説明

酸化物共晶体の製造方法

【課題】単結晶組織サイズが微細で且つ均一化された酸化物共晶体を製造できる酸化物共晶体の製造方法及び酸化物共晶体を提供すること。
【解決手段】2種以上の酸化物の融液を収容するルツボ内に設置したダイ1を用いて酸化物共晶体を製造する酸化物共晶体の製造方法であって、ダイ1に形成された経路2を通って吸い上げられ、融液配置面1a上に配置された融液3に種結晶14を接触させる種結晶接触工程と、種結晶14を引き上げ、酸化物共晶体15を得る種結晶引上げ工程とを含み、種結晶引上げ工程が、種結晶14を回転させる種結晶回転工程を含む酸化物共晶体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物共晶体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジェットエンジンなどで使用されるタービンブレードは、極めて高温に曝される部材であり、非常に高い耐熱性が求められる。現在、タービンブレードの材料として、主にNi基超合金が使用されている。
【0003】
一方、ジェットエンジンは、燃焼室をより高い温度にして運転することにより燃焼効率を高めることができ、このことが省エネルギー化にもつながる。しかも、ジェットエンジンの運転温度は、最大出力時で約1500℃ほどになり、今後さらなる上昇傾向にあると見られる。
【0004】
しかし、Ni基超合金は、サーマルバリアコーティングを施しても、1500℃以上の温度で使用することが困難である。
【0005】
そこで、Ni基超合金に代わる新たな超高温材料が必要とされており、その候補の一つとして酸化物共晶体が知られている。酸化物共晶体は、共晶を構成する2種類以上のセラミックス相がそれぞれ単結晶として凝固成長し、これらのセラミックス相が単結晶のまま互いに絡み合って存在しているマトリクス構造を有するものである。
【0006】
このような酸化物共晶体の製造方法として、例えば、いわゆるEFG(Edge-defined Film -fed Growth)法を用いて酸化物共晶体を製造する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0007】
特許文献1には、種結晶を、ルツボ内の共晶性融液の表面に接触させて、溶融フィルムを形成し、種結晶を上方に引き上げることによって溶融フィルムを方向性固化させ共晶性ファイバを形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3770404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上述した特許文献1に記載の製造方法は、タービンブレードなどの構造部材を製造できる程度に十分大きな酸化物共晶体を作製する場合には以下の課題を有していた。
【0010】
すなわち、特許文献1に記載の製造方法は、タービンブレードなどの構造部材を製造できる程度に十分大きな酸化物共晶体を作製すると、作製された酸化物共晶体の外側部分よりも中心部分において単結晶組織のサイズが大きくなる。このため、作製された酸化物共晶体を1500℃以上の高温下で使用すると、酸化物共晶体の中心部分の強度が低下し、その結果、酸化物共晶体において亀裂が生じるおそれがあった。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化された酸化物共晶体を製造できる酸化物共晶体の製造方法及び酸化物共晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題が生じる原因について検討した。その結果、タービンブレードなどの構造部材を製造できる程度に十分大きな酸化物共晶体を作製する場合、ルツボ内の共晶性融液の表面に種結晶を接触させて引き上げる際、共晶性融液の外側部分で冷却速度が大きくなり、共晶性融液の中心部分で冷却速度が小さくなり、その結果、得られる酸化物共晶体の外側部分よりも中心部分において単結晶組織のサイズがより大きくなるのではないかと本発明者らは考えた。そこで、本発明者らはさらに鋭意検討を重ねた結果、ダイによって吸い上げられた2種以上の酸化物の融液に種結晶を接触させた後、種結晶を引き上げる際に種結晶を回転させることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、2種以上の酸化物の融液を収容するルツボ内に設置したダイを用いて酸化物共晶体を製造する酸化物共晶体の製造方法であって、前記ダイに形成された経路を通って吸い上げられ、前記ダイの融液配置面上に配置された前記融液に種結晶を接触させる種結晶接触工程と、前記種結晶を引き上げ、前記酸化物共晶体を得る種結晶引上げ工程とを含み、前記種結晶引上げ工程が、前記種結晶を回転させる種結晶回転工程を含む酸化物共晶体の製造方法である。
【0014】
この製造方法によれば、ダイに形成された経路を通って吸い上げられ、ダイの融液配置面上に配置された2種以上の酸化物の融液に種結晶を接触させ、種結晶を引き上げる。このとき、種結晶とダイの融液配置面との間の融液は次のような状態にある。すなわち、融液のうち種結晶近傍の部分は冷却により固化されているのに対し、融液のうちダイの融液配置面近傍の部分は溶融状態にある。このとき、種結晶とダイの融液配置面との間の融液は外側部分で冷却速度が大きく、中心部分で冷却速度が小さい。つまり、融液の外側部分の方が中心部分よりも温度が低くなっている。この状態で、種結晶を回転させると、融液が捩れる。その結果、融液のうち温度が高い中心部分が、温度が低い外側部分に導かれることとなる。このため、融液の中心部分の温度が低下し、中心部分の温度と外側部分の温度との差が小さくなる。すなわち、中心部分と外側部分とで冷却速度の差が小さくなる。このため、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化された酸化物共晶体を製造することができる。
【0015】
上記種結晶回転工程においては、前記種結晶の回転速度が10rpm以上であることが好ましい。
【0016】
この場合、種結晶の回転速度が10rpm未満である場合に比べて、単結晶組織サイズがより均一化された酸化物共晶体を製造することができる。
【0017】
また本発明は、上述した酸化物共晶体の製造方法により得られる酸化物共晶体である。
【0018】
この酸化物共晶体によれば、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化される。このため、酸化物共晶体の中心部分の強度の低下を十分に抑制できる。従って、この酸化物共晶体を1500℃以上の高温下で使用しても、酸化物共晶体において亀裂が生じることを十分に防止することができる。
【0019】
なお、本発明において、「融液配置面」とは、経路に接続され且つ融液を配置させる面であり且つダイの経路を形成する部材の端面を意味し、ダイの経路が複数の部材によって構成される場合には、各部材の端面の集合体をも意味するものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化された酸化物共晶体を製造できる酸化物共晶体の製造方法及び酸化物共晶体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る酸化物共晶体の製造方法の一実施形態に使用するダイを示す切断面端面図である。
【図2】図1のダイを示す平面図である。
【図3】図1のダイを収容したルツボを示す切断面端面図である。
【図4】ルツボを加熱する装置の一例を示す切断面端面図である。
【図5】図3のダイを収容したルツボにおいて、混合粉末を溶解させた状態を示す切断面端面図である。
【図6】図5のダイを収容したルツボにおいて、ダイの融液配置面上に配置した融液に種結晶を接触させた状態を示す図である。
【図7】図6のダイを収容したルツボによって形成された育成結晶を引き上げている状態を示す図である。
【図8】本発明に係る酸化物共晶体の製造方法の他の実施形態において種結晶を引き上げている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る酸化物共晶体の製造方法の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の酸化物共晶体の製造方法の一実施形態に使用するダイを示す切断面端面図である。
【0023】
(ダイ準備工程)
まず図1に示すようにダイ1を準備する。ダイ1は、原料となる2種以上の酸化物の融液を吸い上げることができるものであればよい。例えばダイ1は、原料となる2種以上の酸化物の融液を配置させる融液配置面1aと、融液配置面1aと反対側にあって融液が吸い込まれる融液吸込面1bと、融液配置面1aと融液吸込面1bとを結ぶように形成される2以上のスリット2とを有する。スリット2は、原料となる2種以上の酸化物の融液を吸い上げるためのものである。ここで、融液配置面1aは平坦面となっている。融液吸込面1bは通常は平坦面であるが、平坦面でなくてもよい。
【0024】
図2は、図1のダイを示す平面図である。図2に示すように、2以上のスリット2は融液配置面1aにおいて互いに平行に配列されている。2以上のスリット2同士の間隔gは好ましくは0.1mm〜3mmであり、より好ましくは0.3mm〜2mmである。スリット2同士の間隔gが上記範囲内にあると、上記範囲を外れる場合と比較して、各スリット2から突出した融液同士が合体しやすくなる。またスリット2の幅(最大幅)wは好ましくは0.1mm〜3mmであり、より好ましくは0.3mm〜2mmである。スリット2の幅wが上記範囲内にあると、上記範囲を外れる場合と比較して、各スリット2からダイ1の融液配置面1aにまで吸い上げられた融液同士が合体しやすくなる。
【0025】
ダイ1は、平行に配置される複数枚の板状部材1cと、隣り合う板状部材1cの縁部同士を接合する接合部1dとによって構成され、スリット2は、隣り合う板状部材1cとそれらを接合する接合部1dとよって形成されている。ここで、接合部1dは、板状部材1cの融液配置面1a側の端部から、融液吸込面1b側の端部まで連続して設けられてもよいし、複数の接合部で構成され、これらが所定の間隔で不連続に設けられていてもよい。なお、ダイ1において、接合部1dは必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。
【0026】
ダイ1は、酸化物共晶体の原料となる酸化物の融点よりも高い融点を有する材料、例えばイリジウム、タングステン,モリブデン,レニウムで構成される。
【0027】
(収容工程)
図3は、図1のダイを収容したルツボを示す切断面端面図である。図3に示すように、ダイ1を準備した後は、ダイ1をルツボ3に収容する。このとき、ダイ1の融液吸込面1bがルツボ3の底面3aに対向するようにダイ1をルツボ3に収容する。またダイ1は、融液吸込面1bがルツボ3の底面3aと離間するようにルツボ3に収容される。これは原料となる2種以上の酸化物の混合粉末の融液をダイ1の融液吸込面1bから吸い上げやすくするためである。
【0028】
続いて、酸化物共晶体の原料となる2種以上の酸化物の混合粉末4をルツボ3に収容する。ここで、2種以上の酸化物としては、例えばY、Sc、Zr、Fe、Co、Ni、Ga、Al、Mg、Ba、Be、Ca、Sr、Ti、Ta、Nb、Hf、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、LuおよびThからなる群より選択される少なくとも2種の元素の酸化物が用いられる。酸化物としては、ダイ1との濡れ性が良好である酸化物が好ましい。この場合、毛細管現象による融液の吸い上げが起こり易くなるとともに、各スリット2からダイ1の融液配置面1aにまで吸い上げられた融液同士が合体しやすくなる。ここで、「濡れ性が良好である」とは、酸化物の融液を、ダイ1と同一の材料で構成された部材の平坦面に滴下した場合の接触角が5°以下となることを言う。
【0029】
次に、ルツボ3に、ダイ1を貫通させる開口6aが形成された蓋6を設ける。蓋6を設けるのは、ダイ1を固定したり、蓋6より下のルツボ3内の温度勾配を緩くしたり、混合粉末4の溶解によって得られる融液が蒸発によって流出することを抑制したりするためである。なお、蓋6は必ずしもルツボ3に設けなくてもよい。
【0030】
(溶融工程)
次に、ルツボ3を加熱して混合粉末4を溶融させる。
【0031】
図4は、ルツボ3を加熱する装置の一例を示す切断面端面図、図5は、図3のダイ1を収容したルツボ3において、混合粉末4を溶解させた状態を示す切断面端面図である。図4に示すように、加熱装置7は、筒状の気密用石英管8と、その内側に設けられる断熱性を有する筒状の保温材9と、保温材9の内側に収容される保温用セラミック粉末10と、保温材9を支持する支持台11と、気密用石英管8を巻回するように設けられる高周波コイル12とを備えている。
【0032】
この加熱装置7において、高周波コイル12に電流を流すと、ルツボ3を介して混合粉末4が溶解して融液13となる(図5参照)。このとき、融液13は、毛細管現象により、ダイ1の融液吸込面1bから、2以上のスリット2によって融液配置面1aまで吸い上げられる。そして、図5に示すように、ダイ1の複数のスリット2の各々からダイ1の融液配置面1aにまで吸い上げられた融液13同士は融液配置面1a上において広がり互いに合体する。
【0033】
(種結晶接触工程)
図6は、図5のダイ1を収容したルツボ3において、合体した融液に種結晶を接触させた状態を示す切断面端面図である。ダイ1の2以上のスリット2の各々からダイ1の融液配置面1aにまで吸い上げられた融液13同士を合体させた後は、図6に示すように、合体した融液13に種結晶14を接触させる。種結晶14としては、育成する共晶体と同組成の共晶体であることが望ましいが,サファイア等でも構わない。
【0034】
(種結晶引上げ工程)
図7は、図6のダイ1を収容したルツボ3によって形成された育成結晶を引き上げている状態を示す切断面端面図である。合体した融液13に種結晶14を接触させた後は、図7に示すように、種結晶14を矢印Aの方向に引き上げる。すると、種結晶14とダイ1の融液配置面1aとの間に酸化物共晶体(育成結晶)15が得られる。種結晶14の引上げ速度は、好ましくは10〜1000mm/hであり、より好ましくは200〜1000mm/hである。種結晶14の引上げ速度が上記範囲内にあると、10mm/h未満である場合に比べて、酸化物共晶体15をより効率よく形成することができる。また1000mm/hを超える場合に比べて、酸化物共晶体15の太さが減少することをより抑制することができる。
【0035】
種結晶14を引き上げている際、種結晶14とダイ1の融液配置面1aとの間の融液は次のような状態にある。すなわち、融液13のうち種結晶14の近傍の部分は冷却により固化しているのに対し、融液13のうちダイ1の融液配置面1a近傍の部分は溶融状態にある。このとき、種結晶14とダイ1の融液配置面1aとの間の融液13は外側部分で冷却速度が大きく、中心部分で冷却速度が小さい。つまり、融液13の外側部分の方が中心部分よりも温度が低くなっている。
【0036】
(種結晶回転工程)
そこで、種結晶14を引き上げている間、種結晶14を図7の矢印B方向に回転させる。すなわち、種結晶14は、種結晶14の引上げ方向(図7の矢印A方向)を回転軸にして回転させる。
【0037】
すると、融液13が捩れる。その結果、融液13のうち温度が高い中心部分が、温度が低い外側部分に導かれることとなる。このため、融液13の中心部分の温度が低下し、中心部分の温度と外側部分の温度との差が小さくなる。すなわち、中心部分と外側部分とで冷却速度の差が小さくなる。このため、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化された酸化物共晶体を製造することができる。
【0038】
種結晶14を回転させる場合、種結晶14の回転速度は0rpmより大きければよいが、10rpm以上であることが好ましく、20rpm以上であることがより好ましい。種結晶14の回転速度が10rpm以上であると、種結晶14の回転速度が10rpm未満である場合に比べて、単結晶組織サイズがより均一化された酸化物共晶体を製造することができる。
【0039】
但し、種結晶14の回転速度は100rpm以下であることが好ましい。この場合、種結晶14の回転速度を100rpm超とする場合に比べて、万が一ダイ1と育成結晶15とが固着した際の装置や治具の損傷を軽減しやすくなる。
【0040】
種結晶14の回転開始のタイミングは、種結晶14の引上げ開始時点と同時でもよく、種結晶14の引上げ開始時点よりも後であってもよいが、種結晶14の引上げ開始時点よりも後であることが好ましい。融液13の温度制御が適切でないと、回転開始後、種結晶14と融液13とがセパレートしてしまうことがある。このため、回転せずに種結晶14を引上げ、種結晶14と融液13とがセパレートしないことを確認した後、種結晶14を回転させながら引上げた方が良い。
【0041】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、ダイ1の融液配置面1aが平坦面となっているが、ダイ1の融液配置面1aは、図8に示すように、凸面となっていてもよい。上記実施形態では、融液配置面1aが平坦面であるため、外側の方が中央部よりも冷却されやすく、融液配置面1aにおいて中央部の温度は外側部分の温度よりも高くなる。これに対し、融液配置面1aが凸面であると、以下の利点が得られる。すなわち、種結晶14により融液13が引き上げられると、引き上げられた融液13は冷却されることとなる。このとき、融液配置面1aが凸面であると、冷却された融液13によって融液配置面1aの中心部分が外側部分よりもより冷却されやすくなる。
【0042】
その結果、融液配置面1aにおいて中心部分の温度と外側部分の温度との差を、融液配置面1aが平坦面である場合に比べてより小さくすることができる。すなわち、酸化物共晶体15の外側部分の冷却速度と中心部分の冷却速度との差をより小さくすることが可能となる。このため、得られる酸化物共晶体15において、単結晶組織サイズがより微細で且つより均一化された酸化物共晶体15を得ることが可能となり、酸化物共晶体15の強度がより大きく且つより均一化された酸化物共晶体15を得ることが可能となる。なお、凸面の形状は、半球状、階段状や、円錐状、四角錐状等の先端が尖っている形状であってもよい。但し、得られる酸化物共晶体15の強度の均一性を向上させるためには、凸面の形状は、半球状であることが好ましい。
【0043】
また本発明に係る酸化物共晶体の製造方法によって得られる酸化物共晶体は、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化されるため、1500℃以上の高温下での使用にも耐えることが可能である。したがって、本発明の製造方法によって得られる酸化物共晶体は、ジェットエンジンで使用されるタービンブレードや、火力発電所で使用されるタービンブレードなどの高温で高い強度を要求される用途に極めて有用である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
まずイリジウムロッドを束ね、稠密に並べてロッド束を得た後、このロッド束を、ダイを貫通させる開口が形成されたイリジウム製の蓋の開口に挿入して固定した。そして、このロッド束の先端面を融液配置面とし、この融液配置面が凸面となるように融液配置面を研削機で丸め、ダイを得た。
【0046】
次に、上記のようにして得たダイをイリジウム製のルツボに収容した。
【0047】
一方、原料として、Al粉末およびY粉末を質量比で66:34の割合となるように乾式混合し、上記ルツボ内に収容した。
【0048】
次に、ルツボを、図4に示す加熱装置7の保温材9に収容した。このとき、ルツボが、保温材9に収容されたZrOからなる保温用セラミックスバブルで囲まれるようにした。
【0049】
次に、ルツボの外側の雰囲気を窒素雰囲気とし、雰囲気の圧力は大気圧とした。
【0050】
次に、高周波コイルに電流を流すことによってルツボを加熱し、上記混合粉末を溶解させた。
【0051】
これにより、混合粉末の融液は、ダイの融液吸込面から、複数のスリットを経て融液配置面まで吸い上げられ、ダイの複数のスリットの各々からダイの融液配置面にまで吸い上げられた融液はダイの融液配置面上において広がり互いに合体した。
【0052】
次に、作製しようとする酸化物共晶体と同一の組成を有する種結晶を、合体した融液に接触させた後、まずは種結晶を回転させずに引き上げた。その後、種結晶をゆっくり回転させ、5分かけて回転速度が2rpmとなるように回転速度を調節した。このとき、種結晶は、180mm/hの速度で2時間引き上げた。
【0053】
こうしてAl/Yからなる酸化物共晶体を得た。
【0054】
(実施例2)
種結晶の回転速度を2rpmから10rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にしてAl/Yからなる酸化物共晶体を得た。
【0055】
(実施例3)
種結晶の回転速度を2rpmから30rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にしてAl/Yからなる酸化物共晶体を得た。
【0056】
(比較例1)
種結晶の回転速度を2rpmから0rpmに変更したこと以外は実施例1と同様にしてAl/Yからなる酸化物共晶体を得た。
【0057】
[特性評価]
(単結晶組織サイズ)
実施例1〜3及び比較例1で得られた酸化物共晶体について、回転軸に直交するように切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electronic Microscope)にて観察し、単結晶組織サイズを測定した。このとき、単結晶組織サイズは、切断面の外側部分および中心部分において測定した。結果を表1に示す。なお、ラメラ状になっているAlおよびY粉の領域を楕円形に近似し、長径と短径の平均値を算出し、これを20点ほど測定し、それら測定値の平均値を単結晶組織サイズとした。
【表1】

【0058】
表1に示す結果より、実施例1〜3で得られた酸化物共晶体では、酸化物共晶体の中心部分における単結晶組織サイズと酸化物共晶体の外側部分における単結晶組織サイズとの差が十分に小さく、酸化物共晶体において単結晶組織サイズが均一であることが分かった。また酸化物共晶体では、外側部分及び中心部分のいずれにおいても十分に微細な単結晶組織サイズが得られていることが分かった。
【0059】
これに対し、比較例1で得られた酸化物共晶体では、酸化物共晶体の外側部分における単結晶組織サイズよりも、酸化物共晶体の中心部における単結晶組織サイズの方が顕著に大きく、酸化物共晶体において単結晶組織サイズが不均一であることが分かった。また酸化物共晶体では、外側部分においては十分に微細な単結晶組織サイズが得られていたものの、中心部分では十分に微細な単結晶組織サイズが得られないことが分かった。
【0060】
以上より、本発明の酸化物共晶体の製造方法によれば、単結晶組織サイズが微細で且つ均一化された酸化物共晶体を製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
1…ダイ
1a…融液配置面
2…経路
3…ルツボ
13…融液
14…種結晶
15…酸化物共晶体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の酸化物の融液を収容するルツボ内に設置したダイを用いて酸化物共晶体を製造する酸化物共晶体の製造方法であって、
前記ダイに形成された経路を通って吸い上げられ、融液配置面上に配置された前記融液に種結晶を接触させる種結晶接触工程と、
前記種結晶を引き上げ、前記酸化物共晶体を得る種結晶引上げ工程とを含み、
前記種結晶引上げ工程が、前記種結晶を回転させる種結晶回転工程を含む酸化物共晶体の製造方法。
【請求項2】
前記種結晶回転工程において、前記種結晶の回転速度が10rpm以上である請求項1に記載の酸化物共晶体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により得られる酸化物共晶体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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