説明

酸化物超電導体およびその製造方法。

【課題】ピンニングセンターが効果的に導入されることにより、超電導特性の向上する酸化物超電導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基板12と、この基板12上に形成され、結晶粒の<001>方向が前記基板に略垂直に配向し、隣接する結晶粒同士の(100)面が互いに0度以上4度以下または86度以上90度以下の傾角をなすよう配向する高い結晶性の酸化物超電導膜14を備え、酸化物超電導膜14が基板に略平行に積層される複数の高密度磁場捕捉層14a、cと、高密度磁場捕捉層14a、c間に挟まれる低密度磁場捕捉層14bとで形成される積層構造を有し、高密度磁場捕捉層14a、cの基板12に水平な断面における平均粒界幅が80nm以下であり、かつ、この平均粒界幅が低密度磁場捕捉層14bの基板12に水平な断面における平均粒界幅よりも小さいことを特徴とする酸化物超電導体10およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺線材、超電導コイル、超電導マグネット、MRI装置、磁気浮上式列車、SMESなどに使用される酸化物超電導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近実用化が進められている高臨界電流酸化物超電導体は、長尺線材、核融合炉、磁気浮上列車、加速器、磁気診断装置(MRI)、SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)、マイクロ波フィルターなどへの有用な応用が期待され、一部の分野では既に実用化がなされている。酸化物超電導体には主にビスマス系、イットリウム系、タリウム系超電導体などがある。特に、液体窒素温度の磁場中で最も高い特性を発揮し、唯一液体窒素冷却でリニアモーターカーに利用が可能なイットリウム系超電導体が注目を集めている。
【0003】
このイットリウム系超電導体(Y系超電導体)は、YBaCu7−xの組成で表され、ペロブスカイト構造を持つ超電導体である。そして、YBaCu7−xのイットリウムがランタノイド系の希土類元素に替わった物や、その混合物も超電導特性を示すことが知られている。その作成方法としてはパルスレーザー堆積(PLD)法、液相成長堆積(LPE)法、電子ビーム(EB)法、金属有機物堆積(MOD)法などが報告されている。
【0004】
超電導体の作成手法はin situ(イン・サイチュ)プロセスとex situ(エクス・サイチュ)プロセスに大別される。in situプロセスというのは超電導体作成時に必要な金属の堆積と、酸化による超電導体形成が一度に行われる方法である。一方、ex situプロセスとは超電導体の元となる物質の堆積と、超電導体を形成する熱処理プロセスがまったく別に行われる方法である。そのためex situプロセスでのみ本焼前の前段階物質である前駆体(前駆体を焼成で得る場合は仮焼膜と呼ぶこともある)が存在する。
【0005】
超電導作成手法として初期に注目されたのは工数が少なく低コストになるのではないかと期待されたin situプロセスであった。しかし、一度にすべての成膜条件をそろえなければならないことから良好な超電導体がなかなか得られにくい欠点もわかってきた。一方のex situプロセスは、製造コスト増加が危惧されたものの、非真空プロセスであるMOD法やTFA−MOD(トリフルオロ酢酸塩を用いるMOD)法の登場によりかなりの製造コスト低減が可能となった。また、熱処理が2度に分けられたプロセスにより熱処理制御が容易であるため高特性が再現性良く得られる。したがって、現在ではイットリウム系超電導体作成の主力プロセスとなっている。
【0006】
ex situプロセスにはEB法、MOD法、TFA−MOD法などが挙げられる。EB法は電子ビームを用いて金属などからなる前駆体を真空中で堆積し、その後の熱処理によりY系超電導体が形成される手法である。本焼時にはフッ素の存在により、TFA−MOD法のような擬似液相ネットワークを形成して成長することが予想される。しかし、この手法では炭素を用いないため、得られる超電導体に残留炭素が全く存在しない手法である。
【0007】
MOD法は長年他の分野で研究されてきた手法であり、Y系超電導体に有害な残留炭素をいかに低減するかに大きな努力が払われてきた。しかし、有効な残留炭素低減法は見つかっていない。残留炭素低減には均熱の良い大型電気炉が必要である。この手法の前駆体は仮焼を行うために仮焼膜とも呼ばれるが、フッ素を全く含まない特徴を持っている。
【0008】
最後にMOD法の派生方法でありながら、さまざまな特徴を持つTFA−MOD法を説明する。TFA−MOD法は有機物を用いる手法であるが、フッ素化合物を用いることで仮焼時に超電導体に有害な炭素を追い出せる特別な機構を持つのが特徴である。このため、高特性の超電導体が得られやすい。また本焼時にはフッ素の働きにより擬似液相ネットワークを形成し、化学平衡反応により原子レベルで配向した組織が再現性良く形成される。更に成膜から仮焼、本焼で真空を一切使わない低コストプロセスであるため瞬く間に世界中で研究が行われるようになった。実用に供する長尺線材開発は日米を中心にしのぎを削っており、現在では国内でも200mで200Aもの超電導電流が得られる線材の製造成功が報告されている。
【0009】
このように製造プロセスが完成しつつあるY系超電導体であるが、主な用途として、大きな磁界中での使用が想定されるコイル応用と、自身が発生する比較的小さな磁場下での使用が想定される線材応用が考えられる。磁場中で超電導電流が流れるとローレンツ力を受け、電流に抵抗が生じるため臨界電流密度の低下につながる。磁場を形成する磁束は、超電導電流が得られる領域を自由に動ける場合、いたるところで超電導特性低下を引き起こし、全体として超電導線材の特性が1/100以下に大きく低下することも知られている。
【0010】
特性低下につながる磁束の移動を抑制し、特性向上につながるのが磁束を固定するピン止め中心、すなわちピンニングセンター(pinning center)である。これは磁束が通りやすい非超電導の領域を敢えて造ることにより磁束が他の超電導部分へ移動することを防ぎ、超電導線材全体としては高い特性が得られるのである。ピンニングセンターとして超電導特性のない異物を導入した場合、その部分は非超電導となるが、磁場中では全体として高い超電導特性が得られる現実がある。このため、超電導体の発見以来、超電導体へのピンニングセンターの効率的な導入研究が続けられてきたのである。
【0011】
このピンニングセンターとして、PLD法ではナノロッドと呼ばれるナノサイズの幅の異相導入研究が近年盛んである。BaZrOやBaSnOなどを用いることにより細線状のナノロッドが超電導体内部に導入する。そして、このナノロッドに磁束を通すことによりピンニングセンターとして作用させ、他の部分の磁束による特性低下を防ぐ。このナノロッドを導入した超電導体では、ナノロッドの無い超電導体と比較して、5T程度の強力な磁場下では、得られる超電導電流が5倍から10倍にも高められることが報告されている。これらナノロッドが導入された超電導線材は、強力な自己磁場を発生するコイル応用などに適した線材である。
【0012】
しかしながらYBaCu7−x超電導体に、BaZrOなど超電導電流を伝えない物質を導入して成膜し、超電導体を正方晶から斜方晶へと変化させる純酸素アニールを行なうと、近隣の超電導体への物質拡散などにより超電導特性に悪影響をもたらすことも知られている。その劣化は、臨界電流密度(J)だけでなく、臨界温度(T)までも低下させることが報告されている。そのためナノロッドを導入する超電導体は、どちらかといえばコイル応用など強磁場下での応用に限られた強化手法と考えられている。その反面、大きな磁場が必要でない用途では、特性低下が起きにくい、ナノロッドに頼らないピンニングセンター導入が良い場合もある。
【0013】
長距離大電力送電での使用が想定される送電ケーブルは、ナノロッドを必要としない実例の一つであると考えられている。送電ケーブルでは電圧にも依るが、基本的に往復の線材は対を成し、磁場を打ち消しあう状態で設置される場合が多い。高電圧下では一定距離を隔てて線材を設置することになるが、この場合は互いの線材から発生される磁場を浴びることになる。コイルほどの磁場ではないにしろ発生する磁界は超電導体に悪影響を及ぼし、超電導電流の許容値低下につながる。また、送電ケーブルは長大なシステムを冷却する必要があるため、冷凍機冷却は困難である。したがって、沸点が77.4Kの液体窒素冷却が唯一の冷却方策である。Y系超電導体はTがもとより90.7Kしかないため、ナノロッド導入によるT低下は実運用上、局部の熱上昇によるクエンチの危険性を高めることになる。
【0014】
送電ケーブルではナノロッドを導入しない磁場特性向上策が望ましい。その一つが低傾角粒界(Low−angle grain boundary)による磁場特性の改善である。低傾角粒界とは超電導の粒子面と粒子面が結合するときに、面方位の結合角が約4度以下の小さな傾角を持って結合することを意味する場合が多い。そして、傾角が4度以下の角度であれば超電導電流阻害の程度が小さく、またその粒界はピンニングセンターとして機能することが知られている。
【0015】
この低傾角粒界の導入方法は、超電導体の成膜方法により異なる。PLD法などでは成膜時の温度や酸素分圧、形成するプルームの位置などにも依存する場合が多く、全体としてのおおよその制御が出来ても、微細構造を再現性良く制御することは事実上不可能である。PLD法ではプルームの形成がターゲットにレーザーを照射することにより行なわれるため、ターゲットが掘れてくるとプルームの形状に変化が生じ物質の堆積速度、配向度などが変化し、再現性も低下する。
【0016】
一方、低傾角粒界形成に関してはTFA−MOD法がその形成に有利な手法であることが近年明らかになった。この手法での成長機構は様々なものが提唱されているが、擬似液相ネットワークモデルによれば、超電導粒子の核生成と成長により結晶粒界が形成される。その隣接する面が作る傾角は平均0.4度しかなく、超電導特性低下を防ぎながら、ピンニングセンターが導入された構造となる。その結晶粒界の密度は核生成頻度と粒子の成長速度で制御でき、それらはマクロな本焼温度や酸素分圧、水蒸気分圧などで制御可能なため、高特性超電導体を容易に再現性良く得られるのである(例えば、特許文献1、特許文献2)。TFA−MOD法による超電導成膜は低傾角粒界が形成可能で、自己磁場に近い弱い磁場下で用いる用途での超電導体の製造、例えば電力ケーブル応用の超電導体の製造などで、特に有利な製造プロセスであると考えられる。
【0017】
しかしTFA−MOD法での低傾角粒界形成は一つの問題点を抱えていた。それは結合角が平均して0.4度しかないために成長と共に低傾角粒界が消失しやすく、超電導特性が低下するという問題点である。このため膜厚が厚くなるほど特性が低下することが予想され、現実に同様の報告がされていた。
【0018】
Y系超電導体をLaAlO単結晶基板上へ成膜を行なう場合には、c軸(<001>方向)が横倒しのa/b軸配向粒子が多数形成されるため、特性が大きく低下することが知られていた。そして、c軸が横倒しになりにくいCeO中間層上での成膜でも膜厚と共に自己磁場下の特性が低下することが知られていた。これらの特性低下原因は上記のような低傾角粒界の減少に深く関連があると考えられ、特性改善の方策が望まれていた。
【特許文献1】米国特許6172009明細書
【特許文献2】米国特許6610428明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、ピンニングセンターが効果的に導入されることにより、超電導特性の向上する酸化物超電導体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の一態様の酸化物超電導体は、基板と、前記基板上に形成され、結晶粒の<001>方向が前記基板に略垂直に配向し、隣接する前記結晶粒同士の(100)面が互いに0度以上4度以下または86度以上90度以下の傾角をなすよう配向する高い結晶性の酸化物超電導膜を備え、前記酸化物超電導膜が、前記基板に略平行に積層される複数の高密度磁場捕捉層と、前記高密度磁場捕捉層間に挟まれる低密度磁場捕捉層とで形成される積層構造を有し、前記高密度磁場捕捉層の前記基板に水平な断面における平均粒界幅が80nm以下であり、かつ、前記平均粒界幅が前記低密度磁場捕捉層の前記基板に水平な断面における平均粒界幅よりも小さいことを特徴とする。
【0021】
本発明の一態様の酸化物超電導体の製造方法は、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とが混合されたフルオロカルボン酸塩メタノール溶液をコーティング溶液として準備し、前記コーティング溶液を基板上に塗布してゲル膜を形成し、前記ゲル膜に仮焼を行い、仮焼膜を形成し、前記仮焼膜に、熱処理中に加湿量を2回以上変化させる本焼と、酸素アニールを行うことにより前記仮焼膜を酸化物とすることを特徴とする。
【0022】
本発明の一態様の酸化物超電導体の製造方法は、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とが混合されたフルオロカルボン酸塩メタノール溶液をコーティング溶液として準備し、前記コーティング溶液を基板上に塗布してゲル膜を形成し、前記ゲル膜に仮焼を行い、仮焼膜を形成し、前記仮焼膜に、熱処理中にガス流量を2回以上変化させる本焼と、酸素アニールを行うことにより前記仮焼膜を酸化物とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ピンニングセンターが効果的に導入されることにより、超電導特性の向上する酸化物超電導体およびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本明細書中、低傾角粒界とは、粒子面と粒子面が結合するときに、(100)面(あるいはbc面)同士、あるいは(100)面と(010)面(あるいはac面)が、約4度以下の小さな傾角を持って結合することで形成される粒界を意味する。言い換えれば、ほぼ直交する結晶軸を備える結晶粒の場合には、隣接する結晶粒同士の(100)面が互いに0度以上4度以下または86度以上90度以下の傾角をなすことをいう。そして、本明細書中、粒界幅とは、粒界と粒界との間の距離、すなわち、粒子の集合体が概して直方体であって、基板面に対して配向している場合に、基板上部から見た長方形の長辺間距離を意味するものとする。また、本明細書中、基板に平行な層構造を有する酸化物超電導膜を構成する層のうち、ピンニングセンターとなる低傾角粒界の密度が相対的に高い(低傾角粒界幅の狭い)層を高密度磁場捕捉層と称し、2層の高密度磁場捕捉層に挟まれ、低傾角粒界の密度の低い(低傾角粒界幅の広い)層を低密度磁場捕捉層と称するものとする。
【0025】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態の酸化物超電導体は、基板と、この基板上に形成され、結晶粒の<001>方向が基板に略垂直に配向し、隣接する結晶粒同士の(100)面が互いに0度以上4度以下または86度以上90度以下の傾角をなすよう配向する高い結晶性の酸化物超電導膜を備えている。そして、酸化物超電導膜が基板に略平行に積層される複数の高密度磁場捕捉層と、これらの高密度磁場捕捉層間に挟まれる低密度磁場捕捉層とで形成される積層構造を有している。そして、高密度磁場捕捉層の基板に水平な断面における平均粒界幅が80nm以下であり、かつ、平均粒界幅が低密度磁場捕捉層の基板に水平な断面における平均粒界幅よりも小さいことを特徴とする。
【0026】
図1は、本実施の形態の酸化物超電導体の断面図である。図に示すように、本実施の形態の酸化物超電導体10は、基板12と基板12上に形成された結晶質で、高い結晶性の酸化物超電導膜14で形成されている。基板12は、金属基材12aと、基板上の酸化物超電導膜14の配向性を制御するために設けられる酸化物配向中間層12bとで形成されている。
【0027】
金属基材12aは、例えば、Ni−Co−Cr合金(Hastelloy−C)やNi−W合金で形成されている。また、酸化物配向中間層12bは、LaAlO、NdGaO、Al、SrTiO、CeO、Y強化ZrO、Y、GdZr、BaZrO、BaZnOのからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物で形成される。酸化物配向中間層12bは酸化物超電導膜の結晶粒子がc軸配向しやすくするために設けられているが、必ずしも、本発明に必須の構成要素ではない。
【0028】
例えば、YBaCu7−x(以後、YBCOとも称する)で形成されている酸化物超電導膜14は、高い結晶性の膜である。そして、酸化物超電導膜14を形成する結晶粒の<001>方向が基板12に略垂直に配向している。すなわち、c軸配向している。ここで略垂直方向とは、具体的には90度±4度程度の範囲である。また、酸化物超電導膜14を構成する結晶粒のうち、90%以上の結晶粒が略垂直方向に配向していればよい。これら、結晶粒子の配向方向および、略垂直方向に配向する結晶粒子が占める割合はXRD測定から見積もることが可能である。
【0029】
そして、酸化物超電導膜14が隣接する結晶粒同士の(100)面が互いに0度以上4度以下または86度以上90度以下の傾角をなすよう配向する低傾角粒界を有している。すなわち、この酸化物超電導膜14は、結晶粒が基板に対してc軸配向するとともに、隣接する結晶粒同士では、a軸同士あるいはa軸とb軸とがほぼ直交するような配向をしている。
【0030】
そして、酸化物超電導膜14は、基板に略平行に積層される2層の高密度磁場捕捉層14a、14cと、この高密度磁場捕捉層14a、14c間に挟まれる低密度磁場捕捉層14bとで形成される積層構造を有している。そして、高密度磁場捕捉層14a、14cの基板に水平な断面における平均粒界幅が80nm以下であり、かつ、この平均粒界幅が低密度磁場捕捉層14bの基板に水平な断面における平均粒界幅よりも小さい。高密度磁場捕捉層14a、14cの平均粒界幅を80nm以下とすることで、ピンニング効果が顕著に現れる。この粒界幅は、酸化物超電導膜14の基板12に平行な断面のTEM写真を評価することで得ることが可能である。そして、TEM写真から測定される複数の粒界幅を平均することで、平均粒界幅を得ることができる。
【0031】
上記構造の、酸化物超電導体10は、平均粒界幅が80nm以下の高密度磁場捕捉層14a、14cにより、臨界電流密度の低下を抑制する。また、低密度磁場捕捉層14bが存在することで、酸化物超電導膜14の高密度磁場捕捉層の割合および粒界幅を制御することが可能となる。この制御により、膜厚が厚い場合であっても超電導特性低下が起きにくい酸化物超電導体10を実現することができる。
【0032】
なお、酸化物超電導膜14中、高密度磁場捕捉層の占める割合が60体積%以上であることが、特性低下を特に効果的に抑制する観点から望ましい。
【0033】
次に、本実施の形態の酸化物超電導体の製造方法について説明する。この製造方法においては、まず、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とが混合されたフルオロカルボン酸塩メタノール溶液をコーティング溶液として準備する。そして、このコーティング溶液を基板上に塗布してゲル膜を形成する。そして、このゲル膜に仮焼を行い、仮焼膜を形成する。そして、この仮焼膜に、熱処理中に高加湿条件から低加湿条件その後の高加湿条件と加湿量を2回変化させる本焼と、酸素アニールを行うことにより仮焼膜を酸化物とする。
【0034】
図2はコーティング溶液調整法のフローチャートである。金属酢酸塩、例えば、イットリウム、バリウム、銅それぞれの酢酸塩を準備する(ステップa1)。また、フルオロカルボン酸を準備する(ステップa2)。次にステップa1で準備した金属酢酸塩を水に溶解させ(ステップb)、ステップa2で準備したフルオロカルボン酸と混合し反応させる(ステップc)。ステップcで得られた混合溶液を精製し(ステップd)、不純物入りの粉末(ゾル)またはゲルを得る(ステップe)。その後、ステップeで得られたゾルまたはゲルをメタノールに溶解し(ステップf)、不純物入りの溶液を作成する(ステップg)。ステップgで得られた溶液を精製し不純物を取り除き(ステップh)、溶媒入り粉末(ゾル)またはゲルを得る(ステップi)。さらに、ステップiで得られたゾルまたはゲルをメタノールに溶解し(ステップj)、コーティング溶液が準備される(ステップk)。
【0035】
図3は、コーティング溶液から超電導体を成膜する方法を示すフローチャートである。まず、いくつかの溶液(ここでは溶液A、溶液Bとする)を準備する(ステップa)。ステップaで準備した溶液からひとつの溶液をコーティング溶液として選択する(ステップb)。その後、コーティング溶液を基板上に、例えば、スピンコート法により塗布することで成膜し(ステップc)、ゲル膜を得る(ステップd)。その後、ステップdで得られたゲル膜に、一次熱処理である仮焼を行い、有機物を分解し(ステップe)、仮焼膜を得る(ステップf)。さらに、この仮焼膜に二次熱処理である本焼を行い(ステップg)、その後、純酸素アニールを行い(ステップh)、超電導体(ステップi)を得る。
【0036】
図4は、仮焼(一次熱処理)の一例の温度プロファイル、図5は本焼(二次熱処理)および純酸素アニールの一例の温度プロファイルを示す図である。
【0037】
なお、TFA−MOD法で形成される本実施の形態の酸化物超電導膜中には、炭素が3×1019atoms/cc以上、フッ素が5×1017atoms/cc以上含有される。
【0038】
本実施の形態では、本焼時に高加湿条件から低加湿条件その後の高加湿条件と加湿量を2回変化させる。すなわち、図5中、tb3〜tb4の間に、最初は高加湿条件で、図1に示す平均粒界幅の狭い高密度磁場捕捉層14aを形成し、次に低加湿条件に切り替え、平均粒界幅の広い低密度磁場捕捉層14bを形成し、さらに高加湿条件に切り替えることにより、平均粒界幅の狭い高密度磁場捕捉層14cを形成する。
【0039】
このように、厚膜を形成する場合に生ずる低傾角粒界の消滅が顕在化する前に、加湿条件を変化させて平均粒界幅の広い低密度磁場捕捉層14bを形成することで、低傾角粒界の消滅による超電導特性の劣化を回避することができる。すなわち、低密度磁場捕捉層14bを設けることで、膜形成がリセットされ、その上に形成される高密度磁場捕捉層14cの平均粒界幅を狭くすることが可能となる。これにより、超電導膜中の低傾角粒界密度が高くなり、ピンニングセンター量が増加するため、超電導特性の劣化を回避することができる。
【0040】
次に、本実施の形態の作用について説明する。TFA−MOD法で得られた本実施の形態の超電導膜の配向組織は、Plan−vie(平面)TEM像を見る限り、基板面に平行な面で切断した場合、長方形の結晶粒集合体が互いに結合している。そして、結合部分の方位角は単結晶基板上であれば平均0.4度、金属基材をベースとして中間層を備えるテープ上では現状その2から10倍ほど、すなわち0.8度から4.0度程度の平均結合角である。そして同一条件での成膜を続ける限り、上記の結晶粒界数が減少し、ピンニングセンター数の減少による特性低下が引き起こされる。これを解決するには低傾角粒界が消失した後に、それを再生させる手法が有効である。
【0041】
低傾角粒界は、粒子の核生成と成長により成長端部が別の成長端部と衝突する部分で形成される。それに関わる粒子の核生成や成長速度は本焼時の温度、本焼ガス流量、加湿量により決まる。本焼時のガス流量に成長速度などが依存するのはTFA−MOD法独特の成長機構によるものであり、以下の化学平衡反応によりYBaCu7−x粒子が供給されるためである。
【数1】

この反応は化学平衡反応であるが、生成物のHFはガスであるため気相中へ除去されると逆反応は起きずにYBaCu7−x粒子が形成される。なおこの化学平衡は著しく左側に偏っていると考えられており、少量のHFガスを新たに供給すると、YBaCu7−x粒子がQuasi−liquidへ転化することが知られている。なおこの報告はEB法のものであるが、本焼時にはTFA−MOD法と同様の反応が起きると考えられる系である。反応式(1)においてはHFガスの除去量に比例してYBaCu7−x粒子が形成されるため、除去速度に関わる本焼時ガス流量により成長速度が決まるのである。また反応式(1)では本焼時のガス加湿量を示すHOが増大しても反応が加速される。温度一定の条件下でHOを増大させれば、平衡が右側に動き、反応速度を増大させる作用があることが理解できる。以上より、TFA−MOD法において、核生成や粒子の成長に影響を及ぼす主な因子は(A)本焼温度、(B)本焼時のガス流量、(C)加湿量、である。
【0042】
粒子の核生成や成長に影響を及ぼす主な3つの因子について、それらを理解し制御することにより、膜厚の増加に伴い低傾角粒界密度が減少した場合でも、その密度の再生が可能になる有効な手段を提供するものと考えられる。それにより特に自己磁場下での使用が想定される送電ケーブルでの特性向上に効果がある。
【0043】
図6は、粒子の核生成と成長についての模式図である。TFA−MOD法でのYBaCu7−x成膜においては粒子の核生成と粒子の成長に関し、少なくとも粒子の成長の方がエネルギーの面から容易に起きうることが以下の理由から明らかである。超電導電流を基板に対し水平方向に流せるc軸配向粒子の核生成に関して、核生成が起きるには擬似液相中のYBaCu7−x粒子のab面(あるいは(001)面)が基板と結合する必要がある。この結合によりエネルギーが系外に放出され安定化するのが核生成であると考えられる。
【0044】
一方、粒子の成長では核生成時に形成されるab面((001)面)との結合の他、隣接する粒子との結合においてac面((010)面)またはbc面((100)面)の結合が1から4個形成される。その各結合面はab面の約3倍もの面積を持つが、結合時のエネルギー放出は結合面の面積に単純比例するわけではない。しかし仮に単純比例かそれに近い場合には粒子の成長は核生成に比べてかなり容易に起きることが理解できる。それは結合面が1面だけの場合においてでも同様である。
【0045】
上記のことを勘案すれば粒子の核生成時に放出されるエネルギーEと、粒子の成長時に放出されるエネルギーEを比べた場合、どんな条件においても、
<E (2a)
が成り立つことが分かり、粒子の成長時にn個の面で結合が行なわれる場合のエネルギー放出量をEnと表す場合、
<EG1<EG2<EG3<EG4 (2b)
であることは少なくとも分かる。
【0046】
図7は、本焼時の系のエネルギーと粒子生成量との関係を示す図である。上記のE、Eのエネルギーを放出する粒子の核生成Sや成長SGnは、本焼時の系のエネルギーに対して単調増加であると考えられ、それをエネルギーで微分した頻度、つまり単位時間当たりの粒子生成量R、RGnは各E、EGnを中心とした正規分布に近い関数であると考えられる。R、RGnを規格化して図示したものが図7であり、それぞれ等間隔に並んでいると予想される。低傾角粒界幅に影響を及ぼすのは全粒子成長頻度Rであり、SGnが起きる全確率
【数2】

を1として各SGnが起こる確率の積の和でSやRが記載できる。各粒子は4つの結合面を持っており大半はRG2であると考えられるため、Rは、RG2を中心としてRG1、RG3、RG4を合計した分の広がりを持つと考えられ、図7の点線で表される。RはRG1〜RG4の和であるため必ずRより低エネルギー側に存在する。
【0047】
超電導体の特性を改善させるであろう結晶粒界幅Wは前記RとRGnを積分したS、Sの比に依存することが考えられる。そのためそれぞれが変数として、
W=(S,S) (3a)
として記述することも可能であるが、前述の比であるS/(S+S)を一つの変数とみなして、
W=(S/(S+S))=(r) (3b)
と記述することも可能であり、r=S/(S+S)とすれば単純に上記(3b)の右項のように記述することも可能である。任意のエネルギーEにおけるWは、図7に示すようにゼロからEまでRとRGnを積分した値による関数となる。Sが多いほどWは小さくなり、Sが大きいとWは大きな値になる。
【0048】
図8は、本焼時の系のエネルギーと粒子の成長確率との関係を示す図である。なお、ここでrは、図8に示すようにエネルギーゼロでは1に限りなく近い値をとり、エネルギー増加に伴い単調減少する関数となり、エネルギーが無限大では
【数3】

の極限値を取る関数であることが分かる。
【0049】
ただし現実問題として上記の極限値を取ることは無いと予想される。あまりエネルギーを上げすぎると成長速度が速くなり、(1)の平衡反応が崩れランダム成長が起きると予想され、TFA−MOD法の特徴でもある化学平衡反応に起因する原子レベルの配向が得られないためである。
【0050】
低傾角粒界幅Wを変化させて高特性の超電導体を得るには、上記のrを短時間で変更可能な手段を用いればよい。なおW=(r)であるが、Sが大きいほどrが小さくなり、Wが小さくなるため、Wはrに対して単調増加の関数であると考えられる。ただrの変化量が小さいところではWの変化も少ないことが予想されるため、図7においてはSやS、特にSが大きく変化する本焼条件が望ましく、Rの中心値あたりが良いと考えられる。その部分で本焼条件を大きく変化させればrが変化し、Wを大きく変化させることが可能であると考えられる。それによりWを全く変えた条件で低傾角粒界を多数内包させることにより超電導特性を改善させることが可能となる。
【0051】
このrに影響を及ぼす因子としては先にあげたとおり、(A)本焼温度、(B)本焼時のガス流量、(C)加湿量が挙げられる。それぞれの因子について効果的にr、すなわちS/(S+S)を変化させることが可能かどうかを次に述べる。
【0052】
まず、(A)の本焼炉の温度変更について検討する。そもそも温度を変更した場合、(1)で示した化学平衡定数がどちら側に変化するのかが現状では分かっていない。加えて大型の電気炉においてはそもそも炉体の温度そのものを短時間に変更するのがほぼ不可能である。ゆっくりと本焼温度が変化するような条件ではrも緩やかに変化することとなり、W幅が大きくなった状態からWを元の値まで戻す効果がほとんど無いか、他の手段より著しく効果が小さいと考えられる。
【0053】
次に、(B)の本焼時ガス流量を変更した場合について検討する。本焼時のガス流量は式(1)での生成物であるHF除去を加速するため、その除去に応じてYBaCu7−x粒子の供給量増加につながる。これはSやSを増大させたことに等しく、rであるS/(S+S)を変化させる効果が期待できる。しかしガス流量の変更によるS/(S+S)変更の試みは、幅広の長尺線材焼成時に問題を生じやすい。TFA−MOD法ではHFを少ししか含んでいないガスにさらされてでも逆反応が起きるとされている。そのため幅広の線材を直交流で焼成する連続炉ではガス流量に応じて成長速度が高まるものの、ガス流が不均一になったり乱流となったりする部分が生じればその部分の特性が著しく低下するために線材焼成プロセスとしては比較的、変えがたいパラメータであるとも言える。
【0054】
また本焼時のガス流量は減圧を行う場合を例外として、層流を維持しなくてはならないために大きくは変えられないという問題もあり増やせるガス流量はせいぜいで10倍である。ガス流量を増大させた場合に一番問題となりそうなのが超電導体の冷却である。ガス流量を増大させればさせるほど超電導体が冷却されるため、本焼時の最適条件からずれることになりよい超電導体が得られにくくなる。
【0055】
またガス流量を増大させる場合に、特にY系で高特性が期待されるLa、Nd、Sm系超電導体を含む系では高純度ガスを用いて低い酸素分圧で焼成を行う必要がある。そのためにガスの循環が必要ともなる。
【0056】
最後に(C)の本焼時ガス加湿量であるがこちらには先に上げた(A)や(B)のような制約は無く、最も変更が容易でかつ加湿量が短時間で細部までいきわたる手法であると考えられている。この手法ではガス流量を一定にさえすれば温度低下も起きない。また一定の加湿量のガスに乾燥ガスを混合させることにより非常に低加湿のガスを瞬時に実現でき、その状態から加湿量の多いガスに切り替えるのも短時間で可能となる。
【0057】
これまで記述した内容から明らかなように、S/(S+S)を短時間でもっとも大きく変化させることが可能なプロセスは加湿量の変更である。このため、加湿量を変化させる本実施の形態によれば、一定膜厚で低傾角粒界幅が大きくなったとしても加湿量を瞬時に変更することにより低傾角粒界幅を元の密度に戻すことが可能となり、自己磁場下での超電導特性改善が可能となる。
【0058】
なお、本実施の形態においては、酸化物超電導膜として、イットリウム、バリウムと銅を含む酸化物を例に説明した。しかし、酸化物超電導膜はこの組成に限られることはなく、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とを含む酸化物を適用することが可能である。
【0059】
また、本実施の形態においては、本焼中加湿量を2回切り替えることで製造される3層構造の酸化物超電導膜について説明した。しかし、加湿量を、例えば高→低→高→低→高と、2n回(nは2以上の整数)以上切り替えも構わない。本焼中に2n回切り替えることにより、(n+1)層の高密度磁場捕捉層と、その高密度磁場捕捉層に挟まれるn層の低密度磁場捕捉層とで構成される(2n+1)層構造の酸化物超電導膜が形成される。
【0060】
このように、酸化物超電導膜を5層以上とした酸化物超電導体は、ピンニングセンターを高密度に保持したまま厚膜化が可能である。したがって、大電流を流すことが可能であるとともに、発生する磁場による超電導特性低下を抑制することが可能となる。
【0061】
なお、本実施の形態の製造方法において、S/(S+S)を短時間で大きく変化させるために、本焼の際の加湿量の最大値が最小値の3倍以上であることが望ましく、10倍以上であることがより望ましい。
【0062】
また、本実施の形態の製造方法において、上記高加湿条件が加湿量1.26%RH(RH:相対湿度)であり、上記高加湿条件での成膜量が全成膜量の60体積%以上を占めることが望ましい。すなわち、
【数4】

を満たす条件で熱処理されることが望ましい。ただし、上記の式においてRは超電導成膜における反応量で、vを反応速度、tを反応時間とし、R=vtで書き表される。また、後述するように、反応速度v∝(RH)0.340であるため比例定数をkとしてv=k(RH)0.340とする。この条件で成膜することで、超電導特性低下を効果的に抑制することが可能となる。
【0063】
さらに、上記高加湿条件が加湿量1.26%RH以上であり、上記高加湿条件での成膜量が全成膜量の90体積%以上を占めることがより望ましい。すなわち、
【数5】

を満たす条件で熱処理されることがより望ましい。この条件で成膜することで、超電導特性低下を一層効果的に抑制することが可能となる。
【0064】
以上のように、本実施の形態によれば、急激に核生成頻度と粒子の成長速度が変更可能な本焼条件である加湿量を変更することにより、低傾角粒界の密度が低減した場合にそれを元の密度に戻すことにより特性の改善を行なうことが可能な手法と超電導体を提供できる。本実施の形態による超電導体は異物を導入する磁場特性向上策とは異なり、ゼロ磁場でのTcやJcをほとんど低下させないことが期待される。したがって、主に自己磁場下での使用が検討される超電導ケーブルなどに特に有効な技術である。
【0065】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の酸化物超電導体の製造方法は、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とが混合されたフルオロカルボン酸塩メタノール溶液をコーティング溶液として準備し、コーティング溶液を基板上に塗布してゲル膜を形成し、ゲル膜に仮焼を行い仮焼膜を形成し、仮焼膜に、熱処理中に高ガス流量条件から低ガス流量条件その後の高ガス流量条件とガス流量を2回以上変化させる本焼と、酸素アニールを行うことにより仮焼膜を酸化物とすることを特徴とする。本焼時に、加湿量にかえてガス流量を変化させること以外は、第1の実施の形態と同様である。したがって、第1の実施の形態と重複する内容については記載を省略する。
【0066】
第1の実施の形態で記述したように、本焼時にS/(S+S)を短時間で大きく変化させる上では、加湿量を変化させることが最も望ましい。しかしながら、加湿量にかえてガス流量を変化させることにおいてもS/(S+S)を変化させることが可能である。したがって、この製造方法により、低傾角粒界幅を変更し、高密度磁場捕捉層とこの高密度磁場捕捉層に挟まれる低密度磁場捕捉層との積層構造を備えた酸化物超電導膜を有する酸化物超電導体を製造することが可能ある。
【0067】
なお、本実施の形態において、本焼が、減圧又は加圧下での焼成が可能な装置で行なわれる場合、その圧力におけるガス流量の変化が粒子の成長に影響を及ぼすため、ガス流量変化によってもS/(S+S)を短時間で変化させることが可能である。減圧または加圧状態においてもガス流量は粒子の成長速度に、この反応の場合正比例する。そのためた、本実施の形態の製造方法において、S/(S+S)を短時間で大きく変化させるために、本焼の際のガス流量の最大値が最小値の3倍以上であるが望ましい。
【0068】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。上記、実施の形態はあくまで、例として挙げられているだけであり、本発明を限定するものではない。また、実施の形態の説明においては、酸化物超電導体および酸化物超電導体の製造方法等で、本発明の説明に直接必要としない部分等については記載を省略したが、必要とされる酸化物超電導体および酸化物超電導体の製造方法等に関わる要素を適宜選択して用いることができる。
【0069】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての酸化物超電導体および酸化物超電導体の製造方法は本発明の範囲に包含される。本発明の範囲は、特許請求の範囲およびその均等物の範囲によって定義されるものである。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0071】
(予備実験1)
まず、酸化物超電導膜中の低傾角粒界幅と超電導特性との関係を明らかにする予備実験を行った。Y(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0072】
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図2のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得られた。得られたゲルまたはゾルはメタノール(図2のj)中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
【0073】
コーティング溶液Aを用い、両面研磨の10mm角配向LaAlO単結晶基板にスピンコーターで加速度10,000rpm/sec、回転数4,000rpmで60秒間保持して得られたゲル膜G1a、G1b、G1c、G1dを得た。ゲル膜G1a、G1b、G1c、G1dを仮焼炉内に静置し、図4に示す温度プロファイルにより水蒸気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(Calcined films)を得た。膜名は順にC1a、C1b、C1c、C1dとする。
【0074】
仮焼膜は図5に示す本焼プロファイルをベースに個別に本焼成を行った。本焼成では最高温度のみを725℃、750℃、775℃、800℃とし、前後の昇温速度を一定として順に仮焼膜C1a、C1b、C1c、C1dの本焼を行い、超電導膜F1a、F1b、F1c、F1dを得た。得られた膜はTHEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。超電導の厚み測定に関して信頼できる手法はICPによる破壊分析であるが、その後の平面TEM観察を実行するために今回は対応する別の試料を用いた推定厚みを使用している。低傾角粒界幅の測定は平面TEM観察による微細構造観察により行なった。
【0075】
図9はF1dの平面TEM観察結果である。この図では基板面より50nm程度膜表面方向へ移動した基板と平行な面で、平面TEM観察を行ったものである。図で幅40nm前後、長さ500nm程度の長方形の形をしたもののそれぞれがc軸配向粒子の集合体である。成長したYBCO超電導粒子ではa軸長とb軸長がほぼ同じ値であり混在しやすいことが分かっているが、この長方形領域の内部では混在のない2軸配向であると考えられている。そして隣接する長方形領域においてもこのことは同じであるが、隣接する部分での面方位の結合角が0.4度以下となっているために、この領域が低傾角粒界として働き、磁束を束縛するピンニングセンターとして働く。また結合角が平均で0.4度しかないことから超電導電流をほとんど阻害しないものと考えられている。
【0076】
図9において超電導特性向上に重要な役割を発揮するのが上記低傾角粒界の幅であり、これがある程度密な状態であれば自己磁場の影響を受けやすいケーブル応用などにおいて高特性を発揮するものと考えられている。なお図9においては8つの長方形の粒界幅の合計値が320nmであることから、平均粒界幅は40nmであることが分かる。同様にしてF1a、F1b、F1cの平均粒界幅の測定を行なった。
【0077】
本焼後にそれぞれの膜F1a、F1b、F1c、F1dは、平面TEM観察に先立ってTHEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。77K、0Tの測定条件下での臨界電流密度(MA/cm)は順に2.4、2.9、3.9、5.3であった。粒界幅は順に190、130、80、40nmであり、Jとの関係を図示したものが図10の結果であり、同じ膜厚150nmである場合の比較では粒界幅が100nmより低い部分において特にゼロ磁場の特性向上が期待されることが分かった。この測定において膜厚を150nmで同一としたのは単結晶基板がLaAlOである場合に膜厚の増加に伴いa/b軸配向粒子の形成確率が高まるためである。特に220nmを越すLaAlO上での成膜においてはa/b軸配向粒子の影響が増大するためJ測定による低傾角粒界幅の効果を評価することが出来なくなる。そのために、a/b軸配向粒子がほとんど形成されない150nm厚の成膜で予備実験を行った。
【0078】
(予備実験2)
本焼時に加湿量を変更し、粒子成長の変化を評価した。まず、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0079】
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図2のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得られた。得られたゲルまたはゾルはメタノール(図2のj)中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。コーティング溶液Aに添加剤としてH(CFCOOHを10wt%加えたコーティング溶液Bを得た。コーティング溶液Bを用い、100ccのビーカー中に深さ約30mmとなるように溶液を満たし、その中に両面研磨の10×25mm配向LaAlO単結晶基板を入れて60秒間静置した。その後、ディップコーターを用いて引き上げ速度13mm/secで引き上げを行い、両面にゲル膜が成膜された膜を2枚成膜した。この膜をG2aおよびG2bとする。
【0080】
ゲル膜G2a、G2bを仮焼炉内に静置し、図4に示す温度プロファイルにより水蒸気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(Calcined films)C2a、C2bを得た。仮焼膜はそれぞれ個別に図5に示す本焼プロファイルをベースに本焼成を行った。C2aの本焼成はガス流量を直径58mmの炉心管内部に1.0L/minのガスを流すことにより、またC2bは2.0L/minのガスを流すことにより行なった。最高本焼温度は共に825℃である。それぞれの本焼において加湿量を0.0420、0.420、1.26、4.20%RHとし、反応ガスは200mlのトラップ水でフッ化物を捕集し、そのトラップ水のフッ素イオン濃度の測定を平行して行なった。この本焼により超電導膜F2a、F2bを得た。
【0081】
図11は、F2aの本焼成に伴うフッ素イオン測定結果を示す図である。TFA−MOD法においては先に述べたようにフッ化物の除去が超電導体であるYBCO粒子の成長に比例することが分かっている。そのためフッ素イオン測定で測定されるフッ化物量はそのまま超電導粒子の成長数に比例していると考えることが出来る。図11の結果では加湿量を変更したP1、P2、P3のそれぞれにおいてフッ素の検出速度が1分程度の短時間に変わっていることがわかる。このことは低傾角粒界幅Wの密度が膜の成長と共に減少した場合に、加湿量の変更がそれを再び増加させうる有力な手段であることを意味している。
【0082】
図11の結果について、加湿量とフッ素イオン検出速度の関係を両対数グラフで示したのが図12である。図12から加湿量とフッ素イオン検出速度には0.340乗の関係があることがわかる。加湿量は加湿ガスと乾燥ガスの混合比をマスフローコントローラーなどで瞬時に変えることが可能であるため1/10,000倍や10,000倍への加湿量変更を瞬時に行なうことが容易である。加湿量の変更による反応速度の変更は図11の結果から1分以内の極短時間で完了することが分かっている。そのため加湿量を制御することにより1分以内にTFA−MOD法における反応速度を1/22.9倍や22.9倍へ変更することが可能である。
【0083】
超電導膜F2a、F2bの臨界電流密度測定はTHEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により超電導特性を測定した。77K、0Tの測定条件下での臨界電流密度(MA/cm)はF2aの表側が3.11、裏側が3.36、F2bの表側が3.84、裏側が3.56である。
【0084】
(実験1)
本焼中に高加湿条件から低加湿条件その後の高加湿条件と加湿量を2回変化させて、超電導体を作成し超電導特性を評価した。まず、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0085】
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図2のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得た。得られたゲルまたはゾルはメタノール(図2のj)中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
【0086】
コーティング溶液Aに添加剤としてH(CFCOOHを10wt%加えたコーティング溶液Bを得た。コーティング溶液Bを用い、100ccのビーカー中に深さ約30mmとなるように溶液を満たし、その中に両面研磨の10×25mm配向LaAlO単結晶基板を入れて60秒間静置した。その後、ディップコーターを用いて引き上げ速度20mm/secで引き上げを行い、両面にゲル膜が成膜された膜を2枚成膜した。この膜をG3aおよびG3bとする。
【0087】
ゲル膜G3a、G3bを仮焼炉内に静置し、図6に示す温度プロファイルにより水蒸気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(Calcined films)C3a、C3bを得た。仮焼膜はそれぞれ個別に図4に示す本焼プロファイルをベースに個別に本焼成を行った。C3a、C3bともに本焼時ガス流量を直径58mmの炉心管内部に1.0L/minのガスを流すことにより行なった。最高本焼温度は共に825℃で1時間の保持を行なった。最高温度保持の1時間において、C3aの本焼は20分毎に加湿量を4.20→0.0420→4.20%RHとし、酸素アニール後に超電導膜F3aを得た。一方、C3bは本焼時に加湿量を4.20%RHで固定し、超電導膜F3bを得た。F3aの本焼においては加湿量の変更により、低傾角粒界の密度が減少した場合でもS/(S+S)を著しく異なる値とすることで低傾角粒界の密度を初期状態に復帰させることができると考えられる。
【0088】
超電導膜F3a、F3b の臨界電流密度測定はTHEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により表側のみ超電導特性を測定した。77K、0Tの測定条件下での臨界電流密度(MA/cm)はF3aが2.72、F3bは1.89であった。150nm厚膜よりもJ値が小さくなってしまうのはLaAlO基板上に特有の問題であり、a/b軸配向粒子が形成されるためと考えられる。この結果からは明らかにF3aの超電導特性が高いことが分かり、加湿量を短時間に変更することにより低傾角粒界密度再生の効果が現れることがわかった。ここで得られたF3aの断面TEM像は図1のような構成を持つと考えられ、低傾角粒界密度の再生により特性が改善したと考えられる。なおこの条件で得られる本焼膜の厚みは平均で560nmであることがわかっており、今回の測定でもその値でJ値の計算を行なった。
【0089】
(実験2)
本焼中に高ガス流量条件から低ガス流量条件その後の高ガス流量条件とガス流量を2回変化させて、超電導体を作成し超電導特性を評価した。まず、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0090】
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図2のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得られる。得られたゲルまたはゾルはメタノール(図2のj)中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
【0091】
コーティング溶液Aに添加剤としてH(CFCOOHを10wt%加えたコーティング溶液Bを得た。コーティング溶液Bを用い、100ccのビーカー中に深さ約30mmとなるように溶液を満たし、その中に両面研磨の10×25mm配向LaAlO単結晶基板を入れて60秒間静置した。その後、ディップコーターを用いて引き上げ速度20mm/secで引き上げを行い、両面にゲル膜が成膜された膜を3枚成膜した膜をそれぞれG4a、G4b、G4cとする。
【0092】
ゲル膜G4a、G4b、G4cをそれぞれ個別に仮焼炉内に静置し、図4に示す温度プロファイルにより水蒸気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(Calcined films)C4a、C4b、C4cを得た。仮焼膜はそれぞれ個別に図5に示す本焼プロファイルをベースに本焼成を行った。3枚全ての仮焼膜ともに、最高本焼温度825℃の条件で1時間保持し、加湿量は4.20%RHとした。本焼時ガス流量は直径58mmの炉心管内において、C4aでは1時間全て1.0L/minとし、C4bでは20分毎に1.0→0.3→1.0L/minとした。またC4cでは3.0→1.0→3.0L/minとした。酸素アニール後に得られた超電導膜をそれぞれF4a、F4b、F4cとする。ガス流量の制御はマスフローコントローラーを用いており、ガス流量はフルスケールの2%が公称の誤差とされているために極端にガス流量を変更することは出来ず、上記のように0.3〜3.0L/minまでの変更となった。
【0093】
超電導膜F4a、F4b、F4cの臨界電流密度測定はTHEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により表側のみ超電導特性を測定した。77K、0Tの測定条件下での臨界電流密度(MA/cm)はF4a、F4b、F4cの順に1.86、2.26、2.55であった。
【0094】
結果からガス流量を1/3倍または3倍としても低傾角粒界密度再生に効果があることが分かった。ただしガス流量を低減した場合の効果より、ガス流量を増大させた場合の特性改善のほうが明らかに大きかった。なおこの条件で得られる本焼膜の厚みは平均で560nmであることがわかっており、今回の測定でもその値でJ値の計算を行なった。
【0095】
(実験3)
本焼中に高加湿条件→低加湿条件→高加湿条件→低加湿条件→高加湿条件と加湿量を4回変化させ、各条件の時間をパラメータとして、高密度磁場捕捉層の全体に占める割合が変化した超電導体を作成し超電導特性を評価した。まず、Y(OCOCH、Ba(OCOCH、Cu(OCOCHの各水和物の粉末をそれぞれイオン交換水中に溶解し、それぞれ反応等モル量のCFCOOHと混合および攪拌を行い、金属イオンモル比1:2:3で混合を行うことにより混合溶液を得た。得られた混合溶液はナス型フラスコ中に入れ、ロータリーエバポレータ中減圧下で反応および精製を12時間行ない半透明青色のゲルまたはゾルを得た。
【0096】
得られたゲルまたはゾルを、その約100倍の重量に相当するメタノール(図2のf)を加えて完全に溶解し、その溶液をロータリーエバポレータ中で再び減圧下で反応および精製を12時間行うと半透明青色のゲルまたはゾルが得られた。得られたゲルまたはゾルはメタノール(図2のj)中に溶解し、メスフラスコを用いることにより希釈を行い、金属イオン換算で1.52Mのコーティング溶液Aを得た。
【0097】
コーティング溶液Aに添加剤としてH(CFCOOHを10wt%加えたコーティング溶液Bを得た。コーティング溶液Bを用い、100ccのビーカー中に深さ約30mmとなるように溶液を満たし、その中に両面研磨の10×25mm配向LaAlO単結晶基板を入れて60秒間静置した。その後、ディップコーターを用いて引き上げ速度20mm/secで引き上げを行い、両面にゲル膜が成膜された膜を5枚成膜した。この膜をそれぞれG5a、G5b、G5c、G5d、G5eとする。
【0098】
ゲル膜G5a、G5b、G5c、G5d、G5eをそれぞれ仮焼炉内に静置し、図4に示す温度プロファイルにより水蒸気下で有機物の分解熱処理を行い、半透明茶褐色の金属酸化フッ化物からなる仮焼膜(Calcined films)C5a、C5b、C5c、C5d、C5eを得た。仮焼膜はそれぞれ個別に図5に示す本焼プロファイルをベースに本焼成を行った。C5a、C5b、C5c、C5d、C5eともに本焼時ガス流量を直径58mmの炉心管内部に1.0L/minのガスを流す条件で行なった。最高本焼温度は共に825℃で、C5a、C5b、C5c、C5dは1時間の保持を行ない、成長速度が遅いC5eについてはさらに50分延長し焼成完了させた。最高温度保持の1時間において、C5aの本焼は加湿量を4.20%RHに固定して行なった。C5b、C5c、C5d の本焼は加湿量を4.20→0.0420→4.20→0.0420→4.20%RHとし、合計時間を60分に固定し、C5bは全て12分とし、C5cは順に14分→8分→15分→8分→15分とし、C5dは順に17分→4分→17分→4分→18分とした。C5eの本焼は加湿量を4.20→0.0420→4.20→0.0420→4.20%RHとし、保持時間は10分→40分→10分→40分→10分とした。酸素アニール後に得られる超電導膜をそれぞれF5a、F5b、F5c、F5d、F5eとする。
【0099】
全ての超電導膜の臨界電流密度測定はTHEVA社製CryoScanを用い、液体窒素中の自己磁場下で誘導法により表側のみ超電導特性を測定した。77K、0Tの測定条件下での臨界電流密度(MA/cm)はF5a、F5b、F5c、F5d、F5eの順に1.86、2.69、2.93、3.06、2.06であった。この条件で得られる本焼膜の厚みは平均で560nmであることがわかっており、今回の測定でもその値でJ値の計算を行なった。図13は、この実験で得られる複数の低密度磁場捕捉層を有する超電導体の模式断面図である。ここで得られたF5b、F5c、F5d、F5eの断面TEM像は図13のような積層構造を持つと考えられる。図14は、低傾角粒界幅が狭い領域(高密度磁場捕捉層)の体積分率と臨界電流密度の関係を示す図である。F5dの特性が高かったのは低加湿でWが広がった層(低密度磁場捕捉層)の体積が小さかったためと考えられる。Wが狭い部分(高密度磁場捕捉層)の体積が特に比率で60%を超えるような場合に自己磁場下でのJ値が改善するものと考えられる。
【0100】
結果から成長速度が速い、すなわち低傾角粒界幅が狭いと考えられる領域が多いほど特性が向上することが分かった。特に粒界幅が狭い領域が60体積%以上となるよう本焼を行い、かつ粒界幅を定期的に再生する条件により高特性が得られることが分かった。
【0101】
このように、本実施例により本発明の効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】第1の実施の形態の酸化物超電導体の断面図。
【図2】第1の実施の形態のコーティング溶液調整法のフローチャート。
【図3】第1の実施の形態のコーティング溶液から超電導体を成膜する方法を示すフローチャート。
【図4】第1の実施形態の仮焼(一次熱処理)の一例の温度プロファイルを示す図。
【図5】第1の実施形態の本焼(二次熱処理)の一例の温度プロファイルを示す図。
【図6】粒子の核生成と成長についての模式図。
【図7】本焼時の系のエネルギーと粒子生成量との関係を示す図。
【図8】本焼時の系のエネルギーと粒子の成長確率との関係を示す図。
【図9】実施例の平面TEM観察結果。
【図10】実施例の低傾角粒界幅と臨界電流密度との関係を示す図。
【図11】実施例の本焼成に伴うフッ素イオン測定結果を示す図。
【図12】実施例の加湿量とフッ素イオン検出速度の関係を示す図。
【図13】実施例の複数の低密度磁場捕捉層を有する超電導体の模式断面図。
【図14】実施例の低傾角粒界幅が狭い領域の体積分率と臨界電流密度の関係を示す図。
【符号の説明】
【0103】
10 酸化物超電導体
12 基板
12a 金属基材
12b 酸化物配向中間層
14 酸化物超電導膜
14a、14c 高密度磁場捕捉層
14b 低密度磁場捕捉層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成され、結晶粒の<001>方向が前記基板に略垂直に配向し、隣接する前記結晶粒同士の(100)面が互いに0度以上4度以下または86度以上90度以下の傾角をなすよう配向する高い結晶性の酸化物超電導膜を備え、
前記酸化物超電導膜が、前記基板に略平行に積層される複数の高密度磁場捕捉層と、前記高密度磁場捕捉層間に挟まれる低密度磁場捕捉層とで形成される積層構造を有し、
前記高密度磁場捕捉層の前記基板に水平な断面における平均粒界幅が80nm以下であり、かつ、前記平均粒界幅が前記低密度磁場捕捉層の前記基板に水平な断面における平均粒界幅よりも小さいことを特徴とする酸化物超電導体。
【請求項2】
前記酸化物超電導膜中、前記高密度磁場捕捉層の占める割合が60体積%以上であることを特徴とする請求項1記載の酸化物超電導体。
【請求項3】
前記酸化物超電導膜が、イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とを含む酸化物であることを特徴とする請求項1記載の酸化物超電導体。
【請求項4】
前記酸化物超電導膜中に炭素が3×1019atoms/cc以上、フッ素が5×1017atoms/cc以上含有されることを特徴とする請求項1記載の酸化物超電導体。
【請求項5】
前記基板が金属基材と、前記金属基材上の酸化物配向中間層で形成され、
前記酸化物配向中間層が、LaAlO、NdGaO、Al、SrTiO、CeO、Y強化ZrO、Y、GdZr、BaZrO、BaZnOからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物であることを特徴とする請求項1記載の酸化物超電導体。
【請求項6】
前記金属基材がNi−Co−Cr合金またはNi−W合金であることを特徴とする請求項5記載の酸化物超電導体。
【請求項7】
イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とが混合されたフルオロカルボン酸塩メタノール溶液をコーティング溶液として準備し、
前記コーティング溶液を基板上に塗布してゲル膜を形成し、
前記ゲル膜に仮焼を行い、仮焼膜を形成し、
前記仮焼膜に、熱処理中に加湿量を2回以上変化させる本焼と、酸素アニールを行うことにより前記仮焼膜を酸化物とすることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項8】
前記本焼の際に、前記加湿量の最大値が最小値の3倍以上であることを特徴とする請求項7記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項9】
前記本焼の際に、前記加湿量の最大値が最小値の10倍以上であることを特徴とする請求項7記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項10】
前記本焼の際に、加湿量1.26%RH以上の条件での成膜量が、全成膜量の60体積%以上を占めることを特徴とする請求項7記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項11】
前記本焼の際に、加湿量1.26%RH以上の条件での成膜量が、全成膜量の90体積%以上を占めることを特徴とする請求項7記載の酸化物超電導体の製造方法。
【請求項12】
イットリウムおよびランタノイド族(ただしセリウム、プラセオジウム、プロメシウム、ルテチウムを除く)からなる群より選択される少なくとも1種の金属と、バリウムと、銅とが混合されたフルオロカルボン酸塩メタノール溶液をコーティング溶液として準備し、
前記コーティング溶液を基板上に塗布してゲル膜を形成し、
前記ゲル膜に仮焼を行い、仮焼膜を形成し、
前記仮焼膜に、熱処理中にガス流量を2回以上変化させる本焼と、酸素アニールを行うことにより前記仮焼膜を酸化物とすることを特徴とする酸化物超電導体の製造方法。
【請求項13】
前記本焼の際に、前記ガス流量の最大値が最小値の3倍以上であることを特徴とする請求項12記載の酸化物超電導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−238557(P2009−238557A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82683(P2008−82683)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】