説明

酸化物セラミックスの前処理材

【課題】 酸化物セラミックスを接着性組成物を介して被接合物に接合するに際して、予め該酸化物セラミックスの接合面に塗布しておく前処理材において、高い接着性を有するものを開発すること。
【解決手段】 a)一般式(1)
【化1】


(式中、R1は水素原子又はアルキル基を示し、R2はアルキレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rはアルキル基を示す。)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を少なくとも80質量%以上含有する重合性単量体とb)有機溶媒部を含んでなる酸化物セラミックスの前処理材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物セラミックスに対する前処理材に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科医療において、う蝕歯あるいは欠損歯の修復を目的にシリカを主成分としたセラミックス製歯科用補綴物をレジンセメント等の歯科用セメントで歯質と接合させることが行われる。その際には、該シリカを主成分としたセラミックスと歯科用セメントの接着性を高めるため、一般にシランカップリング剤を主成分とする前処理材(セラミックス用プライマー)が用いられている。
【0003】
例えば、シランカップリング剤と、分子内に少なくとも1個のラジカル重合可能なオレフィン性二重結合を有する酸性型有機リン化合物を構成要素とする歯科用前処理材が提案されている(特許文献1、2)。この歯科用前処理材では、上記酸性型有機リン化合物が、シランカップリング剤を活性化させ、セラミックス表面のシラノール基の縮合を促進する触媒として働いている。
【0004】
歯科用セラミックスの分野に着目した場合、より高強度なオールセラミックスの歯科用補綴物材料として酸化ジルコニウム或いは酸化アルミニウム等の酸化物セラミックスを素材としたものが普及しつつある。これらの酸化物セラミックス材料に関しては、一般的なオールセラミックス用前処理材であるシランカップリング剤による処理では十分な接着強度が得られていない。これは、一般的に用いられている歯科用セラミックス材料がシリカを主成分としたものであり、その表面には多数のシラノール基を有しているため、上記シランカップリング剤とは良好な反応性を有しているのに対して、酸化ジルコニウム或いは酸化アルミニウム等の酸化物セラミックスはこうした反応性の高いシラノール基は有していないことが原因と考えられ、新たな作用機構を有する新規な酸化物セラミックス用前処理材が求められていた。
【0005】
一方、歯科用セメント(特許文献3)や歯冠材料・義歯床用材料(特許文献4)の分野において、少なくとも2つのカルボニル基を有する重合性化合物が用いられている。これは歯質との接着性或いは患者の口腔内に対する低刺激性を目的としたものであり、本発明の酸化物セラミックスに対する前処理材とは全く異なる目的に用いられたものであった。
【0006】
【特許文献1】特開昭63−51308号公報
【特許文献2】特開平07−277913号公報
【特許文献3】特開平05−255034号公報
【特許文献4】特開平11−335222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、酸化物セラミックスを接着性組成物を介して被接合物に接合するに際して、予め該酸化物セラミックスの接合面に塗布しておく前処理材において、上記酸化物セラミックスと接着性組成物との高い接着性を実現可能なものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を克服すべく鋭意検討を重ねたところ、特定構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体と有機溶媒とを含んでなる前処理材組成物を、予め酸化物セラミックスの接合面に塗布しておくことで酸化物セラミックスと接着性組成物とを強固に接着させることが可能になること見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、酸化物セラミックスを接着性組成物を介して被接合物に接合するに際して、予め該酸化物セラミックスの接合面に塗布しておく前処理材であって、
a)一般式(1)
【0010】
【化1】

【0011】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2はアルキレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rはアルキル基を示す。)
で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を少なくとも80質量%以上含有する重合性単量体成分100質量部
b)有機溶媒100〜999900質量部
を含んでなる酸化物セラミックスの前処理材である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の前処理材を、予め酸化物セラミックスの接合面に塗布しておくことにより、該酸化物セラミックスと接着性組成物とを強固に接着させることができる。したがって、該酸化物セラミックスからなる歯科用補綴物を、レジンセメント等の歯科用セメントを用いて歯質に接合する際に好適に使用でき、その場合、該歯科用補綴物と歯科用セメントとの接着力を大きく向上させることができ、これに起因して、歯科用補綴物と歯質とを強固に接合させることが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の前処理材は、a)一般式(1)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2はアルキレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rはアルキル基を示す。)
で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を少なくとも80質量%以上含有する重合性単量体成分を含むことが必須である。
【0016】
一般式(1)の(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体は、ラジカル重合可能な(メタ)アクリル基とメチレン基を介して隣接する2つのカルボニル基を有するという特徴を有している。この構造と酸化物セラミックスに対する良好な接着性との因果関係は明らかではないが、酸化物表面にキレートする等の作用により良好な接着性が発現している可能性が考えられる。
【0017】
前記一般式(1)中のR1は、水素原子又はメチル基である。
【0018】
また、前記一般式(1)中のR2はアルキレン基である。該アルキレン基としては、上記と同様の理由により、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、1,2−ジメチルエチレン基及びヘキサメチレン基等の炭素数が1〜6のアルキレン基、さらにメチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、1−メチルトリメチレン基、1,2−ジメチルエチレン基等の炭素数1〜4のアルキレン基であることが好ましい。
【0019】
また、前記一般式(1)中のR3は、水素原子又はアルキル基を示す。該アルキル基は特に制限されないが、前処理材として必要な性状、即ち、接着力に及ぼす影響を勘案すると、炭素数が1〜6のアルキル基、さらに1〜4のアルキル基であることが好ましく、さらに好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、さらにはメチル基、エチル基等の1〜2のアルキル基であることが特に好ましい。R3は、水素原子又はメチル基であるのが最も好ましい。
【0020】
さらに、前記一般式(1)中のRは、アルキル基を示す。該アルキル基は、上記R3で示したものが同様に採用できる。
【0021】
本発明で好適に使用できる一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体としては、前記一般式(1)において、R1が水素原子またはメチル基であり、R2が炭素数1〜6のアルキレン基であり、R3が水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基であり、R4が炭素数1〜6のアルキル基であるもの、特に好適なものとしてR1が水素原子またはメチル基であり、R2が炭素数1〜4のアルキレン基であり、R3が水素原子又はメチル基であり、R4が炭素数1〜4のアルキル基であるものが挙げられる。
【0022】
本発明において特に好ましく用いられる一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を具体的に例示すると次の通りである。
【0023】
【化3】

【0024】
上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体は、市販品されているものも存在するが、次のような2つの方法等により簡単に製造することも出来る。
【0025】
即ち、第1の方法として、対応するヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルを対応するカルボン酸と反応させて脱水縮合させることにより容易に製造することができる。該方法によれば、例えば、1モルの対応するヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルと1モルの対応するカルボン酸を、酸触媒、重合禁止剤とともに、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、エチルエーテル、テトラヒドロフラン等の有機溶液、好ましくはベンゼン、トルエン等の水と共沸する有機溶液、特にはトルエン等の水よりも沸点の高い有機溶液中で、加熱下で生成する水を留去しながら、もしくはモレキュラーシーブス、シリカゲル等の脱水剤の存在下、1〜20時間反応させた後に、炭酸ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム等を用いて乾燥後、溶剤を減圧留去することにより目的の(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体が得られる。
【0026】
また、もう1つの方法として、対応するヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステルをジケテンと反応させる{R.J.Clemens、Chemical Review,86,241(1986)}ことによっても得ることが出来る。該方法に準じて、例えば、1モルの対応するヒドロキシアルキル(メタ)アクリル酸エステル、トリエチルアミン等の塩基性触媒をヘキサン、トルエン、クロロホルム、エチルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等の有機溶媒に溶解し、この液に0.9〜1.1モルのジケテンを、攪拌しながら滴下して加えて反応させ、次いでこの反応混合物を還流下で1〜20時間加熱し、冷却後、塩酸、硫酸、硝酸等の酸、水の順で洗浄し、硫酸ナトリウム等の脱水剤で乾燥した後、溶剤を減圧留去することにより目的の(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体が得られる。
【0027】
本発明の上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体は、1種の化合物を単独で用いることが出来るが、2種以上の化合物を組み合わせて用いることも可能である。
【0028】
本発明においては、重合性単量体成分として、上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を単独で用いることができるが、その効果を阻害しない範囲、即ち重合性単量体成分中20質量%以下、好適には15質量%以下であれば、その他の重合性単量体を配合することが可能である。他の成分としては、上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体と共重合可能な、上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体以外のラジカル重合性単量体等が挙げられる。
【0029】
上記その他の重合性単量体としては、上記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体以外であって、該重合性単量体と相溶性があり、重合性であれば何ら制限なく用いることができるが、好適に使用出来る重合性単量体としてはアクリロイル基及び/またはメタクリロイル基を有する重合可能な重合性単量体が挙げられ、この様な重合性単量体の具体例としては下記〔A−1〕〜〔A−4〕に示される各モノマーが挙げられる。
【0030】
〔A−1〕単官能性ビニルモノマー
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;あるいはアクリル酸、メタクリル酸、p−メタクリロイルオキシ安息香酸、N−2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル−N−フェニルグリシン、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、及びその無水物、6−メタクリロイルオキシヘキサメチレンマロン酸、10−メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、10−メタクリロイルオキシデカメチレンジハイドロジェンフォスフェート、2−ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフォネート等。
【0031】
〔A−2〕二官能性ビニルモノマー
〔A−2−1〕芳香族化合物系のもの
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン;およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
【0032】
〔A−2−2〕脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート;およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト;無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート等。
【0033】
〔A−3〕三官能性ビニルモノマー
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
【0034】
〔A−4〕四官能性ビニルモノマー
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加から得られるジアダクト等。
【0035】
また、特開平10−1409公報、特開平10−1473号公報、特開平8−113763号公報等に記載の、貴金属接着性モノマーを配合することも好適に採用出来る。
【0036】
これらの重合性単量体は単独で用いてもよいが、要求される物性に応じて複数の重合性単量体を同時に用いても良い。
【0037】
本発明で使用するb)有機溶媒は、前記一般式(1)で示されるメタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を溶解可能なものである限り特に限定されず、こうした性状を有する公知の有機溶媒を使用することが出来るが、具体的に例示すれば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のハイドロカーボン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中で、溶解性および揮発性等の理由で、アセトン、トルエン、エタノール等が特に好ましく使用される。
【0038】
上記の有機溶媒は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0039】
本発明の前処理材組成物において、かかるb)有機溶媒の配合量はa)成分である一般式(1)の(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を少なくとも80質量%以上含有する重合性単量体を100質量部とした時、100〜999900質量部であり、好ましくは900〜99900質量部である。有機溶媒の配合量が100質量部以下の場合には塗布した場合の皮膜厚さが厚くなりすぎ、999900質量部を超える場合にはa)成分である一般式(1)の(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体の割合が少なくなり過ぎること等から、接着力が低下する。
【0040】
また、本発明の前処理材には、種々の目的で、前処理材としての性能を損なわない範囲で上記した成分以外のものを配合することが可能である。このような成分としてはカップンリング材、重合開始剤、重合禁止剤、重合調整剤、紫外線吸収剤、金属塩、無機又は有機酸、充填材、増粘剤、染料、顔料、酸増殖剤、塩基増殖剤、抗菌剤等が例示される。
【0041】
本発明で任意成分として配合されるカップリング剤としては公知のものが制限なく使用できる。ここで、カップリング剤とは有機質材料と無機質材料とを化学的に結合し得る表面処理剤であり、その分子中に有機官能基と加水分解基をそれぞれ有している化合物からなる。
【0042】
この様なカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシランカップリング剤類、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート等のチタネート系カップリング剤類、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤類が挙げられる。
【0043】
これらカップリング剤のなかでも、特に、接着性及び取扱い性の観点から重合基を有するシランカップリング剤が好適に使用される。ここで、重合基としては、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基が挙げられ、接着性の観点から特に(メタ)アクリロイルオキシ基が特に好ましい。
【0044】
好適に使用される重合基を有するシランカップリング剤を具体的に例示すると、γ−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−メタクリロイロキシデシルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイロキシプロピルペンタメチルジシロキサンが挙げられる。
【0045】
上記のカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
本発明の前処理材において、かかるカップリング剤の濃度は特に限定されないが、接着強度の観点から、前記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を少なくとも80質量%以上含有する重合性単量体成分を100質量部とした時、100質量部以下、さらには40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0047】
本発明の前処理材を調製する方法については特に制限がなく、前記の各成分を混合し、均一になるまで攪拌混合すればよい。
【0048】
本発明の前処理剤は、酸化物セラミックスを接着性組成物を介して被接合物に接合するに際して制限なく使用でき、その場合に、予め該酸化物セラミックスの接合面に塗布しておくことにより、酸化物セラミックスを接着性組成物の接着力を大きく向上させ、結果として、該酸化物セラミックスと被接合物とを強固に接合することを可能にする。一般には、歯科用度において、酸化物セラミックス製の歯科用補綴物を、レジンセメント等の歯科用セメントを用いて歯質に接合する際に好適に使用される。
【0049】
前処理の対象とする酸化物セラミックスとしては、酸素を酸化数−2の状態で含む酸素と金属元素からなる化合物が挙げられる。酸化物を構成する金属元素は特に限定されず任意の金属元素を選択することが出来る。これらの金属元素は、単独で用いることもできるが、複数の金属元素を含むことも出来る。
【0050】
好適な金属元素を例示するならば、リチウム、ナトリウム、カリウム等の1A族;マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等の2A族;イットリウム、ランタン等の3A族;チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の4A族、およびアルミニウム、インジウム等の3B族、シリコン、ゲルマニウム等の4B族、リン、砒素等の5B族等が挙げられる。中でも、毒性が少ないことや本発明の前処理材組成物の効果が高い点で、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等の4A族、およびアルミニウム、インジウム等の3B族の金属元素を主成分とするものがより好ましく、酸化物とした時の強度が高い点で、ジルコニウム及びアルミニウムが最も好ましい。
【0051】
前処理剤の使用方法は、酸化物セラミックス表面に塗布した後、有機溶媒を揮発させ、その後該酸化物セラミックス表面に接着性組成物を盛って、さらに被接合物に接合する方法が好適に採用できる。
【0052】
ここで、接着性組成物の中でも、(メタ)アクリル系重合性単量体、および重合開始剤を主成分とする重合性組成物が好ましい。この重合性組成物に使用する(メタ)アクリル系重合性単量体としては、前記した〔A−1〕〜〔A−4〕で示したようなものを始めとした公知のものが制限なく使用できる。さらには、こうした(メタ)アクリル系重合性組成物は、フィラーを含有させて歯科用セメントとしたものが特に好適である。
【0053】
上記前処理材の酸化物セラミックス表面への塗布量は、特に制限されるものではないが、通常は、スポンジ等の塗布具を用いて一層塗布することにより実施すればよい。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に示すが、本発明はこの実施例によって何等限定されるものではない。
【0055】
次に実施例中に使用した化合物の略称または構造を下に示す。
(1)略称または構造
a)重合性単量体
AAEM:2−アセトアセトキシエチルメタクリレート
AAPM:2−アセトアセトキシプロピルメタクリレート
GMA:2,2−ビス[4(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
PM:PM;2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物
b)有機溶媒
EtOH:エタノール
AC:アセトン
c)その他
MPS: γ−メタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン
(2)前処理材を用いた酸化物セラミックスに対する接着強さ
酸化物セラミックスとして酸化アルミニウム及び酸化ジルコニウムを用い、これを#1500の耐水研磨紙で研磨し、その処理面に接合面積を固定するために3mmφの穴を開けた粘着テープを貼り付けた。接合面に実施例または比較例の前処理材をそれぞれ筆で塗布し、溶媒を風乾させた後、該接合面に歯科用接着性レジンセメント(ビスタイトII、(株)トクヤマデンタル社製)を用いて、予め研磨した8mmφ×18mmのSUS304製丸棒を接着した。接着試験片を37℃水中に浸漬し、24時間後、水中より取り出し、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強さを測定した。各々6個の試験片の測定値を平均し、測定結果とした。接着強さの試験において、接合面の破壊形態は目視で評価を行い、レジンセメントが残っている割合をセメント凝集破壊率と表記した。セメント凝集破壊率が高い程、本発明の前処理材が関与する界面の接着強さが強いことを意味する。
【0056】
実施例1
1gの重合性単量体AAEMを9gの有機溶媒アセトンに溶解させ、これを前処理材とした。上記試験方法に従い、該前処理材の酸化物セラミックスに対する接着強度を調べた。その結果、酸化アルミニウムに対して20.5MPa(セメント凝集破壊率90%)、酸化ジルコニウムに対して20.3MPa(セメント凝集破壊率90%)の接着強度を示した。
【0057】
実施例2〜8
表1に記載した組成の前処理材を作製し、それぞれ上記試験方法に従い、酸化物セラミックスに対する接着効果を調べた。それぞれ良好な接着性を有していることが明らかになった。
【0058】
比較例1
前処理材を用いなかった以外は、実施例1と同様に酸化物セラミックスに対する接着強度を測定した。接着力は、酸化アルミニウムに対して14.6MPa(セメント凝集破壊率30%)、酸化ジルコニウムに対して13.4MPa(セメント凝集破壊率20%)であった。
【0059】
比較例2〜5
一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を用いなかった以外は、実施例1と同様に酸化物セラミックスに対する接着強度を測定した。それぞれ、実施例と比較して接着強度が低かった。
【0060】
比較例6
有機溶媒を用いなかった以外は、実施例1と同様に酸化物セラミックスに対する接着強度を測定した。実施例と比較して接着強度が低かった。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例9
通法に従って作製した酸化アルミニウム製歯科用補綴物の接合面に実施例1記載の前処理材を塗布し、溶媒を完全に乾燥させた。他方、被接合物である歯質に歯科用接着性レジンセメント(ビスタイトII、(株)トクヤマデンタル社製)に付属の歯面プライマーを塗布した後、よく乾燥させた。前処理材を塗布した酸化アルミニウム製歯科用補綴物の接合面に歯科用接着性レジンセメント(ビスタイトII、(株)トクヤマデンタル社製)を塗布した後、歯面前処理材処理した歯質に接合させた。良好な接合性を示し、臨床成績も良好であった。
【0063】
実施例10
歯科用補綴物を酸化ジルコニウム製のものとした以外は、実施例9と同様に歯質に対する接合性を試験した。結果は、良好な接合性を示し、臨床成績も良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物セラミックスを接着性組成物を介して被接合物に接合するに際して、予め該酸化物セラミックスの接合面に塗布しておく前処理材であって、
a)一般式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2はアルキレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示し、Rはアルキル基を示す。)
で示される(メタ)アクリル酸エステル系重合性単量体を少なくとも80質量%以上含有する重合性単量体成分100質量部
b)有機溶媒100〜999900質量部
を含んでなる酸化物セラミックスの前処理材。
【請求項2】
酸化物セラミックスが歯科用補綴物であり、接着性組成物が(メタ)アクリル系重合性単量体、および重合開始剤を主成分とする重合性組成物であり、被接合物が歯質である請求項1記載の酸化物セラミックスの前処理材。
【請求項3】
請求項1記載の前処理材、および(メタ)アクリル系重合性単量体および重合開始剤を主成分とする重合性組成物からなる歯科用補綴物の歯質への接着用キット。

【公開番号】特開2007−238498(P2007−238498A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62739(P2006−62739)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】