説明

酸化法によるエポキシ化合物の製造方法

【課題】 過酸化水素を用いた酸化法によるエポキシ化合物の製造方法において、系中での過酸化水素の分解による酸素の発生を抑制すると共に、煩雑な後処理の必要がなく、反応性に優れ、SUS容器中での反応を可能とする方法を提供する。
【解決手段】 オレフィン化合物と過酸化水素を、ニトリル化合物とケイ酸塩の存在下で反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ化合物の製造方法に関し、特に、エピクロロヒドリン法によらない、過酸化水素を用いた酸化法によるエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物の製造方法としては、エピクロロヒドリン法が極めて一般的な方法として知られている。しかしながら、この方法では生成物にクロロヒドリン体等の含クロル有機化合物が混入するため、全塩素含量が高くなり、半導体などの用途への適用は制限される上に、当該用途で使用するためには、煩雑な精製を繰り返す必要がある。
【0003】
エピクロロヒドリン法によらないエポキシ化合物の製造方法としては、酸化法による製造方法が知られている。例えば、有機過酸による酸化法、タングステン酸等の触媒を用いた過酸化水素による酸化法、ゼオライト等を触媒として用いた過酸化水素による酸化法、塩基性下でニトリル系溶剤を用いた過酸化水素による酸化法など、様々な方法が知られている。中でも、塩基性下でニトリル系溶剤を用いた過酸化水素による酸化法は、比較的安全に反応を行うことが可能であって、汎用性が高く、様々な基質のエポキシ化が可能であって、特殊な試薬を使用しないのでコスト的に有利であるという利点がある。当該方法として、例えば、アセトニトリル及びメタノールの存在下、3−カランに過酸化水素を作用させ、害虫忌避剤の中間体である3−カランエポキシドを立体選択的に製造する方法が知られている(特許文献1)。炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩による塩基性の条件下、アセトニトリルが過酸化水素により酸化されて、有機過酸のように機能してエポキシ化反応が進行すると推定されている。
【0004】
しかしながら、この方法では過酸化水素が分解しやすく、系内の酸素濃度が20%を超える可能性があり、引火性の溶媒等が存在する系では危険性が高いという問題があった。また、反応温度が高く、反応終了後に系内に残存する過酸化水素および系中に生じる過酸化物を分解する作業が必要であり、分解熱が高かったり危険な副生物が生じたりするという問題もあった。さらに、pHが9〜11の塩基性条件下で反応を行うために、ガラス製の反応容器を使用することができず、当該方法をステンレス鋼(SUS)反応器内で行うと、反応器表面の金属が触媒となって過酸化水素の分解が促進されるという問題が生じる。
【0005】
一方、過酸化水素を用いて、エチレン系化合物からエポキシ化合物を製造する方法において、ステンレス鋼(SUS)反応器内で行う方法が知られている(特許文献2)。当該方法は、タングステン酸等の触媒を用いた過酸化水素による酸化法によりエポキシ化合物を製造する方法である。
【0006】
しかしながら、この方法では、反応系中の気相部が接触する反応系内表面積と反応容器中の反応液量との割合を特定範囲に調整したり、反応系中の気相部が接触する反応系内表面を不動態化したりすることにより、SUS製反応器内で反応を行えるようにするというものである。よって、SUS製反応器内でのエポキシ化反応は、反応条件等に大きな制約が生じるという問題があった。また、当該方法は、酸性条件下でエポキシ化を行うために、得られたエポキシ化合物が加水分解し、エポキシ化合物の収率が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−212281号公報
【特許文献2】特開平9−183773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、過酸化水素を用いた酸化法によるエポキシ化合物の製造方法において、系中での過酸化水素の分解による酸素の発生を抑制すると共に、煩雑な後処理の必要がなく、反応性に優れ、SUS容器中での反応を可能とする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、オレフィン化合物と過酸化水素を、ニトリル化合物の存在下でエポキシ化する反応において、塩基性物質としてケイ酸塩の存在下で反応させると、系中での過酸化水素の分解による酸素の発生を抑制し、反応速度を促進すると共に、煩雑な後処理の必要がなく、SUS容器中での反応が可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、オレフィン化合物と過酸化水素を、ニトリル化合物とケイ酸塩の存在下で反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法に関する。
【0011】
上記ケイ酸塩は、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムから選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
上記ニトリル化合物が、アセトニトリル、プロピオニトリル及びベンゾニトリルから選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
また、アルコール溶媒存在下で反応させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ化合物の製造方法によれば、系内の過酸化水素濃度を低く維持し、過酸化水素の分解による酸素の発生を抑制するので、エポキシ化反応を安全に行うことができる。また、過酸化水素の使用量が少なく、反応時間が短く、反応温度を低く抑え、煩雑な後処理の必要がなく、SUS容器中でエポキシ化反応を行うことができるので、工業化に適している。また、反応剤に含クロル有機化合物を使用しないため、全塩素含量は原料化合物に本来含有される数百ppm程度に抑えることができる。
【0015】
さらに、得られるエポキシ化合物は全塩素含量が数百ppm程度と非常に低く、電子材料用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のエポキシ化合物の製造方法は、オレフィン化合物と過酸化水素を、ニトリル化合物とケイ酸塩の存在下で反応させることを特徴とする。
【0017】
まず、本発明で使用する各成分について順に説明する。
本発明で用いるオレフィン化合物は、分子内に炭素−炭素二重結合を有するものであれば特に限定されず、炭素−炭素二重結合を複数有するオレフィン化合物も使用できる。オレフィン化合物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、シスまたはトランスのいずれの構造でもよく、また両者が混在していてもよい。これらのオレフィン化合物は、その分子鎖内または分子末端に、不飽和結合、水酸基、アルコキシル基、カルボニル基、カルボキシル基、アミド基、エステル基、ハロゲン原子などの官能基や環状構造をさらに有していてもよい。例えば、1−ブテン、1−ペンテン、シクロヘキセン、1,7−オクタジエン、1,4−シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラアリルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサアリルエーテル等を挙げることができる。
【0018】
オレフィン化合物の分子量(高分子化合物の場合は数平均分子量(Mn))に特に制限はないが、通常、100〜3000の範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明において、過酸化水素は水溶液を用いる。水溶液の過酸化水素濃度は特に限定されないが、上限は60%が好ましく、35%がより好ましい。一方、濃度の下限は、5%が好ましく、10%がより好ましい。濃度が10%より低いと、反応速度の低下およびバッチ効率の低下を招き、濃度が60%よりも高いと反応時の内温の制御が困難になったり、異常な過酸化水素の分解が起き易くなり危険性が増大したりする傾向がある。
【0020】
過酸化水素の使用量は特に限定されず、オレフィン化合物やケイ酸塩の種類、反応条件等によって異なるが、オレフィン化合物の炭素−炭素二重結合1当量に対して、過酸化水素換算で1当量〜10当量が好ましい。使用量の上限は、5当量が好ましく、2当量がより好ましい。一方、使用量の下限は、1当量が好ましく、1.5当量がより好ましい。使用量が1当量より少ないと、反応が十分に進行せず、使用量が10当量よりも多いと、反応の制御や安全性の確保が難しくなる傾向がある。
【0021】
本発明で用いるニトリル化合物は、特に限定されず、脂肪族、芳香族のいずれのニトリル化合物であってもよい。また、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。脂肪族ニトリル化合物としては、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリル、マロノニトリル、アジポニトリルやモノクロロアセトニトリル、ジクロロアセトニトリル、トリクロロアセトニトリルなどが挙げられ、芳香族ニトリル化合物としては、例えば、ベンゾニトリル、トルニトリル、クロロベンゾニトリル、フルオロベンゾニトリルなどが挙げられる。これらの中でも、反応性と、ニトリル由来の副生成物を容易に除去することができる点から、アセトニトリル、プロピオニトリル、及び、ベンゾニトリルが好ましく、特にアセトニトリルが好ましい。
【0022】
ニトリル化合物の使用量は、特に限定されず、オレフィン化合物やケイ酸塩の種類、反応条件等によって異なるが、オレフィン化合物の炭素−炭素二重結合1当量に対して、1当量〜10当量が好ましい。使用量の上限は10当量が好ましく、3当量がより好ましい。一方、使用量の下限は、1当量が好ましく、1.5当量がより好ましい。使用量が1当量より少ないと、反応が十分に進行せず、使用量が10当量よりも多いと、反応性が低下する傾向がある。
【0023】
本発明で使用するケイ酸塩としては特に限定されず、分子式MO・nSiO(ここで、Mは金属、nはモル比を示す)で表される。該ケイ酸塩は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のケイ酸塩が好ましい。中でも、反応性が高く、入手が容易という観点から、アルカリ金属のケイ酸塩であるケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムが好ましい。ケイ酸塩は市販の製品を使用することができ、固形であっても水溶液であっても良い。ケイ酸塩を使用すると、反応系内は弱塩基性となり、生成したエポキシ化合物のエポキシ基が加水分解しにくく、高い収率を達成することができる。
【0024】
ケイ酸塩の使用量は反応条件等によって異なり、特に限定されないが、オレフィン化合物の炭素−炭素二重結合1当量に対して、0.001当量〜2当量が好ましい。使用量の上限は2当量が好ましく、0.5当量がより好ましい。一方、使用量の下限は、0.001当量が好ましく、0.01当量がより好ましい。使用量が0.001当量より少ないと、反応性が低下するおそれがあり、使用量が2当量よりも多いとエポキシの加水分解が起きやすくなり、また、反応終了後の分離精製が困難となる為、収率が低下するおそれがある。
【0025】
次に、反応条件について説明する。
本発明では、反応溶媒を使用することもできる。反応溶媒は特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドのようなアミド;1,2−ジメトキエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、水との混和性と安価に入手できるという点で、アルコール溶媒が好ましい。反応溶媒の使用量は特に限定されないが、オレフィン化合物100重量部に対して、10重量部〜1000重量部が好ましい。10重量部より少ないと、基質が上手く系内で混和せず反応性が低下する傾向がある。また、1000重量部より多いと、系内の反応基質の濃度が低下し、反応速度が低下する傾向がある。
【0026】
反応温度は特に限定されないが、本願発明では比較的低温で反応させることができる。反応温度は、0℃〜100℃が好ましく、特に20℃〜80℃が好ましく、さらに好ましくは20℃〜45℃が好ましい。100℃を超えると、過酸化水素の分解や、生成したエポキシの加水分解が促進される傾向がある。0℃未満であると、十分な反応速度が得られず、反応が完全に進行しない傾向がある。
【0027】
反応時間は、反応スケール等により異なるが、通常1〜72時間の範囲から選択でき、2〜24時間がより好ましい。
【0028】
本発明では、ニトリル化合物とケイ酸塩の存在下、オレフィン化合物と過酸化水素を反応させる。これらの化合物の添加順序は特に限定されないが、通常の反応では、まずオレフィン化合物とニトリル化合物を反応溶媒中で混合し、ここにケイ酸塩を加え、混合物の温度に注意しながら過酸化水素水を滴下し、撹拌する。反応後、必要に応じてケイ酸塩をろ過除去し、水洗、濃縮等の通常の操作を行ってエポキシ化合物を得る。
【0029】
ケイ酸塩がすべて溶解している必要はなく、撹拌により反応液中に分散していればよい。また、本願発明では過酸化水素が速やかにエポキシ化反応に消費されるので、必要量の過酸化水素を一度に添加しても系中の過酸化水素濃度が上昇しすぎることはないが、数回に分けて添加することも、連続的に添加することもできる。
【0030】
本願発明によれば、ケイ酸塩を使用することにより、炭酸ナトリウムを使用する場合と比較して過酸化水素の反応速度が上昇し、過酸化水素が速やかにエポキシ化反応に消費される。このため、反応時間の短縮、系中の過酸化水素濃度の低減、過酸化水素の分解の抑制、系内の過酸化水素の分解による酸素の発生の抑制、過酸化水素の使用量の低減、反応後の残留過酸化物の分解工程が不要、より低い反応温度、等の利点がある。このため、より安全に反応を行うことができ、また、系中の過酸化水素濃度が低いのでSUS容器を反応容器として使用することができる。SUS容器としては、SUS304、304L、316、316Lなどのステンレス鋼製の容器が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0032】
(ガスクロマトグラフィー(GC))
島津製作所社製GC−2010を用いた。
(反応の終了)
島津製作所社製のGC−2010により、反応率(エポキシ化率)が95%以上となった時点を反応の終点とした。
(過酸化物濃度)
反応混合物中の過酸化物濃度は、以下の方法で求めた。o−フェナントロリンを指示薬とし、第二硫酸セリウム溶液で滴定を行った。赤色が青色となる点を滴定の終点とした(第二セリウム法)。
(全塩素含量)
生成物の全塩素含量は、JIS K 7243−3に準拠して測定した。
(反応率)
島津製作所社製GC−2010を用いてGC測定を行い、原料(オレフィン化合物)と生成物(エポキシ化合物)の面積比率から反応率を算出した。
【0033】
(実施例1)
還流冷却器、窒素吹き込み管、温度計を備えた1LのSUS製4つ口フラスコにペンタエリスリトールテトラアリルエーテル148g(0.5mol)、メタノール200g(6.25mol)、アセトニトリル164.2g(4mol)、及び、ケイ酸ナトリウム(キシダ化学製)61g(0.5mol)を仕込み、内温を40℃に調整しながら、35%過酸化水素水388.6g(4mol)を撹拌しながら滴下ロートにて5時間かけてゆっくりと滴下し、その後、4時間撹拌し反応させた。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.27%であった。その後トルエンで抽出を行った後、水洗で過酸化物を除去後濃縮することで、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルを収率62%、GC純度98.2%で得た。また、得られたペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルの全塩素含量は120ppmであった。
【0034】
(実施例2)
還流冷却器、窒素吹き込み管、温度計を備えた1LのSUS製4つ口フラスコにトリメチロールプロパントリアリルエーテル127.2g(0.5mol)、メタノール200g(6.25mol)、アセトニトリル123.1g(3mol)、及び、ケイ酸ナトリウム(キシダ化学社製)45.8g(0.38mol)を仕込み、内温を40℃に調整しながら、35%過酸化水素水291.4g(3mol)を撹拌しながら滴下ロートにて5時間かけてゆっくりと滴下し、その後、8時間撹拌し反応させた。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.21%であった。その後トルエンで抽出を行った後、水洗で過酸化物を除去後濃縮することで、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルを収率80%、GC純度95.4%で得た。また、得られたトリメチロールプロパントリグリシジルエーテルの全塩素含量は200ppmであった。
【0035】
(実施例3)
還流冷却器、窒素吹き込み管、温度計を備えた1LのSUS製4つ口フラスコに1,4−シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル112.2g(0.5mol)、メタノール176g(5.5mol)、アセトニトリル102.6g(2.5mol)、及び、ケイ酸ナトリウム(キシダ化学社製)61g(0.5mol)を仕込み、内温を40℃に調整しながら、35%過酸化水素水194.3g(2mol)を撹拌しながら滴下ロートにて5時間かけてゆっくりと滴下し、その後、6時間撹拌し反応させた。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.18%であった。その後トルエンで抽出を行った後、水洗で過酸化物を除去後濃縮することで、1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルを収率85.5%、GC純度99.4%で得た。また、得られた1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルの全塩素含量は210ppmであった。
【0036】
(実施例4)
還流冷却器、窒素吹き込み管、温度計を備えた1LのSUS製4つ口フラスコに1,7−オクタジエン121.2g(1.1mol)、メタノール160g(5mol)、アセトニトリル185g(4.5mol)、及び、ケイ酸ナトリウム(キシダ化学社製)61g(0.5mol)仕込み、内温を40℃に調整しながら、35%過酸化水素水408g(4.2mol)を撹拌しながら滴下ロートにて5時間かけてゆっくりと滴下し、その後、8時間撹拌し反応させた。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.09%であった。その後トルエンで抽出を行った後、水洗で過酸化物を除去後濃縮することで、1,7−オクタジエンジエポキサイドを収率55%、GC純度97.0%で得た。また、得られた1,7−オクタジエンジエポキサイドの全塩素含量は140ppmであった。
【0037】
(実施例5)
実施例1におけるアセトニトリル164.2g(4mol)をベンゾニトリル417.5g(4mol)に変更した以外は同様の条件で実施した。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.26%であった。ベンゾニトリルに変更したことにより、副生成物として結晶性のベンズアミドが析出したが、分離精製することで、目的とするペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルを収率50.2%、GC純度96.9%で得た。また、得られたペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルの全塩素含量は420ppmであった。
【0038】
(実施例6)
実施例1におけるケイ酸ナトリウム(キシダ化学社製)61g(0.5mol)を27%ケイ酸カリウム水溶液(キシダ化学社製)285.7g(0.5mol)に変更した以外は同様の条件で実施した。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.12%であった。その後トルエンで抽出を行った後、水洗で過酸化物を除去後濃縮することでペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルを収率59.8%、GC純度98.5%で得た。また、得られたペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルの全塩素含量は190ppmであった。
【0039】
(実勢例7)
実施例1における反応温度を25℃に変更した以外は同様の条件で実施したところ、追加で8時間反応させることで反応は完結した。反応終了時の系内の過酸化物濃度は0.17%であった。その後トルエンで抽出を行った後、水洗で過酸化物を除去後濃縮することでペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルを収率57.4%、GC純度97.9%で得た。また、得られたペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルの全塩素含量は130ppmであった。
【0040】
(比較例1)
実施例1におけるケイ酸ナトリウムを炭酸ナトリウム(キシダ化学社製)42g(0.5mol)に、加える過酸化水素量を485.8g(5mol)に変更し、それ以外は同様の条件で実施したところ、過酸化水素の滴下終了後9時間反応させることで反応は完結した。反応終了時の系内の過酸化物濃度は2.54%であった。その後トルエンで抽出を行った後、10%亜硫酸ナトリウム水溶液50gで残留過酸化物の分解を行った後、水洗することでペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルを収率55.0%、GC純度98.2%で得た。また、得られたペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルの全塩素含量は210ppmであった。
【0041】
(比較例2)
実施例7におけるケイ酸ナトリウムを炭酸ナトリウム(キシダ化学社製)42g(0.5mol)に変更し同様の条件で実施したところ、過酸化水素の滴下終了後14時間反応させた時点でそれ以上の反応が進行しなくなってしまった。反応が停止した時点での反応率は45.6%であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、系内の過酸化水素濃度を低く維持し、過酸化水素の分解による酸素の発生を抑制するので、エポキシ化反応を安全に行うことができる。また、SUS容器中でエポキシ化反応を行うことができ、しかも煩雑な後処理の必要がないので、工業化に適している。また、エピクロロヒドリンを縮合させる方法と比較して、反応系内に塩素を含まないため、電子材料分野において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン化合物と過酸化水素を、ニトリル化合物とケイ酸塩の存在下で反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ケイ酸塩が、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムから選択される少なくとも1つである請求項1に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ニトリル化合物が、アセトニトリル、プロピオニトリル及びベンゾニトリルから選択される少なくとも1つである請求項1又は2に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項4】
アルコール溶媒存在下で反応させる請求項1から3のいずれか1項に記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2012−36115(P2012−36115A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176377(P2010−176377)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000214250)ナガセケムテックス株式会社 (173)
【Fターム(参考)】