説明

酸化物超電導体通電素子

【課題】クエンチ時、特に、局所的なクエンチ時の耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供する。
【解決手段】酸化物超電導体と、該酸化物超電導体の両端に電気的に接合された電極端子と、該酸化物超電導体に導電性樹脂により接着された支持体とから少なくとも構成されてなることを特徴とする酸化物超電導体通電素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流リードや限流器、永久電流スイッチ等に使用する酸化物超電導体を用いた酸化物超電導体通電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、電気抵抗がゼロで大電流を流せるので、電流リードや限流器、永久電流スイッチ等の通電素子に用いられる。酸化物超電導体を用いた通電素子は、例えば、特許文献1に記載されているように、酸化物超電導体と、酸化物超電導体の両端に半田等で電気的に接続された電極端子と、樹脂等で酸化物超電導体に接着された支持体(補強部材)とから主に構成される。
【0003】
特許文献1には、接着部材として、「低温用樹脂接着剤は、液体窒素温度等の低温においても亀裂等が生じず、接着力が維持されるものであり、たとえば、エポキシ系樹脂系接着剤、ポリイミド系樹脂系接着剤、ビニルエステル系樹脂系接着剤等が好ましく用いられる」と記載されており、さらに、「熱収縮率の調整のため、この接着剤にセラミックス粉末が添加されている。添加されるセラミックスとして、たとえば、アルミナ、ジルコニアまたはそれらの混合物が好ましい」と記載されている。特許文献1に例として挙げられている接着部材及びセラミックス粉末は、電気的絶縁材料であり、接着剤にセラミックス粉末を添加する理由として熱収縮率の調整が挙げられているが、特許文献1には、接着部材や添加粉末の電気伝導性に関する記載はない。
【0004】
また、酸化物超電導体を用いた通電素子では、クエンチ(超電導状態から常電導状態への転移)等の異常事態において、過電流が流れた場合に、酸化物超電導体が破損したり、溶断したりするおそれがある。その対策として、例えば、特許文献2には、「このセラミックス超電導導体に並列に常電導導体を接続したもので、この常電導導体はクエンチ等の異常事態において電流のバイパスの役目を果たすもの」と記載されているように、外部に付加的にバイパス回路を接続することが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平8−264312号公報
【特許文献2】特許第2768776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
外部に付加的にバイパス回路を設けることにより、酸化物超電導体通電素子の破損や溶断を防止することができるはずであるが、外部にバイパス回路を接続しても、酸化物超電導体が破損や溶断することが起こるという問題があった。酸化物超電導体が全体的にクエンチした場合には、設計通りに電流がバイパス回路側に迂回するため、酸化物超電導体の破損や溶断は起こり難い。しかし、酸化物超電導体の一部が局所的にクエンチした場合には、一部しか常電導状態に転移していないため、酸化物超電導体側の電気抵抗が十分に大きくならず、設計通りには電流がバイパス回路側に十分に迂回しない。そのため、酸化物超電導体の常電導転移部分に大きな電流が流れ続け、その部分の温度が局所的に急激に上昇する。その結果、酸化物超電導体の破損や溶断が起こっていた。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題を解決し、クエンチ時の耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸化物超電導体通電素子は、以下のとおりである。
(1)酸化物超電導体と、該酸化物超電導体の両端に電気的に接合された電極端子と、該酸化物超電導体に導電性樹脂により接着された支持体とから少なくとも構成されてなることを特徴とする酸化物超電導体通電素子。
(2)前記導電性樹脂が、電気絶縁性樹脂に導電性フィラーを配合したものであることを特徴とする(1)に記載の酸化物超電導体通電素子。
(3)前記導電性フィラーが金属粉末あるいはカーボン粉末であることを特徴とする(2)に記載の酸化物超電導体通電素子。
(4)前記導電性樹脂の電気抵抗率が10-2Ωcm以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の酸化物超電導体通電素子。
(5)前記支持体を固定する機械的手段をさらに有することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の酸化物超電導体通電素子。
(6)前記酸化物超電導体の表面が金属皮膜で被覆されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の酸化物超電導体通電素子。
(7)前記酸化物超電導体が、単結晶状のREBa2Cu3Ox相(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5相が微細分散した酸化物超電導体であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の酸化物超電導体通電素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、局所的なクエンチ時の耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について図に沿って説明する。
図1は、本発明の実施形態における酸化物超電導体通電素子の構造の一例を示す断面図である。
図1において、酸化物超電導体1の両端には、外部に接続するための電極端子2が半田等(図1では省略されている)で電気的に接合されている。さらに、酸化物超電導体1の両側には、補強のために導電性樹脂3によって支持体4が接着されている。支持体4は酸化物超電導体1の表面だけでなく、酸化物超電導体1と電極端子2との接合部をも覆うように密着被覆されている。酸化物超電導体1の両側の支持体4は、導電性樹脂3による接着固定に加えて、ボルト5等による機械的手段で固定されている。
【0011】
本発明において、導電性樹脂とは、電気抵抗率が小さく電気伝導性を有する樹脂のことである。酸化物超電導体の室温から臨界温度直上での四端子法によって測定される電気抵抗率は10-4〜10-3Ωcm程度であるが、クエンチ箇所に電流が流れ続けると、溶断する直前には数百K程度まで温度上昇する。酸化物超電導体の室温以上での電気抵抗率は温度にほぼ比例するので、溶断直前には酸化物超電導体の電気抵抗率は10-2Ωcm程度になっていると推定される。酸化物超電導体が局所的にクエンチした時に、通電電流がクエンチ箇所から導電性樹脂の方へ効果的に迂回するためには、導電性樹脂の電気抵抗率が酸化物超電導体の電気抵抗率よりも同程度か、より小さい方が好ましい。したがって、導電性樹脂の電気抵抗率としては、10-2Ωcm以下であることが好ましい。
【0012】
エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリイミド系樹脂等のような汎用性の樹脂は、一般に電気絶縁性であるが、銀や銅、ニッケル等の金属粉末あるいはカーボン粉末等の導電性材料をフィラーとして攪拌混合することによって、導電性を付与することができる。酸化物超電導体の破損や溶断の防止のために必要な導電性樹脂の電気抵抗については、通電容量、冷凍機等の冷却能力、クエンチ検出から電流遮断までの時間等、酸化物超電導体通電素子が取り付けられる装置の性能や使用状況、使用環境等に依存するため、酸化物超電導体通電素子のみの構成で決定することはできない。そのため、本発明に用いる導電性樹脂としては、フィラーの配合比率を変化させることにより、容易に電気抵抗を調整することができるので、エポキシ系樹脂等の電気絶縁性樹脂に銀等の導電性フィラーを配合した導電性樹脂が好ましい。導電性フィラーの添加量としては、例えば、10〜90質量%、好ましくは40〜75質量%である。また、導電性フィラーの粒径は、例えば1〜100μmである。
【0013】
本発明の構造を有する酸化物超電導体通電素子において、通常の使用状態では、酸化物超電導体の電気抵抗はほぼゼロであるので、たとえ接着用の樹脂に導電性があったとしても、通電電流は導電性樹脂の方へ迂回することなく、ほぼ全電流が酸化物超電導体中を流れる。しかし、酸化物超電導体の一部がクエンチした場合、電流は、クエンチして常電導状態に転移した部分を迂回して、その直ぐ近くの導電性樹脂部分にも流れることになる。このような局所的な電流の迂回路を有することは、クエンチした部分で発生するジュール発熱量を小さくする効果があるので、クエンチした部分の局所的な急激な温度上昇は抑制される。加えて、酸化物超電導体に接着している導電性樹脂を通じて、局所的に発生したクエンチによる発熱を周囲に拡散させる効果もあるので、クエンチした部分の局所的な急激な温度上昇は抑制される。これらの効果により、酸化物超電導体通電素子のクエンチ時の耐久性は大幅に改善する。
【0014】
さらに、導電性樹脂の電気抵抗を十分に小さくすることができれば、導電性樹脂だけでも十分なバイパス回路機能を持たせることが可能であり、外部にバイパス回路を設ける煩わしさを省くことができる。しかしながら、導電性樹脂の電気抵抗を小さくするためには、導電性フィラーの配合比率を大きくする必要があり、導電性樹脂の接着強度が低下するおそれがある。この場合には、ボルト等による機械的手段で支持体を固定することが有効になる。
【0015】
本発明と同じようなクエンチ時の耐久性を改善する効果を得るために、外部に付加的にバイパス回路を設ける代わりに、補強のための支持体を銀、銅、アルミ等の良導体である金属で形成し、支持体自体をバイパス回路にすることが考えられる。しかしながら、良導体である金属製支持体であっても、電気絶縁性の樹脂を用いて酸化物超電導体に接着すると、本発明の導電性樹脂で接着した場合に比較して、酸化物超電導体に接しているのは電気絶縁性の樹脂なので、局所的なクエンチに対する温度上昇抑制効果は小さくなって好ましくない。さらに、熱侵入を抑制する機能が求められる電流リードでは、良導体である金属を支持体とすると熱侵入量が大幅に増大するので好ましくない。なお、金属製支持体の断面積を小さくすれば、熱侵入量を小さくすることはできるかもしれないが、断面積を小さくすると機械的強度も小さくなり、補強の機能が失われる。本発明で用いる導電性樹脂は、酸化物超電導体と支持体とを接着するものであり、元々その断面積は小さく、樹脂中に導電性フィラーを混合することで樹脂の熱伝導率が多少増大しても、素子全体の熱侵入量はあまり増大しない。
【0016】
本発明に用いる酸化物超電導体は、酸化物超電導体であれば特に材料系を制限するものではなく、RE-Ba-Cu-O(REはY又は希土類元素から選ばれた少なくとも1つの元素)系酸化物超電導体、Bi系酸化物超電導バルク体等でもよい。酸化物超電導バルク体の中でも、溶融法で製造された単結晶状のREBa2Cu3Ox相(123相)中にRE2BaCuO5相(211相)が微細分散した酸化物超電導バルク体は、臨界電流密度が高いので、同じ電流容量に対して必要な酸化物超電導体の断面積が小さくなる。そのため、酸化物超電導体通電素子に用いた場合、小さな断面積に大電流が集中することになるので、局所的なクエンチの影響を受け易い。したがって、本発明によるクエンチ時の耐久性改善の効果は、臨界電流密度の高いRE系溶融バルク超電導体においてより顕著になる。さらに、酸化物超電導体の表面に金属皮膜を形成すると、導電性樹脂との接触電気抵抗が低減し、局所的なクエンチ時に通電電流がスムーズに迂回するため、より好ましい。また、金属皮膜の厚さとしては、例えば0.5〜10μmである。
【0017】
本発明に用いる電極端子としては、銅、銀、アルミニウム等の電気良導体が、電極端子自体のジュール発熱を小さくできるので好ましい。また、本発明に用いる支持体としては、酸化物超電導体の機械的強度を補強する効果が大きいので、GFRP(ガラス繊維強化プラスチックス)やCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)等の繊維強化材料、ステンレスやNiCr合金、Ti合金等の金属材料、アルミナや窒化珪素等のセラミックス材料等、強度や剛性が大きい材料が好ましく、それらの材料を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
溶融法で作製した直径46mm、厚さ15mmで、25mol%の211相が123相中に微細分散したDy-Ba-Cu-O系単結晶状酸化物超電導体から長さ40mm、幅5mm、厚さ0.8mmの棒状の試料を切り出し、表面を1μmの厚さの銀で被覆した。次に、酸化物超電導体の両端を銅製の電極端子と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体の両側から接着固定した、図1のような構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。接着樹脂としては、エポキシ系樹脂(商品名:スタイキャスト1266)を用い、60μm級の銀粒子をフィラーとして40質量%攪拌混合した後に、酸化物超電導体と支持体とに塗布し、酸化物超電導体の両側から支持体を重ね合わせた後に、ステンレス製ボルトで機械的に固定した状態で、樹脂を接着硬化させた。
【0019】
比較のため、フィラーを混合しないで電気絶縁性のエポキシ系樹脂を接着用にそのまま使用した以外は同じ部材を用いて、同じ構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。なお、本実施例の酸化物超電導体の電気抵抗率は300Kで600μΩcmであった。一方、フィラーを混合した導電性樹脂の、硬化後の300Kでの電気抵抗率は10mΩcmであった。
【0020】
本実施例及び比較例の酸化物超電導体通電素子をそれぞれ10本ずつ作製し、液体窒素中にて通電試験を実施し、どちらも10本とも250Aで通電可能であることを確認した。その後、銅線を外部に付加的にバイパス回路として接続した状態で、液体窒素中で250A以上の電流を通電する過電流通電試験を実施し、通電素子中の酸化物超電導体を強制的にクエンチさせた。本実験に用いた電流電源は過電圧保護回路付のものであり、過電圧を検出してから通電電流遮断までの時間は2m秒であった。過電流通電試験後に、比較例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中7本において、通電素子中の酸化物超電導体が破損や溶断しており、250Aまで通電できなかった。一方、本実施例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本全て250A通電可能であった。本実験により、本実施例の構造の酸化物超電導体通電素子では、クエンチ時の耐久性が大幅に改善していることが確認できた。
【0021】
(実施例2)
溶融法で作製した直径46mm、厚さ15mmで、20mol%の211相が123相中に微細分散し、初期原料に10質量%添加した銀が微細分散したGd-Ba-Cu-O系単結晶状酸化物超電導体から、長さ40mm、幅3mm、厚さ0.8mmの棒状の試料を切り出し、表面を2μmの厚さの銀で被覆した。次に、酸化物超電導体の両端を銅製の電極端子と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体の両側から接着固定した、図1のような構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。接着樹脂としてはエポキシ系樹脂を用い、1μm級の銅粒子をフィラーとして75質量%攪拌混合した後に、酸化物超電導体と支持体とに塗布し、酸化物超電導体の両側から支持体を重ね合わせた後に、ステンレス製ボルトで機械的に固定した状態で樹脂を接着硬化させた。
【0022】
比較のため、フィラーを混合しないで電気絶縁性のエポキシ系樹脂を接着用にそのまま使用した以外は同じ部材を用いて、同じ構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。なお、本実施例の酸化物超電導体の電気抵抗率は300Kで500μΩcmであった。一方、フィラーを混合した導電性樹脂の、硬化後の300Kでの電気抵抗率は1mΩcmであった。
【0023】
本実施例及び比較例の酸化物超電導体通電素子をそれぞれ10本ずつ作製し、液体窒素中にて通電試験を実施し、どちらも10本とも150A通電可能であることを確認した。その後、外部に付加的に接続するバイパス回路なし状態で、液体窒素中で150A以上の電流を通電する過電流通電試験を実施し、通電素子中の酸化物超電導体を強制的にクエンチさせた。本実験に用いた電流電源は過電圧保護回路付のものであり、過電圧を検出してから通電電流遮断までの時間は2m秒であった。過電流通電試験後に、比較例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中10本とも、通電素子中の酸化物超電導体が破損や溶断しており、150Aまで通電できなかった。一方、本実施例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中2本において150Aまで通電できなかったものの、8本については150A通電可能であった。本実験により、本実施例の構造の酸化物超電導体通電素子では、クエンチ時の耐久性が大幅に改善していることが確認できた。
【0024】
(実施例3)
溶融法で作製した直径30mm、厚さ15mmで、30mol%の211相が123相中に微細分散したHo-Ba-Cu-O系単結晶状酸化物超電導体から長さ30mm、幅2mm、厚さ1mmの棒状の試料を切り出した。次に、酸化物超電導体の表面に銀成膜を行わずに、酸化物超電導体の両端を銅製の電極端子と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体の両側から接着固定した、図1のような構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。接着樹脂としては、エポキシ系樹脂を用い、10μm級のカーボン粒子をフィラーとして60質量%攪拌混合した後に、酸化物超電導体と支持体とに塗布し、酸化物超電導体の両側から支持体を重ね合わせた後に、ステンレス製ボルトで機械的に固定した状態で、樹脂を接着硬化させた。
【0025】
比較のため、フィラーを混合しないで電気絶縁性のエポキシ系樹脂を接着用にそのまま使用した以外は同じ部材を用いて、同じ構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。なお、本実施例の酸化物超電導体の電気抵抗率は300Kで600μΩcmであった。一方、フィラーを混合した導電性樹脂の、硬化後の300Kでの電気抵抗率は1Ωcmであった。
【0026】
本実施例及び比較例の酸化物超電導体通電素子をそれぞれ10本ずつ作製し、液体窒素中にて通電試験を実施し、どちらも10本とも125A通電可能であることを確認した。その後、銅線を外部に付加的にバイパス回路として接続した状態で、液体窒素中で125A以上の電流を通電する過電流通電試験を実施し、通電素子中の酸化物超電導体を強制的にクエンチさせた。本実験に用いた電流電源は過電圧保護回路付のものであり、過電圧を検出してから通電電流遮断までの時間は2m秒であった。過電流通電試験後に、比較例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中8本において、通電素子中の酸化物超電導体が破損や溶断しており、125Aまで通電できなかった。一方、本実施例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中3本において125Aまで通電できなかったものの、7本については125A通電可能であった。本実験により、本実施例の構造の酸化物超電導体通電素子では、クエンチ時の耐久性が大幅に改善していることが確認できた。
【0027】
(実施例4)
溶融法で作製した直径65mm、厚さ20mmで、30mol%の211相が123相中に微細分散したDy-Ba-Cu-O系単結晶状酸化物超電導体から、永久電流スイッチ素子に適用できるように電流通路を長くしたミアンダ形状の試料を切り出し、表面を10μmの厚さの銀で被覆した。ミアンダ形状には、縦30mm、横55mmの板形状に切り出した酸化物超電導体に、幅1mmの溝を交互に設けて作製した。次に、酸化物超電導体の両端を銅製の電極端子と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体の両側から接着固定し、図2のような酸化物超電導体通電素子を作製した。接着樹脂としては、エポキシ系樹脂を用い、1μm級の銀粒子をフィラーとして90質量%攪拌混合した後に、酸化物超電導体と支持体とに塗布し、酸化物超電導体の両側から支持体を重ね合わせた後に、ステンレス製ボルトで機械的に固定した状態で、樹脂を接着硬化させた。また、接着用の導電性樹脂は、ミアンダ形状の隙間を埋めるようにも塗布した。
【0028】
比較のため、フィラーを混合しないで電気絶縁性のエポキシ系樹脂を接着用にそのまま使用した以外は同じ部材を用いて、同じ構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。なお、本実施例の酸化物超電導体の電気抵抗率は300Kで800μΩcmであった。一方、フィラーを混合した導電性樹脂の、硬化後の300Kでの電気抵抗率は1mΩcmであった。
【0029】
本実施例及び比較例の酸化物超電導体通電素子をそれぞれ10本ずつ作製し、液体窒素中にて通電試験を実施し、どちらも10本とも250A通電可能であることを確認した。その後、銅線を外部に付加的にバイパス回路として接続した状態で、液体窒素中で250A以上の電流を通電する過電流通電試験を実施し、通電素子中の酸化物超電導体を強制的にクエンチさせた。本実験に用いた電流電源は過電圧保護回路付のものであり、過電圧を検出してから通電電流遮断までの時間は2m秒であった。過電流通電試験後に、比較例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中9本において、通電素子中の酸化物超電導体が破損や溶断しており、250Aまで通電できなかった。一方、本実施例の酸化物超電導体通電素子の場合、10本中1本において250Aまで通電できなかったものの、9本については250A通電可能であった。本実験により、本実施例の構造の酸化物超電導体通電素子では、クエンチ時の耐久性が大幅に改善していることが確認できた。
【0030】
(実施例5)
外直径30mm、内直径10mm、長さ120mmの円筒形状のBi-Sr-Ca-Cu-O系酸化物超電導体を焼結法で作製し、その両端20mm長を厚さ5μmの銀で被覆した。次に、酸化物超電導体の両端10mm部分を銅製の電極端子と半田接続し、ガラス繊維強化プラスチックス(GFRP)で酸化物超電導体の両側から接着固定し、図3のような構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。接着樹脂としては、エポキシ系樹脂を用い、8μm級の銀粒子をフィラーとして75質量%攪拌混合した後に、酸化物超電導体と支持体とに塗布し、酸化物超電導体の両側から支持体を重ね合わせた後に、ボルトで機械的に固定することなしに、樹脂を接着硬化させた。
【0031】
比較のため、フィラーを混合しないで電気絶縁性のエポキシ系樹脂を接着用にそのまま使用した以外は同じ部材を用いて、同じ構造の酸化物超電導体通電素子を作製した。なお、本実施例の酸化物超電導体の電気抵抗率は300Kで2mΩcmであった。一方、フィラーを混合した導電性樹脂の、硬化後の300Kでの電気抵抗率は6mΩcmであった。
【0032】
本実施例及び比較例の酸化物超電導体通電素子をそれぞれ5本ずつ作製し、液体窒素中にて通電試験を実施し、どちらも5本とも250A通電可能であることを確認した。その後、銅線を外部に付加的にバイパス回路として接続した状態で、液体窒素中で250A以上の電流を通電する過電流通電試験を実施し、通電素子中の酸化物超電導体を強制的にクエンチさせた。本実験に用いた電流電源は過電圧保護回路付のもので、過電圧を検出してから通電電流遮断までの時間は2m秒であった。過電流通電試験後に、比較例の酸化物超電導体通電素子の場合、5本中5本において、通電素子中の酸化物超電導体が破損や溶断しており、250Aまで通電できなかった。一方、本実施例の酸化物超電導体通電素子の場合、5本中1本において250Aまで通電できなかったものの、4本については250A通電可能であった。本実験により、本実施例の構造の酸化物超電導体通電素子では、クエンチ時の耐久性が大幅に改善していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明によれば、クエンチ時の耐久性に優れた酸化物超電導体通電素子を提供することができるので、酸化物超電導体の工業上の利用範囲が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の酸化物超電導体通電素子の一例を示す構造断面図である。
【図2】本発明の酸化物超電導体通電素子の別の一例を示す構造断面図である。
【図3】本発明の酸化物超電導体通電素子のさらに別の一例を示す構造断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 酸化物超電導体
2 電極端子
3 導電性樹脂
4 支持体
5 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導体と、該酸化物超電導体の両端に電気的に接合された電極端子と、該酸化物超電導体に導電性樹脂により接着された支持体とから少なくとも構成されてなることを特徴とする酸化物超電導体通電素子。
【請求項2】
前記導電性樹脂が、電気絶縁性樹脂に導電性フィラーを配合したものであることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項3】
前記導電性フィラーが金属粉末あるいはカーボン粉末であることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項4】
前記導電性樹脂の電気抵抗率が10-2Ωcm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項5】
前記支持体を固定する機械的手段をさらに有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項6】
前記酸化物超電導体の表面が金属皮膜で被覆されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子。
【請求項7】
前記酸化物超電導体が、単結晶状のREBa2Cu3Ox相(REはY又は希土類元素から選ばれる1種又は2種以上)中にRE2BaCuO5相が微細分散した酸化物超電導体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸化物超電導体通電素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−267240(P2009−267240A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117405(P2008−117405)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】