説明

酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法

【課題】
膜厚の増大が特性の良好な薄膜の積層によって形成されるため、膜厚に応じた臨界電流密度の低下が抑制でき、高い臨界電流を実現できる酸化物超電導体を提供する。
【解決手段】
酸化物超電導線材は基材10と、該基材10に積層された中間層20を含む基板50に対して積層された希土類系酸化物超電導体からなる酸化物超電導体層30が積層されている。酸化物超電導体層30は、基板50に近い側が高分解温度の希土類酸化物超電導体により構成され、基板50に遠い側が低分解温度の希土類酸化物超電導体により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材及び酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、臨界温度(TC)が液体窒素温度(約77K)を超える値を示す酸化物超電導体として、YBaCuO系の希土類系酸化物超電導体が知られている。そして、これらの酸化物超電導体を電力輸送、超電導マグネット、超電導デバイスなどの種々の超電導応用機器に適用するべく種々の研究がなされている。このような酸化物超電導体の製造方法の1つとして、化学気相蒸着法(CVD法)などの成膜手段によって基材表面に酸化物超電導薄膜を形成する方法が知られている。この成膜手段により形成した酸化物超電導層は、バルク材を加工した超電導体に比較して臨界電流密度(Jc)が大きく、優れた超電導特性を有することが知られている。また、前記CVD法は、スパッタなどの成膜手段よりも短い時間で、より厚い膜を形成することができる手段として注目されている。
【0003】
希土類系酸化物超電導体薄膜を用いた超電導線材は、超電導薄膜が薄いときは高い臨界電流密度を示すが、超電導薄膜の膜厚を増大させるにつれて臨界電流密度が低下していく(特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平07−118012号公報、段落0004
【特許文献2】特開2005−116408号公報、段落0006
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超電導薄膜の膜厚を増大させるにつれて臨界電流密度が低下していくのを抑制するため、超電導薄膜の成膜温度を高温化するなどの対策が取られている。しかし、この方法は、適用できる手法や設備によって制限がある。
【0005】
本発明の目的は、膜厚の増大が特性の良好な薄膜の積層によって形成されるため、膜厚に応じた臨界電流密度の低下が抑制でき、高い臨界電流を実現できる酸化物超電導体を提供することにある。
【0006】
又、本発明の他の目的は、膜厚の増大が特性の良好な薄膜の積層によって形成されるため、膜厚に応じた臨界電流密度の低下が抑制でき、高い臨界電流を実現できる酸化物超電導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の酸化物超電導線材は、基材と、該基材に積層された中間層を含む基板に対して積層された希土類系酸化物超電導体からなる酸化物超電導体層が積層された酸化物超電導線材において、前記酸化物超電導体層は、前記基板に近い側が高分解温度の希土類酸化物超電導体により構成され、前記基板に遠い側が低分解温度の希土類酸化物超電導体により構成されていることを特徴とする。
【0008】
又、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材と、該基材に積層された中間層を含む基板に対して希土類系酸化物超電導体からなる酸化物超電導体層をCVD法により積層する酸化物超電導線材の製造方法において、前記基板に対してCVD法により高分解温度の希土類酸化物超電導体を積層した後、低分解温度の希土類酸化物超電導を積層して前記酸化物超電導体層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化物超電導線材の酸化物超電導体層は、CVD法により形成されるが、CVD法では、液相を経る反応で超電導層(すなわち、前記酸化物超電導体層)が形成されるため、形成された膜を破壊して特性を損なうことになるが、これを高分解温度の超電導層で防止し、膜の厚さ方向につながる欠陥を分断する。この結果、酸化物超電導体層は、膜厚の増大が特性の良好な薄膜の積層によって形成されるため、膜厚に応じた臨界電流密度の低下を抑制でき、高い臨界電流を実現できる。
【0010】
又、本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、CVD法により、液相を経る反応で超電導層(すなわち、前記酸化物超電導体層)を形成するため、形成された膜を破壊して特性を損なうことが多々あるが、これを基板に近いところでは高分解温度の超電導層で防止し、膜の厚さ方向につながる欠陥を分断する。この結果、酸化物超電導体層は、膜厚の増大が特性の良好な薄膜の積層によって形成されるため、膜厚に応じた臨界電流密度の低下を抑制でき、高い臨界電流を実現できることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態の酸化物超電導線材及びその製造方法について説明する。
図1に示すように本実施形態の酸化物超電導線材の基材10は、その材質としては、ハステロイ(登録商標)、銀、白金、ステンレス鋼等を挙げることができ、形状としては長尺状のテープ、板材等を挙げることができる。基材10の厚さは、50μm〜1mm程度(例えば100μm)が良いが、この数値に限定されるものではない。
【0012】
基材10に積層される中間層20は、第1中間層22としてGd−Zr酸化物(GZO:GdZr)を挙げることができるが、GZOに限定されるものではない。前記第1中間層22は、金属材料からなる基材10上にセラミック系材料の希土類酸化物超電導体としての酸化物超電導体層30を積層することから、前記基材10とセラミック系材料の熱膨張係数の緩和、結晶の格子定数の差異を緩和し、更に前記酸化物超電導体層30の結晶配向性を制御するために設けられる。前記第1中間層22の形成は、IBAD法(イオンビームアシスト法)により行うことができる。第1中間層の厚みは、数分の一μm程度もので良いが、これに限定されるものではない。
【0013】
前記第1中間層22と、酸化物超電導体層30の間には第2中間層24を設けても良い。第2中間層24は、例えば、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により形成することができる。第2中間層を形成する化合物としては、例えば、CeOを挙げることができるが、限定されるものではなく、CeO以外のものであってもよい。
【0014】
前記GZOからなる第1中間層22上にCeOを第2中間層24として形成する場合、前記第1中間層22の結晶配向性を特に単結晶並に良好にすることができるが、好ましい中間層同士の組み合わせはこの例の組み合わせに限定されるものではない。例えば、MgO層とYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)とCeOの積層構造、YとYSZとCeOの積層構造なども結晶配向制御用の積層構造として知られており、これらのいずれかを用いても良い。又、他の一般に知られている酸化物超電導層としての配向制御用の下地層を単層構造あるいは複層構造で用いた基材としても良い。
【0015】
前記基材10と前記第1中間層22からなる基板、又は前記基材10と前記第1、第2中間層22,24からなる基板50に対して、酸化物超電導体層30が形成される。
酸化物超電導体層30は、希土類系酸化物超電導体RE−Ba−Cu−O(式中、REは希土類元素(Sm、Er、Gd及びY)から1種又は2種以上選択される)からなる超電導層である。酸化物超電導体層30は、MOCVD法(有機金属化学気相蒸着法)により、厚さ数μmを有するように形成される。
【0016】
本実施形態の酸化物超電導体層30の原料としては、金属錯体、具体的にはY(DMP),Ba(DMP),Cu(DMP)、Sm(DMP)、Gd(DMP)、Er(DMP)錯体のTHF(テトラヒドロフラン)溶液を用い、800℃〜930℃の範囲で、成膜温度で形成される。なお、DMPはジピバロイルメタナトである。前記酸化物超電導体層30は、第1中間層に積層する場合、成膜時に先の第1又中間層に、第2中間層に積層する場合は第2中間層の結晶配向性に揃う形でエピタキシャル成長されて、自身の結晶配向性が良好となり、優れた超電導特性が得られる。
【0017】
本発明で特徴的なことは、前記酸化物超電導体層30を形成するに当たり、MOCVD法により前記中間層に近い、すなわち、基板に近い側を高分解温度の酸化物超電導体で形成し、遠い側を低分解温度の酸化物超電導体で形成することである。
【0018】
例えば、酸化物超電導体層30を形成できるものとしては、下記のものがある。又、これらの成膜雰囲気(背圧300Pa付近)でのそれぞれの分解温度をともに示す。
YBCO(イットリウム-バリウム-銅酸化物) 890℃付近
GdBCO(ガドリニウム-バリウム-銅酸化物) 930℃付近
(Sm-Y)BCO((サマリウム-イットリウム)-バリウム-銅酸化物) 935℃付近
SmBCO(サマリウム-バリウム-銅酸化物) 945℃付近
(Sm-Gd)BCO((サマリウム-ガドリニウム)-バリウム-銅酸化物) 940℃付近
Nd123 960℃付近
これらの酸化物超電導体層30の形成は、MOCVD法では、原料組成の希土類元素を変更する、2種類以上の希土類元素を混合する、或いは過剰に希土類元素を添加して行う。なお、このように異なる分解温度をもつ層の数は限定されるものではない。
【0019】
例えば、酸化物超電導体層30が2つの層であれば、基板50に近い層から順に第1層、第2層とすると、第1層を高分解温度の酸化物超電導体層で形成し、第2層を低分解分解温度の酸化物超電導体層で形成する。又、酸化物超電導体層30が3つの層であれば、基板50に近い層から順に第1層、第2層、第3層とすると、第1層を高分解温度の酸化物超電導体層で形成し、第2層を第1層よりも、第3層を第2層よりも低分解分解温度の酸化物超電導体層で形成する。
【0020】
CVD法において、液相を経る反応で超電導層(すなわち、前記酸化物超電導体層30)が形成されることから、形成された膜を破壊して特性を損なうことが生じやすいが、これを高分解温度の超電導層で防止することにより、膜の厚さ方向につながる欠陥を分断できる。この結果、酸化物超電導体層30は、膜厚の増大が特性の良好な薄膜の積層によって形成されるため、膜厚に応じた臨界電流密度の低下を抑制でき、高い臨界電流を実現できる。
【0021】
又、酸化物超電導体層30上に安定化層40を積層することが好ましい。安定化層は、前記酸化物超電導体層30に通電時に常伝導の芽が生じたり、侵入した磁束が移動して発熱しようとした場合等に通電パスとなり、常伝導転移を防止する目的で形成することから、電気抵抗の低い良導電性の金属材料層を前記酸化物超電導体層30に接することが好ましい。具体的には、安定化層の構成材料としてAgまたはAg合金を用いることが好ましい。また、その厚さは数10μm程度とすることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、実施例1〜4及び比較例1について説明する。
各実施例及び比較例の酸化物超電導線材は、下記のようにして製造した。
(成膜方法)
基材であるハステロイテープ(厚さ100μm、幅10mm)の上にIBAD法によりGd−Zr酸化物(GZO)を第1中間層として形成し、さらにPLD法によりCeOを第2中間層として形成した基板を酸化物超電導体層の成膜に使用した。GZO層とCeO層はそれぞれ厚さ1μm、0.5μm程度である。
【0023】
希土類系酸化物超電導体からなる酸化物超電導体層は、原料としてY(DPM)、Ba(DPM)、Cu(DPM)、Sm(DPM)、Gd(DMP)錯体のTHF(テトラヒドロフラン)溶液を用い、ホットウォールタイプのCVD装置を使用して、800〜930℃の成膜温度のもと基板を移動させながら成膜した。配向はX線回折及びX線極図形で評価した。Ic(臨界電流)測定は超電導層をAg層で被覆して酸素中でアニールした後、液体窒素中で直流4端子法により実施し、Ic定義は1μV/cmとした。なお、実施例1〜4、及び比較例1で測定した臨界電流は、厚さ1μmまで成膜した際の値である。
【0024】
(実施例1)
基板上に2層からなる酸化物超電導体層を形成した。具体的には、基板側に近い酸化物超電導体層としてGdBCOを865〜900℃の成膜温度で0.6μm積層し、基板側から遠い酸化物超電導体層としてYBCOを830〜860℃の成膜温度で0.4μm積層した。実施例1でのIc(臨界電流)は235Aであった。
【0025】
(実施例2)
基板上に2層からなる酸化物超電導体層を形成した。具体的には、基板側に近い酸化物超電導体層としてSmBCOを875〜915℃の成膜温度で0.6μm積層し、基板側から遠い酸化物超電導体層としてYBCOを830〜860℃の成膜温度で0.4μm積層した。実施例2でのIc(臨界電流)は235Aであった。
【0026】
(実施例3)
基板上に2層からなる酸化物超電導体層を形成した。具体的には、基板側に近い酸化物超電導体層として(Sm−Y)BCOを870〜900℃の成膜温度で0.6μm積層し、基板側から遠い酸化物超電導体層としてYBCOを830〜860℃の成膜温度で0.4μm積層した。実施例3でのIc(臨界電流)は240Aであった。
【0027】
(実施例4)
基板上に3層からなる酸化物超電導体層を形成した。具体的には、基板側に近い酸化物超電導体層としてSmBCOを890〜915℃の成膜温度で0.5μm積層し、次に、酸化物超電導体層として(Sm−Y)BCOを870〜900℃の成膜温度で0.3μm積層し、基板側から最も遠い酸化物超電導体層としてYBCOを830〜860℃の成膜温度で0.2μm積層した。実施例4でのIc(臨界電流)は220Aであった。
【0028】
(比較例1)
基板上に酸化物超電導体層としてYBCOを830〜860℃の成膜温度で1μm積層した。比較例1でのIc(臨界電流)は190Aであった。
【0029】
上記のように、基板上に2層又は3層からなる酸化物超電導体層を形成した実施例1〜4では、Ic(臨界電流)は220〜240Aの高い値を得られたが、比較例1では、Ic(臨界電流)は190A程度しか得られなかった。
【0030】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 酸化物超電導体層の層の数を4層以上に形成してもよいことは勿論のことである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】酸化物超電導線材の概略断面図。
【符号の説明】
【0032】
10…基材、20…中間層、30…酸化物超電導体層、40…安定化層、
50…基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に積層された中間層を含む基板に対して積層された希土類系酸化物超電導体からなる酸化物超電導体層が積層された酸化物超電導線材において、
前記酸化物超電導体層は、前記基板に近い側が高分解温度の希土類酸化物超電導体により構成され、前記基板に遠い側が低分解温度の希土類酸化物超電導体により構成されていることを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記酸化物超電導体層が少なくとも2層からなり、前記基板に近い層が高分解温度の希土類酸化物超電導体により構成され、前記基板から遠い層が低分解温度の希土類酸化物超電導体により構成されていることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
前記酸化物超電導体層が前記基板に近い側から第1層、第2層、第3層の順に積層され、前記第1層乃至第3層をそれぞれ構成する希土類酸化物超電導体が第1層から第3層の順に分解温度が高いことを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項4】
基材と、該基材に積層された中間層を含む基板に対して希土類系酸化物超電導体からなる酸化物超電導体層をCVD法により積層する酸化物超電導線材の製造方法において、
前記基板に対してCVD法により高分解温度の希土類酸化物超電導体を積層した後、低分解温度の希土類酸化物超電導を積層して前記酸化物超電導体層を形成することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−238501(P2009−238501A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81401(P2008−81401)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】