなかった。これに対し、酸化抑制カセット80内を0.8気圧に減圧した場合(符号94,符号95)、時間の経過と共に酸素濃度が低下する結果となった。
【0059】
更に、0.8気圧に保ち、且つ酸化抑制カセット80を設けた場合は(符号94)、密閉容器内を0.8気圧に保ち酸化抑制カセット80を設けない場合(符号95)よりも酸素濃度が低下することが判った。すなわち、酸化抑制カセット80を設けて密閉容器内を減圧することにより、密閉容器内の酸素濃度を低下させることができる。
【0060】
実際に減圧貯蔵室24に酸化抑制カセット80を適用する場合について検討すると、減圧貯蔵室24の容積はおよそ7L〜15Lである。すなわち、上記試験で用いた密閉容器とほぼ同程度の容積である。よって、減圧貯蔵室24の減圧量を制御することで、酸化抑制カセット80に導入する空気量を制御することができる。
【0061】
しかし、減圧貯蔵室24内を負圧ポンプ29で減圧した際、減圧貯蔵室本体40には、外部の大気圧と内部の低圧との差圧により、その全面に均一に大気からの荷重がかかる。減圧貯蔵室24の内部が低圧であるため、この荷重は減圧貯蔵室本体40全面を外側から内側に押し潰す向きに加わり、その大きさは例えば減圧貯蔵室本体40の上面壁40eが300mm四方とし、差圧を0.2気圧とすれば約180kgf(約1800N)という大きな荷重となる。そのため、減圧貯蔵室24の内部気圧を低くする場合、蓋60及び減圧貯蔵室本体40の耐圧構造を強化する必要がある。そこで、減圧貯蔵室24の内部の気圧は、0.80〜0.95気圧の範囲とすることがよい。
【0062】
また、減圧貯蔵室24は、内部の気圧が0.80〜0.95気圧に制御される場合、減圧貯蔵室24の容積1L(リットル)あたり少なくとも100mL(ミリリットル)の空気が酸化抑制カセット80に導入されて、減圧貯蔵室24内の酸素を低減できるように、シート85の挟持部の断面積(換言すれば、シート85の厚みまたは幅)及び挟持部における長さを調整する。
【0063】
これにより、脱酸素剤の消費を抑制すると共に酸化抑制カセット80の小型化ができ、減圧貯蔵室24の有効内容積を大きくすることができる。
【0064】
また、減圧貯蔵室本体40を樹脂一体成型することで、減圧貯蔵室24を簡素化して軽量化するとともに、安価に構成することが可能である。
【0065】
以上説明した冷蔵庫によれば、食品収納スペースの増大を図りつつ、減圧貯蔵室に収納した食品中の栄養成分の酸化劣化を長期間にわたって抑制できる冷蔵庫を得ることができる。具体的には、無駄な脱酸素剤の消費を抑制することで酸化抑制カセットの小型化,減圧装置の小型化及び減圧貯蔵室の筐体の強度低減を可能として食品収納スペースの増大,コスト低減,収納食品の拡大を図りつつ、減圧貯蔵室に収納した食品中の栄養成分の酸化劣化を長期間にわたって抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施形態の冷蔵庫の中央縦断面図である。
【図2】図1の冷蔵室の最下段空間部分の断面斜視図である。
【図3】減圧貯蔵室の蓋を閉じた状態の外観斜視図である。
【図4】減圧貯蔵室本体の上面壁を除き蓋を開いた状態の斜視図である。
【図5】酸化抑制カセットを模式的に示す斜視図である。
【図6】図5のA−A断面図である。
【図7】図5のB−B断面図である。
【図8】脱酸素剤の効果試験におけるほうれん草のビタミンC残存量を示す図である。
【図9】脱酸素剤の効果試験におけるマグロの色調を示す図である。
【図10】脱酸素剤の効果試験における牛肉の色調を示す図である。
【図11】脱酸素剤の有無による、密閉容器内の酸素濃度についての計測結果を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
2 冷蔵室
24 減圧貯蔵室
29 負圧ポンプ
40 減圧貯蔵室本体
60 蓋
60a 減圧貯蔵室容器
80 酸化抑制カセット
81 脱酸素剤
82 樹脂容器
83 樹脂容器本体
83a,84a アルミニウムフィルム
84 樹脂容器蓋
85 シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷蔵庫内に設けられて大気圧よりも低い圧力に減圧される減圧貯蔵室と、該減圧貯蔵室内に設けられた脱酸素剤と、を備えた冷蔵庫において、
前記脱酸素剤は無機系成分又は有機系成分を含む酸化防止剤であって、前記減圧貯蔵室が大気圧の場合に空気の導入が抑制され、且つ大気圧より低い圧力の場合に大気圧の場合よりも多くの空気を導入して前記減圧貯蔵室の酸素量を低下させる酸化抑制カセット内に設けられたことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項2】
請求項1において、前記脱酸素剤は還元鉄粉を主剤としてハロゲン化金属,活性炭及び水供与性化合物を混合した無機系脱酸素剤、又は低分子フェノール化合物を主剤とする有機系脱酸素剤であることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項3】
請求項1において、前記減圧貯蔵室は冷蔵室の内部に設けられ、前記減圧貯蔵室は0.80気圧〜0.95気圧に減圧されることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項4】
請求項3において、前記減圧貯蔵室の容積1L当たり少なくとも100mLの空気が前記酸化抑制カセット内に導入されて前記減圧貯蔵室の酸素が低減されることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項5】
請求項1において、前記酸化抑制カセットは、前記脱酸素剤と、該脱酸素剤を収納した樹脂容器と、該樹脂容器の内部に空気を導入自在のシートと、を備えたことを特徴とする冷蔵庫。
【請求項6】
請求項5において、前記樹脂容器は内側に第一のアルミニウムフィルムが貼着されて且つ前記脱酸素剤を収納した樹脂容器本体と、内側に第二のアルミニウムフィルムが貼着された樹脂容器蓋とを有し、前記樹脂容器本体の周縁部及び前記樹脂容器蓋の周縁部は一部に前記シートを介在して重ねられ、該周縁部に夫々位置する前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムを接合して空間を形成し、該空間は前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムで壁面が形成され、前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムに挟持された前記シートの部分を通して前記減圧貯蔵室の空気を導入することを特徴とする冷蔵庫。
【請求項7】
請求項6において、前記樹脂容器蓋は前記樹脂容器本体の幅方向に凹部が形成され、該凹部内に前記シートが設けられ、且つ前記シートの両端部は前記樹脂容器の外部に露出していることを特徴とする冷蔵庫。
【請求項8】
脱酸素剤を有する酸化抑制カセットにおいて、
前記脱酸素剤は無機系成分又は有機系成分を含む酸化防止剤であって、前記酸化抑制カセットは大気圧の場合に酸素の導入が抑制され、大気圧より低い圧力の場合に大気圧の場合よりも空気を多く導入することを特徴とする酸化抑制カセット。
【請求項9】
請求項8において、前記脱酸素剤と、該脱酸素剤を収納した樹脂容器と、該樹脂容器の内部に外部の空気を導入するシートとを備えて構成され、前記樹脂容器は内側に第一のアルミニウムフィルムを貼着し且つ前記脱酸素剤を収納した樹脂容器本体と、内側に第二のアルミニウムフィルムを貼着した樹脂容器蓋とからなり、前記樹脂容器本体の周縁部及び前記樹脂容器蓋の周縁部は一部に前記シートを介在して重ねられ、該周縁部に夫々位置する前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムを接合して空間を形成し、該空間は前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムで壁面が形成され、前記第一のアルミニウムフィルム及び前記第二のアルミニウムフィルムに挟持された前記シートの部分を通して空気を導入することを特徴とする酸化抑制カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−112635(P2010−112635A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286032(P2008−286032)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】