説明

酸化物触媒の製造方法

【課題】焼成工程中に焼成温度よりも低い融点を有する化合物を生成する酸化物触媒に関
して、粒子形状を維持したまま焼成器内における固着を低減(抑制)することにより、優
れた性能を有する(目的生成物の収率の高い)触媒を、大量かつ効率良く製造する方法を
提供すること。
【解決手段】触媒前駆体を焼成器に供給し、触媒構成元素の金属酸化物の融点以上の温度
で焼成する工程を含む酸化物触媒の製造方法であって、
前記焼成工程中に前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を一時的に焼成温度
よりも低い温度にする低温処理工程を含む、酸化物触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒構成元素の金属酸化物の融点以上の焼成温度で焼成する工程を含む酸化
物触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロピレン又はイソブチレンのアンモ酸化反応によって(メタ)アクリロニトリ
ルを製造する方法や、プロピレン又はイソブチレンの酸化反応によって(メタ)アクリル
酸を製造する方法が知られている。最近、プロピレン又はイソブチレンを用いるそのよう
な方法に代わって、プロパン又はイソブタンの気相接触アンモ酸化反応によって(メタ)
アクリロニトリルを製造する方法や、プロパン又はイソブタンの気相接触酸化反応によっ
て(メタ)アクリル酸を製造する方法が着目されている。
【0003】
これまでに、上記反応に用いられる触媒として、モリブデン(Mo)、バナジウム(V
)、ニオブ(Nb)、テルル(Te)及び/又はアンチモン(Sb)を含む酸化物触媒が
種々提案されている。例えば、特許文献1には、Mo−V−Nb−Teを含む酸化物触媒
が開示されており、特許文献2には、Mo−V−Nb−Sbを含む酸化物触媒が開示され
ている。これらの触媒は、その製造工程中の焼成方法が触媒性能を左右することが知られ
ており、上記特許文献には、その焼成方法が詳細に記載されている。特許文献3には、鉄
、アンチモン及びリンを含む金属酸化物触媒を再生するための焼成工程において、触媒の
固結や粒子同士の付着による作業性の悪化を防ぐために、触媒床に気体を導入する流動式
焼成が好ましいことが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2002−320853号公報
【特許文献2】特開2003−170044号公報
【特許文献3】特開平7−328447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が実際に、触媒床に気体を導入する流動式焼成により、モリブ
デン、アンチモンを含む酸化物触媒を焼成すると、触媒の固結や粒子同士の付着を防止し
きれないという問題が生じた。
特に、本発明者がロータリーキルンを用いて連続式焼成を行ったところ、酸化物触媒及
び触媒前駆体等が固着物として大量に付着することによって触媒の収量が減少するという
問題が生じた。また、大量に付着した固着物が、焼成器内の粉体への伝熱を悪化させ、時
間の経過と共に焼成温度が低下した。さらに、固着物の層が厚くなることで、流動する粉
体の炉内滞留時間が実質的に短くなり、適当な条件下での焼成ができず、得られる触媒の
性能が悪化した。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、焼成工程中に焼成温度よりも低い
融点を有する化合物を生成する酸化物触媒に関して、粒子形状を維持したまま焼成器内に
おける固着を低減(抑制)することにより、優れた性能を有する(目的生成物の収率の高
い)触媒を、大量に、かつ効率良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を行った結果、金属酸化物の融点が焼
成温度より低い構成元素を触媒が含む場合に、酸化物触媒及び触媒前駆体等が溶融して、
焼成器の内壁に固着することが明らかになった。そして、このような触媒を製造する場合
に、焼成工程中に触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を一時的に焼成温度よりも低い
温度にする低温処理工程を行うことにより、焼成器内の固着が顕著に低減され、その結果
、優れた性能を有する触媒を、大量に、かつ、効率良く製造できることを見い出し本発明
を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
触媒前駆体を焼成器に供給し、触媒構成元素の金属酸化物の融点以上の焼成温度で焼成
する工程を含む酸化物触媒の製造方法であって、
前記焼成工程中に前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を一時的に前記焼成
温度よりも低い温度にする低温処理工程を含む、酸化物触媒の製造方法。
[2]
前記低温処理工程において、前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を10℃
以上低下させる、上記[1]記載の酸化物触媒の製造方法。
[3]
前記低温処理工程において、前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を50℃
以上低下させる、上記[1]記載の酸化物触媒の製造方法。
[4]
前記低温処理工程において、前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を100
℃以上低下させる、上記[1]記載の酸化物触媒の製造方法。
[5]
前記焼成工程において前記焼成器に衝撃を加える工程をさらに含む、上記[1]〜[4
]のいずれか記載の酸化物触媒の製造方法。
[6]
前記低温処理工程において前記焼成器に衝撃を加える工程をさらに含む、上記[1]〜
[4]のいずれか記載の酸化物触媒の製造方法。
[7]
前記焼成工程は、前段焼成と、前記前段焼成後に行われる本焼成とを含む、上記[1]
〜[6]のいずれか記載の酸化物触媒の製造方法。
[8]
前記本焼成を550〜800℃の温度範囲で行う、上記[7]記載の酸化物触媒の製造
方法。
[9]
前記前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、前記本焼成を580〜750℃の
温度範囲で行う、上記[7]又は[8]記載の酸化物触媒の製造方法。
[10]
前記本焼成中に低温処理工程を行う、上記[7]〜[9]のいずれか記載の酸化物触媒
の製造方法。
[11]
前記焼成器に触媒前駆体を連続的に供給して、連続式焼成により焼成を行う、上記[1
]〜[10]のいずれか記載の酸化物触媒の製造方法。
[12]
前記酸化物触媒がMoと、Sb及び/又はTeとを含む、上記[1]〜[11]のいず
れか記載の酸化物触媒の製造方法。
[13]
前記酸化物触媒がMo、V、Nbを含み、Mo1原子当たりのV、Nbの原子比をそれ
ぞれa、bとしたときに、0.1≦a≦1、0.01≦b≦1、を満たす、上記[1]〜
[12]のいずれか記載の酸化物触媒の製造方法。
[14]
前記酸化物触媒がシリカに担持されており、前記シリカの質量が前記酸化物触媒と前記
シリカの全質量に対し、SiO換算で10〜80質量%である、上記[1]〜[13]
のいずれか記載の酸化物触媒の製造方法。
[15]
上記[1]〜[14]のいずれか記載の製造方法により得られた酸化物触媒にプロパン
又はイソブタンを接触させ、気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に供する工程を含
む、不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、触媒前駆体を焼成する工程において焼成器内に発生する固着を顕
著に低減することができ、その結果、優れた性能を有する触媒を、大量に、かつ、効率良
く製造することが可能となる。
また、本発明の製造方法により得られた酸化物触媒は、優れた触媒性能を有しているた
め、プロパンもしくはイソブタンの気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に用いるこ
とで、対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリル(例えば、(メタ)アクリル酸、(
メタ)アクリロニトリル)を高収率で安定的に製造することができる。
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明
する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内
で種々変形して実施することができる。
【0011】
[酸化物触媒の製造方法]
本実施の形態の酸化物触媒の製造方法は、触媒前駆体を焼成器に供給し、触媒構成元素
の金属酸化物の融点以上の焼成温度で焼成する工程を含む酸化物触媒の製造方法であって
、前記焼成工程中に前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を一時的に前記焼成
温度よりも低い温度にする低温処理工程を含む、製造方法である。
【0012】
本実施の形態において、「酸化物触媒」とは、1種以上の金属成分の酸化物を含有する
触媒を言う。また、「触媒前駆体」とは、酸化物触媒の製造工程で生成する化合物を言い
、後述する原料調合工程及び乾燥工程を経て得られるものを示し、さらに後述する焼成工
程が前段焼成と本焼成とからなる場合には、前段焼成を行った後の「前段焼成粉」も含ま
れる。本実施の形態において、「触媒構成元素の金属酸化物の融点」とは、酸化物触媒及
び/又は触媒前駆体に含まれる金属成分が単独酸化物(単一の金属成分と酸素の2成分の
みで形成される酸化物)を形成した時の融点を意味する。1種以上の金属成分が複数の組
成式の単独酸化物を形成する場合は、その中で最も低い融点を有する酸化物の融点を言う
ものとする。例えば、Phase Diagrams for Ceramists(A
merican Ceramic Society)によると、酸化モリブデンの融点:
MoO(818℃)、MoO(782±5℃)、酸化アンチモンの融点:Sb
(655℃)、Sb(525℃)であるから、触媒構成元素の金属酸化物の融点は
、モリブデンを含む場合は(782−5)℃とし、アンチモンを含む場合は525℃とし
、両方を含む場合は525℃とする。具体的には酸化物触媒がMo、Sb、V、Nbから
なり、焼成温度が650℃の場合、アンチモンの単独酸化物(五酸化二アンチモン)の融
点が焼成温度より低いため、本実施の形態の「触媒構成元素の金属酸化物の融点以上の温
度で焼成する」を満たす。なお同文献によると、酸化ニオブNbの融点は(151
0℃)、酸化バナジウムVの融点は(685℃)である。
【0013】
本実施の形態において「焼成温度」とは、焼成器内の酸化物触媒及び/又は触媒前駆体
が最も高温になる時の温度をいう。バッチ式焼成の場合、焼成温度は、酸化物触媒及び/
又は触媒前駆体に挿入した熱電対によって測定することができる。連続式焼成の場合、酸
化物触媒及び/又は触媒前駆体は焼成器内に堆積しながら流れており、焼成温度は、その
堆積している酸化物触媒及び/又は触媒前駆体に挿入した熱電対によって測定することが
できる。
【0014】
本実施の形態の、酸化物触媒及び/又は触媒前駆体は、焼成温度より低い融点を有する
化合物を形成する金属成分を含む。焼成工程において焼成温度より低い融点を有する化合
物が生成すると、焼成中にこれが溶融し、酸化物触媒及び触媒前駆体等を焼成器の内壁に
固着又は融着して塊を形成する。特に、連続式焼成ではこれが原因となって、伝熱の悪化
や滞留時間の減少、不安定な粉体の流れを引き起こし、所望の温度で安定に焼成すること
が困難となる。
【0015】
本実施の形態においては、焼成工程中に、触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を一
時的に焼成温度よりも低い温度にする低温処理を行うことで、焼成器内壁へ固着した塊に
亀裂を生じさせ、その後触媒前駆体を不活性ガス等と共に焼成器内に供給して焼成を継続
する際に、焼成器内壁から塊を容易に剥離させることが可能となる。低温処理を行うこと
で固着した塊に亀裂が生じる理由としては、焼成温度以下の温度に融点をもつ化合物の凝
固や、焼成器の収縮が要因となっていると推定される。
【0016】
さらに、本実施の形態の低温処理工程を含む酸化物触媒の製造方法は、焼成器内壁の固
着物を機械的に削ぎ落とす、砕く等の方法により触媒に直接接触する場合と比べて、触媒
の形状を良好に維持することができるという利点も有している。
【0017】
上記観点からは、「触媒構成元素の金属酸化物の融点以上の温度で焼成する」場合に限
らず、焼成工程中に生成する化合物が焼成温度以下の融点を有する場合にも、低温処理工
程を行うことで固着を防ぐ効果を奏する。しかしながら、焼成中に生成する化合物を全て
掌握するのは現実的ではないので、本実施の形態においては、本発明者の経験則に鑑み、
触媒構成元素の金属酸化物の融点が焼成温度以下か否かによって固着等の発生の指標とし
ている。
【0018】
ここで、低温処理工程における「一時的に」とは、固着した触媒前駆体及び/又は酸化
物触媒の塊に亀裂が入るのに十分な時間を意味し、触媒生産量、焼成期間、焼成温度、固
着速度・固着量、焼成温度を低下させる期間、焼成器内に堆積した触媒前駆体の深さ(粉
深)、焼成器の直径・長さ・肉厚・材質等により適宜調整することが可能である。温度を
下げ始めてから、再び昇温開始するまでの時間が、例えば内径300mm、長さ2500
mm、肉厚5mmのSUS製焼成管を使用する場合においては、通常10分〜200時間
、好ましくは20分〜96時間、より好ましくは30分〜48時間である。低温処理工程
終了後は、再び焼成温度まで昇温し焼成を継続する。
【0019】
また、低温処理を開始する時期としては特に限定されないが、焼成工程において焼成器
内に触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の固着が増加して十分な焼成温度が得られない、或
いは、生産量が確保できない等の問題が生じる前に行うのが好ましい。
【0020】
低温処理を行う頻度は、触媒生産量、焼成期間、焼成温度、固着速度・固着量、焼成温
度を低下させる期間、焼成器内に堆積した触媒前駆体の深さ(粉深)、焼成器の直径・長
さ・肉厚・材質等により適宜調整することが可能である。例えば内径300mm、長さ2
500mm、肉厚5mmのSUS製焼成管を使用する場合においては、好ましくは6ヶ月
に1回以上、より好ましくは3ヶ月に1回以上、さらに好ましくは1ヶ月に1回以上、特
に好ましくは2週間に1回以上である。
【0021】
低温処理工程における触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を低下させる方法は、一
般的な方法でよく、ヒーターの温度を低下させる、或いは、ヒーター電源を切る等の方法
を採用できる。低下温度は触媒生産量、連続焼成期間、焼成温度、固着速度・固着量と低
下させる期間等により適宜調整することができ、好ましくは10℃以上、より好ましくは
50℃以上、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは200℃以上低下させる。
固着した触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の塊を除去する観点からは、「触媒構成元素の
金属酸化物の融点」未満まで触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を低下させるのが好
ましいと推定される。しかし、焼成中には当該金属酸化物以外に、比較的融点の高いその
他の化合物も生成し得ることから、低温処理の温度が必ずしも当該金属酸化物の融点未満
にまで至らなくても、固着物を除去し易くする効果を得ることができる。特に、複数の金
属からなる酸化物触媒の焼成においては、この傾向が顕著である。降温速度は特に限定さ
れないが、焼成器が破損しない程度の降温速度ですばやく降温した方が塊に亀裂が生じや
すくなる傾向にあるため、好ましくは0.1〜50℃/分、より好ましくは0.5〜40
℃/分、さらに好ましくは1〜30℃/分の速度で降温する。
【0022】
低温処理中は触媒前駆体を供給し続けても良いが、焼成器の温度が低いと触媒前駆体は
焼成不十分となり、良好な性能の触媒とならない場合があるため、一度供給を停止し、低
温処理終了後に再度、触媒前駆体の供給を開始することが好ましい。
【0023】
また、焼成工程において焼成器に衝撃を加えると、固着した塊に亀裂を生じさせる効果
が高まる傾向にあり、特に、低温処理工程中に焼成器に衝撃を加えると、亀裂を生じた塊
が焼成器から容易に剥離する傾向にあるため好ましい。
【0024】
焼成器に加える衝撃は、焼成器内に供給する触媒前駆体の粉深や、焼成器の直径・長さ
・肉厚・材質、衝撃を加える装置の材質・種類・形状・位置、及び衝撃を加える頻度等に
依存するので、これらにより適切に設定することが好ましい。
【0025】
衝撃を加える箇所(以下、衝撃点とも言う。)における振動加速度は、焼成器内壁への
固着を十分に低減する観点から、好ましくは0.1m/s以上であり、より好ましくは
1m/s以上、さらに好ましくは5m/s以上、特に好ましくは10m/s以上で
ある。また、焼成器の破損を防止する、及び、焼成器内を流通する粉体の流れを乱さない
という観点からは、好ましくは3000m/s以下であり、より好ましくは1000m
/s以下であり、さらに好ましくは500m/s以下であり、特に好ましくは300
m/s以下である。
【0026】
本実施の形態において、焼成器に加える衝撃の「振動加速度」とは、焼成器全長Lに対
して、粉体流れ方向と平行に、焼成器粉体入口からL/4、3L/8、L/2の距離の位
置で測定した値の平均値を意味する。測定位置は、焼成器断面方向で衝撃点と同じ位置と
する。振動加速度の測定は焼成器に取り付けた振動計で測定できる。振動計としては、旭
化成テクノシステム(株)製MD220を用いることができる。
【0027】
衝撃を加える方法としては、特に限定されず、エアノッカー、ハンマー、ハンマリング
装置等を好適に用いることができる。打撃先端部の焼成器に直接触れる部分の材質として
は、十分な耐熱性を有する材質であれば特に限定されず、例えば、衝撃に耐えられる一般
的な樹脂、金属等を使用することができ、中でも、金属が好ましい。金属は焼成器を破損
、変形することのない程度の硬度を有するものが好ましく、銅製、SUS製のものを好適
に使用できる。衝撃を加える箇所も特に限定されず、操作上都合の良い場所で行うことが
できるが、衝撃を無駄なく焼成器に直接与えることができるため、焼成器の加熱炉で覆わ
れていない箇所に加えることが好ましい。
【0028】
衝撃を加える箇所は、1箇所でも複数箇所でもよい。振動を効率よく伝えるために、衝
撃は、回転軸に垂直な方向から加えることが好ましい。衝撃を加える頻度は特に限定され
ないが、焼成器内の固着がより良好に低減される傾向にあるため、焼成器に定常的に衝撃
を加えるのが好ましい。ここで、「定常的に衝撃を加える」とは、好ましくは1秒以上1
時間以下に1回、より好ましくは1秒以上30分以下に1回、さらに好ましくは1秒以上
5分以下に1回、特に好ましくは1秒以上1分以下に1回、衝撃を加えることを意味する
。衝撃を加える頻度は、振動加速度、焼成器内に供給する触媒前駆体の粉深、焼成器の直
径・長さ・肉厚・材質、衝撃を加える装置の材質・種類・形状に合わせて適宜調整するこ
とが好ましい。
【0029】
本実施の形態の製造方法で用いる焼成器の形状は特に限定されないが、管状であると、
連続的な焼成を実施することができる。焼成管の形状は特に限定されないが、円筒状であ
るのが好ましい。加熱方式は外熱式が好ましく、電気炉を好適に使用できる。焼成管の大
きさ、材質等は焼成条件や製造量に応じて適当なものを選択することができるが、内径が
、好ましくは70〜2000mm、より好ましくは100〜1200mm、長さが、好ま
しくは200〜10000mm、より好ましくは800〜8000mmのものを用いる。
【0030】
焼成器の肉厚としては、衝撃により破損しない程度の十分な厚みであれば特に限定され
ないが、好ましくは2mm以上であり、より好ましくは4mm以上である。また衝撃を焼
成器内部まで十分に伝えるという観点から、好ましくは100mm以下、より好ましくは
50mm以下である。材質は耐熱性を有し、かつ、衝撃により破損しない強度を有するも
のであれば特に限定されず、例えば、SUSを好適に用いることができる。
【0031】
本実施の形態の製造方法における焼成は、連続式焼成、バッチ式焼成のいずれでも構わ
ない。通常、連続式焼成によるとバッチ式焼成と比較して大量の触媒を製造することが可
能となるが、連続式焼成は、滞留時間や焼成温度のばらつき等が生じやすく、全ての触媒
前駆体を最適な焼成時間及び焼成温度で焼成し難くなる傾向がある。そのため、触媒の組
成や焼成温度が同じであっても、連続式焼成の場合には、バッチ式焼成と同等の収率を得
ることが困難となる場合がある。
【0032】
焼成を連続式で行う場合、触媒前駆体及び/又は酸化物触媒が通過するための穴を中心
部に有する堰板を、焼成器の中に触媒前駆体の流れと垂直に設けて焼成器を2つ以上の区
域に仕切ることもできる。堰板を設置することにより焼成器内滞留時間を確保しやすくな
る。堰板の数は1つでも複数でもよい。堰板の材質は金属が好ましく、焼成器と同じ材質
のものを好適に使用できる。堰板の高さは確保すべき滞留時間に合わせて調整することが
できる。例えば、内径150mm、長さ1150mmのSUS製の焼成器を有する回転炉
で250g/hrで触媒前駆体を供給する場合、堰板は好ましくは5〜50mm、より好
ましくは10〜40mm、さらに好ましくは13〜35mmである。堰板の厚みは特に限
定されず、焼成器の大きさに合わせて調整することが好ましい。例えば内径150mm、
長さ1150mmのSUS製の焼成器を有する回転炉の場合、好ましくは0.3mm以上
30mm以下、より好ましくは0.5mm以上15mm以下である。
【0033】
焼成工程においては、触媒前駆体の割れ、ひび等を防ぐと共に、均一に焼成するために
、焼成器を回転させるのが好ましい。焼成器の回転速度は、好ましくは0.1〜30rp
m、より好ましくは0.3〜20rpm、さらに好ましくは0.5〜10rpmである。
【0034】
乾燥触媒前駆体の焼成においては、400℃より低い温度から昇温を始めて、550〜
800℃の範囲内の温度まで、連続的に又は断続的に昇温するのが好ましい。
【0035】
焼成雰囲気は、空気雰囲気下もしくは空気流通下で実施することもできるが、焼成の少
なくとも一部を、窒素等の実質的に酸素を含まない不活性ガスを流通させながら実施する
ことが好ましい。
【0036】
焼成をバッチ式で行う場合は、不活性ガスの供給量は触媒前駆体1kg当たり、50N
リットル/hr以上、好ましくは50〜5000Nリットル/hr、さらに好ましくは5
0〜3000Nリットル/hrである(Nリットルは、標準温度・圧力条件、即ち0℃、
1気圧で測定したリットルを意味する)。焼成を連続式で行う場合は、不活性ガスの供給
量は触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル以上、好ましくは50〜5000Nリット
ル、好ましくは50〜3000Nリットルである(Nリットルは、標準温度・圧力条件、
即ち0℃、1気圧で測定したリットルを意味する)。この時、不活性ガスと触媒前駆体は
向流でも並流でも問題ないが、触媒前駆体から発生するガス成分や、触媒前駆体と共に微
量混入する空気を考慮すると、向流接触が好ましい。
【0037】
焼成工程は、一段でも実施可能であるが、触媒の還元率を、効率よく適正な範囲に調整
し易くなる傾向にあるため、本焼成の前に、前段焼成を行うのが好ましい。温度範囲とし
ては、前段焼成を250〜400℃で行い、本焼成を550〜800℃で行うことが好ま
しい。前段焼成と本焼成は連続して実施してもよいし、前段焼成を一旦完了してからあら
ためて本焼成を実施してもよい。また、前段焼成及び本焼成のそれぞれが数段に分かれて
いてもよい。前段焼成と本焼成に分けて焼成を行う場合は、本焼成において低温処理を行
うことが好ましい。
【0038】
前段焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度250℃〜400℃、好ましくは
300℃〜400℃の範囲で行う。250℃〜400℃の温度範囲内の一定温度で保持す
ることが好ましいが、250℃〜400℃範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降
温しても構わない。加熱温度の保持時間は30分以上、好ましくは3〜12時間である。
前段焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし、上又は下に凸なる
弧を描いて昇温してもよい。
【0039】
前段焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度としては、特に限定されないが、好
ましくは0.1〜15℃/min、より好ましくは0.5〜5℃/min、さらに好まし
くは1〜2℃/minである。
【0040】
本焼成は、好ましくは不活性ガス流通下、加熱温度550〜800℃、好ましくは58
0〜750℃、さらに好ましくは600〜720℃、特に好ましくは620〜700℃で
行う。620〜700℃の温度範囲内の一定温度で保持することが好ましいが、620〜
700℃の範囲内で温度が変動したり、緩やかに昇温、降温しても構わない。本焼成の時
間は0.5〜20時間、好ましくは1〜15時間である。なお、不活性ガス流通下の焼成
雰囲気には、所望により、酸化性成分(例えば酸素)又は還元性成分(例えばアンモニア
)を添加してもよい。本焼成温度に達するまでの昇温パターンは直線的に上げてもよいし
、上又は下に凸なる弧を描いて昇温してもよい。
【0041】
本焼成温度に達するまでの昇温時の平均昇温速度としては、特に限定されないが、好ま
しくは0.1〜15℃/min、より好ましくは0.5〜10℃/min、さらに好まし
くは1〜5℃/minである。
【0042】
本焼成終了後の平均降温速度は0.01〜1000℃/min、好ましくは0.05〜
100℃/min、より好ましくは0.1〜50℃/min、さらに好ましくは0.5〜
10℃/minである。また、本焼成温度より低い温度で一旦保持することも好ましい。
保持する温度は、本焼成温度より5℃、好ましくは10℃、さらに好ましくは50℃低い
温度である。保持する時間は、0.5時間以上、好ましくは1時間以上、さらに好ましく
は3時間以上、特に好ましくは10時間以上である。
【0043】
焼成器を堰板で区切る場合、触媒前駆体は少なくとも2つ、好ましくは2〜20、さら
に好ましくは4〜15の区域を連続して通過し、これらの区域はそれぞれ温度制御するこ
とができる。例えば、堰板を焼成器の加熱炉内に入る部分の長さを8等分するように7枚
設置し、8つの区域に仕切った焼成器を用いる場合、前記所望の焼成パターンを得るため
、以下のように調整することができる。前段焼成では焼成器内を滞留している触媒前駆体
の区域内中心部に挿入した熱電対の温度がそれぞれ、触媒前駆体の供給側から数えて、区
域1:100〜300℃、区域2:150〜350℃、区域3:250〜400℃、区域
4:250〜400℃、区域5:300〜400℃、区域6:300〜400℃、区域7
:310〜400℃、区域8:260〜400℃となるように調整することが好ましい。
より好ましくは、区域1:120〜280℃、区域2:180〜330℃、区域3:25
0〜350℃、区域4:270〜380℃、区域5:300〜380℃、区域6:300
〜390℃、区域7:320〜390℃、区域8:260〜380℃である。本焼成では
同様に、区域1:350〜600℃、区域2:400〜700℃、区域3:550〜70
0℃、区域4:550〜700℃、区域5:550〜700℃、区域6:450〜680
℃、区域7:450〜650℃、区域8:350〜600℃となるように調整することが
好ましい。より好ましくは、区域1:360〜560℃、区域2:450〜650℃、区
域3:600〜690℃、区域4:620〜690℃、区域5:580〜690℃、区域
6:480〜660℃、区域7:450〜630℃、区域8:370〜580℃である。
【0044】
[酸化物触媒]
本実施の形態の製造方法により得られる酸化物触媒としては、例えば、モリブデン、バ
ナジウム及びニオブを含む、下記の一般式(1)で示される化合物を挙げることができる

MoNb (1)
(式中、Xは、Te及びSbから選ばれる少なくとも1種以上の元素を示し、Yは、Mn
、W、B、Ti、Al、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類金属から選ばれる少
なくとも1種以上の元素を示し、a、b、c、d及びnは、それぞれ、V、Nb、X、Y
のモリブデン(Mo)1原子当たりの原子比を示し、0.1≦a≦1、0.01≦b≦1
、0.01≦c≦1、0≦d≦1であり、nは酸素以外の構成元素の原子価によって決定
される酸素原子の数を示す。)
【0045】
Mo原子当たりの原子比a、b、c、dは、それぞれ、0.1≦a≦1、0.01≦
b≦1、0.01≦c≦1、0≦d≦1であることが好ましく、0.1≦a≦0.5、0
.01≦b≦0.5、0.1≦c≦0.5、0.0001≦d≦0.5であることがより
好ましく、0.2≦a≦0.3、0.05≦b≦0.2、0.2≦c≦0.3、0.00
02≦d≦0.4であることがさらに好ましい。
【0046】
Moと、Sb及び/又はTeとを含有するものは、焼成器内で固着が発生し易く、本実
施の形態の製造方法を適用するのに好適な酸化物触媒である。
【0047】
触媒を流動床で用いる場合には、充分な強度が要求されるので、酸化物触媒はシリカ担
体に担持されていることが好ましい。酸化物触媒は、触媒構成元素の酸化物とシリカの全
質量に対し、SiO換算で、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは20〜60
質量%、さらに好ましくは30〜55質量%のシリカに担持されている。酸化物触媒を担
持しているシリカの量は強度と粉化防止、触媒を使用する際の安定運転の容易さ及びロス
した触媒の補充を低減する観点から、触媒構成元素の酸化物とシリカの全質量に対し10
質量%以上であるのが好ましく、十分な触媒活性を達成する観点から、触媒構成元素の酸
化物とシリカの全質量に対し80質量%以下であるのが好ましい。特に触媒を流動床で用
いる場合、シリカの量が80質量%以下であると、シリカに担持された触媒の比重が適切
で、良好な流動状態をつくり易い。
【0048】
本実施の形態の酸化物触媒の製造方法において、焼成器に供給される「触媒前駆体」は
、例えば、以下の原料調合工程及び乾燥工程を行うことにより得ることができる。なお、
焼成工程が前段焼成と本焼成とからなる場合には、前段焼成を行った後の「前段焼成粉」
も「触媒前駆体」に含まれる。
以下、各工程について説明する。
【0049】
(原料調合工程)
本工程は、金属成分を含有する原料を、水等の溶媒に溶解し混合することにより原料調
合液を得る工程である。
【0050】
金属成分を含有する原料としては、特に限定されず、例えば、下記の化合物を用いるこ
とができる。Moの原料としては、例えば、酸化モリブデン、ジモリブデン酸アンモニウ
ム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸が挙げられ
、中でも、ヘプタモリブデン酸アンモニウムを好適に用いることができる。Vの原料とし
ては、例えば、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジルが挙げら
れ、中でも、メタバナジン酸アンモニウムを好適に用いることができる。Nbの原料とし
ては、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩及びニオブの有機酸塩からなる群より選択される少な
くとも1種が挙げられ、中でも、ニオブ酸が好ましい。ニオブ酸はNb・nH
で表され、ニオブ水酸化物又は酸化ニオブ水和物とも称される。中でも、ニオブの原料が
ジカルボン酸とニオブ化合物とを含むものであり、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1〜
4のニオブ原料液を用いることが好ましい。その他の元素として、Teを添加する場合は
、Teの原料としてテルル酸を好適に用いることができ、Sbを添加する場合は、Sbの
原料としてアンチモン酸化物を好適に用いることができる。
【0051】
以下に、本工程を、Mo、V、Nb、Sbを含む原料調合液を調製する例により具体的
に説明する。
まず、ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、三酸化二アン
チモン粉末を水に添加し、80℃以上に加熱して混合液(A)を調製する。このとき、例
えば触媒がTeやBやCeを含む場合、テルル酸、ホウ酸、硝酸セリウムを同時に添加す
ることができる。
次に、ニオブ酸とシュウ酸を水中で加熱撹拌して混合液(B)を調製する。混合液(B
)は以下に示す方法で得られる。すなわち、水にニオブ酸とシュウ酸を加え、撹拌するこ
とによって水溶液又は水性懸濁液を得る。懸濁する場合は、少量のアンモニア水を添加す
るか、又は、加熱することによってニオブ化合物の溶解を促進することができる。次いで
、この水溶液又は水性懸濁液を冷却し、濾別することによってニオブ含有液を得る。冷却
は簡便には氷冷によって、濾別は簡便にはデカンテーション又は濾過によって実施できる
。得られたニオブ含有液にシュウ酸を適宜加え、好適なシュウ酸/ニオブ比に調製するこ
ともできる。シュウ酸/ニオブのモル比は、好ましくは2〜5であり、より好ましくは2
〜4である。さらに、得られたニオブ混合液に過酸化水素を添加し、混合液(B)を調製
してもよい。このとき、過酸化水素/ニオブのモル比は、好ましくは0.5〜20であり
、より好ましくは1〜10である。
次に、目的とする組成に合わせて、混合液(A)と混合液(B)を混合して、原料調合
液を得る。例えば触媒にWやMnを含む場合は、Wを含む化合物を好適に混合して原料調
合液を得る。Wを含む化合物としては、例えば、メタタングステン酸アンモニウムが好適
に用いられる。Mnを含む化合物としては、例えば、硝酸マンガンが好適に用いられる。
WやMnを含む化合物は混合液(A)の中に添加することもできるし、混合液(A)と混
合液(B)を混合する際に同時に添加することもできる。酸化物触媒がシリカ担体に担持
されている場合は、シリカゾルを含むように原料調合液は調製され、この場合、シリカゾ
ルは適宜添加することができる。
また、アンチモンを用いる場合は、混合液(A)又は調合途中の混合液(A)の成分を
含む液に、過酸化水素を添加することが好ましい。このとき、H/Sb(モル比)
は、好ましくは0.01〜5であり、より好ましくは0.05〜4である。またこのとき
、30℃〜70℃で、30分〜2時間撹拌を続けることが好ましい。このようにして得ら
れる触媒原料調合液は均一な溶液の場合もあるが、通常はスラリーである。
【0052】
(乾燥工程)
本工程は、上述の工程で得られた原料調合液を乾燥して、(乾燥)触媒前駆体を得る工
程である。乾燥は公知の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥又は蒸発乾固によって
行うことができるが、噴霧乾燥により微小球状の乾燥触媒前駆体を得ることが好ましい。
噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式、又は高圧ノズル方式によっ
て行うことができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気
を用いることができる。噴霧乾燥装置の乾燥機入口温度は150〜300℃が好ましく、
乾燥機出口温度は100〜160℃が好ましい。
【0053】
[不飽和酸及び不飽和ニトリルの製造方法]
本実施の形態の製造方法により得られた酸化物触媒を用いて、プロパン又はイソブタン
を分子状酸素と気相で反応(気相接触酸化反応)させて、対応する不飽和カルボン酸(ア
クリル酸又はメタクリル酸)を製造することができる。また、この触媒を用いて、プロパ
ン又はイソブタンをアンモニア及び分子状酸素と気相で反応(気相接触アンモ酸化反応)
させて、対応する不飽和ニトリル(アクリロニトリル又はメタクリロニトリル)を製造す
ることができる。
【0054】
プロパン又はイソブタン及びアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく
、工業グレードのガスを使用できる。供給酸素源としては、空気、純酸素又は純酸素で富
化した空気を用いることができる。さらに、希釈ガスとしてヘリウム、ネオン、アルゴン
、炭酸ガス、水蒸気、窒素等を供給してもよい。
【0055】
アンモ酸化反応の場合は、反応系に供給するアンモニアのプロパン又はイソブタンに対
するモル比は0.3〜1.5、好ましくは0.8〜1.2である。酸化反応とアンモ酸化
反応のいずれについても、反応系に供給する分子状酸素のプロパン又はイソブタンに対す
るモル比は0.1〜6、好ましくは0.1〜4である。
【0056】
また、酸化反応とアンモ酸化反応のいずれについても、反応圧力は0.5〜5atm、
好ましくは1〜3atmであり、反応温度は350℃〜500℃、好ましくは380℃〜
470℃であり、接触時間は0.1〜10(sec・g/cc)、好ましくは0.5〜5
(sec・g/cc)である。
【0057】
本実施の形態において、接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)×P
ここで、
W=触媒の質量(g)、
F=標準状態(0℃、1atm)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、
T=反応温度(℃)、そして
P=反応圧力(atm)である。
【0058】
反応方式は、固定床、流動床、移動床等の従来の方式を採用できるが、反応熱の除熱が
容易で触媒層の温度がほぼ均一に保持できること、触媒を反応器から運転中に抜き出した
り、触媒を追加することができる等の理由から、流動床反応が好ましい。
【実施例】
【0059】
以下に本実施の形態を、実施例と比較例によってさらに詳細に説明するが、本実施の形
態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
実施例と比較例においては、プロパン転化率、アクリロニトリル収率及びアクリル酸収
率は、それぞれ次の定義に従う。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数
)×100
アクリロニトリル収率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(供給したプ
ロパンのモル数)×100
アクリル酸収率(%)=(生成したアクリル酸のモル数)/(供給したプロパンのモル
数)×100
【0061】
(ニオブ原料液の調製)
以下の方法でニオブ原料液を調製した。水500kgにNbとして80.2質量
%を含有するニオブ酸76.33kgとシュウ酸二水和物〔H・2HO〕2
9.02gを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.0、仕込みのニオブ濃
度は0.532(mol−Nb/kg−液)であった。
この液を95℃で1時間加熱撹拌することによって、ニオブ化合物が溶解した水溶液を
得た。この水溶液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ化合物
水溶液を得た。同じような操作を数回繰り返して、得られたニオブ化合物水溶液を一つに
し、ニオブ原料液とした。このニオブ原料液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析に
より2.40であった。
るつぼに、このニオブ原料液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間
熱処理し、Nb0.8323gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.627(
mol−Nb/kg−液)であった。
300mLのガラスビーカーにこのニオブ原料液3gを精秤し、約80℃の熱水200
mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。得られた溶液をホットスターラー上で
液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnOを用いて滴定した。KMnO
によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量か
ら次式に従って計算した結果、1.50(mol−シュウ酸/kg)であった。
2KMnO+3HSO+5H→KSO+2MnSO+10CO
+8H
得られたニオブ原料液を、以下の酸化物触媒の製造においてニオブ原料液として用いた

【0062】
(実施例1)
組成式がMo0.22Nb0.095Sb0.25/42質量%−SiO
示される触媒を次のようにして製造した。
(原料調合液の調製)
水43.5kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4H
O〕を9.68kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を1.40kg、
三酸化二アンチモン〔Sb〕を1.99kg加え、攪拌しながら90℃で2.5時
間加熱して水性混合液A−1を得た。
上記ニオブ原料液8.74kgに、Hとして30質量%を含有する過酸化水素水
1.17kgを添加した。液温をおよそ20℃に維持し、攪拌混合して、水性液B−1を
得た。
得られた水性混合液A−1を70℃に冷却した後に、SiOとして30.4質量%を
含有するシリカゾル16.6kgを添加した。次いで、Hとして30質量%を含有
する過酸化水素水2.32kgを添加し、50℃で1時間撹拌混合した後、水性液B−1
を添加した。さらに、フュームドシリカ3.36kgを47.0kgの水に分散させた液
を添加して原料調合液を得た。
後述する「乾燥触媒前駆体の調製」工程及び「焼成」工程を連続式で行うために、本工
程を103回繰り返し、原料調合液を合計約2000kg調製した。
(乾燥触媒前駆体の調製)
得られた原料調合液を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥触媒前駆
体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、出口温度は120℃であった。
(焼成)
内径300mm、長さ2500mm、肉厚5mmのSUS製焼成管に、高さ85mmの
5枚の堰板を、加熱炉部分の長さを6等分するように設置した。この焼成管を3rpmで
回転させながら、乾燥触媒前駆体を3kg/hrの速度で流通し、70000Nリットル
/minの窒素ガス流通下、360℃まで約4時間かけて昇温し、360℃で3時間保持
する温度プロファイルとなるように加熱炉の温度を設定し、連続式で前段焼成することに
より前段焼成粉を得た。得られた前段焼成粉を、別の内径300mm、長さ2500mm
、肉厚5mmのSUS製焼成管で高さ85mmの7枚の堰板を、加熱炉部分の長さを6等
分するように設置した焼成管に、3rpmで回転させながら2.5kg/hrの速度で流
通し、焼成管の粉導入側部分(加熱炉に覆われていない部分)を、回転軸に垂直な方向か
ら打撃部先端がSUS製の重量2.5kgのハンマーを設置したハンマリング装置で回転
軸に垂直な方向で焼成管上部80mmの高さから30秒に1回打撃を加えながら、645
℃まで2℃/minで昇温し、645℃で2時間焼成し、1℃/minで降温する温度プ
ロファイルとなるように加熱炉の温度を設定し、連続式焼成を13日間継続した。このと
き、焼成管の振動加速度は30m/sであった。その後、加熱炉の電源を切り、前段焼
成粉の供給を停止し、触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を200℃低下させた。触
媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度が445℃まで低下し、さらに1hr経過後、再び
加熱炉の電源を入れ、加熱を中止する前の設定温度にして、前段焼成粉を2.5kg/h
rで供給して本焼成を再開した。低温処理の間もハンマリング装置での打撃は継続した。
本焼成中、安定した速度で酸化物触媒を得ることができた。
(触媒性能の評価)
[アンモ酸化反応]
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に、焼成再開後40hr経過した時に
焼成管出口から得られた酸化物触媒45gを充填し、反応温度440℃、反応圧力常圧下
にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:0.85:3.0:11のモル比の混合
ガスを接触時間3.1(sec・g/cc)で通過させた。触媒の性能を評価した結果、
プロパン転化率89.8%、アクリロニトリル収率53.4%であった。
[酸化反応]
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に、焼成再開後40hr経過した時に
焼成管出口から得られた酸化物触媒45gを充填し、反応温度420℃、反応圧力常圧下
にプロパン:酸素:ヘリウム=1:3.0:11のモル比の混合ガスを接触時間3.0(
sec・g/cc)で通過させた。触媒の性能を評価した結果、プロパン転化率81.2
%、アクリル酸収率46.2%であった。
【0063】
(実施例2)
焼成管に打撃を加えず、連続式焼成を3日間継続した後で低温処理を行ったこと以外は
実施例1と同様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。実施例1と同様に焼成再開
後40hr経過した時に焼成管出口から得られた酸化物触媒のアンモ酸化反応における性
能を評価をしたところ、プロパン転化率87.0%、アクリロニトリル収率52.5%で
あった。
【0064】
(実施例3)
触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を100℃低下させたこと以外は実施例1と同
様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度で酸化物触媒を
得ることができた。実施例1と同様に焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得
られた酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率9
0.1%、アクリロニトリル収率53.0%であった。
【0065】
(実施例4)
触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を300℃低下させたこと以外は実施例1と同
様に方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度で酸化物触媒を
得ることができた。実施例1と同様に焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得
られた酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率9
0.3%、アクリロニトリル収率53.6%であった。
【0066】
(実施例5)
組成式がMo0.22Nb0.095Sb0.250.02Ce0.007
/42質量%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(原料調合液の調製)
水42.3kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4H
O〕を9.43kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を1.34kg、
三酸化二アンチモン〔Sb〕を1.94kg、硝酸セリウム〔Ce(NO
6HO〕を0.164kg加え、攪拌しながら90℃で2.5時間加熱して水性混合液
A−1を得た。
上記ニオブ原料液8.51kgに、Hとして30質量%を含有する過酸化水素水
1.14kgを添加した。液温をおよそ20℃に維持し、攪拌混合して、水性液B−1を
得た。
得られた水性混合液A−1を70℃に冷却した後に、SiOとして30.4質量%を
含有するシリカゾル16.6kgを添加した。次いでHとして30質量%を含有す
る過酸化水素水2.25kgを添加し、50℃で1時間撹拌混合した後、水性液B−1を
添加した。続いて、WOとして50.2質量%を含有するメタタングステン酸アンモニ
ウム0.489kgを加え、さらに、フュームドシリカ3.36kgを47.0kgの水
に分散させた液を添加して原料調合液を得た。
後述する「乾燥触媒前駆体の調製」工程及び「焼成」工程を連続式で行うために、本工
程を103回繰り返し、原料調合液を合計約2000kg調製した。
(乾燥触媒前駆体の調製)
実施例1と同様の方法により噴霧乾燥を行い、乾燥触媒前駆体を得た。
(焼成)
実施例1と同様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度
で酸化物触媒を得ることができた。
(触媒性能の評価)
実施例1と同様の方法により、焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得られ
た酸化物触媒のアンモ酸化反応における触媒の評価をしたところ、プロパン転化率90.
5%、アクリロニトリル収率53.5%であった。
【0067】
(実施例6)
組成式がMo0.22Nb0.095Sb0.250.02/42質量%−
SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(原料調合液の調製)
水42.5kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4H
O〕を9.48kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を1.37kg、
三酸化二アンチモン〔Sb〕を1.95kg加え、攪拌しながら90℃で2.5時
間加熱して水性混合液A−1を得た。
上記ニオブ原料液8.55kgに、Hとして30質量%を含有する過酸化水素水
1.15kgを添加した。液温をおよそ20℃に維持し、攪拌混合して、水性液B−1を
得た。
得られた水性混合液A−1を70℃に冷却した後に、SiOとして30.4質量%を
含有するシリカゾル16.6kgを添加した。次いでHとして30質量%を含有す
る過酸化水素水2.27kgを添加し、50℃で1時間撹拌混合した後、水性液B−1を
添加した。続いて、WOとして50.2質量%を含有するメタタングステン酸アンモニ
ウム0.492kgを加え、さらに、フュームドシリカ3.36kgを47.0kgの水
に分散させた液を添加して原料調合液を得た。
後述する「乾燥触媒前駆体の調製」工程及び「焼成」工程を連続式で行うために、本工
程を103回繰り返し、原料調合液を合計約2000kg調製した。
(乾燥触媒前駆体の調製)
実施例1と同様の方法により噴霧乾燥を行い、乾燥触媒前駆体を得た。
(焼成)
実施例1と同様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度
で酸化物触媒を得ることができた。
(触媒性能の評価)
実施例1と同様に焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得られた酸化物触媒
のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率90.4%、アクリ
ロニトリル収率53.3%であった。
【0068】
(実施例7)
組成式がMo0.22Nb0.095Sb0.250.2Ce0.006
42質量%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(原料調合液の調製)
水41.0kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4H
O〕を9.14kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を1.32kg、
三酸化二アンチモン〔Sb〕を1.88kg、硝酸セリウム〔Ce(NO
6HO〕を0.136kg、ホウ酸〔HBO〕を0.642kg加え、攪拌しなが
ら90℃で2.5時間加熱して水性混合液A−1を得た。
上記ニオブ原料液8.25kgに、Hとして30質量%を含有する過酸化水素水
1.11kgを添加した。液温をおよそ20℃に維持し、攪拌混合して、水性液B−1を
得た。
得られた水性混合液A−1を70℃に冷却した後に、SiOとして30.4質量%を
含有するシリカゾル16.6kgを添加した。次いでHとして30質量%を含有す
る過酸化水素水2.19kgを添加し、50℃で1時間撹拌混合した後、水性液B−1を
添加した。続いて、WOとして50.2質量%を含有するメタタングステン酸アンモニ
ウム0.474kgを加え、さらに、フュームドシリカ3.36kgを47.0kgの水
に分散させた液を添加して原料調合液を得た。
後述する「乾燥触媒前駆体の調製」工程及び「焼成」工程を連続式で行うために、本工
程を103回繰り返し、原料調合液を合計約2000kg調製した。
(乾燥触媒前駆体の調製)
実施例1と同様の方法により噴霧乾燥を行い、乾燥触媒前駆体を得た。
(焼成)
実施例1と同様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度
で酸化物触媒を得ることができた。
(触媒性能の評価)
実施例1と同様の方法により焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得られた
酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率89.0
%、アクリロニトリル収率53.2%であった。
【0069】
(実施例8)
組成式がMo0.22Nb0.095Sb0.250.025Mn0.003
/42質量%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(原料調合液の調製)
水40.9kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4H
O〕を9.42kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を1.36kg、
三酸化二アンチモン〔Sb〕を1.94kg加え、攪拌しながら90℃で2.5時
間加熱して水性混合液A−1を得た。
上記ニオブ原料液8.50kgに、Hとして30質量%を含有する過酸化水素水
1.14kgを添加した。液温をおよそ20℃に維持し、攪拌混合して、水性液B−1を
得た。
得られた水性混合液A−1を70℃に冷却した後に、SiOとして30.4質量%を
含有するシリカゾル16.6kgを添加した。次いでHとして30質量%を含有す
る過酸化水素水2.25kgを添加し、50℃で1時間撹拌混合した後、水性液B−1を
添加した。続いて、硝酸マンガン〔Mn(NO・6HO〕0.045kg、WO
として50.2質量%を含有するメタタングステン酸アンモニウム0.613kgを加
え、さらに、フュームドシリカ3.36kgを47.0kgの水に分散させた液を添加し
て原料調合液を得た。
後述する「乾燥触媒前駆体の調製」工程及び「焼成」工程を連続式で行うために、本工
程を103回繰り返し、原料調合液を合計約2000kg調製した。
(乾燥触媒前駆体の調製)
実施例1と同様の方法により噴霧乾燥を行い、乾燥触媒前駆体を得た。
(焼成)
実施例1と同様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度
で酸化物触媒を得ることができた。
(触媒性能の評価)
実施例1と同様の方法により焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得られた
酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率88.8
%、アクリロニトリル収率53.1%であった。
【0070】
(実施例9)
触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を5℃低下させたこと以外は実施例1と同様の
方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。実施例1と同様の方法により焼成再開後40
hr経過した時に焼成管出口から得られた酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評
価をしたところ、プロパン転化率86.8%、アクリロニトリル収率52.6%であった

【0071】
(実施例10)
組成式がMo0.25Nb0.095Sb0.24Ce0.008/42質量
%−SiOで示される触媒を次のようにして製造した。
(原料調合液の調製)
水48.8kgにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH)6Mo24・4H
O〕を9.57kg、メタバナジン酸アンモニウム〔NHVO〕を1.57kg、
三酸化二アンチモン〔Sb〕を1.89kg、硝酸セリウム〔Ce(NO
6HO〕を0.190kg加え、攪拌しながら90℃で2.5時間加熱して水性混合液
A−1とした。
上記ニオブ原料液8.63kgに、Hとして30質量%を含有する過酸化水素水
1.16kgを添加した。液温をおよそ20℃に維持し、攪拌混合して、水性液B−1と
した。
得られた水性混合液A−1を70℃に冷却した後に、SiOとして30.4質量%を
含有するシリカゾル16.6kgを添加した。次いでHとして30質量%を含有す
る過酸化水素水2.20kgを添加し、50℃で1時間撹拌混合した後、水性液B−1を
添加した。さらに、フュームドシリカ3.36kgを47.0kgの水に分散させた液を
添加して原料調合液を得た。
後述する「乾燥触媒前駆体の調製」工程及び「焼成」工程を連続式で行うために、本工
程を103回繰り返し、原料調合液を合計約2000kg調製した。
(乾燥触媒前駆体の調製)
実施例1と同様の方法により噴霧乾燥を行い、乾燥触媒前駆体を得た。
(焼成)
実施例1と同様の方法により焼成を行い、酸化物触媒を得た。本焼成中、安定した速度
で酸化物触媒を得ることができた。
(触媒性能の評価)
実施例1と同様の方法により焼成再開後40hr経過した時に焼成管出口から得られた
酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率88.9
%、アクリロニトリル収率52.9%であった。
【0072】
(比較例1)
触媒前駆体及び/又は酸化物触媒の温度を低下させずに継続して後段連続焼成を行った
こと以外は実施例2と同様の方法により焼成を行った。5日運転後、焼成管出口から得ら
れた酸化物触媒のアンモ酸化反応における性能を評価をしたところ、プロパン転化率79
.3%、アクリロニトリル収率49.5%であった。
【0073】
(比較例2)
前段焼成粉を、475℃まで2℃/minで昇温し、475℃で2時間焼成し、12℃
/minで降温する温度プロファイルとなるように加熱炉温度を調整し、本焼成を行った
こと以外は、実施例2と同様の方法により酸化物触媒を得た。実施例1と同様に触媒性能
を評価をしたところ、プロパン転化率52.0%、アクリロニトリル収率24.8%であ
った。
【0074】
実施例及び比較例の焼成工程における各条件と、得られた酸化物触媒の組成及びプロパ
ン(PN)転化率、アクリロニトリル(AN)収率、アクリル酸(AA)収率を、表1及
び表2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
上記結果から、本実施の形態の製造方法(実施例1〜10)は、焼成工程中に、触媒前
駆体及び/又は酸化物触媒の温度を低下させる低温処理を行うことにより、焼成管内に発
生する固着を顕著に低減し、その結果、優れた性能を有する触媒を、大量に、かつ、効率
良く製造することが可能であった。
また、本実施の形態の製造方法により得られた酸化物触媒は、優れた触媒性能を有して
いるため、プロパンの気相接触アンモ酸化反応及び気相接触酸化反応に用いることで、対
応するアクリロニトリル及びアクリル酸を高収率で安定的に製造することができた。
これに対して、比較例1の製造方法は、焼成工程中に触媒前駆体及び/又は酸化物触媒
の温度を低下させずに連続して本焼成を行っているため、焼成管内壁への固着が増加し、
結果として得られた酸化物触媒の性能に劣っていた。
また、比較例2の製造方法は、焼成温度が低かったため、得られた酸化物触媒の性能が
劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明により、触媒前駆体を焼成する工程において焼成管内に発生する固着を顕著に低
減することができ、その結果、優れた性能を有する触媒を、大量に、かつ、効率良く製造
することが可能となる。
本発明の製造方法により得られた酸化物触媒は、優れた触媒性能を有しているため、プ
ロパンもしくはイソブタンから、対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリル(例えば
、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル)を製造する際の酸化物触媒としての
産業上利用可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒前駆体を焼成器に供給し、触媒構成元素の金属酸化物の融点以上の焼成温度で焼成
する工程を含む酸化物触媒の製造方法であって、
前記焼成工程中に前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を一時的に前記焼成
温度よりも低い温度にする低温処理工程を含む、酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
前記低温処理工程において、前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を10℃
以上低下させる、請求項1記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項3】
前記低温処理工程において、前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を50℃
以上低下させる、請求項1記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項4】
前記低温処理工程において、前記触媒前駆体及び/又は前記酸化物触媒の温度を100
℃以上低下させる、請求項1記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程において前記焼成器に衝撃を加える工程をさらに含む、請求項1〜4のい
ずれか1項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項6】
前記低温処理工程において前記焼成器に衝撃を加える工程をさらに含む、請求項1〜4
のいずれか1項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程は、前段焼成と、前記前段焼成後に行われる本焼成とを含む、請求項1〜
6のいずれか1項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項8】
前記本焼成を550〜800℃の温度範囲で行う、請求項7記載の酸化物触媒の製造方
法。
【請求項9】
前記前段焼成を250〜400℃の温度範囲で行い、前記本焼成を580〜750℃の
温度範囲で行う、請求項7又は8記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項10】
前記本焼成中に低温処理工程を行う、請求項7〜9のいずれか1項記載の酸化物触媒の
製造方法。
【請求項11】
前記焼成器に触媒前駆体を連続的に供給して、連続式焼成により焼成を行う、請求項1
〜10のいずれか1項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項12】
前記酸化物触媒がMoと、Sb及び/又はTeとを含む、請求項1〜11のいずれか1
項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項13】
前記酸化物触媒がMo、V、Nbを含み、Mo1原子当たりのV、Nbの原子比をそれ
ぞれa、bとしたときに、0.1≦a≦1、0.01≦b≦1、を満たす、請求項1〜1
2のいずれか1項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項14】
前記酸化物触媒がシリカに担持されており、前記シリカの質量が前記酸化物触媒と前記
シリカの全質量に対し、SiO換算で10〜80質量%である、請求項1〜13のいず
れか1項記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14いずれか1項記載の製造方法により得られた酸化物触媒にプロパン又は
イソブタンを接触させ、気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化反応に供する工程を含む、
不飽和酸又は不飽和ニトリルの製造方法。

【公開番号】特開2009−261990(P2009−261990A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−102917(P2008−102917)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】