説明

酸化物超電導線材の製造方法及び製造装置

【課題】基材上に均一な超電導膜を形成して超電導特性の優れた酸化物超電導線材を製造すること。
【解決手段】超電導原料溶液20が収容されたU字状管30内を、テープ状の基材10を移動させることにより、基材10の表面に超電導原料溶液20を付着させる工程において、U字状管30の内壁に、U字状管30の内壁と離間させつつ基材10の移動方向に案内するガイド部40を配置し、このガイド部40によって、基材10を、U字状管30中を基材10の移動方向に案内して移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の製造方法及び製造装置に関し、特に酸化物中間層が形成された金属基材上に、MOD(Metal-organic Deposition)法を用いて超電導層を形成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、MOD法を用いて超電導層を形成することが提案されている(特許文献1,2参照)。MOD法は、先ず、酸化物中間層が形成されたテープ状の基材を、超電導原料溶液(有機金属塩を有機溶媒に溶解させたもの)に浸し、この基材を超電導原料溶液から引き上げること(いわゆるディップコート法)により、基材の表面に超電導膜を付着させる。次に、仮焼成及び本焼成を行うことにより、酸化物超電導層を形成する。MOD法は、非真空中でも長尺の基材に連続的に酸化物超電導層を形成できるので、PLD(Pulse Laser Deposition)法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相法よりも、プロセスが簡単で低コスト化が可能であることから、注目されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−335718号公報
【特許文献2】特開2003−308746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、MOD法では、酸化物中間層が形成されたテープ状の基材を、容器内の超電導原料溶液内に浸した後で引き上げる際に、容器の形状によっては、基材の端部(エッジ部)が容器の内壁に接触した状態で移動する。これにより、この基材の端部によって容器の内壁が削られてしまう虞がある。削られた内壁の異物は、引き上げる基材の表面に付着してしまうという問題が発生する。
【0005】
このように表面に異物が付着した状態の基材に仮焼及び本焼が行われると、基材の表面に形成される超電導層は、異物の存在によって均一な膜厚にならず、製造される酸化物超電導線材として所望の超電導特性を得ることができない。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、基材上に均一な超電導膜を形成して超電導特性の優れた酸化物超電導線材を製造する酸化物超電導線材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法の一つの態様は、超電導原料溶液が収容された容器内を、テープ状の基材を移動させることにより、前記基材の表面に前記超電導原料溶液を付着させる工程を有する、酸化物超電導線材の製造方法であって、前記容器の内壁に、前記容器の内壁と離間させつつ前記基材の移動方向に案内するガイド部が配置され、前記ガイド部によって、前記基材を、前記容器中を前記基材の移動方向に案内して移動させるようにした。
【0008】
本発明に係る酸化物超電導線材の製造装置の一つの態様は、超電導原料溶液が収容された容器を備え、この容器内を、テープ状の基材を移動させることにより、前記基材の表面に前記超電導原料溶液を付着させる酸化物超電導線材の製造装置であって、前記容器の内壁に配置され、前記容器の内壁と離間させつつ前記基材の移動方向に案内するガイド部を備え、前記ガイド部によって、前記基材を、前記容器中を前記基材の移動方向に案内して移動させる構成を採る。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、基材上に均一な超電導膜を形成して超電導特性の優れた酸化物超電導線材を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法で用いられる製造装置の概略を示す図
【図2】図1のA−A線矢視端面図
【図3】同製造装置で用いられるガイド部の概略を示す図
【図4】同製造装置に供給される基材の構成例を示す図
【図5】同製造装置を用いて製造される酸化物超電導体の要部構成を示す図
【図6】同製造装置の別例の概略を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明を実施するための製造装置の例を示す模式図である。図1の例は、超電導原料溶液20を収容する容器としてU字状管30を用いた例である。また、図2は、図1のA−A線矢視端面図である。図1及び図2に示す製造装置100は、U字状管30と、U字状管30内に配設されたガイド部40とを有する。
【0013】
超電導原料溶液20は、焼成によって、REBaCu系(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd及びHoから選択された1種以上の元素を示し、y≦2及びz=6.2〜7である。)の高温超電導薄膜となる。
【0014】
この超電導原料溶液20は、RE(REは、Y、Nd、Sm、Eu、GdおよびHoから選択された1種以上の元素を示す)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液(混合溶液)を含む有機金属錯体溶液である。ここでは、超電導原料溶液20として、イットリウム(Y)のトリフルオロ酢酸塩(Y-TFA)、バリウム(Ba)のトリフルオロ酢酸塩(Ba-TFA)及び銅(Cu)のナフテン酸塩を、Y:Ba:Cuのモル比が1:b:3(但し、b<2)で混合したものを用いた。
【0015】
なお、このような超電導原料溶液20としては、下記(a)〜(d)の溶液を用いることが好ましい。
(a)REを含む有機金属錯体溶液:REを含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液、特に、REを含むトリフルオロ酢酸塩溶液であることが望ましい。
(b)Baを含む有機金属錯体溶液:Baを含むトリフルオロ酢酸塩の溶液
(c)Cuを含む有機金属錯体溶液:Cuを含むナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
(d)Baと親和性の大きい金属を含む有機金属錯体溶液:Zr、Sn、Ce、Ti、Hf、Nbから選択された少なくとも1種以上の金属を含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩、酢酸塩のいずれか1種以上を含む溶液
【0016】
U字状管30は、例えば、樹脂又は金属からなるチューブ等である。ここでは、U字状管30は、超電導原料溶液20である有機溶剤に対する耐性の高い材質、例えばポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene:PTFE)等のフッ素樹脂により形成されたチューブである。また、超電導原料溶液20を収容する容器をU字状管30とすることで、使用する超電導原料溶液20の量を減少させて、酸化物超電導線材を製造する際のコストの削減を図っている。
【0017】
超電導原料溶液20に浸けられる基材10は、U字状管30の一方の開口部(導入口)31から導入され、他方の開口部(排出口)32から排出される。なお、基材10の引き上げは、図示しない引き上げ機構によって行われる。
【0018】
ガイド部40は、U字状管30内に導入される基材10とU字状管30との接触を防止しつつ、基材10を、U字状管30内で基材10の延在方向に円滑に移動させる。具体的には、基材10がU字状管30内を延在方向に移動する際に、基材10の両側端部(エッジ部)10aがU字状管30の内面を摺動することを防止する。
【0019】
図3にガイド部40の一例を示す。
【0020】
ガイド部40は、テープ状をなす長尺の帯状本体42と、帯状本体42の延在方向で所定間隔を空けて一様に設けられた複数の側部ガイドフレーム部44と、ガイドレール部46と、を有する。
【0021】
帯状本体42は、U字状管30内の超電導原料溶液20が酸性であるため、耐酸性の金属材料(例えば、ハステロイ、インコネル、高耐食性ステンレス鋼であるSUS316等)で形成される。ここでは、帯状本体42は、ハステロイテープで形成されている。
【0022】
側部ガイドフレーム部44は、U字状管30内における基材10の左右方向(基材10の延在方向と直交する方向)への移動を規制して、U字状管30の内壁面との接触を防止する形状をなしている。
【0023】
具体的には、側部ガイドフレーム部44は、線状部材を加工して形成される。側部ガイドフレーム部44は、テープ状の基材10の基板11(図4参照)側に配置されるフレーム本体片44aと、フレーム本体片44aの両端部から屈曲して設けられ、基材10の両端部にそれぞれ対向する側部ガイド片44bとを有する。
【0024】
ここでは、フレーム本体片44aは、ガイド部40の延在方向(軸方向)と直交して配置、つまり、帯状本体42の幅方向に向けて配置されている。また、側部ガイド片44bは、フレーム本体片44aの両端部で、U字状管30の内壁面に沿ってそれぞれ屈曲された形状をなしている。フレーム本体片44aの両端部から突出する側部ガイド片44bは、互いに対向している。また、これら側部ガイド片44bは、それぞれ、U字状管30内に導入される基材10の長手方向に沿う前記基材10の両側端部10aのそれぞれに対向する位置に配置される。側部ガイド片44bは、U字状管30内を基材10が基材10の延在方向、つまりU字状管30の延在方向に移動する際に、基材10の幅方向の移動を規制する。
【0025】
ここでは、側部ガイドフレーム部44は、フレーム本体片44aの両端から側部ガイド片44bをそれぞれ離間する方向に突出させたコ字状に形成されている。これら側部ガイドフレーム部44は、帯状本体42に所定間隔を空けて一様に取り付けられているとともに、線材からなるガイドレール部46に取り付けられている。
【0026】
ガイドレール部46は、ここでは、側部ガイドフレーム部44の幅方向の中央で、側部ガイドフレーム部44の延在方向に沿って配置される。U字状管30内に基材10を導入して移動させる際に、ガイドレール部46上を基材10の基板11の裏面が摺動する。
【0027】
側部ガイドフレーム部44及びガイドレール部46も帯状本体42と同様に、超電導原料溶液20を収容するU字状管30内に配設されるため、耐酸性の金属材料(例えば、ハステロイ、インコネル、高耐食性ステンレス鋼であるSUS316等)で形成される。ここでは側部ガイドフレーム部44及びガイドレール部46は、SUS316で形成している。
【0028】
このように構成されたガイド部40は、長手方向に延在する帯状本体42及びガイドレール部46は可撓性を有する。このため、U字状管30内に挿入されると、U字状管30の形状に対応して撓みU字状管30内で、側部ガイドフレーム部44が湾曲部の外径側に開いた状態で、且つ、帯状本体42が湾曲部の内径側の内面に沿って配置される。
【0029】
このように形成された製造装置100では、導入口31から導入される基材10に超電導原料溶液20が塗布される。
【0030】
図4に、基材10の一例を示す。
【0031】
図4に示す基材10は、基板11と、第1中間層12と、第2中間層13とから構成される。
【0032】
テープ状の基板11は、例えば、ニッケル(Ni)、ニッケル合金、又はステンレス鋼などである。この金属製の基板11は、ここでは、結晶粒無配向・耐熱高強度金属基板であり、Ni−W系、Ni−Cr系など(具体的には、Ni−Cr−Fe−Mo系のハステロイ(登録商標)B、C、X等)、W−Mo系、Fe−Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe−Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)等の材料に代表される立方晶系のビッカース硬度(Hv)=150以上の非磁性の合金である。基板11の厚さは、例えば、0.1[mm]以下が好ましい。
【0033】
第1中間層12は、IBAD法によりテープ状の基板11上に成膜されたMgOから成る層である。この第1中間層12の上には、スパッタリング法(PLD方でもよい)によってCeOを蒸着した全軸配向の層である第2中間層13が成膜されている。なお、第2中間層13をCeO膜にGdを添加したCe−Gd−O膜とした場合、超電導層14(図5参照)としてYBCO超電導層を成膜した際に良好な配向性を得るために、膜中のGd添加量を50at%以下にすることが好ましい。この第2中間層13の上には超電導層14が成膜されている。基材10は、2軸配向性を有するものでも配向性の無い基板11の上に2軸配向性を有する第1中間層12及び第2中間層13を成膜したものでもよい。また、基板11上の中間層は、1層で形成されてもよく、また、3層以上で形成されてもよい
【0034】
基材10の厚さは、例えば、50〜200[μm]である。第1中間層12及び第2中間層13の厚さは、例えば、1[μm]である。ここでは、基板11の厚さを100[μm]としている。
【0035】
基材10の幅方向の長さは、特に限定されるものではないが、一般に、基材10の幅は、2〜30[mm]である。本実施の形態では、基材10の幅を5[mm]とし、基材10の長手方向の長さを、500[m]としている。この幅に対応してU字状管30の内径は規定され、U字状管30は、基材10が挿入自在な形状をなしている。
【0036】
なお、超電導原料溶液20からの基材10の引き上げ速度は一定の速度であり、例えば5〜100[m/h]である。ここでは、引き上げ速度は、20[m/h]に設定している。
【0037】
このように構成された基材10を製造装置100のU字状管30内に、導入口31から挿入する。
【0038】
U字状管30内に挿入された基材10は、ガイド部40の側部ガイドフレーム部44内で且つ、ガイドレール部46上を移動して排出口32から引き上げられる。
【0039】
具体的には、基材10は、基板11側をU字状管30の内径側に位置させて、導入口31からU字状管30内に挿入する。すると、基材10は、ガイドレール部46上を、側部ガイド片44b間で移動する。
【0040】
このように、基材10は、裏面側及び両側側をガイド部40でガイドされ、U字状管30の内周壁に接触することなく、ガイド部40の延在方向(軸方向)に案内されて移動し、排出口32から引き上げられる。これにより、基材10の表面には、超電導原料溶液20が好適に塗布される。この後、仮焼成及び本焼成を施されることによって、超電導特性の優れた酸化物超電導線材が製造される。
【0041】
図5は、製造装置100により製造される酸化物超電導線材の要部構成を示す図である。
【0042】
図5に示す酸化物超電導線材70は、基板11上に形成された第1中間層12及び第2中間層13等の酸化物中間層を備える基材10に超電導層14を形成し、この超電導層14上に安定化層15を形成することで構成される。なお、安定化層15は、銀、金、白金等の貴金属、あるいはそれらの合金であり低抵抗の金属である。この安定化層15は、超電導層14の直上にスパッタ法等により形成される。この安定化層15によって、超電導層14が金、銀などの貴金属、あるいはそれらの合金以外の材料と直接的な接触による反応によって引き起こす性能低下を防止する。これに加えて、安定化層15は、事故電流や交流通電により発生した熱を分散して発熱による破壊・性能低下を防止する。安定化層15の厚みはここでは10〜30[μm]である。
【0043】
このような酸化物超電導線材70を製造する際に、図1〜図3に示すガイド部40を有する製造装置100を用いて、超電導原料溶液20が収容されたU字状管30内を、テープ状の基材10を移動させて、基材10の表面に超電導原料溶液20を付着させる。
【0044】
製造装置100では、U字状管30の内壁に、U字状管30の内壁と離間させつつ基材10の移動方向に案内するガイド部40が配置されている。このガイド部40によって、基材10を、U字状管30中を、基材10の移動方向に案内して移動させている。
【0045】
これにより、基材10がU字状管30の内壁と接触することなく、U字状管30に導入されて超電導原料溶液20に浸した後で引き上げることができる。これにより、基材10の表面(第2中間層13上)には、異物が付着することなく、均一な厚みで超電導原料溶液20が塗布される。この後で仮焼成及び本焼成を施すことで、所望する超電導特性の優れた酸化物超電導線材を製造でき、歩留まりの向上を図ることができる。
【0046】
図6に、本発明の一実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造方法で用いられる製造装置の別の例を模式的に示す。図6の製造装置200は、超電導原料溶液20を収容する容器を、容器本体81と、蓋部82と、導入口83と、排出口84とにより構成した例である。
【0047】
この容器本体81には超電導原料溶液20が収容されているとともに、ガイド部40が、基材10の移動方向、つまり、移動経路上に位置するように配設されている。
【0048】
具体的には、ガイド部40は、導入口83と排出口84とをそれぞれ規定する筒状部86、87の他端部であって容器本体81内に配設される他端部間に、下方に凸にした円弧状に湾曲して配置される。このとき、ガイド部40における複数の側部ガイドフレーム部44は、それぞれ下方に開口して配置される。これにより、導入口83から導入される基材10が排出口84から引き上げられる際に、基材10は、ガイド部40により容器本体81内の超電導原料溶液20中を、基材10の移動方向に案内されて移動される。
【0049】
詳細には、基材10は、容器本体81内の超電導原料溶液20内で、ガイド部40のガイドレール部46及び側部ガイドフレーム部44に沿って、導入口83から排出口84まで、筒状部の下端部に接触することなく好適に案内される。これにより、基材10の表面に異物が付着することなく、均一な厚みで超電導原料溶液20を塗布できる。この後で仮焼成及び本焼成を施すことで、製造装置100と同様に、超電導特性の優れた酸化物超電導線材を製造できる。なお、蓋部82が設けられていることにより、容器本体81内の超電導原料溶液20の揮発は抑制される。
【実施例】
【0050】
本実施の形態に係る製造装置100を用いてMOD法により製造した酸化物超電導線材の超電導層の超電導特性について説明する。基材10は、テープ状の基板11である厚さ0.1[mm]のニッケル合金基板上に、第1中間層12として厚さ1[μm]MgO層、第2中間層13として厚さ1[μm]のCeO層を順に成膜したものを用いた。この基材10は、幅を5[mm]、長手方向の長さを200[m]としている。この基材10を、製造装置100のU字状管30内にガイド部40で案内しつつ挿入して、Y、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液を含む超電導原料溶液20を塗布、仮焼成を繰り返し、本焼成を施すことで、基材10のCeO層上に、厚さ1.3μmの超電導層を形成した。次いで、その上部に厚さ10[μm]の銀の安定化層を成膜することで酸化物超電導線材70を製造した。
【0051】
本実施例にて製造された酸化物超電導線材70の超電導特性は、100mの長さ(長手方向の両端から各々50mを除いた部分の長さ)において、どの箇所であってもIcが200A以上となり、200A以下でのIcの低下箇所は存在しないものとなった。
【比較例】
【0052】
製造装置100の構成においてガイド部40を備えていない製造装置を用いて、実施例と同様に構成された基材10に、超電導原料溶液20を塗布して、実施例と同様の工程で、MOD法により酸化物超電導線材を製造した。詳細には、超電導原料溶液20を収容したU字状管内に、ガイド部40を設けずに、基材を移動させて、当該基材の表面に超電導原料溶液を塗布する工程を踏まえて、酸化物超電導線材を生成した。
【0053】
この比較例で示す、製造装置100を使用せずに、従来のMOD法により製造される各酸化物超電導線材では、100mの長さにおいて、数カ所で100A以下のIcの低下箇所の存在が発見された。
【0054】
なお、本実施の形態では、超電導原料溶液20として、イットリウム(Y)のトリフルオロ酢酸塩(Y-TFA)、バリウム(Ba)のトリフルオロ酢酸塩(Ba-TFA)及び銅(Cu)のナフテン酸塩を、Y:Ba:Cuのモル比が1:b:3(但し、b<2)で混合したものを用いた場合について述べたが、本発明はこれ以外の超電導原料溶液を用いた場合にも有効である。例えば、Re:Ba:Cuのモル比が1:2:3となるように調整された超電導原料溶液を用いた場合にも有効である。ここで、Reは、イットリウム(Y)、ホルミウム(Ho)、ネオジム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、Eu(ユーロピウム)、Gd(ガドリニウム)からなる群から選ばれた一種以上の元素を示す。なお、基材10及び超電導原料溶液20は、当然、上述したもの以外のものを用いてもよい。
【0055】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法及び製造装置は、ディップコート法によって基材に超電導膜を塗布する場合に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 基材
11 基板
12 第1中間層
13 第2中間層
14 超電導層
20 超電導原料溶液
30 U字状管(容器)
40 ガイド部
42 帯状本体
44 側部ガイドフレーム部
44a フレーム本体片
44b 側部ガイド片
46 ガイドレール部
81 容器本体
82 蓋部
100、200 製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導原料溶液が収容された容器内を、テープ状の基材を移動させることにより、前記基材の表面に前記超電導原料溶液を付着させる工程を有する、酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記容器の内壁に、前記容器の内壁と離間させつつ前記基材の移動方向に案内するガイド部が配置され、
前記ガイド部によって、前記基材を、前記容器中を前記基材の移動方向に案内して移動させることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記ガイド部は、
前記基材の移動方向に延在して配置されるレール部と、
前記基材の長手方向に沿う前記基材の両側部のそれぞれに対向して配置され、前記基材の幅方向の移動を規制する側部ガイド片と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記容器はU字状管であることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記基材は、基板と、前記基板上に形成された中間層とを有し、
前記ガイド部は、前記基材を、前記基板側で案内することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記超電導原料溶液は、RE(REは、Y、Nd、Sm、Eu、GdおよびHoから選択された少なくとも1種以上の元素を示す)、Ba及びCuを含む有機金属錯体溶液を含む有機金属錯体溶液であり、
前記基材の表面に前記超電導原料溶液を付着させる工程の後、仮焼成熱処理を施すことにより前記中間層上に超電導層の前駆体を形成し、次いで、超電導層生成のために雰囲気ガス中で本焼成熱処理を前記前駆体に施すことにより、REBaCuO系の酸化物超電導線材を製造する、
請求項1から4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
超電導原料溶液が収容された容器を備え、この容器内を、テープ状の基材を移動させることにより、前記基材の表面に前記超電導原料溶液を付着させる酸化物超電導線材の製造装置であって、
前記容器の内壁に配置され、前記容器の内壁と離間させつつ前記基材の移動方向に案内するガイド部を備え、
前記ガイド部によって、前記基材を、前記容器中を前記基材の移動方向に案内して移動させることを特徴とする酸化物超電導線材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−51184(P2013−51184A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189685(P2011−189685)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【出願人】(391004481)公益財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】